(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】試料検査装置、検査システム、薄片試料作製装置および試料の検査方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/26 20200101AFI20240814BHJP
G01R 31/305 20060101ALI20240814BHJP
G01R 31/28 20060101ALI20240814BHJP
G01R 19/00 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
G01R31/26 Z
G01R31/305
G01R31/28 L
G01R19/00 J
(21)【出願番号】P 2023514206
(86)(22)【出願日】2021-04-13
(86)【国際出願番号】 JP2021015247
(87)【国際公開番号】W WO2022219695
(87)【国際公開日】2022-10-20
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 将大
(72)【発明者】
【氏名】布施 潤一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 典夫
(72)【発明者】
【氏名】梶山 浩嗣
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/089959(WO,A1)
【文献】特開2008-166702(JP,A)
【文献】特開2008-203075(JP,A)
【文献】国際公開第2017/038293(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/003458(WO,A1)
【文献】特開2021-022440(JP,A)
【文献】国際公開第01/063660(WO,A1)
【文献】特開2000-269291(JP,A)
【文献】特開2003-100823(JP,A)
【文献】特開2005-114578(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 31/26-31/27、
31/28-31/3193、
19/00-19/32、
H01L 21/64-21/66、
H01J 37/00-37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを照射可能な電子源と、
前記電子ビームの集束および走査が可能な電子光学系と、
その表面に第1導電体および第2導電体が形成された試料を設置可能な第1ステージと、
前記電子ビームが前記試料に照射された際に、前記試料から発生する二次電子を検出するための検出器と、
第1探針と、
第2探針と、
前記電子源、前記電子光学系、前記第1ステージ、前記検出器、前記第1探針および前記第2探針の各々の動作を制御する第1コントローラと、
前記試料が前記第1ステージ上に設置された際に実行される検査手段と、
を備え、
前記検査手段は、
(a)前記第1探針を前記第1導電体に接触させ、且つ、前記第2探針を前記第2導電体に接触させた状態で、前記電子ビームを前記試料の表面上で走査するステップ、
(b)前記ステップ(a)における前記電子ビームの走査と同期させながら、前記第1探針と前記第2探針との間の電位差の変化の微分値を計測するステップ、
(c)前記ステップ(b)で計測された前記電位差の変化の微分値に基づいて、前記第1導電体と前記第2導電体との間に存在する不良箇所が明部および暗部として示されたDI-EBAC像を取得するステップ、
(d)前記ステップ(c)で取得された前記DI-EBAC像から、前記不良箇所の方向を特定するステップ、
を有する、試料検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の試料検査装置において、
前記ステップ(c)は、
(c1)前記ステップ(b)で計測された前記電位差の変化の微分値のヒストグラムを生成するステップ、
(c2)前記ヒストグラムのうち前記電位差の変化の微分値が最も小さい箇所をベースラインとし、前記ベースラインに対して前記電位差の変化の微分値が十分に大きい箇所を、前記不良箇所として特定するステップ、
(c3)前記ステップ(c2)で特定された前記不良箇所が前記明部および前記暗部として示された前記DI-EBAC像を取得するステップ、
を有する、試料検査装置。
【請求項3】
請求項1に記載の試料検査装置において、
前記ステップ(d)では、前記明部と前記暗部との境界に対して垂直な方向が、前記不良箇所の方向として特定される、試料検査装置。
【請求項4】
請求項1に記載の試料検査装置において、
前記第1探針および前記第2探針は、差動増幅器を介して前記第1コントローラに電気的に接続され、
前記第1探針と前記第2探針との間には、前記第1探針に電気的に接続された第1可変抵抗素子と、前記第1可変抵抗素子に電気的に接続された第1定電圧電源と、前記第1定電圧電源に電気的に接続された第2定電圧電源と、前記第2定電圧電源および前記第2探針に電気的に接続された第2可変抵抗素子とが設けられ、
前記第1可変抵抗素子と前記差動増幅器との間には、第1コンデンサが設けられ、
前記第2可変抵抗素子と前記差動増幅器との間には、第2コンデンサが設けられ、
前記ステップ(a)では、前記不良箇所には、前記第1定電圧電源および前記第2定電圧電源から常に電圧が印加されている、試料検査装置。
【請求項5】
請求項1に記載の試料検査装置において、
前記検査手段は、
(e)前記ステップ(a)における前記電子ビームの走査と同期させながら、前記検出器で前記試料から発生する二次電子を検出することで、前記第1導電体および前記第2導電体が撮像されたSEM像を取得するステップ、
(f)前記SEM像と、前記DI-EBAC像とを重ね合わせた第1合成像を取得することで、前記不良箇所の位置を特定するステップ、
を更に有する、試料検査装置。
【請求項6】
請求項5に記載の試料検査装置と、薄片試料作製装置とを含む検査システムであって、
前記薄片試料作製装置は、
イオンビームを照射可能なイオン源と、
前記試料を設置可能な第2ステージと、
前記イオン源および前記第2ステージの各々の動作を制御し、且つ、前記第1コントローラに電気的に接続された第2コントローラと、
前記試料が前記第2ステージ上に設置された際に実行される作製手段と、
を更に備え、
前記作製手段は、
(g)前記ステップ(f)で取得された前記第1合成像と、前記ステップ(d)で特定された前記不良箇所の方向の情報とを、前記第1コントローラから前記第2コントローラへ取り込むステップ、
(h)前記ステップ(g)の後、前記第1合成像に前記不良箇所の方向を示すステップ、
(i)前記ステップ(h)の後、前記不良箇所の方向を参照して、前記試料の切断方向を決定するステップ、
(j)前記ステップ(i)の後、前記切断方向に基づいて、前記イオンビームを前記試料に対して照射し、前記試料の一部を加工することで、前記不良箇所の断面が含まれた薄片試料を作製するステップ、
