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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】流動性食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/269 20160101AFI20240816BHJP
   A23L 23/10 20160101ALI20240816BHJP
   A23L 23/00 20160101ALI20240816BHJP
   A23L 3/36 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
A23L29/269
A23L23/10
A23L23/00
A23L3/36 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021537337
(86)(22)【出願日】2020-08-05
(86)【国際出願番号】 JP2020029952
(87)【国際公開番号】W WO2021025048
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2019143608
(32)【優先日】2019-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鍋島 拓磨
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特許第5947408(JP,B1)
【文献】特開昭62-130670(JP,A)
【文献】特開平10-215797(JP,A)
【文献】特開2002-315553(JP,A)
【文献】特開2014-103923(JP,A)
【文献】特開2012-044960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 29/269
A23L 23/10
A23L 23/00
A23L 21/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱アシル型ジェランガムと、固形具材とを含む食品組成物を調製する工程と、
前記食品組成物を-5℃以下で冷凍して、前記固形具材を含む流動性食品の冷凍物を得る工程とを備える、冷凍された流動性食品の製造方法であって、
B型回転粘度計を用いて、3~13rpmの回転速度で測定された前記流動性食品の液状部の25℃における粘度が300mPa・s以下であり、
前記食品組成物中に脱アシル型ジェランガムを0.001~1質量%含む、冷凍された流動性食品の製造方法。
【請求項2】
前記脱アシル型ジェランガムと前記固形具材とを含む混合物を予め得て、その後、該混合物を加熱調理して前記食品組成物を調製する、請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
一価及び/又は二価陽イオンを電離可能な化合物を更に含有させて、前記食品組成物を調製する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記食品組成物を-5℃以下で10分間以上冷凍して前記冷凍物を得る、請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
脱アシル型ジェランガムと、固形具材とを含む食品組成物を調製し、
前記食品組成物を包装容器に収容して包装し、然る後に、-5℃以下で冷凍して、前記固形具材を含む流動性食品の冷凍物を得る、流動性食品の品質改善方法であって、
B型回転粘度計を用いて、3~13rpmの回転速度で測定された前記流動性食品の液状部の25℃における粘度が300mPa・s以下であり、
