(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】積層部材
(51)【国際特許分類】
B32B 17/06 20060101AFI20240820BHJP
B32B 18/00 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
B32B17/06
B32B18/00 B
(21)【出願番号】P 2021533968
(86)(22)【出願日】2020-07-14
(86)【国際出願番号】 JP2020027382
(87)【国際公開番号】W WO2021015057
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019137122
(32)【優先日】2019-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】小川 修平
(72)【発明者】
【氏名】中澤 伯人
(72)【発明者】
【氏名】野村 周平
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-197425(JP,A)
【文献】特開2009-117583(JP,A)
【文献】特開2002-206756(JP,A)
【文献】特開2015-027945(JP,A)
【文献】特表2012-507459(JP,A)
【文献】特開2012-232594(JP,A)
【文献】特開2009-151331(JP,A)
【文献】特開2008-007584(JP,A)
【文献】特開2003-177212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C03C 27/00-29/00
C04B 37/00-37/04
F24C 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長850nmにおける直線透過率が80%以上であるガラス部材と、
前記ガラス部材上に樹脂である接合層と、
前記接合層上にSiC部材またはAlN部材であるセラミックス部材と、
を有
し、
前記ガラス部材の厚さが2mm~40mmであり、
前記セラミックス部材の厚さが0.5mm~10mmである、積層部材。
【請求項2】
前記ガラス部材の波長850nmにおける直線透過率が90%以上である、請求項1に記載の積層部材。
【請求項3】
前記セラミックス部材の熱伝導率が90W/m・K~240W/m・Kである、請求項1または2に記載の積層部材。
【請求項4】
前記セラミックス部材の20℃~200℃における平均線膨張係数αから前記ガラス部材の20℃~200℃における平均線膨張係数βを引いた値の絶対値|α-β|が2.0ppm/℃以下である、請求項1乃至
3のいずれか一に記載の積層部材。
【請求項5】
前記セラミックス部材の20℃~200℃における平均線膨張係数αが1.9~5.0ppmである、請求項1乃至
4のいずれか一に記載の積層部材。
【請求項6】
前記ガラス部材の20℃~200℃における平均線膨張係数βが0.01~5.50ppmである、請求項1乃至
5のいずれか一に記載の積層部材。
【請求項7】
前記樹脂は、耐熱温度200℃~500℃の樹脂である、請求項1乃至
6のいずれか一に記載の積層部材。
【請求項8】
反り量が0.25mm以下である、請求項1乃至
7のいずれか一に記載の積層部材。
【請求項9】
密度が2.45g/cm
3~2.95g/cm
3である、請求項1乃至
8のいずれか一に記載の積層部材。
【請求項10】
前記セラミックス部材の上に設けられる第2の接合層と、
前記第2の接合層を介して前記セラミックス部材と接合される第2のセラミックス部材と、を更に有する、請求項1乃至
9のいずれか一に記載の積層部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス部材とセラミックス部材を積層した積層部材に関する。
【背景技術】
【0002】
システムキッチンは、作業台、加熱調理器などがワークトップで繋がっている。ワークトップの素材としては、ステンレス、人工大理石、セラミックス等が用いられている。
【0003】
加熱調理器は、ワークトップに設けられた開口に組み込まれる。加熱調理器は、被加熱体(鍋等)を載置するトッププレートを備える。トッププレートの素材としては、結晶化ガラス(特許文献1参照)、セラミックス等が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、デザイン性の面から、ワークトップとトッププレートを同じ素材にすることが要望されている。しかしながら、既存の素材では、以下の点が問題となっていた。
【0006】
ステンレスは、耐擦傷性が低い。
【0007】
人工大理石は、耐熱性や熱伝導率が低いため、トッププレート素材に適さない。
【0008】
結晶化ガラスは、結晶の析出の制御が難しいためワークトップに用いられるような大面積基板の製造が難しい。
【0009】
また、加熱調理器のトッププレートに用いるような加熱部材は、高速で昇降温でき、耐衝撃性が高いことが求められる。加熱部材を高速で昇降温させるためには、加熱部材は薄い方が好ましい。一方で、加熱部材の耐衝撃性を高めるためには、加熱部材は厚い方が好ましい。
【0010】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明の一態様では、加熱部材として好適な積層部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、
[1]波長850nmにおける直線透過率が80%以上であるガラス部材と、
前記ガラス部材上に樹脂である接合層と、
前記接合層上にSiC部材またはAlN部材であるセラミックス部材と、
を有する積層部材である。
【0012】
本発明の一態様の積層部材は、
[2]前記ガラス部材の波長850nmにおける直線透過率が90%以上であることが好ましい。
【0013】
本発明の一態様の積層部材は、
[3]前記セラミックス部材の熱伝導率が90W/m・K~240W/m・Kであることが好ましい。
【0014】
本発明の一態様の積層部材は、
[4]前記ガラス部材の厚さが2mm~40mmであり、
前記セラミックス部材の厚さが0.5mm~10mmであることが好ましい。
