(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/02 20240101AFI20240816BHJP
G06Q 10/04 20230101ALI20240816BHJP
【FI】
G06Q50/02
G06Q10/04
(21)【出願番号】P 2021018888
(22)【出願日】2021-02-09
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【氏名又は名称】酒井 太一
(72)【発明者】
【氏名】官 森林
(72)【発明者】
【氏名】高橋 仁康
(72)【発明者】
【氏名】深見 公一郎
(72)【発明者】
【氏名】中野 恵子
(72)【発明者】
【氏名】大段 秀記
【審査官】前田 侑香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/106733(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/174645(WO,A1)
【文献】特開2001-133359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場を上空から撮像した空撮画像を取得する画像取得部と、
前記空撮画像から、前記圃場のうち害虫による被害を受けた被害領域を抽出する被害領域抽出部と、
前記被害領域と、所定のパラメータとに基づいて、将来時点における被害領域を予測する被害領域予測部と、を備え、
前記被害領域予測部は、前記被害領域を複数のセグメントによって近似し、前記複数のセグメントの各々についての被害拡散速度を求めることによって前記将来時点における被害領域を予測し、
前記所定のパラメータは、前記被害の度合い、前記被害領域の面積、前記害虫の数、前記被害領域における稲の活性度、気象データ、前記被害領域の近隣領域における被害の度合い、防除の実行有無のうちの少なくとも一つを含み、
前記被害領域予測部は、前記被害の度合い、前記被害領域の面積、前記被害領域の近隣領域における被害の度合い、又は前記害虫の数が大きいほど、前記被害領域における稲の活性度が低いほど、前記気象データが下層ジェット気流の傾向を高く表しているほど、又は前記防除の実行有無が前記防除の不実行を示す場合、前記被害拡散速度を大きくする、
情報処理装置。
【請求項2】
前記複数のセグメントは扇形であり、前記被害領域予測部は、前記扇形の径方向における前記被害拡散速度を求める、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記複数のセグメントは円形であり、前記被害領域予測部は、前記円形上の複数の点の各々について径方向における前記被害拡散速度を求める、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記予測した将来時点における被害領域と、前記将来時点における実際の被害領域とを比較することによって前記所定のパラメータを調整するパラメータ調整部を更に備える、
請求項1から3のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記予測した将来時点における被害領域をユーザ端末に表示する被害領域表示部を更に備える、
請求項1から4のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記予測した将来時点における被害領域に基づいて、ユーザ端末に防除を提案する防除提案部を更に備える、
請求項1から5のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記予測した将来時点における被害領域に基づいて、ユーザ端末に防除を提案する防除提案部を更に備え、
前記被害領域予測部は、前記防除提案部によって提案された前記防除の実行有無が前記防除の実行を示す場合の前記被害拡散速度に従って前記将来時点における被害領域を予測し、
前記被害領域表示部は、前記防除の実行有無が前記防除の実行を示す場合の前記被害拡散速度に従って予測された、前記将来時点における被害領域を前記ユーザ端末に表示する、
請求項
5に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記害虫はウンカである、
請求項1から7のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項9】
情報処理装置が、
