(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】試料ホルダ及びインピーダンス顕微鏡
(51)【国際特許分類】
H01J 37/20 20060101AFI20240815BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20240815BHJP
H01J 37/244 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
H01J37/20 A
H01J37/28 Z
H01J37/244
(21)【出願番号】P 2023523484
(86)(22)【出願日】2022-05-24
(86)【国際出願番号】 JP2022021239
(87)【国際公開番号】W WO2022250049
(87)【国際公開日】2022-12-01
【審査請求日】2023-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2021087424
(32)【優先日】2021-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100211052
【氏名又は名称】奥村 大輔
(72)【発明者】
【氏名】小椋 俊彦
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-055038(JP,A)
【文献】特開2013-134952(JP,A)
【文献】特開2014-022323(JP,A)
【文献】特表2019-508700(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0218286(US,A1)
【文献】国際公開第2019/104254(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/244468(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/20
H01J 37/28
H01J 37/244
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インピーダンス顕微鏡用の試料ホルダであって、
表面及び裏面を有する第1絶縁膜と、
前記第1絶縁膜の前記裏面に対向する表面及び裏面を有する第2絶縁膜と、
前記第1絶縁膜の前記表面上に配置された導電膜と、
前記第2絶縁膜の前記裏面に対向して配置された電極と、
接地電位又は一定の電位に固定された導電性部材と、
を備え、
前記導電性部材は、前記第1絶縁膜と前記電極との間に位置する開口を有する、試料ホルダ。
【請求項2】
前記導電性部材は、前記電極の周りを囲むように配置されている、請求項1に記載の試料ホルダ。
【請求項3】
前記導電性部材は、前記第2絶縁膜の前記裏面側に配置されている、請求項1に記載の試料ホルダ。
【請求項4】
前記導電性部材は、前記第1絶縁膜と前記第2絶縁膜との間に配置されている、請求項1に記載の試料ホルダ。
【請求項5】
前記第1絶縁膜の前記表面上に配置され、その内側に試料を観察するための観察窓を画成するフレーム部材を更に備え、
前記導電性部材は、前記電極に交流信号が印加され、前記電極と前記導電膜との間で電場が形成されたときに、静電遮蔽作用によって前記観察窓の外側への前記電場の広がりを抑制する、請求項1~4の何れか一項に記載の試料ホルダ。
【請求項6】
前記電極は、前記第2絶縁膜に向けて延びる長尺状を呈し、
前記導電性部材の前記開口は、前記観察窓と前記電極の前記第2絶縁膜側の先端部との間に位置する、請求項5に記載の試料ホルダ。
【請求項7】
表面及び裏面を有する第1絶縁膜と、
前記第1絶縁膜の前記裏面に対向する表面及び裏面を有する第2絶縁膜であり、前記第1絶縁膜と前記第2絶縁膜との間に試料を配置する空間が形成された、該第2絶縁膜と、
前記第1絶縁膜の前記表面上に配置された導電膜と、
前記第2絶縁膜の前記裏面に対向して配置された電極と、
接地電位又は一定の電位に固定された導電性部材と、
前記導電膜に対してビームを照射しながら走査するビーム照射部と、
前記電極に交流信号を印加する電源と、
前記導電膜に前記ビームを走査しつつ前記電極に前記交流信号を印加したときに、前記導電膜に導かれた前記交流信号に基づいて、前記試料の画像を生成する画像生成部と、
を備え、
前記導電性部材は、前記第1絶縁膜と前記電極との間に位置する開口を有する、インピーダンス顕微鏡。
【請求項8】
前記第1絶縁膜の前記表面上に配置され、その内側に試料を観察するための観察窓を画成するフレーム部材を更に備え、
前記導電性部材は、前記電極に交流信号が印加され、前記電極と前記導電膜との間で電場が形成されたときに、静電遮蔽作用によって前記観察窓の外側への前記電場の広がりを抑制する、請求項7に記載のインピーダンス顕微鏡。
【請求項9】
前記電極は、前記第2絶縁膜に向けて延びる長尺状を呈し、
前記導電性部材の前記開口は、前記観察窓と前記電極の前記第2絶縁膜側の先端部との間に位置する、請求項8に記載のインピーダンス顕微鏡。
【請求項10】
インピーダンス顕微鏡用の試料ホルダであって、
電源に接続された電極と、
表面及び裏面を有する第1絶縁膜と、
前記第1絶縁膜の前記表面上に配置され、その内側に試料を観察するための観察窓を画成するフレーム部材と、
