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特許7540274光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/035 20060101AFI20240820BHJP
【FI】
G02F1/035
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020165002
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022056979
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】片岡 優
(72)【発明者】
【氏名】高野 真悟
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 徳一
【審査官】大西 孝宣
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-129834(JP,A)
【文献】国際公開第2014/104309(WO,A1)
【文献】特開2011-075917(JP,A)
【文献】特開2009-244812(JP,A)
【文献】特開2015-197454(JP,A)
【文献】特開2016-194544(JP,A)
【文献】特開2011-209629(JP,A)
【文献】特開2018-113644(JP,A)
【文献】国際公開第2020/137422(WO,A1)
【文献】特開2017-215526(JP,A)
【文献】特開平10-054919(JP,A)
【文献】特表平09-511846(JP,A)
【文献】特表2005-533277(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104181707(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/01 - 1/125
G02F 1/21 - 7/00
G02B 6/12 - 6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上に配置した光導波路を有する光導波路素子において、
該基板上には電気光学効果を有する材料で形成される導波層が配置され、該光導波路は該導波層に設けられたリブ型光導波路であり、
該導波層は、Xカットのニオブ酸リチウムの結晶又はXカットのタンタル酸リチウムの結晶であり、
該光導波路には特定の偏波面を持つ光波が伝搬され、
該光導波路を伝搬する該光波の基本モードであるTEモード又はTMモードのうち、該偏波面に平行なTEモードの基本モードを基本モードAとし、該基本モードAに係る該光導波路の実効屈折率が、該光波の伝搬方向の変化に従って変化する実効屈折率変化部を該光導波路が有し、
該実効屈折率変化部において、該光波の伝搬方向に対して垂直な該光導波路の断面形状は、該基本モードAに係る該光導波路の実効屈折率が、該基本モードAに垂直なTMモードの基本モードである基本モードBに係る該光導波路の実効屈折率より高くなるような断面形状であることを特徴とする光導波路素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光導波路素子において、該実効屈折率変化部の全体に亘って、該基本モードAと該基本モードBに関する各実効屈折率の高低関係を満たすことを特徴とする光導波路素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光導波路素子において、該光導波路は、少なくとも一つの連続する光導波路内の異なる位置において、該光波の伝搬方向が互いに90度以上異なることを特徴とする光導波路素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の光導波路素子において、該実効屈折率変化部の該光導波路の断面形状は、該基本モードBに平行な方向の該光導波路の厚みは、該光導波路を伝搬する該光波の波長の0.45倍以下であることを特徴とする光導波路素子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の光導波路素子において、該実効屈折率変化部の該光導波路の断面形状は、該基本モードAに平行な方向の該光導波路の厚みは、該基本モードBに平行な方向の該光導波路の厚みより大きいことを特徴とする光導波路素子。