(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】形状測定方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/06 20060101AFI20240814BHJP
G01B 11/25 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
G01B11/06 H
G01B11/25 H
(21)【出願番号】P 2020127404
(22)【出願日】2020-07-28
【審査請求日】2023-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100143720
【氏名又は名称】米田 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】新井 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】ルーカス レドゥラルスキー
【審査官】眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-529524(JP,A)
【文献】特開2015-148614(JP,A)
【文献】特許第6653048(JP,B1)
【文献】国際公開第2007/018118(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源からの光に対して、光軸に垂直な方向に周期性を有しかつ光軸に垂直な方向に変位する周期パターンを付与する周期パターン付与手段と、
前記周期パターンが付与された光を測定対象物に向けて照射する対物レンズと、
前記測定対象物に対して前記対物レンズの焦点面を光軸に平行な方向に相対変位させるフォーカス駆動部と、
前記測定対象物からの反射光を検出する光検出器と、
前記光検出器で検出した光強度の振幅に基づいて前記測定対象物の面形状データを求める面形状算出部と、
前記面形状算出部で求められた面形状データから前記測定対象物の形状解析を行なう形状解析部と、を有する形状測定装置を用い、
前記測定対象物はレンズであって、前記測定対象物としてのレンズは、球面または非球面のレンズ部分を有し、
前記測定対象物としてのレンズに対し、前記対物レンズに近い側の面をおもて面とし、前記対物レンズから遠い側の面をうら面とするとき、
前記形状測定装置によって
、前記測定対象物の
前記レンズ部分のおもて面の面形状データを取得するおもて面計測工程と、
前記形状測定装置によって、前記測定対象物の
前記レンズ部分のおもて面を透過して前記測定対象物の
前記レンズ部分のうら面に前記対物レンズの焦点面を合わせることにより、前記測定対象物の
前記レンズ部分のうら面の面形状データを取得するうら面計測工程と、
前記おもて面計測工程で取得された
前記レンズ部分のおもて面形状データと前記うら面計測工程で取得された
前記レンズ部分のうら面形状データとに基づいて、
前記レンズ部分のおもて面形状とうら面形状との差分
または前記レンズ部分の任意の位置における厚み方向の形状データを求める形状解析工程と、
を実行する
ことを特徴とする形状測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の形状測定方法において、
前記測定対象物のレンズ部分の頂点が前記対物レンズの視野内に入る状態で前記測定対象物は前記形状測定装置にセットされる
ことを特徴とする形状測定方法。
【請求項3】
請求項1
または請求項2に記載の形状測定方法において、
前記うら面計測工程において、
前記面形状算出部でうら面形状を算出するにあたっては、
当該測定対象物の屈折率に基づいて補正する第1屈折補正工程を実行する
ことを特徴とする形状測定方法。
【請求項4】
請求項
1から請求
項3のいずれかに記載の形状測定方法において、
前記うら面計測工程において、
前記面形状算出部でうら面形状を算出するにあたっては、
当該測定対象物のおもて面の形状に起因する光の屈折分を補正する第2屈折補正工程を実行する
ことを特徴とする形状測定方法。
【請求項5】
請求項1から請求
項4のいずれかに記載の形状測定方法において、
前記おもて面計測工程を前記うら面計測工程よりも先に実行し、
前記面形状算出部でうら面形状を算出するにあたっては、
前記おもて面計測工程で得られた前記おもて面の形状に基づき、当該測定対象物のおもて面の形状に起因して光が屈折された分を補正する第2屈折補正工程を実行する
ことを特徴とする形状測定方法。
【請求項6】
請求項
1から請求項5
のいずれかに記載の形状測定方法において、
前記形状解析部は、おもて面形状データおよびうら面形状データのうちの少なくとも一方に対してフィッティングを行ない、レンズの頂点を算出する
