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特許7539550UV-LED硬化用の、チオール系架橋剤を有する量子ドット調製物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】UV-LED硬化用の、チオール系架橋剤を有する量子ドット調製物
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/045 20160101AFI20240816BHJP
   C08F 2/46 20060101ALI20240816BHJP
   C08L 81/00 20060101ALI20240816BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20240816BHJP
   H01L 33/54 20100101ALI20240816BHJP
   H01L 33/56 20100101ALI20240816BHJP
【FI】
C08G75/045
C08F2/46
C08L81/00
H01L33/50
H01L33/54
H01L33/56
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023504594
(86)(22)【出願日】2021-07-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-15
(86)【国際出願番号】 US2021042367
(87)【国際公開番号】W WO2022020350
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】63/056,529
(32)【優先日】2020-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390040660
【氏名又は名称】アプライド マテリアルズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】APPLIED MATERIALS,INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】3050 Bowers Avenue Santa Clara CA 95054 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ルオ, インドン
(72)【発明者】
【氏名】ガナパティアッパン, シヴァパキア
(72)【発明者】
【氏名】チャン, ダイファ
(72)【発明者】
【氏名】ウン, ホウ ティ-.
(72)【発明者】
【氏名】パティバンドラ, ナグ ビー.
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-085568(JP,A)
【文献】特開2019-113759(JP,A)
【文献】特表2022-533202(JP,A)
【文献】特表2022-533504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 75/00-75/32
C08F 2/00-2/60
C08F 6/00-246/00
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
H01L 33/00
H01L 33/48-33/64
B82Y 5/00-99/00
G03F 7/004-7/04
G03F 7/06
G03F 7/075-115
G03F 7/16-7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
UV光又は可視光範囲における第2の波長帯域内で放射線を吸収することに応じて、可視光範囲における第1の波長帯域内で放射線を放出するように選択されたナノ材料であって、第2の波長帯域が第1の波長帯域とは異なる、ナノ材料;
1又は複数の(メタ)アクリレートモノマー;
モノチオールを含み、該モノチオールが、エタンチオール、プロパンチオール、ブタンチオール、ペンタンチオール、チオフェノール、チオ酢酸、グルタチオン、システイン、メルカプトエタノール、2-メルカプトインドール、フラン-2-イルメタンチオール、3-メルカプトプロパン-1,2-ジオール、3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸、1-ヘキサデカンチオール、又はペンタクロロベンゼンチオールを含む、チオール架橋剤;及び
第2の波長帯域内での放射線の吸収に応じて1又は複数の(メタ)アクリレートモノマーの重合を開始させる光開始剤、
を含む、光硬化性組成物。
【請求項2】
.1重量%~10重量%のナノ材料;
.5重量%~5重量%の光開始剤;
.1重量%~50重量%のチオール架橋剤;及び
重量%~90重量%の1又は複数の(メタ)アクリレートモノマー
を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
更に溶媒を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
.1重量%~10重量%のナノ材料;
.5重量%~5重量%の光開始剤;
.1重量%~50重量%のチオール架橋剤;
重量%~10重量%の1又は複数の(メタ)アクリレートモノマー;及び
0重量%~90重量%の溶媒
を含む、請求項に記載の組成物。
【請求項5】
ナノ材料が1又は複数のIII~V族化合物を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
ナノ材料が量子ドットを含む、請求項に記載の組成物。
【請求項7】
各量子ドットが、量子ドットの外面に結合された1又は複数のリガンドを含み、該リガンドが、チオアルキル化合物及びカルボキシアルカンから成る群から選択される、請求項に記載の組成物。
【請求項8】
ナノ材料が、赤色、緑色、又は青色の光を放出する、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
チオール架橋剤が、酸素によるペルオキシラジカルの形成を阻害するのに充分な濃度のものであり、これによって、第2の波長帯域内での放射線の吸収に応じた1又は複数の(メタ)アクリレートモノマーの重合が、フォトポリマーの深さ全体にわたって硬化割合が少なくとも70%であるフォトポリマーをもたらす、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
発光デバイスであって、該発光デバイスは、
複数の発光ダイオード;及び
表面と接触している硬化した組成物であって、該表面を通じて、UV光又は可視光範囲における第の波長帯域内での放射線が、各発光ダイオードから放出される、硬化した組成物;
を備え、
前記硬化した組成物が、