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の光導波路素子において、該基板の屈折率は、該光導波路を形成する該導波層の屈折率の0.8倍以下であることを特徴とする光導波路素子。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかに記載の光導波路素子において、該光導波路を形成する該導波層の該基板と反対側に低屈折率層を配置し、該低屈折率層の屈折率は、該導波層の屈折率の0.8倍以下であることを特徴とする光導波路素子。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の光導波路素子において、該光導波路を形成する該導波層が、該基板に接する厚みの薄い薄膜部分と、該薄膜部分から突出するリブ部分から構成され、該薄膜部分の厚みは、該導波層全体の厚みの0.7倍以下であることを特徴とする光導波路素子。
【請求項9】
請求項8に記載の光導波路素子において、該リブ部分の両側には、該薄膜部分に溝が形成されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の光導波路素子において、該リブ型光導波路の側面が該基板と該光導波路を形成する該導波層との接触面に対してなす角度は、50度以上であることを特徴とする光導波路素子。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかに記載の光導波路素子において、該光導波路は曲げ部を有しており、最小曲げ半径が300μm以下であることを特徴とする光導波路素子。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれかに記載の光導波路素子において、該光導波路に電界を印加する電極は、該光導波路を挟むように、該光導波路の横側に配置されることを特徴とする光導波路素子。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれかに記載の光導波路素子は、該光導波路素子は筐体内に収容され、該光導波路に光波を入力又は出力する光ファイバを備えることを特徴とする光変調デバイス。
【請求項14】
請求項13に記載の光変調デバイスにおいて、該光導波路素子に入力する変調信号を増幅する電子回路を該筐体の内部に有することを特徴とする光変調デバイス。
【請求項15】
請求項13に記載の光変調デバイスと、該光変調デバイスに変調動作を行わせる変調信号を出力する電子回路とを有することを特徴とする光送信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置に関し、特に、
基板と、該基板上に配置した光導波路を有し、該光導波路を伝搬する光波の特定の基本モードに関する実効屈折率が変化する光導波路素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光計測技術分野や光通信技術分野において、光変調器など、光導波路を形成した基板を用いた光導波路素子が多用されている。近年、光変調器などの小型化が求められており、その解決手段の一つとして、図1に示すように、光導波路素子に形成する光導波路2の一部を90度以上曲げ、図1(a)のように、光の入射方向と出射方向を90度曲げたり、図1(b)のように、光の入射方向と出射方向を180度曲げることが提案されている。
【0003】
光導波路を曲げるには、光閉じ込めを強くすることが不可欠であり、特許文献1や図2に示すように、リブ型光導波路が利用される。図2は、図1(a)の点線A-A’における断面図である。導波層1は、極めて薄く、数μm程度の厚みしかない。図2では、導波層1は、薄膜部分101に突出したリブ型部分102から構成される。
【0004】
図2のようなリブ型光導波路は光閉じ込めが強く、小さな曲げ半径の光導波路でも低損失で伝搬することができる利点がある。しかしながら、導波層の材料には、ニオブ酸リチウム(LN)などの電気光学効果を有する材料が使用されており、図2に示す軸(X,Y,又はZ軸)によって屈折率の異なる異方性材料が広く用いられている。