ことを特徴とする形状測定方法。
【請求項7】
請求項6に記載の形状測定方法において、
前記形状解析部は、レンズのおもて面の頂点とうら面の頂点との距離をレンズ厚みとして算出する
ことを特徴とする形状測定方法
。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の形状測定方法において、
前記おもて面計測工程と前記うら面計測工程とを実行するにあたって、前記測定対象物と前記対物レンズの焦点面とを光軸に平行な方向に相対変位させる一回のストロークのなかで、前記おもて面計測工程と前記うら面計測工程とを連続的に実行する
ことを特徴とする形状測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は形状測定方法に関する。
例えば、光透過性の測定対象物に対しておもて面形状とうら面形状との差分または測定対象物の任意の位置における厚み方向の形状データを得る形状測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機やスマートフォン、ノートパソコンなどの携帯式の小型端末機器にはカメラが搭載され、求められるカメラの性能が格段に上がってきている。カメラ性能の向上にはレンズの精度が求められるので、レンズの精度を検査する形状測定方法が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許5592763
【文献】特許6502113
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レンズの検査にあたっては、接触式の探針(探子、プローブ)でレンズ表面を走査あるいはポイント測定するということが行なわれてきたが、どうしても技術的な課題があった。
1つは、レンズのおもて面を測定した後、レンズうら面を測定する際には、レンズをフリップ(反転)するか、測定装置全体か探針(探子、プローブ)をレンズのうら面に回り込むように移動させる必要がある。このような構成を実現するには装置が大がかりになる。また、おもて面を測定したときの測定軸(座標軸)とうら面を測定するときの測定軸(座標軸)とにずれがあると、その分は測定誤差となる。
【0005】
また、近年ではカメラレンズが極めて小さくなり、かつ、高精度・高分解能の形状検査が求められるようになってきているが、これを接触式の探針(探子、プローブ)で行なうには限界が近づいてきている。
例えばレンズのようなおもて面とうら面の面形状を求め、測定対象物の厚み方向の形状データを高精度かつ高スループットで得られる形状測定方法が切望されている。
【0006】
本発明の目的は、光透過性の測定対象物の厚み方向の形状データを得る形状測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の形状測定方法は、
光源と、
前記光源からの光に対して、光軸に垂直な方向に周期性を有しかつ光軸に垂直な方向に変位する周期パターンを付与する周期パターン付与手段と、
前記周期パターンが付与された光を測定対象物に向けて照射する対物レンズと、
前記測定対象物に対して前記対物レンズの焦点面を光軸に平行な方向に相対変位させるフォーカス駆動部と、
前記測定対象物からの反射光を検出する光検出器と、
前記光検出器で検出した光強度の振幅に基づいて前記測定対象物の面形状データを求める面形状算出部と、
前記面形状算出部で求められた面形状データから前記測定対象物の形状解析を行なう形状解析部と、を有する形状測定装置を用い、
光透過性の測定対象物に対し、前記対物レンズに近い側の面をおもて面とし、前記対物レンズから遠い側の面をうら面とするとき、
前記形状測定装置によって前記測定対象物のおもて面の面形状データを取得するおもて面計測工程と、
前記形状測定装置によって、前記測定対象物のおもて面を透過して前記測定対象物のうら面に前記対物レンズの焦点面を合わせることにより、前記測定対象物のうら面の面形状データを取得するうら面計測工程と、
前記おもて面計測工程で取得されたおもて面形状データと前記うら面計測工程で取得されたうら面形状データとに基づいて、おもて面形状とうら面形状との差分または測定対象物の任意の位置における厚み方向の形状データを求める形状解析工程と、
を実行する
ことを特徴とする。
【0008】
本発明の一実施形態では、
前記うら面計測工程において、
前記面形状算出部でうら面形状を算出するにあたっては、
当該測定対象物の屈折率に基づいて補正する第1屈折補正工程を実行する
ことが好ましい。
【0009】
本発明の一実施形態では、
前記うら面計測工程において、
前記面形状算出部でうら面形状を算出するにあたっては、