各発光ダイオードから第の波長帯域内で放射線を吸収することに応じて、可視光範囲における第の波長帯域内で放射線を放出するように選択されたナノ材料;及び
チオール架橋剤を含むフォトポリマーであって、ナノ材料が埋め込まれているフォトポリマー、
を含有し、チオール架橋剤がモノチオールを含み、該モノチオールが、エタンチオール、プロパンチオール、ブタンチオール、ペンタンチオール、チオフェノール、チオ酢酸、グルタチオン、システイン、メルカプトエタノール、2-メルカプトインドール、フラン-2-イルメタンチオール、3-メルカプトプロパン-1,2-ジオール、3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸、1-ヘキサデカンチオール、又はペンタクロロベンゼンチオールを含む、発光デバイス。
【請求項11】
フォトポリマーの上部硬化割合が少なくとも70%である、請求項10に記載の発光デバイス。
【請求項12】
フォトポリマーが、第の波長帯域内で少なくとも0.6J/cm2の照射量の吸収により硬化される、請求項10に記載の発光デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本開示は概して、UV-LED硬化用のチオール系架橋剤を含有する、発光デバイス用の色変換層に関する。
【0002】
背景技術
発光ダイオード(LED)パネルは、LEDのアレイ(個々のLEDは、個別に制御可能なピクセル素子をもたらす)を使用する。このようなLEDパネルは、コンピュータ、タッチパネルデバイス、携帯情報端末(PDA)、携帯電話、テレビモニターなどのために使用できる。
【0003】
III~V族の半導体技術に基づくマイクロスケールLED(マイクロLEDとも呼ばれる)を使用するLEDパネルは、OLEDと比べて様々な利点、例えばより高いエネルギー効率、輝度及び寿命、並びにディスプレイスタックにおける材料層をより少なくすること(これにより製造が単純化できる)を有するだろう。しかしながらマイクロLEDパネルを製造するためには、難点がある。異なる色の放射線(例えば、赤色、緑色及び青色の画素)を備えるマイクロLEDは、別個のプロセスにより異なる基板で作製する必要がある。マイクロLEDデバイスの複数の色を1つのパネルに統合するためには通常、マイクロLEDデバイスを当初のドナー基板から行先の基板へと移動させるピック・アンド・プレイス工程(pick-and-place step)が必要となる。これにはしばしば、LED構造又は製造プロセスの改変(例えば離型を容易にするための犠牲層の導入)を伴う。さらに、配置の精度に関する要求が厳しいので、スループットや最終的な歩留まり(yield)、又はこれら双方が制限されることがある。
【0004】
ピック・アンド・プレイス工程を回避するための代替的なアプローチは、色変換剤(例えば、量子ドット、ナノ構造、フォトルミネセンス材料、又は有機物質)を、モノクロLEDで作製した基板上にある特定の画素位置に、選択的に堆積させることである。モノクロLEDにより、相対的に短い波長の光、例えば紫色又は青色の光を発生させることができ、色変換剤によって、この短い波長をより波長の長い光に、例えば赤色又は緑色の画素のための赤色又は緑色の光に変換することができる。色変換剤の選択的な堆積は、高解像度のシャドーマスク、又は制御可能なインクジェット印刷若しくはエアロゾルジェット印刷を用いて、行うことができる。
【0005】
しかしながらシャドーマスクでは、位置合わせ精度及びスケーラビリティの問題が生じがちであり、一方でインクジェット技術及びエアロゾルジェット技術では、解像度(インクジェット)、精度(インクジェット)、及びスループット(エアロゾルジェット)の問題がある。マイクロLEDディスプレイを製造するためには、精密に、またコスト効率よく、異なる色のための色変換剤を、基板(例えば面積の大きい基板又は可撓性基板)上の異なる画素にもたらすための新たな技術が必要である。
【発明の概要】
【0006】
1つの態様において、光硬化性組成物は、UV光又は可視光範囲における第2の波長帯域内で放射線を吸収することに応じて、可視光範囲における第1の波長帯域内で放射線を放出するように選択されたナノ材料であって、第2の波長帯域が第1の波長帯域とは異なる、ナノ材料、1又は複数の(メタ)アクリレートモノマー、チオール架橋剤、及び第2の波長帯域内での放射線の吸収に応じて1又は複数の(メタ)アクリレートモノマーの重合を開始させる光開始剤を含む。
【0007】
別の態様において、発光デバイスは、複数の発光ダイオード、及び表面と接触している硬化した組成物を備え、ここでは当該表面を通じて、UV光又は可視光範囲における第1の波長帯域内での放射線が、各発光ダイオードから放出される。硬化した組成物は、各発光ダイオードから第1の波長帯域内で放射線を吸収することに応じて、可視光範囲における第2の波長帯域内で放射線を放出するように選択されたナノ材料と、チオール架橋剤を含むフォトポリマーであって、ナノ材料が埋め込まれているフォトポリマーとを含有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】チオールーエン重合における反応を示す。
図2】既にバックプレーンに統合されているマイクロLEDアレイの上面図を概略的に示す。
図3】Aは、マイクロLEDアレイの一部の上面図を概略的に示す。Bは、AからのマイクロLEDアレイの一部の断面図を概略的に示す。
図4】A~Hは、マイクロLEDアレイの上に色変換剤(CCA)層を選択的に形成する方法を示す。
図5】A~Cは、光硬化性組成物の調製物を示す。
図6】A~Eは、マイクロLEDアレイ及び隔壁をバックプレーン上に製造する方法を示す。
図7】A~Dは、マイクロLEDアレイ及び隔壁をバックプレーン上に製造する別の方法を示す。
図8】実施例に記載した光硬化性組成物について、上部及び下部の硬化割合を列挙した表を示す。
【0009】
各種図面において同様の参照符号は、同様の要素を示す。
【0010】
発明の詳細な説明
量子ドットは、インクジェット印刷用のアクリレート調製物に分散されていてよい。UV硬化に続いて、ポリアクリレートマトリックス内に閉じ込められた量子ドットを、発展したディスプレイのための色変換層として使用することができる。しかしながら、アクリレート重合は、酸素によって阻害されることがあり、これにより、さらなる重合を阻害するペルオキシラジカルが発生する。加えて、UV-LEDは、寿命が比較的長く、安定した出力、及び帯域の狭さ(すなわち、最小赤外線(minimal infrared light)、ひいては冷却硬化)という利点を有するものの、ポリアクリレートマトリックスの表面硬化は、不充分、不完全であり得る。
【0011】
