(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】信号処理方法、学習モデル生成方法、信号処理装置、放射線検出装置及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G01T 1/17 20060101AFI20240819BHJP
G06N 3/04 20230101ALI20240819BHJP
G01N 23/223 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
G01T1/17 H
G01T1/17 A
G06N3/04
G01N23/223
(21)【出願番号】P 2022517549
(86)(22)【出願日】2021-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2021011045
(87)【国際公開番号】W WO2021220657
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2023-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2020078471
(32)【優先日】2020-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】村田 駿介
【審査官】坂上 大貴
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-516411(JP,A)
【文献】特開平8-029538(JP,A)
【文献】特開2007-057356(JP,A)
【文献】米国特許第10422896(US,B1)
【文献】Ruibin Feng, et al.,Neural-networks-based Photon-Counting Data Correction: Pulse Pileup Effect,arXiv>physics>arXiv:1804.10980,米国,Cornell University [online],2018年04月29日,v1,pp.1-14,<URL: https://arxiv.org/abs/1804.10980>,(2024年7月19日 検索)、インターネット
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/17
1/36
G06N 3/04
G01N 23/223
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線の検出に応じた階段波又は前記階段波を変換したパルス波を、波高別にカウントする信号処理方法において、
時系列的な信号値列を入力した場合に、前記信号値列が構成する信号中の前記階段波若しくは前記パルス波の有無に関する情報、又は前記信号中の前記階段波若しくは前記パルス波の波高に関する情報を出力する学習モデルへ、放射線検出に係る前記信号値列を入力し、
前記学習モデルが出力する情報に応じて、前記階段波又は前記パルス波を波高別にカウントすること
を特徴とする信号処理方法。
【請求項2】
前記学習モデルは、再帰型ニューラルネットワークを用いており、前記信号値列に含まれる信号値を逐次的に入力され、一の信号値を入力された場合に、前記信号値列が構成する信号中の前記階段波若しくは前記パルス波の有無に関する情報、又は前記信号中の前記階段波若しくは前記パルス波の波高に関する情報を出力すること
を特徴とする請求項1に記載の信号処理方法。
【請求項3】
前記学習モデルは、複数の信号値からなる信号値列をまとめて入力された場合に、前記信号値列が構成する信号中の前記階段波若しくは前記パルス波の有無に関する情報、又は前記信号中の前記階段波若しくは前記パルス波の波高に関する情報を出力すること
を特徴とする請求項1に記載の信号処理方法。
【請求項4】
前記信号値列を正規化した上でまとめて前記学習モデルへ入力すること
を特徴とする請求項3に記載の信号処理方法。
【請求項5】
前記学習モデルは、前記信号に前記階段波又は前記パルス波が含まれているか否かを示す情報を出力し、
前記信号に前記階段波又は前記パルス波が含まれていることを示す情報が前記学習モデルから出力された場合に、前記階段波又は前記パルス波の波高を測定すること
を特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の信号処理方法。
【請求項6】
放射線の検出に応じた階段波又は前記階段波を変換したパルス波を含んだ信号を夫々に構成する時系列的な複数の第1信号値列と、前記階段波及び前記パルス波のいずれをも含んでいない信号を夫々に構成する時系列的な複数の第2信号値列とを取得し、
前記第1信号値列と、前記第1信号値列に関連付けた、前記階段波若しくは前記パルス波があることを示す情報又は前記階段波若しくは前記パルス波の波高を示す情報と、前記第2信号値列と、前記第2信号値列に関連付けた、前記階段波若しくは前記パルス波が無いことを示す情報又は前記階段波若しくは前記パルス波の波高がゼロであることを示す情報とを訓練データとして、時系列的な任意の信号値列を入力した場合に前記任意の信号値列が構成する信号中の前記階段波若しくは前記パルス波の有無に関する情報、又は前記信号中の前記階段波若しくは前記パルス波の波高に関する情報を出力する学習モデルを、生成すること
を特徴とする学習モデル生成方法。
【請求項7】
前記学習モデルは、複数の信号値からなる任意の信号値列をまとめて入力された場合に、前記任意の信号値列が構成する信号に前記階段波又は前記パルス波が含まれているか否かを示す情報を出力し、
前記第1信号値列は、正規化されていること
を特徴とする請求項6に記載の学習モデル生成方法。
【請求項8】
放射線の検出に応じた階段波又は前記階段波を変換したパルス波を、波高別にカウントする信号処理装置において、
時系列的な信号値列を入力した場合に、前記信号値列が構成する信号中の前記階段波若しくは前記パルス波の有無に関する情報、又は前記信号中の前記階段波若しくは前記パルス波の波高に関する情報を出力する学習モデルと、
放射線検出に係る前記信号値列を前記学習モデルへ入力した場合に前記学習モデルが出力する情報に応じて、前記階段波又は前記パルス波を波高別にカウントするカウント部と
を備えることを特徴とする信号処理装置。
【請求項9】
放射線検出時に放射線のエネルギーに応じた階段波を出力する放射線検出器と、
前記階段波をパルス波へ変換する変換部と、
前記変換部で変換される前又は前記変換部で変換された後の信号を構成する時系列的な信号値列を入力した場合に、前記信号に前記階段波又は前記パルス波が含まれているか否かを示す情報を出力する学習モデルと、
前記信号に前記階段波又は前記パルス波が含まれていることを示す情報が前記学習モデルから出力された場合に、前記パルス波の波高を測定する波高測定部と、
前記パルス波を波高別にカウントするカウント部と、
前記パルス波の波高及びカウント数に応じて、放射線のスペクトルを生成するスペクトル生成部と
を備えることを特徴とする放射線検出装置。
【請求項10】
放射線検出時に放射線のエネルギーに応じた階段波を出力する放射線検出器と、
前記放射線検出器から出力された信号を構成する時系列的な信号値列を入力した場合に、前記信号中の前記階段波の波高を示す情報を出力する学習モデルと、
前記学習モデルが出力する情報に応じて、前記階段波を波高別にカウントするカウント部と、
前記階段波の波高及びカウント数に応じて、放射線のスペクトルを生成するスペクトル生成部と
を備えることを特徴とする放射線検出装置。
【請求項11】
時系列的な信号値列を入力した場合に、前記信号値列が構成する信号中の階段波若しくは前記階段波を変換したパルス波の有無に関する情報、又は前記信号中の前記階段波若しくは前記パルス波の波高に関する情報を出力する学習モデルへ、放射線検出に係る前記信号値列を入力して、前記階段波若しくは前記パルス波の有無に関する情報又は前記波高に関する情報を出力する
処理をコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線の検出によって発生する信号を処理するための信号処理方法、学習モデル生成方法、信号処理装置、放射線検出装置及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
X線等の放射線を検出する放射線検出装置は、放射線検出器と、放射線検出器が出力する信号を処理する信号処理装置とを備えている。放射線検出器は、半導体放射線検出素子等を用いて構成されており、放射線が検出される都度、階段波を出力する。信号処理装置は、階段波をパルス波へ変換し、パルス波の波高を測定する。パルス波の波高は放射線のエネルギーに対応する。従来の放射線検出装置では、閾値を設定しておき、信号値が閾値を超過した場合に、パルス波を検出したと判定し、検出したパルス波の波高を測定する。特許文献1には、従来の放射線検出装置の例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
信号に含まれるノイズが閾値を超過した場合は、放射線検出装置はパルス波を誤検出することになる。誤検出を防止するためには、閾値は十分に大きい値である必要がある。放射線検出装置で蛍光X線を検出することにより、試料に含まれる元素を検出する場合、検出される蛍光X線のエネルギーは、元素の種類に応じた値となる。一般的に、元素の原子番号が大きいほど、蛍光X線のエネルギーは高い。放射線検出装置は、エネルギーが低くパルス波の波高が閾値に達しない蛍光X線を検出できないので、蛍光X線のエネルギーが低い軽元素は、検出が困難となる。例えば、閾値が0.4keVである放射線検出装置を用いた場合は、酸素よりも原子番号が小さい元素は検出することができない。
【0005】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、低エネルギーの放射線の検出を可能にする信号処理方法、学習モデル生成方法、信号処理装置、放射線検出装置及びコンピュータプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る信号処理方法は、放射線の検出に応じた階段波又は前記階段波を変換したパルス波を、波高別にカウントする信号処理方法において、放射線検出器からの信号を構成する時系列的な信号値列を入力した場合に、前記信号値列が構成する信号中の前記階段波若しくは前記パルス波の有無に関する情報、又は前記信号中の前記階段波若しくは前記パルス波の波高に関する情報を出力する学習モデルへ、放射線検出に係る前記信号値列を入力し、前記学習モデルが出力する情報に応じて、前記階段波又は前記パルス波を波高別にカウントすることを特徴とする。
