(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】水硬性組成物、水硬性組成物の製造方法、成形体、硬化物、及び硬化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20240815BHJP
C04B 14/26 20060101ALI20240815BHJP
C04B 16/00 20060101ALI20240815BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20240815BHJP
C04B 24/04 20060101ALI20240815BHJP
B28C 7/04 20060101ALI20240815BHJP
C04B 41/65 20060101ALI20240815BHJP
C04B 14/28 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B14/26
C04B16/00
C04B22/10
C04B24/04
B28C7/04
C04B41/65
C04B14/28
(21)【出願番号】P 2020145831
(22)【出願日】2020-08-31
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】田坂 行雄
(72)【発明者】
【氏名】三浦 大輔
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-167042(JP,A)
【文献】特開2002-003267(JP,A)
【文献】特開昭62-207746(JP,A)
【文献】特開2016-179912(JP,A)
【文献】特開2013-014453(JP,A)
【文献】特開2009-190937(JP,A)
【文献】国際公開第2020/040243(WO,A1)
【文献】特開平7-232956(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
B28C 1/00- 9/04
C04B 41/00-41/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、
炭酸塩及び炭酸エステルからなる群から選択される少なくとも一種のカーボネートと、を含み、
前記カーボネートの含有量が、前記セメント100質量部に対して、30質量部以上であり、
前記炭酸塩が、一価の陽イオンと炭酸イオン又は重炭酸イオンとの塩であり、且つ20℃における100mlの水に対する溶解度が1g以上である、水硬性組成物。
【請求項2】
前記炭酸塩が、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、及び炭酸カリウムからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項3】
前記炭酸エステルは、下記式(I)で表される化合物、及び下記式(II)で表される化合物の少なくとも一種である、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【化1】
【化2】
(式(I)中、R
1及びR
2はそれぞれ独立に1~4個の炭素原子を含む一価の炭化水素基(当該一価の炭化水素基は、ハロゲン原子、水酸基、又は1~3個の炭素原子を有するアルコキシ基により置換されていてもよい。)であり、式(II)中、R
3は2~4個の炭素原子を含む二価の炭化水素基(当該二価の炭化水素基は、ハロゲン原子、水酸基、又は1~3個の炭素原子を有するアルコキシ基により置換されていてもよい。)である。)
【請求項4】
前記炭酸エステルが、炭酸エチレン、炭酸プロピレン及びグリセロール1,2-カーボネートのうち少なくとも一種である、請求項1~3のいずれか一項に記載の水硬性組成物。
【請求項5】
前記カーボネートの含有量が、前記セメント100質量部に対して、
50質量部以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の水硬性組成物。
【請求項6】
前記カーボネートの含有量が、前記セメント100質量部に対して
、200質量部
以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の水硬性組成物。
【請求項7】
セメントと、炭酸塩及び炭酸エステルからなる群から選択される少なくとも一種のカーボネートとを含む混合物を調製する工程と、
前記混合物に水を添加する工程と、を含み、
前記炭酸塩が、一価の陽イオンと炭酸イオン又は重炭酸イオンとの塩であり、且つ
、20℃における100mlの水に対する溶解度が1g以上であ
り、前記カーボネートの含有量が前記セメント100質量部に対して30質量部以上である、水硬性組成物の製造方法。
【請求項8】
炭酸塩及び炭酸エステルからなる群から選択される少なくとも一種のカーボネートを含む水溶液又は水分散液をセメントに添加する工程を含み、
前記炭酸塩が、一価の陽イオンと炭酸イオン又は重炭酸イオンとの塩であり、且つ
、20℃における100mlの水に対する溶解度が1g以上であ