圃場を上空から撮像した空撮画像の画像データを取得し、
前記画像データから、前記圃場のうち害虫による被害を受けた被害領域を抽出し、
前記被害領域と、所定のパラメータとに基づいて、将来時点における被害領域を予測し、
前記被害領域を複数のセグメントによって近似し、前記複数のセグメントの各々についての被害拡散速度を求めることによって前記将来時点における被害領域を予測し、
前記所定のパラメータは、前記被害の度合い、前記被害領域の面積、前記害虫の数、前記被害領域における稲の活性度、気象データ、前記被害領域の近隣領域における被害の度合い、防除の実行有無のうちの少なくとも一つを含み、
前記被害の度合い、前記被害領域の面積、前記被害領域の近隣領域における被害の度合い、又は前記害虫の数が大きいほど、前記被害領域における稲の活性度が低いほど、前記気象データが下層ジェット気流の傾向を高く表しているほど、又は前記防除の実行有無が前記防除の不実行を示す場合、前記被害拡散速度を大きくする、
情報処理方法。
【請求項10】
コンピュータに、
圃場を上空から撮像した空撮画像の画像データを取得させ、
前記画像データから、前記圃場のうち害虫による被害を受けた被害領域を抽出させ、
前記被害領域と、所定のパラメータとに基づいて、将来時点における被害領域を予測させ、
前記被害領域を複数のセグメントによって近似し、前記複数のセグメントの各々についての被害拡散速度を求めることによって前記将来時点における被害領域を予測させ、
前記所定のパラメータは、前記被害の度合い、前記被害領域の面積、前記害虫の数、前記被害領域における稲の活性度、気象データ、前記被害領域の近隣領域における被害の度合い、防除の実行有無のうちの少なくとも一つを含み、
前記被害の度合い、前記被害領域の面積、前記被害領域の近隣領域における被害の度合い、又は前記害虫の数が大きいほど、前記被害領域における稲の活性度が低いほど、前記気象データが下層ジェット気流の傾向を高く表しているほど、又は前記防除の実行有無が前記防除の不実行を示す場合、前記被害拡散速度を大きくする、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、情報処理方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
稲が生育する圃場に被害を及ぼすウンカを駆除する方法が知られている。例えば、特許文献1には、稲が生育している水田の田水にスピロテトラマトの有効量を直接施用する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術は、ウンカを駆除するための製剤に関するものである。圃場において、将来、ウンカ被害が拡大する可能性が高い領域を事前に予測することにより、製剤をより有効に使用することができる。しかしながら、従来の技術では、圃場においてウンカ被害が拡大する可能性が高い領域を事前にかつ高精度に予測することが困難な場合があった。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、圃場においてウンカ被害が拡大する可能性が高い領域を事前にかつ高精度に予測することができる情報処理装置、情報処理方法、およびプログラムを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様である情報処理装置は、圃場を上空から撮像した空撮画像を取得する画像取得部と、前記空撮画像から、前記圃場のうち害虫による被害を受けた被害領域を抽出する被害領域抽出部と、前記被害領域と、所定のパラメータとに基づいて、将来時点における被害領域を予測する被害領域予測部と、を備え、前記被害領域予測部は、前記被害領域を複数のセグメントによって近似し、前記複数のセグメントの各々についての被害拡散速度を求めることによって前記将来時点における被害領域を予測するものである。
【0007】
前記複数のセグメントは扇形であり、前記被害領域予測部は、前記扇形の径方向における前記被害拡散速度を求めてもよい。
【0008】
前記複数のセグメントは円形であり、前記被害領域予測部は、前記円形上の複数の点の各々について径方向における前記被害拡散速度を求めてもよい。
【0009】
前記所定のパラメータは、前記被害の度合い、前記被害領域の面積、前記害虫の数、前記被害領域における稲の活性度、気象データ、前記被害領域の近隣領域における被害の度合い、防除の実行有無のうちの少なくとも一つを含んでもよい。
【0010】