を有する、検査システム。
【請求項7】
請求項1に記載の試料検査装置において、
前記検査手段は、
(e)前記試料の設計データであり、且つ、前記第1導電体および前記第2導電体が示されたCAD像を、前記第1コントローラに取り込むステップ、
(f)前記CAD像と、前記DI-EBAC像とを重ね合わせた第2合成像を取得することで、前記不良箇所の位置を特定するステップ、
を更に有する、試料検査装置。
【請求項8】
請求項7に記載の試料検査装置と、薄片試料作製装置とを含む検査システムであって、
前記薄片試料作製装置は、
イオンビームを照射可能なイオン源と、
前記試料を設置可能な第2ステージと、
前記イオン源および前記第2ステージの各々の動作を制御し、且つ、前記第1コントローラに電気的に接続された第2コントローラと、
前記試料が前記第2ステージ上に設置された際に実行される作製手段と、
を更に備え、
前記作製手段は、
(g)前記ステップ(f)で取得された前記第2合成像と、前記ステップ(d)で特定された前記不良箇所の方向の情報とを、前記第1コントローラから前記第2コントローラへ取り込むステップ、
(h)前記ステップ(g)の後、前記第2合成像に前記不良箇所の方向を示すステップ、
(i)前記ステップ(h)の後、前記不良箇所の方向を参照して、前記試料の切断方向を決定するステップ、
(j)前記ステップ(i)の後、前記切断方向に基づいて、前記イオンビームを前記試料に対して照射し、前記試料の一部を加工することで、前記不良箇所の断面が含まれた薄片試料を作製するステップ、
を有する、検査システム。
【請求項9】
イオンビームを照射可能なイオン源と、
その表面に第1導電体および第2導電体が形成された試料を設置可能な第2ステージと、
前記イオン源および前記第2ステージの各々の動作を制御する第2コントローラと、
前記試料が前記第2ステージ上に設置された際に実行される作製手段と、
を備え、
前記作製手段は、
(a)前記第1導電体および前記第2導電体が撮像されたSEM像、または、前記試料の設計データであり、且つ、前記第1導電体および前記第2導電体が示されたCAD像と、前記第1導電体と前記第2導電体との間に存在する不良箇所が明部および暗部として示されたDI-EBAC像と、を重ね合わせた合成像であって、前記不良箇所の方向が示されている前記合成像を用意するステップ、
(b)前記ステップ(a)の後、前記合成像に示されている前記不良箇所の方向を参照して、前記試料の切断方向を決定するステップ、
(c)前記ステップ(b)の後、前記切断方向に基づいて、前記イオンビームを前記試料に対して照射し、前記試料の一部を加工することで、前記不良箇所の断面が含まれた薄片試料を作製するステップ、
を有する、薄片試料作製装置。
【請求項10】
請求項9に記載の薄片試料作製装置において、
前記合成像は、試料検査装置によって取得された画像データであり、
前記試料検査装置は、
電子ビームを照射可能な電子源と、
前記電子ビームの集束および走査が可能な電子光学系と、
前記試料を設置可能な第1ステージと、
前記電子ビームが前記試料に照射された際に、前記試料から発生する二次電子を検出するための検出器と、
第1探針と、
第2探針と、
前記電子源、前記電子光学系、前記第1ステージ、前記検出器、前記第1探針および前記第2探針の各々の動作を制御する第1コントローラと、
を備えている、薄片試料作製装置。
【請求項11】
試料検査装置および薄片試料作製装置を用いて行われる試料の検査方法であって、
前記試料検査装置は、
電子ビームを照射可能な電子源と、
前記電子ビームの集束および走査が可能な電子光学系と、
その表面に第1導電体および第2導電体が形成された試料を設置可能な第1ステージと、
前記電子ビームが前記試料に照射された際に、前記試料から発生する二次電子を検出するための検出器と、
第1探針と、
第2探針と、
前記電子源、前記電子光学系、前記第1ステージ、前記検出器、前記第1探針および前記第2探針の各々の動作を制御する第1コントローラと、
を備え、
前記薄片試料作製装置は、
イオンビームを照射可能なイオン源と、
前記試料を設置可能な第2ステージと、
前記イオン源および前記第2ステージの各々の動作を制御し、且つ、前記第1コントローラに電気的に接続された第2コントローラと、
を備え、
(a)前記試料を前記第1ステージ上に設置するステップ、
(b)前記ステップ(a)の後、前記第1探針を前記第1導電体に接触させ、且つ、前記第2探針を前記第2導電体に接触させた状態で、前記電子ビームを前記試料の表面上で走査するステップ、
(c)前記ステップ(b)における前記電子ビームの走査と同期させながら、前記第1探針と前記第2探針との間の電位差の変化の微分値を計測するステップ、
(d)前記ステップ(c)で計測された前記電位差の変化の微分値に基づいて、前記第1導電体と前記第2導電体との間に存在する不良箇所が明部および暗部として示されたDI-EBAC像を取得するステップ、
(f)前記ステップ(d)で取得された前記DI-EBAC像から、前記不良箇所の方向を特定するステップ、
(g)前記ステップ(a)における前記電子ビームの走査と同期させながら、前記検出器で前記試料から発生する二次電子を検出することで、前記第1導電体および前記第2導電体が撮像されたSEM像を取得するステップであるか、前記試料の設計データであり、且つ、前記第1導電体および前記第2導電体が示されたCAD像を、前記第1コントローラに取り込むステップ、
(h)前記ステップ(f)および前記ステップ(g)の後、前記SEM像または前記CAD像と、前記DI-EBAC像とを重ね合わせた合成像を取得することで、前記不良箇所の位置を特定するステップ、
(i)前記ステップ(h)の後、前記試料を前記試料検査装置から薄片試料作製装置へ搬送し、前記試料を前記第2ステージ上に設置するステップ、
(j)前記ステップ(h)で取得された前記合成像と、前記ステップ(f)で特定された前記不良箇所の方向の情報とを、前記第1コントローラから前記第2コントローラへ取り込むステップ、
(k)前記ステップ(j)の後、前記合成像に前記不良箇所の方向を示すステップ、
(l)前記ステップ(k)の後、前記不良箇所の方向を参照して、前記試料の切断方向を決定するステップ、
(m)前記ステップ(l)の後、前記切断方向に基づいて、前記イオンビームを前記試料に対して照射し、前記試料の一部を加工することで、前記不良箇所の断面が含まれた薄片試料を作製するステップ、
を有する、試料の検査方法。
【請求項12】
請求項11に記載の試料の検査方法において、
前記ステップ(d)は、
(d1)前記ステップ(c)で計測された前記電位差の変化の微分値のヒストグラムを生成するステップ、
(d2)前記ヒストグラムのうち前記電位差の変化の微分値が最も小さい箇所をベースラインとし、前記ベースラインに対して前記電位差の変化の微分値が十分に大きい箇所を、前記不良箇所として特定するステップ、
(d3)前記ステップ(d2)で特定された前記不良箇所が前記明部および前記暗部として示された前記DI-EBAC像を取得するステップ、
