(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】被覆基材、熱交換器、被覆基材の製造方法及び液状組成物
(51)【国際特許分類】
B32B 27/18 20060101AFI20240814BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240814BHJP
C08L 27/18 20060101ALI20240814BHJP
F28F 13/14 20060101ALI20240814BHJP
F28F 19/04 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
B32B27/18 Z
B32B27/30 D
C08L27/18
F28F13/14
F28F19/04 Z
(21)【出願番号】P 2021565534
(86)(22)【出願日】2020-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2020046089
(87)【国際公開番号】W WO2021125049
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2019228258
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】寺田 達也
(72)【発明者】
【氏名】細田 朋也
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-164247(JP,A)
【文献】国際公開第2015/137286(WO,A1)
【文献】特開2018-087271(JP,A)
【文献】特開2019-203125(JP,A)
【文献】特開平08-118561(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104119627(CN,A)
【文献】国際公開第2018/070437(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08L 27/18
F28F 13/14、19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の表面を被覆する、380℃における溶融粘度が1×10
6Pa・s以下
であり、溶融温度が280~325℃であるテトラフルオロエチレン系ポリマー及びアスペクト比が1超
であり長軸長が5μm超500μm以下である熱伝導性フィラーを含む
、層厚が10~450μmである熱伝導層とを有し、
前記熱伝導層における、前記熱伝導性フィラーの含有量が10質量%以上であり、前記熱伝導層における前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量と前記熱伝導性フィラーの含有量との和が、90質量%以上100質量%以下であり、前記熱伝導層の層厚に対する前記熱伝導性フィラーの長軸長の比が
0.5以上2以下である、被覆基材。
【請求項2】
前記熱伝導層の熱伝導率が、1.0W/m・K以上である、請求項1に記載の被覆基材。
【請求項3】
前記熱伝導層の線膨張係数が、100ppm/℃以下である、請求項1又は2に記載の被覆基材。
【請求項4】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、テトラフルオロエチレンに基づく単位及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含むポリマー、又は、数平均分子量が20万以下のポリテトラフルオロエチレンである、請求項1~
3のいずれか1項に記載の被覆基材。
【請求項5】
前記熱伝導性フィラーの形状が、繊維状である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の被覆基材。
【請求項6】
前記熱伝導性フィラーが、カーボン含有フィラーである、請求項1~
5のいずれか1項に記載の被覆基材。
【請求項7】
前記基材の材質が、金属、ガラス又はセラミックスである、請求項1~
6のいずれか1項に記載の被覆基材。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の被覆基材を備える、熱交換器。
【請求項9】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の被覆基材の製造方法であって、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダー、前記熱伝導性フィラー及び液状媒体を含む液状組成物を準備し、前記液状組成物を前記基材の表面に付与して液状被膜を形成し、前記液状被膜を加熱して前記熱伝導層を形成し、前記被覆基材を得る、被覆基材の製造方法。
【請求項10】
体積基準累積50%径が0.1~6μmである380℃における溶融粘度が1×10
6Pa・s以下
であり、溶融温度が280~325℃であるテトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダー、アスペクト比が1超
であり長軸長が5μm超500μm以下である熱伝導性フィラー、及び液状媒体を含み、前記熱伝導性フィラーの含有量が10質量%以上であり、
前記パウダーの含有量と前記熱伝導性フィラーの含有量との和が、90質量%以上100質量%以下であり、前記パウダーの体積基準累積50%径に対する前記パウダーの体積基準累積10%径の比が0.5以下である、液状組成物。
【請求項11】
前記パウダーが、100gの前記パウダーを100gの水に分散させて分散液を調製したとき、前記分散液の粘度が50~400mPa・sとなるパウダーである、請求項
10に記載の液状組成物。
【請求項12】
前記熱伝導性フィラーが、表面を被覆する被覆剤を有さないか、又は表面に官能基を有さない熱伝導性フィラーである、請求項
10又は
11に記載の液状組成物。
【請求項13】
25℃における粘度が、50~10000mPa・sである、請求項
10~
12のいずれか1項に記載の液状組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の熱伝導層を有する被覆基材及びその製造方法、かかる被覆基材を備える熱交換器、並びに被覆基材の製造に好適な液状組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼ガスを利用してボイラ水から蒸気を発生させるボイラには、伝熱管を備えた熱交換器が用いられる。
燃焼ガスには、水蒸気、硫黄酸化物等が含まれている。そのため、熱交換器における熱交換によって、燃焼ガスから硫酸が生成される温度(硫酸露点温度)以下になると熱交換器中にて硫酸が生成し、伝熱管等を腐食させやすい。