前記予測した将来時点における被害領域と、前記将来時点における実際の被害領域とを比較することによって前記所定のパラメータを調整するパラメータ調整部を更に備えてもよい。
【0011】
前記予測した将来時点における被害領域をユーザ端末に表示する被害領域表示部を更に備えてもよい。
【0012】
前記予測した将来時点における被害領域に基づいて、ユーザ端末に防除を提案する防除提案部を更に備えてもよい。
【0013】
前記被害領域予測部は、前記防除提案部によって提案された前記防除を実施したものと仮定して前記将来時点における被害領域を予測し、前記被害領域表示部は、前記防除を実施したものと仮定して予測された、前記将来時点における被害領域を前記ユーザ端末に表示してもよい。
【0014】
前記害虫はウンカであってもよい。
【0015】
本発明の他の態様である情報処理方法は、情報処理装置が、圃場を上空から撮像した空撮画像の画像データを取得し、前記画像データから、前記圃場のうち害虫による被害を受けた被害領域を抽出し、前記被害領域と、所定のパラメータとに基づいて、将来時点における被害領域を予測し、前記被害領域を複数のセグメントによって近似し、前記複数のセグメントの各々についての被害拡散速度を求めることによって前記将来時点における被害領域を予測するものである。
【0016】
本発明の他の態様であるプログラムは、コンピュータに、圃場を上空から撮像した空撮画像の画像データを取得させ、前記画像データから、前記圃場のうち害虫による被害を受けた被害領域を抽出させ、前記被害領域と、所定のパラメータとに基づいて、将来時点における被害領域を予測させ、前記被害領域を複数のセグメントによって近似し、前記複数のセグメントの各々についての被害拡散速度を求めることによって前記将来時点における被害領域を予測させるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、圃場においてウンカ被害が拡大する可能性が高い領域を事前にかつ高精度に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る情報処理装置100の使用環境および構成の一例を示す図である。
【
図2】稲が生育する圃場Fに対するウンカ被害の例示的な場面を説明するための図である。
【
図3】被害領域予測部130が被害領域DRを複数のセグメントによって近似する方法の一例を示す図である。
【
図4】被害領域予測部130が予測する将来時点における被害領域の一例を示す図である。
【
図5】被害領域予測部130が被害領域DRを複数のセグメントによって近似する方法の他の例を示す図である。
【
図6】情報提供部140から端末装置30に送信される情報の一例を示す図である。
【
図7】情報提供部140から端末装置30に送信される情報の他の例を示す図である。
【
図8】パラメータ調整部150が被害拡散パラメータe又は重み付けλを調整する場面の一例を示す図である。
【
図9】情報処理装置100が実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[概要]
以下、図面を参照し、本発明の実施形態に係る情報処理装置100について説明する。
図1は、情報処理装置100の使用環境および構成の一例を示す図である。情報処理装置100は、例えば、飛行体10と、中継装置20と、端末装置30と協働して動作する。
【0020】
飛行体10は、撮像装置として、例えば、マルチスペクトルカメラが取り付けられたドローン(無人航空機)である。飛行体10は、稲が生育する圃場Fの上空を飛行し、マルチスペクトルカメラによって圃場Fを撮像する。飛行体10は、マルチスペクトルカメラによって撮像されたマルチスペクトル画像である空撮画像を中継装置20に送信する。
【0021】
中継装置20は、飛行体10を操作するとともに、飛行体10から送信された空撮画像を受信および表示するためのアプリケーションを搭載したタブレット端末などの端末装置である。中継装置20は、空撮画像をRGB画像として表示することもできるし、オルソ画像として表示することもできるし、NDVI(Normalized Difference Vegetation Index: 正規化差植生指数)データの形式で表示することもできる。
【0022】
端末装置30は、例えば、パーソナルコンピュータやスマートフォン、タブレット端末などのコンピュータ装置である。端末装置30は、情報処理装置100とネットワークNWを介して通信し、後述する情報処理装置100の情報提供部140から受信した情報を表示する。ネットワークNWは、例えば、LAN、WAN、インターネット回線などの任意のネットワークであり、有線でも無線でもよい。