【0007】
本発明の一形態においては、学習モデルを利用して、放射線検出器からの信号について、放射線の検出に応じた階段波若しくは階段波を変換したパルス波の有無又は波高を判定する。学習モデルは、信号を構成する信号値列を入力され、階段波若しくはパルス波の有無又は波高に関する情報を出力する。小さい波高の階段波又はパルス波を検出し、エネルギーが低い放射線を検出することができる。
【0008】
本発明に係る信号処理方法は、前記学習モデルは、再帰型ニューラルネットワークを用いており、前記信号値列に含まれる信号値を逐次的に入力され、一の信号値を入力された場合に、前記信号値列が構成する信号中の前記階段波若しくは前記パルス波の有無に関する情報、又は前記信号中の前記階段波若しくは前記パルス波の波高に関する情報を出力することを特徴とする。
【0009】
本発明の一形態においては、学習モデルとして、再帰型ニューラルネットワークを用いる。学習モデルは、信号値を逐次的に入力され、一の信号値を入力される都度、階段波若しくはパルス波の有無又は波高に関する情報を出力する。再帰型ニューラルネットワークを用いることにより、信号に含まれる一つのパルス波に対して、一つのパルス波の有無に関する情報を出力する構成にすることが可能であるので、信号処理装置の構成を簡素にすることができる。また、学習モデルに過去に入力された複数の信号値からなる信号値列が構成する信号の波形に応じた情報を得ることも可能である。
【0010】
本発明に係る信号処理方法は、前記学習モデルは、複数の信号値からなる信号値列をまとめて入力された場合に、前記信号値列が構成する信号中の前記階段波若しくは前記パルス波の有無に関する情報、又は前記信号中の前記階段波若しくは前記パルス波の波高に関する情報を出力することを特徴とする。
【0011】
本発明の一形態においては、学習モデルは、複数の信号値からなる信号値列をまとめて入力され、階段波若しくはパルス波の有無又は波高に関する情報を出力する。信号値列が構成する信号について、階段波若しくはパルス波の有無又は波高を判定することができる。
【0012】
本発明に係る信号処理方法は、前記信号値列を正規化した上でまとめて前記学習モデルへ入力することを特徴とする。
【0013】
本発明の一形態においては、信号値列は、正規化した上でまとめて学習モデルへ入力される。信号値列を正規化することによって、階段波又はパルス波の検出精度を安定させることができる。
【0014】
本発明に係る信号処理方法は、前記学習モデルは、前記信号に前記階段波又は前記パルス波が含まれているか否かを示す情報を出力し、前記信号に前記階段波又は前記パルス波が含まれていることを示す情報が前記学習モデルから出力された場合に、前記階段波又は前記パルス波の波高を測定することを特徴とする。
【0015】
本発明の一形態においては、学習モデルは、信号を構成する信号値列を入力され、階段波若しくはパルス波が信号に含まれているか否かを示す情報を出力する。階段波若しくはパルス波が信号に含まれている場合に、階段波若しくはパルス波の波高の測定が行われる。信号中の階段波又はパルス波を検出することができる。
【0016】
本発明に係る学習モデル生成方法は、放射線の検出に応じた階段波又は前記階段波を変換したパルス波を含んだ信号を夫々に構成する時系列的な複数の第1信号値列と、前記階段波及び前記パルス波のいずれをも含んでいない信号を夫々に構成する時系列的な複数の第2信号値列とを取得し、前記第1信号値列と、前記第1信号値列に関連付けた、前記階段波若しくは前記パルス波があることを示す情報又は前記階段波若しくは前記パルス波の波高を示す情報と、前記第2信号値列と、前記第2信号値列に関連付けた、前記階段波若しくは前記パルス波が無いことを示す情報又は前記階段波若しくは前記パルス波の波高がゼロであることを示す情報とを訓練データとして、時系列的な任意の信号値列を入力した場合に前記任意の信号値列が構成する信号中の前記階段波若しくは前記パルス波の有無に関する情報、又は前記信号中の前記階段波若しくは前記パルス波の波高に関する情報を出力する学習モデルを、生成することを特徴とする。
【0017】
本発明の一形態においては、階段波又はパルス波を含んだ第1信号値列と、階段波及びパルス波を含んでいない第2信号値列とを訓練データとして、学習モデルを学習する。信号値列を入力され、階段波若しくはパルス波の有無又は波高に関する情報を出力する学習モデルを、生成することができる。
【0018】
本発明に係る学習モデル生成方法は、前記学習モデルは、複数の信号値からなる任意の信号値列をまとめて入力された場合に、前記任意の信号値列が構成する信号に前記階段波又は前記パルス波が含まれているか否かを示す情報を出力し、前記第1信号値列は、正規化されていることを特徴とする。
【0019】
本発明の一形態においては、複数の信号値からなる信号値列をまとめて入力され、階段波若しくはパルス波の有無又は波高に関する情報を出力する学習モデルを、生成する。訓練データとして用いる第1信号値列は、正規化されている。正規化を行うことにより、様々な大きさの階段波又はパルス波を扱う必要が無くなる。
【0020】
本発明に係る信号処理装置は、放射線の検出に応じた階段波又は前記階段波を変換したパルス波を、波高別にカウントする信号処理装置において、放射線検出器からの信号を構成する時系列的な信号値列を入力した場合に、前記信号値列が構成する信号中の前記階段波若しくは前記パルス波の有無に関する情報、又は前記信号中の前記階段波若しくは前記パルス波の波高に関する情報を出力する学習モデルと、放射線検出に係る前記信号値列を前記学習モデルへ入力した場合に前記学習モデルが出力する情報に応じて、前記階段波又は前記パルス波を波高別にカウントするカウント部とを備えることを特徴とする。
【0021】
本発明の一形態においては、信号処理装置は、学習モデルを利用して、放射線検出器からの信号について、放射線の検出に応じた階段波若しくは階段波を変換したパルス波の有無又は波高を判定する。信号処理装置は、信号に含まれる階段波又はパルス波を波高別にカウントすることができる。小さい波高の階段波又はパルス波のカウントが可能となり、エネルギーが低い放射線の検出が可能となる。
【0022】
本発明に係る放射線検出装置は、放射線検出時に放射線のエネルギーに応じた階段波を出力する放射線検出器と、前記階段波をパルス波へ変換する変換部と、前記変換部で変換される前又は前記変換部で変換された後の信号を構成する時系列的な信号値列を入力した場合に、前記信号に前記階段波又は前記パルス波が含まれているか否かを示す情報を出力する学習モデルと、前記信号に前記階段波又は前記パルス波が含まれていることを示す情報が前記学習モデルから出力された場合に、前記パルス波の波高を測定する波高測定部と、前記パルス波を波高別にカウントするカウント部と、前記パルス波の波高及びカウント数に応じて、放射線のスペクトルを生成するスペクトル生成部とを備えることを特徴とする。
【0023】
本発明の一形態においては、放射線検出装置は、放射線検出器からの信号に含まれる階段波をパルス波へ変換し、学習モデルを用いて信号中のパルス波の有無を判定し、パルス波の波高を検出し、波高別にパルス波をカウントする。放射線検出装置は、パルス波を波高別にカウントすることができる。
【0024】
本発明に係る放射線検出装置は、放射線検出時に放射線のエネルギーに応じた階段波を出力する放射線検出器と、前記放射線検出器から出力された信号を構成する時系列的な信号値列を入力した場合に、前記信号中の前記階段波の波高を示す情報を出力する学習モデルと、前記学習モデルが出力する情報に応じて、前記階段波を波高別にカウントするカウント部と、前記階段波の波高及びカウント数に応じて、放射線のスペクトルを生成するスペクトル生成部とを備えることを特徴とする。
【0025】
本発明の一形態においては、放射線検出装置は、放射線検出器からの信号に含まれる階段波を学習モデルへ入力し、学習モデルを用いて信号中の階段波の波高を判定する。放射線検出装置は、階段波を波高別にカウントすることができる。
【0026】
本発明に係るコンピュータプログラムは、時系列的な信号値列を入力した場合に、前記信号値列が構成する信号中の階段波若しくは前記階段波を変換したパルス波の有無に関する第1の情報、又は前記信号中の前記階段波若しくは前記パルス波の波高に関する第2の情報を出力する学習モデルへ、放射線検出に係る前記信号値列を入力して、前記第1の情報又は前記第2の情報を出力する処理をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0027】
本発明の一形態においては、コンピュータプログラムを利用した処理により、学習モデルを利用して、放射線検出器からの信号について、放射線の検出に応じた階段波若しくは階段波を変換したパルス波の有無又は波高が判定される。小さい波高の階段波又はパルス波を検出し、エネルギーが低い放射線を検出することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明にあっては、低エネルギーの放射線を検出することが可能となる。このため、放射線のエネルギーが低い軽元素を検出することが可能となる等、本発明は優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】実施形態1に係る放射線検出装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図2A】階段波及びパルス波の例を示す模式的特性図である。
【
図2B】階段波及びパルス波の例を示す模式的特性図である。
【
図3】処理部へ入力される信号の例を模式的に示すグラフである。
【
図4】実施形態1に係る学習モデルの機能構成例を示す概念図である。
【
図5】学習モデルにおける逐次的な処理の概要を示す模式図である。
【
図6】学習モデルの学習を行う学習装置の構成例を示すブロック図である。
【
図7】学習モデルを生成する処理の手順を示すフローチャートである。
【
図8】実施形態1に係る信号処理装置が実行する処理の手順を示すフローチャートである。
【
図9】実施形態2に係る放射線検出装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図10】実施形態2に係る学習モデルの機能構成例を示す概念図である。
【
