(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】ニッケル粒子、ニッケル粒子の表面処理方法およびニッケル粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20240820BHJP
H01B 5/00 20060101ALI20240820BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
B22F1/00 M
H01B5/00 E
H01B13/00 501Z
(21)【出願番号】P 2020162089
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2020057421
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】松村 吉章
(72)【発明者】
【氏名】宮内 恭子
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-102393(JP,A)
【文献】特開2018-131681(JP,A)
【文献】特開2017-199672(JP,A)
【文献】特開2014-028991(JP,A)
【文献】国際公開第2019/107501(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/047760(WO,A1)
【文献】特開2003-342607(JP,A)
【文献】特開2015-178669(JP,A)
【文献】特開昭60-242467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-8/00
C22C 19/00
H01B 5/00
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンを含有するルイス塩基および窒素を含有するルイス塩基がニッケル粒子の表面に存在しており、
前記リンを含有するルイス塩基および前記窒素を含有するルイス塩基の合計量と、前記ニッケル粒子との質量比が、0.16~3.0:100である、ルイス塩基含有ニッケル粒子
からなる乾燥状態のニッケル粉末。
【請求項2】
前記リンを含有するルイス塩基および前記窒素を含有するルイス塩基がニッケル粒子の表面に配位結合する、請求項1に記載
のニッケル
粉末。
【請求項3】
前記リンを含有するルイス塩基の含有量と前記窒素を含有するルイス塩基の含有量との質量比が、99.5:0.5~0.5:99.5である、請求項1または2に記載
のニッケル
粉末。
【請求項4】
前記リンを含有するルイス塩基が、下記式(1)で示すリン酸エステル、ポリリン酸エステル、または(2)で示すリン酸エステル、リン酸ポリエステルを含む、請求項1~3のいずれかに記載
のニッケル
粉末。
【化1】
(式(1)中、nは1~5の自然数であり、R
1は、Hまたは炭素数が7~15のアルキル基を示し、R
2は、炭素数が7~15のアルキル基または式(A)で示すtert-ブチル基を示す。
式(2)中、mは1~5の自然数であり、R
3は、Hまたは炭素数が7~15のアルキル基を示し、R
4は、炭素数が7~15のアルキル基または式(A)で示すtert-ブチル基を示す。)。
【請求項5】
前記窒素を含有するルイス塩基が、下記式(3)で表される化合物を含む、請求項1~4のいずれかに記載
のニッケル
粉末。
【化2】
(式(3)中、R
5は炭素数が1~18のアルキル基または炭素数が1~18のアルケニル基を示し、R
6は炭素数が1~6のアルキレン基を示し、R
7およびR
8はHもしくはCH
3を示す)
【請求項6】
前記窒素を含有するルイス塩基が、N-オレオイルサルコシン、N-ラウロイルサルコシン、およびミリストイルメチル-β-アラニンから選択された1種類以上を含む、請求項1~5のいずれかに記載
のニッケル
粉末。
【請求項7】
前記ルイス塩基含有ニッケル粒子の数平均粒径が0.03μm~0.4μmであり、
粒径が0.8μmを超える粒子の含有量が400質量ppm以下であり、
粒径が1.2μmを超える粒子の含有量が200質量ppm以下である、請求項1~6のいずれかに記載
のニッケル
粉末。
【請求項8】
ニッケル粒子と、リンを含有するルイス塩基および窒素を含有するルイス塩基とを混合する混合工程を含む、
請求項1~7のいずれかに記載のルイス塩基含有ニッケル粒子の表面処理方法。
【請求項9】