【0023】
情報処理装置100は、ウェブサーバなどのサーバ装置である。情報処理装置100は、中継装置20から圃場Fの空撮画像を受信し、当該空撮画像から圃場Fのうち害虫による被害を受けた被害領域DRを抽出する。情報処理装置100は、抽出した被害領域DRと、被害拡散パラメータとに基づいて、将来時点における圃場Fの被害領域を予測し、予測結果および防除提案をネットワークNWを介して端末装置30に送信する。本実施形態において、害虫は、例えば、ウンカである。
【0024】
図2は、稲が生育する圃場Fに対するウンカ被害の例示的な場面を説明するための図である。ウンカ被害には、例えば、稲が円形状にまとまって枯れる「坪枯れ」がある。
図2において、DR1と、DR2と、DR3は、圃場Fにおける坪枯れによる被害領域を示す(以下、複数の被害領域を区別しない場合、被害領域をDRと総称する場合がある)。
図2に示す通り、一度、坪枯れが発生すると、時間が経過するにつれて、稲が枯れた円形状の領域はウンカにより更に拡張され、被害が拡大する傾向にある。本実施形態における情報処理装置100は、このような被害領域DRを事前に予測し、防除提案を行うものである。
【0025】
[機能構成]
上記の機能を実現するために、情報処理装置100は、例えば、画像取得部110と、被害領域抽出部120と、被害領域予測部130と、情報提供部140と、パラメータ調整部150とを備える。画像取得部110、被害領域抽出部120、被害領域予測部130、情報提供部140、およびパラメータ調整部150のそれぞれは、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることでインストールされてもよい。
【0026】
画像取得部110は、中継装置20から、飛行体10によって撮像された空撮画像を受信する。画像取得部110は、空撮画像を受信すると、当該空撮画像を被害領域抽出部120に受け渡す。
【0027】
被害領域抽出部120は、画像取得部110から取得した空撮画像から、圃場Fのうち害虫による被害を受けた被害領域DRを抽出する。具体的には、被害領域抽出部120は、空撮画像からNDVIマップを生成し、圃場Fにおける稲の色、活性度、倒伏度合いなどを評価することによって、被害領域DRを抽出する。例えば、被害領域抽出部120は、圃場Fにおいて、NDVIが所定値(例えば、0.5)未満の領域を被害領域DRとして抽出する。被害領域抽出部120は、抽出した被害領域DRを被害領域予測部130に受け渡す。
【0028】
被害領域予測部130は、被害領域抽出部120から取得した被害領域DRと、被害拡散パラメータとに基づいて、将来時点における被害領域を予測する。具体的には、被害領域予測部130は、被害領域DRを複数のセグメントによって近似し、当該複数のセグメントの各々についての被害拡散速度vを求めることによって将来時点における被害領域を予測する。被害拡散パラメータは、セグメントの各々についての被害拡散速度vを設定するために用いられるものである。被害拡散パラメータは、例えば、被害領域DRにおける被害の度合い、被害領域DRの面積、圃場Fに設置した粘着版によるサンプリングによって推測したウンカの数、NDVIによって示される被害領域DRにおける稲の活性度、気流、風向などの気象データ、被害領域DRの近隣領域における被害の度合い、防除の実行有無のうちの少なくとも一つを含む。
【0029】
図3は、被害領域予測部130が被害領域DRを複数のセグメントによって近似する方法の一例を示す図である。
図3において、被害領域予測部130は、被害領域DRを複数のセグメントである扇形P
j(j=1,2,3・・・)によって近似し、各扇形P
jの径方向における被害拡散速度v
j(j=1,2,3・・・)を求める。このとき、被害拡散速度v
jは以下の式(1)によって表現することができる。
【0030】
【0031】
