(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】インタクト抗体の分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/88 20060101AFI20240820BHJP
B01J 20/281 20060101ALI20240820BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20240820BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20240820BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20240820BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20240820BHJP
【FI】
G01N30/88 J
B01J20/281 R
G01N30/72 C
G01N27/62 V
C07K16/28 ZNA
C07K14/705
(21)【出願番号】P 2021006156
(22)【出願日】2021-01-19
【審査請求日】2023-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2020017764
(32)【優先日】2020-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020207219
(32)【優先日】2020-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 陽介
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 遼子
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-105650(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0228754(US,A1)
【文献】特開2016-023152(JP,A)
【文献】特開2016-023151(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03425386(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0076342(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/72,30/88,
B01J 20/281,
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着剤に吸着されたインタクト抗体を溶出緩衝液により溶出させる方法であって、
前記溶出緩衝液が揮発性成分のみを含有
し、
前記吸着剤がFc結合性タンパク質を固定化した担体である、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法により溶出させたインタクト抗体を含む溶出緩衝液を、質量分析に供する工程を含む、インタクト抗体分析方法。
【請求項3】
インタクト抗体がヒトFc領域を含むインタクトIgGであり、Fc結合性タンパク質がヒトFcγRIIIaである、請求項
1または2に記載の方法。
【請求項4】
ヒトFcγRIIIaが、
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含むポリペプチド、または
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含み、ただし当該アミノ酸残基のうち
、1から10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有し、かつIgG結合活性を有するポリペプチドである、
請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
溶出緩衝液がpH2.5からpH6.5の酢酸アンモニウム水溶液である、請求項1から
4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法により溶出させたインタクト抗体を含む緩衝液を質量分析装置に直接供する工程を含むインタクト抗体分析方法。
【請求項7】
請求項
1に記載の方法により溶出させたインタクト抗体を含む緩衝液に、質量分析装置に直接供するためのメイクアップ溶媒として40~60
