IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クラレの特許一覧

<>
  • 特許-液晶ディスプレイ保護板 図1
  • 特許-液晶ディスプレイ保護板 図2
  • 特許-液晶ディスプレイ保護板 図3
  • 特許-液晶ディスプレイ保護板 図4
  • 特許-液晶ディスプレイ保護板 図5
  • 特許-液晶ディスプレイ保護板 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】液晶ディスプレイ保護板
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1333 20060101AFI20240814BHJP
   G02F 1/13363 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
G02F1/1333
G02F1/13363
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021564016
(86)(22)【出願日】2020-12-09
(86)【国際出願番号】 JP2020045935
(87)【国際公開番号】W WO2021117788
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2023-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2019223420
(32)【優先日】2019-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】大澤 侑史
(72)【発明者】
【氏名】山野 正晴
(72)【発明者】
【氏名】多賀 翔
【審査官】植田 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-050550(JP,A)
【文献】特開2017-125185(JP,A)
【文献】国際公開第2006/068200(WO,A1)
【文献】特開2018-060014(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0104519(KR,A)
【文献】特開2002-311240(JP,A)
【文献】国際公開第2018/199213(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/162369(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/119457(WO,A1)
【文献】特開2017-167514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1333
G02F 1/1335-1/13363
G02B 5/30
B29C 48/00-48/96
B32B 7/023
C08J 5/00-5/02,5/12-5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
位相差調整層の両面に基材層が積層された樹脂板を含み、
前記位相差調整層は、光弾性係数(C)の絶対値が10.0×10-12/Pa以下であり、かつ、下記方法にて測定される配向複屈折(Δn)の絶対値が10.0×10-4~100.0×10-4である透明熱可塑性樹脂(A)を含み、厚みが0.1~0.3mmであり、
前記基材層は、光弾性係数(C)の絶対値が10.0×10-12/Pa以下であり、かつ、下記方法にて測定される配向複屈折(Δn)の絶対値が10.0×10-4未満である透明熱可塑性樹脂(B)を含み、厚みが0.5~4.0mmであり、
前記位相差調整層のガラス転移温度をTg、前記基材層のガラス転移温度をTgとしたとき、Tg<Tgであり、
前記樹脂板の面内のリタデーション値が50~330nmである、液晶ディスプレイ保護板。
[配向複屈折の測定方法]
透明熱可塑性樹脂をプレス成形して、1.0mm厚の樹脂板を得る。得られた樹脂板の中央部から、幅20mm、長さ50mmの試験片を切り出し、加熱チャンバー付きオートグラフにセットする。チャック間距離は20mmとする。ガラス転移温度より10℃高い温度で3分間保持した後、3mm/分の速度で一軸延伸する。延伸率は100%とする。延伸後のチャック間距離は40mmとなる。延伸後の試験片を加熱チャンバー付きオートグラフから取り外し、23℃に冷却した後、厚み(d)を測定し、中央部分のリタデーション値を、測定波長589.5nmの条件で測定する。得られたリタデーション値を試験片の厚み(d)で除することで、配向複屈折の値を算出する。
【請求項2】
前記樹脂板は、幅17cm、長さ22cmの範囲内の面内のリタデーション値の標準偏差が15.0nm以下である、請求項1に記載の液晶ディスプレイ保護板。
【請求項3】
前記基材層のガラス転移温度(Tg)が115℃以上である、請求項1又は2に記載の液晶ディスプレイ保護板。
【請求項4】
透明熱可塑性樹脂(A)が芳香族ビニル単量体単位を含み、
透明熱可塑性樹脂(A)中の前記芳香族ビニル単量体単位の含有量をV[質量%]とし、前記位相差調整層の厚みをT[mm]としたとき、下記式(1)を満たす、請求項1~3のいずれか1項に記載の液晶ディスプレイ保護板。
6.0≦V×T≦30.0・・・(1)
【請求項5】
透明熱可塑性樹脂(A)の配向複屈折(Δn )及び透明熱可塑性樹脂(B)の配向複屈折(Δn )はいずれも負である、請求項1~4のいずれか1項に記載の液晶ディスプレイ保護板。
【請求項6】
前記位相差調整層は、非変性のメタクリル系樹脂及びポリカーボネート系樹脂を含まず、前記基材層は、ポリカーボネート系樹脂を含まない、請求項1~5のいずれか1項に記載の液晶ディスプレイ保護板。
【請求項7】
さらに、前記樹脂板の少なくとも一方の表面に硬化被膜を備える、請求項1~6のいずれか1項に記載の液晶ディスプレイ保護板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイ保護板に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、及び、液晶ディスプレイとタッチパネルとを組み合わせたタッチパネルディスプレイにおいては、表面の傷付き防止等のため、その前面側に保護板が設けられる場合がある。本明細書では、この保護板のことを「液晶ディスプレイ保護板」と称す。
液晶ディスプレイ保護板は、少なくとも1層の熱可塑性樹脂層からなる樹脂板、及び必要に応じて樹脂板の少なくとも一方の表面に形成された硬化被膜を含む。
【0003】
例えば、特許文献1には、メタクリル系樹脂板と、その少なくとも一方の表面に形成された硬化被膜とを含み、携帯型情報端末の表示窓保護板として好適な耐擦傷性樹脂板が開示されている(請求項1、2、7、段落0010等)。特許文献2には、ポリカーボネート系樹脂層の一方の表面にメタクリル系樹脂層を積層した積層板と、この積層板のメタクリル系樹脂層上に形成された硬化被膜とを含む液晶ディスプレイカバー用ポリカーボネート系樹脂積層体が開示されている(請求項1、段落0008等)。
【0004】
液晶ディスプレイ保護板は、液晶ディスプレイの前面側(視認者側)に設置され、視認者はこの保護板を通して液晶ディスプレイの画面を見る。ここで、液晶ディスプレイ保護板は液晶ディスプレイからの出射光の偏光性をほとんど変化させないため、偏光サングラス等の偏光フィルタを通して画面を見ると、出射光の偏光軸と偏光フィルタの透過軸とがなす角度によっては、画面が暗くなり、画像の視認性が低下する場合がある(ブラックアウト現象)。
【0005】
そこで、偏光フィルタを通して液晶ディスプレイの画面を見る場合の画像の視認性の低下を抑制しうる液晶ディスプレイ保護板が検討されている。例えば、特許文献3には、樹脂板の少なくとも一方の表面に硬化被膜が形成された耐擦傷性樹脂板からなり、面内のリタデーション値(「Re値」とも言う。)が85~300nmである液晶ディスプレイ保護板が開示されている(請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-299199号公報
【文献】特開2006-103169号公報
【文献】特開2010-085978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3において、樹脂板は好ましくは、ポリカーボネート系樹脂層の少なくとも一方の表面にメタクリル系樹脂層が積層された積層板である(請求項6)。この積層板では例えば、樹脂板の厚みに応じて成形条件を調整することで、ポリカーボネート系樹脂層の複屈折を調整し、液晶ディスプレイ保護板のRe値を好適な範囲内に調整することができる(段落0036等)。