【0005】
このため、光導波路を光波が伝搬する際に、偏波回転が生じやすい。つまり、図2のTEモードが回転し、TEモードがTMモードに乗り移る。これにより入力した光と直交するモードへ変換されてしまって損失になるほか、変調効率の低下や波長分散、偏波間クロストーク等の様々な特性劣化に繋がる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-129834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、偏波回転を抑制した光導波路素子を提供することである。さらには、その光導波路素子を用いた光変調デバイス並びに光送信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置は、以下の技術的特徴を有する。
(1) 基板と、該基板上に配置した光導波路を有する光導波路素子において、該基板上には電気光学効果を有する材料で形成される導波層が配置され、該光導波路は該導波層に設けられたリブ型光導波路であり、該導波層は、Xカットのニオブ酸リチウムの結晶又はXカットのタンタル酸リチウムの結晶であり、該光導波路には特定の偏波面を持つ光波が伝搬され、該光導波路を伝搬する該光波の基本モードであるTEモード又はTMモードのうち、該偏波面に平行なTEモードの基本モードを基本モードAとし、該基本モードAに係る該光導波路の実効屈折率が、該光波の伝搬方向の変化に従って変化する実効屈折率変化部を該光導波路が有し、該実効屈折率変化部において、該光波の伝搬方向に対して垂直な該光導波路の断面形状は、該基本モードAに係る該光導波路の実効屈折率が、該基本モードAに垂直なTMモードの基本モードである基本モードBに係る該光導波路の実効屈折率より高くなるような断面形状であることを特徴とする。
【0009】
(2) 上記(1)に記載の光導波路素子において、該実効屈折率変化部の全体に亘って、該基本モードAと該基本モードBに関する各実効屈折率の高低関係を満たすことを特徴とする。
【0011】
(3) 上記(1)又は(2)に記載の光導波路素子において、該光導波路は、少なくとも一つの連続する光導波路内の異なる位置において、該光波の伝搬方向が互いに90度以上異なることを特徴とする。
【0012】
) 上記(1)乃至()のいずれかに記載の光導波路素子において、該実効屈折率変化部の該光導波路の断面形状は、該基本モードBに平行な方向の該光導波路の厚みは、該光導波路を伝搬する光波の波長の0.45倍以下であることを特徴とする。
【0013】
) 上記(1)乃至()のいずれかに記載の光導波路素子において、該実効屈折率変化部の該光導波路の断面形状は、該基本モードAに平行な方向の該光導波路の厚みは、該基本モードBに平行な方向の該光導波路の厚みより大きいことを特徴とする。
【0014】
) 上記(1)乃至()のいずれかに記載の光導波路素子において、該基板の屈折率は、該光導波路を形成する導波層の屈折率の0.8倍以下であることを特徴とする。
【0015】
) 上記(1)乃至()のいずれかに記載の光導波路素子において、該光導波路を形成する導波層の該基板と反対側に低屈折率層を配置し、該低屈折率層の屈折率は、該導波層の屈折率の0.8倍以下であることを特徴とする。
【0016】
) 上記(1)乃至()のいずれかに記載の光導波路素子において、該光導波路を形成する導波層が、該基板に接する厚みの薄い薄膜部分と、該薄膜部分から突出するリブ部分から構成され、該薄膜部分の厚みは、該導波層全体の厚みの0.7倍以下であることを特徴とする。
【0017】
) 上記()に記載の光導波路素子において、該リブ部分の両側には、該薄膜部分に溝が形成されていることを特徴とする。
【0018】
10) 上記(1)乃至()のいずれかに記載の光導波路素子において、該リブ型光導波路の側面が該基板と該光導波路を形成する導波層との接触面に対してなす角度は、50度以上であることを特徴とする。
【0019】
11) 上記(1)乃至(10)のいずれかに記載の光導波路素子において、該光導波路は曲げ部を有しており、最小曲げ半径が300μm以下であることを特徴とする。
【0020】
12) 上記(1)乃至(11)のいずれかに記載の光導波路素子において、該光導波路に電界を印加する電極は、該光導波路を挟むように、該光導波路の横側に配置されることを特徴とする。