【0015】
本発明の一態様の積層部材は、
[5]前記セラミックス部材の20℃~200℃における平均線膨張係数αから前記ガラス部材の20℃~200℃における平均線膨張係数βを引いた値の絶対値|α-β|が2.0ppm/℃以下であることが好ましい。
【0016】
本発明の一態様の積層部材は、
[6]前記セラミックス部材の20℃~200℃における平均線膨張係数αが1.90ppm/℃~5.00ppm/℃であることが好ましい。
【0017】
本発明の一態様の積層部材は、
[7]前記ガラス部材の20℃~200℃における平均線膨張係数βが0.01ppm/℃~5.50ppm/℃であることが好ましい。
【0018】
本発明の一態様の積層部材は、
[8]前記樹脂は、耐熱温度230℃~500℃の樹脂であることが好ましい。
【0019】
本発明の一態様の積層部材は、
[9]前記積層部材は、反り量0.25mm以下が好ましい。
【0020】
本発明の一態様の積層部材は、
[10]前記積層部材は、密度2.45g/cm3~2.95g/cm3が好ましい。
【0021】
本発明の一態様の積層部材は、
[11]前記セラミックス部材の上に設けられる第2の接合層と、
前記第2の接合層を介して前記セラミックス部材と接合される第2のセラミックス部材と、を更に有する、積層部材であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一態様によると、加熱部材として好適な積層部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下において、本発明の一態様の積層部材について詳細に説明する。
【0025】
本明細書において、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用され、特段の定めがない限り、以下において「~」は、同様の意味をもって使用される。
【0026】
(積層部材)
図1は、本発明の一態様の積層部材100の断面図である。積層部材100は、ガラス部材101と、ガラス部材101上に設けられた接合層103と、接合層103上に設けられたセラミックス部材105と、を有する。積層部材100は、ガラス部材101と、接合層103と、セラミックス部材105と、が、この順に積層された積層構造を有する。
【0027】
本発明の一態様の積層部材100の製造方法は、ガラス部材101とセラミックス部材105を、接合層103を間に介して貼り合わせればよい。
【0028】
積層部材100の反り量は、0.25mm以下が好ましい。積層部材100の反り量は、0.20mm以下がより好ましく、0.10mm以下がさらに好ましく、0.05mm以下が特に好ましい。積層部材100の反り量が上述の値以下であれば、応力発生時に、特定の箇所へ応力が集中することを防ぐことができるため、耐割れ性を向上させることができる。また、積層部材100をキッチン用に施工した際に、積層部材100の反りにより周囲が歪んで積層部材100に映り込みデザイン性が低くなるのを避けることができる。また、積層部材100上に被加熱体を載置した際に、被加熱体がぐらつくことを防ぐことができる。
【0029】
積層部材100の反り量は、非接触の3次元形状測定装置により測定できる。
【0030】
積層部材100の密度は、2.45g/cm3~2.95g/cm3が好ましい。積層部材100の密度は、2.50g/cm3以上がより好ましく、2.55g/cm3以上がさらに好ましく、2.60g/cm3以上が特に好ましい。積層部材100の密度は、2.85g/cm3以下がより好ましく、2.80g/cm3以下がさらに好ましく、2.75g/cm3以下が特に好ましい。密度が上述の範囲であれば、積層部材を加熱部材として筐体に組み込む際の施工性が向上する。
【0031】
密度は、積層部材100の総重量を、積層部材100の総体積で除した値である。
【0032】
積層部材100の総重量は、重量測定器により測定できる。
【0033】
積層部材100の総体積は、デジタルメジャーにより測定できる。
【0034】
積層部材100のセラミックス部材105側の最上面の面積(積層部材100のセラミックス部材105側の主表面)は、0.01m2~10m2が好ましい。積層部材100の最上面の面積は、0.15m2以上がより好ましく、0.30m2以上がさらに好ましく、0.60m2以上が特に好ましく、0.90m2以上が最も好ましい。積層部材100の最上面の面積は、8m2以下がより好ましく、6m2以下がさらに好ましく、4m2以下が特に好ましく、3m2以下が最も好ましい。
【0035】
最上面の面積は、積層部材100の寸法をデジタルメジャーで測定して算出する。積層部材100の最上面の面積が上述の範囲であれば、加熱部材として筐体に組み込む際の施工性が向上する。
【0036】
積層部材100は、ガラス部材101とセラミックス部材105とを、接合層103を間に介して、例えば150℃~380℃の温度で貼り合わせて得ることができる。
【0037】
(セラミックス部材)
セラミックス部材105は、SiC部材またはAlN部材である。
【0038】
SiC部材は、SiC含有量が95wt%以上の炭化ケイ素質のセラミックスである。SiC部材の組成は、特に限定されず、SiC以外に焼結助剤成分や微量の不純物などが含有されていてもよい。焼結助剤は、特に限定されないが、例えばBe、BeO、B4C、BN、Al、AlNが挙げられる。
【0039】
AlN部材は、AlN含有量が92wt%以上の窒化アルミニウム質のセラミックスである。AlN部材の組成は、特に限定されず、AlN以外に焼結助剤成分や微量の不純物などが含有されていてもよい。焼結助剤は、特に限定されないが、例えばY2O3、Al2O3、MgO、CaO、B2O3、Li2Oなどが挙げられる。
【0040】
セラミックス部材105の厚さは、0.5mm~10mmが好ましい。セラミックス部材105の厚さは、1.5m以上がより好ましく、2.0mm以上がさらに好ましく、2.5mm以上が特に好ましい。セラミックス部材105の厚さは、7mm以下がより好ましく、5mm以下がさらに好ましく、3mm以下が特に好ましい。セラミックス部材105は、ガラス部材101で支持されるため、薄くできる。セラミックス部材105は、厚さが10mm以下であれば、加熱部材として用いたときに素早い昇降温が可能となる。
【0041】
