(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】照射ノズル、粒子線治療装置、粒子線治療システムおよび粒子線治療システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20240819BHJP
【FI】
A61N5/10 H
(21)【出願番号】P 2021035540
(22)【出願日】2021-03-05
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 泰三
(72)【発明者】
【氏名】中島 千博
(72)【発明者】
【氏名】島倉 智一
【審査官】近藤 裕之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/009281(WO,A1)
【文献】特開2016-129639(JP,A)
【文献】特開2020-130863(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0168025(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0316408(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0064541(KR,A)
【文献】特表2022-541486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線治療ビームを
患者へ照射する照射ノズルであって、
放射線治療ビームの通過するビーム軸上に固定されたノズル基端部と、
前記ノズル基端部を通過した放射線治療ビームを
患者へ照射するノズル先端部と
を有し、
前記ノズル先端部は、前記
患者に前記放射線治療ビームを照射するとき
であり、かつ、前記患者を撮影しないときに、第1の位置に固定され、前記
患者を撮影するとき
であり、かつ、前記患者に前記放射線治療ビームを照射しないときに、第2の位置に固定され、
前記ノズル先端部が前記第1の位置と前記第2の位置との間を移動可能な湾曲状の移動経路が設けられる
照射ノズル。
【請求項2】
放射線治療ビームを
患者へ照射する照射ノズルであって、
放射線治療ビームの通過するビーム軸上に固定されたノズル基端部と、
前記ノズル基端部を通過した放射線治療ビームを
患者へ照射するノズル先端部と
を有し、
前記ノズル先端部は、前記
患者に前記放射線治療ビームを照射するとき第1の位置に固定され、前記
患者を撮影するとき第2の位置に固定され、
前記ノズル先端部が前記第1の位置と前記第2の位置との間を移動可能な湾曲状の移動経路が設けら
れ、
湾曲状の前記移動経路は、略円弧状であり、
前記移動経路が描く円弧の中心が、前記ノズル先端部よりも上流側に位置する
照射ノズル。
【請求項3】
放射線治療ビームを
患者へ照射する照射ノズルであって、
放射線治療ビームの通過するビーム軸上に固定されたノズル基端部と、
前記ノズル基端部を通過した放射線治療ビームを
患者へ照射するノズル先端部と
を有し、
前記ノズル先端部は、前記
患者に前記放射線治療ビームを照射するとき第1の位置に固定され、前記
患者を撮影するとき第2の位置に固定され、
前記ノズル先端部が前記第1の位置と前記第2の位置との間を移動可能な湾曲状の移動経路が設けら
れ、
湾曲状の前記移動経路は、略円弧状であり、
前記移動経路が描く円弧の中心が、前記ノズル先端部よりも下流側に位置する
照射ノズル。
【請求項4】
放射線治療ビームを
患者へ照射する照射ノズルであって、
放射線治療ビームの通過するビーム軸上に固定されたノズル基端部と、
前記ノズル基端部を通過した放射線治療ビームを
患者へ照射するノズル先端部と
を有し、
前記ノズル先端部は、前記
患者に前記放射線治療ビームを照射するとき第1の位置に固定され、
前記ノズル先端部は、前記
患者を撮影するとき第2の位置に固定され
ることが可能であり、
前記ノズル先端部が前記第1の位置と前記第2の位置との間を移動可能な湾曲状の移動経路が設けら
れ、
湾曲状の前記移動経路は、略円弧状であり、
前記移動経路が描く円弧の中心が、前記ノズル先端部よりも上流側に位置し、
前記ビーム軸上にある前記患者を撮影する撮影位置と、待機位置の間で移動可能である撮影装置であって、前記撮影位置と前記待機位置の間の移動における移動方向と、前記ビーム軸が一致し、かつ、前記撮影位置において垂直な基準姿勢からチルト姿勢へ傾動可能である前記撮影装置が、前記チルト姿勢となるときに、前記ノズル先端部は前記第2の位置に固定されるものである、
照射ノズル。
【請求項5】
請求項1
乃至請求項4のいずれか1項に記載の照射ノズルであって、
前記ビーム軸は、床面に対して水平に設けられる
照射ノズル。
【請求項6】
請求項1
乃至請求項5のいずれか1項に記載の照射ノズルであって、
前記第2の位置は、前記ビーム軸の軸外に位置する
照射ノズル。
【請求項7】
請求項1
乃至請求項6のいずれか1項に記載の照射ノズルであって、
前記ノズル先端部は、前記移動経路上の任意の位置で停止可能である
照射ノズル。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の照射ノズルであって、
前記ノズル先端部は、ノズル駆動部により
、前記湾曲状の移動経路に沿って移動されるものであり、
前記駆動部は、ワイヤを巻き上げまたは巻き降ろす回転モータを含む
照射ノズル。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の照射ノズルであって、
前記放射線治療ビームは、粒子線であり、
前記ノズル先端部は、線量モニタ、位置モニタ、リッジフィルタのうちいずれか少なくとも1つを備える
照射ノズル。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の照射ノズルであって、
前記放射線治療ビームは、粒子線であり、
前記ノズル基端部は、走査電磁石を備える
照射ノズル。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載の照射ノズルと、
前記放射線治療ビームを加速する加速器と、
を備える粒子線治療装置。
【請求項12】
