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特許7539481基板処理方法、プログラム及び基板処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】基板処理方法、プログラム及び基板処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/285 20060101AFI20240816BHJP
   C23C 16/455 20060101ALI20240816BHJP
   H01L 21/28 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
H01L21/285 C
C23C16/455
H01L21/28 301R
H01L21/285 301
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022551456
(86)(22)【出願日】2020-09-23
(86)【国際出願番号】 JP2020035709
(87)【国際公開番号】W WO2022064550
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】318009126
【氏名又は名称】株式会社KOKUSAI ELECTRIC
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗林 幸永
(72)【発明者】
【氏名】水野 謙和
(72)【発明者】
【氏名】小川 有人
【審査官】早川 朋一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-029618(JP,A)
【文献】特開2019-044266(JP,A)
【文献】特開平10-183331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/285
H01L 21/28
C23C 16/455
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a1)板を第1の温度に調整する工程と、
2)前記基板に対してモリブデン含有ガスを供給する工程と、
3)前記基板に対して還元ガスを第1の時間供給する工程と、
4)(1)の後、(2)と(3)とを1回以上行うことにより、前記基板上に第1のモリブデン含有膜を形成する工程と、
1)(4)の後、前記還元ガスを前記基板に対して供給した状態で、前記基板を第2の温度に調整する工程と、
2)前記基板に対して前記モリブデン含有ガスを供給する工程と、
3)前記基板に対して前記還元ガスを第2の時間供給する工程と、
4)(1)の後、(2)と(3)とを1回以上行うことにより、前記第1のモリブデン含有膜の上に第2のモリブデン含有膜を形成する工程と、
を有する基板処理方法
【請求項2】
前記第2の温度は、前記第1の温度よりも高く、前記第2の時間は、前記第1の時間よりも短い請求項1記載の基板処理方法
【請求項3】
前記第2の温度は、550℃以上590℃以下である請求項1又は2記載の基板処理方法
【請求項4】
前記第1の温度は、445℃以上505℃以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の基板処理方法
【請求項5】
前記第1の時間は、10分以上30分以下であり、前記第2の時間は、10秒以上5分以下である請求項4記載の基板処理方法
【請求項6】
前記第2の温度と前記第2の時間との積は、前記第1の温度と前記第1の時間との積よりも小さくなるように、前記第1の温度、前記第2の温度、前記第1の時間及び前記第2の時間がそれぞれ設定される請求項1~5のいずれか1項に記載の基板処理方法
【請求項7】
1)は、不活性ガス雰囲気で行われる請求項1~6のいずれか1項に記載の基板処理方法
【請求項8】
前記不活性ガスは、希ガスである請求項7記載の基板処理方法
【請求項9】
前記希ガスは、アルゴンガスである請求項8記載の基板処理方法
【請求項10】
前記還元ガスは、水素含有ガスである請求項記載の基板処理方法
【請求項11】
前記水素含有ガスは、水素ガスである請求項10記載の基板処理方法
【請求項12】
1)は、(4)と(4)における圧力よりも高い圧力で行われる請求項1~11のいずれか1項に記載の基板処理方法
【請求項13】
(a1)基板を第1の温度に調整する工程と、
(a2)前記基板に対してモリブデン含有ガスを供給する工程と、
(a3)前記基板に対して還元ガスを第1の時間供給する工程と、
(a4)(a1)の後、(a2)と(a3)とを1回以上行うことにより、前記基板上に第1のモリブデン含有膜を形成する工程と、
(b1)(a4)の後、前記基板を第2の温度に調整する工程と、
(b2)前記基板に対して前記モリブデン含有ガスを供給する工程と、
(b3)前記基板に対して前記還元ガスを第2の時間供給する工程と、
(b4)(b1)の後、(b2)と(b3)とを1回以上行うことにより、前記第1のモリブデン含有膜の上に第2のモリブデン含有膜を形成する工程と、
1)では、前記第2の温度に調整する過程で、(2)と(3)とを1回以上行う工程と、
を有する基板処理方法
【請求項14】
(a1)板を第1の温度に調整する手順と、
2)前記基板に対してモリブデン含有ガスを供給する手順と、
3)前記基板に対して還元ガスを第1の時間供給する手順と、
4)(1)の後、(2)と(3)とを1回以上行うことにより、前記基板上に第1のモリブデン含有膜を形成する手順と、
1)(4)の後、前記還元ガスを前記基板に対して供給した状態で、前記基板を第2の温度に調整する手順と、
2)前記基板に対して前記モリブデン含有ガスを供給する手順と、
3)前記基板に対して前記還元ガスを第2の時間供給する手順と、
4)(1)の後、(2)と(3)とを1回以上行うことにより、前記第1のモリブデン含有膜の上に第2のモリブデン含有膜を形成する手順と、
をコンピュータにより基板処理装置に実行させるプログラム。
【請求項15】
基板にモリブデン含有ガスを供給するモリブデン含有ガス供給系と、
前記基板に還元ガスを供給する還元ガス供給系と、
(a1)前記基板を第1の温度に調整する処理と、
2)前記基板に対して前記モリブデン含有ガスを供給する処理と、
3)前記基板に対して前記還元ガスを第1の時間供給する処理と、
4)(1)の後、(2)と(3)とを1回以上行うことにより、前記基板上に第1のモリブデン含有膜を形成する処理と、
1)(4)の後、前記還元ガスを前記基板に対して供給した状態で、前記基板を第2の温度に調整する処理と、
2)前記基板に対して前記モリブデン含有ガスを供給する処理と、
3)前記基板に対して前記還元ガスを第2の時間供給する処理と、
4)(1)の後、(2)と(3)とを1回以上行うことにより、前記第1のモリブデン含有膜の上に第2のモリブデン含有膜を形成する処理と、
を行わせるように前記モリブデン含有ガス供給系及び前記還元ガス供給系を制御することが可能なように構成される制御部と、
