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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】温度応答性液状培地組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/07 20100101AFI20240820BHJP
   C12N 5/09 20100101ALI20240820BHJP
【FI】
C12N5/07
C12N5/09
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021509631
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020013981
(87)【国際公開番号】W WO2020196827
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2019065075
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】畑中 大輔
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第02698429(EP,A1)
【文献】特開平07-031491(JP,A)
【文献】特開平08-283305(JP,A)
【文献】矢追 克郎,キシログルカンとそのオリゴ糖,応用糖質科学,2012年,Vol.2, No.3,P.185-190
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラクトキシログルカンのガラクトース部分分解物を含む、温度応答性液状培地組成物であって、ガラクトキシログルカンのガラクトース部分分解物におけるグルコース及びガラクトースの含有比率(mol)が、グルコース:ガラクトース=1:0.150~0.250であり、細胞又は組織の浮遊培養用である液状培地組成物
【請求項2】
液状培地組成物におけるガラクトキシログルカンのガラクトース部分分解物の終濃度が、0.05~4.0重量%である、請求項1記載の液状培地組成物。
【請求項3】
浮遊培養が静置浮遊培養である、請求項1又は2記載の液状培地組成物。
【請求項4】
以下の工程を含む、細胞又は組織の培養方法:
(1)ガラクトキシログルカンのガラクトース部分分解物を含む温度応答性液状培地組成物中で細胞又は組織を浮遊培養する工程であって、該液状培地組成物のゾル-ゲル転移温度を超える温度下で細胞又は組織を培養する、工程(ここでガラクトキシログルカンのガラクトース部分分解物におけるグルコース及びガラクトースの含有比率(mol)が、グルコース:ガラクトース=1:0.150~0.250である)
【請求項5】
液状培地組成物におけるガラクトキシログルカンのガラクトース部分分解物の終濃度が、0.05~4.0重量%である、請求項記載の方法。
【請求項6】
浮遊培養が静置浮遊培養である、請求項4又は5記載の方法。
【請求項7】
さらに以下の工程を含む、請求項のいずれか一項記載の方法:
(2)(1)の工程後、液状培地組成物を冷却し、該液状培地組成物の粘度を低下させる工程、及び
(3)該液状培地組成物から細胞又は組織を分離する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度応答性の液状培地組成物及びそれを用いた細胞の培養方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞を用いた再生医療技術は、これまでに治療することが困難であった様々な疾病や損傷を治療し得る手段の一つとして、近年、非常に注目されている。再生医療には大量の細胞を必要とするため、細胞を効率良く培養する方法の開発が意欲的に進められている。
【0003】
再生医療の発展には、細胞の効率的な培養法の開発が重要な課題であることは論を待たないが、該課題と並行して、培養した細胞を効率良く回収する方法の開発もまた、非常に重要な課題として認識されている。
【0004】
細胞を効率良く回収するための方法の一態様として、温度応答性を有する培養基材の使用が提案されている。例えば、特許文献1には、温度応答性(下限臨界溶解温度(Lower Critical Solution Temperature(LCST)):約32℃)を有するポリ-N-イソプロピルアクリルアミド(PNIPAM)を培養容器表面に固定化することで、タンパク質分解酵素(ペプシン、トリプシン、ペプチダーゼ等)やキレート剤(EDTA(エチレンジアミン四酢酸))等を用いずに、接着性細胞の培養容器表面からの剥離及び回収が可能となることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平2-211865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示される方法を含め、従来の温度応答性を有する細胞培養基材を用いての細胞培養方法及び細胞回収方法は、その使用が2次元培養に限定されるものが多数であり、より生体内に近い、好ましい培養方法である3次元培養(例、浮遊培養)に適用できるようなものは報告がない。そこで、本発明は、細胞を浮遊状態で培養することができ、さらに細胞にダメージを与えることなく簡便に回収できる新規手段の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、特定の割合でガラクトースを部分的に除去したガラクトキシログルカンを特定の濃度で含有する液状の培地組成物が、(1)ゾル-ゲル転移温度を超える温度下において細胞を好ましく浮遊培養させることができ、更に当該状態では細胞が非常に効率的に増殖すること、(2)該培地組成物をゾル-ゲル転移温度を下回る温度下におくことで、培地組成物の粘性が低下する結果、極めて効率よく細胞と培地組成物を分離できること等を見出し、かかる知見に基づいてさらに研究を進めることによって本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0008】
[1]ガラクトキシログルカンのガラクトース部分分解物を含む、温度応答性液状培地組成物。
[2]ガラクトキシログルカンのガラクトース部分分解物におけるグルコース及びガラクトースの含有比率(mol)が、グルコース:ガラクトース=1:0.150~0.250である、[1]記載の液状培地組成物。
[3]液状培地組成物におけるガラクトキシログルカンのガラクトース部分分解物の終濃度が、0.05~4.0重量%である、[1]又は[2]記載の液状培地組成物。
[4]細胞又は組織の浮遊培養用である、[1]~[3]のいずれか記載の液状培地組成物。