請求項11に記載の粒子線治療装置と、
前記
患者の内部を撮影する撮影装置と
を備え、
前記撮影装置は、前記ビーム軸上にある前記
患者を撮影する撮影位置と、前記ノズル先端部が前記第1の位置にあるときに前記ノズル先端部と干渉しない待機位置と、の間で移動可能である
粒子線治療システム。
【請求項13】
請求項12に記載の粒子線治療システムであって、
さらに制御装置を備え、
前記制御装置は、前記撮影装置による撮影が完了したことを検知すると、撮影した画像を用いて、セグメンテーションを開始する
粒子線治療システム。
【請求項14】
粒子線治療システムであって、
前記粒子線治療システムは、粒子線治療装置と、患者の内部を撮影する撮影装置と、制御装置を備え、
前記粒子線治療装置は、放射線治療ビームを患者へ照射する照射ノズルと、前記放射線治療ビームを加速する加速器を備え、
前記照射ノズルは、放射線治療ビームの通過するビーム軸上に固定されたノズル基端部と、前記ノズル基端部を通過した放射線治療ビームを患者へ照射するノズル先端部と、湾曲状の移動経路を有し、
前記ノズル先端部は、前記患者に前記放射線治療ビームを照射するとき第1の位置に固定され、前記患者を撮影するとき第2の位置に固定され、
前記湾曲状の移動経路は、前記ノズル先端部を前記第1の位置と前記第2の位置との間で移動可能とするものであり、
前記撮影装置は、前記ビーム軸上にある前記患者を撮影する撮影位置と、前記ノズル先端部が前記第1の位置にあるときに前記ノズル先端部と干渉しない待機位置と、の間で移動可能であり、
前記制御装置は、前記撮影装置による撮影が完了したことを検知すると、撮影した画像を用いて、セグメンテーションを開始するものであり、
前記制御装置は、さらに、前記セグメンテーションが完了したことを検知すると、セグメンテーションされた輪郭情報を用いて、治療計画作成を開始する
粒子線治療システム。
【請求項15】
粒子線治療システムを制御する方法であって、
前記粒子線治療システムは、
粒子線治療装置と、
患者の撮影装置と、
制御装置と
を備え、
前記粒子線治療装置は、
放射線治療ビームを加速する加速器と、
前記加速された放射線治療ビームを前記
患者へ照射する照射ノズルと、
を備え、
前記照射ノズルは、
放射線治療ビームの通過するビーム軸上に固定されたノズル基端部と、
前記ノズル基端部を通過した放射線治療ビームを
患者へ照射するノズル先端部と、
前記ノズル先端部が第1の位置と第2の位置との間を移動可能な湾曲状の移動経路を有し、
前記撮影装置は、前記ビーム軸上にある前記患者を撮影する撮影位置と、前記ノズル先端部が照射位置にあるときに前記ノズル先端部と干渉しない待機位置と、の間で移動可能であり、
前記方法は、
前記患者に前記放射線治療ビームを照射するときであり、かつ、前記患者を撮影しないときに、前記制御装置が、前記ノズル先端部を前記照射位置である前記第1の位置に固定させ、かつ、前記撮影装置を前記待機位置に置かせることと、
前記患者を撮影するときであり、かつ、前記患者に前記放射線治療ビームを照射しないときに、前記制御装置が、前記ノズル先端部を前記第2の位置に固定させ、かつ、前記撮影装置を前記撮影位置に置かせることを含む、
粒子線治療システムの制御方法。
【請求項16】
粒子線治療システムを制御する方法であって、
前記粒子線治療システムは、
粒子線治療装置と、
患者の撮影装置と、
制御装置と
を備え、
前記粒子線治療装置は、
放射線治療ビームを加速する加速器と、
前記加速された放射線治療ビームを前記
患者へ照射する照射ノズルと、
を備え、
前記照射ノズルは、
放射線治療ビームの通過するビーム軸上に固定されたノズル基端部と、
前記ノズル基端部を通過した放射線治療ビームを
患者へ照射するノズル先端部と
前記ノズル先端部が第1の位置と第2の位置との間を移動可能な湾曲状の移動経路を有し、
前記撮影装置は、前記ビーム軸上にある前記患者を撮影する撮影位置と、前記ノズル先端部が照射位置にあるときに前記ノズル先端部と干渉しない待機位置と、の間で移動可能であり、
前記方法は、
前記患者に前記放射線治療ビームを照射するときであり、かつ、前記患者を撮影しないときに、前記制御装置が、前記ノズル先端部を前記照射位置である前記第1の位置に固定させ、かつ、前記撮影装置を前記待機位置に置かせることと、
前記患者を撮影するときであり、かつ、前記患者に前記放射線治療ビームを照射しないときに、前記制御装置が、前記ノズル先端部を前記第2の位置に固定させ、かつ、前記撮影装置を前記撮影位置に置かせることと、
前記制御装置
が、前記撮影装置による撮影が完了したことを検知すると、撮影した画像を用いて、セグメンテーションを開始する
ことを含む、
粒子線治療システムの制御方法。
【請求項17】
粒子線治療システムを制御する方法であって、
前記粒子線治療システムは、
粒子線治療装置と、
患者の撮影装置と、
制御装置と
を備え、
前記粒子線治療装置は、
放射線治療ビームを加速する加速器と、
前記加速された放射線治療ビームを前記
患者へ照射する照射ノズルと、
を備え、
前記照射ノズルは、
放射線治療ビームの通過するビーム軸上に固定されたノズル基端部と、
前記ノズル基端部を通過した放射線治療ビームを
患者へ照射するノズル先端部と
前記ノズル先端部が第1の位置と第2の位置との間を移動可能な湾曲状の移動経路を有し、
前記撮影装置は、前記ビーム軸上にある前記患者を撮影する撮影位置と、前記ノズル先端部が照射位置にあるときに前記ノズル先端部と干渉しない待機位置と、の間で移動可能であり、
前記方法は、
前記患者に前記放射線治療ビームを照射するとき、前記制御装置が、前記ノズル先端部を前記照射位置である前記第1の位置に固定させることと、
前記患者を撮影するとき、前記制御装置が、前記ノズル先端部を前記第2の位置に固定させることと、
前記制御装置
が、前記撮影装置による撮影が完了したことを検知すると、撮影した画像を用いて、セグメンテーションを開始する
ことと、
前記制御装置が、前記セグメンテーションが完了したことを検知すると、セグメンテーションされた輪郭情報を用いて、治療計画作成を開始する
ことを含む、
粒子線治療システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照射ノズル、粒子線治療装置、粒子線治療システムおよび粒子線治療システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