前記フレーム部材の内側で前記第1絶縁膜の前記表面に当接する導電膜と、
前記電極と前記第1絶縁膜の前記裏面との間に配置された第2絶縁膜であり、前記第1絶縁膜と前記第2絶縁膜との間に前記試料を配置する収容空間を形成する、該第2絶縁膜と、
前記電源から前記電極に交流信号が印加され、前記電極と前記導電膜との間で電場が形成されたときに、静電遮蔽作用によって前記観察窓の外側への前記電場の広がりを抑制する導電性部材と、
を備える、試料ホルダ。
【請求項11】
前記電極は、前記第2絶縁膜に向けて延びる長尺状を呈し、
前記導電性部材は、前記観察窓と前記電極の前記第2絶縁膜側の先端部との間に位置する開口を有する、請求項10に記載の試料ホルダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、試料ホルダ及びインピーダンス顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
有機物等の試料を観察する装置として、可視光線を用いた光学顕微鏡が広く利用されている。光学顕微鏡の空間分解能は、可視光の回折限界によって200nm程度に制限される。より高い空間分解能が要求される場合には、可視光線よりも波長の短い電子線を用いる電子顕微鏡が用いられる。電子顕微鏡を用いる場合には、電子線による試料のダメージを軽減するために、試料の表面を金やプラチナ等でコーティング処理したり、重金属で試料に染色処理をしたりする前処理が行われることが一般的である。これらの前処理を行った場合であっても、電子顕微鏡によって得られた画像には多くのアーティファクトが混在し、高コントラストの画像を得ることは容易でない。また、取得された画像から試料の組成分析をすることも困難である。
【0003】
上述した前処理を施すことなく高コントラストの画像を得るための技術として、特許文献1に記載の方法が知られている。特許文献1には、第1の絶縁性薄膜と及び第2の絶縁性薄膜との間に水溶液と共に有機物試料を配置し、第1の絶縁性薄膜上に形成された導電性薄膜にパルス状に強度を変化させたパルス電子線を走査照射し、第2の絶縁性薄膜の外向面上の電位変化に基づいて有機物試料の画像を生成し、パルス電子線に対応した画像の差から有機物試料の組成分析をすることが記載されている。
【0004】
また、非特許文献1には、試料のインピーダンスに基づいて試料の電気的特性を評価する電気化学インピーダンス法について記載されている。電気化学インピーダンス法を利用した技術として、特許文献2及び非特許文献2に記載のインピーダンス顕微鏡が知られている。特許文献2及び非特許文献2に記載のインピーダンス顕微鏡は、試料を保持する試料ホルダを備える。この試料ホルダは、第1の絶縁性薄膜と、第1の絶縁性薄膜に対向する第2の絶縁性薄膜と、第1の絶縁性薄膜上に形成された導電性薄膜と、第2の絶縁性薄膜に対向する電極とを備える。この試料ホルダの第1の絶縁性薄膜と第2の絶縁性薄膜との間には水溶液と共に試料が配置され、電極には交流信号が印加され、導電性薄膜には電子線が走査照射される。そして、導電性薄膜で検出された信号を分析することで試料のインピーダンス特性がマイクロレベル又はナノレベルの分解能で観察される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6652265号公報
【文献】国際公開第2019/244468号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】W Kuang, SO Nelson, “Low-frequency dielectric properties of biological tissues: a review with some new insights”, Transactions of the ASAE, Vol.41(1), pp173-184, 1998
【文献】Toshihiko Ogura, “Direct observation of unstained biological samples in water using newly developed impedance scanning electron microscopy”, PLOS ONE, Vol.14(8), e0221296(17pp), 2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2及び非特許文献2に記載のインピーダンス顕微鏡では、電極に印加された交流信号によって当該電極と導電性薄膜との間に電場が形成され、当該電場の形成に伴って電極から導電性薄膜に交流信号が伝搬される。ここで、これらのインピーダンス顕微鏡では、電極と導電性薄膜との間に形成される電場は、試料ホルダ全体に広がって形成される。したがって、電極と導電性薄膜との間の交流信号の伝搬経路は、電極と試料を観察するための観察窓との間の領域だけでなく、電極と試料の観察に寄与しない非観察領域との間の領域にも形成される。非観察領域を経て導電性薄膜に伝搬された信号成分は、ノイズやオフセット成分となり、電極と観察窓との間の経路を経て伝搬された信号成分の強度を相対的に低下させる原因となる。したがって、この種のインピーダンス顕微鏡では、導電性薄膜で検出された信号にノイズ成分が含まれ、画像のコントラストや空間分解能が低下することがある。
