(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】水分解触媒用のマンガン酸化物、マンガン酸化物-カーボン混合物、マンガン酸化物複合電極材料及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 11/079 20210101AFI20240814BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20240814BHJP
C25B 11/091 20210101ALI20240814BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240814BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240814BHJP
【FI】
C25B11/079
C25B11/052
C25B11/091
C25B1/04
C25B9/00 A
(21)【出願番号】P 2023032972
(22)【出願日】2023-03-03
(62)【分割の表示】P 2019559172の分割
【原出願日】2018-12-12
【審査請求日】2023-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2017239743
(32)【優先日】2017-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018124708
(32)【優先日】2018-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000095
【氏名又は名称】弁理士法人T.S.パートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【氏名又は名称】小川 利春
(74)【代理人】
【識別番号】100181331
【氏名又は名称】金 鎭文
(74)【代理人】
【識別番号】100183597
【氏名又は名称】比企野 健
(74)【代理人】
【識別番号】100161997
【氏名又は名称】横井 大一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【氏名又は名称】泉名 謙治
(72)【発明者】
【氏名】中村 龍平
(72)【発明者】
【氏名】林 徹
(72)【発明者】
【氏名】ボネ ナデジ
(72)【発明者】
【氏名】末次 和正
(72)【発明者】
【氏名】千葉 和幸
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-102228(JP,A)
【文献】特開2016-091878(JP,A)
【文献】特開平01-208489(JP,A)
【文献】特表2015-534607(JP,A)
【文献】特開2013-120680(JP,A)
【文献】Y. MENG, et al.,Structure-Property Relationship of Bifunctional MnO2 Nanostructures: Highly Efficient, Ultra-Atable,Jouranl of the American Chemical Society,米国,2014年,Vol.136,Pages 11452-11464
【文献】K. METTE, et al.,Nanostructured Manganese Oxide Supported on Carbon Nanotubes fot Electrocatalytic Water Splitting,ChemCatChem,2012年,Vol.4,Pages 851-862
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 11/079
C25B 11/052
C25B 11/091
C25B 1/04
C25B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガン金属原子価が3.0価を超え4.0価以下であるマンガン酸化物であって、平均一次粒径が80nm以下であり、且つ平均二次粒径が25μm以下であり、
水銀/酸化水銀参照電極を基準に40wt%KOH溶液下で測定される電位(アルカリ電位)が、240mV以上300mV以下であることを特徴とする水電解における酸素発生陽極触媒用のマンガン酸化物。
【請求項2】
BET比表面積が10m
2/g以上260m
2/g以下である請求項1に記載のマンガン酸化物。
【請求項3】
結晶構造がγ型二酸化マンガン又はα型二酸化マンガンである請求項1又は2に記載のマンガン酸化物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のマンガン酸化物と導電性カーボンとの混合物であって、マンガン酸化物と導電性カーボンの合計に対するマンガン酸化物の含有比率が0.5重量%以上40重量%以下であることを特徴とする水電解における酸素発生陽極触媒用のマンガン酸化物-カーボン混合物。
【請求項5】
前記マンガン酸化物-カーボン混合物が、少なくとも、0.355±0.01nm、0.265±0.01nm、0.250±0.05nm、0.240±0.004nm、0.219±0.004nm、0.208±0.004nm、0.167±0.002、0.143±0.002nmの結晶面間隔を有する請求項4に記載のマンガン酸化物-カーボン混合物。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載のマンガン酸化物が少なくとも一部に被覆された繊維から構成される導電性基材からなることを特徴とするマンガン酸化物複合電極材料。
【請求項7】
前記マンガン酸化物が、前記導電性基材の幾何面積あたり、0.1mg/cm
2以上25mg/cm
2以下被覆されている請求項6に記載のマンガン酸化物複合電極材料。
【請求項8】
前記導電性基材が、カーボン又はチタンで構成される請求項6又は7に記載のマンガン酸化物複合電極材料。
【請求項9】
前記マンガン酸化物複合電極材料が、少なくとも、0.405±0.01nm、0.34±0.01nm、0.306±0.005nm、0.244±0.004nm、0.213±0.004nm、0.169±0.002nm、0.164±0.002nm、0.139±0.002nmの結晶面間隔を有する請求項6~8のいずれかの1項に記載のマンガン酸化物複合電極材料。
【請求項10】
前記マンガン酸化物複合電極材料が、少なくとも、0.40±0.01nm、0.256±0.005nm、0.244±0.004nm、0.235±0.004nm、0.225±0.004nm、0.213±0.004nm、0.164±0.002nm、0.139±0.002nmの結晶面間隔を有する請求項6~8のいずれかの1項に記載のマンガン酸化物複合電極材料。
【請求項11】
請求項6~10のいずれか1項に記載のマンガン酸化物複合電極材料と、高分子電解質膜とを有する積層体。
【請求項12】
請求項1~3のいずれか1項に記載のマンガン酸化物又は請求項4又は5に記載のマン
ガン酸化物-カーボン混合物を含む水電解における酸素発生電極活物質。
【請求項13】
請求項12に記載の酸素発生電極活物質を含む酸素発生電極。
【請求項14】
請求項13に記載の酸素発生電極と、高分子電解質膜とを有する積層体。
【請求項15】
請求項6~10のいずれか1項に記載のマンガン酸化物複合電極材料又は請求項13に記載の酸素発生電極を有する水電解装置。
【請求項16】
請求項6~10のいずれか1項に記載のマンガン酸化物複合電極材料又は請求項13に記載の酸素発生電極を使用して水電解する水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分解触媒用のマンガン酸化物、水分解触媒用マンガン酸化物-カーボン混合物、マンガン酸化物複合電極材料、それらの製造方法及びそれらの用途に関する。より詳しくは、アルカリ性条件下、中性条件下、又は酸性条件下で行われる工業的な水電解や、固体高分子膜(PEM)型電解槽を用いる水電解において、酸素発生用陽極触媒として使用されるマンガン酸化物、マンガン酸化物-カーボン混合物、マンガン酸化物複合電極材料、及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の枯渇問題や環境汚染問題から、クリーンなエネルギーとしての水素の利用とその製造手法に注目が集まっている。水電解法は、水を電気分解して陰極から高純度な水素ガスを製造する有効な手段の一つであるが、この際、対極の陽極からは酸素発生が同時に起こることが特徴である。水電解法において水分解反応を効率よく進行させるには、陰極では水素過電圧の低い電極触媒を、陽極では酸素過電圧の低い電極触媒を用いて、電気分解にかかる電解電圧を低く保ちながら電解する必要がある。このうち、陽極の低酸素過電圧に優れた電極触媒材料として、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)などの希少な白金族金属や、それらの元素を含んだ酸化物をはじめとする化合物が提案されている(特許文献1、2、非特許文献1~3)。
【0003】
一方で、このような白金族金属で構成される電極触媒は非常に高価であることから、安価な遷移金属を用いた電極触媒の開発が進められてきている。例えば、近年では、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)などで構成される遷移金属材料が提案されている(特許文献3~4、非特許文献4~7)。
【0004】
しかしながら、これまで提案されてきた遷移金属で構成される触媒材料は、白金族金属系の電極触媒と比べると著しく活性が低い(酸素過電圧が高い)という課題があった。即ち、安価な遷移金属で構成され、且つ、Ptなどの白金族金属系に匹敵する高い触媒活性を有する酸素発生電極触媒材料は実現されておらず、開発が待ち望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本特開平8-269761号公報
【文献】日本特表2007-514520号公報
【文献】日本特開2015―192993号公報
【文献】国際公開(WO)2009/154753 A2
【非特許文献】
【0006】
【文献】S.Trasatti,G.Buzzanca,J.Electroanal.Chem.,1971,29,A1.
【0007】
【文献】A.Harriman,I.J.Pickering,J.M.Thomas,P.A.Christensen,J.Chem.Soc.,Faraday Trans.1,1988,84,2795.
【0008】
【文献】Y.Zhao,N.M.Vargas-Barbosa,E.A.Hernandez-Pagan,T.E.Mallouk,Small,2011,7,2087.
【0009】
【文献】M.M.Najafpour,G.Renger,M.Holynska,A.N.Moghaddam,E.-M.Aro, R.Carpentier,H.Nishihara,J.J.Eaton-Rye,J.-R.Shen,S.I.Allakhverdiev,Chem.Rev.,2016,116,2886.
