(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】成形品及び成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/00 20060101AFI20240814BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20240814BHJP
B65D 65/00 20060101ALI20240814BHJP
B65D 65/46 20060101ALI20240814BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20240814BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
C08J5/00 CFD
B29C45/00
B65D65/00 A
B65D65/46
C08J5/00 CEX
C08L29/04 D
C08L67/00
(21)【出願番号】P 2021511532
(86)(22)【出願日】2020-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2020013275
(87)【国際公開番号】W WO2020203536
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2019065505
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金森 祐哉
(72)【発明者】
【氏名】酒井 紀人
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-136299(JP,A)
【文献】米国特許第05200247(US,A)
【文献】特開2003-113254(JP,A)
【文献】特開2001-072822(JP,A)
【文献】特開2002-371201(JP,A)
【文献】特開2014-122295(JP,A)
【文献】特開2014-118541(JP,A)
【文献】特表2014-512413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/22
C08L 1/00-101/16
B29C 45/00-45/84
B65D 65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)とポリビニルアルコール系樹脂(B)とを主成分樹脂として含有する樹脂層を備えた成形品であり、
前記樹脂層は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を主成分とする連続相と、ポリビニルアルコール系樹脂(B)を主成分とする帯状分散相とを有する樹脂相分離構造を有
し、
前記帯状分散相は、平均長さ(L1)が6μm以上100μm以下であり、平均厚み(L2)が0.1μm以上5μm以下であり、且つ、前記平均厚み(L2)に対する平均長さ(L1)の比(L1/L2)が5以上100以下であり、
前記樹脂層における、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)の含有量(質量)とポリビニルアルコール系樹脂(B)の含有量(質量)との比率が、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)/ポリビニルアルコール系樹脂(B)=99/1~51/49であることを特徴とする成形品
(但し、ポリカプロラクトンとポリビニルアルコール系樹脂とを主成分樹脂として含有する樹脂層を備えた成形品を除く)。
【請求項2】
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)とポリビニルアルコール系樹脂(B)とを主成分樹脂として含有する樹脂層を備えた成形品であり、
前記脂肪族ポリエステル系樹脂(A)は、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート及びポリブチレンサクシネートの何れかであり、
前記樹脂層は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を主成分とする連続相と、ポリビニルアルコール系樹脂(B)を主成分とする帯状分散相とを有する樹脂相分離構造を有
し、
前記帯状分散相は、平均長さ(L1)が6μm以上100μm以下であり、平均厚み(L2)が0.1μm以上5μm以下であり、且つ、前記平均厚み(L2)に対する平均長さ(L1)の比(L1/L2)が5以上100以下であり、
前記樹脂層における、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)の含有量(質量)とポリビニルアルコール系樹脂(B)の含有量(質量)との比率が、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)/ポリビニルアルコール系樹脂(B)=99/1~51/49であることを特徴とする成形品。
【請求項3】
酸素透過度が0.04cc/pkg・day・air未満である請求項1又は2に記載の成形品。
【請求項4】
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)が、脂肪族構造部の含有量が50モル%以上の脂肪族ポリエステル系樹脂である請求項1~3の何れかに記載の成形品。
【請求項5】
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)が、ポリ乳酸である請求項1~3の何れかに記載の成形品。
【請求項6】
ポリビニルアルコール系樹脂(B)が、変性ポリビニルアルコールである請求項1~5の何れかに記載の成形品。
【請求項7】
ポリビニルアルコール系樹脂(B)が、側鎖に1,2-ジオール構造を有するポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1~6の何れかに記載の成形品。
【請求項8】
射出成形品であることを特徴とする請求項1~7の何れかに記載の成形品。
【請求項9】
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を主成分とするペレット(A1)とポリビニルアルコール系樹脂(B)を主成分とするペレット(B1)とをドライブレンドして成形してなる樹脂層を備えた成形品であり、
前記樹脂層における、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)の含有量(質量)とポリビニルアルコール系樹脂(B)の含有量(質量)との比率が、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)/ポリビニルアルコール系樹脂(B)=99/1~51/49であり、
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)の210℃における溶融粘度(ηA)と、ポリビニルアルコール系樹脂(B)の210℃における溶融粘度(ηB)との差の絶対値(|ηA―ηB|)が100Pa・
s以上である成形品。
【請求項10】
射出成形品であることを特徴とする請求項
9に記載の成形品。
【請求項11】
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)が、脂肪族構造部の含有量が50モル%以上の脂肪族ポリエステル系樹脂である請求項
9又は10に記載の成形品。
【請求項12】
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)が、ポリ乳酸である請求項
9~
11の何れかに記載の成形品。
【請求項13】
ポリビニルアルコール系樹脂(B)が、変性ポリビニルアルコールである請求項
9~
12の何れかに記載の成形品。
【請求項14】
請求項1~
13の何れかに記載の成形品を主成分として含有するコーヒーカプセル。
【請求項15】
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を主成分とするペレット(A1)とポリビニルアルコール系樹脂(B)を主成分とするペレット(B1)とをドライブレンドして射出成形する
成形品の製造方法であり、
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を主成分とするペレット(A1)の質量と、ポリビニルアルコール系樹脂(B)を主成分とするペレット(B1)の質量との比率が、ペレット(A1)/ペレット(B1)=99/1~51/49であり、
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)の210℃における溶融粘度(ηA)と、ポリビニルアルコール系樹脂(B)の210℃における溶融粘度(ηB)との差の絶対値(|ηA―ηB|)が100Pa・s以上であることを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項16】