り、前記カーボネートの含有量が前記セメント100質量部に対して30質量部以上である、水硬性組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載の水硬性組成物の成形体であって、表面にくぼみを有する、成形体。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか一項に記載の水硬性組成物、又は請求項9に記載の成形体の硬化物である、硬化物。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか一項に記載の水硬性組成物、又は請求項9に記載の成形体から形成された硬化物であって、
セメントが硬化して形成されたセメント硬化体と、当該セメント硬化体の表面のくぼみ内に形成された堆積物とを含む、硬化物。
【請求項12】
前記堆積物が炭酸カルシウムを含む、請求項11に記載の硬化物。
【請求項13】
硬化物の製造方法であって、
請求項1~6のいずれか一項に記載の水硬性組成物、又は請求項9に記載の成形体を硬化して、5N/mm
2以上の圧縮強度を有するセメント硬化体を得る工程と、
前記セメント硬化体を、炭酸イオンと不溶性の塩を形成する陽イオンを含む水溶液と接触させる工程と、を含む、硬化物の製造方法。
【請求項14】
硬化物の製造方法であって、
セメントと、炭酸塩及び炭酸エステルからなる群から選択される少なくとも一種のカーボネートと、を含み、前記炭酸塩が、一価の陽イオンと炭酸イオン又は重炭酸イオンとの塩であり、且つ20℃における100mlの水に対する溶解度が1g以上である、水硬性組成物、又はその成形体を硬化して、5N/mm
2
以上の圧縮強度を有するセメント硬化体を得る工程と、
前記セメント硬化体を、炭酸イオンと不溶性の塩を形成する陽イオンを含む水溶液と接触させる工程と、を含む、硬化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物、水硬性組成物の製造方法、成形体、硬化物、及び硬化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造材又は構造物の耐久性を向上させる分野では、様々な技術が開発されている。特許文献1には、構造を形成するための母材と、上記母材の内部又は表面に存在し、上記母材が配設される環境の温度における水に対する溶解度が第1の値以下である難溶性塩を構成する陽イオンと陰イオンの少なくとも一方を供給するイオン供給源と、を備えることを特徴とする構造材が提案されている。また、非特許文献1には、特許文献1の原理について記載されている。
【0003】
また、微細な亀裂を止水するために様々な技術が開発されている。特許文献2では、カルシウムイオンリッチの第一水溶液と、炭酸イオン含有の第二水溶液とからなり、両液の混合により炭酸カルシウムが析出するグラウト液について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2020/040243号公報
【文献】特開2006-249294号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Hidekazu Yoshida et al., Scientific Reports volume 5, Article number: 14123 (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、ツノガイに係るコンクリーションと呼ばれる球状の塊が形成されるメカニズムをセメント系の構造材などの分野に応用しようとしていることは記載されている。しかしながら、特許文献1には、実際に、セメントを含む組成物を用いた実験例及び具体的な組成などについての説明が一切記載されていない。そのため、特許文献1に接した当業者であっても、セメント含む組成物にコンクリーションを応用する場合、どのような組成、構造、物性等を有するものが適切であるについて読み取ることができない。また、セメントを含む組成物、構造材等の適切な製造方法についても読み取ることができない。
【0007】
なお、特許文献1及び非特許文献1は、それぞれ同じ研究者を主体とした特許出願及び学術論文である。特許文献1及び非特許文献1によれば、海水に由来するカルシウムイオン(Ca2+)と、ツノガイの脂肪酸分解に由来する炭酸種とが、pHの変化する反応フロントで急速に反応することで炭酸カルシウム(CaCO3)を急速に析出し、ツノガイはコンクリーションを形成することが記載されている。なお、反応フロントは、海水のpH8.6程度と、ツノガイ内部のpH4~5程度との境界である。
【0008】
一方、例えば、セメント、コンクリートは通常アルカリ性であり、非特許文献1の実験例とは環境が大きく異なる。そのため、当業者であっても、酸性のツノガイと同様に反応フロントが形成されると理解することはできない。なお、二酸化炭素(CO2)、重炭酸イオン(HCO3
-、炭酸水素イオンとも言う)、炭酸イオン(CO3
2-)といった炭酸種は、pHに応じて存在比率が変化する。pH7以下程度といった低pH域では二酸化炭素が多くなる。pH7~11程度といった中pH域では重炭酸イオンが多くなる。pH11以上程度といった高pH域では炭酸イオンが多くなる。非特許文献1には、ツノガイの脂肪酸が分解され、酸性環境下中で二酸化炭素が放出され、反応フロントにおいて二酸化炭素が重炭酸イオンとなることが記載されている。これにより、重炭酸イオンと、カルシウムイオンとが反応し、コンクリーションが形成される。例えば、二酸化炭素の分子サイズは、炭酸イオンのイオンサイズと比べて、小さい。これにより、反応フロントへの炭酸種の拡散速度に影響を与え、形成される炭酸カルシウムの形態、物性が変化すると推測されるがその影響について特許文献1には記載されていない。
