(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】石灰石の採掘方法及び利用方法
(51)【国際特許分類】
E21C 41/22 20060101AFI20240815BHJP
C04B 14/28 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
E21C41/22
C04B14/28
(21)【出願番号】P 2020216605
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】田中 祐太朗
(72)【発明者】
【氏名】立川 龍之介
(72)【発明者】
【氏名】山田 和希
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-143485(JP,A)
【文献】特開平10-331566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21C 41/22
C04B 14/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと水とを混練したセメントペーストを、石灰石採掘用の切羽における石灰石の表面に散布して硬化させた後、前記石灰石を採掘することを特徴とする石灰石の採掘方法
であって、前記セメントペースト中の水セメント比が200%以上1000%以下である石灰石の採掘方法。
【請求項2】
セメントと水とを混練したセメントペーストを、石灰石採掘用の切羽における石灰石の表面に散布して硬化させた後、前記石灰石を採掘する採掘方法により採掘した前記石灰石を、セメント混練物の材料として利用することを特徴とする石灰石の利用方法。
【請求項3】
前記セメントペースト中の水セメント比が200%以上1000%以下である、請求項2に記載の石灰石の採掘方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石灰石の採掘方法及び利用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石灰石は、下記特許文献1に記載のように、石灰石鉱山から採掘されてモルタル及びコンクリート(セメント混練物)の骨材として利用されている。その一方、石灰石を採掘する際における粉塵の飛散が問題視されている。
【0003】
下記特許文献2には、工事現場における土壌の飛散を防止するためにラテックス系粉塵飛散防止剤の使用が提案されている。下記特許文献2に記載の技術を石灰石の採掘に適用する場合、石灰石鉱山において石灰石採掘用の切羽における石灰石の表面にラテックス系粉塵飛散防止剤を散布することになる。
【0004】
この場合、採掘した石灰石をセメント混練物の材料(例えば骨材)として利用すると、この石灰石に付着したラテックス系粉塵飛散防止剤がセメント混練物に混入する。これにより、このセメント混練物の強度が低くなるという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-140422号公報
【文献】特開2019-218207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ラテックス系粉塵飛散防止剤に比較してセメント混練物の強度を低下させにくい粉塵飛散防止剤を提供すること、及び、この粉塵飛散防止剤を利用して石灰石採掘用の切羽において粉塵の飛散を防止しつつ石灰石を採掘することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一項目に係る石灰石の採掘方法は、セメントと水とを混練したセメントペーストを、石灰石採掘用の切羽における石灰石の表面に散布して硬化させた後、前記石灰石を採掘することを特徴とするものである。
【0008】
この第一項目によれば、ラテックス系粉塵飛散防止剤に比較してセメント混練物の強度を低下させにくい粉塵飛散防止剤であるセメントと水とを混練したセメントペーストを利用し、石灰石採掘用の切羽において粉塵の飛散を防止しつつ石灰石を採掘することができる。なお、セメントペーストの粉塵飛散防止効果とセメント混練物の強度に与える影響とについては後述の試験例で説明する。
【0009】
本発明の第二項目に係る石灰石の採掘方法は、前記セメントペースト中の水セメント比が200%以上1000%以下であるものである。この第二項目によれば、採掘した石灰石(散布したセメントペーストが付着したもの)の強度発現性及び空気発生防止性をさらに効果的に発揮させることができる。ここで、強度発現性とは、セメントペーストが付着した石灰石を含むセメント混練物の強度を高く発現させる性質である。空気発生防止性とは、セメントペーストが付着した石灰石を含むセメント混練物における過剰な空気の巻き込みを防止する性質である。
【0010】