硫酸による腐食を抑制した熱交換器の伝熱管としては、テトラフルオロエチレン系ポリマー、炭素繊維、鉛フリーはんだ合金、黒鉛及び炭化ケイ素のそれぞれのドライパウダーの混合物を、管本体の外表面に静電塗装し、焼成処理して形成された熱伝導層(耐蝕性被覆層)を有する伝熱管が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、混合物の静電塗装に際しては、それぞれのドライパウダーの平均粒子径(特に、テトラフルオロエチレン系ポリマーのドライパウダーの平均粒子径)を数十μmにする必要がある。そのため、形成される熱伝導層において各成分が不均一に存在しやすく、熱伝導性にむらが生じやすい。
本発明は、熱伝導性と耐蝕性とに優れ、それらのムラが少ない層を有する被覆基材及びその製造方法、かかる被覆基材を備える熱交換器、並びにかかる被覆基材を形成するために好適に使用できる液状組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記の態様を有する。
<1> 基材と、前記基材の表面を被覆する、380℃における溶融粘度が1×106Pa・s以下であるテトラフルオロエチレン系ポリマー及びアスペクト比が1超である熱伝導性フィラーを含む熱伝導層とを有し、前記熱伝導層の層厚に対する前記熱伝導性フィラーの長軸長の比が0.1以上である、被覆基材。
<2> 前記熱伝導層の熱伝導率が、1.0W/m・K以上である、<1>の被覆基材。
<3> 前記熱伝導層の線膨張係数が、100ppm/℃以下である、<1>又は<2>の被覆基材。
<4> 前記熱伝導性フィラーの長軸長が0.1μm超500μm以下であり、前記熱伝導層の層厚が0.1~450μmである、<1>~<3>のいずれかの被覆基材。
<5> 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、テトラフルオロエチレンに基づく単位及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含むポリマー、又は、数平均分子量が20万以下のポリテトラフルオロエチレンである、<1>~<4>のいずれかの被覆基材。
【0006】
<6> 前記熱伝導性フィラーの形状が、繊維状である、<1>~<5>のいずれかの被覆基材。
<7> 前記熱伝導性フィラーが、カーボン含有フィラーである、<1>~<6>のいずれかの被覆基材。
<8> 前記熱伝導層の、前記熱伝導性フィラーの含有量が10質量%以上であり、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量と前記熱伝導性フィラーの含有量との和が90質量%以上である、<1>~<7>のいずれかの被覆基材。
<9> 前記基材の材質が、金属、ガラス又はセラミックスである、<1>~<8>のいずれかの被覆基材。
<10> 上記<1>~<9>のいずれかの被覆基材を備える、熱交換器。
【0007】
<11> 上記<1>~<9>のいずれかの被覆基材の製造方法であって、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダー、前記熱伝導性フィラー及び液状媒体を含む液状組成物を準備し、前記液状組成物を前記基材の表面に付与して液状被膜を形成し、前記液状被膜を加熱して前記熱伝導層を形成し、前記被覆基材を得る、被覆基材の製造方法。
<12> 体積基準累積50%径が0.1~6μmである380℃における溶融粘度が1×106Pa・s以下であるテトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダー、アスペクト比が1超である熱伝導性フィラー、及び液状媒体を含み、前記熱伝導性フィラーの含有量が10質量%以上であり、前記パウダーの体積基準累積50%径に対する前記パウダーの体積基準累積10%径の比が0.5以下である、液状組成物。
<13> 前記パウダーが、100gの前記パウダーを100gの水に分散させて分散液を調製したとき、前記分散液の粘度が50~400mPa・sとなるパウダーである、<12>の液状組成物。
<14> 前記熱伝導性フィラーが、表面を被覆する被覆剤を有さないか、又は表面に官能基を有さない熱伝導性フィラーである、<12>又は<13>の液状組成物。
<15> 25℃における粘度が、50~10000mPa・sである、<12>~<14>のいずれかの液状組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、熱伝導性と耐蝕性とに優れ、それらのムラが少ない層を有する被覆基材及び熱交換器、並びにかかる被覆基材の形成に適した、分散安定性及びハンドリング性に優れた液状組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の被覆基材で構成された伝熱管の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の用語は、以下の意味を有する。
「パウダーの体積基準累積50%径(D50)」は、レーザー回折・散乱法によって求められる値である。すなわち、レーザー回折・散乱法によってパウダーの粒度分布を測定し、パウダーの粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
「パウダーの体積基準累積10%径(D10)」は、同様にして測定されるパウダーの体積基準累積10%径である。
「ポリマーの溶融粘度」は、ASTM D1238に準拠し、フローテスター及び2Φ-8Lのダイを用い、予め測定温度にて5分間加熱しておいたポリマーの試料(2g)を0.7MPaの荷重にて測定温度に保持して測定した値である。
「ポリマーの溶融温度」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定したポリマーの融解ピークの最大値に対応する温度である。
「ポリマーのガラス転移点」は、動的粘弾性測定(DMA)法でポリマーを分析して測定される値である。
「熱伝導層の熱伝導率」は、ASTM D5470に準じて測定される値である。
「熱伝導層の線膨張係数」は、熱機械分析装置(SII社製、「TMA/SS6100」)を用いて測定した、熱伝導層の線膨張に伴う変位量である。
「対象物の粘度」は、B型粘度計を用い、温度25℃、回転数6rpmの条件下で、対象物(液状組成物又は分散液)を測定した値である。
「熱伝導性フィラーのアスペクト比」は、無作為に抽出した50個以上の熱伝導性フィラーを電子顕微鏡で観察して求めた、熱伝導性フィラーの長径値と短径値とから算出した値(長径値を短径値で除した値)の平均値である。
「熱伝導性フィラーの長軸長」は、顕微鏡を用いた熱伝導性フィラーの画像解析によって以下の方法によって求めた値である。
