(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】菓子類用ミックス粉及び菓子類の製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 2/18 20060101AFI20240816BHJP
A21D 2/26 20060101ALI20240816BHJP
A21D 10/00 20060101ALI20240816BHJP
A23G 3/34 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
A21D2/18
A21D2/26
A21D10/00
A23G3/34 102
(21)【出願番号】P 2020066520
(22)【出願日】2020-04-02
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】南 咲子
(72)【発明者】
【氏名】松本 宏樹
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-157771(JP,A)
【文献】特開2013-212104(JP,A)
【文献】特開2019-162094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00-17/00
A23G 3/34
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉類及び澱粉類からなる澱粉質原料と澱粉加水分解酵素とを含む菓子類用ミックス粉であって、澱粉質原料の全量に対して化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉を1.5~30質量%含み、澱粉質原料100gに対して0.15~400ユニットの澱粉分解酵素を含有する、前記菓子類用ミックス粉。
【請求項2】
化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉が、エーテル化リン酸架橋ワキシー馬鈴薯澱粉である、請求項1に記載の菓子類用ミックス粉。
【請求項3】
化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉がα化されている、請求項1又は2に記載の菓子類用ミックス粉。
【請求項4】
澱粉分解酵素がα-アミラーゼである、請求項1~3のいずれか1項に記載の菓子類用ミックス粉。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の菓子類用ミックス粉を
使用する、菓子類用生地
の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の菓子類用ミックス粉を使用する、菓子類の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の
方法で製造された菓子類用生地を焼成する、菓子類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は菓子類用ミックス粉及び菓子類の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
小麦粉等の澱粉質原料を主体とする菓子類は、柔らかくソフトでしっとりとしており、口溶けのよいものが好まれてきた。近年、喫食時にもちもちとした食感を有する食品を嗜好する消費者が増え、菓子類においても、もちもちとした食感が望まれるようになってきた。
もちもちとした食感のベーカリー製品を得るために各種検討がなされてきた。特許文献1では、α化小麦粉および/またはα化澱粉とエーテル化澱粉を含む焼き菓子用プレミックスが開示されている。特許文献2では、小麦粉、ヒドロキシプロピル澱粉及び/又はアセチル化澱粉及びα化澱粉質からなる原料粉を用いて製造されるパン類が開示されている。特許文献3では、ホットケーキミックスに添加するための、α化タピオカデンプン及び/又は加工デンプンを含有するアレンジミックスが開示されている。特許文献4では、もち種タピオカ澱粉及び/又は加工もち種タピオカ澱粉が配合された澱粉質原料を用いて製造された各種ベーカリー製品が開示されている。これらは何れも、もちもちとした食感を得るためには優れたものであるが、もちもち且つしっとりした食感を常温で1ヶ月以上の長期間維持することができるものではなかった。
一方、特許文献5では、小麦粉を主原料とする原料穀粉100質量部に対して、α化した加工ワキシーポテトスターチ0.2~10質量部を含有する材料を用いて製造されたベーカリー食品が開示されており、製造後1ヶ月後においてもしっとり感に優れ、パサツキを感じないパウンドケーキが得られることが記載されている(表4)。しかしながら、この発明では1ヶ月を超えて保存した後の食感の経時劣化には触れられておらず、またもちもちとした食感については検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平08-38028号公報