UV-LEDにおける色変換層の不充分及び不完全な硬化と関連する問題に対処し得る技術は、抗酸素阻害性添加剤、反応性成分、光開始剤、色変換剤、任意選択的な溶媒、及び任意選択的な添加剤を含有する、光硬化性組成物を使用することを含む。抗酸素阻害性添加剤は、酸素によるペルオキシラジカルの形成を阻害する。反応性成分は、1又は複数のモノマー、架橋剤、及びその他の反応性化合物(抗酸素阻害性添加剤は除く)を含む。抗酸素阻害性添加剤により、光硬化性組成物の重合の効率及び程度が改善し、表面硬化が改善した色変換層がもたらされる。
【0012】
本開示に記載されるとおり、チオール化合物(モノチオール、ジチオール、トリチオール、及びマルチチオールが含まれる)を、抗酸素阻害性添加剤として使用することができる。モノチオール、ジチオール、トリチオール、又はマルチチオールの官能性は、RSHとして表すことができ、ここでRは、脂肪族基又は芳香族基である。市販で手に入る一例は、Allnex社(ベルギー国、Anderlecht在)のLED 02である。適切なモノチオールの例には、エタンチオール、プロパンチオール、ブタンチオール、ペンタンチオール、1-ヘキサデカンチオール、2-エチルヘキサンチオール、8-メルカプト-1-オクタノール、2-(2-メトキシエトキシ)エタンチオール、2-(トリメチルシリル)エタンチオール、2-プロペン-1-チオール、チオフェノール、ジメルカプトコハク酸、チオグリコール酸、チオ酢酸、グルタチオン、システイン、メルカプトエタノール、ジチオトレイトール/ジチオエリスリトール、2-メルカプトエタノール、2-メルカプトインドール、フラン-2-イルメタンチオール、3-メルカプトプロパン-1,2-ジオール、3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸、1-ヘキサデカンチオール、及びペンタクロロベンゼンチオールが含まれる。
【0013】
適切なジチオールの例には、1,1-ジチオール(例えば、メタンジチオール、1,1-エタンジチオール、1,1-シクロヘキサンジチオール)、1,2-ジチオール(例えば1,3-プロパンジチオール、1,2-エタンジチオール)、及び1,3-ジチオール(例えばジヒドロリポ酸)、1,2-ベンゼン-ジメタンチオール、1,3-ベンゼンジメタンチオール、1,4-ベンゼンジメタンチオール、2,2’-(エチレンジオキシ)ジエタンチオール、エチレングリコールビス-メルカプトアセテート、テトラ(エチレングリコール)ジチオール、ヘキサ(エチレングリコール)ジチオール、2,2’-チオジエタンチオール、及び1,16-ヘキサデカンジオールが含まれる。
【0014】
適切なトリチオールの例には、トリチオシアヌル酸、トリメチロールプロパン トリス(3-メルカプトプロピオネート)、及びトリス[2-(3-メルカプト-プロピオニルオキシ)エチル]イソシアヌレートが含まれる。
【0015】
適切なマルチチオールの例には、ペンタエリスリトール テトラキス(2-メルカプトアセテート)、及びペンタエリスリトール テトラキス(3-メルカプトプロピオネート)が含まれる。
【0016】
ラジカル重合ではチオール(RSH)が、水素をペルオキシラジカル(ROO・)に供与して、チイルラジカル(RS・)を生成し、これがアルケンと伝播(又は架橋)する。さらに、チオールが充分な量で存在する場合、アクリレート-チオール形成の重合は、アクリレート重合ではなく、又はアクリレート重合に加えて、チオール-エン重合により生じ得る。チオール-エン重合は、アクリレート重合よりも、酸素妨害に対して敏感ではない。
【0017】
図1は、チオール-エン重合の間に起こる化学反応を示す。伝播反応速度(k)が連鎖移動反応速度(kCT)を超える場合には、連鎖移動が速度を決定づける工程となり、反応速度(R)は、チオールの濃度([SH])と一次関数の関係になる(すなわち、Rα[SH]1)。k及びkCTが同様の値をとる場合(すなわち、k/kCT≒1)、反応速度は、チオールの濃度とアルケン(C=C)の濃度によって決まる(Rα[SH]1/2[C=C]1/2)。連鎖移動反応速度(kCT)が伝播反応速度(k)を超える場合には、伝播が速度を決定づける工程となり、反応速度(R)は、アルケンの濃度(C=C)と一次関数の関係になる(すなわち、Rα[C=C]1)。
【0018】
重合にかけられると、反応性成分は光硬化性組成物の粘度を上昇させ、例えば、光硬化性組成物は固化するか、又はゲル状の網目構造を形成し得る。反応性成分は、モノマー、例えば(メタ)アクリレートモノマーを含み、1又は複数のモノ(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリレート、テトラ(メタ)アクリレート、又はこれらの組み合わせを含むことができる。反応性成分は、ネガ型フォトレジスト、例えばSU-8フォトレジストによってもたらすこともできる。適切なモノ(メタ)アクリレートの例には、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、及びテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレートが含まれる。反応性成分は、架橋剤、又はその他の反応性化合物を含むことができる。適切な架橋剤の例には、ポリエチレングリコール ジ(メタ)アクリレート(例えばジエチレングリコール ジ(メタ)アクリレート、又はトリプロピレングリコール ジ(メタ)アクリレート)、N,N’-メチレンビス-(メタ)アクリルアミド、ペンタエリスリトール トリ(メタ)アクリレート、及びペンタエリスリトール テトラ(メタ)アクリレートが含まれる。適切な反応性化合物の例には、ポリエチレングリコール (メタ)アクリレート、ビニルピロリドン、ビニルイミダゾール、スチレンスルホネート、(メタ)アクリルアミド、アルキル(メタ)アクリルアミド、ジアルキル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、モルホリノエチル アクリレート、及びビニルホルムアミドが含まれる。
【0019】
幾つかの実施態様では、二原子酸素によるラジカルクエンチ(これにより、フリーラジカル硬化メカニズムが遅くなる又は阻害される)を遅延又は防止するため、酸素が制限された、又は酸素不含の硬化雰囲気又は硬化環境を行うことができる。酸素が制限された環境(例えば、0.01未満の分圧)又は酸素不含の環境には、不活性ガス雰囲気と、乾燥した、脱気された、ほぼ酸素不含の化学試薬とが含まれる。
【0020】
光開始剤は、照射に応じて、例えばUV照射、UV-LED照射、可視光照射及び電子ビーム照射に応じて、重合を開始させる。いくつかの場合、光開始剤は、UV照射又は可視光照射に応じる。適切な光開始剤には、フリーラジカル開始剤、例えばバルク硬化光開始剤、及び表面硬化光開始剤が含まれる。
【0021】
バルク硬化光開始剤は、UV照射にさらされると開裂してフリーラジカルをもたらし、このフリーラジカルにより重合を開始させることができる。バルク硬化光開始剤は、分配された液滴について表面硬化と全体硬化又はバルク硬化の双方に有用であり得る。バルク硬化光開始剤には、ベンゾインエーテル、ベンジルケタール、アセチルフェノン、アルキルフェノン、ホスフィンオキシド、ベンゾフェノン化合物、及びチオキサン化合物が含まれる。
