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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20240816BHJP
【FI】
G03G15/20 510
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020171840
(22)【出願日】2020-10-12
(65)【公開番号】P2022063530
(43)【公開日】2022-04-22
【審査請求日】2023-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(72)【発明者】
【氏名】石井 賢治
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-217270(JP,A)
【文献】特開2006-133268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の張架部材に張架された無端状のベルト部材と、
前記ベルト部材を加熱する加熱手段と、
潤滑剤を保持する潤滑剤保持手段を有し、前記潤滑剤保持手段に保持された前記潤滑剤を直接または前記張架部材を介して間接的に前記ベルト部材の内周面に塗布する潤滑剤塗布手段とを備えた定着装置において、
前記潤滑剤塗布手段は、前記潤滑剤保持手段から流出した前記潤滑剤を留める潤滑剤流出防止部材を有し、
前記加熱手段は、前記ベルト部材の内側に配置されており、
前記加熱手段と前記潤滑剤保持手段との間に、前記加熱手段からの熱を遮蔽する遮蔽部材を設けたことを特徴する定着装置
【請求項2】
求項1に記載の定着装置において、
前記潤滑剤塗布手段は、前記潤滑剤保持手段から前記潤滑剤が供給され、前記ベルト部材の内周面または複数の張架部材のいずれかひとつに前記潤滑剤を塗布する塗布部材を備え、
前記遮蔽部材は、弾性体であって、前記遮蔽部材により前記塗布部材が前記潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布対象物に前記塗布部材を所定の当接圧で当接させることを特徴とする定着装置
【請求項3】
求項1または2に記載の定着装置において、
前記潤滑剤塗布手段は、前記潤滑剤保持手段から前記潤滑剤が供給され、前記ベルト部材の内周面または複数の張架部材のいずれかひとつに前記潤滑剤を塗布する塗布部材を備えることを特徴とする定着装置。
【請求項4】
請求項3に記載の定着装置において、
前記塗布部材は、前記ベルト部材の内周面または複数の張架部材のいずれかひとつに前記潤滑剤を塗布する塗布部と、前記潤滑剤保持手段から前記潤滑剤が供給されて前記塗布部へ前記潤滑剤を搬送する潤滑剤搬送部とを備え、前記潤滑剤搬送部の厚みが、前記塗布部の厚みよりも薄いことを特徴とする定着装置。
【請求項5】
複数の張架部材に張架された無端状のベルト部材と、
前記ベルト部材を加熱する加熱手段と、
潤滑剤を保持する潤滑剤保持手段を有し、前記潤滑剤保持手段に保持された前記潤滑剤を直接または前記張架部材を介して間接的に前記ベルト部材の内周面に塗布する潤滑剤塗布手段とを備えた定着装置において、
前記潤滑剤塗布手段は、前記潤滑剤保持手段から流出した前記潤滑剤を留める潤滑剤流出防止部材と、前記潤滑剤保持手段から前記潤滑剤が供給され、前記ベルト部材の内周面または複数の張架部材のいずれかひとつに前記潤滑剤を塗布する塗布部材とを備え
前記塗布部材は、前記ベルト部材の内周面または複数の張架部材のいずれかひとつに前記潤滑剤を塗布する塗布部と、前記潤滑剤保持手段から前記潤滑剤が供給されて前記塗布部へ前記潤滑剤を搬送する潤滑剤搬送部とを備え、前記潤滑剤搬送部の厚みが、前記塗布部の厚みよりも薄いことを特徴とする定着装置。
【請求項6】
請求項3乃至5いずれか一項に記載の定着装置において、
前記潤滑剤保持手段は、一対の潤滑剤保持部材を備え、
前記塗布部材の一端が、一対の前記潤滑剤保持部材に挟持されており、
一対の前記潤滑剤保持部材による前記塗布部材に対する挟持圧を、前記塗布部材が前記潤滑剤を塗布する塗布対象物に対する当接圧よりも大きくしたことを特徴とする定着装置。
【請求項7】
複数の張架部材に張架された無端状のベルト部材と、
前記ベルト部材を加熱する加熱手段と、
潤滑剤を保持する潤滑剤保持手段を有し、前記潤滑剤保持手段に保持された前記潤滑剤を直接または前記張架部材を介して間接的に前記ベルト部材の内周面に塗布する潤滑剤塗布手段とを備えた定着装置において、
前記潤滑剤塗布手段は、前記潤滑剤保持手段から流出した前記潤滑剤を留める潤滑剤流出防止部材と、前記潤滑剤保持手段から前記潤滑剤が供給され、前記ベルト部材の内周面または複数の張架部材のいずれかひとつに前記潤滑剤を塗布する塗布部材とを備え、
前記潤滑剤保持手段は、一対の潤滑剤保持部材を備え、
前記塗布部材の一端が、一対の前記潤滑剤保持部材に挟持されており、
一対の前記潤滑剤保持部材による前記塗布部材に対する挟持圧を、前記塗布部材が前記潤滑剤を塗布する塗布対象物に対する当接圧よりも大きくしたことを特徴とする定着装置。
【請求項8】
請求項3乃至7いずれか一項に記載の定着装置において、
複数の張架部材のいずれかひとつに、前記塗布部材により前記潤滑剤を塗布することを特徴とする定着装置。
【請求項9】
複数の張架部材に張架された無端状のベルト部材と、
前記ベルト部材を加熱する加熱手段と、
潤滑剤を保持する潤滑剤保持手段を有し、前記潤滑剤保持手段に保持された前記潤滑剤を前記張架部材を介して間接的に前記ベルト部材の内周面に塗布する潤滑剤塗布手段とを備えた定着装置において、