【文献】特開平10-295253号公報
【文献】特開2012-100559号公報
【文献】特開2015-165777号公報
【文献】特開2007-325526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
1ヶ月以上の長期間(例えば30~70日間程度)にわたり室温で保存しても、もちもち感としっとり感を維持する菓子類を得ることができる菓子類用ミックス粉、そのミックス粉を使用して製造される菓子類及び菓子類の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を行った。その結果、穀粉類及び澱粉類からなる澱粉質原料と澱粉加水分解酵素とを含む菓子類用ミックス粉であって、澱粉質原料の全量に対して化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉を1.5~30質量%含み、澱粉質原料100gに対して0.15~400ユニットの澱粉分解酵素を含有する、前記菓子類用ミックス粉を使用することにより、1ヶ月以上の長期間室温保存しても、もちもち感としっとり感を維持する菓子類を得ることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は以下の通りである。
[1]穀粉類及び澱粉類からなる澱粉質原料と澱粉加水分解酵素とを含む菓子類用ミックス粉であって、澱粉質原料の全量に対して化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉を1.5~30質量%含み、澱粉質原料100gに対して0.15~400ユニットの澱粉分解酵素を含有する、前記菓子類用ミックス粉。
[2]化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉が、エーテル化リン酸架橋ワキシー馬鈴薯澱粉である、[1]記載の菓子類用ミックス粉。
[3]化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉がα化されている、[1]又は[2]記載の菓子類用ミックス粉。
[4]澱粉分解酵素がα-アミラーゼである、[1]~[3]記載の菓子類用ミックス粉。
[5][1]~[4]記載の菓子類用ミックス粉を含む、菓子類用生地。
[6][1]~[4]記載の菓子類用ミックス粉を使用する、菓子類の製造方法。
[7][5]記載の菓子類用生地を焼成する、菓子類の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、1ヶ月以上の長期間にわたり(例えば30~70日間程度)常温で保存しても、もちもち感としっとり感を持続する菓子類を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の菓子類用ミックス粉は、穀粉類及び澱粉類からなる澱粉質原料と澱粉加水分解酵素とを含む菓子類用ミックス粉であって、澱粉質原料の全量に対して化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉を1.5~30質量%含み、澱粉質原料100gに対して0.15~400ユニットの澱粉分解酵素を含有する。
【0008】
本発明の菓子類用ミックス粉における澱粉質原料は、穀粉類及び澱粉類とからなる。「穀粉類」とは、普通小麦、デュラム小麦、米、ライ麦、大麦、とうもろこし、そば、大豆、ひえ、あわ、アマランサス等の穀物由来の穀粉;馬鈴薯、甘藷、タピオカ等の地下茎粉などであり、好ましくは小麦粉を主体とし、任意に小麦粉以外の穀粉や地下茎粉を含むものを使用する。「澱粉類」とは、穀物、地下茎、樹幹等から分離精製された澱粉(小麦澱粉、米澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、緑豆澱粉、サゴ澱粉、ワキシーコーンスターチ、ワキシー馬鈴薯澱粉等)、及び、前記澱粉類をα化、エーテル化、アセチル化、架橋処理等を行った変性澱粉類などをいう。澱粉質原料における澱粉類の含有率は澱粉質原料全量に対して好ましくは20~50質量%であり、更に好ましくは25~45質量%である。本願発明における化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉は澱粉類に含まれる。
【0009】