【0009】
そこで、本発明者は、コンクリーションの形成に有効な組成、構造、物性、製造方法等を検討することで、鋭意検討することにより、圧縮強度の向上に有効な水硬性組成物を開発するに至った。すなわち、本発明は、硬化物の圧縮強度を向上させることができる水硬性組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、硬化物の圧縮強度を向上させることができる水硬性組成物の製造方法、並びにそのような水硬性組成物の硬化物、成形体、及び硬化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の水硬性組成物は、セメントと、炭酸塩及び炭酸エステルからなる群から選択される少なくとも一種のカーボネートと、を含み、炭酸塩が、一価の陽イオンと炭酸イオン又は重炭酸イオンとの塩であり、且つ20℃における100mlの水に対する溶解度が1g以上である。
【0011】
上記炭酸塩が、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、及び炭酸カリウムからなる群から選択される少なくとも一種であると好ましい。
【0012】
上記炭酸エステルは、下記式(I)で表される化合物、及び下記式(II)で表される化合物の少なくとも一種であると好ましい。
【化1】
【化2】
(式(I)中、R
1及びR
2はそれぞれ独立に1~4個の炭素原子を含む一価の炭化水素基(当該一価の炭化水素基は、ハロゲン原子、水酸基、又は1~3個の炭素原子を有するアルコキシ基により置換されていてもよい。)であり、式(II)中、R
3は2~4個の炭素原子を含む二価の炭化水素基(当該二価の炭化水素基は、ハロゲン原子、水酸基、又は1~3個の炭素原子を有するアルコキシ基により置換されていてもよい。)である。)
【0013】
上記炭酸エステルが、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、及びグリセロール1,2-カーボネートのうち少なくとも一種であると好ましい。
【0014】
上記カーボネートの含有量が、セメント100質量部に対して、3質量部以上であると好ましい。
【0015】
上記カーボネートの含有量が、セメント100質量部に対して、10~200質量部であると好ましい。
【0016】
本発明の水硬性組成物の製造方法は、セメントと、炭酸塩及び炭酸エステルからなる群から選択される少なくとも一種のカーボネートとを含む混合物を調製する工程と、当該混合物に水を添加する工程と、を含み、炭酸塩が、一価の陽イオンと炭酸イオン又は重炭酸イオンとの塩であり、且つ20℃における100mlの水に対する溶解度が1g以上である。
【0017】
また、本発明の水硬性組成物の製造方法は、炭酸塩及び炭酸エステルからなる群から選択される少なくとも一種のカーボネートを含む水溶液又は水分散液をセメントに添加する工程を含み、炭酸塩が、一価の陽イオンと炭酸イオン又は重炭酸イオンとの塩であり、且つ20℃における100mlの水に対する溶解度が1g以上であってもよい。
【0018】
本発明の成形体は、上記水硬性組成物の成形体であって、表面にくぼみを有する。
【0019】
本発明の硬化物は、上記水硬性組成物又は成形体の硬化物である。
【0020】
本発明の硬化物は、上記水硬性組成物又は成形体から形成された硬化物であって、セメントが硬化して形成されたセメント硬化体と、当該セメント硬化体の表面のくぼみ内に形成された堆積物とを含む。
【0021】
上記堆積物が炭酸カルシウムを含むと好ましい。
【0022】
本発明の硬化物の製造方法は、上記水硬性組成物又は成形体を硬化して、5N/mm2以上の圧縮強度を有するセメント硬化体を得る工程と、当該セメント硬化体を、炭酸イオンと不溶性の塩を形成する陽イオンを含む水溶液と接触させる工程と、を含む。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、硬化物の圧縮強度を向上させることができる水硬性組成物を提供することができる。また、本発明によれば、硬化物の圧縮強度を向上させることができる水硬性組成物の製造方法、並びにそのような水硬性組成物の硬化物、成形体、及び硬化物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【発明を実施するための形態】
【0025】
<水硬性組成物>
本実施形態の水硬性組成物は、セメントと、炭酸塩及び炭酸エステルからなる群から選択される少なくとも一種のカーボネートと、を含み、炭酸塩が、一価の陽イオンと炭酸イオン又は重炭酸イオンとの塩であり、且つ20℃における100mlの水に対する溶解度が1g以上である。なお、本明細書において、カーボネート(carbonate)は、炭酸塩及び炭酸エステルの両方を含む概念である。
【0026】