[5]以下の工程を含む、細胞又は組織の培養方法:
(1)ガラクトキシログルカンのガラクトース部分分解物を含む温度応答性液状培地組成物中で細胞又は組織を浮遊培養する工程であって、該液状培地組成物のゾル-ゲル転移温度を超える温度下で細胞又は組織を培養する、工程。
[6]ガラクトキシログルカンのガラクトース部分分解物におけるグルコース及びガラクトースの含有比率(mol)が、グルコース:ガラクトース=1:0.150~0.250である、[5]記載の方法。
[7]液状培地組成物におけるガラクトキシログルカンのガラクトース部分分解物の終濃度が、0.05~4.0重量%である、[5]又は[6]記載の方法。
[8]さらに以下の工程を含む、[5]~[7]のいずれか記載の方法:
(2)(1)の工程後、液状培地組成物を冷却し、該液状培地組成物の粘度を低下させる工程、及び
(3)該液状培地組成物から細胞又は組織を分離する工程。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、効率よく細胞を拡大培養することができる。また、培養した細胞は、温度変化と遠心分離等の簡単な分離操作のみにより、極めて効率良く回収することができる。また、細胞の回収時に、細胞を強制的に剥離する工程(例、酵素及び/又はキレート剤による剥離処理や物理的な剥離処理)を含まないため、回収時に細胞に与えるダメージを大きく低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、室温、37℃(10分間)、又は37℃(30分間)の温度条件下で静置したときの、調製例2で調製したPD-GXG水溶液の外観を示す写真図である(試験例2)。該水溶液は室温では低粘性の液体である。37℃に10分間静置後、該水溶液の粘性は高まりつつある状態である。37℃に30分間静置後、該水溶液は高粘性の液体となる。
図2図2は、調製例2で調製したPD-GXG水溶液の4℃から37℃までの昇温-降温サイクルでのDSC曲線を示す図である。
図3図3は、37℃での本発明の培地組成物(DHd405及びDHd406)の外観を示す写真図である。
図4図4は、温度変化に則した本発明の培地組成物(DHd405)中のビーズの浮遊及び沈降状態を示す写真図である。なお、37℃における本発明の培地組成物は液状である。
図5図5は、PD-GXGを含有する又は含有していない培地組成物中でA549細胞を培養後の培養液の外観を示す写真図である。本発明の培地組成物(DHd405又はDHd406)において細胞は浮遊していたが、PD-GXGを含まない培地組成物において細胞は沈降した。
図6図6は、相転移温度以上の温度または未満の温度でのPD-GXG構造体のSEM観察像を示す写真図である。
図7図7は、相転移温度以上の温度または未満の温度でのPD-GXG構造体のSEM観察像の模式図を示す図である。
図8図8は、本発明の培地組成物(DHd405)の各温度での粘弾性の測定値を示す図である。
図9図9は、各培地組成物を用いてA549を培養した後のRLU値を示すグラフである。なお図9のバーは左からそれぞれ、開始日、1日後、2日後、3日後、および4日後を示す。
図10図10は、各培地組成物を用いてA549細胞を培養した後の細胞の形態を示す写真図である。
図11図11は、各培地組成物を用いてHepG2細胞を培養した後のRLU値を示すグラフである。なお図11のバーは左からそれぞれ、開始日、1日後、2日後、3日後、および4日後を示す。
図12図12は、本発明の培地組成物(DHd406)を用いてA549細胞を培養した後、室温で遠心分離した後の外観を示す写真図である。本発明の培地組成物を用いた場合、細胞のペレットが生じていることが確認された。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。尚、本明細書において「室温」とは、15℃~25℃を意味するものとする。
【0012】
1.温度応答性液状培地組成物
本発明は、ガラクトキシログルカンのガラクトース部分分解物を含む、温度応答性液状培地組成物(本明細書において「本発明の培地組成物」と称することがある)を提供する。
【0013】
本発明の培地組成物は、ガラクトキシログルカンのガラクトース部分分解物を含有する。
【0014】
本明細書における「ガラクトキシログルカン(以下、「GXG」と称することがある)」とは、グルコース、キシロース及びガラクトースを構成糖とし、その主鎖は、β-1,4結合したグルコースであり、側鎖は、キシロースと、そのキシロースに結合したガラクトースとを有している。ガラクトキシログルカンは、双子葉植物及び単子葉植物等の高等植物の細胞壁に存在する天然の多糖であり、タマリンドをはじめ、大豆、緑豆、インゲンマメ、イネ、オオムギ、リンゴ等から抽出される。入手し易く、含有量も多いことから、タマリンド由来のガラクトキシログルカンが好ましい。かかるガラクトキシログルカンとしては、市販されているタマリンド種子ガム(「グリロイド」、大日本住友製薬)が挙げられるが、これに限定されない。
【0015】
【化1】
【0016】
また、本明細書における「ガラクトキシログルカンのガラクトース部分分解物(以下、「PD-GXG」と称することがある)」とは、ガラクトキシログルカンの側鎖に存在するガラクトースを部分的に分解、除去した物質を意味する。
【0017】
【化2】
【0018】
本発明の培地組成物に用いられるPD-GXGは、自体公知の方法により製造することができる。一例としては、特開平8-283305号公報に記載の方法を例示することができる。簡潔には、ガラクトキシログルカンを用いて、その側鎖ガラクトースを酵素的に若しくは化学的に、好ましくは酵素的に部分分解することにより製造することができる。反応時間は基質濃度、酵素濃度、pH等に依存するので、当業者であれば、かかるパラメーターを調節することで反応時間を適宜設定ことができる。
【0019】
本発明の培地組成物に用いられるPD-GXGの構成糖の含有比率(モル比率)、具体的にはグルコース及びガラクトースの含有比率(モル比率)としては、通常、グルコース:ガラクトース=1:0.150~0.250、好ましくは、グルコース:ガラクトース=1:0.160~0.240、より好ましくは、グルコース:ガラクトース=1:0.170~0.230、さらに好ましくは、グルコース:ガラクトース=1:0.180~0.230、特に好ましくは、グルコース:ガラクトース=1:0.191~0.226であり得る。
【0020】
尚、PD-GXGの構成糖の含有比率は自体公知の方法により決定することができる。一例としては、後述する実施例に記載されている方法を用いることができるが、これに限定されない。
【0021】
