IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本放送協会の特許一覧 ▶ 株式会社日本触媒の特許一覧

特許7538664有機薄膜及び有機薄膜の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、有機薄膜太陽電池、光電変換素子、薄膜トランジスタ、塗料組成物、並びに、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料
<>
  • 特許-有機薄膜及び有機薄膜の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、有機薄膜太陽電池、光電変換素子、薄膜トランジスタ、塗料組成物、並びに、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料 図1
  • 特許-有機薄膜及び有機薄膜の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、有機薄膜太陽電池、光電変換素子、薄膜トランジスタ、塗料組成物、並びに、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料 図2
  • 特許-有機薄膜及び有機薄膜の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、有機薄膜太陽電池、光電変換素子、薄膜トランジスタ、塗料組成物、並びに、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料 図3
  • 特許-有機薄膜及び有機薄膜の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、有機薄膜太陽電池、光電変換素子、薄膜トランジスタ、塗料組成物、並びに、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料 図4
  • 特許-有機薄膜及び有機薄膜の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、有機薄膜太陽電池、光電変換素子、薄膜トランジスタ、塗料組成物、並びに、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料 図5
  • 特許-有機薄膜及び有機薄膜の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、有機薄膜太陽電池、光電変換素子、薄膜トランジスタ、塗料組成物、並びに、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料 図6
  • 特許-有機薄膜及び有機薄膜の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、有機薄膜太陽電池、光電変換素子、薄膜トランジスタ、塗料組成物、並びに、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料 図7
  • 特許-有機薄膜及び有機薄膜の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、有機薄膜太陽電池、光電変換素子、薄膜トランジスタ、塗料組成物、並びに、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料 図8
  • 特許-有機薄膜及び有機薄膜の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、有機薄膜太陽電池、光電変換素子、薄膜トランジスタ、塗料組成物、並びに、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料 図9
  • 特許-有機薄膜及び有機薄膜の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、有機薄膜太陽電池、光電変換素子、薄膜トランジスタ、塗料組成物、並びに、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料 図10
  • 特許-有機薄膜及び有機薄膜の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、有機薄膜太陽電池、光電変換素子、薄膜トランジスタ、塗料組成物、並びに、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料 図11
  • 特許-有機薄膜及び有機薄膜の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、有機薄膜太陽電池、光電変換素子、薄膜トランジスタ、塗料組成物、並びに、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料 図12
  • 特許-有機薄膜及び有機薄膜の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、有機薄膜太陽電池、光電変換素子、薄膜トランジスタ、塗料組成物、並びに、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料 図13
  • 特許-有機薄膜及び有機薄膜の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、有機薄膜太陽電池、光電変換素子、薄膜トランジスタ、塗料組成物、並びに、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料 図14
  • 特許-有機薄膜及び有機薄膜の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、有機薄膜太陽電池、光電変換素子、薄膜トランジスタ、塗料組成物、並びに、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料 図15
  • 特許-有機薄膜及び有機薄膜の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、有機薄膜太陽電池、光電変換素子、薄膜トランジスタ、塗料組成物、並びに、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】有機薄膜及び有機薄膜の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、有機薄膜太陽電池、光電変換素子、薄膜トランジスタ、塗料組成物、並びに、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料
(51)【国際特許分類】
   H10K 85/60 20230101AFI20240815BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20240815BHJP
   H10K 30/50 20230101ALI20240815BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20240815BHJP
   H10K 50/14 20230101ALI20240815BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20240815BHJP
   H10K 59/125 20230101ALI20240815BHJP
   H10K 71/00 20230101ALI20240815BHJP
【FI】
H10K85/60
G09F9/30 365
H10K30/50
H10K50/10
H10K50/14
H10K59/10
H10K59/125
H10K71/00
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2020149476
(22)【出願日】2020-09-04
(65)【公開番号】P2021166280
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2020067828
(32)【優先日】2020-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 翼
(72)【発明者】
【氏名】深川 弘彦
(72)【発明者】
【氏名】清水 貴央
(72)【発明者】
【氏名】大野 拓
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 宗弘
(72)【発明者】
【氏名】森井 克行
(72)【発明者】
【氏名】福留 裕樹
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/181705(WO,A1)
【文献】特開2019-176093(JP,A)
【文献】仏国特許出願公開第02964106(FR,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/00 - 99/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物である第1材料と、分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物である第2材料と、を含む単一の膜、又は、前記第1材料を含む膜と、前記第2材料を含む膜と、の積層膜であることを特徴とする、有機薄膜。
【化1】
(一般式(1)中、Rは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、又は、これらの基を2つ以上組み合わせてできる基、これらの基の1つ若しくは2つ以上と窒素原子とを組み合わせてできる基を表す。nは、2又は3である。)
【請求項2】
前記第2材料が、構造中に炭素-窒素二重結合を有しない芳香族複素環を有する化合物である、請求項1に記載の有機薄膜。
【請求項3】
前記第2材料が、分子中にπ電子不足系芳香族複素環を有しない化合物である、請求項1に記載の有機薄膜。
【請求項4】
前記第2材料が、下記一般式(2)で表される化合物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の有機薄膜。
【化2】
(一般式(2)中、Yは、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素環、π電子過剰芳香族複素環、ケイ素及び/又はホウ素を構成元素として含むπ共役系環状構造を表す。Wは、連結基又は直接結合を表す。Zは、構造中に炭素-窒素二重結合を含まないアリール基を表す。rは1~6の整数である。sは1~6の整数である。)
【請求項5】
前記第2材料は、芳香族炭化水素化合物、窒素-ホウ素結合を有する化合物、π電子過剰系複素芳香族化合物、シロール環を含む化合物、のいずれかもしくは複数である、請求項1~4のいずれか1項に記載の有機薄膜。
【請求項6】
酸化物層と、該酸化物層上に形成された請求項1~5のいずれか1項に記載の有機薄膜の層と、からなることを特徴とする、積層膜。
【請求項7】
陰極と陽極との間に、発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記陰極と前記発光層との間に、請求項1~5のいずれか1項に記載の有機薄膜又は請求項6に記載の積層膜を有することを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記陰極と前記有機薄膜との間に、酸化物層を有する、請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記陰極と前記発光層との間に、前記第1材料と第2材料とを含む膜と、前記第2材料を含む膜と、の積層膜を有する、請求項7又は8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記発光層と、前記第1材料と第2材料とを含む膜との間に、前記第2材料を含む膜を有する、請求項9に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
前記陰極と、前記第1材料と第2材料とを含む膜との間に、前記第2材料を含む膜を有する、請求項9に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
前記陽極と前記発光層との間に、前記第2材料を含む層を有する、請求項7~11のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項13】
前記発光層が、前記第2材料を含む、請求項7~12のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項14】
下記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物と、分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物と、を含むことを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料。
【化3】
(一般式(1)中、Rは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、又は、これらの基を2つ以上組み合わせてできる基、これらの基の1つ若しくは2つ以上と窒素原子とを組み合わせてできる基を表す。nは、2又は3である。)
【請求項15】
陰極と陽極との間に、発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記陰極と前記陽極との間に、下記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物、及び、分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物を含む材料層を有することを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化4】
(一般式(1)中、Rは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、又は、これらの基を2つ以上組み合わせてできる基、これらの基の1つ若しくは2つ以上と窒素原子とを組み合わせてできる基を表す。nは、2又は3である。)
【請求項16】
前記陰極と前記発光層との間に、前記材料層を有する、請求項15に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項17】
前記陰極と前記材料層との間に、酸化物層を有する、請求項15又は16に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項18】
請求項7~13、15~17のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を具えることを特徴とする、表示装置。
【請求項19】
請求項7~13、15~17のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を具えることを特徴とする、照明装置。
【請求項20】
下記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物と、分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物と、を含むことを特徴とする、有機薄膜太陽電池用材料。
【化5】
(一般式(1)中、Rは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、又は、これらの基を2つ以上組み合わせてできる基、これらの基の1つ若しくは2つ以上と窒素原子とを組み合わせてできる基を表す。nは、2又は3である。)
【請求項21】
請求項1~5のいずれか1項に記載の有機薄膜、請求項6に記載の積層膜、又は請求項20に記載の有機薄膜太陽電池用材料を含む層のいずれかを含むことを特徴とする、有機薄膜太陽電池。
【請求項22】
下記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物と、分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物と、を含むことを特徴とする、光電変換素子用材料。
【化6】
(一般式(1)中、Rは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、又は、これらの基を2つ以上組み合わせてできる基、これらの基の1つ若しくは2つ以上と窒素原子とを組み合わせてできる基を表す。nは、2又は3である。)
【請求項23】