画像誘導放射線治療(Image Guided Radiation Therapy: IGRT)により従来の放射線治療と比較し、標的に対して正確な照射が可能となる。また、CTV-PTV マージン(Clinical Target Volume: CTV、Planning Target Volume: PTV)を縮小でき、正常組織への線量を低減することが可能となる。
【0003】
IGRT は放射線治療装置および撮影装置のそれぞれのアイソセンタが一致することでその精度が向上する。
【0004】
放射線治療で精度の高いIGRTを実現するには、アイソセンタにおいて、高品質の診断画像(コントラストの良い診断画像)を得る必要がある。
【0005】
現在のCT装置は、高品質の画像を取得できるが、外形寸法が大きい。したがって、アイソセンタで撮影するために、干渉を避ける位置に照射ノズルを配置すると、ノズル先端からアイソセンタまでの距離が長くなる。
【0006】
ノズル先端からアイソセンタまでの距離が長くなると、照射野の辺縁部のペナンブラが大きくなるため、線量分布の品質が低下する。特に、粒子線治療では、ビームサイズが大きくなってしまい、線量分布の制御性が悪くなる。そこで、ノズルをビーム軸方向に移動可能にする技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の従来技術では、ノズル退避のために、ビーム軸に退避スペースが必要となるため、治療室が大きくなり、コストがかかる。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、その目的は、装置の小型化と高精度なビーム照射とを実現できるようにした照射ノズル、粒子線治療装置、粒子線治療システムおよび粒子線治療システムの制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本発明に従う照射ノズルは、放射線治療ビームを対象物へ照射する照射ノズルであって、放射線治療ビームの通過するビーム軸上に固定されたノズル基端部と、ノズル基端部を通過した放射線治療ビームを対象物へ照射するノズル先端部とを有し、ノズル先端部は、対象物に放射線治療ビームを照射するとき第1の位置に固定され、対象物を撮影するとき第2の位置に固定され、ノズル先端部が第1の位置と第2の位置との間を移動可能な湾曲状の移動経路が設けられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ノズル先端部が第1の位置に固定されたときに放射線治療ビームを対象物へ照射することができ、ノズル先端部を所定方向へ移動させて第2の位置に固定させたときに、対象物を撮影させることができる。これにより、例えば、照射ビームのアイソセンタと撮影のアイソセンタを一致させることができ、天板上の治療対象を動かさずに治療と撮影とを行うことができるため、高精度な治療を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】照射ノズルを有する粒子線治療装置の全体概要を示す説明図である。
【
図2】粒子線治療装置を含むシステム全体の構成図である。
【
図4】ノズル先端部が退避位置にある照射ノズルの側面図である。
【
図5】ノズル先端部が照射位置にある照射ノズルの側面図である。
【
図6】粒子線治療システムの全体処理を示すフローチャートである。
【
図7】チルト機能を有するCT装置と照射ノズルとの関係を示す説明図である。
【
図8】ノズル先端部がビーム軸に垂直に移動する場合と比較する説明図である。
【
図9】第2実施例に係り、照射ノズルの説明図である。
【
図10】照射ノズルを背面側から見た説明図である。
【
図12】第3実施例に係り、照射ノズルの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。本実施形態に係る照射ノズルは、ノズル先端部がビーム軸上の照射位置(第1の位置)にあるときには、ノズル基端部を通過した放射線治療ビームをノズル先端部から対象物へ照射することができる。そして、放射線治療ビームを照射しないときには、ノズル先端部をビーム軸上の上流側へ遠ざけつつ、ビーム軸から外すことができる。
【0014】
放射線治療ビームは、粒子線である。しかし、粒子線に限らず、X線または電子線にも本実施形態を適用することができる。以下、放射線治療ビームをビームと略記する場合がある。
【0015】
本実施形態では、撮影装置としてCT装置を例に挙げて説明するが、撮影装置はCT装置に限られるものではなく、例えば、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置またはX線撮影装置、PET(Positron Emission Tomography)装置など他の撮影装置を用いてもよい。
【0016】
図1は、照射ノズル4を有する粒子線治療システム1の全体概要図である。詳細な構成は、
図2以下を参照して後述する。
図1(1)は、CT装置5による患者Ptの撮影時を示す。
図1(2)は、照射ノズル4からビームBMをアイソセンタIC上の患部へ照射する照射時を示す。
【0017】
照射ノズル4は、ビーム軸40に固定されたノズル基端部42と、ノズル基端部42に対して所定方向F1,F2に移動可能に設けられたノズル先端部44とを含む。すなわち、本実施形態の照射ノズル4は、固定部(ノズル基端部42)と可動部(ノズル先端部44)とを含む。
【0018】
ノズル基端部42には、その後側から、加速器22(
図2で後述)からのビームBMがビーム軸40に沿って入射する。ノズル基端部42のビーム軸の下流側には、ノズル先端部44が移動する際に使用する移動経路43が設けられている。ビーム軸の下流側とは、ビームの流れ方向の下流側であり、
図1ではノズル基端部42の略左側に該当する。
【0019】
ノズル先端部44は、ビームをアイソセンタICへ照射する照射位置P1と退避位置P2との間を、移動経路43を用いて移動する。ノズル先端部44は、後述するノズル駆動部45により、移動経路43上を移動する。
【0020】
