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  • 特許-免疫バランスの調節のための組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】免疫バランスの調節のための組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20240816BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20240816BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20240816BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20240816BHJP
   A23C 9/123 20060101ALI20240816BHJP
   A23C 9/13 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
A23L33/10
A61K35/747
A61K35/74 G
A61P37/02
A23C9/123
A23C9/13
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019234183
(22)【出願日】2019-12-25
(65)【公開番号】P2021101645
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】川鍋 啓誠
(72)【発明者】
【氏名】中村 真梨枝
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/111904(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0280453(US,A1)
【文献】特開2008-245576(JP,A)
【文献】特開2000-247895(JP,A)
【文献】Claudio Hidalgo-Cantabrana, et al.,Exopolysaccharide-producing Bifidobacterium animalis subsp. lactis strains and their polymers elicit different responses on immune cells from blood and gut associated lymphoid tissue,Anaerobe,2014年01月18日,vol.26,24-30
【文献】Lourdes Santiago-Lopez, et al.,Effect of Milk Fermented with Lactobacillus fermentum on the Inflammatory Response in Mice,nutrients,2018年08月08日,vol.10 no.1039,doi:10.3390/nu10081039
【文献】Lourdes Santiago-Lopez, et al.,Milk Fermented with Lactobacillus fermentum Ameliorates Indomethacin-Induced Intestinal Inflammation: An Exploratory Study,nutrients,2019年07月16日,vol.11 no.1610,doi:10.3390/nu11071610
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K 35
A23C 9/
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・デルブルッキーに分類される乳酸菌の菌体外多糖を有効成分として含む、免疫バランスを調節するための組成物であって、免疫バランスを調節することが、IL-17の産生を維持することを含む、組成物
【請求項2】
免疫バランスを調節することが、IFN-γ、IL-4、およびIL-10からなる群より選択されるいずれかの産生を増加させ、IL-17の産生を維持することを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
免疫バランスを調節することが、Th17の働きを維持することを含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
免疫バランスを調節することが、Th1、Th2、およびTregからなる群より選択されるいずれかの働きを亢進し、Th17の働きを維持することを含む、請求項1からのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