本発明の第三項目に係る石灰石の利用方法は、上記第一項目又は上記第二項目に記載の採掘方法により採掘した前記石灰石をセメント混練物の材料として利用するものである。この第三項目によれば、石灰石鉱山の切羽において粉塵の飛散を防止しつつ石灰石を採掘することができる。また、ラテックス系粉塵飛散防止剤が付着した石灰石をセメント混練物の材料として利用する場合に比較して、製造するセメント混練物の強度を高めることができる。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、ラテックス系粉塵飛散防止剤に比較してセメント混練物の強度を低下させにくい粉塵飛散防止剤を提供することができる。そして、この粉塵飛散防止剤を利用して石灰石採掘用の切羽において粉塵の飛散を防止しつつ石灰石を採掘することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る石灰石の採掘方法の手順を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態に係る石灰石の採掘方法について以下で説明する。
図1は、この採掘方法の手順を説明するための説明図である。
図1に示すように、この採掘方法は、石灰石鉱山において石灰石の採掘を行うエリアの表面(露出面)である切羽fにおいて行うものである。この採掘方法は、散布工程S1と、発破工程S2と、回収工程S3とを備える。
【0014】
図1(a)に示す散布工程S1においては、セメントペーストP(粉塵飛散防止剤)を石灰石層cの表面(石灰石層cを構成する石灰石の表面)に散布する。さらに、散布したセメントペーストPを所定時間(例えば24時間)放置することにより乾燥させて硬化させる。
【0015】
セメントペーストP中の水セメント比(セメント粉末に対する水の質量比)は、好ましくは200%以上1000%以下である。例えば、セメントペーストPには、普通ポルトランドセメント(セメントクリンカ粉末と石膏粉末との混合粉末)と水との混練物を150μm篩で篩分けして得られた篩通過分(セメントミルク)を使用することができる。
【0016】
図1(b)に示す発破工程S2において、石灰石層cに形成した発破孔(図示せず)に爆薬Eを設置して爆発させることにより石灰石層cを粉砕する。本実施形態では、散布工程S1において石灰石層cの表面にセメントペーストPを散布して硬化させたため、発破工程S2においては石灰石層cの表面からの粉塵の飛散を抑制することができる。
【0017】
図1(c)に示す回収工程S3において、石灰石層cが粉砕して生じた石灰石L(粉砕された石灰石層cの破片)を回収する。回収した石灰石Lには、散布工程S1で散布したセメントペーストPの固化物が付着している。
【0018】
本発明の一実施形態に係る石灰石の利用方法について説明する。この利用方法は、
図1(c)において回収した石灰石Lを(好ましくは骨材として)セメントクリンカ粉末、石膏粉末及び水と混練することにより、セメント混練物(モルタルまたはコンクリート)を製造する。
【0019】
次に、本発明の一実施形態に係る石灰石の採掘方法における試験例について説明する。
【0020】
[粉塵飛散防止試験]
比較例A1~A3及び実施例A1~A3において、平面状の床に敷いたビニールシートの上に2000.0gの試料(石灰石粉末)を散在させた。ここで、比較例A2、A3及び実施例A1~A3においては、この試料の上に粉塵飛散防止剤270.0gを散布して試料を24時間静置した。その後、比較例A1~A3及び実施例A1~A3において、ビニールシートの上に散在している試料にドライヤーで空気を噴出し、噴出後にビニールシートの上に残留している試料(比較例A2、A3及び実施例A1~A3においては粉塵飛散防止剤が付着したもの)の質量を測定し、噴出前後における試料の減少率を算出した。ここで、試料の減少率とは、「噴出後にビニールシートの上に残留している試料(比較例A2、A3及び実施例A1~A3においては粉塵飛散防止剤が付着したもの)の質量」÷「噴出前にビニールシートの上に散在させた試料と粉塵飛散防止剤との合計質量」の百分率(%)を100(%)から引いた値である。
【0021】
粉塵飛散防止剤には、比較例A2では水、比較例A3ではラテックス系、実施例A1ではセメントミルク(水セメント比200%)、実施例A2ではセメントミルク(水セメント比500%)、実施例A3ではセメントミルク(水セメント比1000%)をそれぞれ使用した。ラテックス系には、不二サッシ株式会社製のフライネットRを水で8倍に希釈したものを使用した。セメントミルクには、普通ポルトランドセメント、ジエチレングリコール及び水の混練物を150μm篩に通過させて得られた篩通過分を使用した。
【0022】
ビニールシートには、縦45cm×横30cmの寸法のものを使用した。試料には、石灰石鉱山で採掘した石灰石の粉末(表乾密度が2.69g/cm3であり、吸水率が0.64%であるもの)を使用した。ドライヤーの操作については、平面状の床に敷いたビニールシートの横側からビニールシートの各辺に向けて水平方向に空気を噴出した。具体的には、ドライヤーを各辺に沿って両方向に動かしながら1辺につき2分間ずつ空気を噴出した。空気の噴出量を1.3m3/minとし、空気の噴出速さを約9m/sとした。ドライヤーの空気噴出口面積は約24cm2であった。粉塵飛散防止剤の散布については、ノズルを取り付けたコンプレッサーに粉塵飛散防止剤を充填してノズルから噴出することにより行った。
【0023】
