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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】積層圧電シート
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/857 20230101AFI20240820BHJP
   H10N 30/30 20230101ALI20240820BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20240820BHJP
   H04R 17/02 20060101ALI20240820BHJP
   H02N 11/00 20060101ALI20240820BHJP
   H01G 7/02 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
H10N30/857
H10N30/30
B32B7/025
H04R17/02
H02N11/00 Z
H01G7/02 A
H01G7/02 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019226647
(22)【出願日】2019-12-16
(65)【公開番号】P2021097107
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕人
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 至
【審査官】宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/056819(WO,A1)
【文献】特開2017-055114(JP,A)
【文献】特開2014-239647(JP,A)
【文献】特開2018-191394(JP,A)
【文献】特開2010-089495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/857
H10N 30/30
B32B 7/025
H04R 17/02
H02N 11/00
H01G 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔エレクトレットフィルム、電極、及び保護フィルムがこの順に少なくとも設けられる積層構造を有し、
前記多孔エレクトレットフィルムがポリプロピレン系樹脂を主成分として含み、かつβ晶核剤を含むものであって、
前記多孔エレクトレットフィルムと前記電極の間に接着層が介在せず、かつ、前記保護フィルムと前記電極の間に接着層が介在し、前記電極は前記多孔エレクトレットフィルムと接着していない、積層圧電シート。
【請求項2】
記ポリプロピレン系樹脂が80%以上のβ晶生成能を有する請求項1に記載の積層圧電シート。
【請求項3】
前記多孔エレクトレットフィルムの厚さが10μm以上200μm以下である請求項1又は2に記載の積層圧電シート。
【請求項4】
前記保護フィルムの端部が融着され、袋状になり内部を密閉する請求項1~のいずれか1項に記載の積層圧電シート。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の積層圧電シートを備えるセンサーデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層圧電シートに関し、特に振動発電、水位計、音響検出器、マットセンサー、ロボットハンドなどのセンサー等に好適に用いることができる積層圧電シートに関する。
【背景技術】
【0002】
多孔性樹脂フィルムを用いた多孔エレクトレットは、優れた圧電効果を示すことが知られており、振動発電、センサーデバイス等に広く用いられている。
しかし、多孔エレクトレットフィルムは、デバイスに組み込むための電極を形成する際に圧電特性を大きく減退させてしまう問題点があった。
また、多孔エレクトレットは湿度に弱く、水分によって帯電が失われると圧電特性が劇的に低下してしまう問題点もあった。
これら問題点に対し、多孔エレクトレットフィルムの表面にエンボス加工を施し、電極との接点を工夫することで高い圧電特性を達成できることが報告されている(特許文献1)。
また、特殊なフッ素樹脂を用いることでエレクトレットの耐湿性を向上できることも報告されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-214932号公報
【文献】国際公開2013-157505A1号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記した特許文献1、2に記載の多孔エレクトレットは、製造工程が煩雑であり、また、特殊なフッ素樹脂を使用するため環境負荷が大きく、量産性の面で課題がある。
そこで、本発明は、量産化を可能にしつつ、耐水性に優れ、かつ良好な圧電特性を有する積層圧電シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を重ねた結果、かかる課題を解決することに着目し本発明を完成するに至った。本発明は、その一態様において以下の[1]~[6]を要旨とする。
[1]多孔エレクトレットフィルム、電極、及び保護フィルムをこの順に少なくとも設けられる積層構造を有し、
前記多孔エレクトレットフィルムと前記電極の間に接着層が介在せず、かつ、前記保護フィルムと前記電極の間に接着層が介在する積層圧電シート。
[2]前記多孔エレクトレットフィルムがポリオレフィン系樹脂を主成分として含有する上記[1]に記載の積層圧電シート。
[3]前記多孔エレクトレットフィルムがポリプロピレン系樹脂を主成分として含み、かつ前記ポリプロピレン系樹脂が80%以上のβ晶生成能を有する上記[1]又は[2]に記載の積層圧電シート。
[4]前記多孔エレクトレットフィルムの厚さが10μm以上200μm以下である上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の積層圧電シート。
[5]前記保護フィルムがその端部が融着され、袋状になり内部を密閉する上記[1]~[4]のいずれか1項に記載の積層圧電シート。
[6]上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の積層圧電シートを備えるセンサーデバイス。
【発明の効果】
【0006】
本発明の積層圧電シートは、量産化が可能であり、耐水性に優れ、かつ良好な圧電特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一例に係る積層圧電シートの俯瞰図である。
図2】本発明の一例に係る積層圧電シートの断面図である。
図3】本発明の比較例に係る積層圧電シートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明の実施形態について詳細に説明する。但し、本発明の内容が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0009】
