(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】空気分離装置および空気分離装置の運転方法
(51)【国際特許分類】
F25J 3/04 20060101AFI20240815BHJP
【FI】
F25J3/04 D
F25J3/04 102
(21)【出願番号】P 2022040054
(22)【出願日】2022-03-15
【審査請求日】2023-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】橋本秀之
(72)【発明者】
【氏名】青田怜那
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-191287(JP,A)
【文献】特開昭60-073286(JP,A)
【文献】特開平04-283390(JP,A)
【文献】特開昭61-161383(JP,A)
【文献】特開2020-173044(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0209389(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25J 1/00-5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料空気を低温蒸留することにより少なくとも酸素を製品として採取する空気分離装置であって、
原料空気を低温蒸留して高圧窒素ガスと高圧酸素富化液化空気とに分離する高圧塔と、
少なくとも前記高圧酸素富化液化空気を低温で蒸留し、低圧窒素ガスと低圧液化酸素とに分離する低圧塔と、
前記原料空気の一部を導入して膨張させることで寒冷を発生させる膨張タービンと、
該膨張タービンに原料空気の一部供給し、膨張タービンで寒冷を得た原料空気を前記低圧塔に導入する寒冷原料空気導入ラインと、
前記膨張タービンをバイパスして前記原料空気を前記寒冷原料空気導入ラインに供給するバイパスラインと、
該バイパスラインに液化ガスを供給する液化ガス供給ラインと、
を備えたことを特徴とする空気分離装置。
【請求項2】
前記バイパスラインに前記原料空気と前記液化ガスとを混合する混合器をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の空気分離装置。
【請求項3】
前記混合器は、スタティックミキサであることを特徴とする請求項2に記載の空気分離装置。
【請求項4】
前記バイパスラインに供給される原料空気量及び/又は液化ガス量を調整する流量調整装置をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の空気分離装置。
【請求項5】
空気分離装置内の機器配管の温度を測定する温度測定手段を備え、
前記流量調整装置は、前記温度測定手段の測定温度を入力し、該測定温度に基づいて前記原料空気量及び/又は液化ガス量を調整することを特徴とする請求項4に記載の空気分離装置。
【請求項6】
請求項1乃至5に記載の空気分離装置の運転方法であって、
前記膨張タービンを停止して、
前記バイパスラインに原料空気と液化ガスとを供給して前記空気分離装置を運転することを特徴とする空気分離装置の運転方法。
【請求項7】
請求項1乃至5に記載の空気分離装置の運転方法であって、
起動時において、
前記原料空気を前記膨張タービンと前記バイパスラインに供給し、前記膨張タービンと前記液化ガスとの両方で寒冷を発生させることを特徴とする空気分離装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨張タービン停止時にも運転可能とし、また起動時の起動時間を短縮できる空気分離装置、および該空気分離装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気を低温蒸留により分離する従来の空気分離装置31の概略構成を
図3に示す。
図3に示すように、空気分離装置31は、主な構成として主熱交換器3、膨張タービン11、低圧塔7、高圧塔5、主凝縮器9を備えている。
従来の空気分離装置31においては、図示しない原料圧縮機で昇圧され、前処理装置で、含まれる水蒸気、二酸化炭素等を除去された原料空気は、原料空気導入ライン23から主熱交換器3に導入される。導入された原料空気の一部は、主熱交換器3の中間部から抜き出され、膨張タービン11に導入される。
【0003】
膨張タービン11に導入された原料空気は、所定の圧力まで膨張し、空気分離装置31に必要な寒冷を発生させ、原料空気自身は低圧塔7に導入される。
主熱交換器3に導入された原料空気の残部は、主熱交換器3の冷端から抜き出され、高圧塔5に導入される。高圧塔5、低圧塔7に導入された原料空気は、低温蒸留により、酸素、窒素、アルゴン等に分離される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