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を主成分とするペレット(A1)とポリビニルアルコール系樹脂(B)を主成分とするペレット(B1)とをドライブレンドしてシート成形した後、該シート成形で得られたシートを、
延伸温度140~250℃、延伸倍率を面積倍率で2~100倍、延伸後の冷却温度を20~60℃の条件下で、一軸方向又は二軸方向に延伸することを特徴とする成形品の製造方法
であり、
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を主成分とするペレット(A1)の質量と、ポリビニルアルコール系樹脂(B)を主成分とするペレット(B1)の質量との比率が、ペレット(A1)/ペレット(B1)=99/1~51/49であることを特徴とする成型品の製造方法。
【請求項17】
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)が、脂肪族構造部の含有量が50モル%以上の脂肪族ポリエステル系樹脂である請求項
15又は16に記載の成形品の製造方法。
【請求項18】
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)が、ポリ乳酸である請求項
15~
17の何れかに記載の成形品の製造方法。
【請求項19】
ポリビニルアルコール系樹脂(B)が、変性ポリビニルアルコールである請求項
15~
18の何れかに記載の成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリエステル系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂を含有する成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは、成形性、強度、耐水性、透明性などに優れることから、包装材料として広く使用されている。かかる包装材料に用いられるプラスチックとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルなどのビニル系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステル系樹脂を挙げることができる。しかし、これらのプラスチックは生分解性に乏しく、使用後に自然界に投棄されると、長期間残存して景観を損ねたり、環境破壊の原因となったりする場合がある。
【0003】
これに対し、近年、土中や水中で生分解、あるいは加水分解され、環境汚染の防止に有用である生分解性樹脂が注目され、実用化が進められている。かかる生分解性樹脂としては、脂肪族ポリエステル系樹脂や酢酸セルロース、変性でんぷんなどが知られている。包装材料としては、透明性、耐熱性、強度に優れる脂肪族ポリエステル系樹脂、特にポリ乳酸が好適である。
【0004】
ポリビニルアルコール系樹脂、脂肪族ポリエステル及びアルカリ金属塩からなる樹脂組成物を溶融成形して得た成形品が提案されている。(例えば、特許文献1参照。)
また、脂肪族ポリエステル系樹脂層とポリビニルアルコール系樹脂層が接着剤層を介して積層された積層体において、かかる接着剤層として脂肪族ポリエステル系樹脂とポリビニルアルコール系樹脂のいずれに対しても良好な接着性を有し、かつ生分解性である接着剤を用いることで良好な層間接着性を有し、かつ全成分が生分解性である積層体が提案されている。(例えば、特許文献2参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平05-84876号公報
【文献】特開2013-212682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
脂肪族ポリエステル系樹脂は、酸素バリア性が不充分であるため、単独で食品や薬品などの酸化劣化のおそれがある内容物の包装材料として用いるには不向きである。そこで、特許文献1では、酸素バリア性に優れるポリビニルアルコールからなる層を、脂肪族ポリエステル系樹脂からなる層に積層してなる積層体が提案されている。
また、特許文献2では、脂肪族ポリエステル系樹脂層とPVA系樹脂層を積層体とすることでガスバリア性を向上させている。
しかしながら、脂肪族ポリエステル系樹脂とポリビニルアルコール系樹脂(以下、「ポリビニルアルコール」を「PVA」と略記する場合がある)は、表面特性が大きく異なることから接着性に乏しく、両層の直接積層によって実用的な層間接着強度を得ることは困難であった。
さらに特許文献2に記載の積層体を作製し加工するためには、少なくとも3種5層の多層製膜機・多層シート成形機及び真空成型装置も必要であり、容易には作製できず、実用的には不充分であった。
【0007】
そこで本発明は、上記のような背景下において、ガスバリア層を特別に積層しなくてもガスバリア性を備えることができ、且つ、成形安定性及び生分解性をも備えることができる新たな成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的達成のため、本発明は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)とポリビニルアルコール系樹脂(B)とを主成分樹脂として含有する樹脂層を備えた成形品であり、
前記樹脂層は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を主成分とする連続相と、ポリビニルアルコール系樹脂(B)を主成分とする帯状分散相とを有する樹脂相分離構造を有することを特徴とする成形品を提案する。
【0009】
本発明はまた、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を主成分とするペレット(A1)とポリビニルアルコール系樹脂(B)を主成分とするペレット(B1)とをドライブレンドして成形してなる樹脂層を備えた成形品であり、
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)の210℃における溶融粘度(ηA)と、ポリビニルアルコール系樹脂(B)の210℃における溶融粘度(ηB)との差の絶対値(|ηA―ηB|)が100Pa・s以上である成形品を提案する。
【0010】
本発明はまた、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を主成分とするペレット(A1)とポリビニルアルコール系樹脂(B)を主成分とするペレット(B1)とをドライブレンドして射出成形することを特徴とする成形品の製造方法を提案する。
【0011】
本発明はまた、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を主成分とするペレット(A1)とポリビニルアルコール系樹脂(B)を主成分とするペレット(B1)とをドライブレンドしてシート成形した後、該シート成形で得られたシートを一軸方向又は二軸方向に延伸することを特徴とする成形品の製造方法を提案する。
【発明の効果】
【0012】
本発明が提案する成形品は、ガスバリア層を特別に積層しなくても、酸素透過度が低く、ガスバリア性に優れるものである。また、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)及びポリビニルアルコール系樹脂(B)はいずれも生分解性樹脂であるため、本発明が提案する成形品も生分解性を備えることができる。
よって、本発明が提案する成形品は、生分解性を備えており、酸素透過度が低く、ガスバリア性に優れたものとすることができるから、例えば本発明が提案する成形品を主成分として含有するコーヒーカプセルなどの容器を、生分解性製品として提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。但し、該実施形態は一例を示すものであり、これらの内容に特定されるものではない。
【0014】
<<本成形品>>
本発明の実施形態の一例に係る成形品(「本成形品」と称する)は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)とポリビニルアルコール系樹脂(B)とを主成分樹脂として含有する樹脂層(「本樹脂層」と称する)を備えた成形品である。
【0015】
ここで、当該「主成分樹脂として含有する」とは、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)及びポリビニルアルコール系樹脂(B)の合計含有量(質量%)が、本樹脂層を構成する樹脂の合計含有量(質量%)の50質量%以上であることを意味し、中でも70質量%以上、中でも80質量%以上、中でも90質量%以上(100質量%を含む)であってもよいことも意味している。
【0016】
本成形品は、本樹脂層からなる単層構成であってもよいし、また、本樹脂層と「他の層」とが積層してなる二層以上からなる複層構成であってもよい。
本成形品は、ガスバリア層を特別に積層しなくても構わないが、他の層が積層されることを否定するものではない。他の層については後述する。
【0017】
<本樹脂層>
本樹脂層は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)とポリビニルアルコール系樹脂(B)とを主成分樹脂として含有する層であり、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を主成分とする連続相と、ポリビニルアルコール系樹脂(B)を主成分とする帯状分散相とを有する樹脂相分離構造を有するのが好ましい。