乳酸菌が、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスに分類されるものである、請求項1からのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
菌体外多糖を発酵乳として含む、請求項1からのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
ラクトバチルス・デルブルッキーに分類される乳酸菌の菌体外多糖を対象に投与することを含む、対象における免疫バランスを調節する方法であって、免疫バランスを調節することが、IL-17の産生を維持することを含む、方法(ヒトに対する医療行為を除く。)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫バランスを調節するための、乳酸菌の培養物を含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
抗原を認識したヘルパーT細胞(Th)は、いくつかのサイトカインを細胞外に大量に分泌することで、周囲の免疫反応を特定の方向へと導く役割を持つ。これらのThにはいくつかの種類が存在する。
【0003】
例えば、Th1は主にIFN-γを分泌することで、免疫反応を細胞性免疫が強まる方向へと導く。具体的には、IFN-γで刺激されたマクロファージは病原体を活発に貪食し、また細胞傷害性T細胞やNK細胞などを活性化して細胞傷害活性を高める。Th2細胞は、IL-4等を放出し、抗体産生を高める体液性免疫を亢進することで感染防御に寄与する。Tregは、活性化することで炎症性疾患やアレルギーなどを引き起こす過剰な免疫反応にブレーキをかける。Th17は比較的新しく見つかったThの一種であり、IL-17等のサイトカインを分泌する。IL-17は炎症性サイトカインの1種であり、その亢進は自己免疫疾患の病態形成に関与していると考えられている。Th17による免疫反応は細胞外細菌及び真菌からの防御機構として働く一方で、その過剰亢進は関節リウマチ、炎症性腸疾患、多発性硬化症、乾癬などの自己免疫疾患に深く関与していることが明らかになっている。
【0004】
そのため、各Thは、それぞれが産生するサイトカインによって互いの働きを抑制しあっており、正常状態において特定のThの働きが亢進しないような仕組みがある。このような免疫の活性化/抑制の適切なバランス(免疫バランス)の維持は、自然および獲得免疫系の生理的機能にとって、非常に重要である。この均衡が崩れると、自己免疫疾患、過敏症、免疫不全などの免疫系疾患につながる。
【0005】
アレルギー疾患や自己免疫疾患の克服を目的に、免疫制御機構を適正に機能させることに関し、いくつかの報告がある(特許文献1~3)。また、乳酸菌に関連したものとして、特許文献4は、ラクトバチルス・パラカゼイKW3110株及びビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT4007株の培養物の加熱後凍結乾燥物の組み合わせを経口摂取することにより、アレルギー疾患モデルマウスにおいて、肺胞への好酸球の浸潤の割合が有意に低下し、またpenh(メサコリン吸入に対する気道抵抗(気道過敏性))が低下したとの実験結果、およびコラーゲン誘導性関節炎モデルマウスにおいて抗コラーゲン抗体価が低下し、また関節炎を抑制する傾向が見られたとの実験結果に基づき、(A)ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)の菌体及び/又はその処理物と、(B)ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属の細菌の菌体及び/又はその処理物とを含有することを特徴とする免疫バランス調節用組成物を提案する。特許文献5は、乳酸菌Streptococcus thermophilusの特定の株の培養物の殺菌後凍結乾燥物を添加することにより、TGF-βおよびIL-6で刺激したマウス脾臓細胞を用いた試験において、IFN-γの産生が促進され、かつIL-17の産生が抑制されたとの実験結果に基づき、特定の乳酸菌Streptococcus thermophilusを、IL-17産生抑制の有効成分として含有する医薬又は飲食品を提案する。特許文献6は、加熱殺菌したビフィドバクテリウム・エスピーCFB1株を培地に加えることにより、TGF-βおよびIL-6で刺激したマウス脾臓細胞において、IL-17の産生が抑制されたとの実験結果、およびIFN-γの産生が上昇し、かつIL-4の産生が減少したとの実験結果に基づき、特定のビフィドバクテリウム属微生物を含有し、IL-17の産生を抑制し、好ましくはIFN-γの産生を促進し、かつ、IL-4の産生を抑制する飲食品を提案する。
