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特許7539494ポリカーボネート組成物およびその成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】ポリカーボネート組成物およびその成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20240816BHJP
   C08G 65/331 20060101ALI20240816BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
C08L69/00
C08G65/331
G02B1/04
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022575287
(86)(22)【出願日】2021-10-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-06
(86)【国際出願番号】 KR2021014838
(87)【国際公開番号】W WO2022086231
(87)【国際公開日】2022-04-28
【審査請求日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】10-2020-0138515
(32)【優先日】2020-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0140283
(32)【優先日】2021-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】パン、ヒョン-ミン
(72)【発明者】
【氏名】コ、ウン
(72)【発明者】
【氏名】ソン、チョル-チュン
(72)【発明者】
【氏名】キム、チソン
(72)【発明者】
【氏名】チョン、チェミョン
(72)【発明者】
【氏名】チャン、ハンビット
(72)【発明者】
【氏名】ヨム、スキル
(72)【発明者】
【氏名】ホン、ムホ
(72)【発明者】
【氏名】ペ、チュンムン
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/083635(WO,A1)
【文献】特開平05-209120(JP,A)
【文献】特開昭64-022959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
C08G 65/331
G02B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート100重量部;
ピラン系化合物で末端キャッピングされたポリアルキレングリコール0.05~2.5重量部;
ホスファイト系酸化防止剤0.05~0.70重量部;および
ヒンダードフェノール系酸化防止剤0.005~0.15重量部を含むポリカーボネート組成物。
【請求項2】
前記ポリカーボネートは、重量平均分子量が14,000~50,000g/molである、請求項1に記載のポリカーボネート組成物。
【請求項3】
前記ピラン系化合物で末端キャッピングされたポリアルキレングリコールは、下記化学式1で表される、請求項1または2に記載のポリカーボネート組成物。
【化1】
(前記化学式1で、
1、R2およびR3は、それぞれ独立して、炭素数2~12のアルキレン基であり、
1およびA2は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のジヒドロピラニル基、または置換もしくは非置換のテトラヒドロピラニル基であり、
n1、n2およびn3は、0または正の整数であって、n1、n2およびn3の合計は4~50である。)
【請求項4】
前記A1およびA2は、それぞれ独立して、下記構造式で表される置換基のうちのいずれか一つである、請求項3に記載のポリカーボネート組成物。
【化2】
(前記構造式で、
m1は0~9の整数であり、m2およびm3は、それぞれ独立して、0~7の整数であり、m1、m2またはm3が2以上である場合、複数のR4、R5またはR6は互いに同一または異なり、
4、R5およびR6は、それぞれ独立して、ハロゲン、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基または-OCOR7であり、R7は炭素数1~6のアルキル基である。)
【請求項5】
前記ホスファイト系酸化防止剤は、下記化学式2で表されるスピロホスファイト系酸化防止剤を含む、請求項1~4のいずれかに記載のポリカーボネート組成物。
【化3】
(前記化学式2で、
8およびR9は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の炭素数1~30のアルキル基または置換もしくは非置換の炭素数6~30のアリール基である。)