本実施形態の水硬性組成物は、セメントを含むため、セメント組成物であるとも言える。本実施形態の水硬性化合物は、セメントと共にカーボネートを含む。カーボネートが炭酸塩であれば、水中で分解されることにより、炭酸イオンが放出される。また、カーボネートが炭酸エステルであれば、塩基性であるセメントの成分と反応して加水分解され、炭酸イオンを放出すると考えられる。そのため、本実施形態の水硬性組成物は、使用時に、セメントの水硬反応により硬化させることができると共に、更に、当該硬化後又は硬化中の水硬性化合物を、水硬性組成物から放出される炭酸イオンが不溶性の炭酸塩を形成する環境(例えば、海水中など)に置くことにより、不溶性の炭酸塩を表面に析出させて(つまり、コンクリーションが形成されることにより)向上した強度を有する硬化物(つまり、複合材)を得ることができる。
なお、上述の炭酸イオンは、水のpHに応じて重炭酸イオンまたは二酸化炭素に変化する。
【0027】
また、上記不溶性の炭酸塩は、水硬性組成物の表面から放出される炭酸イオンが表面から拡散することにより硬化物の表面に形成される。そのため、本実施形態の水硬性組成物は、硬化中などに表面に亀裂、ひび割れ等が生じても、形成される不溶性の炭酸塩が当該亀裂等を埋めて修復する性質を有する(つまり、自己修復性を有する)。また、硬化収縮等により、硬化の際に周囲の構造物との間に隙間ができた場合であっても、当該自己修復性により、隙間を埋めることができ、周囲の構造物との密着性の低下を抑制することができる。また、これらの性質から、本実施形態の水硬性組成物は、注入剤としても有用である。
【0028】
セメントとしては特に限定されず、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント等のポルトランドセメント;高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント等の混合セメント;エコセメント、超速硬セメント、アルミナセメント、リン酸セメント、気硬性セメント等のその他セメントなどから1種又は2種以上を選択して用いることができ、また、これらのセメントにカルシウムアルミネート、石膏等を更に添加したものもセメントとして使用できる。
【0029】
炭酸塩は、正塩及び炭酸水素塩のいずれであってもよいが、水素イオンを放出して酸性化合物を生じる虞のない正塩であるとより好ましい。正塩である炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属炭酸塩、炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)などが挙げられる。炭酸水素塩としては、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ルビジウム、炭酸水素セシウム等のアルカリ金属炭酸水素塩、炭酸水素アンモニウム(NH4HCO3)などが挙げられる。
【0030】
炭酸塩は、1種のみを使用してもよく、又は2種以上を併用してもよい。炭酸塩は、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、及び炭酸カリウムからなる群から選択される少なくとも一種であると好ましい。
【0031】
炭酸エステルとしては、特に制限はない。炭酸エステルの分子量は、200以下であると好ましく、170以下であるとより好ましく、150以下であると更に好ましい。より具体的には、以下の式(I)で表される炭酸エステル、及び式(II)で表される炭酸エステルが挙げられる。
【0032】
【化3】
【化4】
(式(I)中、R
1及びR
2はそれぞれ独立に1~4個の炭素原子を含む一価の炭化水素基(当該一価の炭化水素基は、ハロゲン原子、水酸基、又は1~3個の炭素原子を有するアルコキシ基により置換されていてもよい。)であり、式(II)中、R
3は2~4個の炭素原子を含む二価の炭化水素基(当該二価の炭化水素基は、ハロゲン原子、水酸基、又は1~3個の炭素原子を有するアルコキシ基により置換されていてもよい。)である。)
【0033】
上記一価の炭化水素基は、アルキル基であってよく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基等が挙げられる。R1及びR2が置換基を有する場合、置換基の個数は、1又は2個であってよく、1個であってよい。置換基としては、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子、水酸基、メトキシ基等のアルコキシ基が挙げられる。
【0034】
式(I)で表される炭酸エステルとしては、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジブチル、炭酸エチルメチル、炭酸アリルメチル、炭酸アリルエチル、炭酸1-クロロエチルエチル、炭酸クロロメチルイソプロピル、炭酸1-クロロエチルイソプロピル等が挙げられる。
【0035】
上記二価の炭化水素基は、アルキレン基であってよく、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基等が挙げられる。R3が置換基を有する場合、置換基の個数は、1又は2個であってよく、1個であってよい。置換基としては、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子、水酸基、メトキシ基等のアルコキシ基が挙げられる。
【0036】