【0006】
一方、乳酸菌は、その醗酵過程で種々の物質を産生するが、その一つが菌体外多糖(Exopolysaccharides; EPS)である。出願人は、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL 1073 R-1株の培養物の凍結乾燥粉末の経口投与により、慢性関節リウマチの動物実験モデルにおいて、CIA(Collagen-Induced Arthritis)発症率と炎症重篤度の両者とも約1/5に減少したとの実験結果に基づき、ガラクトースとグルコースを構成糖とし且つリンを含有する多糖類生産性を有する乳酸菌、該乳酸菌含有物、その処理物の少なくともひとつを含有してなることを特徴とする自己免疫疾患予防組成物を提案した(特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開WO2015/156339(特許第6307153号)
【文献】国際公開WO2017/089795(特表2018-501188号公報)
【文献】特開2018-002714号公報
【文献】特開2009-057346号公報
【文献】特開2010-115126号公報
【文献】特開2010-246523号公報
【文献】特開2000-247895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
免疫バランスの十分な調節という観点からは、Th1、Th2、およびTregからなる群より選択されるいずれかの働きを亢進させるが、Th17の働きは亢進しないことが望ましい。また、食経験のある物質を有効成分とし、免疫バランスの調節ができる組成物があれば望ましいことはいうまでもない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1073R-1で発酵したヨーグルト、または該乳酸菌により産生される菌体外多糖(Exopolysaccharide:EPS)の機能について研究してきた。その中で、今般、EPSに新たな機能を発見し、当該機能に基づき、EPSが免疫バランスの調節において有用に使用できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
本発明は、以下を提供する。
[1] 乳酸菌の菌体外多糖を有効成分として含む、免疫バランスを調節するための組成物。
[2] 免疫バランスを調節することが、IL-17の産生を維持することを含む、1に記載の組成物。
[3] 免疫バランスを調節することが、IFN-γ、IL-4、およびIL-10からなる群より選択されるいずれかの産生を増加させ、IL-17の産生を維持することを含む、1または2に記載の組成物。
[4] 免疫バランスを調節することが、Th17の働きを維持することを含む、1から3のいずれか1項に記載の組成物。
[5] 免疫バランスを調節することが、Th1、Th2、およびTregからなる群より選択されるいずれかの働きを亢進し、Th17の働きを維持することを含む、1から4のいずれか1項に記載の組成物。
[6] 乳酸菌が、ラクトバチルス属に分類されるものである、1から5のいずれか1項に記載の組成物。
[7] 乳酸菌が、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスに分類されるものである、1から6のいずれか1項に記載の組成物。
[8] 菌体外多糖を発酵乳として含む、1から7のいずれか1項に記載の組成物。
[9] 乳酸菌の菌体外多糖を対象に投与することを含む、対象における免疫バランスを調節する方法(ヒトに対する医療行為を除く。)。
【0011】
また、本発明は、以下も提供する。
[10] 免疫バランスを調節するための組成物の製造における、乳酸菌の菌体外多糖の使用。
[11] IFN-γ、IL-4、およびIL-10からなる群より選択されるいずれかの産生を増加させ、IL-17の産生を維持するための組成物の製造における、乳酸菌の菌体外多糖の使用。
[12] 免疫バランスを調節するための方法における使用のための、乳酸菌の菌体外多糖または乳酸菌の菌体外多糖を含む組成物。
[13] IFN-γ、IL-4、およびIL-10からなる群より選択されるいずれかの産生を増加させ、IL-17の産生を維持する方法における使用のための、乳酸菌の菌体外多糖または乳酸菌の菌体外多糖を含む組成物。
[14] 乳酸菌の菌体外多糖または乳酸菌の菌体外多糖を含む組成物を対象に投与することを含む、対象における免疫バランスを調節する方法。