【0010】
【文献】T.Takashima,K.Ishikawa,H.Irie,J.Phys.Chem.C,2016,120,24827.
【0011】
【文献】J.B.Gerken,J.G.McAlpin,J.Y.C.Chen,M.L.Rigsby,W.H.Casey,R.D.Britt,S.S.Stahl,J.Am.Chem.Soc.,2011,133,14431.
【0012】
【文献】M.Dinca,Y.Surendranath,D.G.Nocera,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,2010,107,10337.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、水分解触媒用のマンガン酸化物、マンガン酸化物-カーボン混合物、マンガン酸化物複合電極材料、及びそれらの製造方法を提供することにある。
より詳しくは、アルカリ性条件下、中性条件下、又は酸性条件下で行われる工業的な水電解や、固体高分子膜(PEM)型電解槽を用いる水電解における酸素発生用陽極触媒材料であって、安価で、高い酸素発生触媒活性を有する水分解触媒用のマンガン酸化物(以下、本発明のマンガン酸化物という場合がある。)、水分解触媒用マンガン酸化物-カーボン混合物、マンガン酸化物複合電極材料、及びそれらの製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、水電解の酸素発生電極触媒として使用される触媒材料について鋭意検討を重ねた結果、金属原子価が3.0価を超え4.0価以下であるマンガン酸化物であって、平均一次粒径が80nm以下、且つ平均二次粒径25μm以下に制御されたマンガン酸化物が高い酸素発生電極触媒活性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、金属原子価が3.0価を超え4.0価以下であるマンガン酸化物であって、平均一次粒径が80nm以下、且つ平均二次粒径25μm以下に制御された水電解における酸素発生電極触媒用のマンガン酸化物である。
【0015】
また、本発明者らは、本発明のマンガン酸化物と導電材であるカーボンとを混合する際の最適な混合比率が、マンガン酸化物の含有比率として0.5重量%以上40重量%以下において、本発明のマンガン酸化物の優れた触媒活性が十分に引き出されること、特に酸性条件下におけるPEM型の水電解において、より優れた触媒活性が発現されることを見出した。すなわち、本発明は、本発明のマンガン酸化物と導電性カーボンの合計に対するマンガン酸化物の含有比率が0.5重量%以上40重量%以下である水電解における酸素発生電極触媒用のマンガン酸化物-カーボン混合物である。
【0016】
さらに、本発明者らは、本発明のマンガン酸化物が導電性基材の繊維の少なくとも一部を被覆するマンガン酸化物複合電極材料が、一層高い酸素発生電極触媒活性を示すことを見出した。すなわち、本発明は、本発明のマンガン酸化物が、少なくとも一部に被覆された繊維から構成される導電性基材からなる酸素発生電極用のマンガン酸化物複合電極材料である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のマンガン酸化物、本発明のマンガン酸化物-カーボン混合物、及び本発明のマンガン酸化物複合電極材料は、アルカリ下、中性下、又は酸性下で行われる工業的な水電解や、PEM型電解槽を用いる水電解において、高い活性を示し、安価で優れた酸素発生用陽極触媒として作用する。
【0018】
また、前記電解系に二酸化炭素を添加することにより、該二酸化炭素等を陰極において還元して、炭化水素化合物(ギ酸、ホルムアルデヒド、メタノール、メタン、エタン、プロパン等)を製造することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例1で得られた四三酸化マンガン(Mn
3O
4)のXRDパターンである。
【
図2】実施例1~3で得られたマンガン酸化物のXRDパターンである。
【
図3】実施例2で得られたマンガン酸化物の粒径分布図である。
【0020】
【
図4】比較例3で得られたマンガン酸化物のXRDパターンである。
【
図5】実施例1~3、比較例1~4の、酸素発生時における、電流と電位との変化を示すリニアスイープボルタモグラムである。
【
図6】実施例5、比較例5~8の、酸素発生時における、電流と電位との変化を示すリニアスイープボルタモグラムである。
【
図7】実施例5、比較例5~8の、酸素発生時における、電流密度の対数値と電位との変化を示すターフェルプロットである。
【
図8】実施例9、比較例9~11の、PEM型電解槽中での酸素発生時における、電流-電圧曲線である。
【0021】
【
図9】本発明で用いた導電性基材であるカーボンペーパー(TGP-H-060,Toray)の表面外観写真(SEM写真)である。
【
図10】実施例10で得られた複合電極材料の表面の外観写真(SEM写真)である。
【
図11】実施例11で得られた複合電極材料の表面の外観写真(SEM写真)である。
【
図12】実施例10~12、比較例12で得られた複合電極材料の、PEM型電解槽中での酸素発生時における、電流-電圧曲線である。
【
図13】実施例4、実施例8、比較例5で得られたマンガン酸化物-カーボン混合物のXRDパターンである。
【
図14】実施例13~14で得られたマンガン酸化物複合電極材料のXRDパターンである。
【
図15】実施例19、実施例21で得られたマンガン酸化物複合電極材料のXRDパターンである。
【
図16】実施例15で得られたマンガン酸化物複合電極材料の断面の外観写真(SEM写真)及び、基材に由来するカーボンとマンガン酸化物に由来するマンガンの元素分布写真(EPMA写真)である。
【
図17】実施例19で得られたマンガン酸化物複合電極材料の断面の外観写真(SEM写真)及び、基材に由来するチタンとマンガン酸化物に由来するマンガンの元素分布写真(EPMA写真)である。
【
図18】実施例13~16、比較例12で得られたマンガン酸化物複合電極材料の、PEM型電解槽中での酸素発生時における、電流-電圧曲線である。
【
図19】実施例13、実施例17~18、比較例12で得られたマンガン酸化物複合電極材料の、PEM型電解槽中での酸素発生時における、電流-電圧曲線である。
【
図20】実施例19、実施例20、比較例12で得られたマンガン酸化物複合電極材料の、PEM型電解槽中での酸素発生時における、電流-電圧曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
まず、電解による水の分解について、PEM型の水電解のように反応場が酸性環境下になるような反応を例にとって説明する。陰極触媒上では、式1に示されるように、2つのプロトンと2つの電子の反応により、水素が生成する。
2H+ + 2e- → H2 … 式1
【0023】
一方、陽極触媒上では、式2に示されるように、2つの水分子から4つの電子と4つのプロトンと共に酸素が生成する。
2H2O → O2 + 4H+ + 4e- … 式2
そして、全体として、式3に示されるように、2つの水分子から、2つの水素分子とひとつの酸素分子が生成する反応となる。
2H2O → 2H2 + O2 … 式3
【0024】
上記式2における酸素発生反応は、一般的には、全反応の律速過程とされ、同反応を最小限のエネルギーで進めることのできる触媒の開発が、該技術分野において、重要な位置づけにあり、本発明は、この水の酸化触媒能が高い酸素発生電極触媒を提供するものである。
本発明のマンガン酸化物は、マンガン金属原子価が3.0価を超え4.0価以下に制御される。金属原子価が3.0価以下のマンガン酸化物の場合、触媒材料としての化学安定性が低く、特にPEMなどの酸性環境下で使用する場合には2価のマンガンイオンとして一方的に溶出し続け消耗し易い。
【0025】
一方、金属原子価が4.0価を超えるマンガン酸化物の場合も、溶解性の5価マンガン、7価マンガンを含むために化学安定性が低く、安定な触媒活性を得にくい。良好な酸素発生触媒活性を有するには、マンガン金属原子価が3.5価以上4.0価以下に制御することが好ましく、3.7価以上4.0価以下に制御することが更に好ましい。
