(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】パンの製造方法及びパンの風味改善方法
(51)【国際特許分類】
A21D 2/02 20060101AFI20240816BHJP
A21D 2/36 20060101ALI20240816BHJP
A21D 10/00 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
A21D2/02
A21D2/36
A21D10/00
(21)【出願番号】P 2021022191
(22)【出願日】2021-02-16
【審査請求日】2023-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 葵
(72)【発明者】
【氏名】衛藤 馨子
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-514443(JP,A)
【文献】特開2021-003043(JP,A)
【文献】パン用粉で☆さくさくホロリ食感スコーン, レシピID:4687886,クックパッド [online],2017年09月02日,インターネット<URL:https://cookpad.com/recipe/4687886>,[検索日 2024.04.11]
【文献】北海道産ハードブレッド専用粉ER(江別製粉)/1kg|TOMIZ 富澤商店,The wayback machine [online],2017年05月01日,インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20170501101821/https://tomiz.com/item/00310502>,[検索日 2024.04.11]
【文献】ハースブレッド専用粉 TYPE-ER 1kg 準強麦粉 江別製粉|KT Food Lab.,The wayback machine [online],2020年09月28日,インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20200928232449/https://www.ktfoodlab.com/10000086-2/>,[検索日 2024.04.11]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉(小麦全粒粉及び灰分0.5質量%以上の強力粉を含まない)及びベーキングパウダーを含有し、
該小麦粉の含有量が50質量%以上であり、該ベーキングパウダーの含有量が4質量%以上である基本原料粉
(小麦全粒粉、灰分0.5質量%以上の強力粉及び乳化剤を含まない)を用いてパン生地を調製し、該パン生地をイースト発酵させずに加熱する工程を有する、パンの製造方法であって、
前記基本原料粉に加えて更に、該基本原料粉100質量%に対して、小麦全粒粉0.5~2質量%と、灰分0.5質量%以上の強力粉
(小麦全粒粉を含まない)3~10質量%とを用いて、前記パン生地を調製する、パンの製造方法。
【請求項2】
前記基本原料粉に加えて更に、該基本原料粉100質量%に対して、乳化剤0.05~0.5質量%を用いて、前記パン生地を調製する、請求項1に記載のパンの製造方法。
【請求項3】
小麦粉(小麦全粒粉及び灰分0.5質量%以上の強力粉を含まない)及びベーキングパウダーを含有し、
該小麦粉の含有量が50質量%以上であり、該ベーキングパウダーの含有量が4質量%以上である基本原料粉
(小麦全粒粉、灰分0.5質量%以上の強力粉及び乳化剤を含まない)を用いて製造されたパンの風味改善方法であって、
前記基本原料粉に加えて更に、該基本原料粉100質量%に対して、小麦全粒粉0.5~2質量%と、灰分0.5質量%以上の強力粉
(小麦全粒粉を含まない)3~10質量%とを用いて、パン生地を調製する工程を有する、パンの風味改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イーストによる発酵を行わずにベーキングパウダーを用いて製造される無発酵パンの製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
