(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】ポリマーフィルムおよび通信用基板
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240814BHJP
【FI】
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
(21)【出願番号】P 2022509945
(86)(22)【出願日】2021-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2021010308
(87)【国際公開番号】W WO2021193186
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2020058348
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】澤谷 岳尭
(72)【発明者】
【氏名】山田 晃
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-299254(JP,A)
【文献】特開2003-062890(JP,A)
【文献】特開平11-147999(JP,A)
【文献】特開2000-080254(JP,A)
【文献】特開平03-023921(JP,A)
【文献】特許第3795966(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02;5/12-5/22
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
B29C 48/00-48/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリマーを含むポリマーフィルムであって、
偏光顕微鏡によって直交ニコル環境下にて前記ポリマーフィルムの表面を観察した際に、観察領域において複数の明部が観察され、
前記複数の明部のうち、円相当径が最大である明部の円相当径が10μm以下である、ポリマーフィルム。
【請求項2】
前記偏光顕微鏡における前記観察領域の面積に対する、前記明部の総面積の割合が60%以下である、請求項1に記載のポリマーフィルム。
【請求項3】
前記ポリマーフィルムが、無機粒子、および、前記液晶ポリマーとは異なるポリマーからなる群から選択される成分を含み、
走査型電子顕微鏡によって、前記ポリマーフィルムの表面に対する垂直断面を観察した際に、観察領域において前記成分からなる島状領域が複数観察され、前記島状領域の円相当径が0.001~10μmである、請求項1または2に記載のポリマーフィルム。
【請求項4】
前記走査型
電子顕微鏡における前記観察領域の面積に対する、前記島状領域の総面積の割合が1~60%である、請求項3に記載のポリマーフィルム。
【請求項5】
前記無機粒子を構成する材料が、シリカ、酸化チタン、硫酸バリウム、タルク、ジルコニア、アルミナ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、炭酸カルシウム、ケイ酸塩、ガラスビーズ、グラファイト、タングステンカーバイド、カーボンブラック、クレイ、マイカ、炭素繊維、ガラス繊維および金属粉からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記ポリマーが、熱可塑性樹脂およびエラストマーからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項3または4に記載のポリマーフィルム。
【請求項6】
前記島状領域間の距離が、0.0001~5μmである、請求項3~5のいずれか1項に記載のポリマーフィルム。
【請求項7】
前記ポリマーフィルムの面内の第1方向におけるヤング率に対する、前記第1方向と直交する前記ポリマーフィルムの面内の第2方向におけるヤング率の割合が、0.5~1.9である、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリマーフィルム。
【請求項8】
前記ポリマーフィルムの面内の第1方向における誘電正接に対する、前記第1方向と直交する前記ポリマーフィルムの面内の第2方向における誘電正接の割合が、0.5~1.5である、請求項1~7のいずれか1項に記載のポリマーフィルム。
【請求項9】
前記ポリマーフィルムの面内の第1方向における誘電率に対する、前記第1方向と直交する前記ポリマーフィルムの面内の第2方向における誘電率の割合が、0.5~1.5である、請求項1~8のいずれか1項に記載のポリマーフィルム。
【請求項10】
前記ポリマーフィルムの面内の第1方向における線膨張率に対する、前記第1方向と直交する前記ポリマーフィルムの面内の第2方向における線膨張率の割合が、0.5~1.8である、請求項1~9のいずれか1項に記載のポリマーフィルム。
【請求項11】
前記ポリマーフィルムの表面の算術平均表面粗さRaが400nm以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載のポリマーフィルム。
【請求項12】
厚みが5~1100μmである、請求項1~11のいずれか1項に記載のポリマーフィルム。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載のポリマーフィルムを有する、通信用基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーフィルムおよび通信用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代通信技術とされる第5世代(5G)移動通信システムには、これまで以上の高周波数および広帯域が用いられる。そのため、5G移動通信システムのための回路基板用の基板フィルムとして、低誘電率および低誘電正接の特性を有するものが求められており、種々の素材による開発がなされている。
このような基板フィルムの1つとして、液晶ポリマー(LCP:liquid crystal polymer)を含むポリマーフィルムが挙げられる。液晶ポリマーを含むポリマーフィルムは、第4世代(4G)移動通信システムにおいて、一般的なポリイミドおよびガラスエポキシフィルムよりも、誘電率が低く、かつ、誘電正接が低い。
【0003】
しかしながら、液晶ポリマーは溶融状態でも棒状の分子構造を有しているため、易配向性を有する。加工のために液晶ポリマーをTダイから溶融押出する際、ダイスリットにて液晶ポリマーはせん断応力を受けて棒状の液晶分子が機械軸方向(MD方向:Machine Direction)に配向し、メルトドローによりさらに配向が進む。
そのため、溶融押し出しによって製造されたポリマーフィルムは液晶分子がMD方向に沿った一軸配向性フィルムとなり、強い異方性を持つ。この異方性に起因して、MD方向と幅方向(TD方向:Transverse Direction)にそれぞれ異なった機械的特性や、寸法安定性、電気的特性を持つため、回路基板へ加工する際、割れおよび導電層の剥離といった問題が生じる。
【0004】
上記のようなポリマーフィルムの異方性を改良する方法として、特許文献1には、液晶ポリマーを用いたインフレーション成形によって、ポリマーフィルムを得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、特許文献1を参考にして、液晶ポリマーを用いてポリマーフィルムを製造したところ、線膨張率の異方性が大きくなる場合があり、改善の余地があることを明らかとした。
【0007】
そこで、本発明は、線膨張率の異方性が小さいポリマーフィルムを提供することを課題とする。また、本発明は、上記ポリマーフィルムを有する通信用基板を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、偏光顕微鏡によって直交ニコル環境下にてポリマーフィルムの表面を観察した際に、観察領域において複数の明部が観察され、円相当径が最大である明部の円相当径が10μm以下であれば、所望の効果を奏することを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0009】
[1]
液晶ポリマーを含むポリマーフィルムであって、
偏光顕微鏡によって直交ニコル環境下にて上記ポリマーフィルムの表面を観察した際に、観察領域において複数の明部が観察され、
上記複数の明部のうち、円相当径が最大である明部の円相当径が10μm以下である、ポリマーフィルム。
[2]
上記偏光顕微鏡における上記観察領域の面積に対する、上記明部の総面積の割合が60%以下である、[1]に記載のポリマーフィルム。
[3]
上記ポリマーフィルムが、無機粒子、および、上記液晶ポリマーとは異なるポリマーからなる群から選択される成分を含み、
走査型電子顕微鏡によって、上記ポリマーフィルムの表面に対する垂直断面を観察した際に、観察領域において上記成分からなる島状領域が複数観察され、上記島状領域の円相当径が0.001~10μmである、[1]または[2]に記載のポリマーフィルム。
[4]
上記走査型顕微鏡における上記観察領域の面積に対する、上記島状領域の総面積の割合が1~60%である、[3]に記載のポリマーフィルム。
[5]
上記無機粒子を構成する材料が、シリカ、酸化チタン、硫酸バリウム、タルク、ジルコニア、アルミナ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、炭酸カルシウム、ケイ酸塩、ガラスビーズ、グラファイト、タングステンカーバイド、カーボンブラック、クレイ、マイカ、炭素繊維、ガラス繊維および金属粉からなる群から選択される少なくとも1種であり、
上記ポリマーが、熱可塑性樹脂およびエラストマーからなる群から選択される少なくとも1種である、[3]または[4]に記載のポリマーフィルム。
[6]
上記島状領域間の距離が、0.0001~5μmである、[3]~[5]のいずれかに記載のポリマーフィルム。
[7]
上記ポリマーフィルムの面内の第1方向におけるヤング率に対する、上記第1方向と直交する上記ポリマーフィルムの面内の第2方向におけるヤング率の割合が、0.5~1.9である、[1]~[6]のいずれかに記載のポリマーフィルム。
[8]
上記ポリマーフィルムの面内の第1方向における誘電正接に対する、上記第1方向と直交する上記ポリマーフィルムの面内の第2方向における誘電正接の割合が、0.5~1.5である、[1]~[7]のいずれかに記載のポリマーフィルム。
[9]
上記ポリマーフィルムの面内の第1方向における誘電率に対する、上記第1方向と直交する上記ポリマーフィルムの面内の第2方向における誘電率の割合が、0.5~1.5である、[1]~[8]のいずれかに記載のポリマーフィルム。
[10]
上記ポリマーフィルムの面内の第1方向における線膨張率に対する、上記第1方向と直交する上記ポリマーフィルムの面内の第2方向における線膨張率の割合が、0.5~1.8である、[1]~[9]のいずれかに記載のポリマーフィルム。
[11]
上記ポリマーフィルムの表面の算術平均表面粗さRaが400nm以下である、[1]~[10]のいずれかに記載のポリマーフィルム。
[12]
厚みが5~1100μmである、[1]~[11]のいずれかに記載のポリマーフィルム。
[13]
[1]~[12]のいずれかに記載のポリマーフィルムを有する、通信用基板。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、線膨張率の異方性が小さいポリマーフィルムを提供できる。また、本発明によれば、上記ポリマーフィルムを有する通信用基板も提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、偏光顕微鏡によって直交ニコル環境下にて、本発明のポリマーフィルムを観察して得られた観察画像の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされる場合があるが、本発明はそのような実施態様に限定されない。
本明細書中における基(原子団)の表記について、本発明の趣旨に反しない限り、置換および無置換を記していない表記は、置換基を有さない基と共に置換基を有する基をも包含する。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含する。また、本明細書中における「有機基」とは、少なくとも1個の炭素原子を含む基をいう。
本明細書において、(メタ)アクリル樹脂は、アクリル樹脂およびメタクリル樹脂を表す。
本明細書において、ポリマーフィルムが長尺状である場合には、第1方向は、ポリマーフィルムの幅方向(短手方向、TD方向)を意味し、第2方向は、ポリマーフィルムの長手方向(MD方向)を意味する。
本明細書において、各成分は、各成分に該当する物質を1種単独でも用いても、2種以上を併用してもよい。ここで、各成分について2種以上の物質を併用する場合、その成分についての含有量とは、特段の断りが無い限り、併用した物質の合計の含有量を指す。
本明細書において、「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0013】
[ポリマーフィルム]
本発明のポリマーフィルムは、液晶ポリマーを含むポリマーフィルムであって、偏光顕微鏡によって直交ニコル環境下にて上記ポリマーフィルムの表面を観察した際に、観察領域において複数の明部が観察され、上記複数の明部のうち、円相当径が最大である明部の円相当径(以下、「明部の最大円相当径」ともいう。)が10μm以下である。
本発明のポリマーフィルムは、線膨張率の異方性が小さい。この理由の詳細は明らかではないが、概ね以下のように推定している。
偏光顕微鏡によって観察される上記明部は、液晶ポリマーの分子鎖が同じ方向に配向して硬化している部分であると推測される。つまり、明部のサイズが小さい場合、ポリマーフィルム中の液晶ポリマーの分子鎖が同じ方向に配向している部分が少なくなっていると考えられる。これにより、ポリマーフィルムの線膨張率の異方性が小さくなったものと推測される。
【0014】
〔液晶ポリマー〕
本発明のポリマーフィルムは、液晶ポリマーを含む。液晶ポリマーは、溶融成形可能な液晶ポリマーであることが好ましい。
液晶ポリマーとしては、サーモトロピック液晶ポリマーが挙げられる。サーモトロピック液晶ポリマーは、所定の温度範囲で液晶性を示すポリマーを意味する。
サーモトロピック液晶ポリマーは、溶融成形できる液晶ポリマーであればその化学的組成については特に限定されないが、例えば、熱可塑性液晶ポリエステル、および、熱可塑性液晶ポリエステルにアミド結合が導入された熱可塑性ポリエステルアミド等が挙げられる。
液晶ポリマーは、国際公開第2015/064437号明細書、および、特開2019-116586号公報に記載の熱可塑性液晶ポリマーを用いることができる。
【0015】
液晶ポリマーの好ましい具体例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族もしくは脂肪族ジオール、芳香族もしくは脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミン、および、芳香族アミノカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1つに由来する繰り返し単位を有する、熱可塑性液晶ポリエステルまたは熱可塑性液晶ポリエステルアミドが挙げられる。
【0016】
芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、パラヒドロキシ安息香酸、メタヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、および、4-(4-ヒドロキシフェニル)安息香酸が挙げられる。これらの化合物は、ハロゲン原子、低級アルキル基およびフェニル基等の置換基を有してもよい。なかでも、パラヒドロキシ安息香酸、または、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸が好ましい。
芳香族または脂肪族ジオールとしては、芳香族ジオールが好ましい。芳香族ジオールとしては、ヒドロキノン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジメチル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジオールおよびこれらのアシル化物が挙げられ、ヒドロキノンまたは4,4’-ジヒドロキシビフェニルが好ましい。
芳香族もしくは脂肪族ジカルボン酸としては、芳香族ジカルボン酸が好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、および、2,6-ナフタレンジカルボン酸が挙げられ、テレフタル酸が好ましい。
芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミン、および、芳香族アミノカルボン酸としては、例えば、p-フェニレンジアミン、4-アミノフェノール、および、4-アミノ安息香酸が挙げられる。
【0017】
液晶ポリマーは、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰り返し単位、芳香族ジオールに由来する繰り返し単位、および、芳香族ジカルボン酸に由来する繰り返し単位からなる群より選ばれる少なくとも1つを有することが好ましい。
なかでも、液晶ポリマーは、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰り返し単位を少なくとも有することがより好ましく、パラヒドロキシ安息香酸に由来する繰り返し単位、および、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する繰り返し単位からなる群より選ばれる少なくとも1つを有することが更に好ましく、パラヒドロキシ安息香酸に由来する繰り返し単位、および、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する繰り返し単位を有することが特に好ましい。
【0018】
また、他の好ましい態様として、液晶ポリマーは、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する繰り返し単位、芳香族ジオールに由来する繰り返し単位、テレフタル酸に由来する繰り返し単位、および、2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する繰り返し単位からなる群より選ばれる少なくとも1つを有することがより好ましく、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する繰り返し単位、芳香族ジオールに由来する繰り返し単位、テレフタル酸に由来する繰り返し単位、および、2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する繰り返し単位をすべて有することが、更に好ましい。
【0019】
液晶ポリマーが芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰り返し単位を含む場合、その組成比は、液晶ポリマーの全繰り返し単位に対して50~65モル%が好ましい。また、液晶ポリマーが、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰り返し単位のみを有することも好ましい。
液晶ポリマーが芳香族ジオールに由来する繰り返し単位を含む場合、その組成比は、液晶ポリマーの全繰り返し単位に対して17.5~25モル%が好ましい。
液晶ポリマーが芳香族ジカルボン酸に由来する繰り返し単位を含む場合、その組成比は、液晶ポリマーの全繰り返し単位に対して11~23モル%が好ましい。
液晶ポリマーが芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンおよび芳香族アミノカルボン酸のいずれかに由来する繰り返し単位を含む場合、その組成比は、液晶ポリマーの全繰り返し単位に対して2~8モル%が好ましい。
【0020】
液晶ポリマーの合成方法は特に制限されず、上記化合物を、溶融重合、固相重合、溶液重合およびスラリー重合等の公知の方法で重合することにより、合成できる。
液晶ポリマーとしては、市販品を用いてもよい。液晶ポリマーの市販品としては、例えば、ポリプラスチックス社製「ラペロス」、セラニーズ社製「ベクトラ」、上野製薬社製「UENO LCP」、住友化学社製「スミカスーパーLCP」、ENEOS社製「ザイダー」、および、東レ社製「シベラス」が挙げられる。
なお、液晶ポリマーは、ポリマーフィルム中において、任意成分である架橋剤または相溶成分(反応性相溶化剤)等と、化学結合を形成していてもよい。この点は、液晶ポリマー以外の成分についても同様である。
【0021】
液晶ポリマーの含有量は、ポリマーフィルムの全質量に対して、40~100質量%が好ましく、60~99質量%がより好ましく、80~97質量%が特に好ましい。
【0022】
(明部の最大円相当径)
本発明のポリマーフィルムにおいて、明部の最大円相当径は、10μm以下であり、本発明の効果がより優れる点から、4μm以下がより好ましく、2μm以下が特に好ましい。
明部の最大円相当径の下限値は、特に限定されないが、0.001μm以上が好ましく、0.005μm以上がより好ましく、0.01μm以上が特に好ましい。
【0023】
ここで、明部の最大円相当径は、次のようにして測定される。
まず、ポリマーフィルムの異なる20箇所について、ポリマーフィルムの主面に平行な方向(すなわち、ポリマーフィルムの厚み方向と直交する方向(面内方向))に沿って、ミクロトームを用いて切削し、所定の厚み(例えば、10μm)の薄片状試料を切り出して、20枚の観察用試料を得る。
次に、偏光顕微鏡によって直交ニコル環境下にて、観察用試料の主面の法線方向から観察して、観察領域に対応する20枚の観察画像を得る。ここで、直交ニコル環境下とは、観察用試料を挟む2つの偏光子の偏光軸のなす角が互いに直交する状態をいう。なお、観察する際の倍率は、10~1000倍の範囲における適切な倍率を選択する。
次に、20枚の観察画像のそれぞれについて、明部の外周をトレースし、トレースした領域と同じ面積の円の直径(円相当径)を画像解析装置によって測定する。そして、20枚の観察画像から得られた明部の円相当径の最大値を、明部の最大円相当径と定義する。
【0024】
図1は、偏光顕微鏡によって直交ニコル環境下にて、本発明のポリマーフィルムを観察して得られた観察画像の一例である。
図1に示すように、観察画像において、相対的に明るくみえる明部と、相対的に暗く見える暗部とが観察される。
【0025】
明部の最大円相当径を上記範囲内にする方法としては、例えば、ポリマーフィルムの製造時において、液晶ポリマーとともに後述する所定サイズの無機粒子およびポリマーの少なくとも一方の成分を加える方法、液晶ポリマーを用いて形成されたペレットを押出機で溶融混練するときの温度、吐出量、および/または、スクリュー回転数を調節する方法、液晶ポリマーを用いて形成されたペレットが押出機を通過してダイから吐出されるまでの滞留時間を調節する方法、ならびに、これらを組み合わせる方法が挙げられる。
【0026】
(明部の面積率)
偏光顕微鏡における観察領域の面積に対する明部の総面積の割合(以下、「明部の面積率」ともいう。)は、本発明の効果がより優れる点から、60%以下が好ましく、55%以下がより好ましく、50%以下がさらに好ましく、40%以下が特に好ましく、30%以下が最も好ましい。
明部の面積率の下限値は、特に制限されないが、1%以上が好ましく、2%以上がより好ましく、5%以上が特に好ましい。
【0027】
ここで、明部の面積率は、上述の明部の最大円相当径の測定方法により得られた観察画像に基づいて算出される。
具体的には、上記のようにして得られた20枚の観察画像のそれぞれについて、明部の円相当径の総面積を算出し、観察画像(すなわち、観察領域)の総面積に対して、明部の円相当径の総面積が占める割合(%)を算出する。そして、20枚の観察画像における算術平均値を求めて、これを明部の面積率と定義する。
【0028】
明部の面積率を上記範囲内にする方法としては、上述の明部の最大円相当径を調節する方法と同様の方法が挙げられる。
【0029】
〔成分A(無機粒子、ポリマー)〕
ポリマーフィルムは、無機粒子、および、上記液晶ポリマーとは異なるポリマーからなる群から選択される成分(以下、「成分A」ともいう。)を含むことが好ましい。これにより、明部の最大円相当径を上記範囲に調節することが容易になる。
中でも、成分Aは、島状領域の円相当径(後述)を容易に調整可能であるという点から、ポリマーを含むことが好ましい。
【0030】
無機粒子を構成する材料は、本発明の効果がより優れる点から、シリカ、酸化チタン、硫酸バリウム、タルク、ジルコニア、アルミナ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、炭酸カルシウム、ケイ酸塩、ガラスビーズ、グラファイト、タングステンカーバイド、カーボンブラック、クレイ、マイカ、炭素繊維、ガラス繊維、金属粉、からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、シリカ、酸化チタン、硫酸バリウム、タルク、炭酸カルシウム、ケイ酸塩、クレイからなる群から選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。
【0031】
無機粒子の平均一次粒子径は、島状領域の円相当径(後述)を所望の範囲にすることが容易になる点から、5~10000nmが好ましく、10~1000nmがより好ましく、50~200nmが特に好ましい。
【0032】
無機粒子の一次粒子の粒子径は、無機粒子を透過型電子顕微鏡を用いて撮影倍率10,000倍で撮影し、総倍率50,000倍になるように印画紙にプリントして得た粒子写真において、デジタイザーで粒子(一次粒子)の輪郭をトレースし、トレースした領域と同じ面積の円の直径(円面積相径)を算出することで測定する。ここで、一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。透過型電子顕微鏡を用いる撮影は、加速電圧300kVで透過型電子顕微鏡を用いて直接法により行うものとする。透過型電子顕微鏡観察および測定は、例えば日立製透過型電子顕微鏡H-9000型およびカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて行うことができる。
ここで、本明細書に記載の各種粒子に関する平均一次粒子径は、市販品を用いる場合、カタログ値を採用する。
カタログ値が無い場合、上記のように撮影された粒子写真を用いて、無作為に抽出した500個の粒子について求められた値の算術平均とする。
【0033】
ポリマーは、熱可塑性樹脂およびエラストマーからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0034】
熱可塑性樹脂としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素化ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、セルロースアシレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、環状オレフィンコポリマーからなる樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂)、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、フルオレン環変性ポリカーボネート樹脂、脂環変性ポリカーボネート樹脂、および、フルオレン環変性ポリエステル樹脂等が挙げられる。中でも、汎用的な材料であり、島状領域の円相当径(後述)を容易に調整可能であるという点で、ポリオレフィン樹脂が好ましい。
【0035】
本明細書において、エラストマーとは、弾性変形を示す高分子化合物を表す。すなわち外力を加えたときに、その外力に応じて瞬時に変形し、かつ外力を除いたときには、短時間に元の形状を回復する性質を有する高分子化合物と定義する。
エラストマーとしては、特に限定されず、例えば、スチレン由来の繰り返し単位を含むエラストマー(ポリスチレン系エラストマー)、ポリエステル系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリアクリル系エラストマー、シリコーン系エラストマー、ポリイミド系エラストマー等が挙げられる。中でも、汎用的な材料であり、島状領域の円相当径(後述)を容易に調整可能であるという点で、ポリスチレン系エラストマーが好ましい。
エラストマーは、水添物であることが好ましく、ポリスチレン系エラストマーの水添物であることが特に好ましい。エラストマーが水添物であると、熱安定性や保存安定性が向上する。なお、水添物とは、エラストマーが水添された構造の重合体を意味する。
ポリスチレン系エラストマーとしては、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、ポリスチレン-ポリ(エチレン-プロピレン)ジブロック共重合体(SEP)、ポリスチレン-ポリ(エチレン-プロピレン)-ポリスチレントリブロック共重合体(SEPS)、ポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレントリブロック共重合体(SEBS)、および、ポリスチレン-ポリ(エチレン/エチレン-プロピレン)-ポリスチレントリブロック共重合体(SEEPS)が挙げられる。中でも、本発明の効果がより優れる点から、SEBSが好ましい。
【0036】
ポリマーとしては、本発明の効果がより優れる点から、ポリオレフィン樹脂が好ましく、直鎖状または分岐状のポリオレフィン樹脂が好ましく、ポリエチレン樹脂またはポリプロピレン樹脂がより好ましく、ポリエチレン樹脂が特に好ましい。
【0037】
成分Aの含有量は、本発明の効果がより優れる点から、ポリマーフィルムの全質量に対して、1~60質量%が好ましく、2~20質量%がより好ましく、5~15質量%が特に好ましい。
【0038】
ポリマーフィルムが成分Aを含む場合、走査型電子顕微鏡によって、ポリマーフィルムの表面に対する垂直断面を観察した際に、観察領域において成分Aからなる島状領域が複数観察される。この場合、ポリマーフィルムは、成分Aからなる複数の島状領域と、液晶ポリマーからなる連続領域と、を有する海島構造を有しており、成分Aが液晶ポリマー中に分散しているといえる。
【0039】
(島状領域の円相当径)
島状領域の円相当径は、明部の最大円相当径を上記範囲に調節することが容易になる点、および/または、ポリマーフィルムの表面の算術平均表面粗さRaを低減できる点から、から、0.001~10μmが好ましく、0.005~5μmがより好ましく、0.01~1μmが特に好ましい。