ノズル先端部44が「第1の位置」の例である照射位置P1にあることを、図中ではノズル先端部44(P1)と示す。同様に、ノズル先端部44が「第2の位置」の例である退避位置P2にあることを、図中ではノズル先端部44(P2)と示す。
【0021】
ノズル先端部44は、ノズル基端部42のビーム軸の下流側に設けられた移動経路43に沿って移動する。
【0022】
ノズル先端部44は、ノズル基端部42側に位置してビーム軸40上に設定される点O1(中心点O1)から所定の角度θだけ上方に設定される退避位置P2と、照射位置P1との間を少なくとも結ぶ円弧状の移動経路43を、ノズル先端部44からビーム軸40へ降ろした垂線のビーム軸40上での交点hが中心点O1へ近づく方向を「所定の方向」として移動する。退避位置P2は、ビーム軸40から外れた位置に設定されている。
【0023】
一例として、移動経路43は、ノズル基端部42側のビーム軸40上に設定される点O1を中心に、ビーム軸40とノズル基端部42のビーム軸の下流側との交点(照射位置P1)から右回りに略90度の所定角度だけ回転した位置までを結ぶ湾曲状に形成される。湾曲状の移動経路43は、円弧状の移動経路43と呼ぶこともできる。円弧状とは、正円の一部に限らず、正円以外の円形状の一部でもよい。所定角度は、ノズル先端部44が照射位置P1と退避位置P2との間で移動する角度θを含む角度であればよく、90度以上でもよいし、90度未満でもよい。
【0024】
照射ノズル4とCT装置5とは、互いの主要機能の動作時に干渉しないよう配置され、動作が制御される。照射ノズル4の主要機能とは、ビーム照射である。CT装置5の主要機能とは、撮影である。
【0025】
CT装置5は、照射ノズル4によるビーム照射時に紙面の奥側で待機しているため、CT装置5と照射ノズル4とは接触しない(
図1(2))。CT装置5は、撮影時に、紙面奥側の待機位置から紙面手前へ移動する(
図1(1))。CT装置5が待機位置から撮影位置へ移動する前に、照射ノズル4のノズル先端部44は退避位置P2へ移動しているため、CT装置5と照射ノズル4とは接触しない。CT装置5は、紙面手前で待機してもよいし、
図7で後述するように、CT装置5は、ノズル先端部44が照射位置P1にあるときに、ノズル先端部44(P1)に近接するように配置されてもよい。そして、そのCT装置5は、照射ノズル4へ向けて傾動可能に設けられてもよい。
【0026】
図1に戻る。
図1(1)に示す撮影時に、ノズル先端部44は、退避位置P2にあるため、ノズル基端部42の前記ビーム軸の下流側に突起物(ノズル先端部44)が存在しなくなる。したがって、ノズル先端部44の厚み寸法の分だけ、CT装置5とノズル基端部42とを接近させることができる。
【0027】
そして、
図1(2)に示す照射時には、CT装置5は待機位置へ戻り、ノズル先端部44は退避位置P2から照射位置P1へ移動する。ここで、ビーム照射の対象物である患者Ptを載せた治療台6は、CT装置5による撮影時と照射ノズル4による照射時とを切り替える際に、その位置を変える必要はない。本実施形態の粒子線治療システムでは、撮影終了時と照射開始時とで、患者Pt(患部)の位置に変化はないため、撮影された画像に基づく情報にしたがって、正確にビームを照射することができる。
【0028】
このように構成される本実施形態によれば、位置決め用のCT撮影時とビーム照射時とで患者Ptを移動させたり姿勢を変化させたりする必要がないため、患者Ptの移動などに伴う体内組織の揺らぎを抑制することができる。したがって、本実施例によれば、高精度に位置決めしてビームを照射できるため、患部周辺の組織に対するマージンを減らすことができ、正常な組織に対する線量を低減できる。
【0029】
さらに、本実施例では、照射ノズル4のノズル先端部44をビーム軸に沿って伸縮させるのではなく、照射位置P1からビーム軸40の上流側へ遠ざかり、かつ、ビーム軸40から外れる方向F2へ移動させるため、特許文献1に比べて、照射ノズル4の全体を小型化することができる。
【実施例1】
【0030】
図2~
図8を用いて第1実施例を説明する。
図2は、粒子線治療システム1の全体構成を示す。粒子線治療システム1は、例えば、粒子線治療装置10と、「撮影装置」の例であるCT装置5を少なくとも含む。粒子線治療システム1は、粒子線治療装置10とCT装置5に加えて、さらに「制御装置」としての情報処理システム7を含んでもよい。
【0031】
粒子線治療システム1は、さらに、患者Ptを所定の位置に保持するための治療台6を備えることもできる。治療台6は、対象物である患者Ptの位置を制御する「対象物位置決め制御部」と呼ぶこともできる。治療台6は、図示せぬアームロボットなどの移動機構により、患者Ptを複数の方向へ移動させることができる。また、治療台6は、天板の上に患者Ptが横たわるカウチを例に説明するが、患者Ptが座る椅子型でもよく、椅子型の治療台6は移動可能でも固定されていてもよい。また、治療台6は、患者Ptが立位で治療を受けるタイプでもよい。
【0032】
粒子線治療装置10は、例えば、照射ノズル4と加速器2を含む。粒子線治療装置10は、照射ノズル4および加速器2以外の構成をさらに備えることもできる。
【0033】
図2を参照して、粒子線治療システム1の構成を説明する。粒子線発生装置2は、例えば、図外のイオン源と、前段加速器である直線加速器21およびシンクロトロン加速器22を有する。前段加速器20とシンクロトロン21とを用いる構成に代えて、例えばサイクロトロンやシンクロサイクロトロンを用いてもよいし、または、超電導電磁石を使用する粒子線加速器であってもよい。粒子線には、例えば、陽子線(陽子イオンビーム)、ヘリウム線(ヘリウムイオンビーム)、炭素線(炭素イオンビーム)などがある。いずれを用いてもよい。
【0034】
加速器22は、例えば、環状のビームダクト、入射器、複数の偏向電磁石、複数の四極電磁石、高周波加速空胴、出射用の高周波印加装置、出射用のセプタム電磁石(いずれも符号省略)を有する。
【0035】
粒子線発生装置2で発生されたビームは、ビーム輸送系3により各照射室内RM1,RM2の各照射ノズル4(1),4(2)へ供給される。
図2では、2つの照射室RM1,RM2を例示したが、照射室の数は問わない。本実施例の粒子線治療システム1は、一つの照射室でも、あるいは3つ以上の照射室にも対応可能である。
【0036】