<積層圧電シート>
本発明の積層圧電シートは、多孔エレクトレットフィルムと、電極と、保護フィルムがこの順に少なくとも設けられる積層構造を有し、多孔エレクトレットフィルムと電極の間に接着層が介在せず、かつ、保護フィルムと電極の間に接着層が介在することを特徴とする。
積層圧電シートは、以上の構成を有することで、耐水性に優れ、かつ良好な圧電特性を有する。
また、製造工程を複雑にしたり、特殊な材料を使用したりすることなく、耐水性及び圧電特性を良好にできるので量産化が可能になる。
【0010】
以下、まず本積層圧電シートの特性について詳細に説明する。
(1)起電力
本発明の積層圧電シートの起電力は10mV以上100V以下が好ましく、20mV以上50V以下がより好ましく、30mV以上10V以下がさらに好ましい。
10mV以上であることで、圧電特性が良好となり、例えばセンサーとして使用した場合に十分な感度を得ることができる。
一方で100V以下であることで、センサーやアクチュエーターとして組み込んだ際の火花放電のリスクを低減することができる。
なお、本発明の積層圧電シートの起電力は後述の方法で測定される。
【0011】
(2)厚さ
本発明の積層圧電シートの厚さは50μm以上700μm以下であることが好ましい。
上記下限については、70μmがより好ましく、100μmがさらにより好ましい。
一方で上限は、600μmがより好ましく、500μmがさらに好ましい。
厚さが50μm以上であれば、応答性の積層圧電シートを得ることができる。
また、厚さが700μm以下であれば、ロールtoロールで搬送及び捲回することができ、後の加工が容易である。
【0012】
次に積層圧電シートを構成する各層の構成について説明する。
【0013】
1.多孔エレクトレットフィルム
本発明の積層圧電シートは、少なくとも1枚の多孔エレクトレットフィルムを含む。多孔エレクトレットフィルムは、多孔体の樹脂フィルムを帯電させたものを好適に用いることができる。多孔エレクトレットフィルムを構成する樹脂は、ポリオレフィン系樹脂、フッ素樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂などが挙げられるが、環境負荷が小さく、帯電処理を行いやすいという点でポリオレフィン系樹脂が好適に用いられる。
【0014】
(1)ポリオレフィン系樹脂
本発明の積層圧電シートを構成する多孔エレクトレットフィルムは、ポリオレフィン系樹脂を主成分として含有することが好ましく、中でもポリプロピレン系樹脂を主成分として含有することが好ましい。ここで、ポリオレフィン系樹脂を主成分として含有する場合、多孔エレクトレットフィルムにおけるポリオレフィン樹脂の含有量は50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上99.9999質量%以下、より好ましくは80質量%以上99.999質量%以下、さらに好ましくは90質量%以上99.99質量%以下である。
【0015】
また、多孔エレクトレットフィルムは、ポリプロピレン系樹脂を主成分とする場合、その含有量は具体的には50質量%以上、好ましくは70質量%以上99.9999質量%以下、より好ましくは80質量%以上99.999質量%以下、さらに好ましくは90質量%以上99.99質量%以下である。
ポリプロピレン系樹脂としては、ホモポリプロピレン(プロピレン単独重合体)、またはプロピレンとエチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネンもしくは1-デセンなどのα-オレフィンとのランダム共重合体またはブロック共重合体などが挙げられる。この中でも、機械的強度の観点からホモポリプロピレンがより好適に使用される。
【0016】
また、ポリプロピレン系樹脂は、立体規則性を示すアイソタクチックペンタッド分率が80%以上99%以下であることが好ましく、より好ましくは83%以上98%以下、さらに好ましくは85%以上97%以下である。
アイソタクチックペンタッド分率が80%以上であれば、機械的強度が良好である。
一方、アイソタクチックペンタッド分率の上限については現時点において工業的に得られる上限値で規定しているが、将来的に工業レベルでさらに規則性の高い樹脂が開発された場合においてはこの限りではない。アイソタクチックペンタッド分率とは、任意の連続する5つのプロピレン単位で構成される炭素-炭素結合による主鎖に対して側鎖である5つのメチル基がいずれも同方向に位置する立体構造あるいはその割合を意味する。メチル基領域のシグナルの帰属は、A.Zambelli et al.(Macromol.8,687(1975))に準拠する。
【0017】
また、ポリオレフィン系樹脂は、分子量分布を示すパラメータであるMw/Mnが1.5以上10.0以下であることが好ましい。より好ましくは2.0以上8.0以下、さらに好ましくは2.0以上6.0以下である。
Mw/Mnが小さいほど分子量分布が狭いことを意味するが、Mw/Mnを1.5以上とすることで、十分な押出成形性が得られ、工業的に大量生産が可能である。
一方、Mw/Mnを10.0以下とすることで、十分な機械的強度を確保することができる。
Mw/MnはGPC(ゲルパーエミッションクロマトグラフィー)法によって、ポリスチレン換算値として測定される。
【0018】
また、ポリオレフィン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は特に制限されるものではないが、0.5g/10分以上15g/10分以下であることが好ましく、1.0g/10分以上10g/10分以下であることがより好ましい。
MFRを0.5g/10分以上とすることで、成形加工時において十分な溶融粘度を有し、高い生産性を確保することができる。
一方、MFRを15g/10分以下とすることで、十分な強度を確保することができる。
なお、MFRはJIS K7210-1(2014年)に準拠して温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定される。
【0019】
なお、ポリオレフィン系樹脂の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の重合用触媒を用いた公知の重合方法、例えばチーグラー・ナッタ型触媒に代表されるマルチサイト触媒やメタロセン系触媒に代表されるシングルサイト触媒を用いた重合方法等が挙げられる。
【0020】
本発明に好適に用いることのできるポリプロピレン系樹脂としては、例えば、商品名「ノバテックPP」「WINTEC」「WAYMAX」(日本ポリプロ社製)、「バーシファイ」「ノティオ」「タフマーXR」(三井化学社製)、「ゼラス」「サーモラン」(三菱ケミカル社製)、「住友ノーブレン」「タフセレン」(住友化学社製)、「プライムポリプロ」「プライム TPO」(プライムポリマー社製)、「Adflex」「Adsyl」「HMS-PP(PF814)」(サンアロマー社製)、「インスパイア」(ダウケミカル社製)など市販されている商品を使用できる。
【0021】