30mLの三角フラスコにスポイトで、1級試薬の流動パラフィン5mLをはかり取る。ミクロスパチュラで熱伝導性フィラーの試料を採取し、流動パラフィンに分散させる。フラスコからマイクロピペットで300μLの分散液をはかり取り、1枚目のスライドグラス上に滴下し、2枚目のスライドグラスを重ねて圧着させる。スライドグラスに挟まれた試料について、CCDマイクロスコープ(例えば、MORITEX CORPORATION社製、「SCOPEMAN DIGITAL CCD MICROSCOPE MS-804」)を用いて画像を撮影し、画像解析ソフト(例えば、三谷商事社製、「WinROOF2015」)を用いて、1000~1300個の熱伝導性フィラーについて長軸長を測定し、フィラーの集団の全数を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積分率が90%となる点の値を長軸長とする。
【0011】
本発明の被覆基材(以下、「本基材」とも記す。)は、基材と、基材の表面を被覆する、380℃における溶融粘度が1×106Pa・s以下であるテトラフルオロエチレン系ポリマー(以下、「TFE系ポリマー」とも記す。)及びアスペクト比が1超である熱伝導性フィラーを含む熱伝導層とを有する。アスペクト比が1超である熱伝導性フィラーを以下「熱伝導性フィラーA」ともいう。
本発明において、熱伝導層の層厚に対する熱伝導性フィラーAの長軸長の比は、0.1以上である。
なお、TFE系ポリマーは、テトラフルオロエチレン(TFE)に基づく単位(TFE単位)を含むポリマーである。
本基材が、熱伝導性と耐蝕性とに優れ、それらのムラが少ない理由は、必ずしも明確ではないが、以下の様に考えられる。
【0012】
本発明における熱伝導性フィラーAは、換言すれば、長軸長(長手方向の長さ)と短軸長(短手方向の長さ)が異なる異方性フィラーである。本発明者らは、熱伝導層において、熱伝導層と基材との対向する面(以下、「対向面」とも記す。)に対して垂直方向に、熱伝導性フィラーAの長軸方向を配向させるべく検討した。
その結果、溶融粘度が所定の範囲にあるTFE系ポリマーを使用すると、かかる配向性が発現しやすい点と、TFE系ポリマーと熱伝導性フィラーAが高度に密着した層が形成される点とを知見した。そして、熱伝導性フィラーAの長軸長が熱伝導層の層厚に対して一定以上にあれば、連続性の高いフィラーの集合体が生じて熱伝導部が形成されやすくなる点を知見した。
【0013】
つまり、本基材における熱伝導層は、TFE系ポリマー及び熱伝導性フィラーAの密着性が高い緻密な層であり、熱伝導性フィラーAが、対向面に対して垂直方向に高い連続性で配向した層である。したがって、本基材は、熱伝導性と耐蝕性とに優れ、それらのムラが少ないと考えられる。
また、本基材においては、熱伝導性フィラーAの少なくとも一部は、対向面と接触している状態か、又は、熱伝導層の対向面と反対側の面(以下、「露出面」とも記す。)に露出している状態を形成できる。そのため、本基材は、熱伝導性と耐蝕性とに優れ、それらのムラが少ないとも考えられる。
【0014】
本発明におけるTFE系ポリマーの380℃における溶融粘度は、1×106Pa・s以下であり、5×105Pa・s以下であるのが好ましく、1×105Pa・s以下であるのがより好ましい。この溶融粘度としては、1×102Pa・s以上が好ましく、1×103Pa・s以上がより好ましい。この場合、TFE系ポリマーが緻密になりやすく、均質性及び平滑性の高い熱伝導層を形成しやすい。その結果、熱伝導性のムラが少ない熱伝導層を形成できる。
TFE系ポリマーの溶融温度は、280~325℃が好ましく、285~320℃がより好ましい。
TFE系ポリマーのガラス転移点は、75~125℃が好ましく、80~100℃がより好ましい。
【0015】
TFE系ポリマーとしては、TFE単位及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)に基づく単位(PAVE単位)を含むポリマー(PFA)、及び、数平均分子量が20万以下のポリテトラフルオロエチレンであるPTFE(以下、「低分子量PTFE」とも記す。)が好ましい。
PFAは、さらに他の単位を含んでいてもよい。
PAVEとしては、CF2=CFOCF3、CF2=CFOCF2CF3及びCF2=CFOCF2CF2CF3(PPVE)が好ましく、PPVEがより好ましい。
PFAは、極性官能基を有していてもよい。極性官能基は、PFA中の単位に含まれていてもよく、ポリマーの主鎖の末端基に含まれていてもよい。後者の態様としては、重合開始剤、連鎖移動剤等に由来する末端基として極性官能基を有するPFA、PFAをプラズマ処理、電離線処理又は放射線処理して得られる極性官能基を有するPFAが挙げられる。
【0016】
極性官能基としては、水酸基含有基及びカルボニル基含有基が好ましく、カルボニル基含有基がより好ましい。
水酸基含有基としては、アルコール性水酸基を含有する基が好ましく、-CF2CH2OH及び-C(CF3)2OHが好ましい。
カルボニル基含有基は、カルボニル基(>C(O))を含む基であり、カルボニル基含有基としては、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、イソシアネート基、カルバメート基(-OC(O)NH2)、酸無水物残基(-C(O)OC(O)-)、イミド残基(-C(O)NHC(O)-等)及びカーボネート基(-OC(O)O-)が好ましい。
【0017】
TFE系ポリマーにおけるカルボニル基含有基の数は、主鎖炭素数1×106個あたり、10~5000個が好ましく、100~3000個がより好ましく、800~1500個がさらに好ましい。この場合、TFE系ポリマーが緻密になりやすく、均質性及び平滑性の高い熱伝導層を形成しやすい。
【0018】
PFAとしては、TFE単位、PAVE単位を含み、全単位に対してPAVE単位を1.5~5モル%含む、溶融温度が280~320℃のPFAが好ましく、TFE単位、PAVE単位及び極性官能基を有するモノマーに基づく単位を含む、極性官能基を有するPFA(1)、及び、TFE単位及びPAVE単位を含み全単位に対してPAVE単位を2.0~5.0モル%含む、極性官能基を有さないPFA(2)がより好ましい。
これらのPFAは、熱伝導層中において微小球晶を形成しやすくTFE系ポリマーと、熱伝導性フィラーA及び基材との密着性が高まりやすい。
【0019】
PFA(1)としては、全単位に対して、TFE単位を90~99モル%、PAVE単位を1.5~9.97モル%及び極性官能基を有するモノマーに基づく単位を0.01~3モル%、それぞれ含有するものが好ましい。
また、極性官能基を有するモノマーとしては、無水イタコン酸、無水シトラコン酸及び5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(別称:無水ハイミック酸;以下、「NAH」とも記す。)が好ましく、NAHがより好ましい。
PFA(1)の具体例としては、国際公開第2018/16644号に記載されるポリマーが挙げられる。
【0020】
PFA(2)は、TFE単位及びPAVE単位のみからなり、全単位に対して、TFE単位を95.0~98.0モル%、PAVE単位を2.0~5.0モル%含有するものが好ましい。