ビーム輸送系3からのビームは、偏向電磁石31(1)により、治療室RM1内の照射ノズル4(1)へ入射する。同様に、ビーム輸送系3からのビームは、偏向電磁石31(2)により、治療室RM2内の照射ノズル4(2)へ入射する。
【0037】
第1の治療室RM1では、照射位置P1にあるノズル先端部44(P1)がアイソセンタICへ向けてビームを照射している。第2の治療室RM2では、ノズル先端部44(P2)は退避位置P2にあり、CT装置5が撮影位置に移動して患者Ptの患部周辺を撮影している。照射ノズル4の詳細な構成は
図3~
図5で後述する。治療室RM1,RM2を区別しない場合、治療室RMと呼ぶ。
【0038】
情報処理システム7は、粒子線治療システム1を制御する。情報処理システム7は、例えば、メインコントローラ70と、照射制御部71と、CT制御部72と、データ蓄積部73と、操作端末74と、治療計画作成装置75を含む。
【0039】
メインコントローラ70は、粒子線治療システム1の全体動作を制御するコンピュータであり、例えば、マイクロプロセッサ701およびメモリ702などのコンピュータ資源を有する。図中、マイクロプロセッサ701を「CPU」と表示する。メモリ702には、粒子線治療システム1を制御するために使用される所定のコンピュータプログラム(不図示)が格納されている。
【0040】
マイクロプロセッサ701は、所定のコンピュータプログラムをメモリ702から読み出して実行することにより、粒子線治療システム1を制御する。メインコントローラ70は、図示せぬ通信インターフェース部などを介して、照射制御部71と、CT制御部72と、データ蓄積部73と、操作端末74および治療計画作成装置75と通信する。
【0041】
メインコントローラ70には、記憶媒体MMを接続可能である。記憶媒体MMは、例えば、フラッシュメモリ、光ディスク、メモリカード、ハードディスクなどである。記憶媒体MMからメインコントローラ70のメモリ702へ所定のコンピュータプログラムの一部または全部を転送させて記憶させることができる。逆に、メインコントローラ70のメモリ702から記憶媒体MMへ所定のコンピュータプログラムの一部または全部を転送させて記憶させることもできる。
【0042】
照射制御部71は、粒子線治療システム1によるビーム照射を制御するコンピュータである。照射制御部71、CT制御部72、操作端末74は、メインコントローラ70と同様に、マイクロプロセッサおよびメモリ(いずれも不図示)などのコンピュータ資源を有する。
【0043】
CT制御部72は、CT装置5を制御するコンピュータである。CT装置5で撮影された患部の画像データ(診断画像データ)は、CT制御部72を介してデータ蓄積部73へ格納される。
【0044】
データ蓄積部73は、例えば、CT装置5で撮影された画像データと、治療計画装置75で作成された治療計画とを記憶する。
【0045】
操作端末74は、医師等のユーザが使用するコンピュータである。ユーザは、操作端末74を用いることにより、粒子線治療システム1を操作する。ユーザは、粒子線治療システム1の持つ情報を操作端末74を介して取得し、端末74の画面で確認することもできる。
【0046】
治療計画装置75は、ビーム照射によって患者Ptを治療する計画を作成するコンピュータである。治療計画装置75は、CT装置5から得られた画像データに基づいて、治療計画を作成する。
【0047】
図3は、照射ノズル4を上から見下ろした斜視図である。
図4は、ノズル先端部44が退避位置P2にあるときの照射ノズル4の側面図である。
図5は、ノズル先端部44が照射位置P1にあるときの照射ノズル4の側面図である。
【0048】
照射ノズル4は、例えば、支持部41と、ノズル基端部42と、移動経路43と、ノズル先端部44と、ノズル駆動部45とを備える。
【0049】
支持部41は、治療室RMに取り付けられている。ノズル基端部42は、支持部41の上側に設けられており、ビームを偏向させて走査するための複数の走査電磁石を有する(いずれも図示せず)。
【0050】
移動経路43は、ノズル基端部42のビーム軸の下流側に設けられている。移動経路43は、ビーム軸40がノズル基端部42を通る照射位置P1と、退避位置P2までを結ぶ湾曲状ないし円弧状に形成されている。
【0051】
図4に示すように、退避位置P2は、照射位置P1から、ビーム軸40を外れて患者Pt(換言すれば照射時のアイソセンタIC)から所定距離だけ遠ざかる位置である。詳しくは、ノズル先端部44は、ノズル基端部42側に位置してビーム軸40上に設定される中心点O1から所定の角θだけ上方に設定される退避位置P2と、照射位置P1との間を少なくとも結ぶ円弧状の移動経路43を、ノズル先端部44からビーム軸40へ降ろした垂線のビーム軸40上での交点hが中心点O1へ近づく方向F2を「所定の方向」として移動する。
【0052】
ノズル先端部44は、移動経路43に移動可能に取り付けられており、ノズル駆動部45により矢示F1,F2方向へ移動する。ノズル先端部44は、例えば、線量モニタ、位置モニタ、リッジフィルタなどの、機器(不図示)を少なくとも1つ備える。
【0053】
ノズル駆動部45は、例えば、回転モータ450とワイヤ451を含む。回転モータ450と減速機およびブレーキ(いずれも図示せず)は、ノズル基端部42の上側であって、退避位置P2よりもさらに後ろ側(ビームの流れ方向の上流側)に設けられる。
【0054】
ワイヤ451は、その両端部のうち一方の端部が回転モータ450の回転軸に接続されており、他方の端部がノズル先端部44に接続されている。回転モータ450が回転してワイヤ451が巻き取られると、
図4に示すように、ノズル先端部44は退避位置P2へ向けて移動経路43を移動する。回転モータ450が逆方向へ回転してワイヤ451が送り出されると、
図5に示すように、ノズル先端部44は照射位置P1へ向けて移動経路43を移動する。
【0055】
図6のフローチャートを用いて、粒子線治療システム1のIGRTならびにアダプティブ治療の場合の全体動作を説明する。
【0056】