【0008】
応力と複屈折との関係、及び、配向複屈折と応力複屈折と光弾性係数との関係を示すイメージ図を図6に示す。
特許文献3に用いられているポリカーボネート系樹脂は、光弾性係数の絶対値が90×10-12/Paと非常に大きく、わずかな応力でRe値が変化する。そのため、ポリカーボネート系樹脂を用いる場合、光学的に均一な液晶ディスプレイ保護板を得ることが難しい。例えば、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察すると、Re値のバラツキに起因して、虹ムラが観察される恐れがある。
【0009】
一方、特許文献1に用いられているメタクリル系樹脂は、光弾性係数の絶対値が3.2×10-12/Paと小さく、応力でRe値が変化しにくい。そのため、メタクリル系樹脂を用いる場合、光学的に均一な液晶ディスプレイ保護板を得ることはできる。しかしながら、メタクリル系樹脂は、配向複屈折の絶対値が4.0×10-4と小さいため、厚みにもよるが、得られる液晶ディスプレイ保護板のRe値は20nm程度と小さくなる傾向がある。そのため、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察すると、出射光の偏光軸と偏光フィルタの透過軸とがなす角度によっては、画面が真っ暗になるブラックアウトが発生し、画像の視認性が低下する恐れがある。
【0010】
また、一般的に、液晶ディスプレイ保護板のRe値が好適な範囲より大きい場合、偏光フィルタを通して視認した場合に可視光域の各波長の光透過率の差が大きくなり、様々な色が見えて視認性が低下する恐れがある(色付き現象)。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察した際の、虹ムラ、ブラックアウト、及び色付き等の視認性の低下を抑制することが可能な液晶ディスプレイ保護板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の[1]~[7]の液晶ディスプレイ保護板を提供する。
[1] 位相差調整層の両面に基材層が積層された樹脂板を含み、
前記位相差調整層は、光弾性係数(C)の絶対値が10.0×10-12/Pa以下であり、かつ、幅20mm、長さ40mm、厚み1mmの試験片を、ガラス転移温度より10℃高い温度で3mm/分の速度で100%の延伸率で一軸延伸し、当該試験片の中央部分の面内のリタデーション値を測定して求められる配向複屈折(Δn)の絶対値が10.0×10-4~100.0×10-4である透明熱可塑性樹脂(A)を含み、
前記基材層は、光弾性係数(C)の絶対値が10.0×10-12/Pa以下であり、かつ、幅20mm、長さ40mm、厚み1mmの試験片を、ガラス転移温度より10℃高い温度で3mm/分の速度で100%の延伸率で一軸延伸し、当該試験片の中央部分の面内のリタデーション値を測定して求められる配向複屈折(Δn)の絶対値が10.0×10-4未満である透明熱可塑性樹脂(B)を含み、
前記位相差調整層のガラス転移温度をTg、前記基材層のガラス転移温度をTgとしたとき、Tg<Tgであり、
前記樹脂板の面内のリタデーション値が50~330nmである、液晶ディスプレイ保護板。
【0013】
[2] 前記樹脂板は、幅17cm、長さ22cmの範囲内の面内のリタデーション値の標準偏差が15.0nm以下である、[1]の液晶ディスプレイ保護板。
[3] 前記基材層のガラス転移温度(Tg)が115℃以上である、[1]又は[2]の液晶ディスプレイ保護板。
[4] 前記位相差調整層の厚みをT、前記基材層の合計厚みをTとしたとき、T<Tである、[1]~[3]のいずれかの液晶ディスプレイ保護板。
【0014】
[5] 透明熱可塑性樹脂(A)が芳香族ビニル単量体単位を含み、
透明熱可塑性樹脂(A)中の前記芳香族ビニル単量体単位の含有量をV[質量%]とし、前記位相差調整層の厚みをT[mm]としたとき、下記式(1)を満たす、[1]~[4]のいずれかの液晶ディスプレイ保護板。
6.0≦V×T≦30.0・・・(1)
[6] さらに、前記樹脂板の少なくとも一方の表面に硬化被膜を備える、[1]~[5]のいずれかの液晶ディスプレイ保護板。
[7] 前記樹脂板は押出成形板である、[1]~[6]のいずれかの液晶ディスプレイ保護板。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察した際の、虹ムラ、ブラックアウト、及び色付き等の視認性の低下を抑制することが可能な液晶ディスプレイ保護板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る第1実施形態の液晶ディスプレイ保護板の模式断面図である。
図2】本発明に係る第2実施形態の液晶ディスプレイ保護板の模式断面図である。
図3】本発明に係る一実施形態の押出成形板の製造装置の模式図である。
図4】比較例用の液晶ディスプレイ保護板の模式断面図である。
図5】比較例用の液晶ディスプレイ保護板の模式断面図である。
図6】応力と複屈折との関係、及び、配向複屈折と応力複屈折と光弾性係数との関係を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
一般的に、薄膜成形体に対しては、厚みに応じて、「フィルム」、「シート」、又は「板」の用語が使用されるが、これらの間に明確な区別はない。本明細書で言う「樹脂板」には、「樹脂フィルム」及び「樹脂シート」が含まれるものとする。
本明細書において、一般的な材料のガラス転移温度は「Tg」で表す。
【0018】
[液晶ディスプレイ保護板]
本発明は、液晶ディスプレイ保護板に関する。液晶ディスプレイ保護板は、液晶ディスプレイ、及び、液晶ディスプレイとタッチパネルとを組み合わせたタッチパネルディスプレイの保護用途に好適に用いることができる。
本発明の液晶ディスプレイ保護板は、位相差調整層の両面に基材層が積層された樹脂板を含み、さらに好ましくは硬化被膜を含む。樹脂板は、好ましくは押出成形板である。
位相差調整層は、特定の光学特性を有する透明熱可塑性樹脂(A)を含み、基材層は、特定の光学特性を有する透明熱可塑性樹脂(B)を含む。位相差調整層のガラス転移温度をTg(℃)、基材層のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、Tg<Tgである。樹脂板の面内のリタデーション値(「Re値」とも言う。)は、50~330nmである。
【0019】
図1図2は、本発明に係る第1、第2実施形態の液晶ディスプレイ保護板の模式断面図である。図中、符号1、2は液晶ディスプレイ保護板、符号16は樹脂板、符号21は位相差調整層、符号22は基材層、符号31は硬化被膜をそれぞれ示す。
第1実施形態の液晶ディスプレイ保護板1は、位相差調整層21の両面に基材層22が積層された3層構造の樹脂板16からなる。
第2実施形態の液晶ディスプレイ保護板2は、位相差調整層21の両面に基材層22が積層された3層構造の樹脂板16の少なくとも一方の表面に硬化被膜31が形成されたものである。図2に示す例では、樹脂板16の両面に硬化被膜31が形成されている。
液晶ディスプレイ保護板の構成は図示例に限らず、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜設計変更が可能である。
【0020】
本発明において、位相差調整層は、光弾性係数(C)の絶対値が10.0×10-12/Pa以下であり、幅20mm、長さ40mm、厚み1mmの試験片を、ガラス転移温度より10℃高い温度で3mm/分の速度で100%の延伸率で一軸延伸し、一軸延伸後の試験片の中央部分の面内のリタデーション値を測定して求められる配向複屈折(Δn)の絶対値が10.0×10-4~100.0×10-4である透明熱可塑性樹脂(A)を含む。
【0021】
「リタデーション」とは、分子主鎖方向の光とそれに垂直な方向の光との位相差である。一般的に高分子は加熱溶融成形されることで任意の形状を得ることができるが、加熱及び冷却の過程において発生する応力及び分子の配向等によってリタデーションが発生することが知られている。なお、本明細書において、「リタデーション」は特に明記しない限り、面内のリタデーションを示すものとする。
【0022】
一般的に、樹脂板のRe値は、下記式(i)で表される。
[樹脂板のRe値]=[複屈折(ΔN)]×[厚み(d)]・・・(i)
複屈折(ΔN)は、下記式(ii)で表される。
[複屈折]=[応力複屈折]+[配向複屈折]・・・(ii)
応力複屈折、配向複屈折はそれぞれ、下記式(iii)、(iv)で表される。
[応力複屈折]=[光弾性係数(C)]×[応力]・・・(iii)