【0021】
13) 上記(1)乃至(12)のいずれかに記載の光導波路素子は、該光導波路素子は筐体内に収容され、該光導波路に光波を入力又は出力する光ファイバを備えることを特徴とする光変調デバイスである。
【0022】
14) 上記(13)に記載の光変調デバイスにおいて、該光導波路素子に入力する変調信号を増幅する電子回路を該筐体の内部に有することを特徴とする。
【0023】
15) 上記(13)に記載の光変調デバイスと、該光変調デバイスに変調動作を行わせる変調信号を出力する電子回路とを有することを特徴とする光送信装置である。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、基板と、該基板上に配置した光導波路を有する光導波路素子において、該基板上には電気光学効果を有する材料で形成される導波層が配置され、該光導波路は該導波層に設けられたリブ型光導波路であり、該導波層は、Xカットのニオブ酸リチウムの結晶又はXカットのタンタル酸リチウムの結晶であり、該光導波路には特定の偏波面を持つ光波が伝搬され、該光導波路を伝搬する該光波の基本モードであるTEモード又はTMモードのうち、該偏波面に平行なTEモードの基本モードを基本モードAとし、該基本モードAに係る該光導波路の実効屈折率が、該光波の伝搬方向の変化に従って変化する実効屈折率変化部を該光導波路が有し、該実効屈折率変化部において、該光波の伝搬方向に対して垂直な該光導波路の断面形状は、該基本モードAに係る該光導波路の実効屈折率が、該基本モードAに垂直なTMモードの基本モードである基本モードBに係る該光導波路の実効屈折率より高くなるような断面形状であるため、該基本モードAが偏波回転し、該基本モードBに乗り移ることが抑制され、偏波回転を抑制した光導波路素子が提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】従来の光導波路素子の光導波路を曲げた例を示す図であり、(a)90度曲げたもの、(b)180度曲げたものである。
図2図2の点線A-A’における断面図を示したものである。
図3】本発明のリブ型光導波路の断面形状の一例を示したものである。
図4】リブ型光導波路における導波層の厚さに対する実効屈折率の変化を示すグラフである。
図5】導波層の上側に低屈折率層を配置すると共に、導波層の下側の基板を2層で形成した例を示す図である。
図6】導波層の上側に低屈折率膜を配置する例を示す図である。
図7】導波層において、リブ部分の側面の薄膜部分の厚みをより薄く設定する例を示す図である。
図8】本発明の光導波路素子に適用可能な、光導波路パターンと信号電極等の配置を示したものである。
図9】複数のマッハツェンダー型光導波路を集積した例を示す図である。
図10図8(a)の点線B-B’における断面図を示す図である。
図11】光導波路の曲げ方を説明する図であり、(a)一定の曲率で曲げたもの、(b)2箇所の小さな曲率で曲げた部分と1つの直線部分で構成したもの、(c)3か所の小さな曲率で曲げた部分と2つの直線部分で構成したものである。
図12】本発明の光変調デバイス及び光送信装置を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の光導波路素子について、好適例を用いて詳細に説明する。
本発明の光導波路素子は、図3に示すように、基板10と、該基板上に配置した光導波路2を有する光導波路素子において、該光導波路は該光導波路を伝搬する光波の偏波面に平行な基本モードAに係る該光導波路の実効屈折率が該光波の伝搬に従って変化する実効屈折率変化部を有し、該実効屈折率変化部において、該光波の伝搬方向に対して垂直な該光導波路の断面形状は、基本モードAに係る該光導波路の実効屈折率が該基本モードAに垂直な他の基本モードBに係る該光導波路の実効屈折率より高くなるような断面形状であることを特徴とする。
【0027】
本発明の光導波路素子に使用される導波層1の材料としては、電気光学効果を有する強誘電体材料、具体的には、ニオブ酸リチウム(LN)やタンタル酸リチウム(LT)、PLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)などの基板や、これらの材料によるエピタキシャル膜などが利用可能である。また、半導体材料や有機材料など種々の材料も光導波路素子の基板として利用可能である。特に、軸によって屈折率が異なる異方性材料を使用する場合には、本発明が好適に適用可能である。