本発明の積層圧電シートに用いる多孔エレクトレットフィルムは、結晶形態の一つであるβ晶を多く含むポリプロピレン系樹脂を主成分とする樹脂組成物からなることが好ましい。β晶を多く含むポリプロピレン系樹脂を主成分とする樹脂組成物からなる無孔膜状物はそのものでも帯電処理後に優れた圧電特性を示すが、延伸し多孔構造とすることで、より優れた圧電特性が得られる。β晶を利用した多孔構造形成は、延伸過程においてポリプロピレン系樹脂中のβ晶が、α晶に転移する過程で多孔化が生じるため、多孔構造は緻密であり、従来公知である無機フィラーや非相溶性有機物の添加による多孔化と比較し、粒径や分散径に依存しないことから、多孔構造の調製に有利である。
【0022】
本発明の積層圧電シートに用いる多孔エレクトレットフィルムは、β晶活性を有することが好ましい。本発明の積層圧電シートに用いる多孔エレクトレットフィルムのβ晶活性は、延伸前の無孔膜状物においてポリプロピレン系樹脂がβ晶を生成していたことを示す一指標と捉えることができる。延伸前の無孔膜状物中のポリプロピレン系樹脂がβ晶を生成していれば、その後延伸を施すことで微細かつ均一な孔が多く形成されるため、機械特性に優れ、微細かつ均一な孔形成により優れた耐電圧性を得ることができる。
【0023】
本発明の積層圧電シートに用いる多孔エレクトレットフィルムのβ晶活性の有無は、示差走査型熱量計を用いて、多孔エレクトレットフィルムの示差熱分析を行い、ポリプロピレン系樹脂のβ晶に由来する結晶融解ピーク温度が検出されるか否かで判断される。具体的には、示差走査型熱量計で多孔エレクトレットフィルムを25℃から240℃まで加熱速度10℃/分で昇温後1分間保持し、次に240℃から25℃まで冷却速度10℃/分で降温後1分間保持し、さらに25℃から240℃まで加熱速度10℃/分で再昇温させた際に、再昇温時にポリプロピレン系樹脂のβ晶に由来する結晶融解ピーク温度(Tmβ)が検出された場合、β晶活性を有すると判断される。
【0024】
前記β晶活性の有無は、特定の熱処理を施した多孔エレクトレットフィルムのX線回折測定により得られる回折プロファイルでも判断することができる。詳細には、ポリプロピレン系樹脂の結晶融解ピーク温度を超える温度である170~190℃の熱処理を施し、徐冷してβ晶を生成・成長させた多孔エレクトレットフィルムについてX線回折測定を行い、プロピレン系樹脂のβ晶の(300)面に由来する回折ピークが2θ=16.0°~16.5°の範囲に検出された場合、β晶活性があると判断される。ポリプロピレン系樹脂のβ晶構造とX線回折測定に関する詳細は、Macromol.Chem.187,643-652(1986)、Prog.Polym.Sci.Vol.16,361-404(1991)、Macromol.Symp.89,499-511(1995)、Macromol.Chem.75,134(1964)、及びこれらの文献中に挙げられた参考文献を参照することができる。
【0025】
前述したポリプロピレン系樹脂のβ晶活性を得る方法としては、ポリプロピレン系樹脂のα晶の生成を促進させる物質を添加しない方法や、特許第3739481号公報に記載されているように過酸化ラジカルを発生させる処理を施したポリプロピレン系樹脂を添加する方法、及びβ晶核剤を添加する方法などが挙げられるが、本発明においては、β晶核剤を添加してβ晶活性を得ることが特に好ましい。β晶核剤を添加することで、より均質に効率的にポリプロピレン系樹脂のβ晶の生成を促進させることができ、β晶活性を有する多孔エレクトレットフィルムを得ることができる。
【0026】
前記β晶活性の程度については、β晶生成能を測定することで定量化ができる。多孔エレクトレットフィルムに含まれるポリプロピレン系樹脂のβ晶生成能は好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上である。80%以上であることで、積層圧電シートとした際に好適な圧電特性を発揮することができる。上限については特に制限はないが、β晶生成能は100%以下であることが好ましい。なお、β晶生成能は以下の通り測定できる。
【0027】
β晶生成能は、示差走査型熱量計(DSC)を用い、多孔エレクトレットフィルムを示差熱分析し、検出されるポリプロピレン系樹脂のα晶由来の結晶融解熱量(ΔHmα)とβ晶由来の結晶融解熱量(ΔHmβ)を用いて下記式で計算される。
β晶生成能(%)=〔ΔHmβ/(ΔHmβ+ΔHmα)〕×100
例えば、ポリプロピレン系樹脂がホモポリプロピレンの場合は、主に145℃以上160℃未満の範囲で検出されるβ晶由来の結晶融解熱量(ΔHmβ)と、主に160℃以上170℃以下に検出されるα晶由来の結晶融解熱量(ΔHmα)から計算することができる。また、例えばポリプロピレン系樹脂が、エチレンが1~4モル%共重合されているランダムポリプロピレンの場合は、主に120℃以上140℃未満の範囲で検出されるβ晶由来の結晶融解熱量(ΔHmβ)と、主に140℃以上165℃以下の範囲に検出されるα晶由来の結晶融解熱量(ΔHmα)から計算することができる。
【0028】
(2)β晶核剤
本発明の積層圧電シートに用いる多孔エレクトレットフィルムは優れた圧電特性を得るために、β晶核剤が含まれていることが好ましい。β晶核剤が含まれていることによって、β晶活性を有することができる。本発明で用いるβ晶核剤としては以下に示すものが挙げられる。
また、必要に応じて、2種類以上のβ晶核剤を混合して用いてもよい。
【0029】
β晶核剤としては、例えば、アミド化合物;テトラオキサスピロ化合物;キナクリドン類;ナノスケールのサイズを有する酸化鉄;1,2-ヒドロキシステアリン酸カリウム、安息香酸マグネシウムもしくはコハク酸マグネシウム、フタル酸マグネシウムなどに代表されるカルボン酸のアルカリもしくはアルカリ土類金属塩;ベンゼンスルホン酸ナトリウムもしくはナフタレンスルホン酸ナトリウムなどに代表される芳香族スルホン酸化合物;二もしくは三塩基カルボン酸のジもしくはトリエステル類;フタロシアニンブルーなどに代表されるフタロシアニン系顔料;有機二塩基酸である成分Aと周期表第2族金属の酸化物、水酸化物もしくは塩である成分Bとからなる二成分系化合物;環状リン化合物とマグネシウム化合物からなる組成物などが挙げられる。
【0030】
これらのβ晶核剤の中でも、得られる積層圧電シートの圧電特性の面でアミド化合物が好ましい。アミド化合物としては、N,N’-ジシクロヘキシル-2,6-ナフタレンジカルボキシアミド、N,N’-ジシクロヘキシルテレフタルアミド、N,N’-ジフェニルヘキサンジアミド等が挙げられ、中でもN,N’-ジシクロヘキシル-2,6-ナフタレンジカルボキシアミドが好ましい。アミド化合物は極性が高いアミド基を有するため、結晶構造中に電荷を局在化させることができ、高い圧電特性を有すると考えられる。
一方で、アミド化合物のように極性が高い化合物は、極性が低いポリプロピレン系樹脂とは静電的な相互作用により分散性が悪く、凝集しやすいという問題がある。しかしながら、一般的なβ晶核剤は、一定の温度域ではポリプロピレン系樹脂に溶解するという特性を有している。この特性により、ポリプロピレン系樹脂にβ晶核剤が均一に分散され、β晶核剤由来の結晶が均一に析出されやすくなる。よって、極性が低いポリプロピレン系樹脂中に極性の高いアミド化合物の結晶が均一に分散され、高い圧電特性を有することができると考えられる。