【0008】
したがって、本開示は、検出信号に含まれるノイズ成分を低減することができるインピーダンス顕微鏡用の試料ホルダ、及び、インピーダンス顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様に係るインピーダンス顕微鏡用の試料ホルダは、表面及び裏面を有する第1絶縁膜と、第1絶縁膜の裏面に対向する表面及び裏面を有する第2絶縁膜と、第1絶縁膜の表面上に配置された導電膜と、第2絶縁膜の裏面に対向して配置された電極と、接地電位又は一定の電位に固定された導電性部材と、を備え、導電性部材は、第1絶縁膜と電極との間に位置する開口を有する。
【0010】
接地電位又は一定の直流電位に接続された導電性部材は、静電遮蔽作用によって電場を遮断するため、本態様の試料ホルダでは、電極と導電膜との間で電場の形成される領域は、開口が形成された領域に限定される。したがって、電場の広がりを抑制し、電極と観察に寄与しない領域との間に交流信号の経路が形成されることを抑制することができる。その結果、導電膜で検出される信号に含まれるノイズ成分を低減することができる。
【0011】
一実施形態では、導電性部材は、電極の周りを囲むように配置されていてもよい。また、導電性部材は、第2絶縁膜の裏面側に配置されていてもよい。導電性部材は、第1絶縁膜と第2絶縁膜との間に配置されていてもよい。
【0012】
一実施形態の試料ホルダは、第1絶縁膜の表面上に配置され、その内側に試料を観察するための観察窓を画成するフレーム部材を更に備え、導電性部材は、電極に交流信号が印加され、電極と導電膜との間で電場が形成されたときに、静電遮蔽作用によって観察窓の外側への電場の広がりを抑制してもよい。なお、電極は、第2絶縁膜に向けて延びる長尺状を呈し、導電性部材の開口は、観察窓と電極の第2絶縁膜側の先端部との間に位置してもよい。
【0013】
一態様に係るインピーダンス顕微鏡は、表面及び裏面を有する第1絶縁膜と、第1絶縁膜の裏面に対向する表面及び裏面を有する第2絶縁膜であり、第1絶縁膜と第2絶縁膜との間に試料を配置する空間が形成された、該第2絶縁膜と、第1絶縁膜の表面上に配置された導電膜と、第2絶縁膜の裏面に対向して配置された電極と、接地電位又は一定の電位に固定された導電性部材と、導電膜に対してビームを照射しながら走査するビーム照射部と、電極に交流信号を印加する電源と、導電膜にビームを走査しつつ電極に交流信号を印加したときに、導電膜に導かれた交流信号に基づいて、試料の画像を生成する画像生成部と、を備え、導電性部材は、第1絶縁膜と電極との間に位置する開口を有する。
【0014】
本態様に係るインピーダンス顕微鏡によれば、導電膜で検出される信号のノイズ成分を低減することができる。その結果、画像のコントラスト及び空間分解能を改善することができる。
【0015】
一実施形態のインピーダンス顕微鏡は、第1絶縁膜の表面上に配置され、その内側に試料を観察するための観察窓を画成するフレーム部材を更に備え、導電性部材は、電極に交流信号が印加され、電極と導電膜との間で電場が形成されたときに、静電遮蔽作用によって観察窓の外側への電場の広がりを抑制してもよい。なお、電極は、第2絶縁膜に向けて延びる長尺状を呈し、導電性部材の開口は、観察窓と電極の第2絶縁膜側の先端部との間に位置してもよい。
【0016】
一態様に係るインピーダンス顕微鏡用の試料ホルダは、電源に接続された電極と、表面及び裏面を有する第1絶縁膜と、第1絶縁膜の表面上に配置され、その内側に試料を観察するための観察窓を画成するフレーム部材と、フレーム部材の内側で第1絶縁膜の表面に当接する導電膜と、電極と第1絶縁膜の裏面との間に配置された第2絶縁膜であり、第1絶縁膜と第2絶縁膜との間に試料を配置する収容空間を形成する、該第2絶縁膜と、電源から電極に交流信号が印加され、電極と導電膜との間で電場が形成されたときに、静電遮蔽作用によって観察窓の外側への電場の広がりを抑制する導電性部材と、を備える。
【0017】
本態様の試料ホルダでは、導電性部材の静電遮蔽作用によって試料の観察に寄与しない観察窓の外側への電場の広がりを抑制することができるので、導電膜で検出される信号に含まれるノイズ成分を低減することができる。
【0018】
一実施形態では、電極は、第2絶縁膜に向けて延びる長尺状を呈し、導電性部材は、観察窓と電極の第2絶縁膜側の先端部との間に位置する開口を有していてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様及び種々の実施形態によれば、検出信号に含まれるノイズ成分を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1実施形態に係る試料ホルダを含むインピーダンス顕微鏡を模式的に示す断面図である。
【
図2】従来のインピーダンス顕微鏡を模式的に示す断面図である。
【
図3】第2実施形態に係る試料ホルダを含むインピーダンス顕微鏡を模式的に示す断面図である。
【
図4】第3実施形態に係る試料ホルダを含むインピーダンス顕微鏡を模式的に示す断面図である。
【
図5】第4実施形態に係る試料ホルダを含むインピーダンス顕微鏡を模式的に示す断面図である。
【
図6】(a)は、実験例において取得された振幅画像であり、(b)は、実験例において取得された位相画像である。
【