セラミックス部材105は、例えば焼結法、CVD法、ゾル‐ゲル法により製造できる。
【0042】
セラミックス部材105の厚さは、ノギスやデジタルメジャーにより測定できる。
【0043】
20℃~200℃におけるセラミックス部材105の平均線膨張係数αは、1.90ppm/℃~5.00ppm/℃が好ましい。以下、20℃~200℃におけるセラミックス部材105の平均線膨張係数αを、単に平均線膨張係数αとも呼ぶ。平均線膨張係数αは、2.30ppm/℃以上がより好ましく、2.70ppm/℃以上がさらに好ましく、2.90以上が特に好ましい。平均線膨張係数αは、4.50ppm/℃以下がより好ましく、4.00ppm/℃以下がさらに好ましく、3.50ppm/℃以下が特に好ましい。セラミックス部材105の平均線膨張係数αが上述の範囲であれば、セラミックス部材105とガラス部材101との平均線膨張係数を一致させやすい。
【0044】
平均線膨張係数αは、測定する温度範囲を20℃~200℃とした熱機械分析装置(TMA)により測定できる。
【0045】
20℃におけるセラミックス部材105の熱伝導率は、90W/m・K~240W/m・Kが好ましい。20℃におけるセラミックス部材105の熱伝導率は、130W/m・K以上がより好ましく、170W/m・K以上がさらに好ましく、180W/m・K以上が特に好ましい。20℃におけるセラミックス部材105の熱伝導率は、230W/m・K以下がより好ましく、220W/m・K以下がさらに好ましく、210W/m・K以下が特に好ましい。セラミックス部材105の熱伝導率が上述の範囲であれば、加熱部材として均熱性が向上する。また、セラミックス部材105の熱伝導率が上述の範囲であれば、セラミックス部材105製造時に熱伝導率がばらつくことによる歩留まりの低下を防ぐことができ、セラミックス部材105の品質を安定させやすい。
【0046】
熱伝導率は、レーザーフラッシュ法により測定できる。
【0047】
20℃におけるセラミックス部材105の比熱は、0.710J/g・K~0.765J/g・Kが好ましい。20℃におけるセラミックス部材105の比熱は、0.720J/g・K以上がより好ましく、0.725J/g・K以上がさらに好ましく、0.730J/g・Kが特に好ましい。20℃におけるセラミックス部材105の比熱は、0.760J/g・K以下がより好ましく、0.755J/g・K以下がさらに好ましく、0.750J/g・K以下が特に好ましい。セラミックス部材105の比熱が上述の範囲を満たすことで、加熱部材として素早い昇降温が可能となる。
【0048】
比熱は、レーザーフラッシュ法により測定できる。
【0049】
セラミックス部材105のヤング率は、200GPa~500GPaが好ましい。セラミックス部材105のヤング率は、250GPa以上がより好ましく、320GPa以上がさらに好ましい。セラミックス部材105のヤング率は、450GPa以下がより好ましく、430GPa以下がさらに好ましく、410GPa以下が特に好ましい。セラミックス部材105のヤング率が上述の範囲を満たすことで、耐熱衝撃性が向上する。
【0050】
ヤング率は、日本工業規格(JIS-R1602-1995)に記載された弾性率試験方法により20℃で測定できる。
【0051】
セラミックス部材105の曲げ強度は、250MPa~600MPaが好ましい。セラミックス部材105の曲げ強度は、300MPa以上がより好ましく、350MPa以上がさらに好ましく、400MPa以上が特に好ましい。セラミックス部材105の曲げ強度は580MPa以下がより好ましく、560MPa以下がさらに好ましく、540MPa以下が特に好ましい。セラミックス部材105の曲げ強度が上述の範囲を満たすことで、落下物によるセラミックス部材105ひいては積層部材100の割れを防止でき、耐衝撃性を高めることができる。
【0052】
曲げ強度は、日本工業規格(JIS-R1601-2008)に記載された曲げ強さ試験方法により20℃で測定できる。
【0053】
セラミックス部材105のビッカース硬さ(Hv)は、10.0GPa~27.0GPaが好ましい。ビッカース硬さは、14.0GPa以上がより好ましく、18.0GPa以上がさらに好ましく、22.0GPa以上が特に好ましい。ビッカース硬さは、26.0GPa以下がより好ましく、25.0GPa以下がさらに好ましく、24.5GPa以下が特に好ましい。セラミックス部材105のビッカース硬さが上述の範囲を満たすことで、セラミックス部材105ひいては積層部材100の耐擦傷性が向上する。
【0054】
ビッカース硬さは、ビッカース硬さ計システムにより20℃で測定できる。
【0055】
(ガラス部材101)
ガラス部材101のガラス組成は、特に限定されない。ガラス部材101としては、例えば、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス、無アルカリガラスが挙げられる。また、ガラス部材101は、化学強化されたガラス(化学強化ガラス)であってもよい。
【0056】
ガラス部材101の厚さは、セラミックス部材105を支持できる厚さであればよい。ガラス部材101の厚さは、2mm以上が好ましく、5mm以上がより好ましく、10mm以上がさらに好ましく、15mm以上が特に好ましい。ガラス部材101の厚さは、40mm以下が好ましく、35mm以下がより好ましく、30mm以下がさらに好ましく、25mm以下が特に好ましい。ガラス部材101の厚さが上述の範囲であれば、支持部材として十分な強度を維持できる。
【0057】
ガラス部材101の厚さは、ノギスやデジタルメジャーにより測定できる。
【0058】
20℃~200℃におけるガラス部材101の平均線膨張係数βは、0.01ppm/℃~5.50ppm/℃が好ましい。以下、20℃~200℃におけるガラス部材101の平均線膨張係数βを、単に平均線膨張係数βとも呼ぶ。平均線膨張係数βは、1.00ppm/℃以上がより好ましく、1.50ppm/℃以上がさらに好ましく、2.00ppm/℃以上が特に好ましい。平均線膨張係数βは、4.50ppm/℃以下がより好ましく、3.20ppm/℃以下がさらに好ましく、2.90ppm/℃以下が特に好ましい。ガラス部材101の平均線膨張係数βが上述の範囲であれば、ガラス部材101とセラミックス部材105との平均線膨張係数を一致させやすくできる。
【0059】