前記潤滑剤塗布手段は、前記潤滑剤保持手段から流出した前記潤滑剤を留める潤滑剤流出防止部材と、前記潤滑剤保持手段から前記潤滑剤が供給され、複数の張架部材のいずれかひとつに前記潤滑剤を塗布する塗布部材とを備えたことを特徴とする定着装置。
【請求項10】
請求項8または9に記載の定着装置において、
前記潤滑剤が塗布される張架部材の表面をフッ素樹脂で被覆したことを特徴とする定着装置。
【請求項11】
請求項1乃至10いずれか一項に記載の定着装置において、
前記潤滑剤保持手段は、前記潤滑剤を含浸保持するものであり、
前記潤滑剤流出防止部材は、前記潤滑剤保持手段が載置される底部と、前記潤滑剤保持手段の四方を囲む側壁とを有することを特徴とする定着装置。
【請求項12】
請求項1乃至11いずれか一項に記載の定着装置において、
前記潤滑剤は、シリコーンオイルであることを特徴とする定着装置。
【請求項13】
記録媒体に画像を形成する画像形成手段と、
前記記録媒体に形成された画像を該記録媒体に定着させる定着手段とを備えた画像形成装置において、
前記定着手段として、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の定着装置を用いたことを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置及び画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の張架部材に張架された無端状のベルト部材と、ベルト部材を加熱する加熱手段と、潤滑剤を保持する潤滑剤保持手段を有し、潤滑剤保持手段に保持された潤滑剤を直接または張架部材を介して間接的にベルト部材の内周面に塗布する潤滑剤塗布手段とを備えた定着装置が知られている。
【0003】
特許文献1には、上記定着装置として、潤滑剤材保持手段と、ベルト部材の内周面に潤滑剤を塗布する塗布部材とを有する潤滑剤塗布手段を備えたものが記載されている。塗布部材の一端を潤滑剤保持手段に浸し、潤滑剤保持手段に保持されている潤滑剤を毛細管現象により塗布部材の塗布部へ搬送し、ベルト部材の内周面に潤滑剤を塗布している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、早期に潤滑剤が枯渇するおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するために、本発明は、複数の張架部材に張架された無端状のベルト部材と、前記ベルト部材を加熱する加熱手段と、潤滑剤を保持する潤滑剤保持手段を有し、前記潤滑剤保持手段に保持された前記潤滑剤を直接または前記張架部材を介して間接的に前記ベルト部材の内周面に塗布する潤滑剤塗布手段とを備えた定着装置において、前記潤滑剤塗布手段は、前記潤滑剤保持手段から流出した前記潤滑剤を留める潤滑剤流出防止部材を有し、し、前記加熱手段は、前記ベルト部材の内側に配置されており、前記加熱手段と前記潤滑剤保持手段との間に、前記加熱手段からの熱を遮蔽する遮蔽部材を設けたことを特徴するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、早期に潤滑剤が枯渇するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の定着装置を使用した画像形成装置の一実施形態を示す概略構成図。
図2】定着装置の概略構成図。
図3】潤滑剤塗布手段の概略構成図。
図4】温度と潤滑剤の蒸発損失との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(画像形成装置)
以下に、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明の定着装置を使用した画像形成装置100の一実施形態を示す概略構成図である。
【0009】
画像形成装置100は、例えばプリンタ、複写機、ファックス等、トナーを用いて画像形成を行う装置であって、シート状体に形成されたトナー画像(未定着画像)を定着する定着装置を備える。本実施形態の画像形成装置100は、本発明の実施形態に係る定着装置20を備えたタンデム型中間転写式であり、給紙トレイ44を有する給紙テーブル200を下部に備える。
【0010】
以下の説明で「画像形成装置」とは、紙、OHPシート、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等の媒体に現像剤やインクを付着させて画像形成を行う装置を意味する。また「画像形成」とは、文字や図形等の意味を持つ画像を媒体に対して付与することだけでなく、パターン等の意味を持たない画像を記録媒体に付与することをも意味する。
【0011】
また、「記録媒体」とは紙(用紙)に限らず、OHPシート、布帛なども含み、現像剤やインクを付着させることができる媒体の意味であり、被記録媒体、記録紙、記録用紙、シートなどと称されるものも含む。以下の実施形態では記録媒体を「用紙」として説明し、また各構成部品の説明にある寸法、材質、形状、その相対配置などは例示であって、特に特定的な記載がない限りこの発明の範囲をそれらに限定する趣旨ではない。
【0012】
画像形成装置100の内部には、複数の画像形成手段18Y,18M,18C,18Kが並設されたタンデム型中間転写式のタンデム型画像形成部11が設けられている。 これらの符号に付けた添え字Y,M,C,Kは、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色をそれぞれ示している。
【0013】
画像形成装置100には、中央付近に無端ベルト状の中間転写体(以下、中間転写ベルト)10が設けられている。この中間転写ベルト10は、複数のローラ(14、15a、15b、16a等)に掛け回されて支持され、図1中の時計回りに回転搬送可能である。