ここで、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を主成分とする連続相の「主成分」とは、当該連続相を構成する成分のうち最も質量割合の高い成分を意味する。中でも、当該連続相を構成する成分の50質量%以上、中でも70質量%以上、中でも80質量%以上、中でも90質量%以上(100質量%を含む)を脂肪族ポリエステル系樹脂(A)が占める場合がある。ポリビニルアルコール系樹脂(B)を主成分とする帯状分散相の「主成分」も同様である。
【0018】
前記帯状分散相は、平均長さ(L1)が6μm以上100μm以下であり、平均厚み(L2)が0.1μm以上5μm以下であり、前記平均厚み(L2)に対する平均長さ(L1)の比(L1/L2)が5以上100以下であるのが好ましい。このような帯状分散相を有していれば、酸素バリア性が優れる効果を享受することができる。
【0019】
前記帯状分散相の平均長さ(L1)は、6μm以上100μm以下であるのが好ましく、中でも20μm以上或いは90μm以下、その中でも30μm以上或いは80μm以下であるのがさらに好ましい。
前記平均厚み(L2)は、0.1μm以上5μm以下であるのが好ましく、中でも0.3μm以上或いは4μm以下、その中でも1.0μm以上或いは3μm以下であるのがさらに好ましい。
前記平均厚み(L2)に対する平均長さ(L1)の比(L1/L2)は、5以上100以下であるのが好ましく、中でも6以上或いは60以下、その中でも7以上或いは50以下、その中でも8以上或いは40以下であるのがさらに好ましい。
【0020】
なお、帯状分散相の平均長さ(L1)及び平均厚み(L2)は、本成形品の少なくとも1か所において、本樹脂層を肉厚方向に切断し、その切断面において少なくとも任意に10個の帯状分散相を抽出してそれぞれの長さと厚みを測定して、それぞれの平均値を求めることにより得ることができる。
【0021】
本樹脂層における、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)の含有量(質量)とポリビニルアルコール系樹脂(B)の含有量(質量)との比率は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を主成分とする連続相と、ポリビニルアルコール系樹脂(B)を主成分とする帯状分散相とをより好適に形成する観点から、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)/ポリビニルアルコール系樹脂(B)=99/1~51/49とするのが好ましく、中でも90/10~55/45、その中でも85/15~60/40、その中でも75/25~65/35とするのがさらに好ましい。
【0022】
本樹脂層が上記のような樹脂相分離構造を有するためには、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)の含有量(質量)とポリビニルアルコール系樹脂(B)の含有量(質量)との比率を上記のように調整すると共に、例えば、本成形品を射出成形する場合には、溶融粘度の差を大きくしたり、樹脂(A)と樹脂(B)をドライブレンドして射出成型したり、両樹脂が相溶する前に成形品としたりすることが好ましい。また、シート成形した後に延伸する場合には、延伸する際の温度などを調整すればよい。但し、この方法に限定するものではない。
【0023】
[脂肪族ポリエステル系樹脂(A)]
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)は、生分解性を備える観点から、脂肪族構造部の含有量が50モル%以上の脂肪族ポリエステル系樹脂であるのが好ましい。
そのような脂肪族ポリエステル系樹脂として、例えば、ポリヒドロキシカルボン酸、脂肪族多価アルコールと脂肪族多塩基酸を主構造単位とするポリエステル、ポリヒドロキシカルボン酸とポリエステルとの混合物、ヒドロキシカルボン酸―脂肪族多価アルコール―脂肪族多塩基酸の各成分を含むランダム共重合体、及びブロック共重合体等を挙げることができる。中でもポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロン酸が、PVAとの相容性、得られた成形物の力学物性等の点で好適に用いられ、特にポリ乳酸が好ましい。
【0024】
ここで、ヒドロキシカルボン酸、脂肪族多価アルコール、脂肪族多塩基酸としては、公知のものを使用することができる。
前記ヒドロキシカルボン酸の一例としては、グリコール酸、乳酸、3-ヒドロキシブチリックアシッド等を挙げることができる。
また、前記脂肪族多価アルコールの一例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール等を挙げることができる。
さらに前記脂肪族多塩基酸の一例としては、コハク酸、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸等を挙げることができる。
これらは一種または二種以上を使用することができる。
【0025】
[ポリビニルアルコール系樹脂(B)]
本発明に使用するポリビニルアルコール系樹脂(PVA系樹脂)(B)は、ビニルエステル系モノマーを重合して得られるポリビニルエステル系樹脂をケン化して得られる、ビニルアルコール構造単位を主体とする樹脂であり、ケン化度相当のビニルアルコール構造単位とケン化されずに残存したビニルエステル構造単位から構成される。
【0026】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等を挙げることができるが、経済的に酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0027】
本発明で用いられるPVA系樹脂の平均重合度(JIS K6726に準拠して測定)は、150~3000であるのが好ましく、中でも200以上或いは2000以下、その中でも300以上或いは1000以下、その中でも350以上或いは800以下であるのがさらに好ましい。
かかる平均重合度が低すぎると溶融粘度が低くなりすぎ、PVA系樹脂が外側に排斥される傾向があり、逆に高すぎると溶融粘度が高すぎて、せん断発熱により熱分解する傾向がある。
なお、本明細書においてPVA系樹脂の平均重合度は、JIS K 6726に準拠して測定した20℃における4質量%水溶液の粘度から算出したものである。
【0028】
PVA系樹脂としてペレット形状のものを用いる場合、その質量平均分子量は、好ましくは200以上1200以下であり、中でも300以上或いは800以下であるのがさらに好ましい。
【0029】
本発明で用いられるPVA系樹脂のケン化度は、70~100モル%であるのが好ましく、中でも80モル%以上或いは99.9モル%以下、その中でも90モル%以上或いは99.8モル%以下、その中でも96モル%以上或いは99.8モル%以下であるのがさらに好ましい。
ケン化度が低すぎると、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)とPVA系樹脂(B)の相溶性が向上し、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)に対してPVA系樹脂(B)が微分散して樹脂の分解や減粘が起こりやすくなる傾向がある。
また、分散したPVA系樹脂(B)の粒子径が小さくなることにより、射出成型した際には、形成されるバリア層の大きさが小さくなり、成形品のガスバリア性も低下する傾向がある。
なお、ケン化度はJIS K 6726に準拠して測定されたものである。
【0030】
また、通常のPVA系樹脂の場合、主鎖の結合様式は1,3-ジオール結合が主であり、1,2-ジオール結合の含有量は1.5~1.7モル%程度であるが、ビニルエステル系モノマーを重合する際の重合温度を高温にすることによって含有量を増やすことができ、その含有量を1.8モル%以上、更には2.0~3.5モル%有するPVA系樹脂を得ることできる。
【0031】
PVA系樹脂が、変性ポリビニルアルコールであってもよい。
ここで、「変性ポリビニルアルコール」とは、ビニルアルコール構造単位と、ビニルエステル構造単位と、これら以外の構造単位とを有するポリビニルアルコールである。
【0032】
また、本発明では、PVA系樹脂として、ビニルエステル系樹脂の製造時に各種不飽和単量体をビニルエステル系モノマーに共重合させ、これをケン化して得られたものや、PVA系樹脂に後変性によって各種官能基を導入した各種変性PVA系樹脂を用いることができる。かかる変性は、PVA系樹脂の水溶性が失われない範囲で行うことができる。
【0033】
ビニルエステル系モノマーとの共重合に用いられる不飽和単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル等、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、N-アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(1-(メタ)アクリルアミド-1,1-ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン、3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類及びそのアシル化物などの誘導体等を挙げることができる。