【0040】
ここで、島状領域の円相当径は、次のようにして測定される。
まず、ポリマーフィルムの異なる10箇所において、ポリマーフィルムの面内の第1方向と平行で、かつ、ポリマーフィルムの表面に垂直な割断面が得られるように、ポリマーフィルムを切断する。また、ポリマーフィルムの異なる10箇所において、ポリマーフィルムの面内の第2方向(第1方向と直交する方向)と平行で、かつ、ポリマーフィルムの表面に垂直な割断面が得られるように、ポリマーフィルムを切断する。
次に、走査型電子顕微鏡を用いて、合計20箇所(すなわち、第1方向と平行で、かつ、かつ、ポリマーフィルムの表面に垂直な割断面の10箇所と、第2方向と平行で、かつ、ポリマーフィルムの表面に垂直な割断面の10箇所と、の合計)の割断面を観察して、観察領域に対応する20枚の観察画像を得る。なお、観察は、100~100,000倍の範囲における適切な倍率を選択して行われ、ポリマーフィルムの厚み方向の全範囲が観察できるように撮影する。
次に、20枚の観察画像における任意の200個の島状領域について、島状領域の外周をトレースし、トレースした領域と同じ面積の円の直径(円相当径)を画像解析装置によって測定する。そして、200個の島状領域の円相当径の算術平均値を、島状領域の円相当径と定義する。
【0041】
島状領域の円相当径を上記範囲にする方法としては、成分Aが無機粒子である場合に所定の平均一次粒子径の無機粒子を用いる方法、成分Aがポリマーである場合に所定の種類のポリマーを用いる方法、後述のペレット化の際にせん断速度を調節する方法、および、これらを組み合わせる方法が挙げられる。
【0042】
(島状領域の面積率)
走査型顕微鏡における観察領域の面積に対する、島状領域の総面積の割合(以下、「島状領域の面積率」ともいう。)は、1~60%が好ましく、1~50%がより好ましく、2~20%がさらに好ましく、5~15%が特に好ましい。下限値以上であれば、本発明の効果がより優れる。また、上限値以下であれば、ポリマーフィルムの表面を平滑にできる。
【0043】
ここで、島状領域の面積率は、上述の島状領域の円相当径の測定方法により得られた観察画像に基づいて算出される。
具体的には、上記のようにして得られた20枚の観察画像のそれぞれから、任意の領域(以下、「選択領域」ともいう。)を選択する。例えば、選択領域としては、縦10μm×横10μmの正方形の領域が挙げられる。
次に、選択領域内に存在する島状領域の外周をトレースし、島状領域の占める総面積を画像解析装置によって測定し、選択領域の面積に対して、島状領域の総面積が占める割合(%)を算出する。そして、20枚の観察画像における算術平均値を求めて、これを島状領域の面積率と定義する。
【0044】
島状領域の面積率を上記範囲にする方法としては、ポリマーフィルムを製造する際に、液晶ポリマーの含有量に対する成分Aの含有量を調節する方法が挙げられる。
【0045】
(島状領域間の距離)
島状領域間の距離は、本発明の効果がより優れる点から、0.0001~5μmが好ましく、0.001~1μmがより好ましく、0.01~0.1μmが特に好ましい。
ここで、島状領域間の距離は、上述の島状領域の円相当径の測定方法により得られた観察画像に基づいて算出される。
具体的には、上記のようにして得られた20枚の観察画像のそれぞれから、任意の領域(以下、「選択領域」ともいう。)を選択する。例えば、選択領域としては、縦10μm×横10μmの正方形の領域が挙げられる。
次に、選択領域内に存在する島状領域の外周をトレースし、異なる島状領域間の最短距離を画像解析装置によって測定する。そして、20枚の観察画像における算術平均値を求めて、これを島状領域間の距離と定義する。
【0046】
島状領域間の距離を上記範囲内にする方法としては、上述の島状領域の円相当径を調節する方法と同様の方法、上述の島状領域の面積率を調節する方法と同様の方法、および、これらを組み合わせた方法が挙げられる。
【0047】
〔他の成分〕
本発明のポリマーフィルムは、上記以外の成分を含んでいてもよい。このような他の成分としては、例えば、架橋成分、相溶成分、可塑剤、安定剤、滑剤、および、着色剤が挙げられる。
【0048】
(架橋成分)
架橋成分としては、エポキシ基含有エチレン共重合体(例えば、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン-ビニルアセテート-グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン-メチルアクリレート-グリシジルメタクリレート共重合体、ポリ(エチレン-メタクリル酸グリシジル)-graft-ポリ(アクリロニトリル-スチレン))、ビスフェノール型エポキシ化合物、および、カルボジイミド化合物等の反応性基を有する化合物が挙げられる。
架橋成分の含有量は、ポリマーフィルムの全質量に対して、0~50質量%であることが好ましい。
【0049】
(相溶成分)
相溶成分としては、オキサゾリン系相溶化剤(例えば、ビスオキサゾリン-スチレン-無水マレイン酸共重合体、ビスオキサゾリン-無水マレイン酸変性ポリエチレン、ビスオキサゾリン-無水マレイン酸変性ポリプロピレン)、エラストマー系相溶化剤(例えば、スチレンエチレンブタジエン共重合体、スチレンエチレンブタジエンスチレン共重合体、水添スチレンイソプロピレンスチレン共重合体、芳香族系樹脂、石油樹脂)、反応性相溶化剤(例えば、エチレングリシジルメタクリレート共重合体、エチレン無水マレイン酸エチルアクリレート共重合体、エチレングリシジルメタクリレート-アクリロニトリルスチレン、酸変性型ポリエチレンワックス、COOH化ポリエチレングラフトポリマー、COOH化ポリプロピレングラフトポリマー)、および、共重合体系相溶化剤(例えば、ポリエチレン-ポリアミドグラフト共重合体、ポリプロピレン-ポリアミドグラフト共重合体、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、EVA-PVC-グラフト共重合体、酢酸ビニル-エチレン共重合体樹脂、エチレン-α-オレフィン共重合体、プロピレン-α-オレフィン共重合体、水添スチレン-イソプロピレン-ブロック共重合体)が挙げられる。
また、相溶成分として、エチレン-メタクリル酸共重合体アイオノマー、エチレン-アクリル酸共重合体アイオノマー、プロピレン-メタクリル酸共重合体アイオノマー、プロピレン-アクリル酸共重合体アイオノマー、ブチレン-アクリル酸共重合体アイオノマー、エチレン-ビニルスルホン酸共重合体アイオノマー、スチレン-メタクリル酸共重合体アイオノマー、スルホン化ポリスチレンアイオノマー、フッ素系アイオノマー、テレケリックポリブタジエンアクリル酸アイオノマー、スルホン化エチレン-プロピレン-ジエン共重合体アイオノマー、水素化ポリペンタマーアイオノマー、ポリペンタマーアイオノマー、ポリ(ビニルピリジウム塩)アイオノマー、ポリ(ビニルトリメチルアンモニウム塩)アイオノマー、ポリ(ビニルベンジルホスホニウム塩)アイオノマー、スチレン-ブタジエンアクリル酸共重合体アイオノマー、ポリウレタンアイオノマー、スルホン化スチレン-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンサルフェイトアイオノマー、酸-アミンアイオノマー、脂肪族系アイオネン、または、芳香族系アイオネン等のアイオノマー樹脂を用いてもよい。
相溶成分の含有量は、ポリマーフィルムの全質量に対して、0~50質量%であることが好ましい。
ただし、相溶成分が成分Aにも該当する場合には、相溶成分は、成分Aに分類するものとする。
【0050】
(可塑剤、安定剤、滑剤、有機微粒子)
可塑剤としては、アルキルフタルリルアルキルグリコレート類、リン酸エステル類、カルボン酸エステル類、および、多価アルコール類が挙げられる。可塑剤の含有量は、ポリマーフィルムの全質量に対して、0~20質量%であるのが好ましい。
安定剤としては、フォスファイト系安定剤(例えば、トリス(4-メトキシ-3,5-ジフェニル)フォスファイト、トリス(ノニルフェニル)フォスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト)、フェノール系安定剤(例えば、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,2-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、2,5-ジ-t-ブチルヒドロキノン、ペンタエリスリチルテトラキス[.3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドキシフェニル)プロピオレート、4,4-チオビス-(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)、1,1,-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオレート)、エポキシ化合物、および、チオエーテル化合物が挙げられる。安定剤の含有量は、0~10質量%であるのが好ましい。
滑剤としては、脂肪酸エステル、金属石鹸(例えばステアリン酸無機塩)が挙げられる。滑剤の含有量は、ポリマーフィルムの全質量に対して、0~5質量%であるのが好ましい。
有機微粒子としては、架橋アクリル、および、架橋スチレン等の有機微粒子が挙げられる。有機微粒子の含有量は、ポリマーフィルムの全質量に対して、0~50質量%であるのが好ましい。
【0051】
〔ポリマーフィルムの物性等〕
ポリマーフィルムの面内の第1方向におけるヤング率に対する、上記第1方向と直交するポリマーフィルムの面内の第2方向におけるヤング率の割合は、0.5~1.9が好ましく、0.5~1.5がより好ましく、0.7~1.3がさらに好ましく、0.8~1.2が特に好ましい。
ヤング率の測定方法は、後述の実施例欄に示す通りである。
【0052】
ポリマーフィルムの面内の第1方向における誘電正接に対する、第1方向と直交するポリマーフィルムの面内の第2方向における誘電正接の割合は、0.5~1.5が好ましく、0.7~1.3がより好ましく、0.8~1.2が特に好ましい。
誘電正接の測定方法は、後述の実施例欄に示す通りである。
【0053】
ポリマーフィルムの面内の第1方向における誘電率に対する、第1方向と直交する上記ポリマーフィルムの面内の第2方向における誘電率の割合は、0.5~1.5が好ましく、0.8~1.2がより好ましく、0.9~1.1が特に好ましい。
誘電率の測定方法は、後述の実施例欄に示す通りである。
【0054】
ポリマーフィルムの表面の算術平均表面粗さRaは、400nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましく、200nm以下が特に好ましい。
ポリマーフィルムの表面の算術平均表面粗さRaの下限値は、特に限定されないが、通常10nm以上である。
算術平均粗さRaの測定方法は、後述の実施例欄に示す通りである。
【0055】
ポリマーフィルムの厚みは、5~1100μmが好ましく、5~1000μmがより好ましく、5~250μmがさらに好ましく、5~150μmが特に好ましい。
ポリマーフィルムの厚みの測定方法は、後述の実施例欄に示す通りである。
【0056】
[ポリマーフィルムの製造方法]
本発明のポリマーフィルムの製造方法は、特に限定されないが、例えば、上述の各成分を混練してペレットを得るペレット化工程と、上記ペレットを用いてポリマーフィルムを得る成膜工程と、を含むことが好ましい。以下において、本発明のポリマーフィルムを単に「フィルム」という場合がある。以下において工程毎に説明する。
【0057】
〔ペレット化工程〕
(ペレット化)
(1)原料形態
フィルム成膜に用いる液晶ポリマーは、ペレット形状、フレーク状または粉体状態のものをそのまま用いることもできるが、成膜の安定化および添加剤(液晶ポリマー以外の成分を意味する。以下同様。)の均一分散を目的として、1種類以上の原料(液晶ポリマーおよび添加剤の少なくとも一方を意味する。以下同様。)を、押出機を用いて混練ペレット化して使用することが好ましい。
【0058】
(2)乾燥またはベントによる乾燥代替
ペレット化を行うにあたり、液晶ポリマーおよび添加剤は事前に乾燥を行うことが好ましい。乾燥方法としては、低露点の加熱エアーを循環させることや、真空乾燥により除湿することができる。特に、酸化し易い樹脂の場合には、真空乾燥または不活性気体を用いた乾燥が好ましい。
また、ベント式押出機を用いることで、乾燥を代用することもできる。ベント式押出し機には単軸および二軸のタイプがあり、どちらも用いることが可能であるが、二軸式の方がより効率的で好ましい。ベントにより押出し機内を1気圧未満、より好ましくは0~0.8気圧、さらに好ましくは0~0.6気圧でペレット化する。このような減圧は、押出機の混練部に設けたベントまたはホッパーから真空ポンプを用いて排気することで達成できる。
【0059】
(3)原料供給法
原料供給法は、混練ペレット化する前に原料を予め混ぜ合わせておいて供給する方法であってもよく、押出し機内へ一定割合になるように原料を別々に供給する方法であってもよく、両者を組み合わせた方法であってもよい。
【0060】
(4)押出し機の種類
ペレット化は、液晶ポリマーおよび/または添加剤を混練機により溶融均一分散させ、冷却固化した後に裁断して作製できる。押出機は、十分な溶融混練効果が得られる限り、公知の単軸スクリュー押出機、非噛み合い型異方向回転二軸スクリュー押出機、噛み合い型異方向回転二軸スクリュー押出機、および、噛み合い型同方向回転二軸スクリュー押出機等を用いることができる。
【0061】
(5)押出し時の雰囲気
溶融押出しする際には、均一分散を妨げない範囲で、可能な限り熱および酸化劣化を防止することが好ましく、真空ポンプを用いて減圧したり、不活性ガスを流入したりして酸素濃度を低下させることも有効である。これらの方法は単独でも組み合わせて実施してもよい。
【0062】
(6)回転数
押出機の回転数は、10~1000rpmが好ましく、20~700rpmがより好ましく、30~500rpmが特に好ましい。回転速度を下限値以上にすれば、滞留時間を短くできるので、熱劣化により分子量が低下したり、熱劣化による樹脂の着色が顕著となることを抑制できる。また、回転速度を上限値以下にすれば、剪断による分子鎖の切断を抑制できるので、分子量低下や、架橋ゲルの発生増加等を抑制できる。回転数は、均一分散性と滞留時間延長による熱劣化の両面から適正条件の選定することが好ましい。
【0063】
(7)温度
混練温度は、樹脂および添加剤の熱分解温度以下にすることが好ましく、押出し機の負荷および均一混練性低下が問題にならない範囲で、可能な限り低温にすることが好ましい。ただし、低温にし過ぎると溶融粘度が上昇し、逆に混練時のせん断応力が上昇して分子鎖切断を引き起こすことがあるため、適正範囲の選定が必要である。また、分散性アップと熱劣化の両立のために、押出し機の前半部分で比較的高温で溶融混合させて、後半で樹脂温度を下げる条件も有効である。
【0064】
(8)圧力
ペレット化時の混練樹脂圧力は、0.05~30MPaで行うことが好ましい。せん断により着色やゲルが発生し易い樹脂の場合には、押出し機内に1~10MPa程度の内圧を加えて、樹脂原料を2軸押出機内に充満させることが好ましい。この結果、低いせん断でより効率的に混練することができるため、熱分解を抑制しながら均一分散が促進される。このような圧力の調整は、Q/N(スクリュー1回転あたりの吐出量)の調整や2軸混練押出機出口に圧力調整弁を設けることによって行うことができる。