【請求項6】
前記ホスファイト系酸化防止剤は、下記化学式2-1で表されるスピロホスファイト系酸化防止剤を含む、請求項1~5のいずれかに記載のポリカーボネート組成物。
【化4】
(前記化学式2-1で、
m4およびm5は、それぞれ独立して、0~5の整数であり、m4またはm5が2以上である場合、複数のR10またはR11は互いに同一または異なり、
10およびR11は、それぞれ独立して、炭素数6~30のアリールで置換もしくは非置換の炭素数1~12のアルキル基である。)
【請求項7】
前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、下記構造式で表される官能基を1以上含む、請求項1~6のいずれかに記載のポリカーボネート組成物。
【化5】
(前記構造式で、
m6は1~4の整数であり、m6が2以上である場合、複数のR12は互いに同一または異なり、
12は、それぞれ独立して、炭素数3~30の分枝鎖アルキル基である。)
【請求項8】
横、縦および厚さがそれぞれ60mm、40mmおよび3mmである試片を製造した時、ASTM E313に基づいて570nm~580nmの光に対して測定した黄色指数が0.30~0.70である、請求項1~7のいずれかに記載のポリカーボネート組成物。
【請求項9】
横、縦および厚さがそれぞれ150mm、80mmおよび4mmである試片を製造した時、前記試片の厚さに直角方向に380~780nmの光を照射して測定した長波長光透過率が80%~90%である、請求項1~8のいずれかに記載のポリカーボネート組成物。
【請求項10】
横、縦および厚さがそれぞれ150mm、80mmおよび4mmである試片を製造した時、前記試片の厚さに直角方向に380~780nmの光を照射してJIS Z 8722に基づいて測定した長波長光色調が3.00~6.50である、請求項1~9のいずれかに記載のポリカーボネート組成物。
【請求項11】
横、縦および厚さがそれぞれ60mm、40mmおよび3mmである試片を製造した時、前記試片のASTM E313に基づいて570nm~580nmの光に対して測定した初期黄色指数と、前記試片をIEC 60068-2-78条件に基づいて85℃、85%RHで7日間放置した後に測定された後期黄色指数との差で規定される長期色安定性が0~0.20である、請求項1~10のいずれかに記載のポリカーボネート組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載のポリカーボネート組成物を含む成形品。
【請求項13】
前記成形品は、光学用品である、請求項12に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年10月23日付韓国特許出願第10-2020-0138515号および2021年10月20日付韓国特許出願第10-2021-0140283号に基づいた優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として組み含まれる。
【0002】
本発明は、ポリカーボネート組成物およびその成形品に関する。
【背景技術】
【0003】
ポリカーボネートは、ビスフェノールAのような芳香族ジオール化合物とホスゲンのようなカーボネート前駆体とを縮重合して製造される。このように製造されたポリカーボネートは、優れた衝撃強度、寸法安定性、耐熱性および透明性などを有し、電気電子製品の外装材、自動車部品、建築素材、光学物品、衣類素材、医学用品など広範囲な分野に適用されている。特に、ポリカーボネートの透明な特性により光学部品関連分野でポリカーボネートの使用範囲が持続的に拡大していく傾向にある。
【0004】
一方、液晶表示装置に内装されている面状光源装置には導光板が備えられている。従来は導光板の材料としてポリメチルメタクリレートが使用されてきた。
【0005】
しかし、最近、自動車の電装化により自動車に備えられる液晶表示装置用導光板は、高い耐熱性および機械的強度を要求するという点から、既存の材料であるポリメチルメタクリレートを使用することに限界があった。
【0006】
そこで、ポリメチルメタクリレートと比較して耐熱性および機械的強度に優れたポリカーボネートへの転換が進められているが、ポリカーボネートは、ポリメチルメタクリレート水準の光透過率を示すことができないという問題がある。
【0007】
そこで、ポリカーボネートの光学特性を向上させるための各種方案が提案されているが、導光板材料としての要求を十分に充足できる方案はまだ提示されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、光透過率が高く、透明な成形品の提供が可能であり、優れた長期色調安定性を示すポリカーボネート組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、多様な変更を加えることができ、多様な形態を有することができるところ、特定の実施例を例示して下記で詳細に説明する。しかし、これは本発明を特定の開示形態に対して限定しようとするのではなく、本発明の思想および技術範囲に含まれる全ての変更、均等物乃至代替物を含むと理解されなければならない。