当該測定対象物のおもて面の形状に起因する光の屈折分を補正する第2屈折補正工程を実行する
ことが好ましい。
【0010】
本発明の一実施形態では、
前記おもて面計測工程を前記うら面計測工程よりも先に実行し、
前記面形状算出部でうら面形状を算出するにあたっては、
前記おもて面計測工程で得られた前記おもて面の形状に基づき、当該測定対象物のおもて面の形状に起因して光が屈折された分を補正する第2屈折補正工程を実行する
ことが好ましい。
【0011】
本発明の一実施形態では、
前記測定対象物はレンズである
ことが好ましい。
【0012】
本発明の一実施形態では、
前記形状解析部は、おもて面形状データおよびうら面形状データのうちの少なくとも一方に対してフィッティングを行ない、レンズの頂点を算出する
ことが好ましい。
【0013】
本発明の一実施形態では、
前記形状解析部は、レンズのおもて面の頂点とうら面の頂点との距離をレンズ厚みとして算出する
ことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態に係る形状測定システムの概略構成図である。
【
図3】空間パターンフィルタの像を例示する図である。
【
図4】空間パターンフィルタの像を例示する図である。
【
図5】空間パターンフィルタの像の光強度の振幅を例示した図である。
【
図7】形状測定方法の動作を説明するためのフローチャートである。
【
図8】おもて面を探索する様子を例示した図である。
【
図9】面形状算出により得られたおもて面形状を例示する図である。
【
図10】面形状解析により得られたおもて面形状の一例を示す図である。
【
図11】うら面を探索する様子を例示した図である。
【
図12】面形状算出により得られたうら面形状を例示する図である。
【
図13】レンズおもて面プロファイルからレンズうら面プロファイルを減算して、それぞれの位置におけるレンズ厚みを求めた結果の一例を示す図である。
【
図14】うら面を探索する様子を例示した図である。
【
図15】レンズWの光軸が傾斜した状態でステージに設置された状態を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態を図示するとともに図中の各要素に付した符号を参照して説明する。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る形状測定システム100の概略構成図である。
形状測定システム100は、光学観察系である形状測定装置200と、その制御部300と、備える。
図1において、測定対象物はレンズWである。
まず、測定対象物であるレンズWおよびレンズWを設置するステージ210について説明する。
測定対象物であるレンズWの周辺を
図2に示す。
【0016】
レンズWは、例えば、携帯電話機やスマートフォン、ノートパソコンなどの携帯式の小型端末機器のカメラ用レンズであって、直径が例えば10mm以下で厚みが500マイクロメートル程度のものである。レンズは、レンズ部分の周囲にフランジ部を有し、このフランジ部がステージ210に載置されている。ステージ210には孔(ステージ孔211と称することにする)が設けられており、ステージ孔211は、レンズWのレンズ部よりも径大であるが、フランジ部よりも径小である。
【0017】
ステージ210の上面側においてステージ孔211の周囲はフランジ部を載置する設置台面212になっている。
設置台面212は形状測定装置200の光軸に対してできる限り垂直な面になるように仕上げられている。あるいは、設置台面は、ステージ孔211に向けてわずかに傾斜する(円錐形の)スロープ(テーパ)になっていてもよい。そして、フランジ部のうら面側をステージ210の設置台面212に載置したとき、レンズWの光軸が形状測定装置200の光軸とできる限り平行になるようにする。
【0018】
なお、レンズWの光軸が形状測定装置200の光軸とほぼ一致することが望ましいが、わずかにずれていたり、わずかに傾いていたりしても測定はできる。
具体的には、形状測定装置200の対物レンズ250の視野内にレンズWの(おもて面およびうら面の)頂点が入っている限りにおいて、レンズWの光軸と形状測定装置200の光軸とのずれは許容できる。
(顕微鏡の視野のサイズはレンズ倍率にもよるが、例えば0.3mm×0.3mm程度はあるので、この範囲に頂点が入るようにレンズWを設置できればよい。)
【0019】
図1に戻って、形状測定装置200の基本的構成およびその測定原理を説明する。
なお、形状測定装置200の基本的構成およびその測定原理自体は本出願人が保有する特許5592763などによって既知であるが、以下簡単に説明しておく。
形状測定装置200の構成を光路に沿って順に説明していく。