[15] 乳酸菌の菌体外多糖または乳酸菌の菌体外多糖を含む組成物を対象に投与することを含む、対象におけるIFN-γ、IL-4、およびIL-10からなる群より選択されるいずれかの産生を増加させ、IL-17の産生を維持するための方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明に拠れば、Th17の働きを亢進させずに、Th1、Th2、およびTregからなる群より選択されるいずれかの働きを亢進させることができ、これにより、対象において、免疫バランスが調節されうる。
また本発明に拠れば、IL-17の分泌を増加させずに、IFN-γ、IL-4、およびIL-10からなる群より選択されるいずれかの分泌を促進させることができ、これにより、対象において免疫バランスが調節されうる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】抗原ペプチド刺激時の抗原特異的Thからのサイトカイン分泌量。平均±SEM, n=8, 抗原ペプチド刺激時のEPS有無でstudent's t test検定によりP値を算出した。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、乳酸菌が産生する菌体外多糖(EPS)を有効成分とする組成物に関する。より詳細には、EPSを有効成分とし、免疫バランスを調節するための組成物に関する。
【0015】
[有効成分]
本発明の組成物は、有効成分として乳酸菌のEPSを含む。乳酸菌とは、ブドウ糖を資化して対糖収率で50%以上の乳酸を生産する微生物の総称で、生理学的性質としてグラム陽性菌の球菌または桿菌で、運動性なし、多くの場合胞子形成能なし(バシラス・コアギュランスのように胞子形成能のある乳酸菌もある。)、カタラーゼ陰性などの特徴を有しているものである。乳酸菌は古来、発酵乳等を介して世界各地で食されており、極めて安全性の高い微生物といえる。乳酸菌は、複数の属に分類される。本発明の組成物に含まれる乳酸菌のEPSは、好ましくはラクトバチルス(Lactobacillus)属に分類されるラクトバチルス属乳酸菌により産生されたものである。
【0016】
本発明の組成物に用いられるEPSは、目的の効果を有する限り、特に限定されない。乳酸菌が産生するEPSは、構造的に、ホモ多糖であるものとヘテロ多糖であるもの(例えば、ガラクトースとグルコースから構成されるもの)に分類され、リン酸化や硫酸化などの修飾を受けている場合もあるが、いずれも本発明の組成物の有効成分として用いることができる。好ましいEPSの例の一つは、中性多糖体、および中性多糖体にリン酸基が付加した酸性多糖体の少なくとも一方を含むものである。このようなEPSは、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)や、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)などによって産生されることが知られている。本発明に用いられるEPSは、一種でもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0017】
本発明の組成物に用いられる特に好ましいEPSを産生する乳酸菌の例は、ラクトバチルス属乳酸菌である。ラクトバチルス属乳酸菌としては、例えば、ブルガリクス種、カゼイ種、アシドフィルス種、プランタラム種などが挙げられる。これらのラクトバチルス属乳酸菌の中でも、本発明では、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)(ブルガリクス菌とも称する)に分類されるものであることがより好ましい。特に好ましい態様においては、乳酸菌は、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスOLL1073 R-1菌(受託番号:FERM BP-10741)(「ブルガリクス菌R-1株」と称することがある。)である。すなわち、本発明の組成物に用いられるEPSの特に好ましい例の一つは、ブルガリクス菌R-1株が産生するEPSである。
【0018】
ブルガリクス菌R-1株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター(IPOD,NITE)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)にブタペスト条約に基づき、国際寄託されている(寄託者:株式会社 明治、寄託日:2006年11月29日、受託番号:FERM BP-10741)。
【0019】
本発明の組成物に含まれる乳酸菌のEPSは、乳酸菌発酵物として含まれていてもよい。乳酸菌発酵物には、乳酸菌による発酵物自体のほか、その処理物が含まれる。乳酸菌発酵物自体には、例えば発酵乳(具体的には、ヨーグルト等)が含まれる。処理物には、例えば、粗精製物、精製物、発酵物をろ過、遠心分離、または膜分離で除菌して得られた培養濾液や培養上清液、培養濾液・培養上清液を濃縮した濃縮物、濃縮物の乾燥物が含まれる。
