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  • 特許-ブラインドの制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】ブラインドの制御方法
(51)【国際特許分類】
   E06B 9/264 20060101AFI20240815BHJP
   E06B 9/28 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
E06B9/264 C
E06B9/28
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020101150
(22)【出願日】2020-06-10
(65)【公開番号】P2021195751
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-05-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物名:日本建築学会環境系論文集, 巻数:第84巻, 号数:第766号,頁:第1067~1076頁, 発行年月日:令和元年(2019年)12月30日, 発行者:一般社団法人 日本建築学会(東京都港区芝5丁目26番20号)
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】相賀 洋
(72)【発明者】
【氏名】大木 知佳子
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 望
【審査官】櫻井 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-002596(JP,A)
【文献】特開2018-199921(JP,A)
【文献】特開2010-108651(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0168700(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E06B9/24-9/388
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦方向に多段となって並列されているとともに横方向の軸の回りに傾動可能なスラットを有するブラインドの制御方法において、
前記ブラインドの透過率がスラット角とプロファイル角によって表される関数における前記透過率に基づいて、前記スラットの角度を設定するための設定角と前記プロファイル角との関係を表す調整関数を求め、
前記調整関数の前記プロファイル角に現在のプロファイル角を当て嵌めることによって得られた特定の設定角に、前記スラットの角度を調整するブラインドの制御方法。
【請求項2】
前記関数における前記透過率として所望の透過率を取るような前記設定角と前記プロファイル角の関係を前記調整関数として求めることを特徴とする請求項1に記載のブラインドの制御方法。
【請求項3】
前記関数における前記透過率として最小または最大の透過率を取るような前記設定角と前記プロファイル角の関係を前記調整関数として求めることを特徴とする請求項1に記載のブラインドの制御方法。
【請求項4】
前記設定角が、直達光を遮断することができることができる最小限のスラット角となる保護角以上であることを特徴とする請求項1~3のうち何れか1項に記載のブラインドの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラインドのスラットの角度を自動的に制御する制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に記載されているように、従来のブラインド自動制御方法では、ブラインドを通じた屋外の眺望性を最大限確保しながら屋内への直接的な入射日光を抑えるために、ブラインドのスラット角を保護角に調整する。保護角とは、直射日光をスラットによって遮蔽することができる最小限のスラット角をいい、ブラインドのスラット角をその保護角未満に調整すると、直射日光がスラットの間を屋内へ通過してしまう。太陽の位置が変化すると、保護角も変化するため、図7に示すように保護角はプロファイル角φの関数となる。従って、従来のブラインド自動制御方法では、時間の進行に伴ってスラットが少しずつ傾動して、スラット角が変動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-23428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、スラット角が保護角に調整されても、屋外からの光がスラットによって反射して、屋内に入射することがある。そのように屋内に入射した光の割合(透過率)と、屋内に入射せずに屋外に戻った光の割合(反射率)をシミュレーションにより計算したところ、図7に示すようになった。図7に示すように、プロファイル角φが40°を超えると、プロファイル角φの増加に伴い透過率が増加していることが分かる。このように屋内に入射した光は冷房に対する熱負荷と屋内の昇温との要因となることから、スラット角を保護角に調整するだけでは、冷房に対する熱負荷を適切に抑えることができない。
【0005】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、冷房に対する熱負荷を適切に抑えることができるブラインドの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するために、縦方向に多段となって並列されているとともに横方向の軸の回りに傾動可能なスラットを有するブラインドの制御方法において、前記ブラインドの透過率がスラット角とプロファイル角によって表される関数における前記透過率に基づいて、前記スラットの角度を表す設定角と前記プロファイル角との関係を表す調整関数を求め、前記調整関数の前記プロファイル角に現在のプロファイル角を当て嵌めることによって得られた特定の設定角に、前記スラットの角度を調整するブラインドの制御方法が提供される。