【0022】
表面硬化光開始剤は、UV照射によって活性化され、第2の化合物から水素が引き抜かれることによってフリーラジカルが形成され、これが実際の開始フリーラジカルとなる。第2の化合物はしばしば、共開始剤(co-initiator)又は重合相乗剤(polymerization synergist)と呼ばれ、アミン相乗剤(amine synergist)であり得る。アミン相乗剤は酸素による阻害を低減させるために使用され、よって表面硬化光開始剤が、迅速な表面硬化にとって有用であり得る。表面硬化光開始剤は、ベンゾフェノン化合物及びチオキサントン化合物を含む。アミン相乗剤は、活性水素を有するアミンである。アミン相乗剤、例えばアミン含有アクリレートは、樹脂前駆体組成物の調製物において、a)酸素による阻害を制限するため、b)液滴又は層表面を迅速に硬化させて、液滴又は層表面の寸法を固定するため、またc)硬化プロセスを経て層の安定性を高めるために、ベンゾフェノン光開始剤と組み合わせてもよい。
【0023】
適切な光開始剤の例には、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニル ケトン、4-イソプロピルフェニル-2-ヒドロキシ-2-メチル プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2,2-ジメチル-2-ヒドロキシ-アセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオンフェノン、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシ-ベンゾイル)-2,4,6トリメチル フェニル ホスフィンオキシド、2-メチル-1-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノ-プロパン-1-オン、3,6-ビス(2-メチル-2-モルホリノ-プロピオニル)-9-n-オクチルカルバゾール、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-1-(4-モルフォリニル)フェニル)-1-ブタノン、ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、イソプロピル チオキサントン、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、2-ヒドロキシ-2-メチル-1フェニル-1-プロパノンが含まれる。市販で手に入る光開始剤の適切なブレンドには、Darocur 4265、Irgacure 184、Irgacure 250、Irgacure 270、Irgacure 295、Irgacure 369、Irgacure 379、Irgacure 500、Irgacure 651、Irgacure 754、Irgacure 784、Irgacure 819、Irgacure 907、Irgacure 1173、Irgacure 2100、Irgacure 2022、Irgacure 4265、Irgacure TPO、Irgacure TPO-L、Esacure KT37、Esacure KT55、Esacure KTO046、Omnicat 250、及びOmnicat 550が含まれる。適切なアミン相乗剤には、第二級及び第三級アミン化合物(アクリレート基を有するもの、又は有さないもの)、例えばジエタノールアミン、トリエタノールアミン、及びGenomer 5142が含まれる。
【0024】
色変換剤は、第2の可視光波長帯域内でのUV照射又は可視光照射の吸収に応じて、第1の波長帯域内での可視光照射を放出する材料である。UV照射は典型的には、200nm~400nmの範囲の波長を有する。可視光照射は典型的には、400nm~800nmの範囲の波長又は波長帯域を有する。第1の可視光波長は、第2の可視光波長帯域とは異なる(例えばよりエネルギーが高い)。つまり、色変換剤は、マイクロLEDからの比較的波長が短い光を、より波長の長い光(例えば、赤色、緑色又は青色)に変換する材料だということである。
【0025】
色変換剤は、フォトルミネセンス材料、例えば有機若しくは無機の分子、ナノ材料(例えばナノ粒子、ナノ構造、量子ドット)、又はその他の適切な材料を含むことができる。適切なナノ材料は典型的には、1又は複数のIII~V族化合物を含む。III~V族化合物の適切な例には、CdSe、CdS、InP、PbS、CuInP、ZnSeS、及びGaAsが含まれる。いくつかの場合、ナノ材料が、カドミウム、インジウム、銅、銀、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、アルミニウム、ホウ素、ヨウ化物、臭化物、塩化物、セレン、テルル、及びリンから成る群から選択される1又は複数の元素を含む。特定の場合、ナノ材料は、1又は複数のペロブスカイトを含む。
【0026】
量子ドットは、均質であってもよく、又はコア・シェル構造を有し得る。量子ドットは、平均直径が約1nm~約10nmの範囲にあり得る。典型的には、1又は複数の有機リガンドが、量子ドットの外部表面に結合されている。有機リガンドは、溶媒における量子ドットの分散を促進させる。適切な有機リガンドには、脂肪族アミン、チオール又は酸化合物が含まれ、ここで脂肪族部分は典型的には、6~30個の炭素原子を有する。適切なナノ構造の例には、ナノプレートレット、ナノ結晶、ナノロッド、ナノチューブ、及びナノワイヤが含まれる。
【0027】
任意選択的に、光硬化性組成物は、溶媒を含むことができる。溶媒は、有機又は無機であり得る。適切な溶媒の例には、水、エタノール、トルエン、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、又はこれらの組み合わせが含まれる。溶媒は、光硬化性組成物について所望の表面張力又は粘度をもたらすために選択され得る。溶媒は、その他の成分の化学的安定性を改善させるためにも使用できる。
【0028】
任意選択的に、光硬化性組成物は、迷光吸収剤又はUVブロッカーを含むことができる。適切な迷光吸収剤の例には、Disperse Yellow 3、Disperse Yellow 7、Disperse Orange 13、Disperse Orange 3、Disperse Orange 25、Disperse Black 9、Disperse Red 1 acrylate、Disperse Red 1 methacrylate、Disperse Red 19、Disperse Red 1、Disperse Red 13、及びDisperse Blue 1が含まれる。適切なUVブロッカーの例には、ベンゾトリアゾリルヒドロキシフェニル化合物が含まれる。
【0029】