【0026】
本発明のマンガン酸化物の平均一次粒径は、80nm以下に制御される。平均一次粒径が80nmより大きい場合、反応触媒活性点が小さくなり、十分な触媒活性が得られない。良好な触媒活性を得るためには、平均一次粒径は70nm以下が好ましく、50nm以下が更に好ましい。
上記平均一次粒径の下限は特に制限されないが、平均一次粒径は、通常、5nm以上であり、10nm以上が好ましい。
なお、上記平均一次粒径とは、顕微鏡法によりクルムバイン径を測定して求めた長軸長と短軸長の個数平均をそれぞれ平均長軸長、平均短軸長とし、それらを用いて求めた二軸平均径(平均長軸長と平均短軸長の和の半分)として定義され、後記するようにして求められる。
【0027】
本発明のマンガン酸化物の平均二次粒径は25μm以下である。平均二次粒径が25μmより大きい場合、後に述べる導電材であるカーボンとの接触点が小さくなり、反応に寄与する電子の授受が制限されるため、十分な触媒活性が発現されない。良好な触媒活性を得るためには、平均二次粒径は10μm以下が好ましく、5μm以下がさらに好ましく、2μm以下がさらに一層好ましい。平均二次粒径の下限は特に制限されないが、平均二次粒径は、通常、0.1μm以上であり、0.5μm以上が好ましい。
なお、上記平均二次粒径とは、レーザー回折法を用いた湿式粒度分布の測定値で定義され、後記するようにして求められる。
【0028】
本発明のマンガン酸化物は、BET比表面積が10m2/g以上260m2/g以下が
好ましい。BET比表面積が10m2/gより小さい場合、反応場への電解液の浸透などが制限され十分な触媒活性が得られにくい。一方、260m2/gを超える場合、反応に寄与しない閉空孔が多く、マンガン酸化物粒子内の液浸透だけでなく電子伝導やイオン移動も制限され、十分な触媒活性が得られにくい。BET比表面積は、30m2/g以上260m2/g以下がより好ましく、35m2/g以上255m2/g以下が特に好ましい。
【0029】
本発明のマンガン酸化物の結晶構造は特に制限はないが、いわゆる、γ型、又はα型が好ましく、特に、γ型が好ましい。
また、本発明のマンガン酸化物の電極電位は特に制限はないが、40wt%KOH溶液下でのアルカリ電位として、200mV以上320mV以下が好ましく、特に、240mV以上300mV以下が好ましい。
【0030】
本発明のマンガン酸化物を電極に担持させることにより、本発明のマンガン酸化物が水電解における酸素発生電極活物質となり、酸素発生電極に水分解反応における触媒能を付与することができる。この酸素発生電極活物質を含む酸素発生電極、高分子電解質膜、および水素発生触媒を付与された電極を積層することにより積層体となる。ここに、高分子電解質膜とは、例えば、フッ素樹脂系の陽イオン交換膜等をいい、水素発生触媒とは、例えば、白金微粒子等をいう。本発明では、この酸素発生電極を有することにより、水電解装置となり、この酸素発生電極を使用して水電解することにより水素を効率よく製造することができる。
【0031】
以下には、本発明のマンガン酸化物の製造方法を説明する。
本発明のマンガン酸化物のうち、比較的大きなBET比表面積を有し、例えば、BET比表面積50m2/gを超えるマンガン酸化物は、例えば、3.0価よりも小さい、好ましくは2.5~3.0価の低価数のマンガン酸化物を濃厚な酸で処理し、不均化反応を経ることによって得ることができる。
【0032】
低価数のマンガン酸化物としては、例えば、2価のマンガンイオンを含有する溶液とアルカリ溶液を混合し、得られた混合溶液を酸化することで得られた四三酸化マンガン(Mn3O4)、三二酸化マンガン(三酸化二マンガン(Mn2O3))又はこれらの混合物などのマンガン酸化物を挙げることができる。尚、混合溶液の酸化は、空気、酸素等の酸化剤を使用してもよい。低価数のマンガン酸化物としては、四三酸化マンガン(Mn3O4)が好ましい。
【0033】
式3及び式4には、低価数のMn酸化物として、四三酸化マンガン(Mn3O4)を用いた場合の不均化反応式を示す。
Mn3O4 + 8H+ → Mn2+ + 2Mn3+ + 4H2O … 式3
2Mn3+ + 2H2O → MnO2 + Mn2+ + 4H+ … 式4
【0034】
また、式5及び式6には、低価数のMn酸化物として、三二酸化マンガン(Mn2O3)を用いた場合の不均化反応式を示す。
Mn2O3 + 6H+ → 2Mn3+ + 3H2O … 式5
2Mn3+ + 2H2O → MnO2 + Mn2+ +4H+ … 式6
【0035】
本発明のマンガン酸化物は、低価数のMn酸化物を、濃厚な酸液に浸漬した後、加温下で、一定時間攪拌した後に、ろ過分離する方法で得ることができる。酸としては、例えば、硫酸、硝酸等が用いられ、酸液の濃度としては、例えば、1mol/L(リットル)以上8mol/L以下である。加温は、例えば、40℃以上90℃以下で行なわれ、撹拌時間は、例えば、1時間以上72時間以下で行なわれる。なお、リットルは、便宜上、Lで
表すことがあり、以下においても同様である。
【0036】
一方、本発明のマンガン酸化物のうち、例えばBET比表面積50m2/g以下を有するマンガン酸化物は、例えば、電解液として硫酸-硫酸マンガン混合溶液を使用し、硫酸-硫酸マンガン混合溶液中の硫酸濃度を例えば25g/Lを超え65g/L以下とし、電解電流密度を0.3A/dm2以上0.9A/dm2以下とし、電解温度が93℃以上98℃以下として電解することで得ることができる。
【0037】
上記マンガン酸化物の電解製造方法で、電解液として硫酸-硫酸マンガン混合溶液を使用すると、硫酸マンガン水溶液を電解液とする電解方法とは異なり、電解期間中の硫酸濃度を制御することが可能となる。これにより、長期間電解を行った場合であっても硫酸濃度を任意に設定できる。
マンガン酸化物の電解製造方法で用いられる硫酸-硫酸マンガン混合溶液は、硫酸濃度として25g/Lを超え65g/L以下の範囲に制御されることが好ましく、32g/L以上50g/L以下がより好ましい。
【0038】
また、電解期間中に硫酸濃度を任意に変えること、特に、電解終了時の硫酸濃度を電解開始時の硫酸濃度よりも高く制御することが平均一次粒径と電極電位を好ましい範囲に制御するために好ましい。この場合の電解開始時の硫酸濃度としては、28g/Lを超え40g/L以下が好ましく、30g/Lを超え35g/L以下がより好ましい。また、電解終了時の硫酸濃度としては、32g/L以上55g/L以下が好ましく、35g/Lを超え50g/L以下がより好ましく、40g/Lを超え45g/L以下がさらに好ましい。
【0039】
上記のように硫酸濃度を変えた場合に得られる効果のメカニズムは明確ではないが、前半に比較的低濃度の硫酸濃度である条件下で電解することにより、純チタン板などの電極基材への腐食ダメージが直接軽減されるだけでなく、前半で一次粒子径が比較的大きくBET比表面積が低く充填性が高いマンガン酸化物析出層を得ることができる。次いで、後半に比較的高濃度の硫酸濃度である条件下で電解することにより、既にマンガン酸化物析出層に覆われているため純チタン板などの電極基材がより腐食ダメージを受け難く、よりアノード電極電位が高いマンガン酸化物が得られ易くなる。
【0040】
マンガン酸化物の電解製造方法では、電解開始から電解終了まで電解中の硫酸濃度を徐々に変化させるのではなく、前半の電解と後半の電解とで硫酸濃度を変化せしめることが好ましい。
前半の電解と後半の電解とにおける電解時間の比率に制限はないが、例えば、低硫酸濃度と高硫酸濃度での電解時間の比率が1:9~9:1、特に3:7~7:3の範囲であるのが好ましい。
なお、上記の硫酸-硫酸マンガン混合溶液における硫酸濃度とは、硫酸マンガンの二価の陰イオン(硫酸イオン)は除いた値である。
【0041】
マンガン酸化物の電解製造方法では、電解電流密度は、特に限定するものではないが、適切なBET比表面積を維持するため、0.3A/dm2以上0.9A/dm2以下であることが好ましい。これにより、効率的、かつ安定的に本発明のマンガン酸化物を電解製造しやすくなる。より安定的に本発明のマンガン酸化物を得るために、電解電流密度は0.5A/dm2以上0.88A/dm2以下がより好ましく、0.55A/dm2以上0.8A/dm2未満がさらに好ましい。