【0007】
以上のように調整関数が透過率に基づいて求められたものであり、その調整関数のプロファイル角に現在のプロファイル角を当て嵌めることによって得られた調整角にスラット角を調整するため、冷房に対する熱負荷を適切に抑えることができる。
【0008】
好ましくは、前記関数における前記透過率として所望の透過率を取るような前記設定角と前記プロファイル角の関係を前記調整関数として求める。あるいは、前記関数における前記透過率として最小又は最大の透過率を取るような前記設定角と前記プロファイル角の関係を前記調整関数として求める。
【0010】
好ましくは、前記設定角が、直達光を遮断することができることができる最小限のスラット角となる保護角以上である。
【0011】
以上によれば、調整関数の設定角が保護角以上であるため、スラット角も保護角以上に調整することができる。そのため、直射光が屋内に入射することを抑えられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、冷房に対する熱負荷を適切に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ブラインド装置を正面から見て示すとともに、ブラインド装置の制御部を示した図面である。
図2】ブラインド装置を側面から見て示すとともに、ブラインド装置の制御部を示した図面である。
図3】太陽光線の入射角、太陽の高度及び方位角の説明図である。
図4】太陽光線のプロファイル角の説明図である。
図5】スラット角ごとに、プロファイル角と透過率の関係を示したグラフである。
図6】調整関数を示したグラフである。
図7】プロファイル角と保護角の関係と、プロファイル角と透過率の関係と、プロファイル角と反射率の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているところ、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0015】
図1は、横型ブラインド装置10の正面図である。図2図1の左側面図を示す。
横型ブラインド装置10は、複数枚の帯板状のスラット11、ヘッドボックス21、ラダーコード22、ボトムレール27、昇降コード28、傾動用駆動部31、昇降用駆動部32及び制御部35を備える。
【0016】
ヘッドボックス21は窓枠の上部横桟材1に沿って上部横桟材1に取り付けられている。なお、ヘッドボックス21が水平に設けられていれば、ヘッドボックス21の取付箇所が上部横桟材1以外の部分、例えば屋内の窓枠に近接した天井面に取り付けられていてもよい。
【0017】
ヘッドボックス21内には、ラダーコード22が巻き掛けられた傾動用ドラムが設けられている。ラダーコード22は、傾動用ドラムから繰り出されて、ヘッドボックス21から垂下している。ラダーコード22の下端はウェイトとしてのボトムレール27に連結されている。ラダーコード22は、複数枚のスラット11をヘッドボックス21からボトムレール27にかけて窓面2に沿って縦方向に多段に配列した状態で、且つこれらスラット11を互いに平行にした状態で、これらスラット11を支持する。
【0018】
ラダーコード22は、ヘッドボックス21からボトムレール27まで垂下するとともに窓面2に直交する方向に対の縦コードと、これら縦コード間に架設されるとともに縦コードの長手方向に間隔をおいて配列された多段の支持コードと、を有する。対の縦コードの間において、各スラット11はスラット11の長手方向が水平となるように各支持コードの上に支持されている。スラット11は長方形薄板状に形成されており、短辺方向において湾曲している。
【0019】
傾動用ドラムがモータ等の傾動用駆動部31に連結されている。傾動用ドラムが傾動用駆動部31によって駆動されると、スラット11がその長辺に対して平行な水平軸回りに傾動する。ここで、スラット11の一対の長辺を結ぶ面と水平面との成す角度をスラット角といい、スラット11の凸面が真上を向いた場合のスラット角が0°であり、スラット11の凸面が屋外に向くようにスラット11が傾いている場合のスラット角は正であり、スラット11の凸面が屋内に向くようにスラット11が傾いている場合のスラット角は負である。
【0020】
ヘッドボックス21内には、昇降コード28が巻回された昇降ドラムが設けられている。昇降コード28は、その昇降ドラムから繰り出されて、ヘッドボックス21から垂下している。昇降コード28の下端がボトムレール27に連結されている。昇降ドラムがモータ等の昇降用駆動部32に連結されている。昇降ドラムが昇降用駆動部32によって駆動されると、ボトムレール27が昇降する。昇降コード28が昇降ドラムに巻き取られると、ボトムレール27が上昇し、スラット11が下から順にボトムレール27の上に重なる。一方、昇降コード28が繰り出されると、ボトムレール27が下降して、スラット11の間隔が上から順に広がる。なお、ボトムレール27の昇降は手動式であってもよい。
【0021】
傾動用駆動部31がマイコン等の制御部35に接続されている。制御部35の記憶部36には、スラット角としての設定角α〔°〕とプロファイル角φ〔°〕との関係を表す次式(1)のような調整関数37が記憶されている。制御部35が現在のプロファイル角φを調整関数37のプロファイル角φに当て嵌めて、特定の設定角αを決定する。そして、制御部35がリアルタイムで傾動用駆動部31を制御することによって、スラット11が傾動用駆動部31によって傾動されて、スラット11の角度が特定の設定角αに調整される。ここで、α及びφは変数であり、φ及びαは特定の数値である。