前記食品組成物中に脱アシル型ジェランガムを0.001~1質量%含む、流動性食品の品質改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動性食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ソースやスープ等の流動性食品は一般的に流動性を有し、含有される原材料に応じて異なる粘度を有している。流動性食品の粘度としては、例えば、ウスターソースは5~10mPa・s、中濃ソースは800~5000mPa・s、マヨネーズやカレーソースは6000~100000mPa・s程度である。これらの流動性食品はそれぞれの粘度に応じて、喫食方法が異なる。典型的には、低粘度の流動性食品はスプーンのような凹部を有する食器ですくって喫食するか、他の食品に染み込ませて喫食する。また、高粘度の流動性食品は、その形状が変化しにくいので、スプーンに盛り付けて喫食したり、箸やフォークのような隙間のある食器を用いて喫食したり、あるいは、他の食品に付着や載置、包餡するなどして喫食する。
【0003】
流動性食品は、その製造時において、粘度に応じた操作や追加の工程を行う必要がある。低粘度の流動性食品は、攪拌によって原材料を容易に均一化させることができるので、原材料等の成分の混合や加熱を均一に行うことは比較的容易である。一方で、低粘度の流動性食品に固形具材等を含有させる場合、該流動性食品を静置しておくと、比重の違いによって該具材の浮上又は沈降が発生して分離しやすくなり、その結果、製造時における流動性食品の操作性が悪化してしまうことがある。そのため、低粘度の流動性食品を製造する際には、製造工程の最後の段階で、溶き片栗粉等の増粘剤を用いて流動性食品の粘度を高めて、製造時の流動性食品の操作性を高めるための追加の工程が行われている。しかしながら、低粘度の流動性食品は、これを喫食する際に、低粘度に起因する特有且つ良好な口当たりが好まれているところ、粘度を高めてしまうと、食味食感が変化し、目的とする流動性食品が得られないという問題がある。
【0004】
特許文献1には、焼成による加熱や冷凍保存によっても、粘度低下を起こさない調理ソースとして、固体脂含量5~40%の油脂、澱粉、蛋白質、増粘剤及び水を含むソースが記載されている。また特許文献2には、小麦粉を用いずとも、小麦粉ルウと同様の粘性を有する流動性食品として、果実由来の食物繊維、増粘剤及び水を含み、25℃における粘度が300~4000mPa・sである流動性食品が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-231518号公報
【文献】特開2013-9671号公報
【発明の概要】
【0006】
上述のとおり、低粘度の状態で喫食に供される流動性食品を工業生産する場合には、低粘度に起因する操作性の煩雑さが生じていた。例えば、具材を含む流動性食品を小分け包装する工程に供する場合には、小分け後の流動性食品に含まれる具材が不均一になりやすく、均等にするために具材のみ選択的に取り出すなどの追加の操作が必要になっていた。一方で、低粘度の流動性食品を増粘剤等を用いて高粘度にしてしまうと、操作性の煩雑さは低減されるが、製品が目的とする粘度とは異なる粘度に調整されてしまうので、良好な食感が損なわれたり、再加熱をする際に加熱ムラが生じたりすることがあった。この点に関して、特許文献1及び2に記載の技術では何ら検討されていない。
【0007】
本発明は、固形具材を含む流動性食品の製造時の操作性、特に具材を含めた均一な小分け特性に優れる流動性食品を提供することを目的とする。
【0008】
本発明者は、具材を含む低粘度の流動性食品を製造する際にのみ粘性を高め、且つ喫食時には粘度を低下させる方法について鋭意検討を行った結果、特定のゲル化剤を用い、且つ温度を変化させることで、製造時及び喫食時の双方の場面において、好ましい粘度を付与することに成功し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、前記知見に基づきなされたものであり、
脱アシル型ジェランガムと、固形具材とを含む食品組成物を調製する工程と、
前記食品組成物を-5℃以下で冷凍して、前記固形具材を含む流動性食品の冷凍物を得る工程とを備える、流動性食品の製造方法を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の流動性食品の製造方法を、その好ましい実施形態に基づいて説明する。本発明によって製造される流動性食品は、固形具材と、喫食時に流動性を有する液状部とを含んで構成される具材入りの食品である。液状部は、流動性食品において常温常圧(25℃、1気圧)で流動性を有している部分であり、水分が主体の液状物又はペースト状物である。流動性食品から固形物(例えば固形具材)を取り除くと、液状部が得られる。本発明における流動性食品は、その液状部の25℃における粘度が300mPa・s以下のものである。粘度の測定方法は後述する。
