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特許7539632二酸化炭素吸収液、二酸化炭素分離回収方法、及びバイオガス処理方法
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  • 特許-二酸化炭素吸収液、二酸化炭素分離回収方法、及びバイオガス処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】二酸化炭素吸収液、二酸化炭素分離回収方法、及びバイオガス処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/14 20060101AFI20240819BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20240819BHJP
   B01D 53/62 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
B01D53/14 210
B01D53/14 220
C01B32/50
B01D53/62
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020058689
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021154236
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000133032
【氏名又は名称】株式会社タクマ
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 保子
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(72)【発明者】
【氏名】金久保 光央
(72)【発明者】
【氏名】牧野 貴至
(72)【発明者】
【氏名】河野 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】宍田 健一
(72)【発明者】
【氏名】藤平 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】藤川 宗治
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-542058(JP,A)
【文献】特開2017-104776(JP,A)
【文献】特開2002-275482(JP,A)
【文献】Oil & Gas Science and Technology,2013年,Vol.68, No.3,P.469-486
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/00 - 53/96
C01B 32/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素-水素結合を有する二酸化炭素化学吸収性アミンと、
主鎖の炭素数が2以上の炭化水素基を介した酸素原子及び/又は窒素原子を有し、酸素原子と窒素原子の合計が2以上の水素結合受容性を有する3級多座アミンとを含む非水系の二酸化炭素吸収液であって、
前記窒素-水素結合を有する二酸化炭素化学吸収性アミンは、エーテル基を有する炭化水素基を有し、かつ、水酸基を有しない2級アミンであり、
前記3級多座アミンは、2-(ジエチルアミノ)エタノール、2-(ジイソプロピルアミノ)エタノール、2-(ジブチルアミノ)エタノール、3-ジメチルアミノ-1-プロパノール、4-(ジメチルアミノ)-1-ブタノール、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、又はN-ブチルジエタノールアミンのいずれか1以上である、ことを特徴とする、二酸化炭素吸収液
【請求項2】
前記二酸化炭素化学吸収性アミンは、ビス(2-メトキシエチル)アミン、ビス(2-エトキシエチル)アミン、又はビス(2-イソプロポキシエチル)アミンのいずれか1以上である、請求項1に記載の二酸化炭素吸収液。
【請求項3】
前記二酸化炭素化学吸収性アミンと前記3級多座アミンの割合は、前記二酸化炭素化学吸収性アミン/(前記二酸化炭素化学吸収性アミン+前記3級多座アミン)(質量比)で1/100~50/100である、請求項1又は2に記載の二酸化炭素吸収液。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収液を二酸化炭素を含む混合ガスと10℃以上40℃以下で接触させることによって、二酸化炭素を前記二酸化炭素吸収液に吸収させて、前記混合ガスから二酸化炭素を選択的に分離する吸収工程、及び、
前記の二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収液を前記吸収温度より高温に加熱することで吸収した二酸化炭素を放散させて回収し、前記二酸化炭素吸収液を再生する加熱再生工程、を含む二酸化炭素分離回収方法。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収液を二酸化炭素を含む混合ガスと10℃以上40℃以下で接触させることによって、二酸化炭素を前記二酸化炭素吸収液に吸収させて、前記混合ガスから二酸化炭素を選択的に分離する吸収工程、及び