<膨張タービン故障時の課題>
従来の空気分離装置31において、膨張タービン11が不調となった場合、空気分離装置31に必要な寒冷を補給する為に、
図3に示すように、例えば低圧塔7の上部から液化窒素(LN)を注入することで寒冷を得て、装置を運転する。
一方、原料空気の一部を、膨張タービン11を通じて低圧塔7に導入することが出来ない。
その結果、高圧塔5、低圧塔7に導入される原料空気の量が少なくなり、所定の製品を採取することが出来なくなる。この場合、本来、膨張タービン11を通じて低圧塔7に導入されていた原料空気を直接高圧塔5に導入すれば、所定流量の原料空気が蒸留塔(高圧塔5、低圧塔7)に導入されることになる。
【0006】
しかし、設計よりも多くの原料空気を高圧塔5に導入することになり、高圧塔5の処理能力、主凝縮器9の液化能力を超えることになり、実質的に運転は困難となる。
【0007】
また、膨張タービン11が停止している場合、
図3に示すように、膨張タービン11をバイパスするバイパスライン15を設け、原料空気の一部を低圧塔7に導入することも可能である。
しかし、膨張タービン11~低圧塔7間の配管は、膨張タービン11を経由し低圧、低温となった原料空気を対象として設計されており、単に、主熱交換器3の中間から抜き出された原料空気を、バイパスライン15を通じて減圧後、低圧塔7に導入しても、気体温度が高い(密度が小さい)ので配管抵抗が大きくなり、所定量の原料空気を低圧塔7に導入することは困難となる。
いずれの場合でも、所定量の原料空気を高圧塔5、低圧塔7に導入することが難しく、膨張タービン11が停止した場合には、減量運転しなければならないという問題があった。
【0008】
<起動時の課題>
空気分離装置31は、定期的なメンテナンスが必要であり一年に1、2回程度、定期修理がなされる。定期修理がなされた空気分離装置31は全体が常温となっており、基本的には、膨張タービン11を起動して、空気分離装置31が徐々に冷却される。
しかし、膨張タービン11の運転によってのみ空気分離装置31を冷却する場合、長時間の運転が必要となり、空気分離装置31の起動に時間がかかり、経済的ではない。
【0009】
そこで、外部から液化ガスを空気分離装置31に導入し、空気分離装置31の起動時間を短縮する起動方法が多く用いられている。
しかし、この場合、常温又は十分に冷却されていない、内部機器、配管に(例えば、)液化窒素を導入すると、熱収縮が発生し、機器の変形や破損、配管切断等(物理的な問題)の危険性がある。
【0010】
このために、外部から液化ガスを導入して空気分離装置31を起動する場合、冷却速度を制限する必要があり、更に熱収縮が生じても内部機器に物理的な問題が生じない様に、配管等に十分な遊び等を設ける必要があった。
配管等に遊びを設ける場合には、内部配管等の設備費の増加を招くという問題がある。
【0011】
この点、例えば、特許文献1には、極低温用機器の冷却において、その極低温用機器および接続用配管に歪みゲージを取り付け、この歪みゲージの出力に応じて極低温用機器の冷却速度を調整することを特徴とする極低温用機器の冷却方法が開示されている。
または、空気分離装置31の起動時には膨張タービン11により精留塔をある程度冷却し、その後低圧塔上部から液化窒素を注入することで低温まで冷却する方法がある。
【0012】
しかし、冷却速度を調整する方法、起動時に膨張タービン11により精留塔をある程度冷却する方法、いずれの方法でも起動時間を十分に短縮することはできない。
【0013】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、膨張タービンの故障時であっても、製品を減量することなく製品の提供ができ、また起動時間の短縮も可能な空気分離装置、該空気分離装置の運転方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)本発明に係る空気分離装置は、原料空気を低温蒸留することにより少なくとも酸素を製品として採取するものであって、
原料空気を低温蒸留して高圧窒素ガスと高圧酸素富化液化空気とに分離する高圧塔と、
少なくとも前記高圧酸素富化液化空気を低温で蒸留し、低圧窒素ガスと低圧液化酸素とに分離する低圧塔と、
前記原料空気の一部を導入して膨張させることで寒冷を発生させる膨張タービンと、
該膨張タービンで寒冷を得た原料空気を前記低圧塔に導入する寒冷原料空気導入ラインと、
前記膨張タービンをバイパスして前記原料空気を前記寒冷原料空気導入ラインに供給するバイパスラインと、
該バイパスラインに液化ガスを供給する液化ガス供給ラインと、
を備えたことを特徴とするものである。
【0015】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記バイパスラインに前記原料空気と前記液化ガスとを混合する混合器をさらに備えたことを特徴とするものである。
【0016】