を有する、試料の検査方法。
【請求項13】
請求項11に記載の試料の検査方法において、
前記ステップ
(f)では、前記明部と前記暗部との境界に対して垂直な方向が、前記不良箇所の方向として特定される、試料の検査方法。
【請求項14】
請求項11に記載の試料の検査方法において、
前記第1探針および前記第2探針は、差動増幅器を介して前記第1コントローラに電気的に接続され、
前記第1探針と前記第2探針との間には、前記第1探針に電気的に接続された第1可変抵抗素子と、前記第1可変抵抗素子に電気的に接続された第1定電圧電源と、前記第1定電圧電源に電気的に接続された第2定電圧電源と、前記第2定電圧電源および前記第2探針に電気的に接続された第2可変抵抗素子とが設けられ、
前記第1可変抵抗素子と前記差動増幅器との間には、第1コンデンサが設けられ、
前記第2可変抵抗素子と前記差動増幅器との間には、第2コンデンサが設けられ、
前記ステップ(b)では、前記不良箇所には、前記第1定電圧電源および前記第2定電圧電源から常に電圧が印加されている、試料の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料検査装置、検査システム、薄片試料作製装置および試料の検査方法に関し、特に、不良箇所の方向を特定できる試料検査装置と、試料検査装置を用いた試料の検査方法と、不良箇所の方向が特定された画像データを用いて試料の作製を行える薄片試料作製装置と、試料検査装置および薄片試料作製装置を有する検査システムとに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの微細化が進んでいる。特に、立体構造を有する半導体デバイスでは、積層技術と組み合わせることで、高集積化および大容量化が飛躍的に進んでいる。このような半導体デバイスの解析を行うための荷電粒子線装置として、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)などが用いられている。
【0003】
複雑な回路が形成された半導体試料の不良解析においては、半導体デバイスの微細化に伴って、不良箇所の特定が難しくなり、解析に膨大な時間が必要になっている。現在、このような不良解析では、OBIRCH(Optical Beam Induced Resistance Change)またはEB(Electron Beam)テスタなどの解析装置が用いられている。
【0004】
特に、配線の不良解析に関する分野では、電子ビームに代表される荷電粒子線を半導体試料に照射すると共に、試料に探針を接触させて、配線によって吸収された電流、または、半導体試料から放出された二次的な信号(二次電子若しくは反射電子など)を、解析し、更に画像化する技術が注目されている。配線により吸収された電流(吸収電流)に基づいて得られる信号(吸収電流信号)の分布像は、電子ビーム吸収電流(EBAC:Electron Beam Absorbed Current)像と呼ばれる。
【0005】
例えば、特許文献1には、試料表面の配線パターンに荷電粒子線を照射し、上記配線パターンに接触させた2本の探針の間に流れる吸収電流を測定する吸収電流検出装置が開示されている。この装置では、測定された吸収電流を電圧に変換する電流/電圧変換器と、上記配線パターンとの間に、所定の抵抗値を有する出力電圧調整用の入力抵抗が挿入されている。
【0006】
また、特許文献2には、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)探針の接触により特定される回路に、探針を介して電圧を印加しながら、荷電粒子線により試料を走査し、局所的に加熱された不良箇所の抵抗値の変化を、探針を介して測定する技術が開示されている。これにより、従来のEBAC法で検出し難かった高抵抗の不良箇所、または、試料内部に埋没した不良箇所に起因する信号が、検出され易くなる。また、特許文献2には、取得されたEBAC像とSEM像とを重ね合わせることで、不良箇所の位置を特定する技術も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-203075号公報
【文献】国際公開第2017/038293号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2では、EBAC像とSEM像とを重ね合わせた合成像によって、不良箇所の位置をある程度の精度で特定することが可能であるが、例えば、ショート不良における短絡の方向を特定することが出来ない。それ故、集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)装置またはFIB-SEM装置のような薄片試料作製装置を用いて、不良箇所の切断および薄膜化を行い、不良箇所の断面観察を行う工程において、不良箇所が不適切な方向に切断されてしまい、不良箇所の情報が失われる場合がある。
【0009】
本願の主な目的は、EBAC像から不良方向を特定できる試料検査装置と、その試料検査装置を用いた検査方法とを提供することにある。また、試料検査装置で取得された情報を薄片試料作製装置で用いることで、不良箇所が適切な方向に切断されるように、薄片試料の作製を行うことを目的とする。その他の課題および新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される実施の形態のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0011】
一実施の形態における荷電粒子線装置は、電子ビームを照射可能な電子源と、前記電子ビームの集束および走査が可能な電子光学系と、その表面に第1導電体および第2導電体が形成された試料を設置可能な第1ステージと、前記電子ビームが前記試料に照射された際に、前記試料から発生する二次電子を検出するための検出器と、第1探針と、第2探針と、前記電子源、前記電子光学系、前記第1ステージ、前記検出器、前記第1探針および前記第2探針の各々の動作を制御する第1コントローラと、前記試料が前記第1ステージ上に設置された際に実行される検査手段と、を備える。ここで、前記検査手段は、(a)前記第1探針を前記第1導電体に接触させ、且つ、前記第2探針を前記第2導電体に接触させた状態で、前記電子ビームを前記試料の表面上で走査するステップ、(b)前記ステップ(a)における前記電子ビームの走査と同期させながら、前記第1探針と前記第2探針との間の電位差の変化の微分値を計測するステップ、(c)前記ステップ(b)で計測された前記電位差の変化の微分値に基づいて、前記第1導電体と前記第2導電体との間に存在する不良箇所が明部および暗部として示されたDI-EBAC像を取得するステップ、(d)前記ステップ(c)で取得された前記DI-EBAC像から、前記不良箇所の方向を特定するステップ、を有する。
【0012】