v/v%
となるようにアセトニトリルを添加し、質量分析に供する工程を含むインタクト抗体分析方法。
【請求項8】
請求項
7に記載のインタクト抗体分析方法において、経時的に各糖鎖構造を含む抗体のスペクトルのクロマトグラムを収集し、抗体に結合している糖鎖構造の違いによる抗体分離の違いを明らかにする抗体分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインタクト抗体を分析する方法に関する。特に本発明は、クロマトグラフィと質量分析とを組み合わせて、インタクト抗体を分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガンや免疫疾患等の治療に抗体を含む医薬品(抗体医薬)が用いられている。抗体医薬に用いる抗体は、遺伝子工学的手法により得られた、当該抗体を発現可能な細胞(たとえば、チャイニーズハムスター卵巣細胞等)を培養後、カラムクロマトグラフィ等を用いて高純度に精製し、製造する。近年、抗体医薬が酸化、還元、異性化または糖鎖付加などの修飾を受けることで多様な分子の集合体となっていることが判明しており、薬効や安全性への影響が懸念されている。特に、抗体に結合している糖鎖構造の違いは、抗体医薬品の活性や動態、安全性に大きな影響を与えることが報告されており、詳細な糖鎖構造の解析が必要である(非特許文献1)。
【0003】
抗体医薬に用いる抗体の糖鎖構造を分析する方法として、糖鎖の切り出しを伴うLC-MS分析(特許文献1および特許文献2)や、糖鎖の切り出しを伴わずインタクト抗体を直接LC-MS分析する手法(特許文献3)があげられる。しかしながら、これら分析方法では非常に煩雑な操作を伴い、多大な時間を要する。
【0004】
より簡便な抗体の分子構造の分析方法として、クロマトグラフィによる分析があげられる。具体的には、ゲルろ過クロマトグラフィを用いて、分子量に基づき抗体を分離することで凝集体や分解物を分離・定量可能である。またイオン交換クロマトグラフィを用いると、抗体分子が有する電荷の違いに基づき分離可能である。しかしながら、これらクロマトグラフィによる分析では、糖鎖構造などの抗体分子の微小な構造変化は識別できず、得られる分析結果も限定的であった。
【0005】
アフィニティクロマトグラフィを用いた分析はアフィニティリガンドと抗体との親和性に基づく分離が可能なため、微小な構造変化の観察が可能な場合がある。例えば、Fc結合性タンパク質をリガンドとして用いたアフィニティクロマトグラフィ法は、糖鎖構造の違いに基づいた抗体の分離が可能なため、抗体に結合している糖鎖構造の違いを分析可能である(特許文献4および特許文献5)。しかしながら本法のみでは、詳細な糖鎖構造の含有割合やその組成を知ることは困難である。
【0006】
特許文献4および特許文献5では、前述したFc結合性タンパク質をリガンドとして利用したアフィニティクロマトグラフィと質量分析とを組み合わせることで、詳細な糖鎖構造の含有割合やその組成を分析している。しかしながら、これら特許文献に開示の方法は、質量分析する際、糖鎖の切り出し操作など煩雑な操作を伴い、多大な時間を要する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-034712号公報
【文献】特開2016-099304号公報
【文献】特開2015-121539号公報
【文献】特開2016-169197号公報
【文献】特開2018-197224号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】CHROMATOGRAPHY,34(2),83-88(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、クロマトグラフィと質量分析とを組み合わせた、試料中に含まれる抗体の分析方法において、試料中に含まれるインタクト抗体を直接、簡便かつ迅速に分析可能な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、クロマトグラフィとしてアフィニティクロマトグラフィを用い、かつ当該クロマトグラフィにおける溶出緩衝液の成分を最適化することで、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の[1]から[9]の態様を包含する。
【0012】
[1]
吸着剤に吸着されたインタクト抗体を溶出緩衝液により溶出させる方法であって、
前記溶出緩衝液が揮発性成分のみを含有する、方法。