本発明の培地組成物中に含まれるPD-GXGの濃度は、培養する細胞種若しくは組織又は培養条件を考慮して適宜調整して使用すれば良いが、培地組成物に対して、通常、終濃度0.05~4.0重量%、より好ましくは、終濃度0.10~3.0重量%、さらに好ましくは、終濃度0.15~2.0重量%、特に好ましくは、終濃度0.2~1.0重量%であり得る。
【0022】
以下の実施例において詳述される通り、PD-GXGは温度変化に応じてゾル又はゲルの形態となり得る。従って、PD-GXGを含有する本発明の培地組成物は温度に応答してその粘弾性が大きく変化し得る(ただし、本発明の培地組成物は細胞の培養時の温度(例、37℃)であってもゲル(即ち、固体)とはならず、PD-GXGの自己組織化により生じた3次元構造体の生成に起因する高い粘弾性を有する流動性の液体の状態(即ち、貯蔵弾性率が損失弾性率よりも高い値を示す状態)で存在する)。本発明の培地組成物におけるゾル-ゲル転移温度は、PD-GXGの構成糖の比率及び培地中のPD-GXGの濃度等によっても影響を受け得るが、通常は、15~35℃であり得る。
【0023】
本発明の培地組成物において、PD-GXGが配合され得る培地は、特に限定されず、培養する細胞種又は組織に応じて適宜選択すればよい。本発明の培地組成物に使用され得る培地としては、以下の培地が含まれ得るが、これらに限定されない:ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium;DMEM)、ハムF12培地(Ham’s Nutrient Mixture F12)、DMEM/F12培地、マッコイ5A培地(McCoy’s 5A Medium)、イーグルMEM培地(Eagle’s Minimum Essential Medium;EMEM)、αMEM培地(alpha Modified Eagle’s Minimum Essential Medium;αMEM)、MEM培地(Minimum Essential Medium)、RPMI1640培地、イスコフ改変ダルベッコ培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium;IMDM)、MCDB131培地、ウィリアム培地E、IPL41培地、Fischer’s培地、StemPro34(インビトロジェン社製)、X-VIVO 10(ケンブレックス社製)、X-VIVO 15(ケンブレックス社製)、HPGM(ケンブレックス社製)、StemSpan H3000(ステムセルテクノロジー社製)、StemSpanSFEM(ステムセルテクノロジー社製)、StemlineII(シグマアルドリッチ社製)、QBSF-60(クオリティバイオロジカル社製)、StemProhESCSFM(インビトロジェン社製)、mTeSR1或いは2培地(ステムセルテクノロジー社製)、Sf-900II(インビトロジェン社製)、Opti-Pro(インビトロジェン社製)、ムラシゲ・スクーグ(MS)培地、リンズマイヤー・スクーグ(LS)培地、ホワイト培地、ガンボーグB5培地、ニッチェ培地、ヘラー培地、モーレル培地等の基本培地、或いは、これら培地成分を至適濃度に修正した修正培地(例えば、アンモニア態窒素濃度を半分にする等)に、オーキシン類及び必要に応じてサイトカイニン類等の植物生長調節物質(植物ホルモン)を適当な濃度で添加した培地。
【0024】
上記の培地には、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、塩素、各種アミノ酸、各種ビタミン、抗生物質、血清、脂肪酸、糖などを当業者は目的に応じて自由に添加してもよい。動物由来の細胞及び/又は組織培養の際には、当業者は目的に応じてその他の化学成分あるいは生体成分を一種類以上組み合わせて添加することもできる。動物由来の細胞及び/又は組織の培地に添加される成分としては、ウシ胎児血清、ヒト血清、ウマ血清、インシュリン、トランスフェリン、ラクトフェリン、コレステロール、エタノールアミン、亜セレン酸ナトリウム、モノチオグリセロール、2-メルカプトエタノール、ウシ血清アルブミン、ピルビン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、各種ビタミン、各種アミノ酸、寒天、アガロース、コラーゲン、メチルセルロース、各種サイトカイン、各種ホルモン、各種増殖因子、各種細胞外マトリックスや各種細胞接着分子などが挙げられる。培地に添加されるサイトカインとしては、例えばインターロイキン-1(IL-1)、インターロイキン-2(IL-2)、インターロイキン-3(IL-3)、インターロイキン-4(IL-4)、インターロイキン-5(IL-5)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-7(IL-7)、インターロイキン-8(IL-8)、インターロイキン-9(IL-9)、インターロイキン-10(IL-10)、インターロイキン-11(IL-11)、インターロイキン-12(IL-12)、インターロイキン-13(IL-13)、インターロイキン-14(IL-14)、インターロイキン-15(IL-15)、インターロイキン-18(IL-18)、インターロイキン-21(IL-21)、インターフェロン-α(IFN-α)、インターフェロン-β(IFN-β)、インターフェロン-γ(IFN-γ)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、単球コロニー刺激因子(M-CSF)、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、幹細胞因子(SCF)、flk2/flt3リガンド(FL)、白血病細胞阻害因子(LIF)、オンコスタチンM(OM)、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)などが挙げられるが、これらに限られるわけではない。
【0025】
培地に添加されるホルモンとしては、メラトニン、セロトニン、チロキシン、トリヨードチロニン、エピネフリン、ノルエピネフリン、ドーパミン、抗ミュラー管ホルモン、アディポネクチン、副腎皮質刺激ホルモン、アンギオテンシノゲン及びアンギオテンシン、抗利尿ホルモン、心房ナトリウム利尿性ペプチド、カルシトニン、コレシストキニン、コルチコトロピン放出ホルモン、エリスロポイエチン、卵胞刺激ホルモン、ガストリン、グレリン、グルカゴン、ゴナドトロピン放出ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、ヒト胎盤性ラクトーゲン、成長ホルモン、インヒビン、インスリン、インスリン様成長因子、レプチン、黄体形成ホルモン、メラニン細胞刺激ホルモン、オキシトシン、副甲状腺ホルモン、プロラクチン、セクレチン、ソマトスタチン、トロンボポイエチン、甲状腺刺激ホルモン、チロトロピン放出ホルモン、コルチゾール、アルドステロン、テストステロン、デヒドロエピアンドロステロン、アンドロステンジオン、ジヒドロテストステロン、エストラジオール、エストロン、エストリオール、プロゲステロン、カルシトリオール、カルシジオール、プロスタグランジン、ロイコトリエン、プロスタサイクリン、トロンボキサン、プロラクチン放出ホルモン、リポトロピン、脳ナトリウム利尿ペプチド、神経ペプチドY、ヒスタミン、エンドセリン、膵臓ポリペプチド、レニン、及びエンケファリンが挙げられるが、これらに限られるわけではない。