一実施の形態における薄片試料作製装置は、イオンビームを照射可能なイオン源と、その表面に第1導電体および第2導電体が形成された試料を設置可能な第2ステージと、前記イオン源および前記第2ステージの各々の動作を制御する第2コントローラと、前記試料が前記第2ステージ上に設置された際に実行される作製手段と、を備える。ここで、前記作製手段は、(a)前記第1導電体および前記第2導電体が撮像されたSEM像、または、前記試料の設計データであり、且つ、前記第1導電体および前記第2導電体が示されたCAD像と、前記第1導電体と前記第2導電体との間に存在する不良箇所が明部および暗部として示されたDI-EBAC像と、を重ね合わせた合成像であって、前記不良箇所の方向が示されている前記合成像を用意するステップ、(b)前記ステップ(a)の後、前記合成像に示されている前記不良箇所の方向を参照して、前記試料の切断方向を決定するステップ、(c)前記ステップ(b)の後、前記切断方向に基づいて、前記イオンビームを前記試料に対して照射し、前記試料の一部を加工することで、前記不良箇所の断面が含まれた薄片試料を作製するステップ、を有する。
【0013】
一実施の形態における試料の検査方法は、試料検査装置および薄片試料作製装置を用いて行われる。前記試料検査装置は、電子ビームを照射可能な電子源と、前記電子ビームの集束および走査が可能な電子光学系と、その表面に第1導電体および第2導電体が形成された試料を設置可能な第1ステージと、前記電子ビームが前記試料に照射された際に、前記試料から発生する二次電子を検出するための検出器と、第1探針と、第2探針と、前記電子源、前記電子光学系、前記第1ステージ、前記検出器、前記第1探針および前記第2探針の各々の動作を制御する第1コントローラと、を備える。前記薄片試料作製装置は、イオンビームを照射可能なイオン源と、前記試料を設置可能な第2ステージと、前記イオン源および前記第2ステージの各々の動作を制御し、且つ、前記第1コントローラに電気的に接続された第2コントローラと、を備える。また、試料の検査方法は、(a)前記試料を前記第1ステージ上に設置するステップ、(b)前記ステップ(a)の後、前記第1探針を前記第1導電体に接触させ、且つ、前記第2探針を前記第2導電体に接触させた状態で、前記電子ビームを前記試料の表面上で走査するステップ、(c)前記ステップ(b)における前記電子ビームの走査と同期させながら、前記第1探針と前記第2探針との間の電位差の変化の微分値を計測するステップ、(d)前記ステップ(c)で計測された前記電位差の変化の微分値に基づいて、前記第1導電体と前記第2導電体との間に存在する不良箇所が明部および暗部として示されたDI-EBAC像を取得するステップ、(f)前記ステップ(d)で取得された前記DI-EBAC像から、前記不良箇所の方向を特定するステップ、(g)前記ステップ(a)における前記電子ビームの走査と同期させながら、前記検出器で前記試料から発生する二次電子を検出することで、前記第1導電体および前記第2導電体が撮像されたSEM像を取得するステップであるか、前記試料の設計データであり、且つ、前記第1導電体および前記第2導電体が示されたCAD像を、前記第1コントローラに取り込むステップ、(h)前記ステップ(f)および前記ステップ(g)の後、前記SEM像または前記CAD像と、前記DI-EBAC像とを重ね合わせた合成像を取得することで、前記不良箇所の位置を特定するステップ、(i)前記ステップ(h)の後、前記試料を前記試料検査装置から薄片試料作製装置へ搬送し、前記試料を前記第2ステージ上に設置するステップ、(j)前記ステップ(h)で取得された前記合成像と、前記ステップ(f)で特定された前記不良箇所の方向の情報とを、前記第1コントローラから前記第2コントローラへ取り込むステップ、(k)前記ステップ(j)の後、前記合成像に前記不良箇所の方向を示すステップ、(l)前記ステップ(k)の後、前記不良箇所の方向を参照して、前記試料の切断方向を決定するステップ、(m)前記ステップ(l)の後、前記切断方向に基づいて、前記イオンビームを前記試料に対して照射し、前記試料の一部を加工することで、前記不良箇所の断面が含まれた薄片試料を作製するステップ、を有する。
【発明の効果】
【0014】
一実施の形態によれば、EBAC像から不良方向を特定できる試料検査装置と、その試料検査装置を用いた検査方法とを提供できる。また、試料検査装置で取得された情報を基にして、不良箇所が適切な方向に切断されるように、薄片試料の作製を行える薄片試料作製装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態1における検査システムを示す模式図である。
【
図2】実施の形態1における試料検査装置を示す模式図である。
【
図3】実施の形態1における試料検査装置の一部を拡大した要部模式図である。
【
図4】CURRモード、DIFFモードおよびDI-EBACモードを示す模式図である。
【
図5】CURRモード、DIFFモードおよびDI-EBACモードで得られたヒストグラムを示す概念図である。
【
図6】DI-EBACモードにおける電位差の変化の微分値と、不良箇所の位置との関係を示すグラフである。
【
図7】実施の形態1における試料の検査方法(検査手段)を示すフローチャートである。
【
図8A】実施の形態1におけるDI-EBAC像を示す模式図である。
【
図8B】実施の形態1におけるSEM像を示す模式図である。
【
図8C】実施の形態1におけるSEM像とDI-EBAC像とを重ね合わせた合成像を示す模式図である。
【
図8D】実施の形態1におけるSEM像とDI-EBAC像とを重ね合わせた合成像を示す模式図である。
【
図9】実施の形態1における薄片試料作製装置を示す模式図である。
【
図10】実施の形態1における試料の検査方法(作製手段)を示すフロー図である。
【
図11】実施の形態1における薄片試料作製装置を操作中の画面である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0017】
(実施の形態1)
<検査システムの構成>
以下に
図1を用いて、試料の検査および作製を行うことが可能な検査システム100の構成について説明する。
【0018】
図1に示されるように、検査システム100は、試料検査装置200、薄片試料作製装置300、コンピュータ30、表示装置31、入力装置32および記憶装置33を含む。
【0019】
試料検査装置200と薄片試料作製装置300との間では、コンピュータ30を介して、各種情報が相互に通信される。各種情報は、試料検査装置200において検査された試料の情報、および、薄片試料作製装置300において作製された試料の情報であり、例えば、不良箇所の位置座標、不良方向、作製箇所の位置座標および画像データなどである。これらの情報は、コンピュータ30に備えられた記憶装置33に保存される。
【0020】
コンピュータ30には、表示装置31および入力装置32が接続されている。表示装置31には、GUI画面などが表示される。GUI画面には、EBAC像およびSEM像などの画像データ、並びに、ユーザの各種指示などが表示される。ユーザは、GUI画面を確認しながら、入力装置32を用いて各種指示を入力できる。その場合、各種指示がコンピュータ30に送信され、コンピュータ30から試料検査装置200および薄片試料作製装置300の各々のコントローラへ制御信号が伝達される。
