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特許7539633二酸化炭素吸収液、二酸化炭素分離回収方法、及びバイオガス処理方法
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  • 特許-二酸化炭素吸収液、二酸化炭素分離回収方法、及びバイオガス処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】二酸化炭素吸収液、二酸化炭素分離回収方法、及びバイオガス処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/14 20060101AFI20240819BHJP
   B01D 53/62 20060101ALI20240819BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20240819BHJP
【FI】
B01D53/14 210
B01D53/14 220
B01D53/62 ZAB
C01B32/50
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020058690
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021154237
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000133032
【氏名又は名称】株式会社タクマ
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 保子
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(72)【発明者】
【氏名】金久保 光央
(72)【発明者】
【氏名】牧野 貴至
(72)【発明者】
【氏名】河野 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】宍田 健一
(72)【発明者】
【氏名】藤平 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】藤川 宗治
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-100180(JP,A)
【文献】特表2013-542060(JP,A)
【文献】特開2017-104776(JP,A)
【文献】特開2019-181401(JP,A)
【文献】特開2011-251220(JP,A)
【文献】特開2014-088524(JP,A)
【文献】Energy & Fuels,2014年,Vol28, No.7-8,P.5252-5258
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/00 - 53/96
C01B 32/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素-水素結合を有する二酸化炭素化学吸収性アミンと、
主鎖の炭素数が2以上の炭化水素基を介した酸素原子及び/又は窒素原子を有し、酸素原子と窒素原子の合計が2以上の水素結合受容性を有する3級多座アミンとを含む非水系の二酸化炭素吸収液であって、
前記窒素-水素結合を有する二酸化炭素化学吸収性アミンは、ジアルカノールアミン又はN-アルキルモノアルカノールアミンのいずれか1以上である2級アミンであり、
さらに、前記二酸化炭素吸収液の二酸化炭素吸収前及び二酸化炭素吸収後のいずれにおいても、粘度を減少させる非水系の希釈剤として、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、テトラメチル尿素、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、又はスルホランのいずれか1以上を含むことを特徴とする二酸化炭素吸収液。
【請求項2】
前記二酸化炭素化学吸収性アミンは、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジブタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、3-メチルアミノ-1-プロパノ―ル、N-ブチルエタノールアミン、又はN-プロピルエタノールアミンのいずれか1以上である、請求項に記載の二酸化炭素吸収液。
【請求項3】
前記二酸化炭素化学吸収性アミンは、ジエタノールアミンである、請求項2に記載の二酸化炭素吸収液。
【請求項4】
前記3級多座アミンは、
1つの窒素原子に、水酸基を有する炭化水素基が2つと、水酸基を有しない炭化水素基が1つ結合した3級多座アミンである、請求項1~3のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収液。
【請求項5】
前記3級多座アミンは、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、又はN-ブチルジエタノールアミンのいずれか1以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収液。
【請求項6】
前記二酸化炭素化学吸収性アミンの割合は、前記二酸化炭素化学吸収性アミン/(前記二酸化炭素化学吸収性アミン+前記3級多座アミン+前記希釈剤)(質量比)で1/100~50/100である、請求項1~5のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収液。
【請求項7】
前記希釈剤の含有割合は、前記希釈剤/(前記二酸化炭素化学吸収性アミン+前記3級多座アミン+前記希釈剤)(質量比)で1/100~50/100である、請求項1~6のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収液。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収液を二酸化炭素を含む混合ガスと10℃以上40℃以下で接触させることによって、二酸化炭素を前記二酸化炭素吸収液に吸収させて、前記混合ガスから二酸化炭素を選択的に分離する吸収工程、及び、