メインコントローラ70は、操作端末74から、CT装置5による撮影の準備開始が指示されると(S11)、照射制御部71を介して照射ノズル4の位置を確認し、照射ノズル4が退避位置P2に退避しているか判定する(S12)。メインコントローラ70は、照射ノズル4が退避していないと判定すると(S12:NO)、CT装置5による撮影準備を中止させ(S13)、照射ノズル4を退避させるように照射制御部71へ指示する(S14)。これにより、照射ノズル4のノズル先端部44は、矢示F2方向へ移動経路43上を移動し、退避位置P2へ退避する。
【0057】
ユーザが操作端末74から、再びCT装置5による撮影準備の開始を指示すると(S11)、メインコントローラ70は、ノズル先端部44が退避していると判定し(S12:YES)、CT装置5に対して撮影位置への移動および撮影を許可する(S15)。照射ノズル4のノズル先端部44は退避しているため、CT装置5が待機場所から撮影位置へ移動しても、CT装置5と照射ノズル4とが接触することはない。
【0058】
移動許可を受けたCT装置5は、紙面奥の待機場所から撮影位置まで前進し、治療台6上の患者Ptを撮影し、撮影した画像データをデータ蓄積部73へ送信して保存させる(S16)。詳しくは、CT装置5は、CT制御部72からの指示に応じて、所定の待機場所から照射室RM内の治療位置(アイソセンタICに対応する位置であり、患者Ptの患部が撮影できる場所)へ移動する。
【0059】
CT装置5は、治療台6の角度に合わせ、治療台6の先端からCT装置5の開口部51に患者Ptを通し、患部が撮影できる場所まで移動し、静止する。CT装置5は、アイソセンタIC付近を撮影し、その画像データをCT制御部72へ送信する。CT制御部72は、CT装置5から受信した画像データをデータ蓄積部73に格納する。
【0060】
メインコントローラ70は、CT制御部72を介して、CT装置5による撮影が終了したか確認する(S17)。メインコントローラ70は、撮影が完了したことを確認すると(S17:YES)、撮影された画像データに対して自動輪郭処理(セグメンテーション処理)を実施し、輪郭情報をデータ蓄積部73へ保存する(S18)。
【0061】
治療計画装置75は、データ蓄積部73に保存された画像データおよび輪郭情報に基づいて、治療計画を作成する(S19)。作成された治療計画は、データ蓄積部73に転送されて保存される。なお、治療計画の作成に代えて、あらかじめ作成していた治療計画を画像データに基づいて、修正してもよい。また、治療計画の作成及び治療計画の修正を実施しない場合、CT装置5からの画像データに基づく患者位置の修正を実施する。
【0062】
メインコントローラ70は、操作端末74から入力される治療開始指示にしたがって、CT装置5に対して待機位置へ戻るよう指示する(S20)。メインコントローラ70は、CT装置5への移動指示と同時に、または、CT装置5への移動指示後に、照射ノズル4のノズル先端部44が照射位置P1へ移動するように指示する(S21)。これにより、患者Ptを動かさずに、CT撮影からビーム照射による治療へ滑らかに移行させることができる。
【0063】
照射ノズル4のノズル先端部44が照射位置P1へ到達すると、照射制御部71は、治療計画にしたがって、照射ノズル4から所定のビームを患部へ向けて照射させる(S22)。
【0064】
図7および
図8を用いて、ノズル先端部44をビーム軸40から外れさせつつ円弧状(湾曲状)に遠ざける構成の利点を説明する。
【0065】
図7は、チルト機能を有するCT装置5Aと照射ノズル4との関係を示す。
図1,
図2では、CT装置5の移動方向とビーム軸40とが直交する場合を説明したが、
図7では、CT装置5Aの移動方向とビーム軸40とが一致する場合を示している。
【0066】
本変形例のCT装置5Aは、向かって左側の待機位置(図示せず)から
図7に示す撮影位置まで左右方向に移動可能に設けられる。さらに、CT装置5Aは、撮影位置において、垂直な基準姿勢(5A(1))からチルト姿勢(5A(2))へ傾動可能に設けられている。CT装置5Aは、垂直な基準位置(5A(1))から反時計回りに傾動することもできる。
【0067】
このように、ノズル先端部44を照射位置P1からノズル基端部42の上側の退避位置P2まで円弧状の軌跡を描くようにして退避させることにより、CT装置5Aのチルトに対応することができる。
【0068】
図8は、ノズル先端部44がビーム軸40に垂直に移動する場合とノズル先端部44が円弧状の軌跡を描いて退避する場合と比較する。垂直移動したノズル先端部44(P2V)の上端位置は、円弧状の軌跡を描いて退避したノズル先端部44(P2)の上端位置よりも寸法ΔHだけ高くなる。
【0069】
したがって、ノズル先端部44を円弧状の軌跡を描くようにして退避位置P2へ退避させることにより、ノズル先端部44を垂直に移動させて退避させる場合よりも、照射ノズル4の高さ寸法を小さくすることができる。
【0070】
本実施例によれば、CT装置5による撮影時と照射ノズル4からのビーム照射時とで、患者Ptを移動させたり姿勢を変化させたりする必要がないため、患者Ptの移動などに伴う体内組織の揺らぎを抑制することができる。したがって、本実施例によれば、高精度に位置決めしてビームを照射できるため、患部周辺の組織に対するマージンを減らすことができ、正常な組織に対する線量を低減できる。
【0071】
さらに、本実施例では、照射ノズル4のノズル先端部44をビーム軸に沿って伸縮させるのではなく、照射位置P1からビーム軸40の上流側へ遠ざかり、かつ、ビーム軸40から外れる方向F2へ移動させるため、特許文献1に比べて、照射ノズル4の全体を小型化することができる。
【0072】
さらに、本実施例では、CT装置5Aのチルト動作にも対応することができる。さらに、本実施例では、照射ビームのアイソセンタと撮影のアイソセンタとを一致させることができ、天板上の治療対象を動かさずに治療と撮影とを行うことができ、治療の精度を向上させることができる。したがって、撮影装置として、例えばCT装置を導入する場合に、高画質の撮影ができ、高精度なIGRTならびにアダプティブ治療へも、適用が可能となる。
【実施例2】
【0073】
図9および
図10を用いて、第2実施例を説明する。本実施例では、第1実施例との相違を中心に述べる。
【0074】
本実施例の照射ノズル4Aは、カウンタウェイト452を用いることにより、ワイヤ451の両端の重量のバランスを取り、回転モータ450に必要なトルクを低減する。すなわち、本実施例のノズル駆動部45Aは、回転モータ450とワイヤ451に加えて、カウンタウェイト452を有する。カウンタウェイト452は、ワイヤ451の両端部のうち、ノズル先端部44に接続されていない方の端部に設けられている。