図11】実施形態3に係る放射線検出装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図12】実施形態3に係る学習モデルの機能構成例を示す概念図である。
【
図13】実施形態4に係る放射線検出装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図14】実施形態4に係る学習モデルの機能構成の第1例を示す概念図である。
【
図15】実施形態4に係る学習モデルの機能構成の第2例を示す概念図である。
【
図16】実施形態4に係る学習モデルの機能構成の第3例を示す概念図である。
【
図17】実施形態4に係る信号処理装置が実行する処理の手順を示すフローチャートである。
【
図18】実施形態5に係る処理部の機能構成を示すブロック図である。
【
図19】実施形態6に係る放射線検出装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図20】表示部が表示するスペクトルの第1の例を示す模式図である。
【
図21A】表示部が表示するスペクトルの第2の例を示す模式図である。
【
図21B】表示部が表示するスペクトルの第2の例を示す模式図である。
【
図21C】表示部が表示するスペクトルの第2の例を示す模式図である。
【
図22】表示部が表示するスペクトルの第3の例を示す模式図である。
【
図23】表示部が表示するスペクトルの第4の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
<実施形態1>
図1は、実施形態1に係る放射線検出装置10の機能構成を示すブロック図である。例えば、放射線検出装置10は、蛍光X線分析装置である。放射線検出装置10は、放射線検出器1と、信号処理装置2と、分析部3とを備えている。放射線検出器1は、放射線検出素子11と、プリアンプ12とを備えている。放射線検出素子11は、入射した放射線のエネルギーに応じた電荷を発生し、発生した電荷に応じた電流信号を出力する。例えば、放射線検出素子11は、SDD(Silicon Drift Detector)等の半導体放射線検出素子である。プリアンプ12は、放射線検出素子11が出力した電流信号を電圧信号へ変換し、放射線検出時に一段のステップ状に信号値が上昇する階段波を生成する。放射線検出器1は、プリアンプ12が生成した階段波を含む信号を出力する。
【0031】
放射線検出器1が出力した信号は、信号処理装置2へ入力される。信号処理装置2は、信号処理方法を実行する。信号処理装置2は、A/D(アナログ/デジタル)変換部21を備えている。A/D変換部21は、放射線検出器1から階段波を含む信号を入力され、階段波を含む信号をA/D変換する。A/D変換部21は、連続的な信号が入力され、信号をサンプリングし、サンプリングによって得られた値をA/D変換することにより、離散的な信号値を生成する。A/D変換部21は、信号値の生成を繰り返し、信号値を順次出力する。このようにして、A/D変換部21は、複数の信号値を含む時系列的な信号値列を出力する。A/D変換部21がA/D変換した後の信号は、離散的で時系列的な信号値列から構成される信号となる。
【0032】
A/D変換部21には波形整形部22が接続されている。波形整形部22は、A/D変換部21から時系列的な信号値列から構成される信号を入力される。波形整形部22は、信号を所定のフィルタに通して、信号の波形を整形することにより、信号に含まれる階段波をパルス波へ変換する。波形整形部22が用いるフィルタは、例えば微分フィルタ又は台形整形フィルタである。波形整形部22での処理により、階段波がパルス波へ変換され、信号に含まれるノイズが低減され、所定の増幅が行われる。波形整形部22は信号を出力する。波形整形部22が出力する信号には、放射線検出器1での放射線の検出に応じて、パルス波が含まれる。波形整形部22は変換部に対応する。
【0033】
図2A及び
図2Bは、階段波及びパルス波の例を示す模式的特性図である。図中の横軸は時間を示し、縦軸は信号値を示している。
図2Aは放射線検出器1が出力する階段波を含む信号を示している。放射線検出器1は、放射線を検出する都度、一段のステップ状に信号値が上昇する階段波を出力する。一回の放射線検出に応じて、信号値が一段のステップ状に上昇する一つの階段波が生成される。放射線検出器1が放射線を複数回検出した場合、複数の階段波を含む信号が出力される。放射線が検出される都度、信号値は上昇していく。信号値が上昇するステップの高さを階段波の波高とする。階段波の波高は、放射線のエネルギーに対応する。実際には、階段波は完全なステップ状ではなく、信号波形に立ち上がり及びなまりが含まれている。立ち上がりは、信号値が基準値から立ち上がる際の信号波形の歪みであり、なまりは、階段波が終了する際の信号波形の歪みである。
【0034】
図2Bは、
図2Aに示す信号を波形整形部22で変換した信号を示す。階段波は、パルス波へ変換される。パルス波は、信号値がゼロになる所定の信号基準から信号値がピーク値まで上昇し、その後信号基準まで下降する信号である。信号基準は例えばゼロである。信号基準からピーク値までの高さをパルス波の波高とする。パルス波の波高は放射線のエネルギーに対応する。パルス波の形には、立ち上がり及びなまりが含まれている。立ち上がりは、信号値が基準値から立ち上がる際の信号波形の歪みであり、なまりは、パルス波が終了する際の信号波形の歪みである。
【0035】
波形整形部22には、処理部23及び波高測定部24が接続されている。波形整形部22は、処理部23及び波高測定部24へ信号を入力する。処理部23は、波形整形部22から信号を入力され、信号にパルス波が含まれているか否かを判定する処理を行う。処理部23は、パルス波の有無を判定するための学習モデル231を含んでいる。例えば、学習モデル231は、FPGA(field-programmable gate array )を用いて構成されている。処理部23は、波形整形部22から入力された信号にパルス波が含まれている場合に、パルス波が含まれていることを示す情報を出力する。パルス波の有無を判定する方法については、後述する。
【0036】
処理部23は、波高測定部24に接続されている。波高測定部24は、波形整形部22から信号が入力され、処理部23から、信号にパルス波が含まれていることを示す情報が入力される。波高測定部24はバッファメモリ241を含んでいる。波高測定部24は、信号にパルス波が含まれていることを示す情報が処理部23から入力された場合に、波形整形部22から入力された信号に含まれるパルス波の波高を測定する。
【0037】
波高測定部24には、カウント部25が接続されている。波高測定部24は、測定したパルス波の波高をカウント部25へ入力する。カウント部25は、波高別にパルス波をカウントする。例えば、カウント部25は、マルチチャネルアナライザである。カウント部25は、全ての波高についてパルス波をカウントする形態であってもよく、又は特定の波高についてのみパルス波をカウントする形態であってもよい。信号処理装置2は、パルス波の波高とカウント部25がカウントしたカウント数との関係を示すデータを出力する。カウント数は、パルス波の波高に対応するエネルギーを有する放射線を放射線検出器1が検出した回数に対応する。
【0038】
分析部3は、パーソナルコンピュータ等のコンピュータで構成されている。分析部3は、信号処理装置2が出力したデータを入力される。分析部3は、パルス波の波高とカウント数との関係から、放射線検出器1が検出した放射線のスペクトルを生成する処理を行う。分析部3はスペクトル生成部に対応する。分析部3は、更に、生成した放射線のスペクトルに基づいて、放射線源の元素分析等の更なる処理を行ってもよい。例えば、放射線検出器1は蛍光X線を検出し、分析部3は、蛍光X線のスペクトルに基づいて、試料に含まれる元素の定性分析又は定量分析を行う。なお、信号処理装置2は、放射線のスペクトルを生成する機能をも有していてもよい。
【0039】
処理部23におけるパルス波の有無を判定する方法を説明する。
図3は、処理部23へ入力される信号の例を模式的に示すグラフである。図中の横軸は時間を示し、縦軸は信号値を示す。信号は、所定の時間間隔で時系列的に得られた離散的な信号値の列で構成される。即ち、信号は、時系列的な信号値列で表される。実施形態1に係る学習モデル231は、信号を構成する信号値列に含まれる信号値を逐次的に入力された場合に、信号にパルス波が含まれているか否かを示す情報を出力するように、予め学習されている。
【0040】
図4は、実施形態1に係る学習モデル231の機能構成例を示す概念図である。学習モデル231は、再帰型ニューラルネットワーク(RNN:Recurrent Neural Network)を用いている。学習モデル231は、入力層のノード41と、中間層のノード42と、出力層のノード43とを備えている。入力層のノード41へ、信号値が逐次的に入力される。入力層のノード41は、中間層のノード42へデータを出力する。
【0041】
中間層のノード42は、入力層のノード41からデータを受け付け、更に、以前の出力をフィードバックする。中間層のノード42は、入力層のノード41から受け付けたデータとフィードバックしたデータとにパラメータを用いて演算し、出力層のノード43へデータを出力する。出力層のノード43は、中間層のノード42からデータを受け付け、受け付けたデータにパラメータを用いて演算し、パルス波の有無を示す情報を出力する。例えば、ノード43は、パルス波があることを示す情報として1の値を出力し、パルス波が無いことを示す情報としてゼロの値を出力してもよい。ノード43は、信号にパルス波が含まれている確率を出力してもよい。中間層は、複数のノード42を有していてもよい。学習モデル231は、複数の中間層を有していてもよい。
【0042】
図5は、学習モデル231における逐次的な処理の概要を示す模式図である。t=1の時点において、入力層のノード41へ信号値が入力され、中間層のノード42は演算を行い、出力層のノード43は、パルス波の有無を示す情報を出力する。次のt=2の時点では、入力層のノード41へ次の信号値が入力される。中間層のノード42には、入力層のノード41からのデータと、t=1の時点において中間層のノード42が出力したデータとが入力される。中間層のノード42は演算を行い、出力層のノード43は、パルス波の有無を示す情報を出力する。次のt=3の時点では、入力層のノード41へ次の信号値が入力される。中間層のノード42には、入力層のノード41からのデータと、t=2の時点において中間層のノード42が出力したデータとが入力される。中間層のノード42は演算を行い、出力層のノード43は、パルス波の有無を示す情報を出力する。学習モデル231では、同様の処理が逐次的に継続される。