【0042】
マンガン酸化物の電解製造において、硫酸-硫酸マンガン混合溶液が補給できるが、かかる電解補給液中のマンガン濃度に限定はないが、例えば30~60g/Lのものが例示できる。
電解温度は93℃以上98℃以下が例示できる。電解温度が高いほど、析出するマンガン酸化物の電解製造効率が上がるため、電解温度は94℃を超えることが好ましい。
【0043】
純チタン板などの電極上に電解製造したマンガン酸化物は、該電極から剥離した後に、ジョークラッシャーなどの粗粉砕を経て、ローラーミル、竪型ミル、ロッシェミルやジェットミルなどで、マンガン酸化物単体として、所定の平均二次粒径になるように粉砕調整される。次に、製造したマンガン酸化物は、洗浄工程、中和工程を経て、残電解液などを除去した後に、フラッシュ乾燥装置などを用いて乾燥される。このフラッシュ乾燥時には、粉砕工程で過粉砕により副生したサブミクロンのマンガン酸化物微粉を集塵機バグフィルターなどで回収し、分離することができる。また、さらに200℃以上500℃以下の焼成工程を施し、本発明のマンガン酸化物を得る場合もある。
【0044】
本発明のマンガン酸化物-カーボン混合物は、マンガン酸化物の含有比率が0.5重量%以上40重量%以下であるのが好ましい。0.5重量%未満であると、マンガン酸化物本来の反応活性点が少なくなり、十分な触媒活性が発揮されず、また、40重量%を超えると、マンガン酸化物と導電材であるカーボンとの接触が損なわれ、反応に寄与する電子の授受が制限されることに関係すると推測される。
優れた触媒活性を発現させるためには、マンガン酸化物の含有比率が1重量%以上20重量%以下であることが好ましく、2重量%以上17重量%以下がさらに好ましく、4重量%以上10重量%以下がさらに好ましい。
本発明のマンガン酸化物-カーボン混合物におけるXRDは、特徴的な回折線を有する。低角度側の回折線から順に、結晶面間隔を表すd値として、少なくとも、0.355±0.01nm、0.265±0.01nm、0.250±0.05nm、0.240±0.004nm、0.219±0.004nm、0.208±0.004nm、0.167±0.002、0.143±0.002nmを有する。
【0045】
本発明のマンガン酸化物-カーボン混合物を電極に担持させることにより、本発明のマンガン酸化物-カーボン混合物が水電解における酸素発生電極活物質となり、酸素発生電極に水分解反応における触媒能を付与させることができる。この酸素発生電極活物質を含む酸素発生電極、高分子電解質膜、及び水素発生触媒を付与された電極を積層することで、積層体となる。ここに、高分子電解質膜は、例えば、フッ素樹脂系の陽イオン交換膜等が好ましく、水素発生触媒は、例えば、白金微粒子等が好ましい。本発明では、この酸素発生電極を有することにより、水電解装置となり、この酸素発生電極を使用して水電解することにより水素を製造することができる。
【0046】
本発明のマンガン酸化物-カーボン混合物の製造方法としては、上記した方法で得られたマンガン酸化物を0.5重量%以上40重量%以下の割合となるように、以下に述べる湿式混合方法でカーボンと混合することが望ましい。
湿式混合方法は、まず、所定量のマンガン酸化物と所定量のカーボンを測り取り、メノウ乳鉢で解砕混合した後に、例えば、エタノールなどの分散媒とジルコニアなどのボールの入った容器に入れ、スラリー状態で、例えば一昼夜以上回転させボールミル混合することが好ましい。
【0047】
上記ボールミル混合終了後、得られたスラリー液を篩分けして、ジルコニアボールを分離した後、マンガン酸化物-カーボン混合物のエタノールスラリー液として回収する。次いで、このマンガン酸化物-カーボン混合物のエタノールスラリー液に、例えば、ナフィオン(ケマーズ社商標、以下、同じ。)の分散液(DE520、DE521、DE1020、DE1021、DE2020、DE2021)などの電極として必要な材料を添加し、導電性触媒インクを調製し、これを、電極上へ塗布する触媒形成用スラリー液として用いることができる。
電極上に塗布した後は、風乾などで分散媒であるエタノールを蒸発させてから、マンガン酸化物-カーボン触媒が表面に薄膜状に存在する電極触媒が形成できる。
【0048】
本発明のマンガン酸化物複合電極材料は、上記本発明のマンガン酸化物がその少なくとも一部に被覆された繊維から構成される導電性基材からなるものである。この場合、本発明のマンガン酸化物の被覆量は、導電性基材の幾何面積あたり、0.1mg/cm2以上25mg/cm2以下が好ましい。ここに、幾何面積とは、導電性基材の投影面積に相当するものであり、基材の厚みは考慮しないものである。
本発明のマンガン酸化物の被覆量が上記範囲の場合、導電性基材を構成する繊維の径や空隙率にも依存するが、繊維上にマンガン酸化物を島状に若しくは繊維外面を全面被覆するような形態で被覆され、その平均被覆厚みは概ね25μm以下にできる。なお、繊維上に被覆するマンガン酸化物は二次粒子により構成されるので、通常、平均被覆厚みと、それを構成するマンガン酸化物の平均二次粒径とは一致する。
【0049】
本発明のマンガン酸化物複合電極材料においては、被覆しているマンガン酸化物量に依存して、導電性基材の繊維を被覆するマンガン酸化物平均厚みが厚くなる関係にあり、なかでも、上記マンガン酸化物の被覆量は、0.1mg/cm2以上20mg/cm2以下がより好ましく、0.2mg/cm2以上15mg/cm2以下がさらに好ましく、0.5mg/cm2以上10mg/cm2以下が特に好ましい。なお、マンガン酸化物被覆層の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)の像から、例えば、導電性基材の構成単位である導電性繊維の線径太さ分を差し引いて求めることもできる。
本発明のマンガン酸化物複合電極材料におけるXRDは、特徴的な回折線を有する。導電性基材がカーボンペーパーである場合、低角度側の回折線から順に、結晶面間隔を表すd値として、少なくとも、0.405±0.01nm、0.34±0.01nm、0.306±0.005nm、0.244±0.004nm、0.213±0.004nm、0.169±0.002nm、0.164±0.002nm、0.139±0.002nmを有する。また、導電性基材がチタン網である場合、低角度側の回折線から順に、結晶面間隔を表すd値として、少なくとも、0.40±0.01nm、0.256±0.005nm、0.244±0.004nm、0.235±0.004nm、0.225±0.004nm、0.213±0.004nm、0.164±0.002nm、0.139±0.002nmを有する。
【0050】
本発明のマンガン酸化物複合電極材料は、上記純チタン板の電極基材に替えて、カーボンペーパーやチタン網などに代表される導電性基材を用いて、上記の硫酸-硫酸マンガン混合溶液を使用して、マンガン酸化物を電解析出させることで得られる。この場合、マンガン酸化物の電解析出は、導電性基材の幾何面積あたりのマンガン酸化物による被覆量が上記した好ましい範囲になるように行われるのが好適である。
導電性基材は、例えば、100μm以下の線直径の太さを有するカーボンやチタン金属などの導電性繊維を成型又は焼結し、基材の厚みが1mm以下の板状にしたものが好ましい。導電性基材の空隙率は、例えば、40%以上が好ましく、50~90%がより好ましい。ここで空隙率は、導電性基材の体積中に占める導電性繊維などがない空間部分の体積で定義される。
【0051】
導電性基材は、マンガン酸化物を電析させる前に、塩酸、硫酸、硝酸、シュウ酸などで酸処理を施し、基材表面の不働態被膜除去や親水化を行うことが好ましい。
一方で、導電性基材内のマンガン酸化物の電析位置を制御する、または実際に水電解の電極として用いる際に重要なガス拡散特性を付与することを目的に、フッ素系樹脂のディスパージョン液などに導電性基材を浸漬させ、撥水化を行うことが好ましい。
導電性基材に本発明のマンガン酸化物を電析被覆させる条件として、例えば、前記したように、硫酸-硫酸マンガン混合溶液の硫酸濃度、マンガン濃度、電解電流密度、電解温