請求項1~5のいずれか1項に記載の有機薄膜、請求項6に記載の積層膜、又は請求項22に記載の光電変換素子用材料を含む層のいずれかを含むことを特徴とする、光電変換素子。
【請求項24】
下記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物と、分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物と、を含むことを特徴とする、有機トランジスタ用材料。
【化7】
(一般式(1)中、Rは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、又は、これらの基を2つ以上組み合わせてできる基、これらの基の1つ若しくは2つ以上と窒素原子とを組み合わせてできる基を表す。nは、2又は3である。)
【請求項25】
請求項1~5のいずれか1項に記載の有機薄膜、請求項6に記載の積層膜、又は請求項24に記載の有機トランジスタ用材料を含む層のいずれかを含むことを特徴とする、薄膜トランジスタ。
【請求項26】
下記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物である第1材料と、分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物である第2材料と、を含むことを特徴とする塗料組成物。
【化8】
(一般式(1)中、Rは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、又は、これらの基を2つ以上組み合わせてできる基、これらの基の1つ若しくは2つ以上と窒素原子とを組み合わせてできる基を表す。nは、2又は3である。)
【請求項27】
下記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物である第1材料と、分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物である第2材料と、を含む単一の膜を被形成面上に形成する工程、又は、
前記第1材料を含む膜と、前記第2材料を含む膜と、を被形成面上に順に形成する工程、を含むことを特徴とする、有機薄膜の製造方法。
【化9】
(一般式(1)中、Rは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、又は、これらの基を2つ以上組み合わせてできる基、これらの基の1つ若しくは2つ以上と窒素原子とを組み合わせてできる基を表す。nは、2又は3である。)
【請求項28】
下記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物である第1材料を含む膜を、分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物である第2材料を含む被形成面上に形成する工程を含むことを特徴とする、有機薄膜の製造方法。
【化10】
(一般式(1)中、Rは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、又は、これらの基を2つ以上組み合わせてできる基、これらの基の1つ若しくは2つ以上と窒素原子とを組み合わせてできる基を表す。nは、2又は3である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜及び有機薄膜の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス(以下、エレクトロルミネッセンス(電界発光)を「EL」と記す場合がある。)素子、表示装置、照明装置、有機薄膜太陽電池、光電変換素子、薄膜トランジスタ、塗料組成物、並びに、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、薄く、柔軟でフレキシブルである。また、有機EL素子を用いた表示装置は、現在主流となっている液晶表示装置及びプラズマ表示装置と比べて、高輝度、高精細な表示が可能である。また、有機EL素子を用いた表示装置は、液晶表示装置に比べて視野角が広い。このため、有機EL素子を用いた表示装置は、今後、テレビや携帯電話のディスプレイ等としての利用の拡大が期待されている。
また、有機EL素子は、照明装置としての利用も期待されている。
【0003】
有機EL素子は、陰極と発光層と陽極とが積層されたものである。有機EL素子では、陽極の仕事関数と発光層の最高占有軌道(HOMO)とのエネルギー差は、陰極の仕事関数と発光層の最低非占有軌道(LUMO)とのエネルギー差と比較して小さい。従って、発光層に、陽極から正孔を注入することと比較して、陰極から電子を注入することは困難である。このため、従来の有機EL素子では、陰極と発光層との間に、電子注入層を配置して、陰極から発光層への電子の注入を促進している。該電子注入層に最も広く使われている電子注入層は、フッ素化リチウム(LiF)等のアルカリ金属やリチウムキノリン(Liq)等のアルカリ金属を含む錯体である(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照)。
また、発光層を電子注入層の間に、更に電子輸送層を設けることも広く行われており、該電子輸送層の材料としては、電子が輸送し易い材料として、ピリジン等の窒素を含む複素環を有する化合物が用いられてきた(例えば、非特許文献3参照)。これら電子を輸送し易い材料中に含まれる複素環中の窒素とLiとの間の相互作用が、陰極からの電子注入障壁を下げることが報告されている(非特許文献2参照)。そして、電子を輸送し易い材料におけるLiと配位可能な部位に立体障害があると、電子注入がし難くなることが報告されている(非特許文献4参照)
【0004】
複素環中の窒素とLiとの間の相互作用を利用した電子注入手法に対し、近年、リチウム等の不安定なアルカリ金属を用いない、電子注入手法が幾つか提案されている。そのうちの一つが、塩基材料と有機化合物との間の水素結合を利用した電子注入手法である(例えば、非特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】L. S. Hung, C. W. Tang, and M. G. Mason, Appl. Phys. Lett. 70, 152 (1997)
【文献】Sato, S. et al. Air-Stable and High-Performance Solution-Processed Organic Light-Emitting Devices Based on Hydrophobic Polymeric Ionic Liquid Carrier-Injection Layers. Adv Mater 30, e1705915, (2014)
【文献】Lixin xiao, Zhijian Chen , Bo Qu , Jiaxiu Luo , Sheng Kong , Qihuang Gong , and Junji Kido, Adv Mater 23, 926-952 (2011)
【文献】Yong-Jin Pu, Makoto Yoshizaki, Takahiro Akiniwa, Junji Kido, Organic Electronics, 10, 877-882 (2009)
【文献】ヒロヒコ フカガワ(Hirohiko Fukagawa)、外8名、「アドバンスト マテリアルズ(Advanced Materials)」、第31巻、2019年、p1904201
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の通り、有機EL素子において、発光層と陰極との間(電子輸送層)に用いられる材料は、電子を輸送し易い材料として、ピリジン等の窒素を含む複素環を有する化合物に限られており、使える材料の自由度が低かった。ピリジン等の窒素を含む複素環を有する必要がなければ、材料設計の自由度も向上し、デバイスの駆動安定性の向上、駆動電圧の低下、発光効率の向上等が期待できる。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、有機EL素子において発光層と陰極との間に用いる材料の選択肢を広げることが可能な有機薄膜、該有機薄膜の製造方法、該有機薄膜の製造に好適に用いることができる塗料組成物、並びに、これら有機薄膜や塗料組成物の原料となる有機EL素子用材料を提供することを課題とする。
また、本発明は、前記有機薄膜を用いた有機EL素子、該有機EL素子を具えた表示装置及び照明装置、並びに、前記有機薄膜を含む有機薄膜太陽電池、光電変換素子及び有機薄膜トランジスタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、これまでの有機EL素子の電子注入層及び電子輸送層に用いられる材料及び電子注入メカニズムに注目した。陰極からの電子注入障壁を下げる電子注入層として、LiFに代表されるアルカリ金属塩を用いることが主流となったことにより、電子輸送層は、Liと効果的に相互作用できるピリジン等の窒素を含む複素環を有する化合物に限られていると考えた。そして、本発明者等は、鋭意検討した結果、特定の塩基材料と有機化合物との間の水素結合を利用した電子注入手法を用いることで、電子輸送層にピリジン等の窒素を含む複素環を有する化合物を用いる必要がなくなり、電子輸送層に使える材料の選択肢が大きく広がることを見出した。
即ち、下記の一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物と有機化合物との間の水素結合を利用することにより、陰極から有機層への電子注入障壁が下がっていれば、電子輸送層に使える材料は、従来のピリジン等の窒素を含む複素環を有する化合物に限定されることがなく、例えば、芳香族炭化水素化合物、窒素-ホウ素結合を有する化合物、π電子過剰系複素芳香族化合物、シロール環を含む化合物、等も有機EL素子における電子輸送層に用いることができる。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、以下のとおりである。
【0009】
[1] 下記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物である第1材料と、分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物である第2材料と、を含む単一の膜、又は、前記第1材料を含む膜と、前記第2材料を含む膜と、の積層膜であることを特徴とする、有機薄膜。
【化1】
(一般式(1)中、R1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、2価若しくは3価の鎖状または環状炭化水素基、又は、これらの基を2つ以上組み合わせてできる基、これらの基の1つ若しくは2つ以上と窒素原子とを組み合わせてできる基を表す。nは、1~3の整数である。)
【0010】
[2] 前記第2材料が、構造中に炭素-窒素二重結合を有しない芳香族複素環を有する化合物である、[1]に記載の有機薄膜。
【0011】
[3] 前記第2材料が、分子中にπ電子不足系芳香族複素環を有しない化合物である、[1]に記載の有機薄膜。
【0012】
[4] 前記第2材料が、下記一般式(2)で表される化合物である、[1]~[3]のいずれかに記載の有機薄膜。
【化2】
(一般式(2)中、Yは、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素環、π電子過剰芳香族複素環、ケイ素及び/又はホウ素を構成元素として含むπ共役系環状構造を表す。Wは、連結基又は直接結合を表す。Zは、構造中に炭素-窒素二重結合を含まないアリール基を表す。rは1~6の整数である。sは1~6の整数である。)
【0013】
[5] 前記第1材料は、一般式(1)におけるnが2又は3のヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物である、[1]~[4]のいずれかに記載の有機薄膜。
【0014】
[6] 前記第2材料は、芳香族炭化水素化合物、窒素-ホウ素結合を有する化合物、π電子過剰系複素芳香族化合物、シロール環を含む化合物、のいずれかもしくは複数である、[1]~[5]のいずれかに記載の有機薄膜。
【0015】
[7] 酸化物層と、該酸化物層上に形成された[1]~[6]のいずれかに記載の有機薄膜の層と、からなることを特徴とする、積層膜。
【0016】
[8] 陰極と陽極との間に、発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記陰極と前記発光層との間に、[1]~[6]のいずれかに記載の有機薄膜又は[7]に記載の積層膜を有することを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0017】
[9] 前記陰極と前記有機薄膜との間に、酸化物層を有する、[8]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0018】
[10] 前記陰極と前記発光層との間に、前記第1材料と第2材料とを含む膜と、前記第2材料を含む膜と、の積層膜を有する、[8]又は[9]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0019】
[11] 前記発光層と、前記第1材料と第2材料とを含む膜との間に、前記第2材料を含む膜を有する、[10]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0020】
[12] 前記陰極と、前記第1材料と第2材料とを含む膜との間に、前記第2材料を含む膜を有する、[10]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0021】
[13] 前記陽極と前記発光層との間に、前記第2材料を含む層を有する、[8]~[12]のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0022】
[14] 前記発光層が、前記第2材料を含む、[8]~[13]のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0023】
[15] 下記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物と、分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物と、を含むことを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料。
【化3】
(一般式(1)中、R1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、2価若しくは3価の鎖状または環状炭化水素基、又は、これらの基を2つ以上組み合わせてできる基、これらの基の1つ若しくは2つ以上と窒素原子とを組み合わせてできる基を表す。nは、1~3の整数である。)
【0024】
[16] 陰極と陽極との間に、発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記陰極と前記陽極との間に、下記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物、及び/又は、分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物を含む材料層を有することを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化4】
(一般式(1)中、R1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、2価若しくは3価の鎖状または環状炭化水素基、又は、これらの基を2つ以上組み合わせてできる基、これらの基の1つ若しくは2つ以上と窒素原子とを組み合わせてできる基を表す。nは、1~3の整数である。)
【0025】
[17] 前記陰極と前記発光層との間に、前記材料層を有する、[16]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0026】
[18] 前記陰極と前記材料層との間に、酸化物層を有する、[16]又は[17]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0027】
[19] [8]~[14]、[16]~[18]のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を具えることを特徴とする、表示装置。
【0028】
[20] [8]~[14]、[16]~[18]のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を具えることを特徴とする、照明装置。
【0029】