【0043】
このように、学習モデル231には逐次的に信号値が入力され、信号値が入力される都度、学習モデル231はパルス波の有無を示す情報を出力する。処理部23へ入力された信号を構成する信号値列に含まれる全ての信号値が、逐次的に学習モデル231へ入力されてもよい。又は、処理部23へ入力された信号を構成する信号値列に含まれる所定数の信号値毎に、一つの信号値が逐次的に学習モデル231へ入力されてもよい。学習モデル231は、入力された信号値を含む複数の信号値からなる信号値列が構成する信号にパルス波が含まれているか否かを判定するように予め学習されている。例えば、所定数の信号値が逐次的に学習モデル231へ入力され、パルス波を構成する信号値列中の最後の信号値が入力された場合に、学習モデル231は、当該所定数の信号値からなる信号値列が構成する信号にパルス波が含まれているか否かを示す情報を出力する。例えば、学習モデル231は、逐次的に入力された所定数の信号値がパルス波の立ち上がりを表す場合に、信号にパルス波が含まれていることを示す情報を出力してもよい。なお、学習モデル231は、LSTM(Long Short-Term Memory)を用いてもよい。
【0044】
学習モデル231の学習は、コンピュータを用いて行われる。
図6は、学習モデル231の学習を行う学習装置5の構成例を示すブロック図である。学習装置5は学習モデル生成方法を実行する。学習装置5は、サーバ装置等のコンピュータである。学習装置5は、演算部51と、メモリ52と、記憶部53と、表示部54と、操作部55とを備えている。演算部51は、例えばCPU(Central Processing Unit )、GPU(Graphics Processing Unit)、又はマルチコアCPUを用いて構成されている。演算部51は、量子コンピュータを用いて構成されていてもよい。メモリ52は、演算に伴って発生する一時的なデータを記憶する。メモリ52は、例えばRAM(Random Access Memory)である。記憶部53は、不揮発性であり、例えばハードディスクである。表示部54は、例えば液晶ディスプレイ又はELディスプレイ(Electroluminescent Display)である。操作部55は、使用者からの操作を受け付けることにより、テキスト等の情報の入力を受け付ける。操作部55は、例えばキーボード又はタッチパネルである。記憶部53は、コンピュータプログラム531を記憶している。演算部51は、コンピュータプログラム531に従って処理を実行する。
【0045】
図7は、学習モデル231を生成する処理の手順を示すフローチャートである。以下、ステップをSと略す。演算部51は、コンピュータプログラム531に従って以下の処理を実行する。演算部51は、パルス波を含みノイズを含んだ信号を夫々に構成する時系列的な複数の第1信号値列を生成する(S11)。S11では、演算部51は、シミュレーションによりパルス波及びノイズを生成し、パルス波にノイズを重畳した信号を構成する第1信号値列を生成する。演算部51は、ノイズとして、所定周波数のノイズ等、現実の放射線検出装置で発生するノイズに即したノイズを生成する。演算部51は、現実の放射線検出装置で実際に発生したノイズを利用してもよい。演算部51は、現実の放射線検出装置で実際に発生した信号からサンプリングすることによって、第1信号値列を生成してもよい。演算部51は、生成した複数の第1信号値列を含んだ第1信号値列データ532を記憶部53に記憶する。
【0046】
演算部51は、次に、パルス波を含んでおらずノイズを含んだ信号を夫々に構成する時系列的な複数の第2信号値列を生成する(S12)。S12では、演算部51は、シミュレーションによりノイズを生成し、ノイズを含んだ信号を構成する第2信号値列を生成する。演算部51は、ノイズとして、現実の放射線検出装置で発生するノイズに即したノイズを生成する。演算部51は、現実の放射線検出装置で実際に発生したノイズを利用してもよい。演算部51は、現実の放射線検出装置で実際に発生した信号からサンプリングすることによって、第2信号値列を生成してもよい。演算部51は、生成した複数の第2信号値列を含んだ第2信号値列データ533を記憶部53に記憶する。
【0047】
演算部51は、次に、第1信号値列及び第2信号値列に、パルス波の有無を示す情報を関連付ける(S13)。S13では、演算部51は、第1信号値列には、信号にパルス波が含まれていることを示す情報を関連付け、第2信号値列には、信号にパルス波が含まれていないことを示す情報を関連付ける。使用者が操作部55を操作することによって、パルス波の有無を示す情報が入力され、第1信号値列及び第2信号値列に関連付けて記憶部53に記憶され、演算部51は、第1信号値列及び第2信号値列に関連付けて記憶された情報を読み出すことによって、パルス波の有無を示す情報を第1信号値列及び第2信号値列に関連付けてもよい。S13では、使用者が操作部55を操作することによって、パルス波の有無を示す情報が第1信号値列及び第2信号値列に関連付けられてもよい。
【0048】
演算部51は、次に、第1信号値列データ532に含まれる複数の第1信号値列と、第1信号値列に関連付けた情報と、第2信号値列データ533に含まれる複数の第2信号値列と、第2信号値列に関連付けた情報とを訓練データとして、学習モデル231を生成するための処理を行う(S14)。S14では、演算部51は、複数の第1信号値列及び複数の第2信号値列に含まれる信号値を逐次的に学習モデル231の入力層へ入力する。入力層のノード41には、第1信号値列又は第2信号値列に含まれる信号値が逐次的に入力される。第1信号値列又は第2信号値列に含まれる信号値が逐次的に入力された後、学習モデル231によって、信号にパルス波が含まれているか否かを示す情報が出力層のノード43から出力される。演算部51は、第1信号値列又は第2信号値列に関連付けられた情報とノード43から出力された情報とを変数とする誤差関数により情報の誤差を計算し、誤差逆伝搬法によって誤差が最小となるように、学習モデル231のノード41、42及び43の演算のパラメータを調整する。即ち、第1信号値列に含まれる信号値が逐次的に入力されたときには信号にパルス波が含まれていることを示す情報がほぼ出力され、第2信号値列に含まれる信号値が逐次的に入力されたときには信号にパルス波が含まれていないことを示す情報がほぼ出力されるように、パラメータが調整される。
【0049】
演算部51は、複数の第1信号値列及び複数の第2信号値列を用いて処理を繰り返して、学習モデル231の各ノードのパラメータを調整することにより、学習モデル231の機械学習を行う。学習モデル231は、パルス波の立ち上がりに対応する信号値が入力された場合に、信号にパルス波が含まれていることを示す情報を出力するように学習されてもよい。学習モデル231は、パルス波が終了した後の信号値が入力された場合に、信号にパルス波が含まれていることを示す情報を出力するように学習されてもよい。学習モデル231は、パルス波の最中に対応する信号値が入力された場合に、信号にパルス波が含まれていることを示す情報を出力するように学習されてもよい。演算部51は、調整された最終的なパラメータを記録した学習済データ534を記憶部53に記憶する。このようにして、学習された学習モデル231が生成される。S14が終了した後、演算部51は処理を終了する。処理部23に含まれる学習モデル231は、学習済データ534に基づいて製造される。例えば、処理部23に含まれるFPGAに学習済データ534に記録されたパラメータが書き込まれることにより、学習モデル231が製造される。
【0050】
次に、信号処理装置2が実行する処理を説明する。
図8は、実施形態1に係る信号処理装置2が実行する処理の手順を示すフローチャートである。放射線検出素子11に放射線が入射した場合、放射線検出器1は、放射線のエネルギーに応じた階段波を生成し、階段波を含む信号を出力する。放射線を検出しない場合でも、放射線検出器1は信号を出力している。信号処理装置2は、放射線検出器1から信号が入力される(S21)。A/D変換部21は、入力された信号をA/D変換する(S22)。A/D変換部21は、A/D変換した信号を波形整形部22へ入力する。波形整形部22は、入力された信号の波形を整形する(S23)。波形整形により、波形整形部22は信号に含まれるノイズを低減し、信号に含まれる階段波をパルス波へ変換する。波形整形部22は、整形した信号を処理部23及び波高測定部24へ入力する(S24)。
【0051】
波形整形部22から入力される信号は、時系列的な信号値列で構成される。波高測定部24は、信号値をバッファメモリ241に順次記憶する。S21~S24の処理は個々に繰り返し実行され、信号値はバッファメモリ241に逐次記憶される。バッファメモリ241は、先入れ先出しメモリであり、逐次的に入力された複数の信号値を記憶する。バッファメモリ241が記憶する複数の信号値の量が上限に達している状態で新たな信号値が入力された場合、バッファメモリ241は、記憶している複数の信号値の中で最初に記憶した信号値を消去し、新たな信号値を記憶する。
【0052】
処理部23は、信号値列に含まれる信号値を学習モデル231へ逐次的に入力する(S25)。処理部23は、信号値列に含まれる所定数の信号値毎に一つの信号値を学習モデル231へ入力してもよい。信号値を入力された学習モデル231は、前述したように、再帰型ニューラルネットワークの演算を行い、信号値列が構成する信号にパルス波が含まれているか否かを示す情報を出力する(S26)。再帰型ニューラルネットワークの演算により、学習モデル231は、過去に入力された複数の信号値からなる信号値列が構成する信号にパルス波が含まれているか否かを判定することができる。
【0053】
信号にパルス波が含まれていることを示す情報を学習モデル231が出力した場合(S26:YES)、処理部23は、信号にパルス波が含まれていることを示す情報を波高測定部24へ入力する。波高測定部24は、信号にパルス波が含まれていることを示す情報を入力された場合に、パルス波が含まれている信号を構成する信号値列をバッファメモリ241から読み出す。例えば、波高測定部24は、情報を入力された時点から所定時間前に入力された信号値、又は最新の信号値から所定回数前に入力された信号値を含む所定数の信号値からなる信号値列を読み出す。所定時間又は所定回数は、処理部23で必要な処理時間に応じて予め定められている。又は、波高測定部24は、波高の測定に必要な信号値列がバッファメモリ241に記憶されるまで所定時間待機した後、信号値列を読み出してもよい。処理部23は、波高の測定に必要な信号値列がバッファメモリ241に記憶されるまで所定時間待機した後、信号にパルス波が含まれていることを示す情報を波高測定部24へ入力してもよい。波高測定部24は、読み出した信号値列が構成する信号に含まれるパルス波の波高を測定する(S27)。波高測定部24は、測定したパルス波の波高をカウント部25へ入力する。
