(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】炭素繊維シート製造方法、炭素繊維ウェブ製造装置および炭素繊維シート製造装置
(51)【国際特許分類】
D21F 1/00 20060101AFI20240820BHJP
B29B 11/16 20060101ALI20240820BHJP
D04H 1/4242 20120101ALI20240820BHJP
D21H 13/50 20060101ALI20240820BHJP
B29K 105/12 20060101ALN20240820BHJP
【FI】
D21F1/00
B29B11/16
D04H1/4242
D21H13/50
B29K105:12
(21)【出願番号】P 2020155784
(22)【出願日】2020-09-16
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】辻川 一輝
(72)【発明者】
【氏名】池田 勝司
(72)【発明者】
【氏名】松井 純
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-084092(JP,A)
【文献】特開2016-037681(JP,A)
【文献】特開昭53-111105(JP,A)
【文献】特開2004-060116(JP,A)
【文献】特開2006-132074(JP,A)
【文献】特開平01-201596(JP,A)
【文献】特表2003-510472(JP,A)
【文献】特開平09-136969(JP,A)
【文献】特開2007-084964(JP,A)
【文献】特開2017-208542(JP,A)
【文献】特開2018-154095(JP,A)
【文献】特開2016-163956(JP,A)
【文献】特開2013-056985(JP,A)
【文献】特開2016-37580(JP,A)
【文献】特開2016-210960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21F 1/00
B29B 11/16
D04H 1/4242
D21H 13/50
B29K 105/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)抄紙網の表面であって長手方向を有する底面と、各々が前記底面の前記長手方向に沿って伸びる2つの側壁とを備え、かつ、開水路である脱水路を準備すること、(ii)前記抄紙網を前記脱水路の上流端から下流端に向かう方向に走行させながら、前記脱水路の前記上流端側から前記脱水路内に炭素繊維懸濁液を導入すること、および、(iii)前記炭素繊維懸濁液が前記脱水路内を前記上流端側から前記下流端側に向かって流れる間に脱水されることで得られる炭素繊維ウェブを乾燥させること、を含み、
透水性を有さない底面とその底面を挟んで設けられた2つの側壁とを備えた開水路である、導入路が前記脱水路の前記上流端に結合され、
前記導入路が、前記脱水路との継目を下流端とする層流区間を有し、
前記脱水路と前記導入路の継目において、前記導入路の底面の幅が前記脱水路の底面の幅よりも大きく、
前記導入路を通して前記脱水路に前記炭素繊維懸濁液が供給され、
前記導入路内において前記炭素繊維懸濁液中の炭素繊維が流れ方向に配向する、炭素繊維シート製造方法。
【請求項2】
前記脱水路と前記導入路の継目において、前記導入路の液深が前記脱水路の液深の0.8倍以上で
ある、請求項
1に記載の炭素繊維シート製造方法。
【請求項3】
前記導入路の内面の表面粗さRzが5μm以下である、請求項1
または2に記載の炭素繊維シート製造方法。
【請求項4】
前記導入路の底面の幅が、前記導入路における前記炭素繊維懸濁液の液深よりも大きい、請求項1~
3のいずれかに記載の炭素繊維シート製造方法。
【請求項5】
前記導入路の少なくとも一部に前記導入路をサブ路に分割するための仕切りが設けられる、請求項1~
4のいずれかに記載の炭素繊維シート製造方法。
【請求項6】
前記導入路を上面視したとき前記仕切りの下流端が流線形である、請求項
5に記載の炭素繊維シート製造方法。
【請求項7】
前記導入路に設けられた幅員減少部を有する、請求項1~
6のいずれかに記載の炭素繊維シート製造方法。
【請求項8】
前記導入路を上面視したときの、前記脱水路の長手方向に対する前記導入路の底面の側縁の傾斜の最大値が、前記幅員減少部において10~80°で
ある、請求項
7に記載の炭素繊維シート製造方法。
【請求項9】
前記導入路を上面視したとき、前記幅員減少部の上流端において前記導入路の底面の側縁が1mm以上の曲率半径で湾曲している、請求項
7または
8に記載の炭素繊維シート製造方法。
【請求項10】
前記導入路を上面視したとき、前記幅員減少部の下流端において前記導入路の底面の側縁が1mm以上の曲率半径で湾曲している、請求項
7~
9のいずれかに記載の炭素繊維シート製造方法。
【請求項11】