【0011】
このような流動性食品としては、ソース及びスープの双方の形態が包含される。「ソース」は、主として、料理に使用される調味料又は中間素材などといった、他の食材若しくは料理とともに喫食されるものを意味し、例えば、具材入りウスターソース、具材入りドレッシング、具材入り麺つゆ等が挙げられる。「スープ」は、主として、水分の比較的多い料理そのものであり、それ自体の喫食が目的とされる汁物等を意味し、例えば具材入りのコンソメスープ、卵スープ、中華スープ等が挙げられる。以下の説明では、「X~Y[Z]」(X及びYは任意の数字、[Z]は任意の単位)と記載した場合、特に断らない限り「X[Z]以上Y[Z]以下」を意味する。
【0012】
本発明の製造方法は、以下の工程(1)及び(2)に大別され、この順で行われる。
(1)脱アシル型ジェランガムと、固形具材とを含む食品組成物を調製する工程。
(2)食品組成物を-5℃以下で冷凍して、固形具材を含む流動性食品の冷凍物を得る工程。
【0013】
工程(1)では、固形食材に加えて、脱アシル型ジェランガムを含有させることを特徴の一つとしている。脱アシル型ジェランガムを含有させることによって、食品組成物の粘度を、目的とする流動性食品の粘度よりも一時的に増加させて、流動性食品の製造時における固形具材の分散の不均一性を低減させて、製造時における小分け性等の操作性を高めることができる。
【0014】
食品組成物は、目的とする流動性食品の製造過程における中間製造物である。食品組成物は、目的とする流動性食品と実質的に同一の成分及び原材料を含んで調製される。したがって、食品組成物は、流動性食品と同様に、固形具材と液状部とを含んで構成される流動性を有する組成物であることが好ましい。また、脱アシル型ジェランガムを除いた状態での食品組成物の粘度は、目的とする流動性食品の粘度と略同じように調整されることも好ましい。
【0015】
ジェランガムは、二個のD-グルコース残基、一個のL-ラムノース残基及び一個のD-グルクロン酸残基の繰り返し単位を有する、微生物由来の直鎖状の高分子多糖類である。ジェランガムは、この繰り返し単位中にアシル基が多く結合したネイティブ型ジェランガムと、繰り返し単位中にアシル基が少ない脱アシル型ジェランガムとの2つの形態が存在している。脱アシル型ジェランガムは、45℃以下の温度条件下でゲル化し、80℃以上で溶解する熱可逆的なゲルを形成する性質を有しており、一価又は二価の陽イオンの存在下では、80℃以上の高温でも溶解しない熱安定性を有する、より硬いゲルとなる。一方、ネイティブ型ジェランガムは、70~80℃の温度帯でゾル-ゲル転移が生じる熱可逆的な性質を有する。本発明は、このような脱アシル型ジェランガムの性質を利用したものである。脱アシル型ジェランガムは、三栄源エフエフアイ製のケルコゲル(登録商標)、ゲルアップ(登録商標)などの市販品を用いることができる。
【0016】
本工程における脱アシル型ジェランガムの含有量は、食品組成物の湿重量に対する固形分質量として、0.001~1質量%が好ましく、0.01~0.6質量%がより好ましく、0.05~0.4質量%が更に好ましい。このような範囲にすることによって、食品組成物に適度な粘性を付与して、製造時の操作性を更に向上させることができる。
【0017】
食品組成物を構成する液状部は、水を主成分として含むものであり、また、本発明の効果が奏される限りにおいて、目的とする流動性食品の製造に通常用いられる原材料を用いて製造することができる。このような原材料としては、例えば、植物油、動物油、硬化油等の各種油脂類;食塩、醤油、食酢等の各種調味料;各種香辛料;脱アシル型ジェランガム以外の各種増粘剤、小麦粉、各種乳化剤、牛乳、卵液等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