【0020】
乳酸菌のEPSの調製方法は従来技術を利用することができ、より詳細な条件が必要な場合は、本明細書の実施例等を参照することができる。また、乳酸菌のEPSを乳酸菌発酵物として調製する場合は、EPSを産生する乳酸菌をスターターとして原料乳に添加し、発酵させ、EPSを発酵物中に産生させることで、EPSを含む発酵乳が製造できる。発酵の際の条件、例えば、原料乳、発酵温度、発酵時間は、用いる乳酸菌がEPSを産生することができれば特に制限されず、当業者であれば、適宜設定することができる。
【0021】
[用途]
本発明の組成物は、免疫バランスを調節するために用いることができる。
【0022】
本発明でいう免疫バランスの調節は、IL-17の産生を維持すること、またはIFN-γ、IL-4、およびIL-10からなる群より選択されるいずれかの産生を増加させることを含む。免疫バランスの調節は、好ましくはIL-17の産生を維持し、かつIFN-γ、IL-4、およびIL-10からなる群より選択される少なくとも一つの産生を増加させることを含み、より好ましくはIL-17の産生を維持し、かつIFN-γ、IL-4、およびIL-10の産生を増加させることを含む。
【0023】
サイトカインの産生に関し、「維持(する)」とは、増加も減少もしないことをいう。維持するといえるか否か、また増加させるといえるか否かは、当業者であれば適宜判断できる。
【0024】
例えば、次のように判断することができる:
評価しようとする成分を投与する群と投与しない群それぞれについて、目的のサイトカインの産生量について測定する。そして投与の有無で有意差検定を行い、P値が有意水準(典型的には0.05)を下回ったときに差がある(「増加させる」、等)と判断することができる。
また両群について平均値を求め、平均値の差が比較的小さいとき、例えば20%以下、好ましくは10%以下であるときに、「維持する」と判断することができる。または投与の有無で有意差検定を行い、P値が比較的大きいとき、例えば、0.5以上、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.7以上、さらに好ましくは0.8以上のときに、「維持する」と判断することができる。
【0025】
本発明でいう免疫バランスの調節とはまた、Th17の働きを維持すること、またはTh1、Th2、およびTregからなる群より選択されるいずれかの働きを亢進させることを含む。免疫バランスの調節は、好ましくはTh17の働きを維持し、かつTh1、Th2、およびTregからなる群より選択される少なくとも一つの働きを亢進させることを含み、より好ましくはTh17の働きを維持し、かつTh1、Th2、およびTregの働きを亢進させることを含む。
【0026】
ヘルパーT細胞の働きに関し、「維持(する)」とは、亢進させないことをいう。維持するといえるか否か、また亢進させるといえるか否かは、目的のT細胞が産生するサイトカインの産生量を分析することにより判断することができる。
【0027】
本発明の組成物によるIFN-γ、IL-4、およびIL-10の産生の増加、ならびにIL-17の産生の維持は、脾臓において確認できる。IFN-γ、IL-4、IL-10、およびIL-17の産生量は、例えば、末梢血において分析することができ、また末梢血から得たT細胞を適切な方法によって刺激することにより増加する程度を分析することにより、評価できる。IFN-γ、IL-4、IL-10、およびIL-17の分析に際しては、市販のキット用いて分析できる。
【0028】
分析とは、分析対象分子の、存在の有無、および存在する場合はその程度(量)のいずれかを測定することをいう。
【0029】
本発明の組成物は、免疫バランスの調節が、感染症やがんの処置のための他の療法と一緒に行われる場合であっても、用いることができる。そのような他の療法には、薬物による療法、手術、放射線治療、他の免疫療法(例えば、サイトカイン療法、免疫賦活剤の投与、免疫細胞移植、等)、健康食品やサプリメントの摂取、運動療法等がある。
【0030】
本発明の組成物により免疫バランスが調節されることで、各種の免疫疾患の発症リスクが低減され、また治療が期待できる。免疫疾患の例は、関節リウマチとその類縁疾患(例えば、関節リウマチ、悪性関節リウマチ/リウマトイド血管炎、リウマチ性多発筋痛症、RS3PE症候群、変形性手関節症)、脊椎関節炎(例えば、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、SAPHO症候群、反応性関節炎)、(自己免疫疾患(例えば、全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、多発性筋炎・皮膚筋炎、筋無症候性皮膚筋炎、混合性結合組織病、シェーグレン症候群、抗リン脂質抗体症候群)、 ベーチェット病、成人スティル病、再発性多発軟骨炎、キャッスルマン病、TAFRO症候群、血管炎症候群(例えば、高安動脈炎、巨細胞性動脈炎、結節性多発動脈炎、ANCA関連血管炎、顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、アレルギー疾患(気管支喘息、好酸球増多症、IgG4関連疾患、血管性浮腫)、肺高血圧症、不明熱、骨粗鬆症、感染症(ニューモシスチス肺炎、帯状疱疹)等がある。