【0075】
図10は、ノズル基端部42を背面側から見た説明図である。回転モータ450の回転軸の両端にそれぞれワイヤ451(1),451(2)を巻回し、それらワイヤ451(1),451(2)の両端部のうち一方の端部をノズル先端部44に接続し、他方の端部にカウンタウェイト452(1),452(2)を設けてもよい。そして、上下に移動するカウンタウェイト452(1),452(2)がオペレータなどに接触するのを防止する安全カバー453(1),453(2)が設けられてもよい。
【0076】
回転モータ450の回転軸のいずれか一方の端部にのみワイヤ451およびカウンタウェイト452を設けてもよい。
【0077】
このように構成される本実施例も第1実施例と同様の作用効果を奏する。さらに、本実施例のノズル駆動部45Aは、カウンタウェイト452を用いるため、回転モータ450の負荷を軽減することができ、回転モータ450のコスト低減と長寿命を実現することができる。
【0078】
図11は、変形例に係る照射ノズル4Bの説明図である。照射ノズル4Bは、リニア型アクチュエータを含むノズル駆動部45Bを有する。ノズル駆動部45Bは、例えば、リニアモータ、電動モータとボールネジの組合せ、電動モータとスライダの組合せ、空圧シリンダなどを用いることができる。
【実施例3】
【0079】
図12を用いて第3実施例を説明する。本実施例では、第1実施例、第2実施例との相違を中心に述べる。
【0080】
本実施例では、円弧上の移動経路43の中心点O1aが、ノズル先端部44よりもビーム軸の下流側に位置している。中心点O1aは、例えば、ビーム軸上に位置するが、ノズル先端部44よりもビーム軸の下流側に位置していればよく、必ずしもビーム軸上に限定されず、ビーム軸から外れた位置にあってもよい。一例として、
図12に示すように、中心点O1aは、ノズル先端部44が退避位置P2aにある場合の、ノズル先端部44からからビーム軸40へ降ろした垂線のビーム軸40上での交点haと一致してもよく、アイソセンタICと一致してもよい。
【0081】
ノズル先端部44は、ノズル先端部44よりも下流側に位置してビーム軸40上に設定される点O1a(中心点O1a)から所定の角度θaだけ上方に設定される退避位置P2aと、照射位置P1との間を少なくとも結ぶ円弧状の移動経路43aを、ノズル先端部44からビーム軸40へ降ろした垂線のビーム軸40上での交点haがビーム軸下流側へ進む方向を「所定の方向」として移動する。
【0082】
一例として、移動経路43aは、ノズル先端部44よりも下流のビーム軸40上に設定される点O1aを中心に、ビーム軸40とノズル基端部42のビーム軸の下流側(照射位置P1)との交点から左回りに略90度の所定角度だけ回転した位置までを結ぶ湾曲状に形成される。湾曲状の移動経路43aは、円弧状の移動経路43aと呼ぶこともできる。円弧状とは、正円の一部に限らず、正円以外の円形状の一部でもよい。所定角度は、ノズル先端部44が照射位置P1と退避位置P2aとの間で移動する角度θaを含む角度であればよく、90度以上でもよいし、90度未満でもよい。
【0083】
本実施例によれば、第1実施例と同様に、ノズル先端部44を円弧状の軌跡を描くようにして退避位置P2aへ退避させることにより、
図8で示したノズル先端部44を垂直に移動させて退避させる場合よりも、照射ノズル4の高さ寸法ΔHaだけ小さくすることができる。
【0084】
撮影装置の一例としてCT装置を例に説明したが、CT装置の外形は正円とは限らない。また、撮影装置として、オープン型MRIのような円環状でない撮影装置を用いることもできる。たとえば、横幅が高さよりも大きい撮影装置を用いる場合に、ノズル先端部44を撮影装置の上方の退避位置P2aに移動させることにより、ノズル先端部44と撮影装置とが干渉せずに患者PtをアイソセンタIC位置で撮影することができる。
【0085】
第1実施例ではビーム軸40が床面と水平の1本の場合を例に説明したが、本実施例は、複数の方向からビームを照射する照射ノズルにも適用できる。すなわち、照射ノズル4は、ビーム軸が床面と水平の場合だけでなく、ビーム軸が床面と45°をなす場合、ビーム軸が床面に対して垂直をなす場合のように、それぞれ異なる複数の方向からビームを照射できる照射ノズルにも適用できる。また、ノズル基端部42が照射角を連続的に変える偏向電磁石で構成され、ノズル先端部44を移動することで、任意の角度からビームを照射する粒子線治療システムにも適用できる。このとき、走査電磁石は、ノズル基端部42でなくノズル先端部44に設けられてもよく、ノズル基端部42よりもビームの上流側に設けてもよい。
【0086】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されない。当業者であれば、本発明の範囲内で、種々の追加や変更等を行うことができる。上述の実施形態において、添付図面に図示した構成例に限定されない。本発明の目的を達成する範囲内で、実施形態の構成や処理方法は適宜変更することが可能である。
(付記1)
放射線治療ビームを対象物へ照射する照射ノズルであって、
放射線治療ビームの通過するビーム軸上に固定されたノズル基端部と、
前記ノズル基端部を通過した放射線治療ビームを対象物へ照射するノズル先端部と
を有し、
前記ノズル先端部は、前記対象物に前記放射線治療ビームを照射するとき第1の位置に固定され、前記対象物を撮影するとき第2の位置に固定され、
前記ノズル先端部が前記第1の位置と前記第2の位置との間を移動可能な湾曲状の移動経路が設けられる
照射ノズル。
(付記2)
(付記1)に記載の照射ノズルであって、
前記ビーム軸は、床面に対して水平に設けられる
照射ノズル。
(付記3)
(付記1)または(付記2)いずれか1項に記載の照射ノズルであって、
前記第2の位置は、前記ビーム軸の軸外に位置する
照射ノズル。
(付記4)
(付記1)乃至(付記3)のいずれか1項に記載の照射ノズルであって、
湾曲状の前記移動経路は、略円弧状であり、
前記移動経路が描く円弧の中心が、前記ノズル先端部よりも上流側に位置する
照射ノズル。
(付記5)
