(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】筋電位測定装置及び筋電位測定用装着具
(51)【国際特許分類】
A61B 5/27 20210101AFI20240815BHJP
【FI】
A61B5/27
(21)【出願番号】P 2021078705
(22)【出願日】2021-05-06
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000190688
【氏名又は名称】新光電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】兼田 悠
【審査官】佐藤 秀樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/022482(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/043196(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/085345(WO,A1)
【文献】特表2007-501086(JP,A)
【文献】特開2020-121008(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0008461(KR,A)
【文献】特開2019-68901(JP,A)
【文献】特開2008-86361(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/24-5/398
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体に装着可能な装着部と、
前記装着部に導電性糸を刺繍することによって形成され互いに対向する一対の電極であって、互いに近接する一端が前記装着部から最も高く隆起する一対の電極と、
前記一対の電極が接触する測定対象において発生する電位を測定する測定部と
を有することを特徴とする筋電位測定装置。
【請求項2】
前記一対の電極は、
互いに遠隔する一端から前記互いに近接する一端に向かうにつれて導電性糸を周回させる回数が多くなる刺繍によって形成される
ことを特徴とする請求項1記載の筋電位測定装置。
【請求項3】
前記一対の電極は、
前記装着部の人体に接触する側に配置される支持部材であって前記互いに近接する一端において前記装着部から最も高く隆起する支持部材と前記装着部とに導電性糸を周回させる刺繍によって形成される
ことを特徴とする請求項1記載の筋電位測定装置。
【請求項4】
前記装着部の前記一対の電極によって挟まれる領域に、非導電性の糸を刺繍することによって形成される補強部
をさらに有することを特徴とする請求項1記載の筋電位測定装置。
【請求項5】
前記補強部は、
前記一対の電極の最も高く隆起する一端を超えない範囲で、前記装着部から隆起する
ことを特徴とする請求項4記載の筋電位測定装置。
【請求項6】
前記一対の電極の前記測定対象に接触する側とは反対側に固定される導電性の第1のボタンと、
前記測定部に固定され、前記第1のボタンと嵌合可能な第2のボタンと
をさらに有することを特徴とする請求項1記載の筋電位測定装置。
【請求項7】
人体に装着可能な装着部と、
前記装着部に導電性糸を刺繍することによって形成され互いに対向する一対の電極であって、互いに近接する一端が前記装着部から最も高く隆起する一対の電極と
を有することを特徴とする筋電位測定用装着具。
【請求項8】
前記一対の電極は、
互いに遠隔する一端から前記互いに近接する一端に向かうにつれて導電性糸を周回させる回数が多くなる刺繍によって形成される
ことを特徴とする請求項7記載の筋電位測定用装着具。
【請求項9】
前記一対の電極は、
前記装着部の人体に接触する側に配置される支持部材であって前記互いに近接する一端において前記装着部から最も高く隆起する支持部材と前記装着部とに導電性糸を周回させる刺繍によって形成される
ことを特徴とする請求項7記載の筋電位測定用装着具。
【請求項10】
前記装着部の前記一対の電極によって挟まれる領域に、非導電性の糸を刺繍することによって形成される補強部
をさらに有することを特徴とする請求項7記載の筋電位測定用装着具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋電位測定装置及び筋電位測定用装着具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばリハビリテーションなどの医療現場では、筋肉の運動に伴って発生する筋電位を測定する装置が使用されることがある。このような装置は、2個又は3個の電極を測定対象の筋肉付近の皮膚に接触させることにより、筋繊維の活動によって発生する活動電位を測定するものである。
【0003】