式(1)において、Ebは被害領域DRの面積を示し、ei(i=1,2,3・・・k)は被害拡散パラメータを示し、λi(i=1,2,3・・・k)は対応するeiの重み付けを表す(以下、単に被害拡散パラメータe又は重み付けλと総称される場合がある)。すなわち、被害領域予測部130は、被害領域DRの面積Ebと、重み付けされた被害拡散パラメータλieiとに基づいて、被害拡散速度vjを設定する。例えば、被害領域予測部130は、被害領域DRの面積Ebが大きいほど、被害拡散速度vjが大きくなるように式(1)を設定する。また、例えば、被害領域予測部130は、被害拡散パラメータeiが被害領域DRにおける被害の度合いを含む場合、当該度合いが大きいほど、被害拡散速度vjが大きくなるように式(1)を設定する。また、例えば、被害領域予測部130は、被害拡散パラメータeiがサンプリングによって推測したウンカの数を含む場合、当該数が多いほど、被害拡散速度vjが大きくなるように式(1)を設定する。また、例えば、被害領域予測部130は、被害拡散パラメータeiが稲の活性度を含む場合、当該活性度が低いほど、被害拡散速度vjが大きくなるように式(1)を設定する。また、例えば、被害領域予測部130は、被害拡散パラメータeiが気象データを含む場合、気象データのうちの気流が下層ジェット気流の傾向を高く表しているほど、被害拡散速度vjが大きくなるように式(1)を設定する。また、例えば、被害領域予測部130は、被害拡散パラメータeiが被害領域DRの近隣領域における被害の度合いを含む場合、当該度合いが大きいほど、被害拡散速度vjが大きくなるように式(1)を設定する。また、例えば、被害領域予測部130は、被害拡散パラメータeiが防除の実行有無を含む場合、防除を実行した場合には被害拡散速度vjが小さくなるように式(1)を設定し、一方、防除を実行していない場合には被害拡散速度vjが大きくなるように式(1)を設定する。
【0032】
被害領域予測部130は、各扇形Pjについての被害拡散速度vjを設定したのち、これらの被害拡散速度vjに基づいて、将来時点における被害領域を以下の式(2)にしたがって予測する。
【0033】
【0034】
式(2)において、S1(t)は時点tにおける被害領域の予測面積を示し、vは被害拡散速度を示し、rは扇形Pjの半径を示し、θは扇形Pjの中心角を示す。すなわち、式(2)は、各扇形Pjを被害拡散速度vjにしたがって拡張させ、その後全体を積分することによって得られる、時点tにおける予測被害領域の全体を表す。
【0035】
図4は、被害領域予測部130が予測する将来時点における被害領域の一例を示す図である。
図4において、PRは将来時点(現時点から14日後)における予測被害領域を示す。このように、被害領域予測部130は、被害拡散パラメータeに基づいて各扇形P
jの被害拡散速度v
jを設定し、設定した被害拡散速度v
jにしたがって各扇形P
jを拡張させることによって、将来時点における予測被害領域PRを計算することができる。
【0036】
なお、上記の説明では、被害領域抽出部120は空撮画像から一つの被害領域を抽出し、被害領域予測部130は、当該一つの被害領域について、将来時点における被害領域を予測している。しかし、本発明はこの構成に限定されない。被害領域抽出部120が空撮画像から複数の被害領域を抽出した場合には、被害領域予測部130は、抽出した複数の被害領域の各々について将来時点における被害領域を予測し、それらの和を取ることによって、全体の被害領域を予測することができる。すなわち、被害領域予測部130は、以下の式(3)にしたがって、全体の被害領域を求める。これにより、一つの圃場Fにおける複数の被害領域DRや、複数の圃場Fにわたる複数の被害領域DRの全体における将来の被害領域を予測することができる。
【0037】
【0038】
さらに、上記の説明では、被害領域予測部130は、被害領域DRを近似する複数のセグメントとして扇形を採用している。しかし、本発明はこの構成に限定されない。例えば、被害領域予測部130は、複数のセグメントとして円形を採用することによっても、将来時点における被害領域を予測することができる。
【0039】
図5は、被害領域予測部130が被害領域DRを複数のセグメントによって近似する方法の他の例を示す図である。
図5において、被害領域予測部130は、被害領域DRを複数のセグメントである円形P
j(j=1,2,3・・・)によって近似し、扇形の場合と同様に、式(1)にしたがって、当該円形P
j上の複数の点P
ji(i=1,2,3・・・)の各々について径方向における被害拡散速度v
jiを設定する。
【0040】
しかし、一方向にのみ拡張する扇形とは異なり、円形の場合は、円形上にある複数の点P
jiが360度方向に延長する。例えば、
図5において、点P
11は被害領域DRの外側に向かって延長する一方、点P
12は被害領域DRの内側に向かって延長する。点P
jiが被害領域DRの外側に向かって延長する場合、これは、圃場Fのうちウンカ被害が発生していない領域に向かって延長することを意味しているため、対応する被害拡散速度v