【0013】
[2]
[1]に記載の方法により溶出させたインタクト抗体を含む溶出緩衝液を、質量分析に供する工程を含む、インタクト抗体分析方法。
【0014】
[3]
吸着剤がFc結合性タンパク質を固定化した担体である、[1]または[2]に記載の方法。
【0015】
[4]
インタクト抗体がヒトFc領域を含むインタクトIgGであり、Fc結合性タンパク質がヒトFcγRIIIaである、[3]に記載の方法。
【0016】
[5]
ヒトFcγRIIIaが、
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含むポリペプチド、または
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含み、ただし当該アミノ酸残基のうち、1もしくは数個の位置での、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有し、かつIgG結合活性を有するポリペプチドである、
[4]に記載の方法。
【0017】
[6]
溶出緩衝液がpH2.5からpH6.5の酢酸アンモニウム水溶液である、[1]から[5]のいずれかに記載の方法。
【0018】
[7]
[1]に記載の方法により溶出させたインタクト抗体を含む緩衝液を質量分析装置に直接供する工程を含むインタクト抗体分析方法。
【0019】
[8]
[7]に記載の方法により溶出させたインタクト抗体を含む緩衝液に、質量分析装置に直接供するためのメイクアップ溶媒として40~60%のアセトニトリルを添加し、質量分析に供する工程を含むインタクト抗体分析方法。
【0020】
[9]
[8]に記載のインタクト抗体分析方法において、経時的に各糖鎖構造を含む抗体のスペクトルのクロマトグラムを収集し、抗体に結合している糖鎖構造の違いによる抗体分離の違いを明らかにする抗体分析方法。
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0022】
本発明は、試料中に含まれるインタクト抗体をクロマトグラフィ用吸着剤に吸着させ、溶出緩衝液を用いて当該吸着したインタクト抗体を溶出後、溶出したインタクト抗体を含む画分を質量分析に供することで、インタクト抗体を分析する方法において、クロマトグラフィ用吸着剤としてアフィニティクロマトグラフィ用吸着剤を用い、溶出緩衝液として揮発性塩のみ含む緩衝液を用いることを特徴としている。
【0023】
本発明においてインタクト抗体は、軽鎖可変領域(VL)および重鎖可変領域(VH)、ならびに完全な軽鎖定常領域(CL)および重鎖定常領域(CH)を含み、かつ少なくとも1ヶ所の非共有結合性相互作用を介して結合している完全長抗体のFc領域2ヶ所にN-結合型糖鎖が結合し、一対の糖鎖構造を保有している抗体のことをいう。
【0024】
本発明でインタクト抗体の吸着に用いる、アフィニティクロマトグラフィ用吸着剤は前記インタクト抗体と特異的に結合可能な物質を固定化した担体であり、インタクト抗体と吸着剤との親和性に基づきインタクト抗体を特異的に吸着できる。インタクト抗体と特異的に結合可能な物質の例として、抗体が有するFc領域、Fab領域および糖鎖に特異的に可能な物質があげられる。中でもFc領域に特異的に結合可能な物質である、Fc結合性タンパク質が好ましい。
【0025】
Fc結合性タンパク質は、Staphylococcus属由来のProtein AやProtein G、Fc受容体、Fc結合能を有した前記Fc受容体の部分領域等があげられる。中でもインタクト抗体がヒトFc領域を含むインタクトIgGである場合、ヒトFc受容体の一つであるヒトFcγRIIIaをFc結合性タンパク質として用いると、アフィニティクロマトグラフィによりインタクト抗体が糖鎖構造の違いに基づき分離されるため、その後の質量分析による、インタクト抗体に結合した糖鎖構造の詳細な含有割合やその組成分析が容易となる点で好ましい。
【0026】
なお本明細書においてヒトFc領域を含むインタクトIgGは、糖鎖構造を保持したヒト由来のFc領域を、部分構造として少なくとも有していればよく、一般的に抗体医薬品として用いられているキメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体や、これらのアミノ酸置換体があげられる。また、二重特異性抗体(バイスペシフィック抗体)、抗体-薬物複合体(ADC)、抗体Fc領域と他のタンパク質との融合タンパク質などの人工的に構造改変した抗体も含まれる。
【0027】
ヒトFcγRIIIaの好ましい態様として、