任意選択的に、第1の光硬化性組成物は、1又は複数のその他の機能性成分を含むことができる。1つの例として、機能性成分は、色変換層の光学特性に影響を与えることができる。例えば、機能性成分は、色変換層が、出力光の光学経路を調整する(例えばマイクロレンズをもたらす)光学層として機能するほど屈折率が充分に高い(例えば少なくとも約1.7)ナノ粒子を含むことができる。適切なナノ粒子の例には、TiO、ZnO、ZrO、CeO、又はこれらの酸化物二種以上の混合物が含まれる。代替的に又はさらに、ナノ粒子は、色変換層が、全反射損失を低減させる光学層として機能するように選択された屈折率を有することができ、これによって光抽出が改善される。別の例として、機能性成分は、光硬化性組成物の表面張力を調整するために、分散剤又は界面活性剤を含むことができる。適切な分散剤又は界面活性剤の例には、シロキサン及びポリエチレングリコールが含まれる。さらに別の例として、機能性成分は、可視光放射線を放出するフォトルミネセンス顔料を含むことができる。適切なフォトルミネセンス顔料の例には、硫化亜鉛及びアルミン酸ストロンチウムが含まれる。いくつかの場合、光硬化性組成物が、約0.1重量%~約50重量%の抗酸化性阻害添加剤(例えば、0.1重量%~1重量%、1重量%~5重量%、5重量%~10重量%、20重量%~30重量%、30重量%~40重量%、40重量%~50重量%、5重量%~45重量%、10重量%~40重量%、15重量%~35重量%、又は20重量%~30重量%)、最大で約90重量%の反応性成分、約0.5重量%~約5重量%の光開始剤、及び約0.1重量%~約10重量%(例えば、約1重量%~約2重量%)の色変換剤(例えば、ナノ材料)を含む。光硬化性組成物は、溶媒も含んでよい(例えば、最大約10重量%の溶媒)。
【0030】
いくつかの場合、光硬化性組成物が、約0.1重量%~約50重量%の抗酸化性阻害添加剤、約1重量%~約10重量%の反応性成分、約0.5重量%~約5重量%の光開始剤、及び約0.1重量%~約10重量%(例えば、約1重量%~約2重量%)の色変換剤(例えば、ナノ材料)、及び約10重量%~約90重量%の溶媒を含む。
【0031】
光硬化性組成物は、任意選択的に、最大約5重量%の界面活性剤又は分散剤、約0.01重量%~約5重量%(例えば、約0.1重量%~約1重量%)の迷光吸収剤、又はこれらのあらゆる組み合わせを含むことができる。
【0032】
光硬化性組成物の粘度は、典型的には、室温で約10cP(センチポアズ)~約2000cPの範囲にある(例えば、約10cP~約150cP)。光硬化性組成物の表面張力は、典型的には、約20ミリニュートン/メートル(mN/m)~約60mN/m(例えば、約40mN/m~約60mN/m)の範囲にある。硬化後、硬化した光硬化性組成物の破断点伸びは、典型的には、約1%~約200%の範囲にある。硬化した光硬化性組成物の引張強度は、典型的には、約1メガパスカル(MPa)~約1ギガパスカル(GPa)の範囲にある。光硬化性組成物は、1又は複数の層で適用することができ、硬化した光硬化性組成物の厚さは、典型的には、約10nm~約100ミクロン(例えば、約10nm~約20ミクロン、約10nm~約1000nm、又は約10nm~約100nm)の範囲にある。
【0033】
本開示に記載された光硬化性組成物は、ディスプレイ、例えば図2図7との関連で記載するマイクロLEDディスプレイにおける色変換層として実施される。
【0034】
図2は、バックプレーン16上に配置された個々のマイクロLED14(図3A及び図3B参照)のアレイ12を含む、マイクロLEDディスプレイ10を示す。マイクロLED14は、各マイクロLED14が個別にアドレス指定可能なように、バックプレーン回路18と既に統合されている。例えば、バックプレーン回路18は、マイクロLED14を駆動させるために、各マイクロLEDについて薄膜トランジスタ及びストレージキャパシタ(図示せず)を有するTFTアクティブマトリクスアレイ、列アドレス及び行アドレス線18a、列及び行ドライバ18b等を含むことができる。代替的に、マイクロLED14は、バックプレーン回路18におけるパッシブマトリクスによって駆動することができる。バックプレーン16は、従来のCMOSプロセスを用いて作製することができる。
【0035】
図3A及び図3Bは、個々のマイクロLED14を有するマイクロLEDアレイ12の一部12aを示す。すべてのマイクロLED14は、同じ波長範囲を発生させるように同じ構造で作製されている(これを「モノクロ」マイクロLEDと呼ぶこともある)。例えば、マイクロLED14は、紫外線(UV)の光を、例えば近紫外線の範囲で発生させることができる。例えば、マイクロLED14は、365~405nmの範囲の光を発生させることができる。別の例として、マイクロLED14は、紫色又は青色の範囲の光を発生させることができる。マイクロLEDは、20~60nmのスペクトル帯域幅を有する光を発生させることができる。
【0036】
図3Bは、1つの画素を提供することができるマイクロLEDアレイの一部を示す。マイクロLEDディスプレイが3色ディスプレイであると仮定すると、各画素は3つのサブピクセルを含み、各色に対して1つ、例えば、青、緑、赤のカラーチャネルに対してそれぞれ1つである。よって画素は、3つのマイクロLED14a、14b、14cを含むことができる。例えば、第1のマイクロLED14aは、青色のサブピクセルに対応させることができ、第2のマイクロLED14bは、緑色のサブピクセルに対応させることができ、第3のマイクロLED14cは、赤色のサブピクセルに対応させることができる。しかしながら、以下で論じる技術は、多数の色(例えば4色以上)を使用するマイクロLEDディスプレイに適用できる。この場合、各画素は4つ以上のマイクロLEDを含むことができ、この場合には各マイクロLEDが、それぞれの色に対応する。さらに、以下で論じる技術は、2色しか使用しないマイクロLEDに適用できる。
【0037】
一般的に、モノクロのマイクロLED14は、ディスプレイ用に意図された最高周波数の色の波長以下の波長を有するピークを伴う波長範囲の光、例えば、紫色又は青色の光を発生させることができる。色変換剤は、この短い波長の光をより長い波長の光(例えば、赤色又は緑色のサブピクセルのための赤色又は緑色の光)へと変換することができる。マイクロLEDがUV光を発生させる場合、UV光を青色のサブピクセルのための青色の光に変換するために、色変換剤を使用することができる。
【0038】
隣接するマイクロLEDの間には、垂直隔壁20が形成される。この隔壁は、重合を局在化させること、また後述するインサイチュ(in-situ)重合の間の光学的クロストークを低減することを補助するために、光学的な隔離をもたらす。隔壁20は、フォトレジスト又は金属であってよく、従来のリソグラフィプロセスによって堆積させることができる。図3Aに示すように、壁20は矩形アレイを形成することができ、各マイクロLED14は、壁20によって画定された個々の凹部22にある。他のアレイ形状、例えば六角形アレイ又はオフセット長方形アレイも可能である。バックプレーン統合及び隔壁形成について可能なプロセスは、以下でより詳細に説明する。