PFA(2)におけるPAVE単位の含有量は、全単位に対して、2.1モル%以上が好ましく、2.2モル%以上がより好ましい。
なお、PFA(2)が極性官能基を有さないとは、ポリマー主鎖を構成する炭素原子数の1×106個あたりに対して、ポリマーが有する極性官能基の数が、500個未満であることを意味する。上記極性官能基の数は、100個以下が好ましく、50個未満がより好ましい。上記極性官能基の数の下限は、通常、0個である。
PFA(2)は、ポリマーの主鎖の末端基として極性官能基を生じない、重合開始剤や連鎖移動剤等を使用して製造してもよく、極性官能基を有するPFA(重合開始剤に由来する極性官能基をポリマーの主鎖の末端基に有するPFA等)をフッ素化処理して製造してもよい。フッ素化処理の方法としては、フッ素ガスを使用する方法(特開2019-194314号公報等を参照)が挙げられる。
【0021】
TFE系ポリマーは、低分子量PTFEであってもよい。低分子量PTFEの数平均分子量は、下式(1)に基づいて算出される値である。
Mn=2.1×1010×ΔHc-5.16 ・・・ (1)
式(1)中、Mnは、低分子量PTFEの数平均分子量を、ΔHcは、示差走査熱量分析法により測定される低分子量PTFEの結晶化熱量(cal/g)を、それぞれ示す。低分子量PTFEを用いれば、耐熱性と耐薬品性とに優れ、熱伝導性のムラが少ない熱伝導層をより形成しやすい。
低分子量PTFEの数平均分子量は、20万以下が好ましく、10万未満がより好ましい。数平均分子量は、1万以上が好ましい。
低分子量PTFEには、TFEと極微量のコモノマー(HFP、PAVE、FAE等)のコポリマーも包含される。
【0022】
本発明における熱伝導性フィラーAとしては、カーボン含有フィラー、金属酸化物含有フィラー、窒化物含有フィラー、ガラス含有フィラーが挙げられ、カーボン含有フィラーが好ましい。なお、これらのフィラーは、単一の成分から構成されていてもよく、複数の成分から構成されていてもよい。例えば、金属酸化物フィラーは、1種の金属酸化物と、他のフィラー成分(窒化物等)とを含有していてもよい。
カーボン含有フィラーとしては、炭素繊維(カーボンファイバー)、カーボンブラック、グラフェン、グラフェンオキシド、フラーレン、グラファイト、グラファイトオキシドからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むガーボン含有フィラーが挙げられ、炭素繊維を含有するフィラーがより好ましい。炭素繊維としては、PAN系炭素繊維(ポリアクリロニトリル系炭素繊維)、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ(シングルウォール、ダブルウォール、マルチウォール、カップ積層型等)が挙げられる。
金属酸化物含有フィラーとしては、酸化アルミニウム含有フィラーが挙げられる。
窒化物含有フィラーとしては、窒化ホウ素含有フィラー、窒化アルミニウム含有フィラーが挙げられる。
【0023】
熱伝導性フィラーAとしては、表面を被覆する被覆剤を有さないか、又は表面に官能基を有さないフィラーが好ましい。この場合、熱伝導性フィラーA同士の接触、熱伝導性フィラーAと基材との接触、及び、露出面における熱伝導性フィラーAの露出によって、伝熱効率が向上し、熱伝導層の熱伝導性がより優れる。また、所定の溶融粘度を有し、熱伝導性フィラーAとの密着性が高いTFE系ポリマーを使用するため、本基材における熱伝導層の緻密性も損なわれずに、耐蝕性を具備しやすい。
なお、被覆剤は、熱伝導性フィラーAとポリマーとの親和性を向上させる成分であり、具体的にはサイジング剤(エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂等)が挙げられる。また、表面に導入された官能基としては、酸化エッチング又はシランカップリング剤により導入された官能基が挙げられる。
かかる熱伝導性フィラーAは、フィラーが表面に有する被覆剤及び官能基を除去して調製できる。除去方法としては、洗浄又は熱分解による方法が挙げられる。
【0024】
熱伝導性フィラーAのアスペクト比は、3以上が好ましく、5以上がより好ましい。アスペクト比の上限は、通常、100万である。
熱伝導性フィラーAの形状は、粒状、繊維状、板状が挙げられ、繊維状が好ましい。繊維状の具体的な形状としては、葉片状、柱状、葉状、糸状、毛細管状が挙げられる。熱伝導性フィラーAの形状が繊維状であれば、熱伝導層において、熱伝導性フィラーAが、対向面に対して垂直方向に、高い連続性で配向しやすい。また、熱伝導性フィラーAが対向面と接触している状態、及び、熱伝導層の露出面に露出している状態を形成しやすく、本基材の熱伝導性と耐蝕性とがより向上しやすい。
本基材における、熱伝導層の層厚に対する熱伝導性フィラーAの長軸長の比は、0.1以上であり、0.5以上であるのが好ましく、1超であるのがより好ましい。上記比は、2以下であるのが好ましい。これにより、熱伝導フィラーをより効率的に、熱伝導性フィラーが対向面と接触している状態、及び、熱伝導層の露出面に露出している状態を形成しやすく、熱伝導層における熱伝導性フィラーAの剥落も抑制しやすい。
【0025】
熱伝導性フィラーAの長軸長は、0.1μm超が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。熱伝導性フィラーAの長軸長は、500μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましく、200μm以下がさらに好ましい。
熱伝導性フィラーAの短軸長は、0.01μm以上が好ましく、0.05μm以上がより好ましい。熱伝導性フィラーAの短軸長は、1μm以下が好ましく、0.1μm以下がより好ましい。
なお、熱伝導性フィラーが繊維状である場合、熱伝導性フィラーの長軸長とは、その繊維長の累積分率が90%となる値であり、熱伝導性フィラーの短軸長とは、その繊維径の累積分率が90%となる値である。
熱伝導層の層厚は、0.1μm以上が好ましく、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。熱伝導層の層厚は、450μm以下が好ましく、250μm以下がより好ましく、150μm以下がさらに好ましい。
【0026】
熱伝導層におけるTFE系ポリマーの含有量は、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。TFE系ポリマーの含有量は、90質量%以下が好ましく、65質量%以下がより好ましい。
熱伝導層における熱伝導性フィラーAの含有量は、10質量%以上が好ましく、35質量%以上がより好ましい。熱伝導性フィラーAは70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。
TFE系ポリマー及び熱伝導フィラーの含有量が、それぞれ上記範囲にあれば、熱伝導層の耐蝕性及び熱伝導性に優れるだけでなく、熱伝導性フィラーAの剥落もより抑制されやすい。