【0065】
(9)せん断、スクリュータイプ
複数種類の原料を均一分散させるために、せん断を付与することが好ましいが、必要以上にせん断をかけることにより分子鎖切断またはゲルの発生等が起こる場合がある。そのため、スクリューに配置するローターセグメント、ニーディングディスクの数、または、クリアランスは、適正に選定することが好ましい。一般的には、ローターセグメントはクリアランスが大きいことから、ニーディングディスクタイプより低せん断となる傾向がある。
押出機でのせん断速度(ペレット化時のせん断速度)は、60~1000sec-1が好ましく、100~800sec-1がより好ましく、200~500sec-1が特に好ましい。せん断速度が下限値以上であれば、原料の溶融不良の発生、および、添加剤の分散不良の発生を抑制できる。せん断速度が上限値以下であれば、分子鎖の切断を抑制でき、分子量低下、および、架橋ゲルの発生の増加等を抑制できる。また、ペレット化時のせん断速度が上記範囲内であれば、上述の島状領域の円相当径を上述の範囲に調節することが容易となる。
【0066】
(10)滞留時間
混練機滞留時間は、混練機における樹脂滞留部の容積と、ポリマーの吐出容量とから算出することができる。ペレット化における押出滞留時間は、10秒間~30分間が好ましく、15秒間~10分間がより好ましく、30秒~3分間が特に好ましい。十分な溶融が確保できる条件であれば、樹脂劣化と樹脂の変色を抑えることができるため、滞留時間は短い方が好ましい。
【0067】
(11)ペレタイズ方法
ペレタイズ方法としては、ヌードル状に押出したものを水中で固化したのち、裁断する方法が一般的であるが、押出機による溶融後、水中に口金より直接押出ながらカットするアンダーウオーターカット法、または、熱い状態のままカッティングするホットカット法によってペレット化を行ってもよい。
【0068】
(12)ペレットサイズ
ペレットサイズは、断面積が1~300mm2であり、長さが1~30mmであるのが好ましく、断面積が2~100mm2であり、長さが1.5~10mmであるのが特に好ましい。
【0069】
(13)その他のペレタイズ方法1(溶液法)
一般的なペレタイズ法としては、上述の押出し機による溶融混練法が一般的であるが、液晶ポリマーと添加剤の共通溶剤を用いて均一分散溶液を作製した後に、溶剤を除去させる方法も用いることができる。
このような溶剤としては、メチルアルコール、エチルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、酢酸ブチルおよびジクロロメタン等が挙げられる。
溶解後の濃度は、効率と分散性の点から、1~50質量%が好ましく、3~35質量%がより好ましく、5~30質量%が特に好ましい。
固化は、溶解後に溶剤を乾燥することで達成してもよいし(乾燥法)、溶解後に貧溶剤中に投入し析出させてもよい(析出法)。
【0070】
(乾燥)
(1)乾燥の目的
溶融成膜の前に、ペレット中の水分や揮発分を減少させることが好ましく、ペレットの乾燥を行うことが有効である。ペレット中に水分や揮発分が含まれている場合には、成膜フィルムへの泡混入またはヘイズの低下による外観の低下を引き起こすのみでなく、液晶ポリマーの分子鎖切断による物性の低下、または、モノマーもしくはオリゴマーの発生によるロール汚れが発生する場合がある。また、用いる液晶ポリマーの種類によっては、乾燥による溶存酸素除去により、溶融成膜時の酸化架橋体の生成を抑制できる場合もある。
【0071】
(2)乾燥方法・加熱方法
乾燥の方法については、乾燥効率や経済性の点から除湿熱風乾燥機を用いることが一般的であるが、目的とする含水率が得られるのであれば特に限定されない。また、液晶ポリマー物性の特性に合わせて、より適切な方法を選定することも問題ない。
加熱方法としては、加圧水蒸気、ヒーター加熱、遠赤外線照射、マイクロ波加熱、および、熱媒循環加熱方式等が挙げられる。
エネルギーをより有効に用いる点と温度ムラを小さくして均一な乾燥を行うために、乾燥設備を断熱構造にすることが好ましい。
乾燥効率を上げるために、攪拌することもできるが、ペレット粉が発生する場合もあるので、適宜使い分ければよい。また、乾燥方法は1種類に限定する必要はなく、複数種類を組み合わせて効率的に行うこともできる。
【0072】
(3)装置の形態
乾燥方式は、連続式とバッチ式の2種類があり、真空を用いた乾燥方式ではバッチ法が好ましく、一方連続式は定常状態での均一性に優れるメリットがあり、用途による使い分けが必要である。
【0073】
(4)雰囲気、風量
乾燥雰囲気は、低露点エアーまたは低露点不活性ガスの送風または減圧の方法が用いられる。エアーの露点として、0~-60℃が好ましく、-10~-55℃がより好ましく、-20~-50℃が特に好ましい。低露点雰囲気にすることは、ペレット中の含有揮発分を低減させる点からは好ましいが、経済性の点からは不利であり、適正範囲を選択すればよい。原料が酸素によりダメージを受ける場合には、不活性ガスを用いて酸素分圧を下げることも有効である。
液晶ポリマー1トンあたりに必要な風量としては、20~2000m3/時間が好ましく、50~1000m3/時間がより好ましく、100~500m3/時間が特に好ましい。乾燥風量が下限値以上であれば、乾燥効率が向上する。乾燥風量が上限値以下である場合、経済面で好ましい。
【0074】
(5)温度・時間
乾燥温度としては、原料が非結晶状態の場合には、{ガラス転移温度(Tg)(℃)-1℃}~{Tg(℃)-100℃}(すなわち、Tgよりも1℃~100℃低い温度)が好ましく、{Tg(℃)-5℃}~{Tg(℃)-60℃}がより好ましく、{Tg(℃)-10}~{Tg(℃)-40℃}が特に好ましい。
乾燥温度が上限値以下であれば、樹脂の軟化によるブロッキングを抑制できるので、搬送性に優れる。一方、乾燥温度が下限値以上であれば、乾燥効率が向上でき、また、含水率を所望の値にできる。
また、結晶性樹脂の場合は、{融点(Tm)(℃)-30℃}以下であれば樹脂が融解せずに乾燥することが可能である。高温度にし過ぎると、着色や分子量の変化(一般的には低下するが、場合によっては上昇する)が起きる場合がある。また、温度が低過ぎても乾燥効率が低いことから、適正な条件を選択する必要がある。目安としては、{Tm(℃)-150℃}~{Tm(℃)-50}℃が好ましい。
乾燥時間は、15分以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、2時間以上が特に好ましい。なお、50時間を超えて乾燥させても更なる水分率の低減効果は小さく、樹脂の熱劣化の懸念が発生するため、乾燥時間を不必要に長くしなくてもよい。
【0075】
(6)含水率
ペレットの含水率は、1.0質量%以下が好ましく、0.1質量%以下がより好ましく、0.01質量%以下が特に好ましい。
【0076】
(7)輸送方法
乾燥したペレットへの水分再吸着を防止するために、ペレットの輸送はドライエアーまたは窒素を用いることが好ましい。また、押出し安定化のために、一定温度の高温ペレットを押出し機に供給することも有効であり、加温状態を維持するために加熱ドライエアーを用いることも一般的である。
【0077】
〔成膜工程〕
(製造装置)
以下、製造装置を構成する各設備の一例について述べる。
【0078】
(押出機、スクリュー、バレル)
(1)押出機構造
液晶ポリマー原料(ペレット)は、押出機の供給口を介してシリンダー内に供給される。シリンダー内は供給口側から順に、供給した液晶ポリマーを定量輸送する供給部と、液晶ポリマーを溶融混練および圧縮する圧縮部と、溶融混練および圧縮された液晶ポリマーを計量する計量部と、で構成される。シリンダーの外周部には複数に分割された加熱冷却装置が設けられており、シリンダー内のそれぞれのゾーンを所望の温度に制御できるようになっている。シリンダーの加熱は、通常バンドヒーターまたはシーズ線アルミ鋳込みヒーターが用いられるが、熱媒循環加熱方法も用いることができる。また、冷却はブロワーによる空冷が一般的であるが、シリンダー外周に巻き付けたパイプに水または油を流す方法もある。
また供給口部は、ペレットが加熱されて融着しないようにすることと、スクリュー駆動設備保護のための伝熱防止のために、冷却することが好ましい。
シリンダーの内壁面は、耐熱・耐磨耗性・腐食性に優れ、樹脂との摩擦が確保可能な素材を用いることが必要である。一般的には内面を窒化処理した窒化鋼が使用されているが、クロムモリブデン鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、ステンレス鋼を窒化処理して用いることもできる。
特に耐摩耗性、耐食性を要求される用途では、遠心鋳造法によりニッケル、コバルト、クロム、および、タングステン等の耐腐食性および耐磨耗性の素材合金をシリンダーの内壁面にライニングさせたバイメタリックシリンダーを用いることや、セラミックの溶射皮膜を形成させることが有効である。
また、シリンダーは通常平滑な内面を有するが、押出量増大を目的としてシリンダー内壁に軸方向の溝(角形溝、半円溝、ヘリカル溝等)を付けたものもある。ただし、シリンダーへの溝は押出機内のポリマー滞留の原因になるため、異物レベルの厳しい用途での使用には注意が必要である。
【0079】
(2)押出し機の種類
一般的に用いられる押出機は大別して、単軸(シングルスクリュー)と二軸があり、単軸押出機が広範囲に使用されている。二軸(多軸)用スクリューは、噛み合い型と非噛み合い型とに大別され、回転方向もそれぞれ同方向と異方向に分かれる。噛み合い型のほうが、非噛み合い型よりも混練効果が大きいので使用される例が多い。また、異方向回転スクリューのほうが同方向回転型よりも混練効果が高いが、同方向回転型は自己清掃効果を持っているため、押出機内の滞留防止には有効である。さらに軸方向も平行と斜交があり、強いせん断を付与する場合に用いられるコニカルタイプの形状もある。二軸押出機では、ベント口を適正に配置することにより、未乾燥状態の原料(ペレット、パウダー、フレーク)や成膜途中で出たフィルムのミミ等をそのまま使用できるため広く用いられているが、単軸押出機の場合もベント口を適正に配置することにより、揮発成分を除去することも可能である。成膜に用いる押出し機は、求められる押出性能(押出し安定性、混練性、滞留防止、熱履歴)と押出機の特徴とにより選定することが重要である。
押出機は、単軸、および、二軸(多軸)をそれぞれ単独で用いることが一般的であるが、各々の特徴を生かして組み合わせて使用することも一般的である。例えば、未乾燥原料が使用可能な二軸押出し機と計量性の良好な単軸押出機の組合せはPET(ポリエステル)樹脂の成膜に広く用いられている。
【0080】
(3)スクリューの種類、構造
ここでは、単軸押出機用スクリューの例を示す。一般的に用いられるスクリューの形状としては、等ピッチの1条のらせん状フライトが設けられたフルフライトスクリューが用いられることが多いが、溶融過程の樹脂の固液相を2条のフライトを用いて分離することにより、押出し性を安定化可能なダブルフライトスクリューも用いられることが多い。また、押出し機内での混練性をアップするために、マドック、ダルメージ、および、バリア等のミキシングエレメントを組み合わせることも一般的である。さらに、混練効果を上げるため、スクリューの断面を多角形にしたものや、押出し機内の温度ムラを小さくするためにスクリューに分配機能付与のための分配孔を設けたものも用いられる。
スクリューに用いられる素材としては、シリンダーと同様に、耐熱・耐磨耗性・耐腐食性に優れ、樹脂との摩擦が確保可能な素材を用いることが必要である。一般的には窒化鋼、クロムモリブデン鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、および、ステンレス鋼が挙げられる。一般的には、上記鋼材を研削加工し、窒化処理および/またはHCr等のメッキ処理を行うことにより、スクリューが作製されるが、スクリュー表面にPVD(Physical Vapor Deposition)またはCVD(Chemical Vapor Deposition)によるTiN、CrN、または、Tiコーティング等の特殊表面加工が行われることもある。
【0081】
・直径、溝深さ
好ましいスクリューの直径は、目標とする単位時間あたりの押出量によって異なるが、10~300mmが好ましく、20~250mmがより好ましく、30~150mmが特に好ましい。スクリューフィード部の溝深さは、スクリュー直径の0.05~0.20倍が好ましく、0.07~0.18倍がより好ましく、0.08~0.17倍が特に好ましい。フライトピッチは、一般的にはスクリュー径と同じ値とすることが多いが、溶融の均一性アップのために短いものを用いたり、押出し量アップのために逆に長くしたりすることも行われる。また、フライト溝幅は、スクリューフライトピッチの0.05~0.25が好ましく、スクリューとバレル間の摩擦と滞留部低減の点から、一般的には約0.1が用いられることが多い。フライトとバレルのクリアランスもスクリュー直径の0.001~0.005倍のものが用いられるが、バレル間の摩擦と滞留部低減の点から、0.0015~0.004倍が好ましい。
【0082】
・圧縮率
また、押出機のスクリュー圧縮比は1.6~4.5が好ましい。ここでスクリュー圧縮比とは供給部と計量部との容積比、すなわち(供給部の単位長さあたりの容積)÷(計量部の単位長さあたりの容積)で表され、供給部のスクリュー軸の外径、計量部のスクリュー軸の外径、供給部の溝部径、および、計量部の溝部径を使用して算出される。スクリュー圧縮比が1.6を以上であれば、十分な溶融混練性が得られ、未溶解部分の発生を抑制でき、製造後の熱可塑性フィルムに未溶解異物が残存しにくくなり、脱泡効果によって気泡の混入を抑制できる。逆に、スクリュー圧縮比が4.5以下であれば、せん断応力が掛かり過ぎることを抑制できる。具体的には、分子鎖切断によるフィルムの機械的強度低下や、せん断発熱による過熱着色現象、ゲル発生による異物レベル低下を抑制できる。したがって、適正なスクリュー圧縮比は、1.6~4.5が好ましく、1.7~4.2がより好ましく、1.8~4.0が特に好ましい。
【0083】
・L/D
L/Dとはシリンダー内径に対するシリンダー長さの比である。L/Dが20以上であれば、溶融および混練が十分となり、圧縮比が適切な場合と同様に製造後の熱可塑性フィルムにおける未溶解異物の発生を抑制できる。また、L/Dが70以下であれば、押出機内での液晶ポリマーの滞留時間が短くなるので、樹脂の劣化を抑制できる。また、滞留時間を短くできると、分子鎖の切断による分子量低下を原因とする、熱可塑性フィルムの機械的強度の低下を抑制できる。したがって、L/Dは20~70の範囲が好ましく、22~65がより好ましく、24~50が特に好ましい。
【0084】
・スクリュープロポーション
押出機供給部の長さは、スクリュー有効長(供給部、圧縮部、計量部の合計長)の20~60%の長さにすることが好ましく、30~50%がより好ましい。押出機圧縮部の長さは、スクリュー有効長の5~50%の長さにすることが好ましく、結晶性樹脂の場合には5~40%、非晶性樹脂の場合には10~50%が好ましい。計量部は、スクリュー有効長の20~60%の長さにすることが好ましく、30~50%の長さにすることがより好ましい。計量部分を複数に分割し、その間にミキシングエレメントを配置し混練性をアップさせることも一般的に行われる。
【0085】
・Q/N