【0010】
それに先立ち、本明細書に使用される専門用語は、単に特定の具現例を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。そして、ここで使用される単数の形態は、文句がこれと明確に反対の意味を示さない限り、複数の形態も含む。
【0011】
以下、発明の具体的な具現例によるポリカーボネート組成物およびこれを含む成形品について説明する。
【0012】
[ポリカーボネート組成物]
発明の一具現例によれば、ポリカーボネート100重量部;ピラン系化合物で末端キャッピングされたポリアルキレングリコール0.05~2.5重量部;ホスファイト系酸化防止剤0.05~0.70重量部;およびヒンダードフェノール系酸化防止剤0.005~0.15重量部を含むポリカーボネート組成物が提供される。
【0013】
既存のポリカーボネートの光透過率を向上させるためにポリアルキレングリコールを添加する方法が試みられたが、ポリアルキレングリコールは、耐熱性が不充分でポリカーボネート組成物を高温で成形すれば成形品の光透過率が低下するという問題があった。
【0014】
そこで、本発明者らは、特定の化合物でポリアルキレングリコールの末端をキャッピングし、これを2種の特定の酸化防止剤と共にポリカーボネートに所定の含有量で配合することによって、光透過率が高く、透明な成形品を提供することができ、特に長期色安定性に優れた成形品を提供することができることを確認して本発明を完成した。
【0015】
以下、前記一具現例によるポリカーボネート組成物について詳細に説明する。
【0016】
(ポリカーボネート)
前記一具現例によるポリカーボネート組成物に含まれるポリカーボネートの種類は特に限定されない。前記ポリカーボネート組成物には本発明が属する技術分野に知られた多様なポリカーボネートが含まれ得る。
【0017】
非制限的な例として、前記ポリカーボネートは、芳香族ポリカーボネートであって、芳香族ジオール化合物とカーボネート前駆体の重合を通じて製造されるものであり得る。
【0018】
前記芳香族ジオール化合物の非制限的な例としては、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、ビスフェノールA、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタンおよびビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタンからなる群より選択された1種以上を例示することができる。
【0019】
また、前記カーボネート前駆体の非制限的な例としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、ジ-m-クレシルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ホスゲン、トリホスゲン、ジホスゲン、ブロモホスゲンおよびビスハロホルメートからなる群より選択された1種以上を例示することができる。
【0020】
前記芳香族ジオール化合物とカーボネート前駆体の重合は、界面重合で行われ得る。界面重合は、常圧と低い温度で重合反応が可能であり、分子量調節が容易である利点がある。また、前記界面重合は、一例として先重合(pre-polymerization)後にカップリング剤を投入した後、再び重合させる段階を含むことができ、この場合、高分子量のポリカーボネートを得ることができる。
【0021】
前記重合温度は、0℃~40℃、反応時間は10分~24時間が好ましい。また、反応中のpHは、9以上または11以上に維持することが好ましい。
【0022】
前記重合に使用することができる溶媒としては、当業界でポリカーボネートの重合に使用される溶媒であれば特に制限されず、一例としてジクロロメタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素を使用することができる。
【0023】
また、前記重合は、酸結合剤の存在下で行うことが好ましく、前記酸結合剤として水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物またはトリエチルアミン、ピリジンなどのアミン化合物を使用することができる。
【0024】