本発明において、「化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉」とは、公知の方法で化学的に変性されたワキシー馬鈴薯澱粉のことである。ここでワキシー馬鈴薯澱粉とは、アミロースをほとんど含まず、アミロペクチンがほぼ100%であるもち種馬鈴薯由来の澱粉である。化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉を得るための化学的変性としては、酢酸、オクテニルコハク酸等のカルボキシル基によるアセチル化;ヒドロキシプロピル基、リン酸基によるエーテル化;リン酸架橋、アジピン酸架橋等の架橋;及びそれらの組み合わせを挙げることができる。本発明の「化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉」は、化学的変性したワキシー馬鈴薯澱粉をさらにα化したものも含む。好ましくはエーテル化したワキシー馬鈴薯澱粉であり、より好ましくはエーテル化とリン酸架橋との組み合わせにより変性したワキシー馬鈴薯澱粉であり、最も好ましくはα化されたエーテル化リン酸架橋ワキシー馬鈴薯澱粉である。このような化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉としては、ヒドロキシプロピルリン酸架橋ワキシー馬鈴薯澱粉、α化ヒドロキシプロピルリン酸架橋ワキシー馬鈴薯澱粉、ヒドロキシプロピルワキシー馬鈴薯澱粉(エーテル化ワキシー馬鈴薯澱粉)、α化ヒドロキシプロピルワキシー馬鈴薯澱粉等を挙げることができる。化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉は、市販されているものを使用することができ、例えば、ヒドロキシプロピルリン酸架橋ワキシー馬鈴薯澱粉(松谷化学工業社製エリアンVE540)、α化ヒドロキシプロピルリン酸架橋ワキシー馬鈴薯澱粉(松谷化学工業社製エリアンVC120)等が挙げられる。
【0010】
本発明の菓子類用ミックス粉において、化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉の含有率は、澱粉質原料全量に対して1.5~30質量%であり、好ましくは2~20質量%であり、更に好ましくは3~15質量%である。化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉の含有率が、澱粉質原料全量に対して1.5~30質量%であると、菓子類を長期室温保存しても、もちもち感としっとり感を持続することができる。1.5質量%未満では、菓子類を長期室温保存するとパサつきがあり食感が硬くなる傾向にある。30質量%を超えると、焼成した菓子類のボリュームが得にくくなる傾向にある。
【0011】
本発明において、「澱粉分解酵素」とは、澱粉のグルコシド結合を加水分解する酵素であり、エンド型、エキソ型に関わらず公知の澱粉分解酵素であれば何れも使用することができる。澱粉分解酵素により、菓子類用ミックス粉中の澱粉質原料に含まれる澱粉が部分的に分解され、澱粉内部の保水性が高くなることが、得られる菓子類のしっとりさや柔らかさが持続することに寄与すると考えられる。そのような澱粉分解酵素として、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、α-グルコシダーゼ、プルラナーゼ等が挙げられ、それらの組み合わせであってもよい。好ましくはα-アミラーゼ、β-アミラーゼであり、最も好ましくはα-アミラーゼである。
【0012】
本発明の菓子類用ミックス粉において、澱粉分解酵素の使用量は、澱粉質原料100gあたり0.15~400ユニットであり、好ましくは0.2~350ユニットであり、更に好ましくは0.3~300ユニットである。澱粉分解酵素の使用量が、澱粉質原料100gあたり0.15~400ユニットであると、菓子類を長期室温保存しても、もちもち感としっとり感を持続することができる。0.15ユニット未満では、菓子類を長期室温保存するとパサつきがあり、食感が硬くなる傾向にある。400ユニットを超えると、生地粘度の低下とベタつきのために作業性が悪くなる傾向にあり、また焼成した菓子類のボリュームが得にくくなる傾向にある。
【0013】
なお、α-アミラーゼ等の澱粉質分解酵素の酵素活性単位(ユニット)は、各澱粉質分解酵素の最適温度で10分間の反応条件下で1分間に1mgのグルコースに相当する還元糖を生成する酵素量を1ユニットとする。例えば、スミチームAS(α-アミラーゼ)であれば、至適温度は40℃である。グルコースの測定は、グルコースオキシダーゼ法、ムタロターゼ・GOD法等の公知の方法で測定することができ、また、市販されているグルコースCII-テストワコー(富士フィルム和光純薬株式会社)等のグルコース測定キットを使用することもできる。
【0014】
本発明の菓子類には、穀粉などの澱粉含有物、油脂、砂糖、鶏卵など含む生地を焼成して得る食品であり、このような菓子類としてはパウンドケーキ、バターケーキ、カップケーキ、マドレーヌ、フィナンシェ、マフィン、バウムクーヘン等のバターケーキ類、スポンジケーキ、シフォンケーキ、カステラ、ブッセ等のスポンジケーキ類、ワッフル、ホットケーキ、パンケーキ、どら焼きなど等が挙げられるがこれらに限定されない
【0015】
本発明の菓子類用ミックス粉は、所定量の澱粉質原料と所定量の澱粉分解酵素以外に、目的とする菓子の種類の種類及び求める食感に応じて、ベーキングパウダー等の膨張剤;グラニュー糖等の糖類;脱脂粉乳等の乳類;ショートニングや液体食用油等の油脂類;卵液や卵白粉等の卵類:大豆タンパク等のタンパク質類;グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤;食塩;香料;着色料;調味料;増粘多糖類等の通常菓子類の製造に使用される副原料を適宜配合することができる。