【0028】
本発明で使用される導波層の厚みは、数μm程度の極めて薄いものであり、LNなどの結晶基板を機械的に研磨して薄板化する方法や、LNなどのエピタキシャル膜を使用する方法がある。エピタキシャル膜の場合には、例えば、特許文献1に示すように、SiO基板、サファイア単結晶基板やシリコン単結晶基板など、単結晶基板の結晶方位に合わせて、エピタキシャル膜を、スパッタ法、CVD法、ゾルゲル法などで形成する。
【0029】
導波層の厚みが薄いため、光導波路素子の機械的強度を高めるため、導波層1の裏面側には、基板10が配置される。基板は、SiO基板などのように、導波層より低屈折率の材料が好ましく、SOI(Silicon on Insulator)のように高屈折率の基板の導波層側の表面に低誘電率層が形成された基板であっても良い。基板10上に導波層を直接接合したり、基板10を結晶成長の土台として使用し、エピタキシャル膜の導波層を設けることも可能である。さらに、基板10は、単体で構成することも可能であるが、後述するように多層で構成される基板を使用しても良い。樹脂等の接着層を介してLN基板等の板状体を貼り付ける方法もある。その際は、接着層と板状体が、基板10の役割を果たす。
【0030】
光導波路を構成するリブ型の突起の形成方法は、導波層を、ドライ又はウェットエッチングすることで形成することができる。また、リブ部の屈折率を高めるため、リブ部の位置にTiなどの高屈折率材料を熱拡散する方法も併せて使用することも可能である。
【0031】
図2では示していないが、後述する光導波路に電界を印加する電極は、基板又は導波層の上にAuなどの金属をメッキ法で形成することができる。必要に応じて、TiやAuなどの下地電極を形成し、その上にメッキ法で積層することも可能である。下地電極のパターニングは、フォトレジストなどを用いたパターニング法が利用可能である。
【0032】
本発明の光導波路素子の特徴は、光導波路が、該光導波路を伝搬する光波の偏波面に平行な基本モードAに係る該光導波路の実効屈折率が該光波の伝搬に従って変化する実効屈折率変化部を有することである。そして、当該実効屈折率変化部では、基本モードAに係る該光導波路の実効屈折率が該基本モードAに垂直な他の基本モードBに係る該光導波路の実効屈折率より高くなるように、該光波の伝搬方向に対して垂直な該光導波路の断面形状が設定されている。
【0033】
「光導波路を伝搬する光波の偏波面」の意味について説明する。光導波路素子では一般に、光波の特定偏波面が利用される。これは、光導波路自体の形状や構造、また、光導波路に電界を印加した状態によって、光波の偏波面が異なると屈折率も異なる場合があるため、特定の偏波面の光波を選択して利用することが一般に行われている。本発明では、この選択された特定の偏波面を持つ光波に着目し、当該光波の「偏波面」を上記のように表現している。
【0034】
「基本モード」とは、図2に示すような「TEモード」と「TMモード」が該当する。一方の「基本モードA」がTEモードの場合、他方の「基本モードB}はTMモードとなる。また、LNなどの電気光学効果を有する導電層1を利用する場合、図3のZ軸方向に電界を印加する場合はXカットのLNが利用され、選択される光波の偏波面はZ軸方向であり、TEモードが「基本モードA」となる。この場合のTEモードは、電気光学効果がより高い方の基本モードでもある。
【0035】
「実効屈折率変化部」とは、「基本モードA」に関し、光導波路の実効屈折率が変化している部分を示し、具体的には、光波の伝搬方向で屈折率が異なる異方性材料で、光波の伝搬方向が変化した部分や、光導波路の形状で屈折率が変化するため、光波の伝搬途中で光導波路の形状が変化する部分などを意味する。例えば、XカットのLNを導波層1に使用した場合、図3のY方向に向かう光導波路2が、Y方向からZ方向に角度を変え始める部分から、最後にY方向に戻るまでの光導波路の範囲は、この「実効屈折率変化部」に該当する。また、図3の光導波路2の幅Wが、光波の伝搬方向に向かって徐々に変化する、所謂、テーパ状を形成する場合も同様である。
【0036】