【0014】
図1の構成例は、支持ローラの1つである二次転写対向ローラ16aの中間転写ベルト10の回転方向下流側に、中間転写ベルト用のクリーニング装置17を設けている。クリーニング装置17は画像転写後に中間転写ベルト10上に残留する残留トナーを除去する。
【0015】
支持ローラ14と支持ローラ15a間に張り渡した中間転写ベルト10の上部には、その搬送方向に沿って、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4つの画像形成手段18Y,18M,18C,18Kが配置される。 符号は以下、18(Y,M,C,K)のように略記する。
【0016】
こうして、4つの画像形成手段18(Y,M,C,K)が横に並べて配置され、上述のようにタンデム型画像形成部11を構成する。このタンデム型画像形成部11の各画像形成手段18(Y,M,C,K)はそれぞれ、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色のトナー画像を担持する像担持体としての感光体ドラム40(Y,M,C,K)を有している。
【0017】
タンデム型画像形成部11の上部には、2つの露光装置12が設けられている。各露光装置12はそれぞれ2つの画像形成手段(18Yと18M、18Cと18K)に対応して設けられている。各露光装置12は、例えば半導体レーザ、半導体レーザアレイ、あるいはマルチビーム光源等の光源装置と、カップリング光学系と、ポリゴンミラー等による共通の光偏向器と、2系統の走査結像光学系等で構成される光走査方式の露光装置である。
【0018】
各露光装置12は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色の画像情報に応じて、各感光体ドラム40(Y,M,C,K)に露光を行い、静電潜像を形成する。また、各画像形成手段18(Y,M,C,K)の感光体ドラム40(Y,M,C,K)の周囲には、帯電装置と、感光体用クリーニング装置が設けられている。帯電装置は、露光に先立って各感光体ドラムを均一に帯電する。感光体用クリーニング装置は、露光によって形成された静電潜像を各色のトナーで現像する現像装置と、感光体ドラム上の転写残トナーを除去する。
【0019】
さらに、各感光体ドラム40(Y,M,C,K)から中間転写ベルト10にトナー画像を転写する一次転写位置には、一次転写ローラ62(Y,M,C,K)が設けられている。一次転写ローラ62(Y,M,C,K)は、中間転写ベルト10を間に挟んで各感光体ドラム40(Y,M,C,K)に対向するように設けられ、一次転写手段の構成要素となる。
【0020】
中間転写ベルト10を支持する複数の支持ローラのうち、支持ローラ14は中間転写ベルト10を回転駆動する駆動ローラであり、例えばギヤ、プーリ、ベルト等の駆動伝達機構を介してモータと接続されている。また、ブラックの単色画像を中間転写ベルト10上に形成する場合には、移動機構により、この支持ローラ14以外の支持ローラ15a及び15bを移動させて、感光体ドラム40(Y,M,C)を中間転写ベルト10から離間させることが可能である。この他、バックアップローラ63も支持するローラとして設けられている。
【0021】
中間転写ベルト10を挟んでタンデム型画像形成部11と反対の側には、二次転写装置13が設けられている。この二次転写装置13は、二次転写対向ローラ16aに二次転写ローラ16bを押し当てて転写電界を印加することで、中間転写ベルト10上の画像をシート状の用紙Pに転写する。
【0022】
また、二次転写装置13の搬送方向下流側には、用紙P上の転写画像を定着する定着装置20が設けられている。二次転写装置13で画像が転写された用紙Pは、2つの搬送ローラ37に支持された搬送ベルト38により、定着装置20へと搬送される。搬送ベルト38に代えて、固定されたガイド部材を使用したり、搬送ローラや搬送コロ等を使用したりしてもよい。タンデム型画像形成部11、二次転写装置13および定着装置20の下方に、用紙Pの両面に画像を記録できるように、用紙Pを反転して搬送するシート反転装置39が設けられている。
【0023】
(用紙の搬送)
用紙Pの搬送は次のように行われる。まず、給紙テーブル200の給紙ローラ42の1つが選択的に回転され、ペーパバンク43に多段に設けられた給紙トレイ44の1つから用紙Pを繰り出す。その繰り出された用紙Pは、分離ローラ45で1枚ずつに分離されて給紙路46に導入され、給紙搬送ローラ対47で搬送されると共に、画像形成装置100内の給紙路48に導かれる。その後、用紙Pの先端が位置決めローラ(レジストローラ)対49に突き当てられて止められる。
【0024】
また、手差しトレイ51を用いる場合には、給紙ローラ50が回転され、手差しトレイ51上の用紙Pが繰り出される。繰り出された用紙Pは、分離ローラ52で1枚ずつ分離された後、手差し給紙路53に導入され、同様にして用紙Pの先端が位置決めローラ対49に突き当てられて止められる。
【0025】
その後、中間転写ベルト10上のフルカラーのトナー画像形成にタイミングを合わせて位置決めローラ対49が回転され、中間転写ベルト10と二次転写ローラ16bとの間の二次転写位置に用紙Pが送り込まれる。そして、中間転写ベルト10上のフルカラーのトナー画像が用紙P上に一括転写される。
【0026】
そのトナー画像が転写された用紙Pは、搬送ベルト38によって搬送され、本発明に係る定着装置20へ送り込まれる。その後、定着装置20によって用紙Pのトナー画像に熱と圧力が加えられることで用紙Pにトナー画像が転写・定着される。トナー画像が定着された用紙Pは、排出ローラ56により排紙トレイ57上に排出されてスタックされる。