前記導入路の下流端における液深が上流端における液深の0.8~1
倍である、請求項1~
10のいずれかに記載の炭素繊維シート製造方法。
【請求項12】
前記導入路が、上流側から下流側に向かって前記炭素繊維懸濁液の流速が減少する部分を有さない、請求項1~
11のいずれかに記載の炭素繊維シート製造方法。
【請求項13】
前記導入路において、底面と側壁の境界が曲面である、請求項1~
12のいずれかに記載の炭素繊維シート製造方法。
【請求項14】
前記脱水路と前記導入路の継目において、前記脱水路側の底面の幅および液深が、それぞれ、前記導入路側の底面の幅および液深の0.9~1.1倍で
ある、請求項1~
13のいずれかに記載の炭素繊維シート製造方法。
【請求項15】
前記炭素繊維懸濁液が、水と、粘剤と、繊維長が3~100mmの範囲内の炭素短繊維とからなる、請求項1~
14のいずれかに記載の炭素繊維シート製造方法。
【請求項16】
長手方向を有する底面と各々が前記底面の前記長手方向に沿って伸びる2つの側壁とを備え、前記底面が抄紙網の表面である脱水路と、
透水性を有さない底面とその底面を挟んで設けられた2つの側壁とを備え、上流側から下流側に向かって前記底面の幅員が増加する部分を有さず、前記脱水路の上流端に結合された導入路と
を有し、
前記脱水路と前記導入路の継目において、前記導入路の底面の幅が前記脱水路の底面の幅よりも大きく、
前記抄紙網を前記脱水路の上流端から下流端に向かう方向に走行させながら、前記導入路を用いて前記脱水路の前記上流端側から前記脱水路内に炭素繊維懸濁液を導入したとき、前記炭素繊維懸濁液が前記脱水路内を前記上流端側から前記下流端側に向かって流れる間に脱水される、炭素繊維ウェブ製造装置。
【請求項17】
前記脱水路と前記導入路の継目において、前記導入路の底面が前記脱水路の底面と連続しているか、または、前記脱水路の底面より低い位置にある、請求項
16に記載の炭素繊維ウェブ製造装置。
【請求項18】
前記導入路の内面の表面粗さRzが5μm以下である、請求項
16または17に記載の炭素繊維ウェブ製造装置。
【請求項19】
前記導入路の少なくとも一部に前記導入路をサブ路に分割するための仕切りが設けられている、請求項
16~
18のいずれかに記載の炭素繊維ウェブ製造装置。
【請求項20】
前記導入路を上面視したとき前記仕切りの下流端が流線形である、請求項
19に記載の炭素繊維ウェブ製造装置。
【請求項21】
前記導入路に設けられた幅員減少部を有する、請求項
16~
20のいずれかに記載の炭素繊維ウェブ製造装置。
【請求項22】
前記導入路を上面視したときの、前記脱水路の長手方向に対する前記導入路の底面の側縁の傾斜の最大値が、前記幅員減少部において10~80°で
ある、請求項
21に記載の炭素繊維ウェブ製造装置。
【請求項23】
前記導入路を上面視したとき、前記幅員減少部の上流端において前記導入路の底面の側縁が1mm以上の曲率半径で湾曲している、請求項
21または
22に記載の炭素繊維ウェブ製造装置。
【請求項24】
前記導入路を上面視したとき、前記幅員減少部の下流端において前記導入路の底面の側縁が1mm以上の曲率半径で湾曲している、請求項
21~
23のいずれかに記載の炭素繊維ウェブ製造装置。
【請求項25】
前記導入路の底面がひとつの平面である、請求項
16~
24のいずれかに記載の炭素繊維ウェブ製造装置。
【請求項26】
前記導入路において、底面と側壁の境界が曲面である、請求項
16~
25のいずれかに記載の炭素繊維ウェブ製造装置。
【請求項27】
前記脱水路と前記導入路の継目において、前記脱水路側の底面の幅が、前記導入路側の底面の幅の0.9~1.1倍で
ある、請求項
16~
26のいずれかに記載の炭素繊維ウェブ製造装置。
【請求項28】
請求項
16~
27のいずれかに記載の炭素繊維ウェブ製造装置と乾燥機とからなる炭素繊維シート製造装置。
【請求項29】
請求項
28に記載の炭素繊維シート製造装置を用いる、炭素繊維シート製造方法。
【請求項30】
請求項1~
15および
29のいずれかに記載の炭素繊維シート製造方法で炭素繊維シートを製造することと、前記炭素繊維シートを熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂で含浸することとを含む、プリプレグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、炭素繊維シート製造方法、炭素繊維ウェブ製造装置および炭素繊維シート製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維が特定の方向に配向した炭素繊維シートを湿式法で製造する技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の主たる目的は、炭素繊維が配向した炭素繊維シートの製造に適した、炭素繊維シートの製造技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1](i)長手方向を有する底面と各々が前記底面の前記長手方向に沿って伸びる2つの側壁とを備え、前記底面は抄紙網の表面であり、かつ、開水路である脱水路を準備すること、(ii)前記抄紙網を前記脱水路の上流端から下流端に向かう方向に走行させながら、前記脱水路の前記上流端側から前記脱水路内に炭素繊維懸濁液を導入すること、および、(iii)前記炭素繊維懸濁液が前記脱水路内を前記上流端側から前記下流端側に向かって流れる間に脱水されることで得られる炭素繊維ウェブを乾燥させること、を含む炭素繊維シート製造方法。