食品組成物における固形具材は、目的とする流動性食品の具材として通常用いられる具材を特に制限なく用いることができる。固形具材としては、例えば、鶏、豚、牛等の畜肉類;魚、貝、イカ、タコ等の魚介類、ニンジン、ジャガイモ等の野菜・根菜類;エリンギ等のキノコ類、卵類が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。固形具材とは、食品組成物又は流動性食品を目視で観察したときに、肉眼で認識し得る寸法を有する具材を指し、具体的には、具材の最大差し渡し長さが好ましくは1~30mm、且つ該具材の最小差し渡し長さが好ましくは1~30mmの小片である。具材の小片の形状が例えば球状などであり、小片の任意の位置での差し渡し長さが同じ長さとなる場合、その差し渡し長さは1~30mmである。食品組成物に含まれる固形具材の含有量は、目的とする流動性食品の種類や嗜好等に合わせて適宜決定することができ、食品組成物の湿重量を基準として、好ましくは50質量%以下、より好ましくは10~40質量%程度である。
【0019】
食品組成物の調製方法は、脱アシル型ジェランガム及び固形具材と、必要に応じて、上述した液状部とを混合しながら、加熱調理して行うことができる。この場合、脱アシル型ジェランガム及び固形具材の添加順序は特に制限はなく、例えば、脱アシル型ジェランガムを非含有の液状部を予め調製し、その後、脱アシル型ジェランガム及び固形具材を任意の順序又は同時に添加してもよく、固形具材を含む液状部を予め調製し、その後、脱アシル型ジェランガムを添加してもよく、脱アシル型ジェランガムを含む液状部を予め調製し、その後、固形具材を添加してもよい。加熱は任意の時点から開始することができる。脱アシル型ジェランガムは、固形状のものを用いてもよく、水等の溶媒に溶解又は分散させた溶液又は分散液の状態で用いてもよい。
本調製方法においては、固形具材はその固形状態が維持される条件で加熱調理を行うことが好ましい。また、食品組成物は液状部を含むことも好ましい。この場合、本調製方法においては、固形具材はその固形状態が概ね維持されて、固形具材自体は流動性を有していないが、液状部自体は流動性を有している。したがって、本調製方法によって得られた食品組成物は、好ましくは、肉眼で認識し得る寸法を有する非流動性の固形具材が流動性を有する液状部中に分散した状態のものであり、食品組成物全体として常温常圧で流動性を有している。
【0020】
脱アシル型ジェランガムを固形状の形態で配合する場合、食品組成物の調製時に溶解させることが好ましい。脱アシル型ジェランガムの水への溶解は、一般的に80~90℃の温度で良好に行うことができるところ、食品組成物の調製時に固形状の脱アシル型ジェランガムを配合する際は、脱アシル型ジェランガム及び固形具材と、必要に応じて液状部とを加熱調理する前に混合して、全体として流動性を有する混合物を好ましくは常温常圧下で得て、その後、加熱調理して、脱アシル型ジェランガムを溶解させることが好ましい。これによって、固形具材や原材料への加熱を行いつつ、脱アシル型ジェランガムを溶解させることができるので、製造工程の短縮化を図る観点から有利である。
【0021】
このように調製された食品組成物は、その液状部の25℃における粘度が300mPa・s超であり、好ましくは320~1000mPa・s、更に好ましくは360~800mPa・sである。上述した粘度は、B型回転粘度計を用いて、3~13rpmの回転速度で測定された値をいう。このような範囲にあることによって、流動性食品の製造工程における食品組成物の小分け時に具材を均一に分散させた状態で取り分けることができ、その結果、製造中の操作性が更に向上したものとなる。上記の粘度は、例えば、脱アシル型ジェランガムの含有量を調整したり、後述する一価及び/又は二価陽イオンを電離可能な化合物を添加したり、あるいは、流動性食品の製造工程において加温又は冷却することによって、適宜調整することができる。
【0022】
工程(1)においては、流動性食品の製造中における、食品組成物の粘度の意図しない変化を防いで、製造時の操作性を一層高める観点から、一価及び/又は二価陽イオンを電離可能な化合物を食品組成物に更に含有させることが好ましい。食品組成物の調製時及び流動性食品の製造時には、調味料等に含まれる塩分やミネラル分に由来する一価及び/又は二価陽イオンが電離した状態で存在しており、これらの陽イオンは、脱アシル型ジェランガムの熱安定性に寄与しているが、積極的に一価及び/又は二価陽イオンを電離可能な化合物を含有させることによって、ゲルの熱安定性をより高めることができ、流動性食品の製造中の温度変化による意図しない粘度変化を効果的に抑制することができる。
【0023】