【0054】
カウント部25は、波高測定部24から入力された波高別に、パルス波をカウントし(S28)、処理を終了する。信号にパルス波が含まれていないことを示す情報を学習モデル231が出力した場合は(S26:NO)、処理部23は、処理を終了する。処理部23は、信号にパルス波が含まれていないことを示す情報を波高測定部24へ入力してもよい。信号処理装置2は、S21~S28の処理を個々に繰り返し実行する。
【0055】
信号処理装置2は、パルス波の波高とカウント部25がカウントしたカウント数との関係を示すデータを出力する。分析部3は、信号処理装置2が出力したデータを入力され、データに基づいて、放射線検出器1が検出した放射線のスペクトルを生成する。分析部3は、生成したスペクトルに基づいた分析を行ってもよい。例えば、分析部3は、蛍光X線のスペクトルに基づいた元素分析を行う。
【0056】
以上詳述した如く、本実施形態においては、信号処理装置2は、学習モデル231を利用して、放射線検出器1からの信号中のパルス波の有無を判定する。これにより、信号処理装置2は、パルス波の有無を判定することができる。このため、従来の方法では検出できなかった小さい波高のパルス波を検出することができる。また、従来の方法ではかろうじて検出が可能であった小さい波高のパルス波について、確実に波高を測定することが可能となり、波高の測定精度が向上する。小さい波高のパルス波を検出することにより、放射線検出装置10は、エネルギーが低い放射線を検出し、この放射線をカウントすることができる。放射線検出装置10が蛍光X線を検出する場合は、元素分析により、蛍光X線のエネルギーが低い軽元素を検出することが可能となる。例えば、酸素よりも原子番号が小さい元素を検出することも可能となる。
【0057】
また、本実施形態においては、学習モデル231として再帰型ニューラルネットワークを用いている。これにより、処理部23は、信号に含まれる一つのパルス波に対して、一つのパルス波の有無に関する情報を出力する構成にすることが可能であるので、信号処理装置2の構成を簡素にすることができる。また、信号処理装置2は、再帰型ニューラルネットワークを用いることにより、波高に関する情報だけではなく、信号値列が構成する信号の波形に応じた情報を得ることも可能である。例えば、パルス波が誤ったエネルギーを有するエスケープピーク又はサムピークに対応するパルス波である可能性を取得することも可能である。信号の波形に応じた情報を得ることにより、放射線検出装置10は、放射線のスペクトルをより高精度に作成することができる。
【0058】
<実施形態2>
実施形態2においては、学習モデル231が階段波の有無を判定する形態を示す。階段波の有無は、ステップ状に信号値が上昇する部分が信号に含まれているか否かを意味する。
図9は、実施形態2に係る放射線検出装置10の機能構成を示すブロック図である。放射線検出器1及び分析部3の構成及び機能は、実施形態1と同様である。処理部23は、A/D変換部21に接続されている。A/D変換部21は、波形整形部22及び処理部23へ信号を入力する。波形整形部22は、波高測定部24へ信号を入力する。処理部23は、A/D変換部21から信号を入力され、信号に階段波が含まれているか否かを判定する処理を行う。処理部23は、階段波の有無を判定するための学習モデル231を含んでいる。例えば、学習モデル231は、FPGAを用いて構成されている。処理部23は、A/D変換部21から入力された信号に階段波が含まれている場合に、階段波が含まれていることを示す情報を出力する。
【0059】
A/D変換部21から処理部23へ入力される信号は、時系列的な信号値列で表される。実施形態2に係る学習モデル231は、信号を構成する信号値列に含まれる信号値を逐次的に入力された場合に、信号に階段波が含まれているか否かを示す情報を出力するように、予め学習されている。
【0060】
図10は、実施形態2に係る学習モデル231の機能構成例を示す概念図である。実施形態1と同様に、学習モデル231は、RNNを用いている。入力層のノード41へは、信号値が逐次的に入力される。中間層のノード42は、入力層のノード41からデータを受け付け、更に、以前の出力をフィードバックする。出力層のノード43は、中間層のノード42からデータを受け付け、受け付けたデータにパラメータを用いて演算し、階段波の有無を示す情報を出力する。例えば、ノード43は、階段波があることを示す情報として1の値を出力し、階段波が無いことを示す情報としてゼロの値を出力してもよい。ノード43は、信号に階段波が含まれている確率を出力してもよい。
【0061】
学習モデル231は、実施形態1と同様に、逐次的な処理を実行し、信号値が入力される都度、階段波の有無を示す情報を出力する。学習モデル231には、信号を構成する信号値列に含まれる全ての信号値が逐次的に入力されてもよく、複数の信号値毎に一つの信号値が逐次的に入力されてもよい。学習モデル231は、入力された信号値を含む複数の信号値からなる信号値列が構成する信号に階段波が含まれているか否かを判定するように予め学習されている。学習モデル231は、LSTMを用いてもよい。
【0062】
学習モデル231の学習は、実施形態1と同様に、学習装置5によって行われる。学習装置5は、S11~S14と同様の処理を実行する。S11では、学習装置5の演算部51は、階段波を含みノイズを含んだ信号を夫々に構成する時系列的な複数の第1信号値列を生成する。S12では、演算部51は、階段波を含んでおらずノイズを含んだ信号を夫々に構成する時系列的な複数の第2信号値列を生成する。S13では、演算部51は、第1信号値列には、信号に階段波が含まれていることを示す情報を関連付け、第2信号値列には、信号に階段波が含まれていないことを示す情報を関連付ける。S14では、演算部51は、第1信号値列に含まれる信号値が逐次的に入力されたときには信号に階段波が含まれていることを示す情報がほぼ出力され、第2信号値列に含まれる信号値が逐次的に入力されたときには信号に階段波が含まれていないことを示す情報がほぼ出力されるように、学習モデル231のパラメータを調整する。演算部51は、複数の第1信号値列及び複数の第2信号値列を用いて処理を繰り返して、学習モデル231の機械学習を行う。
【0063】
信号処理装置2は、S21~S28と同様の処理を実行する。S24では、波形整形部22は信号値を波高測定部24へ入力し、A/D変換部21は信号値を処理部23へ入力する。S25では、処理部23は信号値を学習モデル231へ入力し、学習モデル231は、信号値列が構成する信号に階段波が含まれているか否かを示す情報を出力する。S26では、信号に階段波が含まれていることを示す情報を学習モデル231が出力した場合に、処理部23は、信号に階段波が含まれていることを示す情報を波高測定部24へ入力する。
【0064】
S27では、波高測定部24は、信号に階段波が含まれていることを示す情報を入力された場合に、パルス波が含まれている信号を構成する信号値列をバッファメモリ241から読み出し、信号値列が構成する信号に含まれるパルス波の波高を測定する。信号処理装置2は、S21~S28の処理を個々に繰り返し実行する。信号処理装置2は、パルス波の波高とカウント数との関係を示すデータを出力し、分析部3は、信号処理装置2が出力したデータを入力され、放射線検出器1が検出した放射線のスペクトルを生成する。分析部3は、放射線のスペクトルに基づいて、放射線源の元素分析を行ってもよい。
【0065】
以上詳述した如く、実施形態2においては、信号処理装置2は、波形整形部22で整形する前の信号値を学習モデル231へ入力し、放射線検出器1からの信号中の階段波の有無を判定する。信号処理装置2は、階段波の有無を判定することができる。このため、小さい波高の階段波を検出することができる。小さい波高の階段波を検出することにより、放射線検出装置10は、エネルギーが低い放射線を検出し、この放射線をカウントすることができる。放射線検出装置10が蛍光X線を検出する場合は、元素分析により、蛍光X線のエネルギーが低い軽元素を検出することが可能となる。また、学習モデル231として再帰型ニューラルネットワークを用いることにより、処理部23は、信号に含まれる一つの階段波に対して、一つの階段波の有無に関する情報を出力する構成にすることが可能である。このため、信号処理装置2の構成を簡素にすることができる。
【0066】
なお、信号処理装置2は、波形整形部22を用いない形態であってもよい。この形態では、波高測定部24は、A/D変換部21から信号を受け付け、信号に階段波が含まれていることを示す情報を処理部23から入力された場合に、階段波の波高を測定する。カウント部25は、波高別に階段波をカウントする。階段波のカウントは、信号において信号値が上昇する部分の数をカウントすることを意味する。
【0067】
<実施形態3>
実施形態3においては、信号列がまとめて学習モデルへ入力される形態を示す。
図11は、実施形態3に係る放射線検出装置10の機能構成を示すブロック図である。放射線検出器1及び分析部3の構成及び機能は、実施形態1と同様である。A/D変換部21、波形整形部22、波高測定部24及びカウント部25の構成及び機能は、実施形態1と同様である。処理部23は、パルス波の有無を判定するための学習モデル231と、バッファメモリ232とを含んでいる。例えば、学習モデル231は、FPGAを用いて構成されている。バッファメモリ232は、先入れ先出しメモリであり、順次的に入力された複数の信号値を記憶する。バッファメモリ232が記憶する複数の信号値の量が上限に達している状態で新たな信号値が入力された場合、バッファメモリ232は、記憶している複数の信号値の中で最初に記憶した信号値を消去し、新たな信号値を記憶する。
【0068】
処理部23は、波形整形部22から信号を入力され、信号にパルス波が含まれているか否かを判定する処理を行う。入力される信号は、時系列的な信号値列で表される。処理部23は、入力された信号を構成する信号値列に含まれる複数の信号値をバッファメモリ232に記憶する。処理部23は、バッファメモリ232に記憶した複数の信号値からなる信号値列をまとめて学習モデル231へ入力する。実施形態3に係る学習モデル231は、信号値列をまとめて入力された場合に、入力された信号値列が構成する信号にパルス波が含まれているか否かを示す情報を出力するように、予め学習されている。