を有する基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板処理方法、プログラム及び基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
3次元構造を持つNAND型フラッシュメモリやDRAMのワードラインとして例えば低抵抗なタングステン(W)膜が用いられている。また、このW膜と絶縁膜との間にバリア膜として例えば、窒化チタン(TiN)膜やモリブデン(Mo)膜を形成することがある(例えば特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-66263号公報
【文献】国際公開第2019/058608号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、下地膜上にMo含有ガスと還元ガスを用いてMo含有膜を形成する際、高温で成膜すると下地膜から下地膜に含まれる元素がMo含有膜に拡散される。一方、低温で成膜すると下地膜からの下地膜に含まれる元素の拡散は低減されるが、Mo含有ガスと還元ガスとの反応が遅く供給時間を長くしなければならない。
【0005】
本開示は、モリブデン含有膜の下地金属膜からの金属元素の拡散を抑制しつつ、生産性を向上させることが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様によれば、
(a)基板を処理室に収容する工程と、
(b1)前記基板を第1の温度に調整する工程と、
(b2)前記基板に対してモリブデン含有ガスを供給する工程と、
(b3)前記基板に対して還元ガスを第1の時間供給する工程と、
(b4)(b1)の後、(b2)と(b3)とを1回以上行うことにより、前記基板上に第1のモリブデン含有膜を形成する工程と、
(c1)(b4)の後、前記基板を第2の温度に調整する工程と、
(c2)前記基板に対して前記モリブデン含有ガスを供給する工程と、
(c3)前記基板に対して前記還元ガスを第2の時間供給する工程と、
(c4)(c1)の後、(c2)と(c3)とを1回以上行うことにより、前記第1のモリブデン含有膜の上に第2のモリブデン含有膜を形成する工程と、
を有する技術が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、モリブデン含有膜の下地金属膜からの拡散を抑制しつつ、生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施形態における基板処理装置の縦型処理炉の概略を示す縦断面図である。
図2図1におけるA-A線概略横断面図である。
図3】本開示の一実施形態における基板処理装置のコントローラの概略構成図であり、コントローラの制御系をブロック図で示す図である。
図4】本開示の一実施形態における基板処理工程を示す図である。
図5図5(A)は、基板上に第1のMo含有膜を形成する前の基板の断面を示す図であり、図5(B)は、基板上に第1のMo含有膜を形成した場合の基板の断面を示す図であり、図5(C)は、第1のMo含有膜上に第2のMo含有膜を形成した場合の基板の断面を示す図である。
図6】本開示の一実施形態における基板処理工程における第2のMo含有膜形成工程の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図1~5を参照しながら説明する。なお、以下の説明において用いられる図面は、いずれも模式的なものであり、図面に示される、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は、現実のものとは必ずしも一致していない。また、複数の図面の相互間においても、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は必ずしも一致していない。
【0010】
(1)基板処理装置の構成
基板処理装置10は、加熱手段(加熱機構、加熱系)としてのヒータ207が設けられた処理炉202を備える。ヒータ207は円筒形状であり、保持板としてのヒータベース(図示せず)に支持されることにより垂直に据え付けられている。
【0011】
ヒータ207の内側には、ヒータ207と同心円状に反応容器(処理容器)を構成するアウタチューブ203が配設されている。アウタチューブ203は、例えば石英(SiO2)、炭化シリコン(SiC)などの耐熱性材料で構成され、上端が閉塞し下端が開口した円筒形状に形成されている。アウタチューブ203の下方には、アウタチューブ203と同心円状に、マニホールド(インレットフランジ)209が配設されている。マニホールド209は、例えばステンレス(SUS)などの金属で構成され、上端及び下端が開口した円筒形状に形成されている。マニホールド209の上端部と、アウタチューブ203との間には、シール部材としてのOリング220aが設けられている。マニホールド209がヒータベースに支持されることにより、アウタチューブ203は垂直に据え付けられた状態となる。
【0012】
アウタチューブ203の内側には、反応容器を構成するインナチューブ204が配設されている。インナチューブ204は、例えば石英(SiO2)、炭化シリコン(SiC)などの耐熱性材料で構成され、上端が閉塞し下端が開口した円筒形状に形成されている。主に、アウタチューブ203と、インナチューブ204と、マニホールド209とにより処理容器(反応容器)が構成されている。処理容器の筒中空部(インナチューブ204の内側)には処理室201が形成されている。
【0013】
処理室201は、基板としてのウエハ200を後述するボート217によって水平姿勢で鉛直方向に多段に配列した状態で収容可能に構成されている。
【0014】
処理室201内には、ノズル410,420がマニホールド209の側壁及びインナチューブ204を貫通するように設けられている。ノズル410,420には、ガス供給管310,320が、それぞれ接続されている。ただし、本実施形態の処理炉202は上述の形態に限定されない。
【0015】
ガス供給管310,320には上流側から順に流量制御器(流量制御部)であるマスフローコントローラ(MFC)312,322がそれぞれ設けられている。また、ガス供給管310,320には、開閉弁であるバルブ314,324がそれぞれ設けられている。ガス供給管310,320のバルブ314,324の下流側には、不活性ガスを供給するガス供給管510,520がそれぞれ接続されている。ガス供給管510,520には、上流側から順に、流量制御器(流量制御部)であるMFC512,522及び開閉弁であるバルブ514,524がそれぞれ設けられている。
【0016】
ガス供給管310,320の先端部にはノズル410,420がそれぞれ連結接続されている。ノズル410,420は、L字型のノズルとして構成されており、その水平部はマニホールド209の側壁及びインナチューブ204を貫通するように設けられている。ノズル410,420の垂直部は、インナチューブ204の径方向外向きに突出し、かつ鉛直方向に延在するように形成されているチャンネル形状(溝形状)の予備室201aの内部に設けられており、予備室201a内にてインナチューブ204の内壁に沿って上方(ウエハ200の配列方向上方)に向かって設けられている。
【0017】