[2]前記脱水路の底面の幅(W1)に対する前記脱水路の底面の長さ(L)の比率(L/W1)が2以上、3以上、5以上、10以上、15以上、20以上、または30以上である、[1]に記載の炭素繊維シート製造方法。
[3]前記底面が前記上流端側から前記下流端側に向かって上り勾配を有する、[1]または[2]に記載の炭素繊維シート製造方法。
[4]導入路が前記脱水路の前記上流端に結合され、前記導入路は透水性を有さない底面とその底面を挟んで設けられた2つの側壁とを備えた開水路であり、前記導入路を通して前記脱水路に前記炭素繊維懸濁液が供給される、[1]~[3]のいずれかに記載の炭素繊維シート製造方法。
[5]前記脱水路と前記導入路の継目において、前記導入路の底面の幅(W2)が前記脱水路の底面の幅(W1)の0.8倍以上であり、好ましくは0.9倍以上である、[4]に記載の炭素繊維シート製造方法。
[6]前記脱水路と前記導入路の継目において、前記導入路の液深が前記脱水路の液深の0.8倍以上であり、好ましくは0.9倍以上である、[4]または[5]に記載の炭素繊維シート製造方法。
[7]前記脱水路における前記抄紙網の走行速度が、前記脱水路の上流端における前記炭素繊維懸濁液の平均流速の0.75~1.25倍であり、好ましくは0.8~1.2倍であり、より好ましくは0.9~1.1倍である、[4]~[6]のいずれかに記載の炭素繊維シート製造方法。
[8]前記抄紙網の走行速度が1~3m/min、1~5m/min、1~10m/min、1~20m/min、1~40m/minまたは1~80m/minである、[4]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9]前記導入路内において前記炭素繊維懸濁液中の炭素繊維が流れ方向に配向する、[4]~[8]のいずれかに記載の炭素繊維シート製造方法。
[10]前記導入路が、前記脱水路との継目を下流端とする層流区間を有する、[4]~[8]のいずれかに記載の炭素繊維シート製造方法。
[11]前記炭素繊維懸濁液中の炭素繊維を流れ方向に配向させるのに十分な長さを、前記層流区間が有する、[10]に記載の炭素繊維シート製造方法。
[12]前記導入路の内面の表面粗さRzが5μm以下である、[4]~[11]のいずれかに記載の炭素繊維シート製造方法。
[13]前記導入路の底面の幅が、前記導入路における前記炭素繊維懸濁液の液深よりも大きい、[4]~[12]のいずれかに記載の炭素繊維シート製造方法。
[14]前記導入路の少なくとも一部に前記導入路をサブ路に分割するための仕切りが設けられる、[4]~[13]のいずれかに記載の炭素繊維シート製造方法。
[15]前記導入路を上面視したとき前記仕切りの下流端が流線形である、[14]に記載の炭素繊維シート製造方法。
[16]前記導入路に設けられた幅員減少部を有する、[4]~[15]のいずれかに記載の炭素繊維シート製造方法。
[17]前記導入路を上面視したときの、前記脱水路の長手方向に対する前記導入路の底面の側縁の傾斜の最大値が、前記幅員減少部において10~80°であり、好ましくは10~40°であり、より好ましくは10~30°である、[16]に記載の炭素繊維シート製造方法。
[18]前記導入路を上面視したとき、前記幅員減少部の上流端において前記導入路の底面の側縁が1mm以上の曲率半径で湾曲している、[16]または[17]に記載の炭素繊維シート製造方法。
[19]前記導入路を上面視したとき、前記幅員減少部の下流端において前記導入路の底面の側縁が1mm以上の曲率半径で湾曲している、[16]~[18]のいずれかに記載の炭素繊維シート製造方法。
[20]前記導入路の上流端における液深が下流端における液深の0.8~1倍、好ましくは0.9~1倍、より好ましくは0.95~1倍である、[4]~[19]のいずれかに記載の炭素繊維シート製造方法。
[21]前記導入路が、上流側から下流側に向かって前記炭素繊維懸濁液の流速が減少する部分を有さない、[4]~[20]のいずれかに記載の炭素繊維シート製造方法。
[22]前記導入路において、底面と側壁の境界が曲面である、[4]~[21]のいずれかに記載の炭素繊維シート製造方法。
[23]前記脱水路と前記導入路の継目において、前記導入路の底面の幅および液深が、それぞれ、前記脱水路の底面の幅および液深の0.9~1.1倍であり、好ましくは0.9~1倍であり、より好ましくは0.95~1倍である、[9]~[22]のいずれかに記載の炭素繊維シート製造方法。