[配向複屈折]=[固有複屈折]×[配向度]・・・(iv)
式(iv)において、配向度は0~1.0の範囲の値である。
応力と複屈折との関係、及び、配向複屈折と応力複屈折と光弾性係数との関係を示すイメージ図を図6に示す。
【0023】
本発明では、図6に模試的に示される光弾性係数と配向複屈折で透明熱可塑性樹脂(A)及び透明熱可塑性樹脂(B)の光学特性を特定している。
本発明の液晶ディスプレイ保護板では、上記特定の光学特性を有する透明熱可塑性樹脂(A)を含む位相差調整層を含むことで、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察した際の、虹ムラ、及びブラックアウト等の視認性の低下を抑制することが可能である。
【0024】
本明細書において、「樹脂板のRe値」は、特に明記しない限り、幅17cm、長さ22cmの測定範囲内の約11万点の複屈折画素数のRe値の平均値である。「樹脂板のRe値の標準偏差」は、特に明記しない限り、幅17cm、長さ22cmの測定範囲内の約11万点の複屈折画素数のRe値の標準偏差である。
【0025】
樹脂板のRe値は、50~330nmであり、好ましくは70~250nm、より好ましくは80~200nm、特に好ましくは90~150nmである。Re値が上記下限値未満では、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察した際、出射光の偏光軸と偏光フィルタの透過軸との関係によらず、ブラックアウトが発生する恐れがある。Re値が上記上限値超では、偏光フィルタを通して視認した際、可視光域の各波長の光透過率の差が大きくなり、様々な色が見えて視認性が低下する恐れがある(色付き現象)。
【0026】
樹脂板のRe値の標準偏差は、小さい方が、Re値のバラツキが少なく、好ましい。Re値の標準偏差は、好ましくは15nm以下、より好ましくは10nm以下、さらに好ましくは7nm以下、特に好ましくは5nm以下、最も好ましくは4nm以下である。Re値の標準偏差が上記上限値以下であると、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察した際、Re値のバラツキに起因する虹ムラが抑制され、視認性が向上する。
【0027】
樹脂板のRe値の平均値と標準偏差は例えば、フォトニックラティス社製のリタデーション測定器「WPA-100-L」を用い、後記[実施例]の項に記載の方法にて測定することができる。
【0028】
樹脂板の全体の厚み(d)は特に制限されず、好ましくは0.2~5.0mm、より好ましくは0.5~4.0mm、特に好ましくは1.0~3.5mmである。薄すぎると液晶ディスプレイ保護板の剛性が不充分となる恐れがあり、厚すぎると液晶ディスプレイ又はこれを含むタッチパネルディスプレイの軽量化の妨げになる恐れがある。
【0029】
(位相差調整層)
本発明の液晶ディスプレイ保護板に含まれる樹脂板は、位相差調整層を含む。位相差調整層は液晶ディスプレイ保護板のRe値を主に決定する層であり、特定の光学特性を有する透明熱可塑性樹脂(A)を含む。
【0030】
<透明熱可塑性樹脂(A)>
透明熱可塑性樹脂(A)の光弾性係数(C)の絶対値は、10.0×10-12/Pa以下であり、好ましくは8.0×10-12/Pa以下、より好ましくは6.0×10-12/Pa以下、特に好ましくは5.0×10-12/Pa以下、最も好ましくは4.0×10-12/Pa以下である。光弾性係数(C)の絶対値が上記上限値以下であると、押出成形等の成形加工時に発生する残存応力による応力複屈折が小さく(図6を参照されたい。)、液晶ディスプレイ保護板のRe値の標準偏差を低減できる。その結果、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察した際、Re値のバラツキに起因する虹ムラが抑制され、視認性が向上する。
【0031】
透明熱可塑性樹脂(A)の配向複屈折(Δn)の絶対値は、10.0×10-4~100.0×10-4であり、好ましくは20.0×10-4~90.0×10-4、より好ましくは30.0×10-4~70.0×10-4、特に好ましくは35.0×10-4~60.0×10-4である。透明熱可塑性樹脂(A)の配向複屈折(Δn)の絶対値が上記範囲内であると、液晶ディスプレイ保護板のRe値を適切な範囲に制御することができる。
配向複屈折はポリマーの配向度に依存するため、成形条件及び延伸条件等の製造条件の影響を受ける。本明細書において、特に明記しない限り、「配向複屈折」は、後記[実施例]の項に記載の方法にて測定するものとする。
【0032】
透明熱可塑性樹脂(A)は、本発明で規定する光弾性係数(C)と配向複屈折(Δn)の範囲を満たす透明熱可塑性樹脂であれば、特に限定されない。
一態様において、透明熱可塑性樹脂(A)は、1種又は2種以上の芳香族ビニル単量体単位を含むことができる。芳香族ビニル単量体としては特に制限されず、スチレン(St);2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-エチルスチレン、及び4-tert-ブチルスチレン等の核アルキル置換スチレン;α-メチルスチレン、及び4-メチル-α-メチルスチレン等のα-アルキル置換スチレン等が挙げられる。中でも、入手性の観点から、スチレン(St)が好ましい。
【0033】
透明熱可塑性樹脂(A)中の芳香族ビニル単量体単位の含有量をV[質量%]とし、位相差調整層の厚みをT[mm]とする。これらの積(V×T)は、下記式(1)を満たすことが好ましい。
6.0≦V×T≦30.0・・・(1)
透明熱可塑性樹脂(A)は、光弾性係数(C)の絶対値が小さく、応力複屈折はほぼゼロである。透明熱可塑性樹脂(A)がスチレン(St)単位等の芳香族ビニル単量体単位を含む場合、配向複屈折(Δn)は透明熱可塑性樹脂(A)中の芳香族ビニル単量体単位の含有量V[質量%]に依存する傾向がある。そのため、V×Tは液晶ディスプレイ保護板のRe値と強く相関する。V×Tが上記式(1)を満たす場合、液晶ディスプレイ保護板のRe値を適切な範囲に制御することができる。
【0034】
透明熱可塑性樹脂(A)は、芳香族ビニル単量体単位の他に、メタクリル酸メチル(MMA)単位等のメタクリル酸エステル単位;無水マレイン酸単位等の酸無水物単位;アクリロニトリル単位等の他の単量体単位を有する共重合体であってもよい。
芳香族ビニル単量体単位を含む透明熱可塑性樹脂(A)の具体例としては、メタクリル酸エステル-スチレン共重合体(MS樹脂);スチレン-無水マレイン酸共重合体(SMA樹脂);スチレン-メタクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体(SMM樹脂);アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)等が挙げられる。これらは、1種または2種以上用いることができる。
透明熱可塑性樹脂(A)中の芳香族ビニル単量体単位の含有量V[質量%]は特に制限されず、好ましくは、10~90質量%、より好ましくは20~80質量%である。
【0035】
透明熱可塑性樹脂(A)は、本発明で規定する光弾性係数(C)と配向複屈折(Δn)の範囲を満たすものであれば、芳香族ビニル単量体単位を含まない樹脂であってもよい。芳香族ビニル単量体単位を含まない透明熱可塑性樹脂(A)としては、メタクリル酸メチル単位等のメタクリル酸エステル単位と、グルタルイミド単位、N-置換又は無置換マイレミド単位、及びラクトン環単位から選ばれる少なくとも1種の単位とを含む変性メタクリル系樹脂が挙げられる。これらは、1種または2種以上用いることができる。
【0036】
透明熱可塑性樹脂(A)は、本発明で規定する光弾性係数(C)と配向複屈折(Δn)の範囲を満たす芳香族ビニル単量体単位を含む樹脂と、本発明で規定する光弾性係数(C)と配向複屈折(Δn)の範囲を満たす芳香族ビニル単量体単位を含まない樹脂(変性メタクリル系樹脂等)との混合物であってもよい。
【0037】
本発明では、上記以外の一般的なメタクリル系樹脂(非変性のメタクリル系樹脂)及びポリカーボネート系樹脂は、光弾性係数及び/又は配向複屈折が本発明の規定範囲外であり、透明熱可塑性樹脂(A)には含まれない。
ポリカーボネート系樹脂は、光弾性係数の絶対値が90×10-12/Paと非常に大きく、わずかな応力でRe値が変化する。そのため、ポリカーボネート系樹脂を用いる場合、光学的に均一な液晶ディスプレイ保護板を得ることが難しい。例えば、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察すると、Re値のバラツキに起因して、虹ムラが観察される恐れがある。
