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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】ペプチドライブラリーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C40B 40/10 20060101AFI20240815BHJP
   C40B 40/08 20060101ALI20240815BHJP
   C12P 21/00 20060101ALI20240815BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240815BHJP
   C12N 9/10 20060101ALN20240815BHJP
【FI】
C40B40/10 ZNA
C40B40/08
C12P21/00 C
G01N33/50 Z
C12N9/10
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020553313
(86)(22)【出願日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 JP2019040975
(87)【国際公開番号】W WO2020080490
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2018196102
(32)【優先日】2018-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 拓
(72)【発明者】
【氏名】菅 裕明
(72)【発明者】
【氏名】後藤 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】阿部 郁朗
(72)【発明者】
【氏名】岡田 正弘
(72)【発明者】
【氏名】井上 澄香
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/181888(WO,A1)
【文献】特開2015-042159(JP,A)
【文献】特開平11-113579(JP,A)
【文献】特表2018-506302(JP,A)
【文献】特表2005-521385(JP,A)
【文献】Angew. Chem. Int. Ed.,2016年,Vol.55,pp.3596-3599
【文献】Org. Biomol. Chem.,2016年,Vol.14,pp.9639-9644
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C40B 40/00-40/18
C12P 21/00-21/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つのTrp又はその誘導体を含むアミノ酸配列を有するペプチドを含むペプチドライブラリーをプレニル化酵素に接触させ、少なくとも一つのTrp残基又はその誘導体残基をプレニル化する工程、を含み、
前記プレニル化酵素が、以下(1)~(3)のいずれかから選択され、
(1) 配列番号1~で表されるアミノ酸配列のいずれかからなるプレニル化酵素
(2) 配列番号1~で表されるアミノ酸配列のいずれかにおいて、1~15個のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有するアミノ酸配列からなるプレニル化酵素
(3) 配列番号1~で表されるアミノ酸配列のいずれかと90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるプレニル化酵
記Trpの誘導体は、下記式(I)、式(II)、又は式(III)で表される、
【化1】
【化2】
【化3】
(式(I)中、環Aは、ヘテロ原子を含んでいてもよい芳香族六員環であり、R1は、環A上の置換基であり、R2及びR3は、それぞれ独立して水素原子又は置換基であり、mは、0~4のいずれかの整数であり、lは、1又は2の整数であり、R1、R2、及びR3における置換基は、それぞれ独立して、ヒドロキシ基、ハロゲン基、炭素数1~10のアルキル基、アリール基、アラルキル基、及びアラルキルオキシ基から選択され、
式(II)及び(III)中、環A、R1、R2、m、及びlは、式(I)における環A、R1、R2、m、及びlと同義である。)
プレニル化されたペプチドを含むペプチドライブラリーの製造方法。
【請求項2】
少なくとも一つのTrp又はその誘導体を含むアミノ酸配列を有するペプチドを含むペプチドライブラリーをプレニル化酵素に接触させ、少なくとも一つのTrp残基又はその誘導体残基をプレニル化する工程、を含み、
前記プレニル化酵素が、以下(1)~(3)のいずれかから選択され
(1) 配列番号1~で表されるアミノ酸配列のいずれかからなるプレニル化酵素
(2) 配列番号1~で表されるアミノ酸配列のいずれかにおいて、1~15個のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有するアミノ酸配列からなるプレニル化酵素
(3) 配列番号1~で表されるアミノ酸配列のいずれかと90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるプレニル化酵素
前記Trpの誘導体は、下記式(I)、式(II)、又は式(III)で表される、
【化4】
【化5】
【化6】
(式(I)中、環Aは、ヘテロ原子を含んでいてもよい芳香族六員環であり、R 1 は、環A上の置換基であり、R 2 及びR 3 は、それぞれ独立して水素原子又は置換基であり、mは、0~4のいずれかの整数であり、lは、1又は2の整数であり、R 1 、R 2 、及びR 3 における置換基は、それぞれ独立して、ヒドロキシ基、ハロゲン基、炭素数1~10のアルキル基、アリール基、アラルキル基、及びアラルキルオキシ基から選択され、
式(II)及び(III)中、環A、R 1 、R 2 、m、及びlは、式(I)における環A、R 1 、R 2 、m、及びlと同義である。)
プレニル化されたペプチドを含むペプチドライブラリーの製造方法。
【請求項3】
少なくとも一つのTrp又はその誘導体を含むアミノ酸配列を有するペプチドを含むペプチドライブラリーをプレニル化酵素に接触させ、少なくとも一つのTrp残基又はその誘導体残基をプレニル化する工程、を含み、
前記プレニル化酵素が、以下(1)から選択され
(1) 配列番号1~で表されるアミノ酸配列のいずれかからなるプレニル化酵
前記Trpの誘導体は、下記式(I)、式(II)、又は式(III)で表される、
【化7】
【化8】
【化9】
(式(I)中、環Aは、ヘテロ原子を含んでいてもよい芳香族六員環であり、R 1 は、環A上の置換基であり、R 2 及びR 3 は、それぞれ独立して水素原子又は置換基であり、mは、0~4のいずれかの整数であり、lは、1又は2の整数であり、R 1 、R 2 、及びR 3 における置換基は、それぞれ独立して、ヒドロキシ基、ハロゲン基、炭素数1~10のアルキル基、アリール基、アラルキル基、及びアラルキルオキシ基から選択され、
式(II)及び(III)中、環A、R 1 、R 2 、m、及びlは、式(I)における環A、R 1 、R 2 、m、及びlと同義である。)
プレニル化されたペプチドを含むペプチドライブラリーの製造方法。
【請求項4】
前記ペプチドライブラリーが、環状ペプチドを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のペプチドライブラリーの製造方法。
【請求項5】
前記環状ペプチドが、2つのアミノ酸残基が、ジスルフィド結合、ペプチド結合、アルキル結合、アルケニル結合、エステル結合、チオエステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、ホスホネートエーテル結合、アゾ結合、C-S-C結合、C-N-C結合、C=N-C結合、アミド結合、ラクタム架橋、カルバモイル結合、尿素結合、チオ尿素結合、アミン結合、チオアミド結合、又はトリアゾール結合によって結合することで形成される環状構造を含む、請求項4に記載のペプチドライブラリーの製造方法。
【請求項6】
前記プレニル化する工程の前に、mRNAライブラリーを、無細胞翻訳系によって翻訳し、少なくとも一つのTrp又はその誘導体を含むアミノ酸配列を有するペプチドを含むペプチドライブラリーを調製する工程を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のペプチドライブラリーの製造方法。
【請求項7】
表現型(phenotype)としてのペプチドと、前記ペプチドをコードする遺伝子型(genotype)との複合体を含む、ペプチド-遺伝子型ライブラリーを準備する工程、及び、
前記ペプチド-遺伝子型ライブラリーをプレニル化酵素に接触させ、少なくとも一つのTrp又はその誘導体をプレニル化する工程、を含み、
前記プレニル化酵素が、以下(1)~(3)のいずれかから選択され、
(1) 配列番号1~で表されるアミノ酸配列のいずれかからなるプレニル化酵素
(2) 配列番号1~で表されるアミノ酸配列のいずれかにおいて、1~15個のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有するアミノ酸配列からなるプレニル化酵素
(3) 配列番号1~で表されるアミノ酸配列のいずれかと90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるプレニル化酵
記Trpの誘導体は、下記式(I)、式(II)、又は式(III)で表される、
【化10】
【化11】
【化12】
(式(I)中、環Aは、ヘテロ原子を含んでいてもよい芳香族六員環であり、R1は、環A上の置換基であり、R2及びR3は、それぞれ独立して水素原子又は置換基であり、mは、0~4のいずれかの整数であり、lは、1又は2の整数であり、R1、R2、及びR3における置換基は、それぞれ独立して、ヒドロキシ基、ハロゲン基、炭素数1~10のアルキル基、アリール基、アラルキル基、及びアラルキルオキシ基から選択され、
式(II)及び(III)中、環A、R1、R2、m、及びlは、式(I)における環A、R1、R2、m、及びlと同義である。)
ペプチド-遺伝子型複合体ライブラリーの製造方法。
【請求項8】
前記ペプチド-遺伝子型ライブラリーを準備する工程が、mRNAディスプレイ法によるペプチド-mRNAライブラリーを調製する工程を含み、
前記ペプチド-mRNAライブラリーを調製する工程が、
mRNAライブラリーの各mRNAの3'末端にピューロマイシンを結合させ、ピューロマイシン結合mRNAライブラリーを製造する工程、及び、
ピューロマイシン結合mRNAライブラリーを、無細胞翻訳系によって翻訳し、少なくとも一つのTrp又はその誘導体を含むアミノ酸配列を有するペプチドを含むペプチド-mRNAライブラリーを調製する工程、を含む、
請求項7に記載のペプチド-遺伝子型複合体ライブラリーの製造方法。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法により作製されたペプチドライブラリー及び/又は請求項7又は8に記載の製造方法により作製されたペプチド-遺伝子型複合体ライブラリーを標的物質に接触させる工程、及び
標的物質に結合するペプチドを選択する工程、を含む、
標的物質に結合するペプチドを同定するスクリーニング方法。
【請求項10】
少なくとも一つのTrp又はその誘導体を含むアミノ酸配列を有する環状ペプチドをプレニル化酵素に接触させ、少なくとも一つのTrp残基又はその誘導体残基をプレニル化する工程、を含み、
前記プレニル化酵素が、以下(1)~(3)のいずれかから選択され、
(1) 配列番号1~で表されるアミノ酸配列のいずれかからなるプレニル化酵素
(2) 配列番号1~で表されるアミノ酸配列のいずれかにおいて、1~15個のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有するアミノ酸配列からなるプレニル化酵素
(3) 配列番号1~で表されるアミノ酸配列のいずれかと90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるプレニル化酵
記Trpの誘導体は、下記式(I)、式(II)、又は式(III)で表され、
【化13】
【化14】
【化15】
(式(I)中、環Aは、ヘテロ原子を含んでいてもよい芳香族六員環であり、R1は、環A上の置換基であり、R2及びR3は、それぞれ独立して水素原子又は置換基であり、mは、0~4のいずれかの整数であり、lは、1又は2の整数であり、
式(II)及び(III)中、環A、R1、R2、m、及びlは、式(I)における環A、R1、R2、m、及びlと同義である。)
前記環状ペプチドが、2つのアミノ酸残基が、ジスルフィド結合、アルキル結合、アルケニル結合、エステル結合、チオエステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、ホスホネートエーテル結合、アゾ結合、C-S-C結合、C-N-C結合、C=N-C結合、ラクタム架橋、カルバモイル結合、尿素結合、チオ尿素結合、アミン結合、チオアミド結合、又はトリアゾール結合によって結合することで形成される環状構造を含む、
プレニル化された環状ペプチドの製造方法。
【請求項11】
少なくとも一つのTrp又はその誘導体を含むアミノ酸配列を有する環状ペプチドをプレニル化酵素に接触させ、少なくとも一つのTrp残基又はその誘導体残基をプレニル化する工程、を含み、
前記プレニル化酵素が、以下(1)~(3)のいずれかから選択され、
(1) 配列番号1~3で表されるアミノ酸配列のいずれかからなるプレニル化酵素
(2) 配列番号1~3で表されるアミノ酸配列のいずれかにおいて、1~15個のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有するアミノ酸配列からなるプレニル化酵素
(3) 配列番号1~3で表されるアミノ酸配列のいずれかと90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるプレニル化酵素
前記Trpの誘導体は、下記式(I)、式(II)、又は式(III)で表され、
【化16】
【化17】
【化18】
(式(I)中、環Aは、ヘテロ原子を含んでいてもよい芳香族六員環であり、R 1 は、環A上の置換基であり、R 2 及びR 3 は、それぞれ独立して水素原子又は置換基であり、mは、0~4のいずれかの整数であり、lは、1又は2の整数であり、
式(II)及び(III)中、環A、R 1 、R 2 、m、及びlは、式(I)における環A、R 1 、R 2 、m、及びlと同義である。)
前記環状ペプチドが、2つのアミノ酸残基がN-CO-CH 2 -S結合によって結合することで形成される環状構造を含む、
プレニル化された環状ペプチドの製造方法。
【請求項12】
前記プレニル化する工程の前に、少なくとも一つのTrp又はその誘導体を含むアミノ酸配列を有する環状ペプチドを化学合成により合成する工程、を含む、
請求項10又は11に記載の、プレニル化された環状ペプチドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチドライブラリーの製造方法及びペプチド-mRNA複合体ライブラリーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々なペプチド医薬の研究開発が進められている。ペプチド医薬の最大の利点は、標的分子への高親和性及び高特異性と、低分子化合物では難しいタンパク質-タンパク質相互作用の阻害が可能なことである。ペプチド医薬は、その化学的、生物的多様性から、低分子化合物よりも標的分子との相互作用の特異性が高いものが得られることが多く、その結果、より大きな生理活性が得られる。
【0003】
一方、ペプチド医薬は、他のほとんどのバイオ医薬品と同様に、細胞膜を透過できないため細胞内に到達できず、また抗体等の大きなタンパク質に比較してプロテアーゼ耐性に劣るので短時間で分解され、効果を得にくいという問題がある。近年、このようなペプチド医薬の問題は、ペプチドに様々な修飾を加えることによって改善することが検討されている。