製パン法として、小麦粉等の穀粉を主原料とし、これにイースト及び水と、必要に応じて糖類、油脂類等の副原料とを添加し、混捏して生地を調製し、該生地の該イーストによる発酵を行った後、その発酵済み生地を焙焼又は蒸し加熱してパンを製造する方法が知られている。イースト発酵は、発酵産物による風味の付与を目的として行われる工程であり、生地中にガスを発生させて生地を膨らませるとともにグルテンの網目構造を引き延ばすことで、パン特有の気泡を含んだふっくらした構造を実現する。一方でイースト発酵は、生地を発酵させるために比較的長い時間を必要とする上、単に時間をかければ足りるというものではなく、発酵させる生地の調製時における原料の混捏の程度、発酵のための静置時間のタイミングなどを考慮し、過発酵や発酵不足とならないよう温湿度の管理に注意を払わなければならない等、簡便とは言えないものであった。
【0003】
そこで、イースト発酵が不要で、簡便且つ比較的短時間で製造可能な無発酵パンが提案されている。無発酵パンの製造技術としては従来、強力なミキサーを用いて生地を強く混捏する方法、生地にベーキングパウダー、酵素製剤、酸化還元剤等の副原料を配合する方法などが提案されている。特許文献1には、無発酵パン用プレミックスとして、イーストに代えてベーキングパウダーを使用し、更に、小麦粉、ベーキングパウダー、小麦グルテン、グリアジン及び加工澱粉を使用したものが記載されている。特許文献2には、健康上及び栄養上の理由から、イースト発酵を行わず且つベーキングパウダー等の添加物も使用しない製パン法として、グリセミック指数及びアミノ酸スコアがそれぞれ特定範囲にあり且つチアシードを含有する穀類を主原料とした生地を、発酵させずに加熱する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-135652号公報
【文献】特開2017-12015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載の製パン技術は、イースト発酵を行わずベーキングパウダーも使用しないため、得られるパンはふくらみが不十分で食したときに硬さが感じられるものとなりやすく、ふくらみが十分で柔らかい食感のパンを安定的に製造することはできない。パン特有の気泡を含んだふっくらしたパンを簡便且つ短時間で製造するためには、ベーキングパウダーの使用は不可欠であると考えられる。しかしながら、特許文献1に記載の如き、ベーキングパウダーを使用した従来の製パン技術は、ベーキングパウダーに由来する異味がパンに付与されてしまい、パンの風味が低下するという問題がある。
【0006】
本発明の課題は、ベーキングパウダーの使用によって懸念されるパンの風味低下を抑制しつつ、ベーキングパウダーの機能を活かして、ふくらみが十分で食感及び風味が良好なパンを簡便に製造することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、穀粉及びベーキングパウダーを含有し、該ベーキングパウダーの含有量が4質量%以上である基本原料粉を用いてパン生地を調製し、該パン生地をイースト発酵させずに加熱する工程を有する、パンの製造方法であって、前記基本原料粉に加えて更に、該基本原料粉100質量%に対して、小麦全粒粉0.5~2質量%と、灰分0.5質量%以上の強力粉3~10質量%とを用いて、前記パン生地を調製する、パンの製造方法である。
【0008】
また本発明は、穀粉及びベーキングパウダーを含有し、該ベーキングパウダーの含有量が4質量%以上である基本原料粉を用いて製造されたパンの風味改善方法であって、前記基本原料粉に加えて更に、該基本原料粉100質量%に対して、小麦全粒粉0.5~2質量%と、灰分0.5質量%以上の強力粉3~10質量%とを用いて、パン生地を調製する工程を有する、パンの風味改善方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ベーキングパウダーの使用によって懸念されるパンの風味低下を抑制しつつ、ベーキングパウダーの機能を活かして、ふくらみが十分で食感が良好なパンを簡便に製造することができる技術が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のパンの製造方法は、原料粉を用いてパン生地を調製する工程(生地調製工程)と、調製したパン生地を加熱する工程(加熱工程)とを有する。
本発明のパンの製造方法は、イーストによる発酵工程を有しておらず、前記生地調製工程で調製されたパン生地は、イースト発酵させずに前記加熱工程で加熱され、パン(無発酵パン)とされる。したがって本発明のパンの製造方法によれば、イースト発酵を行う従来の製パン法に比べて、簡便且つ短時間でパンを製造することができる。
【0011】