【0021】
なお、入力装置32は、例えばキーボードまたはマウスであり、記憶装置33は、例えばフラッシュメモリまたはハードディスクである。また、コンピュータ30は、情報を通信できるものであればよく、ネットワークまたはその他の情報媒体などであってもよい。
【0022】
<試料検査装置の構成>
以下に
図2~
図6を用いて、実施の形態1における試料検査装置200について説明する。試料検査装置200は、荷電粒子線装置であり、例えばナノプローバである。
【0023】
図2に示されるように、試料検査装置200は、試料室1と、試料室1に取り付けられた鏡筒2とを備える。鏡筒2の内部には、電子ビーム(荷電粒子ビーム)EB1を照射可能な電子源(荷電粒子源)3と、電子ビームEB1の集束および走査が可能な電子光学系4とが設けられている。電子光学系4は、例えば、コンデンサレンズ5、走査コイル6および対物レンズ7を含む。
【0024】
試料室1の内部において電子源3の下方には、3次元的に移動可能であり、且つ、試料11を設置可能なステージ8が設けられている。ここでは、不良箇所12を含む試料11がステージ8上に設置されている場合を示す。
【0025】
試料11は、p型およびn型の不純物領域が形成された半導体基板、上記半導体基板上に形成されたトランジスタなどの半導体素子、および、上記半導体素子上に形成された配線などを含んでいる。ここでは、試料11の表面に、上記配線を構成する導電体11aおよび導電体11bが形成され、これらの間に不良箇所12が存在している場合を示す。
【0026】
試料室1には、例えば二次電子検出器のような検出器9が設けられている。電子線EB1が試料11に衝突した際に、試料11から発生した二次電子は、検出器9によって検出される。この検出された二次電子は、検出器9に電気的に接続された画像処理機器などによって、観察像(SEM像、二次電子像)として画像データ化される。なお、上記画像処理機器は、後述のコントローラC1に含まれている。
【0027】
また、試料室1には、探針10aおよび探針10bが設けられている。探針10aを導電体11aに接触させ、探針10bを導電体11bに接触させることで、導電体11a、導電体11bおよび不良箇所12の電流、電位および抵抗値などを計測できる。探針10aおよび探針10bは、差動増幅器20に電気的に接続され、差動増幅器20は、コントローラC1に含まれる画像処理機器に電気的に接続されている。なお、ここでは探針の数を2本としているが、探針の数は、1本または3本以上の探針であってもよい。
【0028】
コントローラC1は、鏡筒2(電子源3、電子光学系4)、ステージ8、検出器9、探針10aおよび探針10bに電気的に接続され、これらの動作を制御する。また、コントローラC1は、コンピュータ30に電気的に接続されている。
【0029】
試料11に電子ビームEB1が照射されると、試料11に電荷が蓄積し、導電体11aと導電体11bとの間に電位差が発生する。導電体11aと導電体11bとの間で生じた電位差は、差動増幅器20によって増幅され、コントローラC1に出力信号として入力され、コントローラC1の上記画像処理機器によってEBAC像として画像データ化される。
【0030】
なお、導電体11aと導電体11bとの間に導通がなければ、これらの間に電位差が生じる。一方で、これらの間に導通がある場合は、これらの間に電位差が生じない。
【0031】
EBAC像を観察することで、導電体11aと導電体11bとの間の導通の有無を確認することができ、ショート不良(本来導通があるべきではない導電体間に、導通がある不良)およびオープン不良(本来導通があるべき導電体間に、導通がない不良)の箇所を特定することができる。
【0032】
コントローラC1は、試料11上において、電子ビームEB1の照射位置ごとに差動増幅器20から出力された信号を測定でき、出力信号の強度に応じた画素階調データを作製できる。コントローラC1は、電子ビームEB1の偏向速度に応じて、1フレーム走査の完了ごと、1ライン走査の完了ごと、または、1画素走査の完了ごとに、画像データとして画素階調データをコンピュータ30に出力する。コンピュータ30は、出力された画像データを表示装置31に表示する。
【0033】
図3は、試料検査装置200の一部を拡大した要部模式図であり、EBAC像を形成する際の原理図である。
【0034】
試料11の表面を走査中の電子ビームEB1が導電体11aに照射されると、電荷は、探針10aを伝わり、差動増幅器20のプラス側に入力される。このとき、ある抵抗値を有する不良箇所12が導電体11aおよび導電体11bに接していると、不良箇所12を介して導電体11bに電荷が流れ、電荷は、探針10bを伝わり、差動増幅器20のマイナス側に入力される。導電体11bの電位は、不良箇所12による電圧降下分だけ、導電体11aよりも低くなる。
【0035】
不良箇所12の抵抗値が低い場合、電圧降下量が少なく、導電体11aと導電体11bとの間の電位差が少ないので、不良箇所12がショート不良であると認識できる。しかし、不良箇所12の抵抗値が高い場合、例えば不良箇所12の抵抗値が差動増幅器20の入力インピーダンスより大きい場合、不良箇所12を介した電流が流れ難くなる。それ故、導電体11aと導電体11bとの間に電位差が生じ、不良箇所12が無い状態との区別がつき難くなるという問題がある。
【0036】
そのような問題を解決するために、実施の形態1における試料検査装置200では、探針10aおよび探針10bと、差動増幅器20との間には、微分回路が設けられている。すなわち、探針10aと探針10bとの間には、探針10aに電気的に接続された可変抵抗素子21aと、可変抵抗素子21aに電気的に接続された定電圧電源22aと、定電圧電源22aに電気的に接続された定電圧電源22bと、定電圧電源22bおよび探針10bに電気的に接続された可変抵抗素子21bとが設けられている。そして、可変抵抗素子21aと差動増幅器20との間には、コンデンサ23aが設けられ、可変抵抗素子21bと差動増幅器20との間には、コンデンサ23bが設けられている。
【0037】
また、差動増幅器20の入力バイアス電流をアースに逃がし、差動増幅器20を保護するために、コンデンサ23aと差動増幅器20との間には、抵抗素子24aが設けられ、コンデンサ23bと差動増幅器20との間には、抵抗素子24bが設けられている。
【0038】
探針10aを導電体11aに接触させ、探針10bを導電体11bに接触させた状態では、不良箇所12には、常に電力が供給される。すなわち、上記状態では、不良箇所12には、定電圧電源22aおよび定電圧電源22bから常に電圧が印加される。
【0039】
試料11の表面を走査中の電子ビームEB1が不良箇所12に照射されると、電子ビームEB1の加速電圧に比例した運動エネルギーによって、不良箇所12が加熱され、不良箇所12の抵抗値が増加する。電子ビームEB1の照射が終わると、不良箇所12の熱は、その周囲へ放出される。その結果、不良箇所12の温度の低下に伴って、不良箇所12の抵抗値も元に戻る。従って、探針10aと探針10bとの間の電位は、電子ビームEB1が不良箇所12に照射されている期間中において、大きく変化する。