[21] 下記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物と、分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物と、を含むことを特徴とする、有機薄膜太陽電池用材料。
【化5】
(一般式(1)中、R1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、2価若しくは3価の鎖状または環状炭化水素基、又は、これらの基を2つ以上組み合わせてできる基、これらの基の1つ若しくは2つ以上と窒素原子とを組み合わせてできる基を表す。nは、1~3の整数である。)
【0030】
[22] [1]~[6]のいずれかに記載の有機薄膜、[7]に記載の積層膜、又は[21]に記載の有機薄膜太陽電池用材料を含む層のいずれかを含むことを特徴とする、有機薄膜太陽電池。
【0031】
[23] 下記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物と、分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物と、を含むことを特徴とする、光電変換素子用材料。
【化6】
(一般式(1)中、R1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、2価若しくは3価の鎖状または環状炭化水素基、又は、これらの基を2つ以上組み合わせてできる基、これらの基の1つ若しくは2つ以上と窒素原子とを組み合わせてできる基を表す。nは、1~3の整数である。)
【0032】
[24] [1]~[6]のいずれかに記載の有機薄膜、[7]に記載の積層膜、又は[23]に記載の光電変換素子用材料を含む層のいずれかを含むことを特徴とする、光電変換素子。
【0033】
[25] 下記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物と、分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物と、を含むことを特徴とする、有機トランジスタ用材料。
【化7】
(一般式(1)中、R1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、2価若しくは3価の鎖状または環状炭化水素基、又は、これらの基を2つ以上組み合わせてできる基、これらの基の1つ若しくは2つ以上と窒素原子とを組み合わせてできる基を表す。nは、1~3の整数である。)
【0034】
[26] [1]~[6]のいずれかに記載の有機薄膜、[7]に記載の積層膜、又は[25]に記載の有機トランジスタ用材料を含む層のいずれかを含むことを特徴とする、薄膜トランジスタ。
【0035】
[27] 下記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物である第1材料と、分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物である第2材料と、を含むことを特徴とする塗料組成物。
【化8】
(一般式(1)中、R1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、2価若しくは3価の鎖状または環状炭化水素基、又は、これらの基を2つ以上組み合わせてできる基、これらの基の1つ若しくは2つ以上と窒素原子とを組み合わせてできる基を表す。nは、1~3の整数である。)
【0036】
[28] 下記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物である第1材料と、分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物である第2材料と、を含む単一の膜を被形成面上に形成する工程、又は、
前記第1材料を含む膜と、前記第2材料を含む膜と、を被形成面上に順に形成する工程、を含むことを特徴とする、有機薄膜の製造方法。
【化9】
(一般式(1)中、R1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、2価若しくは3価の鎖状または環状炭化水素基、又は、これらの基を2つ以上組み合わせてできる基、これらの基の1つ若しくは2つ以上と窒素原子とを組み合わせてできる基を表す。nは、1~3の整数である。)
【0037】
[29] 下記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物である第1材料を含む膜を、第2材料を含む被形成面上に形成する工程を含むことを特徴とする、有機薄膜の製造方法。
【化10】
(一般式(1)中、R1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、2価若しくは3価の鎖状または環状炭化水素基、又は、これらの基を2つ以上組み合わせてできる基、これらの基の1つ若しくは2つ以上と窒素原子とを組み合わせてできる基を表す。nは、1~3の整数である。)
【発明の効果】
【0038】
本発明の有機薄膜は、特定構造のヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物からなる第1材料と、分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物である第2材料と、を含む。このため、本発明の有機薄膜を、例えば、有機EL素子の電子注入層に用いた場合、従来のアルカリ金属からの電子注入を前提とした電子輸送層に比べ、材料の選択肢が大きく広がる。これにより、優れた電子注入性、電子輸送性が得られる。
【0039】
また、本発明の有機EL素子は、陰極と発光層との間に本発明の有機薄膜を有するため、有機薄膜によって優れた電子注入性、電子輸送性が得られる。
【0040】
また、特定構造のヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物からなる第1材料と、分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物である第2材料と、を含む本発明の有機薄膜は、塗布及び蒸着のいずれの方法によっても形成することが可能であるため、本発明の有機薄膜を含む有機EL素子を製造する場合のプロセス上の制約が少なく、有機EL素子を構成する層の材料として使用し易いものである。本発明の有機薄膜の製造方法は、このような本発明の有機薄膜を製造する方法である。
【0041】
また、本発明の塗料組成物は、特定構造のヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物からなる第1材料と、分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物である第2材料、とを含む。従って、本発明の塗料組成物を有機薄膜の被形成面上に塗布することにより、有機EL素子の電子注入層に好適な有機薄膜が得られる。
【0042】
本発明の有機EL素子用材料は、有機EL素子等の作製に用いられる本発明の有機薄膜や塗料組成物に用いられる有用な材料である。また、本材料は、単独で電子注入層又は電子輸送層として用いることが可能な点でも有用な材料である。
【0043】
本発明の表示装置及び照明装置は、本発明の有機EL素子を具えているため、駆動電圧が低く、優れた特性を有する。
また、本発明の有機薄膜太陽電池、光電変換素子及び有機薄膜トランジスタは、本発明の有機薄膜を含むものであるため、優れた特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明の有機EL素子の一例を説明するための概略断面図である。
図2】本発明の有機EL素子の他の一例を説明するための概略断面図である。
図3】本発明の有機薄膜の積層構造の一例を示す概略断面図である。
図4】本発明の有機薄膜の積層構造の他の一例を示す概略断面図である。
図5】本発明の有機薄膜の積層構造の他の一例を示す概略断面図である。
図6】本発明の有機薄膜の積層構造の他の一例を示す概略断面図である。
図7】本発明の有機薄膜の積層構造の他の一例を示す概略断面図である。
図8】本発明の有機薄膜の積層構造の他の一例を示す概略断面図である。
図9】本発明の有機EL素子の積層構造の他の一例を示す概略断面図である。
図10】本発明の有機EL素子の積層構造の他の一例を示す概略断面図である。
図11】実施例及び比較例に用いた有機薄膜の積層構造を示す概略断面図である。
図12】実施例1及び比較例1で作製した有機EL素子の印加電圧と輝度の関係を示したグラフである。
図13】実施例8で作製した有機EL素子の印加電圧と輝度の関係を示したグラフである。
図14】実施例10及び比較例3で作製した有機EL素子の印加電圧と輝度の関係を示したグラフである。
図15】実施例11~14及び比較例4で作製した有機EL素子の印加電圧と輝度の関係を示したグラフである。
図16】実施例15及び比較例5で作製した有機EL素子の印加電圧と輝度の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下に、本発明の有機薄膜及び有機薄膜の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、有機薄膜太陽電池、薄膜トランジスタ、塗料組成物、並びに、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
【0046】
<有機薄膜、有機EL素子用材料>
本発明の有機薄膜は、下記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物である第1材料と、分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物である第2材料とを含む。本発明の有機薄膜は、第1材料と第2材料とを含む単一層の膜であってもよく、第1材料を含む層と第2材料を含む層とが積層された積層膜であってもよい。
【0047】
【化11】
(一般式(1)中、R1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、2価若しくは3価の鎖状または環状炭化水素基、又は、これらの基を2つ以上組み合わせてできる基、これらの基の1つ若しくは2つ以上と窒素原子とを組み合わせてできる基を表す。nは、1~3の整数である。)
【0048】
本発明の有機薄膜を構成している第1材料は、特定構造のヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物であるため、第2材料との間に水素結合を形成し、第2材料側にマイナス電荷を生じさせる能力を有する。
第1材料は、pKaが1以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、11以上であることがさらに好ましい。第1材料は、pKaが高い材料である程、第2材料側にマイナス電荷を生じさせる能力がより高いものとなる。その結果、有機薄膜を、例えば、有機EL素子の電子注入層として用いた場合に、優れた電子注入性及び電子輸送性が得られる。
また、式(1)のヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物は、無機化合物の欠損箇所に好適に配位することから、外部から侵入する酸素や水との界面での反応を妨げ、素子の大気安定性を高める効果があることも確認されている。更に、式(1)のヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物は、無機化合物と相互作用することにより、無機化合物の仕事関数を小さくすることができ、その結果、金属酸化物層の電子注入性を向上させることができる。
従って、本発明の有機薄膜は、有機化合物のみから構成される素子だけではなく、特に、有機化合物と無機化合物とで構成される素子に対しても用いることができ、電子注入性や大気安定性を高める効果を発揮することができる。
【0049】
本発明の有機薄膜は、上記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物を第1材料として含むことを特徴の1つとし、本発明の有機薄膜を電子注入層に用いた場合、優れた電子注入性、電子輸送性が得られる。このような優れた効果を発揮する、上記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物を含む有機EL素子用材料もまた、本発明の1つであり、本材料を単独で電子注入層や電子輸送層に用いることでも優れた電子注入性、電子輸送性が得られる。
【0050】
なお、本発明において、「pKa」は通常は「水中における酸解離定数」を意味するが、水中で測定できないものは「ジメチルスルホキシド(DMSO)中における酸解離定数」を意味し、DMSO中でも測定できないものは、「アセトニトリル中の酸解離定数」を意味する。好ましくは「水中における酸解離定数」を意味する。
【0051】
上記一般式(1)におけるR1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、2価若しくは3価の鎖状または環状炭化水素基、又は、これらの基を2つ以上組み合わせてできる基、これらの基の1つ若しくは2つ以上と窒素原子とを組み合わせてできる基を表す。
芳香族炭化水素基、芳香族複素環基としては、炭素数3~30のものが好ましく、炭素数4~24のものがより好ましく、炭素数5~20のものがさらに好ましい。
芳香族炭化水素基としては、ベンゼン等の1つの芳香環のみからなる化合物;ビフェニル、ジフェニルベンゼン等の複数の芳香環が1つの炭素原子同士で直接結合した化合物;ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン等の縮合環式芳香族炭化水素化合物のいずれかの芳香環から水素原子を1~3個除いてできる基が挙げられる。
芳香族複素環基としては、チオフェン、フラン、ピロール、オキサゾール、オキサジアゾール、チアゾール、チアジアゾール、イミダゾール、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン等の1つの芳香族複素環のみからなる化合物;これらの1つの芳香族複素環のみからなる化合物が1つの炭素原子同士で複数直接結合した化合物(ビピリジン等);キノリン、キノキサリン、ベンゾチオフェン、ベンゾチアゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、インドール、カルバゾール、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、アクリジン、フェナントロリン等の縮合環式複素芳香族炭化水素化合物のいずれかの芳香族複素環から水素原子を1~3個除いてできる基が挙げられる。
アリールアルキレン基としては、上記芳香族炭化水素基と炭素数1~3のアルキレン基とを組み合わせた基が挙げられる。
2価若しくは3価の鎖状または環状炭化水素基としては、炭素数1~12のものが好ましく、炭素数1~6のものがより好ましく、炭素数1~4のものがさらに好ましい。鎖状炭化水素基は直鎖状のものであってもよく、分岐鎖状のものであってもよい。
また、R1は、上記芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、2価若しくは3価の鎖状炭化水素基を2つ以上組み合わせてできる基でもよい。
更に、R1は、上記芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、2価若しくは3価の鎖状炭化水素基の1つ若しくは2つ以上と窒素原子とを組み合わせてできる基であってもよい。そのような基としては、例えば、トリメチルアミン等のトリアルキルアミンやトリフェニルアミンから水素原子を1~3個除いてできる基等が挙げられる。
【0052】
上記芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、又は、アリールアルキレン基は、1価の置換基を1つ又は2つ以上有していてもよい。