[24]前記炭素繊維懸濁液が、水と、粘剤と、繊維長が3~100mmの範囲内の炭素短繊維とからなる、[1]~[23]のいずれかに記載の炭素繊維シート製造方法。
[25]前記炭素繊維懸濁液が、12~50mmの範囲内の繊維長を有する炭素短繊維を含有する、[24]に記載の炭素繊維シート製造方法。
[26]前記炭素繊維懸濁液が含有する繊維長3~100mmの炭素短繊維のうち、95wt%以上が繊維長を12~50mmの範囲内に有する、[25]に記載の炭素繊維シート製造方法。
[27]前記炭素繊維懸濁液がポリアクリルアミドを含有する、[1]~[26]のいずれかに記載の炭素繊維シート製造方法。
[28]長手方向を有する底面と各々が前記底面の前記長手方向に沿って伸びる2つの側壁とを備え、前記底面が抄紙網の表面である脱水路を有し、前記抄紙網を前記脱水路の上流端から下流端に向かう方向に走行させながら、前記脱水路の前記上流端側から前記脱水路内に炭素繊維懸濁液を導入したとき、前記炭素繊維懸濁液が前記脱水路内を前記上流端側から前記下流端側に向かって流れる間に脱水される、炭素繊維ウェブ製造装置。
[29]前記脱水路の底面の幅(W1)に対する前記脱水路の底面の長さ(L)の比率(L/W1)が2以上、3以上、5以上、10以上、15以上、20以上、または30以上である、[28]に記載の炭素繊維ウェブ製造装置。
[30]前記底面が前記上流端側から前記下流端側に向かって上り勾配を有している、[28]または[29]に記載の炭素繊維ウェブ製造装置。
[31]導入路が前記脱水路の前記上流端に結合され、前記導入路は透水性を有さない底面とその底面を挟んで設けられた2つの側壁とを備えた開水路であり、前記導入路を通して前記脱水路に前記炭素繊維懸濁液が供給される、[28]~[30]のいずれかに記載の炭素ウェブ製造装置。
[32]前記脱水路と前記導入路の継目において、前記導入路の底面の幅(W2)が前記脱水路の底面の幅(W1)の0.8倍以上であり、好ましくは0.9倍以上である、[31]に記載の炭素繊維ウェブ製造装置。
[33]前記脱水路と前記導入路の継目において、前記導入路の底面が前記脱水路の底面と連続しているか、または、前記脱水路の底面より低い位置にある、[31]または[32]に記載の炭素繊維ウェブ製造装置。
[34]前記導入路の内面の表面粗さRzが5μm以下である、[31]~[33]のいずれかに記載の炭素繊維ウェブ製造装置。
[35]前記導入路の少なくとも一部に前記導入路をサブ路に分割するための仕切りが設けられている、[31]~[34]のいずれかに記載の炭素繊維ウェブ製造装置。
[36]前記導入路を上面視したとき前記仕切りの下流端が流線形である、[35]に記載の炭素繊維ウェブ製造装置。
[37]前記導入路に設けられた幅員減少部を有する、[31]~[36]のいずれかに記載の炭素繊維ウェブ製造装置。
[38]前記導入路を上面視したときの、前記脱水路の長手方向に対する前記導入路の底面の側縁の傾斜の最大値が、前記幅員減少部において10~80°であり、好ましくは10~40°であり、より好ましくは10~30°である、[37]に記載の炭素繊維ウェブ製造装置。
[39]前記導入路を上面視したとき、前記幅員減少部の上流端において前記導入路の底面の側縁が1mm以上の曲率半径で湾曲している、[37]または[38]に記載の炭素繊維ウェブ製造装置。
[40]前記導入路を上面視したとき、前記幅員減少部の下流端において前記導入路の底面の側縁が1mm以上の曲率半径で湾曲している、[37]~[39]のいずれかに記載の炭素繊維ウェブ製造装置。
[41]前記導入路の底面がひとつの平面である、[31]~[40]のいずれかに記載の炭素繊維ウェブ製造装置。
[42]前記導入路が、上流側から下流側に向かって底面の幅員が増加する部分を有さない、[31]~[41]のいずれかに記載の炭素繊維ウェブ製造装置。
[43]前記導入路において、底面と側壁の境界が曲面である、[31]~[42]のいずれかに記載の炭素繊維ウェブ製造装置。
[44]前記脱水路と前記導入路の継目において、前記導入路の底面の幅が、前記脱水路の底面の幅の0.9~1.1倍であり、好ましくは0.9~1倍であり、より好ましくは0.95~1倍である、[31]~[43]のいずれかに記載の炭素繊維ウェブ製造装置。
[45][28]~[44]のいずれかに記載の炭素繊維ウェブ製造装置と乾燥機とからなる炭素繊維シート製造装置。
[46][45]に記載の炭素繊維シート製造装置を用いる、炭素繊維シート製造方法。
[47][1]~[27]および[46]のいずれかに記載の炭素繊維シート製造方法で炭素繊維シートを製造することと、前記炭素繊維シートを熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂で含浸することとを含む、プリプレグの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