【0031】
市販されているβ晶核剤の具体例としては、新日本理化社製β晶核剤「エヌジェスターNU-100」、β晶核剤の添加されたプロピレン系樹脂の具体例としては、Aristech社製ポリプロピレン「Bepol B-022SP」、Borealis社製ポリプロピレン「Beta(β)-PP BE60-7032」、mayzo社製ポリプロピレン「BNX BETAPP-LN」などが挙げられる。
【0032】
本発明の積層圧電シートに用いる多孔エレクトレットフィルム中のβ晶核剤の含有量は、β晶核剤の種類またはポリプロピレン系樹脂の組成などにより適宜調整することができるが、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対し0.0001質量部以上5.0質量部以下が好ましく、0.001質量部以上3.0質量部以下がより好ましく、0.01質量部以上1.0質量部以下がさらに好ましい。
0.0001質量部以上であれば、製造時において十分にポリプロピレン系樹脂のβ晶を生成成長させ、十分なβ晶活性が確保できる。そのため、多孔フィルムとした際にも十分なβ晶活性が確保でき、帯電処理することで所望の圧電特性を有する多孔エレクトレットフィルムが得られる。
一方、5.0質量部以下の添加であれば、経済的にも有利になるほか、フィルム表面へのβ晶核剤のブリードなどがなく好ましい。
【0033】
本発明の積層圧電シートに用いる多孔エレクトレットフィルムには、その性質を損なわない程度に添加剤、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、結晶核剤、着色剤、帯電防止剤、加水分解防止剤、滑剤、難燃剤、導電剤、エラストマーなどの各種添加剤が適宜含まれていてもよい。
【0034】
多孔エレクトレットフィルムの厚さは、好ましくは10μm以上200μm以下である。厚さを上記範囲内とすることで、積層圧電シートを必要以上に厚くすることなく、圧電特性を良好にできる。このような観点から、多孔エレクトレットフィルムの厚さは、より好ましくは15μm以上150μm以下、さらに好ましくは20μm以上120μm以下である。
【0035】
2.電極
本発明の積層圧電シートは、少なくとも1層の電極となる層を有する。電極となる層は導電性を有していればよく、アルミニウム箔、銅箔、銀箔、金箔、ニッケル箔、スズ箔などの金属箔、カーボンシートなどが好適に用いられる。
電極の厚さは、好ましくは2μm以上150μm以下、より好ましくは3μm以上100μm以下、さらに好ましくは5μm以上50μm以下である。2μm以上であることで、電極としての導電安定性を発現できる。一方で150μm以下であることで、積層圧電シートとした際のフレキシブル性を担保することができる。
積層圧電シートにおいて電極は、少なくとも2層設けられることが好ましい。2層の電極は、後述するように多孔エレクトレットフィルムを挟み込むように配置されるとよい。
また、電極は、例えば別の電極との短絡を防止するために、多孔エレクトレットフィルムの外周側にはみ出ないように配置されることが好ましい。
【0036】
3.保護フィルム
本発明の積層圧電シートは、少なくとも1層の保護フィルムとなる層を有する。本発明では、保護フィルムが設けられたことにより、特殊な材料を使用しなくても積層圧電シートの耐水性を良好にできる。保護フィルムは、積層圧電シートにおいて、例えば、電極及び多孔エレクトレットフィルムを覆うように設けられ、これにより、電極及び多孔エレクトレットフィルムを適切に保護する。
積層圧電シートにおいて保護フィルムは、少なくとも2層設けられることが好ましい。保護フィルムを2層設けることで、電極及び多孔エレクトレットフィルムを保護フィルムで両側から挟み込むことができるのでより一層保護性能が向上する。
各層の保護フィルムの厚さは10μm以上500μm以下が好ましく、20μm以上300μm以下、50μm以上200μm以下がさらに好ましい。
厚さが10μm以上あることで、積層圧電シートに十分な耐水性を付与することができる。
厚さが500μm以下であることで、積層圧電シートのフレキシブル性を担保できる。
【0037】
保護フィルムとして使用できるフィルムは、ポリエステル系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム、アクリル系樹脂フィルム、ポリスチレン系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、フッ素系樹脂フィルムなどの樹脂フィルムを好適に用いることができる。熱融着性の観点で、樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂フィルムであることが好ましく、また、樹脂フィルムにホットメルト樹脂などを積層したフィルムも使用することもできる。これらのフィルムは市販のラミネートフィルムとして容易に入手することができる。
【0038】
4.接着層
本発明の積層圧電シートは、さらに接着層を有し、電極と保護フィルムの間に接着層を介在させる。電極は、接着層を介して保護フィルムに接着する。本発明では、このような構成により、積層圧電シートを製造するときなどの電極の移動を規制して、多孔エレクトレットフィルムに対する電極の位置ずれが発生することを防止する。そのため、例えば、電極が多孔エレクトレットフィルムの端部からはみ出して、他の電極に接触して短絡することなどを防止でき、それにより、起電力を高くでき、積層圧電シートに良好な圧電特性を付与できる。
【0039】
一方で、電極は、多孔エレクトレットフィルムとの間に接着層を介在させない。そのため、電極は多孔エレクトレットフィルムには接着しない。電極を接着層により多孔エレクトレットフィルムに接着させると、積層圧電シート製造時などにおける電極の位置ずれを防止できるが、多層圧電シートの起電力が低下し、圧電特性が損なわれる。起電力が低下する要因は定かではないが、接着層を構成する接着剤が多孔エレクトレットフィルムの孔に侵入してしまうことに起因していると推定される。
また、電極は、接着層により多孔エレクトレットフィルムに接着していなくても、上記のように、保護フィルムに接着することで、製造時などにおいて移動することが規制されるので、多孔エレクレットフィルムに対する位置ずれも防止でき、それにより、上記のとおり短絡を防止し、起電力を高くできる。
【0040】
保護フィルムと電極を介在させる接着層は、導電性を有してもよいし、導電性を有さなくてもよい。導電性を有することで電極タブとの導通が安定する効果がある。
接着層は、感圧接着性を有する粘着層であってもよいし、感圧接着性を有さなくてもよいが、感圧接着性を有する粘着層とすることが好ましい。粘着層とすることで、電極及び保護フィルムを、粘着層を介在させて積層し加圧するだけで電極と保護フィルムを接着させることができる。
【0041】
