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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】自己組織化ペプチドを含む組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/64 20170101AFI20240814BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20240814BHJP
   A61K 38/27 20060101ALI20240814BHJP
   A61K 38/39 20060101ALI20240814BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240814BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240814BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240814BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20240814BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240814BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20240814BHJP
   C07K 14/50 20060101ALI20240814BHJP
   C07K 14/515 20060101ALI20240814BHJP
   C07K 14/78 20060101ALI20240814BHJP
   C07K 14/435 20060101ALI20240814BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20240814BHJP
   C07K 5/11 20060101ALI20240814BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20240814BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20240814BHJP
【FI】
A61K47/64 ZNA
A61K38/00
A61K38/27
A61K38/39
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P25/28
A61P9/00
A61P17/02
C07K19/00
C07K16/00
C07K14/50
C07K14/515
C07K14/78
C07K14/435
C07K14/705
C07K5/11
C07K7/08
C12N15/11 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020045109
(22)【出願日】2020-03-16
(65)【公開番号】P2021147319
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(73)【特許権者】
【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100130845
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 伸一
(72)【発明者】
【氏名】味岡 逸樹
(72)【発明者】
【氏名】押川 未央
(72)【発明者】
【氏名】村岡 貴博
(72)【発明者】
【氏名】澤本 和延
(72)【発明者】
【氏名】金子 奈穂子
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-504972(JP,A)
【文献】国際公開第2018/213934(WO,A1)
【文献】Atsuya Ishida et al.,"Glycine Substitution Effects on the Supramolecular Morphology and Rigidity of Cell-Adhesive Amphiphilic Peptides",Chemistry A European Journal,2019年,Vol.25,p.13523-13530,DOI: 10.1002/chem.201902083
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00-47/69
38/00-39/44
A61P 1/00-43/00
C07K 1/00-19/00
C12N 15/11
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
A16Gペプチド(配列番号1)と、A16Gペプチド(配列番号1)に融合された活性タンパク質とを含む、活性タンパク質を徐放させるための医薬組成物。
【請求項2】
活性タンパク質が、抗体、GFP、FGF、ラミニン、VEGF、およびN-カドヘリンから成る群より選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
A16Gペプチド(配列番号1)と、A16Gペプチド(配列番号1)に融合されたVEGFタンパク質とを含む、脳梗塞の治療に用いるための医薬組成物。
【請求項4】
脳梗塞の発症から168時間経過後以降に投与するためのものである、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
A16Gペプチド(配列番号1)と、A16Gペプチド(配列番号1)に融合されたVEGFタンパク質とを含む、血管生成の誘導に用いるための医薬組成物。
【請求項6】
A16Gペプチド(配列番号1)と、A16Gペプチド(配列番号1)に融合されたFGF2タンパク質とを含む、創傷治癒の促進に用いるための医薬組成物。
【請求項7】
徐放性の組成物である、請求項3~6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己組織化ペプチドを含む組成物に関する。より詳細には、活性物質を徐放させるための自己組織化ペプチドを含む組成物、ならびに、疾患および状態を治療するための自己組織化ペプチドを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
脳梗塞は、血液と酸素を脳に供給する動脈の閉塞または狭窄に起因して生じる障害であり、発症例の約3分の1が致死的となりうる。損傷した組織を再生する脳の能力は限られているため、脳梗塞は障害が残る主な原因となっている。脳梗塞の治療薬としてほぼ唯一の選択肢であるt-PA(血栓溶解剤)は、発症後4.5時間以内の投与が必要不可欠であるため、先進国においても脳梗塞患者の5~10%にしか投与されていない。脳梗塞が発生した後の長期的な回復を促進する効果的な医学療法は存在しておらず、従来的な療法の範囲を超えた医学的治療が必要とされている(非特許文献1)。
【0003】
最近、マウス脳梗塞モデル作製5日後にVEGFの徐放剤を脳内単回投与すると運動機能回復が起こることが報告された(非特許文献2)。しかし、この徐放材料は、化学架橋されているため、臨床応用が困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Go AS, Mozaffarian D, Roger VL, Benjamin EJ, Berry JD, Blaha MJ, et al. Heart disease and stroke statistics--2014 update: a report from the American Heart Association. Circulation. 2014;129(3):e28-e292.
【文献】Nih et al., Nature Materials 2018 Jul;17(7):642-651.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、活性物質を徐放させるための組成物を提供することを目的の一つとする。また、本開示の目的には、脳梗塞の治療に用いるための組成物、血管生成(血管新生)の誘導に用いるための組成物、および創傷治癒の促進に用いるための組成物を提供することも含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、以下に詳しく述べるA16Gペプチドなどの自己組織化ペプチドと、自己組織化ペプチドに連結された活性物質とを含む組成物が、活性物質を徐放させる性質を有することを見出した。また、本発明者らは、自己組織化ペプチドとVEGFとの融合タンパク質が、血管生成(血管新生)の誘導と脳梗塞の治療に有効となりうることを見出した。さらに、自己組織化ペプチドとFGFとの融合タンパク質が創傷治癒の促進に有効となりうることも見出された。本発明は、これらの知見に基づくものであり、以下の態様を包含する。
【0007】
[態様1]A16Gペプチドと、A16Gペプチドに融合された活性タンパク質とを含む、活性タンパク質を徐放させるための医薬組成物。
[態様2]活性タンパク質が、抗体、GFP、FGF、ラミニン、VEGF、およびN-カドヘリンから成る群より選択される、態様1に記載の医薬組成物。
[態様3]A16Gペプチドと、A16Gペプチドに融合されたVEGFタンパク質とを含む、脳梗塞の治療に用いるための、医薬組成物。
[態様4]脳梗塞の発症から168時間経過後以降に投与するためのものである、態様3に記載の医薬組成物。
[態様5]A16Gペプチドと、A16Gペプチドに融合されたVEGFタンパク質とを含む、血管生成の誘導に用いるための医薬組成物。
[態様6]A16Gペプチドと、A16Gペプチドに融合されたFGF2タンパク質とを含む、創傷治癒の促進に用いるための医薬組成物。
[態様7]徐放性の組成物である、態様3~6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[態様8]自己組織化ペプチドと、 自己組織化ペプチドに連結された活性物質とを含む、活性物質を徐放させるための組成物であって、
i) 自己組織化ペプチドが、
m個の(Arg-Ala-Asp-Ala)、および
n個の(Arg-X-Asp-Ala)または(Arg-Ala-Asp-X)
を任意の順序で並べてなるいずれか1の自己組織化ペプチドであって、
XがGlyまたはProであり、
3≦m≦6であり、
1≦n≦2かつ2n<mであり、