【0016】
本発明の菓子類用生地は、前記菓子類用ミックス粉を含む。また本発明の菓子類は本発明の菓子類用生地を焼成して成る。
【0017】
本発明の菓子類は、所定量の澱粉質原料と所定量の澱粉分解酵素を含む、前記菓子類用ミックス粉を使用する以外は常法に従って製造することが出来る。例えばカップケーキであれば、ミックス粉に卵、砂糖及び油脂等を加えて混合して生地を作り、型などを適宜使用して焼成することができる。ベルギーワッフルであればミックス粉に卵、水、生イーストなどを加えて混合し、さらにバターを加えて混合して生地を得、生地を発酵させた後に型などを適宜使用して焼成することができる。どら焼きであれば、卵に砂糖、はちみつ、水を加えて混合したところにミックス粉を加えさらに混合して生地を作り、ホットプレートなどで焼成することができる。スポンジケーキであれば卵、砂糖、水等を混合し、泡立てたのちにミックス粉を加え混合して生地を作り、型などを適宜使用して焼成することができる。
【実施例】
【0018】
以下本発明を具体的に説明する為に実施例を示すが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0019】
製造例1 カップケーキの製造
(1)表1の配合表記載の原料をミキサーに投入し、均質になるまで混合してカップケーキ用オールインミックス粉を得た。
(2)得られたカップケーキ用ミックス粉100質量部に対して全卵40質量部を加えて低速1分間、中速2分間混捏し、水25質量部及びサラダ油30質量部を加えて更に低速1分混捏し、掻き落とし後、低速2分間混捏してカップケーキ生地を得た。
(3)グラシン紙カップケーキ型にカップケーキ生地40gを投入し、180℃に予熱したオーブンに入れ、180℃で20分間焼成してカップケーキを得た。
(4)放冷後、カップケーキをアルコール蒸散剤と共に樹脂製包装袋に入れて個別密封包装し、室温で保管した。
【0020】
表1 カップケーキ用ミックス粉の配合(質量部)
化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉: エリアンVC120(α化ヒドロキシプロピルリン酸架橋ワキシー馬鈴薯澱粉、松谷化学工業株式会社)
タピオカ澱粉: ゆり(松谷化学工業株式会社)
アミラーゼ: スミチームAS(1500U/g、新日本化学工業株式会社)
*1 澱粉質原料100gに対して105U(ユニット)に相当
【0021】
評価例1 官能評価
個別密封包装したカップケーキを室温で1日、30日及び60日間保存し、熟練のパネラー10名により下記評価基準表に従って官能評価した。なお、化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉に代えて、従来もちもちとした食感を付与するために使用されているタピオカ澱粉(ゆり、松谷化学工業株式会社)を使用し、アミラーゼを使用せずに製造したカップケーキの製造後1日(翌日)の食感を基準の3点とした。
【0022】
【0023】
試験例1 カップケーキにおける化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉の配合量の検討
化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉(α化ヒドロキシプロピルリン酸架橋ワキシー馬鈴薯澱粉)の配合量を表3に記載の通りにした以外は製造例1に従ってカップケーキを製造し、評価例1に従って評価した。ただし、化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉の割合を増減する際はタピオカ澱粉と置換した。結果を表3に示す。
【0024】
表3 化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉の配合量の検討
*2 澱粉質原料100gに対するユニット
【0025】
化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉を使用せず、アミラーゼを使用した比較例1では、翌日のもちもち感及びしっとり感は共に良好であったが、30日後には基準よりも幾分劣り、60日後には硬くパサつきのあるカップケーキになった。化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉を1質量部使用した比較例2では、60日後であってもしっとり感は良好に維持されていたが、もちもちとした弾力に劣りやや硬い食感になった。化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉を2~20質量部使用した実施例1~4では、何れも翌日の食感よりも大きく変化することなく60日後のもちもち感及びしっとり感は共に優れていた。化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉を5質量部以上使用した場合において、その割合が増加するに伴って、もちもち感の評価に差はなかったが、15質量部以上使用し、且つ30日以上保存した場合においてややしっとり感が低下する傾向にあった。比較例3では、生地粘度が高くなったために作業性が悪くなり、焼成した菓子類のボリュームが不十分であったため、評価の対象としなかった。