前記の二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収液を60℃以上100℃以下に加熱することで吸収した二酸化炭素を放散させて回収し、前記二酸化炭素吸収液を再生する加熱再生工程、を含む二酸化炭素分離回収方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の二酸化炭素分離回収方法を用いてバイオガス中のメタンガスを濃縮処理するバイオガス処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素吸収液、二酸化炭素分離回収方法、及びバイオガス処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素を分離回収する技術は、天然ガスやバイオガスを原料とするメタンの製造、宇宙空間や海中などの閉鎖状態にある住環境の維持等に必要であり、また、温暖化ガス排出量の削減の観点から火力発電所や製鉄所などの大量排出源を対象とするもの、大気中から農業分野における二酸化炭素の施肥を対象とするもの等、様々な濃度の二酸化炭素源について、盛んに研究されている。
その中で、アミン化合物の水溶液を二酸化炭素の吸収液として用いた化学吸収法が実用化されている。この化学吸収法のプロセスでは、吸収塔において室温近傍で、二酸化炭素を含む気体を吸収液に接触させて、二酸化炭素を選択的に吸収液に化学吸収させ、二酸化炭素濃度の低下した気体と二酸化炭素を吸収した吸収液を気液分離し、再生塔において、二酸化炭素を吸収した吸収液を加熱して、二酸化炭素を放散させて回収し、同時に吸収液を再生し、再生した吸収液を吸収塔に循環している。
【0003】
しかし、このようなアミン水溶液を用いた二酸化炭素分離回収方法では、吸収液を加熱する再生過程で溶媒の水が多量に蒸発するため、その蒸発潜熱分を過剰に再生エネルギーとして投入しなければならない。また、水溶液は比熱が大きく、有機溶剤と比べて2倍以上の顕熱が掛かる。さらに、溶媒の水の蒸発は反応基質であるアミンの同伴を助長するため、分離回収プロセスを管理する上で、物質収支の制御に注意が必要となる。よって、吸収塔や再生塔にアミン回収用の凝縮器を装備するなど、余分の冷却エネルギーを要し、プロセスの複雑化を招く要因となる。さらに、高温での加熱再生プロセスでアミンの劣化が進むため、反応基質の消失に伴う吸収液の定期的な補充が必要となり、ランニングコストの増加が懸念される。
このような問題を解決するために、アミン化合物の非水系溶液の検討が行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、窒素-水素結合を有する二酸化炭素化学吸収性アミンと、イオン液体、又は電子吸引基としてカルボニル基若しくはホスフィニル基を有するアミド化合物である水素結合受容体溶媒とを含む二酸化炭素吸収液が記載されている(請求項1)。
【0005】
特許文献2には、窒素-水素結合を有する二酸化炭素化学吸収性アミンと、水素結合受容性に富み、窒素-水素結合を有しない3級多座アミン溶媒とを含む二酸化炭素吸収液が記載されている(請求項1)。
【0006】
特許文献3には、圧力P1・温度T1の条件下で二酸化炭素を吸収させる吸収部と、圧力P2(P1<P2)・温度T2(T1<T2)の条件下で二酸化炭素を放出させる放出部と、放出部で得た二酸化炭素を分離する回収部を有する二酸化炭素吸収放出装置に用いるアミン含有吸収液であって、吸収液は、粘度の調整のため、更に低粘度、低蒸気圧(高沸点)の溶媒を含んでよいことが記載されている(請求項1、段落[0033])。
【0007】
非特許文献1には、非水溶媒中におけるアミン類化合物のCO吸収に対する溶媒効果について、有機溶媒はCO溶解度が大きく、かつ、CO溶解度の温度依存性が大きく、中~高温域でCO放散が促進されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-104775号公報
【文献】特開2017-104776号公報
【文献】特開2019-181401号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】金久保光央ら、「非水溶媒中におけるアミン類化合物のCO2吸収性に対する溶媒効果」、第40回溶液化学シンポジウム、2017年10月18日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来のアミン水溶液を用いた二酸化炭素分離回収方法におけるエネルギーロスや装置の複雑さを避けるためには、室温近傍の二酸化炭素吸収温度と、吸収された二酸化炭素の放散温度との温度差が小さく、吸収液の揮発や損失が少ない温度条件下で二酸化炭素を分離回収することが求められる。
特に、バイオガス中のメタンガスを二酸化炭素と分離して濃縮処理する技術は、廃棄物からエネルギーや有用物を取り出す点で環境親和性に優れており、より省エネルギーでメタンを濃縮することで、後段のメタン燃焼による発電効率の向上が期待されている。
【0011】
吸収と放散の温度差が小さい条件では、吸収量に比べて放散量が小さいことが多く、放散量の大きさが、二酸化炭素分離回収性能を左右する一因となる。大きな放散量を有する非水系の二酸化炭素吸収液は、例えば特許文献1~3、及び非特許文献1に記載されたアミン化合物を含む従来の吸収液の中から選択することができる。
一方、吸収温度での吸収速度は、一般に放散温度での放散速度に比べて遅いため、吸収速度が二酸化炭素分離回収工程での律速過程となる。実際の二酸化炭素分離回収工程では、吸収塔で吸収液と処理ガスを所定時間接触させて二酸化炭素を吸収させる。そのため、二酸化炭素の吸収速度が遅いと、飽和吸収量まで二酸化炭素を吸収できず、二酸化炭素分離回収効率が低下する。