【0034】
また、後反応によって官能基が導入されたPVA系樹脂としては、ジケテンとの反応によるアセトアセチル基を有するもの、エチレンオキサイドとの反応によるポリアルキレンオキサイド基を有するもの、エポキシ化合物等との反応によるヒドロキシアルキル基を有するもの、あるいは各種官能基を有するアルデヒド化合物をPVA系樹脂と反応させて得られたものなどを挙げることができる。
【0035】
かかる変性PVA系樹脂中の変性量、すなわち共重合体中の各種不飽和単量体に由来する構成単位、あるいは後反応によって導入された官能基の含有量は、変性種によって特性が大きく異なるため一概には言えないが、0.1~20モル%が好ましく、中でも0.5モル%以上或いは10モル%以下であるのがさらに好ましい。
【0036】
これらの各種変性PVA系樹脂の中でも、本発明においては、側鎖に一級水酸基を有するPVA系樹脂や、エチレン変性PVA系樹脂が好ましく、ガスバリア性の点で、側鎖に1,2-ジオール構造を有するPVA系樹脂、ヒドロキシルメチル基を有するPVA系樹脂等の側鎖に一級水酸基を有するPVA系樹脂、エチレン変性PVA系樹脂が好ましく、特に側鎖に1,2-ジオール構造を有するPVA系樹脂、エチレン変性PVA系樹脂が好ましく、エチレン変性PVA系樹脂が最も好ましい。
【0037】
また、特に下記一般式(1)で示される側鎖に1,2-ジオール構造を有する構造単位を有するPVA系樹脂が、水溶解性及び溶融成形性の点で好ましく、一般式(1)において、R1、R2、R3はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、Xは単結合又は結合鎖を示し、またR4、R5及びR6はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す。
【0038】
【0039】
(式中、R1、R2、R3はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、Xは単結合又は結合鎖を示し、またR4、R5及びR6はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す。)
【0040】
かかる側鎖に1,2-ジオール構造を有するPVA系樹脂の一般式(1)で表わされる1,2-ジオール構造単位の含有量(変性率)は、0.1~20モル%であるのが好ましく、中でも0.3モル%以上或いは15モル%以下、その中でも0.5モル%以上或いは12モル%以下、その中でも1モル%以上或いは8モル%以下であるのがさらに好ましい。かかる変性率が低すぎると、溶融成形が困難になる傾向があり、高すぎると、親水性が高すぎて、脂肪族ポリエステル等との相溶性が低下する傾向がある。
なお、1,2-ジオール構造単位以外の部分は、通常のPVA系樹脂と同様、ビニルアルコール構造単位と未ケン化部分のビニルエステル構造単位である。
【0041】
一般式(1)で表わされる1,2-ジオール構造単位中のR1~R3、およびR4~R6は、すべて水素原子であることが側鎖の末端が一級水酸基となり、水への溶解性の点で望ましい。ただし、樹脂特性を大幅に損なわない程度の量であれば、炭素数1~4のアルキル基で置換されていてもよい。
炭素数1~4のアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等であり、必要に応じて、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。
【0042】
また、一般式(1)で表わされる1,2-ジオール構造単位中のXは熱安定性の点や高温下や酸性条件下での安定性の点で単結合であるものが最も好ましい。本発明の効果を阻害しない範囲であれば、結合鎖であってもよい。
かかる結合鎖としては、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていてもよい)の他、-O-、-(CH2O)m-、-(OCH2)m-、-(CH2O)mCH2-、-CO-、-COCO-、-CO(CH2)mCO-、-CO(C6H4)CO-、-S-、-CS-、-SO-、-SO2-、-NR-、-CONR-、-NRCO-、-CSNR-、-NRCS-、-NRNR-、-HPO4-、-Si(OR)2-、-OSi(OR)2-、-OSi(OR)2O-、-Ti(OR)2-、-OTi(OR)2-、-OTi(OR)2O-、-Al(OR)-、-OAl(OR)-、-OAl(OR)O-等(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは1~5の整数)を挙げることができる。中でも、製造時あるいは使用時の安定性の点で、炭素数6以下のアルキレン基、特にメチレン基、あるいは-CH2OCH2-が好ましい。
【0043】
かかる側鎖に1,2-ジオール構造を有するPVA系樹脂の製造法としては、特に限定されない。例えば(i)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(2)で示される化合物との共重合体をケン化する方法や、(ii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(3)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱炭酸する方法や、(iii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(4)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法を好ましく用いることができる。例えば特開2015-120827の段落[0021]~[0035]に記載の方法で製造することができる。
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
上記一般式(2)、(3)、(4)中のR1、R2、R3、X、R4、R5、R6は、いずれも一般式(1)の場合と同様である。また、R7及びR8はそれぞれ独立して水素原子またはR9-CO-(式中、R9は炭素数1~4のアルキル基である。)である。
R10及びR11はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~4のアルキル基である。
【0048】
また、本発明で用いられるPVA系樹脂は、一種類であっても、二種類以上の混合物であってもよく、その場合は、上述の未変性PVA同士、未変性PVAと変性PVA系樹脂、ケン化度、重合度、変性度などがPVA系樹脂同士などの組み合わせを用いることができる。
【0049】
[脂肪族ポリエステル系樹脂(A)とポリビニルアルコール系樹脂(B)との関係性]
(溶融粘度)
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)の210℃、せん断速度1216sec-1における溶融粘度(ηA)と、ポリビニルアルコール系樹脂(B)の210℃、せん断速度1216sec-1における溶融粘度(ηB)との差の絶対値(|ηA―ηB|)は、100Pa・s以上であるのが好ましい。中でも、ガスバリア性及び成型安定性の観点から、好ましくは100Pa・s以上或いは600Pa・s以下であるのがさらに好ましく、中でも150Pa・s以上或いは550Pa・s以下、その中でも200Pa・s以上或いは500Pa・s以下、特にその中でも200Pa・s以上或いは400Pa・s以下であるのがさらに好ましい。かかる粘度差が小さすぎると、海島構造(樹脂相分離構造)の島部分(帯状分散相)の体積が小さくなりすぎ、射出成型した際に形成されるバリア層の大きさが小さくなってガスバリア性が低下する傾向があり、大きすぎると、低粘度の樹脂が外側に排斥され、ガスバリア性が低下する傾向がある。
【0050】
なお、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)の210℃、せん断速度1216sec-1における溶融粘度は、好ましくは150~500Pa・sであり、より好ましくは160Pa・s以上或いは200Pa・s以下であり、さらに好ましくは170Pa・s以上或いは185Pa・s以下である。
他方、ポリビニルアルコール系樹脂(B)の210℃、せん断速度1216sec-1における溶融粘度は、好ましくは250~800Pa・sであり、より好ましくは300Pa・s以上或いは600Pa・s以下であり、さらに好ましくは330Pa・s以上或いは550Pa・s以下である。
【0051】
[その他の樹脂]
本樹脂層は、必要に応じて、上記以外の樹脂、例えばポリヒドロキシアルカノエート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィン、アクリル樹脂、アモルファスポリオレフィン、ABS、AS(アクリロニトリルスチレン)、ポリカプロラクトン、セルロースエステルなどの合成樹脂のうちのいずれか1種又は2種以上を含有していてもよい。