接着層は、接着剤で構成される限り特に限定されないが、接着層が粘着層である場合、粘着剤により構成されるとよい。粘着剤としては、特に制限はないが、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、合成ゴム系粘着剤、天然ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤などが挙げられ、これらのなかではアクリル系粘着剤が好ましい。
粘着剤は、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、合成ゴム、天然ゴム、シリコーン系樹脂などの主ポリマーを含有し、主ポリマーに、架橋剤、粘着付与剤、可塑剤、軟化剤、金属不活性剤、酸化防止剤、顔料、染料などから選択される少なくとも1つの添加剤が配合されてもよい。
【0042】
また、粘着層が、導電性を有する導電性粘着層である場合、粘着剤としては導電性粘着剤を使用すればよい。導電性粘着剤は、導電性を有する限り特に限定されないが、導電性粒子が配合されることが好ましい。
導電性粒子としては、金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム等の金属粉粒子、カーボン、グラファイト等の導電性カーボン粒子、樹脂、中実ガラスビーズ、中空ガラスビーズなどのコア材の表面に金属被覆を有するものなどが挙げられる。これらのなかでもニッケル粉粒子、銅粉粒子、銀粉粒子などの金属粉粒子が導電性、接着性、生産性に優れるため好ましい。
また、導電性粒子の形状は、特に限定されず、球状、表面針状形状などでもよいし、導電性粒子間で結合等を形成し、複数の導電性粒子が連なった形状を有するものなどであってもよい。
導電性粒子は、1種単独で使用してもよいし2種類以上混合して使用してもよい。
導電性粘着剤における導電性粒子の含有量は、所望の導電性を付与できるように適宜調整されればよいが、1質量%以上50質量%以下が好ましく、5質量%以上25質量%以下がより好ましく、8質量%以上20質量%以下がさらに好ましい。
【0043】
また、接着層が感圧接着性を有さない場合、接着層を構成する接着剤としては、熱硬化性接着剤、光硬化性接着剤、ホットメルト接着剤、湿気硬化性接着剤などを使用すればよい。これらは、導電性を有してもよいし、導電性を有さなくてもよいが、導電性を有する場合、導電性粒子を配合した導電性接着剤とすればよい。導電性粒子の詳細、含有量などは上記のとおりである。
【0044】
接着層の厚みは、特に限定されないが、積層圧電シートを必要以上に厚くせずに、保護フィルムと電極の間の接着性を確保する観点から、1μm以上100μm以下が好ましく、2μm以上50μm以下がより好ましく、さらに好ましくは4μm以上35μm以下である。
また、電極の一方の面に予め接着層が積層された接着テープを使用してもよく、例えば、銅箔、アルミニウム箔などの金属箔の片面に粘着層が積層された粘着テープなどを使用してもよい。このような粘着テープは、市販品を使用してもよく、例えばDIC社製の「E-2300ND」、「E20CU」、「E30CU」、「E40CU」、「E50CU」、「E65CU」、「52050AD」などを使用できる。
【0045】
上記の通り、電極と多孔エレクトレットフィルムとの間には、接着層を介在させず、電極と多孔エレクトレットフィルムは接着層により接着されない。ここで、電極と多孔エレクトレットフィルムは直接積層されてもよいが、これらの間にはスペーサーなどの接着層以外の他の層が設けられてもよい。スペーサーは、電極と多孔エレクトレットフィルムの間を一定の間隔に保持するための部材であり、例えば円状や方状にくり抜かれた樹脂フレームである。
また、スペーサーを設けることでフィルムに対して水平方向の振動ノイズを軽減したり、音響に対するセンシング特性が向上したりするという効果が得られる。
【0046】
なお、上記のとおり、本発明では、電極と多孔エレクトレットフィルムの間に接着層以外の他の層が設けられてもよい。ここで、接着層以外の他の層は、多孔エレクトレットフィルムに接着しない層であるとよく、接着剤以外で形成され、その接着層以外の他の層から多孔エレクトレットフィルムを小さい力(例えば、90°ピールで剥離力0.1N/cm以下)で引き離すことができるものである。
スペーサーなどの接着層以外の他の層は、電極と多孔エレクトレットフィルムとの間に設けられても、積層圧電シートの起電力を低下させずに、圧電特性が良好に維持される。その原理は定かでなないが、スペーサーなどの接着層以外の他の層は、多孔エレクトレットフィルムの孔にほとんど侵入せず、多孔エレクトレットフィルムの性能を低下させないためと推定される。
【0047】
5.その他
本発明の積層圧電シートは、デバイスに組み込む際のハンドリング性や電気特性を向上する目的で、上記で挙げた構成部材以外に、電極タブ、シールド層、緩衝層などの構成部材を有してもよい。積層圧電シートは、これら構成部材を有することで、各構成部材に応じた機能を積層圧電シートに付与することができる。
【0048】
積層圧電シートは、上記したなかでは電極タブを有することが好ましい。電極タブは、各電極を他の電子部品などに導通させるために設けられる。電極タブは、電極に接続するように設けられる限りいかなる構成でもよく、例えば保護フィルム上に形成されてもよいし、多孔エレクトレットフィルム上に形成されてもよいし、保護フィルムと多孔エレクトレットフィルムの間に挟み込まれるように配置されてもよい。
また、後述するように保護フィルムにより袋を形成する場合には、電極タブは袋内部から袋外部に延出するように配置してもよい。
また、電極タブは、例えば電極が複数層設けられる場合には電極の層数に応じて設けられるとよく、例えば電極が2層設けられる場合には、電極タブもその層数に応じて2つ設けられるとよい。
【0049】
6.積層圧電シートの層構成
積層圧電シートは、上記の通り、多孔エレクトレットフィルム、電極、及び保護フィルムを少なくともこの順に設けられる積層構造を有する。
また、積層圧電シートは、上記の通り2つの電極の間に多孔エレクトレットフィルムが配置された構成を有することが好ましい。
さらに、積層圧電シートは、保護フィルム、電極、多孔エレクトレットフィルム、電極、及び保護フィルムを少なくともこの順に設けられる積層構造を有することがより好ましい。
なお、保護フィルムを2層有する積層構造において、保護フィルムが2枚設けられ、各層を構成する保護フィルムが別の保護フィルムより形成されてもよいが、保護フィルムが1枚であり、1枚の保護フィルムが例えば折り畳まれて、1枚の保護フィルムにより2層の保護フィルムが形成されてもよい。
【0050】
また、積層圧電シートは、上述したとおり、電極と保護フィルムの間に接着層が設けられ、電極が接着層を介して保護フィルムに接着される。ここで、積層圧電シートにおいて、2層の電極が設けられる場合、2層の電極のうち一方が接着層を介して保護フィルムに接着すればよいが、電極のずれをより一層防止して、圧電特性を良好にする観点から、2層の電極それぞれと、各保護フィルムの間は、いずれも接着層を介在させることが好ましい。