該自己組織化ペプチドのC末端が(Arg-X-Asp-Ala)もしくは(Arg-Ala-Asp-X)、またはN末端が(Arg-X-Asp-Ala)である、自己組織化ペプチドであるか、または、
ii) 自己組織化ペプチドが、
p個の(Arg-Ala-Asp-Ala)
を並べてなるいずれか1の自己組織化ペプチドであって、
3≦p≦8である、自己組織化ペプチドである、
組成物。
[態様9]XがGlyである、態様8に記載の組成物。
[態様10]活性物質がタンパク質またはペプチドである、態様8または9に記載の組成物。
[態様11]タンパク質またはペプチドが、抗体、GFP、FGF、ラミニン、VEGF、およびN-カドヘリンから成る群より選択される、態様8~10のいずれか1項に記載の組成物。
[態様12]2種以上の異なる自己組織化ペプチドを含む、態様8~11のいずれか1項に記載の組成物。
[態様13](Arg-Ala-Asp-Ala)q(qは3~8の整数)から成る自己組織化ペプチドをさらに含む、態様8~12のいずれか1項に記載の組成物。
[態様14]自己組織化ペプチドが、RXDA-(RADA)3(配列番号5)、(RADA)3-RXDA(配列番号6)、(RADA)3-RADX(配列番号7)、RXDA-(RADA)4(配列番号8)、(RADA)4-RXDA(配列番号9)、(RADA)4-RADX(配列番号10)、RXDA-(RADA)5(配列番号11)、(RADA)5-RXDA(配列番号12)、(RADA)5-RADX(配列番号13)、RXDA-(RADA)6(配列番号14)、(RADA)6-RXDA(配列番号15)、(RADA)6-RADX(配列番号16)、(RXDA)2-(RADA)5(配列番号17)、RXDA-RADA-RXDA-(RADA)4(配列番号18)、RXDA-(RADA)2-RXDA-(RADA)3(配列番号19)、RXDA-(RADA)3-RXDA-(RADA)2(配列番号20)、RXDA-(RADA)4-RXDA-RADA(配列番号21)、RXDA-(RADA)5-RXDA(配列番号22)、RXDA-RADX-(RADA)5(配列番号23)、RXDA-RADA-RADX-(RADA)4(配列番号24)、RXDA-(RADA)2-RADX-(RADA)3(配列番号25)、RXDA-(RADA)3-RADX-(RADA)2(配列番号26)、RXDA-(RADA)4-RADX-RADA(配列番号27)、RXDA-(RADA)5-RADX(配列番号28)、RADA-RXDA-(RADA)4-RXDA(配列番号29)、(RADA)2-RXDA-(RADA)3-RXDA(配列番号30)、(RADA)3-RXDA-(RADA)2-RXDA(配列番号31)、(RADA)4-RXDA-RADA-RXDA(配列番号32)、(RADA)5-(RXDA)2(配列番号33)、RADX-(RADA)5-RXDA(配列番号34)、RADA-RADX-(RADA)4-RXDA(配列番号35)、(RADA)2-RADX-(RADA)3-RXDA(配列番号36)、(RADA)3-RADX-(RADA)2-RXDA(配列番号37)、(RADA)4-RADX-RADA-RXDA(配列番号38)、(RADA)5-RADX-RXDA(配列番号39)、RADA-RXDA-(RADA)4-RADX(配列番号40)、(RADA)2-RXDA-(RADA)3-RADX(配列番号41)、(RADA)3-RXDA-(RADA)2-RADX(配列番号42)、(RADA)4-RXDA-RADA-RADX(配列番号43)、(RADA)5-RXDA-RADX(配列番号44)、RADX-(RADA)5-RADX(配列番号45)、RADA-RADX-(RADA)4-RADX(配列番号46)、(RADA)2-RADX-(RADA)3-RADX(配列番号47)、(RADA)3-RADX-(RADA)2-RADX(配列番号48)、(RADA)4-RADX-RADA-RADX(配列番号49)、(RADA)5-(RADX)2(配列番号50)、(RXDA)2-(RADA)6(配列番号51)、RXDA-RADA-RXDA-(RADA)5(配列番号52)、RXDA-(RADA)2-RXDA-(RADA)4(配列番号53)、RXDA-(RADA)3-RXDA-(RADA)3(配列番号54)、RXDA-(RADA)4-RXDA-(RADA)2(配列番号55)、RXDA-(RADA)5-RXDA-RADA(配列番号56)、RXDA-(RADA)6-RXDA(配列番号57)、RXDA-RADX-(RADA)6(配列番号58)、RXDA-RADA-RADX-(RADA)5(配列番号59)、RXDA-(RADA)2-RADX-(RADA)4(配列番号60)、RXDA-(RADA)3-RADX-(RADA)3(配列番号61)、RXDA-(RADA)4-RADX-(RADA)2(配列番号62)、RXDA-(RADA)5-RADX-RADA(配列番号63)、RXDA-(RADA)6-RADX(配列番号64)、RADA-RXDA-(RADA)5-RXDA(配列番号65)、(RADA)2-RXDA-(RADA)4-RXDA(配列番号66)、(RADA)3-RXDA-(RADA)3-RXDA(配列番号67)、(RADA)4-RXDA-(RADA)2-RXDA(配列番号68)、(RADA)5-RXDA-RADA-RXDA(配列番号69)、(RADA)6-(RXDA)2(配列番号70)、RADX-(RADA)6-RXDA(配列番号71)、RADA-RADX-(RADA)5-RXDA(配列番号72)、(RADA)2-RADX-(RADA)4-RXDA(配列番号73)、(RADA)3-RADX-(RADA)3-RXDA(配列番号74)、(RADA)4-RADX-(RADA)2-RXDA(配列番号75)、(RADA)5-RADX-RADA-RXDA(配列番号76)、(RADA)6-RADX-RXDA(配列番号77)、RADA-RXDA-(RADA)5-RADX(配列番号78)、(RADA)2-RXDA-(RADA)4-RADX(配列番号79)、(RADA)3-RXDA-(RADA)3-RADX(配列番号80)、(RADA)4-RXDA-(RADA)2-RADX(配列番号81)、(RADA)5-RXDA-RADA-RADX(配列番号82)、(RADA)6-RXDA-RADX(配列番号83)、RADX-(RADA)6-RADX(配列番号84)、RADA-RADX-(RADA)5-RADX(配列番号85)、(RADA)2-RADX-(RADA)4-RADX(配列番号86)、(RADA)3-RADX-(RADA)3-RADX(配列番号87)、(RADA)4-RADX-(RADA)2-RADX(配列番号88)、(RADA)5-RADX-RADA-RADX(配列番号89)、(RADA)6-(RADX)2(配列番号90)、(RADA)4(配列番号2)、(RADA)5(配列番号3)、(RADA)6(配列番号4)、(RADA)7(配列番号91)、(RADA)8(配列番号92)からなる群から選択され、ここでXはGlyまたはProを表す、態様8~13のいずれか1項に記載の組成物。
[態様15]自己組織化ペプチドがA16G(配列番号1)である、態様8~14のいずれか1項に記載の組成物。
[態様16]脳梗塞の治療、血管生成の誘導、または創傷治癒の促進に用いるための医薬組成物である、態様8~15のいずれか1項に記載の組成物。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】GFP-A16GおよびA16G配列を付加していないGFP(GFP w/o A16G)のA16Gペプチドゲルへの取り込みを示すグラフである。縦軸(GFP incorporation (%))は取り込み率。
図2】GFP-A16GおよびA16G配列を付加していないGFP(GFP w/o A16G)の徐放性を示すグラフである。縦軸(GFP release/GFP incorporation(%))は放出率、横軸(incubation time(h))はインキュベーション時間。
図3】GFP-RADA16(配列番号2を付加したGFP)およびRADA16配列を付加していないGFP(GFP w/o RADA16)のRADA16ペプチドゲルへの取り込みを示すグラフである。縦軸(GFP incorporation (%))は取り込み率。
図4】GFP-RADA16およびRADA16配列を付加していないGFP(GFP w/o RADA16)の徐放性を示すグラフである。縦軸(GFP release/GFP incorporation(%))は放出率、横軸(incubation time(h))はインキュベーション時間。
図5】VEGF-A16GおよびA16G配列を付加していないVEGF(VEGF w/o A16G)のA16Gペプチドゲルへの取り込みを示すグラフである。縦軸(VEGF incorporation (%))は取り込み率。
図6】VEGF-A16GおよびA16G配列を付加していないVEGF(VEGF w/o A16G)の徐放性を示すグラフである。縦軸(VEGF release/VEGF incorporation(%))は放出率、横軸(incubation time(h))はインキュベーション時間(左がVEGF-A16G、右がVEGF w/o A16G;それぞれ6時間および96時間)。
図7】FGF2-A16GおよびA16G配列を付加していないFGF2(FGF2 w/o A16G)のA16Gペプチドゲルへの取り込みを示すグラフである。縦軸(FGF2 incorporation (%))は取り込み率。
図8】FGF2-A16GおよびA16G配列を付加していないFGF2(FGF2 w/o A16G)の徐放性を示すグラフである。縦軸(FGF2 release/FGF2 incorporation(%))は放出率、横軸(incubation time(h))はインキュベーション時間(左がFGF2-A16G、右がFGF2 w/o A16G;それぞれ6時間および96時間)。
図9】Ncad-Fc-A16GがA16Gペプチドゲルに取り込まれることを示すウェスタンブロットの結果を示す写真である。バンドはゲルに取り込まれなかったN-cad-Fc-A16Gタンパク質を示している。
図10】マウス脳梗塞モデルにおける歩行機能解析の結果を示すグラフである。縦軸(fault steps/total steps(%))は、総歩数のうち足を滑らせた歩数の割合。横軸は対照(control)、A16G、VEGF、VEGF+A16G、VEGF-A16G+A16Gの各群についての注入前(before injection)と注入7日後(7d after injection)の結果に対応している。