本発明で用いる原料粉は、基本原料粉と選択原料粉とに大別される。以下の「本発明で用いる原料粉」とは、基本原料粉と選択原料粉との総和を指す。
基本原料粉は少なくとも、穀粉と、ベーキングパウダーとを含有する。
選択原料粉は少なくとも、小麦全粒粉と、灰分0.5質量%以上の強力粉(以下、「特定強力粉」とも言う。)とを含有する。
【0012】
本発明において穀粉としては、パンの製造に使用可能なものを特に制限なく用いることができ、例えば、小麦粉、そば粉、米粉、コーンフラワー、大麦粉、ライ麦粉、はとむぎ粉、ひえ粉、あわ粉が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
小麦粉の種類は特に制限されず、例えば、強力粉1等粉、準強力粉1等粉等のパンを主用途とする小麦粉;中力粉1等粉等の麺を主用途とする小麦粉;デュラム粉等のスパゲティ、マカロニを主用途とする小麦粉;薄力粉1等粉の菓子を主用途とする小麦粉;超強力粉等の小麦粉、澱粉の改質等に利用されている小麦粉が挙げられる。また、小麦粉の原料となる小麦の種類や産地も特に限定されず、例えば、ダークノーザンスプリング、ハードレッドウィンター(以上、米国産)、カナダウエスタンレッドスプリング(以上、カナダ産)、オーストラリアスタンダードホワイト(以上、オーストラリア産)の他、日本産の普通系小麦、強力系小麦等を利用できる。
【0013】
本発明で用いる原料粉(基本原料粉)は、小麦粉を主体とするものが好ましい。ここでいう「主体とする」とは、原料粉(基本原料粉)における小麦粉の含有量が、該原料粉(基本原料粉)の全質量の50質量%以上であることを意味する。本発明で用いる原料粉(基本原料粉)の好ましい一例として、強力粉1等粉、準強力粉1等粉、中力粉1等粉及び薄力粉1等粉から選択される1種以上を主体とするものが挙げられる。
【0014】
本発明で用いる原料粉において、穀粉の含有量は特に制限されないが、典型的には、該原料粉の全質量に対して、好ましくは60~99質量%、より好ましくは70~95質量%、更に好ましくは75~90質量%である。
基本原料粉における穀粉の含有量は、該基本原料粉の全質量に対して、好ましくは57~93質量%、より好ましくは65~90質量%、更に好ましくは68~88質量%である。
【0015】
本発明においてベーキングパウダーは、パン生地の膨張性を高めてパンのボリュームを向上させる役割を担うものであり、ベーキングパウダーを原料粉の必須成分として使用することで、パンの製造工程から発酵工程を排除が可能となり、簡便且つ短時間でのパンの製造が可能となる。
ベーキングパウダーとしては、パン、焼き菓子等のベーカリー食品の製造に使用可能なものを特に制限無く用いることができる。ベーキングパウダーは、典型的には、ガス発生基剤と酸性剤とを含有し、更に必要に応じ分散剤(遮断剤)を含有する。前記ガス発生基剤としては、例えば、炭酸水素ナトリウム(重曹)、炭酸水素アンモニウム(重安)、炭酸アンモニウム、塩化アンモニウム等のアルカリ性剤が挙げられる。前記酸性剤としては、例えば、前記酸性剤としては、例えば、酒石酸水素カリウム(特にL-体)、リン酸二水素カルシウム、フマル酸、酒石酸、リン酸ナトリウム、グルコノデルタラクトン、酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性リン酸アルミニウムナトリウム等が挙げられる。
【0016】
基本原料粉において、ベーキングパウダーの含有量は、該基本原料粉の全質量に対して、少なくとも4質量%以上である。基本原料粉におけるベーキングパウダーの含有量が4質量%未満では、パンのふくらみが足りず、食感の低下を招くおそれがある。一方、基本原料粉におけるベーキングパウダーの含有量が多すぎると、パンに内在する多数の気泡のサイズが過大となってパン全体がスカスカした状態となり、食感が低下し得る。この点を考慮すると、基本原料粉におけるベーキングパウダーの含有量は、好ましくは4.4~8質量%である。
同様の観点から、本発明で用いる原料粉(前記の基本原料粉及び選択原料粉の総和)におけるベーキングパウダーの含有量は、該原料粉の全質量に対して、好ましくは3.7質量%以上、より好ましくは4~7.5質量%である。
なお、ベーキングパウダーを焼き菓子に使用する場合、一般的な焼き菓子製造用の原料粉におけるベーキングパウダーの含有量は、該原料粉の全質量に対して1~3質量%程度である。
【0017】