セラミックス部材105の平均線膨張係数αからガラス部材101の平均線膨張係数βを引いた値の絶対値|α-β|は、2.00ppm/℃以下が好ましい。絶対値|α-β|は、1.00ppm/℃以下がより好ましく、0.50ppm/℃以下がさらに好ましく、0.30ppm/℃以下が特に好ましい。両者の平均線膨張係数差を上述の値以下とすることで、得られる積層部材100の反りを防止できる。
【0060】
波長850nmにおけるガラス部材101の直線透過率は、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましく、92%以上が特に好ましい。波長850nmにおけるガラス部材101の直線透過率が80%以上であれば、加熱利用に十分な赤外線の透過量とできる。
【0061】
直線透過率は、入射光の入射角を0°とし、ガラス部材101をその厚み方向に直線的に透過する光の透過率であって、分光光度計により20℃で測定できる。
【0062】
ガラス部材101のヤング率は、40GPa~120GPaが好ましい。ガラス部材101のヤング率は、45GPa以上がより好ましく、50GPa以上がさらに好ましく、55GPa以上が特に好ましい。ガラス部材101のヤング率は、100GPa以下がより好ましく、90GPa以下がさらに好ましく、80GPa以下が特に好ましい。ガラス部材101のヤング率が上述の範囲であれば、支持部材として十分な強度を保つことができる。
【0063】
ガラス部材101のヤング率は、日本工業規格(JIS-R1602-1995)に記載された超音波パルス法により20℃で測定できる。
【0064】
ガラス部材101の曲げ強度は、70MPa~800MPaが好ましい。ガラス部材101の曲げ強度は、100MPa以上がより好ましく、150MPa以上がさらに好ましく、200MPa以上が特に好ましい。ガラス部材101の曲げ強度は、700MPa以下がより好ましく、600MPa以下がさらに好ましい。ガラス部材101の曲げ強度が上述の範囲であれば、落下物によるガラス部材101ひいては積層部材100の割れを防止できる。また、ガラス部材101の曲げ強度が上述の範囲であれば、ガラス製造時にガラスの曲げ強度がばらつくことによる歩留まりの低下を防ぐことができ、ガラス品質を安定させやすい。
【0065】
ガラス部材101の曲げ強度は、ASTM規格(ASTM C1499-01)に記載されたガラスのリング曲げ試験により20℃で測定できる。
【0066】
次に、本発明の一態様を構成するガラス部材101について、好ましいガラス組成について説明する。なお、本明細書におけるガラス組成(ガラス部材の対象成分の含有量)は、酸化物基準の質量百分率表示(wt%)で示す。
【0067】
ガラス部材101は、SiO2を含有する。SiO2は、ガラスの主成分である。SiO2の含有量は、ガラスの耐候性を高めるためには、50wt%以上が好ましく、55wt%以上がより好ましく、58wt%以上がさらに好ましく、61wt%以上が特に好ましい。SiO2の含有量は、ガラスの粘性を低くして製造性を高めるためには、81wt%以下が好ましく、76wt%以下がより好ましく、71wt%以下がさらに好ましく、67wt%以下が特に好ましい。
【0068】
ガラス部材101は、Al2O3を含有してもよい。Al2O3は、ガラスの耐候性を高め、線膨張係数を低くするのに有用な成分である。Al2O3含有量は、好ましくは1.5wt%以上、より好ましくは5wt%以上、さらに好ましくは10wt%以上である。一方、ガラスの耐酸性を高めるために、及び、ガラスの失透を抑制するためには、Al2O3の含有量は、好ましくは26wt%以下であり、より好ましくは23wt%以下であり、さらに好ましくは20wt%以下である。
【0069】
ガラス部材101は、B2O3:5~23wt%を含有してもよい。B2O3は、ガラスの線膨張係数を調整するのに有用な成分である。ガラスの線膨張係数を抑制し、ガラスの高温粘性を低くするためには、B2O3の含有量は5wt%以上が好ましく、より好ましくは9wt%以上とし、さらに好ましくは12wt%以上とし、特に好ましくは14.5wt%以上とする。一方、ガラスの耐候性を向上させるためには、B2O3の含有量は22wt%以下が好ましく、より好ましくは19wt%以下とし、さらに好ましくは17.5wt%以下とし、特に好ましくは16wt%以下とする。
【0070】
ガラス部材101は、RO(ROは、MgO、CaO、SrO、及びBaOのうちの少なくとも1つであり、ROの含有量はMgO、CaO、SrO、及びBaOの合計量を表す)を含有してもよい。ROは、ガラスの粘性を低くして溶解性を高め、膨張係数を制御するために、好ましくは0.1wt%以上、より好ましくは1.0wt%以上、さらに好ましくは3.0wt%以上含有させてもよい。一方、ガラスの失透温度を低くして溶解性を高め、線膨張係数を制御するためには、ROの含有量は、好ましくは15wt%以下であり、より好ましくは12wt%以下であり、さらに好ましくは7.5wt%以下である。
【0071】
MgOは、ガラスの粘性を低くして溶解性を高め、線膨張係数を制御するために含有させてもよい。MgOの含有量は、0.05wt%以上が好ましく、0.7wt%以上がより好ましく、1.8wt%以上がさらに好ましい。一方、ガラスの失透温度を低くして溶解性を高め、線膨張係数を制御するためには、MgOの含有量は、6wt%以下が好ましく、4.0wt%以下がより好ましく、2.5wt%以下がさらに好ましい。
【0072】
CaOは、ガラスの粘性を低くして溶解性を高め、線膨張係数を制御するために含有させてもよい。CaOの含有量は、10wt%以下が好ましく、5wt%以下がより好ましく、3wt%以下がさらに好ましい。
【0073】
SrOは、ガラスの失透温度を低くして溶解性を高め、線膨張係数を制御するために含有させてもよい。SrOの含有量は、15wt%以下が好ましく、7.8wt%以下がより好ましく、4.5wt%以下がさらに好ましい。
【0074】
BaOは、ガラスの失透温度を低くして生産性を高め、線膨張係数を制御するために含有させてもよい。BaOの含有量は、20wt%以下が好ましく、10wt%以下がより好ましく、6wt%以下がさらに好ましい。
【0075】
ガラス部材101は、R2O:0.01~5.8wt%(R2Oは、Li2O、Na2O、及びK2Oのうちの少なくとも1つであり、R2Oの含有量はLi2O、Na2O、及びK2Oの合計量を表す)含有することが好ましい。