一価及び/又は二価陽イオンを電離可能な化合物における一価陽イオンとしては、ナトリウムイオンやカリウムイオンが挙げられ、二価陽イオンとしては、カルシウムイオンやマグネシウムイオンが挙げられる。このような陽イオンを電離可能な化合物としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、乳酸カルシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等の食用に利用可能なものが挙げられ、これらは一種又は二種以上で用いることができる。これらの化合物は原材料として添加してもよく、又はこれらの化合物を一種以上含む食材を更に添加してもよい。
【0024】
一価陽イオンを電離可能な化合物の含有量は、食品組成物に対する湿重量基準で、0.3~8質量%が好ましく、0.5~5質量%がより好ましく、0.8~3質量%が更に好ましい。また、二価陽イオンを電離可能な化合物の含有量は、食品組成物に対する湿重量基準で0.03~1質量%が好ましく、0.05~0.8質量%がより好ましく、0.08~0.4質量%が更に好ましい。特に、二価陽イオンは脱アシル化ジェランガムゲルの安定性を更に高めることが知られているところ、食品組成物に熱不可逆的なゲル-ゾル転移を発生させてゲルの熱安定性を更に高めるとともに、製造される流動性食品の陽イオンに起因する風味や食感の意図しない変化を防ぐ観点から、一価陽イオンを電離可能な化合物と、二価陽イオンを電離可能な化合物とを組み合わせて用いるか、又は二価陽イオンを電離可能な化合物を単独で用いることが好ましい。なお、各化合物の含有量は、原子吸光分析法やイオンクロマトグラフィー分析法により分析することができる。
【0025】
次に、工程(2)について説明する。工程(2)は、工程(1)で調製した食品組成物をそのままで、あるいは該組成物を所定の分量に小分けしたあと、-5℃以下、好ましくは-60~-10℃の品温となるように冷凍して、目的とする流動性食品の冷凍物を得る。食品組成物を冷凍することによって、脱アシル型ジェランガムによって形成されたゲル構造を破壊することができる。流動性食品の冷凍物を解凍して得られる流動性食品は、その粘度が、食品組成物の粘度よりも低下したものとなり、流動性食品が有する低い粘度に起因する良好な食感を楽しむことができる。また、本工程を経て得られた流動性食品の冷凍物は、これを解凍して、具材を含む液状物又はペースト状物とした後に、喫食のために再加熱したり、又は再冷却したとしても、流動性食品の粘度は略変化しないので、この場合であっても良好な食感を楽しむことができる。また、流動性食品は、上述した成分及び原材料を含む食品組成物を冷凍したあと、解凍によって得られるものであり、冷凍及び解凍の前後による成分及び原材料の変質は実質的にないので、食品組成物の組成と、製造物である流動性食品の組成とは実質的に同一である。
【0026】
本工程における凍結方法は、品温が-5℃以下となるように冷凍できる方法であれば、この種の食品の製造において通常行われる凍結処理を適宜採用することができ、急速冷凍又は緩慢冷凍のいずれも採用できる。また、必要に応じてブラスト冷却、真空冷却等で予備冷却を行った後、-5℃以下に設定された冷凍庫に保存してもよい。冷凍時間は、少なくとも脱アシル型ジェランガムのゲル構造が十分に破壊されるまでであればよく、一般的には、品温が-5℃以下に達温後、好ましくは10分間以上、より好ましくは60分間以上である。
【0027】
流動性食品は、その液状部の25℃における粘度が300mPa・s以下であり、好ましくは250mPa・s以下、より好ましくは200mPa・s以下である。流動性食品の粘度は、上述した方法と同様に測定することができる。
【0028】
本工程においては、食品組成物を包装容器に収容して包装したあと、-5℃以下で冷凍して、流動性食品の冷凍物を得ることが好ましい。つまり、この形態の流動性食品は、容器詰めされたものである。食品組成物を包装するために用いられる包装容器は、プラスチック、ガラス、金属若しくはこれらの組み合わせからなる袋体又は成形体等を用いることができ、より具体的には、プラスチック容器、瓶、缶、パウチ容器等が挙げられる。保存性等の観点から、食品組成物は、密封包装されていることが好ましい。食品組成物を密封包装する際に、不活性ガス置換充填等のガス置換処理等が施されてもよい。なお、密封包装とは、収容物に対して、固体、液体及び気体のすべての混入を防ぐように包装された形態を指す。