【0026】
培地に添加される増殖因子としては、トランスフォーミング成長因子-α(TGF-α)、トランスフォーミング成長因子-β(TGF-β)、マクロファージ炎症蛋白質-1α(MIP-1α)、上皮細胞増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子-1、2、3、4、5、6、7、8、又は9(FGF-1、2、3、4、5、6、7、8、9)、神経細胞増殖因子(NGF)肝細胞増殖因子(HGF)、白血病阻止因子(LIF)、プロテアーゼネキシンI、プロテアーゼネキシンII、血小板由来成長因子(PDGF)、コリン作動性分化因子(CDF)、ケモカイン、Notchリガンド(Delta1など)、Wnt蛋白質、アンジオポエチン様蛋白質2、3、5又は7(Angpt2、3、5、7)、インスリン様成長因子(IGF)、インスリン様成長因子結合蛋白質(IGFBP)、プレイオトロフィン(Pleiotrophin)などが挙げられるが、これらに限られるわけではない。
【0027】
また、遺伝子組換え技術によりこれらのサイトカインや増殖因子のアミノ酸配列を人為的に改変させたものも添加させることもできる。その例としては、IL-6/可溶性IL-6受容体複合体あるいはHyper IL-6(IL-6と可溶性IL-6受容体との融合タンパク質)などが挙げられる。
【0028】
各種細胞外マトリックスや各種細胞接着分子の例としては、コラーゲンI乃至XIX、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン-1乃至12、ニトジェン、テネイシン、トロンボスポンジン、フォンビルブランド(von Willebrand)因子、オステオポンチン、フィブリノーゲン、各種エラスチン、各種プロテオグリカン、各種カドヘリン、デスモコリン、デスモグレイン、各種インテグリン、E-セレクチン、P-セレクチン、L-セレクチン、免疫グロブリンスーパーファミリー、マトリゲル、ポリ-D-リジン、ポリ-L-リジン、キチン、キトサン、セファロース、ヒアルロン酸、アルギン酸ゲル、各種ハイドロゲル、さらにこれらの切断断片などが挙げられる。
【0029】
培地に添加される抗生物質の例としては、サルファ製剤、ペニシリン、フェネチシリン、メチシリン、オキサシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、ナフシリン、アンピシリン、ペニシリン、アモキシシリン、シクラシリン、カルベニシリン、チカルシリン、ピペラシリン、アズロシリン、メクズロシリン、メシリナム、アンジノシリン、セファロスポリン及びその誘導体、オキソリン酸、アミフロキサシン、テマフロキサシン、ナリジクス酸、ピロミド酸、シプロフロキサン、シノキサシン、ノルフロキサシン、パーフロキサシン、ロザキサシン、オフロキサシン、エノキサシン、ピペミド酸、スルバクタム、クラブリン酸、β-ブロモペニシラン酸、β-クロロペニシラン酸、6-アセチルメチレン-ペニシラン酸、セフォキサゾール、スルタンピシリン、アディノシリン及びスルバクタムのホルムアルデヒド・フードラートエステル、タゾバクタム、アズトレオナム、スルファゼチン、イソスルファゼチン、ノカルディシン、フェニルアセトアミドホスホン酸メチル、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、テトラサイクリン、デメクロサイクリン、ドキシサイクリン、メタサイクリン、並びにミノサイクリンが挙げられる。
【0030】
本発明の培地組成物を用いて培養され得る細胞種は、本発明の所望の効果を得られる細胞種であれば特に限定されず、動物及び植物由来の細胞のいずれを用いることもできる。本発明における動物由来の細胞には、精子や卵子などの生殖細胞、生体を構成する体細胞、幹細胞(多能性幹細胞等)、前駆細胞、生体から分離された癌細胞、生体から分離され不死化能を獲得して体外で安定して維持される細胞(細胞株)、生体から分離され人為的に遺伝子改変が成された細胞、生体から分離され人為的に核が交換された細胞等が含まれる。生体を構成する体細胞の例としては、以下に限定されるものではないが、線維芽細胞、骨髄細胞、Bリンパ球、Tリンパ球、好中球、赤血球、血小板、マクロファージ、単球、骨細胞、骨髄細胞、周皮細胞、樹状細胞、ケラチノサイト、脂肪細胞、間葉細胞、上皮細胞、表皮細胞、内皮細胞、血管内皮細胞、肝実質細胞、軟骨細胞、卵丘細胞、神経系細胞、グリア細胞、ニューロン、オリゴデンドロサイト、マイクログリア、星状膠細胞、心臓細胞、食道細胞、筋肉細胞(たとえば、平滑筋細胞又は骨格筋細胞)、膵臓ベータ細胞、メラニン細胞、造血前駆細胞(例えば、臍帯血由来のCD34陽性細胞)、及び単核細胞等が含まれる。当該体細胞は、例えば皮膚、腎臓、脾臓、副腎、肝臓、肺、卵巣、膵臓、子宮、胃、結腸、小腸、大腸、膀胱、前立腺、精巣、胸腺、筋肉、結合組織、骨、軟骨、血管組織、血液(臍帯血を含む)、骨髄、心臓、眼、脳又は神経組織などの任意の組織から採取される細胞が含まれる。幹細胞とは、自分自身を複製する能力と他の複数系統の細胞に分化する能力を兼ね備えた細胞であり、その例としては、以下に限定されるものではないが、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞、胚性生殖幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞、腸幹細胞、癌幹細胞、毛包幹細胞などが含まれる。細胞株とは、生体外での人為的な操作により無限の増殖能を獲得した細胞である。細胞株とは、生体外での人為的な操作により無限の増殖能を獲得した細胞であり、その例としては、以下に限定されるものではないが、CHO(チャイニーズハムスター卵巣細胞株)、HCT116、Huh7、HEK293(ヒト胎児腎細胞)、HeLa(ヒト子宮癌細胞株)、HepG2(ヒト肝癌細胞株)、UT7/TPO(ヒト白血病細胞株)、MDCK、MDBK、BHK、C-33A、HT-29、AE-1、3D9、Ns0/1、Jurkat、NIH3T3、PC12、S2、Sf9、Sf21、High Five(登録商標)、Vero等が含まれる。