熱伝導層におけるTFE系ポリマーの含有量と熱伝導性フィラーAの含有量との和は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。上記和は、100質量%以下が好ましい。
【0027】
また、熱伝導層における熱伝導性フィラーAの含有量に対するTFE系ポリマーの含有量の質量での比は、0.1~9が好ましく、0.25~4がより好ましい。この場合、熱伝導層おいて、TFE系ポリマーに由来する物性(耐蝕性に代表されるポリマーの物性)と熱伝導性フィラーAに由来する特性(熱伝導性に代表される熱伝導性フィラーAの物性)とがバランスよく発現するだけでなく、その線膨張係数を低下して熱伝導層が反りにくくなり、基材との密着強度が高い熱伝導層が形成されやすい。
熱伝導層は、TFE系ポリマー及び熱伝導性フィラーA以外の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、TFE系ポリマー以外のポリマー、チキソ性付与剤、消泡剤、熱伝導性フィラーA以外のフィラー、シランカップリング剤、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、伝導剤、離型剤、表面処理剤、粘度調節剤、難燃剤が挙げられる。
【0028】
熱伝導層の熱伝導率は、1.0W/m・K以上が好ましく、2.0W/m・K以上がより好ましく、3.0W/m・K以上がさらに好ましい。熱伝導層の熱伝導率の上限は、100W/m・Kである。本基材における熱伝導層は、上述した作用機構により、かかる熱伝導率を発揮する。
熱伝導層の線膨張係数は、100ppm/℃以下が好ましく、70ppm/℃以下がより好ましく、50ppm/℃以下がさらに好ましい。熱伝導層の線膨張係数の下限は、1ppm/℃である。この場合、高温環境下でも、熱伝導層の基材に対する接着強度を充分に高く維持できる。なお、熱伝導層の線膨張係数も、基材と同じ程度であるのが好ましい。
また、本基材から基材を除去して、単体の熱伝導層をフィルムとして得てもよい。基材の除去方法としては、本基材から基材を剥離させる方法、本基材の基材を溶解させる方法が挙げられる。例えば、本基材が銅箔である場合、基材面を塩酸等のエッチング液に接触させて基材を除去すれば、単体の熱伝導層がフィルムとして得られる。
【0029】
基材の材質としては、金属、ガラス及びセラミックスが好ましく、金属がより好ましい。
金属としては、銅、アルミニウム、鉄、亜鉛、ニッケル、これらの合金が挙げられる。
ガラスとしては、ソーダライムガラス、ソーダカリガラス、ソーダアルミケイ酸塩ガラス、アルミノボレートガラス、アルミノボロシリケートガラス、低膨張ガラス、石英ガラス、ポーラスガラスが挙げられる。
セラミックスとしては、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、窒化アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素等の焼結体(ムライト、コディライト、ステアタイト等)が挙げられる。
【0030】
基材の形状としては、平板状、管状、球状、曲面状、楔状、波状が挙げられる。
基材の好適な態様としては、後述する伝熱管の本体が挙げられる。管やフィン付管等の管状基材の外表面に熱伝導層を形成すれば、熱交換器等に使用可能な伝熱管が得られる。
本基材の製造方法としては、TFE系ポリマーのパウダー、熱伝導性フィラーA及び液状媒体を含む液状組成物を準備し、この液状組成物を基材の表面に付与して液状被膜を形成し、液状被膜を加熱して熱伝導層を形成する方法が挙げられる。かかる液状組成物としては、後述する本発明の液状組成物を使用できる。
【0031】
液状組成物の付与方法としては、塗布、噴霧(スプレー)が挙げられる。
噴霧にて付与する場合、液状組成物は、噴霧により液滴として吐出され、液滴が基材の表面に付着して液状被膜が形成される。この際、液状組成物は、ノズルの細径の流路を通過した後、先端開口から液滴として吐出される。このため、各液滴中において熱伝導性フィラーAがその長軸方向を液滴の吐出方向(すなわち、基材の厚さ方向)として配向しやすい。また、基材に付着する前に、各液滴からは液状媒体が飛散、揮発する。この状態で、液滴が基材の表面に付着するため、熱伝導性フィラーAが液状被膜の厚さ方向に配向しやすくなると考えられる。すなわち、より多くの熱伝導フィラーが、対向面と接触し、かつ、露出面に露出している状態がよりを形成されやすくなる。
【0032】
液状被膜の加熱温度は、TFE系ポリマーが溶融焼成する温度が好ましい。
加熱温度は、一定であってもよく、異っていてもよい。具体的には、まず液状被膜の液状媒体(液状成分)が揮発する温度(100~200℃)に加熱し、さらにTFE系ポリマーが溶融焼成する温度(340~400℃)に加熱するのが好ましい。
加熱手段としては、オーブン、通風乾燥炉、赤外線等の熱線照射が挙げられる
本基材の好適な態様としては、伝熱管、伝熱板が挙げられる。
伝熱管は、管状基材と、この管状基材の外表面に熱伝導層とを有する。
【0033】
図1は、伝熱管の一例を示す断面図である。なお、
図1における寸法比は、説明の便宜上、実際の寸法比とは異なる。
伝熱管10は、管12と管12の外周に設けられたフィン14とを備える管状基材と、管12の外表面及びフィン14の表面を覆う熱伝導層16とを有する。
管12の材質としては、上述した金属が挙げられ、熱伝導性を高める観点から、銅、銅合金、アルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。
管12の外径及び内径は、管の材質、伝熱管の用途等から適宜設定すればよい。
フィン14の材質としては、上述した金属が挙げられ、熱伝導性を高める観点から、銅、銅合金、アルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。フィンの材質は、通常、管の材質と同一とされる。
フィン14の数、形状、厚さ、面積及び配置ピッチは、フィン14の材質、伝熱管10の用途等から適宜設定すればよい。
【0034】
伝熱管10においては、熱伝導層16の厚さは、2~400μmが好ましく、10~200μmがより好ましい。この場合、熱伝導層16の熱伝導性に優れる。
伝熱管10の形状としては、プレートフィン型伝熱管、ブレージングプレート型伝熱管、プレートフィン型伝熱管、スパイラルフィン型伝熱管、二重管式伝熱管、クロスフィン型伝熱管、コルゲートフィン型伝熱管、スリットフィン型伝熱管、メッシュフィン型伝熱管、チューブフィン型伝熱管、エロフィン型伝熱管等の形状が挙げられ、具体例としては、特公昭59-38517号公報、特開昭60-141437号公報、実開昭63-54984等の図面に記載された形状が挙げられる。
【0035】
本発明の熱交換器は、本基材で構成された伝熱管10を備えるのが好ましい。
本発明の熱交換器において、伝熱管10は、水分及び硫黄化合物を含む燃焼ガスが冷却されて硫酸露点温度以下となり硫酸が発生する部位に設けるのが好ましい。