【0076】
R2Oは、ガラス原料の溶融を促進し、線膨張係数、粘性等を調整するのに有用な成分である。上記効果を良好に発揮するために、R2Oの含有量は、0.01wt%以上が好ましく、0.1%wt以上がより好ましく、0.5%wt以上がさらに好ましい。
【0077】
R2Oの含有量は、5.8wt%以下とすることにより、ガラスの線膨張係数を小さくして、温度変化の際に発生する応力を小さくできる。R2Oの含有量は、好ましくは5.0wt%以下であり、より好ましくは4.0wt%以下であり、さらに好ましくは3.0wt%以下、特に好ましくは2.5wt%以下である。
【0078】
なお、Li2Oを含有しない場合のR2O、すなわちNa2O及びK2Oの合計量は、線膨張係数を小さくする観点から、2.9wt%以下が好ましく、2.5wt%以下がより好ましく、2.0wt%以下がさらにより好ましい。
【0079】
Li2Oは、ガラス原料の溶融を促進し、線膨張係数、粘性等を調整するのに有用な成分である。Li2Oは、含有量が0wt%であってもよい。Li2Oの含有量は、0.05wt%以上が好ましく、0.15wt%以上がより好ましく、0.3wt%以上がさらに好ましい。一方、ガラスの線膨張係数を小さくして、温度変化の際に発生する応力を小さくするためには、Li2Oの含有量は2.5wt%以下が好ましく、2wt%以下がより好ましく、1.5wt%以下がさらに好ましい。
【0080】
Na2Oは、ガラス原料の溶融を促進し、線膨張係数、粘性等を調整するのに有用な成分である。Na2Oは、含有量が0wt%であってもよい。Na2Oの含有量は、0.1wt%以上が好ましく、0.25%wt以上がより好ましく、0.5wt%以上がさらに好ましい。一方、ガラスの線膨張係数を小さくして、温度変化の際に発生する応力を小さくするためには、Na2Oは5.6%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましく、1%以下が特に好ましい。
【0081】
K2Oは、ガラス原料の溶融を促進し、線膨張係数、粘性等を調整するのに有用な成分である。K2Oは、含有量が0wt%であってもよい。K2Oの含有量は、0.05wt%以上が好ましく、0.15wt%以上がより好ましく、0.3wt%以上がさらに好ましく、0.55wt%以上が特に好ましい。一方、ガラスの線膨張係数を小さくして、高温に曝された際に発生する応力を小さくするためには、K2Oは3.0wt%以下が好ましく、2.5wt%以下がより好ましく、1.5%wt以下がさらに好ましい。
【0082】
ZrO2は、ガラスの耐薬品性を向上させるために含有させてもよい。ZrO2の含有量は、0.02wt%以上が好ましく、0.2wt%以上がより好ましく、0.4wt%以上がさらに好ましい。一方、ガラスの失透温度を低くして生産性を高めるためには、ZrO2の含有量は、2wt%以下が好ましく、1.0wt%以下がより好ましく、0.6wt%以下がさらに好ましい。
【0083】
P2O5は、ガラスの結晶化や失透を防止して、ガラスを安定化させるのに有効な成分であり、含有させてもよい。上記効果を良好に発揮するためには、P2O5の含有量は、0.8wt%以上が好ましく、4.5wt%以上がより好ましく、7.7wt%以上がさらに好ましい。一方、P2O5の含有量を22wt%以下とすることにより、ガラスの高温粘性を高くしすぎずに、ガラスを安定化できる。P2O5の含有量は、好ましくは18wt%以下であり、より好ましくは13.5wt%以下である。
【0084】
Fe2O3は、ガラスの色味を損なうことなく、ガラスの清澄性を改善させ、溶融炉の底素地の温度制御をするために含有させてもよい。Fe2O3:0.00001~0.2wt%が好ましく、0.0001~0.05wt%がさらに好ましく、0.001~0.005wt%が特に好ましい。Fe2O3の含有量は、0.00001wt%以上が好ましく、0.0001wt%以上がより好ましく、0.001%以上がさらに好ましい。一方、ガラスの色味を維持させるためには、Fe2O3の含有量は、0.2wt%以下が好ましく、0.15wt%以下がより好ましく、0.1wt%以下がさらに好ましく、0.01wt%以下が特に好ましい。
【0085】
本発明の一態様を構成するガラス部材101は、典型的には実質的に上記成分からなることが好ましいが、さらに本発明の一態様に係る目的を損なわない範囲でZnOを13wt%まで含有してもよい。
【0086】
また、本発明の一態様を構成するガラス部材101は、典型的には実質的に上記成分からなることが好ましいが、本発明の一態様に係る目的を損なわない範囲で他の成分(TiO2等)を合計8wt%まで含有してもよい。
【0087】
さらに、本発明の一態様を構成するガラス部材101はガラスの溶融の際の清澄剤として、SO3、塩化物、フッ化物、ハロゲン、SnO2、Sb2O3、As2O3などを適宜含有してもよい。さらに、色味の調整のため、Ni、Co、Cr、Mn、V、Se、Au、Ag、Cdなどの着色成分を含有してもよい。また積極的に着色させたい場合は0.1wt%以上の範囲でFe、Ni、Co、Cr、Mn、V、Se、Au、Ag、Cdなどの着色成分を含有してもよい。
【0088】
なお、上記他の成分のうち、SO3、塩化物、フッ化物、ハロゲン、SnO2、Sb2O3、およびAs2O3からなる群から選択される少なくとも1種を含有する場合、清澄性の観点からは、これら群の合計含有量は、0.0001wt%以上が好ましく、0.0005wt%以上がより好ましく、0.001wt%以上がさらに好ましい。一方、ガラス特性に影響を与えないためには、これら群の合計含有量は、2.0wt%以下が好ましく、1.5wt%以下がより好ましく、1.0wt%以下がさらに好ましい。
【0089】
(接合層103)
接合層103は、ガラス部材101とセラミックス部材105とを接合する樹脂である。接合層103を構成する樹脂は、例えばエポキシ樹脂、シリコーン樹脂またはフッ素樹脂が挙げられる。
【0090】