【0031】
本発明における植物由来の細胞には、植物体の各組織から分離した細胞が含まれ、当該細胞から細胞壁を人為的に除いたプロトプラストも含まれる。
【0032】
本発明における組織とは、何種類かの異なった性質や機能を有する細胞が一定の様式で集合した構造の単位であり、動物の組織の例としては、上皮組織、結合組織、筋組織、神経組織等が含まれる。植物の組織の例としては、分裂組織、表皮組織、同化組織、葉肉組織、通道組織、機械組織、柔組織、脱分化した細胞塊(カルス)等が含まれる。
【0033】
細胞及び/又は組織を培養するに際し、培養する細胞及び/又は組織は、前記に記載した細胞及び/又は組織から任意に選択して培養することができる。細胞及び/又は組織は、動物或いは植物体より直接採取することができる。細胞及び/又は組織は、特定の処理を施すことにより動物或いは植物体から誘導させたり、成長させたり、又は形質転換させた後に採取してもよい。この際、当該処理は生体内であっても生体外であってもよい。動物としては、例えば魚類、両生類、爬虫類、鳥類、汎甲殻類、六脚類、哺乳類等が挙げられる。哺乳動物の例としては、限定されるものではないが、ラット、マウス、ウサギ、モルモット、リス、ハムスター、ハタネズミ、カモノハシ、イルカ、クジラ、イヌ、ネコ、ヤギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ゾウ、コモンマーモセット、リスザル、アカゲザル、チンパンジー及びヒトが挙げられる。植物としては、採取した細胞及び/又は組織が液体培養可能なものであれば、特に限定はない。例えば、生薬類(例えば、サポニン、アルカロイド類、ベルベリン、スコポリン、植物ステロール等)を生産する植物(例えば、薬用人参、ニチニチソウ、ヒヨス、オウレン、ベラドンナ等)や、化粧品・食品原料となる色素や多糖体(例えば、アントシアニン、ベニバナ色素、アカネ色素、サフラン色素、フラボン類等)を生産する植物(例えば、ブルーベリー、紅花、セイヨウアカネ、サフラン等)、或いは医薬品原体を生産する植物などがあげられるが、それらに限定されない。
【0034】
細胞を培養するに際し、培養する細胞は、前記に記載した細胞から任意に選択して培養することができる。細胞は、動物或いは植物体より直接採取することができる。細胞は、特定の処理を施すことにより動物或いは植物体から誘導させたり、成長させたり、又は形質転換させた後に採取してもよい。この際、当該処理は生体内であっても生体外であってもよい。動物としては、例えば魚類、両生類、爬虫類、鳥類、汎甲殻類、六脚類、哺乳類等が挙げられる。哺乳動物の例としては、限定されるものではないが、ラット、マウス、ウサギ、モルモット、リス、ハムスター、ハタネズミ、カモノハシ、イルカ、クジラ、イヌ、ネコ、ヤギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ゾウ、コモンマーモセット、リスザル、アカゲザル、チンパンジー及びヒトが挙げられる。植物としては、採取した細胞が液体培養可能なものであれば、特に限定はない。例えば、生薬類(例えば、サポニン、アルカロイド類、ベルベリン、スコポリン、植物ステロール等)を生産する植物(例えば、薬用人参、ニチニチソウ、ヒヨス、オウレン、ベラドンナ等)や、化粧品・食品原料となる色素や多糖体(例えば、アントシアニン、ベニバナ色素、アカネ色素、サフラン色素、フラボン類等)を生産する植物(例えば、ブルーベリー、紅花、セイヨウアカネ、サフラン等)、或いは医薬品原体を生産する植物などがあげられるが、それらに限定されない。
【0035】
本発明の培地組成物に含有されるPD-GXGは、ゾル-ゲル転移温度を超える温度条件下において3次元的な構造体を形成する。かかる培地組成物中に懸濁された細胞又は組織は、PD-GXGが形成する当該3次元的な構造体にトラップされ得る。その結果、ゾル-ゲル転移温度を超える温度条件下において本発明の培地組成物を用いて細胞培養を行うことにより、細胞又は組織を浮遊状態で分散させたまま培養することができる。
【0036】
本明細書において、細胞の浮遊とは、培養容器に対して細胞が接着しない状態(非接着)であることをいう。さらに、本発明の培地組成物において、細胞を増殖、分化或いは維持させる際、液状培地組成物に対する外部からの圧力や振動或いは当該組成物中での振とう、回転操作等を伴わずに細胞が当該液状培地組成物中で均一に分散し尚且つ浮遊状態にある状態を「浮遊静置」といい、当該状態で細胞を培養することを「浮遊静置培養」という。浮遊静置培養において細胞又は組織を浮遊させる期間としては、5分以上(例、少なくとも5~60分)、1時間以上(例、1時間~24時間)、24時間以上(例、1日~21日)、48時間以上、7日以上等が含まれるが、浮遊状態を保つ限りこれらの期間に限定されない。
【0037】
本発明の培地組成物中で細胞又は組織を培養する際には、本発明の培養組成物に対して別途調製した細胞又は組織を添加し、均一に分散される様に混合すればよい。その際の混合方法は特に制限はなく、例えばピペッティング等の手動での混合、スターラー、ボルテックスミキサー、マイクロプレートミキサー、振とう機等の機器を用いた混合が挙げられる。混合後は培養液を静置状態にしてもよいし、必要に応じて培養液を回転、振とう或いは撹拌してもよい。その回転数と頻度は、当業者の目的に合わせて適宜設定すればよい。
【0038】
細胞又は組織を培養する際の温度は、動物細胞であれば通常30℃~39℃、好ましくは33℃~39℃である。CO濃度は、通常、培養の雰囲気中、4~10体積%であり、4~6体積%が好ましい。培養期間は通常3~35日間であるが、培養の目的に合わせて自由に設定すればよい。植物細胞の培養温度は、通常20~30℃であり、光が必要であれば照度2000~8000ルクスの照度条件下にて培養すればよい。培養期間は通常3~70日間であるが、培養の目的に合わせて自由に設定すればよい。
【0039】
培養器材としては、細胞や組織の培養に一般的に用いられるシャーレ、フラスコ、プラスチックバック、テフロン(登録商標)バック、ディッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウエルプレート、マルチプレート、マルチウエルプレート、チャンバースライド、チューブ、トレイ、培養バック、ローラーボトル等の培養器材を用いることが可能である。
【0040】
本発明の培地組成物の一態様において、本発明の培地組成物は、細胞又は組織を含んでいてもよい。換言すれば、本発明の培地組成物は、本発明の培地組成物と、これにより培養した細胞又は組織を含有する培養調製物をも含む。本明細書において、培養調製物とは、細胞又は組織を培養することにより得られる結果物をいい、細胞又は組織、培地(培地組成物)、細胞分泌性成分等が含まれていてもよい。