請求項8に記載の混合工程後、表面処理されたニッケル粒子を乾燥させる乾燥工程を含む、ニッケル粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル粒子、ニッケル粒子の表面処理方法およびニッケル粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル粒子は、厚膜導電体を作製するための導電ペーストの材料として使用され、電気回路の形成や、積層セラミックコンデンサ(multilayer ceramic capacitors;MLCC)および多層セラミック基板等の積層セラミック部品の電極等に用いられている。
【0003】
この電極が使用されるMLCCは、例えば、金属粉末にニッケル粒子を用いた場合は、次のような方法で製造される。
【0004】
まず、ニッケル粒子と、エチルセルロース等の樹脂と、ターピネオール等の有機溶剤等とを混練して得られた導電ペーストを、厚さ10μm以下の誘電体グリーンシート(セラミックグリーンシート)上にスクリーン印刷し、その後乾燥して内部電極用のニッケル塗膜を作製する。
【0005】
次に、印刷された内部電極用のニッケル塗膜と誘電体グリーンシートが交互に重なるように積層し、圧着して積層体を作製する。
【0006】
作製した積層体を所定の大きさにカットし、有機バインダとして使用したエチルセルロース等の樹脂の燃焼除去を行うための脱バインダ処理を行った後、1300℃程度の高温焼成による誘電体、および内部電極(ニッケル膜)の焼結を進め、誘電体層と内部電極層が互いに積層したセラミック体を得る。そして、このセラミック体に外部電極を取り付け、積層セラミックコンデンサとする。
【0007】
なお、上記積層体の脱バインダ処理は、ニッケル粒子が酸化しないように、極めて微量の酸素を含んだ雰囲気下にて行われる。
【0008】
一般に、MLCCの内部電極に使用されるニッケルペーストは、ビヒクル中にニッケル粉末を混練して製造され、多くのニッケル粉末の凝集体を含んでいる。ニッケル粉末の製造プロセスでは、その最終段階に、ニッケル粉末の製造方法(気相法、液相法)を問わずに乾燥工程を有するのが通常である。この乾燥工程における乾燥処理が、ニッケル粒子の凝集を促すことから、得られるニッケル粉末には乾燥時に生じた凝集体が粗大粒子となって含まれていることが一般的である。
【0009】
近年のMLCCは、小型で大容量化を達成させるために、内部電極層を伴ったセラミックグリーンシートの積層数を、数百層から1000層程度にまで増加させることが要求されている。このため、内部電極層の厚みを従来の数ミクロンレベルからサブミクロンレベルに薄層化する検討がなされており、それに伴い、内部電極用の電極材料のニッケル粉の小粒径化が進められている。
【0010】
しかしながら、小粒径になるほどニッケル粉の表面積は大きくなり、それに伴い表面エネルギーが大きくなって、凝集体を形成し易くなる。また、ニッケル粉末等の金属粉末は、分散性が悪く、凝集体が存在するようになると、MLCC製造時における焼成工程でニッケル粉末が焼結する際にセラミックシート層を突き抜けてしまい、電極が短絡した不良品が発生するおそれがある。また、たとえセラミックシート層を突き抜けない場合であっても、MLCCにおける電極間距離が短くなることで部分的な電流集中が発生する場合があり、この電流集中が積層セラミックコンデンサの寿命劣化の原因となっていた。このように、MLCCにおいては、凝集体を含めた粗大粒子が少ないニッケルペーストを製造し、表面に凹凸がなく平滑な内部電極を得ることが重要となっている。また、ニッケル粒子の凝集体の存在により、製品不良を引き起こす可能性が懸念されていることから、凝集体が発生しないようニッケル粒子の表面状態の改善が望まれている。
【0011】
特許文献1には、ニッケル粒子の表面の酸化処理についての技術が開示されており、液相法で作製したニッケル粉を純水に添加してスラリー化してから、過酸化水素で酸化することの技術事項が開示されている。しかし、過酸化水素による表面酸化処理は水系で実施する必要があり、表面処理剤として非水系である有機化合物を使用する場合は適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ニッケル粉末は、保管しておくと経時にて空気中の酸素により酸化されて表面に水酸化ニッケルを形成する場合がある。ニッケル粒子の粗大粒子は、表面の水酸化ニッケルによって隣接するニッケル粒子同士が強固に固められることによって発生する場合がある。そのため、特にMLCCに用いるニッケル粉末は、保管中の酸化による粗大粒子の発生によって不具合が生じないよう、ニッケル粉末の保管中の酸化を抑制することが重要となる。
【0014】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、保管中の酸化による粗大粒子の発生が抑制されるニッケル粒子、ニッケル粒子の表面処理方法およびニッケル粉末の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、ニッケル粒子をルイス塩基化合物により被覆することで、ニッケル粒子の凝集を抑制できることで、粗大粒子の発生を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