前記の二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収液を前記吸収工程における温度より高温に加熱することで吸収した二酸化炭素を放散させて回収し、前記二酸化炭素吸収液を再生する加熱再生工程、を含む二酸化炭素分離回収方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収液を二酸化炭素を含む混合ガスと10℃以上40℃以下で接触させることによって、二酸化炭素を前記二酸化炭素吸収液に吸収させて、前記混合ガスから二酸化炭素を選択的に分離する吸収工程、及び、
前記の二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収液を60℃以上100℃以下に加熱することで吸収した二酸化炭素を放散させて回収し、前記二酸化炭素吸収液を再生する加熱再生工程、を含む二酸化炭素分離回収方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の二酸化炭素分離回収方法を用いてバイオガス中のメタンガスを濃縮処理するバイオガス処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素吸収液、二酸化炭素分離回収方法、及びバイオガス処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素を分離回収する技術は、天然ガスやバイオガスを原料とするメタンの製造、宇宙空間や海中などの閉鎖状態にある住環境の維持等に必要であり、また、温暖化ガス排出量の削減の観点から火力発電所や製鉄所などの大量排出源を対象とするもの、大気中から農業分野における二酸化炭素の施肥を対象とするもの等、様々な濃度の二酸化炭素源について、盛んに研究されている。
その中で、アミン化合物の水溶液を二酸化炭素の吸収液として用いた化学吸収法が実用化されている。この化学吸収法のプロセスでは、吸収塔において室温近傍で、二酸化炭素を含む気体を吸収液に接触させて、二酸化炭素を選択的に吸収液に化学吸収させ、二酸化炭素濃度の低下した気体と二酸化炭素を吸収した吸収液を気液分離し、再生塔において、二酸化炭素を吸収した吸収液を加熱して、二酸化炭素を放散させて回収し、同時に吸収液を再生し、再生した吸収液を吸収塔に循環している。
【0003】
しかし、このようなアミン水溶液を用いた二酸化炭素分離回収方法では、吸収液を加熱する再生過程で溶媒の水が多量に蒸発するため、その蒸発潜熱分を過剰に再生エネルギーとして投入しなければならない。また、水溶液は比熱が大きく、有機溶剤と比べて2倍以上の顕熱が掛かる。さらに、溶媒の水の蒸発は反応基質であるアミンの同伴を助長するため、分離回収プロセスを管理する上で、物質収支の制御に注意が必要となる。よって、吸収塔や再生塔にアミン回収用の凝縮器を装備するなど、余分の冷却エネルギーを要し、プロセスの複雑化を招く要因となる。さらに、高温での加熱再生プロセスでアミンの劣化が進むため、反応基質の消失に伴う吸収液の定期的な補充が必要となり、ランニングコストの増加が懸念される。
このような問題を解決するために、アミン化合物の非水系溶液の検討が行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、窒素-水素結合を有する二酸化炭素化学吸収性アミンと、イオン液体、又は電子吸引基としてカルボニル基若しくはホスフィニル基を有するアミド化合物である水素結合受容体溶媒とを含む二酸化炭素吸収液が記載されている(請求項1)。
【0005】
特許文献2には、窒素-水素結合を有する二酸化炭素化学吸収性アミンと、水素結合受容性に富み、窒素-水素結合を有しない3級多座アミン溶媒とを含む二酸化炭素吸収液が記載されている(請求項1)。
【0006】
特許文献3には、圧力P1・温度T1の条件下で二酸化炭素を吸収させる吸収部と、圧力P2(P1<P2)・温度T2(T1<T2)の条件下で二酸化炭素を放出させる放出部と、放出部で得た二酸化炭素を分離する回収部を有する二酸化炭素吸収放出装置に用いるアミン含有吸収液であって、吸収液は、粘度の調整のため、更に低粘度、低蒸気圧(高沸点)の溶媒を含んでよいことが記載されている(請求項1、段落[0033])。
【0007】
非特許文献1には、非水溶媒中におけるアミン類化合物のCO吸収に対する溶媒効果について、有機溶媒はCO溶解度が大きく、かつ、CO溶解度の温度依存性が大きく、中~高温域でCO放散が促進されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-104775号公報
【文献】特開2017-104776号公報
【文献】特開2019-181401号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】金久保光央ら、「非水溶媒中におけるアミン類化合物のCO2吸収性に対する溶媒効果」、第40回溶液化学シンポジウム、2017年10月18日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来のアミン水溶液を用いた二酸化炭素分離回収方法におけるエネルギーロスや装置の複雑さを避けるためには、室温近傍の二酸化炭素吸収温度と、吸収された二酸化炭素の放散温度との温度差が小さく、吸収液の揮発や損失が少ない温度条件下で二酸化炭素を分離回収することが求められる。
特に、バイオガス中のメタンガスを二酸化炭素と分離して濃縮処理する技術は、廃棄物からエネルギーや有用物を取り出す点で環境親和性に優れており、より省エネルギーでメタンを濃縮することで、後段のメタン燃焼による発電効率の向上が期待されている。
【0011】
吸収と放散の温度差が小さい条件では、吸収量に比べて放散量が小さいことが多く、放散量の大きさが、二酸化炭素分離回収性能を左右する一因となる。大きな放散量を有する非水系の二酸化炭素吸収液は、例えば特許文献1~3、及び非特許文献1に記載されたアミン化合物を含む従来の吸収液の中から選択することができる。
一方、吸収温度での吸収速度は、一般に放散温度での放散速度に比べて遅いため、吸収速度が二酸化炭素分離回収工程での律速過程となる。実際の二酸化炭素分離回収工程では、吸収塔で吸収液と処理ガスを所定時間接触させて二酸化炭素を吸収させる。そのため、二酸化炭素の吸収速度が遅いと、飽和吸収量まで二酸化炭素を吸収できず、二酸化炭素分離回収効率が低下する。
二酸化炭素の吸収速度は、アミン化合物と二酸化炭素の化学反応の速度、二酸化炭素の吸収液への溶解速度、及び、吸収液中における二酸化炭素やアミン化合物との反応物の物質輸送などに依存する。二酸化炭素の吸収液への溶解速度や吸収液中の二酸化炭素やアミン化合物との反応物の物質輸送は、吸収液の粘度に強く依存する。従来の非水系の吸収液は、水系の吸収液と比べて粘度が高く、吸収液中の物質輸送が妨げとなり吸収速度を十分に上げることができなかった。
【0012】