二酸化炭素の吸収速度は、アミン化合物と二酸化炭素の化学反応の速度、二酸化炭素の吸収液への溶解速度、及び、吸収液中における二酸化炭素やアミン化合物との反応物の物質輸送などに依存する。アミン化合物と二酸化炭素の化学反応の速度は、アミン化合物の塩基性が高く、アミノ基と二酸化炭素の反応において立体障害が少ない場合に高くなる。ただし、アミン化合物の塩基性が高くなると、一般に吸収した二酸化炭素を僅かな温度差で放散させることが困難となり、放散温度を高くする必要がある。一方、二酸化炭素の吸収液への溶解速度や吸収液中の二酸化炭素やアミン化合物との反応物の物質輸送は、吸収液の粘度に強く依存する。従来の非水系の吸収液は、水系の吸収液と比べて粘度が高く、吸収液中の物質輸送が妨げとなり吸収速度を十分に上げることができなかった。
したがって、二酸化炭素分離回収効率を向上するためには、二酸化炭素放散量が大きく、所定時間当たりの二酸化炭素吸収量、すなわち、二酸化炭素吸収速度を上げることが求められる。
【0012】
そこで、本発明は、二酸化炭素分離回収工程において、吸収及び放散を効率よく行うことができる二酸化炭素吸収液を提供することを課題とする。
本発明は、さらに、吸収と放散の温度差が少ない条件で、バイオガス中のメタンガスと二酸化炭素を分離し、メタンガスを濃縮するとともに、二酸化炭素を回収するバイオガス処理に適した二酸化炭素吸収液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用するものである。
[1]窒素-水素結合を有する二酸化炭素化学吸収性アミンと、主鎖の炭素数が2以上の炭化水素基を介した酸素原子及び/又は窒素原子を有し、酸素原子と窒素原子の合計が2以上の水素結合受容性を有する3級多座アミンとを含む非水系の二酸化炭素吸収液であって、前記窒素-水素結合を有する二酸化炭素化学吸収性アミンは、エーテル基を有する炭化水素基を有し、かつ、水酸基を有しない2級アミンであり、前記3級多座アミンは、2-(ジエチルアミノ)エタノール、2-(ジイソプロピルアミノ)エタノール、2-(ジブチルアミノ)エタノール、3-ジメチルアミノ-1-プロパノール、4-(ジメチルアミノ)-1-ブタノール、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、又はN-ブチルジエタノールアミンのいずれか1以上であることを特徴とする、二酸化炭素吸収液。
[2]前記二酸化炭素化学吸収性アミンは、ビス(2-メトキシエチル)アミン、ビス(2-エトキシエチル)アミン、又はビス(2-イソプロポキシエチル)アミンのいずれか1以上である、前記[1]の二酸化炭素吸収液。
[3]前記二酸化炭素化学吸収性アミンと前記3級多座アミンの割合は、前記二酸化炭素化学吸収性アミン/(前記二酸化炭素化学吸収性アミン+前記3級多座アミン)(質量比)で1/100~50/100である、前記[1]又は[2]の二酸化炭素吸収液。
[4]前記[1]~[3]のいずれかの二酸化炭素吸収液を二酸化炭素を含む混合ガスと10℃以上40℃以下で接触させることによって、二酸化炭素を前記二酸化炭素吸収液に吸収させて、前記混合ガスから二酸化炭素を選択的に分離する吸収工程、及び、前記の二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収液を前記吸収温度より高温に加熱することで吸収した二酸化炭素を放散させて回収し、前記二酸化炭素吸収液を再生する加熱再生工程、を含む二酸化炭素分離回収方法。
[5]前記[1]~[]のいずれかの二酸化炭素吸収液を二酸化炭素を含む混合ガスと10℃以上40℃以下で接触させることによって、二酸化炭素を前記二酸化炭素吸収液に吸収させて、前記混合ガスから二酸化炭素を選択的に分離する吸収工程、及び、前記の二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収液を60℃以上100℃以下に加熱することで吸収した二酸化炭素を放散させて回収し、前記二酸化炭素吸収液を再生する加熱再生工程、を含む二酸化炭素分離回収方法。
[6]前記[4]又は[5]の二酸化炭素分離回収方法を用いてバイオガス中のメタンガスを濃縮処理するバイオガス処理方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、二酸化炭素分離回収工程において、吸収及び放散を効率よく行うことができる二酸化炭素吸収液を提供することができ、吸収と放散の温度差が少ない条件で、様々な濃度の二酸化炭素発生源を対象として省エネルギーの二酸化炭素分離回収方法を提供することができる。特に、バイオガス中のメタンガスと二酸化炭素を分離し、メタンガスを濃縮するとともに、二酸化炭素を回収するバイオガス処理に適した二酸化炭素吸収液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】二酸化炭素吸収試験装置を示す図
図2】各吸収液の二酸化炭素吸収量の温度依存性を示す図(CO2(mol)/吸収性アミン(mol))
図3】各吸収液の二酸化炭素吸収量の温度依存性を示す図(CO2(mol)/吸収液(kg))
図4】各吸収液の粘度の温度依存性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