【0027】
両面印刷の場合、片面に画像が定着された用紙Pは、シート反転装置39に導入されて反転された後、再び二次転写位置へ導かれる。そして用紙Pの裏面にも画像が転写され、定着装置20で定着された後、当該用紙Pは排出ローラ56によって排紙トレイ57上に排出される。
【0028】
(定着装置)
次に、定着装置20について説明する。
図2は、定着装置20の概略構成図である。
定着装置20は、図2のように、張架部材たる複数のローラ21、22、23と張架部材たる固定部材26とに張架された無端状の定着ベルト25と、この定着ベルト25に対して接離可能に設けられた加圧回転体としての加圧ローラ30を有する。加圧ローラ30に代えて加圧ベルトを使用してもよい。
【0029】
複数のローラ21、22、23は、内部に加熱手段33を有して駆動手段で回転駆動される定着ローラ21と、張架ローラ22と、付勢手段24を備えた圧力調整ローラ23とで構成される。加圧ローラ30は駆動手段としてのモータで回転し、当該回転により定着ベルト25が従動回転する。加圧ローラ30は、定着ベルト25を介して固定部材26と加圧接触し、加圧ローラ30と固定部材26との間にニップ部が形成される。
【0030】
図2に示すように、加圧ローラ30と定着ベルト25とが接触している接触状態で、用紙P上に形成された未定着トナー像Tをニップ部で溶融・加圧し、用紙P上に定着させる。
【0031】
トナー像が形成された用紙Pは、入口ガイド27側からニップ部に進入し、出口ガイド29側に排出される。ニップ部出口の定着ベルト25側には分離部材28を備え、ニップ部から排出された用紙Pが定着ベルト25に巻き付くのを防止する。
【0032】
(固定部材)
固定部材26は、定着ベルト25の内側に挿入された高剛性の支持部材31を介して、定着装置20のフレームに固定支持されている。これにより、加圧ローラ30の加圧力で固定部材26の位置が変位したり、固定部材26が撓んだりするのを防止し、均一なニップ幅が安定して得られるようにしている。なお、加圧ローラ30の固定部材26側への押圧力(加圧力)を制御することにより、ニップ幅の大きさを制御することも可能である。
【0033】
固定部材26は耐熱性部材で構成するのが好ましい。これにより、トナー定着温度域での熱変形を防止し、安定したニップ部の状態を確保し、出力画質の安定化を図ることができる。固定部材26を構成する耐熱性部材としては、例えば、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの一般的な耐熱性樹脂が挙げられる。
【0034】
(張架ローラ)
張架ローラ22は、固定部材26よりも-X方向側(用紙Pの搬送方向上流側)に配設され、定着ベルト25の回転によって従動回転する。また、固定部材26に対する張架ローラ22の位置によって、ベルト進入角度αが規定される。ベルト進入角度αは、定着ベルト25と、固定部材26のニップ形成面とのなす角、すなわち、ニップ形成面に入る定着ベルト25と、固定部材26のニップ形成面(X方向平面)の面法線とのなす角度である。
【0035】
ベルト進入角度αが、180°に近いほど定着ベルト25の固定部材26への巻き付き開始部位における摺動抵抗が低減する。しかし、ベルト進入角度αが180°になるように張架ローラ22を配設すると、ニップ部入口近傍において、定着ベルト25と、用紙Pの搬送路とが平行状に近接することになる。定着ベルト25は、ニップ部通過に伴って、ニップ部の直近上流側で多少のバタつきを発生することがある。
【0036】
このため、当該バタつきにより、未定着トナー像Tが形成された用紙Pがニップ部の直近上流側で定着ベルト25に接触し、この接触によって画像の乱れが生じる不具合が起きる可能性がある。そこで、加圧ローラ30と定着ベルト25とが接触している状態においては、ベルト進入角度αが160°以下となるように、固定部材26に対する張架ローラ22の位置が設定されることが好ましい。
【0037】
(圧力調整ローラ)
圧力調整ローラ23は固定部材26の下流側に配設され、定着ベルト25の回転によって従動回転する。また、圧力調整ローラ23は定着ベルト25を外向きに付勢する付勢手段24を備え、この付勢手段24で定着ベルト25に張力を与えている。付勢手段24としては、例えば、圧縮スプリング等が挙げられる。
【0038】
(定着ローラ)
定着ローラ21は、その内部に加熱手段33を備え、加熱手段33で加熱された定着ローラ21によって定着ベルト25が加熱される。加熱手段33はハロゲンヒータやニクロム線等で構成される。また、表面は後述する潤滑剤塗布手段300により塗布される潤滑剤との濡れ性を低くするために表面にコーティングを施している。潤滑剤としてシリコーンオイルを用いる場合は定着ローラ21の表面にフッ素コーティングを施すのが好ましい。
【0039】
加熱手段33の出力制御は、例えば、定着ローラ21に当接した定着ベルト25の表面温度の検出結果に基づいて行うことができる。定着ローラ21は、加圧ローラ30と定着ベルト25とが接触している状態において、定着ベルト25の回転によって従動回転する。加圧ローラ30が離間した状態においては、定着ローラ21は、定着ローラ21に連結された駆動手段により独立して回転し、その回転によって定着ベルト25を回転させる。
【0040】
(加圧ローラ)
加圧ローラ30は、例えば、SUS304等で形成した円筒体の芯金上に、フッ素ゴム、シリコーンゴム、発泡性シリコーンゴム等の弾性層が形成されたローラである。円筒体の内部には熱源としてのヒータを配設してもよい。これによりニップ部での温度の落ち込みを防ぐことができる。当該ヒータはハロゲンヒータやニクロム線等で構成することができる。