但し、これら「上記以外の樹脂」は、上記主成分樹脂100質量部に対して50質量部未満、特に30質量部未満、特に10質量部未満、であることが好ましい。
【0052】
[その他の成分]
本樹脂層は、必要に応じて、例えば無機粒子、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、加水分解防止剤、結晶核剤、アンチブロッキング剤、耐光剤、可塑剤、熱安定剤、難燃剤、離型剤、防曇剤、表面ぬれ改善剤、焼却補助剤、分散助剤、各種界面活性剤、スリップ剤等の各種添加剤や、澱粉、セルロース、紙、木粉、キチン・キトサン質、椰子殻粉末、クルミ殻粉末等の動物/植物物質微粉末、あるいはこれらの混合物を「その他の成分」として含んでいてもよい。これらは、本発明の効果を損なわない範囲で任意に配合することができ、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0053】
これら「その他の成分」の含有量は、特に限定するものではない。目安としては、各層の総量に対して0.01質量%以上40質量%以下であることが好ましい。
【0054】
(無機粒子)
無機粒子を含有することで、貯蔵弾性率を高めることができるばかりか、耐熱性を高めることができる。但し、その量が多すぎると、成形時に伸び難くなってしまう。
かかる観点から、無機粒子の含有量は、耐熱性の観点から、本樹脂層を形成する組成物の合計量、例えば生分解性樹脂と無機粒子の合計100質量部に対して10質量部以上であることが好ましく、中でも20質量部以上、その中でも25質量部以上であることがさらに好ましい。その一方、延伸性の観点から、本樹脂層を形成する組成物の合計量、例えば生分解性樹脂と無機粒子の合計100質量部に対して60質量部以下であることが好ましく、中でも50質量部以下、その中でも40質量部以下であることがさらに好ましい。
【0055】
無機粒子の種類は、特に限定するものではない。例えばシリカ、雲母、タルク、マイカ、クレイ、酸化チタン、炭酸カルシウム、ケイ藻土、アロフェン、ベントナイト、チタン酸カリウム、ゼオライト、セピオライト、スメクタイト、カオリン、カオリナイト、ガラス、石灰石、カーボン、ワラステナイト、焼成パーライト、珪酸カルシウム、珪酸ナトリウム等の珪酸塩、酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム等の水酸化物、炭酸第二鉄、酸化亜鉛、酸化鉄、リン酸アルミニウム、硫酸バリウム等を挙げることができる。これら1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。中でも、貯蔵弾性率、透明性を向上させる観点でタルクがより好ましい。
【0056】
無機粒子の粒径は、特に限定するものではない。ハンドリングの理由から平均粒子径が0.5μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.6μm以上、更に好ましくは0.7μm以上、特に好ましくは1.0μm以上である。一方で、無機粒子の平均粒子径は50μm以下であることが好ましく、より好ましくは30μm以下、更に好ましくは20μm以下である。
なお、この際の平均粒子径の測定方法としては、島津製作所製粉体比表面積測定装置SS-100型(恒圧式空気透過法)で測定した粉末1gあたりの比表面積値を求め、JIS M8511に準じた空気透過法による比表面積の測定結果から、下記式により無機粒子の平均粒子径を計算する方法を挙げることができる。
平均粒子径(μm)=10000×{6/(無機粒子の比重×比表面積)}
【0057】
<他の層>
本成形品は、上述したように、本樹脂層以外の「他の層」を備えた二層以上の複層構成であってもよい。
「他の層」としては、水蒸気バリア性を有する水蒸気バリア層、紙層、印刷層などを挙げることができる。
【0058】
(水蒸気バリア層)
水蒸気バリア層としては、上記脂肪族ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン、又はポリオレフィンを基材とする無機蒸着層などを挙げることができる。
【0059】
<本成形品の用途>
本成形品は、成形性、例えば射出成型性に優れており、ガスバリア性を優れたものとすることができるから、本成形品を主成分として含有するコーヒーカプセルすなわちカプセル式コーヒーメーカー用のコーヒー豆容器、ボトル、カップ、トレー、育苗ポットをはじめ様々な成形品に加工し、使用することが出来る。また、本成形品は、生分解性を有するから、使用後、水中、土中等自然環境下にて分解させることができる。
なお、本成形品を主成分として含有するコーヒーカプセルの「主成分」とは、コーヒーカプセルを構成する成分のうち最も質量割合の高い成分を意味する。中でも、コーヒーカプセルを構成する成分の50質量%以上、中でも70質量%以上、中でも80質量%以上、中でも90質量%以上(100質量%を含む)を占める意味である。
【0060】
<<本成形品1>>
次に、本成形品の一例として、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を主成分とするペレット(A1)と、ポリビニルアルコール系樹脂(B)を主成分とするペレット(B1)とを、ドライブレンドして成形してなる樹脂層を備えた成形品(「本成形品1」と称する)について説明する。
【0061】
[脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を主成分とするペレット(A1)]
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を主成分とするペレット(A1)とは、前記脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を、ペレット(A1)全体の50質量%以上含有するものであり、70質量%以上、中でも80質量%以上、中でも90質量%以上(100質量%を含む)含有するものであってもよい。
【0062】
前記ペレット(A1)は、本発明の効果を損なわない範囲にて、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)以外の「その他の生分解性熱可塑性樹脂」を含有してもよい。
その他の生分解性熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリカプロラクトンなどがあり、好ましくはPBSである。
その他の生分解性熱可塑性樹脂の含有量としては、ペレット(A1)全体に対して30質量%未満であるのが好ましく、中でも25質量%以下、その中でも15質量%以下であるのがさらに好ましい。その他の生分解性熱可塑性樹脂の含有量が多すぎると、膜強度が低下する傾向がある。
【0063】
前記ペレット(A1)は、さらにその他の配合成分として、熱安定の向上のための抗酸化剤、成形安定性向上のための滑剤、柔軟性付与のための可塑剤(特に食品添加剤として添加できるもの)等を含有してもよい。
ペレット(A1)全体に対する、その他の配合成分の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲であればよい。中でも、ブリードアウトの観点から10%質量以下であることが好ましい。
【0064】
前記ペレット(A1)は、溶融成形することにより得られるものであり、例えば、押出機(単軸や二軸)、バンバリーミキサー、ニーダールーダー、ミキシングロール、ブラストミルなどの公知の混練装置を用いて混練し、成形するものである。中でも、混練性に優れる二軸押出機が好ましく用いられる。
【0065】
前記ペレット(A1)のサイズは、直径0.5mm~10mmであるのが好ましく、中でも1mm以上或いは5mm以下であるのがさらに好ましい。長さは、1mm~20mmであるのが好ましく、中でも2mm以上或いは10mm以下であるのがさらに好ましい。かかるサイズが大きすぎても小さすぎても、溶融成形安定性が低下する傾向がある。
本発明においては、二軸押出機によりストランドを形成し、ペレタイザーによりストランドを切断して、ペレットを得る方法が特に好ましい。
【0066】
[ポリビニルアルコール系樹脂(B)を主成分とするペレット(B1)]
ポリビニルアルコール系樹脂(PVA樹脂)(B)を主成分とするペレット(B1)とは、前記PVA系樹脂(B)を、ペレット(B1)全体の50%以上含有するものであり、70質量%以上、中でも80質量%以上、中でも90質量%以上(100質量%を含む)含有するものであってもよい。
【0067】
前記ペレット(B1)は、本発明の効果を損なわない範囲にて、PVA系樹脂(B)以外の「その他の配合成分」を含有してもよい。
その他の配合成分として、熱安定の向上のための抗酸化剤、成形安定性向上のための滑剤、柔軟性付与のための可塑剤(特に食品添加剤として添加できるもの)等を含有してもよい。
ペレット(B1)全体に対するその他の配合成分の含有量としては、本発明の効果を損なわない範囲であればよい。中でも、ブリードアウトの観点から10質量%以下であることが好ましい。
【0068】
前記ペレット(B1)は、溶融成形することにより得られるものであり、例えば、押出機(単軸や二軸)、バンバリーミキサー、ニーダールーダー、ミキシングロール、ブラストミルなどの公知の混練装置を用いて混練し、成形するものである。中でも、混練性に優れる二軸押出機が好ましく用いられる。