メタクリル系樹脂は、光弾性係数の絶対値が3.2×10-12/Paと小さく、応力でRe値が変化しにくい。そのため、メタクリル系樹脂を用いる場合、光学的に均一な液晶ディスプレイ保護板を得ることはできる。しかしながら、メタクリル系樹脂は、配向複屈折の絶対値が4.0×10-4と小さいため、厚みにもよるが、得られる液晶ディスプレイ保護板のRe値は20nm程度と小さくなる傾向がある。そのため、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察すると、出射光の偏光軸と偏光フィルタの透過軸とがなす角度によっては、画面が真っ暗になるブラックアウトが発生し、画像の視認性が低下する恐れがある。
【0038】
位相差調整層の厚み(T)は特に制限されず、透明熱可塑性樹脂(A)が芳香族ビニル単量体単位を含む場合、好ましくは上記式(1)を満たすように設計される。Tは、好ましくは0.05~3.0mm、より好ましくは0.1~1.0mm、特に好ましくは0.1~0.5mm、最も好ましくは0.1~0.3mmである。
【0039】
位相差調整層は、光弾性係数及び/又は配向複屈折が透明熱可塑性樹脂(A)として規定外である1種以上の他の重合体を、少量であれば含むことができる。他の重合体の種類としては特に制限されず、一般的な非変性のメタクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びポリアセタール等の他の熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、及びエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。
一般的な非変性のメタクリル系樹脂は例えば、1種以上のメタクリル酸エステル単位からなる樹脂である。
位相差調整層中の透明熱可塑性樹脂(A)の含有量は多い方が好ましく、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上である。位相差調整層中の他の重合体の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。
【0040】
位相差調整層は必要に応じて、各種添加剤を含むことができる。添加剤としては、着色剤、酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、光拡散剤、艶消し剤、コアシェル粒子及びブロック共重合体等のゴム成分(耐衝撃性改質剤)、及び蛍光体等が挙げられる。添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定できる。位相差調整層の構成樹脂100質量部に対して、例えば、酸化防止剤の含有量は0.01~1質量部、紫外線吸収剤の含有量は0.01~3質量部、光安定剤の含有量は0.01~3質量部、滑剤の含有量は0.01~3質量部が好ましい。
位相差調整層に他の重合体及び/又は添加剤を添加させる場合、添加タイミングは、透明熱可塑性樹脂(A)の重合時でも重合後でもよい。
【0041】
位相差調整層は、透明熱可塑性樹脂(A)と公知のゴム成分(耐衝撃性改質剤)とを含む樹脂組成物からなる樹脂層であってもよい。ゴム成分としては、コアシェル構造の多層構造重合体粒子、サラミ構造を持つゴム状重合体、及びブロックポリマー等が挙げられる。ゴム成分は、ジエン系単量体単位及びアクリル酸アルキル系単量体単位等を含むことができる。位相差調整層の透明性の観点から、ゴム成分の屈折率と主成分である透明熱可塑性樹脂(A)の屈折率との差はより小さい方が好ましい。
【0042】
位相差調整層のガラス転移温度(Tg)はTg<Tgを満たせば、特に制限されない。好ましくは80~160℃、より好ましくは90~150℃、特に好ましくは95~140℃、最も好ましくは100~130℃である。
なお、「位相差調整層のガラス転移温度(Tg)」は、1種以上の透明熱可塑性樹脂(A)及び必要に応じて1種以上の任意成分からなる位相差調整層の全構成材料のガラス転移温度である。
【0043】
(基材層)
本発明の液晶ディスプレイ保護板に含まれる樹脂板は、上記の位相差調整層の両面に積層され、位相差調整層よりもガラス転移温度(Tg)の高い基材層を含む。
基材層は、樹脂板の全体の厚み(d)を増加させ、樹脂板の剛性を向上させ、樹脂板の表面の耐熱性を向上させる等の目的で、位相差調整層の両面に積層される。基材層は、液晶ディスプレイ保護板のRe値に影響を与えない樹脂層であることが好ましく、光弾性係数及び配向複屈折が充分に小さい透明熱可塑性樹脂(B)を含む樹脂層であることが好ましい。
位相差調整層の両面に積層される基材層の組成と厚みは、各基材層が上記光学特性を有する透明熱可塑性樹脂(B)を含む樹脂層であれば、同一でも非同一でもよい。
【0044】
<透明熱可塑性樹脂(B)>
透明熱可塑性樹脂(B)の光弾性係数(C)の絶対値は小さい方が好ましく、好ましくは10.0×10-12/Pa以下、より好ましくは8.0×10-12/Pa以下、さらに好ましくは6.0×10-12/Pa以下、特に好ましくは5.0×10-12/Pa以下、最も好ましくは4.0×10-12/Pa以下である。光弾性係数(C)の絶対値が上記上限値以下であると、押出成形等の成形加工時に発生する残存応力による応力複屈折が充分に小さく(図6を参照されたい。)、樹脂板のRe値の標準偏差を低減できる。その結果、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察した際、Re値のバラツキに起因する虹ムラが抑制され、視認性が向上する。
【0045】
透明熱可塑性樹脂(B)の配向複屈折(Δnの絶対値は小さい方が好ましく、好ましくは10.0×10-4未満、より好ましくは8.0×10-4以下、さらに好ましくは6.0×10-4以下、特に好ましくは4.0×10-4以下、最も好ましくは2.0×10-4以下である。透明熱可塑性樹脂(B)の配向複屈折(Δn)の絶対値が上記上限値以下であると、樹脂板のRe値に与える影響が充分に小さく(図6を参照されたい。)、樹脂板のRe値を適切な範囲に良好に制御することができる。

【0046】
透明熱可塑性樹脂(B)は、本発明で規定する光弾性係数(C)と配向複屈折(Δn)の範囲を満たす透明熱可塑性樹脂であれば、特に限定されない。具体例としては、一般的な非変性のメタクリル系樹脂(PM)、グルタルイミド単位、N-置換又は無置換マイレミド単位、ラクトン環単位等で変性された変性メタクリル系樹脂、及びシクロオレフィンポリマー(COP)等が挙げられる。透明熱可塑性樹脂(B)は、1種または2種以上用いることができる。
【0047】
メタクリル系樹脂(PM)は、1種以上のメタクリル酸エステルに由来する構造単位を含む単独重合体又は共重合体である。透明性の観点から、メタクリル系樹脂(PM)中のメタクリル酸エステル単量体単位の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0048】
好ましいメタクリル酸エステルとしては例えば、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル;メタクリル酸単環脂肪族炭化水素エステル;メタクリル酸多環脂肪族炭化水素エステル等が挙げられる。透明性の観点から、メタクリル系樹脂(PM)はMMA単位を含むことが好ましく、メタクリル系樹脂(PM)中のMMA単位の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0049】
メタクリル系樹脂(PM)は、メタクリル酸エステル以外の1種以上の他の単量体に由来する構造単位を含んでいてもよい。他の単量体としては、アクリル酸メチル(MA)、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2-エチルヘキシル、及びアクリル酸2-ヒドロキシエチル等のアクリル酸エステル;スチレン類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル;無水マレイン酸、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド;等が挙げられる。中でも、透明性の観点から、MAが好ましい。例えば、MMAとMAとの共重合体は、透明性に優れ、好ましい。この共重合体中のMMAの含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、特に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0050】