そこで、本発明は、二酸化炭素分離回収工程において、吸収及び放散を効率よく行うことができる二酸化炭素吸収液を提供することを課題とする。
本発明は、さらに、吸収と放散の温度差が少ない条件で、バイオガス中のメタンガスと二酸化炭素を分離し、メタンガスを濃縮するとともに、二酸化炭素を回収するバイオガス処理に適した二酸化炭素吸収液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用するものである。
[1]窒素-水素結合を有する二酸化炭素化学吸収性アミンと、主鎖の炭素数が2以上の炭化水素基を介した酸素原子及び/又は窒素原子を有し、酸素原子と窒素原子の合計が2以上の水素結合受容性を有する3級多座アミンとを含む非水系の二酸化炭素吸収液であって、前記窒素-水素結合を有する二酸化炭素化学吸収性アミンは、ジアルカノールアミン又はN-アルキルモノアルカノールアミンのいずれか1以上である2級アミンであり、さらに、前記二酸化炭素吸収液の二酸化炭素吸収前及び二酸化炭素吸収後のいずれにおいても、粘度を減少させる非水系の希釈剤として、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、テトラメチル尿素、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、又はスルホランのいずれか1以上を含むことを特徴とする二酸化炭素吸収液。
[2]前記二酸化炭素化学吸収性アミンは、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジブタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、3-メチルアミノ-1-プロパノ―ル、N-ブチルエタノールアミン、又はN-プロピルエタノールアミンのいずれか1以上である、前記[1]の二酸化炭素吸収液。
[3]前記二酸化炭素化学吸収性アミンは、ジエタノールアミンである、前記[2]の二酸化炭素吸収液。
[4]前記3級多座アミンは、1つの窒素原子に、水酸基を有する炭化水素基が2つと、水酸基を有しない炭化水素基が1つ結合した3級多座アミンである、前記[1]~[3]のいずれかの二酸化炭素吸収液。
[5]前記3級多座アミンは、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、又はN-ブチルジエタノールアミンのいずれか1以上である、前記[1]~[4]のいずれかの二酸化炭素吸収液。
[6]前記二酸化炭素化学吸収性アミンの割合は、前記二酸化炭素化学吸収性アミン/(前記二酸化炭素化学吸収性アミン+前記3級多座アミン+前記希釈剤)(質量比)で1/100~50/100である、前記[1]~[5]のいずれかの二酸化炭素吸収液。
[7]前記希釈剤の含有割合は、前記希釈剤/(前記二酸化炭素化学吸収性アミン+前記3級多座アミン+前記希釈剤)(質量比)で1/100~50/100である、前記[1]~[6]のいずれかの二酸化炭素吸収液。
[8]前記[1]~[7]のいずれかの二酸化炭素吸収液を二酸化炭素を含む混合ガスと10℃以上40℃以下で接触させることによって、二酸化炭素を前記二酸化炭素吸収液に吸収させて、前記混合ガスから二酸化炭素を選択的に分離する吸収工程、及び、前記の二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収液を前記吸収工程における温度より高温に加熱することで吸収した二酸化炭素を放散させて回収し、前記二酸化炭素吸収液を再生する加熱再生工程、を含む二酸化炭素分離回収方法。
[9]前記[1]~[7]のいずれかの二酸化炭素吸収液を二酸化炭素を含む混合ガスと10℃以上40℃以下で接触させることによって、二酸化炭素を前記二酸化炭素吸収液に吸収させて、前記混合ガスから二酸化炭素を選択的に分離する吸収工程、及び、前記の二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収液を60℃以上100℃以下に加熱することで吸収した二酸化炭素を放散させて回収し、前記二酸化炭素吸収液を再生する加熱再生工程、を含む二酸化炭素分離回収方法。
[10]前記[8]又は[9]の二酸化炭素分離回収方法を用いてバイオガス中のメタンガスを濃縮処理するバイオガス処理方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、二酸化炭素分離回収工程において、吸収及び放散を連続的に効率よく行うことができる二酸化炭素吸収液を提供することができ、吸収と放散の温度差が少ない条件で、様々な濃度の二酸化炭素発生源を対象として省エネルギーの二酸化炭素分離回収方法を提供することができる。特に、バイオガス中のメタンガスと二酸化炭素を分離し、メタンガスを濃縮するとともに、二酸化炭素を回収するバイオガス処理に適した二酸化炭素吸収液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】二酸化炭素吸収放散試験装置を示す図
図2】本発明の実施例に係る吸収液の二酸化炭素吸収試験(吸収:30℃、再生:60℃)の1~4サイクルにおける二酸化炭素吸収量の時間変化を示す図
図3】本発明の比較例に係る吸収液の二酸化炭素吸収試験(吸収:30℃、再生:60℃)の1~4サイクルにおける二酸化炭素吸収量の時間変化を示す図
図4】各吸収液の二酸化炭素吸収試験(吸収:30℃、再生:60℃)の1サイクル目と2サイクル目以降の二酸化炭素吸収量の時間変化を示す図
図5】各吸収液の二酸化炭素吸収試験(吸収:30℃、再生:60℃)の2サイクル目以降の二酸化炭素吸収量の時間変化を示す図(図4の一部拡大図)
【発明を実施するための形態】
【0016】
二酸化炭素分離回収効率を向上するためには、室温近傍の吸収温度で所定時間当たりの二酸化炭素吸収量、すなわち、二酸化炭素吸収速度が大きく、吸収温度より高い、比較的温和な放散温度で所定時間当たりの二酸化炭素放散量、すなわち、二酸化炭素放散速度が大きいことが求められる。そこで、本発明者らは、二酸化炭素吸収速度の支配因子の一つである吸収液中の物質輸送に着目した。そして、窒素-水素結合を有する二酸化炭素化学吸収性アミンと、主鎖の炭素数が2以上の炭化水素基を介した酸素原子及び/又は窒素原子を有し、酸素原子と窒素原子の合計が2以上の水素結合受容性を有する3級多座アミンとを含む非水系の二酸化炭素吸収液に、極性が高く、揮発性が低く、かつ、二酸化炭素吸収前後のいずれにおいても粘度の増加を抑制する希釈剤を添加することを着想し、本発明に至った。