押出機の吐出量(Q/N)は、理論最大吐出量(Q/N)MAXの50~99%が好ましく、60~95%がより好ましく、70~90%が特に好ましい。なお、Qは吐出量[cm3/min]、Nはスクリュー回転数[rpm]を示し、(Q/N)はスクリュー1回転あたりの吐出量を示す。吐出量(Q/N)を理論最大吐出量(Q/N)MAXの50%以上であれば、押出機内での滞留時間を短くでき、押出し機内部での熱劣化の進行を抑制できる。また、99%以下の場合には、背圧が十分であるため混練性が向上し、溶融均一化が向上するだけでなく、押出し圧力の安定性も良好となる。
このようなスクリューディメンジョンは、樹脂の結晶性、溶融粘弾特性、および、熱安定性と、押出し安定性や溶融可塑化の均一性とを考慮の上、最適なものを選定することが好ましい。
【0086】
(4)押し出し条件
・原料乾燥
押出し機によるペレットの溶融可塑化工程でも、ペレット化工程と同様に水分や揮発分を減少させることが好ましく、ペレットの乾燥を行うことが有効である。
【0087】
・原料供給法
押出機の供給口から投入される原料(ペレット)が、複数種類の場合には、予め混ぜ合わせておいてもよいし(プレミックス法)、押出し機内へ一定割合になるように別々に供給してもよいし、または、両者を組み合わせた方法であってもよい。また、押出し安定化のために、供給口から投入する原料の温度やかさ比重の変動を小さくすることが一般的に行われている。また、可塑化効率の点から、原料温度は粘着して供給口にブロッキングしない範囲であれば高温であることが好ましく、非結晶状態の場合には{ガラス転移温度(Tg)(℃)-150℃}~{Tg(℃)-1℃}、結晶性樹脂の場合には{融点(Tm)(℃)-150℃}~{Tm(℃)-1℃}の範囲が好ましく、原料の加温や保温が行われる。また、原料のかさ比重は、可塑化効率の点から、溶融状態の0.3倍以上であることが好ましく、0.4倍以上であることが特に好ましい。原料のかさ比重が溶融状態の比重の0.3倍未満の時には、原料を圧縮して擬似ペレット化する等の加工処理が行われる。
【0088】
・押出し時の雰囲気
溶融押出し時の雰囲気は、ペレット化工程と同様に均一分散を妨げない範囲で、可能な限り熱および酸化劣化を防止することが必要であり、不活性ガス(窒素等)の注入や真空ホッパーを用いて押出し機内の酸素濃度を下げることや、押出し機にベント口を設けて真空ポンプによる減圧を行うことも有効である。これらの減圧、不活性ガスの注入は独立で実施しても、組み合わせて実施しても構わない。
【0089】
・回転数
押出機の回転数は5~300rpmが好ましく、10~200rpmが好ましく、15~100rpmが特に好ましい。回転速度が下限値以上であれば、滞留時間が短くなり、熱劣化により分子量が低下を抑制でき、変色を抑制できる。回転速度が上限値以下であれば、剪断による分子鎖の切断を抑制でき、分子量低下や架橋ゲルの増加を抑制できる。回転数は、均一分散性と滞留時間延長による熱劣化の両面から適正条件を選定することが好ましい。
【0090】
・温度
バレル温度(供給部温度T1℃、圧縮部温度T2℃、計量部温度T3℃)は、一般的には以下の方法で決定される。ペレットを押出機により目標温度T℃で溶融可塑化させる場合、計量部温度T3はせん断発熱量を考慮してT±20℃に設定される。この時T2はT3±20℃の範囲内で押出安定性と樹脂の熱分解性を考慮して設定する。T1は一般的には{T2(℃)-5℃}~{T2(℃)-150℃}とし、樹脂を送る駆動力(フィード力)となる樹脂とバレルとの摩擦確保と、フィード部での予熱の両立の点から、最適値を選定する。通常の押出し機の場合には、T1~T3各ゾーンを細分して温度を設定することが可能であり、各ゾーン間の温度変化がなだらかになる様な設定を行うことで、より安定化させることが可能となる。この際、Tは樹脂の熱劣化温度以下とすることが好ましく、押出機のせん断発熱によって、熱劣化温度を超える場合には、積極的にせん断発熱を冷却除去することも一般的に行われる。また、分散性アップと熱劣化の両立のために、押出し機の前半部分で比較的高温で溶融混合させて、後半で樹脂温度を下げる条件も有効である。
【0091】
・スクリュー温調
押出しの安定化のために、スクリューの温度を制御することも行われる。温度制御方法としては、スクリュー内部に水または媒体を流すことが一般的であり、場合によってはスクリューの内部にヒーターを内蔵させて加熱することも行われる。温度制御する範囲はスクリューの供給部が一般的であるが、場合によっては圧縮部や計量部を行うこともあり、各ゾーンで異なった温度に制御することも行われる。
【0092】
・圧力
押出機内の樹脂圧力は1~50MPaが一般的であり、押出しの安定性と溶融均一性の点から2~30MPaが好ましく、3~20MPaが特に好ましい。押出機内の圧力が1MPa以上であれば、押出機内のメルトの充満率が十分であるため、押出し圧力の不安定化や滞留部発生による異物発生が抑制できる。また、押出機内の圧力が50MPa以下であれば、押出し機内部で受けるせん断応力が過多となることを抑制できるので、樹脂温度の上昇による熱分解を抑制できる。
【0093】
・滞留時間
押出機における滞留時間(成膜時の滞留時間)は、ペレット化工程と同様に、押出し機部分の容積と、ポリマーの吐出容量とから算出することができる。滞留時間は、10秒間~30分間が好ましく、15秒間~15分間がより好ましく、30秒間~10分間が特に好ましい。滞留時間が10秒間以上であれば、溶融可塑化と添加剤の分散が十分となる。滞留時間が30分間以下であれば、樹脂劣化と樹脂の変色を抑えることができる点で好ましい。
【0094】
(濾過(スクリーンチェンジャー))
・種類、設置目的、構造
原料中に含まれる異物によるギアポンプの損傷防止、および、押出機下流に設置する微細な孔径のフィルター寿命延長のために、押出し機出口部に濾過設備を設けることが一般的に用いられる。メッシュ状の濾材を、強度を有する開口率の高い補強板と組み合わせて用いる、いわゆるブレーカープレート式の濾過を行うことが好ましい。
【0095】
・メッシュサイズ、濾過面積
メッシュサイズは40~800メッシュが好ましく、60~700メッシュがより好ましく、100~600メッシュが特に好ましい。メッシュサイズが40メッシュ以上であれば、異物がメッシュを通過することを十分に抑制できる。また、800メッシュ以下であれば、濾過圧力上昇スピードの向上を抑制でき、メッシュ交換頻度を低くできる。また、フィルターメッシュは濾過精度と強度保持の点から、メッシュサイズの異なる複数種類を重ね合わせて用いることが一般的に用いられる。また、濾過開口面積を広くとることが可能であり、メッシュの強度保持が可能なことからブレーカープレートを用いてフィルターメッシュを補強することも用いられる。用いるブレーカープレートの開口率は濾過効率と強度の点から30~80%が一般的に用いられる。
また、スクリーンチェンジャーは、押出機のバレル径と同径のものが用いることが多いが、濾過面積を増やすためにテーパー状の配管を用いて、より大径のフィルターメッシュを用いたり、流路を分岐して複数のブレーカープレートを用いることも一般的に用いられる。濾過面積は1秒間あたりの流量0.05~5g/cm2を目安に選定することが好ましく、0.1~3g/cm2がより好ましく、0.2~2g/cm2が特に好ましい。
異物を捕捉することによりフィルターは目詰りを起こして濾圧が上昇する。その際には押出機を停止してフィルターを交換する必要があるが、押出を継続しながらフィルターを交換可能なタイプも使用することができる。また、異物捕捉による濾過圧力上昇対策として、フィルターに捕捉された異物をポリマーの流路を逆にして洗浄除去することにより濾過圧力を低下させる機能を有するものも用いることができる。
【0096】
(精密濾過)
・種類、設置目的、構造
さらに高精度な異物濾過をするために、ダイから押出しを行う前に、濾過精度の高い精密フィルター装置を設けることが好ましい。フィルター濾材の濾過精度は高い方が好ましいが、濾材の耐圧や濾材の目詰まりによる濾圧上昇から、濾過精度は3μm~30μmが好ましく、3μm~20μmがより好ましく、3μm~10μmが特に好ましい。精密濾過装置は、通常1カ所設けるが、直列および/または並列に複数カ所設けて行う多段濾過を行ってもよい。用いるフィルターは濾過面積を大きく取れ、耐圧性が高い点から、リーフ型ディスクフィルターを組み込んだ濾過装置を設けることが好ましい。リーフ型ディスクフィルターは、耐圧、および、フィルターライフの適性を確保するために、装填枚数を調整することが可能である。
必要な濾過面積は、濾過を行う樹脂の溶融粘度により異なるが、5~100g・cm-2・h-1が好ましく、10~75g・cm-2・h-1がより好ましく、15~50g・cm-2・h-1が特に好ましい。濾過面積を大きくすることは濾圧上昇の点からは有利であるが、フィルター内部での滞留時間が長くなり、劣化異物発生の原因となるため、適正条件の選択が必要となる。
濾材の種類は、高温高圧下で使用される点から鉄鋼材料を用いることが好ましく、鉄鋼材料の中でもステンレス鋼、または、スチールを用いることがより好ましく、腐食の点からステンレス鋼を用いることが特に好ましい。
濾材の構成としては、線材を編んだものの他に、例えば、金属長繊維または金属粉末を焼結し形成する焼結濾材も使用される。また、単一径の線材によるフィルターを用いることが一般的であるが、フィルターライフや濾過精度改良のために、フィルターの厚み方向で線径が異なるものを積層したり、線径が連続的に変化している濾材を用いたりすることもある。
また、フィルターの厚みは濾過精度の点からは、厚い方が好ましいが、一方、濾圧上昇の点からは、薄い方が好ましい。そのため、両立条件可能な範囲として、フィルターの厚みは、200μm~3mmが好ましく、300μm~2mmがより好ましく、400μm~1.5mmが特に好ましい。
フィルター空孔率は、50%以上が好ましく、70%以上が特に好ましい。50%以上であれば、圧力損失が低く、目詰まりが少なるので、長時間の運転可能になる。フィルター空孔率は、90%以下が好ましい。90%以下であると、濾圧が上昇した時に濾材が潰れることを抑制できるので、濾過圧力の上昇を抑制できる。
濾材の濾過精度、濾材の線径、濾材の空孔率、および、濾材の厚みは、濾過を行う樹脂の溶融粘度や濾過流速により適宜選択することが好ましい。
【0097】
(接続配管他)
成膜装置各部をつなぐ配管類(アダプタ配管、切替え弁、混合装置)も、押出機のバレルやスクリューと同様に耐食性や耐熱性に優れていることが必要であり、通常はクロムモリブデン鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、または、ステンレス鋼が用いられる。また、耐食性を向上させるために、ポリマー流路面にHCrやNi等のメッキ処理が行なわれる。
また、配管内部の滞留を防止するために、配管内部の表面粗度はRa=200nm以下が好ましく、Ra=150nm以下がより好ましい。
また、配管径は圧損低減の点からは大きい方が好ましいが、一方配管部の流速の低下による、滞留が発生し易くなる。そのため、適正な配管径を選定する必要があるが、5~200Kg・cm-2・h-1が好ましく、10~150Kg・cm-2・h-1がより好ましく、15~100Kg・cm-2・h-1が特に好ましい。
溶融粘度の温度依存性の高い液晶ポリマーの押出圧力安定化のためには、配管部分も温度変動をできるだけ小さくすることが好ましい。一般的には、配管の加熱には設備コストの安価なバンドヒーターが用いられることが多いが、温度変動の小さいアルミ鋳込みヒーターや、熱媒循環による方法がより好ましい。また、配管もシリンダーバレルと同様に複数に分割して、各ゾーンを各々制御することが、温度ムラを低減する点から好ましい。また温度制御についてはPID制御(Proportional-Integral-Differential Controller)が一般的であるが、交流電力調整器を用いてヒーター出力を可変制御する方法も組合せ用いることがより好ましい。
また、押出し機の流路内に混合装置を設置することにより、樹脂温度や樹脂組成の均一化を行うこともフィルムの均一化に有効である。混合装置としては、スパイラルタイプ、または、ステータタイプのスタティックミキサーを用いられることが有効であり、高粘度のポリマーの均一化にはスパイラルタイプのスタティックミキサーが効果的である。n段のスタティックミキサーを用いることにより、2nに分割均一化されるため、nが大きい程均一化が促進されるが、一方で圧損や滞留部発生の問題もあるため、必要な均一性に応じて選定が必要である。フィルムの均一化には、5~20段が好ましく、7~15段がより好ましく、スタティックミキサーによる均一化後、直ちにダイから押し出してフィルム化することが好ましい。
また、押出機内部で劣化したポリマーをフィルターや、ダイを通過させないように、排出させることができるブリード弁を押出機流路内に設置することも行われる。ただし、切替え部が滞留となり異物発生の原因となるため、切替え弁部はシビアな加工精度が求められる。
【0098】
(ギアポンプ)
厚み精度を向上させるためには、吐出量の変動を減少させることが好ましい。押出機とダイとの間にギアポンプを設けて、ギアポンプから一定量の樹脂を供給することにより、厚み精度を向上させることができる。ギアポンプとは、ドライブギアとドリブンギアとからなる一対のギアが互いに噛み合った状態で収容され、ドライブギアを駆動して両ギアを噛み合い回転させることにより、ハウジングに形成された吸引口から溶融状態の樹脂をキャビティ内に吸引し、同じくハウジングに形成された吐出口からその樹脂を一定量吐出するものである。押出機先端部分の樹脂圧力が若干変動しても、ギアポンプを用いることにより変動を吸収し、成膜装置下流の樹脂圧力の変動は非常に小さなものとなり、厚み変動が改善される。ギアポンプを用いることにより、ギアポンプ2次側の圧力変動を1次側の1/5以下にすることも可能であり、樹脂圧力変動幅を±1%以内にできる。その他のメリットとしては、スクリュー先端部の圧力を上げることなしにフィルターによる濾過が可能なことから、樹脂温上昇の防止、輸送効率の向上、および、押出機内での滞留時間の短縮が期待できる。また、フィルターの濾圧上昇が原因で、スクリューから供給される樹脂量が経時へ変動することも防止できる。
【0099】
・タイプ、サイズ
通常は2つのギアの噛み合い回転により定量化を行う、通常2ギアタイプを用いるが、ギアの歯車による脈動が問題になる場合には、3ギアタイプを用いてお互いの脈動を干渉させて小さくすることも一般的に用いられている。用いるギアポンプのサイズは、押出し条件において回転数が5~50rpmになる容量のものを選定することが一般的であり、7~45rpmが好ましく、8~40rpmが特に好ましい。
回転数が上記範囲となるギアポンプのサイズを選択することにより、せん断発熱による樹脂温度上昇を抑制でき、かつ、ギアポンプ内部の滞留による樹脂劣化を抑制できる。
また、ギアポンプはギアの噛み合いにより絶えず磨耗を受けることから、耐摩耗性に優れた素材を用いることが求められ、スクリューやバレルと同様の耐磨耗性素材を用いることが好ましい。
【0100】
・滞留部対策
ギアポンプの軸受け循環用ポリマーの流れが悪くなることにより、駆動部と軸受け部におけるポリマーによるシールが悪くなり、計量および送液押し出し圧力の変動が大きくなったりする問題が発生する場合があるので、液晶ポリマーの溶融粘度に合わせたギアポンプの設計(特にクリアランス)が必要である。また、場合によっては、ギアポンプの滞留部分が液晶ポリマーの劣化の原因となるため、滞留のできるだけ少ない構造が好ましい。また、滞留した軸受け部のポリマーをギアポンプ外に排出することにより、フィルム中に滞留ポリマーが混入されるのを防ぐ方法も用いられる。また、ギアポンプでのせん断発熱量が大きく樹脂温度が上昇する場合には、ギアポンプを空冷および/または冷却媒体を循環させることにより冷却することも有効である。