【0041】
2.培養方法
本発明はまた、以下の工程を含む、細胞又は組織の培養方法(以下、「本発明の方法」と称することがある)を提供する:(1)ガラクトキシログルカンのガラクトース部分分解物を含む温度応答性液状培地組成物中で細胞又は組織を浮遊培養する工程であって、該液状培地組成物のゾル-ゲル転移温度を超える温度下で細胞又は組織を培養する、工程。
【0042】
本発明の方法に用いられる、PD-GXG、細胞又は組織、培地、培養条件等は上述した通りである。尚、工程(1)は、上述した本発明の培地組成物を用いて行うことができる。
【0043】
一態様において、本発明の方法は、培養した細胞又は組織を回収する工程を含み得る。具体的には、上述した工程(1)に加えて、工程(2)(1)の工程後、液状培地組成物を冷却し、該液状培地組成物の粘度を低下させる工程、及び工程(3)液状培地組成物から細胞又は組織を分離する工程を含み得る。
【0044】
工程(2)における培地組成物の冷却は、培地組成物中のPD-GXGがゾル-ゲル転移温度付近又はそれ以下の温度まで冷却されることにより、PD-GXGが形成する構造体が消失し、その結果培地組成物の粘性を低下させ得ることができる限り、どのような方法で冷却してもよい。一態様として、本発明の培地組成物を室温(例、15~25℃程度)または冷蔵環境(例、4℃程度)に静置することにより、本発明の培地組成物を冷却することができる。本工程を経ることにより、本発明の培地組成物の粘性は大きく低下する。
【0045】
次に、本発明の培地組成物と細胞又は組織とを工程(3)において分離する。低粘性となった本発明の培地組成物は、上述したPD-GXGによる3次元構造体が解消するため、もはや細胞又は組織を浮遊させることができない。従って、本発明の培地組成物と細胞又は組織とは、例えば、遠心分離を用いて容易に分離できる。遠心分離を行う際の重力加速度は、本発明の培地組成物と細胞又は組織とが分離できる限り特に限定されないが、通常10~400Gであり得る。また、遠心分離処理の代わりに、ろ過処理による分離を行なってもよい。ろ過処理に用いるフィルターの細孔のサイズは、分離する細胞又は組織のサイズを考慮して適宜設定すればよいが、例えば、10μm~100μmのサイズを有するフィルターを使用することができる。
【0046】
また、工程(3)が行われる温度条件としては、本発明の培地組成物の粘性が高まり、培地組成物と細胞又は組織の分離が不可能となる温度でなければ特に限定されない。一態様において、ゾル-ゲル転移温度以下であれば本発明の培地組成物の粘性は高まらないため好ましいが、これに限定されない。
【0047】
以下の実施例において本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【実施例
【0048】
[調製例1]PD-GXGの調製
ガラス容器に80質量部の20mM酢酸緩衝液(pH4.5)及び2質量部のGXG(グリロイド3C又は6S、DSP五協フード&ケミカル社製)を加えて撹拌し溶解した後、17.8質量部の20mM酢酸緩衝液(pH4.5)に0.2質量部のβ-ガラクトシダーゼ(β-Galactosidase from Aspergillus oryzae、Sigma-Aldrich社製)を溶解したものを加え、30℃で15時間撹拌し酵素反応によるGXGからのガラクトースの部分除去を行った。100℃で20分間加熱することで酵素を失活させ反応を停止した。得られた溶液を4℃に冷却後、等体積量のエタノール(和光純薬工業社製)に加えることで生成した析出物を吸引ろ過により回収し、減圧乾燥又は凍結乾燥によりPD-GXGの乾燥生成物を作製した。
【0049】
[調製例2]多糖水溶液の調製
ガラス製培地ビンに98質量部の精製水及び調製例1で作製したPD-GXGを2質量部加え、4℃に冷却しながら撹拌することで溶解した。得られた水溶液をオートクレーブ滅菌処理(121℃、20分)した後再度4℃に冷却することにより、2質量%濃度のPD-GXG水溶液を作製した。同様にして2質量%濃度のメチルセルロース(METOLOSE SM-1500、信越化学工業株式会社製、以下、MCと称することがある)水溶液を作製した。また、ガラス製培地ビンに98質量部の精製水及びGXGを2質量部加え、オートクレーブ滅菌処理(121℃、20分)を行うことにより、2質量%濃度のGXG水溶液を作製した。また、ガラス製培地ビンに99.2質量部の精製水及び脱アシル化ジェランガム(三晶社製、以下、DAGと称することがある)を0.8質量部加え、オートクレーブ滅菌処理(121℃、20分)を行うことにより、0.8質量%濃度のDAG水溶液を作製した。
【0050】
[調製例3]培地組成物の調製
各種粉末培地及びFBS(ウシ胎児血清)(Thermo Fisher Scientific社製)より作製した1倍又は2倍濃縮の液体培地と、調製例2で作製した多糖水溶液又はそれらを希釈した多糖水溶液を混合することで培地に多糖を均一に添加して培地組成物を作製した。培地と多糖水溶液の混合には培地作製キット(日産化学社製 FCeM(登録商標)-series Preparation Kit)を使用し、以下の手順で行った。コニカルチューブ(住友ベークライト社製 50mL遠沈管)に所定量の各種培地を分注し、キットの構成品であるアダプターキャップを装着した。つぎに、所定量の多糖水溶液を充填したディスポーザブルシリンジの先端部をアダプターキャップの円筒部に嵌め込んで接続し、シリンジのプランジャーを人力で押圧し、勢い良くシリンジ内の多糖水溶液を容器内へと射出して培地と混合させて培地組成物を作製した。作製した培地組成物を表1に示す。目視及び顕微鏡観察において、すべての培地組成物が均一かつ透明であることを確認した。
【0051】
【表1】
【0052】
[試験例1]PD-GXGのガラクトース除去率の算出
調製例1で作製したPD-GXGのガラクトース除去率を、GlyScope ABEE標識化キット(J-ケミカル社製)を用いて、以下の方法で算出した。
【0053】
まず、原料のGXG又は調製例1で作製したPD-GXGの乾燥生成物をそれぞれ冷水に加え撹拌し、30mg/mLの各水溶液を調製した。これらを上記キットのプロトコールに従い、トリフルオロ酢酸により酸加水分解後、遊離した各糖の還元末端にABEE(4-アミノ安息香酸エチルエステル)を還元アミノ化反応で標識化を行った。標識後、下記の条件※でHPLC測定を行い、グルコース画分、キシロース画分及びガラクトース画分の溶出面積をUV検出器にて検出した。なお、各単糖の検量線は、市販のD(+)-グルコース、D(+)-キシロース、D(+)-ガラクトース(和光純薬工業社製)を標準物質として用い、上記キットにて調製した各標準試料のHPLC測定での溶出面積より作成を行った。各溶出面積値から検量線を用いて重量比に換算し、GXG及びPD-GXGのグルコース/キシロース/ガラクトース構成比を算出した。その結果、グルコースを基準としたときの構成比は、GXGが「1/0.858/0.348」、PD-GXGが「1/0.891/0.207」であった。したがって、PD-GXGのガラクトース除去率は、(1-0.207/0.348)×100=40.5% と算出された。