【0004】
本発明者らは、タンパク質の翻訳系として、RAndom Peptide Integrated Discovery (RAPID)システムを開発している。RAPIDシステムは、特殊環状ペプチドの合成に特化した人工翻訳合成系と、翻訳系の特性を活かしたスクリーニング系や分子進化工学的手法とを組み合わせることで、多様性の高い特殊環状ペプチドライブラリーの構築と、そのライブラリーからの活性ペプチドの同定を可能にする実験系である。
RAPIDシステムにおいては、人工アミノアシル化RNA触媒「フレキシザイム(flexizyme)」(例えば、非特許文献1)を用いて、任意のtRNAに任意のアミノ酸を連結させることができるため、所望のアミノ酸を、所望のアンチコドンを有するtRNAに結合させることができる。そこで、所望のアミノ酸を天然の遺伝暗号とは異なる任意のコドンと対応させて、遺伝暗号表を書き換えるコドン再割当を行うことで、非タンパク質性アミノ酸を含む任意のアミノ酸をペプチドの任意の位置に導入したペプチドライブラリーや大環状構造を有するペプチドライブラリーを創出可能である。
構築される多様性の高い特殊環状ペプチドライブラリーには、プロテアーゼ耐性や細胞透過性、標的分子への親和性や特異性を増大させたペプチドが含まれることとなる。
また、in vitro selectionにより、得られたライブラリーから任意の標的タンパク質に結合する活性種となるペプチドを迅速に、また、信頼性高く同定できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】H. Murakami, H. Saito, and H. Suga, (2003), Chemistry &Biology, Vol. 10, 655-662.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、RAPIDシステムを用いてペプチドライブラリーを作製し、迅速に任意の標的タンパク質に結合するペプチドを同定できるとはいえ、依然として、同定されてくるペプチドにおいて、細胞膜の透過性が十分なペプチドが得られていないのが実情である。
よって、細胞内に存在する標的に活性を持つペプチドを創出するためにも、細胞膜の透過性に優れたペプチドを含むペプチドライブラリーの製造方法が特に求められている。
【0007】
本発明は、ペプチドライブラリーの新規な製造方法を提供することを課題とする。特に、細胞膜の透過が期待される、疎水性の高い局所構造を有するペプチドを含むペプチドライブラリーを製造することのできる、ペプチドライブラリーの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討を重ねた結果、ペプチドライブラリーに対して、プレニル化酵素を用いてライブラリーを構成するペプチドに含まれる所定のアミノ酸を修飾することにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
少なくとも一つのTrp又はその誘導体を含むアミノ酸配列を有するペプチドを含むペプチドライブラリーをプレニル化酵素に接触させ、少なくとも一つのTrp残基又はその誘導体残基をプレニル化する工程、を含む、プレニル化されたペプチドを含むペプチドライブラリーの製造方法。
[2]
前記プレニル化酵素が、酵素1~酵素21及びこれらのホモログからなる群より選択される少なくとも1種以上である、[1]に記載のペプチドライブラリーの製造方法。
[3]
前記プレニル化酵素が、以下(1)~(3)のいずれかのアミノ酸配列からなる、[1]に記載のペプチドライブラリーの製造方法。
(1) 配列番号1~56で表されるアミノ酸配列のいずれか
(2) 配列番号1~56で表されるアミノ酸配列のいずれかにおいて、1又は複数のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有するアミノ酸配列
(3) 配列番号1~56で表されるアミノ酸配列のいずれかと80%以上の相同性を有するアミノ酸配列
[4]
前記ペプチドライブラリーが、環状ペプチドを含む、[1]~[3]のいずれかに記載のペプチドライブラリーの製造方法。
[5]
前記環状ペプチドが、2つのアミノ酸残基が、ジスルフィド結合、ペプチド結合、アルキル結合、アルケニル結合、エステル結合、チオエステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、ホスホネートエーテル結合、アゾ結合、C-S-C結合、C-N-C結合、C=N-C結合、アミド結合、ラクタム架橋、カルバモイル結合、尿素結合、チオ尿素結合、アミン結合、チオアミド結合、又はトリアゾール結合によって結合することで形成される環状構造を含む、[4]に記載のペプチドライブラリーの製造方法。
[6]
前記プレニル化する工程の前に、mRNAライブラリーを、無細胞翻訳系によって翻訳し、少なくとも一つのTrp又はその誘導体を含むアミノ酸配列を有するペプチドを含むペプチドライブラリーを調製する工程を含む、[1]~[5]のいずれかに記載のペプチドライブラリーの製造方法。
[7]
遺伝子型(genotype)とペプチドとの複合体を含む、ペプチド-遺伝子型ライブラリーを準備する工程、及び、
前記ペプチド-遺伝子型ライブラリーをプレニル化酵素に接触させ、少なくとも一つのTrp又はその誘導体をプレニル化する工程、を含む、
ペプチド-遺伝子型複合体ライブラリーの製造方法。
[8]
前記ペプチド-遺伝子型ライブラリーを準備する工程が、mRNAディスプレイ法によるペプチド-mRNAライブラリーを調製する工程を含み、
前記ペプチド-mRNAライブラリーを調製する工程が、
mRNAライブラリーの各mRNAの3'末端にピューロマイシンを結合させ、ピューロマイシン結合mRNAライブラリーを製造する工程、及び、
ピューロマイシン結合mRNAライブラリーを、無細胞翻訳系によって翻訳し、少なくとも一つのTrp又はその誘導体を含むアミノ酸配列を有するペプチドを含むペプチド-mRNAライブラリーを調製する工程、を含む、
[7]に記載のペプチド-遺伝子型複合体ライブラリーの製造方法。
[9]
[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法により作製されたペプチドライブラリー及び/又は[7]又は[8]に記載の製造方法により作製されたペプチド-遺伝子型複合体ライブラリーを標的物質に接触させる工程、及び
標的物質に結合するペプチドを選択する工程、を含む、
標的物質に結合するペプチドを同定するスクリーニング方法。
[10]
少なくとも一つのTrp又はその誘導体を含むアミノ酸配列を有するペプチドをプレニル化酵素に接触させ、少なくとも一つのTrp残基又はその誘導体残基をプレニル化する工程、を含む、プレニル化されたペプチドの製造方法。
[11]
前記プレニル化する工程の前に、少なくとも一つのTrp又はその誘導体を含むアミノ酸配列を有するペプチドを化学合成により合成する工程、を含む、
[10]に記載の、プレニル化されたペプチドの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ペプチドライブラリーの新規な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ペプチドYG326におけるWの上流に位置するアミノ酸残基を変更し、プレニル化した反応産物の質量分析スペクトルにおいて、未修飾ペプチドのピークと修飾ペプチドのピークの強度をそれぞれ定量することで、質量分析スペクトル上での見かけの修飾効率を計算した結果のヒストグラムである。
図2】ペプチドYG326におけるWの下流に位置するアミノ酸残基を変更し、プレニル化した反応産物の質量分析スペクトルにおいて、未修飾ペプチドのピークと修飾ペプチドのピークの強度をそれぞれ定量することで、質量分析スペクトル上での見かけの修飾効率を計算した結果のヒストグラムである。
図3】10種類の3アミノ酸残基からなるモチーフを含むペプチドについて、プレニル化の反応を行い、質量分析スペクトル上での見かけの修飾効率を計算した結果のヒストグラムである。
図4】VWXのX部分を6種類のアミノ酸に変化させた(G, W, S, F, N, K)変異体について、プレニル化の反応を行い、質量分析スペクトル上での見かけの修飾効率を計算した結果のヒストグラムである。
図5】PCRによって所望のDNAライブラリーが生成物として得られたことを示す図である。
図6】PCR産物からmRNAライブラリーの調製に成功したことを示す、電気泳動のゲルの図である。
図7】Hisタグを有するKgpFをNTAビーズに固定化できることを確認したSDS-PAGEを示す図である。
図8】プレニル化環状ペプチドのセレクションスキームを示す図である。
図9】MetAP1を標的としたセレクションにおけるcDNAの回収率のグラフである。
図10】MetAP1を標的としたセレクションにより得られた配列を示す図である。
図11】MetAP1を標的としスクリーニングの結果同定したプレニル化環状ペプチドのプルダウンアッセイの結果を示す図である。
図12】Fmoc固相合成法により化学合成した環状ペプチドに対しKgpFを作用させる前と後のMALDI-TOF-MSスペクトルを示す図である。
図13】Met2, Met3a-L, Met3-1のMetAP1酵素活性阻害試験の結果を示す図である。
図14】環状ペプチドKgp1-1に対する、EDTA及びMg2+存在下又は非存在下における、KgpFによるプレニル化反応の進行の結果を示す図である。
図15】環状ペプチドMet3-1に対する、EDTA及びMg2+存在下又は非存在下における、KgpFによるプレニル化反応の進行の結果を示す図である。
図16】環状ペプチドMet14に対する、EDTA及びMg2+存在下又は非存在下における、OltFによるプレニル化反応の進行の結果を示す図である。
図17】D体アミノ酸を含む人工環状ペプチドを含む翻訳混合物について、KgpFを作用させる前と後のMALDI-TOF-MSスペクトルを示す図である。
図18】非タンパク質性のTrp誘導体を含む環状ペプチドにおいて、OltFまたはKgpFを用いて当該Trp誘導体のプレニル化を行った後のMALDI-TOF-MSスペクトルを示す図である。
図19】N末端位置及び配列内部の2箇所にTrpを含む環状ペプチドに対し、OltFを作用させる前と後のMALDI-TOF-MSスペクトルを示す図である。
図20】N末端位置にTrpを含む環状ペプチドに対し、OltFを作用させる前と後のMALDI-TOF-MSスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(ペプチドライブラリーの製造方法)
本発明のペプチドライブラリーの製造方法は、少なくとも一つのTrp又はその誘導体を含むアミノ酸配列を有するペプチドを含むペプチドライブラリーをプレニル化酵素に接触させ、少なくとも一つのTrp残基又はその誘導体残基をプレニル化する工程を含む。
本発明におけるペプチドライブラリーは、少なくとも2つのペプチドを含む。本発明におけるペプチドライブラリーに含まれるペプチドの少なくとも一つは、少なくとも一つのTrp又はその誘導体を含むアミノ酸配列を有する。
本発明においては、プレニル化酵素を用いて、Trp又はその誘導体の一部をプレニル化することにより、疎水性の高いペプチドを含むペプチドライブラリーを製造することができる。また、本発明のペプチドライブラリーの製造方法によれば、プレニル化酵素の基質許容性が高いため、効率よくペプチドライブラリーに含まれるペプチドの疎水性を高めることができる。以上のとおり、本発明の製造方法によって、効率よくペプチドに疎水性基を導入でき、細胞膜の透過が期待されるペプチドを含むペプチドライブラリーを得ることができる。
【0013】
(ペプチドライブラリーを調製する工程)
本発明の製造方法に用いられるペプチドライブラリーは、製造して取得してもよく、ペプチドライブラリーを購入して入手してもよい。ペプチドライブラリーを製造して取得する場合、その製造方法としては、固相又は液相の化学合成によってペプチドライブラリーを製造する方法、及び、mRNAライブラリーを、無細胞翻訳系によって翻訳し、少なくとも一つのTrp又はその誘導体を含むアミノ酸配列を有するペプチドを含むペプチドライブラリーを調製する方法を好適に挙げることができる。
すなわち、本発明の製造方法の好ましい態様の一つは、mRNAライブラリーを、無細胞翻訳系によって翻訳し、少なくとも一つのTrp又はその誘導体を含むアミノ酸配列を有するペプチドを含むペプチドライブラリーを調製する工程、及び、前記ペプチドライブラリーをプレニル化酵素に接触させ、少なくとも一つのTrp残基又はその誘導体残基をプレニル化する工程を含む。
【0014】
mRNAライブラリーは、コドンとして、複数のN1N2N3を有するmRNAを含む。
本明細書において、「N1N2N3」は、任意のアミノ酸を指定するコドンを意味し、例えばN1、N2及びN3は、それぞれ独立に、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)及びウラシル(U)から選択される。1つのmRNAには、N1N2N3が複数含まれているが、それぞれのN1、N2及びN3はそれぞれ独立に選択される。したがって、例えば、mRNAに、-N1N2N3-N1N2N3-が含まれる場合、それぞれ2つのN1、N2及びN3は、互いに同一であっても異なってもよい。
【0015】
本発明においては、N1N2N3には、任意のアミノ酸が再割当される。再割当においては、天然の遺伝暗号表におけるコドンとアミノ酸の関係とは異なるものを割り当てることもでき、同一の関係を割り当てることもできる。
本明細書において、「天然の遺伝暗号表」とは、生体においてmRNAのトリプレットからなる遺伝暗号が表すアミノ酸を示した表をいう。天然の遺伝暗号表においてN1N2N3は、以下のアミノ酸を示す。
【0016】
【表1】
【0017】
mRNAライブラリーは、複数のN1N2N3として、例えば、複数のN1N2K、複数のN1N2S、複数のN1N2M、複数のN1N2W、複数のN1N2A、複数のN1N2U、複数のN1N2C、複数のN1N2Gのいずれかを含むmRNAを含むものであってもよい。本明細書において、N1及びN2は前記と同義であり、Kはそれぞれ独立にウラシル(U)、グアニン(G)のいずれかであり、Sはそれぞれ独立にシトシン(C)、グアニン(G)のいずれかであり、Mはそれぞれ独立にアデニン(A)、シトシン(C)のいずれかであり、Wはそれぞれ独立にアデニン(A)、ウラシル(U)のいずれかである。
以下、便宜的に、mRNAライブラリーが複数のN1N2Kを含むmRNAを含む場合、すなわちmRNAライブラリーがN1N2N3としてN1N2Kをコドンとして複数含むmRNAを含む場合を例に挙げて本発明を説明するが、その他のmRNAライブラリーを用いた場合でも、翻訳されたペプチドライブラリーに含まれるペプチドがプレニル化する限りは同様に実施可能である。天然の遺伝暗号表においてN1N2Kは、上記表の右欄がG又はUである場合の20種のアミノ酸を示す。
【0018】
また、本明細書においては、例えば、天然の遺伝暗号表のとおりにUUGにはLeuを割り当ててもよいし、コドンを再割当することによりLeu以外のアミノ酸を割り当ててもよい。「N1N2K」コドンには、あらゆるアミノ酸を割り当てることができる。「コドンにアミノ酸を割り当てる」とは、あるコドンがそのアミノ酸をコードするように遺伝暗号表を書き換えることを意味する。本明細書においては、「コドンにアミノ酸を割り当てる」と「コドンを再割当する」とは同義で用いられる。
各コドンに対する、天然の遺伝暗号表とは異なるアミノ酸の割り当ては、例えば、人工アミノアシル化RNA触媒フレキシザイム(Flexizyme)を利用したコドン再割当によって実現される。フレキシザイムによれば、任意のアンチコドンを有するtRNAに所望のアミノ酸を結合させることができるため、任意のコドンに任意のアミノ酸を割り当てることが可能となる。フレキシザイムについては後述する。本明細書においては、tRNAにアミノ酸を結合させることを、アミノ酸をtRNAにチャージする、tRNAをアミノアシル化する、又は、アミノ酸でtRNAをアシル化する、という場合もある。