【0101】
・運転条件
ギアポンプは1次圧力(入圧)と2次圧力(出圧)の差を大きくし過ぎると、ギアポンプの負荷が大きくなり、せん断発熱が大きくなる。そのため、運転時の差圧は20MPa以内が好ましく、15MPa以内がより好ましく、10MPa以内が特に好ましい。また、フィルム厚みの均一化のために、ギアポンプの一次圧力を一定にするために、押出し機のスクリュー回転を制御したり、圧力調節弁を用いたりすることも有効である。
【0102】
(ダイ)
・種類、構造、素材
濾過により異物が取り除かれ、更にミキサーにより温度を均一化された溶融樹脂は、ダイに連続的に送られる。ダイは溶融樹脂の滞留が少ない設計であれば、一般的に用いられるTダイ、フィッシュテールダイ、および、ハンガーコートダイの何れのタイプも用いることができる。この中で、厚み均一性と滞留の少ない点で、ハンガーコートダイが好ましい。
Tダイ出口部分のクリアランスは、フィルム厚みの1~20倍が好ましく、1.5~15倍がより好ましく、2.0~10倍が特に好ましい。リップクリアランスがフィルム厚みの1倍以上であれば、ダイの内圧の上昇を抑制できるので、フィルム厚みのコントロールが容易になり、成膜により面状の良好なシートが得られる。また、リップクリアランスがフィルム厚みの20倍以下であれば、ドラフト比が大きくなり過ぎることを抑制できるので、シートの厚み精度が良好となる。
フィルムの厚み調整は、ダイ先端部分の口金のクリアランスを調整することにより行うことが一般的であり、厚み精度の点からフレキシブルリップを用いることが好ましいが、場合によってはチョークバーを用いて調整する場合もある。
口金のクリアランス調整は、ダイ出口部の調整ボルトを用いて変更可能である。調整ボルトは、15~50mm間隔で配置するのが好ましく、35mm間隔以下がより好ましく、25mm間隔以下で配置するのが好ましい。50mm間隔以下であれば、調整ボルト間における厚みムラの発生を抑制できる。15mm間隔以上であれば、調整ボルトの剛性が十分となるので、ダイの内圧変動を抑制でき、フィルム厚みが変動を抑制できる。また、ダイの内壁面は、壁面滞留の点から平滑であることが好ましく、例えば、研磨により表面平滑性を高めることができる。場合によっては、内壁面をメッキ処理した後、研磨加工により平滑度を高めること、または、蒸着処理によりポリマーとの剥離性を改善することも行われる。
また、ダイから出たポリマーの流速は、ダイの幅方向で均一であることが好ましい。そのため、用いる液晶ポリマーの溶融粘度せん断速度依存性により、用いるダイのマニホールド形状を変更することが好ましい。
また、ダイから出たポリマーの温度も幅方向で均一であることが好ましい。そのため、ダイの放熱の大きいダイ端部の設定温度を高くすること、または、ダイ端部の放熱を抑える等の工夫をすることにより、均一化を行うことが好ましい。
また、ダイの加工精度不足またはダイ出口部分への異物付着により、ダイスジが発生して、フィルムの著しい品質低下を引き起こすことから、ダイリップ部は平滑であることが好ましく、その算術平均表面粗さRaは0.05μm以下が好ましく、0.03μm以下が好ましく、0.02μm以下が特に好ましい。また、ダイリップエッジ部の曲率半径Rは、100μm以下が好ましく、70μm以下がより好ましく、50μm以下が特に好ましい。また、セラミックを溶射することにより、R=20μm以下のシャープなエッジに加工したものも用いることができる。
長期連続生産の厚み変動の低減には、下流のフィルム厚みを計測して、厚み偏差を計算し、その結果をダイの厚み調整にフィードバックさせる、自動厚み調整ダイも有効である。
ダイとポリマーのロール着地点間はエアーギャップと呼ばれ、厚み精度向上やネックイン量(フィルム幅減少による端部厚みアップ)減少による成膜安定化のためにはエアーギャップは短い方が好ましい。ダイ先端部の角度を鋭角にすることや、ダイ厚みを薄くすることにより、ロールとダイの干渉を防ぎ、エアーギャップを短くすることが可能であるが、一方ではダイの剛性が低下し、樹脂の圧力によりダイの中央部分が口開きを起こして厚み精度が逆に低下する現象が発生する場合がある。そのため、ダイの剛性とエアーギャップ短縮の両立が可能な条件を選定することが好ましい。
【0103】
・多層成膜
フィルムの製造には、設備コストの安い単層成膜装置が一般的に用いられるが、機能層を外層に設けるために、2種以上の構造を有するフィルムを製造するために多層成膜装置を用いてもよい。具体的には、多層用フィードブロックを用いて多層化を行う方法、および、マルチマニホールドダイを用いる方法が挙げられる。一般的には機能層を表層に薄く積層することが好ましいが、特に層比を限定するものではない。
ペレットが供給口から押出機に入って、供給手段(例えばダイ)から出るまでの滞留時間(押出機通過後からダイ吐出までの滞留時間)は、1~30分間が好ましく、2~20分間がより好ましく、3~10分間が特に好ましい。ポリマーの熱劣化の点からは、滞留時間が短い設備を選定することが好ましい。ただし、押出し機内部の容積を小さくするために、例えば濾過フィルターの容量を小さくし過ぎるとフィルター寿命が短くなり、交換頻度が増える場合がある。また、配管径を小さくし過ぎることも圧損を大きくする場合がある。このような理由から、適正なサイズの設備を選定することが好ましい。
また、滞留時間を30分以内にすることで、上述の明部の最大円相当径を上述の範囲に調節することが容易となる。
【0104】
(キャスト)
成膜工程は、溶融状態の液晶ポリマーを供給手段から供給する工程と、溶融状態の液晶ポリマーをキャストロール上に着地させてフィルム状に成形する工程と、を含むことが好ましい。これを冷却および固化してそのままフィルムとして巻き取ってもよいし、一対の挟圧面の間を通過させて連続的に挟圧してフィルム状に成形してもよい。
その際、溶融状態の液晶ポリマー(メルト)を供給する手段に特に制限はない。例えば、メルトの具体的な供給手段として、液晶ポリマーを溶融してフィルム状に押出す押出機を用いる態様でもよく、押出機およびダイを用いる態様でもよく、液晶ポリマーを一度固化してフィルム状とした後に加熱手段により溶融してメルトを形成し、成膜工程に供給する態様でもよい。
ダイよりシート状に押し出された溶融樹脂を一対の挟圧面を有する装置により挟圧する場合には、挟圧面の表面形態をフィルムに転写させることができるだけでなく、液晶ポリマーを含む組成物に伸長変形を与えることにより配向性を制御させることができる。
【0105】
・成膜方法、種類
溶融状態の液晶ポリマーをフィルム状に成形する方法の中でも、高い挟圧力を付与可能であり、フィルム面状に優れる点から、2つのロール(例えば、タッチロールおよびチルロール)間を通過させることが好ましい。なお、本明細書では、溶融物を搬送するキャストロールを複数有している場合、最上流の液晶ポリマー供給手段(例えば、ダイ)に最も近いキャストロールのことをチルロールという。その他にも、金属ベルト同士で挟圧する方法や、ロールと金属ベルトを組み合わせた方法も用いることができる。また、場合によっては、ロールや金属ベルトとの密着性を上げるために、キャストドラム上で静電印加法、エアナイフ法、エアーチャンバー法、および、バキュームノズル法等の成膜法を組み合わせて用いることもできる。
また、多層構造のフィルムを得る場合には、ダイから多層で押出された溶融ポリマーを挟圧することにより得ることが好ましいが、単層構造のフィルムを、溶融ラミネートの要領で挟圧部に導入して多層構造のフィルムを得ることもできる。また、この際に挟圧部の周速差または配向軸方向を変更することにより、厚み方向で傾斜構造の異なるフィルムが得られ、この工程を数回行うことで、3層以上のフィルムを得ることも可能である。
さらに、挟圧の際にTD方向にタッチロールを周期振動させる等して、変形を与えてもよい。
【0106】
・ロールの種類、素材
キャストロールは、表面粗度と挟圧する場合の挟圧力の均一性の点、および、ロール温度の均一性の点から、剛性を有する金属ロールが好ましい。「剛性を有する」とは、挟圧面の材質のみによって判断されるものではなく、表面部分に用いられる剛性素材の厚みと表面部分を支持する構造の厚みとの比率を勘案して決定されるものである。例えば、表面部分が円柱形の支持ロールによって駆動されている場合、剛性素材外筒厚み/支持ロール直径の比が例えば1/80程度以上であることを表す。
剛性を有する金属ロールに用いる材質は、炭素鋼、および、ステンレス鋼が一般的であるが、クロムモリブデン鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、場合によっては鋳鉄を用いることができる。また、フィルム剥離性等の表面性改質のために、クロムもしくはニッケル等のメッキ処理、または、セラミック溶射等の加工が行われることもある。金属ベルトを用いる場合には、必要な挟圧力を付与するために、ベルトの厚みは、0.5mm以上が好ましく、1mm以上がより好ましく、2mm以上が特に好ましい。また、ゴム製のロールやゴム製のロ-ルと金属スリーブを組み合わせたロールを用いた場合には、ロールの硬度が低く、挟圧部の長さが長くなるために、ロール間に高線圧をかけても実効の挟圧力が高くならない場合がある。そのため、必要な挟圧力を付与するためには、極めて高い硬度のゴムを用いることが好ましく、具体的には、ゴム硬度は、80°以上が好ましく、90°以上がより好ましい。ただし、ゴムロールやゴムでライニングした金属ロールは、ゴム表面の凹凸が大きいために、フィルムの平滑性が低下する場合がある。
一対のロールによって挟圧力を付与するのに適したロールニップ長は、0mmより大きく5m以内が好ましく、0mmより大きく3mm以内がより好ましい。
【0107】
・ロール直径
キャストロールとしては直径の大きなロールを用いるのが好ましく、具体的には、直径は、200~1500mmが好ましい。直径の大きなロールを用いると、ロールのたわみが低減できるため、挟圧する場合に高い挟圧力を均一に付与させることができるため好ましい。また、本発明の製造方法では、挟圧する2つのロールの直径は等しくても、異なっていてもよい。
【0108】
・ロール硬度
上記範囲のロール間圧力を付与するために、ロールのショア硬さは、45HS以上が好ましく、50HS以上がより好ましく、60~90HSが特に好ましい。ショア硬さは、JIS Z 2246の方法を用いて、ロール幅方向に5点および周方向に5点測定した値の平均値から求めることができる。
【0109】
・表面粗さ、円筒度、真円度、径振れ
キャストロールやタッチロールの表面は、算術平均表面粗さRaが100nm以下であることが好ましく、50nm以下がより好ましく、25nm以下が特に好ましい。
真円度は、5μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましく、2μm以下が特に好ましい。円筒度は、5μm以下が好ましく、3μmがより好ましく、2μm以下が特に好ましい。径振れは、7μm以下が好ましく、4μmがより好ましく、3μm以下が特に好ましい。円筒度、真円度、径振れは、JIS B 0621の方法により求めることができる。
【0110】
・ロール表面性
キャストロールおよびタッチロールは、表面が鏡面であることが好ましく、一般的にはハードクロムメッキしたものを鏡面仕上げしたものが用いられる。また、腐食性防止のためにハードクロムメッキの下地にニッケルメッキを積層したもの、または、ロールへの粘着性低減のために非晶質のクロムメッキを用いることも好ましい。また、耐摩耗性やロールへのフィルム粘着性改善のために、窒化チタン(TiN)、窒化クロム(CrN)、DLC(Diamond Like Carbon)処理、および、Al、Ni、W、Cr、Co、Zr、または、Ti系セラミック溶射等の表面加工を行うこともできる。
ロール表面は、成膜後のフィルム平滑性の点からは平滑であることが好ましいが、フィルムの滑り性付与のための表面凹凸形成のために、ミラーポケット表面ロールを用いること、または、フィルム表面への微細な凹凸形成のためにブラスト処理を行ったロールもしくはディンプル加工を行ったロールを用いることができる。ただし、フィルム平滑性の点から、ロールの凹凸は、Ra=10μm以下が好ましい。また、ロール表面に深さ0.1~10μmの微細な溝やプリズム形状を1mm2あたり50~1000個彫刻したロールを用いることもできる。
【0111】
・ロール温度
ロールは、溶融ポリマーから供給される熱を素早く取り除き、かつ一定のロール表面温度を維持できることが好ましい。そのため、ロール内部に一定温度の媒体を通すことが好ましい。媒体としては、水または熱媒油、場合によっては気体を用い、十分な熱交換が可能な媒体流速、媒体粘性を選定することが好ましい。また、ロール表面温度を一定にするための手段は、公知の方法を用いることができるが、ロールの円周に沿ってスパイラル状の流路を設けたロールが好ましい。また、ロールの均一温度化のために、ヒートパイプを用いることもできる。
【0112】
・溶融ポリマー温度
吐出温度(供給手段の出口の樹脂温度)は、液晶ポリマーの成形性向上と劣化抑制の点から、(液晶ポリマーのTm-10)℃~(液晶ポリマーのTm+40)℃であることが好ましい。溶融粘度の目安としては50~3500Pa・sが好ましい。
エアーギャップ間での溶融ポリマーの冷却は可能な限り小さいことが好ましく、成膜速度を速くする、エアーギャップを短くする等の工夫をして冷却による温度低下を小さくすることが好ましい。
【0113】
・タッチロール温度
タッチロールの温度は、液晶ポリマーのTg以下に設定するのが好ましい。タッチロールの温度が液晶ポリマーのTg以下であれば、溶融ポリマーがロールに粘着することを抑制できるので、フィルム外観が良好になる。チルロール温度も同様の理由から、液晶ポリマーのTg以下に設定するのが好ましい。
【0114】
・成膜速度、周速差
エアーギャップでのメルトの保温の点から、成膜速度は、3m/分以上が好ましく、5m/分以上がより好ましく、7m/分以上が特に好ましい。ライン速度が速くなると、エアーギャップ中でのメルトの冷却を抑制でき、メルトの温度が高い状態でより均一な挟圧とせん断変形を付与できる。なお、上記成膜速度とは、挟圧する2つのロール間を溶融ポリマーが通過する時の、速度の遅い第二挟圧面速度と定義する。
第一挟圧面の移動速度は、第二挟圧面の移動速度よりも速くすることが好ましい。さらに、挟圧装置の第一挟圧面と第二挟圧面の移動速度比を0.60~0.99に調整し、溶融樹脂が挟圧装置を通過する際にせん断応力を付与して、本発明のフィルムを製造することが好ましい。2つの挟圧面は、連れ周り駆動でも独立駆動でもよいが、膜物性の均一性の点から独立駆動であることが好ましい。
【0115】
(ポリマーフィルムの成膜手順)
・成膜手順
成膜工程では、フィルム成膜工程と品質の安定化の点から、以下の手順で成膜を行うことが好ましい。
ダイから吐出した溶融ポリマーはキャストロール上に着地させてフィルム状に成形した後、これを冷却および固化してフィルムとして巻き取る。
溶融ポリマーの挟圧を行う場合は、所定の温度に設定した第一挟圧面と第二挟圧面との間に溶融ポリマーを通過させ、これを冷却および固化してフィルムとして巻き取る。
【0116】
・搬送張力