【0029】
流動性食品は、-5℃以下でそのまま冷凍して冷凍物の状態で保存しておき、その後、喫食時に再度加熱して喫食することができる。また、流動性食品の冷凍物は、これを解凍して流動性食品とした後、レトルト加熱等の殺菌処理を更に行って、常温又は冷蔵で保存可能な食品とすることもできる。
【0030】
以上の方法によれば、流動性食品の一連の製造工程において、食品組成物の粘度を高めて、該組成物中に含まれる固形具材が浮上したり沈降したりせずに、具材の分布度合を均一にした状態を維持したまま取り分けることができるので、特に小分け包装時において食品組成物の取り分けを無作為に行った場合でも、各包装ごとの具材含有量の偏りを解消するための追加の工程が不要となり、製造時の操作性を向上させることができる。特に、脱アシル型ジェランガムは、30~45℃程度でゲル化し、粘度が上昇する性質を有しているので、食品組成物の温度を上述の範囲とした状態で小分け操作を行うと、具材が均一に分布した状態で小分けを行うことができる点で更に有利である。これに加えて、得られる流動性食品は、その喫食時に、製造時と比較して低い粘度を有しているので、低粘度特有の良好な食味食感が発現し、違和感なく喫食することができる。更に、流動性食品を包装体とすることによって、流動性食品の取り扱い性、運搬性及び保存性等を向上させて市場流通に適したものとなる。
【0031】
本発明は、流動性食品の品質改善方法も更に提供する。品質改善とは、例えば流動性食品の製造時において高めた粘度を、少なくとも流動性食品の喫食時において粘度を低下した状態とするものであり、流動性食品の粘度の改善が挙げられる。本方法は、まず、脱アシル型ジェランガムと、固形具材とを含む食品組成物を調製して、該組成物の粘度を一時的に高くなるような操作を行う。次いで、この食品組成物を包装容器に収容して包装し、品温が-5℃以下となるように冷凍する。この方法を採用することによって、製造時における操作性の向上を目的として中間製造物の粘度を高くした場合であっても、最終製品となる流動性食品の粘度を低下させることができるので、流動性食品の喫食時には低粘度特有の良好な食味食感が発現し、違和感なく喫食することができる品質に改善できるとともに、流動性食品の再加熱時における加熱ムラや突沸が生じにくいものとなる。本品質改善方法において、特に説明しない点については、上述した製造方法に関する説明が適宜適用される。
【実施例
【0032】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
以下の実施例において、具材入り混合物、食品組成物及び流動性食品の粘度はそれぞれ、金網で濾して具材を取り除いた液状部を用いて、B型回転粘度計を用いて、品温25℃、回転速度3~13rpmで測定した。また、後述する各実施例及び比較例にて製造した、解凍後の流動性食品における液状部の粘度は比較例2を除いて、120~240mPa・sの範囲であった。また比較例2の液状部の粘度は、720mPa・sであった。
【0034】
〔実施例1~7〕
<工程(1)>
厚さ1.5mm程度に薄切りにした玉ネギ100片およびグリーンピース100個を固形具材として用い、鍋に1Lの湯にコンソメスープの素及び前記固形具材を加え、加熱混合して、具材入り液状混合物(表1及び表2中、「具材入りスープ」と表記する。)とした。この混合物における液状部の粘度は、120mPa・sであった。この混合物に脱アシル型ジェランガム(ケルコゲル(登録商標);三栄源エフエフアイ製)を表1に示す割合で配合し、90℃以上まで加熱して脱アシル型ジェランガムを溶解させて、固形具材を含む食品組成物を調製した。
【0035】
<工程(2)>
食品組成物を品温を20℃まで冷却して、具材を除いた液状部の粘度を測定した。粘度の測定後に具材を戻して撹拌した後、静置した状態で、計量カップを用いて、食品組成物を鍋から10個の耐熱容器に100mLずつ無作為に取り分けて、密封包装した。この容器を-40℃の冷凍庫で1日冷凍保存して、固形具材を含む流動性食品(コンソメスープ)の冷凍物を得た。
【0036】
〔比較例1〕
脱アシル型ジェランガムを添加しなかった他は、実施例1と同様に、固形具材を含む流動性食品の冷凍物を得た。本比較例では、脱アシル型ジェランガムを添加していないので、食品組成物における液状部の粘度、及び解凍後の流動性食品における液状部の粘度はいずれも変化はなく、ともに120mPa・sであった。