【0019】
本発明においては、「N1N2K」に、非タンパク質性アミノ酸を割り当ててもよい。例えば、非タンパク質性アミノ酸として、環状構造を含むアミノ酸や、N-アルキルアミノ酸を用いれば、タンパク質分解への耐性、細胞膜透過性、及びコンフォメーションの剛性が増大したペプチドライブラリーを得ることができる。かかるペプチドライブラリーは、細胞内の疾患関連分子を標的とするものや、プロテアーゼ活性を有する分子を標的とするペプチドのスクリーニングに有用である。mRNAに「N1N2K」が2以上含まれる場合、すべてを非タンパク質性アミノ酸に割り当ててもよいし、一部を非タンパク質性アミノ酸に割り当ててもよい。
【0020】
本明細書において、「アミノ酸」は、その最も広い意味で用いられ、天然アミノ酸に加え、人工のアミノ酸変異体や誘導体を含む。アミノ酸は慣用的な一文字表記又は三文字表記で示される場合もある。本明細書においてアミノ酸又はその誘導体としては、天然タンパク質性L-アミノ酸;非天然アミノ酸;アミノ酸の特徴である当業界で公知の特性を有する化学的に合成された化合物等が挙げられる。非天然アミノ酸の例として、主鎖の構造が天然型と異なる、α,α-二置換アミノ酸(α-メチルアラニン等)、N-アルキル-α-アミノ酸、D-アミノ酸、β-アミノ酸、α-ヒドロキシ酸や、側鎖の構造が天然型と異なるアミノ酸(ノルロイシン、ホモヒスチジン等)、側鎖に余分のメチレンを有するアミノ酸(「ホモ」アミノ酸、ホモフェニルアラニン、ホモヒスチジン等)及び側鎖中のカルボン酸官能基アミノ酸がスルホン酸基で置換されるアミノ酸(システイン酸等)が挙げられるがこれらに限定されない。
また、本明細書において「アミノ酸」は、タンパク質性アミノ酸(proteinogenic amino acids)と、非タンパク質性アミノ酸(non-proteinogenic amino acids)を含む。本明細書において「タンパク質性アミノ酸」は、タンパク質を構成するアミノ酸(Arg、His、Lys、Asp、Glu、Ser、Thr、Asn、Gln、Cys、Gly、Pro、Ala、Ile、Leu、Met、Phe、Trp、Tyr、及びVal)を意味する。
本明細書において「非タンパク質性アミノ酸」は、タンパク質性アミノ酸以外の天然又は非天然のアミノ酸を意味する。
【0021】
Trpの誘導体は、例えば、以下の式(I)、式(II)、式(III)で表される。なお、本明細書における化学構造式には、互変異性体、幾何異性体、光学異性体等が包含される。特に、式(I)、式(II)、及び式(III)における不斉炭素は、R配置であってもよく、S配置であってもよく、また、これらの混合物であってもよい。
【0022】
【化1】
【0023】
式(I)中、環Aは、ヘテロ原子を含んでいてもよい芳香族六員環であり、R1は、環A上の任意の置換基であり、R2及びR3は、それぞれ独立して水素原子又は任意の置換基であり、mは、0~4のいずれかの整数であり、lは、1又は2の整数である。
環Aとしては、例えば、ベンゼン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環等が挙げられる。
置換基R1、R2及びR3としては、特に制限されないが、例えば、ヒドロキシ基;フッ素基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等のハロゲン基;メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1~10のアルキル基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基等のアラルキル基;ベンジルオキシキ基等のアラルキルオキシ基;等が挙げられる。
【0024】
【化2】
【0025】
式(II)中、環A、R1、R2、m、及びlは、式(I)における環A、R1、R2、m、及びlと同義である。式(II)における環Aは好ましくはベンゼン環である。
【0026】
【化3】
【0027】
式(III)中、環A、R1、R2、m、及びlは、式(I)における環A、R1、R2、m、及びlと同義である。式(III)における環Aは好ましくはベンゼン環である。
【0028】
式(I)で表されるTrp誘導体としては、例えば、以下の誘導体が挙げられる。
【0029】
【化4】
【0030】
これら誘導体中、R1、R2、R3、及びmは、式(I)におけるR1、R2、R3、及びmと同義である。
【0031】
Trpの誘導体としては、具体的には、D-トリプトファン、5-メチルトリプトファン、5-ヒドロキシトリプトファン、7-アザトリプトファン、5-ベンジルオキシトリプトファン等が挙げられる。
【0032】
Trp残基は、プレニル化されることにより、下記式(T1)のように主鎖窒素がアルキル化された構造を形成するため、水素結合のドナーが減少し、そのTrp残基を含むペプチドの疎水性及び膜透過性が向上する傾向にあると推察される(Beilstein J Org Chem. 2017 Feb 22;13:338-346.参照)。
【0033】
【化5】
【0034】
ここで、プレニル基とは、炭素数5のイソプレン単位で構成される構造単位であり、式(T1)を例にすると、以下の構造部分である。
【0035】
【化6】
(上記構造中、nは、0~11のいずれかの整数である。)
【0036】
式(T1)における立体配置は特に制限されないが、例えば、下記式(T1-1)及び式(T1-2)で表される立体配置を有する。式(T1)における立体配置は、下記式(T1-1)で表される立体配置を有することが好ましい。
【0037】
【化7】
【0038】
また、Trpの誘導体残基をプレニル化した場合、以下の式(I-1)、(II-1)、及び(III-1)で表すことができる。
【0039】
【化8】
(式(I-1)、(II-1)、及び(III-1)中、環A、R1、R2、R3、m、及びlは、式(I)における環A、R1、R2、R3、m、及びlと同義である。)
【0040】
本発明のペプチドライブラリーの製造方法では、「N1N2N3」でコードされるアミノ酸を含むペプチドを複数含むペプチドライブラリーを製造することができる。各ペプチドに含まれる「N1N2N3」でコードされるアミノ酸の数は、特に限定されず、例えば、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、15個、20個、30個等とすることができる。各ペプチドにおける「N1N2N3」でコードされるアミノ酸の位置は特に限定されない。また、各ペプチドに「N1N2N3」でコードされるアミノ酸は、それらのアミノ酸は隣接していてもよく、離れていてもよい。
【0041】
本発明のペプチドライブラリーの製造方法では、ペプチドライブラリーの各ペプチドをコードするmRNAを含み、各mRNAが少なくとも1つのN1N2N3を含むmRNAライブラリーを調製する。
ペプチドライブラリーの各ペプチドをコードするmRNAの配列は、ペプチドライブラリーを構成するペプチドのアミノ酸配列に応じて決定することができ、かかるmRNAライブラリーは、これをコードするDNAライブラリーを合成し、これを転写することによって調製することができる。
【0042】
例えば、下記の表2ように、天然の遺伝暗号表を利用しつつ、N1N2N3がNNG、NNK、NNS、NNM、NNW、NNA、NNU、NNCであるmRNAを含むmRNAライブラリーを設計することができる。
【0043】
【表2】
【0044】
表2中、Nはそれぞれ独立に、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)及びウラシル(U)から選択される。
Kはそれぞれ独立にウラシル(U)、グアニン(G)のいずれかである。
Sはそれぞれ独立にシトシン(C)、グアニン(G)のいずれかである。
Mはそれぞれ独立にアデニン(A)、シトシン(C)のいずれかである。
Wはそれぞれ独立にアデニン(A)、ウラシル(U)のいずれかである。
nは、1以上の任意の整数であり、好ましくは1~100のいずれかの整数であり、より好ましくは3~50のいずれかの整数であり、さらに好ましくは3~20のいずれかの整数であり、よりさらに好ましくは6~15のいずれかの整数である。
【0045】
ここで、天然の遺伝暗号表を利用した場合、Trpをコードするトリプレットは、N1N2N3の64種のうちUGGの1種のみである。つまり、理論上、1のN1N2N3のトリプレットがTrpをコードする確率は64分の1である。一方、例えば、1のNNKのトリプレットがTrpをコードする確率は32分の1である。天然の遺伝暗号表を利用しつつ、例えばトリプレットの繰り返し数が12であり、N1N2N3がNNKであるmRNAを含むmRNAライブラリーを設計することができる。このようなmRNAライブラリーは、理論的には1.15×1018の多様性を有し、停止コドンを含まず、かつ少なくとも1つのUGGを含むmRNAを22%含む。
また、例えば、1のNNGのトリプレットがTrpをコードする確率は16分の1である。このようなNNGのトリプレットを含み、nが12である、mRNAライブラリーは、理論的には2.8×1014の多様性を有し、停止コドンを含まず、かつ少なくとも1つのUGGを含むmRNAを26%含む。
【0046】
本発明者らは、プレニル化酵素によるTrp残基のプレニル化がTrp残基の前後のアミノ酸残基により修飾効率が影響することを見出した。したがって、プレニル化されるTrp又はその誘導体に隣接し、当該Trp又はその誘導体がプレニル化されることを促進するアミノ酸残基をコードするコドンを含むmRNAを含むmRNAライブラリーを用いれば、Trp又はその誘導体のプレニル化の効率を向上させることができる。
例えば、下記表3-1に示すように、UGG、及び、UGGに隣接し、プレニル化されることを促進するアミノ酸残基をコードするコドン(XXX、YYY)を含むmRNAを用いることにより、ペプチドライブラリーにプレニル基を効率よく導入することができる。
【0047】
【表3-1】
【0048】
表3-1中、XXXは、用いるプレニル化酵素に修飾されやすくなる上流アミノ酸の集合を指定する縮重コドン配列である。
YYYは、用いるプレニル化酵素に修飾されやすくなる下流アミノ酸の集合を指定する縮重コドン配列である。
n及びmは、それぞれ独立して0以上の任意の整数である。n及びmの和は、好ましくは1~100のいずれかの整数であり、より好ましくは3~50のいずれかの整数であり、さらに好ましくは3~20のいずれかの整数であり、よりさらに好ましくは4~13のいずれかの整数である。
N1N2N3は、上述の定義のとおりであり、例えば、NNK、NNS、NNW、NNM、NNA、NNC、NNG、NNUからなる群より選択されるコドンである。複数のN1N2N3はそれぞれ独立のコドンである。
【0049】
プレニル化酵素の修飾効率は、用いるプレニル化酵素の種類に応じて変化し、Trpに隣接する前及び/又は後のアミノ酸残基(すなわち、対応するコドンとしてXXX、YYY)を調整することにより高めることができる。Trpと隣接する前後のアミノ酸残基とからなる効率化できるアミノ酸配列及びXXX、YYYは、無細胞翻訳系を用いて網羅的にペプチドを作製し、所定のプレニル化酵素を用いてin vitroでプレニル化を行う効率性を確認する試験を行うことで、適宜決定することができる。
【0050】
例えば、プレニル化酵素としてKgpFを用いる場合、表3-1のmRNAの中でも表3-2に示すmRNAをライブラリー内に混合することにより、プレニル化Trpを効率よくペプチドに導入することが可能となる。
【0051】
【表3-2】
【0052】
表3-2中、XXX、NNK、n、mは、上記と同義である。
【0053】
また、表3-2に示すmRNAのように、天然の遺伝暗号表を利用しつつ、n及びmを任意とし、UGGを含むmRNAを含むmRNAライブラリーを用いれば、得られるペプチドライブラリーにおけるUGGの出現位置を固定し、ペプチド中のプレニル化されるTrp残基の位置を制御することができる。さらに、例えばプレニル化酵素としてKgpFを用いる場合、UGGの上流のトリプレットXXXをRYU又はCMGに設定すること及び/又はUGGの下流のトリプレットをNNKに設定することで、Trp残基のプレニル化効率をより高めることができる。このようなmRNAライブラリーは、理論的には6.8×1016の多様性を有し、停止コドンを含まず、かつ少なくとも1つのUGGを含むmRNAを73%含む。
表3-2中、XXXがRYU又はCMGを表すとき、Rはそれぞれ独立にG又はAを表し、Yはそれぞれ独立にU又はCを表し、Mはそれぞれ独立にA又はCを表し、Kはそれぞれ独立にG又はUを表す。
【0054】
本発明のペプチドライブラリーの製造方法では、例えば、20種類のN1N2N3のいずれかのコドンに対するアンチコドンを有し、当該コドンに対応するアミノ酸がチャージされた20種類のtRNAを加えた無細胞翻訳系で、前記mRNAライブラリーの各mRNAを翻訳する。
コドン再割当には、翻訳系の構成因子を目的に合わせて自由に取り除き、必要な成分だけを再構成してできる翻訳系を利用できる。例えば、特定のアミノ酸を除去した翻訳系を再構成すると、当該アミノ酸に対応するコドンが、いずれのアミノ酸もコードしない空きコドンになる。そこで、フレキシザイム等を利用して、その空きコドンに相補的なアンチコドンを有するtRNAに任意のアミノ酸を連結し、これを加えて翻訳を行うと、当該任意のアミノ酸がそのコドンでコードされることになり、除去したアミノ酸の代わりに当該任意のアミノ酸が導入されたペプチドが翻訳される。
【0055】
本発明に用いられるtRNAは、大腸菌由来野生型tRNAであってよく、in vitroの転写で調製した人工tRNAであってもよい。
本発明において、翻訳系で用いられる20種類のN1N2N3に対応する20種類のtRNAは、アンチコドンループ部分以外、同じ配列を有していてもよい。このような構成とすることにより、特定のtRNAの反応性が高く又は低くなることがなく、各tRNAが均一な反応性を有するようになり、再現性よく予定したペプチドを発現させることが可能となる。
【0056】
本明細書において「無細胞翻訳系」とは、細胞を含まない翻訳系をいい、無細胞翻訳系としては、例えば、大腸菌抽出液、小麦胚芽抽出液、ウサギ赤血球抽出液、昆虫細胞抽出液等を用いることができる。また、それぞれ精製したリボソームタンパク質、アミノアシルtRNA合成酵素(aaRS)、リボソームRNA、アミノ酸、rRNA、GTP、ATP、翻訳開始因子(IF)伸長因子(EF)、終結因子(RF)、及びリボソーム再生因子(RRF)、ならびに翻訳に必要なその他の因子を再構成することで構築した、再構成型の無細胞翻訳系を用いてもよい。
DNAからの転写を併せて行うためにRNAポリメラーゼを含む系としてもよい。市販されている無細胞翻訳系として、大腸菌由来の系としてはロシュ・ダイアグノスティックス社のRTS-100(登録商標)、再構成型翻訳系としてはPGI社のPURESYSTEM(登録商標)やジーンフロンティア社のPUREfrexやNew England BioLabs社のPURExpress In Vitro Protein Synthesis Kit等、小麦胚芽抽出液を用いた系としてはゾイジーン社やセルフリーサイエンス社のもの等を使用できる。
また、大腸菌のリボソームを用いる系として、例えば次の文献に記載された技術が公知である:H. F. Kung et al., 1977. The Journal of Biological Chemistry Vol. 252, No. 19, 6889-6894; M. C. Gonza et al., 1985, Proceeding of National Academy of Sciences of the United States of America Vol. 82, 1648-1652; M. Y. Pavlov and M. Ehrenberg, 1996, Archives of Biochemistry and Biophysics Vol. 328, No. 1, 9-16; Y. Shimizu et al., 2001, Nature Biotechnology Vol. 19, No. 8, 751-755; H. Ohashi et al., 2007, Biochemical and Biophysical Research Communications Vol. 352, No. 1, 270-276。