炭素繊維が配向した炭素繊維シートの製造に適した、炭素繊維シートの製造技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、脱水路の基本構成を示す模式図であり、
図1(a)は上面図、
図1(b)は
図1(a)中の破線X-Xの位置における断面図である。
【
図3】
図3は、炭素繊維シート製造装置の一例を示す模式図である。
【
図4】
図4は、底面を傾斜させた脱水路を示す模式図である。
【
図6】
図6は、炭素繊維シート製造装置の一例を示す模式図である。
【
図7】
図7は、脱水路と導入路の接続部を示す模式図である。
【
図8】
図8は、導入路の一態様を説明するための模式図である。
【
図9】
図9は、導入路の一態様を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施形態は、以下に説明する脱水路(dewatering channel)内で炭素繊維懸濁液を脱水して炭素繊維ウェブを得ることを特徴とする炭素繊維シート製造方法に関する。
図1は脱水路の基本構成を示す模式図で、
図1(a)は上面図、
図1(b)は
図1(a)中の破線X-Xの位置における断面図である。
図1に示すように、脱水路10は、長手方向を有する底面11と、それぞれが底面11の長手方向に沿って延びる2つの側壁12、12とを備える開水路(open channel)であり、炭素繊維懸濁液は底面11の長手方向に沿って脱水路10内を一方向に流れることが可能である。
【0009】
本明細書にいう開水路は、自由液面(free surface)が形成されるように使用される流路と定義される。従って、脱水路10の形状は管であってもよいが、その場合には、脱水路10内が炭素繊維懸濁液で充たされないように、すなわち、液面が側壁12の上端に達しないように、脱水路10内を流れる炭素繊維懸濁液の流量が調整される。
【0010】
脱水路10の底面11は、抄紙網(mesh belt)13の表面である。ただし、
図1では、抄紙網13のうち脱水路10を構成していない部分の図示を省略している。
図2に示すように、抄紙網13は無端ベルトであり、その一部が脱水路10の底面11を形成している。
脱水路10の一方の端を上流端101、他方の端を下流端102と呼ぶとき、実施形態に係る炭素繊維シート製造方法では、上流端101側から脱水路10内に炭素繊維懸濁液が導入される。
図2中の太矢印は、脱水路10内における炭素繊維懸濁液の流動方向であると同時に、脱水路10における抄紙網13の走行方向である。すなわち、脱水路10の底面は、脱水路10内における炭素繊維懸濁液の移動方向と同じ方向に走行する抄紙網13の表面である。
【0011】
炭素繊維懸濁液の移動方向と抄紙網13の走行方向が同じであることから、炭素繊維懸濁液が脱水路10内に流入するときに渦が発生し難く、脱水路10内における炭素繊維懸濁液の流れは層流となり易い。
炭素繊維懸濁液が層流をなして脱水路10内を上流端101から下流端102に向かって流れるとき、側壁12に近づくほど流速が小さいために、炭素繊維懸濁液中の炭素繊維にはせん断力が作用する。このせん断力の作用で、炭素繊維は炭素繊維懸濁液の流動方向に引き伸ばされるとともに、繊維方向が該流動方向と一致するように配向する。
【0012】
図1に示す脱水路10を用いた炭素繊維シート製造装置の一例を
図3に示す。
図3を参照すると、リザーバー30に貯えられた炭素繊維懸濁液は流路を通して脱水路10に供給される。脱水路10の上流端101側に導入された炭素繊維懸濁液は、脱水路10内を下流端102側に向かって流れる間に脱水され、それに伴い炭素繊維ウェブが形成される。脱水を促進するために、脱水路10の下には吸引ボックス40が設置される。
吸引ボックス40は、脱水路10の流れ方向に沿って吸引量を変えることが可能であり、下流側に向かって吸引量を多くしていくことにより、脱水路10内での炭素繊維懸濁液の逆流を防止することができる。
脱水路10で形成された炭素繊維ウェブは、従来公知の手段でフェルトに転写された後、乾燥機50に送られて乾燥されることにより炭素繊維シートとなる。
【0013】
一例では、脱水路10内における炭素繊維懸濁液の流れが層流となることにより炭素繊維が配向し、その状態で炭素繊維懸濁液が脱水され炭素繊維ウェブが形成される。
他の一例では、リザーバー30に貯えられた炭素繊維懸濁液が、リザーバー30に接続された流路に流入するとき、炭素繊維懸濁液中の炭素繊維が該流路に沿って配向し、その状態で炭素繊維懸濁液が脱水路10に流入し、脱水されて炭素繊維ウェブが形成される。
これらの例において、脱水路10で形成された炭素繊維ウェブを乾燥させて得られる炭素繊維シートは、炭素繊維が配向したものとなる。
【0014】
再び
図1を参照して、脱水路10の好ましい設計について説明する。
脱水路10の底幅W1(底面11の幅)は、製造すべき炭素繊維シートのサイズに応じて適宜定めればよく、例えば0.3~1cm、1~5cm、5~10cm、10~25cm、25~50cm、50~100cm、1~2m、2~3mなどであり得るが、特に限定されるものではない。