(1)天然型ヒトFcγRIIIaの細胞外領域(配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目のグリシンから192番目のメチオニンまでのアミノ酸残基)を少なくとも含むポリペプチド、および
(2)天然型ヒトFcγRIIIaの細胞外領域を少なくとも含み、ただし当該細胞外領域を構成するアミノ酸残基のうち、1もしくは数個の位置での、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド、
があげられる。
【0028】
前記(2)において「1もしくは数個」とは、タンパク質の立体構造におけるアミノ酸残基の位置やアミノ酸残基の種類によっても異なるが、例えば、1から30個、1から20個、1から10個、1から5個のいずれかを意味する。
また前記(2)のさらに好ましい態様として、
特開2015-086216号公報で開示のFc結合性タンパク質、
特開2016-169197号公報で開示のFc結合性タンパク質、
特開2017-118871号公報で開示のFc結合性タンパク質、
特開2018-197224号公報で開示のFc結合性タンパク質、
WO2019/083048号で開示のFc結合性タンパク質、
があげられる。
【0029】
本発明において、インタクト抗体と特異的に結合可能な物質を固定化させる担体は、当該抗体の吸着/溶出に用いる溶液や溶剤に対して不溶性であり、かつ前記物質を共有結合で固定化するための官能基(例えばヒドロキシ基)を有した物質であればよく、ジルコニア、ゼオライト、シリカ、皮膜シリカ等の無機系物質に由来した担体であってもよいし、セルロース、アガロース、デキストラン等の天然有機高分子物質に由来した担体であってもよいし、ポリアクリル酸、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリメタクリレート、ビニルポリマー等の合成有機高分子物質に由来した担体であってもよい。
【0030】
なお担体表面に有する官能基がヒドロキシ基の場合、活性化剤を用いて、当該ヒドロキシ基から、インタクト抗体と特異的に結合可能な物質と共有結合可能な活性化基を形成させるとよい。当該活性化剤の具体例として、エピクロロヒドリン(活性化基としてエポキシ基を形成)、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(活性化基としてエポキシ基を形成)、トレシルクロリド(活性化基としてトレシル基を形成)、ビニルブロミド(活性化基としてビニル基を形成)があげられる。
【0031】
またヒドロキシ基をアミノ基やカルボキシル基などに変換した後、活性化剤を作用させて活性化してもよい。当該活性化剤の具体例として3-マレイミドプロピオン酸N-スクシンイミジル(活性化基としてマレイミド基を形成)、1,1’-カルボニルジイミダゾール(活性化基としてカルボニルイミダゾール基を形成)、ハロゲン化酢酸(活性化基としてハロゲン化アセチル基を形成)があげられる。
【0032】
本発明では、アフィニティクロマトグラフィ用吸着剤に吸着した試料中に含まれるインタクト抗体を、揮発性成分のみを含む緩衝液で溶出させる。本操作により、溶出した前記抗体を含む画分には溶媒として揮発性のみが含まれるため、当該画分をそのまま質量分析に供せる。すなわち、通常であれば、得られた画分からの抗体の回収、回収した抗体からの糖鎖の切り出し、切り出した糖鎖の精製、質量分析のための蛍光物質標識及び精製が、質量分析の前に必要となるところ、これらの工程をふまなくとも前記画分を質量分析に供することができる。
【0033】
揮発性成分の例として、ギ酸、酢酸、炭酸、重炭酸、ピリジン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、アンモニア、N-メチルモルホリン、エタノールアミン、およびそれらの塩があげられる。中でも酢酸塩である酢酸アンモニウムが、本発明の揮発性成分として好ましい。溶出緩衝液のpHは、インタクト抗体と、当該抗体と特異的に結合可能な物質との親和性などに基づき、適宜決定すればよいが、揮発性成分として酢酸アンモニウムを用いる場合はpH2.5からpH6.5までの範囲とするとよい。溶出緩衝液に含まれる揮発性成分の濃度は、当該成分のpKaなどに基づき、1mMから1000mMの範囲、好ましくは10mMから500mMの範囲、さらに好ましくは20mMから200mMの範囲で適宜決定すればよい。
【0034】