ノズル410,420は、処理室201の下部領域から処理室201の上部領域まで延在するように設けられており、ウエハ200と対向する位置にそれぞれ複数のガス供給孔410a,420aが設けられている。これにより、ノズル410,420のガス供給孔410a,420aからそれぞれウエハ200に処理ガスを供給する。このガス供給孔410a,420aは、インナチューブ204の下部から上部にわたって複数設けられ、それぞれ同一の開口面積を有し、さらに同一の開口ピッチで設けられている。ただし、ガス供給孔410a,420aは上述の形態に限定されない。例えば、インナチューブ204の下部から上部に向かって開口面積を徐々に大きくしてもよい。これにより、ガス供給孔410a,420aから供給されるガスの流量をより均一化することが可能となる。
【0018】
ノズル410,420のガス供給孔410a,420aは、後述するボート217の下部から上部までの高さの位置に複数設けられている。そのため、ノズル410,420のガス供給孔410a,420aから処理室201内に供給された処理ガスは、ボート217の下部から上部までに収容されたウエハ200の全域に供給される。ノズル410,420は、処理室201の下部領域から上部領域まで延在するように設けられていればよいが、ボート217の天井付近まで延在するように設けられていることが好ましい。
【0019】
ガス供給管310からは、処理ガスとして、原料ガスが、MFC312、バルブ314、ノズル410を介して処理室201内に供給される。
【0020】
ガス供給管320からは、処理ガスとして、還元ガスが、MFC322、バルブ324、ノズル420を介して処理室201内に供給される。
【0021】
ガス供給管510,520からは、不活性ガスとして、希ガスである例えばアルゴン(Ar)ガスが、それぞれMFC512,522、バルブ514,524、ノズル410,420を介して処理室201内に供給される。以下、不活性ガスとしてArガスを用いる例について説明するが、不活性ガスとしては、Arガス以外に、例えば、ヘリウム(He)ガス、ネオン(Ne)ガス、キセノン(Xe)ガス等の希ガスを用いてもよい。
【0022】
主に、ガス供給管310,320、MFC312,322、バルブ314,324、ノズル410,420により処理ガス供給系が構成されるが、ノズル410,420のみを処理ガス供給系と考えてもよい。処理ガス供給系は単にガス供給系と称してもよい。ガス供給管310からMo含有ガスを流す場合、主に、ガス供給管310、MFC312、バルブ314によりMo含有ガス供給系が構成されるが、ノズル410をMo含有ガス供給系に含めて考えてもよい。また、ガス供給管320から還元ガスを流す場合、主に、ガス供給管320、MFC322、バルブ324により還元ガス供給系が構成されるが、ノズル420を還元ガス供給系に含めて考えてもよい。また、主に、ガス供給管510,520、MFC512,522、バルブ514,524により不活性ガス供給系が構成される。不活性ガス供給系は希ガス供給系と称してもよい。
【0023】
本実施形態におけるガス供給の方法は、インナチューブ204の内壁と、複数枚のウエハ200の端部とで定義される円環状の縦長の空間内の予備室201a内に配置したノズル410,420を経由してガスを搬送している。そして、ノズル410,420のウエハと対向する位置に設けられた複数のガス供給孔410a,420aからインナチューブ204内にガスを噴出させている。より詳細には、ノズル410のガス供給孔410a、ノズル420のガス供給孔420aにより、ウエハ200の表面と平行方向に向かって処理ガス等を噴出させている。
【0024】
排気孔(排気口)204aは、インナチューブ204の側壁であってノズル410,420に対向した位置に形成された貫通孔であり、例えば、鉛直方向に細長く開設されたスリット状の貫通孔である。ノズル410,420のガス供給孔410a,420aから処理室201内に供給され、ウエハ200の表面上を流れたガスは、排気孔204aを介してインナチューブ204とアウタチューブ203との間に形成された隙間で構成された排気路206内に流れる。そして、排気路206内へと流れたガスは、排気管231内に流れ、処理炉202外へと排出される。
【0025】
排気孔204aは、複数のウエハ200と対向する位置に設けられており、ガス供給孔410a,420aから処理室201内のウエハ200の近傍に供給されたガスは、水平方向に向かって流れた後、排気孔204aを介して排気路206内へと流れる。排気孔204aはスリット状の貫通孔として構成される場合に限らず、複数個の孔により構成されていてもよい。
【0026】
マニホールド209には、処理室201内の雰囲気を排気する排気管231が設けられている。排気管231には、上流側から順に、処理室201内の圧力を検出する圧力検出器(圧力検出部)としての圧力センサ245,APC(Auto Pressure Controller)バルブ243,真空排気装置としての真空ポンプ246が接続されている。APCバルブ243は、真空ポンプ246を作動させた状態で弁を開閉することで、処理室201内の真空排気及び真空排気停止を行うことができ、更に、真空ポンプ246を作動させた状態で弁開度を調節することで、処理室201内の圧力を調整することができる。主に、排気孔204a,排気路206,排気管231,APCバルブ243及び圧力センサ245により、排気系が構成される。真空ポンプ246を排気系に含めて考えてもよい。
【0027】
マニホールド209の下方には、マニホールド209の下端開口を気密に閉塞可能な炉口蓋体としてのシールキャップ219が設けられている。シールキャップ219は、マニホールド209の下端に鉛直方向下側から当接されるように構成されている。シールキャップ219は、例えばSUS等の金属で構成され、円盤状に形成されている。シールキャップ219の上面には、マニホールド209の下端と当接するシール部材としてのOリング220bが設けられている。シールキャップ219における処理室201の反対側には、ウエハ200を収容するボート217を回転させる回転機構267が設置されている。回転機構267の回転軸255は、シールキャップ219を貫通してボート217に接続されている。回転機構267は、ボート217を回転させることでウエハ200を回転させるように構成されている。シールキャップ219は、アウタチューブ203の外部に垂直に設置された昇降機構としてのボートエレベータ115によって鉛直方向に昇降されるように構成されている。ボートエレベータ115は、シールキャップ219を昇降させることで、ボート217を処理室201内外に搬入及び搬出することが可能なように構成されている。ボートエレベータ115は、ボート217及びボート217に収容されたウエハ200を、処理室201内外に搬送する搬送装置(搬送系)として構成されている。
【0028】