本発明の熱交換器は、例えば、ボイラにおける節炭器として用いられる。
【0036】
本発明の液状組成物(以下、「本組成物」とも記す。)は、380℃における溶融粘度が1×106Pa・s以下であるTFE系ポリマーのパウダー、アスペクト比が1超である熱伝導性フィラー、及び液状媒体を含む。
上記パウダーのD50は0.1~6μmであり、上記パウダーのD50に対する上記パウダーのD10の比は0.5以下である。
また、本組成物中の熱伝導性フィラーAの含有量は10質量%以上である。
本組成物を用いれば、熱伝導性フィラーAの含有量が高く、熱伝導性と耐蝕性とに優れた被覆層を、容易に基材の表面に形成できる。その理由は必ずしも明確ではないが、以下の様に考えられる。
【0037】
本組成物におけるパウダーは、D50に対するD10の比が所定の範囲にあり、換言すれば、微小粒子を一定の割合で含んでいる。微小粒子は比表面積が大きく、かかる微小粒子が液状組成物に含まれれば、パウダーと熱伝導性フィラーAとの親和性(濡れ)を全体として高め、その分散状態を向上させると考えられる。したがって、本組成物は、熱伝導性フィラーAの含有量が高くとも、分散性及びハンドリング性に優れている。
また、熱伝導層の形成に際して、微小粒子が、他の粒子の緻密なパッキングを促し、熱伝導性フィラーAの垂直配向性を高めていると考えられる。具体的には、微小粒子が、パッキング粒子間に緻密に充填され、垂直配向した熱伝導性フィラーAを支持していると考えられる。言わば、熱伝導性フィラーAは固定された状態で、熱伝導層の形成が進行するとも考えられる。その結果、本組成物を用いれば、熱伝導性フィラーAが対向面に対して高度に垂直配向した緻密な被覆層が形成されたと考えられる。
したがって、かかる分散性及びハンドリング性に優れた本組成物を用いれば、熱伝導性フィラーAの含有量が高くとも、熱伝導性と耐蝕性とに優れた熱伝導層を基材の表面に形成できると考えられる。
【0038】
本組成物におけるパウダー中のTFE系ポリマーの含有量は、80質量%以上が好ましく、100質量%がより好ましい。
本組成物におけるパウダーは、TFE系ポリマーとは異なるポリマー及び無機物の少なくともいずれかからなる成分を含んでもよい。
異なるポリマーとしては、芳香族ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシド、マレイミドが挙げられる。
無機物としては、酸化ケイ素(シリカ)、金属酸化物(酸化ベリリウム、酸化セリウム、アルミナ、ソーダアルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン等)、窒化ホウ素、メタ珪酸マグネシウム(ステアタイト)が挙げられる。
上記成分を含むパウダーは、TFE系ポリマーをコアとし、上記成分をシェルに有するコアシェル構造を有するか、TFE系ポリマーをシェルとし、上記成分をコアに有するコアシェル構造を有するのが好ましい。かかるパウダーは、例えば、TFE系ポリマーのパウダーと、上記成分のパウダーとを合着(衝突、凝集等)させて得られる。
【0039】
パウダーのD50は、0.01~6μmであり、0.1~4μmであるのが好ましく、0.5~3μmであるのがより好ましい。パウダーのD10は、0.001~1.8μmが好ましく、0.005~1.5μmがより好ましく、0.1~1μmがさらに好ましい。
パウダーのD50に対するパウダーのD10の比は、0.5以下であり、0.3以下であるのが好ましく、0.2以下であるのがより好ましい。これにより、パウダーの凝集を抑制しつつ、上記作用効果を発現させやすい。
上記比は、0.1以上であるのが好ましい。これにより、上記作用機構を発現させやすい。
【0040】
パウダーは、その100gを100gの水に分散させて分散液を調製したとき、その粘度が、50~400mPa・sになるのが好ましく、100~200mPa・sになるのがより好ましい。
また、上記分散液は、JIS Z 8801-1:2006の200メッシュ篩に通過させた際、篩上の残留物量が3g以下になるのが好ましく、1.5g以下になるのがより好ましい。
なお、分散液の調製に際して、パウダーの分散性が低い場合には、界面活性剤を使用して分散液を調製してもよい。界面活性剤としては、後述する本組成物に含まれてもよい界面活性剤と同様のものが挙げられる。
分散液の粘度及び残留物量が上記範囲内にあるパウダーは、円形度が充分に高いパウダーであるといえる。すなわち、パウダーの円形度が高くなれば、分散液中のパウダーの流動度は高くなるため、その粘度は低下しやすい。また、パウダー同士の凝集が抑制されるため、篩上の残留物量が少なくなりやすい。
かかる円形度の高いパウダーを使用すれば、本組成物の分散性が向上し、それから形成される層(熱伝導層)の物性がより向上しやすい。
【0041】
本組成物におけるTFE系ポリマーの範囲は、好適な範囲も含めて、本基材におけるそれと同様である。特に、TFE系ポリマーとしては、ポリマー(1)及びポリマー(2)が好ましい。かかるポリマーを用いれば、本組成物の分散性をより向上させやすい。
本組成物における熱伝導性フィラーAの範囲は、好適な範囲も含めて、本基材におけるそれと同様である。
本組成物中のパウダーの含有量は、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。本組成物中の熱伝導性フィラーAの含有量は、50%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。かかる場合、本組成物は分散安定性に優れやすい。
本組成物中の熱伝導性フィラーAの含有量は、10質量%以上であり、15質量%以上であるのが好ましく、20質量%以上であるのがより好ましい。本組成物中の熱伝導性フィラーAの含有量は、50%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。かかる場合、本分散液は分散安定性に優れやすい。上述した作用機構により、本組成物は熱伝導性フィラーAを多く含んでいても、分散性に優れる。
【0042】
本組成物における液状媒体は、パウダー及び熱伝導性フィラーAの分散媒として機能する、25℃で不活性な液体化合物である。液状媒体は、水であってもよく、非水系分散媒であってもよい。液状媒体は、2種以上であってもよい。この場合、異種の液状媒体は相溶するのが好ましい。
液状媒体の沸点は、125~250℃が好ましい。この場合、本組成物から形成される熱伝導層の物性が向上しやすい。
液状媒体としては、アミド、ケトン及びエステルからなる群から選ばれる液状化合物が特に好ましく、液状分散媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、シクロヘキサノン及びシクロペンタノンがより好ましい。
本組成物中の液状媒体の含有量は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましい。液状媒体の含有量は、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。