【0069】
図12は、実施形態3に係る学習モデル231の機能構成例を示す概念図である。学習モデル231は、夫々に複数のノードを有する入力層、複数の中間層及び出力層を備えた全結合のニューラルネットワークを用いる。入力層は、信号値列に含まれる複数の信号値が入力される複数のノード41を有する。信号値列中の一つの信号値が一つのノード41へ入力され、夫々の信号値がいずれかのノード41へ入力される。例えば、入力層にはm個のノード41が含まれており、m個の信号値が入力層へ入力される。即ち、入力層に含まれる複数のノード41へ、信号値列に含まれる複数の信号値が並行的に入力される。このようにして、複数の信号値からなる信号値列がまとめて学習モデル231へ入力される。
【0070】
学習モデル231はn(nは自然数)個の中間層を有している。第1の中間層は、複数のノード421を有する。入力層の夫々のノード41は、複数のノード421へデータを出力する。複数のノード421は、入力層のノード41からデータを受け付け、パラメータを用いて演算し、第2の中間層に含まれる複数のノード422へ演算結果のデータを出力する。各中間層に含まれるノードは、前の中間層の複数のノードからデータを受け付け、受け付けたデータにパラメータを用いて演算し、後の中間層のノードへデータを出力する。例えば、ノードは、前の層の各ノードから受け付けたデータの値をx、各ノードに対応する重みをw、バイアス値をb、活性化関数をf()として、f(Σ(w*x)+b)の演算を行い、演算結果のデータを後の層の複数のノードへ出力する。活性化関数は、例えば、relu関数又はシグモイド関数である。活性化関数は、一般的に機械学習で用いられるその他の関数であってもよい。
【0071】
学習モデル231の出力層は、単一のノード43を有する。第nの中間層に含まれる複数のノード42nは、出力層に含まれるノード43へデータを出力する。出力層のノード43は、複数のノード42nからデータを受け付け、受け付けたデータにパラメータを用いて演算し、パルス波の有無を示す情報を出力する。例えば、ノード43での活性化関数は、(Σ(w*x)+b)の演算結果が正の値であるか否かを示すデータを出力する関数である。例えば、ノード43は、正の値を示すデータとして1の値を出力し、ゼロ以下の値を示すデータとしてゼロの値を出力してもよい。例えば、正の値を示すデータは、パルス波があることを示す情報であり、ゼロ以下の値を示すデータは、パルス波が無いことを示す情報である。ノード43は、信号にパルス波が含まれている確率を出力してもよい。学習モデル231は、単一の中間層を有するニューラルネットワークであってもよい。学習モデル231は、ニューラルネットワークとして、畳みこみニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)を用いてもよく、RCNN(Regions with Convolutional Neural Networks)又はセグメンテーションネットワークを利用してもよい。
【0072】
学習モデル231の学習は、実施形態1と同様に、学習装置5によって行われる。学習装置5は、S11~S14と同様の処理を実行する。S11では、学習装置5の演算部51は、パルス波を含みノイズを含んだ信号を夫々に構成する時系列的な複数の第1信号値列を生成する。S11では、演算部51は、信号値が所定範囲に含まれるように、第1信号値列を正規化する。正規化を行うことにより、様々な大きさのパルス波を扱う必要が無くなる。S12では、演算部51は、パルス波を含んでおらずノイズを含んだ信号を夫々に構成する時系列的な複数の第2信号値列を生成する。S13では、演算部51は、第1信号値列には、信号にパルス波が含まれていることを示す情報を関連付け、第2信号値列には、信号にパルス波が含まれていないことを示す情報を関連付ける。S14では、演算部51は、第1信号値列がまとめて入力されたときには信号に階段波が含まれていることを示す情報がほぼ出力され、第2信号値列に含まれる信号値がまとめて入力されたときには信号に階段波が含まれていないことを示す情報がほぼ出力されるように、学習モデル231のパラメータを調整する。演算部51は、複数の第1信号値列及び複数の第2信号値列を用いて処理を繰り返して、学習モデル231の機械学習を行う。
【0073】
演算部51は、調整された最終的なパラメータを記録した学習済データ534を記憶部53に記憶する。このようにして、学習された学習モデル231が生成される。処理部23に含まれる学習モデル231は、学習済データ534に基づいて製造される。例えば、処理部23に含まれるFPGAに学習済データ534に記録されたパラメータが書き込まれることにより、学習モデル231が製造される。
【0074】
信号処理装置2は、S21~S28と同様の処理を実行する。S24では、波形整形部22は信号値を処理部23及び波高測定部24へ入力する。処理部23は信号値をバッファメモリ232に順次記憶し、波高測定部24は、信号値をバッファメモリ241に順次記憶する。S21~S24の処理は個々に繰り返し実行され、信号値はバッファメモリ232及び241に逐次記憶される。
【0075】
S25では、処理部23は、複数の信号値からなる信号値列をまとめて学習モデル231へ入力する。この際、処理部23は、信号値が所定範囲に含まれるように、信号値列を正規化した上で学習モデル231へ入力する。例えば、処理部23は、信号値列中の最大値で各信号値を除することによって、正規化を行う。信号値列を正規化することによって、パルス波の大きさが均一化する。どのような大きさのパルス波であっても、正規化により、学習モデル231を用いた同様の処理によって検出が可能である。どのようなパルス波でも同様の処理により検出が可能であるので、パルス波の検出精度が安定する。学習モデル231を学習する際には、様々な大きさのパルス波を検出できるように学習を行う必要が無い。このため、学習モデル231が簡略化し、学習モデル231の学習が簡便化する。処理部23は、信号値列に含まれる信号値を間引いた上で学習モデル231へ入力してもよい。S25の処理が繰り返される際には、処理部23は、S25の処理の都度、全ての信号値が異なる信号値列を学習モデル231へ入力してもよく、一部の信号値が重複した信号値列を入力してもよい。
【0076】
S26では、信号値列を入力された学習モデル231は、前述したように、ニューラルネットワークの演算を行い、信号値列が構成する信号にパルス波が含まれているか否かを示す情報を出力する。ニューラルネットワークの演算により、学習モデル231は、まとめて入力された複数の信号値からなる信号値列が構成する信号にパルス波が含まれているか否かを判定することができる。信号にパルス波が含まれていることを示す情報を学習モデル231が出力した場合、処理部23は、信号にパルス波が含まれていることを示す情報を波高測定部24へ入力する。
【0077】
S27では、波高測定部24は、信号にパルス波が含まれていることを示す情報を入力された場合に、パルス波が含まれている信号を構成する信号値列をバッファメモリ241から読み出す。例えば、波高測定部24は、S25で学習モデル231へ入力された信号値列と同等の信号値列をバッファメモリ241から読み出す。例えば、波高測定部24は、情報を入力された時点から所定時間前に入力された信号値列、又は最新の信号値から所定回数前に入力された信号値を含む複数の信号値からなる信号値列を読み出す。所定時間又は所定回数は、処理部23で必要な処理時間に応じて予め定められている。パルス波の波高を正確に測定するために、波高測定部24は、S25で学習モデル231へ入力された信号値列と完全には一致しない信号値列を読出してもよい。波高測定部24は、読み出した信号値列が構成する信号に含まれるパルス波の波高を測定する。
【0078】
信号処理装置2は、S21~S28の処理を個々に繰り返し実行する。信号処理装置2は、パルス波の波高とカウント数との関係を示すデータを出力し、分析部3は、信号処理装置2が出力したデータを入力され、放射線検出器1が検出した放射線のスペクトルを生成する。分析部3は、放射線のスペクトルに基づいて、放射線源の元素分析を行ってもよい。
【0079】
学習モデル231へ入力される信号値列は、信号がパルス波を表現するために十分な数の信号値を含んでいることが望ましい。例えば、信号値列に含まれる信号値の数は、信号値の時間間隔の合計がパルス波の幅を超過するような数である。ノイズを含む信号に含まれる波高の小さいパルス波を効果的に検出するためには、信号値列が構成する信号の時間の長さがパルス波の幅に比べて十分に大きい必要がある。このため、より具体的には、学習モデル231へ入力される信号値列に含まれる信号値の時間間隔の合計は、パルス波の幅の数倍以上であることが望ましい。
【0080】
信号値列が構成する信号の時間の長さがパルス波の幅に比べて十分に大きいので、信号値列が構成する信号の中でのパルス波の位置は、様々である。例えば、信号の中央付近にパルス波が位置する場合があり、信号の開始直後の位置にパルス波がある場合があり、信号の終了直前の位置にパルス波がある場合がある。学習装置5は、S13では、第1信号値列が構成する信号の中での所定の範囲にパルス波が位置している場合に、当該第1信号値列に、信号にパルス波が含まれていることを示す情報を関連付けることが望ましい。学習装置5は、信号値列が構成する信号の中での所定の範囲以外の位置にパルス波がある場合に、当該信号値列を第2信号値列として、当該第2信号値列に、信号にパルス波が含まれていないことを示す情報を関連付けることが望ましい。例えば、信号の中央付近にパルス波が位置する場合に信号値列を第1信号値列とし、信号の中央付近から外れた位置にパルス波がある場合に信号値列を第2信号値列とする。
【0081】
このようにして学習モデル231が学習されることによって、学習モデル231へ入力される信号値列が構成する信号の中での所定の範囲に位置しているパルス波が検出される。信号の中で所定の範囲以外の位置に位置しているパルス波は、検出されない。学習モデル231へ信号値列が複数回入力される際に、複数の信号値列が構成する信号の中に同一のパルス波が位置を変えながら含まれている場合であっても、同一のパルス波が重複して検出されることが防止される。
【0082】
以上詳述した如く、実施形態3においても、信号処理装置2は、学習モデル231を利用することにより、放射線検出器1からの信号中のパルス波の有無を判定する。これにより、信号処理装置2は、小さい波高のパルス波を検出し、エネルギーが低い放射線を検出し、この放射線をカウントすることができる。放射線検出装置10が蛍光X線を検出する場合は、元素分析により、蛍光X線のエネルギーが低い軽元素を検出することが可能となる。