表1に示すように、比較例A1においては、試料の上に粉塵飛散防止剤を散布していないため試料の減少率が大きかった。比較例A2においては、試料の上に粉塵飛散防止剤として水を散布したが試料の減少率が大きかった。比較例A3においては、試料の上にラテックス系の粉塵飛散防止剤を散布したため試料の減少率が小さかった。実施例A1~A2においては、粉塵飛散防止剤としてセメントミルク(水セメント比200%、500%)を散布したことにより、比較例A1~A3よりも試料の減少率を低く抑えることができた。実施例A3においては、粉塵飛散防止剤としてセメントミルク(水セメント比1000%)を散布したことにより、比較例A1及びA2よりも試料の減少率を低く抑えることができた。
【0024】
【0025】
[強度発現試験]
比較例B1においては、普通ポルトランドセメント(密度3.15g/cm3のもの)、ジエチレングリコール(添加剤)、細骨材(セメント強さ試験用標準砂)及び水を混練してモルタル(セメント混練物)を製造した。ここで、比較例B2及び実施例B1~B3においては、粉塵飛散防止剤を他の材料と共に水により混練してモルタルを製造した。比較例B1、B2及び実施例B1~B3において、製造したモルタルから供試体を作製し、この供試体について材齢3日、7日及び28日の圧縮強さ(3日強度、7日強度及び28日強度)を測定した。
【0026】
粉塵飛散防止剤には、比較例B2ではラテックス系のもの、実施例B1ではセメントミルク(水セメント比200%)、実施例B2ではセメントミルク(水セメント比500%)、実施例B3ではセメントミルク(水セメント比1000%)を使用した。なお、このラテックス系の粉塵飛散防止剤は、上述した粉塵飛散防止試験における比較例A3で使用したものと同じである。これらセメントミルクは、上述した粉塵飛散防止試験における実施例A1~A3で使用したものと同様の方法により製造したものである。
【0027】
なお、ジエチレングリコールには、関東化学株式会社製のものを使用した。普通ポルトランドセメントに対するジエチレングリコールの混練割合を0.5質量%とした。混練は、ホバートミキサーを使用して「JIS R 5201」に準拠して行った。供試体の作製は、「JSCE-F 506-2018」に準拠して行った。圧縮強さの測定は、「JSCE-G 505-2018」に準拠して行った。
【0028】
表2に示すように、比較例B2においては、ラテックス系粉塵飛散防止剤がモルタルに含まれているため、3日強度、7日強度及び28日強度のいずれについても比較例B1より低くなった。その一方、実施例B1~B3においては、3日強度及び7日強度について比較例B1よりも高くなり(あるいは比較例B1と同一となり)、かつ、3日強度、7日強度及び28日強度のいずれについても比較例B2より高くなった。さらに、実施例B2においては、28日強度についても比較例B1より高くなった。
【0029】
【0030】
[空気量試験]
比較例C1、C2及び実施例C1~C3においては、それぞれ比較例B1、B2及び実施例B1~B3において製造したモルタルにおける単位容積質量を測定した。さらに、測定した単位容積質量の値から計算により空気量を算出した。なお、単位容積質量の測定及び空気量の算出は、「JIS A 1116:2019」に準拠して行った。
【0031】
表3に示すように、比較例C2においては、ラテックス系の粉塵飛散防止剤を使用したためモルタル中の空気量が多くなった。実施例C1~C3においては、粉塵飛散防止剤としてセメントミルクを使用したため、比較例C2に比較するとモルタル中の空気量が少なくなった。特に、実施例C2、C3においては、比較例C1に比較してもモルタル中の空気量が少なくなった。
【0032】
【0033】
[試験の結論]
上述した試験例から次の結論を導出することができる。すなわち、セメントミルクを石灰石採掘用の切羽における石灰石の表面に散布して硬化させることにより、この石灰石の採掘時において石灰石からの粉塵の飛散を防止することができる。また、ラテックス系の粉塵飛散防止剤が混入したセメント混練物に比較すると、セメントミルクが混入したセメント混練物の圧縮強さは高くなって空気量は少なくなる。
【0034】
また、上述した試験例から次の結論を導出することができる。すなわち、表2及び表3に示す結果を考慮すると、粉塵飛散防止剤として使用するセメントミルクの水セメント比が200%以上1000%以下の範囲内であると、ラテックス系の粉塵飛散防止剤を使用する場合に比較してセメント混練物の空気量を大幅に少なくして圧縮強さを大幅に高めることができる。
【0035】
さらに、上述した試験例から次の結論を導出することができる。すなわち、表2及び表3に示す結果を考慮すると、粉塵飛散防止剤として使用するセメントミルクの水セメント比が500%であると、セメント混練物の圧縮強さが最大となって空気量が最小となるため好ましい。一方、表1に示す結果を考慮すると、セメントミルクの水セメント比が500%から200%まで低下するにつれてセメントミルクの粉塵飛散防止性が高まる。これらを考慮すると、粉塵飛散防止剤として使用するセメントミルクの最適な水セメント比は、500%から若干低い値と500%との間、例えば、400%以上500%以下の範囲内であると考えられる。
【0036】
c 石灰石層
E 爆薬
f 切羽
L 石灰石
P セメントペースト
S1 散布工程
S2 発破工程
S3 回収工程