(3)また、上記(2)に記載のものにおいて、前記混合器は、スタティックミキサであることを特徴とするものである。
【0017】
(4)また、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のものにおいて、前記バイパスラインに供給される原料空気量及び/又は液化ガス量を調整する流量調整装置をさらに備えたことを特徴とするものである。
【0018】
(5)また、上記(4)に記載のものにおいて、空気分離装置内の機器配管の温度を測定する温度測定手段を備え、
前記流量調整装置は、前記温度測定手段の測定温度を入力し、該測定温度に基づいて前記原料空気量及び/又は液化ガス量を調整することを特徴とするものである。
【0019】
(6)上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の空気分離装置の運転方法であって、
前記膨張タービンを停止して、
前記バイパスラインに原料空気と液化ガスとを供給して前記空気分離装置を運転することを特徴とするものである。
【0020】
(7)また、上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の空気分離装置の運転方法であって、
起動時において、
前記原料空気を前記膨張タービンと前記バイパスラインに供給し、前記膨張タービンと前記液化ガスとの両方で寒冷を発生させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る空気分離装置においては、膨張タービンをバイパスして原料空気を寒冷原料空気導入ラインに供給するバイパスラインと、該バイパスラインに液化ガスを供給する液化ガス供給ラインと、を備えたことにより、膨張タービンが故障や修理等によって停止した場合であっても、原料空気と液体窒素が混合された混合流体が寒冷原料空気導入ラインを通じて低圧塔に導入され製品の採取への影響を解消又は低減することが出来、また空気分離装置の運転が可能となる。
また、起動時においてバイパスラインから寒冷を補助的に供給することで起動時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施の形態に係る空気分離装置の説明図である。
【
図2】本実施の形態の他の態様に係る空気分離装置の要部の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本実施の形態に係る空気分離装置1は、原料空気を低温蒸留することにより少なくとも酸素を製品として採取するものであって、
図1に示すように、主熱交換器3と、高圧塔5と、低圧塔7と、主凝縮器9と、膨張タービン11と、寒冷原料空気導入ライン13と、バイパスライン15と、液化ガス供給ライン17と、混合器19とを備えている。
図1において、従来例を示した
図3と同一及び対応する部分には同一の符号を付してある。
以下、各構成を詳細に説明する。
【0024】
<高圧塔>
高圧塔5は、原料空気を低温蒸留して高圧窒素ガスと高圧酸素富化液化空気とに分離するものである。
【0025】
<低圧塔>
低圧塔7は、少なくとも前記高圧酸素富化液化空気を低温で蒸留し、低圧窒素ガスと低圧液化酸素とに分離するものである。
低圧塔7の底部には、主凝縮器9が設けられ、この主凝縮器9では高圧窒素ガスと低圧液化酸素とを間接的に熱交換する。
【0026】
<膨張タービン>
膨張タービン11は、前記原料空気の一部を導入して膨張させることで寒冷を発生させるものである。
【0027】
<寒冷原料空気導入ライン>
寒冷原料空気導入ライン13は、原料空気の一部を膨張タービン11に供給し、膨張タービン11で寒冷を得た原料空気を低圧塔7に導入するラインであり配管で構成されている。
寒冷原料空気導入ライン13における膨張タービン11の入側にはバルブV1が、出側にはバルブV2がそれぞれ設けられている。
【0028】
<バイパスライン>
バイパスライン15は、膨張タービン11をバイパスして原料空気を寒冷原料空気導入ライン13に供給するラインであり配管で構成されている。
バイパスライン15には、後述するように、混合器19が設けられるが、混合器19の入側にはバルブV3が、混合器19の出側にはバルブV4が、それぞれ設けられている。
【0029】
<液化ガス供給ライン>
液化ガス供給ライン17は、例えば液体窒素等の寒冷補給用としての液化ガスを、バイパスライン15に供給するラインであり、配管で構成されている。
液化ガス供給ライン17は、バイパスライン15における混合器19の上流側に接続されている。液化ガス供給ライン17には、流量調整弁21が設けられている。
【0030】
<混合器>
混合器19は、バイパスライン15に設けられて原料空気と液化ガスとを混合するものであり、特に形式は限定されない。例えば、「スタテッィクミキサ」として販売されている市販品を用いることが出来る。どの様な機器であっても、気体状の原料空気と液体状の液化ガス、例えば液体窒素とを混合する機能があれば、本発明で採用することが出来る。