【0041】
加圧ローラ30は、接離機構により図中Yで示す方向へ移動する。例えば、+Y方向へ加圧ローラ30が移動することにより定着ベルト25を介して固定部材26と加圧接触してニップ部が形成される。一方、-Y方向へ加圧ローラ30が移動することにより、加圧ローラ30は、定着ベルト25と離間する。
【0042】
また、加圧ローラ30は駆動手段を備え、図中矢印D2で示す方向へ回転する。定着ベルト25と接触した状態において、定着ベルト25は矢印D3へ示す方向へ回転する。
【0043】
定着ベルト25は多層構造の無端ベルトであり、例えば、基材及び離型層によって構成される2層構造のベルト、又は基材、弾性層及び離型層によって構成される3層構造のベルトである。3層構造にして定着ベルト25に弾性層を設けることにより、トナー像へ定着ベルト25表面が密着しやすくなり、画質が向上する。
【0044】
定着ベルト25が回転する際、固定部材26との摺動負荷が大きいと、定着ベルト25が加圧ローラ30の回転に従動できずにスリップしてしまうことがある。これを防止するため、定着装置20は、定着ベルト25の内周面に潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布手段300を有しており、定着ベルト25と固定部材26との摺動抵抗を低減している。
【0045】
(潤滑剤塗布手段)
潤滑剤塗布手段300は、定着ベルト25の内側に配置されており、本実施形態では、定着ローラ21に潤滑剤を塗布し、定着ローラ21を介して定着ベルト25の内周面に潤滑剤を塗布する。本実施形態では、潤滑剤として、耐熱性オイルであるシリコーンオイルが用いられている。
【0046】
定着ベルトは回転時に波打ち動作が発生しやすく、定着ベルト25の内周面に直接、潤滑剤を塗布する場合は、上記波打ち動作により均一塗布が難しい。本実施形態は、定着ローラ21を介して定着ベルト25の内周面に潤滑剤を塗布することで、波打ち動作に関わらず、定着ベルト25の内周面に潤滑剤を均一に塗布することができる。すなわち、本実施形態では、定着ローラ21が、定着ベルト25の内周面に潤滑剤を塗布する塗布ローラとしての機能を有している。
【0047】
潤滑剤としてのシリコーンオイルは、高温時に揮発してしまい、早期に潤滑剤が枯渇するおそれがあった。そこで、潤滑剤として低揮発であるフッ素オイルを用いることが考えられるが、フッ素オイルは、高価であり、装置のコスト高となるおそれがあった。そこで、本実施形態の潤滑剤塗布手段は、潤滑剤の高温化を抑制して揮発による潤滑剤の早期の枯渇を抑制するように構成した。また、本実施形態の潤滑剤塗布手段は、潤滑剤塗布手段300からの潤滑剤の流出を抑制し、潤滑剤の早期の枯渇を抑制するようにした。以下に、図面を用いて具体的に説明する。
【0048】
図3は、潤滑剤塗布手段300の概略構成図である。
潤滑剤塗布手段300は、塗布部材301と、遮蔽部材たるブラケット302と、潤滑剤保持手段たる潤滑剤保持部303と、保持部材固定部材304と、潤滑剤流出防止部材305とを有している。
【0049】
塗布部材301は、潤滑剤を定着ローラの表面に塗布する。ブラケット302は、塗布部材301の塗布部301aを付勢して、塗布部301aを定着ローラに当接させるとともに、加熱手段33の潤滑剤保持部303への輻射熱を遮蔽する。潤滑剤保持部303は、潤滑剤を含浸保持する。保持部材固定部材304は、潤滑剤保持部303を固定する。潤滑剤流出防止部材305は、潤滑剤保持部303から流れ出た潤滑剤が、潤滑剤塗布手段300から流出するのを防止する。
【0050】
塗布部材301は、耐熱フェルト(具体的材質は耐熱性アラミドフェルト)からなり、定着ローラ21の表面に潤滑剤を塗布する塗布部301aと、潤滑剤保持部303に含浸保持されている潤滑剤を塗布部301aへ伝達する潤滑剤伝達部301bとを有している。潤滑剤伝達部301bと塗布部301aとは、別体であり、潤滑剤伝達部301bの端部が、塗布部301aに接合されている。なお、塗布部301aから耐熱フェルトを延長させて塗布部301aと潤滑剤伝達部301bとを一体で構成してもよい。
【0051】
潤滑剤伝達部301bの厚みは、塗布部301aの厚みよりも薄くなっている。このように、潤滑剤伝達部301bの厚みを薄くすることで、潤滑剤保持部303から素早く潤滑剤を毛細管現象により塗布部301aへ伝達することができる。
【0052】
ブラケット302は、取り付け部302bと板バネ部302aとを有する弾性体であり、ステンレスを屈曲させて構成されている。板バネ部302aの先端には、塗布部301aが接着されている。取り付け部302bは、支持部材31の上面に取り付けられている。ブラケット302は、塗布部301aが定着ローラ21に当接し、かつ、板バネ部302aが塗布部301aを定着ローラ側に付勢するように、支持部材31の上面に取り付けられている。これにより、塗布部301aを所定の当接圧で定着ローラ21に当接させることができる。
【0053】
本実施形態は、定着ベルト25を張架する張架ローラ22、圧力調整ローラ23および定着ローラ21の3つの張架ローラのうち、最も大径の定着ローラ21に潤滑剤を塗布する構成としている。これにより、塗布部301aの接触幅(塗布ニップ幅)を広く確保することができ、安定して潤滑剤を塗布することができる。
【0054】
また、定着ローラ21の表面は剛体であるため、塗布部301aを軸方向均一に接触させることができる。これにより、定着ローラ21表面に潤滑剤を軸方向に均一に塗布することができ、定着ローラ21を介して定着ベルト25に軸方向均一に潤滑剤を塗布することができる。
【0055】