底幅W1が大きい程、脱水路10内を流れる炭素繊維懸濁液と側壁12との間の摩擦が流れの性質に与える影響が小さくなるため、脱水路10内で渦が発生し易くなる。従って、底幅W1を大きくするときは、それに応じて脱水路10内における炭素繊維懸濁液の液深(depth)を小さくすることが、渦の発生を防止するうえで好ましい。
【0015】
脱水路10内における炭素繊維懸濁液の液深は、脱水路10の上流端101において最大であるから、脱水路10の底幅W1が例えば1cmのときは、脱水路10の上流端101において炭素繊維懸濁液の液深が3cm以下であることが好ましく、脱水路10の底幅W1が例えば5cm以上のときは、脱水路10の上流端101において炭素繊維懸濁液の液深が2cm以下であることが好ましい。ただし、好ましい液深は炭素繊維懸濁液の粘度や流速に応じて変わり得る。
【0016】
脱水路10内では上流端101から下流端102に近づく程、脱水に伴って炭素繊維懸濁液の液深が小さくなる他、炭素繊維濃度の上昇に伴って炭素繊維懸濁液の流れの性質が変わる。脱水速度が大きい程、これらの変化は急激なものとなるため、脱水路10内における炭素繊維懸濁液の流れが乱れ易い傾向が生じる。
従って、脱水速度を必要なだけ小さくできるように、脱水路10の長さLを確保することが望ましい。脱水路10が十分に長ければ、脱水速度が低くても脱水路10内で炭素繊維懸濁液の脱水を完了させることができる。
底面11の長手方向に炭素繊維懸濁液が流れるように脱水路10を構成するのは、この理由による。
【0017】
脱水路10内で渦が発生するのを防止するための有効な対策として、炭素繊維懸濁液の液深を小さくすることと、炭素繊維懸濁液の流量を小さくすることが挙げられる。これらの対策は、底幅W1が大きいとき、すなわち、流れの性質に与える側壁12の影響が小さいときに、特に有効である。
一方で、脱水路10の長さLが同じであれば、液深が小さいほど、また、流量が小さいほど、炭素繊維懸濁液を脱水して得られる炭素繊維ウェブの単位面積当たり重量は小さくなり、炭素繊維シートの生産効率が低下する。
従って、渦の発生を防止しつつも生産効率を低下させないためには、脱水路10の底幅W1に対する脱水路10の長さLの比率L/W1を大きくすることが好ましい。該比率L/W1は例えば2以上、更には3以上、更には5以上、更には10以上、更には15以上、更には20以上、更には30以上とすることができる。
【0018】
脱水路10では脱水に伴って炭素繊維懸濁液の液深が上流端101から下流端102に向かって減少するところ、それによる液面の傾斜が相殺されるよう、
図4に示すように、脱水路10の底面11を傾斜させてもよい。すなわち、底面11を上流端101側から下流端102側に向かって上り坂とすることにより、脱水路10内において炭素繊維懸濁液の液面を水平に近づけることができる。
液面を水平に近づけることは、脱水路10内での炭素繊維懸濁液の流れを安定化させるうえで有利である。
【0019】
脱水路10において、側壁12が底面11に対し垂直であることは必須ではない。一例では、乱流を発生し難くするために、
図5に断面を示すように、底面11と隣接する部分において側壁12の内面を湾曲させることができる。
【0020】
図1に示す脱水路10を用いた炭素繊維シート製造装置の好適例を
図6に示す。
図6に示す炭素繊維シート製造装置が
図3に示す炭素繊維シート製造装置と異なる点は、炭素繊維懸濁液がリザーバー30から導入路20を介して脱水路10に供給される点である。
導入路20は、
図7に示すように、脱水路10の上流端101に結合される開水路であり、透水性を有さない底面21と、底面21を挟んで設けられた2つの側壁22、22とを備える。
脱水路10と導入路20は共に開水路であるため、脱水路10の液面と導入路20の液面は連続している。このことは、上流端101近傍で脱水路10内に乱流が発生し難くするうえで有利である。
【0021】
脱水路10と導入路20の継目Aにおいて、導入路20の底幅(底面の幅)W2が脱水路10の底幅W1と同程度か、それよりも大きいこと、および、導入路20の液深が脱水路10の液深と同程度か、それよりも大きいことは、上流端101近傍で脱水路10内に乱流を発生し難くするうえで有利である。ここでいう同程度とは、脱水路10側の底幅または液深が、導入路20側の0.8~1.2倍、好ましくは0.9~1.1倍であることを意味する。
【0022】
抄紙網13の走行速度と、脱水路10の上流端101における炭素繊維懸濁液の平均流速とを一致させることも、上流端101近傍で脱水路10内に乱流が発生し難くするうえで有利である。
具体的には、抄紙網13の走行速度は、好ましくは該平均流速の0.75~1.25倍であり、より好ましくは該平均流速の0.8~1.2倍であり、更に好ましくは該平均流速の0.9~1.1倍である。