図7】(a)は、比較実験例において取得された振幅画像であり、(b)は、比較実験例において取得された位相画像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本開示の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は繰り返さない。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。以下の説明では、便宜上、後述する第1絶縁膜11と導電膜14の積層方向を「上下方向」ということがある。
【0022】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る試料ホルダを含むインピーダンス顕微鏡を模式的に示す断面図である。
図1に示すインピーダンス顕微鏡1は、インピーダンス情報に基づいて試料の画像(インピーダンス画像)を生成する観察装置である。インピーダンス顕微鏡1は、当該インピーダンス顕微鏡1のステージ上に配置され、観察対象物である試料2を保持する試料ホルダ10を備えている。
【0023】
図1に示すように、試料ホルダ10は、第1絶縁膜11、第2絶縁膜12、電極13、導電膜14及び導電性部材15を備えている。これら第1絶縁膜11、第2絶縁膜、電極13、導電膜14及び導電性部材15は、外枠体16の内部に収容されている。一実施形態では、外枠体16は、上部16a及び下部16bを含んでいてもよい。例えば上部16aはアルミニウム等の導体によって構成され、下部16bはアクリル樹脂等の絶縁体によって構成されている。なお、上部16a及び下部16bは、同一の材料によって一体的に構成されていてもよい。外枠体16の上部には、開口が形成されている。
【0024】
第1絶縁膜11は、外枠体16の上部開口を閉じるように配置されている。第1絶縁膜11は、表面11a及び裏面11bを有している。第1絶縁膜11の表面11aは外枠体16の上部開口側に面しており、第1絶縁膜11の裏面11bは当該表面11aと反対側に設けられている。第2絶縁膜12は、表面12a及び裏面12bを有し、第1絶縁膜11の下方に配置されている。第2絶縁膜12の表面12aは、第1絶縁膜11の裏面11bに対向して配置されており、第2絶縁膜12の裏面12bは、当該表面12aの反対側に設けられている。すなわち、第2絶縁膜12は、第1絶縁膜11と対面している。第1絶縁膜11及び第2絶縁膜12は、高い絶縁性及び高い耐圧性を有する材料、例えば窒化シリコン(SiN)によって構成されている。
【0025】
第1絶縁膜11の裏面11bと第2絶縁膜12の表面12aとの間には、試料2を配置する収容空間Sが形成されている。収容空間Sには、観察対象物である試料2が水溶液3と共に配置される。試料2は、例えばバクテリア、ウイルス、タンパク質、及び、タンパク質複合体等の有機物試料であってもよいし、セラミックス又は金属等によって構成される粒子であってもよい。また、試料2は、牛乳やマヨネーズ等の液状食品、日焼け止めやハンドクリーム等の化粧品、又は、機械油やギヤー油等の工業用潤滑油であってもよい。
【0026】
第1絶縁膜11上には、矩形枠状のフレーム部材17が配置されている。フレーム部材17は、試料2を観察するための観察窓7をその内側に画成する。導電膜14は、フレーム部材17を介して第1絶縁膜11の表面11a上に配置されている。導電膜14は、導電性を有する薄膜であり、例えばタングステン等の金属によって構成されている。導電膜14は、例えばスパッタリング法によって第1絶縁膜11の表面11a上に形成される。
図1に示すように、観察窓7の内側領域では、導電膜14は第1絶縁膜11の表面11aに接し、観察窓7の外側領域では、導電膜14はフレーム部材17を介して第1絶縁膜11の表面11aに離間していてもよい。
【0027】
電極13は、第2絶縁膜12の下方に配置されている。
図1に示すように、電極13は、長尺状の導電性部材であり、その先端部が外枠体16の内部に配置され、その基端部が外枠体16の外部に配置されるように外枠体16の内部に挿入されている。したがって、電極13は、第2絶縁膜12に向けて延びており、その先端部は、第2絶縁膜12の裏面12bに対向している。電極13は、絶縁部材を介して外枠体16の底部に固定されている。後述するように、電極13は、電源24から交流信号を受けて、試料ホルダ10内の電極13と導電膜14との間に電場5を生成する。
【0028】
導電性部材15は、第2絶縁膜12の下方に当該第2絶縁膜12に離間して配置されている。すなわち、導電性部材15は、外枠体16の底部上に配置されている。導電性部材15は、略平板形状又は円盤形状を有し、アルミニウム又は銅といった導電性を有する材料によって構成されている。導電性部材15は、電気的に接地され、接地電位に固定されている。なお、導電性部材15は、直流電圧に接続され、一定の電位に固定されていてもよい。導電性部材15上には、封止部材18を介して第1絶縁膜11及び第2絶縁膜12が支持されている。封止部材18は、例えばOリングであり、試料ホルダ10の外部空間から収容空間Sを封止する。
【0029】