本発明の光導波路素子では、この実効屈折率変化部分では、基本モードAに係る光導波路の実効屈折率が、基本モードBに係る光導波路の実効屈折率より高くなるように設定されているため、基本モードAが基本モードBに乗り移るような偏波回転は抑制される。当然、実効屈折率変化部の全体に亘って、基本モードAとBとの間の屈折率の高低関係を維持することが望ましい。しかしながら、実効屈折率変化部の一部で両者の屈折率の逆転が生じても、最終的に実効屈折率変化部の一端から光波が出射する際に、基本モードAが基本モードBに乗り移るのが抑制されていれば、本発明として許容される。
【0037】
実効屈折率変化部を構成する光導波路の断面形状は、図3のようにリブ型光導波路の幅Wや高さ(t1やt1-t2)を設定することで、実効屈折率を調整している。なお、必要に応じて、導波層1内に拡散させる高屈折率材料を一部変化させても良い。
【0038】
導波層1に電気光学効果を有する材料を使用する場合は、リブ型光導波路に電界を印加する電極が導波層の一部形成され、本発明の「基本モードA」は、光導波路を伝搬する光波に対し、電極による電気光学効果が高い方の基本モードとなる。例えば、導波層1がXカットのLNの場合は、TEモードであり、ZカットのLNの場合はTMモードとなる。
【0039】
図3の導波層1は、XカットのLNやLTなどの結晶である。図中のXYZの矢印が結晶軸を示しており、X軸方向が上下方向に、Z軸が左右方向に各々配置される。LN結晶では、Z軸方向の屈折率が2.138であり、X軸又はY軸方向の屈折率が2.211である。そして、電気光学効果が高い軸方向は、Z軸方向、つまり、図3の左右方向となる。光導波路に電界を印加する電極は、光導波路(リブ部分102)を挟んで左右に配置される。Z軸方向の基本モードは、図2のような、TEモードが基本モードとなる。
【0040】
これに対し、図3の電気光学効果が低い軸方向は、X軸方向であり、こちらに形成される基本モードは図2のような、TMモードとなる。TEモードやTMモードの実効屈折率は、図3のリブ型光導波路の高さ(導波層の高さ)t1や幅Wの影響を受ける。このため、例えば、図3のようなリブ型光導波路の導波層の膜厚(t1)を制御することで、TEモードからTMモードへの変換を抑えることが可能となる。
【0041】
図4は、導波層の厚さに対する実効屈折率の変化を調べたものであり、基板(下部クラッド)にSiO(屈折率n2=1.44)、導波層1にXカットのニオブ酸リチウム(LN)(屈折率n1=2.138(Z軸)/2.211(X,Y軸))、上部クラッドが空気(屈折率n3=1)の3層スラブ導波路を用いている。そして、図4は、TEモードとTMモードの各基本モードの分散曲線(光の波長λ=1.55um)を示している。
【0042】
図4の横軸は、導波層の厚さt1を示し、縦軸は、光波の伝搬軸毎の実効屈折率を示している。光波の伝搬軸としては、Y軸方向の伝搬(Y伝搬)、Z軸方向の伝搬(Z伝搬)、Y軸とZ軸との中間方向(45°伝搬)を示し、各伝搬軸のTEモードに係る実効屈折率を示している。また、TMモードに係る実効屈折率も併せて図4に示している。
【0043】
一般的に、導波層の厚みt1が減少するに従い、実効屈折率も低下する。図4の特徴的部分は、TEモードとTMモードの各実効屈折率が、t1=0.7μm付近で、逆転していることである。特に、Y伝搬と45°伝搬においては、TEモードとTMモードとが、実効屈折率の関係が逆転する領域が生じている。
【0044】
電磁波は伝搬速度の速い(実効屈折率の低い)モードから伝搬速度の遅い(実効屈折率の高い)モードへは結合できるが、遅いモードから速いモードには結合できない。このため、0.7μmより厚い領域においては、伝搬方向によってはTEモードよりもTMモードの実効屈折率が高いく、そのような場合はTEモードからTMモードに容易に乗り移ることを意味する。つまり、基本モードであるTEモードが偏波回転することとなる。
【0045】
これに対し、0.7μmより薄い領域であれば、どの伝搬方向でもTEモードの実効屈折率がTMモードよりも高いため、TEモードはTMモードに結合することができない。XカットのLNを用いた光変調器に入力されるのは、一般的に、電気光学効果がより強力に作用するTEモードなので、導波層が0.7μmより薄く、かつ十分な光閉じ込め強さを有するだけの光導波路の幅があれば、TEモードからTMモードへの不要な偏波回転を抑制することができる。