【0040】
一般的に、導電体11aおよび導電体11bを含む試料11と、不良箇所12とでは、熱伝導率および抵抗値の温度特性の違いによって、電子ビームEB1の照射による抵抗値の変化が異なる。それ故、仮に不良箇所12の抵抗値が非常に高かったとしても、探針10aと探針10bとの間の電位差の変化(不良箇所12の抵抗値の変化)を計測することで、不良箇所12に起因する出力信号を検出することができる。
【0041】
出力信号を差動増幅器20で直接検出してもよいが、この出力信号は、従来のEBAC信号と比較して微小である。そこで、探針10aと探針10bとの間の電位差の変化を、コンデンサ23aおよびコンデンサ23bによって微分化し、電位差の変化の微分値を差動増幅器20へ出力することで、微小な出力信号を精度良く検出できる。コンデンサ23aおよびコンデンサ23bを経由するので、差動増幅器20の入力インピーダンスの影響も無い。また、可変抵抗素子21aおよび可変抵抗素子21bの各々の抵抗値を調整することで、任意の抵抗値を有する不良箇所12への対応が可能となる。なお、このような微分回路を含む差動増幅器20の詳細な原理については、上述の特許文献2を参照できる。
【0042】
このように、電子ビームEB1の走査と同期させながら、探針10aと探針10bとの間の電位差の変化の微分値(探針10aと探針10bとの間の抵抗値の変化)を計測することで、DI-EBAC(Dynamic Induced Electron Beam Absorbed Current)像を取得できる。
【0043】
図4は、探針を用いてEBAC像を生成し、不良箇所12を検出するモードを示している。
図4には、CURRモード、DIFFモードおよびDI-EBACモードの3つの検出方法が示されている。CURRモードは主にオープン不良の検出に用いられ、DIFFモードは主に高抵抗不良の検出に用いられ、DI-EBACモードは主にショート不良の検出に用いられる。
【0044】
CURRモードでは、1本の探針10aを導電体11aに接触させた状態で、電子ビームEB1を試料11上で走査し、探針10aで吸収される電流値を出力信号として、EBAC像41を生成している。このモードでは、電子ビームEB1が導電体11aに照射された場合、探針10aで検出される電流値が大きくなり、電流値の大きな部分が暗部として表示される。
【0045】
DIFFモードでは、探針10aを導電体11aに接触させ、探針10bを導電体11bに接触させた状態で、電子ビームEB1を試料11上で走査し、探針10aおよび探針10bで吸収される電流値を出力信号として、EBAC像42を生成している。不良箇所12の前後で探針10aおよび探針10bで吸収される電流値が大きく変化するので、その変化が明部および暗部として表示される。
【0046】
DI-EBACモードでは、
図3に示される差動増幅器20および微分回路が適用される。探針10aを導電体11aに接触させ、探針10bを導電体11bに接触させた状態で、電子ビームEB1を試料11上で走査し、探針10aと探針10bとの間の電位差の変化の微分値を出力信号として、EBAC像(DI-EBAC像)43を生成している。このモードでは、不良箇所12の方向によって、探針10aと探針10bとの間の電位差の変化の微分値が大きく変化するので、その変化が明部および暗部として表示される。
【0047】
図5は、ヒストグラムを用いて不良箇所12を抽出する概念図である。
【0048】
CURRモードにおいて、
図5の横軸は、探針10aで吸収される電流値の変化を示し、
図5の縦軸は、同じ変化が発生する頻度を示している。なお、図中に示されるベースラインBLは、ヒストグラム44のうち電流値の変化が最も小さい箇所であるか、頻度が最も多い箇所である。
【0049】
CURRモードでは、不良箇所12は暗点として観察されるので、ヒストグラム44に示されるように、ベースラインBLに対して電流値の変化が十分に大きい箇所(負側で大きい箇所)を、暗部46として抽出し、不良箇所12として特定する。
【0050】
DIFFモードにおいて、
図5の横軸は、探針10aおよび探針10bで吸収される電流値の変化を示し、
図5の縦軸は、同じ変化が発生する頻度を示している。なお、図中に示されるベースラインBLは、ヒストグラム45のうち電流値の変化が最も小さい箇所であるか、頻度が最も多い箇所である。
【0051】
DIFFモードでは、ヒストグラム45に示されるように、ベースラインBLに対して電流値の変化が負側で十分に大きい箇所を、暗部46として抽出し、不良箇所12として特定する。また、ベースラインBLに対して電流値の変化が正側で十分に大きい箇所を、明部47として抽出し、不良箇所12として特定する。
【0052】
DI-EBACモードにおいて、
図5の横軸は、探針10aと探針10bとの間の電位差の変化の微分値を示し、
図5の縦軸は、上記微分値が発生する頻度を示している。なお、図中に示されるベースラインBLは、ヒストグラム45のうち上記微分値が最も小さい箇所であるか、頻度が最も多い箇所である。
【0053】
DI-EBACモードでは、ヒストグラム45に示されるように、ベースラインBLに対して上記微分値が負側で十分に大きい箇所を、暗部46として抽出し、不良箇所12として特定する。また、ベースラインBLに対して上記微分値が正側で十分に大きい箇所を、明部47として抽出し、不良箇所12として特定する。
【0054】
電子ビームEB1によって走査される箇所の大部分は、不良箇所12以外の箇所であるので、不良箇所12以外の箇所の頻度が、必然的に多くなる。また、不良箇所12から離れるに連れて、電流値の変化または電位差の変化の微分値は小さくなる。従って、ベースラインBLを上述のように設定することで、不良箇所12の特定が容易になる。
【0055】
電流値の変化が最も大きい箇所、または、上記微分値が最も大きい箇所が、不良箇所12の位置であるので、コントラストを抽出する箇所(暗部46または明部47を抽出する箇所)をこれらの箇所に限定することで、不良箇所12を特定することができる。
【0056】
図6は、DI-EBACモードにおける電位差の変化の微分値と、不良箇所12の位置との関係を示すグラフである。
図6の横軸の不良箇所12の位置は、
図4のDI-EBAC像に示されるA-A′の位置に対応している。
【0057】
図6に示されるように、正側および負側において十分に大きい電位差の変化の微分値を、ヒストグラム45から抽出することで、コントラストの大きな暗部46および明部47を表示でき、不良箇所12の特定を容易にできる。
【0058】
なお、ヒストグラム44およびヒストグラム45において、どの箇所を暗部46または明部47として抽出するかについては、ユーザが適宜選択してもよいし、コントローラC1に含まれる人工知能に、過去のデータを機械学習させることで、コントローラC1が自動的に選択してもよい。