式(II)で表される炭酸エステルとしては、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、1,3-ジオキサン-2-オン、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4-クロロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4-ビニル-1,3-ジオキソラン-2-オン、4-メトキシ-1,3-ジオキソラン-2-オン、グリセロール1,2-カーボネート、炭酸ビニレン等が挙げられる。
【0037】
炭酸エステルは、1種のみを使用してもよく、又は2種以上を併用してもよい。炭酸エステルは、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、及びグリセロール1,2-カーボネートの少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0038】
水硬性組成物におけるカーボネートの含有量は、コンクリーションの形成量を増加させ、硬化物の強度、注入材の体積、硬化物の自己修復性等を向上させる観点から、例えば、セメントの含有量100質量部に対して、3質量部以上であると好ましく、5質量部以上であるとより好ましく、10質量部以上であると更に好ましく、20質量部以上であるとより更に好ましく、30質量部以上であるとなおさら好ましく、40質量部以上であると一層好ましく、50質量部以上であると特に好ましい。また、かかる範囲であると、経済性の観点からも好ましい。
また、水硬性組成物におけるカーボネートの含有量は、セメントの強度と、コンクリーションの強度とのバランスを維持する観点から、例えば、セメントの含有量100質量部に対して、200質量部以下であると好ましく、150質量部以下であるとより好ましく、120質量部以下であると更に好ましく、110質量部以下であるとより更に好ましく、100質量部以下であると特に好ましい。
上記水硬性組成物におけるカーボネートの含有量の上限及び下限は任意に組み合わせてよい。水硬性組成物におけるカーボネートの含有量は、例えば、セメントの含有量100質量部に対して、例えば、3~200質量部とすることが好ましく、10~200質量部とすることがより好ましい。
【0039】
また、カーボネートの含有量は、コンクリーションの形成量を増加させ、硬化物の強度、注入材の体積、硬化物の自己修復性等を向上させる観点から、例えば、水硬性組成物100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、6質量部以上であることがより好ましく、7質量部以上であることがさらに好ましく、8質量部以上であることが一層好ましく、9質量部以上であることが特に好ましい。
また、カーボネートの含有量は、セメントの強度と、コンクリーションの強度とのバランスを維持する観点から、例えば、水硬性組成物100質量部に対して、30質量部以下であると好ましく、25質量部以下であるとより好ましく、20質量部以下であると更に好ましく、18質量部以下であると一層好ましい。
上記水硬性組成物におけるカーボネートの含有量の上限及び下限は任意に組み合わせてよい。水硬性組成物におけるカーボネートの含有量は、例えば、水硬性組成物100質量部に対して、例えば、5~30質量部とすることが好ましい。
【0040】
水硬性組成物は、セメントと、炭酸供給源以外のその他の材料を、用途に応じて適宜含有することができる。
その他の材料としては、具体的には、骨材、混合材料などが挙げられる。
【0041】
本実施形態の水硬性組成物に用いられる骨材としては限定されない。
骨材としては、具体的には、川砂、山砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、天然エメリー砂等の天然細骨材;スラグ細骨材、フライアッシュを焼成してなる焼成細骨材、人工エメリー砂、アルミナ、炭化ケイ素及び炭化ホウ素等の炭化物の粗砕物等の人工細骨材、石灰石の細骨材又は粗骨材などから1種または2種以上を選択して用いることができる。骨材の含有量としては、セメント100質量部に対して100~800質量部であると好ましく、200~600質量部であるとより好ましい。
【0042】
本実施形態の水硬性組成物は、所望の物性、用途に応じて適宜混和材料を含んでよい。
混和材料としては、具体的には、収縮低減剤、AE剤、AE減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、減水剤、高性能減水剤、水中コンクリート混和剤、増粘剤、遅延剤、水和熱抑制剤、防水剤、防錆剤、水和促進剤、急結剤、防凍剤、消泡剤、石灰石、フライアッシュ、シリカヒューム、ポゾラン、高炉スラグ、金属繊維ケイ酸質微粉末、膨張剤、高強度混和剤、ポリマー混和剤、着色剤、鉱物質微粉末等が挙げられる。混和材料としては、上記したもののうち1種または2種以上を含むことができる。
混和剤としては、例えば、水中コンクリート混和材又は増粘剤が好ましい。
【0043】
本実施形態の水硬性組成物は、水を添加していない乾式組成物であってもよく、水を添加した湿式組成物であってもよい。なお、本明細書では、カーボネートとして含まれる炭酸エステルが液体であっても水硬性組成物に水を添加していなければ乾式組成物とする。また、水硬性組成物は、モルタル組成物、コンクリート組成物、グラウト組成物等の各種組成物のいずれであってもよい。