図1に示す実施形態では、導電性部材15は、電極13の周りを囲むように配置されている。電極13と導電性部材15との間には隙間が形成され、導電性部材15は電極13に対して電気的に絶縁されている。導電性部材15の略中央部には、当該導電性部材15を上下方向に貫通する貫通孔15hが形成されている。電極13の先端部は、貫通孔15hに挿入されている。貫通孔15hの導電膜14側(上側)の開口15aは、第1絶縁膜11と電極13との間に位置している。より具体的には、上下方向から見て、開口15aは、観察窓7の少なくとも一部と重なる位置に形成されている。すなわち、導電性部材15の開口15aは、観察窓7と電極13の先端部との間に位置する。後述するように、導電性部材15は、電極13と導電膜14との間に形成される電場5の領域を限定(制限)する機能を有する。導電性部材15の開口15aは、電場5の領域を観察窓7の内側に限定するような大きさを有する。言い換えれば、導電性部材15は、開口15aの周囲において電極13と後述する非観察領域8との間に介在して、電極13から非観察領域8へ向かう交流信号の経路を遮断する。
【0030】
インピーダンス顕微鏡1は、ビーム照射部22、電源24、処理部30及び制御部40を更に備えている。ビーム照射部22は、試料ホルダ10の上方に設けられており、導電膜14にビーム6を照射しつつ導電膜14の表面に沿った二次元方向に当該ビーム6を走査する。より詳細には、ビーム照射部22は、導電膜14の表面上の観察窓7に配置された領域にビーム6を走査する。観察窓7は、試料2を観察するための領域である。観察窓7の外側には、試料2の観察に寄与しない非観察領域8が形成される。
【0031】
ビーム照射部22から照射されるビーム6としては、例えば電子線、レーザー又は荷電粒子線が利用される。荷電粒子線としては、イオンビーム、中性子線及び陽電子線が例示される。ビーム6として電子線が利用される場合には、ビーム照射部22は、例えば、電子銃と偏向コイルを含む。電子銃は導電膜14に対して収束された電子線を連続的に出射し、偏光コイルは、電子線の軌道を変更して導電膜14の表面に沿って電子線を走査する。
【0032】
導電膜14の表面にビーム6が照射されると、ビーム照射位置において電子が散乱して第1絶縁膜11に吸収されることにより、第1絶縁膜11のビーム照射位置の直下の位置に局所的に絶縁性が低下した絶縁性低下領域20が形成される。すなわち、ビーム照射位置の直下の位置で第1絶縁膜11のインピーダンスが局所的に変化する。
【0033】
電源24の第1端子は、電極13に電気的に接続されている。電源24の第2端子は、接地されている。電源24は、例えば交流信号(交流電圧)を生成するファンクションジェネレータであり、当該交流信号を電極13に印加する。電源24から電極13に印加される交流信号は、例えば20Hz以上、10GHz以下の任意の周波数を有する。なお、交流信号の周波数は、インピーダンス顕微鏡1によって生成すべき画像の画素数及び撮像時間に応じて適宜設定される。
【0034】
電源24から電極13に交流信号が印加されると、電極13と導電膜14との間に電位差が生じ、電極13と導電膜14の間に電場5が形成される。電場5は、その向きが電極13に印加された交流信号の周波数に応じて周期的に変化する交流電場である。
図1に示すように、電極13が長尺状をなしている場合には、電場5は、電極13の先端部から導電膜14に向けて放射状に広がるパターンを有する。電極13と導電膜14との間で電場5が変動すると、電極13と導電膜14との間には変位電流が流れる。すなわち、電極13から導電膜14に交流信号が伝搬される。電極13から導電膜14への交流信号の伝搬経路は、電場5が形成された領域内に形成される。
【0035】
このとき、ビーム照射部22から導電膜14の表面にビーム6が照射され、第1絶縁膜11に絶縁性低下領域20が形成されていると、電極13からの交流信号の大部分は、絶縁性低下領域20を通って導電膜14に伝搬される。交流信号の残りの部分は、絶縁性低下領域20以外の経路を通って導電膜14に伝搬される。
【0036】
ここで、上述したように、導電性部材15は、電気的に接地されているので静電遮蔽作用によって電場5を遮断する。したがって、
図1に示すように、電場5は、導電性部材15を通過せずに、第1絶縁膜11と電極13との間に位置する開口15aを通過する。これにより、試料の観察に寄与しない非観察領域8への電場5の広がりが抑制される。その結果、電極13と導電膜14との間の交流信号は、主に電極13と観察窓7との間の経路を伝搬することとなり、電極13と非観察領域8との間の経路を伝搬することが抑制される。
【0037】
制御部40は、プロセッサ、記憶装置、入力装置、表示装置、通信装置等を備えるコンピュータであり、インピーダンス顕微鏡1全体の動作を制御する。制御部40は、例えば、記憶装置に記憶されているプログラムをロードし、ロードされたプログラムをプロセッサで実行することにより各種機能を実現する。制御部40では、入力装置を用いてオペレータがインピーダンス顕微鏡1を管理するためにコマンドの入力操作等を行うことができ、また、表示装置によりインピーダンス顕微鏡1の稼働状況を可視化して表示することができる。
【0038】
より具体的には、制御部40は、ビーム照射部22及び電源24と通信可能に接続され、ビーム照射部22及び電源24の動作を制御する。例えば、制御部40は、ビーム照射部22を制御して、ビーム6の出力のON/OFF及び照射位置を制御する。また、制御部40は、電源24を制御して電極13への交流信号の印加、印加の停止を制御する。
【0039】