【0083】
なお、処理部23は、
図11に破線で示すように、A/D変換部21から信号を入力され、学習モデル231を利用して信号中の階段波の有無を判定する形態であってもよい。この形態では、学習モデル231は、A/D変換部21からの信号を構成する信号値列をまとめて入力され、入力された信号値列が構成する信号に階段波が含まれているか否かを示す情報を出力する。波高測定部24は、信号に階段波が含まれていることを示す情報を処理部23から入力された場合に、階段波又はパルス波の波高を測定する。
【0084】
又は、処理部23は、A/D変換部21及び波形整形部22から信号を入力され、学習モデル231を利用してパルス波の有無を判定する形態であってもよい。この形態では、学習モデル231は、A/D変換部21からの信号を構成する信号値列、及び波形整形部22からの信号を構成する信号値列をまとめて入力され、波形整形部22からの信号中のパルス波の有無を示す情報を出力するように学習されている。波高測定部24は、信号にパルス波が含まれていることを示す情報を処理部23から入力された場合に、パルス波の波高を測定する。
【0085】
<実施形態4>
実施形態4においては、学習モデル231が階段波の波高を判定する形態を示す。
図13は、実施形態4に係る放射線検出装置10の機能構成を示すブロック図である。放射線検出器1及び分析部3の構成及び機能は、実施形態1と同様である。信号処理装置2は、A/D変換部21と、処理部23と、カウント部25とを備える。A/D変換部21は、階段波を含む信号を処理部23へ入力する。処理部23は、A/D変換部21から入力された信号に含まれている階段波の波高を判定し、波高をカウント部25へ入力する。
【0086】
図14は、実施形態4に係る学習モデル231の機能構成の第1例を示す概念図である。実施形態1又は2と同様に、学習モデル231は、RNNを用いている。入力層のノード41へは、信号値が逐次的に入力される。中間層のノード42は、入力層のノード41からデータを受け付け、更に、以前の出力をフィードバックする。出力層のノード43は、中間層のノード42からデータを受け付け、受け付けたデータにパラメータを用いて演算し、階段波の波高を出力する。例えば、ノード43は、信号に階段波が含まれていない場合は、波高としてゼロの値を出力し、信号に階段波が含まれている場合は、波高の値を出力する。
【0087】
学習モデル231は、実施形態1又は2と同様に、逐次的な処理を実行し、信号値が入力される都度、階段波の波高を出力する。学習モデル231には、信号を構成する信号値列に含まれる全ての信号値が逐次的に入力されてもよく、複数の信号値毎に一つの信号値が逐次的に入力されてもよい。学習モデル231は、入力された信号値を含む複数の信号値からなる信号値列が構成する信号に含まれる階段波の波高を出力するように予め学習されている。学習モデル231は、LSTMを用いてもよい。
【0088】
学習モデル231の学習は、実施形態1又は2と同様に、学習装置5によって行われる。学習装置5は、S11~S14と同様の処理を実行する。S11では、学習装置5の演算部51は、階段波を含みノイズを含んだ信号を夫々に構成する時系列的な複数の第1信号値列を生成する。S12では、演算部51は、階段波を含んでおらずノイズを含んだ信号を夫々に構成する時系列的な複数の第2信号値列を生成する。S13では、演算部51は、第1信号値列には、階段波の波高を関連付け、第2信号値列には、波高としてゼロを関連付ける。S14では、演算部51は、第1信号値列に含まれる信号値が逐次的に入力されたときには階段波の波高がほぼ出力され、第2信号値列に含まれる信号値が逐次的に入力されたときには波高としてゼロの値がほぼ出力されるように、学習モデル231のパラメータを調整する。演算部51は、複数の第1信号値列及び複数の第2信号値列を用いて処理を繰り返して、学習モデル231の機械学習を行う。
【0089】
学習モデル231は、複数の信号値からなる信号値列をまとめて入力される形態であってもよい。
図15は、実施形態4に係る学習モデル231の機能構成の第2例を示す概念図である。学習モデル231は、実施形態3と同様に、全結合のニューラルネットワークを用いる。入力層は、信号値列に含まれる複数の信号値が入力される複数のノード41を有する。学習モデル231はn個の中間層を有している。第1の中間層に含まれる複数のノード421は、入力層のノード41からデータを受け付け、パラメータを用いて演算し、第2の中間層に含まれる複数のノード422へ演算結果のデータを出力する。各中間層に含まれるノードは、前の中間層の複数のノードからデータを受け付け、受け付けたデータにパラメータを用いて演算し、後の中間層のノードへデータを出力する。学習モデル231の出力層は、単一のノード43を有する。出力層のノード43は、複数のノード42nからデータを受け付け、受け付けたデータにパラメータを用いて演算し、波高を出力する。学習モデル231は、複数の信号値からなる信号値列をまとめて入力された場合に、信号値列が構成する信号に含まれる階段波の波高を出力するように予め学習されている。学習モデル231は、単一の中間層を有するニューラルネットワークであってもよい。学習モデル231は、ニューラルネットワークとしてCNNを用いてもよく、RCNN又はセグメンテーションネットワークを利用してもよい。
【0090】
学習モデル231の学習は、実施形態3と同様に、学習装置5によって行われる。学習装置5は、S11~S14と同様の処理を実行する。S11では、学習装置5の演算部51は、階段波及びノイズを含んだ信号を構成する第1信号値列を生成する。S12では、演算部51は、階段波を含んでおらずノイズを含んだ信号を構成する第2信号値列を生成する。S13では、演算部51は、第1信号値列には、階段波の波高を関連付け、第2信号値列には、波高としてゼロを関連付ける。S14では、演算部51は、第1信号値列が入力されたときには階段波の波高がほぼ出力され、第2信号値列が入力されたときには波高としてゼロの値がほぼ出力されるように、学習モデル231のパラメータを調整する。演算部51は、複数の第1信号値列及び複数の第2信号値列を用いて処理を繰り返して、学習モデル231の機械学習を行う。
【0091】
学習モデル231は、波高が夫々の値である確率を出力する形態であってもよい。
図16は、実施形態4に係る学習モデル231の機能構成の第3例を示す概念図である。入力層は、信号値列に含まれる複数の信号値が入力される複数のノード41を有する。学習モデル231はn個の中間層を有している。学習モデル231の出力層は、複数のノード43を有する。夫々のノード43は、複数のノード42nからデータを受け付け、受け付けたデータにパラメータを用いて演算する。一のノード43は、階段波の波高がゼロである確率を出力する。他の夫々のノード43は、波高がa1、a2、…の夫々の値である確率を出力する。ノード43は、確率を0~1の実数で出力してもよく、0又は1の二値で出力してもよい。学習モデル231は、複数の信号値からなる信号値列をまとめて入力された場合に、階段波の波高と同じ値について出力される確率が最大になるように、予め学習されている。学習モデル231は、単一の中間層を有するニューラルネットワークであってもよい。学習モデル231は、ニューラルネットワークとしてCNNを用いてもよく、RCNN又はセグメンテーションネットワークを利用してもよい。
【0092】
学習モデル231の学習は、実施形態3と同様に、学習装置5によって行われる。学習装置5は、S11~S14と同様の処理を実行する。S11では、学習装置5の演算部51は、階段波及びノイズを含んだ信号を構成する第1信号値列を生成する。S12では、演算部51は、階段波を含んでおらずノイズを含んだ信号を構成する第2信号値列を生成する。S13では、演算部51は、第1信号値列には、階段波の波高に対応する確率を最大にした情報を関連付け、第2信号値列には、波高がゼロである確率を最大とした情報を関連付ける。S14では、演算部51は、第1信号値列が入力されたときには、第1信号値列が構成する信号に含まれる階段波の波高と同じ値について出力される確率が最大となり、第2信号値列が入力されたときには波高がゼロである確率が最大となるように、学習モデル231のパラメータを調整する。演算部51は、複数の第1信号値列及び複数の第2信号値列を用いて処理を繰り返して、学習モデル231の機械学習を行う。
【0093】
図17は、実施形態4に係る信号処理装置2が実行する処理の手順を示すフローチャートである。信号処理装置2は、放射線検出器1から信号が入力され(S31)、A/D変換部21は、信号をA/D変換する(S32)。A/D変換部21は、A/D変換した信号を処理部23へ入力する。
【0094】
処理部23は、入力された信号を構成する信号値を学習モデル231へ入力する(S33)。S33では、処理部23は、学習モデル231へ、信号値を逐次的に入力するか、又は複数の信号値からなる信号値列をまとめて入力する。学習モデル231は、前述したように、ニューラルネットワークの演算を行い、信号に含まれる階段波の波高を出力するか、又は波高が夫々の値である確率を出力する。処理部23は、学習モデル231が出力した波高の値をカウント部25へ入力するか、又は、学習モデル231が出力した確率が最大である波高の値をカウント部25へ入力する。処理部23は、波高がゼロの場合はカウント部25へ波高を入力しなくてもよい。
【0095】
カウント部25は、入力された情報に基づいて、波高を特定する(S34)。波高がゼロである場合は(S34:YES)、カウント部25はカウントを行わず、信号処理装置2は処理を終了する。波高がゼロでない場合は(S34:NO)、カウント部25は、波高別に階段波をカウントし(S35)、処理を終了する。信号処理装置2は、S31~S35の処理を個々に繰り返し実行する。信号処理装置2は、階段波の波高とカウント数との関係を示すデータを出力し、分析部3は、信号処理装置2が出力したデータを入力され、放射線検出器1が検出した放射線のスペクトルを生成する。分析部3は、放射線のスペクトルに基づいて、放射線源の元素分析を行ってもよい。
【0096】
以上詳述した如く、実施形態4においては、信号処理装置2は、学習モデル231を利用することにより、放射線検出器1からの信号中の階段波の波高を測定する。これにより、信号処理装置2は、小さい波高の階段波を検出し、エネルギーが低い放射線を検出し、この放射線をカウントすることができる。放射線検出装置10が蛍光X線を検出する場合は、元素分析により、蛍光X線のエネルギーが低い軽元素を検出することが可能となる。学習モデル231として再帰型ニューラルネットワークを用いる場合は、処理部23は、信号に含まれる一つの階段波に対して、一つの階段波の波高に関する情報を出力する構成にすることが可能である。このため、信号処理装置2の構成を簡素にすることができる。