二酸化炭素分離回収効率を向上するためには、室温近傍の吸収温度での所定時間当たりの二酸化炭素吸収量、すなわち、二酸化炭素吸収速度が大きく、吸収温度からの温度変化が小さい放散温度で二酸化炭素放散量が大きいことが求められる。そこで、本発明者らは、狭い温度範囲で二酸化炭素の吸放出性能に優れたアミン化合物の分子構造に着目し、かつ、二酸化炭素吸収速度の支配因子の一つである吸収液中の物質輸送に関わる粘度に着目し、本発明に至った。
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明するが、これらの実施形態は、この発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
本発明は、様々な実施の形態及びその変形を含むものであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【0018】
本発明の一実施形態は、窒素-水素結合を有する二酸化炭素化学吸収性アミンと、主鎖の炭素数が2以上の炭化水素基を介した酸素原子及び/又は窒素原子を有し、酸素原子と窒素原子の合計が2以上の水素結合受容性を有する3級多座アミンとを含む非水系の二酸化炭素吸収液であって、前記窒素―水素結合を有する二酸化炭素化学吸収性アミンは、エーテル基を有する炭化水素基を有し、かつ、水酸基を有しない2級アミンであることを特徴とする、二酸化炭素吸収液に関する。
【0019】
本発明の他の実施形態は、前記の二酸化炭素吸収液を二酸化炭素を含む混合ガスと10℃以上40℃以下で接触させることによって、二酸化炭素を前記二酸化炭素吸収液に吸収させて、前記混合ガスから二酸化炭素を選択的に分離する吸収工程、及び、前記の二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収液を前記吸収温度より高温に加熱することで吸収した二酸化炭素を放散させて回収し、前記二酸化炭素吸収液を再生する加熱再生工程、を含む二酸化炭素分離回収方法である。
【0020】
本発明のさらに他の実施形態は、前記の二酸化炭素分離回収方法を用いてバイオガス中のメタンガスを濃縮処理するバイオガス処理方法である。
【0021】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)に係る各要素について、その詳細を順に記載する。
【0022】
[二酸化炭素化学吸収性アミン]
本実施形態に係る窒素-水素結合を有する二酸化炭素化学吸収性アミンは、エーテル基を有する炭化水素基を有し、かつ、水酸基を有しない2級アミンである。
【0023】
窒素-水素結合を有する二酸化炭素化学吸収性アミン(以下、「吸収性アミン」ということがある。)としては、従来、水酸基を2つ有するジアルカノールアミンや、水酸基を1つ有するN-アルキルモノアルカノールアミンが知られている。しかし、これらの吸収性アミンを含む吸収液は、水酸基由来の水素結合が介在するため、一般に粘度が高い。
そこで、本発明者らは、従来より低い粘度を示し、かつ、狭い温度範囲で二酸化炭素の吸放出性能に優れた吸収性アミンを探索したところ、水酸基を有せず、かつ、エーテル基を有する炭化水素基を有した2級アミンを新たに見出した。
本実施形態に係る吸収性アミンは、室温近傍で二酸化炭素と反応して化学的に吸収し、吸収温度より高い温度に加熱することによって、吸収した二酸化炭素を放散することにより、再生される。前記吸収性アミンは、エーテル結合を有することにより、水酸基を有する吸収性アミンと同等の塩基性を有し、かつ、従来の吸収性アミンより低粘度であり、二酸化炭素を吸収した状態においても従来の吸収液より粘度を低減することができる。
【0024】
本実施形態に係る吸収性アミンにおいて、エーテル基を有する炭化水素基の炭素数は、揮発性を低減し、放散時の蒸発による損失を防ぐために、2以上であることが好ましい。また、化学構造が対称、非対称のいずれであってもよいが、対称構造である方が、製造コストが低く、好ましい。
中でも、以下の[式1]で表されるビス(2-メトキシエチル)アミン(BMEA)、[式2]で表されるビス(2-エトキシエチル)アミン(BEEA)、又は[式3]で表されるビス(2-イソプロポキシエチル)アミン(BIPEA)のいずれか1以上であることが好ましい。

【化1】
【0025】
[3級多座アミン]
本実施形態に係る3級多座アミンは、窒素-水素結合を有さず、水素結合受容性に富み、立体構造的にも安定化し、二酸化炭素化学吸収性アミンと二酸化炭素との反応を促進するように、主鎖の炭素数が2以上の炭化水素基を介した酸素原子及び/又は窒素原子を有し、酸素原子と窒素原子の合計が2以上の3級多座アミンである。ここで、「水素結合受容性に富み、立体構造的にも安定化し、二酸化炭素化学吸収性アミンと二酸化炭素との反応を促進」とは、例えば[式4])で示されるように、3級多座アミンの窒素原子や酸素原子が、二酸化炭素化学吸収性アミンの水素と多座で相互作用して、二酸化炭素との反応生成物を安定化することである。
【化2】
【0026】
[式4]中、H-N(R)Rで表される化合物は、本実施形態に係る二酸化炭素化学吸収性アミンを表し、[式4]中、XN(R)Rで表される化合物は、本発明に係る3級多座アミンを表し、R及びRは、無置換若しくは置換基を有していてもよい炭化水素基、Rは、無置換若しくは置換基を有していてもよい、主鎖の炭素数が2以上の炭化水素基であり、Xは、窒素原子又は酸素原子及びそれらに結合する水素又は無置換若しくは置換基を有していてもよい炭化水素基である。なお、本明細書で、主鎖の炭素数が2以上の炭化水素基とは、三級アミンの窒素原子と、窒素原子又は酸素原子との間の最短の基本骨格が、エチレン基やプロピレン基、ブチレン基などのように炭素数2以上のことをいう。したがって、例えば、HO-C(H)(CH)N(R)Rといった主鎖の炭化水素が1であるアミンは、本願発明に係る3級多座アミンには含まれない。主鎖の炭素数が2以上の炭化水素基としては、自由度の高い、非環状骨格を構成するエチレン基、プロピレン基、又はブチレン基が好ましく、エチレン基がより好ましい。