jiは比較的、大きいことが想定される。一方、点P
jiが被害領域DRの内側に向かって延長する場合、これは、圃場Fのうちウンカ被害が発生していない領域に向かって延長することを意味しているため、対応する被害拡散速度v
jiは比較的、小さいことが想定される。
【0041】
上記の事情を考慮して、被害領域予測部130は、被害領域DRを円形で近似することによって被害拡散速度vを設定する場合、被害拡散パラメータeとして、「円形上の位置」を設定する。具体的には、被害領域予測部130は、円形上の位置Pjiが被害領域DRの内側に向かっている場合には、被害拡散速度vjiが小さくなるように式(1)を設定する一方、円形上の位置Pjiが被害領域DRの外側に向かっている場合には、被害拡散速度vjiが大きくなるように式(1)を設定する。そして、被害領域予測部130は、各位置Pjiを被害拡散速度vjiにしたがって延長させることによって、円形Pjを拡張させる。そして、被害領域予測部130は、拡張させた各円形Pjの全体を積分することによって、将来時点における予測被害領域PRを計算する。以上のようにして、被害領域予測部130は、円形を用いて被害領域DRを近似し、将来時点における予測被害領域PRを得ることもできる。
【0042】
情報提供部140は、被害領域予測部130が計算した予測被害領域PRに基づいて防除提案を作成して、予測被害領域PRと、予測被害領域PRの詳細情報と、当該防除提案とを端末装置30に送信し、表示させる。情報提供部140は、さらに、予測日数や防除の有り/無しなどの条件指定を可能にするインターフェース画面を端末装置30に送信し、表示させる。端末装置30のユーザが、当該インターフェース画面上で予測日数や防除の有り/無しなどの条件を指定すると、被害領域予測部130は、当該条件にしたがって予測被害領域PRを再計算し、情報提供部140は、再計算の結果を端末装置30に送信する。例えば、ユーザが防除有りを指定すると、被害領域予測部130は、当該防除を実施したものと仮定して予測被害領域PRを再計算し、情報提供部140は、再計算の結果を端末装置30に送信する。情報提供部140は、「被害領域表示部」と、「防除提案部」としての機能を併せ持つものである。
【0043】
図6は、情報提供部140から端末装置30に送信される情報の一例を示す図である。
図6において、A1は予測被害領域PRを示す領域であり、A2は予測日数や防除の有り/無しなどの条件指定を可能にするインターフェース画面を示す領域であり、A3は予測被害領域PRの詳細情報を示す領域であり、A4は防除提案を示す領域である。
図6は、端末装置30のユーザが「14日後」かつ「防除無し」の条件を指定した場合に表示される情報である。
【0044】
図6においては、領域A1に示す通り、14日後、現時点における被害領域DRから特に南方向に被害が拡大する予測被害領域PRが表示されている。そこで、情報提供部140は、被害領域DRの画像と共に、領域A3において、被害面積が30平方メートル拡大すること、および南方向に被害が大きく拡大することを詳細情報として表示する。情報提供部140は、それに合わせて、被害領域DRの南部分に農薬を散布する提案を表示する。これにより、端末装置30のユーザは、予測被害領域PRを可視化された形で認識することができると共に、予測被害領域PRの特徴とその防除案を把握することができる。
【0045】
図7は、情報提供部140から端末装置30に送信される情報の他の例を示す図である。
図7は、端末装置30のユーザが「14日後」かつ「防除有り」の条件を指定した場合に表示される情報である。
図7に示す通り、端末装置30のユーザが、「防除有り」の条件を指定したことにより、被害面積の拡大が30平方メートルから10平方メートルに削減されていることが分かる。これにより、端末装置30のユーザは、防除案を実行した場合の効果を把握することができ、当該防除策の実行判断に役立てることができる。
【0046】
パラメータ調整部150は、予測被害領域PRと、将来時点における実際の被害領域DRとを比較することによって、被害拡散パラメータe又は重み付けλを調整する。例えば、パラメータ調整部150は、予測被害領域PRの一部分が、実際の被害領域DRの対応する一部分よりも大きい場合、当該部分に対応するセグメントの被害拡散速度vが小さくなるように、式(1)の被害拡散パラメータe又は重み付けλを調整する。逆に、例えば、パラメータ調整部150は、予測被害領域PRの一部分が、実際の被害領域DRの対応する一部分よりも小さい場合、当該部分に対応するセグメントの被害拡散速度vが大きくなるように、式(1)の被害拡散パラメータe又は重み付けλを調整する。これにより、時間の経過に応じて、被害領域予測部130の精度を高めることができる。