光源205から発射された光は、まず空間パターンフィルタ220(周期パターン付与手段)を通過し、このとき、光に周期パターンが付与される。
【0020】
空間パターンフィルタ220は、一方向において周期性を有する周期的パターン、例えばストライプのようなパターン(格子)を有するフィルタである。
空間パターンフィルタ220としては、周期性を有する任意の周期的パターンでよく、例えば、矩形波パターンや正弦波パターンであってもよい。光がこの空間パターンフィルタ220を通過するときに、光にストライプのパターンが付与される。
【0021】
さらに、空間パターンフィルタ220には、空間パターンフィルタ220を光軸に垂直な方向に変位させる周期パターン駆動部230が付設されている。これにより、空間パターンフィルタ220は、光軸に垂直な方向に移動可能となっている。
空間パターンフィルタ220を光軸に垂直な方向に移動させたときには、光のストライプのパターンも変位する。すなわち、光のストライプパターンのストライプ方向は、光軸に垂直であり、かつ、移動方向に垂直である。
光に付与される周期パターンを
図3に例示する。
図3に示される3つのパターンは、空間パターンフィルタ220の移動により120°(2/3π)ずつシフトされている。
【0022】
周期パターンが付与された光はレンズを通過した後、ビームスプリッタ240で反射して対物レンズ250に向かう。
光は対物レンズ250によって測定対象物(ここではレンズW)に照射される。
対物レンズ250には、対物レンズ250を光軸に沿って変位させるフォーカス駆動部260が付設されている。
周期パターン駆動部230が空間パターンフィルタ220を移動させる工程と、フォーカス駆動部260が対物レンズ250を光軸に沿って移動させる工程と、は同時に並行して実行される。
【0023】
ここで、空間パターンフィルタ220を移動させて周期パターンの位相をシフトさせながら対物レンズ250を変位させて焦点面を移動させていったとする。
そして、対物レンズ250の高さを変えながら測定対象面からの反射光を撮像した像を例示すると
図4のようになる。
焦点面(フォーカス)が測定対象面に合ったときには像(ストライプ)が鮮明に見えるだろう。
逆に、焦点面(フォーカス)が測定対象面から外れているときには像がぼけて見えるだろう。
【0024】
いま、取得画像のなかのある一点(任意のピクセル(画素)と解釈されてもよい)における光強度を対物レンズ250の高さに対してプロットすると
図5のようになるだろう。
焦点(フォーカス)が合う前後では像(ストライプ)が鮮明に見え、その像の明暗のストライプが横にシフトしていくから、ある一点(任意のピクセルと解釈されてもよい)における光強度を対物レンズ250の高さに対してプロットすると、焦点(フォーカス)が合う高さ位置の付近で振れが大きくなるだろう。
逆に、光強度の振れが一番大きいところがフォーカスが合った高さ位置であるといえる。
【0025】
測定対象物(レンズW)で反射した反射光は、対物レンズ250を逆に戻り、ビームスプリッタ240を透過して、光検出器270に入射する。
光検出器270は、受光した光の強度を電気信号に変換する素子であって、例えば、(2次元)CCDイメージセンサあるいはCMOSイメージセンサである。光検出器270からの電気信号は制御部300に送られる。
【0026】
図6は、制御部300の機能ブロック図である。
制御部300の構成および動作を説明する。
制御部300は、モーションコントローラ310と、ホストコンピュータ360と、を備える。
ホストコンピュータ360には、必要に応じて、出力装置(ディスプレイやプリンタ)および入力装置(キーボードやマウス)が接続される。
モーションコントローラ310は、駆動制御部320と、光量調整部350と、を有する。
駆動制御部320は、フォーカス駆動制御部330と、周期パターン駆動制御部340と、を有する。
フォーカス駆動制御部330は、フォーカス駆動部260に駆動指令を与え、この駆動指令に従ってフォーカス駆動部260が対物レンズ250を光軸に沿って変位させる。
周期パターン駆動制御部340は、周期パターン駆動部230に駆動指令を与え、この駆動指令に従って周期パターン駆動部230が空間パターンフィルタ220を光軸に垂直な方向に変位させる。
【0027】
対物レンズ250の移動速度と周期的パターンの位相変化の速度とは、所定の固定された関係(関係式)を有することが好ましく、対物レンズ250の移動速度と周期的パターンの位相変化の速度とはある一定の関係をもって同期制御される。
必須というわけではないが、最も単純で好ましい駆動方法としては、対物レンズ250の移動速度も空間パターンフィルタ220の移動速度もそれぞれ等速移動とすることである。対物レンズ250の移動は遅め、空間パターンフィルタ220の移動は速めの方が測定の高さ分解能は高くなる。