【0097】
<実施形態5>
図18は、実施形態5に係る処理部23の機能構成を示すブロック図である。処理部23は、演算部233及びメモリ234を有する。演算部233は、例えばCPU、GPU、又はマルチコアCPUを用いて構成されている。演算部233は、量子コンピュータを用いて構成されていてもよい。メモリ234は、不揮発性のメモリである。メモリ234は、コンピュータプログラム235を記憶している。コンピュータプログラム235は、図示しない記録装置により、コンピュータプログラム235を記憶する光ディスク等の記録媒体230から読み出され、メモリ234に書き込まれることによって、メモリ234に記憶される。演算部233は、コンピュータプログラム235に従って処理部23に必要な処理を実行する。学習モデル231は、コンピュータプログラム235に従って演算部233が情報処理を実行することにより実現される。
【0098】
演算部233は、コンピュータプログラム235に従って情報処理を実行することにより、実施形態1~4における処理部23に必要な処理を実行する。このようにして、実施形態1~4における処理部23が実現される。放射線検出器1及び分析部3の構成及び機能は、実施形態1~4と同様である。信号処理装置2の処理部23以外の部分の構成及び機能は、実施形態1~4と同様である。信号処理装置2及び放射線検出装置10は、実施形態1~4と同様の処理を実行する。
【0099】
実施形態5においても、信号処理装置2は、学習モデル231を利用することにより、放射線検出器1からの信号中の階段波又はパルス波の波高を測定する。これにより、信号処理装置2は、小さい波高のパルス波を検出し、エネルギーが低い放射線を検出し、この放射線をカウントすることができる。放射線検出装置10が蛍光X線を検出する場合は、元素分析により、蛍光X線のエネルギーが低い軽元素を検出することが可能となる。信号処理装置2の処理部23以外の部分の一部又は全部も、コンピュータプログラムを用いて実現されてもよい。
【0100】
なお、実施形態1~5においては、階段波又はパルス波の波高を取得するための処理を全て信号処理装置2の内部で行う形態を示したが、信号処理装置2は、処理の一部を信号処理装置2の外部のクラウドで実行させる形態であってもよい。例えば、信号処理装置2は、学習モデル231を利用する処理をクラウドで実行させる形態であってもよい。又は、信号処理装置2は、従来の方法と学習モデル231を用いる方法との両方を利用する形態であってもよい。例えば、信号処理装置2は、波高の大きい階段波又はパルス波については従来の方法で波高を取得し、波高の小さい階段波又はパルス波については学習モデル231を用いる方法で波高を取得する形態であってもよい。
【0101】
<実施形態6>
図19は、実施形態6に係る放射線検出装置10の機能構成を示すブロック図である。放射線検出器1及び信号処理装置2の構成及び機能は、実施形態1~5の何れかと同様である。分析部3は、表示部31と操作部32とを備える。表示部31は、例えば液晶ディスプレイ又はELディスプレイ(Electroluminescent Display)である。操作部32は、使用者からの操作を受け付ける。分析部3は、放射線検出器1が検出した放射線のスペクトルを表示部31に表示する。
【0102】
図20は、表示部31が表示するスペクトルの第1の例を示す模式図である。横軸は放射線のエネルギーを示し、縦軸は、各エネルギーの放射線のカウント数を示す。放射線のエネルギーは、階段波又はパルス波の波高に対応する。
図20に示すように、分析部3は、スペクトルに含まれる複数のエネルギー範囲について、学習モデル231を用いて階段波若しくはパルス波の有無又は波高を判定した際の信頼度を表示部31に表示する。分析部3は、学習モデル231の出力を取得し、学習モデル231の出力に応じて信頼度を特定する。例えば、分析部3は、各範囲に対応する波高の階段波又はパルス波について、学習モデル231から得られる信頼度の平均を計算し、計算した信頼度の平均を表示してもよい。
【0103】
一般的に、波高が小さいほど階段波又はパルス波の検出が困難であるので、放射線のエネルギーが低いほど信頼度は低下する傾向がある。信頼度が表示されることによって、使用者は、スペクトルに含まれる各ピーク、及び各ピークに対する元素の存在について、信頼度を知ることができる。信頼度の低いエネルギーの放射線については、必要に応じて測定を繰り返すことにより、より確実な元素分析を行うことが可能となる。
【0104】
図21A、
図21B及び
図21Cは、表示部31が表示するスペクトルの第2の例を示す模式図である。横軸は放射線のエネルギーを示し、縦軸は、各エネルギーの放射線のカウント数を示す。分析部3は、スペクトルに加えて、信頼度を指定するためのスライドバーを表示する。使用者は、操作部32を操作することにより、スライドバーを用いて信頼度を指定することができる。分析部3は、指定された信頼度以上の信頼度を有する階段波又はパルス波から生成されるスペクトルを表示部31に表示する。
図21Aは、信頼度が0.8以上である階段波又はパルス波から生成されたスペクトルの例を示す。
図21Bは、信頼度が0.7以上である階段波又はパルス波から生成されたスペクトルの例を示す。
図21Cは、信頼度が0.9以上である階段波又はパルス波から生成されたスペクトルの例を示す。
【0105】
信頼度が低くなるほど、スペクトル中のピークの強度は増大し、ピークの幅も増大する。信頼度が高くなるほど、ピークの強度は減少し、ピークの幅は減少し、ピークはよりシャープになる。信頼度を上昇させることにより、信頼度の高いスペクトルに基づいて元素分析の精度を向上させることができる。信頼度を低下させることにより、ピークの強度が増大するので、放射線の計数率が向上する。使用者は、信頼度を変更しながらスペクトルを確認し、用途に合わせて信頼度を調整することができる。例えば、蛍光X線スペクトル中でのピーク間の距離が離れている物質の元素分析を行う際には、信頼度は低下させてもよい。物質中の異物の有無を検査する際には、定量性を犠牲にしてでも、計数率を向上させて検査の時間を短縮するために、信頼度を低下させることがあり得る。蛍光X線スペクトル中でのピーク間の距離が短い物質の元素分析を行う際には、ピークを分離できるように、信頼度を高くする必要がある。
【0106】
図22は、表示部31が表示するスペクトルの第3の例を示す模式図である。横軸は放射線のエネルギーを示し、縦軸は各エネルギーの放射線のカウント数を示す。分析部3は、夫々のピークについて信頼度を数値で表示する。
図23は、表示部31が表示するスペクトルの第4の例を示す模式図である。横軸は放射線のエネルギーを示し、縦軸は各エネルギーの放射線のカウント数を示す。分析部3は、信頼度の低いピークについて警告を表示する。
図23に示す例では、分析部3は、信頼性が低くエスケープピーク又はサムピークである可能性があるピークについて、エスケープピーク又はサムピークの可能性があることを示す警告を表示する。
【0107】
信頼度は、検出された階段波又はパルス波の状態に応じて決定される。例えば、分析部3は、検出した階段波又はパルス波の幅が過去の階段波又はパルス波の幅に比べて長い場合に、信頼度を低下させる処理を行う。例えば、分析部3は、階段波又はパルス波の波高が過去に頻繁に検出された階段波又はパルス波の波高と等しい場合に、信頼度を低下させる処理を行う。この場合は、階段波又はパルス波はサムピークに対応する可能性がある。例えば、分析部3は、階段波又はパルス波の波高が過去に頻繁に検出された階段波又はパルス波の波高から所定値を減算した値になっている場合に、信頼度を低下させる処理を行う。この場合は、階段波又はパルス波はエスケープピークに対応する可能性がある。例えば、学習モデル231は、信号に階段波若しくはパルス波が含まれている確率、又は波高が夫々の値である確率を出力し、分析部3は、学習モデル231が出力した確率を信頼度として使用してもよい。
【0108】
図20~
図23に示す信頼度の表示方法は例であり、表示方法はこれらに限るものではない。例えば、分析部3は、信頼度別にエネルギー範囲又はピークの色を変更してもよい。例えば、分析部3は、特定範囲の信頼度を有するエネルギー範囲又はピークのみを表示してもよく、信頼度の異なる複数のスペクトルを並べて表示してもよい。
【0109】
なお、実施形態1~6においては、ノイズを含んだ信号を構成する第1信号値列及び第2信号値列を用いる形態を示したが、第1信号値列及び第2信号値列は、ノイズを含まない信号を構成する信号値列であってもよい。学習装置5は、S11では、階段波又はパルス波を含みノイズを含んでいない第1信号値列を生成し、S12では、階段波及びパルス波のいずれをも含んでおらず、ノイズも含んでいない信号を構成する第2信号値列を生成する。学習装置5は、ノイズを含んだ信号を構成する第1信号値列及び第2信号値列と、ノイズを含まない信号を構成する第1信号値列及び第2信号値列との両方を訓練データとして利用してもよい。又は、学習装置5は、ノイズを含んだ信号を構成する第1信号値列とノイズを含まない信号を構成する第2信号値列とを利用してもよく、ノイズを含まない信号を構成する第1信号値列とノイズを含んだ信号を構成する第2信号値列とを利用してもよい。
【0110】
実施形態1~6においては、学習モデル231を用いた処理のみによって階段波又はパルス波を検出する形態を示したが、信号処理装置2は、学習モデル231を用いた処理と閾値を利用した処理とを併用する形態であってもよい。例えば、信号処理装置2は、波高の高い階段波又はパルス波については閾値を利用した処理によって検出し、波高の低い階段波又はパルス波については学習モデル231を用いた処理によって検出する形態であってもよい。
【0111】
本発明は上述した実施の形態の内容に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。即ち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0112】
1 放射線検出器
10 放射線検出装置
11 放射線検出素子
2 信号処理装置
21 A/D変換部
22 波形整形部
23 処理部
231 学習モデル
235 コンピュータプログラム
24 波高測定部
25 カウント部
3 分析部
5 学習装置