また、本発明では、アフィニティクロマトグラフィ用吸着剤に吸着した試料中に含まれるインタクト抗体を揮発性成分のみを含む緩衝液で溶出させた後、質量分析装置へ供する際に、補助溶媒として有機溶媒を添加しても良い。有機溶媒として、通常質量分析に使用される溶媒であれば特に限定は無く、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール、およびアセトニトリルがあげられるが、好ましくは、メタノールおよびアセトニトリル、より好ましくはアセトニトリルがあげられる。有機溶剤の添加割合は、質量分析に供与する際に影響がない範囲で適宜変更可能だが、例えば1~99v/v%、好ましくは20~80v/v%、より好ましくは40~60v/v%の割合で溶出液に有機溶媒を添加すれば良い。
【発明の効果】
【0035】
本発明は、試料中に含まれるインタクト抗体をクロマトグラフィ用吸着剤に吸着させ、溶出緩衝液を用いて当該吸着したインタクト抗体を溶出後、溶出したインタクト抗体を含む画分を質量分析に供することで、インタクト抗体を分析する方法において、クロマトグラフィ用吸着剤としてアフィニティクロマトグラフィ用吸着剤を用い、溶出緩衝液として揮発性塩のみ含む緩衝液を用いることを特徴としている。
【0036】
本発明により、溶出したインタクト抗体を含む画分を直接質量分析装置へ導入できるため、例えば、前記抗体に結合した糖鎖構造を直接、簡便、迅速かつ高分離能で分析できる。したがって、抗体医薬品の製造工程管理や品質管理がより簡便、迅速かつ精度良く実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】実施例2で得られた抗体の分離パターン(クロマトグラム)
【
図2】実施例3で得られた抗体の分離パターン(クロマトグラム)
【
図3】実施例4で得られた抗体の分離パターン(クロマトグラム)
【
図4】実施例5で得られた抗体のマススペクトグラム
【
図5】実施例5で得られた抗体のマススペクトグラムをデコンボリューションして得られたスペクトグラム
【
図6】実施例6で得られた抗体のマススペクトグラム
【
図7】実施例6で得られた抗体のマススペクトグラムをデコンボリューションして得られたスペクトグラム
【
図9】実施例7で得られたスペクトグラムから抽出した各糖鎖構造が結合した抗体のクロマトグラム
【実施例】
【0038】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0039】
実施例1 Fc結合性タンパク質固定化担体の調製
2mLの分離剤用親水性ビニルポリマー(東ソー製:液体クロマトグラフィ用充填剤)の表面の水酸基をヨードアセチル基で活性化後、特開2018-197224号公報で開示のFc結合性タンパク質FcR9_F_Cys(配列番号2)を4mg反応させることにより、FcR9_F固定化ゲルを得た。なおFcR9_F_Cys(配列番号2)のうち、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までがPelBシグナルペプチドであり、24番目のグリシン(Gly)から199番目のグルタミン(Gln)までがFc結合性タンパク質FcR9_F(配列番号1の17番目から192番目までのアミノ酸残基であり、ただしVal27Glu[この表記は配列番号1の27番目のバリンがグルタミン酸に置換されていることを意味する、以下同じ]、Phe29Ile、Tyr35Asn、Gln48Arg、Phe75Leu、Asn92Ser、Val117Glu、Glu121Gly、Phe171Ser、Val176Pheのアミノ酸置換が生じたポリペプチド、特開2018-197224号公報)のアミノ酸配列であり、200番目のグリシン(Gly)から207番目のグリシン(Gly)までがシステインタグ配列である。
【0040】
実施例2 Fc結合性タンパク質固定化担体充填カラムを用いた抗体の分離(その1)
(1)実施例1で作製したFcR9_F固定化ゲル1.2mLを、φ4.6mm×75mmのステンレスカラムに充填し、FcR9_Fカラムを作製した。
【0041】
(2)(1)で作製したFcR9_Fカラムを高速液体クロマトグラフィ装置(東ソー製)に接続し、50mMの酢酸アンモニウム緩衝液(pH6.0)(以下、平衡化緩衝液とも表記)で流速1.0mL/minにて平衡化した。
【0042】
(3)平衡化緩衝液で1.0mg/mLに希釈したインタクト抗体(リツキサン、全薬工業製、マウスとヒトのキメラ抗体)を流速1.0mL/minにて25μL添加した。
【0043】
(4)流速1.0mL/minのまま平衡化緩衝液で2分洗浄後、50mMの酢酸アンモニウム緩衝液(pH3.0)によるpHグラジエント(18分で50mMの酢酸アンモニウム緩衝液(pH3.0)が100%となるグラジエント)で吸着したインタクト抗体を溶出した。