上記課題を解決するために、本発明のルイス塩基含有ニッケル粒子は、リンを含有するルイス塩基および窒素を含有するルイス塩基がニッケル粒子の表面に存在しており、前記リンを含有するルイス塩基および前記窒素を含有するルイス塩基の合計量と、前記ニッケル粒子との質量比が、0.16~3.0:100である。
【0017】
前記リンを含有するルイス塩基および前記窒素を含有するルイス塩基がニッケル粒子の表面に配位結合してもよい。
【0018】
前記リンを含有するルイス塩基の含有量と前記窒素を含有するルイス塩基の含有量との質量比が、99.5:0.5~0.5:99.5であってもよい。
【0019】
前記リンを含有するルイス塩基が、下記式(1)で示すリン酸エステル、ポリリン酸エステルまたは(2)で示すリン酸エステル、リン酸ポリエステルを含んでもよい。
【0020】
【0021】
(式(1)中、nは1~5の自然数であり、R1は、Hまたは炭素数が7~15のアルキル基を示し、R2は、炭素数が7~15のアルキル基または式(A)で示すtert-ブチル基を示す。
式(2)中、mは1~5の自然数であり、R3は、Hまたは炭素数が7~15のアルキル基を示し、R4は、炭素数が7~15のアルキル基または式(A)で示すtert-ブチル基を示す。)
【0022】
前記窒素を含有するルイス塩基が、下記式(3)で表される化合物を含んでもよい。
【0023】
【0024】
式(3)中、R5は炭素数が1~18のアルキル基または炭素数が1~18のアルケニル基を示し、R6は炭素数が1~6のアルキレン基を示し、R7およびR8はHもしくはCH3を示す。
【0025】
前記窒素を含有するルイス塩基が、N-オレオイルサルコシン、N-ラウロイルサルコシン、およびミリストイルメチル-β-アラニンから選択された1種類以上を含んでもよい。
【0026】
本発明のルイス塩基含有ニッケル粒子は、数平均粒径が0.03μm~0.4μmであり、粒径が0.8μmを超える粒子の含有量が400質量ppm以下であり、粒径が1.2μmを超える粒子の含有量が200質量ppm以下であってもよい。
【0027】
また、上記課題を解決するために、本発明のニッケル粒子の表面処理方法は、ニッケル粒子と、リンを含有するルイス塩基および窒素を含有するルイス塩基とを混合する混合工程を含む。
【0028】
また、上記課題を解決するために、本発明のニッケル粉末の製造方法は、上記の混合工程後、表面処理されたニッケル粒子を乾燥させる乾燥工程を含む。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、保管中の酸化による粗大粒子の発生が抑制されるニッケル粒子、ニッケル粒子の表面処理方法およびニッケル粉末の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明のニッケル粒子の表面処理方法とニッケル粉末の製造方法とを一連の工程として示したフロー図である。
【
図2】実施例1および比較例2のニッケル粒子のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明のニッケル粒子の表面処理方法とニッケル粉末の製造方法とを一連の工程として示したフロー図である。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0032】
[ニッケル粒子の表面処理方法]
〈表面処理対象となるニッケル粒子〉
表面処理の対象となるニッケル粒子としては、湿式法や乾式法等の製法を問わずに種々のニッケル粉末を使用することができる。例えば、CVD法、蒸発急冷法、ニッケル塩やニッケル水酸化物等を用いた水素還元法等のいわゆる乾式法によるニッケル粉末を、処理対象のニッケル粒子として用いることができる。また、ニッケル塩溶液に対してヒドラジン等の還元剤を用いた湿式還元法等のいわゆる湿式法によるニッケル粉末を、処理対象のニッケル粒子として用いることができる。その中でも、湿式還元法等のいわゆる湿式法によるニッケル粉は、球状で粒子径のバラつきが小さいことから、MLCC用の材料として好適である。
【0033】
〈混合工程〉
ニッケル粒子の表面処理方法は、ニッケル粒子と、リンを含有するルイス塩基および窒素を含有するルイス塩基とを混合する混合工程を含む。混合工程により、ニッケル粒子の表面を、窒素を含有するルイス塩基で表面処理することができる。
【0034】
(ニッケルスラリー)