【0054】
※[HPLC条件]
カラム:糖分析用カラム Honenpak C18(4.6×75mm)
温度 :30℃
検出 :UV305nm
流速 :1.0mL/min
注入量:40μL
溶離液:0.2Mホウ酸カリウム緩衝液/アセトニトリル=93/7(v/v)
【0055】
[試験例2]PD-GXG水溶液の物性評価
調製例2で作製した2質量%濃度のPD-GXG水溶液について各種物性を測定し評価を行った。
【0056】
(1)相転移挙動の確認:温度変化によるゾル-ゲル転移挙動の確認
調製例2で作製した2質量%濃度のPD-GXG水溶液を37℃の恒温機に静置保管し、10分後及び30分後の様子を観察した。外観の観察結果を図1に示す。これらの結果より、調製例2で作製したPD-GXGの水溶液は37℃に昇温することでゾル-ゲル転移することを確認した。
【0057】
(2)相転移温度の測定:DSC測定
調製例2で作製したPD-GXG水溶液をアルミパンに封入し、4℃から37℃の範囲にて、昇温-降温サイクル時の示差走査熱量測定(DSC)を行った。得られたDSC曲線を図2に示す。図2より、昇温過程では29℃付近に、降温過程では25℃付近に吸発熱ピークが観測されたことから、PD-GXG水溶液は前述の温度にて相転移挙動が確認され、温度応答性組成物であることを確認した。
【0058】
[試験例3]培地組成物の物性評価
調製例3で作製した培地組成物について各種物性を測定し評価を行った。
(1)培地組成物の透明性評価
PD-GXG配合培地組成物の透明性を、加温前後での透過率により評価を行った。比較例1、DHd405、DHd406を96穴平底透明プレートにそれぞれ200μLずつ分注し、プレートリーダー(テカン社製、infiniteM200PRO)を用いて、室温時と37℃加温時における可視光領域(波長660nm)の吸光度測定を行った。得られた吸光度から透過率の式(100/10^吸光度)より透過率を導出した。その結果を表2に示す。培地組成物の透過率は無添加の比較例1と比較して、25℃で3~9%の低下となり、目視及び顕微鏡観察に影響しない範囲であることを確認した。50mLのコニカルチューブに分注し、37℃に恒温したDHd405及びDHd406の外観を図3に示す。反対側の目盛り線が視認できることからも、透明性は良好であることを確認した。
【0059】
【表2】
【0060】
(2)温度変化によるビーズの浮遊・沈降制御の評価
調製例3で作製した培地組成物DHd405中に、浮遊する細胞を模擬的に再現するためのポリスチレンビーズ(直径500~600μm、Polysciences Inc.製)を添加して混合し、静置保管して10分間、1時間、及び24時間経過後に、液中のビーズの分散状態を目視にて確認した。その結果、いずれの静置時間でもビーズは分散状態を維持したまま静止していた。24時間経過後のビーズ入りDHd405を室温に戻し、遠心分離(300xg、3分間)を行ったところ、ビーズは沈降した。さらに、これを37℃に加温して反転混合したところ、再びビーズは浮遊し分散状態を維持したまま静止した。このことから、温度差によるビーズの浮遊及び沈降の制御が可能であることを確認した。これらの外観を図4に示す。
【0061】
(3)温度変化による細胞の浮遊・沈降制御の評価
対数増殖期にあるヒト肺胞基底上皮腺癌細胞(A549、DSファーマバイオメディカル株式会社製)を15×10細胞準備し、1.5mL丸底マイクロチューブ(深江化成社製)3本に各5×10細胞ずつ分注した。遠心分離(300xg,3分間)を行い上清除去した後、37℃に加温したPD-GXGを種々の濃度で含む培地組成物(DHd405乃至DHd406)、及びPD-GXGを含まない培地組成物(比較例1)をそれぞれ1本ずつに0.5mL加えて緩やかに撹拌し細胞懸濁液を作製した(10×10細胞/mL)。インキュベーター(37℃、5%CO、Panasonic社製)内で4日間静置した後、細胞が浮遊しているか目視にて観察した。その結果、PD-GXGを含まない培地組成物(表1の比較例1)に懸濁した細胞は容器底部に沈降していたのに対し、PD-GXG配合培地組成物(DHd405乃至DHd406)に懸濁した細胞は、液全体に分散したまま静止状態で浮遊していることを確認した。外観を図5に示す。
【0062】
(4)培地組成物のSEM観察
培地中でのPD-GXGの構造体を観察するため、培地組成物より調製した乾燥生成物のSEM観察を行った。SEM観察用サンプルは、以下の方法で調整した。ガラスプレートに調製例3で作製した培地組成物DHd405をキャストし、50℃に加温したホットプレート上で乾燥後、50℃の温水で洗浄し、再度50℃のホットプレート上で乾燥した。また、ガラスプレートに調製例3で作製した培地組成物DHd405をキャストし、室温で自然乾燥後、50℃の温水で洗浄し、再度室温で自然乾燥した。50℃又は室温で調製したPD-GXG乾燥生成物のSEM観察像を図6に示す。図6より、50℃で乾燥したものはコロイドが数珠状に連なったような構造体が観察された。一方で、室温で乾燥したものでは上述のような数珠状の構造体は見られず、球状のコロイド様粒子が点在したもののみが観察された。これらの結果から、昇温することでPD-GXGのハイドロコロイドがコロイド表面の疎水的な相互作用により会合し、図7の模式図に示すようなネットワークを形成することで細胞の浮遊性が発現するものと考えられる。さらに、室温に戻した際は疎水性相互作用が弱まり、ネットワークが解けて浮遊性を失うため、温度変化によって可逆的な浮遊挙動の制御が可能であると考えられる。
【0063】
(5)相転移温度の測定:粘弾性測定
調製例3で作製した培地組成物DHd405を20℃に恒温し、20℃から1℃ずつ2分刻みで37℃まで上昇させながら各温度での貯蔵弾性率及び損失弾性率を測定した。その結果を図8に示す。図8より、29℃で貯蔵弾性率が損失弾性率よりも大きくなり、逆転したことから、昇温過程で構造体形成が進み、29℃以降でネットワーク様の構造体が形成されたことが示唆された。
【0064】
[試験例4]培養実験:A549細胞の増殖評価