また、前記重合時にポリカーボネートの分子量調節のために、分子量調節剤の存在下で重合することが好ましい。前記分子量調節剤としてC1-20アルキルフェノールを使用することができ、その具体的な例としてp-tert-ブチルフェノール、p-クミルフェノール、デシルフェノール、ドデシルフェノール、テトラデシルフェノール、ヘキサデシルフェノール、オクタデシルフェノール、エイコシルフェノール、ドコシルフェノールまたはトリアコンチルフェノールが挙げられる。前記分子量調節剤は、重合開始前、重合開始中または重合開始後に投入することができる。前記分子量調節剤は、一例として前記芳香族ジオール化合物の総重量を100重量部とする時、0.01重量部以上、0、1重量部以上または1重量部以上であり、10重量部以下、6重量部以下、または5重量部以下で含まれ、この範囲内で所望の分子量を得ることができる。
【0025】
また、前記重合反応の促進のために、トリエチルアミン、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ-n-ブチルホスホニウムブロマイドなどの3次アミン化合物、4次アンモニウム化合物、4次ホスホニウム化合物などのような反応促進剤を追加的に使用することができる。
【0026】
前記ポリカーボネートは、重量平均分子量が14,000g/mol以上、15,000g/mol以上、16,000g/mol以上、17,000g/mol以上または18,000g/mol以上であり、50,000g/mol以下、45,000g/mol以下、40,000g/mol以下、35,000g/mol以下、30,000g/mol以下、または25,000g/mol以下であり得る。このような範囲内で良好な加工性および諸般物性を示すことができる。
【0027】
(ピラン系化合物で末端キャッピングされたポリアルキレングリコール)
既存のポリカーボネート組成物にポリアルキレングリコールを添加して光透過率を向上させようとする試みはあったが、ポリアルキレングリコールの耐熱性が劣悪であるため、高温成形後に得られる成形品の光透過率の向上効果は微々たる水準であった。
【0028】
しかし、前記一具現例によれば、ポリアルキレングリコールの末端ヒドロキシ基をピラン系化合物でキャッピングして高温成形後に得られる成形品の光透過率を向上させ、自動車に内蔵されるディスプレイの導光板などのように長時間高温に露出する部品に適用しても優れた色安定性を実現することができる。
【0029】
前記ピラン系化合物は、ポリアルキレングリコールの末端ヒドロキシ基と反応して安定したアセタール基を形成し、ポリアルキレングリコールの耐熱性を補強することができる。
【0030】
このようなピラン系化合物は、置換もしくは非置換のピランであるか、または置換もしくは非置換のジヒドロピランであり得る。
【0031】
また、前記ポリアルキレングリコールは、1種、2種以上あるいは3種以上のアルキレングリコールを反応させて得たものであり得、前記ポリアルキレングリコールに含まれているそれぞれのアルキレン基は、炭素数2~12のアルキレン基であり得る。
【0032】
このようなポリアルキレングリコールの末端ヒドロキシ基をピラン系化合物でキャッピングした化合物は、下記化学式1で表され得る。
【0033】
【化1】
【0034】
前記化学式1で、
1~R3は、それぞれ独立して、炭素数2~12のアルキレン基であり、
1およびA2は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のジヒドロピラニル基、または置換もしくは非置換のテトラヒドロピラニル基であり、
n1、n2およびn3は、0または正の整数であって、n1、n2およびn3の合計は4~50である。
【0035】
前記ピラン系化合物として置換もしくは非置換のピランを使用した場合には、A1およびA2は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のジヒドロピラニル基になり、前記ピラン系化合物として置換もしくは非置換のジヒドロピランを使用した場合には、A1およびA2は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のテトラヒドロピラニル基になる。また、前記化学式1のそれぞれの繰り返し単位は、ブロック形態で含まれるか、あるいは不規則的に含まれ得る。
【0036】
具体的に、前記R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、炭素数2~8のアルキレン基、炭素数2~6のアルキレン基または炭素数2~4のアルキレン基であり得る。より具体的に、前記R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、エチレン、プロピレンまたはブチレンであり得る。
【0037】
また、前記A1およびA2は、それぞれ独立して、下記構造式で表される置換基のうちのいずれか一つであり得る。
【0038】
【化2】