【0059】
また、CURRモードまたはDI-EBACモードでは、例外的に、半導体基板に形成されているpn接合に起因して、輝点および暗点が発生する場合がある。通常、電子ビームの照射によって発生した電子・ホール対は、直ちに再結合する。しかし、pn接合の近傍では、電場によって電子・ホール対の発生が加速され、別の電子が励起されることにより、EBAC反応が発生する。
【0060】
上述のようなヒストグラムによる抽出を行った場合、同様の理由によって、pn接合に起因する輝点および暗点も抽出されてしまい、これらが不良箇所であると誤認されてしまう場合がある。一方で、輝点および暗点は、不良箇所12を除いた箇所に含まれている。そこで、ヒストグラムから不良箇所12として暗部46および明部47を抽出することで、輝点および暗点を除いた画像データを生成できる。従って、不良箇所の誤認を抑制できる。
【0061】
<試料の検査方法(検査手段)>
以下に
図7および
図8A~
図8Dを用いて、試料検査装置200を用いて行われる試料11の検査方法について説明する。なお、試料11の検査方法は、上述のDI-EBACモードで行われる。また、試料11の検査方法であるステップS1~S6のうち、ステップS2~S6は、試料11がステージ8上に設置された際に実行される検査手段であり、試料検査装置200が備える検査手段であるとも言える。
【0062】
まず、ステップS1では、例えば
図2に示されるように、ユーザによって、試料11を試料検査装置200のステージ8上に設置する。
【0063】
ステップS2では、コントローラC1の制御によって、探針10aを導電体11aに接触させ、且つ、探針10bを導電体11bに接触させた状態で、電子ビームEB1を試料11の表面上で走査する。次に、電子ビームEB1の走査と同期させながら、コントローラC1において、探針10aと探針10bとの間の電位差の変化の微分値を計測する。
【0064】
ステップS3では、ステップS2で計測された電位差の変化の微分値に基づいて、コントローラC1において、導電体11aと導電体11bとの間に存在する不良箇所12が明部47および暗部46として示されたDI-EBAC像43を取得する。
【0065】
すなわち、まず、
図5に示されるように、コントローラC1において、ステップS2で計測された電位差の変化の微分値のヒストグラム45を生成する。次に、ヒストグラム45のうち電位差の変化の微分値が最も小さい箇所をベースラインBLとし、ベースラインBLに対して電位差の変化の微分値が十分に大きい箇所を、不良箇所12として特定する。次に、コントローラC1によって、特定された不良箇所12が明部47および暗部46として示されたDI-EBAC像43を取得する。
【0066】
なお、ベースラインBLから不良箇所12を特定する作業、すなわち、どの箇所を暗部46または明部47として抽出する作業は、ユーザによって適宜選択されてもよいし、コントローラC1に含まれる人工知能に、過去のデータを機械学習させることで、コントローラC1によって自動的に選択されてもよい。
【0067】
ステップS4では、
図8Aに示されるように、ステップS3で取得されたDI-EBAC像43から不良箇所12の方向を特定し、DI-EBAC像43に、不良箇所12の方向48を表示する。ここでは、方向48を示す方法として、DI-EBAC像43に矢印を表示しているが、方向48を示す方法は、矢印に限定されず、他の方法でも構わない。
【0068】
また、不良箇所12の方向48は、明部47と暗部46との境界に対して垂直な方向として特定される。なお、方向48を特定する作業は、ユーザによって行われてもよいし、コントローラC1に含まれる人工知能によって行われてもよい。
【0069】
ステップS5では、
図8Bに示されるように、コントローラC1によって、ステップS2における電子ビームEB1の走査と同期させながら、検出器9で試料11から発生する二次電子を検出することで、導電体11aおよび導電体11bが撮像されたSEM像49を取得する。なお、SEM像49には、探針10aおよび探針10bも撮像される。
【0070】
ステップS6では、
図8Cに示されるように、コントローラC1によって、SEM像49と、DI-EBAC像43とを重ね合わせた重ね合わせ像(合成像)50を取得する。DI-EBAC像43のみでは、不良箇所12と、導電体11aおよび導電体11bなどとの位置関係が判然としないが、合成像50を生成することで、不良箇所12の位置を特定できる。
【0071】
ここで、ステップS5において、SEM像49の取得に代えて、CAD像をコントローラC1に取り込んでもよい。そして、ステップS6において、CAD像とDI-EBAC像43とを重ね合わせた重ね合わせ像(合成像)50を取得してもよい。CAD像は、試料11の設計データであり、且つ、導電体11aおよび導電体11bが示されたデータである。それ故、CAD像を適用した場合でも、不良箇所12の位置を特定できる。
【0072】
また、
図8Dに示されるように、ステップS3において、ヒストグラム45から電位差の変化の微分値が特に大きい箇所のみを抽出し、DI-EBAC像を生成してもよい。この場合、このDI-EBAC像と、SEM像49またはCAD像とを重ね合わせて合成像51を生成することで、不良箇所12の位置をより精度よく特定できる。
【0073】
また、視認性を向上するために、DI-EBAC像43を色付けした後、SEM像49またはCAD像と、DI-EBAC像43とを重ね合わせてもよい。
【0074】
このように、実施の形態1によれば、不良箇所12の方向48を特定できる試料検査装置200と、その試料検査装置200を用いた検査方法とを提供できる。これにより、例えばショート不良における短絡の方向を特定することができるので、薄片試料作製装置300を用いて、不良箇所12の断面観察を行う場合、不良箇所12が不適切な方向に切断され、不良箇所12の情報が失われるという恐れを抑制できる。
【0075】
なお、上述の試料の検査方法では、DI-EBACモードのDI-EBAC像43について説明したが、
図4に示されるCURRモードのEBAC像41およびDIFFモードのEBAC像42についても、ステップS1~S7を行うことができる。
【0076】
CURRモードおよびDIFFモードでは、不良箇所12の方向は
図4の横方向であると、予め分かっている。しかし、
図5に示されるヒストグラム44およびヒストグラム45を用いて、ベースラインBLに対して電流値の変化が十分に大きい箇所を、暗部46および明部47として抽出することで、より鮮明なコントラストとして不良箇所12の特定を行える。そして、より鮮明なコントラストとなったEBAC像41またはEBAC像42と、SEM像49またはCAD像とを重ね合わせた合成像を生成することで、不良箇所12の位置の特定が容易となる。
【0077】
<薄片試料作製装置の構成>
以下に
図9を用いて、実施の形態1における薄片試料作製装置300について説明する。薄片試料作製装置300は、荷電粒子線装置であり、例えばFIB-SEM装置である。
【0078】