すなわち、前記希釈剤の添加により、二酸化炭素吸収前後の粘度増加を抑制することで、吸収及び放散速度を向上することが可能である。また、前記希釈剤の極性が高いことによって、アミン化合物やアミン化合物と二酸化炭素の反応生成物の溶解性を向上し、吸収液中での固体成分の析出や液液相分離を避けることができる。さらに、前記希釈剤は、揮発性が低いことによって、二酸化炭素の吸収や放散、特に再生加熱に際しての蒸発による潜熱を抑えられ、昇温に掛かるエネルギーを低減することが可能である。くわえて、前記希釈剤はアミン化合物と二酸化炭素との化学反応を阻害せず、化学吸収性アミンの二酸化炭素の吸収量や放散量に悪影響を及ぼさない。
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明するが、これらの実施形態は、この発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
本発明は、様々な実施の形態及びその変形を含むものであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【0018】
本発明の一実施形態は、窒素-水素結合を有する二酸化炭素化学吸収性アミンと、主鎖の炭素数が2以上の炭化水素基を介した酸素原子及び/又は窒素原子を有し、酸素原子と窒素原子の合計が2以上の水素結合受容性を有する3級多座アミンとを含む非水系の二酸化炭素吸収液であって、前記窒素-水素結合を有する二酸化炭素化学吸収性アミンは、水酸基を有する炭化水素基を有する2級アミンであり、さらに、極性が高く、揮発性が低く、かつ、前記二酸化炭素吸収液の二酸化炭素吸収前及び二酸化炭素吸収後のいずれにおいても、粘度を減少させる非水系の希釈剤を含むことを特徴とする二酸化炭素吸収液に係る。
【0019】
本発明の他の実施形態は、前記の二酸化炭素吸収液を二酸化炭素を含む混合ガスと10℃以上40℃以下で接触させることによって、二酸化炭素を前記二酸化炭素吸収液に吸収させて、前記混合ガスから二酸化炭素を選択的に分離する吸収工程、及び、前記の二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収液を前記吸収温度より高温に加熱することで吸収した二酸化炭素を放散させて回収し、前記二酸化炭素吸収液を再生する加熱再生工程、を含む二酸化炭素分離回収方法である。
【0020】
本発明のさらに他の実施形態は、前記の二酸化炭素分離回収方法を用いてバイオガス中のメタンガスを濃縮処理するバイオガス処理方法である。
【0021】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)に係る各要素について、その詳細を順に記載する。
【0022】
[二酸化炭素化学吸収性アミン]
本実施形態に係る窒素-水素結合を有する二酸化炭素化学吸収性アミンは、水酸基を有する炭化水素基を有する2級アミンである。
【0023】
窒素-水素結合を有する二酸化炭素化学吸収性アミン(以下、「吸収性アミン」ということがある。)は、室温近傍で二酸化炭素を化学的に吸収し、加熱によって、吸収した二酸化炭素を放出し、繰り返し再生することができる。また、吸収性アミンが有する水酸基は、吸収性アミンの塩基性を制御し、二酸化炭素分離回収効率の向上をもたらすとともに、揮発性を下げて、放散時の蒸発による損失を防ぐことができる。吸収性アミンの塩基性を制御し、揮発性を低減し、高沸点とするためには、吸収性アミンの主鎖の炭素数は、2以上であることが好ましい。
【0024】
本実施形態に係る二酸化炭素化学吸収性アミンは、[式1]、又は[式2]で表されるアミンのいずれか1以上であることが好ましい。
【化1】
([式1]中、R7は、無置換若しくは置換基(水酸基を除く)を有していてもよい炭化水素基、n7は、2以上の整数である。括弧内の炭素原子は置換基を有していてもよく、炭素原子の一部がヘテロ原子で置換されていてもよい。)
【化2】

([式2]中、n8及びn9は、2以上の整数である。括弧内の炭素原子は置換基を有していてもよく、炭素原子の一部がヘテロ原子で置換されていてもよい。)
【0025】
ここで、本明細書において、炭化水素基は、特に断りのない限り、例えば、無置換又はハロゲン基、水酸基などの置換基を有するアルキル基、アルケニル基、アルキニル基が挙げられ、骨格にヘテロ原子を有していてもよい。中でも、水酸基を有する炭化水素基は、水酸基を有するアルキル基が好ましい。また、水酸基を有さない炭化水素基は、アルキル基が好ましい。
【0026】
式1で表されるアミンとしては、3-メチルアミノ-1-プロパノ―ル、N-ブチルエタノールアミン、N-プロピルエタノールアミン等のN-アルキルモノアルカノールアミンのいずれか1以上であることが好ましい。
【0027】
また、式2で表されるアミンとしては、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジブタノールアミン等のジアルカノールアミンのいずれか1以上であることが好ましく、特にジエタノールアミンであることが好ましい。
【0028】
[3級多座アミン]
本実施形態に係る3級多座アミンは、窒素-水素結合を有さず、水素結合受容性に富み、立体構造的にも安定化し、二酸化炭素化学吸収性アミンと二酸化炭素との反応を促進するように、主鎖の炭素数が2以上の炭化水素基を介した酸素原子及び/又は窒素原子を有し、酸素原子と窒素原子の合計が2以上の3級多座アミンであり、吸収性アミンの溶媒として機能する。ここで、「水素結合受容性に富み、立体構造的にも安定化し、二酸化炭素化学吸収性アミンと二酸化炭素との反応を促進」とは、例えば[式3])で示されるように、3級多座アミンの窒素原子や酸素原子が、二酸化炭素化学吸収性アミンの水素と多座で相互作用して、二酸化炭素との反応生成物を安定化することである。
【化3】
【0029】
[式3]中、H-N(R)Rで表される化合物は、本実施形態に係る二酸化炭素化学吸収性アミンを表し、式1中、XN(R)Rで表される化合物は、本発明に係る3級多座アミンを表し、R及びRは、無置換若しくは置換基を有していてもよい炭化水素基、Rは、無置換若しくは置換基を有していてもよい、主鎖の炭素数が2以上の炭化水素基であり、Xは、窒素原子又は酸素原子及びそれらに結合する水素又は無置換若しくは置換基を有していてもよい炭化水素基である。なお、本明細書で、主鎖の炭素数が2以上の炭化水素基とは、三級アミンの窒素原子と、窒素原子又は酸素原子との間の最短の基本骨格が、エチレン基やプロピレン基、ブチレン基などのように炭素数2以上のことをいう。したがって、例えば、HO-C(H)(CH)N(R)Rといった主鎖の炭化水素が1であるアミンは、本願発明に係る3級多座アミンには含まれない。主鎖の炭素数が2以上の炭化水素基としては、自由度の高い、非環状骨格を構成するエチレン基、プロピレン基、又はブチレン基が好ましく、エチレン基がより好ましい。