【0039】
前記構造式で、
m1は0~9の整数であり、m2およびm3は、それぞれ独立して、0~7の整数であり、m1、m2またはm3が2以上である場合、複数のR4、R5またはR6は互いに同一または異なり、R4、R5およびR6は、それぞれ独立して、ハロゲン、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基または-OCOR7であり、R7は炭素数1~6のアルキル基である。
【0040】
具体的に、前記A1およびA2は、前記構造式中のm1、m2およびm3がそれぞれ独立して0であるか、または1~3の整数であり、R4、R5およびR6がそれぞれ独立してフッ素、塩素、メチル、エチル、プロピル、メトキシ、エトキシまたは-OCOCH3である置換基であり得る。より具体的に、前記A1およびA2は、非置換のテトラヒドロピラニル基であり得る。
【0041】
前記n1、n2およびn3の合計は、4以上、6以上、8以上または10以上であり、50以下、40以下、35以下、または30以下であり得る。このような範囲内で適切な分子量のピラン系化合物で末端キャッピングされたポリアルキレングリコールを含むことができ、ポリカーボネートと優れた相溶性を示しながら所望の物性を実現することができる。
【0042】
前記ピラン系化合物で末端キャッピングされたポリアルキレングリコールは、ポリカーボネート100重量部に対して0.05重量部以上、0.07重量部以上または0.09重量部以上であり、2.5重量部以下、2.0重量部以下、または1.5重量部以下で含まれて、優れた色調安定性と光透過率を示すことができる。
【0043】
(酸化防止剤)
前記一具現例によるポリカーボネート組成物は、前記ピラン系化合物で末端キャッピングされたポリアルキレングリコールと共にホスファイト系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤を同時に含むことによって、光透過率が高く、透明な成形品を提供することができる。
【0044】
特に、前記ホスファイト系酸化防止剤は、下記化学式2で表されるスピロホスファイト系酸化防止剤を含むことができる。
【0045】
【化3】
【0046】
前記化学式2で、
8およびR9は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の炭素数1~30のアルキル基または置換もしくは非置換の炭素数6~30のアリール基である。
【0047】
具体的に、前記ホスファイト系酸化防止剤は、前記化学式2のR8およびR9がそれぞれ独立して炭素数8~30のアルキル基であるスピロホスファイト系酸化防止剤を含むか、あるいは下記化学式2-1で表されるスピロホスファイト系酸化防止剤を含むことができる。
【0048】
【化4】
【0049】
前記化学式2-1で、
m4およびm5は、それぞれ独立して、0~5の整数であり、m4またはm5が2以上である場合、複数のR10またはR11は互いに同一または異なり、
10およびR11は、それぞれ独立して、炭素数6~30のアリールで置換もしくは非置換の炭素数1~12のアルキル基である。
【0050】
前記化学式2のR8およびR9がそれぞれ独立して炭素数8~30のアルキル基であるスピロホスファイト系酸化防止剤の具体的な例としては、ジオクタデシルペンタエリスリトールジホスファイト(dioctadecylpentaerythritol diphosphite)などが挙げられ、前記化学式2-1のスピロホスファイト系酸化防止剤の具体的な例としては、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(bis(2,4-dicumylphenyl)pentaerythritol diphosphite)またはビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(bis(2,4-di-t-buylphenyl)pentaerythritol diphosphite)などが挙げられる。
【0051】
前記ホスファイト系酸化防止剤は、ポリカーボネート100重量部に対して0.05重量部以上、0.07重量部以上または0.10重量部以上であり、0.70重量部以下、0.50重量部以下、または0.30重量部以下で含まれて、優れた色調安定性と光透過率を示すことができる。
【0052】
一方、前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、下記構造式で表される官能基を1以上含むことができる。
【0053】
【化5】
【0054】
前記構造式で、
m6は1~4の整数であり、m6が2以上である場合、複数のR12は互いに同一または異なり、R12は、それぞれ独立して、炭素数3~30の分枝鎖アルキル基である。
【0055】