したがって、2層の電極を有する場合、積層圧電シートは、保護フィルム、接着層、電極、多孔エレクトレットフィルム、電極、接着層及び保護フィルムが少なくともこの順に設けられる積層構造を有することが好ましい。
ただし、保護フィルム、電極、多孔エレクトレットフィルム、電極、接着層及び保護フィルムが少なくともこの順に設けられる積層構造を有し、一方の保護フィルムと電極の間に接着層が設けらなくてもよい。この場合、一方の保護フィルムと電極は、例えば直接積層されるとよい。
【0051】
また、電極と多孔エレクトレットフィルムは、上記のとおり他の層を介在せずに直接積層されてもよいし、スペーサーなどの接着層以外の他の層を介在させてもよい。
したがって、2つの電極を有する場合、積層圧電シートは、両方の電極それぞれが多孔エレクトレットフィルムに直接積層されてもよいし、両方の電極それぞれが多孔エレクトレットフィルムにスペーサーなどの他の層を介在して積層されてもよい。
また、一方の電極と多孔エレクトレットフィルムが直接積層されるとともに、他方の電極と多孔エレクトレットフィルムがスペーサーなどの他の層を介在して積層されてもよい。
【0052】
積層圧電シートは、保護フィルムの端部が融着され、袋状になり内部を密閉することが好ましい。この場合、袋内部には、電極及び多孔エレクトレットフィルムを収納するとよい。
袋状とする場合、各層を構成する保護フィルムは、例えば、電極及び多孔エレクトレットフィルムの両方よりも面積が大きくなるとよい。
また、各層を構成する保護フィルムは、端部が電極及び多孔エレクトレットフィルムよりも外周側にはみ出すように配置されるとよく、そのようにはみ出した端部を融着させ、内部が密閉された袋状とすればよい。
【0053】
積層圧電シートは、上記のとおり、好ましくは保護フィルム、電極、多孔エレクトレットフィルム、電極、及び保護フィルムが少なくともこの順に設けられる積層構造を有するが、この積層構造においては、各層を構成する保護フィルムの端部同士を融着させるとよい。
例えば、保護フィルムが2枚の場合には、2枚の保護フィルム両方を、その端部が電極及び多孔エレクトレットフィルムよりも外周側にはみ出すように配置するとよい。
そして、そのはみ出した端部同士を融着させ、内部が密閉した袋状に形成し、その袋内部に電極及び多孔エレクトレットフィルムを収納するとよい。この場合、各層を構成する保護フィルムの端部は全周にわたって、電極及び多孔エレクトレットフィルムよりも外周側にはみ出すように配置させ、端部の全周を融着すればよい。
また、1枚の保護フィルムを例えば折り畳んで2層の保護フィルムを形成する場合には、その折り畳み部分以外において各層を構成する保護フィルムの端部同士を融着させて袋状にするとよい。
折り畳まれた保護フィルムにおいても、端部が電極及び多孔エレクトレットフィルムよりも外周側にはみ出すように配置するとよく、そのはみ出すように配置された端部同士を融着するとよい。
また、保護フィルムの端部同士は、接着して内部を密閉する限り、融着以外の態様によって接着されてもよく、例えば接着剤を使用して接着してもよい。
【0054】
図1、2は、積層圧電シートの好ましい一例を具体的に示す。
図1、2において、積層圧電シート10は、保護フィルム11、接着層12、電極13、多孔エレクトレットフィルム14、電極13、接着層12及び保護フィルム11がこの順に設けられる積層構造を有する。積層圧電シート10において保護フィルム11、11は、上記のとおり、端部同士が互いに融着して袋状に形成され、その袋内部に接着層12、電極13及び多孔エレクトレットフィルム14が収納される。また、各保護フィルム11の電極13が貼り合わされた面には、電極タブ15も形成され、電極タブ15が電極13に接続される。
勿論、図1、2に示す積層圧電シート10は、本発明の積層圧電シートの一例を示すものであり、本発明の要旨を逸脱しない限りいかなる変更がなされてもよい。
【0055】
<積層圧電シートの製造方法>
以下、本発明の積層圧電シートの製造方法について説明するが、以下の説明は、本発明の積層圧電シートを製造する方法の一例であり、本発明の積層圧電シートは以下に説明する製造方法により製造される積層圧電シートに限定されるものではない。
【0056】
本発明の積層圧電シートは、多孔エレクトレットフィルム、電極、及び保護フィルムをこの順に少なくとも積層させることで得ることができるが、この際、電極と保護フィルムの間には、接着剤を介在させる一方で、多孔エレクトレットフィルムと電極の間は接着剤を介在させない。
また、積層する順序は外側から、保護フィルム、電極、多孔エレクトレットフィルムの順序にするとよい。具体的な積層方法としては、電極と保護フィルムとを接着剤を用いて貼り合わせて電極付き保護フィルムを得て、その電極付き保護フィルムと多孔エレクトレットフィルムとをさらに重ね合わせることが好ましい。
【0057】
また、電極が2層設けられる場合、保護フィルム、電極、多孔エレクトレットフィルム、電極、及び保護フィルムをこの順に積層するとよいが、好ましくは上記した電極付き保護フィルムを2枚用意して、電極側を内側にして、2枚の電極付き保護フィルムにより多孔エレクトレットを挟み込むようにして上記各層を積層するとよい。
また、例えば2つの電極が一方の面に貼り合わされた保護フィルムを1枚用意して、その電極付き保護フィルムを、電極側を内側にするように折り畳み、電極間に多孔エレクトレットを挟み込むように、上記各層を積層してもよい。
【0058】
また、本製造方法では、多孔エレクトレットフィルム、電極、及び保護フィルムを積層した後、保護フィルムの端部を加熱して熱融着して、袋状にすることが好ましい。袋状とする場合には、電極及び保護フィルムそれぞれを2層設けることが好ましく、保護フィルム、電極、多孔エレクトレットフィルム、電極、及び保護フィルムをこの順に積層して、各層の保護フィルムの端部同士を加熱し、熱融着して袋状とすることが好ましい。端部を熱融着する方法は、特に限定されないが、ヒートシーラーなどを使用すればよい。
なお、上記積層前に、2層の保護フィルムは端部同士を部分的に予め融着しておいてもよい。
また、保護フィルムの端部同士は熱融着以外によって接着してもよい。
【0059】
また、多孔エレクトレットフィルムは、以下に示すとおりに製膜工程、延伸工程、及び帯電処理工程を得て製造することが好ましい。
以下、製膜工程、延伸工程、及び帯電処理について順次説明する。
【0060】
(1)製膜工程
製膜工程では、多孔エレクトレットフィルムを構成する材料よりなる無孔膜状物が製膜される。製膜工程においては、多孔エレクトレットフィルムを構成する材料を、公知の方法で製膜する限り特に限定されないが、例えば多孔エレクトレットフィルムを構成する樹脂(材料樹脂)を加熱溶融してフィルム状に製膜すればよく、具体的には、Tダイ法、インフレーション法などにより製膜すればよく、中でもTダイ法を採用するのが好ましい。
また、実用的には、Tダイから材料樹脂を溶融押出してキャストロール(チルロール、キャストドラムなど)によりキャスト成形するのが好ましい。
また、材料樹脂は、適宜添加剤が配合され、また2種以上の樹脂成分が混合され、2以上の成分を含む樹脂組成物として製膜されてもよい。