ブラケット302は、加熱手段33の輻射熱により加熱される。そのため、潤滑剤伝達部301bがブラケット302に接触すると、ブラケット302の熱が直接、潤滑剤伝達部301bに伝達され、潤滑剤伝達部301bが温度上昇する。その結果、潤滑剤伝達部301b内の潤滑剤が高温となり揮発し、塗布部301aへ伝達される潤滑剤量が低下するおそれがある。
【0056】
そのため、潤滑剤伝達部301bは、ブラケット302に接触しないように、塗布部301aから板バネ部302aに沿うように延び出すようにするのが好ましい。これにより、ブラケット302の熱が直接、潤滑剤伝達部301bに伝達するのを防止でき、潤滑剤伝達部301bの温度上昇を抑えることができる。これにより、潤滑剤伝達部301bで潤滑剤が揮発するのを抑制することができ、塗布部301aへ伝達される潤滑剤量の低下を抑制することができる。
【0057】
また、ブラケット302の板バネ部302aが、定着ローラ21と潤滑剤保持部303とを仕切るように配置されており、この板バネ部302aにより加熱手段33の潤滑剤保持部303への輻射熱を遮蔽している。このように、ブラケット302は、加熱手段33の熱を遮蔽する遮蔽部材としての機能を有している。
【0058】
図4は、温度と潤滑剤の蒸発損失との関係を示す図である。
図4からわかるように、温度が上がるにつれて、潤滑剤の蒸発損失が指数的に増加することがわかる。
【0059】
ブラケット302により熱を遮蔽しないときは、潤滑剤保持部303の温度は、180℃前後である。そのため、図4からわかるように、潤滑剤保持部303に保持された潤滑剤が、蒸発により3~4%損失する。一方、ブラケット302で遮蔽することで、潤滑剤保持部303の温度を140~150℃にすることができた。その結果、潤滑剤保持部303に保持された潤滑剤の蒸発による損失を1%以下に抑えることができる。
【0060】
このように、ブラケット302で加熱手段33の輻射熱を遮蔽することで、潤滑剤保持部材303a,303bに保持された潤滑剤の温度上昇を抑制することができ、潤滑剤の蒸発による損失を抑えることができる。これにより、潤滑剤が早期に枯渇するのを抑制することができ、長期にわたり潤滑剤を塗布することができる。また、ブラケット302とは別に遮蔽部材を設ける場合に比べて、部品点数を削減することができ、装置のコストアップを抑制することができる。
【0061】
潤滑剤保持手段たる潤滑剤保持部303は、耐熱性フェルトからなる一対の潤滑剤保持部材303a,303bからなり、これら潤滑剤保持部材303a,303bは、潤滑剤を含浸保持している。一対の潤滑剤保持部材303a,303bからなる潤滑剤保持部303の体積は、塗布部材301よりも大きく、大量の潤滑剤を含浸保持している。塗布部材301の潤滑剤伝達部301bの他端(塗布部側と反対側端部)が、一対の潤滑剤保持部材303a,303bに挟持されている。
【0062】
潤滑剤保持部材303a,303bに含浸保持されている潤滑剤は、毛細管現象により潤滑剤伝達部301bに吸い上げられる。この潤滑剤伝達部301bに吸い上げられた潤滑剤伝達部301bの潤滑剤は、毛細管現象によって塗布部301a側端部へと移動し、塗布部301aへ伝達される。そして、潤滑剤は、塗布部301aにより定着ローラ21の表面に塗布される。
【0063】
塗布部材301に潤滑剤を含浸保持する場合、塗布部材301の定着ローラ21への当接圧により潤滑剤が絞り出され、初期に多量の潤滑剤が定着ローラ21に塗布される。その結果、初期から一定量の潤滑剤を定着ローラ21に塗布することが困難であり、早期に潤滑剤が枯渇するおそれがある。また、加熱手段33の輻射熱により塗布部材に含浸保持されている潤滑剤が蒸発してしまい、早期に潤滑剤が枯渇するおそれがある。
【0064】
これに対し、本実施形態では、塗布部材とは別に潤滑剤保持部303を設け、潤滑剤保持部材に潤滑剤を含浸保持している。これにより、潤滑剤が毛細管現象により、塗布部材301の潤滑剤伝達部を介して塗布部へ順次送られる構成とすることができ、初期に多量の潤滑剤が定着ローラ21に塗布されるのを抑制することができる。また、潤滑剤保持部303を定着ローラ21から離して配置することができ、潤滑剤の加熱手段33の輻射熱による温度上昇を抑制でき、潤滑剤の蒸発を抑制することができる。これにより、早期に潤滑剤が枯渇するのを抑制することができ、経時にわたり一定量の潤滑剤を定着ローラ21に塗布することができる。
【0065】
潤滑剤流出防止部材305は、金属、樹脂からなり、上部が開口した箱型形状で、潤滑剤保持部303を載置する底部305aと、潤滑剤保持部303の四方を囲む側壁305bとを有している。側壁305bの高さは、潤滑剤保持部303から流れ出た潤滑剤が側壁305bを乗り越えて流出しないような高さとなっている。
【0066】
潤滑剤として使用しているシリコーンオイルは、常温時においては、粘度が100CSt程度あり、粘りがある状態である。そのため、常温時では、潤滑剤は、潤滑剤保持部材303a,303bに良好に含浸保持されている。しかし、温度が上昇すると粘度が低下し、水のような高流動性を示すようになる。上述したように、潤滑剤保持部303は、加熱手段33を内部に備えた定着ローラ21の近傍に配置されているため、加熱手段33の輻射熱などにより温度上昇する。この温度上昇によって、潤滑剤保持部材303a,303bに保持されている潤滑剤の温度も上昇する。その結果、潤滑剤保持部材303a,303bに保持されている潤滑剤の粘度が低下し、高流動性となり、潤滑剤保持部材303a,303bから流れ出る場合がある。
【0067】