基本原料粉は、穀粉及びベーキングパウダー並びに選択原料粉以外の他の原料を含有してもよい。前記他の原料としては、パンの製造に使用可能なものを特に制限なく用いることができ、例えば、澱粉、糖類、油脂類、粉乳、色素、香料、食塩、酸性剤、乾燥卵、増粘剤、卵殻カルシウム、酵素、呈味剤、香辛料等が挙げられ、所望されるパンの品質等に応じて、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、前記他の原料として、酵母死菌、サワー種を用いることもでき、これによりパンの一層の風味改善が期待できる。前記他の原料の含有量は、基本原料粉の全質量に対して、好ましくは0~30質量%程度、より好ましくは0~20質量%程度である。本発明で用いる原料粉(基本原料粉及び選択原料粉の総和)における前記他の原料の含有量も前記と同程度でよい。
【0018】
前記生地調製工程は、原料粉(基本原料粉、選択原料粉)を用いて常法に従って行うことができる。前記生地調製工程は典型的には、原料粉に、水等の液体原料を適量添加し、混捏することで実施され、これによりパン生地が得られる。前記生地調製工程は、公知の中種法又は液種法によって実施することもできる。
前記生地調製工程の後は、典型的には、パン生地を分割して丸め(分割工程)、パン生地を所定の形状に成形し(成形工程)、成形したパン生地を次工程の前記加熱工程に供する。前記加熱工程におけるパン生地の加熱方法は特に制限されず、例えば、焼成、油ちょうが挙げられる。典型的なパン生地の加熱方法は、オーブン等を用いた焼成である。
【0019】
本発明のパンの製造方法は、前記生地調製工程において基本原料粉に加えて更に、選択原料粉を用いる、すなわち少なくとも小麦全粒粉及び特定強力粉を用いる点で特徴付けられる。本発明のパンの製造方法は、この特徴的な構成により、ベーキングパウダーの使用によって懸念されるパンの風味低下を効果的に抑制することができる。
【0020】
本発明で用いる小麦全粒粉は、小麦頴果(小麦粒)に含まれる胚乳、外皮及び胚芽の3成分を含有するもので、常温常圧では、胚乳由来の小麦粉と、外皮由来の小麦ふすまと、胚芽由来の小麦胚芽との3種類の粉体を含有する。
本発明で用いる小麦全粒粉は、前記の胚乳、外皮及び胚芽を含有するものであればよく、その製法は問わない。例えば、本発明で用いる小麦全粒粉は、常法に従って小麦頴果の全体を粉砕して得た小麦全粒粉であってもよく、あるいは、小麦粉、小麦ふすま及び小麦胚芽をそれぞれ常法に従って製造し、これらを混合して得た小麦全粒粉であってもよい。また、本発明で用いる小麦全粒粉は、特開2001-204411号公報、特開2005-13014号公報、特開2007-82541号公報に記載の方法で製造されたものでもよく、あるいは市販の小麦全粒粉でもよい。
【0021】
小麦頴果においては通常、小麦ふすまとなる外皮が11~15質量%、小麦胚芽となる胚芽が2~3質量%含まれ、残りが小麦粉となる胚乳となっている。したがって、本発明で用いる小麦全粒粉として、小麦粉、小麦ふすま及び小麦胚芽の3種を前記のように別個に製造して混合して用いる場合は、小麦頴果における胚乳、外皮及び胚芽の配合比と同程度の配合比で混合して用いる。具体的には、小麦粉(胚乳)を82~87質量%、小麦ふすま(外皮)を11~15質量%、小麦胚芽(胚芽)を2~3質量%含有するものが好ましい。
【0022】
本発明で用いる小麦全粒粉の由来となる小麦の種類は、硬質小麦、中間質小麦、軟質小麦のいずれであってもよいが、パンの製造に用いられる硬質小麦に由来する小麦全粒粉を用いると、得られるパンの風味が一層良好になるため好ましい。また前記のように、小麦全粒粉として、小麦粉、小麦ふすま及び小麦胚芽の3種を別個に製造して混合して用いる場合も、それぞれ由来する小麦の種類は何れであってもよいが、すべて硬質小麦に由来するのが好ましい。
【0023】
本発明で用いる特定強力粉(灰分0.5質量%以上の強力粉)は、一般的にパンの製造に用いられる強力粉1等粉の灰分量0.3~0.4質量%よりも灰分を多く含んだ強力粉である。小麦頴果の中で灰分は外皮に近いほど多く含まれているため、外皮に近い胚乳部分を粉砕して得られた強力粉は特定強力粉として使用し得る。また、小麦の品種によっては、胚乳中に灰分を比較的多く含むものがあり、そのような小麦の品種に由来する強力粉は特定強力粉として使用し得る。また、市販の強力粉2等粉には灰分が0.5質量%以上のものが存在するので、その市販の強力粉2等粉は特定強力粉として使用し得る。
本発明で用いる特定強力粉における蛋白質の含有量は、該特定強力粉の全質量に対して、好ましくは11~15質量%である。