1価の置換基としては、フッ素原子;フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5~7の環状アルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基;ニトロ基;シアノ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の炭素数1~10のアルキル基を有するアルキルアミノ基;ピロリジノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基等の環状アミノ基;ジフェニルアミノ基、カルバゾリル基等のジアリールアミノ基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等のアシル基;スチリル基等の炭素数2~30のアルケニル基;フッ素原子等のハロゲン原子や炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基、アミノ基等で置換されていてもよい炭素数5~20のアリール基(アリール基の具体例は、上記芳香族炭化水素基と同様);フッ素原子等のハロゲン原子や炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基、アミノ基等で置換されていてもよい炭素数4~20の窒素原子、硫黄原子、酸素原子のいずれか1つ以上を含む複素環基(複素環基は、1つの環のみからなるものであってもよく、1つの芳香族複素環のみからなる化合物が1つの炭素原子同士で複数直接結合した化合物であってもよく、縮合複素環基であってもよい。複素環基の具体例には、上記芳香族複素環基の具体例が含まれる。);エステル基、チオエーテル基等が挙げられる。なお、これらの基は、ハロゲン原子やヘテロ元素、アルキル基、芳香環等で置換されていてもよい。
【0053】
上記一般式(1)におけるnは、1~3の整数であるが、2又は3であることが好ましい。
【0054】
上記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物の具体例としては、例えば、下記構造式(1-1)~(1-30)で表される化合物が挙げられる。
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【0055】
上記一般式(1)で表される化合物は、下記反応式に示すように、ヨウ素、臭素、塩素、フッ素を有するハロゲン化合物と、ヘキサヒドロピリミドピリミジンとを原料とし、Ullmannカップリング反応、Buchwald-Hartwigアミノ化反応又は求核置換反応等により合成することができる。
【化16】
【0056】
本発明の有機薄膜を構成する第2材料は、分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物である。ここで、前記第2材料としては、構造中に炭素-窒素二重結合を有しない芳香族複素環を有する化合物や、分子中にπ電子不足系芳香族複素環を有しない化合物が好ましい。また、前記第2材料としては、下記一般式(2)で表される化合物が好ましい。
【化17】
(一般式(2)中、Yは、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素環、π電子過剰芳香族複素環、ケイ素及び/又はホウ素を構成元素として含むπ共役系環状構造を表す。Wは、連結基又は直接結合を表す。Zは、構造中に炭素-窒素二重結合を含まないアリール基を表す。rは1~6の整数である。sは1~6の整数である。)
【0057】
一般式(2)中、Yは、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素環、π電子過剰芳香族複素環、ケイ素及び/又はホウ素を構成元素として含むπ共役系環状構造を表す。
芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ビフェニル環、トリフェニレン環、フルオランテン環、フルオレン環、クリセン環、ジベンゾクリセン環、等が挙げられる。
π電子過剰芳香族複素環としては、チオフェン環、フラン環、ピロール環、ジベンゾチオフェン環、ジベンゾフラン環、カルバゾール環、等が挙げられる。
ケイ素及び/又はホウ素を構成元素として含むπ共役系環状構造としては、シロール環、ジベンゾ[g,p]クリセン環の一部を窒素-ホウ素置換した環状構造、スピロ-ビフルオレン環の一部を窒素-ホウ素置換した環状構造、等が挙げられる。
前記芳香族炭化水素環、π電子過剰芳香族複素環、ケイ素及び/又はホウ素を構成元素として含むπ共役系環状構造は、置換基を有していてもよく、該置換基としては、前述の一般式(1)中のR1の1価の置換基と同様の基が挙げられる。
【0058】
一般式(2)中、Wは、連結基又は直接結合を表す。なお、Wが連結基の場合、Wは、(r+1)価の連結基となる。
ここで、連結基としては、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、エテニレン基、エチニレン基、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、ケイ素原子、ホウ素原子、等が挙げられる。これらの連結基は、置換基を有していてもよく、該置換基としては、前述の一般式(1)中のR1の1価の置換基と同様の基が挙げられる。
【0059】
一般式(2)中、Zは、構造中に炭素-窒素二重結合を含まないアリール基を表す。
ここで、構造中に炭素-窒素二重結合を含まないアリール基としては、フェニル基、トリル基、ナフチル基、トリフェニレニル基、フルオランテニル基、ジベンゾチオフェニル基、ジベンゾフラニル基、カルバゾリル基、等が挙げられる。
前記アリール基は、構造中に炭素-窒素二重結合を含まない限り、置換基を有していてもよく、該置換基としては、前述の一般式(1)中のR1の1価の置換基と同様の基が挙げられる。
【0060】
一般式(2)中、rは1~6の整数であり、sは1~6の整数である。
ここで、rが2~6の整数の場合、複数存在するZは、それぞれ同一でも、異なってもよい。
また、sが2~6の整数の場合、複数存在するWは、それぞれ同一でも、異なってもよく、複数存在するZは、それぞれ同一でも、異なってもよい。
【0061】
本発明では、第1材料が第2材料との間に水素結合を形成することで、陰極と有機層間の電子のやりとりがスムーズに行われる。従って、本発明における第2材料は、これまで有機EL素子や有機薄膜太陽電池において発光層や光電変換膜と陰極との間に用いられてきた、アルカリ金属との相互作用で電子を注入できる材料である必要はない。
これまでは、第2材料としては、フェニル-ジピレニルホスフィンオキサイド(POPy2)のようなホスフィンオキサイド誘導体、トリス-1,3,5-(3’-(ピリジン-3”-イル)フェニル)ベンゼン(TmPhPyB)のようなピリジン誘導体、2-(3-(9-カルバゾリル)フェニル)キノリン(mCQ)のようなキノリン誘導体、2-フェニル-4,6-ビス(3,5-ジピリジルフェニル)ピリミジン(BPyPPM)のようなピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、バソフェナントロリン(BPhen)のようなフェナントロリン誘導体、2,4-ビス(4-ビフェニル)-6-(4’-(2-ピリジニル)-4-ビフェニル)-[1,3,5]トリアジン(MPT)、トリス-1,3,5-(3’-(ピリジン-3”-イル)フェニル)トリアジン(TmPhPyTz)のようなトリアジン誘導体、3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール(TAZ)のようなトリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル-1,3,4-オキサジアゾール)(PBD)のようなオキサジアゾール誘導体、2,2’,2”-(1,3,5-ベントリイル)-トリス(1-フェニル-1-H-ベンズイミダゾール)(TPBI)のようなイミダゾール誘導体、トリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)等に代表される各種金属錯体が広く用いられてきた。
【0062】
従って、本発明において第2材料として用いることができる材料は、先述の材料群とは大きく異なり、選択肢が大きく広がる。例えば、芳香族炭化水素化合物、窒素-ホウ素結合を有する化合物、π電子過剰系複素芳香族化合物、シロール環を含む化合物、等がこれに当たる。
なお、π電子過剰系複素芳香環、π電子不足系芳香族複素環とは、講談社サイエンティフィック編、「新編ヘテロ環化合物 基礎編」、p.1~5に記載されている通り分類される複素芳香環である。
π電子過剰系複素芳香環(π過剰系ヘテロ芳香環)とは、ベンゼンを基準とした場合に比べて、各炭素上のπ電子密度が高い複素芳香環である。例えば、ピロール環、フラン環、チオフェン環等が、π電子過剰系複素芳香環に相当し、該複素芳香環は、環を構成するヘテロ原子が孤立電子対を有するため、6個のπ電子を有し、6個のπ電子が5個の原子上に分布するため、π電子過剰となる。上述の「π電子過剰系複素芳香族化合物」とは、かかるπ電子過剰系複素芳香環を有する化合物である。
一方、π電子不足系芳香族複素環(π不足系ヘテロ芳香環)とは、ベンゼンを基準とした場合に比べて、各炭素上のπ電子密度が低い複素芳香環である。例えば、ピリジン環等が、π電子不足系芳香族複素環に相当し、該複素芳香環は、環内窒素の孤立電子対を利用しなくても、6個のπ電子が存在する一方、環内窒素が電子求引効果を有し、この効果が各炭素に及ぼされるため、π電子不足となる。上述の「分子中にπ電子不足系芳香族複素環を有しない化合物」とは、かかるπ電子不足系芳香族複素環を有しない化合物である。
【0063】
前記芳香族炭化水素化合物としては、特に限定されず、芳香環を有する種々の炭化水素化合物を使用できる。
【0064】
前記窒素-ホウ素結合を有する化合物としては、ジベンゾ[g,p]クリセンの一部を窒素-ホウ素置換した以下の化合物(構造式(3-1))や、スピロ-ビフルオレンの一部を窒素-ホウ素置換した以下の化合物(構造式(3-2))、更には、これらの複素環構造を分子中に含む化合物が例として挙げられる。
【化18】
【0065】
前記π電子過剰系複素芳香族化合物としては、ジベンゾチオフェン、下記構造式(3-3)で表される化合物、ジベンゾフラン(構造式(3-4))、ベンゾ[b]ベンゾ[4,5]チエノ[2,3-d]チオフェン(構造式(3-5))、更には、これらの複素環構造を分子中に含む化合物等が例として挙げられる。
【化19】
【0066】
前記シロール環を含む化合物としては、例えば、1,1,2,3,4,5-ヘキサフェニルシロール等が挙げられる。
【0067】
本発明の有機薄膜に含まれる第1材料と第2材料との比率は、特に限定されるものではなく、第1材料及び第2材料のそれぞれに使用する化合物の種類に応じて適宜決定できる。第1材料と第2材料との比率は、質量比(第1材料:第2材料)で0.1:99.9~20:1であることが好ましい。より好ましくは、0.5:99.5~10:1である。上記比率である場合、有機薄膜に第1材料と第2材料とが含まれていることによる電子輸送性及び電子注入性の向上効果が顕著となる。
【0068】
本発明における有機薄膜は、第1材料と第2材料とを含む単一の膜であってもよく、第1材料を少なくとも含む膜と、第2材料を少なくとも含む膜との積層膜であってもよい。積層膜である場合、第1材料のみを含む膜と、第2材料のみを含む膜と、の積層膜であってもよく、第1材料と第2材料とを含む膜と、第1材料と第2材料のいずれか一方のみを含む膜と、の積層膜であってもよい。第1材料と第2材料とを含む膜と、第1材料と第2材料のいずれか一方のみを含む膜と、の積層膜である場合、第1材料と第2材料のいずれか一方のみを含む膜は、第1材料、第2材料のいずれを含むものであってもよいが、第2材料を含むものであることが好ましい。
また、有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する層として、このような有機薄膜を使用する場合、第1材料と第2材料とを含む膜と、第1材料と第2材料のいずれか一方のみを含む膜のいずれが陰極側にあってもよいが、第1材料と第2材料のいずれか一方のみを含む膜が陰極側にある方が好ましい。
【0069】
本発明における有機薄膜が、第1材料と第2材料とを含む膜と、第1材料のみを含む膜と、の積層膜である場合、積層された2つの膜の両方に第1材料が含まれることになるが、2つの膜に含まれる第1材料は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
同様に、本発明における有機薄膜が、第1材料と第2材料とを含む膜と、第2材料のみを含む膜と、の積層膜である場合、積層された2つの膜の両方に第2材料が含まれることになるが、2つの膜に含まれる第2材料は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0070】
<有機薄膜の製造方法>
次に、本発明の有機薄膜の製造方法について、例を挙げて説明する。
本発明の有機薄膜は、上記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物からなる第1材料と、分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物である第2材料と、を含むものである。第1材料、第2材料ともに分子量が比較的大きいことに起因して、本発明の有機薄膜は、塗布だけでなく、蒸着によっても形成することが可能である。このため、本発明の有機薄膜を含む有機EL素子を製造する場合のプロセス上の制約が少なく、有機EL素子を構成する層の材料として使用し易いものである。
有機薄膜を蒸着により製造する場合、有機EL素子を構成する他の層を蒸着により製造する場合と同様の方法により行うことができ、第1材料、第2材料を同時に蒸着してもよく、順に蒸着してもよい。順に蒸着する場合、第1材料、第2材料のいずれを先に蒸着してもよい。また、いずれか一方を先に蒸着した後に、これら両方を共蒸着してもよく、両方を共蒸着した後に、いずれか一方を蒸着してもよい。このような、上記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物である第1材料と、分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物である第2材料と、を同時に有機薄膜の被形成面上に蒸着する工程を含む有機薄膜の製造方法は、本発明の有機薄膜の製造方法の好適な実施形態の1つである。
また、第1材料又は第2材料のいずれかを先に有機薄膜の被形成面上に蒸着する工程と、その後にもう一方又は両方の材料を蒸着する工程とを含む有機薄膜の製造方法、又は、第1材料と第2材料とを同時に有機薄膜の被形成面上に蒸着する工程と、その後に第1材料又は第2材料のいずれかを有機薄膜の被形成面上に蒸着する工程とを含む有機薄膜の製造方法もまた、本発明の有機薄膜の製造方法の好適な実施形態の1つである。
【0071】
また、本発明の有機薄膜は、塗布により製造することも可能であり、この場合も、第1材料と、分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物である第2材料と、を含む塗料組成物を作製して、該塗料組成物を塗布するか、又は、第1材料を含む塗料組成物、第2材料を含む塗料組成物をそれぞれ作製して、これらを順に塗布することで有機薄膜を製造することができる。順に塗布する場合、第1材料を含む塗料組成物、第2材料を含む塗料組成物のいずれを先に塗布してもよい。また、いずれか一方の材料のみを含む塗料組成物を塗布した後に、これら両方の材料を含む塗料組成物を塗布してもよく、これら両方の材料を含む塗料組成物を塗布した後に、いずれか一方の材料のみを含む塗料組成物を塗布してもよい。このような、上記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物である第1材料と、分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物である第2材料と、を含む塗料組成物を有機薄膜の被形成面上に塗布する工程を含む有機薄膜の製造方法は、本発明の有機薄膜の製造方法の好適な実施形態の1つである。
また、第1材料のみを含む塗料組成物又は第2材料のみを含む塗料組成物のいずれかを先に有機薄膜の被形成面上に塗布する工程と、該工程によって形成された塗膜の上にもう一方又は両方の材料を含む塗料組成物を塗布する工程と、を含む有機薄膜の製造方法、又は、第1材料と第2材料の両方の材料を含む塗料組成物を塗布する工程と、該工程によって形成された塗膜の上に第1材料又は第2材料のいずれか一方のみを含む塗料組成物を塗布する工程と、を含む有機薄膜の製造方法もまた、本発明の有機薄膜の製造方法の好適な実施形態の1つである。
以下においては、一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物からなる第1材料と、分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物である第2材料と、を含む塗料組成物を作製して、該塗料組成物を塗布することで有機薄膜を製造する方法について説明する。
【0072】
塗料組成物は、例えば、容器に入れた溶媒中に第1材料と第2材料をそれぞれ所定量供給、又は容器に入れた第1材料と第2材料に溶媒を供給して撹拌し、溶解させる方法により得られる。
第1材料及び第2材料を溶解するために用いる溶媒としては、例えば、無機溶媒や有機溶媒、又はこれらを含む混合溶媒等を用いることができる。
無機溶媒としては、例えば、硝酸、硫酸、アンモニア、過酸化水素、水、リン酸、塩酸等が挙げられる。
【0073】