基板支持具としてのボート217は、複数枚、例えば25~200枚のウエハ200を、水平姿勢で、かつ、互いに中心を揃えた状態で鉛直方向に間隔を空けて配列させるように構成されている。ボート217は、例えば石英やSiC等の耐熱性材料で構成される。ボート217の下部には、例えば石英やSiC等の耐熱性材料で構成される断熱板218が水平姿勢で多段(図示せず)に支持されている。この構成により、ヒータ207からの熱がシールキャップ219側に伝わりにくくなっている。ただし、本実施形態は上述の形態に限定されない。例えば、ボート217の下部に断熱板218を設けずに、石英やSiC等の耐熱性材料で構成される筒状の部材として構成された断熱筒を設けてもよい。
【0029】
図2に示すように、インナチューブ204内には温度検出器としての温度センサ263が設置されており、温度センサ263により検出された温度情報に基づきヒータ207への通電量を調整することで、処理室201内の温度が所望の温度分布となるように構成されている。温度センサ263は、ノズル410,420と同様にL字型に構成されており、インナチューブ204の内壁に沿って設けられている。
【0030】
図3に示すように、制御部(制御手段)であるコントローラ121は、CPU(Central Processing Unit)121a,RAM(Random Access Memory)121b,記憶装置121c,I/Oポート121dを備えたコンピュータとして構成されている。RAM121b,記憶装置121c,I/Oポート121dは、内部バスを介して、CPU121aとデータ交換可能なように構成されている。コントローラ121には、例えばタッチパネル等として構成された入出力装置122が接続されている。
【0031】
記憶装置121cは、例えばフラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)等で構成されている。記憶装置121c内には、基板処理装置の動作を制御する制御プログラム、後述する半導体装置の製造方法の手順や条件などが記載されたプロセスレシピなどが、読み出し可能に格納されている。プロセスレシピは、後述する半導体装置の製造方法における各工程(各ステップ)をコントローラ121に実行させ、所定の結果を得ることができるように組み合わされたものであり、プログラムとして機能する。以下、このプロセスレシピ、制御プログラム等を総称して、単に、プログラムともいう。本明細書においてプログラムという言葉を用いた場合は、プロセスレシピ単体のみを含む場合、制御プログラム単体のみを含む場合、または、プロセスレシピ及び制御プログラムの組み合わせを含む場合がある。RAM121bは、CPU121aによって読み出されたプログラムやデータ等が一時的に保持されるメモリ領域(ワークエリア)として構成されている。
【0032】
I/Oポート121dは、上述のMFC312,322,512,522、バルブ314,324,514,524、圧力センサ245、APCバルブ243、真空ポンプ246、ヒータ207、温度センサ263、回転機構267、ボートエレベータ115等に接続されている。
【0033】
CPU121aは、記憶装置121cから制御プログラムを読み出して実行すると共に、入出力装置122からの操作コマンドの入力等に応じて記憶装置121cからレシピ等を読み出すように構成されている。CPU121aは、読み出したレシピの内容に沿うように、MFC312,322,512,522による各種ガスの流量調整動作、バルブ314,324,514,524の開閉動作、APCバルブ243の開閉動作及びAPCバルブ243による圧力センサ245に基づく圧力調整動作、温度センサ263に基づくヒータ207の温度調整動作、真空ポンプ246の起動及び停止、回転機構267によるボート217の回転及び回転速度調節動作、ボートエレベータ115によるボート217の昇降動作、ボート217へのウエハ200の収容動作等を制御するように構成されている。
【0034】
コントローラ121は、外部記憶装置(例えば、磁気テープ、フレキシブルディスクやハードディスク等の磁気ディスク、CDやDVD等の光ディスク、MO等の光磁気ディスク、USBメモリやメモリカード等の半導体メモリ)123に格納された上述のプログラムを、コンピュータにインストールすることにより構成することができる。記憶装置121cや外部記憶装置123は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体として構成されている。以下、これらを総称して、単に、記録媒体ともいう。本明細書において記録媒体は、記憶装置121c単体のみを含む場合、外部記憶装置123単体のみを含む場合、または、その両方を含む場合がある。コンピュータへのプログラムの提供は、外部記憶装置123を用いず、インターネットや専用回線等の通信手段を用いて行ってもよい。
【0035】
(2)基板処理工程
半導体装置(デバイス)の製造工程の一工程として、ウエハ200上に、例えば3DNANDのコントロールゲート電極として用いられるモリブデン(Mo)を含有するMo含有膜を形成する工程の一例について、図4及び図5(A)~図5(C)を用いて説明する。ここでは、図5(A)に示すように、表面に、非遷移金属元素であるアルミニウム(Al)が含まれた金属含有膜であり、金属酸化膜である酸化アルミニウム(AlO)膜が形成されたウエハ200を用いる。Mo含有膜を形成する工程は、上述した基板処理装置10の処理炉202を用いて実行される。以下の説明において、基板処理装置10を構成する各部の動作はコントローラ121により制御される。
【0036】
本実施形態による基板処理工程(半導体装置の製造工程)では、
(a)ウエハ200を処理容器内である処理室201に収容する工程と、
(b1)ウエハ200を第1の温度に調整する工程と、
(b2)ウエハ200に対してMo含有ガスを供給する工程と、
(b3)ウエハ200に対して還元ガスを第1の時間供給する工程と、
(b4)(b1)の後、(b2)と(b3)とを1回以上行うことにより、ウエハ200上に第1のMo含有膜を形成する工程と、
(c1)(b4)の後、ウエハ200を第2の温度に調整する工程と、
(c2)ウエハ200に対してMo含有ガスを供給する工程と、
(c3)ウエハ200に対して還元ガスを第2の時間供給する工程と、
(c4)(c1)の後、(c2)と(c3)とを1回以上行うことにより、第1のMo含有膜の上に第2のMo含有膜を形成する工程と、
を有する。
【0037】
なお、第2の温度は、第1の温度よりも高く、第2の時間は、第1の時間よりも短くする。
【0038】
本明細書において「ウエハ」という言葉を用いた場合は、「ウエハそのもの」を意味する場合や、「ウエハとその表面に形成された所定の層や膜等との積層体」を意味する場合がある。本明細書において「ウエハの表面」という言葉を用いた場合は、「ウエハそのものの表面」を意味する場合や、「ウエハ上に形成された所定の層や膜等の表面」を意味する場合がある。本明細書において「基板」という言葉を用いた場合も、「ウエハ」という言葉を用いた場合と同義である。
【0039】
(ウエハ搬入)
複数枚のウエハ200がボート217に装填(ウエハチャージ)されると、図1に示されているように、複数枚のウエハ200を支持したボート217は、ボートエレベータ115によって持ち上げられて、処理室201内に搬入(ボートロード)され、処理容器に収容される。この状態で、シールキャップ219はOリング220を介してアウタチューブ203の下端開口を閉塞した状態となる。