【0026】
試験例2 カップケーキにおけるアミラーゼの配合量の検討
アミラーゼの配合量を表4に示す通りにした以外は製造例1に従ってカップケーキを製造し、評価例1に従って評価した。結果を表4に示す。
【0027】
表4 アミラーゼの配合量の検討
*2 澱粉質原料100gに対するユニット
【0028】
アミラーゼを使用しなかった比較例3では、翌日の食感は非常に良好であったが、経時的に食感は劣化し、60日後ではもちもち感及びしっとり感共に不適であった。アミラーゼを0.1ユニット使用した比較例4では、比較例3に対してやや改善傾向にあったが、60日後のもちもち感及びしっとり感は、共に不十分であった。アミラーゼを0.3ユニット使用した実施例5では、60日後の食感は翌日の食感よりもやや劣る傾向にあったが、もちもち感及びしっとり感は、共に十分に維持されていた。アミラーゼを105又は300ユニット使用した実施例2、6では、翌日に対する60日後の食感の劣化は実施例5よりも抑制されており、非常に良好であった。アミラーゼを500ユニット使用した比較例5では、生地粘度が低下して生地がベタついたために作業性が悪くなり、焼成した菓子類のボリュームが不十分であったため、官能評価の対象としなかった。
【0029】
試験例3 カップケーキにおける変性澱粉の種別の検討
化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉(エリアンVC120)に代えて表5記載の変性澱粉にした以外は製造例1に従ってカップケーキを製造し、評価例1に従って評価し、結果を表5に示した。
【0030】
表5 化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉の種別の検討
A:α化ヒドロキシプロピルリン酸架橋ワキシー馬鈴薯澱粉(エリアンVC120)
B:ヒドロキシプロピルリン酸架橋ワキシー馬鈴薯澱粉(エリアンVE540)
C:α化ワキシー馬鈴薯澱粉(マツノリンWP)
D:α化ヒドロキシプロピルリン酸架橋馬鈴薯澱粉(パインソフトB)
E:α化ヒドロキシプロピルリン酸架橋タピオカ澱粉(プリジェルVA70T)
*1 澱粉質原料100gに対するユニット
【0031】
比較例6~8では、翌日の食感は良好であったものの、経時的に食感が劣化し、60日後ではもちもち感及びしっとり感共に不適であった。エーテル化リン酸架橋ワキシー馬鈴薯澱粉を使用した実施例7では、経時的に食感が劣化したものの、60日後であってももちもち感及びしっとり感共に良好であった。これらのことから、エーテル化リン酸架橋ワキシー馬鈴薯澱粉を使用することにより、カップケーキ製造後60日経過しても良好な食感を維持でき、更にはα化されたエーテル化リン酸架橋ワキシー馬鈴薯澱粉の使用はより一層の食感維持効果があることが分かった。
【0032】
製造例2 ベルギーワッフル(リエージュタイプ)の製造
(1)表6の配合表記載の原料をミキサーに投入し、均質になるまで混合してベルギーワッフル用ミックス粉を得た。
(2)得られたベルギーワッフル用ミックス粉100質量部に対して全卵30質量部、水20質量部、生イースト6質量部を加えて低速1分間、中速7分間、高速2分間混捏し、バター25質量部を加えて更に中速2分間、高速3分間混捏してベルギーワッフル生地を得た。
(3)得られた生地を27℃、相対湿度75%にて30分間発酵させ、40gに分割し丸めた後に30℃、相対湿度75%にて30分間発酵させ、190℃に予熱したワッフル焼成機にて4分間焼成しベルギーワッフルを得た。
(4)放冷後、ベルギーワッフルをアルコール蒸散剤と共に樹脂製包装袋に入れて個別密封包装し、室温で保管した。
【0033】
表6 ベルギーワッフル用ミックス粉の配合(質量部)
化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉: エリアンVC120(α化ヒドロキシプロピルリン酸架橋ワキシー馬鈴薯澱粉、松谷化学工業株式会社)
タピオカ澱粉: ゆり(松谷化学工業株式会社)
アミラーゼ: スミチームAS(1500U/g、新日本化学工業株式会社)
*3 澱粉質原料100gに対して1.5U(ユニット)に相当
【0034】
試験例4 ベルギーワッフルにおける化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉とアミラーゼの検討
化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉、アミラーゼの配合量を表7に示す通りにした以外は製造例2に従ってベルギーワッフルを製造し、評価例1に従って評価した。化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉の量を増減する際はタピオカ澱粉と置換した。結果を表7に示す。