【0027】
電子供与性の酸素原子や窒素原子は水素結合受容性が高く、二酸化炭素化学吸収性アミンの水素と相互作用して、二酸化炭素との反応生成物を安定化し得る。そして、式中にRと曲線で表される主鎖の炭素数が2以上の炭化水素基は、自由度が高いため、その両端に結合する窒素原子及び/又は素原子が、二酸化炭素化学吸収性アミンの水素と水素結合を形成し得る。このような3級多座アミンは、二酸化炭素を吸収する室温近傍などの比較的低温側では、二酸化炭素化学吸収性アミンの水素と水素結合を形成して安定化することによって、二酸化炭素との反応を促進する。また、Xに結合した水素は二酸化炭素化学吸収性アミンと反応した二酸化炭素と水素結合を形成でき、反応生成物をさらに安定化して、二酸化炭素との反応を促進可能である。一方、二酸化炭素を放散する高温側では、この水素結合の度合いが低下するので、二酸化炭素の放散を促進し得る。
【0028】
本実施形態に係る3級多座アミンとしては、水素結合受容性に富み、立体構造的にも安定化し、二酸化炭素化学吸収性アミンと二酸化炭素との反応を促進するように、主鎖の炭素数が2以上の炭化水素基を介した酸素原子及び/又は窒素原子を有し、酸素原子と窒素原子の合計が2以上の3級アミンであれば特に限定されないが、例えば、[式5]で表される、1つの窒素原子に、水酸基を有する炭化水素基が1つと、水酸基を有さない炭化水素基が2つ結合した3級多座アミンであるか、又は[式6]で表される、水酸基を有する炭化水素基が2つと、水酸基を有さない炭化水素基が1つ結合した3級多座アミンであることが好ましい。;
【化3】
([式5]中、R及びRは、無置換又は置換基(水酸基を除く)を有していてもよい炭化水素基、n1は、2以上の整数であり、括弧内の炭素原子は置換基を有していてもよく、炭素原子の一部がヘテロ原子で置換されていてもよい。)
【化4】
([式6]中、Rは、無置換又は置換基(水酸基を除く)を有していてもよい炭化水素基、n1及びn2は、2以上の整数であり、括弧内の炭素原子は置換基を有していてもよく、炭素原子の一部がヘテロ原子で置換されていてもよい。)
【0029】
[式5]で表される3級多座アミンとしては、例えば、2-ジメチルアミノエタノール((Me)2N(EtOH))、2-(ジエチルアミノ)エタノール((Et)2N(EtOH))、2-(ジイソプロピルアミノ)エタノール((i-Pr)2N(EtOH))、2-(ジブチルアミノ)エタノール((n-Bu)2N(EtOH))、3-ジメチルアミノ-1-プロパノール((Me)2N(n-PrOH))、及び4-(ジメチルアミノ)-1-ブタノール((Me)2N(n-BuOH))などが挙げられる。
【0030】
中でも、[式5]において、R及びRが、炭素数が2以上の炭化水素基である3級アミン、すなわち、1つの窒素原子に、水酸基を有する主鎖の炭素数が2以上の炭化水素基が1つと、炭素数2以上の炭化水素基が2つ結合した3級アミン、又は[式5]において、n1が3以上である3級アミン、すなわち、1つの窒素原子に、水酸基を有する主鎖の炭素数が3以上の炭化水素基が1つと、無置換の炭化水素基が2つ結合した3級アミンが好ましい。具体的には、2-(ジエチルアミノ)エタノール、2-(ジイソプロピルアミノ)エタノール、及び2-(ジブチルアミノ)エタノール、並びに3-ジメチルアミノ-1-プロパノール及び4-(ジメチルアミノ)-1-ブタノールなどが挙げられる。
【0031】
[式6]で表される3級多座アミンとしては、例えば、N-メチルジエタノールアミン(MDEA)、N-エチルジエタノールアミン((Et)N(EtOH)2)、N-ブチルジエタノールアミン((n-Bu)N(EtOH)2)が挙げられる。
【0032】
[二酸化炭素吸収液]
本実施形態に係る二酸化炭素吸収液は、前述の窒素-水素結合を有する二酸化炭素化学吸収性アミンと、前述の窒素-水素結合を有さない3級多座アミンを含む。本実施形態に係る二酸化炭素化学吸収性アミン、3級多座アミンは、通常、室温で液体であり、本実施形態に係る二酸化炭素吸収液は、二酸化炭素化学吸収性アミン、及び3級多座アミンを混合することによって得られる。
【0033】
二酸化炭素化学吸収性アミンとしては、前述のビス(2-メトキシエチル)アミン、ビス(2-エトキシエチル)アミン、又はビス(2-イソプロポキシエチル)アミンのいずれか1以上が好ましく、3級多座アミンとして、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、又はN-ブチルジエタノールアミンのいずれか1以上とで組合せることが好ましい。
【0034】
本実施形態に係る二酸化炭素吸収液は、従来の非水系の吸収液に比べて低粘度であり、室温近傍での二酸化炭素の吸収による粘度の増加が抑制されるので、吸収速度が速い。また、吸収工程から加熱再生工程への温度上昇が小さくても、大きな放散量が得られ、二酸化炭素回収率、吸収液の再生効率が向上し、しかも、吸収液の揮発による損失を低減することができる。したがって、本実施形態に係る吸収液は、様々な濃度の二酸化炭素発生源を対象として省エネルギーの二酸化炭素分離回収方法を提供することができる。特に、バイオガスからメタンガスと二酸化炭素を分離回収し、メタンガスを濃縮処理するバイオガス処理に適している。