有機溶媒としては、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、ジイソブチルケトン、3,5,5-トリメチルシクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール(DEG)、グリセリン等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、ジエチレングリコールエチルエーテル(カルビトール)等のエーテル系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、フェニルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドン等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化合物系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル、ギ酸エチル等のエステル系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等の硫黄化合物系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル等のニトリル系溶媒、ギ酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸系、トリエチルアミン、ピリジン等の有機アミン系、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒のような各種有機溶媒等が挙げられ、これらの中でもメチルエチルケトン(MEK)、アセトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、ジイソブチルケトン、3,5,5-トリメチルシクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、シクロペンタノン等のケトン系溶媒が好ましい。
【0074】
第1材料及び第2材料を含む塗料組成物を塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法等の各種塗布法を用いることができる。
【0075】
このようにして塗料組成物を塗布した後、アニール処理を施すことが好ましい。アニール処理の条件は、70~200℃で0.1~5時間、窒素雰囲気又は大気下で行うことが好ましい。このようなアニール処理を施すことにより、溶媒を気化させて有機薄膜を成膜できる。
【0076】
<有機EL素子>
本発明は、また、陰極と陽極との間に発光層を有し、更に本発明の有機薄膜の層、該有機薄膜の層と金属酸化物層との積層膜の層、又は、一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物及び/又は分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物を含む材料層のいずれかを含む有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子でもある。
上記有機薄膜の層、該有機薄膜の層と金属酸化物層との積層膜の層、一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物及び/又は分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物を含む材料層は、いずれも本発明の有機EL素子中において、陰極と発光層との間にあってもよく、陽極と発光層との間にあってもよいが、陰極と発光層との間にあることが好ましい。
また、一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物及び/又は分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物を含む材料層は、上述した一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物及び/又は分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物を含む限り、その他の成分を含んでいてもよいが、ヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物及び/又は分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物のみからなる層であることが好ましい。
【0077】
次に、本発明の有機EL素子について、例を挙げて詳細に説明する。
図1は、本発明の有機EL素子の一例を説明するための概略断面図である。図1に示す本実施形態の有機EL素子1は、陽極3と陰極9との間に発光層6を有する。図1に示す有機EL素子1では、陰極9と発光層6との間に、本発明の有機薄膜、又は、一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物及び/又は分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物からなる電子注入層8を有している。
本実施形態の有機EL素子1は、基板2上に、陽極3と、正孔注入層4と、正孔輸送層5と、発光層6と、電子輸送層7と、電子注入層8と、陰極9と、がこの順に形成された積層構造を有する。
【0078】
図1に示す有機EL素子1は、基板2側に陽極3を有する典型的な有機EL素子であるが、図2に示すように、基板2と発光層6との間に、陰極9が配置された逆構造の有機EL素子1も、本発明の有機EL素子の好適な実施形態の1つである。
また、陰極9と、本発明の有機薄膜、又は、一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物及び/又は分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物からなる電子注入層8との間に、無機の酸化物層10を有する態様も、本発明の有機EL素子の好適な実施形態の1つである。
【0079】
図1及び図2に示す有機EL素子1は、基板2と反対側に光を取り出すトップエミッション型のものであってもよいし、基板2側に光を取り出すボトムエミッション型のものであってもよい。
【0080】
「基板」
基板2の材料としては、樹脂材料、ガラス材料等が挙げられる。
基板2に用いられる樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレート等が挙げられる。基板2の材料として、樹脂材料を用いた場合、柔軟性に優れた有機EL素子1が得られるため好ましい。
基板2に用いられるガラス材料としては、石英ガラス、ソーダガラス等が挙げられる。
【0081】
有機EL素子1がボトムエミッション型のものである場合には、基板2の材料として、透明基板を用いる。
有機EL素子1がトップエミッション型のものである場合には、基板2の材料として、透明基板だけでなく、不透明基板を用いてもよい。不透明基板としては、例えば、アルミナのようなセラミックス材料からなる基板、ステンレス鋼のような金属板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成した基板、樹脂材料で構成された基板等が挙げられる。
【0082】
基板2の平均厚さは、基板2の材料等に応じて決定でき、0.1~30mmであることが好ましく、0.1~10mmであることがより好ましい。基板2の平均厚さは、デジタルマルチメーター、ノギスにより測定できる。
【0083】
「陽極」
図1に示す陽極3は、基板2上に直接接触して形成されているが、図2に示すような逆構造の有機EL素子の場合は、基板2上に直接接触して形成されていなくてもよい。
陽極3の材料としては、ITO(インジウム酸化錫)、IZO(インジウム酸化亜鉛)、FTO(フッ素酸化錫)、In33、SnO2、Sb含有SnO2、Al含有ZnO等の酸化物の導電材料が挙げられる。この中でも、陽極3の材料として、ITO、IZO、FTOを用いることが好ましい。
陽極3の平均厚さは、特に制限されないが、10~500nmであることが好ましく、100~200nmであることがより好ましい。
陽極3の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定できる。
【0084】
「正孔注入層」
正孔注入層4は、無機材料からなるものであってもよいし、有機材料からなるものであってもよい。
無機材料としては、特に制限されないが、例えば、酸化バナジウム(V25)、酸化モリブテン(MoO3)、酸化ルテニウム(RuO2)等の金属酸化物を1種又は2種以上を用いることができる。
有機材料としては、ジピラジノ[2,3-f:2’,3’-h]キノキサリン-2,3,6,7,10,11-ヘキサカルボニトリル(HAT-CN)や2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノ-キノジメタン(F4-TCNQ)等の低分子材料や、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネート(PEDOT:PSS)等を用いることができる。
【0085】
正孔注入層4の平均厚さは、特に限定されないが、1~1000nmであることが好ましく、5~50nmであることがより好ましい。
正孔注入層4の平均厚さは、例えば、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定することができる。
【0086】
「正孔輸送層」
正孔輸送層5に用いる正孔輸送性有機材料としては、各種p型の高分子材料(有機ポリマー)、各種p型の低分子材料を単独または組み合わせて用いることができる。
具体的には、正孔輸送層5の材料として、例えば、N,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)、N4,N4’-ビス(ジベンゾ[b,d]チオフェン-4-イル)-N4,N4’-ジフェニルビフェニル-4,4’-ジアミン(DBTPB)、ポリアリールアミン、フルオレン-アリールアミン共重合体、フルオレン-ビチオフェン共重合体、ポリ(N-ビニルカルバゾール)、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、ポリチオフェン、ポリアルキルチオフェン、ポリヘキシルチオフェン、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリチエニレンビニレン、ピレンホルムアルデヒド樹脂、エチルカルバゾールホルムアルデヒド樹脂またはその誘導体等が挙げられる。これらの正孔輸送層5の材料は、他の化合物との混合物として用いることもできる。一例として、正孔輸送層5の材料として用いられるポリチオフェンを含有する混合物として、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン/スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)等が挙げられる。
【0087】
正孔輸送層5の平均厚さは、特に限定されないが、10~150nmであることが好ましく、20~100nmであることがより好ましい。
正孔輸送層5の平均厚さは、例えば、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定することができる。
【0088】
「発光層」
発光層6を形成する材料としては、発光層6の材料として通常用いることのできるいずれの材料を用いてもよく、これらを混合して用いてもよい。具体的には、例えば、発光層6として、ビス[2-(2-ベンゾチアゾリル)フェノラト]亜鉛(II)(Zn(BTZ)2)と、トリス[1-フェニルイソキノリン]イリジウム(III)(Ir(piq)3)とを含むものとすることができる。
また、発光層6を形成する材料は、低分子化合物であってもよいし、高分子化合物であってもよい。なお、本発明において低分子材料とは、高分子材料(重合体)ではない材料を意味し、分子量が低い有機化合物を必ずしも意味するものではない。
【0089】
発光層6を形成する高分子材料としては、例えば、トランス型ポリアセチレン、シス型ポリアセチレン、ポリ(ジ-フェニルアセチレン)(PDPA)、ポリ(アルキルフェニルアセチレン)(PAPA)のようなポリアセチレン系化合物;ポリ(パラ-フェニレンビニレン)(PPV)、ポリ(2,5-ジアルコキシ-パラ-フェニレンビニレン)(RO-PPV)、シアノ-置換-ポリ(パラ-フェニレンビニレン)(CN-PPV)、ポリ(2-ジメチルオクチルシリル-パラ-フェニレンビニレン)(DMOS-PPV)、ポリ(2-メトキシ,5-(2’-エチルヘキソキシ)-パラ-フェニレンビニレン)(MEH-PPV)のようなポリパラフェニレンビニレン系化合物;ポリ(3-アルキルチオフェン)(PAT)、ポリ(オキシプロピレン)トリオール(POPT)のようなポリチオフェン系化合物;ポリ(9,9-ジアルキルフルオレン)(PDAF)、ポリ(ジオクチルフルオレン-アルト-ベンゾチアジアゾール)(F8BT)、α,ω-ビス[N,N’-ジ(メチルフェニル)アミノフェニル]-ポリ[9,9-ビス(2-エチルヘキシル)フルオレン-2,7-ジイル](PF2/6am4)、ポリ(9,9-ジオクチル-2,7-ジビニレンフルオレニル-オルト-コ(アントラセン-9,10-ジイル))のようなポリフルオレン系化合物;ポリ(パラ-フェニレン)(PPP)、ポリ(1,5-ジアルコキシ-パラ-フェニレン)(RO-PPP)のようなポリパラフェニレン系化合物;ポリ(N-ビニルカルバゾール)(PVK)のようなポリカルバゾール系化合物;ポリ(メチルフェニルシラン)(PMPS)、ポリ(ナフチルフェニルシラン)(PNPS)、ポリ(ビフェニリルフェニルシラン)(PBPS)のようなポリシラン系化合物;更には特開2011-184430号公報、特開2012-151148号公報に記載のホウ素化合物系高分子材料等が挙げられる。
【0090】
発光層6を形成する低分子材料としては、例えば、配位子に2,2’-ビピリジン-4,4’-ジカルボン酸を持つ、3配位のイリジウム錯体、ファクトリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy)3)、8-ヒドロキシキノリンアルミニウム(Alq3)、トリス(4-メチル-8-キノリノレート)アルミニウム(III)(Almq3)、8-ヒドロキシキノリン亜鉛(Znq2)、(1,10-フェナントロリン)-トリス-(4,4,4-トリフルオロ-1-(2-チエニル)-ブタン-1,3-ジオネート)ユーロピウム(III)(Eu(TTA)3(phen))、2,3,7,8,12,13,17,18-オクタエチル-21H,23H-ポルフィンプラチナム(II)のような各種金属錯体;ジスチリルベンゼン(DSB)、ジアミノジスチリルベンゼン(DADSB)のようなベンゼン系化合物;ナフタレン、ナイルレッドのようなナフタレン系化合物;フェナントレンのようなフェナントレン系化合物;クリセン、6-ニトロクリセンのようなクリセン系化合物;ペリレン、N,N’-ビス(2,5-ジ-t-ブチルフェニル)-3,4,9,10-ペリレン-ジ-カルボキシイミド(BPPC)のようなペリレン系化合物;コロネンのようなコロネン系化合物;アントラセン、ビススチリルアントラセンのようなアントラセン系化合物;ピレンのようなピレン系化合物;4-(ジ-シアノメチレン)-2-メチル-6-(パラ-ジメチルアミノスチリル)-4H-ピラン(DCM)のようなピラン系化合物;アクリジンのようなアクリジン系化合物;スチルベンのようなスチルベン系化合物;2,5-ジベンゾオキサゾールチオフェンのようなチオフェン系化合物;ベンゾオキサゾールのようなベンゾオキサゾール系化合物;ベンゾイミダゾールのようなベンゾイミダゾール系化合物;2,2’-(パラ-フェニレンジビニレン)-ビスベンゾチアゾールのようなベンゾチアゾール系化合物;ビスチリル(1,4-ジフェニル-1,3-ブタジエン)、テトラフェニルブタジエンのようなブタジエン系化合物;ナフタルイミドのようなナフタルイミド系化合物;クマリンのようなクマリン系化合物;ペリノンのようなペリノン系化合物;オキサジアゾールのようなオキサジアゾール系化合物;アルダジン系化合物;1,2,3,4,5-ペンタフェニル-1,3-シクロペンタジエン(PPCP)のようなシクロペンタジエン系化合物;キナクリドン、キナクリドンレッドのようなキナクリドン系化合物;ピロロピリジン、チアジアゾロピリジンのようなピリジン系化合物;2,2’,7,7’-テトラフェニル-9,9’-スピロビフルオレンのようなスピロ化合物;フタロシアニン(H2Pc)、銅フタロシアニンのような金属または無金属のフタロシアニン系化合物;更には特開2009-155325号公報、特開2011-184430号公報及び特開2012-151149号公報に記載のホウ素化合物材料等が挙げられる。
【0091】