具体的に、前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、前記構造式のm6が2~4の整数または2であり、複数のR12がt-ブチルである官能基を1以上、2以上、3以上あるいは4以上含むことができる。
【0056】
より具体的に、前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼンおよびトリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレートからなる群より選択された1種以上であり得る。
【0057】
前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、ポリカーボネート100重量部に対して0.005重量部以上、0.010重量部以上、0.020重量部以上または0.030重量部以上であり、0.15重量部以下、0.10重量部以下、または0.08重量部以下で含まれて、優れた色調安定性と光透過率を示すことができる。
【0058】
(ポリカーボネート)
前記一具現例によるポリカーボネート組成物は、横、縦および厚さがそれぞれ60mm、40mmおよび3mmである試片を製造した時、ASTM E313に基づいて570nm~580nmの光に対して測定した黄色指数が0.30~0.70、0.40~0.68または0.50~0.65と低い値を有することができる。
【0059】
前記一具現例によるポリカーボネート組成物は、横、縦および厚さがそれぞれ150mm、80mmおよび4mmである試片を製造した時、前記試片の厚さに直角方向に380~780nmの光を照射して測定した長波長光透過率が80%~90%、82%~88%または83%~86%と高い値を有することができる。
【0060】
前記一具現例によるポリカーボネート組成物は、横、縦および厚さがそれぞれ150mm、80mmおよび4mmである試片を製造した時、試片の厚さに直角方向に380~780nmの光を照射してJIS Z 8722に基づいて測定した長波長光色調が3.00~6.50、4.00~6.00または5.00~5.80と低い値を有することができる。
【0061】
前記一具現例によるポリカーボネート組成物は、横、縦および厚さがそれぞれ60mm、40mmおよび3mmである試片を製造した時、ASTM E313に基づいて570nm~580nmの光に対して測定した初期黄色指数と、前記試片をIEC 60068-2-78条件に基づいて85℃、85%RH(相対湿度)で7日間放置した後に測定された後期黄色指数との差で規定される長期色安定性が0~0.20、0.01~0.15、0.02~0.10または0.03~0.09と低い値を有することができる。
【0062】
[樹脂成形品]
発明の他の一具現例によれば、前記ポリカーボネート組成物を含む成形品が提供される。
【0063】
前記成形品は、前述したポリカーボネート組成物を原料として使用して押出、射出、またはキャスティングなどの方法で成形して得られる物品である。前記成形方法およびその条件は、成形品の種類により適切に選択および調節され得る。
【0064】
非制約的な例として、前記成形品は、前記ポリカーボネート組成物を混合および押出成形してペレットで製造した後、前記ペレットを乾燥して射出する方法で得られる。
【0065】
前述したポリカーボネート組成物は、光透過率が高く、透明であり、特に長期色安定性に優れるため、これから製造された成形品は、多様な製品群に使用可能であり、特に、光学物品、ガンマレイで殺菌される医学物品への適用が容易である。具体的に、LCDディスプレイ用導光板、自動車用ランプ(Automotive Lamp)のライトガイト(Light guide)および各種ボタン類、LEDバックライト(Backlight)に透過されるキーボードキーキャップへの適用が容易であり、これに特に限定されるのではない。
【発明の効果】
【0066】
発明の一具現例によるポリカーボネート組成物は、特定の化合物で末端キャッピングされたポリアルキレングリコールが2種の特定の酸化防止剤と共にポリカーボネートに所定の含有量で配合されたものであって、光透過率が高く、透明であり、特に長期色安定性に優れた成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0067】
以下、発明の具体的な実施例を通じて発明の作用、効果をより具体的に説明する。ただし、これは発明の例示として提示されたものであり、これによって発明の権利範囲が如何なる意味でも限定されるのではない。
【0068】
(製造例1:DHP-末端キャッピングされたポリアルキレングリコール(B-1)の製造)