前記リンを含有するルイス塩基および前記窒素を含有するルイス塩基を用いてニッケル粒子を表面処理する方法としては、アルコールを含む各種溶剤を媒体とした湿式混合により、ニッケル粒子とリンを含有するルイス塩基および窒素を含有するルイス塩基とを接触させる方法が挙げられる。即ち、アルコールを含む各種溶剤にニッケル粒子を分散したニッケルスラリーと、リンを含有するルイス塩基および窒素を含有するルイス塩基とを、アルコールを含む各種溶剤中に添加混合してスラリーとすることにより、ニッケル粒子の粒子表面を均一に処理することができる。
【0035】
混合工程においては、前記リンを含有するルイス塩基および前記窒素を含有するルイス塩基を溶解させた溶液に表面処理対象となるニッケル粒子を添加混合してもよいし、ニッケルスラリーに前記リンを含有するルイス塩基および前記窒素を含有するルイス塩基を添加混合してもよい。ただし、微細なニッケル粒子表面を効果的に且つ均一に処理するという観点からは、アルコールを含む各種溶剤中に予め前記リンを含有するルイス塩基および前記窒素を含有するルイス塩基を溶解しておくことが好ましい。
【0036】
具体的には、ニッケルスラリーを撹拌し、その中へ前記リンを含有するルイス塩基および前記窒素を含有するルイス塩基を溶解させたルイス塩基溶液を滴下して混合し、その後、混合溶液を撹拌させて表面処理を行うことができる。
【0037】
例えば、前記リンを含有するルイス塩基および前記窒素を含有するルイス塩基の含有量が0.1~30質量%となるようにルイス塩基溶液を調製し、周速5~10m/秒で撹拌中のニッケルスラリーにルイス塩基溶液を2ml/分の滴下速度で滴下することができる。なお、ニッケルスラリーの撹拌には、ソフト十字、かい十字、4枚傾斜パドル等の形状の撹拌羽根を用いることができる。
【0038】
表面処理の際のニッケル粒子とルイス塩基との混合溶液の温度は、20~50℃で行うことが好ましい。混合溶液の温度が20℃よりも低いと、ニッケル粒子へのルイス塩基の付着速度が低下し、表面処理における混合溶液の撹拌時間が長くなるおそれがある。また、混合溶液の温度が50℃より高いと、溶媒の揮発が促進され、表面処理が困難となることがある。
【0039】
さらに、表面処理における混合溶液の撹拌時間は0.5~24時間にすることが好ましい。撹拌時間が0.5時間未満であると、ニッケル粒子へのルイス塩基の付着量が少なくなり、表面処理による粗大粒子の発生を抑制する効果が充分に得られないおそれがある。また、撹拌時間を24時間より長くしても、ルイス塩基の付着量はほとんど増加せず、また、処理時間が長くなれば、その分ニッケル粒子の表面処理時間も長くなって、コストが高くなる可能性がある。なお、混合溶液の撹拌は、混合工程と同様に周速5~10m/秒の条件で行えばよい。
【0040】
上記のように、ニッケルスラリーにリンを含有するルイス塩基および窒素を含有するルイス塩基を溶解させたルイス塩基溶液を滴下してもよいが、リンを含有するルイス塩基を溶解させたルイス塩基溶液と窒素を含有するルイス塩基を溶解させたルイス塩基溶液をそれぞれ用意し、これらを順次または同時に滴下してもよい。
【0041】
また、ニッケルスラリーに滴下するリンを含有するルイス塩基と窒素を含有するルイス塩基との混合比は、特に限定されないが、例えば質量比で99.5:0.5~0.5:99.5としてもよい。
【0042】
〈リンを含有するルイス塩基〉
表面処理に使用する化合物としては、リンを含有するルイス塩基を使用する。本発明による表面処理方法によって、リンを含有するルイス塩基の孤立電子対がニッケル粒子の表面に電子を与え配位結合した構造をとることが考えられる。リンを含有するルイス塩基化合物は、ニッケル粒子の表面に効率的に吸着し、配位結合することが可能であり、ニッケル粒子の凝集による粗大粒子の発生を抑制することができる。
【0043】
リンを含有するルイス塩基としては、例えば下記式(1)で示すリン酸エステル、ポリリン酸エステル、(2)で示すリン酸エステル、リン酸ポリエステルまたは(9)で示すリン酸エーテル、リン酸ポリエーテルを含むものが挙げられる。また、リンを含有するルイス塩基として、下記式(1)で示すリン酸エステル、ポリリン酸エステル、(2)で示すリン酸エステル、リン酸ポリエステルまたは(9)で示すリン酸エーテル、リン酸ポリエーテルを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0044】
【0045】
式(1)中、nは1~5の自然数であり、R1は、Hまたは炭素数が7~15のアルキル基を示し、R2は、炭素数が7~15のアルキル基または式(A)で示すtert-ブチル基を示す。
【0046】
式(2)中、mは1~5の自然数であり、R3は、Hまたは炭素数が7~15のアルキル基を示し、R4は、炭素数が7~15のアルキル基または式(A)で示すtert-ブチル基を示す。
【0047】