無細胞翻訳系によれば、発現産物を精製することなく純度の高い形で得ることができる。
なお、本発明の無細胞翻訳系は、転写に必要な因子を加えて、翻訳のみならず転写に用いてもよい。
【0057】
本発明では、無細胞翻訳系には、N1N2Kコドンに対応する天然のアミノアシルtRNA合成酵素は添加しないことも好ましい。この場合、N1N2Kコドンに対応するtRNAには、例えばフレキシザイム等の人工アミノアシルtRNA合成酵素によって、対応するアミノ酸をチャージすることができる。
【0058】
本発明におけるペプチドライブラリーには、ペプチドが環状化した環状ペプチドを含んでもよい。本明細書において「環状ペプチド」とは、4以上のアミノ酸から構成される環状構造を含むペプチドをいう。「環状構造」とは、直鎖状ペプチドにおいて、2アミノ酸残基以上離れた2つのアミノ酸が直接に、又はリンカー等を介して結合することによって分子内に形成される閉環構造を意味する。「2アミノ酸残基以上離れた」とは、2つのアミノ酸の間に少なくとも2残基のアミノ酸が存在することを意味する。
【0059】
環状構造は、2つのアミノ酸が、ジスルフィド結合、ペプチド結合、アルキル結合、アルケニル結合、エステル結合、チオエステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、ホスホネートエーテル結合、アゾ結合、C-S-C結合、C-N-C結合、C=N-C結合、アミド結合、ラクタム架橋、カルバモイル結合、尿素結合、チオ尿素結合、アミン結合、チオアミド結合、トリアゾール結合等によって結合することで形成されるが、結合の種類はこれらに限定されない。
ペプチドを環状化することにより、ペプチドの構造を安定化させ、標的への親和性を高めることができる場合がある。
【0060】
環状構造を形成するアミノ酸、すなわち環状ペプチドのうち環を形成するアミノ酸の数は、4アミノ酸以上であれば特に限定されないが、例えば4アミノ酸以上、5アミノ酸以上、8アミノ酸以上、15アミノ酸以下、20アミノ酸以下、25アミノ酸以下、30アミノ酸以下等としてもよい。
【0061】
環状化は、ペプチドのN末端とC末端のアミノ酸の結合に限られず、末端のアミノ酸と末端以外のアミノ酸の結合、又は末端以外のアミノ酸同士の結合によるものであってもよい。環状ペプチドにおいて、環形成のために結合するアミノ酸の一方が末端アミノ酸で、他方が非末端アミノ酸である場合、環状ペプチドは、環状構造に直鎖のペプチドが尾のように付いた構造を含む。本明細書においては、このような構造を「投げ縄型」と呼ぶ場合がある。
【0062】
本明細書において「互いに隣接しているアミノ酸」とは、環が形成された後においても隣接しているアミノ酸を意味する。隣接しているアミノ酸とは、ペプチドにおいて1アミノ酸残基以上離れていない、直接アミノ酸残基同士が互いに結合しているアミノ酸同士を意味する。
【0063】
環状化のためには、例えば、N末端にクロロアセチル化したアミノ酸を用い、N末端の下流(C末端側)にCysを配してもよい。これにより、N末端アミノ酸とN末端の下流に配される(C末端側)Cysとのチオエーテル結合により、ペプチドは発現した後、自然に環状化する。クロロアセチル化アミノ酸とCysとの間に形成されるチオエーテル結合は生体内の還元条件下でも分解を受けにくいので、ペプチドの血中半減期を長くして生理活性効果を持続させることが可能である。
クロロアセチル化アミノ酸としては、例えば、N-chloroacetyl-L-alanine、N-chloroacetyl-L-phenylalanine、N-chloroacetyl-L-tyrosine、N-chloroacetyl-L-tryptophan、N-3-chloromethylbenzoyl-L-phenylalanine、N-3-chloromethylbenzoyl-L-tyrosine、N-3-chloromethylbenzoyl-L-tryptophane、N-3-(2-chloroacetamido)benzoyl-L-phenylalanine、N-3-(2-chloroacetamido)benzoyl-L-tyrosine、N-3-(2-chloroacetamido)benzoyl-L-tryptophane、及びこれらに対応するD-アミノ酸誘導体を用いることができる。
また、クロロアセチル化アミノ酸として、例えば、Nγ-(2-chloroacetyl)-α,γ-diaminobutylic acid、又はNγ-(2-chloroacetyl)-α,γ-diaminopropanoic acidを用いれば、ペプチド鎖のどの部位にも導入できるので、任意の箇所のアミノ酸と、同じペプチド内のシステインとの間にチオエーテル結合が生成され、環状構造が形成される。
環状化方法は、例えば、Kawakami, T. et al., Nature Chemical Biology 5, 888-890 (2009);Yamagishi, Y. et al., ChemBioChem 10, 1469-1472(2009);Sako, Y. et al., Journal of American Chemical Society 130, 7932-7934 (2008);Goto, Y. et al., ACS Chemical Biology 3, 120-129 (2008);Kawakami T. et al, Chemistry & Biology 15, 32-42 (2008)に記載された方法に従って行うことができる。
クロロアセチル化アミノ酸とCysは、本発明のペプチドに直接結合していてもよいし、リンカー等を介して結合していてもよい。
【0064】
なお、環状ペプチドは、そのC末端アミノ酸が環状化に用いられていない場合、当該C末端は、カルボキシル基又はカルボキシレート基のみでなく、アミドやエステルになっていてもよい。また、環状ペプチドには、環状ペプチドの塩も含まれる。環状ペプチドの塩としては、生理学的に許容される塩基や酸との塩があり、例えば、無機酸(塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、リン酸等)の付加塩、有機酸(p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p-ブロモフェニルスルホン酸、カルボン酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸、酢酸等)の付加塩、無機塩基(水酸化アンモニウム又はアルカリ若しくはアルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩等)、アミノ酸の付加塩等が挙げられる。
また、本発明の環状ペプチドは、本発明の課題を解決するものである限り、リン酸化、メチル化、アセチル化、アデニリル化、ADPリボシル化、糖鎖付加などの修飾が加えられたものであってもよい。他のペプチドやタンパク質と融合させたものであってもよい。
【0065】
(プレニル化する工程)
本発明のペプチドライブラリーの製造方法は、ペプチドライブラリーをプレニル化酵素に接触させ、少なくとも一部のペプチドに含まれるTrp又はその誘導体の少なくとも一部をプレニル化する工程を含む。本明細書において「プレニル化酵素」とは、ペプチドに含まれるTrp又はその誘導体の少なくとも一部に対して、炭素数5のイソプレン単位で構成されるプレニル基を結合することの可能な酵素を意味する。ここでのプレニル基は、イソプレン単位が複数連続して結合したものも含まれ、そのイソプレン単位数が1、2、3、4、5、6、8、10である場合の順で、ジメチルアリル基、ゲラニル基、ファルネシル基、ゲラニルゲラニル基、ゲラニルファルネシル基、ヘキサプレニル基、オクタプレニル基、デカプレニル基のようにも呼ばれる。
本発明のペプチドライブラリーの製造方法におけるプレニル化する工程においては、プレニル基のドナーの存在下で、ペプチドライブラリーをプレニル化酵素と接触させることが好ましい。プレニル基を供与するドナーとしては、特に限定されないが、例えば、ジメチルアリル二燐酸(DMAPP)、イソプレニル二燐酸(IPP)、ゲラニル二燐酸(GPP)、ファルネシル二燐酸(FPP)、ゲラニルゲラニル二燐酸(GGPP)、及びフィチル二燐酸(PDP)が挙げられる。これらのプレニル基を供与するドナーは、1単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
本発明のペプチドライブラリーの製造方法におけるプレニル化する工程においては、補因子の存在下又は非存在下で行ってもよい。本明細書において補因子とは、酵素の触媒活性を高める物質を指す。補因子としては、特に限定されないが、例えば、マグネシウムイオン、銅イオン、鉄イオン、マンガンイオン、モリブデンイオン、ニッケルイオン、セレンイオン、亜鉛イオン等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも好ましくは、マグネシウムイオンである。
本発明のペプチドライブラリーの製造方法において補因子を用いるか否かは、使用するプレニル化酵素に応じて適宜選択すればよい。また、プレニル化に供するペプチドライブラリーを無細胞翻訳系により調製する場合、当該無細胞翻訳系中に補因子が含まれることがあるため、補因子を別途添加することなくプレニル化を行うことができる。
【0067】
本発明に用いることのできるプレニル化酵素としては、具体的には、後述する表4-1~表4-2に挙げられる、KgpF、OltF、TruF1、TruF2、PatF、LynF、AcyF、OscF、及びPagF或いはTrp残基又はTrp誘導体をプレニル化することの可能なこれらのホモログを挙げることができる。これらのプレニル化酵素は、後述する実施例で検証されたように、プレニル化されるTrp又はその誘導体に隣接するアミノ酸残基の種類によらず、非常に幅広い基質を修飾することが可能である。本明細書において、「アミノ酸誘導体」は、その最も広い意味で用いられ、天然アミノ酸以外のあらゆるアミノ酸を包含し、上述した人工のアミノ酸変異体や誘導体を含む。また、本発明におけるプレニル化酵素は、環状ペプチドに含まれるアミノ酸残基であってもプレニル化することができるため、その点でも非常に幅広い基質を修飾することが可能である。
また、プレニル化酵素は、磁気ビーズ等の固相担体に担持させた状態で使用することもできる。したがって、本発明におけるプレニル化酵素には、固相担体に担持させた酵素の態様も包含される。さらに、本発明におけるプレニル化酵素は、Hisタグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合タンパク質(MBP)等の付加配列を有していてもよい。
【0068】
Trp又はその誘導体をプレニル化することの可能なこれらプレニル化酵素の及びそのホモログとしては、Trp又はその誘導体をプレニル化することができるものであれば特に限定されない。プレニル化酵素としては、公知のプレニル化酵素(BLAST検索の解析の結果得られた酵素)を選択し、例えば、ClustalW, MEGA7ソフトウェアによる解析を用いてシーケンスアラインメントを作成し、系統樹解析の結果、当該公知のプレニル化酵素のアミノ酸配列と相同性が見られたアミノ酸配列を有する酵素を好適に用いることができる。解析の結果相同性が見られたアミノ酸配列を有する酵素には、hypothetical proteinとアノテーションされたタンパク質も含まれる。
上記プレニル化酵素としては、例えば、表4-1及び表4-2に記載の酵素1~酵素21を好適に用いることができる。これらの酵素は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
ここで、上記酵素1~酵素21のプレニル化酵素のホモログは、Trp又はその誘導体をプレニル化するはたらきを有する酵素であれば特に制限されず、上記酵素1~酵素21のアライメントに対する相同性20%以上のアミノ酸配列の酵素であればよい。
また、本明細書におけるプレニル化酵素は、少なくともプレニル化反応にかかるドメインを含んでいれば特に制限されない。酵素1~酵素21のホモログは、それぞれ、プレニル化反応にかかるドメインと他の機能にかかるドメインとを一緒に含む酵素の態様(bi-functionalな酵素ともいう)であってもよく、プレニル化にかかるドメインを別々に含む2つ以上の酵素の態様であってもよい。
表4-1及び表4-2に記載の酵素の中でも、好ましくはグループ1及びグループ2の酵素であり、より好ましくはグループ1の酵素である。
【0069】
【表4-1A】
【0070】
【表4-1B】
【0071】
【表4-2A】
【0072】
【表4-2B】
【0073】
また、上記プレニル化酵素は、具体的に以下のいずれかのアミノ酸配列からなることが好ましい。
(1) 以下の表4-3~表4-8に記載の配列番号1~56で表されるアミノ酸配列のいずれか
(2) 配列番号1~56で表されるアミノ酸配列のいずれかにおいて、1又は複数のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有するアミノ酸配列
(3) 配列番号1~56で表されるアミノ酸配列のいずれかと好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは96%以上、さらにより好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上の相同性を有するアミノ酸配列
【0074】
【表4-3A】
【0075】
【表4-3B】
【0076】
【表4-4A】
【0077】
【表4-4B】
【0078】
【表4-5A】
【0079】
【表4-5B】
【0080】
【表4-6A】
【0081】
【表4-6B】
【0082】
【表4-7A】
【0083】
【表4-7B】
【0084】
【表4-8】
【0085】
本明細書において、「1又は複数のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有する」という場合、欠失、置換等されるアミノ酸の個数は、結果として得られるプレニル化酵素がアミノ酸残基をプレニル化する機能を保持する限り特に限定されない。また、ここでの「複数」は、2以上の整数を意味し、好ましくは、数個例えば2~15個、より好ましくは2~10個、さらに好ましくは2~5個、よりさらに好ましくは2個、3個、4個である。各プレニル化酵素における欠失、置換又は付加の位置は、結果として得られるプレニル化酵素がアミノ酸残基をプレニル化する機能を保持する限り、各プレニル化酵素におけるN末端でも、C末端でも、その中間であってもよい。
【0086】
本明細書において、「配列番号Xで表されるアミノ酸配列とY%以上の相同性を有する」とは、2つのポリペプチドのアミノ酸配列の一致が最大になるように整列(アライメント)させたときに、共通するアミノ酸残基数の、配列番号Xに示す全アミノ酸数に対する割合が、Y%以上であることを意味する。
【0087】
プレニル化酵素は、特に限定されるものではないが、例えばX2X1X3又はX4X2X1X3X5(X1はプレニル化されるアミノ酸残基であるW又はその誘導体であり、X2、X3、X4及びX5はそれぞれ独立に任意のアミノ酸残基を示す。任意のアミノ酸残基には、ClAc-D-Tyrも含まれる。)のモチーフを含むペプチドをプレニル化することが可能である。ここで、X1に隣接する、X2、X3、X4及びX5を含むアミノ酸残基は、本発明のプレニル化酵素を用いれば特に限定されないが、プレニル化の反応効率を向上させる観点から、プレニル化されるアミノ酸残基X1がプレニル化されることを促進するアミノ酸残基であることが好ましい。
【0088】
X1は、W又はその誘導体である。