画像のサンプリング間隔は短い方がよいのはもちろんである。
【0028】
光量調整部350は、光源205の光量を調整する。
【0029】
ホストコンピュータ360は、CPU(CentralProcessingUnit)やメモリ(ROM、RAM)等を備えて構成され、所定の測定制御プログラムに従ってモーションコントローラ310を介して形状測定装置200の動作制御をするとともに、形状測定装置200からの検出データを演算処理して測定対象物(レンズW)の形状を求める。
ホストコンピュータ360は、さらに、記憶部370と、演算処理部380と、を備える。
記憶部370は、測定対象物(レンズW)の形状に関する基本データ(設計データ、曲率、屈折率など)、測定で得られた測定データ、および、測定動作全体を制御する測定制御プログラムを格納する。CPU(中央処理装置)で測定制御プログラムを実行することにより測定動作が実現される。
【0030】
演算処理部380は、面形状算出部381と、形状解析部382と、を有する。
面形状算出部381と形状解析部382との処理動作はフローチャートを参照しながら後述する。
【0031】
図7は、本実施形態に係る形状測定方法の動作を説明するためのフローチャートである。
まず、ST110において、レンズWのおもて面を探索する。
これは、前述のように、周期パターンの位相をシフトさせながら、レンズのおもて面付近で対物レンズ250の焦点面(フォーカス)を(対物レンズ250の)光軸に平行に変位させ、このとき反射光を光検出器270で受光する(
図8)。そして、ST120において、レンズおもて面の面形状を算出する。この工程は、面形状算出部381によって実行される。
【0032】
光検出器270で受光した光の光強度を対物レンズ250の高さに対してプロットし、光強度の振れが一番大きい高さ位置をフォーカスが合った高さ位置として求める。対物レンズ250の焦点距離は既知であるから、対物レンズ250の位置からレンズ面の高さ(位置)がわかる。このようにしてレンズおもて面をもとめた結果の一例を
図9に示す。
【0033】
2次元光検出器270のピクセルごとに光強度の振れが一番大きい高さ位置を求めるようにすれば、光検出器270の解像度レベルの精度でレンズ表面の高さマップ(高さプロファイル、等高線プロファイル、等高線図、コンターマップ)が求められる。
ただし、対物レンズ250の横解像度(分解能)にも限界はあるし、光検出器270のピクセルごとにフーリエ変換、逆フーリエ変換等の演算処理を行なうことにも演算能力の限界がある。必要とされる精度に応じて、4コ、9コ、25コなど、ピクセル(画素)をまとめるフィルタリングを行なって、サブエリア(小エリア)ごとにレンズ表面の高さを求めるようにするのがよい。
【0034】
次に、求められたレンズおもて面の面形状に対し、ST130において、面形状解析を行なう。
この工程は、形状解析部382により実行される。
本例では、測定対象物はレンズであって、取得されたレンズおもて面の面形状は、球面レンズの一部(あるいは非球面レンズの一部)であることがわかっているので、球面フィッティング(あるいは設計値として与えられている非球面式によるフィッティング)を行なって、レンズおもて面の頂点位置の算出、および、頂点を中心とする同心円の等高線を求める。
図10は、面形状解析により得られた結果の一例である。視野の中心を星マークで表わし、レンズおもて面の頂点位置を点Cで表わしている。
【0035】
次は、レンズうら面の測定を行なう。
まず、ST140において、レンズWのうら面を探索する。
図11は、対物レンズ250の焦点面を光軸方向に移動させながらレンズWのうら面を探索する様子を例示する図である。
レンズおもて面を測定した後、ステージ210に設置したレンズWはそのままにして、対物レンズ250を降下させて、レンズWのうら面を探索する。つまり、対物レンズ250から照射される光は、レンズおもて面を通過し、レンズうら面付近で焦点(フォーカス)を結ぶ。
【0036】
このように測定光がレンズおもて面を通過してレンズうら面を測定するので、レンズうら面の測定にあたって、レンズうら面を上側(対物レンズ250に近い側)に持ってくるためにレンズをフリップ(反転)させたりする必要はない。
また、レンズうら面を測定するために、レンズうら面側に第2の形状測定装置200を用意するなどということも必要ない。
【0037】
なお、測定光の一部はレンズおもて面で反射し、対物レンズ250に戻ってくる割合もゼロではないが、うら面に焦点が合ったときの反射光の強度に比べれば迷光が測定に与える影響はほぼないといってよい。
(本実施形態の測定原理からいって、おもて面からの迷光の光強度の振幅はほぼ変動がなく一定とみなしてよいのに対し、うら面に焦点が合ったときの反射光の強度の振幅は十分に大きい。)