なお、液化ガスについては、液体酸素等の他の液化ガスでも、本発明への適用は可能である。
本発明の効果を得るには、バイパスライン15に導入された原料空気と液化ガスを十分に混合することがより好ましく、この点、本実施の形態の様にバイパスライン15に混合器19を設置することが望ましいが、本発明において必須ではない。
【0031】
以上のように構成された空気分離装置の運転方法について、膨張タービン11が故障や修理等によって停止した時と、膨張タービン11が稼動可能な状態での起動時と、について以下説明する。
【0032】
<膨張タービン停止時の運転方法>
膨張タービン停止時には、原料空気が膨張タービン11に導入されない様に、バルブV1、V2は閉状態となっている。
原料圧縮機(図示なし)で昇圧され、水蒸気、二酸化炭素等を前処理装置で除去された原料空気は、原料空気導入ライン23から主熱交換器3に導入される。
導入された原料空気の一部は、主熱交換器3の中間部から抜き出され、バイパスライン15及びその下流に設置された混合器19に導入される。
【0033】
一方、空気分離装置1外部からは、寒冷補給用として液体窒素(LN)が液化ガス供給ライン17から導入され、その下流に設置された混合器19に導入される。混合器19では、原料空気と液体窒素が混合され、原料空気の顕熱により、液体窒素の全部または一部が気化する。その後、当該混合流体(以後、単に「混合流体」という)は寒冷原料空気導入ライン13を通じて低圧塔7に導入される。
【0034】
混合流体が低圧塔7に導入されたことにより、製品酸素、窒素等の原料としての「空気」が低圧塔7に導入されるので、製品の採取への影響を解消又は低減することが出来る。
一方、空気分離装置1には、寒冷として所定の液体窒素が導入されるので、空気分離装置1に必要な寒冷が供給されていることになり、空気分離装置1の運転が可能となる。
【0035】
更に、低圧塔7に導入される混合流体は、全量ガス状態または気液混相状態なので、液体窒素を直接低圧塔7に導入するよりも、熱収縮の影響を低減することができる。つまり、寒冷補給として液体窒素を低圧塔7等に直接供給する場合に比較して、本発明を採用すれば、仮に混合流体が気液混相状態であっても、空気中に液体窒素が細かな液滴となって存在している状態なので、混合流体と機器、配管等との接触による、機器、配管等の冷却速度は緩慢となる。
【0036】
一方、空気分離装置1全体の熱収支を考えると、所定流量の液体窒素が空気分離装置1に供給されているので、内部でどの様な状態(液体、気液混相)となっていても、空気分離装置1の運転に必要な寒冷が供給されている状態であり、熱的収支に問題は無い(空気分離装置1の運転は可能である)。
【0037】
また、供給された液体窒素の潜熱によって、混合流体は、原料空気よりも温度が低下する。従って、原料空気の一部のみをバイパスライン15経由で低圧塔7に供給する場合よりも、流体温度の低下により、ガス密度が大きくなり、配管抵抗が小さくなり、より多くの原料空気を低圧塔7に供給できる。
【0038】
以上のように、本実施の形態の空気分離装置1によれば、膨張タービン11が故障や修理等によって停止した場合であっても、原料空気と液体窒素が混合された混合流体が寒冷原料空気導入ライン13を通じて低圧塔7に導入され製品の採取への影響を解消又は低減することが出来、また空気分離装置1の運転が可能となる。
【0039】
さらに、低圧塔7に導入されるのが混合流体であることから、機器、配管等の冷却速度は緩慢となり、熱収縮による機器の変形や破損が生ずるのを防止できる。
【0040】
<起動時の運転補法>
次に、膨張タービン11が稼動可能な状態において空気分離装置1を起動する場合の運転方法について説明する。
空気分離装置1を起動する場合、空気分離装置1は全体が常温となっている。従って、主熱交換器3の中間から抜き出す原料空気を膨張タービン11に導入する場合、装置の運転状態と比較して、常温の原料空気の定格流量を膨張タービン11に導入できず、膨張タービン11からの原料空気を十分に低圧塔7に導入できない。
【0041】
そこで、装置起動時、原料空気の一部をバイパスライン15に導入し、寒冷用の液体窒素と原料空気を混合し、従来よりも多くの原料空気を低圧塔7に導入できる。
このとき、配管、低圧塔7への熱収縮等の影響を低減できる点は上述の通りである。
【0042】
バイパスライン15から寒冷を補助的に供給することで、低圧塔7からの戻り流体(窒素、WG等)によって原料空気が徐々に冷却され、より、多くの原料空気を膨張タービン11に導入することが、
図3に示した従来の空気分離装置31よりも短時間で可能となる。
特に、空気分離装置1の起動の場合、上部の低圧塔7、内部配管が常温なので、低圧塔7、内部配管が冷却されてきた状況を確認した後、その温度設定値を徐々に低い温度に設定すれば、低圧塔7、内部配管の冷却による熱収縮、機器の変形や破損、配管切断等の悪影響を低減できる効果が大きい。