フィルム搬送張力は、フィルム厚みにより適宜調整することができ、フィルム1m幅あたりの搬送張力は、10~500N/mが好ましく、20~300N/mがより好ましく、30~200N/mが特に好ましい。一般的にはフィルムが厚くなると搬送張力を高くする必要がある。例えば、厚み100μmのフィルムの場合には、30~150N/mが好ましく、40~120N/mがより好ましく、50~100N/mが特に好ましい。フィルム搬送張力が下限値以上であれば、フィルム搬送中におけるフィルムの蛇行を抑制できるので、ガイドロールとフィルムとの間に滑りが生じてフィルムにスリキズが生じることを抑制できる。フィルム搬送張力が上限値以下であれば、フィルムに縦シワが入ることを抑制でき、また、フィルムが無理に伸ばされてフィルムが破断することを抑制できる。
フィルムの張力制御は、ダンサーによる方法、サーボモーターによるトルク制御法、パウダークラッチ/ブレーキによる方法、および、フリクションロールによる制御方法等のいずれの方法を用いてもよいが、制御精度の点からダンサーによる方法が好ましい。搬送張力は、成膜工程で全て同じ値にする必要は無く、テンションカットされているゾーン毎に適正な値に調整することも有用である。
搬送用ロールは、搬送張力によるロールたわみ変形がないこと、メカロスの小さいこと、フィルムとの摩擦が十分取れること、および、フィルム搬送中にスリキズが付かないような平滑な表面を有することが好ましい。メカロスが小さい搬送ロールを用いると、フィルム搬送のために大きな張力が不要となり、フィルムにスリキズが入ることを抑制できる。また、搬送用ロールは、フィルムとの摩擦を取るためにフィルムの抱き角度を大きくとることが好ましい。抱き角度は、90°以上が好ましく、100°以上がより好ましく、120°以上が特に好ましい。十分な抱き角度が取れない場合には、ゴム製のロールを用いたり、ロール表面に梨地、ディンプル形状、または、溝を設けたロールを用いたりして摩擦を確保することが好ましい。
【0117】
・巻取り張力
巻取り張力もフィルム搬送張力同様に、フィルム厚みにより適宜調整することが好ましい。フィルム1m幅あたりの張力は、10~500N/mが好ましく、20~300N/mがより好ましく、30~200N/mが特に好ましい。一般的にはフィルムが厚くなると張力を高くする必要がある。例えば100μmのフィルムの場合には、巻取り張力は、30~150N/mが好ましく、40~120N/mがより好ましく、50~100N/mが特に好ましい。
巻取張力が下限値以上であれば、フィルム搬送中におけるフィルムの蛇行を抑制できるので、巻取り途中でフィルムがスリップしてスリキズが生じることを抑制できる。巻取り張力が上限値以下であれば、フィルムに縦シワが入ることを抑制でき、フィルムが堅巻きになることを抑制して巻き外観が良好になるだけではなく、フィルムのコブの部分がクリープ現象により延びることを抑制できるので、フィルムの波打ちを抑制できる。巻取り張力は、搬送張力と同様にラインの途中のテンションコントロールにより検知し、一定の巻取り張力になるようにコントロールされながら巻き取ることが好ましい。成膜ラインの場所により、フィルム温度に差がある場合には熱膨張により、フィルムの長さが僅かに異なる場合があるため、ニップロール間のドロー比率を調整し、ライン途中でフィルムに規定以上の張力がかからないようにすることが好ましい。また、巻取り張力はテンションコントロールの制御により、一定張力で巻き取ることもできるが、巻き取った直径に応じてテーパーをつけ、適正な巻取り張力にすることがより好ましい。一般的には巻き径が大きくなるにつれて張力を少しずつ小さくするが、場合によっては、巻き径が大きくなるにしたがって張力を大きくする方が好ましい場合もある。また、巻取り方向は、第一挟圧面および第二挟圧面のいずれの側を巻芯側にしても問題ないが、フィルムにカールが発生している場合には、カールと逆方向に巻き付けるとカール修正効果があり好ましい場合もある。巻取りの際に、フィルムの蛇行を制御するために、EPC(Edge Position Control)を設置することも、また巻きコブの発生を防止するためのオシュレーション巻きを行うことも、高速巻取り時には同伴エアーを排除するロールを用いることも有用である。
【0118】
・巻芯
巻取りに用いる巻芯は、フィルムを巻取るに必要な強度と剛性があれば、特別なものを用いる必要は無く、一般的には内径が3~6インチの紙管、または、3~14インチのプラスチック製巻き芯が用いられる。一般的には、低発塵性の点から、プラスチック製の巻芯を用いることが多い。小径の巻き芯を用いることは、コスト的に有利であるが、剛性不足によるたわみが原因で巻き形状不良が発生したり、巻取り芯部分でクリープ変形によるフィルムのカールが発生する場合がある。一方、大径の巻芯を用いることは、フィルムの品質維持には有利であるが、ハンドリング性とコストの点から不利になる場合がある。そのため、適宜適正なサイズの巻芯を選定することが好ましい。また、巻芯の外周部にクッション性のある層を設けて、巻き始め部分のフィルム厚み分の段差がフィルムに転写されるのを防止することもできる。
【0119】
・スリット
成膜したフィルムは、所定の幅にするため両端をスリットすることが好ましい。スリットの方法としては、シャーカット刃、ゲーベル刃、レザー刃、および、ロータリー刃等、一般的な方法を用いることができるが、切断時に粉塵の発生が無く、切断部のかえりが少ない切断方法を用いることが好ましく、ゲーベル刃による切断が好ましい。カッター刃の材質は、炭素鋼、および、ステンレス鋼等何れを用いても構わないが、一般的には超硬刃、セラミック刃を用いると刃物の寿命が長く、また切り粉の発生が抑えられて好ましい。
スリットで切り落とした部分は破砕し、再度原料として使用することも可能である。スリット後、粉砕して直ぐに押出機に投入しても、一度押出機によりペレット化して使用してもどちらでも構わない。また、再ペレット化工程で、濾過による異物除去を行ってもよい。配合する量は、0~60%が好ましく、5~50%がより好ましく、10~40%が特に好ましい。リサイクル原料は、溶融ポリマーの溶融粘度や熱劣化により生じる微量組成がバージン原料と異なる可能性があるため使用時の注意が必要である。リサイクル原料の組成により、その配合量を適宜調整して原料の物性を一定の範囲で制御することも有用である。また、厚み調整や切替え時のフィルムもスリットした耳部と同じ様に再使用が可能である。
【0120】
・ナーリング加工
フィルムの片端または両端に厚みだし加工(ナーリング処理)を行うことも好ましい。厚みだし加工による凹凸の高さは、1~50μmが好ましく、2~30μmがより好ましく、3~20μmが特に好ましい。厚みだし加工は、両面が凸になるようにしても、片面のみ凸になるようにしてもよい。厚みだし加工の幅は、1~50mmが好ましく、3~30mmが特に好ましい。厚み出し加工は、冷間と熱間のいずれも用いることが可能であり、フィルムに形成した凹凸のへたりや、厚み出し加工時の発塵の状態により、適正な方法を選定すればよい。また、ナーリング加工により、フィルムの成膜方向やフィルム面が識別できる様にすることも有用である。
【0121】
・マスキングフィルム
フィルムのキズ付き防止やハンドリング性向上のために、片面もしくは両面に、ラミフィルム(マスキングフィルム)を付けることも好ましい。ラミフィルムの厚みは5~100μmが好ましく、10~70μmがより好ましく、25~50μmが特に好ましい。
マスキングフィルムは基材層と粘着層の2層から構成されていることが好ましい。基材層には、LDPE(低密度ポリエチレン)、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)、HDPE(高密度ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、および、ポリエステル等を用いることができる。粘着層には、EVA(エチレン酢酸ビニル)、アクリルゴム、スチレン系エラストマー、および、天然ゴム等を用いることができる。また、共押出し法によるタイプも、フィルムに粘着材を塗布したタイプのどちらも用いることが可能性である。
粘着力は、0.2~2.0N/25mmが好ましく、0.3~1.5N/25mmがより好ましく、0.4~1.0N/25mmが特に好ましい。粘着力は、JIS Z 0237に準じた方法で求めることができる。
マスキングフィルムは一般的には無色のものを用いることが多いが、フィルムの表裏を識別するために、表裏で異なった色のものを用いることもある。フィルム表裏識別のためのその他の方法として、マスキングフィルムの厚み、粘着力、フィルム表面の光沢度が異なるマスキングフィルムを貼り付ける方法も有効である。
【0122】
・除電
フィルムが帯電していると、雰囲気中の埃がフィルムに引き寄せられてフィルムへの付着異物となる。そのため、成膜、搬送、および、巻取り中のフィルムは、帯電していないことが好ましい。
帯電圧は、3KV以下が好ましく、0.5KV以下がより好ましく、0.05KV以下が特に好ましい。
フィルムの帯電を防止する方法としては、フィルムに帯電防止剤を練り込んだり、塗布したりすることにより発生を防ぐ方法、雰囲気の温湿度をコントロールして静電気の発生を抑制する方法、フィルムに帯電した静電気をアースして逃がす方法、および、イオナイザーを用いて帯電荷電と逆の符号の電荷により中和させる方法等、公知の各種の方法を用いることができる。この中で、イオナイザーを用いる方法が一般的である。イオナイザーには、軟X線照射式とコロナ放電式があり何れのタイプも用いることが可能である。防爆が求められる場合には軟X線照射式が用いられているが、一般的には、コロナ放電式が多く用いられている。コロナ放電方式には、DC(直流)型、AC(交流)型、および、パルスAC型があり、性能とコストの点から、パルスAC型が広く用いられている。除電装置は、1種類を用いても、複数種類を組み合わせて用いても構わなく、成膜に支障の無い範囲で設置数に特に制限はない。
また、除電によるフィルムへの埃付着防止効果をあげるために、成膜時の環境はアメリカ連邦規格Fed. Std. 209D クラス10000以下が好ましく、クラス1000以下がより好ましく、クラス100以下が特に好ましい。
【0123】
・除塵
フィルム表面に付着した異物は、スクレーパーやブラシを押し付ける方法、静電気による引き付け効果を弱めるために、荷電中和した加圧エアーを数十KPa程度の圧力で噴出させる方法、吸引による方法、および、噴射および吸引を組み合わせた方法によって除去できる。また、粘着性のあるロールをフィルムに押し当てて、異物を粘着ロールに転写させて取り除く方法、および、超音波をフィルムにあてて異物を吸引除去する方法等、公知の除塵の手段を用いることができる。また、フィルムに液体を噴射する方法、および、液体に漬けて異物を洗い流す方法も用いることができる。また、カッターによる切断部分またはナーリング加工部分でフィルム粉が発生する場合には、フィルムへの異物付着防止のために、バキュームノズル等の除去装置を取り付けることも好ましい。
【0124】
(延伸、緩和処理)
さらに、上記方法により未延伸フィルムを成膜した後、延伸および/または緩和処理を行ってもよい。例えば、以下の(a)~(g)の組合せで各工程を実施することができる。また、縦延伸と横延伸の順序を逆にすること、縦延伸および横延伸の各々の工程を多段で行うこと、または、斜め延伸あるいは同時二軸延伸等を組合せてもよい。
(a) 横延伸
(b) 横延伸→緩和処理
(c) 縦延伸
(d) 縦延伸→緩和処理
(e) 縦(横)延伸→横(縦)延伸
(f) 縦(横)延伸→横(縦)延伸→緩和処理
(g) 横延伸→緩和処理→縦延伸→緩和処理
【0125】
・縦延伸
縦延伸は、2対のロール間を加熱しながら出口側の周速を入口側の周速より速くすることで達成できる。フィルムのカールの点から、フィルム温度は、表裏面が同じ温度であることが好ましいが、厚み方向で光学特性を制御する場合には、表裏異なった温度でも延伸を行うことができる。なお、ここでの延伸温度とは、フィルム表面の低い側の温度と定義する。縦延伸工程は、1段階で実施しても多段階で実施しても構わない。フィルムの予熱は、温度制御した加熱ロールを通過させることにより行うことが一般的であるが、場合によってはヒーターを用いてフィルムを加熱することもできる。また、フィルムのロールへの粘着防止のために、粘着性を改善したセラミックロール等を用いることもできる。
【0126】
[横延伸]
横延伸工程としては、通常の横延伸を採用することができる。すなわち、通常の横延伸とは、フィルムの両端をクリップで把持し、テンターを用いオーブン内で加熱しながらクリップを拡幅する横延伸法である。例えば、実開昭62-035817号公報、特開2001-138394号公報、特開平10-249934号公報、特開平6-270246号公報、実開平4-30922号公報、および、特開昭62-152721号各公報に記載の方法を用いることができる。
横延伸工程における延伸温度は、テンター内に所望の温度の風を送ることで延伸温度を制御できる。フィルム温度は、縦延伸工程と同様な理由から、表裏面同じ場合または異なる場合のいずれの場合もある。ここで用いる延伸温度は、フィルム表面の低い側の温度と定義する。横延伸工程は、1段階で実施しても多段階で実施しても構わない。また、多段で横延伸を行なう場合には、連続的に行っても、間に拡幅を行わないゾーンを設けて、間欠的に行ってもどちらでも構わない。このような横延伸は、テンター内でクリップを幅方向に拡幅する通常の横延伸以外に、これらと同様にクリップで把持して拡幅する下記のような延伸方法も適用できる。
【0127】
・斜め延伸
通常の横延伸と同様、横方向にクリップを拡幅するが、左右のクリップの搬送速度を変えることで斜め方向に延伸できる。例えば、特開2002-22944号公報、特開2002-086554号公報、特開2004-325561号公報、特開2008-23775号公報、および、特開2008-110573号公報に記載の方法を用いることができる。
【0128】
・同時2軸延伸
同時2軸延伸は、通常の横延伸と同様、横方向にクリップを拡幅するが、それと同時に縦方向に延伸、収縮するものである。例えば、実開昭55-093520号公報、特開昭63-247021号公報、特開平6-210726号公報、特開平6-278204号公報、特開2000-334832号公報、特開2004-106434号公報、特開2004-195712号公報、特開2006-142595号公報、特開2007-210306号公報、特開2005-022087号公報、特表2006-517608号公報、および、特開2007-210306号公報に記載の方法を用いることができる。
【0129】
・ボーイング(軸ズレ)改善
上記横延伸工程で、フィルムの端部はクリップにより把持されているため、熱処理時に生じる熱収縮応力によるフィルムの変形は、フィルムの中央部で大きく、端部で小さくなり、結果として幅方向の特性に分布ができることとなる。熱処理工程前のフィルムの面上に横方向に沿って直線を描いておくと、熱処理工程を出たフィルムの面上の直線は、下流に向かってセンター部が凹む弓形のものとなる。この現象は、ボーイング現象と称されるものであり、フィルムの等方性および幅方向の均一性を乱す原因となっている。
改善法として、このような横延伸の前に予熱、延伸の後に熱固定を行うことでボーイングに伴う配向角のばらつきを小さくできる。予熱、熱固定はどちらか一方であってもよいが、両方行うのがより好ましい。これらの予熱、熱固定はクリップで把持して行うのが好ましく、即ち延伸と連続して行うのが好ましい。
予熱は延伸温度より1~50℃程度高い温度で行うことが好ましく、2~40℃高くすることがより好ましく、3~30℃高くすることが特に好ましい。予熱時間は、1秒~10分が好ましく、5秒~4分がより好ましく、10秒~2分が特に好ましい。
予熱の際、テンターの幅はほぼ一定に保つことが好ましい。ここで「ほぼ」とは未延伸フィルムの幅の±10%を指す。