【0038】
レンズうら面からの反射光に基づいてレンズうら面の面形状を算出する(ST150)。
この工程は、面形状算出部381によって実行される。
光検出器270で受光した光の光強度の振れ(振幅)の大きさからレンズうら面形状を算出する原理自体はこれまでの説明と同じであるから重複する説明は割愛する。
レンズうら面の面形状(高さマップ、高さプロファイル、等高線プロファイル、等高線図、コンターマップ)をもとめた結果の一例を
図12に示す。
【0039】
ここまでの工程で、レンズおもて面のプロファイルとレンズうら面のプロファイルとが求まっているので、おもて面とうら面とで差分をとれば、それぞれの位置における測定対象物の厚みが求められる。
このような形状データ解析処理は、形状解析部382で実行される。
例えば、
図13は、レンズおもて面プロファイルからレンズうら面プロファイルを減算して、それぞれの位置におけるレンズ厚みを求めた結果の一例である。
【0040】
おもて面の測定とうら面の測定にあたり、測定対象物を動かさず、かつ、同じ対物レンズ250および光検出器270を使用して、ただ対物レンズ250の高さを光軸に沿って移動させただけである。したがって、
図9(ST120)のおもて面プロファイルと
図12(ST150)のうら面プロファイルとでデータの位置(横方向の位置)が完全に対応している。つまり、位置合わせ等を行なう必要なしに、単純におもて面とうら面とで差分をとるだけで極めて正確な対象物の厚みを求めることができる。例えば、ガラス板の厚みや表裏面の平行度等を評価するには最適な方法である。
【0041】
ここで、より正確な結果を得るため、ST160において、うら面形状データを補正しておくことが望ましい。
うら面を測定するにあたって、測定光がおもて面を通過し、測定対象物内を通ることになるので、反射光の光路にはおもて面の形状(曲率)および測定対象物自体の屈折率の影響が含まれている。
まず、測定対象物(レンズW)自体の屈折率の影響により、対物レンズ250の焦点距離f0は短くなるので、その分を補正する必要がある(第1屈折補正工程)。
(測定対象物の屈折率n2が空気の屈折率n1(=1.0)よりも小さければ、補正後焦点距離f´は対物レンズ250の焦点距離f0より長くなる。)
【0042】
補正にあたって使用する測定対象物(レンズW)の屈折率の値n2は、測定対象物(レンズW)の材質から得られる。
また、対物レンズ250の焦点距離f0の変化率(変化量)は、測定光が通過する測定対象物(レンズW)の厚みにも依存する。
補正に使用する測定対象物(レンズW)の厚みの考え方として、1つの考え方は、測定対象物(レンズW)の設計値として与えられている測定対象物(レンズW)の厚みを使用することである。
対物レンズ250自体の焦点距離f0と、測定対象物(レンズW)の屈折率n2と、設計値で与えられる測定対象物(レンズW)の厚みと、を考え合わせれば、うら面に焦点が合ったときに、対物レンズ250から焦点までの距離で空気と測定対象物(レンズW)との光路比率は計算で求められる。
【0043】
もう一つの考え方は、うら面に焦点が合ったときには、対物レンズ250から焦点までの間の光路はすべて測定対象物(レンズW)であると仮定して補正することである。
図14は誇張した図であるが、うら面側に焦点があったとき、対物レンズ250から焦点までの間の光路はすべて測定対象物(レンズW)と考えてもよい程度に対物レンズ250と測定対象物のおもて面とは近接する。(あるいは、うら面を測定するときに対物レンズ250と測定対象物のおもて面とが近位する程度の焦点距離を有する対物レンズ250を使用すると考えてもよい。)
【0044】
次に、測定対象物がレンズである場合は、おもて面のレンズの曲率によっても光路は屈折することになる。
レンズおもて面の曲率は、レンズの設計値で与えられるとしてもよいし、レンズおもて面の形状を先に求めている場合には、すでに測定で得られたレンズおもて面形状から得られた形状データ(曲率等)を用いて屈折分を補正するようにしてもよい(第2屈折補正工程)。
【0045】
図14中には、補正式の一例を示した。
この補正式において、ROCは、ワークWのおもて面形状の半径であり、前述のように、フィッティングで得られた半径か、または、測定対象物(レンズW)の設計値(設計式)に基づく半径である。
【0046】
ST170として、測定対象物がレンズWである場合、レンズ厚みとして、おもて面の頂点とうら面の頂点との距離をレンズ厚みとして算出する。
おもて面の頂点については、フィッティングによって頂点を算出済みである(ST130、
図10)。
うら面についてもフィッティングによって頂点を算出するようにしてもよい。
そして、おもて面の頂点とうら面の頂点との距離をレンズ厚みとして求める。