図11】VEGF-A16GとA16Gの混合溶液の投与による血管新生促進能を示すグラフである。縦軸((EDU+, Laminin+)/(Laminin+)(%))は、EdUとラミニンの共陽性細胞の割合。横軸は対照(control)とVEGF-A16Gの結果に対応している。
図12a】マウス創傷モデルの結果を示す写真である。左側は対照(control)、右側はFGF2-A16Gを塗布した部位。
図12b】マウス創傷モデルの結果を示すグラフである。縦軸(wound area(mm2))は、塗布7日目における創傷部位の面積、横軸は、対照(control)およびFGF2-A16Gを塗布した部位の結果にそれぞれ対応している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[徐放性組成物]
上述のように、本発明者らは、A16Gペプチドなどの自己組織化ペプチドと、自己組織化ペプチドに融合された活性物質とを含む組成物が、活性物質を徐放させる性質を有することを見出した。よって、本開示のいくつかの実施形態は、自己組織化ペプチドと、 自己組織化ペプチドに連結された活性物質とを含む、活性物質を徐放させるための組成物に関する。ここで、自己組織化ペプチドは、m個の(Arg-Ala-Asp-Ala)、およびn個の(Arg-X-Asp-Ala)または(Arg-Ala-Asp-X)を任意の順序で並べてなるいずれか1の自己組織化ペプチドでありうるが、ここで、mは3≦m≦6、nは1≦n≦2かつ2n<mでありうる。XはGlyまたはProでありうる。そして、自己組織化ペプチドのC末端は(Arg-X-Asp-Ala)もしくは(Arg-Ala-Asp-X)、またはN末端が(Arg-X-Asp-Ala)でありうる。あるいは、自己組織化ペプチドは、p個の(Arg-Ala-Asp-Ala)を並べてなるいずれか1の自己組織化ペプチドであって、3≦p≦8である、自己組織化ペプチドでありうる。なお、本明細書では、しばしばアミノ酸残基を一文字で表記する。例えば、Arg(アルギニン)残基であればRで、Ala(アラニン)残基であればAで、Asp(アスパラギン酸)残基であればDで、Gly(グリシン)残基であればGで、そしてPro(プロリン)残基であればPで、それぞれ表す。したがって、「Arg-Ala-Asp-Ala」は、しばしば「RADA」と表記する。
【0010】
本明細書において「自己組織化ペプチド」とは、水または水溶液に溶解したゾル状態から、固有の温度および圧力、pH、イオン濃度条件下で固化し、ゲル状態になりうる(つまり、ゾルゲル転移しうる)ペプチドをいう。例えば、コラーゲン(膠、ゼラチン、ゼリーを含む)等が該当する。いくつかの実施形態において、好ましくは、自己組織化ペプチドは、生体への投与前にはゾル化した状態であるが、生体に投与されるとゲル化するように構成されうる。本開示に係る組成物において、ゾルゲル転移が生じるpHは、pH 1~pH 11、pH 1~pH 9、pH 3~pH 9、pH 4~pH 8、pH 6.5~pH 8、pH 7~pH 8、pH 7~7.5、pH 5~pH 7、及びpH 6~pH 7の範囲であり、好ましくは、pH 8.0以下、pH 7.5以下、pH 7以下、pH 6.5以下であり、例えば、pH 6.5、pH 6.6、pH 6.7、pH 6.8、pH 6.9、pH 7.0、pH 7.1、pH 7.2、pH 7.3、pH 7.4、pH 7.5、pH 7.6、pH 7.7、pH 7.8、pH 7.9、またはpH 8.0である。いくつかの実施形態において、自己組織化ペプチドは、生体適合性を有し、生体への導入が可能である。本開示に係る組成物のゲル化温度は特に限定されないが、いくつかの実施形態において、自己組織化ペプチドは、例えば、20~60℃の範囲内、30~50℃の範囲内、または30~40℃の範囲内、例えば、哺乳動物の体温付近においてゲル化しうる。
【0011】
「自己組織化」とは、小分子が分散媒中で分子間相互作用等により自発的に集合し、3次元立体構造を形成することをいう。例えば、糖(デンプン、グルコマンナン等の多糖類)、コラーゲン、高吸収性高分子(ポリアクリル酸ナトリウム)等は、固有の条件下で水または水溶液中において、自己組織化によってファイバー状の1次元構造を形成し、さらにそれらが絡み合うことで3次元立体構造を有したゲル状態になる。自己組織化によりゲル化する物質を、本明細書では、しばしば「ゲル化剤」と表記する。本開示に係る自己組織化ペプチドは、ゲル化剤の一種である。
【0012】
「ゾル」とは、コロイド粒子が分散媒中に分散して、流動性を有する液体状態となったものをいう。例えば、ゲルを昇温することによってゲル化剤からなるコロイドが分散媒中で流動化したものが該当する。「コロイド」とは、分子やイオンが凝集して微粒子となり、媒質中に分散している状態をいう。コロイドを形成する微粒子を「コロイド粒子」と呼ぶ。「ゾル状態」とは、コロイド粒子が分散媒中に分散し、流動性を有した液体状態をいう。一般的には、ゲルを昇温させることによって流動化した状態が該当する。「ゾル化」とは、ゲル状態からゾル状態への変化をいう。
【0013】
「ゲル」とは、コロイド粒子が分散媒中で自己組織化し、流動性を失って固化し、固体状となったものをいう。「ゲル状態」とは、コロイド粒子が分散媒中で自己組織化し、流動性を失って固化した状態をいう。一般的には、ゾルを降温させることによって固化した状態が該当する。「ゲル化」とは、ゾル状態からゲル状態への変化をいう。本開示のいくつかの実施形態において、自己組織化ペプチドを含む組成物は、生体内でゲル化し、投与された部位に長時間滞留するように構成されうる。
【0014】
「ゾルゲル転移」とは、ゾル及びゲルの間の可逆的な相転移現象をいう。一般的にゾルゲル転移は、等圧条件下で温度に依存する。本明細書におけるゾルゲル転移は、特に断りのない限り、ゾルからゲルへの転移(ゲル化)、及びゲルからゾルへの転移(ゾル化)のいずれか一方、又は両方を意味するものとする。
【0015】
本開示のいくつかの実施形態において、自己組織化ペプチドは、複数のペプチドユニットが互いにペプチド結合で連結したポリペプチドによって構成されうる。本明細書で「ペプチドユニット」とは、本発明における自己組織化ペプチドの構成単位である。一つのペプチドユニットは、少なくとも3種類のアミノ酸が4個ペプチド結合したオリゴペプチドからなる。
【0016】
自己組織化ペプチドを構成するペプチドユニットは、アルギニン(Arg/R)、アラニン(Ala/A)、およびアスパラギン酸(Asp/D)からなる3種類のアミノ酸を必須構成アミノ酸として含み、他にもAla以外の疎水性アミノ酸を含みうる。Ala以外の疎水性アミノ酸には、グリシン(Gly/G)、プロリン(Pro/P)、バリン(Val/V)、ロイシン(Leu/L)、イソロイシン(Ile/I)、メチオニン(Met/M)、システイン(Cis/C)、フェニルアラニン(Phe/F)、チロシン(Tyr/Y)およびトリプトファン(Trp/W)が挙げられるが、いずれの疎水性アミノ酸であってもよい。好ましくはグリシンまたはプロリンである。上記のグリシン以外のアミノ酸は、光学異性体を問わず使用することができる。すなわち、D体またはL体のいずれを使用してもよい。
【0017】
いくつかの実施形態において、自己組織化ペプチドを構成するペプチドユニットは、具体的にはRADA、RXDA、またはRADXのいずれかであり、ここで、XはGlyまたはProを表す。
【0018】
いくつかの実施形態において、自己組織化ペプチドは、具体的には、m個のRADA、およびn個のRXDAまたはRADXがペプチド結合によって連結し、構成されている。ここで、mは3以上6以下の整数であり、またnは1または2である。また、mとnとの間には2n<mの関係を有する。したがって、本開示に係る自己組織化ペプチドにおいて、(m, n)の組み合わせは、実質的に(3, 1)、(4, 1)、(5, 1)、(6, 1)、(5, 2)、または(6, 2)のいずれかから選択される。
【0019】
自己組織化ペプチドにおいて、各ペプチドユニットは任意の順序で連結されうる。ただし、いくつかの実施形態において、自己組織化ペプチドは、C末端のペプチドユニットがRXDAもしくはRADXのいずれかであるか、またはN末端のペプチドユニットがRXDAである(ここでXはGlyまたはProを表す)。
【0020】
あるいは、いくつかの実施形態において、自己組織化ペプチドは、p個の(Arg-Ala-Asp-Ala)を並べてなるいずれか1の自己組織化ペプチドであって、3≦p≦8である、自己組織化ペプチドであってもよい。
【0021】
したがって、いくつかの実施形態において、本開示に係る自己組織化ペプチドは、具体的には、RXDA-(RADA)3(配列番号5)、(RADA)3-RXDA(配列番号6)、(RADA)3-RADX(配列番号7)、RXDA-(RADA)4(配列番号8)、(RADA)4-RXDA(配列番号9)、(RADA)4-RADX(配列番号10)、RXDA-(RADA)5(配列番号11)、(RADA)5-RXDA(配列番号12)、(RADA)5-RADX(配列番号13)、RXDA-(RADA)6(配列番号14)、(RADA)6-RXDA(配列番号15)、(RADA)6-RADX(配列番号16)、(RXDA)2-(RADA)5(配列番号17)、RXDA-RADA-RXDA-(RADA)4(配列番号18)、RXDA-(RADA)2-RXDA-(RADA)3(配列番号19)、RXDA-(RADA)3-RXDA-(RADA)2(配列番号20)、RXDA-(RADA)4-RXDA-RADA(配列番号21)、RXDA-(RADA)5-RXDA(配列番号22)、RXDA-RADX-(RADA)5(配列番号23)、RXDA-RADA-RADX-(RADA)4(配列番号24)、RXDA-(RADA)2-RADX-(RADA)3(配列番号25)、RXDA-(RADA)3-RADX-(RADA)2(配列番号26)、RXDA-(RADA)4-RADX-RADA(配列番号27)、RXDA-(RADA)5-RADX(配列番号28)、RADA-RXDA-(RADA)4-RXDA(配列番号29)、(RADA)2-RXDA-(RADA)3-RXDA(配列番号30)、(RADA)3-RXDA-(RADA)2-RXDA(配列番号31)、(RADA)4-RXDA-RADA-RXDA(配列番号32)、(RADA)5-(RXDA)2(配列番号33)、RADX-(RADA)5-RXDA(配列番号34)、RADA-RADX-(RADA)4-RXDA(配列番号35)、(RADA)2-RADX-(RADA)3-RXDA(配列番号36)、(RADA)3-RADX-(RADA)2-RXDA(配列番号37)、(RADA)4-RADX-RADA-RXDA(配列番号38)、(RADA)5-RADX-