下記X2~X5、及び下記モチーフは、プレニル化酵素としてKgpFを用いる場合の例示である。KgpF以外のプレニル化酵素を用いる場合、上述したように、無細胞翻訳系を用いて網羅的にペプチドを作製し、所定のプレニル化酵素を用いてin vitroでプレニル化を行う効率性を確認する試験を行うことにより、好適なX2~X5及びモチーフを設定することができる。
【0089】
X2は、V, T, I, A, P, Q, N, S, F, H, W, L若しくはG又はこれらのいずれかの誘導体であることが好ましく、V, T, I, A, P, Q若しくはN又はこれらのいずれかの誘導体であることがより好ましく、V, T, I, A若しくはN又はこれらのいずれかの誘導体であることがさらに好ましい。
【0090】
X3は、G, W, S, A, L, F, T, R, N, Y, I, V, H, Q, K, D若しくはE又はこれらのいずれかの誘導体であることが好ましく、G, W, S, A, L, F, T, R, N,若しくはY又はこれらのいずれかの誘導体であることがより好ましく、G, W若しくはS又はこれらのいずれかの誘導体であることがさらに好ましい。
【0091】
X4は、G, N, Y, I, R, E, F, S, W, H, D, T, P, A, V, L, Q若しくはK又はこれらのいずれかの誘導体であることが好ましい。X5は、G, N, Y, I, R, E, F, S, W, H, D, T, P, A, V, L, Q, K若しくはC又はこれらのいずれかの誘導体であることが好ましい。
【0092】
例えば、プレニル化酵素としてKgpFを用いる場合、プレニル化酵素は、具体的な以下のモチーフを含むペプチドをプレニル化することも可能である。後述のモチーフ中、yはClAc-D-Tyrを意味する。
【0093】
VWG
VWW
VWS
VWI
VWC
VWT
VWR
VWQ
VWN
VWF
VWK
VWD
VWH
【0094】
TWG
TWW
TWS
TWT
TWP
TWL
TWK
TWD
TWN
TWH
【0095】
IWG
IWW
IWS
IWR
IWI
IWP
IWT
IWN
IWQ
IWE
IWH
【0096】
AWG
AWW
AWS
AWH
AWV
AWD
AWL
AWT
AWR
AWQ
AWI
【0097】
PWG
PWW
PWS
PWP
PWV
PWR
PWA
PWL
PWN
PWY
PWI
PWK
【0098】
QWS
QWA
【0099】
NWG
NWW
NWA
NWL
NWF
NWT
NWR
NWN
NWY
NWI
NWV
NWH
NWQ
NWK
NWD
NWE
NWP
NWS
【0100】
SWS
【0101】
FWF
FWS
【0102】
HWS
HWG
HWD
【0103】
WWQ
WWS
【0104】
LWV
LWS
LWC
【0105】
GWS
GWT
【0106】
DWF
DWS
【0107】
RWR
RWC
【0108】
YWS
【0109】
EWS
EWP
【0110】
KWS
【0111】
例えば、プレニル化酵素としてKgpFを用いる場合、プレニル化酵素は、より具体的な以下のモチーフを含むペプチドをプレニル化することも可能である。後述のモチーフ中、yはClAc-D-Tyrを意味する。
【0112】
GVWGG
GVWWG
GVWSG
EVWNL
RVWGP
RVWGC
RVWGY
HVWGD
DVWGY
DVWIF
YVWGR
YVWGH
HVWGT
TVWGY
YVWGP
PVWGC
HVWSL
AVWDH
SVWTC
AVWRS
yVWNV
AVWQT
RVWKL
TVWQQ
SVWSI
DVWQT
HVWHQ
EVWNL
【0113】
GTWGG
GTWWG
GTWSG
HTWST
STWTS
NTWWQ
ITWPL
GTWLY
NTWKV
FTWDN
TTWDE
ETWNA
TTWNA
VTWNS
VTWNA
NTWNS
ETWHN
STWGS
LTWGA
STWGH
VTWKG
ATWNA
【0114】
GIWGG
GIWWG
GIWSG
RIWRY
IIWII
GIWGS
QIWTH
RIWRK
KIWNS
TIWII
RIWQV
GIWEK
SIWSQ
HIWTD
IIWHR
QIWPN
【0115】
GAWGG
GAWWG
GAWSG
SAWHG
PAWVR
YAWDQ
YAWLR
QAWTK
NAWTG
YAWRS
LAWQI
KAWIC
KAWHR
【0116】
GPWGG
GPWWG
GPWSG
RPWVP
QPWPE
TPWVC
WPWRT
VPWAE
KPWLK
KPWNY
RPWYC
SPWID
DPWKS
【0117】
NNWSP
NNWST
GNWSY
YNWSQ
INWSL
RNWSY
RNWSR
FNWSF
GNWSG
NNWST
GNWGG
GNWWG
GNWAG
GNWLG
GNWFG
GNWTG
GNWRG
GNWNG
GNWYG
GNWIG
GNWVG
GNWHG
GNWQG
GNWKG
GNWDG
GNWEG
NNWPT
PNWRF
【0118】
FFWFF
GFWSG
【0119】
GLWSG
YLWSK
yLWVL
【0120】
NDWST
YDWFC
【0121】
NEWST
HEWPW
【0122】
NKWST
【0123】
NYWST
【0124】
GSWSG
ySWSP
ISWNE
【0125】
GWWSG
TWWQR
【0126】
GGWSG
TGWTR
【0127】
GHWSG
FHWGL
IHWDC
【0128】
GQWSG
YQWAC
【0129】
YRWRV
【0130】
また、例えば、プレニル化酵素としてOltFを用いる場合、プレニル化酵素は、具体的な以下のモチーフを含むペプチドをプレニル化することも可能である。後述のモチーフ中、yはClAc-D-Tyrを意味する。
【0131】
NWS
IWR
PWV
VWI
SWN
NWR
yWY
AWD
VWN
RWG
FWF
GWG
YWY
NWN
VWV
FWL
LWV
DWF
【0132】
さらに、例えば、プレニル化酵素としてOltFを用いる場合、プレニル化酵素は、具体的な以下のモチーフを含むペプチドをプレニル化することも可能である。
【0133】
NNWSP
NNWST
RIWRY
RPWVP
DVWIF
ISWNE
PNWRF
YAWDQ
EVWNL
GRWGY
FFWFF
GGWGG
YYWYY
NNWNN
VVWVV
YFWLP
GLWVP
SDWFW
WFWLP
【0134】
より具体的には、後述する実施例で示すペプチド以外にも、少なくとも下記アミノ酸配列を有するペプチドをプレニル化することが可能である。
Cyclic [WLNGDNNWSTP]
Cyclic [TSQIWGSPVP]
Cyclic [SAQWQNFGVP]
WLNGDNNWSTP
WLNGDNNWSTPAYDG
このことは、例えばKgpFが、Kawaguchipeptin Aの前駆体ペプチド(KgpE)から生成される11残基からなる主鎖環状化ペプチド(Cyclic[WLNGDNNWSTP])に含まれる2つのTrp残基をプレニル化し、天然物Kawaguchipeptin Aを生成することから理解できる(Tetrahedron, 1996, 52, 9025. ACIE, 2016, 55, 3596. Org. Biomol. Chem., 2016, 14, 9639.参照)。また、プレニル化酵素は、Fmoc-Trp-OHを低効率ながらプレニル化することも可能である。上記でCyclic[]やc[]の表記は、環状ペプチドのアミノ酸配列であることを意味し、括弧内の左端のアミノ酸残基と右端のアミノ酸残基とが結合している。
【0135】
プレニル化酵素の濃度は、酵素の発現及び精製条件によって異なるため特に限定されないが、例えば0.1~1000μMである。また、プレニル化酵素の濃度は、酵素の発現及び精製条件を調整することにより、より小さくすることが可能である。
【0136】
(表現型を遺伝型にディスプレイしたペプチドライブラリー)
ディスプレイ法とは、表現型(phenotype)とその配列をコードした遺伝型(genotype)を非共有結合又は共有結合で連結することにより、表現型を遺伝型にディスプレイし、試験管に再構築された複製システムを用いて活性種を濃縮、増幅(セレクション)することを可能にするシステムを指す。
例えば、大腸菌を複製媒体とするファージディスプレイ、及びイーストディスプレイ等が挙げられる。
また、原核又は真核生命体を媒体としないin vitroディスプレイも適用することができ、in vitroディスプレイではファージディスプレイよりもより多様なライブラリーの探索が可能となる。in vitroディスプレイとしては、ribosomeディスプレイ、cDNAディスプレイ、及びmRNAディスプレイ等が挙げられる。
【0137】
(ペプチド-遺伝子型ライブラリーの製造方法)
本発明の一つは、遺伝子型(genotype)とペプチドとの複合体を含む、ペプチド-遺伝子型ライブラリーを準備する工程、及び、前記ペプチド-遺伝子型ライブラリーをプレニル化酵素に接触させ、少なくとも一つのTrp又はその誘導体をプレニル化する工程、を含む、ペプチド-遺伝子型複合体ライブラリーの製造方法である。
【0138】
(ペプチド-遺伝子型ライブラリーの製造方法)
本発明のディスプレイ法はいずれの方法も用いることができるが、mRNAディスプレイを好適に用いることができる。
すなわち、上記ペプチド-遺伝子型複合体ライブラリーの製造方法は、好ましくはペプチド-mRNA複合体ライブラリーの製造方法であり、上記ペプチド-遺伝子型ライブラリーを準備する工程が、mRNAディスプレイ法によるペプチド-mRNAライブラリーを調製する工程を含み、前記ペプチド-mRNAライブラリーを調製する工程が、mRNAライブラリーの各mRNAの3'末端にピューロマイシンを結合させ、ピューロマイシン結合mRNAライブラリーを製造する工程、ピューロマイシン結合mRNAライブラリーを、無細胞翻訳系によって翻訳し、少なくとも一つのTrp又はその誘導体を含むアミノ酸配列を有するペプチドを含むペプチド-mRNAライブラリーを調製する工程を含む。
ピューロマイシン結合mRNAライブラリーを製造する工程は、具体的に、上述したペプチドライブラリーの製造方法において、mRNAライブラリーを調製する際、各mRNAのORF(Open reading frame)の下流領域にピューロマイシンを結合させることによって行われる。ピューロマイシンは、ペプチドや核酸で構成されるリンカーを介してmRNAに結合させてもよい。mRNAのORF下流領域にピューロマイシンを結合させることにより、mRNAのORFを翻訳したリボソームがピューロマイシンを取り込み、mRNAとペプチドの複合体が形成される。このようなペプチド-mRNA複合体は、遺伝子型と表現型を対応付けることができ、in vitroディスプレイに応用できる。
【0139】
(ペプチドライブラリー)
本発明は、上述した製造方法により製造されるペプチドライブラリーを包含する。具体的には、本発明のペプチドライブラリーは、上述した環状ペプチドを含むペプチドライブラリーの態様及びペプチド-mRNA複合体ライブラリーの態様を含む。
【0140】
(スクリーニング方法)
本発明の一つは、上述した方法で製造されたペプチドライブラリー及び/又はペプチド-遺伝子型複合体ライブラリー、好ましくはペプチド-mRNA複合体ライブラリーを標的物質に接触させる工程、及び、標的物質に結合するペプチドを選択する工程をさらに含む、標的物質に結合するペプチドを同定するスクリーニング方法である。本発明のスクリーニング方法における接触させる工程は、本発明の方法で製造されたペプチドライブラリー及び/又はペプチド-遺伝子型複合体ライブラリー、好ましくはペプチド-mRNA複合体ライブラリーと標的物質を接触させてインキュベートしてもよい。
【0141】
本明細書において、標的物質は特に限定されず、低分子化合物、高分子化合物、核酸、ペプチド、タンパク質、糖、脂質等とすることができる。特に、本発明のライブラリーによれば、標的物質がプロテアーゼ活性を有する場合や細胞内の分子である場合にも用いることができる。
標的物質は、例えば、固相担体に固定して、本発明のペプチドライブラリー及び/又はペプチド-mRNA複合体ライブラリーと接触させてもよい。本明細書において、「固相担体」は、標的物質を固定できる担体であれば特に限定されず、ガラス製、金属性、樹脂製等のマイクロタイタープレート、基板、ビーズ、ニトロセルロースメンブレン、ナイロンメンブレン、PVDFメンブレン等が挙げられ、標的物質は、これらの固相担体に公知の方法に従って固定することができる。
標的物質と、ライブラリーは、適宜選択された緩衝液中で接触させ、pH、温度、時間等を調節して相互作用させる。
【0142】
本発明のスクリーニング方法は、標的物質と結合したペプチドを選択する工程を含む。標的物質と結合したペプチドの選択は、例えば、ペプチドを公知の方法に従って検出可能に標識し、上記接触工程の後、緩衝液で固相担体表面を洗浄し、標的物質に結合している化合物を検出して行うことができる。
検出可能な標識としては、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等の酵素、25I、131I、35S、3H等の放射性物質、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ダンシルクロリド、フィコエリトリン、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、近赤外蛍光材料等の蛍光物質、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、エクオリン等の発光物質、金コロイド、量子ドット等のナノ粒子が挙げられる。標識として酵素を用いる場合、酵素の基質を酵素と接触させることにより発色させ、検出することもできる。また、ペプチドにビオチンを結合させ、酵素等で標識したアビジン又はストレプトアビジンを結合させて検出することもできる。
【0143】
単に結合の有無又は程度を検出及び測定するのみでなく、標的物質の活性の亢進又は阻害を測定し、かかる亢進活性又は阻害活性を有するペプチドを同定することも可能である。このような方法により、生理活性を有し、医薬として有用なペプチドの同定も可能となる。
【0144】
本発明のスクリーニング方法では、標的物質に結合するペプチドを選択する工程にディスプレイ法を適用でき、大腸菌を複製媒体とするファージディスプレイ、及びイーストディスプレイ、並びに、原核又は真核生命体を媒体としないin vitroディスプレイである、ribosomeディスプレイ、cDNAディスプレイ、及びmRNAディスプレイ等を適用できる。本発明のスクリーニング方法において特にペプチド-mRNA複合体ライブラリーを用いる場合、標的物質に結合するペプチドを選択する工程にmRNAディスプレイ法を適用できる。ここでmRNAディスプレイ法とは、mRNAを翻訳する際に、mRNAと合成されたペプチドとを結合させ、表現型(ペプチド)と核酸配列(mRNA)とを対応付けることを可能にする方法である。
【0145】
ディスプレイ法では、ペプチド-遺伝子型複合体ライブラリーと標的分子とを接触させてインキュベートし、標的分子に結合したペプチド-遺伝子型複合体群を選択する。この工程は、上述した標的物質と結合したペプチドとを選択することと同様に、例えば標的分子を固相表面に固定しておき、固相表面に捕捉されたペプチド-遺伝子型複合体を選択することによって行うことができる。
【0146】
ディスプレイ法として、mRNAディスプレイ法を適用する場合、ペプチド-mRNA複合体群に対して逆転写反応を行うことにより、cDNA群が得られる。このcDNAは、標的分子に結合する環状ペプチドをコードする。
cDNA群を増幅し、これを転写することによって再度mRNAライブラリーを得ることができる。再度得られたmRNAライブラリーは、当初のmRNAライブラリーに比較して、標的分子に結合する分子の濃度が高くなっている。したがって、上述の工程を複数回繰り返すことにより、標的分子に結合する分子を徐々に濃縮することができる。
濃縮された環状ペプチドのアミノ酸配列は、cDNAの配列を解析することによって特定できるので、配列情報を基に、標的分子に対して高い親和性を有する環状ペプチドを産生することが可能である。