【0061】
多孔エレクトレットフィルムを構成する材料は、混練装置において混練された後に製膜されてもよい。混練を行う際、用いる混練装置を特に限定するものではない。例えば単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機など、公知の押出機を用いることができる。
また、押出機には、設備構造及び必要性に応じて、ベント口に減圧機を接続し、多孔エレクトレットフィルムを構成する材料より水分や低分子量物質を除去してもよい。
【0062】
上記のとおりキャストロールを使用する場合、Tダイから押出されたシート状の溶融樹脂(樹脂組成物)をキャストロール上に押し出し、回転するキャストロール上に密着させながら引き取りフィルム状物に成形するとよい。
また、キャストロールにフィルム状物を密着させるために、タッチロール、エアナイフ、電気密着装置などをキャストロールに付けてもよい。
【0063】
また、溶融樹脂(樹脂組成物)を冷却しながらフィルムに成形する際、キャストロールの温度は100℃以上が好ましい。より好ましくは110℃以上で、更に好ましくは120℃以上である。本発明ではポリプロピレン系樹脂の結晶部分と非晶部分での延伸工程時による開孔によっても、空孔率の増加が可能であるため、キャストロールの温度を100℃以上とし、高い結晶化度の無孔膜状物を得ることが好ましい。
また、キャストロールの温度は140℃以下が好ましく、より好ましくは135℃以下で、更に好ましくは130℃以下である。キャストロールの温度を140℃以下とすることで、フィルム製膜時にキャストロールからの剥離が容易である。
【0064】
得られる無孔膜状物において、両端部を除いた有効部分の厚さは30μm以上500μm以下であるのが好ましく、中でも40μm以上がより好ましく、50μm以上がさらに好ましく、また、300μm以下がより好ましく、その中でも200μm以下であることがさらに好ましい。無孔膜状物の厚さが30μm以上であれば、延伸時に破断を防ぐことができ、無孔膜状物の厚さが500μm以下であれば、無孔膜状物の延伸を行いやすくすることができる。
本発明の多孔エレクトレットフィルムの無孔膜状物での層構成に関しては、上記の単層構成のみだけでなく、他の層を組み合わせた構成であってもよい。
【0065】
(2)延伸工程
次に、得られた無孔膜状物に対して延伸処理を行う。無孔膜状物に対して延伸処理を行うことで、無孔膜状物を容易に多孔フィルムにすることができる。延伸処理では、無孔膜状物に対して一軸延伸あるいは二軸延伸を行なうとよい。一軸延伸は縦一軸延伸であってもよいし、横一軸延伸であってもよい。二軸延伸は同時二軸延伸であってもよいし、逐次二軸延伸であってもよい。これらのうち逐次二軸延伸を採用すると、多孔構造の制御が比較的容易であり、機械強度や収縮率など他の諸物性とのバランスがとりやすい。逐次二軸延伸は、特に限定されないが、例えば縦延伸した後に、横延伸するとよい。
なお、膜状物の流れ方向(MD)への延伸を「縦延伸」といい、流れ方向に対して垂直方向(TD)への延伸を「横延伸」という。
【0066】
延伸温度は、用いる樹脂組成物の組成、結晶融解ピーク温度、結晶化度等によって適時選択する必要があるが、縦延伸温度は、好ましくは60℃以上140℃以下であり、より好ましくは80℃以上120℃以下である。
縦延伸温度を140℃以下とすることで、主成分であるポリプロピレン系樹脂の融点以下で破断なく延伸が可能となるため好ましい。
一方で、60℃以上とすることで、延伸時の破断が抑制できるため好ましい。
横延伸温度は、好ましくは90℃以上160℃以下であり、より好ましくは100℃以上150℃以下である。前記横延伸温度が規定された範囲内であることによって、空孔が十分に形成され、空孔率を高めることができ、十分な圧電特性を有することができる。
また、逐次二軸延伸の場合には、例えば縦延伸時に生じた空孔が拡大されて多孔層の空孔率を増加することができる。
なお、以上説明した温度は、一軸延伸又は逐次二軸延伸の場合の温度であるが、同時二軸延伸の場合の延伸温度は、上記観点から、好ましくは90℃以上140℃以下、より好ましくは100℃以上120℃以下の範囲内で調整すればよい。
【0067】
延伸倍率は、所望する空孔率に合わせて任意に選択すればよいが、一軸延伸あたりの延伸倍率は1.1倍以上10倍以下が好ましく、より好ましくは1.5倍以上9.0倍以下であり、さらに好ましくは1.5倍以上8.0倍以下である。
一軸延伸あたりの延伸倍率が1.1倍以上とすることで白化が進行して、延伸による多孔化が十分に生じる。
また、10倍以下とすることで、空孔率が抑制され、耐圧性に優れる多孔フィルムを得ることができる。
また、逐次二軸延伸の場合には、各軸当たり上記で規定した延伸倍率で延伸することによって、先の延伸時に生じた空孔が後の延伸時に変形することもない。
【0068】
(3)帯電処理
ついで、延伸工程で得られた多孔フィルムに帯電処理を行なうことで本発明の積層圧電シートに用いる多孔エレクトレットフィルムを得ることができる。帯電処理は連続式であってもよいし、バッチ式であってもよい。帯電処理を行なう際の電極は、フィルムの表裏に針状電極、ワイヤー電極、ロール状電極、板状電極などの電極間にフィルムを通し、電極間に電界を印加する方式でもよいし、フィルムの表裏に直接、塗布や蒸着により電極を形成した後に、電界を印加する方式でもよい。
印加する電界としては好ましくは0.1MV/m以上10MV/m以下、より好ましくは0.2MV/m以上8MV/m以下、さらに好ましくは0.3MV/m以上6MV/m以下である。0.1MV/m以上であることで、多孔エレクトレットフィルムが優れた圧電特性を有することができる。10MV/m以下であることで、帯電処理時の絶縁破壊を低減するという効果がある。
【0069】
<積層圧電シートの用途>
本発明の積層圧電シートは、例えば振動発電、水位計、音響検出器、マットセンサー、ロボットハンドなどに使用することができる。積層圧電シートは、特に限定されないが、例えば圧電素子として使用すればよく、積層圧電シートに作用された圧力を電圧に変換して、積層圧電シートに作用される圧力を検知したり、発電したりすることができる。
また、積層圧電シートはセンサーデバイスとして上記した各種機器に組み込むとよい。本発明の積層圧電シートは、例えばリード線や回路実装を施すことで、本シートを備えたセンサーデバイスとすることができる。
【0070】
<語句の説明など>
本発明においては、文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【実施例
【0071】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の積層圧電シートについてさらに詳しく説明するが、本発明は何ら制限を受けるものではない。
【0072】
実施例、比較例で使用する材料は以下の通りである。
(ポリプロピレン系樹脂)
・A-1;ホモポリプロピレン(ノバテックPP FY6HA、MFR:2.4g/10分[230℃、2.16kg荷重]、Mw/Mn=3.2、日本ポリプロ社製)
(β晶核剤)