【0040】
(圧力調整および温度調整)
処理室201内、すなわち、ウエハ200が存在する空間が所望の圧力(真空度)となるように真空ポンプ246によって真空排気される。この際、処理室201内の圧力は、圧力センサ245で測定され、この測定された圧力情報に基づき、APCバルブ243がフィードバック制御される(圧力調整)。真空ポンプ246は、少なくともウエハ200に対する処理が完了するまでの間は常時作動させた状態を維持する。
【0041】
また、処理室201内が所望の温度となるようにヒータ207によって加熱される。この際、処理室201内が所望の温度分布となるように、温度センサ263が検出した温度情報に基づきヒータ207への通電量がフィードバック制御される(温度調整)。ヒータ207による処理室201内の加熱は、少なくともウエハ200に対する処理が完了するまでの間は継続して行われるが、後述する第1のMo含有膜形成工程が終了するまでの間は、ヒータ207の温度は、ウエハ200の温度が、第1の温度である445℃以上505℃以下の範囲内の温度となるような温度に調整して行われる。
【0042】
[第1のMo含有膜形成工程]
(Mo含有ガス供給、ステップS11)
バルブ314を開き、ガス供給管310内に原料ガスであるMo含有ガスを流す。Mo含有ガスは、MFC312により流量調整され、ノズル410のガス供給孔410aから処理室201内に供給され、排気管231から排気される。このとき、ウエハ200に対してMo含有ガスが供給される。このとき同時にバルブ514を開き、ガス供給管510内にArガス等の不活性ガスを流す。ガス供給管510内を流れたArガスは、MFC512により流量調整され、Mo含有ガスと一緒に処理室201内に供給され、排気管231から排気される。このとき、ノズル420内へのMo含有ガスの侵入を防止するために、バルブ524を開き、ガス供給管520内にArガスを流す。Arガスは、ガス供給管320、ノズル420を介して処理室201内に供給され、排気管231から排気される。
【0043】
このときAPCバルブ243を調整して、処理室201内の圧力を、例えば1~3990Paの範囲内の圧力であって、例えば1000Paとする。MFC312で制御するMo含有ガスの供給流量は、例えば0.1~1.0slm、好ましくは0.1~0.5slmの範囲内の流量とする。MFC512,522で制御するArガスの供給流量は、それぞれ例えば0.1~20slmの範囲内の流量とする。なお、本開示における「1~3990Pa」のような数値範囲の表記は、下限値および上限値がその範囲に含まれることを意味する。よって、例えば、「1~3990Pa」とは「1Pa以上3990Pa以下」を意味する。他の数値範囲についても同様である。
【0044】
このとき処理室201内に流しているガスはMo含有ガスとArガスのみである。ここで、原料ガスであるMo含有ガスとしては、モリブデン(Mo)と酸素(O)を含むモリブデン(Mo)含有ガスを用いることができる。Mo含有ガスとしては、例えば二酸化二塩化モリブデン(MoO2Cl2)ガス、四塩化酸化モリブデン(MoOCl4)ガス等を用いることができる。ここでは、Mo含有ガスとして、MoO2Cl2ガスを用いた場合について説明する。MoO2Cl2ガスの供給により、ウエハ200(表面の下地膜であるAlO膜)上にMo含有層が形成される。Mo含有層は、ClやOを含むMo層であってもよいし、MoO2Cl2の吸着層であってもよいし、それらの両方を含んでいてもよい。
【0045】
(残留ガス除去、ステップS12)
Mo含有ガスの供給を開始してから所定時間経過後であって例えば1~60秒後に、ガス供給管310のバルブ314を閉じて、Mo含有ガスの供給を停止する。つまり、Mo含有ガスをウエハ200に対して供給する時間は、例えば1~60秒とする。このとき排気管231のAPCバルブ243は開いたままとして、真空ポンプ246により処理室201内を真空排気し、処理室201内に残留する未反応もしくはMo含有層形成に寄与した後のMo含有ガスを処理室201内から排除する。すなわち、処理室201内をパージする。このときバルブ514,524は開いたままとして、Arガスの処理室201内への供給を維持する。Arガスはパージガスとして作用し、処理室201内に残留する未反応もしくはMo含有層形成に寄与した後のMo含有ガスを処理室201内から排除する効果を高めることができる。
【0046】
(還元ガス供給、ステップS13)
処理室201内の残留ガスを除去した後、バルブ324を開き、ガス供給管320内に、還元ガスを流す。還元ガスは、MFC322により流量調整され、ノズル420のガス供給孔420aから処理室201内に供給され、排気管231から排気される。このときウエハ200に対して、還元ガスが供給される。このとき同時にバルブ524を開き、ガス供給管520内にArガスを流す。ガス供給管520内を流れたArガスは、MFC522により流量調整される。Arガスは還元ガスと一緒に処理室201内に供給され、排気管231から排気される。このとき、ノズル410内への還元ガスの侵入を防止するために、バルブ514を開き、ガス供給管510内にArガスを流す。Arガスは、ガス供給管310、ノズル410を介して処理室201内に供給され、排気管231から排気される。
【0047】
このときAPCバルブ243を調整して、処理室201内の圧力を、例えば1~3990Paの範囲内の圧力であって、例えば2000Paとする。MFC322で制御する還元ガスの供給流量は、例えば1~50slm、好ましくは15~30slmの範囲内の流量とする。MFC512,522で制御するArガスの供給流量は、それぞれ例えば0.1~30slmの範囲内の流量とする。このとき還元ガスをウエハ200に対して供給する時間は、第1の時間である5分以上30分以下の範囲内の時間であって、例えば20分とする。還元ガスをウエハ200に対して供給する時間を5分以上とすることによりウエハ200に吸着したMo含有ガスを還元することができ、30分以下とすることによりスループットを向上させ、生産性を確保することができる。
【0048】
このとき処理室201内に流しているガスは、還元ガスとArガスのみである。ここで、還元ガスとしては、例えば水素(H)含有ガスである水素(H2)ガス、重水素(D2)ガス、活性化した水素を含むガス等を用いることができる。ここでは、還元ガスとしてH2ガスを用いた場合を例に説明する。H2ガスは、ステップS11でウエハ200上に形成されたMo含有層の少なくとも一部と置換反応する。すなわち、Mo含有層中のOや塩素(Cl)が、H2と反応し、Mo層から脱離して、水蒸気(H2O)や塩化水素(HCl)や塩素(Cl2)等の反応副生成物として処理室201内から排出される。そして、ウエハ200上にMoを含みClとOを実質的に含まないMo含有層が形成される。
【0049】
(残留ガス除去、ステップS14)
Mo含有層を形成した後、バルブ324を閉じて、還元ガスの供給を停止する。
そして、上述したステップS12と同様の処理手順により、処理室201内に残留する未反応もしくはMo含有層の形成に寄与した後の還元ガスや反応副生成物を処理室201内から排除する。すなわち、処理室201内をパージする。