【0035】
二酸化炭素吸収液中の二酸化炭素化学吸収性アミンの割合は特に限定されず、二酸化炭素化学吸収性アミン、3級多座アミン、及び希釈剤の種類によって適宜選択されるが、二酸化炭素化学吸収性アミン/(二酸化炭素化学吸収性アミン+3級多座アミン)(質量比)で、1/100~50/100が好ましく、10/100~40/100であることがより好ましい。二酸化炭素化学吸収性アミンの比率がこの範囲にあると、室温近傍での二酸化炭素吸収量や二酸化炭素吸収速度を上げ、かつ再生温度が温和な条件で二酸化炭素易脱性を達成することができる。
【0036】
本実施形態に係る二酸化炭素吸収液は、非水系の二酸化炭素吸収液であり、実質的に水を含まない。具体的には、本発明の二酸化炭素吸収液の水含有量は、好ましくは、10質量%未満、より好ましくは5質量%未満、特に好ましくは3質量%未満である。
【0037】
本実施形態に係る二酸化炭素吸収液は、二酸化炭素を含む混合ガスから、二酸化炭素ガスを分離回収する方法に適用できる。混合ガスは、二酸化炭素を含むガス状の混合物であれば、特に限定されず、その他の成分を含むことができる。その他の成分としては、炭化水素ガス、二酸化炭素以外の酸性ガス、窒素ガス、酸素ガス、水、ばいじんなどが挙げられるが、本実施形態に係る二酸化炭素吸収液は、特にバイオガスに含まれるメタンガスと二酸化炭素とを分離回収する方法に適している。二酸化炭素以外の酸性ガスの例としては、硫化水素;一酸化硫黄、二酸化硫黄(亜硫酸ガス)、三酸化硫黄などの硫黄酸化物;一酸化窒素、二酸化窒素、亜酸化窒素(一酸化二窒素)、三酸化二窒素、四酸化二窒素、五酸化二窒素などの窒素酸化物;塩酸、硝酸、リン酸、硫酸などの無機酸類;カルボン酸、スルホン酸、炭酸などの有機酸類、が挙げられる。本発明の二酸化炭素吸収液は、混合ガスにその他の成分として水が飽和量含まれていても二酸化炭素の回収性に影響が少ない。また、本発明の二酸化炭素吸収液は、混合ガスにその他の成分としてばいじんが含まれていても二酸化炭素の回収性に影響が少ない。
【0038】
[二酸化炭素分離回収方法]
次に、本実施形態に係る二酸化炭素吸収液を用いた二酸化炭素分離回収方法について説明する。
本発明の二酸化炭素分離回収方法は、前述の二酸化炭素吸収液を、二酸化炭素を含む混合ガスと接触させることによって、二酸化炭素を前記二酸化炭素吸収液に吸収させて、前記混合ガスから二酸化炭素を選択的に分離する吸収工程、及び前記の二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収液を吸収工程より高温に加熱することで吸収した二酸化炭素を放散させて回収し、前記二酸化炭素吸収液を再生する加熱再生工程、を含む。前記二酸化炭素吸収液と二酸化炭素を含む混合ガスとの接触方法は、例えば吸収塔方式やスクラバー方式が用いられるが、それらの実施形態に限定されるものではなく、気液の接触効率を高めて二酸化炭素の吸収速度が向上できれば良い。また、前記二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収液を加熱再生する方法は、例えば再生塔方式やフラッシュドラム方式が用いられるが、それらの実施形態に限定されるものではなく、加熱の伝熱効率や気液の接触効率を高めて二酸化炭素の放散速度が向上できれば良い。
【0039】
本実施形態に係る二酸化炭素分離回収方法は、室温近傍での吸収速度が速く、小さな温度上昇で二酸化炭素の放散が容易に起こり、しかも、吸収液の蒸発損失が少なく、低比熱で、反応熱が小さいので、回収する二酸化炭素当たりの、二酸化炭素吸収液の再生に要するエネルギーを削減でき、ひいては二酸化炭素の分離回収効率を向上することができる。したがって、本実施形態に係る二酸化炭素分離回収方法は、様々な濃度の二酸化炭素発生源を対象として省エネルギーで二酸化炭素を分離回収することができ、特に、バイオガスからメタンガスと二酸化炭素を分離回収し、メタンガスを濃縮処理するバイオガス処理方法に用いられる。
【0040】
吸収工程の温度は、室温近傍(25℃±15℃)の10℃以上40℃以下が好ましい。室温近傍であれば、二酸化炭素吸収液や対象とする処理ガスを過剰に冷却する必要が無く、二酸化炭素の吸収量や吸収速度を向上でき、省エネルギー化を達成できる。
本発明の二酸化炭素分離回収方法では、吸収工程の圧力は特に限定されない。常圧近傍の処理ガスを対象とする場合は、そのまま常圧近傍で吸収工程を行えば、余分に処理ガスの圧縮エネルギーが掛からず、省エネルギーの観点からが好ましい。一方、二酸化炭素の二酸化炭素吸収液への吸収量や吸収速度を向上させるため、常圧以上の、例えば1MPaG~6MPaGなどの高圧条件を利用することもできる。
【0041】
加熱再生工程の温度は、吸収工程の温度より高いが特に限定されない。ただし、再生工程の温度を著しく上げると、二酸化炭素吸収液の放散量は高くなるものの、加熱に要するエネルギーが多大となり、二酸化炭素分離回収効率が低下する。よって、温和な温度条件で再生工程を行うことが好まく、100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましく、60℃以下が特に好ましい。
