(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】ゼオライト成形体
(51)【国際特許分類】
C01B 39/44 20060101AFI20240820BHJP
A61M 1/16 20060101ALI20240820BHJP
B01J 20/18 20060101ALI20240820BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
C01B39/44
A61M1/16 101
B01J20/18 C
B01J20/28 Z
(21)【出願番号】P 2023184431
(22)【出願日】2023-10-27
【審査請求日】2024-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2022176351
(32)【優先日】2022-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023132534
(32)【優先日】2023-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】土谷 和愛
(72)【発明者】
【氏名】岡庭 宏
(72)【発明者】
【氏名】中澤 直人
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-001318(JP,A)
【文献】特開昭57-072653(JP,A)
【文献】特開昭58-133804(JP,A)
【文献】特開2010-029741(JP,A)
【文献】特開昭63-270541(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0297815(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20-39/54
B01J 20/00-20/34
A61M 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素8員環構造を有するゼオライト、並びに、シリカバインダー及びジルコニアバインダーの少なくともいずれかを含み、なおかつ、細孔径5nm以上300nm以下の累積細孔容積に対する、細孔径10nm以上100nm以下の累積細孔容積の割合が25体積%以上70体積%以下であり、平均アスペクト比が1.55以下であり、なおかつ粒子径D50が200μm以上600μm以下であ
り、細孔径5nm以上300nm以下の累積細孔容積が0.35mL/g以上0.70mL/g以下であり、前記シリカバインダー及びジルコニアバインダーの少なくともいずれかの一次粒子径が10nm以上150nmである、成形体。
【請求項2】
細孔径5nm以上300nm以下の累積細孔面積が10.0m
2/g以上35.0m
2/g以下である、請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
前記ゼオライトが、カチオンタイプ:Na(ナトリウム)及びカチオンタイプ:H(プロトン)の少なくともいずれかのゼオライトである、請求項1又は2に記載の成形体。
【請求項4】
細孔径5nm以上300nm以下の累積細孔容積に対する累積細孔容積が50体積%となる細孔径が、75nm以上160nm以下である、請求項1又は2に記載の成形体。
【請求項5】
細孔径5nm以上300nm以下の累積細孔容積に対する、細孔径5nm以上10nm以下の累積細孔容積の割合が、0.1体積%以上5.0体積%以下である請求項1又は2に記載の成形体。
【請求項6】
前記ゼオライトが、FER構造、HEU構造、YFI構造、MAZ構造、CHA構造及びMOR構造の群から選ばれる1以上の骨格構造を有するゼオライトである、請求項1又は2に記載の成形体。
【請求項7】
前記ゼオライトのアルミナに対するシリカのモル比(SiO
2/Al
2O
3比)が3以上100以下である、請求項1又は2に記載の成形体。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の成形体と、カリウムイオンを含有する溶液を接触させる工程を有するカリウム吸着方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の成形体を含むカラム。
【請求項10】
請求項9に記載のカラムを備えたカリウム吸着システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ゼオライト成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
人工透析は透析液を使用して血液から老廃物を人工的に除去する処理であり、血液と透析液を半透膜を介して接触することで血液中の老廃物、主としてカリウム、が取り除かれる。人工透析は、1回あたりに使用される透析液の量も多く、かつ、その頻度も高い。そのため、透析液は人工透析後、排液(透析排液)として大量に排出及び処理される。近年、QOL向上の観点から、透析患者が各家庭で人工透析を行う在宅透析が着目されているが、透析排液の取扱がその普及の妨げとなっている。
【0003】