【0039】
壁は、約3~20μmの高さHを有することができる。壁は、約2~10μmの幅Wを有することができる。高さHは幅Wよりも大きくてよく、例えば、壁は1.5:1~5:1のアスペクト比を有することができる。壁の高さHは、1つのマイクロLEDからの光が隣接するマイクロLEDに到達するのを妨げるのに充分な高さである。
【0040】
図4A~4Hは、マイクロLEDアレイの上に色変換剤(CCA)層を選択的に形成する方法を示す。最初に、図4Aに示すように、第1の光硬化性組成物30aが、バックプレーン回路と既に統合されているマイクロLED14のアレイの上に堆積される。第1の光硬化性組成物30aは、隔壁20の高さHよりも大きい深さDを有することができる。
【0041】
図5A図5Cとの関連で述べると、光硬化性組成物(例えば、第1の光硬化性組成物30a、第2の光硬化性組成物30b、第3の光硬化性組成物30cなど)は、重合性成分32、マイクロLED14の発光に対応する波長の照射下で重合を引き起こす光開始剤34、及び色変換剤36aを含む。重合性成分32は、本明細書に記載の反応性成分及び抗酸素阻害性添加剤を含む。
【0042】
光硬化性組成物の硬化後に、光開始剤34の成分が、硬化した光硬化性組成物(フォトポリマー)中に存在してもよく、当該成分は、光重合開始プロセスにおいて光開始剤の結合が切断される間に形成される光開始剤のフラグメントである。
【0043】
図4Aに戻ると、第1の光硬化性組成物30aは、スピンオン、ディッピング、スプレーオン、又はインクジェットプロセスによって、マイクロLEDアレイ上のディスプレイに堆積させることができる。インクジェットプロセスは、第1の光硬化性組成物30aの消費という点でより効率的であり得る。
【0044】
次に、図4Bに示すように、第1の複数のマイクロLED14aを選択的に活性化するために、バックプレーン16の回路を使用する。この第1の複数のマイクロLED14aは、第1の色のサブピクセルに対応する。特に、第1の複数のマイクロLED14aは、光硬化性組成物30a中の色変換成分によって生成される光の色のためのサブピクセルに対応する。例えば、流体30a中の色変換成分がマイクロLED14からの光を青色の光に変換すると仮定すると、青色のサブピクセルに対応するマイクロLED14aのみが点灯する。マイクロLEDアレイは既にバックプレーン回路18と統合されているので、マイクロLEDディスプレイ10に電力を供給し、マイクロプロセッサによって制御信号を印加して、マイクロLED14aを選択的に点灯することができる。
【0045】
図4B及び図4Cとの関連で述べると、第1の複数のマイクロLED14aの活性化は、第1の光硬化性組成物30aのインサイチュ硬化を引き起こす照明A(図4B参照)を生成し、活性化された各マイクロLED14a上に、固化した第1の色変換層40a(図4C参照)を形成する。端的に言えば、流体30aを硬化させて色変換層40aを形成するのだが、選択されたマイクロLED14a上にのみ形成するということである。例えば、各マイクロLED14a上に、青色の光に変換するための色変換層40aを形成することができる。
【0046】
いくつかの実施態様において、硬化は自己制限的なプロセスである。照明、例えばマイクロLED14aからのUV照明は、光硬化性組成物30aへの浸入深さが限られていることがある。図4Bは、光硬化性組成物30aの上面に到達した照明Aを示す。上面の硬化率は、減衰全反射赤外線(ATR-IR)により評価して、典型的には少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%である。硬化率は、光硬化性組成物中の未反応二重結合に対応するピークの面積を算出し、光硬化性組成物を硬化させ、硬化した色変換層中の未反応二重結合に対応するピークの面積を算出し、その結果を比較して硬化率を求めることにより評価できる。いくつかの場合、上面の硬化率は、チオール架橋剤が存在しない点だけが異なる組成物の上面の硬化率に対して、少なくとも1.5倍である。
【0047】
いくつかの実施態様では、選択されたマイクロLED14aからの照明は、その他のマイクロLED14b、14cに到達しない。このような状況では、隔壁20は必ずしも必要ではない。しかしながら、マイクロLED14間の間隔が充分に小さい場合、隔壁20は、選択されたマイクロLED14aからの照明Aが、仮に隔壁が無いとすると、それらの他のマイクロLEDからの照明の浸入深度内にあることになるその他のマイクロLED上の領域に達することを肯定的に遮断することができる。隔壁20は、例えば単にその他のマイクロLEDの上の領域に到達する照明に対する保険として、含まれていてもよい。
【0048】
第1の複数のマイクロLED14aの駆動電流及び駆動時間は、光硬化性組成物30aに対する光子供給量が適切になるように選択することができる。流体30aを硬化させるためのサブピクセルあたりの電力は、マイクロLEDディスプレイ10の表示モードにおけるサブピクセルあたりの電力と、必ずしも同じである必要はない。例えば、硬化モードのサブピクセルあたりの電力は、表示モードのサブピクセルあたりの電力よりも高くてよい。
【0049】
図4Dに関連して述べると、硬化が完了し、固化した第1の色変換層40aが形成されると、残っている未硬化の第1の光硬化性組成物が、ディスプレイ10から除去される。これによりその他のマイクロLED14b、14cは、次の蒸着ステップのために露出した状態になる。いくつかの実施態様では、未硬化の第1の光硬化性組成物30aは、溶媒、例えば水、エタノール、トルエン、ジメチルホルムアミド若しくはメチルエチルケトン、又はそれらの組み合わせによって、ディスプレイから単純にすすぎ落とされる。光硬化性組成物30aがネガ型フォトレジストを含む場合、リンス流体は、フォトレジストのためのフォトレジスト現像液を含むことができる。
【0050】
図4E及び図5Bに関連して述べると、図4A~4Dとの関連で前述の処理が繰り返されるのだが、ただし、第2の光硬化性組成物30b及び第2の複数のマイクロLED14bの活性化を伴う。すすぎ落とした後、第2の複数のマイクロLED14bのそれぞれを覆うように第2の色変換層40bが形成される。
【0051】
第2の光硬化性組成物30bは、第1の光硬化性組成物30aと同様であるが、マイクロLED14からの比較的短い波長の光を、第2色のより波長が長い異なる光に変換するための色変換剤36bを含む。第2の色は、例えば緑色であり得る。
【0052】
第2の複数のマイクロLED14bは、第2の色のサブピクセルに対応する。特に、第2の複数のマイクロLED14bは、第2の光硬化性組成物30b中の色変換成分によって生成される光の色のためのサブピクセルに対応する。例えば、流体30a中の色変換成分がマイクロLED14からの光を緑色の光に変換すると仮定すると、緑色のサブピクセルに対応するマイクロLED14bのみが点灯する。