図1に示すように、処理部30は、交流アンプ31、ロックインアンプ32、インピーダンス測定部34a、振幅測定部34b、位相測定部34c及び画像生成部35を含んでいる。交流アンプ31は、電極13から導電膜14に伝搬された交流信号を検出して増幅し、ロックインアンプ32に出力する。ロックインアンプ32は、電源24の交流信号を参照信号として受信し、交流アンプ31から出力された検出信号から電源24の交流信号の周波数成分のみを抽出し、検出信号の電流信号成分の実部と虚部の値を出力信号33として出力する。ロックインアンプ32から出力された出力信号33は、インピーダンス測定部34a、振幅測定部34b、位相測定部34cに出力される。インピーダンスは、交流の抵抗成分であるため、電源24の交流信号の電圧成分とロックインアンプ32により抽出された電流信号成分からオームの法則を利用して算出することができる。
【0040】
出力信号33の強度は、交流信号の伝搬経路のインピーダンスに応じて変化する。例えば、水溶液3が水である場合、水溶液3は80程度と比較的高い比誘電率を有する。したがって、収容空間Sにおいて電極13と絶縁性低下領域20と間に水溶液3のみが存在する場合には、電極13と絶縁性低下領域20と間のインピーダンスが小さくなり、交流信号の減衰は小さくなる。よって、ロックインアンプ32から出力される出力信号33の振幅は大きくなる。
【0041】
一方、例えば試料2がアミノ酸や脂質等から構成される生物試料である場合、試料は2~5程度と低い比誘電率を有する。したがって、
図1に示すように、収容空間Sにおいて電極13と絶縁性低下領域20と間に試料2が存在する場合には、電極13と絶縁性低下領域20と間のインピーダンスが大きくなり、交流信号の減衰が大きくなる。よって、ロックインアンプ32から出力される出力信号33の振幅が小さくなる。
【0042】
このような関係性を利用して、インピーダンス測定部34aは、出力信号33に基づいてインピーダンス情報を算出する。また、振幅測定部34b及び位相測定部34cは、出力信号に基づいて振幅情報及び位相情報を取得する。出力信号33からインピーダンス情報、振幅情報及び位相情報を算出する方法は、例えば非特許文献2に記載されるように公知である。算出されたインピーダンス情報、振幅情報及び位相情報は、画像生成部35に出力される。
【0043】
画像生成部35は、ビーム6の照射位置に対応するインピーダンス情報、振幅情報及び位相情報に基づいて、試料2の画像(インピーダンス画像、振幅画像及び位相画像)を生成する。上述のように、ビーム6は観察窓7の指定された範囲内を二次元的に走査される。画像生成部35は、ビームの照射位置に応じたインピーダンスの振幅や位相値をビーム6の照射位置に対応する2次元画像上の各位置(画素)にプロットすることで試料2の画像を形成する。なお、インピーダンス測定部34aがインピーダンス情報として、レジスタンス、インダクタンス及びコンダクタンスを個別に測定し、画像生成部35は、レジスタンス、インダクタンス及びコンダクタンスに関する画像を個別に生成してもよい。インピーダンス情報、振幅情報及び位相情報は、交流信号の伝搬経路上に存在する試料2及び水溶液3の組成によって変化するので、インピーダンス情報、振幅情報及び位相情報に基づいて生成された画像は、試料2の形状のみでなく、試料2の組成に関する情報を含んでいる。したがって、画像生成部35によって生成された画像は、試料2の組成分析に利用することが可能である。
【0044】
以上説明したように、出力信号33の強度は、電極13と絶縁性低下領域20との間に存在する物質のインピーダンスに応じて変化する。例えば、電極13と絶縁性低下領域20との間に試料2が存在するときにはインピーダンス値が大きくなり、電極13と絶縁性低下領域20との間に試料2が存在しないときにはインピーダンス値が小さくなる。インピーダンス顕微鏡1は、このようなインピーダンス値の変化に基づいて、ビーム6の照射位置に対応した画像を形成し、試料2を画像として観察することが可能である。
【0045】
図2は、従来の試料ホルダ101を備えるインピーダンス顕微鏡100を概略的に示す断面図である。
図2に示すように、電極13と導電膜14と間に形成される電場5は、電極13の先端部から導電膜14に向けて放射状に広がるパターンを有するので、インピーダンス顕微鏡100では、電場5が試料ホルダ10全体に広がり、交流信号の経路が、電極13と観察窓7との間だけでなく、電極13と非観察領域8との間にも形成される。電極13と非観察領域8との間に経路を経て導電膜14に伝搬された交流信号は、試料2の観察に寄与しないノイズやオフセット成分であり、電極13と観察窓7との間の経路を経て伝搬された信号成分の強度を相対的に低下させる。これらのノイズ又はオフセット成分は、画像生成部35によって生成される画像のコントラストや分解能を低下させる要因となる。
【0046】
これに対して、上記実施形態に係る試料ホルダ10は、開口15aを有する導電性部材15を備えている。この導電性部材15は、接地電位に接続されているので、静電遮蔽作用によって電場5を遮断する。したがって、電極13と導電膜14との間に形成される電場5は、開口15aが形成された部分のみを通過可能となり、電場5が形成される領域が限定される。導電性部材15の開口15aは、第1絶縁膜11と電極13との間に形成されているので、試料ホルダ10では、試料2の観察に寄与しない非観察領域8への電場5の広がりが抑制され、電場5の形成される領域が観察窓7の付近に限定される。かかる構成により、導電膜14で検出される信号のSN比を改善することができ、その結果、インピーダンス顕微鏡1において高コントラストの画像を得ることができる。したがって、インピーダンス顕微鏡1の空間分解能を高めることができる。