RXDA(配列番号39)、RADA-RXDA-(RADA)4-RADX(配列番号40)、(RADA)2-RXDA-(RADA)3-RADX(配列番号41)、(RADA)3-RXDA-(RADA)2-RADX(配列番号42)、(RADA)4-RXDA-RADA-RADX(配列番号43)、(RADA)5-RXDA-RADX(配列番号44)、RADX-(RADA)5-RADX(配列番号45)、RADA-RADX-(RADA)4-RADX(配列番号46)、(RADA)2-RADX-(RADA)3-RADX(配列番号47)、(RADA)3-RADX-(RADA)2-RADX(配列番号48)、(RADA)4-RADX-RADA-RADX(配列番号49)、(RADA)5-(RADX)2(配列番号50)、(RXDA)2-(RADA)6(配列番号51)、RXDA-RADA-RXDA-(RADA)5(配列番号52)、RXDA-(RADA)2-RXDA-(RADA)4(配列番号53)、RXDA-(RADA)3-RXDA-(RADA)3(配列番号54)、RXDA-(RADA)4-RXDA-(RADA)2(配列番号55)、RXDA-(RADA)5-RXDA-RADA(配列番号56)、RXDA-(RADA)6-RXDA(配列番号57)、RXDA-RADX-(RADA)6(配列番号58)、RXDA-RADA-RADX-(RADA)5(配列番号59)、RXDA-(RADA)2-RADX-(RADA)4(配列番号60)、RXDA-(RADA)3-RADX-(RADA)3(配列番号61)、RXDA-(RADA)4-RADX-(RADA)2(配列番号62)、RXDA-(RADA)5-RADX-RADA(配列番号63)、RXDA-(RADA)6-RADX(配列番号64)、RADA-RXDA-(RADA)5-RXDA(配列番号65)、(RADA)2-RXDA-(RADA)4-RXDA(配列番号66)、(RADA)3-RXDA-(RADA)3-RXDA(配列番号67)、(RADA)4-RXDA-(RADA)2-RXDA(配列番号68)、(RADA)5-RXDA-RADA-RXDA(配列番号69)、(RADA)6-(RXDA)2(配列番号70)、RADX-(RADA)6-RXDA(配列番号71)、RADA-RADX-(RADA)5-RXDA(配列番号72)、(RADA)2-RADX-(RADA)4-RXDA(配列番号73)、(RADA)3-RADX-(RADA)3-RXDA(配列番号74)、(RADA)4-RADX-(RADA)2-RXDA(配列番号75)、(RADA)5-RADX-RADA-RXDA(配列番号76)、(RADA)6-RADX-RXDA(配列番号77)、RADA-RXDA-(RADA)5-RADX(配列番号78)、(RADA)2-RXDA-(RADA)4-RADX(配列番号79)、(RADA)3-RXDA-(RADA)3-RADX(配列番号80)、(RADA)4-RXDA-(RADA)2-RADX(配列番号81)、(RADA)5-RXDA-RADA-RADX(配列番号82)、(RADA)6-RXDA-RADX(配列番号83)、RADX-(RADA)6-RADX(配列番号84)、RADA-RADX-(RADA)5-RADX(配列番号85)、(RADA)2-RADX-(RADA)4-RADX(配列番号86)、(RADA)3-RADX-(RADA)3-RADX(配列番号87)、(RADA)4-RADX-(RADA)2-RADX(配列番号88)、(RADA)5-RADX-RADA-RADX(配列番号89)、(RADA)6-(RADX)2(配列番号90)、(RADA)4(配列番号2)、(RADA)5(配列番号3)、(RADA)6(配列番号4)、(RADA)7(配列番号91)、(RADA)8(配列番号92)からなる群から選択されるいずれかのペプチドでありうる(ここでXはGlyまたはProを表す)。
【0022】
自己組織化ペプチドが2以上のXを含む場合(ここでXはGlyまたはProを表す)、2以上のXは同一のアミノ酸であってもよく、または異なるアミノ酸であってもよい。
【0023】
自己組織化ペプチドは、化学的または遺伝子工学的に合成可能である。自己組織化ペプチドの合成については、Ishida et al., Chem. Eur. J. 2019, 25, 13523-13530にも記載されている。
【0024】
いくつかの実施形態において、好ましくは、自己組織化ペプチドとして、(RADA)3-RADGペプチド(配列番号1)が使用されうる。なお、本明細書において、(RADA)3-RADGは、A16Gペプチド、RADA16(A16G)ペプチド、RADA-RADA-RADA-RADGペプチドとも表記される。よって、いくつかの実施形態において、本開示に係る組成物は、A16Gペプチドと、A16Gペプチドに連結された活性物質、例えば、A16Gペプチドに融合された活性タンパク質とを含む組成物でありうる。A16Gペプチドの構造を以下に示す。
【0025】
【化1】
【0026】
いくつかの実施形態において、組成物は、1種類、又は2種類以上の自己組織化ペプチドを含んでいてもよく、活性物質と連結されている自己組織化ペプチドも複数の種類が1つの組成物中で用いられていてもよい。よって、本開示に係る組成物は、2種以上の異なる自己組織化ペプチドを含む組成物でありうる。
【0027】
いくつかの実施形態において、組成物は、(RADA)p(pは3~8の整数)からなる自己組織化ペプチド、及び/又は当該自己組織化ペプチドに活性物質を共有結合又は超分子相互作用で連結してなる融合型ペプチドをさらに含んでいてもよい。いくつかの実施形態においては、生体にゾル状態で投与し、生体内でゲル化させることや、逆に生体内にゲル状態で投与した後、所望の時期にゾル化させることができる。
【0028】
本明細書において「活性物質」とは、例えば、生体内、組織または細胞内において、特定の生物学的機能または薬学的機能を有する物質をいう。活性物質は、例えば、タンパク質、ペプチド、核酸、糖鎖、低分子化合物、または高分子ポリマーでありうるが、これらに限定はされない。活性物質の機能は、限定はしないが、例えば、細胞接着機能、シグナル伝達機能、結合機能、標識機能、または代謝機能が挙げられる。また、活性物質は、使用目的、細胞培養、細胞の接着、増殖、分化等の制御、組織または器官の培養、形成、再生、または血管誘導等の目的に応じて選択することができる。
【0029】
本明細書において「生体」とは、細胞(培養細胞を含む)、組織、器官、または個体をいう。限定はしないが、好ましくは、ヒト由来の細胞、ヒト由来の細胞からなる組織もしくは器官、またはヒト個体である。
【0030】
本明細書において「特定の生物学的機能」とは、細胞、組織または個体に影響を与え得る機能、タンパク質、細胞、組織および個体を標識する機能、または特定の生物学的機能を有する他のペプチド、核酸、低分子化合物、または金属イオンを連結させる連結機能をいう。「細胞、組織または個体に影響を与え得る機能」には、例えば、細胞接着機能、シグナル伝達機能、結合機能、および代謝機能が含まれる。「タンパク質、細胞、組織および個体を標識する特定の機能」には、例えば、蛍光標識やエピトープ標識等が含まれる。特定の生物学的機能は、天然の機能、および非天然の機能のいずれであってもよい。「特定の生物学的機能を有する他のペプチド、核酸、低分子化合物、または金属イオンを連結させる連結機能」には、例えば、抗原抗体結合または受容体リガンド相互作用を媒介する機能、RNAおよび/またはDNAを結合する機能、ニッケルイオン、銅イオン等を結合する機能等が含まれる。
【0031】
いくつかの実施形態において、活性物質は、限定しないが、例えば、細胞接着分子、細胞外マトリックス分子、分泌タンパク質、結合タンパク質、酵素、マーカータンパク質、および人工ペプチド、並びにそれらのペプチド断片でありうる。ここでいう「細胞接着分子」とは、細胞の表面で細胞間、または細胞と細胞外マトリックス間の接着に関わる分子である。限定はしないが、例えば、N-カドヘリン等のカドヘリン、インテグリン、セレクチン等が挙げられる。「細胞外マトリックス分子」とは、細胞外マトリックスを構成する分子である。限定はしないが、例えば、ラミニン、コラーゲン、フィブロネクチン等が挙げられる。「分泌タンパク質」とは、細胞内で作られ、細胞外に分泌されるタンパク質である。限定はしないが、例えば、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、サイトカイン等が挙げられる。「結合タンパク質」とは、特定の分子と特異的に結合するタンパク質である。限定はしないが、例えば、抗原抗体結合を媒介する抗体または抗原、(ストレプト)アビジン、マルトース結合タンパク質(MBP)、受容体リガンド相互作用を媒介する受容体またはリガンド、DNA結合タンパク質、RNA結合タンパク質等が挙げられる。特に、機能性ペプチドがDNA結合タンパク質またはRNA結合タンパク質である場合、機能性ペプチドが結合する核酸分子は他の1つまたは複数の核酸分子と多重らせん構造の形成等によって結合することができる。「マーカータンパク質」とは、細胞やタンパク質等を検出する際に標識となりうるタンパク質である。通常は、その活性に基づいて目的とするタンパク質の発現や存在の有無を判別できるポリペプチドが該当する。限定はしないが、例えば、GFP等の蛍光タンパク質、ルシフェリン、またはイクオリン等の発光タンパク質、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、またはアルカリホスファターゼ(AP)等の酵素が挙げられる。「人工ペプチド」とは、タグペプチドとも呼ばれ、人工的に合成された数~十数アミノ酸からなるオリゴペプチドである。例えば、FLAGタグ、ヒスチジンタグ、HAタグ、DAPタグ等のエピトープタグ、およびHisタグ等が挙げられる。
【0032】
本開示に係るいくつかの実施形態において、自己組織化ペプチドは、生体適合性を有し、生体への導入が可能である。いくつかの実施形態において、自己組織化ペプチドは分子量が小さいが故、比較的大きな機能性タンパク質とペプチド結合によって連結させ、単一の融合ポリペプチド鎖として合成することが可能である。一般に遺伝子発現系を用いて細胞内でポリペプチド合成を行う場合、タンパク質の分子量が大きくなるほど収率が低くなる。本開示に係るいくつかの実施形態において、融合ポリペプチドは、遺伝子発現系を用いて発現させた場合の収率が高いという利点を有する。なお、本明細書において「遺伝子発現系」とは、宿主細胞内で外来の遺伝子を発現できる発現系、または無細胞遺伝子発現系をいう。具体的には、例えば、プラスミドもしくはバクミド(Bacmid)のような自律複製可能な発現ベクターが挙げられる。発現ベクターは、複数種の宿主細胞内で複製可能なシャトルベクターとすることもできる。宿主は、特に限定されないが、例えば、大腸菌、昆虫細胞、培養細胞が挙げられる。