【0043】
以上のように、本実施の形態の空気分離装置1によれば、起動時においてバイパスライン15から寒冷を補助的に供給することで起動時間を短縮することができる。
【0044】
なお、混合流体の温度を所定温度に制御することで、配管、低圧塔7への熱収縮等の影響を低減しつつ効率的な運転ができる。そこで、このような態様について
図2に基づいて説明する。
【0045】
本態様においては、
図2に示すように、バイパスライン15に設けられて原料空気の流量を調整する第2流量調整弁25と、混合器19の出口の混合流体の温度を測定して該測定温度が予め設定した所定の温度になるように流量調整弁21及び/又は第2流量調整弁25を制御する温度指示調節器27とを備えたものである。
本態様においては、温度指示調節器27によって混合流体の温度を測定し、その温度が指定温度となるように流量調整弁21及び/又は第2流量調整弁25を制御するようにしたので、指定温度を配管、低圧塔7への熱収縮等の影響が許容できる最低温度に指定温度を設定すれば、配管等への影響を抑えつつ効率的な運転ができる。
【0046】
また、本態様においては、低圧塔7、内部配管等の空気分離装置1を構成する機器配管の温度を測定し、その温度に応じて(冷却状況を確認して)、
図2に示した温度指示調節器27の設定温度を変更するようにしてもよい。
【0047】
例えば、低圧塔7、内部配管が常温に近い場合、混合流体の温度の所定温度を(例えば)-50℃とし、低圧塔7、内部配管が冷却されてきた状況を確認した後、その温度設定値を徐々に低い温度(例えば、-50℃→-70℃→-100℃)とすれば、低圧塔7、内部配管の冷却による熱収縮、機器の変形や破損、配管切断等の悪影響を最低限としながら、空気分離装置1の冷却速度を速めること(起動時間を短縮すること)が出来る。
この場合、低圧塔7、内部配管等の所定位置の温度測定装置を設け、温度指示調節器27が温度測定装置の測定値を入力して、該測定値に基づいて設定値を変更する機能を備えるようにすればよい。
【実施例】
【0048】
表1は、原料空気量が約200000Nm
3/hの空気分離装置1の膨張タービン11(
図1参照)仕様例を示す。
【0049】
【0050】
ここで、Nm3/hは、温度0℃、圧力1.013バールにおけるその流体の体積を表す。つまり、通常運転時には、表1の状態の原料空気が膨張タービン11に導入され、低圧塔7に導入される。
一方、膨張タービン11の故障時、修理時には、膨張タービン11に導入されていた原料空気をバイパスライン15に導入するとともに、寒冷供給用の液体窒素(3900Nm3/h、約-195℃)を液化ガス供給ライン17から混合器19に導入させると、混合器19の出口の混合流体温度は約-149℃であった。その結果、空気分離装置1が常温の場合でも、液体窒素を直接注入する場合に比較して、空気分離装置1内の配管機器の熱収縮による影響を低減することが出来た。しかも、熱的には、空気分離装置1に直接液体窒素を注入している状態と同じ状態であり、液体窒素を直接注入する場合に比較して、装置の起動時間、装置に必要な寒冷供給には影響がない。
【0051】
また、膨張タービン11の停止時(故障時、修理時)、空気分離装置1の運転を継続する場合、所定の製品量を確保するためには、通常時、膨張タービン11に導入されていた原料空気(タービン空気)を低圧塔7に導入する必要がある。
従来装置であれば(
図3参照)、原料空気の一部をバイパスライン15を経由して低圧塔7に導入する必要があったが、圧力損失が増大し、タービン空気の全量を低圧塔7に導入することは困難であった。つまり、バイパスライン15から低圧塔7に至る寒冷原料空気導入ライン13の配管は原料空気が-165.7℃(密度約4.5kg/m
3)であることを前提に計画されており、そこにバイパスライン15経由で供給された約-107℃の原料空気(密度約2.7kg/m
3)を導入しても圧力損失が増加するので、当該原料空気の全量を低圧塔7に導入することは困難であった。換言するならば、この様な事態を想定し(-107℃の空気が流れる) 寒冷原料空気導入ライン13の配管口径を大きく計画する必要があった。
【0052】
これに対して、本発明では、バイパスライン15を流れる原料空気に液体窒素を混合することにより、温度低下により流体密度が増加するので、従来技術に比較して、当該混合流体の全量を低圧塔7に導入することは容易となる。仮に、この場合を想定して配管を計画する場合は、従来よりも小口径の配管を計画することが出来る。
【符号の説明】
【0053】
1 空気分離装置(実施の形態)
3 主熱交換器
5 高圧塔
7 低圧塔
9 主凝縮器
11 膨張タービン
13 寒冷原料空気導入ライン
15 バイパスライン
17 液化ガス供給ライン
19 混合器
21 流量調整弁
23 原料空気導入ライン
25 第2流量調整弁
27 温度指示調節器
31 空気分離装置(従来例)
V1、V2、V3、V4 バルブ