【0044】
水硬性組成物が水を含む場合、硬化物の強度をより向上させる観点から、水硬性組成物におけるW/C(セメントに対する水の質量比(%))は、30~150%であると好ましく、40~120%であるとより好ましく、50~100%であると更に好ましい。また、水硬性組成物における水に対するカーボネートの質量比(%)は、30~150%であると好ましく、50~120%であると更に好ましい。
【0045】
<水硬性組成物の製造方法>
以下、本実施形態の水硬性組成物の製造方法について説明する。
本実施形態の水硬性組成物の製造方法は、セメント、カーボネート及び任意成分である骨材、混和材料等のその他の材料、並びに任意に水を混合して水硬性組成物を調製できる方法であれば特に制限はない。そのような製造方法としては、例えば、セメントにカーボネート及び水を添加するタイミングが異なる以下の2種の方法(後添加方法及び前添加方法)を挙げることができる。
(1)セメントと、炭酸塩及び炭酸エステルからなる群から選択される少なくとも一種のカーボネートとを含む混合物を調製する工程と、当該混合物に水を添加する工程と、を含み、上記炭酸塩が、一価の陽イオンと炭酸イオン又は重炭酸イオンとの塩であり、且つ20℃における100mlの水に対する溶解度が1g以上である、製造方法(後添加方法)。
(2)炭酸塩及び炭酸エステルからなる群から選択される少なくとも一種のカーボネートを含む水溶液又は水分散液をセメントに添加する工程を含み、上記炭酸塩が、一価の陽イオンと炭酸イオン又は重炭酸イオンとの塩であり、且つ20℃における100mlの水に対する溶解度が1g以上である、製造方法(前添加方法)。
【0046】
後添加方法では、まず、セメントと、カーボネートと、任意にその他の成分とを、所望の配合比となるように混合して混合物を調製する。混合物を調製する方法としては、特に制限されず、ミキサー、ボールミル等による粉砕混合が挙げられる。次いで、調製された混合物に水を添加して水硬性組成物を調製する。水と混合物との混合は、ミキサー、ボールミル等により行ってよい。なお、その他の成分は、上記のとおり、水の添加前に混合物に配合してもよいが、水の添加後に混合物に配合してもよいし、水と共に混合物に添加してもよく、これらを組み合わせてもよい。その他の成分として骨材を使用する場合、予め粉砕してからセメント及びカーボネートと混合してもよいし、セメント及びカーボネートと混合して一緒に粉砕混合してもよく、これらを組み合わせてもよい(例えば、骨材の一部をセメント及びカーボネートを含む混合物と共に粉砕混合した後、残りの骨材を別途粉砕して混合物に添加してもよい)。
【0047】
前添加方法では、セメントに、予め調製したカーボネートを含む水溶液又は水分散液を添加する。なお、水分散液は、カーボネートの水溶液と溶け残った固体(粉末等)のカーボネートとを含む分散系であり、例えば、懸濁液であってよい。その他の材料は、水溶液又は水分散液をセメントに添加する前にセメントに配合してもよいし、水溶液又は水分散液と共に又は水溶液又は水分散液を添加した後に配合してもよい。その他の成分として骨材を使用する場合、水溶液又は水分散液を添加する前又は後に、予め粉砕してからセメントと混合してもよいし、セメントと一緒に粉砕混合してもよく、これらを組み合わせてもよい(例えば、骨材の一部をセメント及びカーボネートを含む混合物と共に粉砕混合した後、残りの骨材を別途粉砕して混合物に添加してもよい)。セメントと、カーボネートを含む水溶液又は水分散液と、任意成分であるその他の材料との混合は、ミキサー、ボールミル等により行ってよい。
【0048】
製造された水硬性組成物は、水と、セメントと、カーボネートと、その他の成分とを混錬して得られた混錬された組成物であってよい。つまり、本実施形態の水硬性組成物は、水と、セメントと、カーボネートとを含む混錬組成物であってよい。
【0049】
水硬性組成物の製造方法としては、例えば、後添加方法を用いることが好ましい。これにより、コンクリーションを形成した硬化物の強度を向上できる。詳細なメカニズムは明らかではないが、水硬性組成物中の炭酸種供給源の分散性が向上し、コンクリーションの形成速度が均一になるためと推測される。
【0050】
<成形体>
本実施形態の成形体は、水を含む上記水硬性組成物を所定の形状に成形したもの(すなわち、セメント系成形体)である。成形体は、養生前の成形体を指す。
【0051】
成形体を得る方法としては、特に制限されず、公知の方法により打設を行うことにより得ることができる。例えば、コンクリート打設用の型枠に水硬性組成物を流し込み、型枠内で水硬性組成物を成形する方法が挙げられる。鉄筋コンクリート、鉄骨コンクリート等を得る場合には、型枠内の所定の位置に鉄筋等の芯材を配置してから打設を行ってよい。
【0052】
本実施形態の成形体は、その表面に一つ又は複数のくぼみを有していてもよい。
【0053】
<硬化物>
水硬性組成物、又は上記成形体を硬化することにより硬化物が得られる。硬化物は、水硬反応により、形成されたセメント硬化体と、セメント硬化体の表面の少なくとも一部にコンクリーションにより形成された堆積物を含む。つまり、当該硬化物は、セメント硬化体と堆積物とを含む複合材である。なお、セメント硬化体は、セメントが固化したセメント固化体であってもよく、セメントが不完全にしか硬化していない(まだ固化していない)部分硬化体であってもよい。