【0043】
本組成物は、さらに、TFE系ポリマーと異なる樹脂を含んでもよい。他の樹脂は、熱硬化性樹脂であってもよく、熱可塑性樹脂であってもよい。
他の樹脂としては、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、ウレタン樹脂、エラストマー、ポリイミド、ポリアミック酸、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシド、液晶ポリエステル、TFE系ポリマー以外のフルオロポリマーが挙げられる。
他の樹脂を含む場合の本組成物は、本組成物と他の樹脂のパウダーとを混合して製造してもよく、本組成物と、他の樹脂を含むワニスとを混合して製造してもよい。
本組成物は、上述した成分以外にも、チキソ性付与剤、消泡剤、シランカップリング剤、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、表面処理剤、粘度調節剤、難燃剤、熱伝導性フィラーA以外のフィラー等の添加剤を含んでいてもよい。
【0044】
本組成物における熱伝導層を形成する成分は、TFE系ポリマー及び熱伝導性フィラーAを主成分とするのが好ましい。本組成物における熱伝導層を形成する成分中のTFE系ポリマー及び熱伝導性フィラーAの総含有量は、80~100質量%であるのが好ましい。
本組成物の粘度は、50~10000mPa・sが好ましい。本組成物の粘度は、100mPa・s以上がより好ましい。本組成物の粘度は、1000mPa・s以下が好ましく、800mPa・s以下がより好ましい。
本組成物のチキソ比は、1.0以上が好ましい。本組成物のチキソ比は、3.0以下が好ましく、2.0以下がより好ましい。
本組成物は、上述した作用機構により、かかる範囲の、粘度及びチキソ性に調整しやすくハンドリング性に優れている。
【0045】
本組成物は、熱伝導性フィラーA及びパウダーの分散を促し、熱伝導層の物性を一層向上させる観点から、界面活性剤を含むことが好ましい。
界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤が好ましい。
本組成物が界面活性剤を含む場合、その割合は、1~20質量%が好ましい。
界面活性剤の親水部位としては、アルコール性水酸基及びポリオキシアルキレン基が好ましい。
ポリオキシアルキレン基は、2種以上のオキシアルキレン基から構成されていてもよい。後者の場合、種類の違うオキシアルキレン基は、ランダム状に配置されていてもよく、ブロック状に配置されていてもよい。
オキシアルキレン基としては、オキシエチレン基が好ましい。
【0046】
界面活性剤の疎水部位は、アセチレン基、ポリシロキサン基、ペルフルオロアルキル基又はペルフルオロアルケニル基を有するのが好ましく、ポリシロキサン基を有するのが好ましい。換言すれば、界面活性剤としては、アセチレン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤が好ましく、シリコーン系界面活性剤がより好ましい。
かかる界面活性剤を用いれば、液状媒体の表面張力を低下させ、パウダーの表面に対する濡れ性を高めて、パウダーの分散性を向上できる。また、界面活性剤の疎水部位がパウダーの表面に吸着し、親水性基が液状媒体中に伸長し、親水性基の立体障害によってパウダーの凝集を防止して分散安定性をさらに向上できる。また、熱伝導性フィラーAの分散安定性を高められる。
界面活性剤の具体例としては、「フタージェント」シリーズ(ネオス社製)、「サーフロン」シリーズ(AGCセイミケミカル社製)、「メガファック」シリーズ(DIC社製)、「ユニダイン」シリーズ(ダイキン工業社製)、「BYK-347」、「BYK-349」、「BYK-378」、「BYK-3450」、「BYK-3451」、「BYK-3455」、「BYK-3456」(ビックケミー・ジャパン株式会社社製)、「KF-6011」、「KF-6043」(信越化学工業株式会社製)が挙げられる。
【0047】
本組成物は、電気・電子工業分野、自動車分野等の種々の分野で、放熱・伝熱用樹脂材料および熱伝導膜形成材料として、特に後者の材料として有用である。
本発明の被覆基材で構成された伝熱管10は、上記熱交換器又はそれを構成するフィン又は管が耐腐蝕性を必要とする用途に使用できる。
かかる用途としては、硫酸に暴露する可能性のある硫黄分含有燃料を燃焼させ、排気ガスが発生する設備(例:石炭や重油等の硫黄分含有燃料の燃焼設備として、火力発電設備)、燃焼時に発生する排気ガスを放出するための煙突、排出管が挙げられる。
【0048】
本組成物は、各種発熱部品からの熱を放熱する際の放熱部品等に熱伝導膜を形成するための材料としても使用できる。
発熱部品としては、パワーデバイス、トランジスタ、サイリスタ、整流器、トランス、パワーMOS FET、CPUが挙げられる。
放熱部品としては、放熱フィンや金属放熱板が挙げられ、より具体的には、パソコンやディスプレーの筐体、電子デバイス材料、自動車の内外装、低酸素下で加熱処理する加工機又は真空オーブン、プラズマ処理装置等のシール材、スパッタ又は各種ドライエッチング装置等の処理ユニット内の放熱部品が挙げられる。
また、本組成物は、プリント配線板の絶縁層、熱インターフェース材、パワーモジュール用基板、モータ等の動力装置で使用されるコイルに含浸し、乾燥して、熱伝導性耐熱被覆層を形成する材料としても使用できる。
【0049】
さらに、本組成物は、軸受、ピストン、ベアリング、スライドスイッチ、歯車、ブッシュ、シール、スラストワッシャ、ウェアリング、カム、ベルトコンベア、食品搬送用ベルト等)等の摺動部品、ウェアパッド、ウェアストリップ、チューブランプ、試験ソケット、ウェハーガイド、遠心ポンプの摩耗部品、炭化水素・薬品および水供給ポンプ、燃料電池のセパレータに塗布して樹脂層を形成する用途や、ガラス基材、金属器具へのコーティング層を形成する用途にも使用できる。ガラス容器内外へのコーティング材として有用である。ガラス容器としては、バイアル瓶、注射筒(シリンジ)、針付シリンジおよびカートリッジタイプシリンジ、アンプルが挙げられる。
【0050】
本組成物は、導電性が要求される用途にも適用できる。本組成物から得られる成形物は、熱伝導性に優れるとともに導電性にも優れやすい。特に、本組成物は、適切な粘度に調整しやすく硬化に高温を必要としないため、プリンテッド・エレクトロニクスの分野においても好適に使用できる。具体的には、プリント回路板、センサー電極、ディスプレイ、バックプレーン、RFID(無線周波数識別)、太陽光発電、照明、使い捨て電子機器、自動車ヒータ、電磁波(EMI)シールド、メンブレンスイッチ等における通電素子の製造において使用できる。
【0051】
本組成物は、接着剤としても使用できる。接着剤は、半導体素子、高密度基板やモジュール部品等において、基板上に実装されるICチップや抵抗、コンデンサ等の電子部品の接着や、回路基板と放熱板の接着、LEDチップの基板への接着等に使用できる。