メタクリル系樹脂(PM)は、好ましくはMMAを含む1種以上のメタクリル酸エステル、及び必要に応じて他の単量体を重合することで得られる。複数種の単量体を用いる場合は、通常、複数種の単量体を混合して単量体混合物を調製した後、重合を行う。重合方法としては特に制限されず、生産性の観点から、塊状重合法、懸濁重合法、溶液重合法、及び乳化重合法等のラジカル重合法が好ましい。
【0051】
基材層は、三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)(以下、単に「シンジオタクティシティ(rr)又はrr比率」と略記することがある。)が比較的高いメタクリル系樹脂(PM-H)を含むことができる。一般的に、メタクリル系樹脂(PM)は、rr比率が高くなる程、ガラス転移温度(Tg)が高く、耐熱性が向上する傾向がある。
耐熱性向上(Tg向上)の観点から、メタクリル系樹脂(PM-H)のrr比率は、好ましくは58%以上、より好ましくは59%以上、さらに好ましくは60%以上、特に好ましくは62%以上、最も好ましくは65%以上である。
rr比率の上限は特に制限されず、靱性、耐引裂き性、及び耐衝撃性等の力学物性、並びに、製膜性の観点から、好ましくは99%、より好ましくは85%、さらに好ましくは77%、特に好ましくは76%、最も好ましくは75%である。
【0052】
本明細書において、三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)は、連続する3つの構造単位の連鎖(3連子、triad)が有する2つの連鎖(2連子、diad)が、ともにラセモ(racemo)である割合である。
なお、ポリマー分子中の構造単位の連鎖(2連子、diad)において立体配置が同じものをメソ(meso)、逆のものをラセモ(racemo)と称し、それぞれm、rと表記する。
メタクリル系樹脂の三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)(%)は、重水素化クロロホルム中、30℃で、1H-NMRスペクトルを測定し、そのスペクトルからTMSを0ppmとした際の、0.6~0.95ppmの領域の面積(X)と0.6~1.35ppmの領域の面積(Y)とを計測し、式:(X/Y)×100にて算出することができる。
【0053】
メタクリル系樹脂(PM-H)は、rr比率の異なる複数種のメタクリル系樹脂を含むことができる。例えば、メタクリル系樹脂(PM-H)は、rr比率が65%以上である第1のメタクリル系樹脂(H1)と、rr比率が45~58%である第2のメタクリル系樹脂(H2)とを含むことができる。この場合、第1のメタクリル系樹脂(H1)と第2のメタクリル系樹脂(H2)との合計量100質量部に対して、第1のメタクリル系樹脂(H1)の含有量が40~70質量部であり、第2のメタクリル系樹脂(H2)の含有量が60~30質量部であることが好ましい。第1のメタクリル系樹脂(H1)及び第2のメタクリル系樹脂(H2)はそれぞれ、1種または2種以上用いることができる。
【0054】
上記のように、rr比率が65%以上である第1のメタクリル系樹脂(H1)と、rr比率が45~58%である第2のメタクリル系樹脂(H2)とを用いることで、rr比率が58%以上であり、各種物性が好適なメタクリル系樹脂(PM-H)が安定的に得られる。
rr比率が65%以上である第1のメタクリル系樹脂(H1)を用いることで、耐熱性を一層向上できるが、この樹脂単独では、靱性、耐引裂き性、及び耐衝撃性等の力学物性が低下し、製膜性及び取扱い性が低下する傾向がある。rr比率が65%以上である第1のメタクリル系樹脂(H1)とrr比率が58%以下である第2のメタクリル系樹脂(H2)とを併用することで、耐熱性を向上しつつ、靱性、耐引裂き性、及び耐衝撃性等の力学物性の向上、並びに、製膜性及び取扱い性の向上を図ることができる。
【0055】
本発明で規定する光弾性係数(C)と配向複屈折(Δn)の範囲を満たすものであれば、透明熱可塑性樹脂(B)として、透明熱可塑性樹脂(A)として例示した種類の樹脂(具体的には、MS樹脂、SMA樹脂、SMM樹脂、AS樹脂、及び変性メタクリル系樹脂等)を用いてもよい。単量体組成又は変性率によっては、透明熱可塑性樹脂(A)として例示した種類の樹脂が、透明熱可塑性樹脂(B)として使用できる場合がある。
【0056】
ポリカーボネート系樹脂は、光弾性係数及び配向複屈折が本発明の規定範囲外であり、透明熱可塑性樹脂(B)には含まれない。
ポリカーボネート系樹脂は、光弾性係数の絶対値が90×10-12/Paと非常に大きく、わずかな応力でRe値が変化する。そのため、ポリカーボネート系樹脂を用いる場合、光学的に均一な液晶ディスプレイ保護板を得ることが難しい。例えば、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察すると、Re値のバラツキに起因して、虹ムラが観察される恐れがある。
【0057】
上記したように、位相差調整層のガラス転移温度をTg(℃)、基材層のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、Tg<Tgである。かかる構成では、樹脂板の表面の耐熱性を向上させることができる。
TgとTgとの差は、大きい方が好ましい。好ましくはTg+5≦Tg、より好ましくはTg+10≦Tg、特に好ましくはTg+15≦Tgである。
基材層のガラス転移温度(Tg)はTg<Tgを満たせば、特に制限されない。Tgの上限値は、好ましくは155℃、より好ましくは145℃、特に好ましくは135℃、最も好ましくは130℃である。Tgの下限値は、好ましくは115℃、より好ましくは120℃、特に好ましくは125℃である。
なお、「基材層のガラス転移温度(Tg)」は、1種以上の透明熱可塑性樹脂(B)及び必要に応じて1種以上の任意成分からなる基材層の全構成材料のガラス転移温度である。
【0058】
液晶ディスプレイ保護板は、製造工程において、高温に曝され得る。
樹脂板の少なくとも一方の面には、耐擦傷性(ハードコート性)及び/又は視認性向上のための低反射性を有する硬化被膜を形成することができる。硬化被膜を形成する工程において、樹脂板は高温に曝され得る。例えば、熱硬化性の被膜材料は硬化に加熱を要するし、光硬化性の被膜材料は光照射時に熱を受ける。被膜材料が溶剤を含む場合、溶剤乾燥のために加熱される場合がある。特に、熱硬化性の被膜材料を用いる場合、樹脂板は他の被膜材料を用いる場合よりも高い温度に曝され得る。
樹脂板の表面の耐熱性が不充分である場合、熱硬化性の被膜材料の硬化時に受ける熱によって、樹脂板の反り及び表面荒れ等が生じる恐れがある。
熱硬化性の被膜材料の硬化温度を下げれば、硬化時間が長くなり、生産性が低下する。さらに、架橋反応が良好に進まないことで、樹脂板の表面樹脂と硬化被膜との密着性が低下し、湿熱環境下又は湿熱試験において、硬化被膜が樹脂板から剥離する恐れがある。
【0059】
本発明の液晶ディスプレイ保護板に含まれる樹脂板では、位相差調整層の両面に基材層が積層されている。位相差調整層のガラス転移温度をTg、基材層のガラス転移温度をTgとしたとき、Tg<Tgである。位相差調整層の両面にTgの相対的に高い基材層を積層することで、樹脂板の両面の耐熱性を向上することができる。そのため、熱硬化性の被膜材料を用いて硬化被膜を形成する場合にも、硬化温度を下げることなく、樹脂板の反り及び表面荒れ等を抑制することができる。硬化温度を下げる必要がなく、好適な温度で硬化を行えるので、生産性良く硬化被膜を形成することができ、樹脂板の表面樹脂と硬化被膜との密着性も良好にできる。
本発明の液晶ディスプレイ保護板に含まれる樹脂板では、硬化被膜形成時のみならず、湿熱環境下又は湿熱試験においても、反りが生じにくい。
基材層がメタクリル系樹脂(PM)を含む場合、上記作用効果に合わせて、樹脂板の表面硬度を向上できる効果も得られ、好ましい。
【0060】
位相差調整層の両面に積層された基材層の合計厚みをTとする。基材層の合計厚み(T)は特に制限されず、液晶ディスプレイ保護板の所望の厚み及び剛性に応じて適宜設計される。Tは、好ましくは0.05~4.5mm、より好ましくは0.5~4.0mm、特に好ましくは1.0~3.5mm、最も好ましくは1.0~3.0mmである。
位相差調整層の厚み(T)と基材層の合計厚み(T)との関係は特に制限されず、T<T、換言すれば、T/T>1であることが好ましい。より好ましくはT/T≧1.2、特に好ましくはT/T≧1.5、最も好ましくはT/T≧2.0である。
とTが上記関係にあれば、樹脂板の全体の厚み(d)に対する基材層の合計厚み(T)の割合が充分に大きく、樹脂板の両面の耐熱性の向上効果がより効果的に得られ、硬化被膜形成時の樹脂板の反り及び表面荒れ、並びに、湿熱環境下又は湿熱試験における反りがより効果的に抑制される。
【0061】