薄片試料作製装置300は、試料室61と、試料室61に取り付けられたイオンビームカラム62および電子ビームカラム64とを備える。
【0079】
イオンビームカラム62は、イオンビーム(荷電粒子ビーム)IBを照射可能なイオン源63、イオンビームIBを集束するためのレンズ、および、イオンビームIBを走査し、且つ、シフトするための偏向系など、FIB装置として必要な構成要素を全て含む。
【0080】
電子ビームカラム64は、電子ビーム(荷電粒子ビーム)EB2を照射可能な電子源65、電子ビームEB2を集束するためのレンズ、および、電子ビームEB2を走査し、且つ、シフトするための偏向系など、SEM装置として必要な構成要素を全て含む。
【0081】
イオンビームカラム62を通過したイオンビームIB、および、電子ビームカラム64を通過した電子ビームEB2は、主にイオンビームカラムの光軸と電子ビームカラムの光軸との交点であるクロスポイントCPにフォーカスされる。
【0082】
ここでは、イオンビームカラム62を垂直配置し、電子ビームカラム64を傾斜配置しているが、これに限られず、イオンビームカラム62を傾斜配置し、電子ビームカラム64を垂直配置してもよい。また、イオンビームカラム62および電子ビームカラム64の双方を傾斜配置してもよい。
【0083】
試料室61の内部には、3次元的に移動可能であり、且つ、試料11を設置可能なステージ66が設けられている。ステージ66は、試料11にイオンビームIBおよび電子ビームEB2が照射される位置に設けられている。
【0084】
試料室1には、例えば二次電子検出器のような検出器67が設けられている。電子線EB2が試料11に衝突した際に、試料11から発生した二次電子は、検出器67によって検出される。この検出された二次電子は、検出器67に電気的に接続された画像処理機器などによって、観察像(SEM像、二次電子像)として画像データ化される。なお、上記画像処理機器は、後述のコントローラC2に含まれている。また、検出器67は、電子だけでなくイオンの検出も可能な複合荷電粒子検出器であってもよい。
【0085】
着脱器68は、試料11がイオンビームIBおよび電子ビームEB1が照射される位置に到達できるように、試料室61内に設けられる。着脱器68は、3次元的に移動可能であり、例えばナノピンセットまたはマイクロプローブである。
【0086】
コントローラC2は、イオンビームカラム62、電子ビームカラム64、ステージ66、検出器67および着脱器68に電気的に接続され、これらの動作を制御する。また、コントローラC2は、コンピュータ30に電気的に接続されている。
【0087】
電子ビームカラム64によって生成されるSEM像を確認しながら、試料11にイオンビームIBを照射することで、試料11の一部が加工され、不良箇所12の断面が含まれた薄片試料を作製することができる。作製された薄片試料は、着脱器68を操作することで、試料11から取得できる。
【0088】
<試料の検査方法(作製手段)>
以下に
図10および
図11を用いて、薄片試料作製装置300を用いて行われる試料11の検査方法(薄片試料の作製方法)について説明する。
図10に示されるステップS7~S10は、
図7のステップS1~S6に続く試料11の検査方法である。また、ステップS8~S10は、試料11がステージ66上に設置された際に実行される作製手段であり、薄片試料作製装置300が備える作製手段であるとも言える。
【0089】
ステップS7では、まず、試料検査装置200から薄片試料作製装置300へ試料11を搬送する。次に、例えば
図9に示されるように、ユーザによって、試料11を薄片試料作製装置300のステージ66上に設置する。
【0090】
ステップS8では、ステップS6で取得された合成像50と、ステップS4で特定された不良箇所12の方向48の情報とを、コントローラC1からコントローラC2へ取り込む。次に、合成像50に不良箇所12の方向48を示す。
【0091】
例えば、
図11に示されるように、表示装置31のGUI画面には、不良位置の表示ボタン34と、不良方向の表示ボタン35とが設けられている。ユーザが表示ボタン34を押すことで、合成像50が表示装置31のGUI画面に表示され、ユーザが表示ボタン35を押すことで、方向48が表示装置31のGUI画面に表示される。
【0092】
なお、方向48は、ユーザの選択に関わらず、コントローラC1によって、自動的に合成像50に示されていてもよい。すなわち、後述のステップS9の前に、方向48が示された合成像50が用意されていればよい。
【0093】
ステップS9では、合成像50に示されている不良箇所12の方向48を参照して、試料11の切断方向を決定する。この決定作業は、ユーザによって行われてもよいし、コントローラC1に含まれる人工知能によって行われてもよい。
【0094】
ステップS10では、ステップS9で決定された切断方向に基づいて、コントローラC1によって、イオンビームIBを試料11に対して照射し、試料11の一部を加工することで、不良箇所12の断面が含まれた薄片試料を作製する。
【0095】
このように、実施の形態1によれば、試料検査装置200で取得された情報を基にして、不良箇所12が適切な方向に切断されるように、薄片試料の作製を行える薄片試料作製装置300を提供できる。
【0096】
なお、
図1では図示していないが、検査システム100は、コンピュータ30に電気的に接続された解析用の荷電粒子線装置が含まれている。そのような荷電粒子線装置は、例えば透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)である。ステップS10で作製された薄片試料は、透過電子顕微鏡に搬送される。そして、透過電子顕微鏡の内部において、不良箇所12の断面の詳細な解析が行われる。
【0097】
以上、上記実施の形態に基づいて本発明を具体的に説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0098】
1 試料室
2 鏡筒
3 電子源
4 電子光学系
5 コンデンサレンズ
6 走査コイル
7 対物レンズ
8 ステージ
9 検出器
10a、10b 探針
11 試料
11a、11b 導電体
12 不良箇所
20 差動増幅器
21a、21b 可変抵抗素子
22a、22b 定電圧電源
23a、23b コンデンサ
24a、24b 抵抗素子
30 コンピュータ
31 表示装置
32 入力装置
33 記憶装置
34 不良位置の表示ボタン
35 不良方向の表示ボタン
41~43 EBAC像
44、45 ヒストグラム
46 暗部
47 明部
48 不良箇所の方向
49 SEM像
50、51 合成像(重ね合わせ像)
61 試料室
62 イオンビームカラム
63 イオン源
64 電子ビームカラム
65 電子源
66 ステージ
67 検出器
68 着脱器
100 検査システム
200 試料検査装置
300 薄片試料作製装置
BL ベースライン
C1 第1コントローラ
C2 第2コントローラ
CP クロスポイント
EB1、EB2 電子ビーム
IB イオンビーム