本組成物は、電子部品の実装工程における回路配線と電子部品との間における伝導性接合材用途(ハンダ接合の代替としての用途)としても使用できるため好ましい。
また、本組成物は、車載エンジンにおける、セラミックス部品や金属部品同士の接着にも使用できる。
さらに、本組成物は、プリント配線板においては、電子部品が高密度に実装されたプリント基板の温度上昇を防ぐため、従来のガラスエポキシ板に替わる新たなプリント配線板材料としても使用できる。
本組成物は、国際公開2016/017801号の段落番号[0149]に記載される用途にも使用できる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、例2は比較例である。
実施例、比較例には以下の材料を使用した。
<TFE系ポリマーのパウダー>
パウダー1:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に97.9モル%、0.1モル%、2.0モル%で含有する、カルボニル基を主鎖炭素数1×106個あたり1000個有するポリマー1(溶融温度:300℃、380℃における溶融粘度が1×106Pa・s以下)からなるパウダー(D10:1.0μm、D50:2.1μm、D10/D50≒0.48)
パウダー2:TFE単位を99.5モル%以上で含有するPTFE(非熱溶融性、380℃における溶融粘度が1×106Pa・s超)からなるパウダー(D50:7μm、AGC製の「L173J」)
パウダー3:TFE単位及びPPVE単位を、この順に98.7モル%、1.3モル%含み、カルボニル基を主鎖炭素数1×106個あたり40個有するポリマー2(溶融温度:305℃、380℃における溶融粘度が1×106Pa・s以下)からなるパウダー(D10:0.8μm、D50:1.8μm、D1/D50≒0.44)
パウダー4:ポリマー2からなるパウダー(D10:1.1μm、D50:2.0μm、D1/D50=0.55)
なお、100gのパウダー1~4のそれぞれを、100gの水に分散させた分散液の粘度は、パウダー1~4の順に、100mPa・s、300mPa・s、200mPa・s、250mPa・sであった。
【0053】
<液状媒体>
NMP:N-メチル-2-ピロリドン。
<界面活性剤>
界面活性剤1:ペルフルオロアルケニル基と水酸基及びポリオキシエチレン基とをそれぞれ側鎖に有する(メタ)アクリレート系ポリマー(ネオス社製、「フタージェント710FL」)
<炭素繊維>
炭素繊維1:表面に被覆剤を有さない、かつ表面に官能基を有さない、繊維径6μm、繊維長80μmの炭素繊維(エアテクス社製、「ATU-75」)
【0054】
得られた被覆基材の線膨張係数及び熱伝導率は、以下の方法にて測定した。
<線膨張係数>
被覆基材から短冊状(横4mm、縦55mm)のサンプルを切り出した。次に、このサンプルをオーブンにて250℃で1時間乾燥させた。その後、このサンプルの線膨張係数(CTE)を、熱機械分析装置(SII社製、「TMA/SS6100」)を使用して測定した。具体的には、空気雰囲気下、チャック間距離20mm、20mNの荷重を負荷しながら、25℃から260℃まで2℃/分の速度でサンプルを昇温した。この際、サンプルの線膨張に伴う変位量を測定した。そして、この変位量を25~260℃での熱伝導層の線膨張係数(ppm/℃)とした。
<熱伝導率>
被覆基材から基材を剥がして、熱伝導層を単独のフィルムとして得た。このフィルムの中心部から10mm×10mm角の試験片を切り出し、その面内方向における熱伝導率(W/m・K)を測定した。
【0055】
1.液状組成物の調製例
(液状組成物1)
100部のパウダー1、10部の分散剤1、40部の炭素繊維1及び90部のNMPを、横型のボールミル容器に充填し、15mm径のジルコニアボールを用いて、500rpmで30分間撹拌し、液状組成物1(粘度:100mPa・s)を得た。
(液状組成物2)
パウダー1に代えてパウダー2を使用した以外は、液状組成物1と同様にして、液状組成物2(粘度:150mPa・s)を得た。
(液状組成物3)
パウダー1に代えてパウダー3を使用した以外は、液状組成物1と同様にして、液状組成物3(粘度:200mPa・s)を得た。
(液状組成物4)
パウダー1に代えてパウダー4を使用した以外は、液状組成物1と同様にして、液状組成物4(粘度:300mPa・s)を得た。
【0056】
液状組成物1~4のそれぞれを容器中に25℃にて保管保存後、その分散性を目視にて確認し、下記の基準に従って分散安定性を評価した。その結果、液状組成物1~4の順に、「〇」、「×」、「△」、「×」であった。
〇:凝集物が視認されない。
△:容器側壁に細かな凝集物の付着が視認される。
×:容器底部にも凝集物が沈殿しているのが視認される。
【0057】
2.被覆基材の製造例
(例1)
液状組成物1をスプレー法によりステンレス鋼製の基材の表面に噴霧して、基材の表面に液状被膜を形成した。次に、液状被膜を100℃で10分間加熱して、厚さ90μmの乾燥被膜を得た。次に、乾燥被膜が形成された基材を、窒素雰囲気下、340℃で15分間加熱した。これにより、パウダーを溶融して、厚さ78μmの熱伝導層を形成し、被覆基材を得た。この被覆基材は、基材と熱伝導層が強固に接着しており、熱伝導層の表面からは炭素繊維が露出していた。熱伝導層の線膨張係数は20ppm/℃以下であり、熱伝導層の熱伝導率は1.5W/m・K以上であった。
(例2)
液状組成物1に代えて液状組成物2を使用した以外は、例1と同様にして厚さ78μmの熱伝導層を形成し、被覆基材を得たが、基材と熱伝導層が容易に剥離してしまった。
(例3)
液状組成物1に代えて液状組成物3を使用した以外は、例1と同様にして厚さ78μmの熱伝導層を形成し、被覆基材を得た。この被覆基材は、基材と熱伝導層が強固に接着しており、熱伝導層の表面からは炭素繊維が露出していた。熱伝導層の線膨張係数は20~30ppm/℃であり、熱伝導層の熱伝導率は1.2~1.5W/m・Kであった。
(例4)
液状組成物1に代えて液状組成物4を使用した以外は、例1と同様にして厚さ78μmの熱伝導層を形成し、被覆基材を得た。この被覆基材は、基材と熱伝導層が強固に接着しており、熱伝導層の表面からは炭素繊維が露出していた。熱伝導層の線膨張係数は30~50ppm/℃であり、熱伝導層の熱伝導率は1.0~1.2W/m・Kであった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の被覆基材は、熱交換器の伝熱管における熱伝導層等として有用である。本発明の液状組成物は、熱交換器の伝熱管における熱伝導層等を形成するための塗料として有用である。
なお、2019年12月18日に出願された日本特許出願2019-228258号の明細書、特許請求の範囲、要約書および図面の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0059】
10…伝熱管、12…管、14…フィン、16…熱伝導層