度などの各々の範囲を選択し、電解時間を5分~120分の範囲で行い、電解終了後に、水洗、乾燥することにより、本発明のマンガン酸化物複合電極材料とすることができる。
【0052】
このマンガン酸化物の電析時に、導電性基材の片面を樹脂性の膜などで遮蔽すると、一面にのみマンガン酸化物の電析膜を優先的に電析させる一方で、もう片面は殆どマンガン酸化物を電析させることなく、マンガン酸化物を意識的に偏析させることもできる。
また、本発明のマンガン酸化物複合電極材料は、後処理として、酸浸漬や加熱のいずれか、または酸浸漬と加熱の両方を行うことが効果的である。酸浸漬による後処理は、例えば、0.5モル/L~5モル/Lの硫酸中に、マンガン酸化物複合電極材料を30分~2時間程度浸漬させた後に、水洗、乾燥を経て得られる。また、加熱による後処理は、例えば、マンガン酸化物複合電極を空気または窒素雰囲気下で180℃~300℃にて、30分~2時間加熱することによって得られる。
これらの後処理によりマンガン酸化物複合材料にどのような効果を及ぼすかは未だ十分解明されていないが、マンガン酸化物と導電性繊維との密着性を高めるか、または、マンガン酸化物触媒の結晶構造や結晶性の変化をもたらすものと推定される。
【0053】
本発明のマンガン酸化物複合電極材料、高分子電解質膜、および水素発生触媒を付与された電極を積層することで、積層体となる。ここに、高分子電解質膜とは、例えば、フッ素樹脂系の陽イオン交換膜等をいい、水素発生触媒とは、例えば、白金微粒子等をいう。本発明では、本発明のマンガン酸化物複合電極材料を有することにより、水電解装置となり、このマンガン酸化物複合電極材料を使用して水電解することにより水素を製造することができる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0055】
<マンガン酸化物の金属原子価の測定>
マンガン酸化物0.200gを三角フラスコに量り取り、0.3M/Lシュウ酸水溶液を10mL及び(1+1)硫酸20mLを加えて、70℃に加温し溶解させる。次いで、55~60℃に保ちながら、0.1N過マンガン酸カリウム溶液で滴定し、終点の液量を求める。空試験に要した0.1N過マンガン酸カリウム溶液の量を求め、下式7から4価マンガン酸化物純度を算出する。
【0056】
4価マンガン酸化物純度(%)=
(((B-A)×0.4347)/S)×100 …式7
A:空試験に要した0.1N過マンガン酸カリウム溶液の液量(mL)
B:滴定に要した0.1N過マンガン酸カリウム溶液の液量(mL)
S:マンガン酸化物採取量(g)
【0057】
次にICP法により、マンガン酸化物の全Mn純度(%)を求め、4価マンガン酸化物純度(%)と下式8を用いて、金属原子価数を求める。
金属原子価数=
(4価マンガン純度(%)×63.19)/全Mn純度(%)×2 … 式8
【0058】
<マンガン酸化物及びカーボンの一次粒径の測定>
マンガン酸化物、並びにマンガン酸化物-カーボン混合物中のマンガン酸化物及びカーボンの一次粒径の測定は、走査電子顕微鏡(SEM)像の観察による顕微鏡法により行った。測定装置には、電界放出形走査電子顕微鏡(S-4800,日立ハイテクノロジーズ社製)を用いた。
【0059】
<マンガン酸化物の平均二次粒径の測定>
マンガン酸化物0.5gを純水50mL中に投入し、10秒間超音波照射を行って調製した分散スラリーを測定装置(マイクロトラックHRA,HONEWELL社製)に所定量投入し、レーザー回折法で粒度分布の測定を行った。得られた粒度分布データから、50%マンガン酸化物粒子の平均二次粒径(D50)を求めた。測定に際し、純水の屈折率を1.33とし、二酸化マンガンの屈折率を2.20とした。
【0060】
<マンガン酸化物のBET比表面積の測定>
二酸化マンガン、及びマンガン酸化物-二酸化マンガン混合物のBET比表面積はBET1点法の窒素吸着により測定した。測定装置にはガス吸着式比表面積測定装置(フローソーブIII,島津社製)を用いた。測定に先立ち、150℃で40分間加熱することで測定試料を脱気処理した。
【0061】
<マンガン酸化物のアルカリ電位の測定>
アルカリ電位は、40重量%KOH水溶液中で次のように測定した。
マンガン酸化物3gに導電剤としてグラファイト(KS-44)を0.9g加えて混合粉体とし、この混合粉体に40%KOH水溶液4mLを加え、マンガン酸化物とグラファイトとKOH水溶液との混合物スラリーとした。この混合物スラリーの電位を水銀/酸化水銀参照電極を基準として、マンガン酸化物のアルカリ電位を測定した。
<マンガン酸化物-カーボン混合物、マンガン酸化物複合電極材料のXRD測定による面間隔(d値)の算出>
X線回折装置(Rigaku社製 Ultima IV)を使用して、マンガン酸化物複合電極材料の回折線を測定した。線源にはCuKα線(λ=1.5405Å)を用い、測定モードはステップスキャン、スキャンスピードは毎分4.0000°、ステップ幅は0.02°、および測定範囲は2θとして5°から80°の範囲で測定した。得られたXRDパターンの回折線をガウス処理して、ピークトップの2θを求め、ブラッグの式(nλ=2dsinθ,n=1)からd値を算出して面間隔とした。
【0062】
<酸素発生電極触媒特性の評価1(実施例1~3、比較例1~4)>
<FTO電極への触媒担持>
フッ素ドープ酸化スズ電極(FTO電極)(SPD研究所社製)へのマンガン酸化物の担持は、以下のように行った。40mgのマンガン酸化物を100mLの超純水中に分散させた後、自動スプレーガン(ST-6,扶桑精機社製)を用いてFTO電極に噴射し、電極を作製した。なお、FTO電極は200℃に熱したホットプレート上に乗せ、噴霧が基板上で滴状とならないように留意した。
【0063】
<電気化学測定1 リニアスウィープボルタンメトリー(FTO電極)>
マンガン酸化物の水の酸化触媒能を評価するため、リニアスイープボルタンメトリーを行った。実験では、作用極に前記の触媒を担持させたFTO電極を用い、対極に白金線、参照極にAg/AgCl(飽和KCl)電極(+0.199V vs. SHE)を用いる三電極系を用いた。電解液には硫酸ナトリウムを用いて、0.5M Na2SO4水溶液を調製し、硫酸を添加してpHを-0.2に調整して使用した。
【0064】
なお、本測定においては、電気化学セルを用い、負方向から電位の掃引を行った。また、該電気化学セルは、作用極を底部に、対極・参照極を上から差し込むような形となっている。作用極と参照極との距離は2mmとした。電位掃引速度は、電流が立ち上がる電位(Onset potential)が判別し易いように留意して10mV/sとした。
以上の評価装置と条件にて、電位1.7V vs. RHEにおける電流密度値、及び0.5mA/cm2における過電圧(平衡電位からの分極)を測定した。
【0065】
<酸素発生電極触媒特性の評価2(実施例4~8、比較例5~8)>
<RDE電極への触媒担持>
回転ディスク電極(RDE電極)へのマンガン酸化物-カーボン混合物触媒の担持は、以下のように行った。マンガン酸化物を1mg含む量のマンガン酸化物-カーボン混合物のエタノールスラリー液と10wt%ナフィオン分散液(DE1021)6.17μLとを混合し、次いで、超純水を加えて全量を500μLとすることで導電性触媒インクを作製した。この導電性触媒インク10μLをグラッシーカーボンRDE電極(直径5mm)に滴下して塗布し、風乾によりエタノールを蒸発させることで、グラッシーカーボンRDE電極にマンガン酸化物―カーボン混合物触媒を担持した。
比較として測定した触媒の担持は、触媒1mg、導電性カーボンブラック(Vulcan XC-72,キャボット社製)4mg、希釈ナフィオン分散液(10wt%ナフィオン分散液(DE1021)、エタノール、水の体積比が1:20:60の混合物)500μLを混合して導電性触媒インクを作製し、そのうち10μLを滴下し、塗布し、次いで、風乾することにより行った。
【0066】
<電気化学測定2 リニアスウィープボルタンメトリー(RDE電極)>