【0030】
電子供与性の酸素原子や窒素原子は水素結合受容性が高く、二酸化炭素化学吸収性アミンの水素と相互作用して、二酸化炭素との反応生成物を安定化し得る。そして、式1中にRと曲線で表される主鎖の炭素数が2以上の炭化水素基は、自由度が高いため、その両端に結合する窒素原子及び/又は窒素原子が、二酸化炭素化学吸収性アミンの水素と水素結合を形成し得る。このような3級多座アミンは、二酸化炭素を吸収する室温近傍などの比較的低温側では、二酸化炭素化学吸収性アミンの水素と水素結合を形成して安定化することによって、二酸化炭素との反応を促進する。また、Xに結合した水素は二酸化炭素化学吸収性アミンと反応した二酸化炭素と水素結合を形成でき、反応生成物をさらに安定化して、二酸化炭素との反応を促進可能である。一方、二酸化炭素を放散する高温側では、この水素結合の度合いが低下するので、二酸化炭素の放散を促進し得る。
【0031】
本明細書では、一分子内に複数の窒素原子が存在し、それらの窒素原子が異なる級数であるときには、アミンの級数は、高い方の級数とする。例えば、一分子内に3級窒素原子(窒素原子に炭化水素基が3つ結合している)と2級窒素原子(窒素原子に炭化水素基が2つ結合し、水素原子が一つ結合している)を有する場合には、そのアミンは3級アミンである。したがって、この例の場合には、水素-窒素結合を有する3級アミンであり、3級アミン溶媒ではなく、二酸化炭素化学吸収性アミンに分類される。窒素炭素二重結合は、炭化水素基が窒素原子に2つ結合しているとして級数を定める。
【0032】
本実施形態に係る3級多座アミンとしては、水素結合受容性に富み、立体構造的にも安定化し、二酸化炭素化学吸収性アミンと二酸化炭素との反応を促進するように、主鎖の炭素数が2以上の炭化水素基を介した酸素原子及び/又は窒素原子を有し、酸素原子と窒素原子の合計が2以上の3級アミンであれば特に限定されないが、例えば、[式4]で表される、1つの窒素原子に、1つの窒素原子に、水酸基を有する炭化水素基が2つと、水酸基を有さない炭化水素基が1つ結合した3級多座アミンであるか、又は[式5]で表される、水酸基を有する炭化水素基が1つと、水酸基を有さない炭化水素基が2つ結合した3級多座アミンであることが好ましい。;
【化4】
([式4]中、R及びRは、無置換又は置換基(水酸基を除く)を有していてもよい炭化水素基、n1は、2以上の整数であり、括弧内の炭素原子は置換基を有していてもよく、炭素原子の一部がヘテロ原子で置換されていてもよい。)
【化5】
([式5]中、Rは、無置換又は置換基(水酸基を除く)を有していてもよい炭化水素基、n1及びn2は、2以上の整数であり、括弧内の炭素原子は置換基を有していてもよく、炭素原子の一部がヘテロ原子で置換されていてもよい。)
【0033】
[式4]で表される3級多座アミンとしては、例えば、2-ジメチルアミノエタノール((Me)2N(EtOH))、2-(ジエチルアミノ)エタノール((Et)2N(EtOH))、2-(ジイソプロピルアミノ)エタノール((i-Pr)2N(EtOH))、2-(ジブチルアミノ)エタノール((n-Bu)2N(EtOH))、3-ジメチルアミノ-1-プロパノール((Me)2N(n-PrOH))、及び4-(ジメチルアミノ)-1-ブタノール((Me)2N(n-BuOH))などが挙げられる。
【0034】
中でも、[式4]において、R及びRが、炭素数が2以上の炭化水素基である3級アミン、すなわち、1つの窒素原子に、水酸基を有する主鎖の炭素数が2以上の炭化水素基が1つと、炭素数2以上の炭化水素基が2つ結合した3級アミン、又は式2において、n1が3以上の整数である3級アミン、すなわち、1つの窒素原子に、水酸基を有する主鎖の炭素数が3以上の炭化水素基が1つと、無置換の炭化水素基が2つ結合した3級アミンが好ましい。具体的には、2-(ジエチルアミノ)エタノール、2-(ジイソプロピルアミノ)エタノール、及び2-(ジブチルアミノ)エタノール、並びに3-ジメチルアミノ-1-プロパノール及び4-(ジメチルアミノ)-1-ブタノールなどが挙げられる。
【0035】
[式5]で表される3級多座アミンとしては、例えば、N-メチルジエタノールアミン(MDEA)、N-エチルジエタノールアミン((Et)N(EtOH)2)、N-ブチルジエタノールアミン((n-Bu)N(EtOH)2)が挙げられる。
【0036】
[希釈剤]
本実施形態に係る希釈剤は、極性が高く、揮発性が低く、かつ、前記二酸化炭素吸収液の二酸化炭素吸収前及び二酸化炭素吸収後のいずれにおいても、粘度を減少させる非水溶媒である。
従来知られた非水系の吸収液は、本実施形態に係る吸収性アミンと3級多座アミンとを混合したものであったが、この吸収液は、二酸化炭素の吸収量が増加するに従って、溶液の粘度が増加し、吸収速度を低下させていた。
【0037】
本発明実施形態に係る希釈剤は、吸収性アミンと3級多座アミンを含む溶液中に加えられることにより、二酸化炭素吸収前の粘度を低減することはもちろん、二酸化炭素吸収後の吸収液の粘度の増加を抑えることができる。したがって、二酸化炭素吸収速度を向上し、所定時間当たりの吸収量を増大でき、二酸化炭素放散速度を向上し、所定時間当たりの放散量を増大することができる。
【0038】
また、本実施形態に係る希釈剤は、高極性であることから、吸収性アミン、3級多座アミン、及び[式3]で表される3級多座アミンによって安定化された吸収性アミンと二酸化炭素の反応生成物に対する高い溶解性を有し、室温近傍での二酸化炭素吸収速度を速めることができるとともに、吸収と放散の温度差が小さい温度条件でも二酸化炭素の放散を促進し、吸収性アミンの再生効率を向上することができる。すなわち、本実施形態に係る希釈剤は、吸収性アミンと二酸化炭素との化学反応を阻害せず、吸収性アミンの二酸化炭素の吸収量や放散量に悪影響を及ぼさない。
【0039】
さらに、本実施形態に係る希釈剤は、揮発性が低いことにより、二酸化炭素の吸収や放散、特に、吸収液の再生工程において揮発による損失を抑制することができる。
本実施形態に係る希釈剤を加えた吸収液は、従来の非水系の吸収液に比べて低粘度であり、室温近傍での二酸化炭素の吸収による粘度の増加を抑制できるので、吸収速度および放散速度が大きい。吸収速度ならびに放散速度の増加により、単位時間当たりのガス処理量を向上できる。また、吸収と放散の温度差が小さい温度条件でも二酸化炭素分離回収を効率よく行うことができる。したがって、本実施形態に係る吸収液は、様々な濃度の二酸化炭素発生源を対象として省エネルギーの二酸化炭素分離回収方法を提供することができる。特に、温和な温度条件で吸収と放散を連続して行うバイオガスからの二酸化炭素分離回収に適している。