接合層103は、例えば加熱プレス装置を用いて作製できる。ガラス部材101とセラミックス部材105との間に、接合層103を構成する樹脂フィルムを挟み込む(この構成を仮積層体とする)。仮積層体を樹脂フィルムの軟化点以上の温度に加熱し、仮積層体に圧力をかけてプレスし、ガラス部材101とセラミックス部材105とを接合する。接合時に泡の巻き込みを防ぐために、仮積層体は真空雰囲気下でプレスすることが好ましい。アンカー効果を高めるために、ガラス部材101の樹脂フィルム(接合層103)との接触面およびセラミックス部材105の樹脂フィルム(接合層103)との接触面は、ブラスト処理などで適度に荒らしておいてもよい。
【0091】
接合層103の厚さは、0.001mm~0.300mmが好ましい。接合層103の厚さは、0.005mm以上であってもよく、0.008mm以上であってもよく、0.01mm以上であってもよい。接合層103の厚さは、0.150mm以下であってもよく、0.050mm以下であってもよく、0.030mm以下であってもよい。
【0092】
接合層103の厚さは、SEM断面観察による撮影のデジタルデータや画像処理ソフトを用いて算出できる。
【0093】
波長850nmにおける接合層103の直線透過率は、88%以上が好ましく、91%以上がより好ましく、93%以上がさらに好ましく、95%以上が特に好ましい。接合層103の直線透過率が88%以上であれば、加熱利用に十分な赤外線の透過量とできる。
【0094】
直線透過率は、入射光の入射角を0°とし、接合層103をその厚み方向に直線的に透過する光の透過率であって、分光光度計により20℃で測定できる。
【0095】
接合層103の耐熱温度は、200℃~500℃が好ましい。接合層103の耐熱温度は、230℃以上がより好ましく、260℃以上がさらに好ましく、310℃以上が特に好ましく、360℃以上が特に好ましい。接合層103の耐熱温度は、470℃以下であってもよく、450℃以下であってもよく、430℃以下であってもよい。
【0096】
接合層103の耐熱温度は、大気雰囲気下で熱重量測定(TGA)を行い、測定対象物の重量が1wt%減少した温度とする。
【0097】
(本発明に係る一態様の他の例)
上記とは異なる本発明に係る態様について説明する。本態様の積層部材は、上記セラミックス部材105の上に設けられる第2の接合層と、第2の接合層を介して上記セラミックス部材105と接合される第2のセラミックス部材と、を更に有する。第2のセラミックス部材は、上記セラミックス部材105と同様に構成されるので、説明を省略する。
【0098】
セラミックス部材105と第2のセラミックス部材とを積層させた構造とすることで、複雑な形状の積層部材を作製しやすくなる。例えば、積層部材中に温度測定用のセンサーを差し込むための空間を設ける場合には、予めセラミックス部材105と第2のセラミックス部材の一方に溝加工を施しておき、他方を貼り合わせることで積層部材中に空間を設けることが容易となる。
【0099】
第2の接合層によってセラミックス部材105と第2のセラミックス部材とを接合する方法は、特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂やフッ素樹脂などの樹脂を用いた接合、スズやインジウムなどの溶融金属を用いた接合、ガラスフリットを用いた接合が挙げられる。積層部材を加熱部材として用いることを想定すると、耐熱性および熱伝導率の観点から、金属を用いた接合が好ましい。
【0100】
耐熱性および熱伝導率の観点から、ガラスフリットは耐熱性が高いが熱伝導率が低く、樹脂は耐熱性および熱伝導率どちらも低いため、金属を用いた接合が好ましい。金属としては、例えばインジウム、スズ、スズ系合金、鉛系合金などが挙げられる。熱伝導率、耐熱性および環境負荷の観点からは、特にスズ金属およびスズ系合金が好ましい。
【0101】
溶融金属を用いて接合する例を説明する。セラミックス部材105と第2のセラミックス部材とを所望の温度、例えば250℃~270℃に加熱する。加熱したセラミックス部材105と第2のセラミックス部材の接合面に超音波を当てながら、所望の温度(例えば250℃~270℃)近傍の温度で溶融しておいた金属を塗り込んだのち、接合面同士を重ね合わせればよい。
【0102】
積層部材は、第2のセラミックス部材の上に設けられる第3の接合層と、第3の接合層を介して第2のセラミックス部材と接合される第3のセラミックス部材と、を更に有してもよい。第3の接合層は、第2の接合層と同様に構成される。また、第3のセラミックス部材は、セラミックス部材105と同様に構成される。但し、積層部材は、厚さの観点で、第3の接合層及び第3のセラミックス部材を更に有しないことが好ましい。
【0103】
本発明の一態様の積層部材は、積層部材を急速に冷却できる構成を有していてもよい。例えば、本発明の一態様の積層部材は、セラミックス部材105と接合層103との間、セラミックス部材105と第2の接合層との間、又は第2のセラミックス部材と第2の接合層との間に流路を備えてもよい。または、本発明の一態様の積層部材は、セラミックス部材105、又は第2のセラミックス部材が流路になるように加工されてもよい。または、本発明の一態様の積層部材は、ガラス部材101と接合層103との間に流路を備えてもよい。または、本発明の一態様の積層部材は、ガラス部材101が流路になるように加工されてもよい。積層部材は、流路に水を流して冷却することができる。
【0104】
本発明の一態様の積層部材は、透過率および照射効率を高める反射防止膜を備えてもよい。例えば、本発明の一態様の積層部材は、ガラス部材101の接合層103側とは反対側の主表面および/またはガラス部材101の接合層103側の主表面に反射防止膜を備えてもよい。また、本発明の一態様の積層部材は、セラミックス部材105の接合層103側の主表面又は第2のセラミックス部材の第2の接合層側の主表面に反射防止膜を備えてもよい。反射防止膜は、赤外線を透過させる面に設けることで、照射効率(加熱効率)を高めることができる。
【0105】
本発明の一態様の積層部材は、温度センサーを備えていてもよい。例えば、本発明の一態様の積層部材は、温度センサーをセラミックス部材105、又は第2のセラミックス部材の内側に備えてもよい。一例としては、セラミックス部材105、又は第2のセラミックス部材の側面に穴を開け、温度センサーを差し込んだ構成とする。この場合、温度センサーはセラミックス部材105の接合層103側とは反対側の主表面の直下、又は第2のセラミックス部材の第2の接合層とは反対側の主表面の直下に配置する。温度センサーは接合層103又は第2の接合層とは接しないように、かつ、温度センサーが露出しないように配置する。温度センサーにより、セラミックス部材105の接合層103側とは反対側の主表面温度、又は第2のセラミックス部材の第2の接合層とは反対側の主表面温度を測定できる。