【0069】
前記ペレット(B1)のサイズは、直径0.5mm~10mmであるのが好ましく、中でも1mm以上或いは5mm以下であるのがさらに好ましい。長さは、1mm~10mmであるのが好ましく、中でも2mm以上或いは5mm以下であるのがさらに好ましい。かかるサイズが大きすぎても小さすぎても、溶融成形安定性が低下する傾向がある。
本発明においては、二軸押出機によりストランドを形成し、ペレタイザーによりストランドを切断して、ペレットを得る方法が特に好ましい。
【0070】
<本成形品1の製造方法>
本成形品1は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を主成分とするペレット(A1)と、ポリビニルアルコール系樹脂(B)を主成分とするペレット(B1)と、をドライブレンドして成形して製造することができる。
【0071】
(本成形品1A)
例えば、射出成形品としての本成形品1Aは、上記の脂肪族ポリエステル(A)を主成分とするペレット(A1)とPVA系樹脂(B)を主成分とするペレット(B1)を所定量配合してドライブレンドし、これを射出成型して得ることができる。すなわち、ペレット(A1)とペレット(B1)を予め溶融混練することなく、それぞれをペレットの状態でドライブレンドして射出成型して作製することができる。
【0072】
前記ペレット(A1)の210℃、せん断速度1216sec-1における溶融粘度(ηA1)と、前記ペレット(B1)の210℃、せん断速度1216sec-1における溶融粘度(ηB1)の差の絶対値(|ηA1―ηB1|)は100Pa・s以上であるのが好ましい。中でも、ガスバリア性及び成型安定性の観点から、好ましくは100Pa・s以上或いは600Pa・s以下であるのがさらに好ましく、中でも150Pa・s以上或いは550Pa・s以下、その中でも200Pa・s以上或いは500Pa・s以下、特にその中でも200Pa・s以上或いは400Pa・s以下であるのがさらに好ましい。かかる粘度差が小さすぎると、海島構造(樹脂相分離構造)の島部分(帯状分散相)の体積が小さくなりすぎ、射出成型した際に形成されるバリア層の大きさが小さくなってガスバリア性が低下する傾向があり、大きすぎると、低粘度の樹脂が外側に排斥され、ガスバリア性が低下する傾向がある。
【0073】
なお、本発明の射出成型時の粘度差は以下の方法で測定したものである。
比較したいそれぞれの樹脂の溶融粘度を、東洋精機社製のキャピログラフで、210℃、1216sec-1でのせん断速度での溶融粘度を測定する。
【0074】
前記ペレット(A1)の210℃、せん断速度1216sec-1における溶融粘度は、好ましくは150~500Pa・sであり、より好ましくは160Pa・s以上或いは200Pa・s以下であり、さらに好ましくは170Pa・s以上或いは185Pa・s以下である。
【0075】
前記ペレット(B1)の210℃、せん断速度1216sec-1における溶融粘度は、好ましくは250~800Pa・sであり、より好ましくは300Pa・s以上或いは600Pa・s以下であり、さらに好ましくは330Pa・s以上或いは550Pa・s以下である。
【0076】
射出成形品としての本成形品1Aは、前記ペレット(A1)と前記ペレット(B1)を混合して射出成型したものであり、この際、成形安定性、ガスバリア性を考慮すると、両者の質量組成比(A1)/(B1)は、99/1~51/49であることが好ましく、95/5~55/45であることがさらに好ましく、90/10~60/40であることが特に好ましく、85/15~65/35であることが最も好ましい。
質量組成比(A1)/(B1)が上記の範囲であると、射出成型時に脂肪族ポリエステル(A)とPVA系樹脂(B)の海島構造(樹脂相分離構造)においてPVA系樹脂(B)の島部分(帯状分散相)の大きさが大きくなりやすく、射出された際により大きなガスバリア層となることで本願発明の効果を得られやすくなる。
【0077】
射出成形品としての本成形品1Aは、必要に応じてグリセリン、その誘導体、ポリエチレングリコール等の公知の可塑剤を含有していてもよい。また他の添加剤、例えば熱安定剤、紫外線吸収剤、耐候安定剤、酸化防止剤、着色剤、滑剤、離型剤、香料、フィラーなどを本発明の目的が阻害されない範囲で含有してもよい。
【0078】
連続相と帯状分散相とからなる樹脂相分離構造を形成する観点から、射出成形の条件を下記のようにするのが好ましい。
金型温度は、低過ぎると未成形のうちに固化してしまう可能性が生じ、高過ぎると、固化に時間がかかってしまうため、目安としては30~90℃とするのが好ましく、中でも40℃以上或いは70℃以下、その中でも50℃以上或いは60℃以下とするのがさらに好ましい。
射出速度は、早過ぎても遅過ぎても、外観上の不良、例えばジェッティング、フローマーク、エア模様、ウエルドライン、ガス焼けなどを生じる可能性があるばかりか、機能や形状の不良、例えば反りや残留応力の増加による変形などを生じる可能性があり、さらには質量がばらついて不安定になる可能性がある。よって、係る観点から、50~300mm/secであるのが好ましく、中でも100mm/sec以上或いは200mm/sec以下とするのがさらに好ましい。
【0079】
本成形品1Aにおいて、本樹脂層以外の「他の層」を積層する場合には、射出成型後、他の層を形成するための樹脂組成物をコートして積層するなどすればよい。但し、この方法に限定するものではない。
【0080】
(本成形品1B)
例えば、シート成形品としての本成形品1Bは、上記の脂肪族ポリエステル(A)を主成分とするペレット(A1)とPVA系樹脂(B)を主成分とするペレット(B1)を所定量配合してドライブレンドし、これをシート成形した後、該シート成形で得られたシートを一軸方向又は二軸方向に延伸し、得られたシート体を二次成形加工して本成形品1Bを製造することができる。すなわち、ペレット(A1)とペレット(B1)を予め溶融混練することなく、それぞれをペレットの状態でドライブレンドしてシート成形した後、該シート成形で得られたシートを一軸方向又は二軸方向に延伸し、得られたシート体を二次成形加工して得ることができる。
【0081】
ここで、「二次成形加工」とは、シートを別の形状に変形させたり、別の形状を付与したりする加工を意味し、加工方法としては、真空成形、圧空成形などの熱成形方法を挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
【0082】
連続相と帯状分散相とからなる樹脂相分離構造を形成する観点から、本成形品1Bの製造条件を次のようにするのが好ましい。
本成形品1Bの製造方法に関しては、シート成形温度が低すぎると、樹脂が軟化せずに均一な成形品が得られにくくなり、高すぎると、樹脂が分解する可能性があるため、シート成形温度は、140~250℃であるのが好ましく、中でも180℃以上或いは230℃以下であるのが好ましい。
【0083】
延伸は、二軸方向に延伸するのがより好ましい。この際、延伸温度が低すぎると延伸が不十分となり、高すぎると延伸斑ができやすいため、延伸温度は、シート温度を60~100℃とするのが好ましく、中でも70℃以上或いは90℃以下とするのがさらに好ましい。
また、延伸倍率が小さすぎると、十分なガスバリア性が得られなくなる傾向があり、逆に大きすぎると、延伸時に破断する場合があるため、延伸倍率は、面積倍率で、2~100倍とするのが好ましく、中でも4倍以上或いは50倍以下、その中でも6倍以上或いは20倍以下とするのがさらに好ましい。
【0084】
延伸後にシートを冷却するのが好ましい。この際、冷却温度が低すぎると結晶化が進まずガスバリア性が低下する可能性があり、高すぎると冷却に時間がかかるため、冷却温度は、シート温度を20~60℃とするのが好ましく、中でも30℃以上或いは50℃以下とするのがより好ましい。
【0085】
本成形品1Bにおいて、本樹脂層以外の「他の層」を積層する場合には、例えば、本樹脂層と他の層を共押出した後、延伸するようにしてもよいし、本樹脂層を形成した後、他の層を形成するための樹脂組成物をコートして積層するなどすればよい。但し、これらの方法に限定するものではない。
【0086】
<語句の説明>
本発明において「生分解性」とは、微生物の働きで最終的に水と二酸化炭素に分解される性質を言い、好ましくは、ISO16929又はJIS K6952記載の58℃の好気的コンポスト環境下、パイロットスケールで、12週間以内で100mm角のフィルムが、2mmのフルイ残り10%以内になることを満足する性質である。
本発明において「ガスバリア性」とは、広義には任意のガスの透過を抑制する性質を意味し、より限定的には、酸素の透過を抑制する性質を意味する。
【0087】
本発明において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」あるいは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)あるいは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」あるいは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例】
【0088】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