基材層は、光弾性係数及び/又は配向複屈折が透明熱可塑性樹脂(B)として規定外である1種以上の他の重合体を、少量であれば含むことができる。他の重合体の種類としては特に制限されず、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びポリアセタール等の他の熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、及びエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。
基材層中の透明熱可塑性樹脂(B)の含有量は多い方が好ましく、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上である。基材層中の他の重合体の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。
【0062】
基材層は必要に応じて、各種添加剤を含むことができる。添加剤の種類の例示と好ましい添加量は、位相差調整層に使用可能な添加剤と同様である。
基材層に他の重合体及び/又は添加剤を添加させる場合、添加タイミングは、透明熱可塑性樹脂(B)の重合時でも重合後でもよい。
【0063】
基材層は、透明熱可塑性樹脂(B)と公知のゴム成分(耐衝撃性改質剤)とを含む樹脂組成物からなる樹脂層であってもよい。ゴム成分の例示は、位相差調整層に使用可能なゴム成分と同様である。基材層の透明性の観点から、ゴム成分の屈折率と主成分である透明熱可塑性樹脂(B)の屈折率との差はより小さい方が好ましい。
【0064】
(他の樹脂層)
本発明の液晶ディスプレイ保護板に含まれる樹脂板は、位相差調整層及び基材層以外の他の樹脂層を有していてもよい。樹脂板の積層構造としては、基材層-位相差調整層-基材層の3層構造;基材層-位相差調整層-基材層-他の樹脂層の4層構造;基材層-位相差調整層-他の樹脂層-基材層の4層構造等が挙げられる。
【0065】
(硬化被膜)
本発明の液晶ディスプレイ保護板は必要に応じて、位相差調整層の両面に基材層が積層された樹脂板の少なくとも一方の表面に形成された硬化被膜を有することができる。本発明の液晶ディスプレイ保護板は、少なくとも一方の最表面に硬化被膜を有することができる。
硬化被膜は、耐擦傷性層(ハードコート層)又は視認性向上効果のための低反射性層として機能することができる。硬化被膜は、公知方法にて形成することができる。
硬化被膜の材料としては、無機系、有機系、有機無機系、及びシリコーン系等が挙げられ、生産性の観点から、有機系及び有機無機系が好ましい。
【0066】
無機系硬化被膜は例えば、SiO、Al、TiO、及びZrO等の金属酸化物等の無機材料を、真空蒸着及びスパッタリング等の気相成膜で成膜することにより形成することができる。
有機系硬化被膜は例えば、メラミン系樹脂、アルキッド系樹脂、ウレタン系樹脂、及びアクリル系樹脂等の樹脂を含む塗料を塗工し加熱硬化する、又は、多官能アクリル系樹脂を含む塗料を塗工し紫外線硬化させることにより形成することができる。
有機無機系硬化被膜は例えば、表面に光重合反応性官能基が導入されたシリカ超微粒子等の無機超微粒子と硬化性有機成分とを含む紫外線硬化性ハードコート塗料を塗工し、紫外線照射により硬化性有機成分と無機超微粒子の光重合反応性官能基とを重合反応させることにより形成することができる。この方法では、無機超微粒子が、有機マトリックスと化学結合した状態で有機マトリックス中に分散した網目状の架橋塗膜が得られる。
シリコーン系硬化被膜は例えば、カーボンファンクショナルアルコキシシラン、アルキルトリアルコキシシラン、及びテトラアルコキシシラン等の部分加水分解物、又はこれらにコロイダルシリカを配合した材料を重縮合させることにより形成することができる。
上記方法において、材料の塗工方法としては、ディップコート、グラビアロールコート等の各種ロールコート、フローコート、ロッドコート、ブレードコート、スプレーコート、ダイコート、及びバーコート等が挙げられる。
【0067】
上記したように、特に、熱硬化性の被膜材料を用いる場合、樹脂板は他の被膜材料を用いる場合よりも高い温度に曝され得る。本発明の液晶ディスプレイ保護板に含まれる樹脂板は、位相差調整層の両面にガラス転移温度(Tg)の相対的に高い基材層が積層された構造を有し、両面の耐熱性に優れる。そのため、本発明は特に、熱硬化性の被膜材料を用いて硬化被膜を形成する場合に有用である。
【0068】
耐擦傷性(ハードコート性)硬化被膜(耐擦傷性層、ハードコート層)の厚みは、好ましくは2~30μm、より好ましくは5~20μmである。薄すぎると表面硬度が不充分となり、厚すぎると製造工程中の折り曲げにより割れが発生する恐れがある。低反射性硬化被膜(低反射性層)の厚みは、好ましくは80~200nm、より好ましくは100~150nmである。薄すぎても厚すぎても低反射性能が不充分となる恐れがある。
【0069】
その他、本発明の液晶ディスプレイ保護板は必要に応じて、表面に、眩光防止(アンチグレア)層、反射防止(アンチリフレクション)層、及び防指紋層等の公知の表面処理層を有することができる。
【0070】
[液晶ディスプレイ保護板の製造方法]
本発明の液晶ディスプレイ保護板の製造方法は、位相差調整層の両面にガラス転移温度(Tg)の相対的に高い基材層が積層された樹脂板を用意する工程(X)を有する。
本発明の液晶ディスプレイ保護板の製造方法はさらに、必要に応じて、得られた樹脂板の少なくとも一方の表面に硬化被膜を形成する工程(Y)を有する。
【0071】
(工程(X))
上記積層構造の樹脂板は、キャスト成形法、射出成形法、及び押出成形法等の公知方法を用いて成形することができる。中でも、共押出成形法が好ましい。
【0072】
以下、共押出成形法による樹脂板の製造方法について、説明する。
図3に、一実施形態として、Tダイ11、第1~第3冷却ロール12~14、及び一対の引取りロール15を含む押出成形装置の模式図を示す。
各層の構成樹脂はそれぞれ押出機を用いて溶融混練され、所望の積層構造の形態で、幅広の吐出口を有するTダイ11から板状の形態で共押出される。
積層方式としては、Tダイ流入前に積層するフィードブロック方式、及びTダイ内部で積層するマルチマニホールド方式等が挙げられる。層間の界面平滑性を高める観点から、マルチマニホールド方式が好ましい。
Tダイ11から共押出された溶融状態の積層構造の樹脂板は複数の冷却ロール12~14を用いて加圧及び冷却される。加圧及び冷却された樹脂板16は、一対の引取りロール15により引き取られる。冷却ロールの数は、適宜設計することができる。なお、製造装置の構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、適宜設計変更が可能である。
【0073】
本発明では、樹脂板のRe値が50~330nmとなるように、樹脂板を成形する。
Re値を制御するためには、分子の配向を制御する必要がある。分子の配向は例えば、高分子のガラス転移温度近傍での成形時の応力により発生する。押出成形の過程における製造条件を好適化することにより分子の配向を制御し、これによって、樹脂板の押出成形後のRe値を好適化することができる。
【0074】
(工程(Y))
工程(Y)では、工程(X)で得られた樹脂板の少なくとも一方の表面に、公知方法にて無機又は有機の硬化被膜を形成する。硬化被膜の形成方法は上記したので、ここでは省略する。
【0075】
(その他の工程)
本発明の液晶ディスプレイ保護板の製造方法は必要に応じて、上記工程(X)、(Y)以外の他の工程を有することができる。
例えば、工程(X)と工程(Y)との間に、樹脂板に対する硬化被膜の密着性を向上させる目的で、工程(X)で得られた樹脂板の硬化被膜を形成する面に対して、プライマー処理、サンドブラスト処理、及び溶剤処理等の表面凹凸化処理;コロナ放電処理、クロム酸処理、オゾン照射処理、及び紫外線照射処理等の表面酸化処理等の表面処理を施す工程を追加してもよい。
【0076】
以上説明したように、本発明によれば、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察した際の、虹ムラ、ブラックアウト、及び色付き等の視認性の低下を抑制することが可能な液晶ディスプレイ保護板を提供することができる。
本発明によれば、湿熱環境下又は湿熱試験においても反りの発生が抑制される液晶ディスプレイ保護板を提供することができる。
本発明の液晶ディスプレイ保護板は、樹脂板、及び必要に応じて硬化被膜を含むことができる。本発明によれば、樹脂板と硬化被膜とを含み、熱硬化性の被膜材料を用いて硬化被膜を形成する場合にも、硬化温度を下げることなく、樹脂板の反り及び表面荒れ等を抑制することができ、樹脂板と硬化被膜との密着性が良好な液晶ディスプレイ保護板を提供することができる。
【0077】
[用途]