【0046】
図4では導波層にXカットのLNを用いた例で説明したが、TEモードで動作するデバイスであれば、導波層の材料に依らず同様に導波層の厚みを制御することで偏波回転を抑制できる。
【0047】
図4からも分かるように、Z伝搬のTEモードの実効屈折率は、TMモードより常に高い位置にある。つまり、光波がZ軸方向のみの一方向に伝搬する際には、特に、TEモードの偏波回転は発生しない。しかしながら、Z伝搬とY伝搬のように、一つの連続する光導波路内において、光波の伝搬方向が変化するところがある場合には、実効屈折率が逆転した領域において偏波回転が発生する。本発明は、図1に示すように、光導波路が90度以上曲がる光導波路素子に対しては、より好適に適用することが可能である。
【0048】
また、光波の波長λは、λ=1.55μmに限らず、その近傍、例えばC-Band(1.52~1.57μm),L-Band(1.57~1.61μm)でも導波基板厚を波長に対して正規化すると、分散曲線は概ね同じ傾向を示す。さらに、図4の0.7μmの導波層の厚さ(t1)は、光波の波長λ=1.55μmを基準にすると、約0.45倍となる。つまり、電気光学効果が低い方の基本モード(TMモード)に平行な方向の光導波路の厚み(図3のt1)は、光導波路を伝搬する光波の波長の0.45倍以下が望ましいことが理解される。
【0049】
図3に示す光導波路の断面形状は、電気光学効果が高い方の基本モード(TEモード,図面の左右方向)に平行な方向の光導波路の厚み(幅W)は、電気光学効果が低い方の基本モード(TMモード,図面の上下方向)に平行な方向の光導波路の厚み(高さt1)より大きいことが好ましい。リブ部分の幅(W)が広ければよりTEモードの実効屈折率が相対的に高くなり、モード間の実効屈折率の差が大きくなるため、偏波回転の発生がより効果的に抑制される。
【0050】
図3の光導波路2は、導波層(コア)2の下側にクラッドとなる基板10を配置している。基板10の屈折率n2は、導波層の屈折率n1の0.8倍以下であることが好ましい。これは、クラッド部の屈折率が小さい程、TMモードの実効屈折率が相対的に低くなり、モード間の実効屈折率の差がより大きくなるためである。
【0051】
図5に示すように、導波層1の上側に上部クラッドとして低屈折率層11を配置する場合も同様に、当該低屈折率層11の屈折率n3は、導波層1の屈折率n1の0.8倍以下とすることが好ましい。また、上部クラッド11を光の波長に対して透明な材料(SiOや樹脂等)で覆った場合や、下部クラッドの屈折率(n2)に実施例と異なる材料(n2<1.7)を用いても分散曲線の関係は、図4と概ね同じ傾向を示す。また、図5に示すように、下部クラッドは単体の基板でなく、導波層1と基板13の中間層12が担っても構わない。その場合、基板に導波層より高い屈折率を持つ材料を選択することも可能である。例えば、中間層にSiO、基板にSiといった組み合わせが可能である。
【0052】
また、図6に示すように、導波路表面の平滑化等のために、表面が薄膜14で覆われていても良い。薄膜14の材料としては、SiOなどを使用することができる。
【0053】
図3に示すように、光導波路の断面形状は、一例として、導波層1が、基板10に接する厚みの薄い薄膜部分(スラブ部分)101と、薄膜部分から突出するリブ部分102から構成されている。薄膜部分の厚み(t2)は、導波層(1)全体の厚み(t1)の0.7倍以下であることが好ましい。場合によっては、薄膜部分は、無くても良い。薄膜部分101が薄いほど、リブ部分における光閉じ込めが強くなり、曲げにおける光の漏出が抑えられる他、電極作用部における光の吸収も抑制できる。
【0054】
さらに、図7に示すように、リブ部分102の両側には、薄膜部分101に溝15が形成されていることが好ましい。これも、リブ部分の光閉じ込めを強くする効果がある。
【0055】
図3のリブ型光導波路の側面が、基板10と導波層1との接触面に対してなす角度θは、、偏波回転が生じやすい45度を避けて、50度以上であることが好ましい。より理想的には、角度θはより90度に近い方が好ましい。これは、角度θが90度に近い方が、曲げ導波路での偏波回転がより起きにくくなるためである。
【0056】