【0147】
RaPIDシステム(Yamagishi, Y. et al., Chemistry & biology, 2011, 18(12), 1562-70)は、後述する実施例で用いたFITシステムとmRNAディスプレイとを組み合わせたスクリーニング系の一例である。FITシステムを用いた遺伝暗号のリプログラミング技術を、mRNAディスプレイ法と組み合わせたRaPIDシステムにより、非タンパク質を含むペプチドライブラリーを用いたスクリーニングが可能となった。
【0148】
(スクリーニング用キット)
本発明は、ペプチドのスクリーニング用キットも提供する。本発明のスクリーニング用キットの一態様は、本発明の製造方法で製造されたペプチドライブラリー、及び/又は、ペプチド-mRNA複合体ライブラリーを含む。
本発明のスクリーニング用キットは、上記ペプチドライブラリー、及び/又は、ペプチド-mRNA複合体ライブラリーに加え、標的物質と、ペプチド又はペプチド-mRNA複合体との結合を検出するのに必要な試薬及び装置を含む。かかる試薬及び装置としては、例えば、固相担体、緩衝液、標識用試薬、酵素、酵素反応停止液、マイクロプレートリーダーが挙げられるがこれらに限定されない。
【0149】
(ペプチドの製造方法)
本発明は、少なくとも一つのTrp又はその誘導体を含むアミノ酸配列を有するペプチドをプレニル化酵素に接触させ、少なくとも一つのTrp残基又はその誘導体残基をプレニル化する工程、を含む、プレニル化されたペプチドの製造方法も提供する。
上記少なくとも一つのTrp又はその誘導体を含むアミノ酸配列を有するペプチドの入手方法は特に限定されないが、例えば、化学合成、好ましくは固相合成法により合成する方法等が挙げられる。本発明のペプチドの製造方法の好ましい態様の一つは、少なくとも一つのTrp又はその誘導体を含むアミノ酸配列を有するペプチドを化学合成により合成する工程、及び、前記少なくとも一つのTrp又はその誘導体を含むアミノ酸配列を有するペプチドをプレニル化酵素に接触させ、少なくとも一つのTrp残基又はその誘導体残基をプレニル化する工程、を含む。
【0150】
本発明のペプチドの製造方法は、上述した、本発明のペプチドライブラリーの製造方法に準じて行うことができる。すなわち、プレニル化する工程においては、プレニル基のドナーの存在下で、補因子の存在下又は非存在下、少なくとも一つのTrp又はその誘導体を含むアミノ酸配列を有するペプチドをプレニル化酵素と接触させることが好ましい。
プレニル基を供与するドナーとしては、特に限定されないが、例えば、ジメチルアリル二燐酸(DMAPP)、イソプレニル二燐酸(IPP)、ゲラニル二燐酸(GPP)、ファルネシル二燐酸(FPP)、ゲラニルゲラニル二燐酸(GGPP)、及びフィチル二燐酸(PDP)が挙げられる。これらのプレニル基を供与するドナーは、1単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
補因子としては、特に限定されないが、例えば、マグネシウムイオン、銅イオン、鉄イオン、マンガンイオン、モリブデンイオン、ニッケルイオン、セレンイオン、亜鉛イオン等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも好ましくは、マグネシウムイオンである。本発明のペプチドの製造方法において補因子を用いるか否かは、使用するプレニル化酵素に応じて適宜選択すればよい。
【0151】
(翻訳系)
本発明において、無細胞翻訳系は、伸長用tRNAを含み、開始tRNAをさらに含んでもよい。上述のとおり、本発明者らは、フレキシザイムを利用したコドンの再割当により、N1N2N3が任意のアミノ酸をコードする翻訳系を開発した。天然の翻訳系においては、各アミノ酸に対応したアンチコドンを有するtRNAが存在し、各tRNAは、アンチコドンループ以外の領域においてもそれぞれ固有の配列を有する。
しかしながら、フレキシザイムを利用し、N1N2N3のすべてに任意のアミノ酸を再割当する場合、tRNAをすべて人工のものとすることができる。この場合、翻訳系に加える各N1N2N3に対応する伸長tRNAは、全長の80%以上、85%以上、88%以上、又は90%以上が同一の塩基配列からなるものであってもよい。すなわち、アンチコドンを除いた配列のうち、ほとんど配列が同じである伸長tRNA群を用いることができる。伸長tRNA群は、アンチコドンループ以外すべて同じ塩基配列のものとしてもよい。翻訳系に加える各N1N2N3に対応する伸長tRNAは、アンチコドンループ以外の部分の配列が、85%以上、88%以上、90%以上、93%以上、95%以上、98%以上、又は99%以上同一のものであってもよい。
【0152】
本明細書において、アンチコドンループとは、tRNAにおけるアンチコドンを含む一本鎖のループ部分を示す。アンチコドンループの配列は、コドン-アンチコドンの相互作用を相補するように、当業者が適宜決定することが可能である。
【0153】
このようにして得られる翻訳系は、tRNAとして、一種類の開始tRNAと、一種類の伸長tRNA(すなわち、アンチコドン以外ほとんど同じ塩基配列であるtRNA)しか含まないので、各tRNAの反応性が均一となり、再現性よく予定したペプチドを得ることができる。
本発明の翻訳系によれば、mRNAにおけるN1N2N3の多様性に基づき、1×1012~1×1013以上の異なるペプチドを含むライブラリーを製造することが可能である。
本発明の翻訳系は、転写に必要な因子を加えて転写に用いてもよい。
また、本発明の翻訳系は、上述した、本発明のペプチドライブラリーの製造方法に好適に用いられる。
【0154】
本明細書において引用されるすべての特許文献及び参考文献の開示は、全体として本明細書に参照により組み込まれる。
【実施例
【0155】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。当業者は、本発明の意義を逸脱することなく様々な態様に本発明を変更することができ、かかる変更も本発明の範囲に含まれる。
【0156】
1.FIT system v7S/v8.0.3
FITシステムの組成は以下のとおりである。
50 mM HEPES-KOH (pH 7.6); 12mM 酢酸マグネシウム; 100 mM 酢酸カリウム;2mM スペルミジン; 20 mM リン酸クレアチニン; 2 mM DTT; 2 mM ATP; 2 mMGTP; 1 mM CTP; 1 mM UTP; 0.1 mM 10-ホルミr-5,6,7,8-テトラヒドロ葉酸; 0.5 mM 15 Met, Lys, Gln, Trp, Glu以外のタンパク質性アミノ酸; 1.5 mg/ml E.coli total tRNA; 0.73 μM AlaRS; 0.03 μM ArgRS; 0.38 μM AsnRS; 0.13 μM AspRS; 0.02 μM CysRS; 0.06 μM GlnRS; 0.23 μM GluRS; 0.02 μM GlyRS; 0.02 μM HisRS; 0.4 μM IleRS; 0.04 LeuRS; 0.11 μM LysRS; 0.03 μM MetRS; 0.68 μM PheRS; 0.16 μM ProRS; 0.04 μM SerRS; 0.09 μM ThrRS; 0.03 μM TrpRS; 0.02 μM TyrRS; 0.02 μM ValRS; 0.6 μM MTF; 2.7 μM IF1; 0.4 μM IF2; 1.5 μM IF3; 0.26 μM EF-G; 10 μM EF-Tu; 10 μM EF-Ts; 0.25 μM RF2; 0.17 μM RF3; 0.5 μM RRF; 0.1 μM T7 RNA ポリメラーゼ; 4 μg/ml クレアチンキナーゼ; 3 μg/ml ミオキナーゼ; 0.1 μM ピロホスファターゼ; 0.1 μM ヌクレオチド・ジホスファターゼキナーゼ; 及び1.2 μM ribosome。
【0157】
2.ClAc-D/L-Trp/Tyr-tRNAfMet CUAの調製
3 μLの83.3 μM tRNAfMet CUAと、3 μLの83.3 μM のフレキシザイムとを83.3 mM HEPES-KOH (pH 8.0)中で、95°Cで2分加熱し、5分で室温まで冷却した。このRNA溶液に、2 μLの3 M MgCl2を加え、5分間氷上でインキュベートした。続いて、2 μLの25 mM ClAc-D-Trp-CME, ClAc-L-Trp-CME , ClAc-D-Tyr-CME 又はClAc-L-Tyr-CME (DMSO中)を反応液に加え、2時間氷上でインキュベートした。40 μLの0.3 M 酢酸ナトリウム(pH5.2)を加えて反応を停止させ、tRNAをエタノール沈殿で回収した。沈殿を70%エタノールと0.1 Mの酢酸ナトリウム(pH5.2)で2回、70%エタノールで1回洗浄した。10分間空気乾燥した後、沈殿物を1.0 μLの1.0 mM酢酸ナトリウムに溶解させ、以下の翻訳反応に用いた。
【0158】
3.プレニル化酵素
KgpF及びOltFのそれぞれについて、産生菌由来の遺伝子のコドンを最適化した上で合成した遺伝子を大腸菌内で異種共発現し、精製してプレニル化酵素を調製した。
【0159】
4.MALDI-TOF解析
UltrafleXtreme (Bruker Daltonics)もしくはAutoflex II (Bruker Daltonics)とpeptide calibration standard II (Bruker Daltonics)を用いて行った。
【0160】
以上の他に、国際公開第2014/181888号及び国際公開第2015/030014号で、特にその実施例で開示する試薬等は、本実施例においても適宜用いた。
【0161】
[実施例1:天然の基質であるKawaguchipeptin配列要素を有するチオエーテル閉環人工環状ペプチドの修飾実験]
天然の基質であるKawaguchipeptinの配列(以下、「天然の基質配列」ともいう。)に由来する3種類のチオエーテル閉環人工環状アミノ酸配列、YG280-282を設計した。
【0162】
【化9】
(式中、括弧内はアミノ酸配列である。)
【0163】
3種類のチオエーテル閉環人工環状ペプチド(YG280-282)について、開始残基にあたるN末端Trpの立体配置がD体であるものとL体であるものをそれぞれ合成したため、合計で6種類のペプチドを発明者らが開発した人工翻訳系の(条件1)で翻訳合成した。その後、得られたペプチドを(条件2)に示す系で14.7μMのKgpFと37℃で18時間反応させた。なお、(条件2)で使用した「DMAPP」は、ジメチルアリルピロリン酸である。
【0164】
(条件1)
FIT system; v7s/v8.0.3
19aa-Met; 0.5 mM
ClAc-D or L-Trp-tRNAfMet CUA; 90 μM
反応; 37℃、60分
スケール; 2.5 μLスケール
(条件2)
翻訳混合物量; 2.5 μL((条件1)で得られた混合物)
KgpF; 14.7 μM
DMAPP; 2 mM
合計量; 15.7 μL
反応; 37℃、18時間
【0165】
上記の反応産物をMALDI-TOF-MSで解析した。その結果は次に示すとおりであった。
試した3種類のペプチドの全てについて、KgpFで処理した場合にプレニル化に相当する分だけ分子量が大きくなった生成物を観測した。つまり、これらのペプチドがKgpFの基質となったことが分かった。
ペプチド内に2カ所のTrpがあるにもかかわらず、プレニル化は一カ所でしか起きなかった。
試した3種類のペプチドの中では、YG280配列のN末端Trpの立体配置がD体であるペプチドが最もプレニル化の修飾効率に優れていたため、以後YG280配列を中心にさらに実験を進めた。
【0166】
[実施例2;KgpFによるチオエーテル閉環人工環状ペプチドの修飾-酵素濃度の最適化]
実施例1の結果を受けて、YG280配列のペプチドを用いてKgpFの濃度を上げていき、プレニル化の反応条件の最適化を図った。
YG280配列について、開始残基にあたるN末端Trpの立体配置がD体であるものとL体であるものを合成しているため、合計で2種類のペプチドを用意した。これら2種類の人工環状ペプチドを発明者らが開発した人工翻訳系(条件3)で翻訳合成した。その後、得られたペプチドを(条件4)に示す系で53, 160, 580μMのKgpFと37℃で18時間反応させた。
【0167】
(条件3)
FIT system; v7s/v8.0.3
19aa-Met; 0.5 mM
ClAc-D or L-Trp-tRNAfMet CUA; 120 μM
反応; 37℃、3時間
スケール; 2.5 μLスケール
(条件4)
翻訳混合物量; 2.5 μL((条件3)で得られた混合物)
KgpF; 53, 160, 580 μM
DMAPP; 2 mM
反応; 37℃、18時間
【0168】
なお、160 μMのKgpFを用いた系では、わずかに沈殿を確認し、580 μMのKgpFを用いた系では、多量の沈殿を確認した。
【0169】
上記の反応産物をMALDI-TOF-MSで解析した。その結果は次に示すとおりであった。
KgpFの濃度を高めていくと、それに応じて修飾産物に相当するピークが強くなった。
N末端のTrpの立体配置がD体であるものの方がL体であるものよりもプレニル化の修飾効率に優れていた。
N末端のTrpの立体配置がD体であるペプチドを580 μMのKgpFと反応させた場合、ほぼ全てのペプチドがプレニル化修飾を受けた(非プレニル化ペプチドのピークはごくわずかであった。)。
ペプチド内に2カ所のTrpがあるにもかかわらず、プレニル化は一カ所のみで起きた。
高濃度のKgpFを用いることで効率よくチオエーテル閉環人工環状ペプチドをプレニル化できることが分かった。
【0170】
[実施例3;KgpFによるチオエーテル閉環人工環状ペプチドの修飾-修飾位置の同定]
実施例1及び2では、ペプチド内に2カ所のTrpがあるにもかかわらず、プレニル化は1カ所でしか起きなかった。どちらのTrpでプレニル化が起きているかを決定するため、YG280配列におけるTrp残基をそれぞれ一つずつTyrに変異させたペプチド(YG298,280)及びランダム領域にTrp残基のないペプチド(YG290)を設計し、KgpFによる修飾の進行の有無をそれぞれ評価した。
【0171】
【化10】
【0172】
これら3種類の人工環状ペプチドを発明者らが開発した人工翻訳系(条件5)で翻訳合成した。その後、得られたペプチドを(条件6)に示す系でKgpFと37℃で18時間反応させた。
【0173】
(条件5)
FIT system; v7s/v8.0.3
19aa-Met; 0.5 mM
ClAc-D or L-Trp-tRNAfMet CUA; 90 μM
反応; 37℃、60分
スケール; 2.5 μLスケール
(条件6)
翻訳混合物量; 2.5 μL((条件5)で得られた混合物)
KgpF; 160又は580 μM
DMAPP; 2 mM
反応; 37℃、18時間
【0174】
その反応産物をMALDI-TOF-MSで解析した。その結果、N末端のTrp残基を残したペプチドYG298及びペプチド鎖中にTrp残基のないペプチドYG290-CM11は580μMのKgpFと反応させても一切修飾体が見られなかったのに対し、鎖中(8番残基)にTrp残基を残したペプチドClAc-D-Tyr-initiated YG280は元々の配列(YG280)のペプチドと同様の効率で修飾を受けたことを確認した。このことから、YG280のペプチドにおいてペプチド鎖中のTrp残基がプレニル化修飾を受けていることが分かった。
【0175】
[実施例4;KgpFの基質許容性調査-様々な環サイズを持つペプチドの修飾]
天然の基質配列に由来するYG280配列は12残基からなるチオエーテル閉環環状ペプチドであった。そこで、YG280-1を基準として、より短いチオエーテル閉環環状ペプチド(YG310-311)やより長いチオエーテル閉環環状ペプチド(YG312-314)についても、KgpFで修飾できるか確認した。
【0176】
【化11】
【0177】