【0037】
〔比較例2〕
脱アシル型ジェランガムに代えて、ネイティブ型ジェランガム(ケルコゲル(登録商標)LT-100;三栄源エフエフアイ製)を用いた以外は、実施例4と同様に流動性食品の冷凍物を得た。本比較例では、脱アシル型ジェランガムを添加せず、ネイティブ型ジェランガムを添加して粘度を付与したため、食品組成物における液状部の粘度は780mPa・sに増加した。また、解凍後の流動性食品における液状部の粘度は720mPa・sであった。
【0038】
〔実施例8~14〕
工程(1)において、乳酸カルシウムを以下の表2に示す割合で、脱アシル型ジェランガムと同時に加えて混合して、固形具材を含む食品組成物を調製した他は、実施例3と同様に流動性食品の冷凍物を得た。
【0039】
〔操作性の評価〕
各実施例及び比較例で調製した食品組成物を100mLずつ取り分ける際の、固形食材の分散の程度と、食品組成物の取り分けやすさとを、以下の評価基準に従って評価した。その結果を10回の算術平均値として表1及び表2に示す。
【0040】
<操作性の評価基準>
5点:固形具材が撹拌後も十分に均一に分布して、具材の浮上や沈降が生じにくく、且つ所望の分量での取り分けを非常に容易に行うことができる適度な粘度を有し、操作性が極めて良好である。
4点:固形具材が撹拌後も適度に分布して、具材の浮上や沈降が生じにくく、且つ所望の分量での取り分けを行うことができる粘度を有し、操作性が良好である。
3点:撹拌終了数秒後に固形具材の浮上や沈降が観察されるが、所望の分量での取り分けを行うことができる粘度を有し、問題ない操作性である。
2点:撹拌後すぐに固形具材の浮上や沈降が生じ、取り分けが困難であり、操作性が不良である。
1点:固形具材の分散性が悪く、且つ撹拌後すぐに固形具材の浮上や沈降が生じ、取り分けが非常に困難であり、操作性が非常に不良。
【0041】
〔食感の評価〕
各実施例及び比較例の固形具材を含む流動性食品の冷凍物を解凍し、その解凍物を深皿に取り出し、電子レンジ500Wで2分間加熱した。これらの流動性食品と、脱アシル型ジェランガムを非含有とした製造直後の固形具材を含む流動性食品とを、専門パネラー10名にそれぞれ喫食させ、以下の評価基準に従って評価した。その結果を10名の平均値として表1及び表2に示す。
【0042】
<食感の評価基準>
5点:脱アシル型ジェランガムを加えていない流動性食品と変わらない食味食感を有し、食味食感は極めて良好。
4点:脱アシル型ジェランガムを加えていない流動性食品に比べて、わずかに粘度が高く感じられるが、食味食感は良好。
3点:脱アシル型ジェランガムを加えていない流動性食品に比べて、粘度がやや高く感じられ、食味食感はやや良好。
2点:脱アシル型ジェランガムを加えていない流動性食品に比べて、粘度が高く感じられ、食味食感は不良。
1点:脱アシル型ジェランガムを加えていない流動性食品に比べて、粘度が非常に高く感じられ、食味食感は極めて不良。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
表1及び表2に示すように、実施例の流動性食品によれば、固形具材を含む流動性食品の製造時における操作性の悪化などの不具合が少なく、具材の均一な小分け特性及び操作性に優れたものであることが判る。これに加えて、製造された流動性食品は、食品組成物の粘度よりも粘度が低下しており、低粘度特有の良好な食味食感を有し、違和感なく喫食することができる品質となっていることが判る。特に、脱アシル型ジェランガムを好適な範囲で含む実施例3~5や、乳酸カルシウムを好適な範囲で含む実施例10~12は、製造時の操作性と、具材を含む流動性食品の食感とが高いレベルで両立したものであることが判る。一方、脱アシル型ジェランガムに代えて、ネイティブ型ジェランガムを添加した比較例2は、凍結によるゲル破壊が発生しなかったので、流動性食品の喫食時に粘度を非常に強く感じ、食感が著しく低下して、食品の品質が改善できていないことも判る。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、具材を含む低粘度の流動性食品を製造する際に、低粘度に起因する製造時の不具合を回避し、操作性に優れ、しかも、製造された食品は、低粘度特有の良好な食味食感を有し、違和感なく喫食することができる。