式(9)中、rは1~5の自然数であり、R9は、Hまたは炭素数が7~15のアルキル基を示し、R10は、炭素数が1~15のアルキル基または式(A)で示すtert-ブチル基を示す。)
【0048】
特に、ニッケル粒子をスラリー化できる溶媒に溶解可能なルイス塩基として、上記式(1)、(2)、(9)で示した化合物を含む、リン酸エステル類、ポリリン酸エステル類、リン酸エステル類、リン酸ポリエステル類、リン酸エーテル類、リン酸ポリエーテル類、ポリエーテルリン酸エステル類などが挙げられる。例えば、DISPERBYK(登録商標)(以下同じ)110、111、142、145(ビックケミージャパン社製)、ソルスパース(登録商標)(以下同じ)41000、3600(ルーブリゾール社製)、ディスパロン(登録商標)DA-375(楠本化成社製)、ハイプラッド(登録商標)ED152、ED153、ED154、ED174、ED251(楠本化成社製)、フォスファノール(登録商標)(以下同じ)RS-610、RS-710(東邦化学社製)等が使用できる。
【0049】
〈窒素を含有するルイス塩基〉
表面処理に使用する化合物としては、窒素を含有するルイス塩基を使用する。本発明による表面処理方法によって、窒素を含有するルイス塩基の孤立電子対がニッケル粒子の表面に電子を与え配位結合した構造をとることが考えられる。窒素を含有するルイス塩基化合物は、ニッケル粒子の表面に効率的に吸着し、配位結合することが可能であり、ニッケル粒子の凝集による粗大粒子の発生を抑制することができる。
【0050】
リンを含有するルイス塩基および窒素を含有するルイス塩基の添加量としては、表面処理後のルイス塩基含有ニッケル粒子の状態で、リンを含有するルイス塩基および窒素を含有するルイス塩基の合計量と、ニッケル粒子との質量比が0.16~3.0:100となるように添加する。具体的には、経験則となるが、ニッケル粒子100質量%に対して0.05質量%以上4.0質量%以下の範囲で添加することが好ましい。リンを含有するルイス塩基および窒素を含有するルイス塩基の添加量がニッケル粒子100質量%に対して0.05質量%以上であることにより、ニッケル粒子に対する吸着量を高めることができ、結果としてニッケル微粒子の分散性をより高めることができる。一方で、リンを含有するルイス塩基および窒素を含有するルイス塩基の添加量が4.0質量%以下であることにより、リンを含有するルイス塩基および窒素を含有するルイス塩基の量の増加に伴うニッケルペーストの粘度の変化を防止することができる。
【0051】
窒素を含有するルイス塩基としては、例えば下記式(3)で表される化合物を含むものが挙げられる。
【0052】
【0053】
式(3)中、R5は炭素数が1~18のアルキル基または炭素数が1~18のアルケニル基を示し、R6は炭素数が1~6のアルキレン基を示し、R7およびR8はHもしくはCH3を示す。
【0054】
特に、ニッケル粒子をスラリー化できる溶媒に溶解可能なルイス塩基として、N-オレオイルサルコシン、N-ラウロイルサルコシン、およびミリストイルメチル-β-アラニンから選択された1種類以上をルイス塩基として用いることができる。下記一般式(4)~(6)に、N-オレオイルサルコシン、N-ラウロイルサルコシン、およびミリストイルメチル-β-アラニンの構造を示す。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
(溶剤)
表面処理対象となるニッケル粒子を分散してスラリー化させるための溶剤、リンを含有するルイス塩基および窒素を含有するルイス塩基を溶解させる溶剤としては、ニッケル粒子を分散させることができ、前記ルイス塩基が溶解可能なものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピネオールアセテート、イソボルニルプロピオナート、イソボルニルイソブチレート、ミネラルスピリット、0号ソルベント、ブチルカルビトール、酢酸イソブチル、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、ヘキサン、エタノール、ノナン、ノナノール、デカノール等が挙げられる。さらには、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素等を用いることもでき、具体的には、ジメチルオクタン、エチルメチルシクロヘキサン、メチルプロピルシクロヘプタン、トリメチルヘキサン、ブチルシクロヘキサン、トリデカン、テトラデカン、メチルノナン、エチルメチルヘプタン、トリメチルデカン、ペンチルシクロヘキサン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トルエン等が挙げられる。これらの有機溶剤は、1種単独で、あるいは2種以上を併せて用いることができる。