・B-1:N,N’-ジシクロヘキシル-2,6-ナフタレンジカルボキシアミド(NU-100、新日本理化社製)
(酸化防止剤)
・C-1;トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイトとテトラキス[3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリスリトールとの1:1混合物(IRGANOX-B225、BASF社製)
【0073】
(多孔エレクトレットフィルムの製造)
ポリプロピレン系樹脂(A-1)100質量部、β晶核剤(B-1)0.2質量部、酸化防止剤(C-1)0.1質量部を混合して、二軸押出機にて280℃で溶融押出することで樹脂組成物を得た。リップ開度1mmのTダイに繋がれた押出機に前記樹脂組成物を投入して成形を行ない、キャストロールに導かれて厚さが100μmの無孔膜状物を得た。
その後、フィルムテンター設備(京都機械社製)にて、延伸温度100℃で横方向に7倍延伸し、多孔フィルムを得た。得られた多孔フィルムをアース板に乗せ、針状電極を使用し、電極間距離20mmで10kVの電圧をかけ帯電処理を行なうことで、厚さ20μmの多孔エレクトレットフィルムを得た。
多孔エレクトレットフィルムはβ晶活性を有し、多孔エレクトレットフィルムに含有されるポリプロピレン系樹脂のβ晶生成能は92%であった。
【0074】
(実施例1)
以下に示す通り図1、2に示す積層圧電シート10を作製した。
保護フィルム11、11として、厚さ100μmのA4サイズの2枚のフィルムの一端部同士を予め融着したポリエステル系ラミネートフィルム(アイリスオーヤマ社製)を用意した。各保護フィルム11の内側に、片面に接着層12を有する電極13として、導電性銅箔粘着テープ「E20CU」(DIC社製、電極厚さ9μm、接着層厚さ11μm)を19cm角に切り出したものを貼り合わせ、次いで、各保護フィルム11上に各電極13に接続する電極タブ15を形成した。
その後、2枚の電極付き保護フィルムの電極13、13間に、20cm角に切り出した多孔エレクトレットフィルム14を、電極13がフィルム14の外周側にはみ出さないように挟み込み、ヒートシーラーを用いて保護フィルム11、11の予め融着した一端部以外の端部同士を熱融着することで積層圧電シートを作製した。
電極タブ15は、保護フィルム11、11同士を融着することで形成された袋の内側から外側に延出していた。
【0075】
(実施例2)
以下に示す通り図1、2に示す積層圧電シート10を作製した。
保護フィルム11、11として、厚さ150μmのA4サイズの2枚のフィルムの一端部同士を予め融着したポリエステル系ラミネートフィルム(アイリスオーヤマ社製)を用意した。各保護フィルム11の内側に、片面に接着層12を有する電極13として、導電性アルミニウム箔粘着テープ「52050AD」(DIC社製、電極厚み50μm、接着層厚み30μm)を19cm角に切り出したものを貼り合わせ、次いで、各保護フィルム11上に各電極13に接続する電極タブ15を形成した。
その後、2枚の電極付き保護フィルムの電極13、13間に、20cm角に切り出した多孔エレクトレットフィルム14を、電極13がフィルム14の外周側にはみ出さないように挟み込み、ヒートシーラーを用いて保護フィルム11、11の予め融着した一端部以外の端部同士を熱融着することで積層圧電シート10を作製した。
電極タブ15は、保護フィルム11、11同士を融着することで形成された袋の内側から外側に延出していた。
【0076】
(比較例1)
以下に示す通り図3に示す積層圧電シート100を作製した。
20cm角に切り出した多孔エレクトレットフィルム140の両側に、片面に接着層120を有する電極130として、導電性銅箔粘着テープ「E20CU」(DIC社製)を19cm角に切り出したものを2枚挟み込むように貼り合わせた。次いで、各電極130に接続する電極タブ(図示しない)を形成後、保護フィルム110として、2枚の厚さ100μmのA4サイズのポリエステル系ラミネートフィルム(アイリスオーヤマ社製)に挟み込んだ後、ヒートシーラーを用いて保護フィルム110、110の端部同士を熱融着することで積層圧電シート100を作製した。
電極タブは、保護フィルム110、110同士を熱融着することで形成された袋の内側から外側に延出していた。
【0077】
(比較例2)
導電性アルミニウム箔粘着テープ「52050AD」(DIC社製)を、両面に接着層を有する電極である導電性アルミニウム箔両面テープ「8506ADW-10-H」(DIC社製)に替えた点以外は、実施例2と同様にして、積層圧電シートを得た。
【0078】
(比較例3)
導電性アルミ箔粘着テープ「52050AD」(DIC社製)を、接着層を有しない一般的な厚さ16μmのアルミニウム箔に替えた点以外は、実施例2と同様にして、積層圧電シートを得た。
【0079】
(比較例4)
20cm角に切り出した多孔エレクトレットフィルムの両側に、電極として、接着層を有しない一般的な厚さ16μmのアルミ箔を19cm角に切り出したもので挟み込み、端部をセロテープ(登録商標)で固定することで積層圧電シートを作製した。
【0080】
実施例および比較例で得られた積層圧電シートに関して、厚さ、起電力、及び耐水性について以下の方法で測定した。
【0081】
(1)厚さ
1/1000mmのダイアルゲージを用いて無作為に10点測定して、その平均値を求めた。
【0082】
(2)起電力
積層圧電シート上に厚さ10mmの発泡ポリプロピレンシートを置き、その上から1Hzの周期で100gfの荷重の印加と除荷を繰り返し、その際に発生する起電力の絶対値の平均値を、オシロスコープを用いることで測定した。
なお、ノイズが大きく測定できないものについては起電力が便宜上1mV未満であるものとした。
【0083】
(3)耐水性
積層圧電シートについて、電極タブを保護テープで覆い、10秒間水に沈め、その後、風乾後、電極タブの保護テープを取り除き、起電力を測定し、式(1)により浸水前後の起電力の維持率を算出し、以下の評価基準で判定することで、耐水性を評価した。
なお、浸水後の起電力が1mV未満のものについては、維持率は算出せずに「-」と表記する。
維持率(%)=〔浸水後の起電力/浸水前の起電力〕×100 (1)
(評価基準)
A(good):維持率が80%以上
B(poor):維持率が80%未満
【0084】
表1に実施例、比較例に関する評価結果を示した。
【表1】
【0085】
実施例1及び2より、積層圧電シートは、本発明が規定する層構成を有すれば、良好な圧電特性および耐水性を示すことがわかった。
一方で、比較例1及び2では、多孔エレクトレットフィルムと接着層とが接着することにより積層圧電シートの起電力が大幅に低下した。
比較例3では、接着層が存在しないため、ラミネート後に電極の位置ずれが起き、電極間が短絡し、起電力が得られなかった。
比較例4では保護フィルムとなる層を有しないため、耐水性が不十分であった。
【符号の説明】
【0086】
10 積層圧電シート
11 保護フィルム
12 接着層
13 電極
14 多孔エレクトレットフィルム
15 電極タブ
図1
図2
図3