発光層6の平均厚さは、特に限定されないが、10~150nmであることが好ましく、20~100nmであることがより好ましい。
発光層6の平均厚さは、触針式段差計により測定してもよいし、水晶振動子膜厚計により発光層6の成膜時に測定してもよい。
【0092】
「電子輸送層」
電子輸送層7としては、電子注入層8の第2材料として用いる、これまで電子輸送層の材料として通常用いられてきた、アルカリ金属を添加すれば陰極からの電子注入が可能な材料とは異なる材料を用いることができる。
具体的には、前記第2材料は、芳香族炭化水素化合物、窒素-ホウ素結合を有する化合物、π電子過剰系複素芳香族化合物、シロール環を含む化合物、等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
一方、有機EL素子の作製に必要な材料の数は増えるものの、例えば、発光層6と電子輸送層7の間に正孔阻止層として、これまで電子輸送層の材料として通常用いられてきたアルカリ金属からの電子注入が可能な化合物を用いてもよい。
電子輸送層7の平均厚さは、特に限定されないが、10~150nmであることが好ましく、20~100nmであることが、より好ましい。
電子輸送層7の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定できる。
一方、後述するが、本発明の第1材料と第2材料を混合した有機薄膜を電子注入層8兼電子輸送層7として取り扱う場合、電子輸送層はなくても良い。
【0093】
「電子注入層」
電子注入層8は、陰極9から発光層6への電子の注入の速度・電子輸送性を改善するものである。電子注入層8は、上述の有機薄膜からなる。
電子注入層8の平均厚さは、0.5~100nmであることが好ましく、1~50nmであることがより好ましい。第1材料と第2材料とを含む塗料組成物を塗布する方法、第1材料を含む塗料組成物と第2材料と含む塗料組成物とを順に塗布する方法のいずれかを用いて、電子注入層8を形成することにより、表面の平滑な電子注入層8が得られる。もしくは、真空蒸着法を用いて共蒸着することにより、第1材料と第2材料からなる電子注入層8が得られる。また、電子注入層8の平均厚さが100nm以下である場合、電子注入層8を設けることによる有機EL素子1の駆動電圧の上昇を十分に抑制できる。
【0094】
なお、上記第1材料と第2材料とを含む膜を成膜する場合、陰極9と発光層6の間の構造は、図3~8に示すいずれの構造であってもよい。例えば、第1材料と第2材料の混合膜を電子注入層8とし、第2材料からなる膜を電子輸送層7とする構成であってもよく(図3)、第1材料のみからなる膜を電子注入層8とし、第2材料のみからなる膜を電子輸送層7とする構成であってもよく(図4)、第2材料と第1材料の積層膜を電子注入層8とし、第2材料のみからなる膜を電子輸送層7とする構成であってもよく(図5)、陰極9側に第2材料からなる膜を有し、これと第1材料・第2材料の混合膜との積層膜を電子注入層8とし、第2材料のみからなる膜を電子輸送層7とする構成であってもよく(図6)、上述の通り、第1材料と第2材料との混合膜を電子注入層8兼電子輸送層7としてもよい(図7図8)。なお、図3図6又は図8のように、隣接する2つの膜の両方に第2材料が含まれる場合、これら2つの膜に含まれる第2材料は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
電子注入層8の平均厚さは、例えば、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定できる。
【0095】
上述したとおり、一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物である第1材料は、他の材料との間に水素結合を形成し、他の材料にマイナス電荷を生じさせる能力を有する材料であることから、陰極9からの電子注入を十分に進めるため、第1材料は、陰極9側により多く存在することが好ましい。しかしながら、このマイナスの電荷は、陰極9と直接接していなくても、電子注入の促進に寄与することが可能であるため、図5図6図8に示すような積層構造であっても、第1材料の存在による電子注入の効果を得ることが出来る。有機EL素子が積層構造中に陰極と、陰極下に形成された本発明の有機薄膜の層とを含む場合、該有機EL素子は、本発明の積層膜を含んで構成されているということができる。このような本発明の積層膜を含んで構成される有機EL素子もまた、本発明の1つである。
【0096】
「陰極」
陰極9に用いられる材料としては、ITO、IZO、Au、Pt、Ag、Cu、Al、Mg、又はこれらを含む合金等が挙げられる。この中でも、陰極9の材料として、ITO、IZO、Au、Ag、Alを用いることが好ましい。
陰極9の平均厚さは、特に限定されないが、10~1000nmであることが好ましく、30~150nmであることがより好ましい。また、陰極9の材料として不透過な材料を用いる場合でも、例えば、平均厚さを10~30nm程度にすることで、トップエミッション型の有機EL素子における透明な陰極として使用できる。
陰極9の平均厚さは、水晶振動子膜厚計により陰極9の成膜時に測定できる。
【0097】
「電子注入用酸化物層」
図2に示す逆構造有機EL素子に本発明の有機薄膜を適用する場合、陰極9上に無機の酸化物層10を有することが好ましい。この酸化物層10は、電子注入層8としての機能及び/又は陰極9としての機能を備えている。図3図8に示す発光層6と陰極9の間に用いる電子注入層8は、逆構造有機EL素子にも適用可能であるが、陰極9と有機層の間に酸化物層10を挿入することとなる。
酸化物層10は、半導体もしくは絶縁体積層薄膜の層である。具体的には、酸化物層10は、単体の金属酸化物からなる層、二種類以上の金属酸化物を混合した層と単体の金属酸化物からなる層のいずれか一方または両方を積層した層、二種類以上の金属酸化物を混合した層のいずれであってもよい。
【0098】
酸化物層10を形成する金属酸化物を構成する金属元素としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、インジウム、ガリウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、ケイ素が挙げられる。
【0099】
酸化物層10が、二種類以上の金属酸化物を混合した層を含む場合、金属酸化物を構成する金属元素の少なくとも一つが、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、ジルコニウム、ハフニウム、ケイ素、チタン、亜鉛からなる層であることが好ましい。
酸化物層10が、単体の金属酸化物からなる層である場合、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛からなる群から選ばれる金属酸化物からなる層であることが好ましい。
【0100】
酸化物層10が、二種類以上の金属酸化物を混合した層と単体の金属酸化物からなる層のいずれか一方又は両方を積層した層、または二種類以上の金属酸化物を混合した層である場合、酸化チタン/酸化亜鉛、酸化チタン/酸化マグネシウム、酸化チタン/酸化ジルコニウム、酸化チタン/酸化アルミニウム、酸化チタン/酸化ハフニウム、酸化チタン/酸化ケイ素、酸化亜鉛/酸化マグネシウム、酸化亜鉛/酸化ジルコニウム、酸化亜鉛/酸化ハフニウム、酸化亜鉛/酸化ケイ素、酸化カルシウム/酸化アルミニウム、から選ばれる二種の金属酸化物の組合せを積層及び/又は混合したもの、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化マグネシウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化ジルコニウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化アルミニウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化ハフニウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化ケイ素、酸化インジウム/酸化ガリウム/酸化亜鉛、から選ばれる三種の金属酸化物の組合せを積層及び/又は混合したもの等が挙げられる。
【0101】
酸化物層10は、特殊な組成として良好な特性を示す酸化物半導体であるIGZO(酸化インジウムガリウム亜鉛)及び/又はエレクトライドである12CaO・7Al23を含むものであってもよい。
酸化物層10の平均厚さは、特に限定されないが、1~1000nmであることが好ましく、2~100nmであることがより好ましい。
酸化物層10の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定できる。
【0102】
「封止」
図1及び図2に示す有機EL素子1は、必要に応じて、封止されていてもよい。
例えば、図1及び図2に示す有機EL素子1は、有機EL素子1を収容する凹状の空間を有する封止容器(不図示)と、封止容器の縁部と基板2とを接着する接着剤とによって封止されていてもよい。また、封止容器に有機EL素子1を収容し、紫外線(UV)硬化樹脂等からなるシール材を充填することにより封止してもよい。
また、例えば、図1に示す有機EL素子1は、陰極9上に配置された板部材(不図示)と、板部材の陰極9と対向する側の縁部に沿って配置された枠部材(不図示)とからなる封止部材と、板部材と枠部材との間及び枠部材と基板2との間とを接着する接着剤とを用いて封止されていてもよい。
また、図2に示す有機EL素子1は、陽極3上に配置された板部材(不図示)と、板部材の陽極3と対向する側の縁部に沿って配置された枠部材(不図示)とからなる封止部材と、板部材と枠部材との間及び枠部材と基板2との間とを接着する接着剤とを用いて封止されていてもよい。
【0103】
封止容器又は封止部材を用いて有機EL素子1を封止する場合、封止容器内又は封止部材の内側に、水分を吸収する乾燥材を配置してもよい。また、封止容器又は封止部材として、水分を吸収する材料を用いてもよい。また、封止された封止容器内又は封止部材の内側には、空間が形成されていてもよい。
【0104】
図1及び図2に示す有機EL素子1を封止する場合に用いる封止容器又は封止部材の材料としては、樹脂材料、ガラス材料等を用いることができる。封止容器又は封止部材に用いられる樹脂材料及びガラス材料としては、基板2に用いる材料と同様のものが挙げられる。
【0105】
本実施形態の有機EL素子1において、有機薄膜として、上記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物である第1材料と、分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物である第2材料と、からなるものを用いて電子注入層8を形成した場合には、例えば、電子注入層8として大気中で不安定な材料であるアルカリ金属を用いた場合と比較して、優れた耐久性が得られる。このため、封止容器又は封止部材の水蒸気透過率が10-3~10-4g/m2/day程度であれば、有機EL素子1の劣化を十分に抑制できる。従って、封止容器又は封止部材の材料として、水蒸気透過率が10-4g/m2/day程度を超える樹脂材料を用いることが可能であり、柔軟性に優れた有機EL素子1を実現できる。
【0106】
「有機EL素子の製造方法」
次に、本発明の有機EL素子の製造方法の一例として、図1に示す有機EL素子1の製造方法を説明する。
図1に示す有機EL素子1を製造するには、まず、基板2上に陽極3を形成する。
陽極3は、スパッタ法、真空蒸着法、ゾルゲル法、スプレー熱分解(SPD)法、原子層堆積(ALD)法、気相成膜法、液相成膜法等により形成することができる。陽極3の形成には、金属箔を接合する方法を用いてもよい。
【0107】
次に、陽極3上に正孔注入層4を形成する。
正孔注入層4は、上述した有機薄膜の製造方法により形成できる。
【0108】
次に、正孔注入層4上に、正孔輸送層5と、発光層6と、電子輸送層7と、電子注入層8と、をこの順で形成する。
正孔輸送層5、発光層6、電子輸送層7、電子注入層8の形成方法は、特に限定されず、正孔輸送層5、発光層6、電子輸送層7、電子注入層8のそれぞれに用いられる材料の特性に合わせて、従来公知の種々の形成方法を適宜用いることができる。
【0109】
具体的には、正孔輸送層5、発光層6、電子輸送層7、電子注入層8の各層を形成する方法として、正孔輸送層5、発光層6、電子輸送層7、電子注入層8となる有機化合物を含む有機化合物溶液を塗布する塗布法、真空蒸着法、ESDUS(Evaporative Spray Deposition from Ultra-dilute Solution)法等が挙げられる。
【0110】
塗布法を用いて正孔輸送層5、発光層6、電子輸送層7、電子注入層8を形成する場合には、正孔輸送層5、発光層6、電子輸送層7、電子注入層8となる有機化合物をそれぞれ溶媒に溶解することにより、正孔輸送層5、発光層6、電子輸送層7、電子注入層8となる有機化合物をそれぞれ含む有機化合物溶液を形成する。
【0111】
正孔輸送層5、発光層6、電子輸送層7、電子注入層8となる有機化合物を溶解するために用いる溶媒としては、例えば、キシレン、トルエン、シクロヘキシルベンゼン、ジハイドロベンゾフラン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドン等の芳香族複素環化合物系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒等が好ましく、これらを単独または混合して用いることができる。
【0112】
正孔輸送層5、発光層6、電子輸送層7、電子注入層8となる有機化合物を含む有機化合物溶液を塗布する方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法等の各種塗布法を用いることができる。これらの塗布法の中でも、膜厚をより制御し易いという点で、スピンコート法やスリットコート法を用いることが好ましい。
【0113】
次に、陰極9を形成する。
陰極9は、例えば、陽極3と同様にして形成できる。
以上の工程により、図1に示す有機EL素子1が得られる。
【0114】
「封止方法」
図1に示す有機EL素子1を封止する場合には、有機EL素子の封止に用いられる通常の方法を使用して封止できる。
【0115】
本実施形態の有機EL素子1は、上述した一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物である第1材料と、第2材料とを含む有機薄膜からなる電子注入層8を有しているため、第1材料が第2材料との間に水素結合を形成することにより、マイナス電荷が生じ、優れた電子注入性が得られる。従って、陰極9から発光層6への電子注入・電子輸送の速度が速く、駆動電圧の低い有機EL素子1となる。
また、上述したように、上述した一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物である第1材料と、分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物である第2材料と、を含む有機薄膜が積層膜であって、第2材料によって形成される層が第1材料によって形成される電子注入層とは異なる層である有機EL素子1も、本発明の有機EL素子の別の実施形態である。このような実施形態の有機EL素子においても、陰極9から発光層6への電子注入・電子輸送の速度が速く、駆動電圧の低い有機EL素子1となる。
【0116】
「他の例」
本発明の有機EL素子は、上述した実施形態において説明した有機EL素子に限定されるものではない。
具体的には、上述した実施形態においては、有機薄膜が電子注入層として機能する場合を例に挙げて説明したが、本発明の有機EL素子は、陰極と発光層との間に有機薄膜を有していればよい。従って、有機薄膜は、電子注入層に限定されるものではなく、電子注入層と電子輸送層とを兼ねる層として設けられていてもよいし、電子輸送層として設けられていてもよい。
【0117】
また、図1に示す有機EL素子1においては、電子輸送層7、正孔輸送層5、正孔注入層4は、必要に応じて形成すればよく、設けられていなくてもよい。
また、陽極3、正孔注入層4、正孔輸送層5、発光層6、電子輸送層7、電子注入層8、陰極9の各層は、1層で形成されているものであってもよいし、2層以上からなるものであってもよい。
【0118】
また、図1に示す有機EL素子1においては、図1に示す各層の間に他の層を有するものであってもよい。具体的には、有機EL素子の特性を更に向上させる等の理由から、必要に応じて、正孔阻止層等を有していてもよい。
【0119】
図9及び図10に、本発明の有機EL素子の積層構造の他の例を説明するための概略断面図を示す。
【0120】