【0054】
堆積物は、不溶性の炭酸塩を含み、セメント硬化体の成分の一部、又は効果を行った際に存在する周囲の物質(土等)を含んでいてもよい。
【0055】
なお、不溶性の炭酸塩は、水に難溶又は不溶の塩である。不溶性の炭酸塩の溶解度は、20℃において100mlの水に対して1g未満であり、0.1g以下であると好ましく、0.05g以下であるとより好ましく、0.01g以下であると更に好ましい。不溶性の炭酸塩としては、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム等のアルカリ土類金属炭酸塩、遷移金属炭酸塩等が挙げられ、強度の観点から炭酸カルシウムが好ましい。
【0056】
<硬化物の製造方法>
硬化物の製造方法としては、特に制限されず、水硬性組成物又は成形体にセメントを硬化させるための水硬反応を行うことと、コンクリーションの形成を行うこととを含む方法であればよい。そのような方法としては、例えば、上記水硬性組成物又は成形体を水硬反応により硬化して、5N/mm2以上の圧縮強度を有するセメント硬化体を得る工程(養生工程)と、当該セメント硬化体を、炭酸イオンと不溶性の塩を形成する陽イオンを含む水溶液と接触させる工程(析出工程)と、を含む製造方法が挙げられる。
【0057】
上記製造方法では、例えば、まず、上記水硬性組成物又は成形体に養生を行って、セメント硬化体を得る。養生方法としては特に制限されず、水中養生、封緘養生等の各種養生工程が行える。セメント硬化体は、上述のとおり、セメントの水硬反応により得られた硬化体である。養生工程は、セメント硬化体の圧縮強度が5N/mm2以上となるまで行う。養生工程で得られるセメント硬化体の圧縮強度は、6N/mm2以上としてもよく、7N/mm2以上としてもよい。また、セメント硬化体の圧縮強度としては、例えば、100N/mm2以下であってもよい。圧縮強度は、例えば、JIS A 1108-2006「コンクリートの圧縮試験方法」に記載されている方法により測定することができる。
【0058】
析出工程では、養生工程で得られたセメント硬化体を、炭酸イオンと不溶性の塩を形成する陽イオンを含む水溶液と接触させる。このような陽イオンとしては、マグネシウムイオン、バリウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン等のアルカリ土類金属イオン、銅イオン(I)、鉄イオン(III)等の遷移金属イオン等が挙げられ、硬化物の強度をより向上させる観点から、カルシウムイオンが好ましい。
【0059】
炭酸イオンと不溶性の塩を形成する陽イオンを含む水溶液は、水にそのような陽イオンを含む水溶性の塩を添加することにより調製できる。水溶性の塩としては、例えば、塩化カルシウム等が挙げられる。また、炭酸イオンと不溶性の塩を形成する陽イオンを含む水溶液としては、海水、地下水、浸出水など、水硬性組成物又は成形体を使用する環境に存在する天然の水溶液であってよい。
【0060】
析出工程では、セメント硬化体の表面から放出される炭酸イオンが周囲の水溶液中に含まれる陽イオンと不溶性の塩を形成してセメント硬化体の表面に堆積する(固着する)。セメント硬化体の表面に固着した堆積物により硬化物(複合材)の強度がより高められる。セメント硬化体の表面の一部を炭酸イオンと不溶性の塩を形成する陽イオンを含む水溶液と接触させてもよく、セメント硬化体の全表面を炭酸イオンと不溶性の塩を形成する陽イオンを含む水溶液と接触(例えば、浸漬)させてもよい。
【0061】
特に、セメント硬化体が表面にくぼみを有する上記成形体の硬化物である場合、セメント硬化体の表面にもくぼみが存在する。析出工程において、当該くぼみの内側の空間は表面から放出される炭酸イオンの濃度が高まりやすく、不溶性の炭酸塩の形成が起こりやすい。そのため、セメント硬化体のくぼみには、不溶性の炭酸塩が多く析出しやすく、表面に存在するくぼみの一部または全部は、堆積物により埋設される。これにより、より確実に硬化物の強度を向上させることができる。なお、セメント硬化体のくぼみのサイズとしては、直径(開口径)が0.1mm~5.0mm、深さ0.1mm~2.0mmであると好ましい。
【0062】
本実施形態の硬化物の製造方法では、より強度に優れた硬化物が得られやすい。詳細なメカニズムは明らかではないが、圧縮強度を高めてから海水中に配置することで炭酸イオンの拡散速度を遅くし、コンクリーション形成に適切な拡散速度とすることできると推測される。これにより、形成されたCaCO
3が簡単に拡散することが無くなり、硬化物の強度を向上し、また、注入材としての役割を果たすことができる(
図2を参照)。
【0063】
セメント硬化体の水硬反応が進み、セメント硬化体が固化するまで、析出反応を行うことができる。また、析出工程の後、別途、セメント硬化体を固化させるための養生を行ってもよい。硬化物は、所定の形状を有するコンクリート構造体、モルタル構造体等のセメント系構造体であってよい。セメント系構造体としては、例えば、消波ブロック、各種建材等が挙げられる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0065】
<構造体の強度測定>
(実施例1)
表1に記載の量の普通ポルトランドセメントと、石灰石と、炭酸カリウムと、水とをそれぞれ準備した。なお、以下の実施例1、及び比較例1では、水として水道水を用いた。