【0024】
本発明のパンの製造方法では、小麦全粒粉及び特定強力粉(選択原料粉)を用いてパン生地を調製すればよく、前記生地調製工程におけるこれらの使用方法、使用タイミング等は、これらをパン生地中に均一分散し得るものであることを条件として、特に制限されない。例えば、基本原料粉と選択原料粉とを混合し、その混合物に液体原料を添加してパン生地を調製してもよい。また、基本原料粉に液体原料を添加し混捏して中間品を調製し、次いで、該中間品に選択原料粉を適宜のタイミングで添加し混捏してパン生地を調製してもよい。また、水等の液体原料に選択原料粉を予め含有させておき、基本原料粉に該液体原料を添加し混捏してパン生地を調製してもよい。
【0025】
前記生地調製工程における小麦全粒粉の使用量は、基本原料粉100質量%に対して、0.5~2質量%であり、好ましくは0.6~1.7質量%、より好ましくは0.7~1.5質量%である。小麦全粒粉の使用量が基本原料粉100質量%に対して0.5質量%未満ではパンの風味改善効果に乏しく、2質量%を超えると、小麦全粒粉に起因する異味異臭がパンに付与されるおそれがある。
同様の観点から、本発明で用いる原料粉(前記の基本原料粉及び選択原料粉の総和)における小麦全粒粉の含有量は、該原料粉の全質量に対して、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.6~1.8質量%である。
【0026】
また、前記生地調製工程における特定強力粉(灰分0.5質量%以上の強力粉)の使用量は、基本原料粉100質量%に対して、3~10質量%であり、好ましくは3.5~9質量%、より好ましくは4~8質量%である。特定強力粉の使用量が基本原料粉100質量%に対して3質量%未満ではパンの風味改善効果に乏しく、10質量%を超えると、灰分に起因する異味異臭がパンに付与されるおそれがある。
同様の観点から、本発明で用いる原料粉(前記の基本原料粉及び選択原料粉の総和)における特定強力粉の含有量は、該原料粉の全質量に対して、好ましくは3質量%以上、より好ましくは3.4~9質量%である。
【0027】
本発明のパンの製造方法では、前記生地調製工程において、選択原料粉として小麦全粒粉及び特定強力粉に加えて更に、乳化剤を用いてパン生地を調製してもよい。これにより、ベーキングパウダーの使用によって懸念されるパンの風味低下を一層効果的に抑制することができ、パンの食感及び風味が一層向上し得る。
乳化剤としては、食品に使用可能なものであればよく、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチンが挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
前記生地調製工程における乳化剤の使用方法、使用タイミング等は、乳化剤をパン生地中に均一分散し得るものであることを条件として、特に制限されず、前述した小麦全粒粉及び特定強力粉の使用態様と同様の態様で使用することができる。
前記生地調製工程における乳化剤の使用量は、基本原料粉100質量%に対して、好ましくは0.05~0.5質量、より好ましくは0.08~0.4質量%である。
同様の観点から、本発明で用いる原料粉(前記の基本原料粉及び選択原料粉の総和)における乳化剤の含有量は、該原料粉の全質量に対して、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.06~0.4質量%である。
【0028】
本発明には、穀粉類及びベーキングパウダーを含有し、該ベーキングパウダーの含有量が4質量%以上である基本原料粉を用いて製造されたパンの風味改善方法が包含される。
本発明のパンの風味改善方法は、基本原料粉に加えて更に、該基本原料粉100質量%に対して、小麦全粒粉0.5~2質量%と、灰分0.5質量%以上の強力粉3~10質量%(特定強力粉)とを用いて、パン生地を調製する工程を有する。斯かる工程により、ベーキングパウダーの使用によって懸念されるパンの風味低下を抑制しつつ、ベーキングパウダーの機能を活かして、ふくらみが十分で食感が良好なパンを簡便に製造することが可能となる。
本発明のパンの風味改善方法では、基本原料粉に加えて更に、該基本原料粉100質量%に対して、乳化剤0.05~0.5質量%を用いて、パン生地を調製してもよい。これによりパンの風味の一層の改善が期待できる。
本発明のパンの風味改善方法について特に説明しない点は、前述した本発明のパンの製造方法についての説明が適宜適用される。
【0029】