【0031】
本発明の組成物の一態様は、自己免疫疾患予防組成物を除いた、免疫バランスを調節するための組成物、およびIFN-γ、IL-4、およびIL-10からなる群より選択されるいずれかの産生を増加させ、IL-17の産生を維持するための組成物である。
ものである。
【0032】
[組成物]
(食品組成物等)
本発明の組成物は、食品組成物または医薬組成物とすることができる。食品および医薬品は、特に記載した場合を除き、ヒトのためのもののみならず、ヒト以外の動物のためのものを含む。食品は、特に記載した場合を除き、一般食品、機能性食品、栄養組成物を含み、また治療食(治療の目的を果たすもの。医師が食事箋を出し、それに従い栄養士等が作成した献立に基づいて調理されたもの。)、食事療法食、成分調整食、介護食、治療支援用食品を含む。食品は、特に記載した場合を除き、固形物のみならず、液状のもの、例えば飲料、ドリンク剤、流動食、およびスープを含む。機能性食品とは、生体に所定の機能性を付与できる食品をいい、例えば、特定保健用食品(条件付きトクホ[特定保健用食品]を含む)、機能性表示食品、栄養機能食品を含む保健機能食品、特別用途食品、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント(例えば、錠剤、被覆錠、糖衣錠、カプセル、液剤等の各種の剤型のもの)、美容食品(例えば、ダイエット食品)等の、健康食品の全般を包含している。また、本発明において「機能性食品」とは、コーデックス(FAO/WHO合同食品規格委員会)の食品規格に基づく健康強調表示(Health claim)が適用される健康食品を包含している。
【0033】
(対象)
本発明の組成物は、免疫バランスの調節が好ましい対象に、摂取させる、または投与するのに適している。このような対象には、乳幼児、子ども、成人(15歳以上)、中高年者、高齢者(65歳以上)、病中病後の者、妊婦、産婦、男性、女性が含まれる。
【0034】
(投与経路)
本発明の組成物は、種々の経路で投与しうる。投与する経路の例は、経口投与(PO)、経管栄養(胃瘻、腸瘻)、注腸投与、経皮投与、経粘膜投与、吸入投与、皮膚上投与、吸入投与、注腸投与、腹腔内投与(IP)、点眼、点耳、経鼻投与、膣内投与、経静脈投与(IV)、経動脈投与(IA)、筋肉内投与(IM)、皮下投与(SC、sub-Q)、皮内投与(ID)等である。本発明の組成物は、経腸投与(経口投与、経管栄養、または注腸投与)することが好ましいが、本発明の組成物の有効成分はEPSであるので、乳酸菌または発酵物を有効成分とする場合に比較して、投与経路がより広く選択でき、また投与経路に適した剤型とすることがより容易である。
【0035】
(有効成分の含有量・用量)
本発明の組成物における、乳酸菌のEPSの含有量は、目的の効果が発揮される量であればよい。組成物は、その被験体の年齢、体重、症状等の種々の要因を考慮して、その投与量または摂取量を適宜設定することができるが、一日量あたりの乳酸菌のEPSの量は、例えば0.1 mg以上とすることができ、0.6 mg以上とすることが好ましく、1 mg以上とすることがより好ましく、3 mg以上とすることが特に好ましい。一日量あたりのEPSの量の上限値は、下限値がいずれの場合であっても、500 mg以下とすることができ、300 mg以下とすることが好ましく、250 mg以下とすることが特に好ましい。
【0036】
1投与または1食あたり、すなわち一回量あたりの乳酸菌のEPSの量は、例えば0.03 mg以上とすることができ、0.2 mg以上とすることが好ましく、1 mg以上とすることがより好ましい。一回量あたりのEPSの量の上限値は、下限値がいずれの場合であっても、200 mg以下とすることができ、100 mg以下とすることが好ましく、70 mg以下とすることがより好ましく、30 mg以下とすることが特に好ましい。
【0037】
本発明の組成物における、乳酸菌のEPSを発酵乳のような組成物として用いる場合、組成物としての一日量は、例えば30 g以上とすることができ、50 g以上とすることが好ましく、60 g以上とすることがより好ましく、100 g以上とすることが特に好ましい。発酵乳としての一日量の上限値は、下限値がいずれの場合であっても、例えば1500 g以下とすることができ、1200 g以下とすることが好ましく、900 g以下とすることがより好ましく、600 g以下とすることがより好ましい。