上記6種類の人工環状ペプチドを本発明者らが開発した人工翻訳系(条件7)で翻訳合成した。その後、得られたペプチドを(条件8)に示す系で160 μMのKgpFと37℃で18時間反応させた。
【0178】
(条件7)
FIT system; v7s/v9.1
19aa-Met; 0.5 mM
ClAc-D-Tyr-tRNAfMet CUA; 90 μM
反応; 37℃、60分
スケール; 2.5 μLスケール
(条件8)
翻訳混合物量; 2.5 μL((条件7)で得られた混合物)
KgpF; 160 μM
DMAPP; 2 mM
反応; 37℃、18時間
【0179】
上記の反応産物をMALDI-TOF-MSで解析した。その結果、環サイズによって修飾効率の増減はあるものの、試した全ての配列がKgpFで修飾されることが分かった。つまり、KgpFは多彩な環サイズのチオエーテル閉環人工環状ペプチドを修飾しうることが実証された。
【0180】
[実施例5;KgpFの基質許容性調査-Trpの前後配列の検証 その1]
天然の基質配列及びYG280においては、修飾されるTrpの前後に存在するアミノ酸残基はそれぞれAsnとSerであった。Trpの前後配列を変更した人工の3種類のアミノ酸配列を設計し(YG300,304,305)、KgpFで修飾できるか確認した。
【0181】
【化12】
【0182】
これら3種類の人工環状ペプチドを本発明者らが開発した人工翻訳系(条件9)で翻訳合成した。その後、得られたペプチドを(条件10)に示す系で160 μMのKgpFと37℃で18時間反応させた。
【0183】
(条件9)
FIT system; v7s/v9.1
19aa-Met; 0.5 mM
ClAc-D-Tyr-tRNAfMet CUA; 90 μM
反応; 37℃、60分
スケール; 2.5 μLスケール
(条件10)
翻訳混合物量; 2.5 μL((条件9)で得られた混合物)
KgpF; 160 μM
DMAPP; 2 mM
反応; 37℃、18時間
【0184】
その反応産物をMALDI-TOF-MSで解析した。その結果、試した3種の人工ペプチドについては、いずれもプレニル化の修飾が確認された。
また、以下の環状ペプチド(YG288-S2iL8, YG289-S2iD7, YG292-PaktiL5, YG297-aMD4)についても同様に翻訳合成し、KgpFの存在下でDMAPPと反応させたところ、プレニル基で修飾されたことがMALDI-TOF-MSにより観測された。
【0185】
【化13】
【0186】
[実施例6;KgpFの基質許容性調査-Trpの前後配列の検証 その2]
KgpFの修飾効率が、Trpの前後配列に影響することをさらに精査するため、Wの前後配列を、天然基質であるカワグチペプチンに見られるNWS又はNNWST配列に変えた13種類の配列を設計し(表5)、KgpFで修飾できるか確認した。
【0187】
【表5】
【0188】
これらの人工環状ペプチドを本発明者らが開発した人工翻訳系(条件11)で翻訳合成した。その後、得られたペプチドを(条件12)に示す系で160 μMのKgpFと37℃で18時間反応させた。
【0189】
(条件11)
FIT system; v7s/v9.1
19aa-Met; 0.5 mM
ClAc-D-Tyr-tRNAfMet CUA; 90 μM
反応; 37℃、60分
スケール; 2.5 μLスケール
(条件12)
翻訳混合物量; 2.5 μL((条件11)で得られた混合物)
KgpF; 160 μM
DMAPP; 2 mM
反応; 37℃、18時間
【0190】
上記の反応産物をMALDI-TOF-MSで解析した。その結果、Wの前後配列を、天然基質に見られるNWS又はNNWST配列に変えることによりKgpFによる修飾効率が大きく向上したことが分かった。
【0191】
[実施例7;KgpFの基質許容性調査-Trpの前後配列の検証 その3]
どのようなWの前後配列にしたペプチドがKgpFによるプレニル化に優れる好ましいかをさらに網羅的に調査した。
ここでは、ペプチドYG326のWの前後配列を他のアミノ酸残基へと変換した、以下の変異体を網羅的に作製し、それらがKgpFでプレニル化できるか確認した。
【0192】
【化14】
【0193】
【化15】
【0194】
【化16】
【0195】
ペプチドYG326について、その配列に含まれるWの上流のN(YG326の変異体IにおけるX)及び下流のS(YG326の変異体IIにおけるX)を図1及び図2示すグラフの横軸に示す様々なアミノ酸残基に変更したペプチドについて、それぞれ実施例6と同様に合成し、実施例6と同様にプレニル化の反応を行った。その反応産物をMALDI-TOF-MSで解析した。その結果は次に示すとおりであった。
なお、図1及び図2に示すグラフは、各反応産物の質量分析スペクトルにおいて、未修飾ペプチドのピークと修飾ペプチドのピークの強度をそれぞれ定量することで、質量分析スペクトル上での見かけの修飾効率を計算し、ヒストグラムにまとめたものである。図1のグラフでは、Wの上流位置のアミノ酸について、より高い修飾効率を与えたアミノ酸残基から順に並べた。図2のグラフでは、Wの下流位置のアミノ酸について、より高い修飾効率を与えたアミノ酸残基から順に並べた。
天然の上流配列であるNの修飾効率のレベルを点線で示した。
また、Wの上流位置のアミノ酸が、D、E、K、Yである以下の化合物、及び、Wの下流位置のアミノ酸がPである以下の化合物についても、それぞれ実施例6と同様に合成し、実施例6と同様にプレニル化の反応を行った。
【0196】
【化17】
【0197】
上記の化合物YG280-DWS, YG280-EWS, YG280-KWS, YG280-YWS, YG280-NWPについてプレニル基で修飾されたことがMALDI-TOF-MSにより観測された。
総じて、上流位置、下流位置ともに、酸性、塩基性、親水性、疎水性等の多彩な性質のアミノ酸残基を許容することが分かった。
【0198】
[実施例8;KgpFの基質許容性調査-Trpの前後配列の検証 その4]
実施例7で得られた結果をもとに、天然のNWS前後配列よりも高い修飾効率を与える前後配列がいくつか設計可能となった。ここでは、上流配列として天然のNよりも修飾効率に優れていた5種類のアミノ酸、下流配列として天然のSよりも修飾効率に優れていた2種類のアミノ酸について、それぞれを掛け合わせた10種類の前後配列を新たに設計した(図3の横軸)。それぞれのペプチドを、実施例6と同様に合成し、実施例6と同様にプレニル化の反応を行った。
【0199】
上記の反応産物をMALDI-TOF-MSで解析した。その結果、試したほとんどのペプチドが天然のNWSの配列を有したペプチドよりも高い修飾効率を示すことが分かった(図3)。
【0200】
[実施例9;KgpFの基質許容性調査-Trpの前後配列の検証 その5]
実施例7で得た前後配列の修飾効率の結果をもとに、Wの上流のアミノ酸残基を最も好ましいValに固定した上で、下流側のアミノ酸配列を変更したペプチドを設計した。ここでは、VWXのX部分を6種類のアミノ酸に変化させた(G, W, S, F, N, K)変異体を設計した。それぞれのペプチドを、実施例6と同様に合成し、実施例6と同様にプレニル化の反応を行った。
上記の反応産物をMALDI-TOF-MSで解析した。その結果、天然のNWSと同等以上の修飾効率を示すことが分かった(図4)。以上の実施例を全て考慮すれば、Trpの上流のアミノ酸が修飾されやすいアミノ酸(V, T, I, A, P)であることにより、下流のアミノ酸残基に依存せず、KgpFによってそのTrpはプレニル化されることが分かった。つまり、網羅的な基質許容性調査により、KgpFは非常に高い基質許容性を持つTrpプレニル化酵素であることが実証された。
【0201】
[実施例10;複数のTrpを含むアミノ酸配列でのKgpF修飾反応]
以下に示す人工環状ペプチドClone-M1~M9を本発明者らが開発した人工翻訳系(条件13)で翻訳合成した。その後、得られたペプチドを(条件14)に示す系で160 μMのKgpFと0℃で20時間反応させた。
【0202】
【化18】
(上記中、“y”は、D-Tyrを表す。)
【0203】
(条件13)
FIT system; v8s/v11.0
19aa-Met; 0.5 mM
ClAc-D-Tyr-tRNAfMet CUA; 90 μM
反応; 37℃、60分
スケール; 2.5 μLスケール
上記の反応を行ったのち、25℃で12分、反応産物をインキュベーションした。
その後、次に示す条件で環化反応を行った。
翻訳混合物量; 2.5 μL(上記の反応で得られた混合物)
EDTA; 18 mM
反応; 42℃、60分
スケール; 2.75 μLスケール
(条件14)
翻訳混合物量; 2.75 μL((条件13)で得られた混合物)
KOH; 6.0 mM
Mg(OAc)2; 9.0 mM
Tris-HCl(pH8.3); 15 mM
KgpF; 160 μM
DMAPP; 2 mM
反応; 0℃、20時間
【0204】
表6中、5:強い強度、4:中程度の強度、3:弱い強度、2:とても弱い強度、1:ピークなし、N/A:観測されないこと、を表す。
【0205】
【表6】
【0206】
[実施例11;KgpFの変更による修飾反応の効率化]
表7に示す人工環状ペプチドを、FIT systemとしてv8s/v11.1を用い、プレニル化修飾酵素としてはKgpF v 3.1を用い、当該KgpF v 3.1の濃度を10μMとしたこと以外は、(条件11)、(条件12)の条件にて、反応を行った。ここで、KgpF v 3.1は、(条件12)で用いたKgpFから精製度を高め、さらに比活性を向上させた酵素である。
表7中、5:強い強度、4:中程度の強度、3:弱い強度、2:とても弱い強度、1:ピークなし、N/A:観測されないこと、を表す。
【0207】
【表7】
【0208】
[実施例12;VW配列を含み、且つ様々な環サイズを持つ人工環状ペプチドの修飾]
表8及び表9に示す人工環状ペプチドを本発明者らが開発した人工翻訳系(条件15)で翻訳合成した。その後、得られたペプチドを(条件16)に示す系で60 μMのKgpFと37℃で18時間反応させた。
【0209】
(条件15)
FIT system; v8s/v11.1
19aa-Met; 0.5 mM
ClAc-D-Tyr-tRNAfMet CUA; 90 μM
反応; 37℃、60分
スケール; 2.5 μLスケール
(条件16)
翻訳混合物量; 2.5 μL((条件15)で得られた混合物)
KgpF; 60 μM
DMAPP; 2 mM
反応; 37℃、18時間
【0210】
表8及び表9中、5:強い強度、4:中程度の強度、3:弱い強度、2:とても弱い強度、1:ピークなし、N/A:観測されないこと、を表す。
【0211】
【表8】
【0212】
【表9】
【0213】
[実施例13;VW又はWG配列を含み、且つ様々なW位置を持つ人工環状ペプチドの修飾]
表10に示す人工環状ペプチドを本発明者らが開発した人工翻訳系(条件17)で翻訳合成した。その後、得られたペプチドを(条件18)に示す系で60 μMのKgpFと37℃で18時間反応させた。
【0214】
(条件17)
FIT system; v8s/v11.1
19aa-Met; 0.5 mM
ClAc-D-Tyr-tRNAfMet CUA; 90 μM
反応; 37℃、60分
スケール; 2.5 μLスケール
(条件18)
翻訳混合物量; 2.5 μL((条件17)で得られた混合物)
KgpF; 60 μM
DMAPP; 2 mM
反応; 37℃、18時間
【0215】
表10中、5:強い強度、4:中程度の強度、3:弱い強度、2:とても弱い強度、1:ピークなし、N/A:観測されないこと、を表す。
【0216】
【表10】
【0217】
[実施例14;様々なペプチド配配列を持つ人工環状ペプチドの修飾]
以下に示す人工環状ペプチドを本発明者らが開発した人工翻訳系(条件19)で翻訳合成した。その後、得られたペプチドを(条件20)に示す系で160 μMのKgpFと0℃で20時間反応させた。
その反応産物をMALDI-TOF-MSで解析した。その結果、以下に示す人工環状ペプチドはプレニル化の修飾を受けたことを確認した。以上のとおり様々な配列のペプチドにおいてプレニル化が進行したことは、細胞膜の透過性がより高いペプチドを含むペプチドライブラリーを効率的に得られることを示す。
【0218】
(条件19)
FIT system; v8s/11.0
19aa-Met; 0.5 mM
ClAc-D-Tyr-tRNAfMet CUA; 90 μM
反応; 37℃、60分
スケール; 2.5 μLスケール
上記の反応を行ったのち、25℃で12分、反応産物をインキュベーションした。
その後、次に示す条件で環化反応を行った。
翻訳混合物量; 2.5 μL(上記の反応で得られた混合物)
EDTA; 18 mM
反応; 42℃、60分
スケール; 2.75 μLスケール
(条件20)
翻訳混合物量; 2.75 μL((条件19)で得られた混合物)
KOH; 6.0 mM
Mg(OAc)2; 9.0 mM
Tris-HCl(pH8.3); 15 mM
KgpF; 160 μM
DMAPP; 2 mM
反応; 0℃、20時間
【0219】
【化19】
(上記中、“y”は、D-Tyrを表す。)
【0220】
【化20】
(上記中、“y”は、D-Tyrを表す。)
【0221】
【化21】
(上記中、“y”は、D-Tyrを表す。)
【0222】
【化22】
(上記中、“y”は、D-Tyrを表す。)
【0223】
【化23】
(上記中、“y”は、D-Tyrを表す。)
【0224】
[実施例15;OltFによるチオエーテル閉環人工環状ペプチドの修飾実験]
KgpFだけでなく、これと相同性を持つ他の酵素でもチオエーテル閉環人工環状ペプチドを修飾できることを実証するため、OltF酵素を用いてチオエーテル閉環人工環状ペプチドを修飾できるか確認した。
OltFの天然基質であると想定されるOscE1及びOscE2の配列に由来する6種類のチオエーテル閉環人工環状アミノ酸配列(YG413-417,419)を設計した。
【0225】
【化24】
【0226】
これらの人工環状ペプチドを本発明者らが開発した人工翻訳系(条件21)で翻訳合成した。その後、得られたペプチドを(条件22)に示す系で24又は72 μMのOltFと37℃で18時間反応させた。
【0227】
(条件21)
FIT system; v7s/v9.1
19aa-Met; 0.5 mM
ClAc-D or L-Tyr-tRNAfMet CUA; 90 μM
反応; 37℃、60分
スケール; 2.5 μLスケール
(条件22)
翻訳混合物量; 2.5 μL((条件21)で得られた混合物)
OltF; 24, 72μM
DMAPP; 2 mM
反応; 37℃、18時間
【0228】
上記の反応産物をMALDI-TOF-MSで解析した。その結果、いずれのペプチドにおいてもプレニル化された修飾産物を観測した。このことから、OltFもKgpFと同様に、天然の主鎖環化ペプチドだけでなく、チオエーテル閉環人工環状ペプチドも修飾できる能力があることが確認された。このことは、OltFやKgpFと相同性の高い酵素群は同様にチオエーテル閉環人工環状ペプチドを修飾し、本発明におけるプレニル化酵素として利用できることを示している。
【0229】
[実施例16;OltFによるチオエーテル閉環人工環状ペプチドの修飾実験]
表11及び表12に示す人工環状ペプチドを本発明者らが開発した人工翻訳系(条件23)で翻訳合成した。その後、得られたペプチドを(条件24)に示す系で9.13 μMのOltFと37℃で18時間反応させた。なお、OltF v 2.1は、調製の際、(条件22)で用いたOltFから精製を変えた酵素である。
【0230】
(条件23)
FIT system; v8s/v11.1
19aa-Met; 0.5 mM
ClAc-D or L-Tyr-tRNAfMet CUA; 90 μM
反応; 37℃、60分
スケール; 2.5 μLスケール
(条件24)
翻訳混合物量; 2.5 μL((条件23)で得られた混合物)
OltF v 2.1; 9.13 μM
DMAPP; 2 mM
反応; 37℃、18時間
【0231】