【0040】
上記の条件を満たす希釈剤として、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、テトラメチル尿素、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、スルホラン等が好適に挙げられるが、特に、極性が高いジメチルスルホキシド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、及びテトラメチル尿素が好ましい。
【0041】
[二酸化炭素吸収液]
本実施形態に係る二酸化炭素吸収液は、前述の窒素-水素結合を有する二酸化炭素化学吸収性アミンと、前述の窒素-水素結合を有さない3級多座アミンを含み、さらに、前述の希釈剤を含む。本実施形態に係る二酸化炭素化学吸収性アミン、3級多座アミン、及び希釈剤は、通常、室温で液体であり、本実施形態に係る二酸化炭素吸収液は、二酸化炭素化学吸収性アミン、及び3級多座アミンを混合し、希釈剤を加えることによって得られる。
【0042】
二酸化炭素化学吸収性アミン、3級多座アミン、及び希釈剤の組み合わせは、特に限定されないが、例えば、二酸化炭素化学吸収性アミンとして、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジブタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、3-メチルアミノ-1-プロパノ―ル、N-ブチルエタノールアミン、又はN-プロピルエタノールアミンのいずれか1以上、3級多座アミンとして、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、又はN-ブチルジエタノールアミンのいすれか1以上、及び希釈剤として、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、又はテトラメチル尿素の組合せが好ましい。
【0043】
二酸化炭素吸収液中の二酸化炭素化学吸収性アミンの割合は特に限定されず、二酸化炭素化学吸収性アミン、3級多座アミン、及び希釈剤の種類によって適宜選択されるが、二酸化炭素化学吸収性アミン/(二酸化炭素化学吸収性アミン+3級多座アミン+希釈剤)(質量比)で、1/100~50/100が好ましく、10/100~40/100であることがより好ましい。二酸化炭素化学吸収性アミンの比率がこの範囲にあると、室温近傍での二酸化炭素吸収量や二酸化炭素吸収速度を上げ、かつ再生温度が温和な条件で二酸化炭素易脱性を達成することができる。
【0044】
二酸化炭素吸収液中の希釈剤の割合は特に限定されず、二酸化炭素化学吸収性アミン、3級多座アミン、及び希釈剤の種類によって適宜選択されるが、希釈剤/(二酸化炭素化学吸収性アミン+3級多座アミン+希釈剤)(質量比)で、1/100~50/100が好ましく、10/100~40/100であることがより好ましい。希釈剤の比率がこの範囲にあると、室温近傍での二酸化炭素吸収量や二酸化炭素吸収速度を上げ、かつ再生温度が温和な条件で二酸化炭素易脱性を達成することができる。
【0045】
本実施形態に係る二酸化炭素吸収液は、非水系の二酸化炭素吸収液であり、実質的に水を含まない。具体的には、本発明の二酸化炭素吸収液の水含有量は、好ましくは、10質量%未満、より好ましくは5質量%未満、特に好ましくは3質量%未満である。
【0046】
本実施形態に係る二酸化炭素吸収液は、二酸化炭素を含む混合ガスから、二酸化炭素ガスを分離回収する方法に適用できる。混合ガスは、二酸化炭素を含むガス状の混合物であれば、特に限定されず、その他の成分を含むことができる。その他の成分としては、炭化水素ガス、二酸化炭素以外の酸性ガス、窒素ガス、酸素ガス、水、ばいじんなどが挙げられるが、本実施形態に係る二酸化炭素吸収液は、特にバイオガスに含まれるメタンガスと二酸化炭素とを分離回収する方法に適している。二酸化炭素以外の酸性ガスの例としては、硫化水素;一酸化硫黄、二酸化硫黄(亜硫酸ガス)、三酸化硫黄などの硫黄酸化物;一酸化窒素、二酸化窒素、亜酸化窒素(一酸化二窒素)、三酸化二窒素、四酸化二窒素、五酸化二窒素などの窒素酸化物;塩酸、硝酸、リン酸、硫酸などの無機酸類;カルボン酸、スルホン酸、炭酸などの有機酸類、が挙げられる。本発明の二酸化炭素吸収液は、混合ガスにその他の成分としての水が飽和量含まれていても二酸化炭素の回収性に影響が少ない。また、本発明の二酸化炭素吸収液は、混合ガスにその他の成分としてばいじんが含まれていても二酸化炭素の回収性に影響が少ない。
【0047】
[二酸化炭素分離回収方法]
次に、本実施形態に係る二酸化炭素吸収液を用いた二酸化炭素分離回収方法について説明する。
本発明の二酸化炭素分離回収方法は、前述の二酸化炭素吸収液を、二酸化炭素を含む混合ガスと接触させることによって、二酸化炭素を前記二酸化炭素吸収液に吸収させて、前記混合ガスから二酸化炭素を選択的に分離する吸収工程、及び前記の二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収液を吸収工程より高温に加熱することで吸収した二酸化炭素を放散させて回収し、前記二酸化炭素吸収液を再生する加熱再生工程、を含む。前記二酸化炭素吸収液と二酸化炭素を含む混合ガスとの接触方法は、例えば吸収塔方式やスクラバー方式が用いられるが、それらの実施形態に限定されるものではなく、気液の接触効率を高めて二酸化炭素の吸収速度が向上できれば良い。また、前記二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収液を加熱再生する方法は、例えば再生塔方式やフラッシュドラム方式が用いられるが、それらの実施形態に限定されるものではなく、加熱の伝熱効率や気液の接触効率を高めて二酸化炭素の放散速度が向上できれば良い。
【0048】
本実施形態に係る二酸化炭素分離回収方法は、室温近傍での吸収速度が速く、小さな温度上昇で二酸化炭素の放散が容易に起こり、しかも、吸収液の蒸発損失が少なく、低比熱で、反応熱が小さいので、回収する二酸化炭素当たりの、二酸化炭素吸収液の再生に要するエネルギーを削減でき、ひいては二酸化炭素の分離回収効率を向上することができる。したがって、本実施形態に係る二酸化炭素分離回収方法は、様々な濃度の二酸化炭素発生源を対象として省エネルギーで二酸化炭素を分離回収することができ、特に、バイオガスからメタンガスと二酸化炭素を分離回収し、メタンガスを濃縮処理するバイオガス処理方法に用いられる。
【0049】