加熱再生工程の圧力は、吸収工程の圧力と同等又は低圧にすることが好ましいが、特に限定されない。本発明の二酸化炭素吸収液は蒸気圧が低く、揮発を抑制できるため、減圧下で処理することができる。減圧に要するエネルギーが多大とならない条件で、適度に減圧処理することで、二酸化炭素吸収液から二酸化炭素の放散量の向上が期待できる。一方、再生工程で二酸化炭素吸収液から放散される二酸化炭素を高圧で回収することもできる。高圧で二酸化炭素を回収することにより、後段で高圧の二酸化炭素が必要な場合、圧縮エネルギーを低減することができる。
【0042】
本実施形態に係る二酸化炭素分離回収方法において、吸収工程で吸収した二酸化炭素を加熱再生工程で回収する割合は、吸収工程と加熱再生工程との温度差が30℃(30℃から60℃)の場合、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。前記温度差が50℃(10℃から60℃)の場合、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。温度差が小さいほど回収率は低くなるが、温度差が小さいほど、回収のための加熱エネルギーを小さくすることができる。
【0043】
本発明の二酸化炭素吸収液およびそれを用いた二酸化炭素分離回収方法は、様々な濃度の二酸化炭素発生源を対象として省エネルギーで二酸化炭素を分離回収することができ、特に、バイオガス中のメタンガスを濃縮処理するバイオガス処理方法に適している。
【実施例
【0044】
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。測定は、以下の二酸化炭素吸収試験により行った。
【0045】
[二酸化炭素吸収試験]
図1に示す二酸化炭素吸収試験装置を用いて、常圧で二酸化炭素吸収試験を行った。二酸化炭素吸収試験装置は、ガラス製の反応容器112に二酸化炭素を導入するための二酸化炭素のボンベ101、減圧弁102、流量計103、バルブ104、コイル状の予熱器105、及びバルブ106、並びに、熱媒107を入れる恒温槽108、その恒温槽108内の熱媒107の温度を測定する白金測温体109を接続した抵抗表示器110、恒温槽108内の熱媒107の温度を一定に調節する冷却水循環装置111、反応容器112内に入れた回転子113を回転させるマグネチックスターラー114を備える。
反応容器112には、栓115、ガス導入管116、バルブ付き放出管117を取り付けることができる。バルブ106は、反応容器112に取り付けられたガス導入管116と接続できる。予熱器105及び反応容器112は、恒温槽108の熱媒107に浸され、冷却水循環装置111で一定の温度に保たれる。反応容器112内には、回転子113が入れてあり、マグネチックスターラー114によって、反応容器112内の二酸化炭素吸収液を撹拌できる。熱媒107は、水あるいはシリコンオイルを用いる。
【0046】
以下に、この二酸化炭素吸収試験装置を用いた、二酸化炭素吸収量測定手順を示す。
1)窒素雰囲気下で、所定量(約6~7g)の二酸化炭素吸収液をガラス製の反応容器112に取り分け、反応容器112の口を栓115で封じる。反応容器全体の質量を分析天秤で計測し、これから風袋(反応容器112、回転子113及び栓115)の質量を差し引き、二酸化炭素吸収液の質量Wtotalを得る。
2)反応容器112にガス導入管116及び放出管117を取り付け、再度、質量を計測して反応容器全体の質量Wを得る。
3)反応容器112を恒温槽108に設置する。ガス導入管116をバルブ106に接続する。
4)恒温槽108の温度を所定の吸収温度に保ち、二酸化炭素を反応容器112に流通させ、二酸化炭素吸収液に二酸化炭素を15~60分間吸収させる。所定時間経過後、反応容器全体の質量を分析天秤で測定し、Wとする。
5)二酸化炭素吸収液に吸収された二酸化炭素の質量WCO2を、下記式に基づき求める。
CO2=W-W
また、二酸化炭素吸収液中の二酸化炭素化学吸収性アミン1モルあたりの二酸化炭素吸収量αCO2を下記式に基づき決定する。
αCO2=(WCO2/MCO2)/(W/Mchem
ここで上記式中、MCO2は二酸化炭素のモル質量であり、Mchemは二酸化炭素化学吸収性アミンのモル質量であり、二酸化炭素化学吸収性アミンの質量Wは二酸化炭素吸収液の質量Wtotalに質量分率xを乗じて求める。
6)低温域における二酸化炭素吸収量から高温域における二酸化炭素吸収量を差し引いた値(放散量)を計算し、低温域における二酸化炭素吸収量で除して、二酸化炭素回収率を求める。
【0047】
(実施例1)
二酸化炭素化学吸収性アミンとして、ビス(2-メトキシエチル)アミン(BMEA、東京化成工業株式会社製、純度>98.0%)と、3級多座アミンとして、N-メチルジエタノールアミン(MDEA アルドリッチ社製、純度≧99%)を混合して、質量分率で30wt%のBMEAを含むMDEA溶液を調製し、実施例1の二酸化炭素吸収液として用いた。水分含有率は1%以下である。
【0048】
(実施例2)
二酸化炭素吸収性アミンとして、ビス(2-エトキシエチル)アミン(BEEA、東京化成工業株式会社製、純度>98.0%)を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る二酸化炭素吸収液を得た(BEEAの質量分率=30wt%)。
【0049】
(実施例3)
二酸化炭素吸収性アミンとして、ビス(2-イソプロポキシエチル)アミン(BIPEA、東京化成工業株式会社製、純度>97.0%)を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係る二酸化炭素吸収液を得た(BIPEAの質量分率=30wt%)。
【0050】