上述した通り、上記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物である第1材料は、電子注入性に極めて優れているため、該第1材料を電子注入層8に用いた場合には、発光層6に用いる材料に対しても直接電子を注入することが可能である。従って、発光層6に用いる材料を電子輸送層7に用いても、低い駆動電圧で動作することが可能となる。そのため、図9に示すように、発光層6に用いる材料を電子輸送層7に用いた単純構造の有機EL素子1であっても、低い駆動電圧で動作することが可能となる。この場合、典型的な有機EL素子に比べると、1つ使用する材料を減らすことが可能となる。
【0121】
従って、上記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物である第1材料を電子注入層8に用い、電子輸送層7に第2材料を用いた場合、発光層6にも第2材料を用いることができる。換言すれば、発光層6が、前記第2材料を含む態様も、本発明の有機EL素子の一好適態様である。
【0122】
更に、正孔注入層4から発光層6に用いる材料へは、比較的容易に正孔を注入できるため、上記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物である第1材料を電子注入層8に用いた場合には、発光層6に用いる材料を正孔輸送層5に用いても、低い駆動電圧で動作することが可能である。そのため、図10に示すように、発光層6に用いる材料を電子輸送層7及び正孔輸送層5に用いた単純構造の有機EL素子1であっても、低い駆動電圧で動作することが可能となる。この場合、典型的な有機EL素子に比べると、2つ使用する材料を減らすことが可能となる。
【0123】
従って、上記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物である第1材料を電子注入層8に用い、電子輸送層7に第2材料を用いた場合、発光層6及び正孔輸送層5にも第2材料を用いることができる。換言すれば、発光層6が、前記第2材料を含む態様も、本発明の有機EL素子の一好適態様である。また、陽極3と発光層6との間に、前記第2材料を含む層(例えば、正孔輸送層5)を有する態様も、本発明の有機EL素子の一好適態様である。
【0124】
また、上述した実施形態では、基板2上に陽極3、発光層6、陰極9がこの順に配置された通常構造の有機EL素子を例に挙げて説明したが、基板2と発光層6との間に陰極9が配置された逆構造のもの(例えば、図2参照)であってもよい。
また、図2に示す有機EL素子においては、無機の酸化物層10、電子輸送層7、正孔輸送層5、正孔注入層4は、必要に応じて形成すればよく、設けられなくてもよい。
【0125】
<表示装置、照明装置>
本発明の有機EL素子は、発光層等の材料を適宜選択することによって発光色を変化させることができるし、カラーフィルター等を併用して所望の発光色を得ることもできる。そのため、表示装置の発光部位や照明装置として好適に用いることができる。
【0126】
本発明の表示装置は、陰極と発光層との間に有機薄膜を有し、生産性に優れ、駆動電圧が低い本発明の有機EL素子を具える。このため、表示装置として好ましいものである。
【0127】
また、本発明の照明装置は、生産性に優れ、駆動電圧が低い本発明の有機EL素子を具える。このため、照明装置として好ましいものである。
【0128】
<有機薄膜太陽電池、光電変換素子、薄膜トランジスタ>
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の有機薄膜は、例えば、有機薄膜太陽電池、光電変換素子、薄膜トランジスタ等のデバイスに用いることができる。
【0129】
本発明の有機薄膜太陽電池や光電変換素子は、有機薄膜を含む。例えば、有機薄膜を有機薄膜太陽電池や光電変換素子の電子注入層に用いた場合、有機薄膜の第1材料と第2材料の間で水素結合を形成することにより、マイナス電荷が生じるため、電子輸送の速度が速く、高い発電効率が得られる。従って、有機薄膜太陽電池や光電変換素子として好ましいものである。
【0130】
また、本発明の薄膜トランジスタは、有機薄膜を含む。例えば、薄膜トランジスタのチャネル層を有機薄膜で形成した場合、電子移動度の高いチャネル層が得られる。
また、電極上に該有機薄膜を形成した場合、接触抵抗の低減が期待できる。
【0131】
このように本発明の有機薄膜は、有機薄膜太陽電池、光電変換素子や薄膜トランジスタの材料として好適なものであり、したがって、該有機薄膜を構成する上記一般式(1)で表される構造を有する化合物と分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物もまた、これらの材料として好適なものである。このような、上記一般式(1)で表される構造を有する化合物と分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物を含む有機薄膜太陽電池用材料、光電変換素子用材料や薄膜トランジスタ用材料もまた、本発明の1つである。
【実施例
【0132】
以下に、実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「モル%」を意味するものとする。
【0133】
(合成例1)
200mLの三口フラスコに、rac-BINAP(747mg)、トルエン(67mL)を入れ、窒素雰囲気下90℃に加熱し溶解させた。室温まで放冷後、酢酸パラジウム(180mg)を入れ、室温で1時間撹拌した。これに2,6-ジブロモピリジン(4.74g)、1,3,4,6,7,8-ヘキサヒドロ-2H-ピリミド[1,2-a]ピリミジン(6.13g)、KOtBu(6.28g)を加え、90℃で終夜加熱撹拌した。室温まで放冷後、ジエチルエーテルを加え、析出する固体をろ別し、ろ液を濃縮した。得られた残渣にアセトンを加え、析出した固体をろ取し、下記構造式(1-2)の化合物(3.7g,52.5%)を得た。
【化20】
【0134】
(合成例2)
500mLナスフラスコに、rac-BINAP(1.21g,1.95mmol)と脱水トルエン(350mL)を入れて、90℃で加熱溶解させた。これを室温に冷却して、酢酸パラジウム(0.345,1.54mmol)を加えて、反応容器内をアルゴン置換した。55分後、9,10-ジブロモアントラセン(5.01g,14.9mmol)、1,3,4,6,7,8-ヘキサヒドロ-2H-ピリミド[1,2-a]ピリミジン(4.45g,32.0mmol)、カリウムtert-ブトキシド(4.26g,37.9mmol)を加えて、再度反応容器内をアルゴン雰囲気下にした後、オイルバス90℃にて加熱攪拌した。140分後、室温に冷却して、ジエチルエーテル(1L)を加えて、しばらく攪拌した後、析出固体を吸引ろ過、ジエチルエーテルで洗浄した。ろ液中のジエチルエーテル分を減圧留去後、トルエン層を水(150mL)で逆抽出して、水層を減圧留去し3.77gの橙色固体を得た。
これをアセトン(50mL)に懸濁させて、室温で終夜攪拌後、固体を吸引ろ過、アセトン洗浄して1.0gの黄色固体を得た。
さらに、この黄色固体を60℃でクロロホルム(41mL)に溶解させた後、ヘキサン(48mL)を徐々に加えた。固体の析出を確認した後、冷凍庫で終夜冷却し、固体を吸引ろ過、ヘキサン洗浄して、下記構造式(1-30)の化合物を、0.657g(1.45mmol,収率10%)の黄色固体として得た。
【化21】
【0135】
(実施例1~9及び比較例1~2)
以下に示す方法により、図1に示す有機EL素子1を製造し、評価した。
[工程1]
基板2として、厚さ100nmのITOからなる幅3mmにパターニングされた電極(陽極3)を有する平均厚さ0.7mmの市販の透明ガラス基板を用意した。
そして、陽極3を有する基板2を、アセトン中、イソプロパノール中でそれぞれ10分間ずつ超音波洗浄し、イソプロパノール中で5分間煮沸した。その後、陽極3を有する基板2を、イソプロパノール中から取り出し、窒素ブローにより乾燥させ、UVオゾン洗浄を20分間行った。
【0136】
[工程2]
[工程1]において洗浄した陽極3の形成されている基板2を、スピンコーターにセットし、正孔注入層4として、ヘレウス社製正孔注入材料「Clevios HIL1.3N」を膜厚10nmとなるように成膜した。その後、180℃に熱したホットプレート上で1時間加熱した。
【0137】
[工程3]
次に、正孔注入層4まで形成された基板2を、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。
また、下記構造式(4)で示される2,4-ジフェニル-6-ビス(12-フェニルインドロ)[2,3-a]カルバゾール-11-イル)-1,3,5-トリアジン(DIC-TRZ)と、
下記構造式(5)で示されるfac-トリス(3-メチル-2-フェニルピリジナト-N,C2’-)イリジウム(III)(Ir(mppy)3)と、
下記構造式(6)で示されるN,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)と、
下記構造式(7)で示されるN3,N3'''-ビス(ジベンゾ[b,d]チオフェン-4-イル)-N3,N3'''-ジフェニル-[1,1':2',1'':2'',1'''-クアテルフェニル]-3,3'''-ジアミン(4DBTP3Q)と、
第1材料となる構造式(1-2)の化合物及び構造式(1-30)の化合物と、
第2材料となる各種材料と、
Alとを、それぞれアルミナルツボに入れて蒸着源としてセットした。
【化22】
【0138】
第2材料については、芳香族炭化水素化合物の例として、下記構造式(8)、(9)、(10)又は(11)で示される化合物を、
窒素-ホウ素結合を有する化合物の例として、下記構造式(12)又は(13)で示される化合物を、
π電子過剰系複素芳香族化合物の例として、下記構造式(14)又は(15)で示される化合物を、
シロール環を含む化合物の例として、下記構造式(16)で示される化合物を、
また、従来材料であるアルカリ金属からの電子注入が可能な化合物の例として、下記構造式(17)又は(18)で示される化合物を用いた。
【化23】
【0139】
そして、真空蒸着装置のチャンバー内を1×10-5Paの圧力となるまで減圧して、抵抗加熱による真空蒸着法により、正孔輸送層5、発光層6、電子輸送層7、電子注入層8、陰極9を連続して形成した。
【0140】
具体的には、まず、α-NPD20nmと4DBTP3Q10nmからなる厚み30nmの正孔輸送層5を形成した。
続いて、DIC-TRZをホスト、Ir(mppy)3をドーパントとして25nm共蒸着し、発光層6を成膜した。この時、ドープ濃度は、Ir(mppy)3が発光層6全体に対して3質量%となるようにした。
次に、発光層6まで形成した基板2上に、図11に示す構成A~Fの電子輸送層7、電子注入層8を形成した。
次に、電子注入層8まで形成した基板2上に、真空蒸着法によりアルミニウムからなる膜厚100nmの陰極9を成膜した。なお、陰極9は、ステンレス製の蒸着マスクを用いて蒸着面が幅3mmの帯状になるように形成し、作製した有機EL素子の発光面積を9mm2とした。
【0141】
構成A~Fの詳細は、以下の通りである。
構成A:第2材料となる材料を40nm成膜後、典型的な電子注入材料であるフッ化リチウム(LiF)を0.8nm蒸着した後に、陰極9を形成した。
構成B:第2材料となる材料を40nm成膜後、典型的な電子注入材料である8-キノリノラトリチウム(Liq)を1nm蒸着した後に、陰極9を形成した。
構成C:第2材料となる材料を40nm成膜後、第1材料として構造式(1-2)の化合物を1nm蒸着した後に、陰極9を形成した。
構成C-2:第2材料となる材料を40nm成膜後、第1材料として構造式(1-30)の化合物を1nm蒸着した後に、陰極9を形成した。
構成D:第2材料となる材料を40nm成膜後、第1材料(構造式(1-2)の化合物)と第2材料の混合膜を質量比6:4(第1材料:第2材料)で共蒸着により5nm蒸着した後に、陰極9を形成した。
構成D-2:第2材料となる材料を40nm成膜後、第1材料(構造式(1-30)の化合物)と第2材料の混合膜を質量比6:4(第1材料:第2材料)で共蒸着により5nm蒸着した後に、陰極9を形成した。
構成E:第2材料となる材料を40nm成膜後、第1材料として構造式(1-2)の化合物を1nm蒸着した後に、第2材料となる材料を1nm成膜後、陰極9を形成した。
構成F:第2材料となる材料を40nm成膜後、電子注入層を成膜せずに、陰極9を形成した。
【0142】
また、各実施例及び比較例において、第2材料として使用した化合物は、以下のとおりである。
実施例1:第2材料として、構造式(8)の化合物を用いて有機EL素子を作製した。
実施例2:第2材料として、構造式(9)の化合物を用いて有機EL素子を作製した。
実施例3:第2材料として、構造式(10)の化合物を用いて有機EL素子を作製した。
実施例4:第2材料として、構造式(11)の化合物を用いて有機EL素子を作製した。
実施例5:第2材料として、構造式(12)の化合物を用いて有機EL素子を作製した。
実施例6:第2材料として、構造式(13)の化合物を用いて有機EL素子を作製した。
実施例7:第2材料として、構造式(14)の化合物を用いて有機EL素子を作製した。
実施例8:第2材料として、構造式(15)の化合物を用いて有機EL素子を作製した。
実施例9:第2材料として、構造式(16)の化合物を用いて有機EL素子を作製した。
比較例1:第2材料として、構造式(17)の化合物を用いて有機EL素子を作製した。
比較例2:第2材料として、構造式(18)の化合物を用いて有機EL素子を作製した。
【0143】
[工程4]
次に、陰極9までの各層を形成した基板2を、凹状の空間を有するガラスキャップ(封止容器)に収容し、紫外線(UV)硬化樹脂からなるシール材を充填することにより封止し、各有機EL素子を得た。
【0144】
作製した各有機EL素子に対して、ケースレー社製の「2400型ソースメーター」を用いて電圧を印加し、コニカミノルタ社製の「LS-100」を用いて輝度を測定し、印加電圧と輝度の関係を調べた。得られた結果を表1に示す。但し、実施例8の結果については、表1には示さず、図13に示す。
構成A-Eでは、多くの素子で10000nit以上の輝度が得られたため、10000nit時の印加電圧を示すが、構成Fでは、多くの素子で駆動電圧が高いため、1nit時の印加電圧を表1に示す。また、代表的なデータとして、実施例1と比較例1の輝度-印加電圧特性を図12に示す。
【0145】
【表1】
【0146】
図12に示す実施例1と比較例1の輝度-印加電圧特性より、ほぼ類似の構造を持つ構造式(8)の化合物と構造式(17)の化合物について、ピリジン基の有無によって特性が全く異なることが分かる。構造式(17)の化合物を用いた比較例1に比べ、構造式(8)の化合物を用いた実施例1は、構成Fにおいて、輝度1nit時の印加電圧が大幅に高い。更に、構造式(17)の化合物を用いた比較例1では、LiFやLiqを用いた構成AやBで、低い電圧で10000nitが得られているのに対し、ピリジンを持たない芳香族炭化水素化合物である構造式(8)の化合物を用いた実施例1では、LiFやLiqを用いた構成AやBでは、電子が入らず、10000nitを得るのに必要な電圧は大幅に高い。ピリジン基が特性に及ぼす影響について、類似の傾向が実施例5と比較例2についても観測された。更に、その他の実施例についても、構成AやBでは、駆動電圧が高い。従って、ピリジン基含有化合物等、これまでの有機EL素子において電子輸送層として広く用いられてきた化合物は、アルカリ金属を添加すれば陰極からの電子注入が容易な化合物であると言える。これは先述の通り、ピリジン等とLi等アルカリ金属との相互作用に起因する。
【0147】
一方、実施例1~9において、構成AやBでは、駆動電圧が高いことから、芳香族炭化水素化合物(実施例1~4)、窒素-ホウ素結合を有する化合物(実施例5,6)、π電子過剰系複素芳香族化合物(実施例7,8)、シロール環を含む化合物(実施例9)は、分子内にアルカリ金属へ配位する構造を有しない化合物であると言える。
【0148】
これに対し、実施例1の構成C及び構成Dでは、構造式(1-2)の化合物を使うことで、電子がスムーズに注入でき、大幅に低い駆動電圧で10000nitを得ることができている。これは、構造式(1-2)の化合物と芳香族炭化水素化合物との強い水素結合の結果、高い電子注入性が得られた結果であると考えられる。
実施例2、3、4でも、同様の結果が得られており、構造式(1-2)の化合物を用いることで、芳香族炭化水素から有機層への電子注入が可能である。
【0149】
また、第1材料に構造式(1-30)の化合物を用いた実施例2の構成C-2及び構成D-2においても、大幅に低い駆動電圧で10000nitを得ることができている。これより、一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物であれば、第2材料との強い水素結合が引き起こされ、高い電子注入性が得られることが分かる。また、実施例2の構成Cと構成C-2、及び構成Dと構成D-2を比較すると駆動電圧が少し異なるのは、pKaの大きさ等に起因する水素結合の強さに影響していると考えられ、pKaの大きいもの、水素結合の強いものが好ましい。