吸収工程の温度は、室温近傍(25℃±15℃)の10℃以上40℃以下が好ましい。室温近傍であれば、二酸化炭素吸収液や対象とする処理ガスを過剰に冷却する必要が無く、二酸化炭素の吸収量や吸収速度を向上でき、省エネルギー化を達成できる。
本発明の二酸化炭素分離回収方法では、吸収工程の圧力は特に限定されない。常圧近傍の処理ガスを対象とする場合は、そのまま常圧近傍で吸収工程を行えば、余分に処理ガスの圧縮エネルギーが掛からず、省エネルギーの観点からが好ましい。一方、二酸化炭素の二酸化炭素吸収液への吸収量や吸収速度を向上させるため、常圧以上の、例えば1MPaG~6MPaGなどの高圧条件を利用することもできる。
【0050】
加熱再生工程の温度は、吸収工程の温度より高いが特に限定されない。ただし、再生工程の温度を著しく上げると、二酸化炭素吸収液の放散量は高くなるものの、加熱に要するエネルギーが多大となり、二酸化炭素分離回収効率が低下する。よって、温和な温度条件で再生工程を行うことが好まく、100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましく、60℃以下が特に好ましい。
加熱再生工程の圧力は、吸収工程の圧力と同等又は低圧にすることが好ましいが、特に限定されない。本発明の二酸化炭素吸収液は蒸気圧が低く、揮発を抑制できるため、減圧下で処理することができる。減圧に要するエネルギーが多大とならない条件で、適度に減圧処理することで、二酸化炭素吸収液から二酸化炭素の放散量の向上が期待できる。一方、再生工程で二酸化炭素吸収液から放散される二酸化炭素を高圧で回収することもできる。高圧で二酸化炭素を回収することにより、後段で高圧の二酸化炭素が必要な場合、圧縮エネルギーを低減することができる。
【0051】
本実施形態に係る二酸化炭素分離回収方法において、吸収工程と加熱再生工程とを連続的に行う場合、加熱再生工程で吸収された二酸化炭素が残存すると、すなわち、吸収液の再生が不十分であると、一般に、1サイクル目の二酸化炭素の吸収量及び吸収速度より2サイクル目の吸収量及び吸収速度が減少する。一方、加熱再生工程で所定量の二酸化炭素が常に残存すると、すなわち、吸収液の再生率が一定であると、3サイクル目以降の吸収量及び吸収速度は、2サイクル目とほぼ同様で安定する(図2参照)。
【0052】
1サイクル目の二酸化炭素回収率(吸収工程で吸収した二酸化炭素を加熱再生工程で放散により回収する割合)が低いほど、2サイクル目以降の二酸化炭素の吸収量と吸収速度は減少し、二酸化炭素回収率も低下する。1サイクル目の二酸化炭素回収率は大きい方が、二酸化炭素の分離回収効率は高くなるが、一般に二酸化炭素回収率を上げるためには、吸収工程に対して加熱再生工程の温度差を大きくしなければならず、加熱に要するエネルギーが多大となる。吸収工程と加熱再生工程との温度差が50℃の場合、50%以上であることが好ましく、前記温度差が30℃の場合、30%以上であることが好ましい。温度差が小さいほど回収率は低くなるが、温度差が小さいほど、二酸化炭素回収ならびに吸収液再生のための加熱エネルギーを小さくすることができる。
【0053】
本実施形態に係る二酸化炭素吸収液は、従来の非水系の吸収液に比べて低粘度であり、吸収工程における二酸化炭素の吸収による粘度増加を抑制でき、吸収速度および放散速度が大きい。吸収速度ならびに放散速度の増加により、単位時間当たりのガス処理量を向上できる。また、吸収工程に対して加熱再生工程の温度差が小さくても、二酸化炭素放散量および二酸化炭素回収率が高く、かつ、吸収液の揮発による損失を低減することができる。
【0054】
本発明の二酸化炭素吸収液およびそれを用いた二酸化炭素分離回収方法は、様々な濃度の二酸化炭素発生源を対象として省エネルギーで二酸化炭素を分離回収することができ、特に、バイオガス中のメタンガスを濃縮処理するバイオガス処理方法に適している。
【実施例
【0055】
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。測定は、以下の二酸化炭素吸収放散試験により行った。
【0056】
[二酸化炭素吸収放散試験]
図1に示す二酸化炭素吸収放散試験装置を用いて、常圧で二酸化炭素吸収放散試験を行った。二酸化炭素吸収放散試験装置は、ステンレス製の反応容器115、反応容器の温度を制御するためのコントローラー110、二酸化炭素とメタンからなる混合ガスの導入部、吸収液の二酸化炭素の吸放出を分析するための二酸化炭素濃度計124とガス流量計125からなる。
二酸化炭素とメタンからなる混合ガスは、二酸化炭素ボンベ101とメタンボンベ102から、それぞれバルブA(105)、バルブB(106)を介してマスフローコントローラー(103、104)により流量を制御したガスを混合し、ガス導入管116から反応容器115内の吸収液121へと吹き込んだ。
反応容器115を恒温槽117に設置して、温度計113で吸収液121の温度を測定しながら、冷却水循環装置118およびヒーター114によりコントローラー110で制御した。実験中、反応容器115内の吸収液相およびガス相はモーター111により撹拌翼112で攪拌した。また、反応容器内の圧力を圧力計122で測定した。反応容器出口には冷却水循環装置119により所定の温度に冷却された冷却塔123を設けた。
【0057】
以下に、この二酸化炭素吸収放散試験装置を用いた、二酸化炭素吸収量測定手順を記載する。
1)反応容器115内をメタンガスで置換し、系内から二酸化炭素を追い出した。
2)あらかじめ窒素雰囲気下で調製した吸収液100mlを、バルブD(108)を介してシリンジ120から反応容器115に導入した。
3)吸収液121の温度を温度計113で測定し、冷却水循環装置118およびヒーター114によりコントローラー110で30℃に制御して安定するのを待った。その際、反応器中の気相および液相に設置した撹拌翼112をモーター111により800rpmで回転させ、循環水冷却装置119により冷却塔123を5℃に冷却した。
4)三方バルブ(107と109)をバイパス126側として、二酸化炭素ボンベ101とメタンボンベ102から供給されるガスを、それぞれバルブA(105)、バルブB(106)を介してマスフローコントローラー(103、104)で制御し、二酸化炭素濃度計124の指示が46%となるように調節した。その際、混合ガスの総流量は400ml/分となるように調節した。なお、ガス流量は温度および圧力に依存するため、ガス流量計125に温度計と圧力計を設置してガス流量の補正を行った。
5)混合ガスを30分程度流して、二酸化炭素濃度が46%で安定したことを確認した。