(付記1)乃至(付記3)のいずれか1項に記載の照射ノズルであって、
湾曲状の前記移動経路は、略円弧状であり、
前記移動経路が描く円弧の中心が、前記ノズル先端部よりも下流側に位置する
照射ノズル。
(付記6)
(付記1)乃至(付記5)のいずれか1項に記載の照射ノズルであって、
前記ノズル先端部は、前記移動経路上の任意の位置で停止可能である
照射ノズル。
(付記7)
(付記1)乃至(付記6)のいずれか1項に記載の照射ノズルであって、
前記所定の移動経路は、前記ビーム軸に沿って前記ノズル基端側の前方に離間して配置される傾動可能な装置の傾動角度に応じて、湾曲状に形成されている
照射ノズル。
(付記8)
(付記1)乃至(付記7)のいずれか1項に記載の照射ノズルであって、
前記ノズル先端部は、ノズル駆動部により移動されるものであり、
前記駆動部は、ワイヤを巻き上げまたは巻き降ろす回転モータを含む
照射ノズル。
(付記9)
(付記1)乃至(付記8)のいずれか1項に記載の照射ノズルであって、
前記放射線治療ビームは、粒子線であり、
前記ノズル先端部は、線量モニタ、位置モニタ、リッジフィルタのうちいずれか少なくとも1つを備える
照射ノズル。
(付記10)
(付記1)乃至(付記9)のいずれか1項に記載の照射ノズルであって、
前記放射線治療ビームは、粒子線であり、
前記ノズル基端部は、走査電磁石を備える
照射ノズル。
(付記11)
(付記1)乃至(付記10)のいずれか一項に記載の照射ノズルと、
前記放射線治療ビームを加速する加速器と、
を備える粒子線治療装置。
(付記12)
(付記11)に記載の粒子線治療装置と、
前記対象物の内部を撮影する撮影装置と
を備え、
前記撮影装置は、前記ビーム軸上にある前記対象物を撮影する撮影位置と、前記ノズル先端部が前記第1の位置にあるときに前記ノズル先端部と干渉しない待機位置と、の間で移動可能である
粒子線治療システム。
(付記13)
(付記12)に記載の粒子線治療システムであって、
さらに制御装置を備え、
前記制御装置は、前記撮影装置による撮影が完了したことを検知すると、撮影した画像を用いて、セグメンテーションを開始する
粒子線治療システム。
(付記14)
(付記13)に記載の粒子線治療システムであって、
前記制御装置は、さらに、前記粒子線治療システムによるセグメンテーションが完了したことを検知すると、セグメンテーションされた輪郭情報を用いて、治療計画作成を開始する
粒子線治療システム。
(付記15)
粒子線治療システムを制御する方法であって、
前記粒子線治療システムは、
粒子線治療装置と、
対象物の撮影装置と、
制御装置と
を備え、
前記粒子線治療装置は、
放射線治療ビームを加速する加速器と、
前記加速された放射線治療ビームを前記対象物へ照射する照射ノズルと、
を備え、
前記照射ノズルは、
放射線治療ビームの通過するビーム軸上に固定されたノズル基端部と、
前記ノズル基端部を通過した放射線治療ビームを対象物へ照射するノズル先端部と
を有し、
前記ノズル先端部は、前記対象物に前記放射線治療ビームを照射するとき第1の位置に固定され、前記対象物を撮影するとき第2の位置に固定され、
前記ノズル先端部が前記第1の位置と前記第2の位置との間を移動可能な湾曲状の移動経路が設けられており、
前記撮影装置は、前記ビーム軸上にある前記対象物を撮影する撮影位置と、前記ノズル先端部が前記照射位置にあるときに前記ノズル先端部と干渉しない待機位置と、の間で移動可能である
粒子線治療システムの制御方法。
(付記16)
粒子線治療システムを制御する方法であって、
前記粒子線治療システムは、
粒子線治療装置と、
対象物の撮影装置と、
制御装置と
を備え、
前記粒子線治療装置は、
放射線治療ビームを加速する加速器と、
前記加速された放射線治療ビームを前記対象物へ照射する照射ノズルと、
を備え、
前記照射ノズルは、
放射線治療ビームの通過するビーム軸上に固定されたノズル基端部と、
前記ノズル基端部を通過した放射線治療ビームを対象物へ照射するノズル先端部と
を有し、
前記ノズル先端部は、前記対象物に前記放射線治療ビームを照射するとき第1の位置に固定され、前記対象物を撮影するとき第2の位置に固定され、
前記ノズル先端部が前記第1の位置と前記第2の位置との間を移動可能な湾曲状の移動経路が設けられており、
前記撮影装置は、前記ビーム軸上にある前記対象物を撮影する撮影位置と、前記ノズル先端部が前記照射位置にあるときに前記ノズル先端部と干渉しない待機位置と、の間で移動可能であり、
前記制御装置は、前記撮影装置による撮影が完了したことを検知すると、撮影した画像を用いて、セグメンテーションを開始する
粒子線治療システムの制御方法。
(付記17)
粒子線治療システムを制御する方法であって、
前記粒子線治療システムは、
粒子線治療装置と、
対象物の撮影装置と、
制御装置と
を備え、
前記粒子線治療装置は、
放射線治療ビームを加速する加速器と、
前記加速された放射線治療ビームを前記対象物へ照射する照射ノズルと、
を備え、
前記照射ノズルは、
放射線治療ビームの通過するビーム軸上に固定されたノズル基端部と、
前記ノズル基端部を通過した放射線治療ビームを対象物へ照射するノズル先端部と
を有し、
前記ノズル先端部は、前記対象物に前記放射線治療ビームを照射するとき第1の位置に固定され、前記対象物を撮影するとき第2の位置に固定され、
前記ノズル先端部が前記第1の位置と前記第2の位置との間を移動可能な湾曲状の移動経路が設けられており、
前記撮影装置は、前記ビーム軸上にある前記対象物を撮影する撮影位置と、前記ノズル先端部が前記照射位置にあるときに前記ノズル先端部と干渉しない待機位置と、の間で移動可能であり、
前記制御装置は、前記撮影装置による撮影が完了したことを検知すると、撮影した画像を用いて、セグメンテーションを開始し、
さらに、前記粒子線治療システムによるセグメンテーションが完了したことを検知すると、セグメンテーションされた輪郭情報を用いて、治療計画作成を開始する
粒子線治療システムの制御方法。
【符号の説明】
【0087】
1:粒子線治療システム、2:粒子線発生装置、3:ビーム輸送系、4,4A,4B:照射ノズル、5,5A:CT装置、6:治療台、7:制御システム、10:粒子線治療装置、41:支持部、42:ノズル基端部、43:移動経路、44:ノズル先端部、45,45A,45B:ノズル駆動部