このようにして潤滑剤保持部材303a,303bから流れ出た潤滑剤は、潤滑剤流出防止部材305の側壁305bに堰き止められ、潤滑剤が潤滑剤塗布手段300から流出するのを防止することができる。この側壁305bに堰き止められ、潤滑剤流出防止部材305に貯留した潤滑剤は、毛細管現象により潤滑剤保持部材303aに吸い上げられ、再度、含浸保持される。これにより、定着ベルト25の内周面に塗布されずに損失する潤滑剤の量を低減することができ、早期に潤滑剤が枯渇するのを抑制することができる。よって、経時にわたり、定着ベルト25の内周面に潤滑剤を塗布することができ、経時にわたり定着ベルト25を良好に回転させることができる。
【0068】
保持部材固定部材304は、潤滑剤流出防止部材305と、一対の潤滑剤保持部材303a,303bとを上下方向に挟み込んで固定している。保持部材固定部材304は、ブラケット302の取り付け部302bに取り付けられている。
【0069】
潤滑剤流出防止部材305と、一対の潤滑剤保持部材303a,303bとは、一対の潤滑剤保持部材303a,303bを圧縮変形させて保持部材固定部材304に固定される。このようにして、保持部材固定部材304に固定されることで、潤滑剤伝達部301bの他端が、一対の潤滑剤保持部材303a,303bにより潤滑剤伝達部301bの毛細管現象を阻害しない程度の挟持圧で挟持される。
【0070】
本実施形態においては、一対の潤滑剤保持部材303a,303bによる潤滑剤伝達部301bの他端に対する挟持圧が、塗布部301aの定着ローラ21に対する当接圧よりも大きくなっている。かかる構成とすることで、一対の潤滑剤保持部材303a,303bに含浸保持された潤滑剤を、潤滑剤伝達部301bに絞り出すことができる。これにより、良好に潤滑剤保持部材303a,303bに含浸保持された潤滑剤を潤滑剤伝達部301bへ供給することができる。
【0071】
定着ローラ21は、加熱手段33により加熱されるため、定着ローラの表面は高温となっている。潤滑剤は上述したように高温時に粘度が低下し高流動性を有するようになる。そのため、定着ローラの表面に塗布された潤滑剤は、流動性が高まっている。定着ローラ21の表面の潤滑剤に対する濡れ性が高い(接触角が小さい)と、定着ローラ21に塗布された潤滑剤が軸方向へ濡れ広がり、定着ベルト25の内周面に塗布される前に、潤滑剤が定着ローラ21の軸方向端部から流出するおそれがある。
【0072】
そのため、潤滑剤が塗布される定着ローラ21の表面を、潤滑剤として使用されるシリコーンオイルに対する濡れ性の低い(接触角が大きい)フッ素樹脂でコーティングしている。これにより、定着ローラ21表面に塗布された潤滑剤の軸方向への濡れ広がりを抑制することができる。その結果、定着ベルト25の内周面に塗布される前に、潤滑剤が定着ローラ21の軸方向端部から流出するのを抑制することができる。また、定着ローラ21の表面をフッ素樹脂でコーティングすることで、離型性を高めることができ、定着ローラ表面の潤滑剤を良好に定着ベルト25の内周面に転移させることができる。
【0073】
以上に説明したものは一例であり、次の態様毎に特有の効果を奏する。
(態様1)
複数の張架部材(本実施形態では、定着ローラ21、圧力調整ローラ23、張架ローラ22および固定部材26)に張架された無端状の定着ベルト25などのベルト部材と、ベルト部材を加熱する加熱手段33と、潤滑剤を保持する潤滑剤保持部303などの潤滑剤保持手段を有し、潤滑剤保持手段に保持された潤滑剤を直接または張架部材(本実施形態では定着ローラ21)を介して間接的にベルト部材の内周面に塗布する潤滑剤塗布手段300とを備えた定着装置20において、潤滑剤塗布手段300は、前記潤滑剤保持手段から流出した前記潤滑剤を留める潤滑剤流出防止部材305を設けた。
加熱手段によるベルト部材の加熱により、潤滑剤保持部303などの潤滑剤保持手段の温度が上昇する。潤滑剤保持手段の温度が上昇することで、潤滑剤保持手段に含浸保持されている潤滑剤の温度が上昇し、この潤滑剤の温度上昇により潤滑剤の粘度が低下し、潤滑剤の流動性が高まる。その結果、潤滑剤保持手段に含浸保持されていた潤滑剤が、潤滑剤保持手段から流れ出し、潤滑剤塗布手段から潤滑剤が流出するおそれがあった。このように、潤滑剤塗布手段から潤滑剤が流出することで、早期に潤滑剤が枯渇し、早期にベルト部材の内周面に潤滑剤を塗布できないおそれがあった。
態様1では、温度上昇による潤滑剤の粘度低下によって、潤滑剤保持手段から流れ出した潤滑剤を、潤滑剤流出防止部材により留め、潤滑剤塗布手段から潤滑剤が流出するのを防止する。これにより、早期に潤滑剤が枯渇するのを防止でき、経時にわたり、ベルト部材の内周面に潤滑剤を塗布することができる。
【0074】
(態様2)
態様1において、潤滑剤保持部303などの潤滑剤保持手段は、潤滑剤を含浸保持するものであり、潤滑剤流出防止部材305は、潤滑剤保持手段が載置される底部305aと、潤滑剤保持手段の四方を囲む側壁305bとを有する。
これによれば、実施形態で説明したように、潤滑剤保持部303などの潤滑剤保持手段から流れ出た潤滑剤を側壁305bにより堰き止めて、潤滑剤保持手段が載置されている底部305a上に留めておくことができる。その結果、潤滑剤が潤滑剤塗布手段300から流出するのを防止することができる。また、底部305a上に留まった潤滑剤が、再度、潤滑剤保持手段に毛細管現象により含浸保持される。これにより、定着ベルト25などのベルト部材の内周面に塗布されずに損失する潤滑剤の量を低減することができ、早期に潤滑剤が枯渇するのを抑制することができる。
【0075】
(態様3)
態様1または2において、潤滑剤塗布手段300は、潤滑剤保持部303などの潤滑剤保持手段から潤滑剤が供給され、定着ベルト25などのベルト部材の内周面または複数の張架部材のいずれかひとつ(本実施形態では定着ローラ21)に潤滑剤を塗布する塗布部材301を備える。