ここで、脱水路10の上流端101における炭素繊維懸濁液の平均流速とは、脱水路10に導入される炭素繊維懸濁液の体積流量を、該上流端101における炭素繊維懸濁液流の断面積で除算した値をいう。
生産効率の観点からは、抄紙網13の走行速度を1m/min以上とすることが好ましく、脱水路10内で炭素繊維懸濁液の流れが著しく乱れない限り、3m/min、5m/min、10m/min、20m/min、40m/min、80m/minなどといった走行速度を採用してもよい。
【0023】
好適例では、導入路20内において炭素繊維懸濁液中の炭素繊維を流れ方向に配向させることができる。予め導入路20内で炭素繊維を配向させ、その配向が保たれるように炭素繊維懸濁液を脱水路10に導入して炭素繊維ウェブを形成することにより、炭素繊維がよりよく配向した炭素繊維シートを得ることができる。
【0024】
導入路20内において炭素繊維懸濁液中の炭素繊維を流れ方向に配向させる方法のひとつは、導入路20に、層流区間Bを設けることである。層流区間Bの下流端は導入路20と脱水路10との継目Aである。層流区間B内では、炭素繊維懸濁液が層流をなして導入路20内を流れる。なお、一時的に流れが乱れても、直ぐに層流に復帰する場合には、その流れは層流であるとみなす。
層流区間Bでは底面21および側壁22に近づくほど流速が小さいために、炭素繊維懸濁液中の炭素繊維にはせん断力が作用する。このせん断力の作用で、炭素繊維は流動方向に引き伸ばされるとともに、繊維方向が該流動方向に一致するように配向する。
この場合、区間内で炭素繊維が配向するうえで十分な長さを層流区間Bが有することが必要である。
【0025】
層流が形成されるのはレイノルズ数が比較的小さいときであることはよく知られている。従って、層流を利用して炭素繊維を配向させるには、層流区間Bにおける炭素繊維懸濁液の流れが持つレイノルズ数が小さくなるように、導入路20を設計し、また、炭素繊維懸濁液の粘度と流量を調節すればよい。
炭素繊維懸濁液の流速を下げることは層流の形成にとって有利である一方で、炭素繊維シートの生産性を低下させる方向にも働く。そのため、炭素繊維懸濁液の流速を下げずに、層流の形成を促す工夫が求められる。
【0026】
層流が形成されるには、底面21および側壁22の表面を含む導入路20の内面が滑らかな方が有利である。従って、導入路20の内面の表面粗さRzは、好ましくは5μm以下である。
層流の形成を促進するひとつの方法は、導入路20における炭素繊維懸濁液の液深を小さくことである。単に液深を小さくすると流量が小さくなるので、この方法を採用する場合には、併せて導入路20の底幅W2を広くすることが望ましい。従って、導入路20においては、底幅W2が炭素繊維懸濁液の液深よりも大きいことが好ましい。
【0027】
他の方法では、
図8に示すように、導入路20を複数のサブ路20Sに分割するための仕切り23を設けてもよい。流れの断面積を小さくすることは、層流を形成するうえで有利に働く。
図8の例では、複数のサブ路20Sからの流れが合流する部分で乱流が生じるのを防ぐために、仕切り23の下流端が流線形とされている。
【0028】
図9に例示する幅員減少部Cを導入路20に設けることは、炭素繊維懸濁液中の炭素繊維を配向させるうえで極めて有利である。
幅員減少部Cでは、その上流端c1から下流端c2にかけて底幅W2が狭くなっており、下流側に向かうにつれて炭素繊維懸濁液の流速が増加している。そのため、炭素繊維は幅員減少部Cを通過するとき炭素繊維懸濁液の流動方向に引っ張られ、その長手方向が該流動方向と一致するように配向する。
【0029】
導入路20を上面視したときの、脱水路10の長手方向に対する底面21の側縁21aの傾斜θの最大値は、幅員減少部Cにおいて例えば10~80°である。好ましくは該最大値が10~40°のとき、より好ましくは10~30°のとき、炭素繊維をより効果的に配向させることができる。
導入路20を上面視したとき、幅員減少部Cの上流端c1および下流端c2において底面21の側縁21aを屈曲させないで、1mm以上の曲率半径で湾曲させることが、乱流を発生し難くするうえで好ましい。
幅員減少部Cにおいて、導入路20の底面21の平面形状は必ずしも線対称であることを要さない。
【0030】
導入路20に設けることのできる幅員減少部Cの数はひとつに限定されるものではなく、2以上であってもよい。
図9の例では、導入路20が幅員減少部Cの上流側と下流側にそれぞれ幅員一定の部分を有するが、必須ではない。導入路20の上流端が幅員減少部Cの上流端c1であってもよいし、あるいは、導入路20の下流端が幅員減少部Cの下流端c2であってもよく、一例では、導入路20全体が幅員減少部Cであってもよい。
【0031】
導入路20内においては、液深が均一に近い方が、乱流が発生し難くなることから、その下流端における液深は好ましくは上流端の0.8~1倍であり、より好ましくは0.9~1倍、更に好ましくは0.95~1倍である。同じ理由から、導入路20の底面21はひとつの平面であることが好ましいが、必須ではない。例えば、幅員減少部Cの上流端c1から下流端c2にかけて液深が小さくなるように、底面21が下流側に向かって上り勾配を有していてもよい。