【0038】
組成物としての一回量は、例えば10 g以上とすることができ、20 g以上とすることが好ましく、30 g以上とすることがより好ましい。組成物としての一回量の上限値は、下限値がいずれの場合であっても、例えば500 g以下とすることができ、400 g以下とすることが好ましく、200 g以下とすることがより好ましく、125 g以下とすることが特に好ましい。
【0039】
組成物は、一日1回の投与・摂取としてもよいし、一日複数回、例えば食事毎の3回の投与としてもよい。組成物は、食経験豊富な乳酸菌のEPSを有効成分としている。そのため、本発明の組成物は、有効成分が食経験の長いEPSであるため、長期間の摂取に適している。そのため繰り返し、または長期間にわたって摂取してもよく、例えば3日以上、好ましくは1週間以上、より好ましくは4週間以上、特に好ましくは1カ月以上、続けて投与・摂取することができる。なおEPSの投与・摂取量を増やしてもIL-17の産生にはほとんど影響を及ぼさないと考えられる。
【0040】
(他の成分、添加剤)
本発明の組成物は、食品または医薬品として許容可能な他の有効成分や栄養成分を含んでいてもよい。そのような成分の例は、アミノ酸類(例えば、リジン、アルギニン、グリシン、アラニン、グルタミン酸、ロイシン、イソロイシン、バリン)、糖質(グルコース、ショ糖、果糖、麦芽糖、トレハロース、エリスリトール、マルチトール、パラチノース、キシリトール、デキストリン)、電解質(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム)、ビタミン(例えば、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビオチン、葉酸、パントテン酸およびニコチン酸類)、ミネラル(例えば、銅、亜鉛、鉄、コバルト、マンガン)、抗生物質、食物繊維、タンパク質、脂質等である。
【0041】
また組成物は、食品または医薬として許容される添加物をさらに含んでいてもよい。そのような添加物の例は、不活性担体(固体や液体担体)、賦形剤、界面活性剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶解補助剤、懸濁化剤、コーティング剤、着色剤、保存剤、緩衝剤、pH調整剤、乳化剤、安定剤、甘味料、酸化防止剤、香料、酸味料、天然物である。より具体的には、水、他の水性溶媒、製薬上で許容される有機溶媒、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、水溶性デキストリン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、スクラロース、ステビア、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、クエン酸、乳酸、りんご酸、酒石酸、リン酸、酢酸、果汁、野菜汁等である。
【0042】
(剤型・形態)
本発明の医薬組成物は、投与経路に応じ、エアゾール剤、液剤、エキス剤(軟エキス剤、乾燥エキス剤)、エリキシル剤、カプセル剤(硬カプセル剤、軟カプセル剤、顆粒剤、丸剤、眼軟膏剤、経皮吸収型製剤懸濁剤・乳剤、坐剤、散剤、酒精剤、錠剤(口腔内崩壊錠、チュアブル錠、発泡錠、即放性錠剤(素錠,裸錠) 、糖衣錠)、シロップ剤、浸剤・煎剤、注射剤、貼付剤、チンキ剤、点眼剤、トローチ剤、軟膏剤、パップ剤、芳香水剤、リニメント剤、リモナーデ剤、流エキス剤、ローション剤等の任意の剤型にすることができる。
【0043】
経口投与に適した剤型としては、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、カプセル剤等の固形製剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤等の液体製剤、ジェル剤、エアロゾル剤等が挙げられる。
【0044】
本発明の食品組成物は、固体、液体、混合物、懸濁液、粉末、顆粒、ペースト、ゼリー、ゲル、カプセル等の任意の形態に調製されたものであってよい。また、本発明に係る食品組成物は、乳製品、サプリメント、菓子、飲料、ドリンク剤、調味料、加工食品、惣菜、スープ等の任意の形態にすることができる。より具体的には、本発明の組成物は、乳飲料、清涼飲料、乳酸菌飲料、乳性飲料、発酵乳、ヨーグルト、アイスクリーム、タブレット、チョコレート、チーズ、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、調製粉乳、液体ミルク、流動食、病者用食品、栄養食品、冷凍食品、加工食品等の形態とすることができ、また飲料や食品に混合して摂取するための、顆粒、粉末、ペースト、濃厚液等の形態とすることができる。