6)三方バルブ(107と109)を反応容器115側として、30℃における1サイクル目の二酸化炭素吸収試験を開始した。三方バルブの切り替え時を0分として、二酸化炭素濃度計124とガス流量計125で反応容器115から排出されるガスの二酸化炭素濃度と流量の時間変化を連続的に記録した。
7)30℃で二酸化炭素の吸収試験を1時間行った後、冷却水循環装置118を停止し、ヒーター114で吸収液の温度を60℃に昇温した。30℃から60℃への昇温は5分未満で行った。
8)60℃で二酸化炭素の放散試験を30分間行い、吸収試験と同様に、60℃に設置した時を0分として、二酸化炭素濃度計124とガス流量計125で反応容器115から排出されるガスの二酸化炭素濃度と流量の時間変化を連続的に記録した。
9)60℃で二酸化炭素の放散試験を30分間行った後、三方バルブ(107と109)をバイパス126側として、冷却水循環装置118を稼働させてコントローラーにより吸収液121の温度を30℃に戻した。
10)吸収液121の温度が30℃に戻り、安定したことを確認した後、2サイクル目の吸収試験を開始した。手順は5)以降と同様である。
11)以上の吸収および放散試験を4サイクル繰り返し行った。
12)反応容器115出口で測定した二酸化炭素の濃度とガス流量から、各時間で反応容器から排出された二酸化炭素の物質量を計算し、導入した二酸化炭素の物質量から差し引き、吸収液に吸収された二酸化炭素の吸収量を求めた。吸収液の仕込量100ml当たりの二酸化炭素吸収量を1000ml当たり(=1dm当たり)に換算した。
【0058】
(実施例)
二酸化炭素化学吸収性アミンとしてジエタノールアミン(DEA、和光純薬株式会社製、純度99.0+%)、3級多座アミンとしてN-メチルジエタノールアミン(MDEA、アルドリッチ社製、純度≧99%)、及び希釈剤としてジメチルスルホキシド(DMSO、 和光純薬株式会社製、純度99.0+%)を混合して実施例に係る二酸化炭素吸収液を得た(質量分率で、DEA:MDEA:DMSO=30:50:20)。水分含有率は1%以下である。
【0059】
(比較例)
上記の実施例において、DMSOを加えることなく、DEAとMDEAを質量分率で30:70で混合して比較例に係る二酸化炭素吸収液を得た(質量分率で、DEA:MDEA=30:70)。
【0060】
前述の二酸化炭素吸収放散試験の手順に従って、混合ガスを毎分400ml供給し、実施例、及び比較例に係る吸収液の1~4サイクルにおける二酸化炭素吸収量の時間変化を求めた。
図2図3に、それぞれ実施例及び比較例に係る吸収液の1~4サイクルにおける二酸化炭素吸収量の時間変化を示す。
2~4サイクルにおける吸収量の時間変化は、1サイクル目の吸収量の時間変化とは大きく異なるが、2~4サイクル間では、ほとんど変わりがなく、安定していることがわかる。以下、2サイクル以降のサイクルを「マルチサイクル」という。
【0061】
実施例と比較例とを比較した結果を、以下の図4図5及び表1、表2を用いて示す。
図4は、図2及び図3を重ねて表示したものに相当し、図5は、マルチサイクルにおける吸収量の時間変化を拡大したものである。
表1は、実施例、比較例に係る吸収液について、1サイクル目の吸収工程における二酸化炭素吸収量の時間変化を、表2は、同じく前記吸収液のマルチサイクルの吸収工程における二酸化炭素吸収量の時間変化を示す。
なお、参考までに、図4、5及び表1、2には、従来用いられる水系の吸収液であるモノエタノールアミン(MEA)を30質量%含む水溶液のデータを併記している。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
上記の結果から明らかなとおり、二酸化炭素化学吸収性アミンと3級多座アミンとの混合溶液に、極性が高い希釈剤を加えると、1サイクル目の二酸化炭素吸収量及び吸収速度が増加するとともに、吸収と放散とを繰り返すマルチサイクルにおいても、吸収量及び吸収速度が増加したことがわかる。
MEA水溶液は、1サイクル目の吸収量及び吸収速度が大きいが、マルチサイクルでは吸収量、吸収速度とも大幅に低下するので、吸収と放散を連続して繰り返す二酸化炭素分離回収工程には不適であることがわかる。
【0065】
次に、実施例及び比較例に係る二酸化炭素吸収液の粘度を、30℃において二酸化炭素吸収前後で比較した。なお、粘度測定はAntonPaar社製SVM3000を用いて行った。それらの結果を以下の表3に示す。
【0066】
【表3】
【0067】
二酸化炭素吸収液に希釈剤のDMSOを加えると、二酸化炭素吸収前の粘度を希釈剤無しと比べて約1/3にまで低減できることがわかった。また、二酸化炭素吸収後の粘度は、約1/4にまで低減するすることがわかった。
したがって、DMSOのように高極性、低揮発性の溶媒を二酸化炭素吸収液に希釈剤として加えることで、二酸化炭素吸収前後のいずれにおいても、二酸化炭素吸収液を低粘度化することができ、二酸化炭素の吸収及び放散の連続過程における二酸化炭素分離回収性能に優れることがわかった。
同様の性能を有する希釈剤としては、ヘキサメチルリン酸トリアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、テトラメチル尿素、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、スルホラン等が好適に挙げられるが、特に、極性が高いジメチルスルホキシド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、及びテトラメチル尿素が好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、二酸化炭素分離回収工程において、本発明の二酸化炭素吸収液を用いることで吸収及び放散を連続的に効率よく行うことができるから、二酸化炭素分離回収を省エネルギーでおこなうことができる。特に、バイオガス中のメタンガスと二酸化炭素を分離し、メタンガスを濃縮するとともに、二酸化炭素を回収するバイオガス処理に利用可能である。
【符号の説明】
【0069】
101 二酸化炭素ボンベ
102 メタンボンベ
103 二酸化炭素用マスフローコントローラー
104 メタン用マスフローコントローラー
105 バルブA
106 バルブB
107 三方バルブC
108 バルブD
109 三方バルブE
110 コントローラー
111 モーター
112 撹拌翼
113 温度計
114 ヒーター
115 反応容器
116 ガス導入管
117 恒温槽
118 冷却水循環装置
119 冷却水循環装置
120 液体試料注入口
121 吸収液
122 圧力計
123 冷却塔
124 二酸化炭素濃度計
125 ガス流量計
126 バイパス
図1
図2
図3
図4
図5