まず、普通ポルトランドセメントと、石灰石とをミキサーを用いて混合し、混合物を調製した。次いで、水に、炭酸カリウム(K2CO3)を溶解させた水溶液を準備した。この水溶液を、上記混合物に添加し、水硬性組成物を調製した。水硬性組成物は、速やかに10mm×10mm×60mmの型枠に流し込まれた。水硬性組成物は、始発~終結の間に表面仕上げして、1N/mm2程度の圧縮強度が得られた時点で脱型し、封緘養生をして十分に硬化反応させ、実施例1のセメント硬化体を得た。
【0066】
(比較例1)
表1に記載の量の普通ポルトランドセメントと、石灰石と、水とをそれぞれ準備した。
まず、普通ポルトランドセメントと、石灰石とをミキサーを用いて混合し、混合物を調製した。次いで、混合物に水を添加し、水硬性組成物を調製した。次いで、実施例1~2と同様の方法で、比較例1のセメント硬化体を得た。
【0067】
(硬化物の作製)
実施例1及び比較例1の硬化物を、海水3000gに対して塩化カルシウム50gを添加した疑似海水中に配置し、構造体の供試体を作製した。実施例1の供試体では、表面に白色の堆積物(析出物)が形成され、広角X線回折測定により、当該堆積物が炭酸カルシウムであることを確認した。
【0068】
(圧縮強度)
圧縮強度の測定は以下の手順で行った。
実施例1及び比較例の硬化物の供試体に対して、圧縮強度の試験を行った。圧縮強度の試験は、硬化物の供試体を疑似海水中に配置してから3日、7日、28日の時点で行った。
圧縮強度の試験方法は、JIS A 1108-2006「コンクリートの圧縮試験方法」に記載されている方法に従った。
試験結果を下記表1に示す。
【0069】
【0070】
表1に示す通り、実施例1は、比較例1と比べて、圧縮強度が向上したことがわかった。
また、実施例1は、硬化物の供試体表面に白色の固体が固着していることが確認された。これはCaCO3であると考えられ、注入材としての役割と、自己修復性とを発揮することがわかる。
【0071】
<硬化物の強度とコンクリーションとの関係>
次いで、海水中に配置する前のセメント硬化体の強度と、コンクリーションとの関係について評価を行った。
【0072】
(実施例2)
実施例1と同様に、水硬性組成物を調製した。水硬性組成物は、調製後、速やかに直径4mmの球体形成用の型枠に流し込み、初期養生を行った。初期養生の開始から終了までの間に水硬性組成物に対して表面仕上げをした。型枠中で硬化性組成物がある程度硬化したところで、脱型して成形体を得た。得られた成形体に、更に1日封緘養生を行って、1N/mm
2の圧縮強度を有するセメント硬化体を得た。
次いで、海水3000gに対して塩化カルシウム50gを添加した疑似海水を用意した。用意した疑似海水中に1日上記セメント硬化体を沈め、コンクリーションを形成させて硬化物を得た。得られた硬化物の写真を
図1に示す。なお、セメント硬化体は、
図1にも示すとおり、全表面が疑似海水と接触するように針金でできた台座で固定した。
【0073】
(実施例3)
封緘養生を7日間行って7N/mm
2の圧縮強度を有するセメント硬化体を得たこと以外は、実施例2と同様にセメント硬化体を製造した。疑似海水中に7日間上記セメント硬化体を沈め、コンクリーションを形成させて硬化物を得た。得られた硬化物の写真を
図2に示す。なお、
図2は、セメント硬化体を7日間疑似海水中に沈めた後に撮影した写真であるが、1日経過時点で
図2とほぼ変わらない程度にコンクリーションが形成されていた。
【0074】
図1及び2に示すように、実施例2及び3のいずれの硬化物においても、セメント硬化体の表面に白色の堆積物が形成された。なお、いずれの硬化物においても広角X線回折測定により、当該堆積物が炭酸カルシウムであることを確認した。
図1に示すように、実施例2の硬化物における堆積物は霜状に堆積し、やや柔らかいものであった。これは、セメント硬化体の硬化の程度が、疑似海水中と接触させた際にあまり進んでいない状態(つまり、圧縮強度がまだあまり高まっていない状態)であったため、セメント硬化体表面からの炭酸イオンの拡散速度が大きく、急速にコンクリーションが形成されたためであると考えられる。実施例2のように、圧縮強度がまだあまり高まっていない状態のセメント硬化体は、堆積物の形成速度が大きいため、注入材として好適であると考えられる。
【0075】
図2に示すように、実施例3の硬化物における堆積物はセメント硬化体の表面に強固に付着し、相当に硬いものであった。これは、セメント硬化体の硬化の程度が、疑似海水中と接触させた際に十分進んでいる状態(つまり、圧縮強度が高まった状態)であったため、セメント硬化体表面からの炭酸イオンの放出速度が小さく、ゆっくりとコンクリーションが形成されたためであると考えられる。実施例3で製造された硬化物は、圧縮強度が非常に高いため、注入材、各種建材等に好適であると考えられる。
【0076】
<硬化物の形状とコンクリーションとの関係>
(実施例4)
実施例1の水硬性組成物を型枠中に流し込む量を調整し、表面にくぼみを有する成形体を作製した。表面にくぼみを有する成形体を用いたこと以外は、実施例3と同様に硬化物を作製した。
図3は、疑似海水中から取り出して水洗をした後に、実施例4の硬化物を撮影した写真である。これによると、くぼみに集中的にコンクリーションが形成されることが確認された。
なお、くぼみのサイズは直径0.45~3.3mm、深さ1.0mm程度であった。