ところで、イオン交換樹脂等と比べて、ゼオライトは入手が容易なカリウム吸着材としても知られている。そのため、透析排液の処理及び再生を目的とし、ゼオライトを使用した透析排液の処理が検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、SiO2/Al2O3が異なるFAU型ゼオライトを用いて透析排液を処理することより、透析排液からカリウムを除去し、これを再生することが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2015/0297815号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のゼオライトを使用した透析排液の処理においては、カリウム除去と並行してアルミニウムが溶出し、透析排液に混入するという課題があった。
【0007】
本開示は、従来の、ゼオライトを使用した透析排液の処理と比べ、アルミニウムの溶出が抑制され、透析排液からのカリウム除去が可能なゼオライトを含む成形体、及び、該成形体を使用するカリウム吸着方法の少なくともいずれか、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、透析排液からのカリウム除去に使用されるゼオライトに関し、ゼオライトの構造、及び、透析排液の処理に供する際の形態に着目した。その結果、特定の構造を有するゼオライトを含み、細孔の状態が制御された成形体が、アルミニウムの溶出が生じにくく、かつ、優れたカリウム吸着特性を示すことを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は特許請求の範囲の記載の通りであり、また、本開示の要旨は以下の通りである。
[1] 酸素8員環構造を有するゼオライト、並びに、シリカバインダー及びジルコニアバインダーの少なくともいずれかを含み、なおかつ、細孔径5nm以上300nm以下の累積細孔容積に対する、細孔径10nm以上100nm以下の累積細孔容積の割合が25体積%以上70体積%以下であり、なおかつ以下(1)又は(2)を満たす、成形体。
【0010】
(1)平均アスペクト比が1.55以下であり、なおかつ
粒子径D50が200μm以上600μm以下である
(2)平均アスペクト比が1.55超である
[2] 酸素8員環構造を有するゼオライト、並びに、シリカバインダー及びジルコニアバインダーの少なくともいずれかを含み、なおかつ、細孔径5nm以上300nm以下の累積細孔容積に対する、細孔径10nm以上100nm以下の累積細孔容積の割合が25体積%以上70体積%以下であり、なおかつ平均アスペクト比が1.55超である、前記[1]に記載の成形体。
[3] 酸素8員環構造を有するゼオライト、並びに、シリカバインダー及びジルコニアバインダーの少なくともいずれかを含み、なおかつ、細孔径5nm以上300nm以下の累積細孔容積に対する、細孔径10nm以上100nm以下の累積細孔容積の割合が25体積%以上70体積%以下であり、平均アスペクト比が1.55以下であり、なおかつ粒子径D50が200μm以上600μm以下である、前記[1]に記載の成形体。
[4] 細孔径5nm以上300nm以下の累積細孔面積が10.0m2/g以上35.0m2/g以下である、前記[1]乃至[3]のいずれか一項に記載の成形体。
[5] 細孔径5nm以上300nm以下の累積細孔容積が0.35mL/g以上0.70mL/g以下である、前記[1]乃至[4]のいずれか一項に記載の成形体。
[6] 細孔径5nm以上300nm以下の累積細孔容積に対する累積細孔容積が50体積%となる細孔径が、75nm以上160nm以下である、前記[1]乃至[5]のいずれか一項に記載の成形体。
[7] 細孔径5nm以上300nm以下の累積細孔容積に対する、細孔径5nm以上10nm以下の累積細孔容積の割合が、0.1体積%以上5.0体積%以下である前記[1]乃至[6]のいずれか一項に記載の成形体。
[8] 前記ゼオライトが、FER構造、HEU構造、YFI構造、MAZ構造、CHA構造、MER構造及びMOR構造の群から選ばれる1以上の骨格構造を有するゼオライトである、前記[1]乃至[7]のいずれか一項に記載の成形体。
[9] 前記ゼオライトのアルミナに対するシリカのモル比(SiO2/Al2O3比)が3以上100以下である、前記[1]乃至[8]のいずれか一項に記載の成形体。
[10] 前記[1]乃至[9]のいずれか一項に記載の成形体と、カリウムイオンを含有する溶液を接触させる工程を有するカリウム吸着方法。
[11] 前記[1]乃至[9]のいずれか一項に記載の成形体を含むカラム。
[12] 前記[11]に記載のカラムを備えたカリウム吸着システム。
【発明の効果】
【0011】
本開示により、従来のゼオライトを使用した透析排液の処理と比べ、アルミニウムの溶出が抑制され、透析排液からのカリウム除去が可能なゼオライトを含む成形体、及び、該成形体を使用するカリウム吸着方法の少なくともいずれかを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示について、その実施形態の一例を示して説明する。なお、本実施形態における用語は以下の通りである。また、本明細書で開示した各構成及びパラメータは任意の組合せとすることができ、また、本明細書で開示した値の上限及び下限は任意の組合せによる範囲も本開示に含まれる。以下、本開示における主な用語を示す。
【0013】