【0053】
図4F及び図5Cとの関連で述べると、任意選択的に、図4A~4Dとの関連で前述した処理がさらにもう一度繰り返されるが、ただし、第3の光硬化性組成物30c及び第3の複数のマイクロLED14cの活性化を伴う。すすぎ落とした後、第3の複数のマイクロLED14cのそれぞれを覆うように、第3の色変換層40cが形成される。
【0054】
第3の光硬化性組成物30cは、第1の光硬化性組成物30aと同様であるが、ただし、マイクロLED14からの波長が比較的短い光を、より波長が長い異なる第3の色の光に変換するための色変換剤36cを含む。第3の色は、例えば、赤色であり得る。
【0055】
第3の複数のマイクロLED14cは、第3の色のサブピクセルに対応する。特に、第3の複数のマイクロLED14cは、第3の光硬化性組成物30c中の色変換成分によって生成される光の色のためのサブピクセルに対応する。例えば、流体30c中の色変換成分がマイクロLED14からの光を赤色の光に変換すると仮定すると、赤色のサブピクセルに対応するマイクロLED14cのみが点灯する。
【0056】
図4A~4Fに示されるこの特定の例では、色変換層40a、40b、40cが、各色のサブピクセルのために堆積される。これは例えば、マイクロLEDが紫外線を発生させる場合に必要となる。
【0057】
しかしながらマイクロLED14は、UV光の代わりに青色の光を発生させることができる。この場合、青色の色変換剤を含む光硬化性組成物によるディスプレイ10のコーティングを省略し、緑色及び赤色のサブピクセル用の光硬化性組成物を用いて処理を行うことができる。或る複数のマイクロLEDは、例えば図4Eに示すように、色変換層がないままである。図4Fに示される処理は、行われない。例えば、第1の光硬化性組成物30aは、緑色のCCAを含むことができ、第1の複数のマイクロLED14aは、緑色のサブピクセルに対応していてよく、第2の光硬化性組成物30bは、赤色のCCAを含むことができ、第2の複数のマイクロLED14bは、赤色のサブピクセルに対応していてよい。
【0058】
流体30a、30b、30cが溶媒を含むと仮定すると、溶媒が幾分、色変換層40a、40b、40c内に捕捉されることがある。図4Gとの関連で述べると、この溶媒は、熱、例えばIRランプによる熱にマイクロLEDアレイをさらすことによって、蒸発させることができる。色変換層40a、40b、40cからの溶媒の蒸発は、最終層がより薄くなるように、層の収縮をもたらすことができる。
【0059】
溶媒を除去して色変換層40a、40b、40cを収縮させると、色変換剤、例えば量子ドットの濃度を高めることができるので、より高い色変換効率が得られる。一方、溶媒を含むことにより、光硬化性組成物のその他の成分(例えば色変換剤又は架橋性成分)の化学的配合において、より柔軟性が得られる。
【0060】
任意選択的に、図4Hに示すように、UV遮断層50を、すべてのマイクロLED14の上に堆積させることができる。UV遮断層50は、色変換層40によっては吸収されないUV光を遮断することができる。UV遮断層50は、ブラッグ反射体であってもよく、又は単にUV光に対して選択的に吸収性を有する材料(例えば、ベンゾトリアゾリルヒドロキシフェニル化合物)であってもよい。ブラッグ反射体は、UV光をマイクロLED14に向けて反射し返すことができ、これによってエネルギー効率が向上する。その他の層、例えば迷光吸収層、フォトルミネセンス層、及び高屈折率層を、マイクロLEDs14上に任意選択的に堆積させることもできる。
【0061】
したがって、本明細書に記載されるように、光硬化性組成物は、UV光又は可視光範囲における第2の波長帯域内での放射線の吸収に応じて、可視光範囲における第1の波長帯域内で放射線を放出するように選択されたナノ材料、抗酸素阻害性添加剤(例えば1又は複数のチオール)、反応性成分(例えば1又は複数のアクリレートモノマー)、色変換添加剤(例えば量子ドット)、及び第2の波長帯域内での放射線の吸収に応じて活性成分の重合を開始させる光開始剤を含む。第2の波長帯域は、第1の波長帯域とは異なる。抗酸素阻害性添加剤は、光硬化性組成物の表面硬化の効率及び程度を向上させる。
【0062】
いくつかの実施態様において発光デバイスは、複数の発光ダイオードと、表面(当該表面を通じて、発光ダイオードの各々からUV光又は可視光範囲における第1の波長帯域内での放射線が放出される)と接触する硬化した組成物とを含む。硬化した組成物は、各発光ダイオードからの第1の波長帯域内での放射線の吸収に応じて可視光範囲の第2の波長帯域内で放射線を放出するように選択されたナノ材料、フォトポリマー、及び第1の波長帯域内での放射線の吸収に応じてフォトポリマーの重合を開始する光開始剤の成分(例えばフラグメント)を含む。第2の波長帯域は、第1の波長帯域とは異なる。
【0063】
特定の実施態様において、発光デバイスは、追加の複数の発光ダイオードと、表面(当該表面を通じて、追加の発光ダイオードの各々から第1の波長帯域内で放射線が放出される)と接触する追加の硬化した組成物とを含む。追加の硬化した組成物は、各発光ダイオードからの第1の波長帯域内での放射線の吸収に応じて可視光域の第3の波長帯域内で放射線を放出するように選択された追加のナノ材料、追加のフォトポリマー、追加の抗酸素阻害性添加剤、及び第1の波長帯域内での放射線の吸収に応じてフォトポリマーの重合を開始する追加の光開始剤の成分を含む。第3の波長帯域は、第2の波長帯域とは異なっていてよい。
【0064】
図6A~6Eは、バックプレーン上にマイクロLEDアレイ及び隔壁を作製する方法を示す。図6Aとの関連で述べると、このプロセスは、ウェハ100(マイクロLEDアレイを提供することになる)から始まる。ウェハ100は、基板102、例えばシリコン又はサファイアのウェハを含み、当該ウェハの上に、第1のドーピングを有する第1の半導体層104、活性層106、及び第2の対極ドーピングを有する第2の半導体層108が配置される。例えば、第1の半導体層104は、nドープ窒化ガリウム(n-GaN)層であってよく、活性層106は、多重量子井戸(MQW)層106であってよく、第2の半導体層107は、pドープ窒化ガリウム(p-GaN)層108であってよい。
【0065】
図6Bとの関連で述べると、ウェハ100は、層104、106、108を、第1、第2及び第3の色に対応する第1、第2及び第3の複数のマイクロLED14a、14b、14cを含む個々のマイクロLED14に分割するために、エッチングされる。さらに、導電性コンタクト110を堆積することができる。例えば、p-コンタクト110a及びn-コンタクト110bを、それぞれn-GaN層104及びp-GaN層108上に堆積することができる。
【0066】
同様に、バックプレーン16は、回路18を含むように、また電気接点120も含むように、作製される。電気接点120は、第1の接点120a(例えば駆動接点)、及び第2の接点120b(例えば接地接点)を含むことができる。