熱固定は延伸温度より1~50℃低い温度で行うことが好ましく、2~40℃低くすることがより好ましく、3~30℃低くすることがさらに好ましい。特に好ましくは、延伸温度以下でかつ液晶ポリマーのTg以下にするのが好ましい。
予熱時間は1秒~10分が好ましく、5秒~4分がより好ましく、10秒~2分が特に好ましい。熱固定の際、テンターの幅はほぼ一定に保つことが好ましい。ここで「ほぼ」とは延伸終了後のテンター幅の0%(延伸後のテンター幅と同じ幅)~-30%(延伸後のテンター幅より30%縮める=縮幅)を指す。延伸幅以上に拡幅すると、フィルム中に残留歪が発生しやすくなる。その他の公知の方法として、特開平1-165423号公報、特開平3-216326号公報、特開2002-018948号公報、および、特開2002-137286号公報に記載の方法が挙げられる。
【0130】
・緩和処理
上記延伸の後に下記条件による熱緩和処理を行うことで、熱収縮率を低減させることができる。熱緩和処理は、成膜後、縦延伸後および横延伸後の少なくとも1つのタイミングで実施することが好ましい。緩和処理は、延伸後に連続してオンラインで行ってもよく、延伸後に巻き取った後、オフラインで行ってもよい。
【0131】
(表面処理)
フィルムは表面処理を行うことによって、銅張積層板に用いる銅箔または銅めっき層との接着の向上させることができる。例えば、グロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、および、酸またはアルカリ処理を用いることができる。ここでいうグロー放電処理とは、10-3~20Torrの低圧ガス下でおこる低温プラズマでもよく、大気圧下でのプラズマ処理も好ましい。
プラズマ励起性気体とは上記のような条件においてプラズマ励起こされる気体をいい、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンの様なフロン類およびそれらの混合物等が挙げられる。銅箔または銅めっき層との接着のため下塗り層を設けることも好ましい。この層は上記表面処理をした後、塗設してもよく、表面処理なしで塗設してもよい。これらの表面処理、下塗り工程は、成膜工程の最後に組み込むこともでき、単独で実施することもでき、銅箔または銅めっき層付与工程の中で実施することもできる。
【0132】
(エージング)
巻取られたフィルムの機械特性や熱寸法安定性、巻き姿改善のため、フィルムを液晶ポリマーのTg以下の温度でエージング処理することも有用である。
【0133】
(保管条件)
巻き取られたフィルムの残留歪緩和によるシワやコブ発生防止のため、フィルムは液晶ポリマーのTg以下の温度環境下で保管することが好ましい。また、温度は変動の小さいことが好ましく、1時間あたりの温度変動は30℃以下が好ましく、20℃以下がより好ましく、10℃以下が特に好ましい。同様に、フィルムの吸湿率変化や結露防止のために、湿度は10~90%が好ましく、20~80%がより好ましく、30~70%が特に好ましく、1時間あたりの温度変動は30%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、10%以下が特に好ましい。温度および湿度の変動がある場所で保管が必要な場合には、梱包材料に防湿性や断熱性を有するものを用いることも有効である。
【0134】
上記において、フィルムは単層としているが、複数層が積層された積層構造を有していてもよい。
【0135】
〔ポリマーフィルムの用途〕
本発明のポリマーフィルムは、フィルム単体、銅箔と張り合わせた銅張積層板、プリント配線板、フレキシブルプリント配線板(FPC)等の形態で使用することができ、通信用基板に含まれる材料として用いることができる。つまり、本発明の通信用基板は、本発明のポリマーフィルムを有する。
【実施例】
【0136】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容および処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0137】
[実施例1]
〔ペレット化工程〕
液晶ポリマーとして、ポリプラスチックス社製サーモトロピック液晶ポリエステル(製品名「ラペロスA-950」、融点280℃、下式(I)参照。表1中、「LCP A」と表記する。)を用い、成分Aとして、アドマテックス社製のシリカ粒子1(製品名「アドマナノ」、平均一次粒子径100nm)を用いた。
90質量部の液晶ポリマーに10質量部の成分Aを添加して、二軸押出機を用いて混練ペレット化した。混練ペレット化するときの、二軸押出機のせん断速度(以下、「せん断速度(ペレット化)」ともいう。)は、300sec-1とした。
混練ペレットを80℃で露点温度-45℃の除湿熱風乾燥機を用いて12時間乾燥させて、混練ペレット中の水分率を50質量ppm以下とした。
【0138】
【0139】
〔成膜工程〕
乾燥させた混練ペレット100質量部と、固体状の滑剤(ステアリン酸)0.1質量部と、固体状の熱安定剤(irganox1010(BASF社製))0.1質量部とを、スクリュー径50mmの二軸押出機の同一供給口からシリンダー内に供給し、305~315℃で加熱混練して混練物を得た後、ダイ幅750mm、スリット間隔300μmのダイから溶融状態のフィルム状の混練物を吐出させた。混練物が二軸押出機を通過してから、フィルム状の混練物がダイから吐出されるまでの時間(以下、「滞留時間(成膜時)」ともいう。)は、8分とした。
フィルムの幅方向の厚みムラはダイリップ部のクリアランスを微調整することで改善した。このようにして、厚み100μmの実施例1のポリマーフィルムを得た。
【0140】
[実施例2、実施例3、比較例1]
シリカ粒子1の代わりに、アドマテックス社製のシリカ粒子2(製品名「アドマファイン」、平均一次粒子径1,000nm)、シリカ粒子3(製品名「アドマフューズ」、平均一次粒子径10,000nm)またはシリカ粒子4(製品名「アドマフューズ」、平均一次粒子径11,000nm)を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2、実施例3および比較例1のポリマーフィルムを得た。
【0141】
[比較例2]
滞留時間(成膜時)を表1に示す時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例2のポリマーフィルムを得た。
【0142】
[実施例4~5]
シリカ粒子1の代わりに、COC(環状オレフィンコポリマー、製品名「トパス」、ポリプラスチック社製)またはSEBS(ポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレントリブロック共重合体、製品名「タフテック」、旭化成社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例4~5のポリマーフィルムを得た。
【0143】
[実施例6]
シリカ粒子1の代わりに、PE(ポリエチレン樹脂、製品名「ノバテック」、日本ポリエチレン社製)を用い、せん断速度(ペレット化時)と滞留時間(成膜時)を表1に示す速度に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例6のポリマーフィルムを得た。
【0144】
[実施例7]
シリカ粒子1の代わりに、PE(ポリエチレン樹脂、製品名「ノバテック」、日本ポリエチレン社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例7のポリマーフィルムを得た。
【0145】
[比較例3]
せん断速度(ペレット化時)を表1に示す速度に変更した以外は、実施例6と同様にして、比較例3のポリマーフィルムを得た。
【0146】
[比較例4]
成分Aを用いなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例4のポリマーフィルムを得た。
【0147】
[実施例8~9]
島状領域の面積率が表1の値になるように、成分Aの添加量を調節した以外は、実施例2と同様にして、実施例8~9のポリマーフィルムを得た。
【0148】
[実施例10~13]
ポリマーフィルムの厚みが表1の値になるようにキャストロールの速度を調節した以外は、実施例2と同様にして、実施例10~13のポリマーフィルムを得た。
【0149】
[物性測定]
上記ポリマーフィルムについて、以下の測定を行い、評価した。
【0150】
〔明部の最大円相当径〕
ポリマーフィルムの異なる20箇所について、ポリマーフィルムの主面に平行な方向(すなわち、ポリマーフィルムの厚み方向と直交する方向)に沿って、ミクロトームを用いて切削し、所定の厚み(例えば、10μm)の薄片状試料を切り出して、20枚の観察用試料を得た。
次に、偏光顕微鏡(製品名「BH-2」、オリンパス社製)によって直交ニコル環境下にて、観察用試料の主面の法線方向から観察して、観察領域に対応する20枚の観察画像を得た。なお、観察する際の倍率は、10~1000倍の範囲における適切な倍率を選択した。
次に、20枚の観察画像のそれぞれについて、明部の外周をトレースし、トレースした領域と同じ面積の円の直径(円相当径)を画像解析装置によって測定した。そして、20枚の観察画像から得られた明部の円相当径の最大値を、明部の最大円相当径とした。
【0151】
〔明部の面積率〕
上述の明部の最大円相当径の測定方法により得られた20枚の観察画像のそれぞれについて、明部の円相当径の総面積を算出し、観察画像の総面積に対して、明部の円相当径の総面積が占める割合(%)を算出した。そして、20枚の観察画像における算術平均値を求めて、これを明部の面積率とした。
【0152】
〔島状領域の円相当径〕
ポリマーフィルムの異なる10箇所において、ポリマーフィルムの幅方向と平行で、かつ、ポリマーフィルムの表面に垂直な割断面が得られるように、ポリマーフィルムを切断した。また、ポリマーフィルムの異なる10箇所において、ポリマーフィルムの長手方向と平行で、かつ、ポリマーフィルムの表面に垂直な割断面が得られるように、ポリマーフィルムを切断した。
次に、走査型電子顕微鏡(SEMEDX TypeH、日立社製)を用いて、得られた合計20箇所の割断面を観察して、観察領域に対応する20枚の観察画像を得た。なお、観察は100~100000倍の範囲における適切な倍率を選択して行い、ポリマーフィルムの厚み方向の全範囲が観察できるように撮影した。
20枚の観察画像における任意の200個の島状領域について、島状領域の外周をトレースし、トレースした領域と同じ面積の円の直径(円相当径)を画像解析装置によって測定した。そして、200個の島状領域の円相当径の算術平均値を、島状領域の円相当径とした。
【0153】
〔島状領域の面積率〕
上述の島状領域の円相当径の測定方法により得られた20枚の観察画像のそれぞれから、縦10μm×横10μmの正方形の領域(選択領域)を選択した。
次に、選択領域内に存在する島状領域の外周をトレースし、島状領域の占める総面積を画像解析装置によって測定し、選択領域の面積に対して、島状領域の総面積が占める割合(%)を算出した。そして、20枚の観察画像における算術平均値を求めて、これを島状領域の面積率とした。
【0154】
〔島状領域間の距離〕
上述の島状領域の円相当径の測定方法により得られた20枚の観察画像のそれぞれから、縦10μm×横10μmの正方形の領域(選択領域)を選択した。
次に、選択領域内に存在する島状領域の外周をトレースし、異なる島状領域間の最短距離を画像解析装置によって測定した。そして、20枚の観察画像における算術平均値を求めて、これを島状領域間の距離とした。
【0155】
〔厚み〕
接触式厚み計(ミツトヨ社製)を用いて、異なる100点におけるポリマーフィルムの厚みの算術平均値を求めて、これをポリマーフィルムの厚みとした。
【0156】
〔ヤング率比〕
ポリマーフィルムのヤング率は、JIS K 7127における引張試験によって測定した。なお、ポリマーフィルムのセンター部分を、MD方向とTD方向で各5カ所測定し、MD方向の平均値をTD方向の平均値で除した値を、ヤング率比とした。この値が1に近いほど、ポリマーフィルムにおけるヤング率の異方性が小さいといえる。
【0157】
〔誘電正接比、誘電率比〕
誘電正接および誘電率の測定は、周波数10GHzで共振摂動法により実施した。具体的には、ネットワークアナライザ(Agilent Technology社製「E8362B」)に1GHzの空洞共振器((株)関東電子応用開発)を接続し、空洞共振器に微小な材料(幅:2.7mm×長さ:45mm)を挿入し、温度20℃、湿度65%RH環境下、96時間の挿入前後の共振周波数の変化から材料の誘電正接および誘電率を測定した。なお、ポリマーフィルムのセンター部分を、MD方向とTD方向で各5カ所測定し、MD方向の平均値をTD方向の平均値で除した値を、誘電正接比および誘電率比とした。この値が1に近いほど、ポリマーフィルムにおける誘電正接および誘電率の異方性が小さいといえる。
【0158】
〔CTE比〕
ポリマーフィルムのCTE(線膨張率)は、JIS K 7197にしたがって測定した。なお、ポリマーフィルムのセンター部分を、MD方向とTD方向で各5カ所測定し、MD方向の平均値をTD方向の平均値で除した値を、CTE比とした。
得られたCTE比に基づいて、以下の評価基準により、ポリマーフィルムにおける線膨張率の異方性を評価した。
A: 0.8<CTE比<1.5
B: 0.5<CTE比≦0.8、または、1.5≦CTE比<2.0
C: CTE比≦0.5、または、2.0≦CTE比
【0159】
〔算術平均表面粗さRa〕
ポリマーフィルムの算術平均表面粗さRaは、JIS B 0601にしたがって、触針式粗さ計を用いて測定した。なお、フィルムのセンター10cm×10cm内の、ランダムに選んだ5箇所の測定を行い、平均値を求めた。
得られた値に基づいて、以下の基準で評価した。
A: 300nm未満
B: 300nm以上400nm未満
C: 400nm以上
【0160】
表1中、「せん断速度(ペレット化)」とは、上述のペレット化工程において混練ペレット化するときの二軸押出機のせん断速度を意味し、「滞留時間(成膜時)」とは、上述の成膜工程において混練物が二軸押出機を通過してから、フィルム状の混練物がダイから吐出されるまでの時間を意味する。
【0161】
【0162】
表1に示すように、明部の最大円相当径が10μm以下であるポリマーフィルムは、線膨張率の異方性が小さいことが示された(実施例)。
実施例1~3の対比から、成分Aとして無機粒子を用いた場合、島状領域の円相当径が0.01~1μmの範囲内であれば(実施例1および2)、線膨張率の異方性がより小さくできることが示された。
実施例4~7の対比から、成分Aとしてポリマーを用いた場合、ポリマーの種類によって島状領域の円相当径を制御できることが示された。また、島状領域の円相当径が0.01~1μmとなるポリマーを用いれば(実施例5~7)、線膨張率の異方性がより小さくできることが示された。
実施例2、8および9の対比から、島状領域の面積率が1~50%の範囲内にあれば(実施例2および8)、線膨張率の異方性の低減と、表面粗さRaの低減と、のバランスが優れることが示された。
実施例2、10~13の対比から、ポリマーフィルムの厚みが5~1000μmの範囲内にあれば(実施例2、10~12)、線膨張率の異方性がより小さくでき、かつ、表面粗さRaもより小さくできることが示された。
【0163】
表1に示すように、明部の最大円相当径が10μm超であるポリマーフィルムは、線膨張率の異方性が高いことが示された(比較例)。