【0033】
本明細書において「生体適合性」とは、生体への導入が可能である性質をいう。特に、ある材料が生体に対する毒性や副作用を有しないか、有していても極めて軽微である性質、および/または生体内において異物認識されず、排除されることがない性質をいう。本明細書において、「ペプチドが生体適合性を有する」とは、例えば、限定はしないが、生物由来のコンタミネーションがないため人体に対してアレルギーや未知の感染症を生じるリスクがないか、非常に少ないペプチドをいう。具体的には、化学的に合成されたペプチド等が挙げられる。
【0034】
本明細書において「自己組織化ペプチドに連結された活性物質」と言った場合、「連結」は、例えば、共有結合または超分子相互作用による連結をいう。共有結合には、ペプチド結合、ジスルフィド結合等が含まれる。また超分子相互作用には、水素結合、疎水性相互作用、静電相互作用、配位結合等が含まれる。限定はしないが、活性物質は、自己組織化ペプチドのN末端および/またはC末端に連結されることが好ましく、さらに結合は、共有結合であることが好ましい。より好ましい共有結合は、ペプチド結合である。なお、自己組織化ペプチドが、タンパク質またはペプチドとペプチド結合により連結されている場合に特に「融合」という用語が使われる場合がある。いくつかの実施形態において、本開示に係る組成物中における自己組織化ペプチド(A)と自己組織化ペプチドに連結された活性物質(B)のモル比(A:B)は、特に限定されないが、例えば、1:1、10:1、102:1、103:1、104:1、105:1、106:1でありうる。よって、いくつかの実施形態において、本開示に係る組成物は、例えば、自己組織化ペプチドの104分の1、105分の1、または106分の1のモル比の自己組織化ペプチドに連結された活性物質を含み得る。
【0035】
本明細書において「徐放」とは、活性物質の放出特性が数時間、数日、数週間または数ヶ月の期間にわたって局物的治療有効濃度をもたらすことを意味する。いくつかの実施形態においては、組成物の投与部位における局部的放出濃度よりも全身濃度が有意に低くなり、それにより、毒性の軽減ならびに治療有効性の延長が達成されうる。
【0036】
いくつかの実施形態において、活性物質の徐放の期間は、6時間以上、12時間以上、24時間以上、48時間以上、72時間以上、96時間以上、120時間以上、144時間以上、168時間以上、192時間以上、216時間以上、240時間以上、264時間以上、288時間以上、312時間以上、336時間以上、または360時間以上でありうる。本開示のいくつかの実施形態において、自己組織化ペプチドを含む組成物は、生体内でゲル化して投与された部位に滞留し、長時間、例えば、6時間以上、12時間以上、24時間以上、48時間以上、72時間以上、96時間以上、120時間以上、144時間以上、168時間以上、192時間以上、216時間以上、240時間以上、264時間以上、288時間以上、312時間以上、336時間以上、または360時間以上にわたって活性物質を徐放するように構成されうる。
【0037】
いくつかの実施形態において、自己組織化ペプチドと、 自己組織化ペプチドに連結された活性物質とを含む、活性物質を徐放させるための組成物は、疾患または状態の治療または予防のために用いられうる。疾患または状態の例は、脳梗塞、脳出血、脳血管障害、中枢神経疾患、アルツハイマー病、認知障害、循環器疾患、泌尿器系疾患、炎症性疾患、免疫系疾患、消化器疾患、がん、高血糖症、1型糖尿病、2型糖尿病、耐糖能異常、肥満症、脂質異常症、冠動脈心疾患、心筋梗塞、循環器疾患、高血圧、シンドロームX、アテローム性動脈硬化症、炎症性腸疾患、胃腸障害、胃潰瘍、骨折、および創傷を含むが、これらに限定はされない。
【0038】
いくつかの実施形態において、例えば、活性物質としてVEGFを用いる場合、生体内でゲル化した組成物は、当該ゲルにおける血管形成を誘導することができる。
【0039】
[脳梗塞治療剤]
いくつかの実施形態において、自己組織化ペプチドと、 自己組織化ペプチドに連結された活性物質とを含む、活性物質を徐放させるための組成物は、脳梗塞の治療のために用いられうる。よって、いくつかの実施形態は、A16Gペプチドと、A16Gペプチドに融合されたVEGFタンパク質を含む、脳梗塞の治療に用いるための医薬組成物に関する。
【0040】
血管内皮細胞増殖因子(VEGF)は、脈管形成および血管新生に関与する一群の糖タンパクである。脈管形成や血管新生、リンパ管新生に関与する増殖因子にはVEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、VEGF-E、PlG-1、PlGF-2の7つがあり、これらはまとめて「VEGFファミリー」と呼ばれる。いくつかのVEGFファミリーメンバーには、選択的スプライシングによりいくつかのサブタイプが存在する。例えばVEGF-Aは、ヒトでは通常アミノ酸数が121個(VEGF-A121)、165個(VEGF-A165)、189個(VEGF-A189)、206個(VEGF-A206)の4種類が存在する他、VEGF-A145、VEGF-A183といった稀な亜型も報告されている。VEGF-BにはVEGF-B167、VEGF-B186が知られている。本開示に係る脳梗塞治療剤においては、任意のVEGFファミリーメンバータンパク質を適宜選択して使用することができる。よって、本開示に係る脳梗塞治療剤においては、A16Gペプチドに融合されたVEGFタンパク質が有効成分として機能する。よって、いくつかの実施形態は、A16Gペプチドと、A16Gペプチドに融合されたVEGFタンパク質を含む、脳梗塞の治療に用いるための医薬組成物であって、VEGFがVEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、VEGF-E、PlG-1、およびPlGF-2から成る群より選択されることを特徴とする医薬組成物に関する。一実施形態では、VEGFとして、例えば、VEGF-A、より詳細には例えば、VEGF-A(165)が選択される。
【0041】
いくつかの実施形態において、本開示に係る脳梗塞の治療に用いるための医薬組成物は、脳梗塞の発症後4.5時間以降においても有効に投与されうる。例えば、下記の実施例11においては、脳梗塞モデル作製7日目(168時間経過後)にマウスに本開示に係る脳梗塞の治療に用いるための医薬組成物を投与した例が示されている。よって、いくつかの実施形態は、脳梗塞の発症から、1時間経過後、2時間経過後、3時間経過後、4時間経過後、4.5時間経過後、5時間経過後、6時間経過後、12時間経過後、24時間経過後、36時間経過後、48時間経過後、60時間経過後、72時間経過後、96時間経過後、120時間経過後、144時間経過後、168時間経過後、192時間経過後、216時間経過後、240時間経過後、264時間経過後、288時間経過後、312時間経過後、336時間経過後、または360時間経過後以降に投与するための医薬組成物に関する。一実施形態においては、脳梗塞の発症から、例えば、168時間経過後以降に医薬組成物が投与される。
【0042】
[血管生成誘導材]
いくつかの実施形態において、自己組織化ペプチドと、 自己組織化ペプチドに連結された活性物質とを含む、活性物質を徐放させるための組成物は、血管生成(血管新生)を誘導するために用いられうる。よって、いくつかの実施形態は、A16Gペプチドと、A16Gペプチドに融合されたVEGFタンパク質を含む、血管生成の誘導に用いるための医薬組成物に関する。上記のように、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)は、脈管形成および血管新生に関与する一群の糖タンパクである。本開示に係る血管生成誘導剤においては、任意のVEGFファミリーメンバータンパク質を適宜選択して使用することができる。よって、本開示に係る血管生成誘導剤においては、A16Gペプチドに融合されたVEGFタンパク質が有効成分として機能する。
【0043】
[創傷治癒剤]
いくつかの実施形態において、自己組織化ペプチドと、 自己組織化ペプチドに連結された活性物質とを含む、活性物質を徐放させるための組成物は、創傷治癒の促進のために用いられうる。よって、いくつかの実施形態は、A16Gペプチドと、A16Gペプチドに融合されたFGF2タンパク質とを含む、創傷治癒の促進に用いるための医薬組成物に関する。
【0044】
線維芽細胞増殖因子(FGF)は、血管新生、創傷治癒、胚発生に関係する成長因子の一種である。ヒトでは22種類のFGFが同定されており、FGF1から10は、全て線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)と結合する。FGF1は酸性FGF(またはaFGF)、FGF2はFGF塩基性(またはbFGF)として知られている。FGF2は、皮膚、血管、骨、軟骨といった様々な組織の形成に強く関与している細胞成長因子の一つである。よって、本開示に係る総省治癒促進剤においては、A16Gペプチドに融合されたFGF2タンパク質が有効成分として機能する。
【0045】
[医薬組成物]
本開示に係る医薬組成物は、必要に応じて薬学的に許容可能な担体を含むことができる。本明細書において「薬学的に許容可能な担体」とは、製剤技術分野において通常使用する添加剤をいう。例えば、溶媒、賦形剤、充填剤、乳化剤、流動添加調節剤、滑沢剤、ヒト血清アルブミン等が挙げられる。溶媒には、例えば、水若しくはそれ以外の薬学的に許容し得る水溶液、又は薬学的に許容される有機溶剤のいずれであってもよい。水溶液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助剤を含む等張液、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液が挙げられる。補助剤としては、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム、その他にも低濃度の非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。
【0046】