【0106】
本発明の一態様の積層部材は、加熱部材として好適に使用できる。本発明の一態様の積層部材は、例えば、加熱調理器の加熱部材として好適に使用できる。
【0107】
また、本発明の一態様の積層部材は、キッチンのワークトップ(天板)として用いてもよい。
【0108】
また、本発明の一態様の積層部材は、加熱調理器のトッププレートとキッチンのワークトップとしての機能を兼ね備えてもよい。
【実施例】
【0109】
以下、本発明の一態様を実施例によって説明するが、本発明の一態様はこれらにより限定されるものではない。なお、表中の各測定結果について、空欄は未測定であることを表す。
【0110】
(ガラス部材サンプルの作製)
作製したガラスを表1に示す。
【0111】
【0112】
表1の(i‐a)~(Vi)のガラスは、表1に示される酸化物基準の質量百分率表示の各ガラス組成となるように、次のように作製した。酸化物、水酸化物、炭酸塩または硝酸塩等、一般に使用されているガラス原料を適宜選択し、ガラスとして10000gになるように秤量した。次に、混合した原料を白金るつぼに入れ、1500~1700℃の抵抗加熱式電気炉に投入して12時間程度溶融し、脱泡、均質化した。得られた溶融ガラスを型材に流し込み、ガラス転移点+50℃の温度において1時間保持した後、0.5℃/分の速度で室温まで冷却し、ガラスブロックを得た。
【0113】
表1の(Vii)のガラスは、AGC株式会社製の合成石英ガラス(製品名:AQ)を用いた。
【0114】
表1の(Viii)のガラスは、表1に示される酸化物基準の質量百分率表示の各ガラス組成となるように、ガラスを次のように作製した。酸化物、水酸化物、炭酸塩または硝酸塩等、一般に使用されているガラス原料を適宜選択し、ガラスとして10000gになるように秤量した。次に、混合した原料を白金るつぼに入れ、1600℃の抵抗加熱式電気炉に投入して5時間程度溶融し、脱泡、均質化した。得られた溶融ガラスを型材に流し込み、ステンレスローラーを用いて成形し、除冷炉を用いて室温まで冷却した。このガラス成形体を電気炉に入れ、780℃で2時間加熱した後に、1.5℃/分の速度で850℃まで昇温させ、850℃で3時間加熱し、5.0℃/分の速度で室温まで冷却し、ガラスブロックを得た。
【0115】
得られたガラスブロックを切断、研削、研磨加工し、ガラス部材サンプル(縦300mm、横300mm)を得た。得られたガラス部材サンプルについて、以下の測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0116】
厚さは、デジタルメジャーで20℃で測定した。
【0117】
平均線膨張係数βは、ブルカー・エイエックスエス社製の示差熱膨張計(TMA)「TMA4000SA」を用いて、20℃~200℃の温度範囲で測定した。
【0118】
直線透過率は、分光光度計により20℃、波長850nmで測定した。
【0119】
ヤング率は、日本工業規格(JIS-R1602-1995)に記載された超音波パルス法により20℃で測定した。
【0120】
曲げ強度は、ASTM規格(ASTM C1499-01)に記載されたガラスのリング曲げ試験により20℃で測定した。
【0121】
(セラミックス部材サンプルの作製)
作製したセラミックスを表2に示す。
【0122】
【0123】
<AlN>
セラミックス部材サンプル(A)を次のように作製した。ナイロン製ボールミルポットに、AlN粉末(東洋アルミニウム株式会社製、型番:JC(粒度D50:1.2μm))92.5wt%に、焼結助剤としてY2O3粉末(信越化学工業株式会社製、型番:RU-P(平均粒径1μm))6wt%、Al2O3粉末(住友化学株式会社製、型番:AKP-50(中心粒径0.20μm))0.2wt%と、分散剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル3.0wt%と、媒体として無水エタノールと、粉砕メディアとして直径5mmの高純度アルミナボールを加え、回転ボールミルで96時間混合・粉砕した。得られたスラリーを、減圧乾燥して原料粉末を得た。得られた原料粉末を、冷間等方圧プレス機を使用して2000kg/cm2の圧力でプレスし、成型体を得た。得られた成型体を、窒化ホウ素製容器に入れ、大気雰囲気下500℃の条件で1時間保持した後、カーボン焼成炉で窒素雰囲気下1780℃の条件で1時間焼結してセラミックス部材となるAlN焼結体を得た。得られたAlN焼結体を、縦30cm、横30cm、厚さを表2に示す厚さになるように加工した。
【0124】
(SiC)
セラミックス部材サンプル(B-1)を次のように作製した。ナイロン製ボールミルポットに、SiC粉末(太平洋ランダム株式会社製、型番:GMF-12S(平均粒径0.7μm))93.6wt%と、焼結助剤としてB4C粉末(株式会社高純度化学研究所製、型番:BBI10PB(平均粒径0.5μm))1.9wt%、カーボン粉末(昭和電工株式会社製、型番:UF-G5(平均粒径3μm))1.5wt%と、分散剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテルを3.0wt%と、媒体として無水エタノールと、粉砕メディアとして直径5mmの高純度炭化ケイ素ボールを加え、回転ボールミルで96時間混合・粉砕した。得られたスラリーを、減圧乾燥して原料粉末を得た。得られた原料粉末を秤量し、冷間等方圧プレス機を使用して2000kg/cm2の圧力でプレスし、成型体を得た。得られた成型体を、カーボン製容器に入れ、カーボン焼成炉で10-3Paの真空雰囲気下2150℃の条件で1時間焼結してSiC焼結体を得た。得られたSiC焼結体を、縦30cm、横30cm、厚さを表2に示す厚さになるように加工した。
【0125】
サンプル(B-2)、(B-3)は、得られた原料粉末を、表2に示す厚みの焼結体が得られるように秤量し、加工した以外はサンプル(B-1)と同様に作製した。
【0126】
得られたセラミックス部材サンプルについて、以下の測定を行った。測定結果を表2に示す。
【0127】
セラミックス部材サンプルの各成分量(組成)は、誘導結合プラズマ質量分析計ICP-MS(島津製作所社製)により測定した。