【0047】
(第2実施形態)
次に、
図3を参照して、第2実施形態に係る試料ホルダについて説明する。
図3は、第2実施形態に係る試料ホルダ10Aを含むインピーダンス顕微鏡1を模式的に示す断面図である。試料ホルダ10Aは、導電性部材15が第2絶縁膜12の裏面12b側に配置されている点で
図1に示す試料ホルダ10と相違する。以下では、第1実施形態に係る試料ホルダ10との相違点について主に説明し、重複する説明は省略する。
【0048】
図3に示すように、試料ホルダ10Aの導電性部材15は、第2絶縁膜12の裏面12bに接している。導電性部材15は、第1絶縁膜11及び第2絶縁膜12と共に封止部材18上に支持されている。導電性部材15は、電気的に接地され、接地電位に固定されている。導電性部材15は、隙間を介して電極13に離間しており、当該電極13に対して電気的に絶縁されている。導電性部材15の略中央部には、当該導電性部材15を上下方向に貫通する貫通孔15hが形成されている。貫通孔15hの上側の開口15aは、第1絶縁膜11と電極13との間に位置している。
【0049】
この試料ホルダ10Aでは、導電性部材15の静電遮蔽作用によって試料2の観察に寄与しない非観察領域8への電場の広がりを抑制し、導電膜14と電極13の間で電場5が形成される位置を電極13と観察窓7との間の領域に限定する。したがって、導電膜14において検出される信号に含まれるノイズ成分を低減させることが可能となり、高コントラストの画像を得ることができる。
【0050】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る試料ホルダについて説明する。
図4は、第3実施形態に係る試料ホルダ10Bを含むインピーダンス顕微鏡1を模式的に示す断面図である。以下では、第1実施形態に係る試料ホルダ10との相違点について主に説明し、重複する説明は省略する。
【0051】
図4に示すように、試料ホルダ10Bは、平板状の電極13を備えている。電極13は、第2絶縁膜12の裏面12bに接しており、第2絶縁膜12を介して第1絶縁膜11の裏面11bに対向している。電極13は、電源24から交流信号を受けて、導電膜14と電極13との間で電場5を形成する。
【0052】
また、試料ホルダ10Bでは、導電性部材15は、第2絶縁膜12の表面12a上に配置されている。すなわち、導電性部材15は、第1絶縁膜11と第2絶縁膜12との間に配置されている。水溶液3と導電性部材15との絶縁性を確保するために、導電性部材15の表面には、絶縁性の材料によって構成された絶縁コート層42が形成されている。導電性部材15は直流電源44に接続されている。これにより、導電性部材15は、一定の電位に固定されている。
【0053】
導電性部材15の略中央部には、当該導電性部材15を上下方向に貫通する貫通孔15hが形成されている。貫通孔15hの上側の開口15aは、第1絶縁膜11と電極13との間に位置している。一定の電位に固定された導電性部材15は、静電遮蔽作用によって電場を遮断するため、電極13と導電膜14との間で電場5の形成される領域は、開口15aが形成された領域に限定される。
【0054】
また、試料ホルダ10Bの導電膜14は、交流アンプ31を介して直流電源46に接続されている。直流電源46は、導電膜14にバイアス電圧を印加することで、ロックインアンプ32で検出される出力信号33の感度を向上させる。
【0055】
上記のように、試料ホルダ10Bは、導電性部材15の静電遮蔽作用によって試料2の観察に寄与しない非観察領域8への電場5の広がりを抑制することで電場5の形成される領域を観察窓7付近に限定する。特に、試料ホルダ10Bは、導電性部材15が第1絶縁膜11に近接して配置されているので、電場5が観察窓7のみに放射されるように電場5の範囲を正確に制御することができる。この試料ホルダ10Bを用いることにより、出力信号33のノイズ成分を低減させることが可能となり、高コントラストの画像を得ることができる。
【0056】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態に係る試料ホルダについて説明する。
図5は、第4実施形態に係る試料ホルダ10Cを含むインピーダンス顕微鏡1を模式的に示す断面図である。以下では、第1実施形態に係る試料ホルダ10との相違点について主に説明し、重複する説明は省略する。
【0057】
図5に示すように、試料ホルダ10Cは、複数の電極13を備えている。複数の電極13は、第2絶縁膜12の下方に配置され、各電極13の先端部は、第2絶縁膜12の裏面12bに対向して配置されている。複数の電極13は、第2絶縁膜12の下方に一次元的に配列されていてもよいし、二次元的に配列されていてもよい。導電性部材15は、複数の電極13の周囲を取り囲むように配置されており、導電性部材15の開口15aは、第1絶縁膜11と複数の電極13との間に位置している。
【0058】
これら複数の電極13は、複数の電源24にそれぞれ接続されている。