1.0kgのポリプロピレングリコール(polypropylene glycol Mn=1,000g/mol)と5.0g(0.02eq)のピリジニウムパラ-トルエンスルホン酸(pyridinium p-toluenesulfonate)を6.0Lのジクロロメタン(DCM)溶媒に溶解させ、加熱攪拌した後、336.5g(4.0eq)の3,4-ジヒドロピラン(3,4-dihydropyran、DHP)を徐々に滴加した。次いで、反応混合物を2時間加熱攪拌した後に常温で冷まし、5.0重量%の炭酸カリウム(K2CO3)水溶液6.0Lを入れて中和させた。有機層に無水硫酸マグネシウム(MgSO4)を添加して乾燥させ、減圧蒸留で残留する3,4-ジヒドロピランとDCMを除去した後、1.7kgのDHP-末端キャッピングされたポリアルキレングリコール(B-1)を製造した。
【0069】
(製造例2:DHP-末端キャッピングされたポリアルキレングリコール(B-2)の製造)
前記製造例1で、2.0kgのポリプロピレングリコール(polypropylene glycol Mn=2,000g/mol)を使用したことを除き、製造例1と同様な方法でDHP-末端キャッピングされたポリアルキレングリコール(B-2)を製造した。
【0070】
(製造例3:BGE-末端キャッピングされたポリアルキレングリコール(B-3)の製造)
2Lの三つ口フラスコ(Three-neck Flake)に数平均分子量1,000g/molであるポリプロピレングリコール(polypropylene glycol、PPG)1kgとKOH1g(0.1wt%)を投入した後、N2雰囲気で攪拌(stirring)しながら80℃まで温度を上げた。その後、ブチルグリシジルエテール(butylglycidyl ether)(BGE)300gを投入して2時間反応させた後、25℃に温度を下げた後、リン酸を投入して中和させ、残留物は減圧蒸留して除去してBGE-末端キャッピングされたポリアルキレングリコール(B-3)を製造した。
【0071】
(製造例4:DHP-末端キャッピングされたCHDMで始まったポリアルキレングリコール(B-4)の製造)
下記化学式aで表されるシクロヘキサンジメタノール(CHDM)で始まったポリプロピレングリコール(Mw=2000g/mol、ヒドロキシ数約45~60)300gをジヒドロピラン26.4gおよびp-トルエンスルホン酸(触媒)0.25gと共にシクロヘキサン約300mL中に導入した。反応温度を65℃に上げ、この温度で10時間維持した後に冷却させた。酸触媒を中和するために化学量論量のトリメチルアミンを添加し、得られた反応生成物をろ過した後、減圧蒸留して残留溶媒を除去してDHP-末端キャッピングされたCHDMで始まったポリアルキレングリコール(B-4)を製造した。
【0072】
【化6】
【0073】
(実施例1:ポリカーボネート組成物の製造)
ポリカーボネートとしてLG化学社で製造したLUPOY PC1080(重量平均分子量:19,500g/mol、A-1)100重量部、製造例1で製造したDHP-末端キャッピングされたポリアルキレングリコール(B-1)0.3重量部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤としてペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](pentaerythritol tetrakis[3-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)propionate])(Songwon社のSongnox 1010、C)0.05重量部およびホスファイト系酸化防止剤としてビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト (bis(2,4-dicumylphenyl)pentaerythritol diphosphite)(Dover Chem社のDoverphos 9228、D)0.15重量部を混合した後、2軸押出機(L/D=36、Ф=45、バレル温度240℃)に投入してペレット形態のポリカーボネート組成物を製造した。
【0074】
(実施例2~6および比較例1~12:ポリカーボネート組成物の製造)
前記実施例1で末端キャッピングされたポリアルキレングリコールと酸化防止剤を表1に記載された変性あるいは未変性ポリアルキレングリコールおよび酸化防止剤にその種類および/または含有量を変更したことを除き、実施例1と同様な方法でペレット形態のポリカーボネート組成物のサンプルを製造した。
【0075】
【表1】
【0076】
A-1:LG化学社のLUPOY PC1080(Mw=19,500g/mol)
A-2:LG化学社のLUPOY PC1300-30(Mw=21,500g/mol)
B-1:製造例1で製造したDHP-末端キャッピングされたポリアルキレングリコール
B-2:製造例2で製造したDHP-末端キャッピングされたポリアルキレングリコール