(比較例1)
二酸化炭素化学吸収性アミンとして、ジエタノールアミン(DEA、和光純薬株式会社製、純度99.0+%)を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る二酸化炭素吸収液を得た(DEAの質量分率=30wt%)。
【0051】
(比較例2)
二酸化炭素化学吸収性アミンとして、N-エチルエタノールアミン(EEA、東京化成工業株式会社製、純度>98.0%)を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例2に係る二酸化炭素吸収液を得た(EEAの質量分率=30wt%)。
【0052】
(比較例3)
二酸化炭素化学吸収性アミンとして、N-ブチルエタノールアミン(BEA、関東化学株式会社製、純度>99.0%)を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例3に係る二酸化炭素吸収液を得た(BEAの質量分率=30wt%)。
【0053】
[二酸化炭素吸収試験]
各実施例、及び各比較例に係る二酸化炭素吸収液について、二酸化炭素吸収試験を行った。条件は、以下のとおりである。
吸収温度:10℃、30℃、60℃、80℃
【0054】
図2は、各吸収液の各温度における二酸化炭素吸収量αCO2(吸収性アミン1モル当たり)の温度依存性を示し、図3は、二酸化炭素吸収量αCO2を吸収液1kg当たりに換算した値の温度依存性を示す。
表1は、吸収温度が10℃、30℃、60℃における吸収性アミン1kg当たりに換算した二酸化炭素吸収量、及び二酸化炭素回収率を示す。
【0055】
【表1】
【0056】
図2の結果から、水酸基を有さず、エーテル結合を有する吸収性アミン(BMEA、BEEA、BIPEA)を含む実施例1~3に係る吸収液は、水酸基を有する比較例1~3に係る吸収性アミン(DEA、EEA、BEA)を含む吸収液よりも、低温域での二酸化炭素吸収量αCO2が大きく、高温域での二酸化炭素吸収量αCO2が小さい(放散量が大きい)ことがわかった。
一方、図3に示した、吸収性アミンの単位質量当たりの二酸化炭素吸収量から、実施例1~3に係る吸収性アミンは比較例の吸収性アミンより分子量が大きいため、二酸化炭素吸収量の絶対値は比較例1~3より小さいことがわかった。しかし、実施例1~3の吸収性アミンの単位質量当たりの二酸化炭素吸収量は温度依存性が大きく、低温域と高温域での吸収量の差が大きいため、表1に示すように、二酸化炭素回収率が優れることがわかった。
二酸化炭素回収率が優れることは、吸収液の再生を効率よく行え、所定質量の吸収液を循環利用することで、より多くの二酸化炭素を分離回収できることを意味する。よって、本実施形態に係る吸収液は、吸収液を再生して繰り返し使用する実際の二酸化炭素分離回収工程に好適であり、特に、狭い温度条件で吸収液を再生するバイオガス処理などへの適用が期待される。
【0057】
[粘度測定]
各実施例、各比較例に係る吸収液について、二酸化炭素吸収前の10℃、30℃、及び60℃における粘度を、粘度計(AntonPaar社製SVM3000)を用いて、測定した。
結果を以下の表2、及び図4に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
表2の結果から、二酸化炭素吸収前の吸収液について、水酸基数を1つに減らしたDEA、EEAを含む比較例2、3に係る吸収液は、水酸基を2つ有する吸収性アミンであるDEAを含む比較例1に係る吸収液より、10℃から60℃における粘度を1/2以下に低減することができた。一方、水酸基を有さず、エーテル結合を有する吸収性アミン(BMEA、BEEA、BIPEA)を含む実施例1~3に係る吸収液は、比較例1~3に係る吸収液より、さらに、10~60℃における粘度を低減できることがわかった。
【0060】
また、吸収温度30℃において、各吸収液に二酸化炭素を飽和吸収させた後の粘度を測定した。それらの結果を、30℃における二酸化炭素吸収前の粘度、及び吸収前の粘度に対する吸収後の粘度の比とともに、以下の表3に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
表3の結果から、実施例1~3に係る吸収液は、二酸化炭素吸収前の粘度が低いばかりでなく、二酸化炭素吸収後の粘度も低く、吸収前後で粘度の増加が小さいことがわかった。
したがって、本実施形態に係る吸収液実施例1~3に係る吸収液中では、二酸化炭素の吸収液への溶解速度や吸収液中の二酸化炭素やアミン化合物との反応物の物質輸送が速やかに起こり、二酸化炭素分離回収工程において、吸収及び放散を効率よく行うことができると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、二酸化炭素分離回収工程において、本発明の二酸化炭素吸収液を用いることで狭い温度条件で吸収及び放散を効率よく行え、二酸化炭素分離回収を省エネルギーで行うことができる。特に、バイオガス中のメタンガスと二酸化炭素を分離し、メタンガスを濃縮するとともに、二酸化炭素を回収するバイオガス処理に利用可能である。
【符号の説明】
【0064】
101 二酸化炭素のボンベ
102 減圧弁
103 流量計
104 バルブ
105 予熱器
106 バルブ
107 熱媒
108 恒温槽
109 白金測温体
110 抵抗表示器
111 冷却水循環装置
112 反応容器
113 回転子
114 マグネチックスターラー
115 栓
116 ガス導入管
117 放出管
図1
図2
図3
図4