賦形剤には、例えば、単糖、二糖類、シクロデキストリン及び多糖類のような糖、金属塩、クエン酸、酒石酸、グリシン、ポリエチレングリコール、プルロニック、カオリン、ケイ酸、又はそれらの組み合わせが挙げられる。充填剤としては、ワセリン、前記糖及び/又はリン酸カルシウムが例として挙げられる。乳化剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが例として挙げられる。流動添加調節剤及び滑沢剤としては、ケイ酸塩、タルク、ステアリン酸塩又はポリエチレングリコールが例として挙げられる。上記の他にも、必要であれば医薬において通常用いられる可溶化剤、懸濁剤、希釈剤、分散剤、界面活性剤、無痛化剤、安定剤、吸収促進剤、増量剤、付湿剤、保湿剤、湿潤剤、吸着剤、矯味矯臭剤、崩壊抑制剤、コーティング剤、着色剤、保存剤、防腐剤、抗酸化剤、香料、風味剤、甘味剤、緩衝剤、等張化剤等を適宜含むこともできる。
【0047】
このような担体は、主として剤形形成を容易にし、また剤形及び薬剤効果を維持する他、有効成分である自己組織化ペプチドに連結された活性物質が生体内の酵素等によって分解を受け難くするために用いられるものであって、必要に応じて適宜使用すればよい。
【0048】
本開示に係る組成物の剤形は、特に限定されず、対象の体内で有効成分の性質を失活させることなく目的の部位にまで送達できる形態であればよい。例えば、対象への直接投与が可能な液剤が挙げられる。液剤の例としては、注射剤が挙げられる。注射剤は、前記賦形剤、安定剤、pH調節剤等と適宜組み合わせて製剤化することができる。注射剤は、一般に液体であることから、注射剤としての本開示に係る組成物はゾル状態である。一方、本開示に係る組成物の剤形は、対象への導入が可能な固形剤であってもよい。いくつかの実施形態において、組成物は、ゲル状態の固形剤または半固形剤である。
【0049】
本開示に係る組成物の適用方法は、特に限定しないが、好ましくは非経口投与であり、さらに好ましくは局所投与である。局所投与には、例えば、筋肉内投与、皮下投与、組織投与、及び器官投与が該当する。いくつかの実施形態において、組成物を局所投与する場合には、ゾル状態の組成物は注射等で対象に直接投与され、投与された部位でゲル化することができる。あるいは、本開示に係る組成物をゲル状態のまま投与対象部位に導入してもよい。例えば、対象部位を外科手術により切開して、ゲル状態のまま移植することができる。投与量は、有効成分が奏効する上で有効な量であればよい。有効量は当業者により適宜選択されうる。
【0050】
本開示に係る組成物は、投与部位においてゲル化した後、必要に応じて、温度処理によって再度ゾル化し、投与部位から除去することができる。あるいは、組成物をゲル状態のまま投与部位から除去してもよい。例えば、外科手術により投与部位を切開して、ゲル状態のまま外科的に除去することができる。本開示に係る組成物をゾル化して投与部位から除去する時期は、必要に応じて適宜決定することができる。
【0051】
温度処理に用いる加熱方法または冷却方法は特に限定されず、いずれも公知の方法を用いればよい。例えば、加熱方法であれば、ゲル化した組成物を熱源に直接的に又は間接的に接触させる方法(直火、湯煎、ヒーター照射等)、マイクロ波や超音波を照射する方法が挙げられる。また、冷却方法であれば、ゾル状の組成物をフリーザーや冷蔵庫内に配置する方法等が挙げられる。
【0052】
さらに、本開示に係る組成物は、他の有効成分として、薬剤等を包含することもできる。本明細書において「薬剤」とは、低分子化合物、ペプチド(酵素及び抗体を含む)、又は核酸(miRNA、siRNA、shRNA等のRNAi分子、アンチセンス核酸、アプタマー等を含む)を含む概念である。薬剤は、限定はしないが、疾患等の治療や症状軽減を目的とする治療医薬、疾患等を検出、診断するための検査医薬、害虫、害獣の忌避や駆除を目的とする農薬、殺ウイルス又は殺菌を目的とする消毒薬等、様々な種類の薬剤を包含する。本開示に係る組成物に包含される薬剤は、1種だけでなく、2種以上であってもよい。
【0053】
本開示に係る組成物が薬剤を含む場合、その効果は、ゲル状態では発揮されず、ゾル化後に発揮されるように制御してもよい。例えば、組成物を、薬剤の作用部位とは異なる体内部位にゾル状態で投与して当該投与部位においてゲル化させた後、必要な時期までゲル状態で維持する。その後、必要な時期に投与部位に温度処理を行ってゾル化させ、包含する薬剤を放出させて、その作用部位へ、薬剤を送達させることができる。
【0054】
[治療方法および使用]
本開示の実施形態の一つは、自己組織化ペプチドと、 自己組織化ペプチドに連結された活性物質とを含む組成物を対象に投与することを含む、疾患または状態の治療または予防方法に関する。疾患または状態は、上記のとおり、例えば、脳梗塞または創傷でありうるが、これらに限定はされない。疾患または状態は、特に、治療のために薬剤の徐放が要求されるものが選択されうる。対象には、処置を必要とするヒトを含む哺乳動物、ならびにサル、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ウシ、およびブタなどの非ヒト哺乳動物が含まれる。投与量および投与頻度は、使用する薬剤の種類、投与する対象に応じて、適宜決定することができる。投与経路についても、疾患または状態に応じて適宜決定することができるが、好ましい投与経路としては、例えば、患部への注入、埋め込み、または塗布が挙げられる。いくつかの実施形態において、自己組織化ペプチドと、 自己組織化ペプチドに連結された活性物質とを含む組成物は、生体に投与される前にはゾル化しており、シリンジを用いた注入が可能であるが、生体に投与された後にはゲル化して、投与部位に滞留するように構成されうる。いくつかの実施形態においては、自己組織化ペプチドと、 自己組織化ペプチドに連結された活性物質とを含む組成物は、生体に投与される前に既にゲル化しており、生体内に埋め込まれて用いられうる。
【0055】
本開示に係る実施形態の一つは、自己組織化ペプチドに連結された活性物質を含む、活性物質を徐放させるための医薬組成物に関する。よって、別の言い方をすれば、本開示に係る実施形態の一つは、活性物質の徐放に用いるための医薬の製造における、自己組織化ペプチドに連結された活性物質の使用に関する。また、本開示に係る実施形態の一つは、自己組織化ペプチドに連結された活性物質を含む、脳梗塞の治療、血管生成の誘導、または創傷治癒の促進に用いるための医薬組成物に関する。よって、別の言い方をすれば、本開示に係る実施形態の一つは、脳梗塞の治療、血管生成の誘導、または創傷治癒の促進に用いるための医薬の製造における、自己組織化ペプチドに連結された活性物質の使用に関する。
【実施例
【0056】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0057】
<実施例1:ペプチドおよびゲルの作製>
(1)ペプチドの合成
計8種類のペプチド:(RADA)4ペプチド、RGDA-(RADA)3ペプチド、RADG-(RADA)3ペプチド、(RADA)2-RGDA-RADAペプチド、(RADA)2-RADG-RADAペプチド、(RADA)3-RGDAペプチド、(RADA)3-RADGペプチド、および(RADA)4-Gペプチドを、ポリスチレンレジンを用いるFmocペプチド固相合成法によって、以下の方法によりそれぞれ0.10mmolスケールで合成した。
【0058】
固相合成用チューブ(株式会社ハイペップ研究所、固相合成用チューブポリプロピレン製LibraTube本体チューブ5 mL、固相合成用キャップポリプロピレン製LibraTube上部キャップ)中で、Fmoc-NH-SAレジン(渡辺化学株式会社)(250 mg, 0.10 mmol)をN,N’-ジメチルホルムアミド(DMF)(キシダ化学株式会社)中で1晩浸漬し、膨張させた。ピぺリジン(キシダ化学株式会社)(20% in DMF, 2 mL)を加え、1分間ボルテックスで攪拌し、その後反応溶液を除去した。ピペリジン(20% in DMF, 2 mL)を加え、室温で10分間振盪し、その後反応溶液を除去した。DMF (2 mL)で5回洗浄し、溶媒を除去した。レジンを少量取り出し、TNBS Test Kit(東京化成工業株式会社)を用いてレジンが呈色することを確認した。塩化メチレン(株式会社ゴードー)(2 mL)、DMF (2 mL)でそれぞれ3回ずつ洗浄し、溶媒を除去した。N末端のアミノ酸(0.30 mmol)に縮合剤カクテル(700μL)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)(ナカライテスク株式会社)とN-メチル-2-ピロリドン(NMP)(キシダ化学株式会社)の混合液(DIEA/NMP = 2.75/14.25 (v/v), 700μL)を加えて溶解させ、レジンに添加した。縮合剤カクテルは、HBTU(渡辺化学株式会社)3.05 g、HOBt・H2O(渡辺化学株式会社)1.25 g、DMF 16mLを予め混合し調製したものを使用した。室温で15分間振盪し、その後反応溶液を除去した。DMF (2 mL)で5回洗浄し、溶媒を除去した。レジンを少量取り出し、TNBS Test Kit(東京化成工業株式会社)を用いてレジンが呈色しないことを確認した。塩化メチレン(2 mL)、DMF (2 mL)でそれぞれ3回ずつ洗浄し、溶媒を除去した。以降、アミノ酸配列に従って上記の操作を繰り返し、ペプチド鎖を伸長した。ペプチド鎖の伸長には、Fmoc-Ala-OH・H2O、Fmoc-Asp(OtBu)-OH、Fmoc-Arg(Pbf)-OHおよびFmoc-Gly-OH(渡辺化学株式会社)を使用した。
【0059】
ペプチドを伸長後、溶媒を除去し、無水酢酸(関東化学株式会社)(25%塩化メチレン溶液, 2 mL)を加え、室温で5分間振盪し、その後反応溶液を除去した。DMF (2 mL)で5回洗浄し、溶媒を除去した。レジンを少量取り出し、TNBS Test Kitを用いてレジンが呈色しないことを確認した。塩化メチレン(2 mL)、DMF (2 mL)でそれぞれ3回ずつ洗浄し、溶媒を除去した。
【0060】
次に以下の手順でペプチドをレジンから切り出し、凍結乾燥した。デシケーター内で乾燥させたレジンに脱保護カクテルを加え、室温で30分ごとに軽く振盪し、90分間静置させた。脱保護カクテルは、トリフルオロ酢酸(TFA)(キシダ化学株式会社)2375μL、トリイソプロピルシラン(TIS)(東京化成工業株式会社)62.5μL、水62.5μLを予め混合し調製したものを使用した。濾液を15 mL遠沈管に回収した。合成チューブにTFA (500μL)を加え、濾液を先ほどの遠沈管に回収した。この操作を3回繰り返した。濾液を回収した遠沈管にジエチルエーテル(キシダ化学株式会社)(40 mL)を加え、十分に攪拌した。遠心分離 (4℃, 3500×g, 5分)し、上澄みを除去した。この操作を3回繰り返した。10分間ドラフト内で静置し、乾燥させた後、デシケーターで2時間以上乾燥させた。乾燥後のサンプルをイオン交換水に分散させ、凍結乾燥した。
【0061】
(2)ペプチドを含むゲルの作製