図8は、種々のパターンの光導波路を備えた光導波路素子の例である。図8(a)では、電極として、信号電極Sと接地電極(G1,G2)を示すが、図8(b)~(d)では、信号電極のみ示す。また、矢印Linは光波の入射を示し、白抜き矢印は電気信号の入力を示している。
【0057】
図8(a)は、光導波路の配線は90度曲げて入出力の一方を側面に置いたものである。Linで示した方向とは反対の方向から光波を入力させても同様に動作できことは、言うまでもない。図8(b)は、180度折り返して入出力を同一端面に置くものである。図8(c)は、マッハツェンダー型光導波路の分岐導波路部分を折り返したものである。図8(c)では、2つの信号電極を用いているが、いずれか一方であっても良い。さらに、図8(d)は、多段で折り返した例である。このように、光波の進行方向が途中で変化する場合、特に、その方向が一つの光導波路内で90度以上異なる領域を持つ場合は、本発明を好適に適用可能である。
【0058】
また、図8に示すようなマッハツェンダー型光導波路(MZI干渉計)を有する光導波路素子に限らず、MZI干渉計を持たない位相変調器にも、本発明は適用可能である。さらに、図9に示すような、MZI干渉計を集積して多値変調可能な光変調器にも適用できる。
【0059】
図10は、図8(a)の点線B-B’における断面図を示している。図3図8では、主にXカット(導波層)を用いているため、リブ型光導波路2に電界を印加する電極(信号電極S,接地電極G1,G2)は、リブ型光導波路を挟むように、リブ型光導波路の側面側に配置されている。LNやLTなどでは、Xカットに限らずYカットに対しても、本発明が同様に適用できることは言うまでもない。また、Zカットであっても、光導波路に印加する電界の方向(Z軸方向)が図3の上下方向になるだけであり、本発明を適用して、偏波回転を抑制することは可能である。ただし、Zカットの場合は、光導波路はX軸方向からY軸方向に変化するだけであるため、光波の進行方向の違いによって、偏波回転が発生するわけではない。当然、Zカットであっても偏波回転が発生しないよう、TEモードとTMモード間の屈折率を最適に設定するよう、光導波路の断面形状を設定する必要がある。
【0060】
図11は、光導波路2の曲げ方を示す例である。図11(a)のように、一様な曲線(半径r)で曲げるのが一般的であるが、光導波路の最小曲げ半径は300μm以下が好ましい。より好ましくは、200μm以下、さらには100μm以下も可能である。これにより、限られた基板(チップ)の幅でも任意の方向へ光導波路の進行方向を変えることができる。特に、図11(b)及び(c)に示すように、曲げる部分の範囲(点線C,C’,D,D’,D”)を最小限に設定し、直線部分を多用することで、光導波路のレイアウト設計がより容易なものとなる。
【0061】
本発明の光導波路素子は、基板10(導波層1)に光導波路を伝搬する光波を変調する変調電極を設け、図12のように、筐体8内に収容される。さらに、光導波路に光波を入出力する光ファイバ(F)を設けることで、光変調デバイスMDを構成することができる。光ファイバは、図12のように筐体8の外側に配置するだけでなく、筐体の側壁を貫通する貫通孔を介して筐体内に導入して配置固定することも可能である。
【0062】
光変調デバイスMDに変調動作を行わせる変調信号を出力する電子回路(デジタル信号プロセッサーDSP)を、光変調デバイスMDに接続することにより、光送信装置OTAを構成することが可能である。光導波路素子に印加する変調信号は増幅する必要があるため、ドライバ回路DRVが使用される。ドライバ回路DRVやデジタル信号プロセッサーDSPは、筐体8の外部に配置することも可能であるが、筐体8内に配置することも可能である。特に、ドライバ回路DRVを筐体内に配置することで、ドライバ回路からの変調信号の伝搬損失をより低減することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上説明したように、本発明によれば、偏波回転を抑制した光導波路素子を提供することが可能となる。さらには、その光導波路素子を用いた光変調デバイス並びに光送信装置を提供することも可能となる。
【符号の説明】
【0064】
1 導波層
2 光導波路
10 基板
MD 光変調デバイス
OTA 光送信装置

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12