【0059】
[ニッケル粉末の製造方法]
〈乾燥工程〉
次に、ニッケル粉末の製造方法について説明する。本方法では、上記したニッケル粒子の表面処理方法に記載の混合工程後、表面処理されたニッケル粒子を乾燥させる乾燥工程を含む。
【0060】
例えば、表面処理されたニッケル粒子が酸化しないよう、不活性ガス雰囲気乾燥機および真空乾燥機等の汎用の乾燥装置を用いて50~300℃、好ましくは、80~150℃で乾燥し、ニッケル粉末を得ることができる。
【0061】
なお、必要に応じて、後述する洗浄・ろ過工程を行ってニッケル粉含水ケーキとし、さらにこのケーキ中の付着水をエタノール等の低温揮発性の有機溶剤に置換した後、上記不活性ガス雰囲気乾燥機や真空乾燥機で乾燥して、水の大きな表面張力に起因して乾燥中に生じるニッケル粒子間の乾燥凝集を弱めることも可能である。
【0062】
(洗浄・ろ過工程)
本発明のニッケル粉末の製造方法では、乾燥工程の前に、洗浄・ろ過工程を行ってもよい。具体的には、上記したニッケル粒子の表面処理方法を実施した後は、ルイス塩基により表面処理されたニッケル粒子が分散したスラリーが得られるため、まず、このスラリーを、吸引ろ過器を用いて減圧ろ過する。そして、ろ過によってろ紙に残ったニッケル粒子を上記の溶剤と混合し、周速2~5m/秒の条件で0.5~3時間撹拌して洗浄する。この洗浄作業とろ過作業を繰り返して、未反応のルイス塩基や不純物をニッケル粒子から除去することができる。さらに、得られたろ液の赤外分光分析を行い、未反応のルイス塩基が検出されないことを確認し、洗浄作業を終了することが出来る。
【0063】
なお、ニッケル粒子のろ過には、汎用の固液分離装置を用いることができ、具体的には、デンバーろ過器、フィルタープレス、遠心分離機、デカンター等が挙げられるがこれらに限定されない。また、洗浄作業後に、更にスプレードライヤー等を用いて、ニッケル粒子から溶剤を飛ばして除去してもよい。
【0064】
(解砕・分級工程)
また、本発明のニッケル粉末の製造方法では、乾燥工程の後に、解砕・分級工程を行ってもよい。例えば、乾燥工程による乾燥凝集によってニッケル粒子が弱い力で凝集した場合には、製造工程の途中や最後に解砕工程を設け、ニッケル粒子を解砕することができる。例えば、スパイラルジェット解砕処理、カウンタージェットミル解砕処理等の乾式解砕方法や、高圧流体衝突解砕処理等の湿式解砕方法、その他の汎用の解砕方法を適用することが可能である。
【0065】
さらに、ニッケル粉末を乾式分級、湿式分級、ふるい分け分級等の任意の方法により分級して、極端に粗大な粒子を除去してもよい。
【0066】
[ルイス塩基含有ニッケル粒子]
次に、本発明のルイス塩基含有ニッケル粒子について、説明する。当該ニッケル粒子は、例えば上記した本発明のニッケル粒子の表面処理方法や、ニッケル粉末の製造方法によって得ることができる。ただし、製造方法はこれらに限定されない。
【0067】
本発明のルイス塩基含有ニッケル粒子は、リンを含有するルイス塩基および窒素を含有するルイス塩基がニッケル粒子の表面に存在しており、リンを含有するルイス塩基および窒素を含有するルイス塩基の合計量と、ニッケル粒子との質量比が、0.16~3.0:100である。かかる質量比が0.16未満:100の場合、ニッケル粒子の表面に酸化し得る領域が残って経時にて水酸化ニッケルが生成し、粗大粒子が発生するおそれがある。また、かかる質量比が3.0:100を超えてルイス塩基を存在させることは難しく、3.0:100の質量比がルイス塩基の存在量の上限と考えられる。
【0068】
リンを含有するルイス塩基の孤立電子対および窒素を含有するルイス塩基の孤立電子対がニッケル粒子の表面に電子を与え配位結合した構造をとることにより、ルイス塩基がニッケル粒子の表面に配位結合すると考えられる。窒素を含有するルイス塩基化合物は、ニッケル粒子の表面に効率的に吸着し、配位結合することが可能であり、ニッケル粒子の凝集による粗大粒子の発生を抑制することができる。
【0069】
リンを含有するルイス塩基としては、例えば下記式(1)で示すリン酸エステル、ポリリン酸エステル、(2)で示すリン酸エステル、リン酸ポリエステル、または(9)で示すリン酸エーテル、リン酸ポリエーテルを含むものが挙げられる。
【0070】
【0071】
式(1)中、nは1~5の自然数であり、R1は、Hまたは炭素数が7~15のアルキル基を示し、R2は、炭素数が7~15のアルキル基または式(A)で示すtert-ブチル基を示す。
【0072】
式(2)中、mは1~5の自然数であり、R3は、Hまたは炭素数が7~15のアルキル基を示し、R4は、炭素数が7~15のアルキル基または式(A)で示すtert-ブチル基を示す。
【0073】