図1に示すように、複数の電源24は、複数の電極13にそれぞれ異なる周波数の交流信号を印加する。複数の電極13に交流信号が印加されることによって、試料ホルダ10C内の電極13と導電膜14との間には電場5が形成される。このとき、導電性部材15によって、電場5が形成される領域は開口15aが形成された領域に限定される。電場5の形成に伴って、複数の電極13から導電膜14に交流信号が伝搬される。導電膜14に伝搬される交流信号は、複数の電源24によって印加された複数の周波数成分を含む。
【0059】
処理部30は、交流アンプ31、複数の画像生成部35、複数のバンドパスフィルタ36及び三次元再構成部38を含んでいる。交流アンプ31は、導電膜14に伝搬された交流信号を増幅し、複数のバンドパスフィルタ36に出力する。複数のバンドパスフィルタ36は、交流アンプ31から出力された信号を複数の周波数成分に分離する。画像生成部35は、各周波数成分のインピーダンス情報を取得し、周波数成分毎に試料2の画像を生成する。
【0060】
複数の画像生成部35によって生成された複数の画像の各々は、複数の電極13の各位置と絶縁性低下領域20の位置とを結ぶ角度に応じた傾斜画像である。この試料ホルダ10Cでは、複数の電極13に互いに異なる周波数の交流信号を印加することによって、一回のビーム6の走査によって複数の傾斜画像を生成することができる。このように生成された複数の傾斜画像は、三次元再構成部38に出力される。三次元再構成部38は、これらの複数の傾斜画像を組み合わせることで試料2の三次元像を再構成する。
【0061】
第4実施形態に係る試料ホルダ10Cは、試料ホルダ10と同様に、出力信号のノイズ成分を低減させることが可能となり、高コントラストの画像を得ることができる。さらに、この試料ホルダ10Cでは、複数の電極13に互いに異なる周波数の交流信号を印加することによって、一回のビーム6の走査によって複数の傾斜画像を生成することができる。したがって、試料2の三次元構造解析を短時間で実行することができる。
【0062】
以下、
図6及び
図7を参照して、インピーダンス顕微鏡の実験例について説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0063】
実験例では、
図1に示すインピーダンス顕微鏡1を用いて試料2を観察した。試料2としては、第1絶縁膜11の裏面11b側に水溶液3と共に配置された直径1μmのビーズを用いた。水溶液3としては水を用いた。第1絶縁膜としては、表面11aに10nm厚のタングステン製の導電膜14が形成された50nm厚のSiN薄膜を利用した。観察窓7のサイズは、0.4mm×0.4mmとした。電極13には、500kHzの正弦波信号を印加した。外枠体16の底部には、直径1mmの開口15aを有する導電性部材15を配置した。
図6(a)は、実験例において取得された振幅画像であり、
図6(b)は、実験例において取得された位相画像である。
【0064】
一方、比較実験例では、
図2に示す従来のインピーダンス顕微鏡100を用いて試料2を観察した。
図7(a)は、比較実験例において取得された振幅画像であり、
図7(b)は、比較実験例において取得された位相画像である。比較実験例は、導電性部材15を備えていない点で実験例と相違している。比較実験例の他の実験条件は、実験例と同じとした。
【0065】
図6(a)及び
図6(b)に示すように、実験例で取得された振幅画像及び位相画像は、ノイズが少なく、試料が鮮明に写っている。一方、
図7(a)及び
図7(b)に示す振幅画像及び位相画像は、ノイズが多く、試料の像が全体的にぼやけて不鮮明である。これらの結果から、インピーダンス顕微鏡1は、従来のインピーダンス顕微鏡100よりも高い空間分解能で試料を観察できることが確認された。この結果は、導電性部材15によって電場5が形成される領域を観察窓7付近に限定することにより、検出信号に含まれるノイズ成分を低減することができたことに起因すると考えられる。
【0066】
以上、種々の実施形態に係る試料ホルダ及びインピーダンス顕微鏡について説明してきたが、上述した実施形態に限定されることなく発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形態様を構成可能である。
【0067】
例えば、上述した実施形態では、交流アンプ31は、導電膜14に接続され、電極13から導電膜14に伝搬された交流信号を検出しているが、交流アンプ31は、電極13に接続され、電極13において交流信号を検出してもよい。この場合にも、検出された交流信号から高コントラストの画像を生成することができる。
【0068】
また、試料2は水溶液3中に配置される必要はなく、試料2と異なる誘電率を有する物質又は真空中に配置されていてもよい。この場合であっても、誘電率の差から試料2の画像を生成することができる。なお、上述した種々の実施形態は、矛盾のない範囲で組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0069】
1…インピーダンス顕微鏡、2…試料、6…ビーム、10,10A,10B,10C,101…試料ホルダ、11…第1絶縁膜、11a…表面、11b…裏面、12a…表面、12b…裏面、12…第2絶縁膜、13…電極、14…導電膜、15…導電性部材、15a…開口、22…ビーム照射部、24…電源、35…画像生成部。