【0050】
(所定回数実施)
上記したステップS11~ステップS14を順に行うサイクルを少なくとも1回以上(所定回数(n回))行うことにより、図5(B)に示すように、AlO膜が形成されたウエハ200上に、所定の厚さ(例えば1~5nm)の第1のMo含有膜を形成する。上述のサイクルは、複数回繰り返すのが好ましい。
【0051】
ここで、ウエハ200の温度を445℃より低い温度又は505℃より高い温度で加熱して形成されたMo含有膜は、ウエハ200の温度を445℃以上505℃以下の範囲内の温度に加熱して形成されたMo含有膜と比較してMo含有膜の膜表面の表面ラフネス(表面粗さ)が悪化する。また、ウエハ200の温度を445℃より低い温度又は505℃より高い温度で加熱して形成されたMo含有膜は、ウエハ200の温度を445℃以上505℃以下の範囲内の温度に加熱して形成されたMo含有膜と比較して膜中への下地のAlO膜からのAlの拡散が増加する。これは、445℃より低い温度では、上述したステップS13におけるH2ガス供給による還元が不完全なものとなり、Mo含有ガスが十分に還元されず、MoOxClyが生成され、MoOxClyにより、下地のAlO膜や形成されたMo含有膜がアタックされてしまうためであると考えられる。ここで本開示における「アタック」とは還元を意味する。また、505℃より高い温度では、ステップS13における還元ガス供給により反応副生成物として生成されたHClにより下地のAlO膜や形成されたMo含有膜がアタックされてしまうためであると考えられる。
【0052】
つまり、上述した第1のMo含有膜形成工程において、ウエハ200を445℃以上505℃以下の範囲内の温度に設定して表面にAlO膜が形成されたウエハ200上に第1のMo含有膜を形成することにより、Mo含有膜中への下地AlO膜からのAlの拡散を抑制することができる。すなわち、第1のMo含有膜は、下地AlO膜からのAlの拡散を抑制可能な膜であり、低抵抗な膜となる。また、第1のMo含有膜は、表面ラフネスの平均粗さRaが1.0nm以下の表面ラフネスが良好な平坦な膜となる。
【0053】
(圧力調整および温度調整)
ウエハ200上に所定厚さの第1のMo含有膜を形成した後、ガス供給管510,520のそれぞれから不活性ガスであり、希ガスであるArガスを処理室201内へ供給し、排気管231から排気する。Arガスはパージガスとして作用し、これにより処理室201内が不活性ガスでパージされ、処理室201内に残留するガスや反応副生成物が処理室201内から除去される。その後、処理室201内の雰囲気が不活性ガスに置換され(不活性ガス置換)、不活性ガス雰囲気下で、処理室201内の圧力は、圧力センサ245で測定され、この測定された圧力情報に基づき、APCバルブ243がフィードバック制御される(圧力調整)。このときAPCバルブ243を調整して、処理室201内の圧力を、少なくとも第1のMo含有膜形成工程における圧力と後述する第2のMo含有膜形成工程における圧力よりも高い圧力であって、例えば大気圧とする。このように処理室201内の圧力を成膜工程における圧力よりも上昇させることで、熱伝導率を高め、昇温時間を短くすることができる。なお、ここでの圧力は、熱伝導率を高めるため、大気圧近くまで上昇させてもよい。また、この工程において、希ガスを用いることにより、第1のMo含有膜の表面特性の変化を抑制することが可能となる。例えば、不活性ガスとして一般的に用いられる窒素(N2)ガスを用いた場合、第1のMo含有膜とN2が反応(吸着)することがあり、第1のMo含有膜の表面特性に影響を与えてしまう。一方で、Arガス等の希ガスを用いた場合、このような表面特性の変化を抑制することができる。
【0054】
また、このとき処理室201内が所望の温度となるようにヒータ207によって加熱される。この際、処理室201内が所望の温度分布となるように、温度センサ263が検出した温度情報に基づきヒータ207への通電量がフィードバック制御される(温度調整)。以下において、ヒータ207の温度は、ウエハ200の温度が、第1の温度より高い第2の温度である550℃以上590℃以下の範囲内の温度であって、例えば580℃となるような温度に設定して行う。つまり、後述する第2のMo含有膜形成工程が終了するまでの間は、ヒータ207の温度は、ウエハ200の温度が、第2の温度である550℃以上590℃以下の範囲内の温度であって、例えば580℃となるような温度に調整して行われる。
【0055】
なお、このとき不活性ガスとしてN2ガスを用いた場合、ウエハ200上に形成された第1のMo含有膜が窒化されてしまう。本開示では、不活性ガスとしてArガスを用いることで、第1のMo含有膜の表面状態を変化させずにウエハ200を昇温させることができる。また、このとき、還元ガスを用いて昇温してもよい。すなわち、ウエハ200を還元雰囲気で、第1の温度から第2の温度に昇温させる。このように還元雰囲気で昇温することにより、第1のMo含有膜に含まれた副生成物や不純物を除去しながら、昇温させることができる。すなわち、昇温中に、アニール処理を行うことができる。アニール処理を行うことにより、少なくとも第1のMo含有膜表面に吸着した副生成物や不純物を除去することが可能となる。
【0056】
[第2のMo含有膜形成工程]
(Mo含有ガス供給、ステップS21)
バルブ314を開き、ガス供給管310内に原料ガスであるMo含有ガスを流す。なお、第2のMo含有膜形成工程で用いられるMo含有ガスは、上述の第1のMo含有膜形成工程で用いられたMo含有ガスと同じガスであってもよいし、異なる種類のMo含有ガスであってもよい。Mo含有ガスは、MFC312により流量調整され、ノズル410のガス供給孔410aから処理室201内に供給され、排気管231から排気される。このとき、ウエハ200に対してMo含有ガスが供給される。このとき同時にバルブ514を開き、ガス供給管510内にArガス等の不活性ガスを流す。ガス供給管510内を流れたArガスは、MFC512により流量調整され、Mo含有ガスと一緒に処理室201内に供給され、排気管231から排気される。このとき、ノズル420内へのMo含有ガスの侵入を防止するために、バルブ524を開き、ガス供給管520内にArガスを流す。Arガスは、ガス供給管320、ノズル420を介して処理室201内に供給され、排気管231から排気される。
【0057】
このときAPCバルブ243を調整して、処理室201内の圧力を、例えば1~3990Paの範囲内の圧力であって、例えば1000Paとする。MFC312で制御するMo含有ガスの供給流量は、例えば0.1~1.0slm、好ましくは0.1~0.5slmの範囲内の流量とする。MFC512,522で制御するArガスの供給流量は、それぞれ例えば0.1~20slmの範囲内の流量とする。
【0058】
このとき処理室201内に流しているガスはMo含有ガスとArガスのみである。ここでは、Mo含有ガスとして、MoO2Cl2ガスを用いた場合を例に説明する。Mo含有ガスとしてのMoO2Cl2ガスの供給により、ウエハ200(表面の第1のMo含有膜)上にMo含有層が形成される。Mo含有層は、ClやOを含むMo層であってもよいし、MoO2Cl2の吸着層であってもよいし、それらの両方を含んでいてもよい。