本発明の液晶ディスプレイ保護板は例えば、銀行等の金融機関のATM;自動販売機;テレビ;携帯電話(スマートフォンを含む)、パーソナルコンピュータ、タブレット型パーソナルコンピュータ等の携帯情報端末(PDA)、デジタルオーディオプレーヤー、携帯ゲーム機、コピー機、ファックス、及びカーナビゲーションシステム等のデジタル情報機器等に使用される、液晶ディスプレイ又はタッチパネルディスプレイの保護板として好適である。
本発明の液晶ディスプレイ保護板は例えば、車載用液晶ディスプレイの保護板として好適である。
【実施例
【0078】
本発明に係る実施例及び比較例について説明する。
[評価項目及び評価方法]
評価項目及び評価方法は、以下の通りである。
(透明熱可塑性樹脂(A)中の芳香族ビニル単量体単位の含有量)
MS樹脂中の芳香族ビニル単量体単位の含有量(V質量%)は、核磁気共鳴装置(日本電子社製「GX-270」)を用い、H-NMR法により求めた。
【0079】
(透明熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg))
透明熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(「DSC-50」、株式会社リガク製)を用いて、測定した。透明熱可塑性樹脂10mgをアルミパンに入れ、上記装置にセットした。30分以上窒素置換を行った後、10ml/分の窒素気流中、一旦25℃から200℃まで20℃/分の速度で昇温し、10分間保持し、25℃まで冷却した(1次走査)。次いで、10℃/分の速度で200℃まで昇温し(2次走査)、2次走査で得られた結果から、中点法でガラス転移温度(Tg)を算出した。なお、2種以上の樹脂を含有する樹脂組成物において複数のTgデータが得られる場合は、主成分の樹脂に由来する値をTgデータとして採用した。
【0080】
(透明熱可塑性樹脂の光弾性係数)
透明熱可塑性樹脂をプレス成形して、1.0mm厚の樹脂板を得た。得られた樹脂板の中央部から、幅15mm、長さ80mmの試験片を切り出した。この試験片の長手方向の両端部を、一対のチャックで把持した。チャック間距離は70mmとした。
王子計測機器社製「X軸アリ式ステージ」を用いて、試験片に対して張力を付与した。張力は、0Nから30Nまで、10Nずつ段階的に高くした。張力は、株式会社イマダ製「センサーセパレート型デジタルフォースゲージ ZTS-DPU-100N」によりモニターした。
0Nから100Nまでの各段階の張力付与条件について、以下の測定を実施した。
張力が付与された状態の試験片の中央部分の位相差値[nm]を、王子計測機器社製「KOBRA-WR」を用いて、測定波長589.5nmの条件で測定した。この後、一対のチャックから試験片を取り外し、位相差測定部分の厚み(d[mm])を測定した。試験片の断面積(S)[m](=15[mm]×d[mm]×10-6)、応力[Pa](=張力[N]/S[m])、複屈折(=位相差値[nm]×10-6/d[mm])をそれぞれ計算した。横軸に応力、縦軸に複屈折をプロットし、最小自乗法により求め得られた直線の傾きを光弾性係数として求めた。
【0081】
(透明熱可塑性樹脂の配向複屈折)
透明熱可塑性樹脂をプレス成形して、1.0mm厚の樹脂板を得た。得られた樹脂板の中央部から、幅20mm、長さ50mmの試験片を切り出し、加熱チャンバー付きオートグラフ(SHIMADZU社製)にセットした。チャック間距離は20mmとした。ガラス転移温度(Tg)より10℃高い温度で3分間保持した後、3mm/分の速度で一軸延伸した。延伸率は100%とした。この条件では、延伸後のチャック間距離は40mmとなる。延伸後の試験片を上記装置から取り外し、23℃に冷却した後、厚み(d)を測定し、中央部分のRe値を王子計測機器社製「KOBRA-WR」を用いて、測定波長589.5nmの条件で測定した。得られたRe値を試験片の厚み(d)で除することで、配向複屈折の値を算出した。
【0082】
(液晶ディスプレイ保護板(硬化被膜形成前の樹脂板)のRe値の平均値と標準偏差)
液晶ディスプレイ保護板(硬化被膜形成前の樹脂板)の中央部から、押出成形方向(樹脂の流れ方向)が長辺方向となるように、幅21cm、長さ30cmの試験片を切り出した。株式会社フォトニックラティス製「WPA-100-L」に標準レンズ(FUJINON HF12.5HA-1B)を取り付けた。測定範囲が幅17cm、長さ22cmとなるように、レンズの高さを調整した。その後、約11万点の複屈折画素数のRe値を測定し、平均値と標準偏差を求めた。
【0083】
(各層の厚み)
株式会社ニコンインステック社製「万能投影機(V-12B)」を用いて各層の厚みを測定した。
【0084】
(虹ムラ)
液晶ディスプレイの視認側の偏光子の透過軸と樹脂板の押出成形方向とが互いに垂直になるように、液晶ディスプレイ保護板(硬化被膜形成前の樹脂板)を液晶ディスプレイ上に載置した。さらにこの上に偏光フィルムを載置し、偏光フィルムを様々な角度に回転させ、Re値のバラツキに起因する虹ムラが最も強くなる角度での見え方を次の3段階で目視評価した。
A(良):虹ムラが全くなく、液晶ディスプレイの視認性が低下しない。
B(可):虹ムラが少しあり、液晶ディスプレイの視認性がわずかに低下する。
C(不良):顕著な虹ムラがあり、液晶ディスプレイの視認性が大きく低下する。
【0085】
(ブラックアウト)
液晶ディスプレイの視認側の偏光子の透過軸と樹脂板の押出成形方向とが互いに垂直になるように、液晶ディスプレイ保護板(硬化被膜形成前の樹脂板)を液晶ディスプレイ上に載置した。さらにこの上に偏光フィルムを載置し、偏光フィルムを様々な角度に回転させ、液晶ディスプレイの透過光強度が最も小さくなる角度での見え方を次の3段階で目視評価した。
A(良):透過光強度が充分に高く、液晶ディスプレイに表示されている文字等をはっきりと視認できる。
B(可):透過光強度がやや低く、液晶ディスプレイに表示されている文字等の視認性がわずかに低下する。
C(不良):透過光強度がほぼゼロであり、液晶ディスプレイに表示されている文字等を視認できない。
【0086】
(色付き)
液晶ディスプレイの視認側の偏光子の透過軸と樹脂板の押出成形方向とが互いに垂直になるように、液晶ディスプレイ保護板(硬化被膜形成前の樹脂板)を液晶ディスプレイ上に載置した。さらにこの上に偏光フィルムを載置し、偏光フィルムを様々な角度に回転させ、液晶ディスプレイの色付きが最も大きくなる角度での見え方を次の3段階で目視評価した。
A(良):顕著な色付きがなく、液晶ディスプレイの視認性が低下しない。
B(可):色付きがあり、液晶ディスプレイの視認性がわずかに低下する。
C(不良):顕著な色付きがあり、液晶ディスプレイの視認性が低下する。
【0087】
(鉛筆硬度)
テーブル移動式鉛筆引掻き試験機(型式P)(東洋精機社製)を用いて、硬化被膜を含む液晶ディスプレイ保護板の硬化被膜側の表面に対して、角度45°、荷重750gの条件で、鉛筆の芯を押し付けながら引っ掻き、傷跡の有無を目視確認した。鉛筆の芯の硬度は順に増していき、傷跡が生じた時点よりも1段階軟かい芯の硬度を鉛筆硬度とした。
【0088】
(密着性)
硬化被膜を含む液晶ディスプレイ保護板から50mm四方の試験片を切り出した。スーパーUV試験機(岩崎電気社製;SUV-W161)を用いて、ブラックパネル温度83℃、相対湿度50%、照射エネルギー100mW/cmの条件で、試験片に対して、紫外線(UV)を100時間照射した。その後、試験片を試験機から取り出し、JIS-K5600-5-6に準じて、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、碁盤目剥離試験治具を用いて、硬化被膜を1mmの碁盤目100個にクロスカットした。その上に、積水化学工業株式会社製の粘着テープNo.252を貼り付け、ヘラを用いて全体的に均一に押し付けた。その後、粘着テープを180°方向に引き剥がした。100個の碁盤目のうち剥離せずに残存した個数を求め、以下の基準で密着性を評価した。
A(良):100個、
B(可):90~99個、
C(不良):89個以下。
【0089】
(外観)
硬化被膜を含む液晶ディスプレイ保護板を硬化被膜側から目視観察し、以下の基準で外観を評価した。
A(良):液晶ディスプレイ保護板の皺及び硬化被膜の割れがない。
C(不良):液晶ディスプレイ保護板の皺及び/又は硬化被膜の割れがある。
【0090】
[材料]
用いた材料は、以下の通りである。
<MS樹脂>
特開2003-231785号公報の[実施例]の項に記載の共重合体(A)の製造方法に従って、MS樹脂(メタクリル酸メチル(MMA)とスチレン(St)との共重合体)を重合した。オートクレーブ内に仕込むMMAとStの質量比を変えて、以下の3種のMS樹脂を製造した。