マンガン酸化物-カーボン混合物触媒の水の酸化触媒能を評価するため、リニアスイープボルタンメトリーを行った。実験系としては作用極に前記の触媒を担持させたグラッシーカーボンRDE電極、対極に白金線、参照極にAg/AgCl(飽和KCl)電極(+0.199V vs. SHE)を用いる三電極系を用いた。電解液には硫酸ナトリウムを用い、0.5M Na2SO4水溶液を調製し、0.1M NaOH水溶液を添加してpHを7.5に調整して使用した。水電解の生成物であるプロトンの蓄積を防ぐため、測定中は電極を1600rpmで回転させた。
【0067】
なお、本測定においては、電気化学セルを用い、負方向から電位の掃引を行った。また、該電気化学セルにおいては、作用極・対極・参照極をそれぞれ上から差し込むような形となっている。電位掃引速度は、電流が立ち上がる電位(Onset potential)が判別し易いように留意して5mV/sとした。
以上の評価装置と条件にて、電位1.5V vs. SHEにおける電流密度値、及び1mA/cm2における過電圧(平衡電位からの分極)を測定した。
【0068】
<電気化学測定3 ターフェルプロット(RDE電極)>
マンガン酸化物-カーボン混合物触媒の水の酸化触媒能を評価するため、ターフェルプロットの測定を行った。ターフェルプロットの横軸は電流密度の対数であり、縦軸は電位である。ターフェルプロットの傾きは、電流密度を10倍にするため電位をどれだけ増加させればよいのかを示し、触媒の量や表面積に依存しない活性の指標となる。一定電位で電解を行い電流値が安定した時の値をプロットすることを、電位を段階的に変化させながら繰り返すことで、ターフェルプロットの作製を行った。実験ではリニアスウィープボルタンメトリーと同様に、作用極にマンガン酸化物-カーボン混合物触媒を担持させたグラッシーカーボンRDE電極を用い、対極に白金線、参照極にAg/AgCl(飽和KCl)電極(+0.199V vs. SHE)を用いる三電極系を用いた。電解液には硫酸ナトリウムを用いて、0.5M Na2SO4水溶液を調製し、0.1M NaOH水溶液を添加してpHを7.5に調整して使用した。なお、水電解の生成物であるプロトンの蓄積を防ぐため、測定中は電極を1600rpmで回転させた。
【0069】
<酸素発生電極触媒特性の評価3(実施例9、比較例9~11)>
<PEM型電解槽の構築>
マンガン酸化物-カーボン混合物触媒を使用したPEM型電解槽の構築は、以下のように行った。導電性触媒インクを、RDE電極への担持の場合と同様に作製した。導電性触
媒インク500μLをカーボンペーパー(EC-TP1-060T,ElectroChem Inc.)(形状:4cm×4cm)に塗布し、風乾によりエタノールを蒸発させることで、カーボンペーパーに触媒を担持し、作用極とした。
【0070】
対極用の触媒としては、20wt%白金担持カーボン触媒(20% Platinum
on Vulcan XC-72,Item#PTC20-1,Fuel Cell Earth)を用いた。作用極の作製と同様に、導電性触媒インクの作製、カーボンペーパーへの塗布を行い、風乾により対極の作製を行った。電解質膜としては、ナフィオン117を用いた。電解質膜は、3%過酸化水素水、純水、1M硫酸水溶液、次いで純水中で各1時間煮沸することで洗浄・プロトン化(前処理)を行った。次に、作用極・対極の触媒塗布面で電解質膜を挟み、ホットプレス機(A-010D,FC-R&D社製)を用いて135℃、型締力600kgで10分間ホットプレスすることで膜/電解質接合体(MEA)を製作した。このMEAはPEM型電解槽(3036,FC-R&D社製)の筐体に取り付けた。
【0071】
<電気化学測定4 電流-電圧曲線の測定(PEM型電解槽)>
マンガン酸化物-カーボン混合物触媒の実デバイス中での水の酸化触媒能を評価するために、混合物触媒を用いて構築したPEM型電解槽を用いて、電流-電圧曲線の測定を行った。本測定では、作用極・対極のみの二電極系を用い、印加する電圧を徐々に増加させることで電流-電圧曲線を測定した。PEM型電解槽には、純水を供給した。電圧の増加速度は、電流が立ち上がる電圧が判別し易いように留意して5mV/sとした。
【0072】
<酸素発生電極触媒特性の評価4(実施例10~20、比較例12>
<PEM型電解槽の構築>
マンガン酸化物触媒を析出させた導電性基材の電極材料を使用したPEM型電解槽の構築は、以下のように行った。電極材料(形状:3cm×3cm(実施例10~12)、形状:2cm×2cm(実施例13~20))を作用極、対極用の触媒としては、20wt%白金担持カーボン触媒(20% Platinum on Vulcan XC-72,Item#PTC20-1,Fuel Cell Earth)を用い、導電性触媒インクの作製、カーボンペーパーへの塗布を行い、風乾により対極の作製を行った。電解質膜としては、ナフィオン117を用いた。電解質膜は、3%過酸化水素水、純水、1M硫酸水溶液、次いで純水中で各1時間煮沸することで洗浄・プロトン化(前処理)を行った。次に、作用極・対極の触媒塗布面で電解質膜を挟み、ホットプレス機(A-010D,FC-R&D社製)を用いて135℃、型締力600kgで10分間ホットプレスすることで膜/電解質接合体(MEA)を製作した。このMEAはステンレスメッシュ(#100)2枚を介して、電解運転時でも密着性を向上させ、PEM型電解槽(3036,FC-R&D社製)の筐体に取り付けた。
【0073】
<電気化学測定5 電流-電圧曲線の測定(PEM型電解槽)>
実デバイス中での水の酸化触媒能を評価するために、マンガン酸化物触媒を析出させた導電性基材の電極材料を用いて構築したPEM型電解槽を用いて、常温下で、電流-電圧曲線の測定を行った。本測定では、作用極・対極のみの二電極系を用い、印加する電圧を徐々に増加させることで電流-電圧曲線を測定した。PEM型電解槽には、純水を供給した。電圧の増加速度は、電流が立ち上がる電圧が判別し易いように留意して5mV/sとした。
【0074】
実施例1
マンガン濃度95g/Lの硫酸マンガン水溶液を攪拌し、これに空気を吹き込みながら1.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加してマンガン酸化物を含む硫酸マンガン水溶液を得た。得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン(Mn
3O
4)の単相で
あった。得られた四三酸化マンガン(Mn
3O
4)のXRDパターンを
図1に示す。
【0075】
得られた四三酸化マンガン(Mn
3O
4)45gを、3mol/L硫酸溶液240gが入ったビーカーに浸漬し、60℃で24時間撹拌し、黒色沈殿物のスラリー液を得た。このスラリー液をメンブランフィルターでろ過した後、ろ過物を500mLの純水が入ったビーカーに入れて、1時間水洗する操作を2回繰り返した。次に、メンブランフィルターで再度ろ過した後、再びろ過物を500mLの純水が入ったビーカーに入れた後、スラリーpHが5.9になるまで1mol/LのNaOH溶液で中和し、ろ過、乾燥してマンガン酸化物を得た。得られたマンガン酸化物はγ相の二酸化マンガン(γMnO
2)に帰属されるXRDパターンを示した。このマンガン酸化物の物性を表1に、XRDパターンを
図2に示した。
このマンガン酸化物を用いて、酸素発生電極触媒の特性評価を行った。特性評価結果を同じく表1、
図5に示した。
【0076】
実施例2
硫酸-硫酸マンガン混合溶液の入った電解槽内に、マンガンイオン濃度47g/Lの補給硫酸マンガン液を連続的に添加しながら電解し、マンガン酸化物をチタン陽極上に電析製造した。電解中は、電解電流密度を0.7A/dm2、電解温度を96℃とした。なお、補給硫酸マンガン液は電解槽内の硫酸濃度が32g/Lとなるよう添加し、10日間電解し、電解終了時の電解電圧は、2.3Vであった。
【0077】
得られた電析物を電極から剥離後、平均二次粒径が40μmとなるまで粉砕した後、水洗中和した。次にこのマンガン酸化物をフラッシュ乾燥させ、平均二次粒径40μmのマンガン酸化物を得ると同時に、粉砕時に過粉砕副生したサブミクロン級のマンガン酸化物微粉をフラッシュ乾燥時の集塵機バグフィルターで回収した。このマンガン酸化物微粉の平均二次粒径は0.6μmで、結晶相はγ相であった。このマンガン酸化物微粉の物性を表1に、二次粒径分布図を