【0067】
図6Cとの関連で述べると、マイクロLEDウェハ100は、バックプレーン16と接触するように位置合わせされ、配置される。例えば、第1の接点110aを第1の接点120aに接触させることができ、第2の接点110bを第2の接点120bに接触させることができる。マイクロLEDウェハ100を、バックプレーンに接触するように下降させることができ、その逆も可能である。
【0068】
次に、図6Dとの関連で述べると、基板102を除去する。例えば化学的機械的研磨によって、基板102を研磨除去することによって、シリコン基板を除去することができる。別の例として、サファイア基板をレーザーリフトオフプロセスによって除去することができる。
【0069】
最後に、図6Eとの関連で述べると、隔壁20は、バックプレーン16(これにはマイクロLED14が既に取り付けられている)上に形成される。隔壁は、従来のプロセスにより、例えばフォトレジストの蒸着、フォトリソグラフィによるフォトレジストのパターニング、フォトレジストの凹部22に対応する部分を除去する現像によって、形成することができる。得られた構造はこの後、図4A~4Hについて述べた処理のためのディスプレイ10として使用することができる。
【0070】
図7A~7Dは、バックプレーン上にマイクロLEDアレイ及び隔壁を作製する別の方法を示す。このプロセスは、以下に述べる点を除き、図6A図6Eについて先に論じたプロセスと同じであってよい。
【0071】
図7Aとの関連で述べると、このプロセスは、マイクロLEDアレイ及びバックプレーン16を提供することになるウェハ100を使用して、上述のプロセスと同様に開始される。
【0072】
図7Bとの関連で述べると、隔壁20は、バックプレーン16(これにはまだ、マイクロLED14が取り付けられていない)上に形成される。
【0073】
さらに、ウェハ100は、層104、106、108を、第1、第2及び第3の複数のマイクロLED14a、14b、14cを含む個々のマイクロLED14に分割するようにエッチングされる。しかしながら、このエッチング処理によって形成された凹部130は、隔壁20を収容するのに充分なほど深い。例えば、凹部130が基板102内に延びるようにエッチングを継続することができる。
【0074】
次に、図7Cに示すように、バックプレーン16と接触するように、マイクロLEDウェハ100を位置合わせし、配置する(又はその逆)。隔壁20は、凹部130に嵌合する。さらに、マイクロLEDの接点110は、バックプレーン16の接点120と電気的に接続されている。
【0075】
最後に、図7Dとの関連で述べると、基板102が除去される。これにより、マイクロLED14及び隔壁20が、バックプレーン16上に残る。得られた構造はこの後、図4A~4Hについて述べた処理のためのディスプレイ10として使用することができる。
【0076】
縦方向及び横方向のような位置関係の用語を使用してきた。しかしながらこのような用語は、重力に対する絶対的な位置決めではなく、相対的な位置決めを指すことを理解されたい。例えば、横方向は基板面に平行な方向であり、縦方向は基板面に垂直な方向である。
【0077】
実施例
チオール化合物を含む、例示的な光硬化性組成物を複数、調製した。これらの例示的な組成物の上部及び下部の硬化率を、チオール化合物を添加しない比較用の光硬化性組成物で得られた上部及び下部の硬化率と比較した。表1に、実施例1~5(E1~E5)及び比較例1~6(CE1~CE6)の上部及び下部の硬化率を示す。表1(図8)において反応性成分は、モノアクリレート(イソボルニルアクリレート(EBOA)、ジ(エチレングリコール)エチルエーテルアクリレート(DEAA))、ジアクリレート(6-ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA))、非チオール架橋剤(例えばアクリレート架橋剤、例えば多官能性アクリレートEB40(Allnexから入手可能)又は1006(Dymaxから入手可能))を含む。抗酸素阻害剤としては、メルカプト変性ポリエステルアクリレート樹脂であるEBECRYL LED 02(Allnex社製)を使用する。光重合開始剤は、TPO(ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド)である。量子ドットはNanosys社から入手可能である。
【0078】
表1に記載の成分を組み合わせることによって(チオール成分、反応性成分、及び色変換成分(量子ドット)の合計量が100重量%に相当)、実施例1~5及び比較例1~6を調製した。これらの実施例及び比較例について、385nmで、表1に示す投与量で硬化させた。
【0079】
上部及び下部の硬化率は、光硬化性組成物(実施例1~6及び比較例1~6)の厚さ125μmの塗膜をスライドガラスの表面にドローダウンコーティングし、光硬化性組成物を385nmのUV照射の指定照射量に暴露し、光硬化性組成物を硬化させることにより評価した。生じた膜をスライドガラスから剥がし、減衰全反射赤外線(ATR-IR)セルのウィンドウに当てた。膜の上部をウィンドウに当てる場合、ウィンドウから5μm~10μmの深さまでウィンドウに接している材料のIR信号を記録し、上部の硬化率を評価した。膜の下部(スライドガラスに接して形成されたもの)をウィンドウに当てて、ウィンドウから5μm~10μmの深さまでウィンドウに接している材料のIR信号を記録し、下部の硬化率を評価した。硬化率は、先に説明したように評価した。
【0080】
チオール成分を有する実施例1~5は、比較例1~6に比べ、より完全な上部硬化を示した。385nmの照射量を0.6J/cmから2.8J/cmに増やすと、上部硬化はさらに改善された。上部硬化の改善により、図4Dとの関連で説明したように、未硬化の光硬化性組成物をすすぎ落とす間に除去される色変換剤の量を減らすことができる。したがって、上部硬化の改善により、光硬化性組成物中の色変換剤のより大きな割合又は実質的にすべてを保持する色変換層が得られる。
【0081】
先の実施例は例示的なものに過ぎず、限定的なものではないことは、当業者に理解されるであろう。例えば:
・上記説明はマイクロLEDに焦点を当てているものの、この技術は、別のタイプの発光ダイオードを有するその他のディスプレイ、特にその他のマイクロスケールの発光ダイオード、例えば、約10ミクロン未満のLEDを有するディスプレイに適用することができる。
・上記説明では、色変換層を形成する順序が、青色、その後に緑色、その後に赤色であることを想定しているものの、他の順序も可能であり、例えば、青色、その後に赤色、その後に緑色とすることもできる。また、その他の色、例えば橙色及び黄色も可能である。
【0082】
本開示の思想及び範囲から逸脱しない限り、様々な修正が可能なことは理解されるだろう。
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図5
図6
図7
図8