対数増殖期にあるヒト肺胞基底上皮腺癌細胞(A549、DSファーマバイオメディカル株式会社製)を125×10細胞準備し、15mLコニカルチューブ(住友ベークライト社製)5本に各25×10細胞ずつ分注した。遠心分離(300xg,3分間)を行い上清除去した後、37℃に加温したPD-GXGを含む培地組成物(DHd406)、種々の多糖を含む培地組成物(比較例2~4)及び多糖を含まない培地組成物(比較例1)をそれぞれ1本ずつに2.5mL加えて緩やかに撹拌し細胞懸濁液を作製した(10×10細胞/mL)。調製したそれぞれの細胞懸濁液を96穴平底超低接着プレート(#3474、Corning社製)へ1ウェルあたり1×10細胞分の0.1mLずつ各4ウェルに加え、37℃、5%炭酸ガス条件下において4日間培養を行った。1日毎に細胞中に含まれるATP量をCellTiter―Glo Luminescent Cell Viability Assay(Promega社製、G7571)を用いてプレートリーダー(infiniteM200PRO、テカン社製)により定量し、細胞増殖性を評価した。以上の試験は全て4回実施し、その平均値を表3及び図9に記した。また、培養4日後に細胞の状態及び浮遊性について顕微鏡観察を行った。図10にそれぞれを観察した顕微鏡写真を示す。図10より、培地組成物DHd406及び比較例2のみが浮遊状態で培養することができることを確認した。さらに、DHd406を用いた培養では、細胞の凝集が顕著に抑制されており、細胞同士の凝集抑制効果があることがわかった。また、表3の結果より、比較例1、3、4は細胞同士の過凝集に起因する細胞死によるものと考えられる生細胞数の減少がみられた一方で、本発明の培地組成物であるDHd406を用いた3次元静置浮遊培養においては、比較例2を用いた培養と同等の良好な細胞増殖性が確認された。
【0065】
【表3】
【0066】
[試験例5]培養実験:HepG2細胞の増殖評価
対数増殖期にあるヒト肝癌由来細胞(HepG2、DSファーマバイオメディカル株式会社製)を125×10細胞準備し、15mLコニカルチューブ(住友ベークライト社製)5本に各25×10細胞ずつ分注した。遠心分離(300xg,3分間)を行い上清除去した後、37℃に加温したPD-GXGを含む培地組成物(DHd411)、種々の多糖を含む培地組成物(比較例6~8)及び多糖を含まない培地組成物(比較例5)をそれぞれ1本ずつに2.5mL加えて緩やかに撹拌し細胞懸濁液を作製した(10×10細胞/mL)。調製したそれぞれの細胞懸濁液を96穴平底超低接着プレート(#3474、Corning社製)へ1ウェルあたり1×10細胞分の0.1mLずつ各4ウェルに加え、37℃、5%炭酸ガス条件下において4日間培養を行った。1日毎に細胞中に含まれるATP量をCellTiter―Glo Luminescent Cell Viability Assay(Promega社製、G7571)を用いてプレートリーダー(infiniteM200PRO、テカン社製)により定量し、細胞増殖性を評価した。以上の試験は全て4回実施し、その平均値を表4及び図11に記した。また、培養4日後に細胞の状態及び浮遊性について顕微鏡観察を行った。試験例4と同様に、培地組成物DHd411及び比較例6のみが浮遊状態で培養することができることを確認した。さらに、DHd411を用いた培養では、HepG2細胞の培養においても細胞の凝集が顕著に抑制されており、細胞同士の凝集抑制効果があることがわかった。また、表4の結果より、比較例5、7、8は細胞同士の過凝集に起因する細胞死によるものと考えられる生細胞数の減少がみられた一方で、本発明の培地組成物であるDHd411を用いた3次元静置浮遊培養において、比較例6と同等の良好な細胞増殖性が確認された。
【0067】
【表4】
【0068】
[試験例6]培養後の細胞回収実験:A549細胞の回収性評価
対数増殖期にあるヒト肺胞基底上皮腺癌細胞(A549、DSファーマバイオメディカル株式会社製)を30×10細胞準備し、15mLコニカルチューブ(住友ベークライト社製)2本に各15×10細胞ずつ分注した。遠心分離(300xg,3分間)を行い上清除去した後、37℃に加温したPD-GXGを含む培地組成物(DHd406)又はDAGを含む培地組成物(比較例2)をそれぞれ1本ずつに1.5mL加えて緩やかに撹拌し細胞懸濁液を作製した(10×10細胞/mL)。調製したそれぞれの細胞懸濁液を24穴平底超低接着プレート(#3473、Corning社製)へ各1ウェルに13×10細胞分の1.3mLずつ加え、37℃、5%炭酸ガス条件下において4日間培養を行った。培養後、ウェル内の培養液全量を1.5mL丸底マイクロチューブ(深江化成社製)に移し、100μL中の細胞中に含まれるATP量をCellTiter―Glo Luminescent Cell Viability Assay(Promega社製、G7571)を用いてプレートリーダー(infiniteM200PRO、テカン社製)により定量し、これを基準値とした。つぎに、1.5mL丸底マイクロチューブ内の残りの培養液1.0mLが20~25℃になるまで静置後、遠心分離(300xg,3分間)を行った。遠心分離後、上清を0.8mL除去し、残りの0.2mLに培地を0.8mL加え、ピペッティングにより再懸濁した。再懸濁液100μL中の細胞中に含まれるATP量をCellTiter―Glo Luminescent Cell Viability Assay(Promega社製、G7571)を用いてプレートリーダー(infiniteM200PRO、テカン社製)により定量し、遠心分離前後でのRLU値を比較することで細胞の回収率を算出した。以上の試験は全て3回実施し、その平均値より算出した回収率を表5に示す。表5より、比較例2の培養液より回収した細胞が16.6%であったのに対し、DHd406の培養液より回収した細胞は90.2%であり、ほとんどの細胞を回収できたことを確認した。また、遠心分離後の外観を図12に示す。遠心分離前はいずれの培養液においても細胞は浮遊していたが、遠心分離後は図12のようにDHd406の培養液のみが細胞が沈降し、良好なペレットを形成したことを確認した。一方、比較例2の培養液は、ほとんど細胞が沈降せず、培養液中に浮遊したままであった。上述の表5及び図12の結果から、本発明の培地組成物DHd406は、液状の培地中での細胞の浮遊と沈降を温度変化により制御可能であることを実証した。
【0069】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、効率よく細胞を拡大培養することができる。また、培養した細胞を、細胞を傷つけずに効率良く回収することができる。従って、本発明は、例えば、再生医療分野において極めて有用である。
【0071】
本出願は日本で出願された特願2019-065075(出願日:2019年3月28日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
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図11
図12