図3に、XRDパターンを
図2に示した。また、このマンガン酸化物微粉を用いて、酸素発生電極触媒特性評価を行い、その特性評価結果を同じく表1、
図5に示した。
【0078】
実施例3
硫酸マンガンと硫酸アンモニウムを水に溶解し、マンガンイオン濃度27.6g/L、アンモニウムイオン濃度54g/Lのアンモニウムイオン含有硫酸-硫酸マンガン混合溶液を得た。
このアンモニウムイオン含有硫酸-硫酸マンガン混合溶液を電解液とし、当該電解液中のアンモニウムイオン濃度が54g/L、硫酸濃度が30g/Lで一定になるように硫酸アンモニウム含有硫酸マンガン溶液を連続的に添加しながら電解を行い、電着物を得た。電解電流密度を0.8A/dm2、電解温度を96℃、及び電解時間を25時間とした。
【0079】
電解液中のアンモニウムイオン濃度とマンガンイオン濃度とのモル比(NH
4
+/Mn
2+)は5.98であり、電解終了時の電解電圧は1.93Vであった。
得られた電着物を電極から剥離後、粉砕し、水洗中和、乾燥して、平均二次粒子径22μmのマンガン酸化物を得た。
このマンガン酸化物の物性を表1に、XRDパターンを
図2に示した。また、このマンガン酸化物の特性評価結果を表1、
図5に示した。
【0080】
比較例1
実施例1のマンガン酸化物を製造するための原料として用いた四三酸化マンガン(Mn
3O
4)の物性と特性評価結果を表1、
図5に示した。
【0081】
比較例2
実施例2でフラッシュ乾燥時に得られた平均二次粒径40μmのマンガン酸化物の物性と特性評価結果を表1、
図5に示した。
【0082】
比較例3
実施例2でフラッシュ乾燥時に得られた平均二次粒径40μmのマンガン酸化物を、更に420℃で36時間焼成処理を施した。得られたマンガン酸化物はβ相の二酸化マンガン(βMnO
2)に帰属されるXRDパターンを示した。このマンガン酸化物の物性と特性評価結果を表1、
図5に示し、XRDパターンを
図4に示した。
比較例4
市販の酸化イリジウム触媒(Wako社製)を用いて、酸素発生電極触媒評価を行い、その特性評価結果を表1、
図5に示した。
【0083】
表1、
図5に示されるように、本発明の特定の金属原子価、一次粒径、及び二次粒径を有するマンガン酸化物は、市販の白金族触媒に匹敵する高い酸素発生電極触媒活性を示すことが明らかになった。
【0084】
実施例4
実施例2で得られた平均二次粒径0.6μmのマンガン酸化物微粉0.25gと導電性カーボン(Vulcan XC-72)4.75gを測り取り、メノウ乳鉢で解砕混合した。次に、この解砕混合物をエタノール50mLと直径0.3mmのジルコニアボールの入った容器に入れ、24時間、毎分40回転で回転させボールミル混合した。その後、得られたスラリー液を、メッシュ孔径150μmの篩でジルコニアボールを分離したのち、マンガン酸化物-カーボン混合物のエタノールスラリー液として回収した。これにナフィオン分散液等を加えて電極を作製し、酸素発生電極触媒の特性を評価した。
【0085】
このマンガン酸化物-カーボン混合物のエタノールスラリー液を化学分析したところ、マンガン酸化物とカーボンの合計に対するマンガン酸化物の比率は4.4重量%であった。ここで得られたマンガン酸化物-カーボン混合物のエタノールスラリー液からエタノールを蒸発させて得た混合粉のXRDパターンを
図13に、XRDパターンから導き出される主要回折線のd値を表5に示した。また、各々の比率と特性評価結果を表2に示した。
【0086】
実施例5~8
平均二次粒径0.6μmのマンガン酸化物微粉と導電性カーボン(Vulcan XC-72)の仕込み量以外は、実施例4と同様にして、マンガン酸化物とカーボンの合計に対するマンガン酸化物の含有比率が、9.9重量%、35.5重量%、19.7重量%、及び16.7重量%の各マンガン酸化物-カーボン混合物のエタノールスラリー液を得た。このスラリーを使用した以外は実施例4と同様にして電極を作製し、酸素発生電極触媒の特性を評価した。実施例8で得られたマンガン酸化物-カーボン混合物のエタノールスラリー液からエタノールを蒸発させて得た混合粉のXRDパターンを
図13に、XRDパターンから導き出される主要回折線のd値を表5に示した。また、各々の含有比率と特性評価結果を表2、
図6、
図7に示した。
【0087】
比較例5
マンガン酸化物を入れず、導電性カーボンブラック(Vulcan XC-72)と希釈ナフィオン分散液のみの混合物をグラッシーカーボンRDE電極に担持し、通常の酸素発生電極触媒特性評価を行い、その結果を表2、
図6、
図7に示した。また、この比較例5におけるカーボン粉のXRDパターンを
図13に、XRDパターンから導き出される主要回折線のd値を表5に示した。
【0088】
比較例6
市販の酸化イリジウム触媒(Wako社製)と導電性カーボンブラック(Vulcan
XC-72)と希釈ナフィオン分散液を混合して作製した導電性触媒インクをグラッシーカーボンRDE電極に担持し、酸素発生電極触媒評価を行い、その特性を表2、
図6、
図7に示した。
【0089】
比較例7
20wt%イリジウム担持カーボン触媒(20wt%Iridium on Vulcan XC-72,Item#P40A200,Premetek)と希釈ナフィオン分散液とを混合して作製した導電性触媒インクをグラッシーカーボンRDE電極に担持し、酸素発生電極触媒評価を行い、その特性を
図6、
図7に示した。
【0090】
比較例8
20wt%白金担持カーボン触媒(20wt% Platinum on Vulcan XC-72,Item#PTC20-1,Fuel Cell Earth)と希釈ナフィオン分散液とを混合して作製した導電性触媒インクをグラッシーカーボンRDE電極に担持し、酸素発生電極触媒評価を行い、その特性を
図6、
図7に示した。
【0091】
表2、
図6、
図7に示されるように、本発明のマンガン酸化物を用い、湿式ボールミル混合処理などを施して導電性カーボンとの接触を良好にしたマンガン酸化物-カーボン混合物は、電極触媒活性が引き出された。特に、マンガン酸化物とカーボンの合計に対するマンガン酸化物の含有比率が0.5重量%~40重量%のマンガン酸化物は、市販の白金族触媒に匹敵する高い酸素発生電極触媒活性を示すことが明らかになった。
【0092】
実施例9
実施例5で用いたマンガン酸化物-カーボン混合物のエタノールスラリー液を用いてPEM型電解槽を構築し、酸素発生電極触媒特性評価を行った。その結果を
図8に示した。
【0093】
比較例9
マンガン酸化物を入れず、導電性カーボンブラック(Vulcan XC-72)と希釈ナフィオン分散液のみの混合物を用いてPEM型電解槽(評価3)を構築し、酸素発生電極触媒特性評価を行った。その結果を
図8に示した。
【0094】
比較例10
20wt%イリジウム担持カーボン触媒(20% Iridium on Vulcan XC-72,Item#P40A200,Premetek)と希釈ナフィオン分散液とを混合して作製した導電性触媒インクを用いてPEM型電解槽(評価3)を構築し、酸素発生電極触媒特性評価を行った。その結果を
図8に示した。
【0095】
比較例11
20wt%白金担持カーボン触媒(20wt% Platinum on Vulcan XC-72,Item#PTC20-1,Fuel Cell Earth)と希釈ナフィオン分散液とを混合して作製した導電性触媒インクを用いてPEM型電解槽(評価3)を構築し、酸素発生電極触媒特性評価を行った。その結果を
図8に示した。
【0096】
図8に示されるように、本発明のマンガン酸化物-カーボン混合物は、原理的にエネルギー変換効率が高くなる構造であり触媒の非貴金属化が望まれているPEM型電解槽中においても、市販の白金族触媒に匹敵する高い酸素発生電極触媒活性を示すことが明らかになった。
【0097】
実施例10
実施例2において、チタン陽極板を導電性基材であるカーボンペーパー(TGP-H-060、Toray社)に替え、温度94℃とした以外は、実施例2と同様の条件で15分間電解を行った。電解終了後、水洗、風乾して、3cm×3cmのサイズに切出して電極材料を調製した。電極材料の外観SEM写真(