式(9)中、rは1~5の自然数であり、R9は、Hまたは炭素数が7~15のアルキル基を示し、R10は、炭素数が1~15のアルキル基または式(A)で示すtert-ブチル基を示す。
【0074】
窒素を含有するルイス塩基としては、例えば下記式(3)で表される化合物を含むものが挙げられる。
【0075】
【0076】
式(3)中、R5は炭素数が1~18のアルキル基または炭素数が1~18のアルケニル基を示し、R6は炭素数が1~6のアルキレン基を示し、R7およびR8はHもしくはCH3を示す。
【0077】
特に、ニッケル粒子をスラリー化できる溶媒に溶解可能なルイス塩基として、N-オレオイルサルコシン、N-ラウロイルサルコシン、およびミリストイルメチル-β-アラニンから選択された1種類以上をルイス塩基として用いることができる。下記一般式(4)~(6)に、N-オレオイルサルコシン、N-ラウロイルサルコシン、およびミリストイルメチル-β-アラニンの構造を示す。
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
また、ルイス塩基含有ニッケル粒子において、リンを含有するルイス塩基の含有量と窒素を含有するルイス塩基の含有量との比は、特に限定されないが、例えば質量比で99.5:0.5~0.5:99.5としてもよい。
【0082】
本発明のルイス塩基含有ニッケル粒子は、近年の積層セラミックコンデンサの内部電極の薄層化に対応するという観点から、数平均粒径が0.03μm~0.4μmであることが好ましい。なお、数平均粒径は、ニッケル粒子の走査電子顕微鏡写真(SEM像)から求めた数平均の粒径である。
【0083】
また、同様に薄層化に対応するという観点から、粒子形状が略球状であることが好ましく、略球状の形状には、真球のみならず、所定の断面(例えば粒子の中心を通る断面)において短径と長径との比(短径/長径)が0.8~1.0となる楕円形状となる楕円体等も含む。
【0084】
また、本発明のルイス塩基含有ニッケル粒子は、粒径が0.8μmを超える粒子の含有量が200質量ppm以下であり、粒径が1.2μmを超える粒子の含有量が100質量ppm以下であることが好ましい。
【0085】
ニッケル粒子の粗大粒子の影響は、ニッケル粒子が用いられる積層セラミックコンデンサの内部電極層の膜厚により左右されるが、近年の薄層化された内部電極層では、粒径が0.8μmを超える粗大粒子の含有量が400質量ppmを超えたり、粒径が1.2μmを超える粗大粒子の含有量が200質量ppmを超えると、電極間ショートの発生が顕著となることがある。ニッケル粒子において、粗大粒子の含有量が少ないほど良好であるのは言うまでもなく、粒径が0.8μmを超える粗大粒子の含有量を200質量ppm以下とし、粒径が1.2μmを超える粗大粒子の含有量が100質量ppm以下とすれば、電極間ショートの発生率を十分に低減することができる。なお、粗大粒子の粒径は、SEM像から求めた短軸径とすればよい。
【実施例】
【0086】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0087】
[実施例1]
ニッケル粒子10gをジヒドロターピネオール100gに加え、スリーワンモータにソフト十字形状の撹拌羽根を取り付け、周速8m/秒の条件となるように300rpmで1時間撹拌してニッケルスラリーを得た。この条件の撹拌を維持したまま、ニッケルスラリーへ、ジヒドロターピネオール10gにルイス塩基としてN-オレオイルサルコシン0.05gおよび化学式(1)で示されるリン酸ポリエステル(DISPERBYK111(ビックケミージャパン社製))0.05gを溶解させたルイス塩基溶液を2ml/分の速度で滴下した。その後、撹拌条件を変えずに室温25℃で3時間撹拌し、表面処理したニッケル粒子のスラリーを得た。このスラリーを吸引ろ過により固液分離し、分離したニッケル粒子にジヒドロターピネオール100gを加えてスラリー化する作業を3回繰り返してニッケル粒子を洗浄した。洗浄後に吸引ろ過により固液分離し、分離したニッケル粒子を窒素雰囲気下、120℃で乾燥処理することで、目的とする表面処理後のニッケル粒子の粉末を得た。
【0088】
[実施例2]
ルイス塩基としてN-オレオイルサルコシンを使用せず、N-ラウロイルサルコシン0.05gおよび化学式(1)で示されるリン酸ポリエステル(DISPERBYK111(ビックケミージャパン社製))0.05gを用いた以外は、実施例1と同様に表面処理を行い、表面処理後のニッケル粒子の粉末を得た。
【0089】
[実施例3]
ルイス塩基としてN-オレオイルサルコシンおよびN-ラウロイルサルコシンを使用せず、ミリストイルメチル-β-アラニン0.05gおよび化学式(1)で示されるリン酸ポリエステル(DISPERBYK111(ビックケミージャパン社製))0.05gを用いた以外は、実施例1と同様に表面処理を行い、表面処理後のニッケル粒子の粉末を得た。