【0059】
(残留ガス除去、ステップS22)
Mo含有層を形成した後、バルブ314を閉じて、Mo含有ガスの供給を停止する。
そして、上述したステップS12と同様の処理手順により、処理室201内に残留する未反応もしくはMo含有層形成に寄与した後のMo含有ガスや反応副生成物を処理室201内から排除する。すなわち、処理室201内をパージする。
【0060】
(還元ガス供給、ステップS23)
処理室201内の残留ガスを除去した後、バルブ324を開き、ガス供給管320内に、還元ガスを流す。還元ガスは、MFC322により流量調整され、ノズル420のガス供給孔420aから処理室201内に供給され、排気管231から排気される。このときウエハ200に対して、還元ガスが供給される。このとき同時にバルブ524を開き、ガス供給管520内にArガスを流す。ガス供給管520内を流れたArガスは、MFC522により流量調整される。Arガスは還元ガスと一緒に処理室201内に供給され、排気管231から排気される。このとき、ノズル410内への還元ガスの侵入を防止するために、バルブ514を開き、ガス供給管510内にArガスを流す。Arガスは、ガス供給管310、ノズル410を介して処理室201内に供給され、排気管231から排気される。
【0061】
このときAPCバルブ243を調整して、処理室201内の圧力を、例えば1~3990Paの範囲内の圧力であって、例えば2000Paとする。MFC322で制御する還元ガスの供給流量は、例えば1~50slm、好ましくは15~30slmの範囲内の流量とする。MFC512,522で制御するArガスの供給流量は、それぞれ例えば0.1~30slmの範囲内の流量とする。ここで、還元ガスとしてH2ガスを用いる場合、H2ガスをウエハ200に対して供給する時間は、第1の時間よりも短い第2の時間である10秒以上5分以下の範囲内の時間であって、例えば1分とする。このとき、H2ガスをウエハ200に対して供給する時間を10秒以上とすることによりウエハ200に吸着したMo含有ガスの還元を促進することができ、5分以下とすることにより生産性を確保することができる。
【0062】
このとき処理室201内に流しているガスは、H2ガスとArガスのみである。H2ガスは、ステップS21でウエハ200上に形成されたMo含有層の少なくとも一部と置換反応する。すなわち、Mo含有層中のOやClが、H2と反応し、Mo層から脱離して、水蒸気(H2O)や塩化水素(HCl)や塩素(Cl2)等の反応副生成物として処理室201内から排出される。そして、ウエハ200上にMoを含みClとOを実質的に含まないMo含有層が形成される。
【0063】
ここで、ウエハ200の温度を550℃より低い温度とすると、本ステップにおけるH2ガス供給による還元が不完全なものとなる。具体的には、Mo含有膜中のOやCl等が残留した膜が形成されてしまう。また、ウエハ200の温度を590℃よりも高くすると、本ステップにおけるH2ガス供給により生成された反応副生成物によりMoの吸着が阻害され、成膜速度が遅くなる。また、膜の抵抗率が上昇してしまう。
【0064】
つまり、ウエハ200の550℃以上590℃以下の範囲内の温度にする調整は、還元ガスであるH2ガスをウエハ200に対して供給した状態で行われ、ウエハ200の温度を550℃以上590℃以下の範囲内の温度に調整された状態でH2ガスを供給することにより、H2ガス供給による還元が促進されて反応性が向上される。よって、Moの吸着が促進されて成膜速度が速くなる。また、ウエハ200の温度を550℃以上590℃以下の範囲内の温度に昇温した状態で、H2ガスを供給することにより、第1のMo含有膜中に残留したOやCl等が還元され、第1のMo含有膜中からOやCl等を除去することが可能となり、低抵抗なMo含有膜を形成することができる。
【0065】
(残留ガス除去、ステップS24)
Mo層を形成した後、バルブ324を閉じて、還元ガスの供給を停止する。
そして、上述したステップS14と同様の処理手順により、処理室201内に残留する未反応もしくはMo層の形成に寄与した後の還元ガスや反応副生成物を処理室201内から排除する。すなわち、処理室201内をパージする。
【0066】
(所定回数実施)
上記したステップS21~ステップS24を順に行うサイクルを少なくとも1回以上(所定回数(m回))行うことにより、図5(C)に示すように、第1のMo含有膜が形成されたウエハ200上に、所定の厚さ(例えば10~20nm)の第2のMo含有膜を形成する。すなわち、第1のMo含有膜上に、所定厚さの第2のMo含有膜を形成する。上述のサイクルは、複数回繰り返すのが好ましい。なお、本工程により形成される第2のMo含有膜は、下地のAlO膜とは接しておらず、下地のAlO膜からのAlの拡散が抑制可能な第1のMo含有膜上に形成されるため、第2のMo含有膜は、Alの拡散が抑制可能な膜となる。
【0067】
(アフターパージおよび大気圧復帰)
ガス供給管510,520のそれぞれからArガスを処理室201内へ供給し、排気管231から排気する。Arガスはパージガスとして作用し、これにより処理室201内が不活性ガスでパージされ、処理室201内に残留するガスや反応副生成物が処理室201内から除去される(アフターパージ)。その後、処理室201内の雰囲気が不活性ガスに置換され(不活性ガス置換)、処理室201内の圧力が常圧に復帰される(大気圧復帰)。
【0068】
(ウエハ搬出)
その後、ボートエレベータ115によりシールキャップ219が下降されて、アウタチューブ203の下端が開口される。そして、処理済ウエハ200がボート217に支持された状態でアウタチューブ203の下端からアウタチューブ203の外部に搬出(ボートアンロード)される。その後、処理済のウエハ200は、ボート217より取り出される(ウエハディスチャージ)。
【0069】
ここで、上述した第1のMo含有膜形成工程におけるウエハの温度(第1の温度)と還元ガスの供給時間(第1の時間)との積は、450℃×20分=9000℃・分である。また、上述した第2のMo含有膜形成工程におけるウエハの温度(第2の温度)と還元ガスの供給時間(第2の時間)との積は、580℃×1分=580℃・分である。すなわち、第2のMo含有膜形成工程における第2の温度と第2の時間との積が、第1のMo含有膜形成工程における第1の温度と第1の時間との積よりも小さくなるように、それぞれの温度と時間が設定される。これにより、スループットを向上させることができる。
【0070】
すなわち、本開示における基板処理工程では、第1のMo含有膜形成工程によって、表面にAlO膜が形成されたウエハ200上に、下地AlO膜からのAlの拡散を抑制した第1のMo含有膜を形成し、その後に、第2のMo含有膜形成工程によって、表面に第1のMo含有膜が形成されたウエハ200上に、昇温により還元ガスとの反応性を高めて速い成長速度で第2のMo含有膜を形成する。すなわち、表面にAlO膜が形成されたウエハ200上に第1のMo含有膜と第2のMo含有膜により構成されたMo含有膜を形成する。これにより、下地金属膜からの金属元素の拡散を抑制しつつ、生産性を向上させることができるMo含有膜を形成することが可能となる。