筋電位を安定して測定するためには、電極を皮膚に密着させて固定するのが望ましいため、例えば医療用の筋電位測定装置では、電極に粘着層が備えられた湿式の電極が用いられることがある。しかし、湿式の電極が長時間皮膚に密着すると、皮膚のかぶれ等の問題が生じることがあるため、粘着層を用いない乾式の電極が求められる。
【0004】
乾式の電極としては、例えば衣類の一部に導電性の糸を使用して形成されるテキスタイル電極が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2020-512095号公報
【文献】特開2018-061778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、乾式の電極を用いて筋電位を測定する場合には、安定した測定が困難であるという問題がある。具体的には、例えば衣類に形成されるテキスタイル電極が用いられる場合、人体の動きによってテキスタイル電極が皮膚から離れてしまうことがあり、筋電位が測定不能になることがある。
【0007】
また、テキスタイル電極の面積を比較的大きくすることにより、テキスタイル電極全体が皮膚から離れてしまうことを回避することが考えられるが、このような場合には、テキスタイル電極の皮膚に接触する接触位置が変化する。この結果、電位が測定される複数の電極の接触位置間の距離が変化し、正確な筋電位を測定することは困難である。
【0008】
開示の技術は、かかる点に鑑みてなされたものであって、乾式の電極を用いて安定して筋電位を測定することができる筋電位測定装置及び筋電位測定用装着具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願が開示する筋電位測定装置は、1つの態様において、人体に装着可能な装着部と、前記装着部に導電性糸を刺繍することによって形成され互いに対向する一対の電極であって、互いに近接する一端が前記装着部から最も高く隆起する一対の電極と、前記一対の電極が接触する測定対象において発生する電位を測定する測定部とを有する。
【発明の効果】
【0010】
本願が開示する筋電位測定装置及び筋電位測定用装着具の1つの態様によれば、乾式の電極を用いて安定して筋電位を測定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、一実施の形態に係る筋電位測定装置の外観を示す図である。
【
図2】
図2は、一実施の形態に係る筋電位測定装置の構成を示す図である。
【
図3】
図3は、筋電位の測定状態の具体例を示す図である。
【
図4】
図4は、筋電位測定装置の変形例を示す図である。
【
図5】
図5は、筋電位測定装置の他の変形例を示す図である。
【
図6】
図6は、筋電位測定装置のさらに他の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本願が開示する筋電位測定装置及び筋電位測定用装着具の一実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0013】
図1は、一実施の形態に係る筋電位測定装置100の外観を示す図である。ここでは、腕の筋肉の筋電位を測定する筋電位測定装置100の外観が示されている。なお、本実施の形態においては、腕の筋肉の筋電位を測定する場合について説明するが、本発明に係る筋電位測定装置は、腕以外の他の部分の筋肉の筋電位を測定することも可能である。
【0014】
図1に示す筋電位測定装置100は、装着部110及び測定部120を有する。
【0015】
装着部110は、人体に装着可能な基材を用いて形成され、筋電位の測定対象の筋肉付近に装着される筋電位測定用装着具である。具体的には、装着部110は、例えばポリウレタン、ポリエステル、ポリアミドなどの化学繊維を含む伸縮性がある生地を、装着される人体の部位に応じた形状に成形することによって形成される。ここでは、筋電位測定装置100が腕に装着されるため、装着部110は、伸縮性がある生地を円筒形状に成形することによって形成される。また、後述するように、装着部110の測定部120が取り付けられる部分には、導電性糸を用いて一対の電極が形成されている。
【0016】
測定部120は、装着部110の一対の電極が形成される位置に取り付けられ、人体に接触する電極に流れる電流から電極間の電位を測定する。すなわち、測定部120は、一対の電極が形成される位置にある測定対象の筋肉の筋電位を測定する。測定部120は、例えば回路基板にIC(Integrated Circuit)チップが搭載されて形成される。
【0017】
図2は、一実施の形態に係る筋電位測定装置100の構成を示す図である。すなわち、
図2は、測定部120の位置における筋電位測定装置100の断面を模式的に示す。
【0018】