【0022】
【数1】
【0023】
ここで、プロファイル角φとは、図3及び図4に示すように、日射の光線L1を窓面2に垂直な鉛直面に投影した場合における、水平面に対する投影後の光線L2の成す角度をいう。具体的には、以下の式(2)及び式(3)からプロファイル角φが求まる。
【0024】
【数2】
【0025】
図3及び図4において、X軸は水平な窓面法線であり、Y軸は窓面法線に直交する水平線であり、Z軸は鉛直方向に平行である。
【0026】
入射角θ、太陽高度h及び太陽方位角γは、暦、つまり1年間の中での時刻(月日時分秒)と、横型ブラインド装置10の設置箇所の緯度及び経度と、窓面法線の向きと、から求まる。横型ブラインド装置10の設置箇所の緯度及び経度が定数であり、窓面法線の向きとも定数であるため、入射角θ、太陽高度h及び太陽方位角γは、暦、つまり1年間の中での時刻の関数と言える。従って、制御部35は現在の時刻から現在のプロファイル角φを求め、前述のように現在のプロファイル角φから特定の設定角αを決定する。
【0027】
本実施形態では、調整関数37の求め方に特徴があるため、調整関数37の求め方について以下に詳細に説明する。以下の説明において、φ、β及びτは変数を表し、これらに下付けの添字が付されたものは特定の値を表す。
【0028】
発明者は鋭意研究の結果、次式(4)のように、透過率τがスラット角βとプロファイル角φの関数fによって表されることの知見を得た。
【0029】
【数3】
【0030】
ここで、透過率τとは、プロファイル角φの日光がスラット角βのスラット11の間の隙間を屋内へ通過した場合、ヘッドボックス21からボトムレール27までの領域における入射照度〔lx〕に対する通過照度〔lx〕の比をいう。通過照度は、スラット11に入射せずにスラット11の間を直接通過した光による照度のみならず、スラット11に入射して反射した光による照度も含むものである。
【0031】
式(4)をグラフで表すと、図5のようになる。図5は、スラット角βが-75°、-60°、-45°、-30°、-15°、0°、15°、30°、45°、60°又は75°である場合に、プロファイル角φと透過率τの関係を表したグラフである。
【0032】
そして、式(4)を利用して、式(4)の透過率τを考慮して調整関数37を求める。以下、調整関数37の求め方の一例について説明する。
【0033】
式(4)のスラット角βに微小角度置きの値β,β,β…を当て嵌めることによって、スラット角β,β,β…ごとにプロファイル角φと透過率τの関数(図5に示す各曲線が表す関数)を求める。そして、各関数のプロファイル角φに同じ値φを当て嵌めることによってスラット角β,β,β…ごとの透過率τ,τ,τ…を求めて、それら透過率τ,τ,τ…の中で最小の透過率τmin(最大の透過率τmaxでもよい。)を取るスラット角βa_1(スラット角βa_1はスラット角β,β,β…の何れかである。)にプロファイル角φを対応付ける。各関数のプロファイル角φに当て嵌める値をφ,φ…と小刻みに変化させることによって、同様に、最小の透過率を取るスラット角βa_m(mは正数である)とプロファイル角φ(mは正数である)の対応付けのデータ列を生成するところ、スラット角βa_mのデータ列βa_1,βa_2,βa_3…が調整関数37の設定角αに相当し、プロファイル角φのデータ列φ,φ,φ…が調整関数37のプロファイル角φに相当し、それをグラフにより表すと図6のようになる。予めプログラムを組んで、以上のように調整関数37をコンピュータの演算処理により求める。
【0034】
上記のような調整関数37の求め方は一例であり、式(4)を利用して調整関数37を求めるのであれば、任意の手法を用いてもよい。例えば、眺望性(屋内からブラインドを通じて屋外を見た場合、視野全体の面積に対する屋外の風景の占める面積の割合)はスラット角βの関数であるところ、眺望性が所定値を満たしつつ、式(4)の透過率τを考慮して調整関数37を求めてもよい。但し、設定角αとプロファイル角φは次式(5)を満たす必要がある。
【0035】
【数4】
【0036】
上記式(5)の右辺によって求められる角度は保護角という。保護角とは、直達光を遮断して、直達光がスラット11の間を通過することができないようにすることができる最小限のスラット角をいう。スラット角が保護角未満であると、スラット11の間を直接通過する直達光が存在する。保護角とプロファイル角φとの関係、つまり保護角を式(5)の右辺のようにプロファイル角φで表した関数は図7に示すようになる。図7において、透過率とプロファイル角φの関係と、反射率とプロファイル角φの関係も示す。反射率とは、プロファイル角φとなる日光がスラット角βとなるスラット11によって屋外へ反射した場合、ヘッドボックス21からボトムレール27までの領域における入射照度〔lx〕に対する反射照度〔lx〕の比をいう。透過率とプロファイル角φの関係及び反射率とプロファイル角φの関係は、「Radiance」という光環境シミュレーションソフトウェアを利用して求めたものである。
【0037】
以上のように、調整関数37が透過率に基づいて求められたものであり、その調整関数37のプロファイル角φに現在のプロファイル角φを当て嵌め、それにより得られた特定の設定角αにスラット角を調整するため、冷房に対する熱負荷を適切に抑えることができる。特に、調整関数37が図6に示すようなグラフである場合、特に有効的に熱負荷を抑えることができる。
設定角αとプロファイル角φが式(5)を満たしているため、スラット角を保護角以上に調整することができる。それゆえ、直射光が屋内に入射することを抑えられ、冷房に対する熱負荷を抑えられる。
【符号の説明】
【0038】
11…スラット
37…調整関数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7