【0128】
厚さは、株式会社エー・アンド・デイ社製のノギス(AD-5764A)を用いて20℃で測定した。
【0129】
平均線膨張係数αは、ブルカー・エイエックスエス社製の示差熱膨張計(TMA)「TMA4000SA」を用いて、20℃~200℃の温度範囲で測定した。
【0130】
熱伝導率は、京都電子工業社製のレーザーフラッシュ法熱物性測定装置「MODEL LFA-502」を用いて、20℃の温度下で測定した。
【0131】
比熱は、京都電子工業社製のレーザーフラッシュ法熱物性測定装置「MODEL LFA-502」を用いて、20℃の温度下で測定した。
【0132】
ヤング率は、株式会社ティー・エス・イー社製のオートコム万能試験機「AC-300KN」を用いて、日本工業規格(JIS-R1602-1995)に記載された弾性率試験方法により20℃で測定した。
【0133】
曲げ強度は、株式会社ティー・エス・イー社製のオートコム万能試験機「AC-300KN」を用いて、日本工業規格(JIS-R1601-2008)に記載された曲げ強さ試験方法により20℃で測定した。
【0134】
ビッカース硬さは、ビッカース硬さ計システム(日鉄住金テクノロジー社製)を用いて、10kgfの押し込み荷重で15秒間押し込むことにより20℃で測定した。
【0135】
(接合層)
表3に示す樹脂の樹脂フィルムについて、以下の測定を行った。測定結果を表3に示す。
【0136】
【0137】
厚さは、デジタルメジャーで20℃で測定した。
【0138】
直線透過率は、分光光度計により20℃、850nmで測定した。
【0139】
耐熱温度は、大気雰囲気下で熱重量測定(TGA)を行い、樹脂フィルムの重量が1wt%減少した温度とした。
【0140】
なお、表3に示す樹脂フィルムは、積層部材の接合層となる。
【0141】
(積層部材の作製)
作製した積層部材を表4及び表5に示す。
【0142】
【0143】
【0144】
表4及び表5に示す組み合わせで、例1~12、17、18のサンプル(積層部材)を製造した。また、例13~16のサンプルを準備した。例1~12、17、18は実施例、例13~16は比較例である。
【0145】
まず、SiC研磨紙を用いて、ガラス部材サンプルの樹脂フィルムと接触する側の表面を、Ra=0.2mmの面粗さに加工した。同様に、SiC研磨紙を用いて、セラミックス部材サンプルの樹脂フィルムと接触する側の表面を、Ra=0.2mmの面粗さに加工した。次に、表3に示す樹脂フィルムを接合層として、ガラス部材サンプルとセラミックス部材サンプルの間に挟み込み、樹脂フィルムの軟化点+20度の温度に加熱し、2MPaの圧力をかけて5分間プレスすることで、ガラス部材サンプルとセラミックス部材サンプルとを接合した。
【0146】
<評価>
各サンプルについて、以下の評価を行った。
【0147】
(温度上昇評価)
例1~18のサンプルに、2KWの赤外線ランプ9個を用いて赤外線(850nm)を2分照射し、温度上昇の評価を行った。評価は、サンプルの最表面の温度が200℃を超える場合は〇、サンプルの最表面の温度が200℃を超えない場合は×とした。積層部材である例1~12、17、18のサンプルは、ガラス部材側から赤外線を照射し、セラミックス部材側の最表面温度で評価した。例13~例16のサンプルは、赤外線照射側と反対側の最表面温度で評価した。
【0148】
表5に示すように、例13,15,16は×であった。例13のサンプルは、温度上昇は見られたものの、200℃に到達しなかった。例15、16のサンプルは、温度上昇しなかった。
【0149】
(耐衝撃性評価)
例1~12、14、17、18のサンプルに、533gの鋼球を落下させ、耐衝撃性の評価を行った。耐衝撃性評価は、各例についてサンプル数3つ(n=3)で行った。サンプルの外周部には、厚さ3mm、幅15mm、硬さA50のゴム板製の支持枠を設け、上下から挟み込み固定した。鋼球はサンプルの中心から距離25mm以内の範囲に入るように落下させた。評価は、落球高さ20cmで、サンプル数3つのうち2つ以上が割れた場合は×、サンプル数3つのうち1つが割れた場合は△、サンプル3つが割れなかった場合は〇とした。積層部材である例1~12、17、18のサンプルは、セラミックス部材側から鋼球を落下させた。なお、例13、15、16は温度上昇評価が×であったため、耐衝撃性は評価しなかった。表4、5に示すように、例1~12、18は○であり、例17は△であり、例14は×であった。
【0150】
(耐熱性評価)
各サンプルを230℃の温度で24時間加熱し、外観変化の目視評価を行った。評価は、外観上の変化(変色、泡、異物の発生、接合層の滲みだしなど)が無かった場合は〇、外観上の変化が有った場合は×とした。表4に示すように、例5は×であった。
【0151】
(反り量)
例1~18のサンプルの反り量は、三鷹光機株式会社製の非接触三次元形状測定装置「NH-5Ns」を用いて、ISO25178-605に準拠してサンプル表面の三次元性状を測定し、サンプル表面の最大傾斜式平面度を求めることで測定した。具体的には、精密定盤の上にサンプルを置き、レーザオートフォーカス顕微鏡を用いてサンプル上面の各点の高さを測定し、サンプル上面を平行な2つの平面で挟んだときにできる隙間の値、つまり、最大傾斜式平面度を反り量として求めた。
【0152】
(密度)
例1~18のサンプルの重量を、株式会社ディジ・テック社製のデジタルメジャーで測定した体積で除して求めた。
【0153】
(表面積)
例1~18のサンプルの最上面の面積(積層部材の場合はセラミックス部材の露出している主表面、単部材の場合は一方の主表面)を、株式会社ディジ・テック社製のデジタルメジャーで測定した寸法から求めた。
【0154】
(接合層の厚さ)
例1~12、17、18のサンプルの接合層の厚さを、SEM断面観察により算出した。
【0155】
表4及び表5の結果より、本発明の一態様の積層部材は温度上昇速度が速く、耐衝撃性が高く、加熱部材として好適であることがわかった。
【0156】
本出願は、2019年7月25日に日本国特許庁に出願された特願2019-137122号に基づく優先権を主張するものであり、特願2019-137122号の全内容を本出願に援用する。
【符号の説明】
【0157】
100 積層部材
101 ガラス部材
103 接合層
105 セラミックス部材