尚、例中「部」、「%」とあるのは、質量基準を意味する。
【0089】
<実施例1>
〔PVA-1の作製〕
還流冷却器、滴下装置、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル10部(全体の10%を初期仕込み)、メタノール45部を仕込み、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、沸点に到達した後、アセチルパーオキサイドを0.05部投入し、重合を開始した。さらに、重合開始から0.28時間後に酢酸ビニル90部を22時間かけて等速滴下した。酢酸ビニルの重合率が95%となった時点で、ヒドロキノンモノメチルエーテルを所定量添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込みつつ蒸留することで未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し酢酸ビニル重合体のメタノール溶液を得た。
【0090】
ついで、上記溶液をメタノールで希釈し、固形分濃度を55%に調整して、かかるメタノール溶液をニーダーに仕込み、溶液温度を35℃に保ちながら、水酸化ナトリウム中のナトリウム分2%メタノール溶液を酢酸ビニル構造単位1モルに対して6.3ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、粒子状となった時点で、さらに水酸化ナトリウム中のナトリウム分2%メタノール溶液を酢酸ビニル構造単位1モルに対して6.0ミリモル追加しケン化を行った。その後、中和用の酢酸を水酸化ナトリウムの0.8当量添加し、濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、PVA-1を得た。
【0091】
得られたPVA-1のケン化度は、樹脂中の残存酢酸ビニルの構造単位の加水分解に要るアルカリ消費量にて分析したところ、88モル%であった。また、平均重合度は、JIS K6726に準じて分析を行ったところ、500であった。
【0092】
〔PVA-1ペレットの作製〕
上記で得られたPVA-1、100部に対して可塑剤としてグリセリン7部を配合し、下記の条件でペレットとした。得られたペレットについて、東洋精機社製のキャピログラフでPVA-1ペレットの210℃、せん断速度1216sec-1における、溶融粘度を測定したところ、溶融粘度は387Pa・sであった。
押出機:テクノベル社製15mmφL/D=60、回転数:200rpm、吐出量:1.5~2.0kg/h
押出温度:C1/C2/C3/C4/C5/C6/C7/C8/D=90/170/190/200/205/210/210/210/210℃
【0093】
〔射出成形品の作製〕
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)としてポリ乳酸(PLA)(ネイチャーワークス社製「Ingeo3001D」)のペレット(210℃、せん断速度1216sec-1における、溶融粘度177Pa・s)を70質量部、PVA系樹脂(B)として上記で得られたPVA-1のペレットを30質量部用い、下記の条件で射出成型機(東洋機械金属社製、Si80-6)にて、射出成型でカップを製造した。得られた射出成形品の厚みは800μmであった。
【0094】
210℃、せん断速度1216sec-1における脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を主成分とするペレット(A1)の溶融粘度(ηA1)とポリビニルアルコール系樹脂(B)を主成分とするペレット(B1)の溶融粘度(ηB1)の差の絶対値(|ηA1―ηB1|)は210Pa・sであった。
【0095】
(射出成型の条件)
射出成型機:東洋機械金属社製、Si80-6
ヒーター温度:H1/H2/H3/H4/H5/ホッパー下=210/210/200/190/170/40℃
【0096】
〔帯状分散相の平均長さ(L1)及び平均厚み(L2)〕
本成形品の1か所において、本樹脂層を肉厚方向に切断し、その切断面において少なくとも任意に10個の帯状分散相を観察して、それぞれの長さと厚みを計測して、その平均を算出して、帯状分散相の平均長さ(L1)及び平均厚み(L2)を得た。
なお、厚みは、長さ方向に4等分して、その両端部を除いた中2点を計測してその平均値とした。
【0097】
〔酸素透過度(OTR)の評価〕
上記で得られた射出成形品に対して、酸素透過度測定装置(OX-TRAN2/20、米国のMOCON社製)により、23℃及び50%RHの条件で酸素の透過度(cc/pkg・day・air)を測定した。結果を表1に示す。
【0098】
<実施例2>
〔PVA―2の作製〕
還流冷却器、滴下装置、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル10部(全体の10%を初期仕込み)、メタノール45部、及び3,4-ジアセトキシ-1-ブテン0.20部(全体の10%を初期仕込み)を仕込み、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、沸点に到達した後、アセチルパーオキサイドを0.1部投入し、重合を開始した。さらに、重合開始から0.5時間後に酢酸ビニル90部と3,4-ジアセトキシ-1-ブテン8.2部を22.5時間かけて等速滴下した。酢酸ビニルの重合率が95%となった時点で、ヒドロキノンモノメチルエーテルを所定量添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込みつつ蒸留することで未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
【0099】
ついで、上記溶液をメタノールで希釈し、固形分濃度を55%に調整して、かかるメタノール溶液をニーダーに仕込み、溶液温度を35℃に保ちながら、水酸化ナトリウム中のナトリウム分2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位及び3,4-ジアセトキシ-1-ブテン構造単位の合計量1モルに対して6.3ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、粒子状となった時点で、さらに水酸化ナトリウム中のナトリウム分2%メタノール溶液を酢酸ビニル構造単位及び3,4-ジアセトキシ-1-ブテン構造単位の合計量1モルに対して6.0ミリモル追加しケン化を行った。その後、中和用の酢酸を水酸化ナトリウムの0.8当量添加し、濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、側鎖に1,2-ジオール構造を有するPVA―2を得た。
【0100】
得られた側鎖に1,2-ジオール構造を有するPVA-2のケン化度は、樹脂中の残存酢酸ビニルおよび3,4-ジアセトキシ-1-ブテンの構造単位の加水分解に要するアルカリ消費量にて分析したところ、99モル%であった。また、平均重合度は、JISK6726に準じて分析を行ったところ、450であった。また、前記式(1)で表される1,2-ジオール構造単位の含有量は、1H-NMR(300MHzプロトンNMR、d6-DMSO溶液、内部標準物質;テトラメチルシラン、50℃)にて測定した積分値より算出したところ、6モル%であった。
【0101】
〔PVA―2ペレットの作製〕
上記で得られたPVA-2を下記の条件でペレットとした。得られたペレットについて、東洋精機社製のキャピログラフでPVA-1ペレットの210℃、せん断速度1216sec-1における、溶融粘度を測定したところ、溶融粘度は510Pa・sであった。
押出機:テクノベル社製15mmφL/D=60
回転数:200rpm、吐出量:1.2~1.5kg/h
押出温度:C1/C2/C3/C4/C5/C6/C7/C8/D=90/170/190/200/205/210/210/210/210℃
【0102】
PVA-1をPVA-2のペレットに替えた以外は、実施例1と同様に評価を行った。
結果を表1に示す。
なお、210℃、せん断速度1216sec-1における脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を主成分とするペレット(A1)の溶融粘度(ηA1)とポリビニルアルコール系樹脂(B)を主成分とするペレット(B1)の溶融粘度(ηB1)の差の絶対値(|ηA1―ηB1|)は333Pa・sであった。
【0103】
<実施例3>
実施例2において、PVA―2をPVA―3(側鎖に1,2-ジオール構造を有するPVA、ケン化度88モル%、平均重合度450、1,2ジオール構造の含有量6モル%)のペレット(210℃、せん断速度1216sec-1における、溶融粘度460Pa・s)に替えた以外は実施例1と同様の評価を行った。
なお、210℃、せん断速度1216sec-1における脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を主成分とするペレット(A1)の溶融粘度(ηA1)とポリビニルアルコール系樹脂(B)を主成分とするペレット(B1)の溶融粘度(ηB1)の差の絶対値(|ηA1―ηB1|)は283Pa・sであった。
【0104】
<実施例4>