【0150】
次に、窒素-ホウ素結合を有する構造式(12)の化合物と構造式(18)の化合物を用いた実施例5と比較例2の結果に注目する。先述の通り、ビピリジンを持つ構造式(18)の化合物を用いた比較例2では、LiFやLiqを用いた素子で、低い電圧で10000nitが得られているのに対し、ビピリジンを持たない窒素-ホウ素結合を有する化合物である構造式(12)の化合物を用いた実施例5では、LiFやLiqを用いた構成AやBでは電子が入らず、10000nitを得るのに必要な電圧は大幅に高い。
従って、Li等のアルカリ金属からの電子注入には、ビピリジン等とアルカリ金属の相互作用が必要であり、窒素-ホウ素結合を有する化合物とアルカリ金属の組み合わせでは、素子への電子注入が困難であることが分かる。
これに対し、実施例5の構成C及び構成Eでは、構造式(1-2)の化合物を使うことで、電子をスムーズに注入でき、大幅に低い駆動電圧で10000nitを得ることができている。これは、構造式(1-2)の化合物と窒素-ホウ素結合を有する化合物との強い水素結合の結果、高い電子注入性が得られた結果であると考えられる。このように、構造式(1-2)の化合物を用いることで、窒素-ホウ素結合を有する化合物から有機層への電子注入が可能である。
実施例6でも、同様の結果が得られており、構造式(1-2)の化合物を用いることで、窒素-ホウ素結合を有する化合物から有機層への電子注入が可能である。
【0151】
次に、π電子過剰系複素芳香族化合物の例として、構造式(14)の化合物を用いた実施例7に注目する。構造式(14)の化合物に対しては、極めて電子注入が困難であり、構成Fにおいて、1nit時の印加電圧も、他の実施例や比較例に比べ大幅に高い。また、LiFを用いた構成Aでは、約17Vもの高い電圧でようやく10000nitが得られ、Liqを用いた構成Bにおいては、得られた最大輝度は2000nit程度である。
これに対し、構造式(1-2)の化合物を用いた構成Eとすることで、大幅な低電圧化が観測され、他の実施例に比べれば電圧は高いものの、10000nitの輝度を得ることができた。このように、本発明は、電子の注入が極めて困難な、π電子過剰系複素芳香族化合物を、電子輸送層に用いた有機EL素子に対しても有効である。
【0152】
他の例として、構造式(15)の化合物を用いた実施例8に注目する。実施例8については、他の実施例に比べ、得られた輝度が低いため、得られた結果は、表1には示さず、図13に示す。ここでも、ピリジン等、Liと相互作用ができる置換基を有していないため、LiFを用いた構成Aでは、電子が入らず、最大輝度が60nitに満たない。
これに対し、実施例8の構成Dでは、構造式(1-2)の化合物を使うことで、電子をスムーズに注入でき、大幅に低い電圧で駆動でき、10000nitを超える最大輝度を得ることができている。よって、同様に構造式(1-2)の化合物を用いることで、π電子過剰系複素芳香族化合物から有機層への電子注入が可能であることが分かる。
【0153】
次に、シロール環を含む化合物の例として、構造式(16)の化合物を用いた実施例9に注目する。ピリジン等、Liと相互作用ができる置換基を有していないため、LiFやLiqを用いた構成AやBでは、電子が入らず、10000nitを得るのに必要な電圧は大幅に高い。
これに対し、実施例9の構成C及び構成Eでは、構造式(1-2)の化合物を使うことで、電子をスムーズに注入でき、大幅に低い駆動電圧で10000nitを得ることができている。これは、構造式(1-2)の化合物とシロール環を含む化合物との強い水素結合の結果、高い電子注入性が得られた結果であると考えられる。このように、構造式(1-2)の化合物を用いることで、シロール環を含む化合物から有機層への電子注入が可能である。
【0154】
(実施例10及び比較例3)
本発明が図2に示す逆構造の有機EL素子にも応用可能であることを示すため、上述した一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物である構造式(1-2)の化合物と、芳香族炭化水素である構造式(8)の化合物を電子注入層に用いた逆構造の有機EL素子を作製した。
【0155】
[工程1]
実施例1~9及び比較例1~2と同様にして、[工程1]を行い、洗浄した厚さ150nmのITOからなる幅3mmのパターンイングされた陰極9の形成されている基板2を準備した。
【0156】
[工程2]
[工程1]において洗浄した陰極9の形成されている基板2を、亜鉛金属ターゲットを持つミラトロンスパッタ装置の基板ホルダーに固定した。スパッタ装置のチャンバー内を、約1×10-4Paの圧力となるまで減圧した後、アルゴンと酸素を導入した状態でスパッタし、基板2の陰極9上に膜厚約3nmの酸化亜鉛層(酸化物層10)を作製した。なお、酸化亜鉛層を作製する際には、電極取り出しのために、ITO電極(陰極9)上の一部に酸化亜鉛が成膜されないようにした。酸化物層10を成膜した基板2に、大気下で400℃、1時間のアニールを行った。
【0157】
[工程3]
次に、酸化物層10上に電子注入層8として、以下に示す方法により、第1材料と第2材料とを含む有機薄膜を形成した(実施例10)。
まず、構造式(8)の化合物と構造式(1-2)の化合物を、質量比1:0.1(構造式(8)の化合物:構造式(1-2)の化合物)でシクロペンタノンに溶解し(濃度は1質量%)、塗料組成物を得た。
次に、[工程2]で作製した陰極9および酸化物層10の形成されている基板2をスピンコーターに設置した。そして、塗料組成物を酸化物層10上に滴下しながら、基板2を毎分3000回転で30秒間回転させて塗膜を形成した。その後、ホットプレートを用いて窒素雰囲気下で150℃、1時間のアニール処理を施し、電子注入層8を形成した。得られた電子注入層8の平均厚さは20nmであった。
【0158】
比較例として、構造式(1-2)の化合物を含まない混合溶媒を作製し、その他の工程は同様にして電子注入層8を形成した(比較例3)。
【0159】
次に、電子注入層8までの各層が形成された基板2を、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。
また、下記構造式(21)で示されるビス[2-(2-ベンゾチアゾリル)フェノラト]亜鉛(II)(Zn(BTZ)2)と、
下記構造式(20)で示されるトリス[1-フェニルイソキノリン]イリジウム(III)(Ir(piq)3)と、
上記構造式(6)で示されるN,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)と、
下記構造式(19)で示されるN4,N4’-ビス(ジベンゾ[b,d]チオフェン-4-イル)-N4,N4’-ジフェニルビフェニル-4,4’-ジアミン(DBTPB)と、
下記構造式(22)で示される1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレン-2,3,6,7,10,11-ヘキサカルボニトリル(HAT-CN)と、
Alと、をそれぞれアルミナルツボに入れて蒸着源としてセットした。
【0160】
【化24】
【0161】
そして、真空蒸着装置のチャンバー内を1×10-5Paの圧力となるまで減圧して、抵抗加熱による真空蒸着法により、電子輸送層7、発光層6、正孔輸送層5、正孔注入層4、陽極3を連続して形成した。
【0162】
まず、Zn(BTZ)2からなる厚み10nmの電子輸送層7を形成した。
続いて、Zn(BTZ)2をホスト、Ir(piq)3をドーパントとして20nm共蒸着し、発光層6を成膜した。この時、ドープ濃度は、Ir(piq)3が発光層6全体に対して6質量%となるようにした。
次に、発光層6まで形成した基板2上に、DBTPBを10nm、α-NPDを40nm成膜し、正孔輸送層5を形成した。
さらに、HAT-CNを10nm成膜し、正孔注入層4を形成した。
次に、正孔注入層4まで形成した基板2上に、真空蒸着法によりアルミニウムからなる膜厚100nmの陽極3を成膜した。
これらをガラスキャップにより封止し、実施例10と比較例3の有機EL素子を得た。
【0163】
実施例10及び比較例3の有機EL素子の輝度-電圧特性を評価した結果を図14に示す。
図14に示す通り、上述した一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物である構造式(1-2)の化合物を電子注入層にドープした実施例10の有機EL素子では、比較例3の有機EL素子に比べ、大幅に低い印加電圧で高い輝度が得られている。酸化亜鉛から、芳香族炭化水素である構造式(8)の化合物への直接の電子注入は困難である一方、構造式(1-2)の化合物と芳香族炭化水素化合物との強い水素結合を利用することで、電子を効率的に注入でき、芳香族炭化水素を電子注入層の一部に用いた場合でも低い電圧で駆動可能な逆構造の有機EL素子が実現できる。
【0164】
(実施例11~14及び比較例4)
以下に示す方法により、図9及び図10に示す有機EL素子1を製造し、評価した。
【0165】
[工程1]
基板2として、厚さ70nmのITOからなる幅3mmにパターニングされた電極(陽極3)を有する平均厚さ0.7mmの市販の透明ガラス基板を用意した。
そして、陽極3を有する基板2を、アセトン中、イソプロパノール中でそれぞれ10分間ずつ超音波洗浄し、イソプロパノール中で5分間煮沸した。その後、陽極3を有する基板2を、イソプロパノール中から取り出し、窒素ブローにより乾燥させ、UVオゾン洗浄を20分間行った。
【0166】
[工程2]
[工程1]において洗浄した陽極3の形成されている基板2を、スピンコーターにセットし、正孔注入層4の一部として、へレウス社製正孔注入材料「Clevios HIL1.3N」を膜厚10nmとなるように製膜した。その後、180℃に熱したホットプレート上で一時間加熱した。更に、5nmのHAT-CN(上記構造式(22)で示される1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレン-2,3,6,7,10,11-ヘキサカルボニトリル)を製膜し、合計15nmの正孔注入層4を形成した。
【0167】
[工程3]
次に、正孔注入層4まで形成された基板2を、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。
また、下記構造式(23)で表される化合物[発光層のホスト材料、9-(ナフタレン-1-イル)-10-(ナフタレン-2-イル)アントラセン]と、
下記構造式(24)で表される化合物(青色発光材料)と、
メルク社製正孔輸送材料「HTM-081」と、
上記構造式(1-2)で表される化合物と、
リチウムキノリンと、
Alとを、それぞれアルミナルツボに入れて蒸着源としてセットした。
【0168】
【化25】
【0169】
そして、真空蒸着装置のチャンバー内を1×10-5Paの圧力となるまで減圧して、抵抗加熱による真空蒸着法により、30nmの正孔輸送層5、25nmの発光層6、25nmの電子輸送層7、1nmの電子注入層8、陰極9を連続して形成した。
構造式(23)で表される化合物をホスト、構造式(24)で表される化合物をドーパントとして25nm共蒸着し、発光層6を成膜した。この時、ドープ濃度は、構造式(24)で表される化合物が発光層6全体に対して3質量%となるようにした。
実施例11~14及び比較例4において各層に用いた材料を表2にまとめた。
【0170】
【表2】
【0171】
実施例11では、電子輸送層7にあたる部分に、発光層ホストである構造式(23)で表される化合物を用いている。
また、実施例12においては、ホストである構造式(23)で表される化合物に構造式(24)で表される化合物をドープした発光層と同じ層を電子輸送層7にあたる部分にも用い、発光層から一貫で蒸着形成している。
実施例11と実施例12は、図9に相当する構造である。
【0172】
一方、実施例13では、正孔輸送層5及び電子輸送層7にあたる部分に、発光層ホストである構造式(23)で表される化合物を用いている。
さらに、実施例14では、ホストである構造式(23)で表される化合物に構造式(24)で表される化合物をドープした発光層と同じ層を正孔輸送層5及び電子輸送層7にあたる部分にも用い、全て一貫で蒸着形成している。
実施例13と実施例14は、図10に相当する構造である。
【0173】
比較例4のみ、電子注入層8をリチウムキノリンから構成し、実施例11~14は、電子注入層8を構造式(1-2)で表される化合物から構成した。電子注入層8を蒸着後、陰極9を蒸着により形成した。
【0174】
実施例11~14、比較例4の有機EL素子に対して、他の実施例、比較例と同様の方法により輝度-電圧特性を測定した結果を図15に示す。
【0175】
比較例4においては、リチウムキノリンから芳香族炭化水素である構造式(23)で表される化合物への電子注入が困難であるため、駆動電圧が高いのに対し、実施例11~14においては、電子が効率的に注入できており、低い駆動電圧で動作できていることが分かる。
更に、正孔輸送層5が発光層ホスト又は発光層と同じ構成である実施例13及び実施例14においても、比較例4に比べ、大幅に低い駆動電圧で動作していることが分かる。
このように、電子注入性に優れた材料を用いることで、有機EL素子の構造を簡素化し、必要な材料の数を減らすことが可能となる。
【0176】
(実施例15及び比較例5)
実施例14は、発光層がホストとドーパントの2種類の材料からなる構成であったが、発光層が1種類の材料から構成される有機EL素子でも、図10に示す簡易の構造が実現可能であることを実証するため、実施例15及び比較例5の有機EL素子を作製した。
【0177】
[工程1]
基板2として、厚さ70nmのITOからなる幅3mmにパターニングされた電極(陽極3)を有する平均厚さ0.7mmの市販の透明ガラス基板を用意した。
そして、陽極3を有する基板2を、アセトン中、イソプロパノール中でそれぞれ10分間ずつ超音波洗浄し、イソプロパノール中で5分間煮沸した。その後、陽極3を有する基板2を、イソプロパノール中から取り出し、窒素ブローにより乾燥させ、UVオゾン洗浄を20分間行った。
【0178】
[工程2]
[工程1]において洗浄した陽極3の形成されている基板2を、スピンコーターにセットし、正孔注入層4の一部として、へレウス社製正孔注入材料「Clevios HIL1.3N」を膜厚10nmとなるように製膜した。その後、180℃に熱したホットプレート上で一時間加熱した。更に、5nmのHAT-CN(上記構造式(22)で示される1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレン-2,3,6,7,10,11-ヘキサカルボニトリル)を製膜し、合計15nmの正孔注入層4を形成した。
【0179】
[工程3]
次に、正孔注入層4まで形成された基板2を、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。
また、下記構造式(25)で表される化合物[発光材料、9-(9-フェニルカルバゾール-3-イル)-10-(ナフタレン-1-イル)アントラセン(PCAN)]と、
上記構造式(1-2)で表される化合物と、
リチウムキノリンと、
Alとを、それぞれアルミナルツボに入れて蒸着源としてセットした。
【0180】
【化26】
【0181】
そして、真空蒸着装置のチャンバー内を1×10-5Paの圧力となるまで減圧して、抵抗加熱による真空蒸着法により、各層を蒸着した。正孔輸送層5、発光層6、電子輸送層7として構造式(25)で表される化合物のみを80nm蒸着し、その後、1nm膜厚の電子注入層8、陰極9を連続して形成した。
【0182】
実施例15では、電子注入層8に構造式(1-2)で表される化合物を用い、比較例5では、電子注入層8に一般的な電子注入材料であるリチウムキノリンを用いた。
【0183】
実施例15、比較例5の有機EL素子に対して、他の実施例、比較例と同様の方法により輝度-電圧特性を測定した結果を図16に示す。
【0184】
比較例5においては、リチウムキノリンからアルカリ金属と相互作用しない構造式(25)で表される化合物への電子注入が困難であるため、駆動電圧が高いのに対し、実施例15においては、電子が効率的に注入できており、低い駆動電圧で動作できていることが分かる。
このように、電子注入性に優れた材料を用いることで、有機EL素子の構造を簡素化し、必要な材料の数を減らすことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0185】
本発明の有機薄膜は、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、有機薄膜太陽電池、光電変換素子、薄膜トランジスタ等に利用できる。
【符号の説明】
【0186】
1:有機EL素子
2:基板
3:陽極
4:正孔注入層
5:正孔輸送層
6:発光層
7:電子輸送層
8:電子注入層
9:陰極
10:酸化物層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16