【0071】
(3)本実施形態による効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を得ることができる。
(a)Mo含有膜中への下地金属膜からの金属元素の拡散を抑制しつつ、生産性を向上させることが可能となる。
(b)表面ラフネスの良好な第1のMo含有膜上に第2のMo含有膜を形成することができる。つまり、平坦性を有する第1のMo含有膜上に第2のMo含有膜を形成することにより、被覆率を向上させることができる。すなわち、3DNANDのコントロールゲート電極に用いられるMo含有膜の埋め込み性能を向上させることができる。
(c)OやCl等が低減されたMo含有膜を形成することができる。
(d)抵抗率の低いMo含有膜を形成することができる。
【0072】
(4)他の実施形態
以上、本開示の実施形態を具体的に説明した。しかしながら、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0073】
図6は、上述した第2のMo含有膜形成工程の変形例を示す図である。すなわち、上述した第1のMo含有膜形成工程を行って、ウエハ200上に第1のMo含有膜を形成し、ウエハの温度を昇温した後、第2のMo含有膜形成工程を複数回行う際に、第2のMo含有膜形成工程のサイクル数を重ねる度に、ウエハの温度を昇温させつつ、ステップS23における還元ガスの供給時間を短くする。この場合であっても、上述の図4に示した基板処理工程と同様の効果が得られる。
【0074】
なお、上記実施形態では、Mo含有ガスとしてMoO2Cl2ガスを用いる場合を例にして説明したが、本開示はこれに限定されるものではない。
【0075】
また、上記実施形態では、還元ガスとしてH2ガスを用いる場合を例にして説明したが、本開示はこれに限定されるものではない。
【0076】
また、上記実施形態では、第2のMo含有膜形成工程の前に圧力調整及び温度調整工程を行う場合を例に説明したが、圧力調整及び温度調整工程と、第2のMo含有膜形成工程を一部並行して行わせてもよい。このように行うことで、圧力調整及び温度調整工程においてもMo含有膜を形成することが可能となり、膜厚を増加させることができる。即ち、製造スループットを向上できる可能性がある。このような形態は、特に、ウエハ200を一枚ずつ処理する枚葉式の基板処理装置で有効である。枚葉式の基板処理装置では、ウエハ200を一枚ずつ温度調整工程を行う必要があり、スループットが低下してしまうからである。
【0077】
また、上記実施形態では、一度に複数枚の基板を処理するバッチ式の縦型装置である基板処理装置を用いて成膜する例について説明したが、本開示はこれに限定されず、一度に1枚または数枚の基板を処理する枚葉式の基板処理装置を用いて成膜する場合にも、好適に適用できる。
【0078】
以下、実施例について説明するが、本開示はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0079】
(5)実施例
(実施例1)
本実施例に係る基板処理工程を用いて基板上にMo含有膜を形成した場合と、比較例に係る基板処理工程を用いて基板上にMo含有膜を形成した場合のスループットを比較した。
【0080】
本実施例では、表面にAlO膜が形成されたウエハ200に対して、450℃で上述の第1のMo含有膜形成工程を25サイクル行った後、580℃に昇温して上述の第2のMo含有膜形成工程を264サイクル行って、2段階でウエハ200上に200ÅのMo含有膜を形成した。還元ガスの供給時間は、第1のMo含有膜形成工程では20分、第2のMo含有膜形成工程では1分とした。
【0081】
比較例では、表面にAlO膜が形成されたウエハ200に対して、450℃で上述の第1のMo含有膜形成工程を300サイクル行って、ウエハ200上に200Åの膜厚のMo含有膜を形成した。還元ガスの供給時間は20分とした。
【0082】
本実施例に係る基板処理工程を用いてウエハ上にMo含有膜を形成した場合のスループットは、比較例に係る基板処理工程を用いてウエハ上にMo含有膜を形成した場合の約3倍であった。
【0083】
すなわち、本実施例に係る基板処理工程によりウエハ上にMo含有膜を形成することにより、比較例に係る基板処理工程によりウエハ上にMo含有膜を形成した場合と比較して、スループットが3倍以上となり、1時間当たりのウエハの処理枚数が増加した。すなわち、3倍以上の生産性の改善が見込めることが確認された。
【0084】
(実施例2)
次に、二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometry、略称:SIMS)を用いて、本実施例及び比較例に係る基板処理工程によりそれぞれ形成されたMo含有膜中に含まれる各元素の深さ方向の分布を分析した。
【0085】
比較例では、表面にAlO膜が形成されたウエハ200に対して、550℃で上述の第1のMo含有膜形成工程を250サイクル行ってウエハ200上にMo含有膜を形成した。
【0086】
本実施例に係る基板処理工程によりウエハ上に形成されたMo含有膜は、下地のAlO膜からの拡散が抑制されていることが確認された。
【0087】
また、比較例に係る基板処理工程によりウエハ上に形成されたMo含有膜は、Mo含有膜中の表面付近までAlが拡散され、Moの吸着を阻害するClやOも存在していることが確認された。
【0088】
すなわち、本実施例に係る基板処理工程のように450℃でMo含有膜を形成した後に580℃に昇温して形成されたMo含有膜は、一律に550℃で加熱して形成されたMo含有膜と比較して、下地のAlO膜からのAlの拡散が抑制されていることが確認され、本実施例に係る基板処理工程を用いて下地AlO膜上にMo含有膜を形成することにより、下地AlO膜からのAlの拡散が抑制されることが確認された。
【0089】
(実施例3)
ウエハ200の温度が450℃、475℃、500℃となるようにそれぞれ加熱して形成されたMo含有膜中のAlの深さ方向の強度分布を比較した。
【0090】
その結果、ウエハを450℃に加熱して形成されたMo含有膜は、下地のAlO膜との界面から約2.5nmまでAlが拡散されていることが確認された。また、ウエハを475℃に加熱して形成されたMo含有膜は、下地のAlO膜との界面から約3nmまでAlが拡散されていることが確認された。また、ウエハを500℃に加熱して形成されたMo含有膜は、下地のAlO膜との界面から約5nmまでAlが拡散されていることが確認された。すなわち、基板処理工程におけるウエハの温度と、AlO膜上に形成される第1のMo含有膜の膜厚を調整することにより、Mo含有膜中の下地AlO膜からのAlの拡散を抑制できることが確認された。
【0091】
すなわち、上述した基板処理工程の第1のMo含有膜形成工程におけるヒータ207の温度を、ウエハ200の温度が445℃以上505℃以下の範囲内の温度となるように調整し、所定厚さの第1のMo含有膜を形成することにより、下地のAlO膜からの拡散が抑制されることが確認された。
【符号の説明】
【0092】
10 基板処理装置
121 コントローラ
200 ウエハ(基板)
201 処理室
図1
図2
図3
図4
図5
図6