実施例1において、PVA―1をPVA―4(エチレン変性PVA、ケン化度99モル%、平均重合度500、エチレン変性量8モル%)のペレット(210℃、せん断速度1216sec-1における、溶融粘度452Pa・s)に替えた以外は実施例1と同様の評価を行った。
なお、210℃、せん断速度1216sec-1における脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を主成分とするペレット(A1)の溶融粘度(ηA1)とポリビニルアルコール系樹脂(B)を主成分とするペレット(B1)の溶融粘度(ηB1)の差の絶対値(|ηA1―ηB1|)は275Pa・sであった。
【0105】
<比較例1>
実施例1において、PVA―2をPVA―5(未変性PVA、ケン化度99モル%、平均重合度350)のペレット(210℃、せん断速度1216sec-1における、溶融粘度227Pa・s)に替えた以外は実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
なお、210℃、せん断速度1216sec-1における脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を主成分とするペレット(A1)の溶融粘度(ηA1)とポリビニルアルコール系樹脂(B)を主成分とするペレット(B1)の溶融粘度(ηB1)の差の絶対値(|ηA1―ηB1|)は50Pa・sであった。
【0106】
<比較例2>
実施例1において、ポリ乳酸(PLA)(ネイチャーワークス社製「Ingeo3001D」)のペレットとPVA-1のペレットを射出成型に供する前に予めを溶融混練してポリ乳酸及びPVA-1を含有するペレットを下記の条件で得、該ペレットを用いてさらに下記の条件で射出成型を行い、射出成形品を得、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
なお、210℃、せん断速度1216sec-1における脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を主成分とするペレット(A1)の溶融粘度(ηA1)とポリビニルアルコール系樹脂(B)を主成分とするペレット(B1)の溶融粘度(ηB1)の差の絶対値(|ηA1―ηB1|)は実施例1と同様であった。
【0107】
(ペレットの作製条件)
押出機:テクノベル社製、15mmφ、L/D=60
回転数:200rpm
吐出量:1.2~1.5kg/h
押出温度:C1/C2/C3/C4/C5/C6/C7/C8/D=90/170/190/200/205/210/210/210/210℃
(射出成型の条件)
射出成型機:東洋機械金属社製、Si80-6
ヒーター温度:H1/H2/H3/H4/H5/ホッパー下=210/210/200/190/170/40℃
【0108】
<比較例3>
実施例2において、ポリ乳酸(PLA)(ネイチャーワークス社製「Ingeo3001D」)のペレットとPVA-2のペレットを射出成型に供する前に予めを溶融混練してポリ乳酸及びPVA-2を含有するペレットを下記の条件で得、該ペレットを用いてさらに下記の条件で射出成型を行い、射出成形品を得、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
なお、210℃、せん断速度1216sec-1における脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を主成分とするペレット(A1)の溶融粘度(ηA1)とポリビニルアルコール系樹脂(B)を主成分とするペレット(B1)の溶融粘度(ηB1)の差の絶対値(|ηA1―ηB1|)は実施例2と同様であった。
【0109】
(ペレットの作製条件)
押出機:テクノベル社製、15mmφ、L/D=60
回転数:200rpm、吐出量:1.2~1.5kg/h
押出温度:C1/C2/C3/C4/C5/C6/C7/C8/D=90/170/190/200/205/210/210/210/210℃
(射出成型の条件)
射出成型機:東洋機械金属社製、Si80-6
ヒーター温度:H1/H2/H3/H4/H5/ホッパー下=210/210/200/190/170/40℃
【0110】
<比較例4>
実施例3において、ポリ乳酸(PLA)(ネイチャーワークス社製「Ingeo3001D」)のペレットとPVA-3のペレットを射出成型に供する前に予めを溶融混練してポリ乳酸及びPVA-3を含有するペレットを下記の条件で得、該ペレットを用いてさらに下記の条件で射出成型を行い、射出成形品を得、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
なお、210℃、せん断速度1216sec-1における脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を主成分とするペレット(A1)の溶融粘度(ηA1)とポリビニルアルコール系樹脂(B)を主成分とするペレット(B1)の溶融粘度(ηB1)の差の絶対値(|ηA1―ηB1|)は実施例3と同様であった。
【0111】
(ペレットの作製条件)
押出機:テクノベル社製、15mmφ、L/D=60
回転数:200rpm
吐出量:1.2~1.5kg/h
押出温度:C1/C2/C3/C4/C5/C6/C7/C8/D=90/170/190/200/205/210/210/210/210℃
(射出成型の条件)
射出成型機:東洋機械金属社製、Si80-6
ヒーター温度:H1/H2/H3/H4/H5/ホッパー下=210/210/200/190/170/40℃
【0112】
<比較例5>
実施例4において、ポリ乳酸(PLA)(ネイチャーワークス社製「Ingeo3001D」)のペレットとEVOH(MFR3.8g/10min(210℃、2160g))のペレットを射出成型に供する前に予めを溶融混練してポリ乳酸及びEVOHを含有するペレットを下記の条件で得、該ペレットを用いてさらに下記の条件で射出成型を行い、射出成形品を得、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
なお、210℃、せん断速度1216sec-1における脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を主成分とするペレット(A1)の溶融粘度(ηA1)とポリビニルアルコール系樹脂(B)を主成分とするペレット(B1)の溶融粘度(ηB1)の差の絶対値(|ηA1―ηB1|)は実施例4と同様であった。
【0113】
(ペレットの作製条件)
押出機:テクノベル社製15mmφL/D=60
回転数:200rpm
吐出量:1.2~1.5kg/h
押出温度:C1/C2/C3/C4/C5/C6/C7/C8/D=90/170/190/200/205/210/210/210/210℃
(射出成型の条件)
射出成型機:東洋機械金属社製、Si80-6
ヒーター温度:H1/H2/H3/H4/H5/ホッパー下=210/210/200/190/170/40℃
【0114】
<参考例1>
PVA系樹脂(B)を主成分とするペレット(B1)を用いず、ポリ乳酸ペレットのみで下記の条件で射出成型を行い、射出成形品を得、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
なお、210℃、せん断速度1216sec-1における脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を主成分とするペレット(A1)の溶融粘度(ηA1)とポリビニルアルコール系樹脂(B)を主成分とするペレット(B1)の溶融粘度(ηB1)の差の絶対値(|ηA1―ηB1|)はポリ乳酸しか用いていないため0とした。
【0115】
(射出成型の条件)
射出成型機:東洋機械金属社製、Si80-6
ヒーター温度:H1/H2/H3/H4/H5/ホッパー下=210/210/200/190/170/40℃
【0116】
【0117】
本発明の成形品は酸素透過度が低く、ガスバリア性に優れるものであった。一方、用いた樹脂の粘度差が小さい比較例1においては、射出成型時の樹脂の分解や減粘が激しく、射出成型機において樹脂の食い込み不良が起こり、得られた射出成形品の形状に異常が発生したため、射出成形品の酸素透過度を測定することができなかった。
【0118】
また、上記のような効果が得られるのは、以下のようなことが推測される。
射出成型の吐出時の粘度差が特定値以上である脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を主成分とするペレット(A1)とPVA系樹脂(B)を主成分とするペレット(B1)を用いて射出成型することにより、PVA系樹脂(B)が引き伸ばされ、層状となる。このようにして射出成型時に海成分の脂肪族ポリエステル(A)の内部にガスバリア性を備えたPVA系樹脂(B)の層がいくつも形成されることにより、ガスバリア性に優れた射出成形品を得ることができると推測される。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明の成形品は、ガスバリア性が高く生分解性を有している。ガスバリア性が高いことから、香りの透過性も低く、保香性が重視されるコーヒーカプセル、食品や薬品類の各種包装材料として有用である。