B-3:製造例3で製造したBGE-末端キャッピングされたポリアルキレングリコール
B-4:製造例4で製造したDHP-末端キャッピングされたCHDMで始まったポリアルキレングリコール
B-5:ポリプロピレングリコール(Mn=2,000g/mol、NOF Corp.のUniol-D)
B-6:ポリプロピレングリコール-コ-ポリテトラメチレングリコール(Mn=2,000g/mol、NOF Corp.のPolycerin DCB2000)
C:Songwon社のSongnox 1010
D:Dover Chem社のDoverphos 9228
【化7】
E:1,8-ナフトスルトン
【0077】
(試験例:ポリカーボネート組成物の物性評価)
本実施例の物性は、下記に記載された方法で測定し、その結果を表2に示した。
【0078】
1)重量平均分子量(Mw):Agilent 1200シリーズ(series)を利用して、PC標準(standard)を利用したGPCで測定した。
【0079】
2)数平均分子量(Mn):Agilent 1200シリーズ(series)を利用して、PS標準(standard)を利用したGPCで測定した。
【0080】
3)黄色指数(YI):実施例および比較例で製造したそれぞれのペレットをJSW(株)のN-20C射出成形機を使用してシリンダー温度250℃で滞留時間なしに射出成形して試片(横x縦x厚さ=60mmx40mmx3mm)を製造し、ASTM E313に基づいて570nm~580nmの光に対する黄色指数を測定した。
【0081】
4)長波長光透過率および長波長光色調:実施例および比較例で製造したそれぞれのペレットをJSW(株)のN-20C射出成形機を使用してシリンダー温度270℃で滞留時間なしに射出成形して試片(横x縦x厚さ=150mmx80mmx4mm)を製造し、Hitachi社の分光光度計(spectrophotometer)U-4100で厚さに直角方向に380~780nmの光を照射して長波長光透過率(Total transmitted light;Tt)および長波長光色調を測定した。前記長波長光色調はJIS Z 8722に基づいて測定した。
【0082】
5)長期色安定性:前記黄色指数を測定した試片をIEC 60068-2-78条件に基づいて85℃、85%RHで7日間放置した後、前記黄色指数の測定方法(ASTM E313)に基づいて同様に黄色指数を測定した。前記7日間放置した後に測定された黄色指数の値から初期黄色指数の値を引いた値を長期色安定性と規定した。
【0083】
【表2】
【0084】
前記表2を参照すれば、未添加ポリカーボネートの場合、光学特性が最も劣悪であることを確認することができ(比較例3)、変性あるいは未変性ポリアルキレングリコールが添加されない場合、8以上の長波長光色調および82%以下の長波長光透過率と0.10以上の長期色安定性を示すことが確認される(比較例4)。
【0085】
また、末端がキャッピングされていない未変性ポリアルキレングリコールを使用した場合にも、6以上の長波長光色調および83.20%未満の長波長光透過率を示したり(比較例1)、0.10以上の長期色安定性を示した(比較例2)。
【0086】
ただし、末端がDHPでキャッピングされたポリアルキレングリコールを使用しても過剰使用すれば、むしろ変性あるいは未変性ポリアルキレングリコールが添加されない場合よりも光学特性が劣悪になり(比較例5)、ヒンダードフェノール系酸化防止剤の含有量が発明の一具現例による含有量範囲を逸脱したり(比較例6および7)、あるいはホスファイト系酸化防止剤の含有量が発明の一具現例による含有量範囲を外れる場合(比較例8および9)、光学特性が劣悪になることが確認される。
【0087】
一方、BGE-末端キャッピングされたポリアルキレングリコールまたはDHP-末端キャッピングされたCHDMで始まったポリアルキレングリコールを使用した場合(比較例10および11)には、比較例3に比べて光学特性が若干向上するが、0.77以上の黄色指数、7.86以上の長波長光色調および79.53%以下の長波長光透過率と0.09以上の長期色安定性を示すことが確認される。
【0088】
一方、末端がDHPでキャッピングされたポリアルキレングリコールを含むが、ホスファイト系酸化防止剤およびヒンダードフェノール系酸化防止剤の代わりに1,8-ナフトスルトンを使用した場合(比較例12)、黄色指数および長波長光色調が大きい値を有し、長波長光透過率77%未満であり、長期色安定性が1以上であり、実施例に比べて顕著に低下される光学特性を示すことを確認することができた。
【0089】
したがって、発明の一具現例により特定の組成のポリカーボネート、末端キャッピングされたポリアルキレングリコール、ヒンダードフェノール系酸化防止剤およびホスファイト系酸化防止剤を含む場合に限り、優れた光学特性のポリカーボネート成形品を提供することができることが確認される。