【0032】
導入路20には、上流側から下流側に向かって流速が減少する部分が存在しないことが好ましい。かかる部分を通過するとき、炭素繊維の流れ方向の配向が崩れる傾向があるからである。
上流側から下流側に向かって流速が減少し得る部分として、例えば、上流側から下流側に向かって底幅が広がる部分や、上流側から下流側に向かって液深が増加する部分が挙げられる。
【0033】
導入路20において、側壁22が底面11に対し垂直であることは必須ではない。一例では、乱流を発生し難くするために、
図10に断面を示すように、底面21と側壁22との境界を曲面としてもよい。
【0034】
導入路20内で炭素繊維を配向させるときは、脱水路10と導入路20の境界で乱流を発生させないことが特に重要であり、そのためには脱水路10と導入路20の継目Aで脱水路10側と導入路20の底幅と液深を一致させることが好ましい。具体的には、脱水路10側の底幅および液深は、それぞれ、導入路20側の0.9~1.1倍であることが好ましく、0.9~1倍であることがより好ましく、0.95~1倍であることが更に好ましい。
【0035】
炭素繊維懸濁液は、例えば、粘剤の水溶液に分散剤と繊維長が3~100mmの範囲内の炭素短繊維を加えて得られる原液を、水で希釈することにより調製することができる。
炭素繊維懸濁液が含有する炭素短繊維は、繊維長が12~50mmの範囲内の成分を含むことが好ましい。より好ましいのは、炭素繊維懸濁液が含有する繊維長3~100mmの炭素短繊維のうち95wt%以上が繊維長を12~50mmの範囲内に有することである。
【0036】
繊維長が12mm以上の炭素短繊維は、前述の方法により配向させ易く、また、配向した状態が比較的安定である。ただし、繊維長が50mmを超える炭素短繊維の含有量が多くなると、炭素短繊維同士の絡まり合いが発生し易くなる。炭素短繊維同士の絡まり合いは、製造される炭素繊維シートの外観を悪化させる。炭素短繊維同士の絡まり合いの程度によっては、炭素繊維懸濁液をリザーバーから送り出すポンプの詰まりが引き起こされることもある。
炭素繊維懸濁液が含有する炭素短繊維は、一部または全部が、炭素繊維廃棄物または炭素繊維複合材料廃棄物からリサイクルされたものであってもよい。
【0037】
粘剤には、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミドなどの水溶性ポリマーを成分とする一般的な抄紙用粘剤を用いることができる。
粘剤の水溶液における粘剤濃度は、調製すべき炭素繊維懸濁液の粘度に応じて決定すればよく、特に限定されないが、例えば0.3wt%程度とすることができる。
【0038】
本発明者等の実験検討によれば、使用する粘剤によってはスネークポンプ内で炭素繊維懸濁液から細かい泡が多量に発生するために消泡剤の併用が必須であったが、ポリアクリルアミドを成分とする粘剤を用いた炭素繊維懸濁液には消泡剤を添加する必要がなかった。
スネークポンプ内で発生する細かい泡は消え難く、炭素繊維の表面に付着してその自由な運動を邪魔するという、好ましくない働きをする。
【0039】
分散剤は例えば界面活性剤であり、炭素繊維の水への分散性を改善するために用いられる。
一例では、原液における炭素繊維含有量を約0.1wt%とし、これを希釈して炭素繊維含有量0.03wt%の炭素繊維懸濁液を得ることができる。
【0040】
実施形態に係る炭素繊維シート製造方法は、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)やCFRTP(炭素繊維強化熱可塑性プラスチック)のような炭素繊維複合材料のための強化材の製造に使用することができる。
例えば、実施形態に係る炭素繊維シート製造方法で製造した炭素繊維シートを、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂で含浸させることにより、プリプレグを製造することができる。
【0041】
以上、本発明を具体的な実施形態に即して説明したが、各実施形態は例として提示されたものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書に記載された各実施形態は、発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、様々に変形することができ、かつ、実施可能な範囲内で、他の実施形態により説明された特徴と組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0042】
10 脱水路
11 底面
12 側壁
13 抄紙網
101 上流端
102 下流端
20 導入路
20S サブ路
21 底面
22 側壁
23 仕切り
30 リザーバー
40 吸引ボックス
50 乾燥機
A 継目
B 層流区間
C 幅員減少部