2 mLのガラススクリューバイアル(AS ONE、ラボランスクリュー管瓶)において、(1)で凍結乾燥した各ペプチド粉末(1.0 mg)に2.2%トリフルオロ酢酸水溶液(200μL)を加え、水浴型超音波装置(AS12GTU、35 kHz、60 W)を用いて、25℃にて5分間超音波を照射してサンプルをゾル化した。ペプチド濃度は0.50重量%であった。その後、バイアルを垂直に立て、20℃の恒温槽(三菱電機エンジニアリング、クールインキュベーターCN-40A)内で一晩静置して自己組織化ペプチドをゲル化した。バイアルは、各ペプチドについて2本以上作製した。このときの、容器底面からゲル状サンプルの上端までの距離を基準距離h0として計測した結果、いずれのペプチドサンプルもh0=6mmであった。
【0062】
<実施例2:A16GペプチドゲルへのGFP-A16Gタンパク質の取り込み>
1% A16G(RADA-RADA-RADA-RADG)溶液を上記の方法にて合成した。なお、合成方法については特願2019-028845にも記載されている。A16G配列を付加したGFP(GFP-A16G)および付加していないGFP(GFP w/o A16G)はそれぞれのタンパク質を発現するプラスミドを以下のような方法で作製した。6xHisTag配列がクローニングサイト直下に存在するpCAG-CST(Oshikawa et al., Development 2017, PMID: 28928282)に、EGFP cDNA配列を制限酵素Not I /Nhe Iサイトで挿入して、pCAG-GFPプラスミドを得た。下記6xHisTag-A16G配列のsense, antisense合成オリゴをアニーリングし、上記のpCAG-GFPを制限酵素NotI/XhoIで切断したものに挿入した (pCAG-GFP-A16G)。
【0063】
6xHisTag-A16G-sense: 5’-GGCCCATCATCATCATCATCATCGAGCAGACGCCCGTGCGGATGCTAGAGCGGACGCCAGAGCAGATGGTTAA-3’(配列番号93)
6xHisTag-A16G-antisense: 5’-TCGAGTTAACCATCTGCTCTGGCGTCCGCTCTAGCATCCGCACGGGCGTCTGCTCGATGATGATGATGATGATG-3’ (配列番号94)
【0064】
GFP-A16Gタンパク質とGFPタンパク質は、発明者らが過去に報告した方法に準じて得た(Oshikawa et al., Adv Healthc Mater. 2017, PMID: 28488337)。pCAG-GFP-A16GおよびpCAG-GFPプラスミドを293T細胞に遺伝子導入し、4日間培養後、細胞溶解液(0.5% Nonidet P-40, 120 mM NaCl, 50 mM Tris-HCl (pH8.0))500μlで溶解した。この溶解画分を限外濾過カラム(メルク社、amicon ultra 10K)で、0.1PB-S(137 mM NaCl, 2.70 mM KCl, 0.810 mM Na2HPO4, 0.147 mM KH2PO4 (pH7.4))溶液に置換して濃縮した。
【0065】
GFP-A16GとGFPの濃度はサンドイッチELISA法にて算出した。固相化抗体には抗GFPニワトリ抗体(アブカム社, ab13970)、検出抗体には抗GFPウサギ抗体(アブカム社, ab290)を用いた。
【0066】
GFP取り込み実験は以下のように行った。1.5mlチューブに、1% A16G溶液50μlと、モル比が105分の1となるようにH2Oで希釈したGFP-A16GあるいはGFPを40μl加え、さらに10xPBS溶液(1.37 M NaCl, 27.0 mM KCl, 81.0 mM Na2HPO4, and 14.7 mM KH2PO4 (pH7.4))を10μl加え、ピペッティング操作でゲル化させた。その後、15,000 rpmで5分間遠心し、PBS溶液(137 mM NaCl, 2.70 mM KCl, 8.10 mM Na2HPO4, and 1.47 mM KH2PO4 (pH7.4))500μlで3回洗浄した。これらの上清のGFP濃度をサンドイッチELISA法で測定し、非取り込み画分として取り込み率(GFP incorporation (%))を算出した。
【0067】
(結果)
GFP-A16GはA16G配列を付加していないGFPに比べA16Gペプチドゲルへ優位に取り込まれた(図1)。これらの結果から、GFPへのA16G付加がA16Gペプチドゲルへの取り込みを促進することが示された。
【0068】
<実施例3: A16Gペプチドゲルに取り込まれたGFP-A16Gタンパク質の徐放>
GFP徐放実験は以下のように行った。上記実験にてGFP-A16GおよびGFPを取り込ませたA16Gペプチドゲルを10%FBSを含むPBS溶液200μlで懸濁し、37℃、500 rpmで連続撹拌した(東京理化器械社、CM-1000)。6, 12, 24, 72, 96, 168時間後に15,000 rpmで5分間遠心し溶液を回収し、これらの上清のGFP濃度をサンドイッチELISA法で測定し、取り込み量における放出量の割合(GFP release/GFP incorporation (%))を算出した。
【0069】
(結果)
A16G配列を付加していないGFPはペプチドゲルからの放出がほとんど認められなかったが、GFP-A16Gは経時的にA16Gペプチドゲルから放出された(図2)。これらの結果から、GFPへのA16G付加がA16Gペプチドゲルからの徐放効果を持つことが示された。
【0070】
<実施例4: RADA16ペプチドゲルへのGFP-RADA16タンパク質の取り込み>
1% RADA16(RADA-RADA-RADA-RADA)溶液は、上記の方法にて合成した。RADA16配列を付加したGFP(GFP-RADA16)のタンパク質を発現するプラスミドを以下のような方法で作製した。下記6xHisTag-RADA16配列のsense, antisense合成オリゴをアニーリングし、上記のpCAG-GFPを制限酵素NotI/XhoIで切断したものに挿入した (pCAG-GFP-RADA16)。
【0071】
6xHisTag-RADA16-sense: 5’-GGCCCATCATCATCATCATCATCGAGCAGACGCCCGTGCGGATGCTAGAGCGGACGCCAGAGCAGATGCTTAA-3’ (配列番号95)
6xHisTag-RADA16-antisense: 5’-TCGAGTTAAGCATCTGCTCTGGCGTCCGCTCTAGCATCCGCACGGGCGTCTGCTCGATGATGATGATGATGATG-3’ (配列番号96)
【0072】
GFP-RADA16タンパク質の回収、濃度測定、取り込み実験は実施例2と同様の方法で行った。
【0073】
(結果)
GFP-RADA16はRADA16配列を付加していないGFPに比べRADA16ペプチドゲルへ優位に取り込まれた(図3)。これらの結果から、GFPへのRADA16付加がRADA16ペプチドゲルへの取り込みを促進することが示された。また、A16Gでも同様な傾向が認められたことから(図1)、GFPのC末端に自己組織化ペプチド配列を付加することで、自己組織化ペプチドゲルへの取り込みが促進されることが示された。
【0074】
<実施例5: RADA16ペプチドゲルに取り込まれたGFP-RADA16タンパク質の徐放>
実施例3の方法と同様にしてGFP徐放実験を行った。
(結果)
RADA16配列を付加していないGFPはペプチドゲルからの放出がほとんど認められなかったが、GFP-RADA16は経時的にRADA16ペプチドゲルから放出された(図4)。これらの結果から、GFPへのRADA16付加がRADA16ペプチドゲルからの徐放効果を持つことが示された。また、A16Gでも同様な傾向が認められたことから(図2)、GFPのC末端に自己組織化ペプチド配列を付加することで、自己組織化ペプチドゲルからの徐放効果機能が付加されることが示された。
【0075】
<実施例6:A16GペプチドゲルへのVEGF-A16Gタンパク質の取り込み>
A16G配列を付加したVEGF(VEGF-A16G)および付加していないVEGF(VEGF w/o A16G)については、それぞれのタンパク質を発現するプラスミドを以下のような方法で作製した。
【0076】
はじめに、pCAG-GFP-A16Gの6xHisTagとA16GをコードするcDNAを下記プライマーでPCR増幅し、pCAG-CSTのNot Iサイトに挿入し、ユニバーサルプラスミドpCAG-CST-A16Gを作製した。pCAG-CST-A16Gは、任意のタンパク質をコードするcDNAをNot Iサイトで挿入することでC末端にA16G配列が付加するプラスミドである。
【0077】
6xHisTag-A16G-NotI-Fw: 5’-AAGCGGCCGCCATCATCATCATCATCATCG-3’ (配列番号97)
CAG-PstI-HindIII-Rv: 5’-CAGCTATGACCATGATTACGCC-3’ (配列番号98)
【0078】
次に、pCAG-CST-A16GあるいはpCAG-CSTのNot IサイトにVEGF cDNAを挿入するため、マウス胎生16日目の大脳皮質からRNAを抽出後、cDNAを合成し、下記プライマーを用いてVEGF cDNAを得た。
【0079】
Vegf-NotI-Fw: 5’-AGAGCGGCCGCAAACTTTCTGCTCTCTTGGGTG-3’ (配列番号99)
Vegf-NotI-Rv: 5’-TTGCGGCCGCACCGCCTTGGCTTGTC-3’ (配列番号100)
【0080】
VEGF-A16Gタンパク質とVEGFタンパク質は、発明者らが過去に報告した方法に準じて得た(Oshikawa et al., Adv Healthc Mater. 2017, PMID: 28488337)。pCAG-VEGF-A16GおよびpCAG-VEGFプラスミドを293T細胞に遺伝子導入し、7日間培養して培養上清を得た。この画分を限外濾過カラム(メルク社、amicon ultra 10K)で、0.1PB-S(137 mM NaCl, 2.70 mM KCl, 0.810 mM Na2HPO4, 0.147 mM KH2PO4 (pH7.4))溶液に置換して濃縮した。
【0081】
VEGF-A16GとVEGFの濃度はサンドイッチELISA法にて算出した。固相化抗体には抗VEGFヤギ抗体(R&D社, AF-493-NA)、検出抗体にはビオチン化抗VEGFヤギ抗体(R&D社, R&D BAF493)を用いた。
【0082】
VEGF取り込み実験はGFP取り込み実験と同様の方法で行い、取り込み率(VEGF incorporation (%))を算出した。