表11及び表12中、5:強い強度、4:中程度の強度、3:弱い強度、2:とても弱い強度、1:ピークなし、N/A:観測されないこと、を表す。
【0232】
【表11】
【0233】
【表12】
【0234】
[実施例17;mRNAライブラリーの調製]
【0235】
(mRNAライブラリーのデザイン)
表13に示すように、mRNAライブラリーをデザインした。
【0236】
【表13】
【0237】
上記表13におけるmRNAでは、下記表14の遺伝子暗号表に基づきアミノ酸が再割当された。ここで、表13におけるmRNAのUGGには、Trpが再割当される。また、XXXは、RYU及びCMGであるか(ここでRYU及びCMGの存在比(RYU:CMG)は2:1であった)、RYUであった。なお、RYUにおける、Rはそれぞれ独立にG又はAを表し、Yはそれぞれ独立にU又はCを表し、CMGにおける、Mはそれぞれ独立にA又はCを表し、NNKにおけるKはそれぞれ独立にG又はUを表す。Nは任意の塩基である。
【0238】
【表14】
【0239】
(mRNAライブラリーの調製)
<1mLスケールの系の組成>
MgCl2; 2.5mM
dNTPs; 0.25 mM
KCl; 50mM
Tris-HCl (pH9.0); 10mM
Triton X-100; 1μL
primers ; 250nM(T7YGM.F46 v1tr.F46及び上記ライブラリーの配列を含むプライマー)Taq polymerase
<1mLスケールの系の伸長>
伸長Extensionは、表15に示すように、まず95℃で1分保持した後、61℃で1分保持し、次に72℃で1分保持した。61℃で1分保持し、次に72℃で1分保持することを5回繰り返した。
【0240】
なお、primerのT7YGM.F46 v1tr.F46の配列は以下のとおりである。
T7YGM.F46 v1tr.F46:TAATACGACTCACTATAGGGTTAACTTTAAGAAGGAGATATAAATA
【0241】
【表15】
【0242】
<10mLスケールの系の組成>
上記伸長による生成物; 1mL
MgCl2; 2.5mM
dNTPs; 0.25 mM
KCl; 50mM
Tris-HCl (pH9.0); 10mM
Triton X-100; 10μL
primers ; 250nM(T7YGM.F46 v1tr.F46及びrCNSGGVSan13.R39)
Taq polymerase
<10mLスケールの系のPCR>
PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)は、表16に示すように、まず95℃で40秒保持した後、65℃で40秒保持し、次に72℃で40秒保持した。95℃で40秒保持し、次に65℃で40秒保持し、さらに72℃で40秒保持することを4回繰り返した。
【0243】
なお、primerのT7YGM.F46 v1tr.F46及びrCNSGGVSan13.R39の配列は以下のとおりである。
T7YGM.F46 v1tr.F46:TAATACGACTCACTATAGGGTTAACTTTAAGAAGGAGATATAAATA
rCNSGGVSan13.R39:TTTCCGCCCCCCGTCCTAGCTTACCCCACCACTGTTACA
【0244】
【表16】
【0245】
図5に示すように、PCRによって所望の生成物が得られたことが確認された。
【0246】
(mRNAライブラリーの精製)
次に、得られたPCR産物をT7 RNA polymeraseを用いてin vitroで転写し(4mLスケール)、12%denaturing-PAGE、230V、70分の条件の電気泳動にて精製し、mRNAライブラリーの調製に成功した。電気泳動のゲルの図を図6に示すように、所望の生成物が、副生成物と分離されて得られたことが確認された。得られたmRNAライブラリーを上述したように、FIT systemによる翻訳、及びプレニル化酵素と接触させることにより、当該mRNAから得られるペプチドライブラリー中のペプチドにプレニル基を導入することができる。
【0247】
[実施例18;固相でのKgpFによる人工環状ペプチドの修飾反応]
液相だけでなく、固相でもプレニル化修飾ができることを実証するため、磁気ビーズ表面上にタグを介して固定化したKgpF酵素を用いて、人工環状ペプチドを修飾できるか確認した。
【0248】
(KgpFの磁気ビーズへの固定化)
N末端にHisタグが付加されたKgpFに対して、Dynabeads His-Tag Isolation and Pulldown (Invitrogen) を接触させ、磁気ビーズ上にKgpFを固定化した。図7に示すように、ビーズに接触させるKgpFの量が増えるほどビーズへのKgpFの固定化量は増大し、一定量を超えると飽和状態に達した。
【0249】
(磁気ビーズに固定化されたKgpFによる人工環状ペプチドの修飾)
表に示す人工環状ペプチドを、(条件25)によって合成し、(条件26)によって固相でKgpFに接触させた。また、同じペプチドを、プレニル化反応時間を14時間としたこと以外は(条件13)、(条件14)に示した条件にて、液相で反応させた。
【0250】
(条件25)
FIT system; v8s/v11.1
19aa-Met; 0.5 mM
ClAc-D-Tyr-tRNAfMet CUA; 90 μM
反応; 37℃、60分
スケール; 2.5 μLスケール
上記の反応を行ったのち、25℃で12分、反応産物をインキュベーションした。
その後、次に示す条件で環化反応を行った。
翻訳混合物量; 2.5 μL(上記の反応で得られた混合物)
EDTA; 18 mM
反応; 42℃、60分
スケール; 2.75 μLスケール
(条件26)
翻訳混合物量; 2.75 μL((条件25)で得られた混合物)
KOH; 6.0 mM
Mg(OAc)2; 9.0 mM
Tris-HCl(pH8.3); 15 mM
磁気ビーズに固定化されたKgpF; 72 μM
DMAPP; 2 mM
反応; 4℃、14時間 回転混合
【0251】
反応後の溶液をMALDI-TOF-MSで解析したところ、表に示すように、固相のほうがKgpF濃度が低いにも関わらず、液相と同様に100%の修飾効率を示した(出発物質のピークが見られなかった)。このことから、固相でも、液相と同様に修飾を行うことが可能であることが確かめられた。
【0252】
表17中、5:強い強度、4:中程度の強度、3:弱い強度、2:とても弱い強度、1:ピークなし、N/A:観測されないこと、を表す。
【0253】
【表17】
【0254】
[実施例19;化合物ライブラリーの調製及びスクリーニング]
実施例17で示したmRNAライブラリーのデザインで、XXXの部分をRYUに置き換えたものを、実施例17と同様の手順により調製した。
上述のmRNAライブラリーから、図8に示すスキームのとおり、ペプチド-mRNA複合体ライブラリーを構築し、さらに磁気ビーズ上に固定化したKgpF酵素を作用させて、プレニル化ペプチドを含む化合物ライブラリーを構築した。
その後、上記化合物ライブラリーを図8に示すスキームのように、酵素MetAP1 (Human)と相互作用する環状ペプチドをスクリーニングする工程に供したところ、図9に示すように、MetAP1に結合する環状ペプチドが濃縮されたライブラリーが取得できた。この濃縮されたライブラリーに含まれていたペプチド配列を図10に示した。図10に示したペプチドの一部について、これらの配列を有するペプチドを、(条件13)及び(条件14)に示した条件でKgpFと接触させることにより、表18に示すように、プレニル化修飾されることを確認した。
以上の結果から、プレニル化酵素を用いる本発明の製造方法によって、化合物ライブラリーを提供できることが示された。
【0255】
表18、19中、5:強い強度、4:中程度の強度、3:弱い強度、2:とても弱い強度、1:ピークなし、N/A:観測されないこと、を表す。
【0256】
【表18】
【0257】
[実施例19-1;MetAP1に対するスクリーニングの結果得られたペプチドの評価]
(MetAP1への結合能についてのプルダウンアッセイ)
MetAP1を標的としたスクリーニングの結果同定したプレニル化環状ペプチドについて、その標的結合能を、定性的なプルダウンアッセイによって評価した。Met3, Met9, Met11, Met12, Met13, Met14の各配列をmRNA上に提示した状態で合成した上で、配列中のTrp残基をプレニル化させた。得られたプレニル化ペプチド-mRNA複合体を、磁気ビーズを用いてプルダウンした後に、回収されたmRNA量をRT-qPCR法で定量した。結果を図11に示す。
図11の棒グラフにおいてNegativeのバーがMetAP1未固定のビーズでのプルダウン量、PositiveのバーがMetAP1を固定したビーズでのプルダウン量を表す。PositiveがNegativeよりも有意にプルダウン量が高く、プレニル化されたペプチド配列がMetAP1へ結合することが確認された。
【0258】
(Fmoc固相合成及びKgpFを用いるプレニル化によるプレニル化環状ペプチドの合成)
Fmoc固相合成法によりMet2, Met3-1, Met3a-L, Met11, Met13の各配列を有する環状ペプチドを化学合成した後に、試験管内でKgpFを作用させることでプレニル化環状ペプチドを調製した。プレニル化の条件は、以下の条件27とした。
【0259】
(条件27)
スケール; 1 mL
環状ペプチド; 300 μM(Met3-1, Met11, Met13において)
又は 1500 μM(Met2, Met3a-Lにおいて)
MgCl2; 5.0 mM
KgpF; 16 μM(Met11, Met13において)
又は 75 μM(Met2, Met3-1, Met3a-Lにおいて)
DMAPP; 1 mM
HEPES-KOH (pH7.5); 50 mM
反応; 37℃、20時間
【0260】
図12に示すように、KgpFを作用させる前と後のMALDI-TOF-MSスペクトルにより、目的のプレニル化環状ペプチドが得られていることが確認された。
【0261】
(プレニル化環状ペプチドのMetAP1阻害試験)
In vitroにて、MetAP1の補因子Mn2+又はCo2+の存在下、プレニル化されたMet2, Met3a-L, Met3-1を1μM、5μM, 10μMの濃度で用いて、MetAP1阻害試験を行った。本試験では、MetAP1の酵素活性に依存して蛍光を発するプローブ蛍光を検出することで、酵素活性を測定した。蛍光強度の測定結果を図13に示した。図13に示すとおり、プレニル化された、Met2, Met3, Met3a-Lの各ペプチドは標的であるMetAP1酵素活性を阻害できることが確認された。
【0262】
(条件)
スケール; 20 μL
環状ペプチド; 1, 5, 10 μM
MnCl2 又はCoCl2; 100 μM
MetAP1酵素活性プローブ; 1 μM
MetAP1; 1 μM
Tris (pH7.6); 25 mM
NaCl; 75 mM
反応; 37℃、120分
上記反応ののち、プレートリーダーでプローブの蛍光強度を測定した。
【0263】
[実施例20:プレニル化酵素の酵素反応の特性]
以下に示す環状ペプチドを用いて、(条件27)に示す条件にて、Mg2+の存在下、又は非存在下、およびEDTAの濃度を0mM、1mM、10mMに調整して、プレニル化反応を行った。なお、以下に示す環状ペプチドは、固相合成法を用いて合成することにより取得した。
【0264】
【化25】
【0265】
(条件27)
スケール; 5.7 μL
環状ペプチド; 120 μM
MgCl2; 5.0 mM(Mg(+);使用する場合)
KgpF又はOltF; 16 μM(KgpF)又は8.5 μM(OltF)
DMAPP; 2 mM
HEPES-KOH (pH7.5); 50 mM
反応; 37℃、16時間
【0266】
反応産物をMALDI-TOF-MSで解析した。その結果、プレニル化酵素としてKgpFを用いた場合はMg2+依存的に反応が進行し(図14及び図15参照)、OltFを用いた場合はMg2+非依存的に反応が進行することがわかった(図16参照)。
【0267】
[実施例21:非タンパク質性アミノ酸を含む環状ペプチドのプレニル化]
非タンパク質性アミノ酸としてアミノ酸のD体を含む環状ペプチドにおいて、KgpFを用いたプレニル化の試験を行った。アミノ酸のD体(以下の式中、X)を含む環状ペプチドは以下の式で表される。
【0268】
【化26】
【0269】
上記のD体アミノ酸を含む人工環状ペプチドを本発明者らが開発した人工翻訳系で以下の(条件28)で翻訳合成した。その後、得られた翻訳混合物を以下の(条件29)にて反応(プレニル化)させた。
【0270】
(条件28)
5aa-mix (K,R,A,W,C); 0.5 mM
ClAc-D-Tyr-tRNAfMet CUA; 90 μM
D-aa-tRNAPro1E2 CGG; 90 μM
反応; 人工翻訳系溶液中で37℃、60分
スケール; 2.5 μLスケール
(条件29)
翻訳混合物量; 2.5 μL((条件28)で得られた混合物)
KgpF ; 16 μM
DMAPP; 2 mM
反応; 37℃、20時間
【0271】
反応産物をMALDI-TOF-MSで解析した。その結果、XとしてD体のIle、D体のPhe、D体のTrp、D体のTyrを含む人工環状ペプチドがプレニル化の修飾を受けたことを確認した(図17参照)。
【0272】
[実施例22:非タンパク質性Trpを含む環状ペプチドにおける当該Trpのプレニル化]
非タンパク質性アミノ酸Trpを含む環状ペプチドにおいて、OltFまたはKgpFを用いて当該Trpのプレニル化の試験を行った。用いた環状ペプチドは以下のとおりであった。式中、XはD体のTrpである。
【0273】
【化27】
【0274】
上記のD体Trpを含む人工環状ペプチドを本発明者らが開発した人工翻訳系で以下の(条件30)で翻訳合成した。その後、得られた翻訳混合物を以下の(条件31)で37℃、20時間、反応(プレニル化)させた。
【0275】
(条件30)
19aa-mix(M以外の19種のタンパク質性アミノ酸); 0.5 mM
ClAc-D-Tyr-tRNAfMet CUA; 90 μM
D-Trp-tRNAPro1E2 CGG; 90 μM
反応; 人工翻訳系溶液中で37℃、60分
スケール; 2.5 μLスケール
(条件31)
翻訳混合物量; 2.5 μL((条件30)で得られた混合物)
KgpF又はOltF ; 170 μM
DMAPP; 2 mM
反応; 37℃、20時間
【0276】
反応産物をMALDI-TOF-MSで解析した。その結果、XとしてD体のTrpを含む人工環状ペプチドはプレニル化の修飾を受けたことを確認した(図18参照)。
【0277】
[実施例23:N末端に位置するTrpのプレニル化]
以下に示す環状ペプチドを本発明者らが開発した人工翻訳系で以下の(条件32)で翻訳合成した。その後、得られた翻訳混合物を以下の(条件33)にて反応(プレニル化)させた。
【0278】
【化28】
【0279】
(条件32)
19aa-mix(M以外の19種のタンパク質性アミノ酸); 0.5 mM
ClAc-D-Tyr-tRNAfMet CUA; 50 μM
反応; 人工翻訳系溶液中で37℃、30分
スケール; 2.5 μLスケール
(条件33)
翻訳混合物量; 2.5 μL((条件32)で得られた混合物)
OltF; 100 μM
DMAPP; 2.1 mM
反応; 37℃、18時間
スケール; 5.7 μLスケール
【0280】
反応産物をMALDI-TOF-MSで解析した。その結果、プレニル化酵素としてOltFを用いることにより、N末端位置及び配列内部の2箇所のTrpがプレニル化できることがわかった(図19参照)。
上記と同様にして、AY015, AY016, AY017, AY018, AY019, AY020(図20参照)についてもOltFを用いたプレニル化を行ったところ、N末端位置のTrpがプレニル化されることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
【配列表】
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