本発明が適用されるパンの種類は特に限定されるものではなく、イーストによる発酵工程を経て製造されるパン全般に適用することができる。本発明が適用可能なパンの具体例として、ロールパン、菓子パン(あんパン、クリームパン等)、総菜パン(カレーパン等)、蒸しパン、ドーナツを例示できる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
以下の実施例、比較例及び参考例において使用した原料の詳細は下記のとおりである。
・強力粉A:特定強力粉、「オーション」日清製粉製(灰分0.52質量%)
・強力粉B1:強力粉1等粉、「カメリヤ」日清製粉製(灰分0.37質量%)
・強力粉B2:強力粉1等粉、「スーパーカメリヤ」日清製粉製(灰分0.33質量%)
・薄力粉A:「雪」日清製粉製(灰分0.57質量%)
・薄力粉B:「フラワー」日清製粉製(灰分0.37質量%)
・小麦全粒粉:「スーパーファインハード」日清製粉製
・ベーキングパウダー:「日清ベーキングパウダー」日清フーズ製
【0032】
〔実施例1~24、比較例1~13、参考例1〕
下記表1~5に示す基本原料粉と選択原料粉とを組み合わせて原料粉を調製した。次に、調製した原料粉に水とバターとを添加し混捏して、パン生地を調製した。斯かる混捏は、水及びバターの添加当初はそれらの混合物(パン生地)がまとまるように捏ね、次いで該混合物を伸ばすように捏ねた。次に、パン生地を20gずつ分割してそれぞれ球状に丸め、5分間休ませた後、丸めたパン生地に溶き卵を塗り、庫内温度180℃のオーブンで表面に焼き色がつくまで焼成して、丸型のパンを製造した。
【0033】
〔評価試験〕
焼成直後のパンをオーブンから取り出し、パンの表面温度が約50℃になるまで室温で放置した後、10名の専門パネラーにパンを食してもらい、食感及び風味を下記評価基準で評価してもらった。10名の専門パネラーの評価点の算術平均値を下記表1~5に示す。下記評価基準の「3点」は、参考例1のパンの食感又は風味である。
【0034】
<食感の評価基準>
5点:ふくらみが大きく非常に柔らかく、非常に良好。
4点:ふくらみがあり柔らかく、良好。
3点:やや硬さが感じられるか、ややスカスカしており、やや不良。
2点:しまっていて硬さが感じられるか、スカスカしており、不良。
1点:しまっていて硬すぎるか、スカスカが大きく、非常に不良。
<風味の評価基準>
5点:焼けた小麦の風味が十分にあり、異味、異臭は全く感じられず、非常に良好。
4点:焼けた小麦の風味があり、異味、異臭はあまり感じられず、良好。
3点:焼けた小麦の風味があるが、異味、異臭がやや感じられ、やや不良。
2点:焼けた小麦の風味がわずかしか感じられず、異味、異臭が感じられ、不良。
1点:焼けた小麦の風味が感じられず、異味、異臭が強く、非常に不良。
【0035】
【0036】
表1に示すとおり、各比較例は、基本原料粉におけるベーキングパウダーの含有量が参考例1のそれの2倍であり、これに起因して参考例1に比べて、パンの食感には優れるものの、パンの風味に劣る結果となった。これに対し実施例1は、ベーキングパウダーの含有量が各比較例と同じであるにもかかわらず、参考例1に比べてパンの食感及び風味の双方に優れていた。このことから、小麦全粒粉及び灰分0.5質量%以上の強力粉(特定強力粉)をパン生地の調製に使用することが、ベーキングパウダーに起因するパンの風味低下の抑制に有効であることがわかる。
【0037】
【0038】
表2に記載の実施例どうしの対比から、原料粉(基本原料粉)におけるベーキングパウダーの含有量を増加させると、パンのふくらみが大きくなり食感が向上するが、パンの風味は低下することがわかる。比較例どうしの対比においても同様の傾向が見られる。また、基本原料粉におけるベーキングパウダーの含有量は4.4~8質量%の範囲が特に好ましいことがわかる。
【0039】
【0040】
表3に記載の実施例と比較例との対比から、小麦全粒粉の使用量としては、実施例の範囲(基本原料粉100質量%に対して0.5~2質量%)が好ましいことがわかる。
【0041】
【0042】
表4に記載の実施例と比較例との対比から、灰分0.5質量%以上の強力粉(強力粉A)の使用量としては、実施例の範囲(基本原料粉100質量%に対して3~10質量%)が好ましいことがわかる。
【0043】
【0044】
表5に記載の各実施例は、選択原料粉として乳化剤を用いたものである。乳化剤の使用量としては、基本原料粉100質量%に対して0.05~0.5質量%の範囲が特に好ましいことがわかる。