図2に示すように、装着部110には、互いに対向する一対の電極111が形成されている。一対の電極111は、例えば10mm程度の間隔を空けて対向する。電極111は、装着部110の基材に導電性糸を刺繍することによって形成される。このため、電極111は、装着部110の基材の人体に接する面(以下「内面」という)110a及び測定部120が取り付けられる面(以下「外面」という)110bから隆起する。そして、電極111の外面110b側には、測定部120が接続される。
【0019】
電極111は、装着部110の基材の内面110a側と外面110b側とに導電性糸を周回させる刺繍により形成される乾式の電極である。このとき、一対の電極111の互いに近接する一端111aに近いほど導電性糸を周回させる回数を多くする。これにより、電極111は、一対の電極111の互いに遠隔する一端111bから互いに近接する一端111aに向かうにつれて内面110a及び外面110bからの高さが高い形状を有する。すなわち、電極111は、互いに近接する一端111aにおいて、基材の内面110a及び外面110bから最も高くまで隆起している。例えば、一端111aにおいては、電極111が基材の内面110aから4mm程度隆起している。一方、一端111bにおいては、電極111が基材の内面110aから1mm程度隆起している。
【0020】
このように、互いに近接する一端111aにおいて電極111が最も高くまで隆起することから、筋電位測定装置100が人体に装着されると、基材の内面110a側では一対の電極111の一端111aが人体に常に接触する。結果として、人体に接触する電極間距離が変化せず、筋電位を安定して測定することが可能となる。また、電極111の人体に接する面に傾斜が設けられることで、筋電位測定装置100を人体に装着する際、装着が容易になるという効果がある。
【0021】
電極111の一端111aの外面110b側には、凸ボタン112が固定されている。凸ボタン112は、例えばSUS(ステンレス鋼)などの導電体から形成され、測定部120に固定される凹ボタン123に嵌合し、装着部110に測定部120を固定するとともに、電極111と測定部120を電気的に接続する。
【0022】
測定部120は、電極111が形成される位置において、装着部110の基材の外面110b側に取り付けられる。測定部120は、回路基板121、処理回路122、凹ボタン123及び配線124を有する。
【0023】
回路基板121は、可撓性を有する例えばフレキシブル基板であり、装着部110の基材に追従して変形可能な基板である。回路基板121の装着部110と反対側の面には、処理回路122が搭載される。処理回路122は、一対の電極111から流れる電流に基づいて、電極111間の電位を測定する。すなわち、処理回路122は、電極111が接する部位の筋電位を測定する。
【0024】
回路基板121の装着部110側の面には、一対の凹ボタン123が固定される。これらの凹ボタン123は、一対の電極111に固定される凸ボタン112に対応する位置に設けられる。そして、電極111に固定される凸ボタン112が対応する凹ボタン123に嵌合することにより、測定部120が装着部110に取り付けられる。凹ボタン123は、凸ボタン112と同様に、例えばSUS(ステンレス鋼)などの導電体から形成され、凸ボタン112を嵌合させると電極111に電気的に接続する。
【0025】
処理回路122と凹ボタン123とは、回路基板121を貫通する配線124によって接続される。配線124は、例えば銅又は銅合金などを用いて形成され、凹ボタン123と処理回路122の端子とを電気的に接続する。これにより、処理回路122は、一対の電極111と電気的に接続し、電極111間の電位を測定することが可能となる。
【0026】
図3は、筋電位測定装置100が人体に装着されて筋電位を測定する状態を模式的に示す図である。
【0027】
図3(a)に示すように、筋電位測定装置100が人体Bに装着されると、電極111の互いに近接する一端111aが装着部110の基材から高く隆起しているため、この一端111aにおいて電極111が人体Bに接触する。一端111aは、たとえ電極111の他の部分が人体Bに接触しない場合でも常に人体Bに接触するため、一対の電極111の人体Bに接触する位置の間隔が一定であり、測定部120は、電極間距離が変化しない状態で電極111に接触する部位の筋電位を測定することができる。
【0028】
また、
図3(b)に示すように、装着部110が人体Bに接近して電極111全体が人体Bに接触する場合も、電極間距離は対向する電極111の一端111aの間の距離で不変であるため、
図3(a)の状態と同じ条件で筋電位を測定することができる。すなわち、乾式の電極を用いて安定して筋電位を測定することができる。さらに、電極111全体が人体Bに接触する場合には、電極111に発生するノイズを低減することができ、より正確に筋電位を測定することができる。
【0029】