【0047】
あるいは、レンズうら面については、視野の中心にうら面の頂点があると考えてもよい。
図15は誇張した図であるが、何らかの理由で測定対象物であるレンズWの光軸が傾斜した状態でステージ210に設置されたとする。この場合、レンズおもて面の頂点はレンズWの傾斜に起因して視野中の中心から外れた位置になるが、うら面についてはレンズがステージ210(ステージ孔211)の真ん中に設置されていれば、レンズ光軸の傾斜に関わらず、ほぼ視野の中心にあると考えてもよい。
【0048】
以上説明したように、本実施形態の形状測定システム100によれば、光透過性に測定対象物(例えばレンズ)のおもて面およびうら面の面形状データを取得し、おもて面形状データとうら面形状データとから測定対象物の厚み方向の形状データを得ることができる。
【0049】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
光に周期パターンを付与する構成としては移動可能に設けられた空間パターンフィルタ220を通過させる構成の他、種々の構成が採用し得る。
例えば、FLCoS(強誘電性液晶ディスプレイFerroelectric Liquid Crystal Display)やDMD(デジタルミラーデバイス、Digital Mirror Device)を光路中に組み込んで、光をFLCoSやDMDで反射させる際に、光に周期パターンを付与するようにしてもよい。
【0050】
上記実施形態の説明では、対物レンズ250および周期パターンは停止することなしに動き続けることとしたが、旧来の方式を採用して、対物レンズ250を一旦停止し、その状態で周期パターンをシフト(90°ずつや120°ずつなど)させて、一の対物レンズ250の高さ位置ごとに位相が異なる複数枚の画像を撮るようにしてもよい。
また、周期パターンは周期的変化を一方向にもつパターン(例えばストライプ)を例に挙げたが、この他、周期的変化を2方向(例えば十字格子)やそれ以上にもつ周期パターンを用いることもできる(例えば特許6502113に開示されている)。
【0051】
上記実施形態では、まず、測定対象物(例えばレンズW)のおもて面の付近で焦点探索し、この結果からおもて面の高さデータを得る。
これとは別の焦点探索として、測定対象物(例えばレンズW)のうら面の付近で焦点探索し、この結果からうら面の高さデータを得るとした。
原理的には、測定対象物のうら面からおもて面にかけて一回のストロークで連続的に探索することもできる。
この場合、対物レンズ250の高さ方向の移動が一回でよいので、測定効率を向上させることができると期待できる。
【0052】
ただし、この場合、光強度の振幅のピークが二箇所(おもて面とうら面)表われることになる。
フーリエ変換、逆フーリエ変換等の演算処理で二箇所のピーク位置を求めるのは不可能ではないが、やや面倒な処理を伴うし、やや精度が落ちるかもしれないという懸念はある。
したがって、現状としては、おもて面側の探索とうら面側の探索とは別工程として分離しておくのが得策と考えられる。
【0053】
形状解析で求める測定対象物の形状データとしては、上記の例のほか、測定対象物がレンズの場合、レンズの偏芯(偏心)もあるとよい。
おもて面の曲面の頂点とうら面の曲面の頂点とを結んだ線が光軸である。
これに対し、レンズおもて面側の外形円の中心(おもて円の中心)と、レンズうら面側の外形円の中心(うら円の中心)と、を結ぶ線を外形に基づく中心線とする。測定対象物の形状データとして、光軸と中心線とのずれをレンズ偏芯(偏心)として求める。(レンズ偏芯(偏心)には横ずれ(シフト)と傾斜(チルト)がある。)
【0054】
上記実施形態だけではレンズの外形に基づく中心線を求めることは難しい場合、これについては次のように考えてもよい。
別途の形状測定装置(例えば画像測定装置)でレンズを形状測定して得られる形状データを利用する。あるいは、上記実施形態において、ステージと対物レンズとを高精度に横方向(X軸方向、Y軸方向)にも相対移動できるようにして、レンズの径(直径)を測定できるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0055】
形状測定システム 100
形状測定装置 200
光源 205
ステージ 210
ステージ孔 211
設置台部 212
空間パターンフィルタ 220
周期パターン駆動部 230
ビームスプリッタ 240
対物レンズ 250
フォーカス駆動部 260
光検出器 270
制御部 300
モーションコントローラ 310
駆動制御部 320
フォーカス駆動制御部 330
周期パターン駆動制御部 340
光量調整部 350
ホストコンピュータ 360
記憶部 370
演算処理部 380
面形状算出部 381
形状解析部 382。