【0045】
(その他)
本発明の組成物の製造において、乳酸菌のEPSの配合の段階は、適宜選択することができる。乳酸菌のEPSの特性を著しく損なわない限り配合の段階は特に制限されない。例えば、EPSを産生する乳酸菌を培養して得られたEPSを含む培養物やその粗精製物、精製物を、製造工程の様々な段階で、原材料に混合して配合することができる。あるいは、本発明の組成物を発酵乳として実施する場合は、EPSを含む培養物やその粗精製物、精製物を原材料や発酵後の発酵乳に混合して配合するか、EPSを産生する乳酸菌をスターターとして原料乳に添加し、発酵させ、EPSを産生させることで、EPSを含む発酵乳が製造できる。
【0046】
本発明の組成物には、免疫バランスの調節のために用いることができる旨を表示することができ、また特定の対象に対して摂取を薦める旨を表示することができる。表示は、直接的にまたは間接的にすることができ、直接的な表示の例は、製品自体、パッケージ、容器、ラベル、タグ等の有体物への記載であり、間接的な表示の例は、ウェブサイト、店頭、パンフレット、展示会、メディアセミナー等のセミナー、書籍、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、郵送物、電子メール、音声等の、場所または手段による、広告・宣伝活動を含む。
【0047】
以下、実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲は、これら実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0048】
<EPS(菌体外多糖体)の調製>
実施例1においては、10質量%脱脂粉乳培地でLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1073R-1を培養して得た培養物中のEPSを精製した。すなわち、37℃で18時間培養した培養物に、終濃度10質量%になるようトリクロロ酢酸を加えて変性タンパク質を除去し、冷エタノールを加えて4℃で2時間静置してEPSを含む沈殿物を得た。これを、透析膜(分画分子量6,000 - 8,000)を用いてMilliQ水に対して透析し、核酸とタンパク質を酵素分解した後、再度エタノール沈殿を行って沈殿物を得た。これをMilliQ水に溶解し、再度透析を行った後に凍結乾燥を行ってEPSを精製した。
【0049】
<実施例1>
C57BL/6Jマウス、メス、8週齢(日本チャールスリバー)に対し、ヒトB型肝炎ウイルス抗原ペプチド(I-Ad HBc helper peptide TPPAYRPPNAPIL, MBL)50μgを用いて4匹を免疫した。免疫組成物はComplete Freund's Adjuvant(和光純薬) 50μL、上記抗原ペプチド溶液5μL、PBS 45μLの計100μLを十分にエマルジョン化した後、1匹ずつマウス腹腔内に注射した。免疫後、マウス体内ではヒトB型肝炎ウイルス抗原(以下、HBc)に特異的な各Thが増殖するとともに体内を循環する。
【0050】
免疫1週間後、マウスを安楽殺した。HBc抗原特異的なTh1、Th2、Th17、Tregを含む脾臓を採取し、4匹の脾細胞をプールして一定の細胞数(5×106cells/ml)で培養した。培養時にHBcペプチドを加えて(10μg/ml)各Thを刺激し、48時間後にHBc抗原ペプチド特異的に産生されたIFN-γ、IL-4、IL-17、IL-10の上清濃度を、BD OptEIA Mouse ELISA Set(Becton, Dickinson and Company)を用いて測定した(IFN-γ、IL-4、IL-10)。IL-17は、IL-17A Mouse Uncoated ELISA Kit (Invitrogen)を用いて測定した。いずれもEPSを培地に添加した(150μg/mL)場合も同様に測定し、EPSを加えない場合と比較した。それぞれについて、平均±SEM, n=8, HBcペプチド刺激時のEPSの有無でstudent's t test検定によりP値を算出した。
【0051】
結果、抗原特異的なIFN-γ、IL-4、IL-17、IL-10を確認した。これらはそれぞれTh1、Th2、Th17、Tregから産生されていることが考えられる。培地へEPSを添加すると、IL-17以外のサイトカイン分泌は有意に増加した。しかし、IL-17は変動が無かった。(図1)
【0052】
このことから、EPSが、Th17を活性化することなく(抑制もせず、適切な発現を維持し続ける)、Th1、Th2、Tregを活性化し、IFN-γ、IL-4、IL-10の産生を促進することを見出した。
図1