以上のように、本実施の形態によれば、伸縮性がある基材に導電性糸の刺繍によって筋電位測定用の一対の電極を形成する際、互いに近接する一端において基材表面から最も高く隆起するように電極を形成する。このため、各電極の最も高く隆起する一端を常に人体に接触させることができ、一対の電極が人体に接触する位置の間隔である電極間距離を一定にすることができる。結果として、乾式の電極を用いて安定して筋電位を測定することができる。
【0030】
なお、上記一実施の形態においては、導電性糸を周回させる回数を多くすることにより、電極111の一端111aを最も高く隆起させるようにしたが、装着部110の基材の内面110aに支持部材を配置し、基材と支持部材を導電性糸によって刺繍することにより、電極111を隆起させても良い。具体的には、例えば
図4に示すように、装着部110の基材の内面110aに綿などの柔軟性材料からなる一対の支持部材210を配置する。一対の支持部材210は、互いに対向し、互いに近接する一端において内面110aからの高さが最も高い形状を有する。
【0031】
そして、支持部材210の表面と装着部110の基材の外面110b側とに導電性糸を周回させる刺繍により、一対の電極111が形成される。このとき、導電性糸を周回させる回数は、電極111のいずれの位置においても同じで良い。電極111は、支持部材210の形状に合わせて、一対の電極111の互いに遠隔する一端111bから互いに近接する一端111aに向かうにつれて内面110aからの高さが高い形状を有する。すなわち、電極111は、互いに近接する一端111aにおいて、基材の内面110aから最も高くまで隆起している。
【0032】
このように構成することにより、導電性糸を周回させる回数が均等である刺繍によっても、一対の電極111の互いに近接する一端111aを人体に常に接触させることができる筋電位測定装置100が得られる。そして、この筋電位測定装置100によれば、人体に接触する電極間距離が変化せず、筋電位を安定して測定することが可能となる。
【0033】
また、上記一実施の形態において、一対の電極111の間に伸縮性が小さく非導電性の通常の糸による刺繍をして、装着部110の基材を補強するようにしても良い。具体的には、例えば
図5に示すように、装着部110の一対の電極111によって挟まれる領域に、補強部220が形成されるようにしても良い。補強部220は、装着部110の基材の内面110a側と外面110b側とに通常の繊維からなる糸を周回させる刺繍により形成される。補強部220は、一対の電極111の一端111aの高さを超えない範囲で、装着部110から隆起する。
【0034】
このように、電極111間に補強部220が形成されることにより、一対の電極111間の基材が補強されて変形しにくくなり、電極間距離を確実に一定に保つことができる。また、補強部220が、一対の電極111の間に、電極111と接触し且つ電極111間を繋ぐように設けられることで、装着部110が伸縮しても電極間距離が変化し難くなる。結果として、人体に接触する電極間距離が変化せず、筋電位を安定して測定することが可能となる。
【0035】
さらに、上記一実施の形態においては、基材に導電性糸を刺繍して装着部110が形成されるものとしたが、装着部110全体を糸を織ることによって形成しても良い。この場合、例えば
図6に示すように、装着部110の一対の電極111以外の部分については、通常の繊維からなる糸を織ることによって形成し、電極111の部分については、導電性糸を織ることによって形成する。そして、一対の電極111については、太さが異なる導電性糸を用いることにより、互いに近接する一端111aを最も高くまで隆起させる。すなわち、一対の電極111の互いに近接する一端111aに近づくほど太い導電性糸を織って電極111を形成する。
【0036】
このように、導電性糸を用いた刺繍以外にも、太さが異なる導電性糸を織ることによって、互いに近接する一端111aが最も高く隆起する一対の電極111を形成することができる。また、例えば、導電性糸を用いて別体として形成された電極111を、装着部110の基材の内面110aに蒸着又はプリントして、互いに近接する一端111aが最も高く隆起する一対の電極111を形成することも可能である。これらの場合には、蒸着又はプリントされる電極111の位置において、基材の外面110b側に導電性糸を用いて凸ボタン112を縫い付け、内面110a側の電極111と外面110b側の凸ボタン112とが電気的に接続されるようにしても良い。
【0037】
また、上記一実施の形態においては、互いに近接する一端111aが最も高く隆起する一対の電極111が形成されるものとしたが、これらの一対の電極111の他に接地電極が形成されても良い。接地電極は、一対の電極111と同様に導電性糸の刺繍によって形成されても良い。また、接地電極は、一対の電極111の一端111aの高さを超えない範囲で、装着部110の基材の内面110aからの高さが一定であっても良い。
【符号の説明】
【0038】
110 装着部
111 電極
112 凸ボタン
120 測定部
121 回路基板
122 処理回路
123 凹ボタン
124 配線