【0047】
図8は、パラメータ調整部150が被害拡散パラメータe又は重み付けλを調整する場面の一例を示す図である。
図8の左部は、現時点から7日後の予測被害領域PRを示し、
図8の右部は、現時点から7日が経過した後の実際の被害領域DRを示す。予測被害領域PRと被害領域DRとを比較すると、予測被害領域PRの扇形P
1と扇形P
2に対応する被害領域DRの部分が、予測よりも大きいことが分かる。そこで、パラメータ調整部150は、扇形P
1に対応する被害拡散速度v
1と、扇形P
2に対応する被害拡散速度v
2とが大きくなるように、式(1)の被害拡散パラメータe又は重み付けλを調整する。
【0048】
[動作の流れ]
次に、
図9を参照して、情報処理装置100が実行する処理の流れについて説明する。
図9は、情報処理装置100が実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0049】
まず、情報処理装置100は、画像取得部110を用いて、飛行体10が撮像した圃場Fの空撮画像を中継装置20から取得する(ステップS100)。次に、情報処理装置100は、被害領域抽出部120を用いて、取得された空撮画像から、圃場Fのうちウンカによる被害を受けた被害領域DRを抽出する(ステップS101)。次に、情報処理装置100は、被害領域予測部130を用いて、抽出された被害領域DRと、被害拡散パラメータeとに基づいて、予測被害領域PRを計算する(ステップS102)。具体的には、被害領域予測部130は、抽出された被害領域DRを複数の扇形のセグメントによって近似し、複数のセグメントの各々について被害拡散速度vを設定し、当該被害拡散速度vにしたがって複数のセグメントを拡張および積分することによって予測被害領域PRを計算する。
【0050】
次に、情報処理装置100は、パラメータ調整部150を用いて、予測被害領域PRと、それに対応する所定時間経過後(例えば、数日)の実際の被害領域DRとの間に差異があるかないかを判定する(ステップS103)。予測被害領域PRと実際の被害領域DRとの間に差異がないと判定された場合には、情報処理装置100は、処理を終了する。一方、予測被害領域PRと実際の被害領域DRとの間に差異があると判定された場合には、情報処理装置100は、次に、パラメータ調整部150を用いて、当該差異に対応する予測被害領域PRのセグメントを特定する(ステップS104)。次に、情報処理装置100は、パラメータ調整部150を用いて、特定されたセグメントに対応する被害拡散速度vが過去にさかのぼって差異を解消又は減少させるように、被害拡散パラメータe又は重み付けλを調整する(ステップS105)。次に、情報処理装置100は、処理をステップS102に戻す。
【0051】
以上の通り説明した本発明の実施形態によれば、圃場Fの空撮画像から抽出した被害領域DRと、所定のパラメータとに基づいて予測被害領域PRを計算し、時間の経過に応じて、予測被害領域PRと実際の被害領域DRとを比較し、差異があれば、当該パラメータを調整することによって、予測の精度を改善する。これにより、圃場Fにおいてウンカ被害が拡大する可能性が高い領域を事前にかつ高精度に予測することができる。
【0052】
なお、上記の実施形態においては、本発明がウンカ被害に適用される例について説明した。しかし、本発明の適用はウンカ被害に限定されず、例えば、イナゴ、アブラムシ、カメムシ、蛾など他の害虫による稲への被害にも適用することができる。さらに、本発明の適用は、害虫による稲への被害に限定されず、例えば、いもち病、紋枯病、ばか苗病、ごま葉枯病などの病気にも適用することができる。本発明が他の害虫又は病気に適用される場合、それぞれの害虫又は病気による被害領域ごとに被害拡散パラメータとその重み付けを設定し、時間で積分することによって、ウンカ被害の場合と同様に、将来の被害領域を予測し、適切な防除を提案することができる。
【0053】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0054】
10 飛行体
20 中継装置
30 端末装置
100 情報処理装置
110 画像取得部
120 被害領域抽出部
130 被害領域予測部
140 情報提供部
150 パラメータ調整部