(MS-1)Tg=116℃、芳香族ビニル単量体単位の含有量V=10質量%、
(MS-2)Tg=109℃、芳香族ビニル単量体単位の含有量V=35質量%、
(MS-3)Tg=100℃、芳香族ビニル単量体単位の含有量V=90質量%。
【0091】
<メタクリル系樹脂>
(PMMA-1)メタクリル酸メチル(MMA)99.3質量%とアクリル酸メチル0.7質量%との共重合体、株式会社クラレ社製、Tg=119℃、芳香族ビニル単量体単位の含有量V=0質量%、シンジオタクティシティ(rr)=52%。
(PMMA-2)メタクリル酸メチル(MMA)の単独重合体、Tg=130℃、芳香族ビニル単量体単位の含有量V=0質量%、シンジオタクティシティ(rr)=75%。
<ポリカーボネート系樹脂>
(PC-1)住化ポリカーボネート株式会社製「SDポリカ 300シリーズ」、Tg=150℃、芳香族ビニル単量体単位の含有量V=0質量%。
【0092】
[実施例1~8]
(第1の液晶ディスプレイ保護板の製造)
50mmφ単軸押出機(東芝機械株式会社製)を用いて、基材層用の樹脂(透明熱可塑性樹脂(B))を溶融押出した。30mmφ単軸押出機(東芝機械株式会社製)を用いて、位相差調整層用の樹脂(透明熱可塑性樹脂(A))を溶融押出した。溶融状態のこれらの樹脂をマルチマニホールド型ダイスを介して積層し、Tダイから、位相差調整層の両面に基材層が積層された3層構造の熱可塑性樹脂積層体を共押出した。溶融状態の3層構造の樹脂をTダイより吐出し、互いに隣接する第1冷却ロールと第2冷却ロールとの間に挟み込み、第2冷却ロールに巻き掛け、第2冷却ロールと第3冷却ロールとの間に挟み込み、第3冷却ロールに巻き掛けることにより冷却した。冷却後に得られた樹脂板を一対の引取りロールによって引き取った。このようにして、位相差調整層の両面に基材層が積層された3層構造の樹脂板からなる第1の液晶ディスプレイ保護板(硬化被膜なし、参照図面:図1)を得た。
【0093】
(第2の液晶ディスプレイ保護板の製造)
第1の液晶ディスプレイ保護板から、長さ300mm、幅210mmの試験片を切り出した。押出成形時の樹脂の流れ方向を試験片の長さ方向とした。シートバーコーターを用いて、上記試験片の一方の基材層の表面に対して、熱硬化性の被膜材料として、シリコーン系硬化性樹脂組成物(SilFORT PHC 587;Momentive製)を塗布し、室温下で20分間乾燥させた後、表2に記載の硬化温度及び硬化時間の条件で熱硬化した。このようにして、硬化被膜を含む第2の液晶ディスプレイ保護板を得た。
【0094】
各例について、用いた樹脂の種類と特性、位相差調整層の厚み、基材層の合計厚み、V×T、及び第1、第2の液晶ディスプレイ保護板の評価結果を、表1及び表2に示す。
【0095】
[比較例1-1~1-3、3、4]
基材層の両面に位相差調整層が積層されるように共押出成形を行った以外は実施例1~8と同様にして、3層構造の樹脂板からなる第1の液晶ディスプレイ保護板(硬化被膜なし、参照図面:図4)を得た。図4中、符号101Xは比較用の液晶ディスプレイ保護板、符号116Xは比較用の樹脂板、符号121は位相差調整層、符号122は基材層をそれぞれ示す。
得られた第1の液晶ディスプレイ保護板を用い、実施例1~8と同様の方法にて、硬化被膜を含む第2の液晶ディスプレイ保護板を得た。これらの例では、一方の位相差調整層上に硬化被膜を形成した。
なお、比較例1-1~1-3は、押出成形板の製造条件は共通で、硬化被膜の形成条件を変えた例である。
各例について、用いた樹脂の種類と特性、位相差調整層の厚み、基材層の合計厚み、V×T、硬化被膜の形成条件、及び第1、第2の液晶ディスプレイ保護板の評価結果を、表1及び表2に示す。
【0096】
[比較例2]
基材層の片面に位相差調整層が積層されるように共押出成形を行った以外は実施例1~8と同様にして、2層構造の樹脂板からなる第1の液晶ディスプレイ保護板(硬化被膜なし、参照図面:図5)を得た。図5中、符号101Yは比較用の液晶ディスプレイ保護板、符号116Yは比較用の樹脂板、符号121は位相差調整層、符号122は基材層をそれぞれ示す。
得られた第1の液晶ディスプレイ保護板を用いて、実施例1~8と同様の方法にて、硬化被膜を含む第2の液晶ディスプレイ保護板を得た。この例では、位相差調整層上に硬化被膜を形成した。
各例について、用いた樹脂の種類と特性、位相差調整層の厚み、基材層の合計厚み、V×T、硬化被膜の形成条件、及び第1、第2の液晶ディスプレイ保護板の評価結果を、表1及び表2に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
[結果のまとめ]
実施例1~8では、位相差調整層の両面に基材層が積層された樹脂板からなる第1の液晶ディスプレイ保護板と、この第1の液晶ディスプレイ保護板の一方の基材層上に硬化被膜を形成した第2の液晶ディスプレイ保護板とを製造した。位相差調整層は、光弾性係数(C)の絶対値が10.0×10-12/Pa以下であり、配向複屈折(Δn)の絶対値が10.0×10-4~100.0×10-4である透明熱可塑性樹脂(A)を含む層であった。基材層は、光弾性係数(C)の絶対値が10.0×10-12/Pa以下であり、配向複屈折(Δn)の絶対値が10.0×10-4未満である透明熱可塑性樹脂(B)を含む層であった。位相差調整層のガラス転移温度をTg、基材層のガラス転移温度をTgとしたとき、Tg<Tgであった。
【0100】
実施例1~8で得られた第1の液晶ディスプレイ保護板(硬化被膜なし)はいずれも、幅17cm、長さ22cmの範囲内のRe値の平均値が50~330nmであり、幅17cm、長さ22cmの範囲内のRe値の標準偏差が15.0nm以下であった。
実施例1~8では、得られた第1の液晶ディスプレイ保護板を用い、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察した際に、虹ムラ、色付き、及びブラックアウトが効果的に抑制された。特に、V×Tの値が6.0~30.0である実施例1~6では、V×Tの値が6.0~30.0の範囲外である実施例7、8よりも、良い結果が得られた。
実施例1~8で得られた第2の液晶ディスプレイ保護板(硬化被膜あり)はいずれも、表面硬度、樹脂板と硬化被膜との密着性、及び外観が、良好であった。
【0101】
比較例1-1~1-3、2~4では、基材層の両面又は片面に位相差調整層が積層された樹脂板からなる第1の液晶ディスプレイ保護板と、この第1の液晶ディスプレイ保護板の位相差調整層上に硬化被膜を形成した第2の液晶ディスプレイ保護板とを製造した。
【0102】
比較例1-1では、実施例1~8と同じ硬化条件で硬化被膜を形成した。この例では、硬化温度が位相差調整層のTgより高く、位相差調整層が熱膨張している状態で被膜材料が硬化したため、硬化被膜に割れが生じた。
比較例1-2では、硬化温度を位相差調整層のTgより低い温度に下げた。硬化被膜の割れは生じなかったが、被膜材料の架橋反応が充分に進まず、硬化被膜の表面硬度、及び、樹脂板と硬化被膜との密着性が低下した。
比較例1-3では、硬化温度を位相差調整層のTgより低い温度に下げ、硬化時間を長くした。比較例1-1、1-2の不良点を改善できたが、硬化時間に時間を要し、生産性が不良であった。
比較例2では、比較例1-1と同様、硬化温度が位相差調整層のTgより高く、位相差調整層が熱膨張している状態で被膜材料が硬化したため、硬化被膜に割れが生じた。
【0103】
比較例3、4では、基材層の樹脂として、光弾性係数(C)及び配向複屈折(Δn)が本発明の規定外であるポリカーボネート系樹脂を用いた。比較例4ではさらに、位相差調整層の樹脂として、配向複屈折(Δn)が本発明の規定外であるメタクリル系樹脂を用いた。これら比較例で得られた液晶ディスプレイ保護板は、Re値の標準偏差が大きく(Re値のバラツキが大きく)、偏光フィルタを通して液晶画面上にある液晶ディスプレイ保護板を観察した際に、虹ムラが生じた。比較例3では、比較例1-1と同様、硬化温度が位相差調整層のTgより高く、位相差調整層が熱膨張している状態で被膜材料が硬化したため、硬化被膜に割れが生じた。
【0104】
本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、適宜設計変更が可能である。
【0105】
この出願は、2019年12月11日に出願された日本出願特願2019-223420号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0106】
1、2 液晶ディスプレイ保護板
11 Tダイ
12~14 冷却ロール
15 引取りロール
16 樹脂板
21 位相差調整層
22 基材層
31 硬化被膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6