【0090】
(比較例1)
ルイス塩基溶液を滴下する工程を除き、実施例1と同様の条件とした。すなわち、ルイス塩基は使用せずに、ニッケル粒子のスラリー化、固液分離、洗浄、乾燥処理を、実施例1と同様に行った。
【0091】
(比較例2)
実施例1~3および比較例1で原料として使用したニッケル粒子そのものを、比較例2とした。すなわち、比較例1とは異なり、ニッケル粒子のスラリー化、固液分離、洗浄、乾燥処理のいずれも行わなかった。
【0092】
[ニッケル粒子の評価]
〈ニッケル粒子表面の炭素量の評価〉
炭素量は、炭素・硫黄分析装置(LECO社製CS844)により測定した。
【0093】
<ニッケル粒子表面処理状態の解析>
吸引ろ過により固液分離後のジヒドロターピネオールおよび、ニッケル粒子を洗浄後のジヒドロターピネオールを回収し、これらを分析のための濃度調製のためにメタノールで希釈し、液体クロマトグラフィー-質量分析装置(アジレント社製1290 infinity2-アジレント社製6530))により、表面処理に消費されなかったルイス塩基の含有量を定量化した。この値を用いて、以下に示す式(7)、(8)から表面処理後のニッケル粒子に含まれるルイス塩基含有量を算出した。
【0094】
[数1]
表面処理後のNi粒子に含まれるルイス塩基量
=(使用したルイス塩基全量-表面処理に消費されなかったルイス塩基量) ・・・(7)
【0095】
[数2]
表面処理後のNi粒子に含まれるルイス塩基含有量(質量%)
=(表面処理後のNi粒子に含まれるルイス塩基量/表面処理後のNi粒子量)×100 ・・・(8)
【0096】
〈平均粒径の測定〉
ニッケル粒子の平均粒径は、ニッケル粉末の走査電子顕微鏡(SEM、JSM-6360、日本電子製)を用いた観察像(SEM像)の画像解析の結果から求めた粒径を測定し、数平均の粒径として算出した。
【0097】
〈粗大粒子の含有量の測定〉
表面処理操作後のニッケル粉末を、100mlのハイベッセル容器(近畿容器株式会社製BHB-100)にいれ、常温で大気雰囲気下1日放置後の実施例1~4、比較例1のニッケル粒子について、走査型電子顕微鏡(SEM、JSM-6360、日本電子製)を用い、倍率5000倍のSEM像の写真を得た。そして、画像解析ソフトMac-View(株式会社マウンテック製)を用いて、得られたSEM像の写真内の粒子形状の全様が見える粒子の面積と個数を計測し、これらから各粒子の直径を求め、直径が0.8μm以上、および1.2μm以上のものを粗大粒子としてカウントした。そして、ニッケル粉末中に含まれる粗大粒子の含有量(粒径0.8μmを超える場合、および、粒径1.2μmを超える場合)を初期値として求めた。
【0098】
また、SEM像を撮影後、実施例1~4、比較例1のニッケル粒子を常温で大気雰囲気下において、180日間放置した後、同様に粗大粒子の含有量を測定した。180日放置後の粗大粒子の含有量の結果を表1に示す。
【0099】
なお、比較例2のニッケル粒子については、実施例1~4、比較例1で原料として使用する直前のニッケル粒子について、同様にSEM画像を得て、同様に粗大粒子の含有量を初期値として求めた。また、初期のSEM画像を得た後、実施例1~4および比較例1と同じ場所、環境で比較例2のニッケル粒子を保管することにより、比較例2のニッケル粒子を常温で大気雰囲気下において180日間放置した後、同様に粗大粒子の含有量を測定した。
【0100】
ニッケル粒子表面の炭素量、平均粒径および粗大粒子の含有量についての結果を、表1に示す。また、
図2に、実施例1、比較例2における初期および180日放置後のニッケル粒子のSEM写真を示す。
【0101】
【0102】
実施例1~3、比較例2の結果より、表面処理によってニッケル粒子の平均粒径は大幅に変化せず、また、粗大粒子の発生も認められなかった(表1、
図2)。また、表面処理によって大気雰囲気下で180日後の粗大粒子の増加を抑制できた。
【0103】
ただし、比較例1のニッケル粒子の結果より、ルイス塩基は使用せずに、ニッケル粒子のスラリー化、固液分離、洗浄、乾燥処理を実施した場合には、比較例2のニッケル粒子と比べて、粗大粒子の含有量が増加した。また、大気雰囲気下で180日後に粗大粒子がさらに増加した結果となった(表1)。
【0104】
また、
図2の比較例2の180日後のSEM画像では、中央部において複数の粒子が潰れて癒着したように見える色の濃い塊となった領域が認められた。この領域が酸化による粗大粒子1個とカウントすることができる。
【0105】
[まとめ]
以上のとおり、本発明のニッケル粒子であれば、リンを含有するルイス塩基および窒素を含有するルイス塩基によって表面処理されていることにより、保管中の酸化による粗大粒子の発生が抑制されることは、明らかである。