【0035】
表7 ベルギーワッフルにおける化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉とアミラーゼの検討
*1 澱粉質原料100gに対するユニット
【0036】
その結果、化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉とアミラーゼとを使用した実施例8のベルギーワッフルでは60日後であってももちもち感としっとり感が維持されていた。
【0037】
製造例3 どら焼きの製造
(1)表8の配合表記載の原料をミキサーに投入し、均質になるまで混合してどら焼き用ミックス粉を得た。
(2)溶きほぐした卵106質量部に上白糖97質量部、はちみつ5質量部、水39質量部を加え、低速1分間混捏し、どら焼き用ミックス粉100質量部を加え、さらに低速1分間混捏し、どら焼き生地を得た。
(3)得られた生地30gを200℃に予熱したホットプレートで2分30秒焼成し、どら焼きを得た。
(4)放冷後、どら焼きをアルコール蒸散剤と共に樹脂製包装袋に入れて個別密封包装し、室温で保管した。
【0038】
表8 どら焼き用ミックス粉の配合(質量部)
化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉: エリアンVC120(α化ヒドロキシプロピルリン酸架橋ワキシー馬鈴薯澱粉、松谷化学工業株式会社)
タピオカ澱粉: ゆり(松谷化学工業株式会社)
アミラーゼ: スミチームAS(1500U/g、新日本化学工業株式会社)
*5 澱粉質原料100gに対して100U(ユニット)に相当
【0039】
試験例5 どら焼きにおける化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉とアミラーゼの検討
化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉、アミラーゼの配合量を表9に示す通りにした以外は製造例3に従ってどら焼きを製造し、評価例1に従って評価した。結果を表9に示す。
【0040】
表9 どら焼きにおける化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉とアミラーゼの検討
*1 澱粉質原料100gに対するユニット
【0041】
その結果、化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉とアミラーゼとを使用した実施例9のどら焼きでは、60日後であってももちもち感としっとり感が維持されていた。
【0042】
製造例4 スポンジケーキの製造
(1)表10の配合表記載の原料をミキサーに投入し、均質になるまで混合してスポンジケーキ用ミックス粉を得た。
(2)全卵99質量部、砂糖99質量部、水40質量部をホイッパーで高速2分、中速3分、低速で30秒混捏した。
(3)(2)で得られた混捏物にスポンジケーキ用ミックス粉100質量部を投入し、ビーターで低速15秒混捏し、溶かしバター10質量部を加えた後、ビーターで低速15秒混捏してスポンジケーキ生地を得た。
(4)天板にロール紙を敷いた後、得られた生地を500g流し入れ、均一に伸ばしてから180℃で20分間焼成しスポンジケーキを得た。
(5)放冷後、スポンジケーキをカットしアルコール蒸散剤と共に樹脂製包装袋に入れて個別包装し、室温で保管した。
【0043】
表10 スポンジケーキ用ミックス粉の配合(質量部)
化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉: エリアンVC120(α化ヒドロキシプロピルリン酸架橋ワキシー馬鈴薯澱粉、松谷化学工業株式会社)
タピオカ澱粉: ゆり(松谷化学工業株式会社)
アミラーゼ: スミチームAS(1500U/g、新日本化学工業株式会社)
*6 澱粉質原料100gに対して10U(ユニット)に相当
【0044】
試験例6 スポンジケーキにおける化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉とアミラーゼの検討
化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉、アミラーゼの配合量を表11に記載の通りにした以外は製造例4に従ってスポンジケーキを製造し、評価例1に従って評価した。結果を表11に示す。
【0045】
表11 スポンジケーキにおける化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉とアミラーゼの検討
*1 澱粉質原料100gに対するユニット
【0046】
その結果、化学変性ワキシー馬鈴薯澱粉とアミラーゼとを使用した実施例10のスポンジケーキでは、60日後であってももちもち感としっとり感が維持されていた。