図10)に示す通り、カーボンペーパーを構成するカーボン繊維(
図9)を被覆するマンガン酸化物触媒が確認された。この電極材料を用いて、<酸素発生電極触媒特性の評価4>の方法に従って、PEM型電解槽を構築し、酸素発生電極触媒特性評価を行った。その結果を表3、
図12に示した。
【0098】
実施例11
実施例10において、電解時間を3分とする以外は、実施例10と同様の条件で電解を行った。電解終了後、水洗、風乾して、3cm×3cmのサイズに切出して電極材料を調製した。電極材料の外観SEM写真(
図11)に示す通り、カーボンペーパーを構成するカーボン繊維(
図9)上に島状に析出するマンガン酸化物触媒が確認された。この電極材料を用いて、<酸素発生電極触媒特性の評価4>の方法に従って、PEM型電解槽を構築し、酸素発生電極触媒特性評価を行った。その結果を表3、
図12に示した。
【0099】
実施例12
実施例10において、導電性基材をチタン網(ST/Ti/20/300/67、Nikkotechno)とする以外は、実施例10と同様の条件で電解を行った。電解終了後、水洗、風乾して、3cm×3cmのサイズに切出して電極材料を調製した。この電極材料を用いて、<酸素発生電極触媒特性の評価4>の方法に従って、PEM型電解槽を構築し、酸素発生電極触媒特性評価を行った。その結果を表3、
図12に示した。
【0100】
比較例12
20wt%白金担持カーボン触媒(20wt% Platinum on Vulcan XC-72,Item#PTC20-1,Fuel Cell Earth)と希釈ナフィオン分散液とを混合して作製した導電性触媒インクを用いて、<酸素発生電極触媒特性の評価4>の方法に従ってPEM型電解槽を構築し、酸素発生電極触媒特性評価を行った。その結果を表3、
図12、
図18~20に示した。
【0101】
実施例13
実施例10において、温度93℃とした以外は、実施例10と同様の条件で14分間電解を行った。電解終了後、水洗、風乾して、2cm×2cmのサイズに切出して電極材料を調製した。この電極材料のXRDパターンを
図14に、XRDパターンから導き出される主要回折線のd値を表6に示した。また、この電極材料を用いて、<酸素発生電極触媒特性の評価4>の方法に従って、PEM型電解槽を構築し、酸素発生電極触媒特性評価を行った。その結果を表4、
図18、19に示した。
【0102】
実施例14
実施例13において、温度94℃とした以外は、実施例13と同様の条件で29分間電解を行った。電解終了後、水洗、風乾して、2cm×2cmのサイズに切出して電極材料を調製した。この電極材料のXRDパターンを
図14に、XRDパターンから導き出される主要回折線のd値を表6に示した。また、この電極材料を用いて、<酸素発生電極触媒特性の評価4>の方法に従って、PEM型電解槽を構築し、酸素発生電極触媒特性評価を行った。その結果を表4、
図18に示した。
【0103】
実施例15
実施例13において、導電性基材であるカーボンペーパー(TGP-H-060、Toray社)の一面をシリコン膜で覆うと共に、温度94℃とした以外は、実施例13と同
様の条件で15分間電解を行った。電解終了後、目視で片面のみが電析されている様子が観測され、これを、水洗、風乾して、2cm×2cmのサイズに切出して電極材料を調製した。この電極材料を切出した断面のSEM写真,EPMA写真を
図16に示した。片面近傍のみにマンガン元素が集中する様子が観測された。この電極材料を用いて、<酸素発生電極触媒特性の評価4>の方法に従って、PEM型電解槽を構築し、酸素発生電極触媒特性評価を行った。その結果を表4、
図18に示した。
【0104】
実施例16
実施例13において、導電性基材であるカーボンペーパー(TGP-H-060、Toray社)を撥水化処理した撥水カーボンペーパー(TGP-H-060H、Toray社)に替え、更にその導電性基材の一面をシリコン膜で覆うと共に、温度93.5℃とした以外は、実施例13と同様の条件で15分間電解を行った。電解終了後、目視で片面のみが電析されている様子が観測され、これを、水洗、風乾して、2cm×2cmのサイズに切出して電極材料を調製した。この電極材料を用いて、<酸素発生電極触媒特性の評価4>の方法に従って、PEM型電解槽を構築し、酸素発生電極触媒特性評価を行った。その結果を表4、
図18に示した。
【0105】
実施例17
実施例13と同様の条件で調製した2cm×2cmの電極材料を、更に後処理として、空気雰囲気下、230℃で2時間加熱処理を行った後、水洗、風乾して、電極材料を調製した。この電極材料を用いて、<酸素発生電極触媒特性の評価4>の方法に従って、PEM型電解槽を構築し、酸素発生電極触媒特性評価を行った。その結果を表4、
図19に示した。
【0106】
実施例18
実施例13と同様の条件で調製した2cm×2cmの電極材料を、更に後処理として、空気雰囲気下、230℃で2時間加熱処理を行った後、1モル/Lの硫酸液中に1時間浸漬し、水洗、風乾して、電極材料を調製した。この電極材料を用いて、<酸素発生電極触媒特性の評価4>の方法に従って、PEM型電解槽を構築し、酸素発生電極触媒特性評価を行った。その結果を表4、
図19に示した。
【0107】
実施例19
実施例13において、導電性基材をチタン網(ST/Ti/20/300/67、Nikkotechno)とし、温度94℃とした以外は、実施例13と同様の条件で15分間電解を行った。電解終了後、水洗、風乾して、2cm×2cmのサイズに切出して電極材料を調製した。この電極材料のXRDパターンを
図15に、XRDパターンから導き出される主要回折線のd値を表6に示した。この電極材料を切出した断面のSEM写真,EPMA写真を
図17に示した。基材内部にまでマンガン元素が分散する様子が観測された。また、この電極材料を用いて、<酸素発生電極触媒特性の評価4>の方法に従って、PEM型電解槽を構築し、酸素発生電極触媒特性評価を行った。その結果を表4、
図20に示した。
【0108】
実施例20
実施例19と同様の条件で調製した2cm×2cmの電極材料を、更に後処理として、空気雰囲気下、230℃で2時間加熱処理を行った後、水洗、風乾して、電極材料を調製した。この電極材料を用いて、<酸素発生電極触媒特性の評価4>の方法に従って、PEM型電解槽を構築し、酸素発生電極触媒特性評価を行った。その結果を表4、
図20に示した。
【0109】
実施例21
実施例19において、温度93.5℃とした以外は、実施例19と同様の条件で30分間電解を行った。電解終了後、水洗、風乾して、2cm×2cmのサイズに切出して電極材料を調製した。この電極材料のXRDパターンを
図15に、XRDパターンから導き出される主要回折線のd値を表6に示した。
【0110】
表3、表4、
図12、
図18~20に示されるように、本発明のマンガン酸化物複合電極材料は、原理的にエネルギー変換効率が高くなる構造であり触媒の非貴金属化が望まれているPEM型電解槽中においても、市販の白金触媒と同等か、または白金触媒を凌ぐ高い酸素発生電極触媒活性を示すことが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明のマンガン酸化物並びにマンガン酸化物-カーボン混合物は、従前の貴金属系触媒に匹敵する高い酸素発生電極触媒活性を有するため、アルカリ下、中性下で行われる工業的な水電解や、PEM型電解槽を用いる水電解において酸素発生用陽極触媒として使用することで、極めて製造原価の低い水素、酸素を得ることが可能となる。
【0112】
また、前記反応系に二酸化炭素を添加等することにより、該二酸化炭素等を陰極において還元して、炭化水素化合物(ギ酸、ホルムアルデヒド、メタノール、メタン、エタン、プロパン等)を製造することもできる。
【0113】
なお、2017年12月14日に出願された日本特許出願2017-239743号及び2018年6月29日に出願された日本特許出願2018-124708号の明細書、特許請求の範囲、図面、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】