【0044】
得られたインタクト抗体の分離パターンを
図1に示した。
【0045】
実施例3 Fc結合性タンパク質固定化担体充填カラムを用いた抗体の分離(その2)
実施例2(2)および(3)で使用した平衡化緩衝液を50mMの酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.0)とした以外は、実施例2と同様にインタクト抗体を分離した。
【0046】
得られたインタクト抗体の分離パターンを
図2に示した。
【0047】
実施例4 Fc結合性タンパク質固定化担体充填カラムを用いた抗体の分離(その3) 実施例2(2)および(3)で使用した平衡化緩衝液を50mMのクエン酸緩衝液(pH6.5)とし、実施例2(4)の溶出を50mMのクエン酸緩衝液(pH4.5)によるpHグラジエント(18分で50mMのクエン酸緩衝液(pH4.5)が100%となるグラジエント)で行なった以外は、実施例2と同様にインタクト抗体を分離した。
【0048】
得られたインタクト抗体の分離パターンを
図3に示した。
【0049】
実施例2から実施例4の結果から、溶出緩衝液として揮発性成分(酢酸アンモニウム)のみを含む緩衝液を用いても(実施例2および実施例3)、従来の不揮発性成分(クエン酸)を含む緩衝液(実施例4)と同等の抗体分離ができることを確認できた。なお実施例2および実施例3で得られる、溶出したインタクト抗体を含む画分には、溶媒として揮発性成分のみを含むため、当該画分は直接質量分析に供せる。
【0050】
実施例5 インタクト抗体の質量分析
実施例2で使用した揮発性緩衝液を用いてインタクト抗体の質量分析装置を用いた解析を以下のとおり実施した。
測定条件
装置:Waters社製Xevo G2 XS Q TOF
導入速度:0.1mL/min
イオン化:ESI+
測定モード:Sensitivity MS Mode
キャピラリー電圧:4kV
コーン電圧:165V
ソースオフセット:50V
ソース温度:150℃
脱溶媒温度:600℃
コーンガス:50L/Hr
脱溶媒ガス:1200L/Hr
データ取り込み:m/z 500 4000、0.5sec
液体クロマトグラフィ装置を用いて測定したインタクト抗体のマススペクトル解析結果を
図4に示した。また、
図4のスペクトルから、Waters社製質量分析装置付属の解析ソフトUNIFIを用いてデコンボリューション操作を行い、
図5のスペクトルを得た。
【0051】
実施例6
実施例5において、質量分析装置による解析時の感度向上の為、質量分析装置に導入する際の補助溶媒であるメイクアップ溶媒としてアセトニトリルを50v/v%の比となるよう揮発性緩衝液に添加したこと以外は実施例5と同様に実施し、得られたマススペクトル解析結果を
図6に示した。また、同様にデコンボリューション操作により
図7のスペクトルを得た。
図5および
図7の各ピークの分子量から同定することで、インタクト抗体に結合している2つのN-結合型糖鎖構造の組成を帰属させることが可能となり、インタクト抗体に含まれる糖鎖構造を直接、簡便に分析できることがわかる。
【0052】
なお、
図5および
図7における糖鎖構造の種類(G0F、G1F、G2F)は
図8に記載の糖鎖構造に対応する。
【0053】
実施例7
実施例6で得られたインタクト抗体に結合しているN-結合型糖鎖構造の違いによるマススペクトルから経時的に抽出し、クロマトグラムを描画したものを
図9に示した。この図から、Fc結合性タンパク質固定化担体充填カラムを用いた抗体分離において、初めに末端にガラクトースを含まないG0F/G0Fの組合せ、次いでガラクトースが一方の末端に結合したG0F/G1Fの組合せ、さらに、ガラクトースがともに末端に結合したG1F/G1Fの組合せ、次いでG1F/G2Fの組合せ、最後にG2F/G2Fの組合せの順で溶出されることがわかる。同様に、フコースを含まないG0/G0Fの組合せおよびG0/G0の組合せを含む抗体はこの順番に溶出されることがわかる。これらにより、糖鎖構造の組合せの違いによる分離パターンの違いを明らかとすることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明により、従来困難であった抗体医薬品や抗体類縁医薬品の糖鎖構造の違いによる分離や糖鎖構造の解析をより正確、かつ迅速に評価できる。本発明により抗体医薬品を製造する際の課題とされていた糖鎖構造に係わる品質の向上、すなわちロット間における糖鎖構造の割合や種類のバラつきが低減できる。
【配列表】