【0083】
(結果)
VEGF-A16GはA16G配列を付加していないVEGFに比べA16Gペプチドゲルへ優位に取り込まれた(図5)。これらの結果から、VEGFへのA16G付加がA16Gペプチドゲルへの取り込みを促進することが示された。
【0084】
<実施例7:A16Gペプチドゲルに取り込まれたVEGF-A16Gタンパク質の徐放>
実施例3の方法と同様に、6および96時間後に15,000 rpmで5分間遠心し溶液を回収した。これらの上清のVEGF濃度をサンドイッチELISA法で測定し、取り込み量における放出量の割合(VEGF release/ VEGF incorporation (%))を算出した。
【0085】
(結果)
A16G配列を付加していないVEGFはペプチドゲルからの放出がほとんど認められなかったが、VEGF-A16Gは経時的にA16Gペプチドゲルから放出された(図6)。これらの結果から、VEGFへのA16G付加がA16Gペプチドゲルからの徐放効果を持つことが示された。
【0086】
<実施例8:A16GペプチドゲルへのFGF2-A16Gタンパク質の取り込み>
A16G配列を付加したFGF2(FGF2-A16G)および付加していないFGF2(FGF2 w/o A16G)は、それぞれのタンパク質を発現するプラスミドを以下のような方法で作製した。
【0087】
pCAG-CST-A16GあるいはpCAG-CSTのNot IサイトにFGF2 cDNAを挿入するため、マウス胎生16日目の尻尾からRNAを抽出後、cDNAを合成し、下記プライマーを用いてFGF2 cDNAを得た。
【0088】
FGF2-Fw: 5’-TTGCTAGCATGGCTGCCAGCGGCATCAC-3’ (配列番号101)
FGF2-Rv: 5’-TTGCGGCCGCTGCTCTTAGCAGACATTGG-3’ (配列番号102)
【0089】
FGF2-A16Gタンパク質とFGF2タンパク質は、VEGFと同様の方法で得た。FGF2-A16GとFGF2の濃度はサンドイッチELISA法(R&D社, MFB00)にて算出した。FGF2取り込み実験はGFP取り込み実験と同様の方法で行い、取り込み率(FGF2 incorporation (%))を算出した。
【0090】
(結果)
FGF2-A16GはA16G配列を付加していないFGF2に比べA16Gペプチドゲルへ優位に取り込まれた。これらの結果から、FGF2へのA16G付加がA16Gペプチドゲルへの取り込みを促進することが示された(図7)。また、GFPやVEGFでも同様な傾向が認められたことから(図1および5)、様々な機能性タンパク質に自己組織化ペプチド配列を付加することで、自己組織化ペプチドゲルへの取り込みが促進されることが示された。
【0091】
<実施例9:A16Gペプチドゲルに取り込まれたFGF2-A16Gタンパク質の徐放>
実施例3の方法と同様に、6および96時間後に15,000 rpmで5分間遠心し溶液を回収した。これらの上清のFGF2濃度をサンドイッチELISA法で測定し、取り込み量における放出量の割合(FGF2 release/ FGF2 incorporation (%))を算出した。
【0092】
(結果)
A16G配列を付加していないFGF2はペプチドゲルからの放出がほとんど認められなかったが、FGF2-A16Gは経時的にA16Gペプチドゲルから放出された(図8)。これらの結果から、FGF2へのA16G付加がA16Gペプチドゲルからの徐放効果を持つことが示された。また、GFPやVEGFでも同様な傾向が認められたことから(図2および6)、様々な機能性タンパク質に自己組織化ペプチド配列を付加することで、自己組織化ペプチドゲルからの徐放効果機能が付加されることが示された。
【0093】
<実施例10:A16GペプチドゲルへのNcad-Fc-A16Gタンパク質の取り込み>
A16G配列を付加したNcad-Fc(Ncad-Fc-A16G)タンパク質を発現するプラスミドを以下のような方法で作製した。
【0094】
pCAG-CST-A16GのNot I/Nhe IサイトにN-cad-Fc-6xHistag cDNAを挿入するため、マウス胎生pRc/CMV-Ncad-Fcプラスミド(Yue et al., Biomaterials 2010: PMID: 20398934)から下記プライマーを用いてNcad-Fc cDNAを得た。
【0095】
Ncad-Fc-His-Fw: AAGCTAGCCATGTGCCGGATAGCGGGAG(配列番号103)
Ncad-Fc-His-Rv: AACTCGAGTTAATGATGATGATGATGATGTCTAGATTTACCAGGAGAGTGGGAGA(配列番号104)
【0096】
N-cad-Fc-A16Gタンパク質は、VEGFと同様の方法で得た。N-cad-Fc-A16G取り込み実験はGFP取り込み実験と同様の方法で行い、ウェスタンブロット法で取り込みを評価した。
【0097】
(結果)
ゲル化させていないインプット(input)に比べ、A16G添加でゲル化させた場合の非ゲル化画分(unbound)では、N-cad-Fc-A16Gバンドがほとんど検出されなかった。したがって、Ncad-Fc-A16GもA16Gペプチドゲルに取り込まれたと結論づけられる(図9)。したがって、蛍光タンパク質や増殖因子に限らず、細胞接着因子や抗体なども含む様々な機能性タンパク質に自己組織化ペプチド配列を付加することで、自己組織化ペプチドゲルへの取り込みが促進されることが示された。
【0098】
<実施例11:VEGF-A16Gを取り込ませたA16Gペプチドゲル投与によるマウス脳梗塞モデルの歩行機能改善>
マウス脳梗塞モデルは、発明者らが過去に報告した中大脳動脈遠位部梗塞(dMCAO)モデルを用いた(Oshikawa et al., Adv Healthc Mater. 2017, PMID: 28488337)。脳梗塞モデル作製7日目に発明者らの過去の報告に準じて歩行機能解析を行った(Jinnou et al., Cell Stem Cell. 2018, PMID: 29276142)。歩行機能解析後に、dMCAOモデル作製時に開頭した側頭部の中大脳動脈遠位部からA16Gペプチドゲルを投与した。ペプチドゲルの作製は1.5mlチューブに、1% A16G溶液25μlと、モル比が105分の1となるようにH2Oで希釈したVEGF-A16GあるいはVEGFを25μl加え、ピペッティングの後、1個体あたり2μl投与し、ゲル化させた。その後、投与7日目(脳梗塞モデル作製14日目)に歩行機能解析を行い、灌流固定後に脳切片を作製した。歩行機能の評価は、総歩数のうち足を滑らせた歩数の割合を算出して行った。
【0099】
(結果)
A16G単独、VEGF単独、さらにA16Gを付加していないVEGFとA16Gの混合溶液を投与しても歩行機能改善効果は認められなかったが、VEGF-A16GとA16Gの混合溶液を投与した場合、歩行機能改善効果が認められた(図10)。自己組織化ペプチド配列を付加したVEGFと自己組織化ペプチドを混合投与することで、脳梗塞で生じるの脳機能障害を改善することが示された。また、脳切片において、7日後も投与部位にA16Gが残存していることが確認され(データは示さず)、VEGFの徐放が維持されていることが示唆された。
【0100】
<実施例12:VEGF-A16Gを取り込ませたA16Gペプチドゲル投与によるマウス脳梗塞モデルの血管新生促進>
A16Gペプチドゲルを投与後、EdUを発明者らの過去の報告(Oshikawa et al., Development 2017, PMID: 28928282)と同じ方法で8時間おきに1週間投与し、灌流固定後に脳切片を作製した。血管内皮細胞のマーカーであるラミニンの陽性細胞を抗ラミニン抗体(アブカム社, ab11575)で可視化し、EdUはAlexa 647 Azide(Invitrogen社, A10277)を用いたクリック反応にて可視化した。血管新生促進能はEdUとラミニンの共陽性細胞の割合を測定して評価した。
【0101】
(結果)
VEGF-A16GとA16Gの混合溶液を投与した場合、損傷脳領域における血管内皮細胞の増殖が促進されることが示され、血管新生が促進されることが示された(図11)。自己組織化ペプチド配列を付加したVEGFと自己組織化ペプチドを混合投与することで、血管新生が促進されることが示された。
【0102】
<実施例13:FGF2-A16Gを取り込ませたA16Gペプチドゲル塗布によるマウス創傷モデルの創傷治癒促進>
マウス創傷モデルは過去の報告に従って作製した(Dunn L et al., J Vis Exp 2013, PMID: 23748713)。創傷作製直後にA16Gペプチドゲルを塗布した。ペプチドゲルの作製は1.5mlチューブに、1% A16G溶液50μlと、モル比が105分の1となるようにH2Oで希釈したFGF2-A16Gを50μl加え、ピペッティングの後、1個体あたり100μl滴下した。コントロールにはPBS溶液を100μl滴下した。その後、塗布7日目に創傷部位の面積を測定して、創傷治癒の程度を評価した。
【0103】
(結果)
FGF2-A16GとA16Gの混合溶液を塗布した場合、創傷領域の面積が減少し、創傷治癒が促進されることが示された(図12aおよび図12b)。自己組織化ペプチド配列を付加したFGF2と自己組織化ペプチドを混合投与することで、創傷治癒が促進されることが示された。
【0104】
本明細書には、本開示に係る好ましい実施形態を示してあるが、そのような実施形態が単に例示の目的で提供されていることは、当業者には明らかであり、当業者であれば、本発明から逸脱することなく、様々な変形、変更、置換を加えることが可能であろう。本明細書に記載されている発明の様々な代替的実施形態が、本発明を実施する際に使用されうることが理解されるべきである。また、本明細書中において参照している特許および特許出願書類を含む、全ての刊行物に記載の内容は、その引用によって、本明細書中に明記された内容と同様に取り込まれていると解釈すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0105】
上述のとおり、本発明者らは、自己組織化ペプチドと、自己組織化ペプチドに融合された活性物質質とを含む組成物が、活性物質を徐放させる性質を有することを見出した。機能性タンパク質などの活性物質を生体内で徐放させることで、血管生成の誘導や脳梗塞の治療を効果的に行うことができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12a
図12b
【配列表】
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