これによれば、実施形態で説明したように、塗布部材とは別に潤滑剤を保持する潤滑剤保持手段を有することで、塗布部材に潤滑剤を含浸保持させたものに比べて、初期から一定量の潤滑剤を塗布することができる。これにより、早期に潤滑剤が枯渇するのを抑制することができる。また、加熱手段33から離れた位置に潤滑剤保持手段を配置することが可能となり、潤滑剤保持手段に含浸保持されている潤滑剤の温度上昇を抑制できる。その結果、潤滑剤の蒸発損失を抑制でき、早期に潤滑剤が枯渇するのを抑制することができる。
【0076】
(態様4)
態様3において、塗布部材301は、定着ベルト25などのベルト部材の内周面または複数の張架部材のいずれかひとつ(本実施形態では定着ローラ21)に潤滑剤を塗布する塗布部301aと、潤滑剤保持部303などの潤滑剤保持手段から潤滑剤が供給されて塗布部301aへ潤滑剤を搬送する潤滑剤伝達部301bなどの潤滑剤搬送部とを備え、潤滑剤搬送部の厚みが塗布部301aの厚みよりも薄い。
これによれば、実施形態で説明したように、潤滑剤保持部303などの潤滑剤保持手段から供給された潤滑剤を毛細管現象によりすばやく塗布部301aへ搬送することができる。これにより、塗布される潤滑剤量の低下を抑制することができ、一定量の潤滑剤を塗布することが可能となる。
【0077】
(態様5)
態様3または4において、潤滑剤保持部303などの潤滑剤保持手段は、一対の潤滑剤保持部材303a,303bを備え、塗布部材301の一端が、一対の潤滑剤保持部材に挟持されており、一対の潤滑剤保持部材による塗布部材に対する挟持圧を、塗布部材が潤滑剤を塗布する塗布対象物に対する当接圧よりも大きくした。
これによれば、実施形態で説明したように、一対の潤滑剤保持部材303a,303bに含浸保持された潤滑剤を、潤滑剤伝達部301bなどの潤滑剤搬送部に絞り出すことができる。これにより、良好に潤滑剤保持部材303a,303bに含浸保持された潤滑剤を潤滑剤搬送部へ供給することができる。
【0078】
(態様6)
態様3乃至5いずれかにおいて、複数の張架部材のいずれかひとつに、塗布部材により潤滑剤を塗布する。
これによれば、実施形態で説明したように、定着ベルト25などのベルト部材に潤滑剤を塗布する場合に比べて、塗布部材301の塗布部301aを軸方向均一に接触させることができる。これにより、潤滑剤を軸方向に均一に塗布することができる。
【0079】
(態様7)
態様6において、潤滑剤が塗布される定着ローラ21などの張架部材の表面をフッ素樹脂で被覆した。
これによれば、実施形態で説明したように、張架部材に塗布された潤滑剤の軸方向への濡れ広がりを抑制することができ、張架部材の軸方向端部から潤滑剤が流れ落ちるのを抑制することができる。また、張架部材に塗布された潤滑剤を良好に定着ベルト25などのベルト部材の内周面に転移させることができる。
【0080】
(態様8)
態様1乃至7いずれかにおいて、潤滑剤は、シリコーンオイルである。
これによれば、潤滑剤としてフッ素オイルを用いた場合に比べて、装置のコストアップを抑制することができる。
【0081】
(態様9)
態様1乃至8いずれかにおいて、加熱手段33は、定着ベルト25などのベルト部材の内側に配置されており、加熱手段33と潤滑剤保持部材との間に、加熱手段33からの熱を遮蔽するブラケット302などの遮蔽部材を設けた。
これによれば、実施形態で説明したように、加熱手段33の輻射熱による潤滑剤保持部303などの潤滑剤保持手段の温度上昇を抑制することができる。これにより、潤滑剤保持手段に保持された潤滑剤の蒸発損失を抑制することができ、早期の潤滑剤の枯渇を抑制することができる。
【0082】
(態様10)
態様9において、潤滑剤塗布手段300は、潤滑剤保持部303などの潤滑剤保持手段から潤滑剤が供給され、定着ベルト25などのベルト部材の内周面または複数の張架部材のいずれかひとつに潤滑剤を塗布する塗布部材301を備え、ブラケット302などの遮蔽部材は、弾性体であって、遮蔽部材により塗布部材301が潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布対象物(本実施形態では、定着ローラ21)に塗布部材301を所定の当接圧で当接させる。
これによれば、実施形態で説明したように、加熱手段33の輻射熱を遮蔽する遮蔽部材と、塗布部材301を所定の当接圧で当接させる部材とをそれぞれ設ける場合に比べて、部品点数を削減することができ、装置のコストダウンを図ることができる。
【0083】
(態様11)
用紙Pなどの記録媒体に画像を形成する画像形成手段と、記録媒体に形成された画像を記録媒体に定着させる定着装置20などの定着手段とを備えた画像形成装置において、定着手段として、態様1乃至10のいずれかの定着装置を用いた。
これによれば、実施形態で説明したように、経時にわたり、記録媒体に形成された画像を良好に記録媒体に定着させることができる。
【符号の説明】
【0084】
18 :画像形成手段
20 :定着装置
21 :定着ローラ
22 :張架ローラ
23 :圧力調整ローラ
24 :付勢手段
25 :定着ベルト
30 :加圧ローラ
33 :加熱手段
100 :画像形成装置
300 :潤滑剤塗布手段
301 :塗布部材
301a :塗布部
301b :潤滑剤伝達部
302 :ブラケット
302a :板バネ部
302b :取り付け部
303 :潤滑剤保持部
303a :潤滑剤保持部材
303b :潤滑剤保持部材
304 :保持部材固定部材
305 :潤滑剤流出防止部材
305a :底部
305b :側壁
α :ベルト進入角度
【先行技術文献】
【特許文献】
【0085】
【文献】特開2007-199285号公報
図1
図2
図3
図4