「アルミノシリケート」は、アルミニウム(Al)とケイ素(Si)とが酸素(O)を介したネットワークの繰返しからなる構造を有する複合酸化物である。アルミニウムとケイ素で電荷の数が異なるため、電荷を補償するために例えば、H+やNa+といったカウンターカチオンが存在する。アルミノシリケートのうち、その粉末X線回折(以下、「XRD」ともいう。)パターンにおいて、結晶性のXRDピークを有するものが「結晶性アルミノシリケート」、及び、結晶性のXRDピークを有さないものが「非晶質アルミノシリケート」である。
【0014】
「ゼオライト」とは、骨格原子(以下、「T原子」ともいう。)が酸素(O)を介した規則的構造を有する化合物であり、T原子が金属原子及び又は半金属原子の少なくともいずれかからなる化合物である。金属原子としては、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)及びスズ(Sn)からなる群から選ばれる1以上が例示でき、アルミニウム及び鉄の少なくともいずれかであることが好ましく、アルミニウムであることがより好ましい。半金属原子としては、ホウ素(B)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)及びテルル(Te)からなる群から選ばれる少なくとも1種が例示でき、ケイ素であることが好ましい。
【0015】
「ゼオライト類似物質」とは、T原子が酸素を介した規則的構造を有する化合物であり、T原子に少なくとも金属及び半金属以外の原子(以下、「非金属原子」ともいう。)を含む化合物である。非金属原子としてリン(P)が例示できる。ゼオライト類似物質として、アルミノフォスフェート(AlPO)やシリコアルミノフォスフェート(SAPO)など、T原子としてリン(P)を含む複合リン化合物が例示できる。
【0016】
ゼオライトやゼオライト類似物質における「規則的構造(以下、「ゼオライト構造」ともいう。)」とは、国際ゼオライト学会(International Zeolite Association)のStructure Commissionが定めている構造コード(以下、単に「構造コード」ともいう。)で特定される骨格構造である。例えば、FER構造は構造コード「FER」として、特定される骨格構造である。FER構造は、IZAの構造委員会のホームページhttp://www.iza-struture.org/databases/のZeolite Framework TypesのFERに記載のXRDパターン(以下、「参照パターン」ともいう。)との対比によって、ゼオライト構造は同定できる。ゼオライト構造に関し、骨格構造、結晶構造又は結晶相はそれぞれ同義で使用される。
【0017】
本実施形態において、「FER型ゼオライト」など、「~型ゼオライト」は、当該構造コードのゼオライト構造を有するゼオライトを意味し、好ましくは当該構造コードのゼオライト構造を有する結晶性アルミノシリケートを意味する。
【0018】
「酸素8員環構造」とは、8個のT原子からなる環状構造のことであり、小細孔ともいう。
【0019】
「ゼオライト成形体」とは、粉末状のゼオライトが一定の形状を保持する組成物であり、ゼオライトのみからなる組成物だけではなく、ゼオライトに加え、バインダー及び成形助剤の少なくともいずれか、などを含んでいてもよい。なお、本開示において、「成形体」と「ゼオライト成形体」は互換的に使用される。
【0020】
以下、本実施形態の成形体について説明する。
【0021】
本実施形態は、酸素8員環構造を有するゼオライト、並びに、シリカバインダー及びジルコニアバインダーの少なくともいずれかを含み、なおかつ、10-100nm細孔容積割合が25体積%以上70体積%以下であり、なおかつ以下(1)又は(2)を満たす、成形体である。
【0022】
(1)平均アスペクト比が1.55以下であり、なおかつ
粒子径D50が200μm以上600μm以下である
(2)平均アスペクト比が1.55超である
本実施形態の成形体は、ゼオライトを主成分とする成形体、いわゆるゼオライト成形体であり、特に、酸素8員環構造を有するゼオライト(以下、「8員環ゼオライト」ともいう。)、並びに、シリカバインダー及びジルコニアバインダーの少なくともいずれか(以下、「無機バインダー」ともいう。)を含む。
【0023】
本実施形態の成形体に含まれるゼオライトは酸素8員環構造を有する。酸素8員環構造を有することで、透析排液の処理においてカリウムが本実施形態の成形体内部の細孔内に入りやすくなることに加え、ゼオライトに吸着されたカリウムが当該ゼオライトから脱離しにくくなる。8員環ゼオライトは、ABW構造、ACO構造、AEI構造、AEN構造、AFN構造、AFT構造、AFX構造、ANA構造、APC構造、APD構造、ATN構造、ATT構造、ATV構造、AWO構造、AWW構造、BCT構造、BIK構造、BRE構造、CAS構造、CDO構造、CHA構造、DDR構造、DFT構造、EAB構造、EDI構造、EPI構造、ERI構造、ESV構造、FER構造、GIS構造、GME構造、GOO構造、HEU構造、IHW構造、ITE構造、ITW構造、JBW構造、KFI構造、LEV構造、LTA構造、LTL構造、MAZ構造、MER構造、MON構造、MOR構造、MTF構造、NSI構造、OFF構造、OWE構造、PAU構造、PHI構造、RHO構造、RTE構造、RTH構造、RWR構造、SAS構造、SAT構造、SAV構造、SIV構造、SZR構造、THO構造、TSC構造、UEI構造、UFI構造、VNI構造、YFI構造、YUG構造及びZON構造の群から選ばれる1以上の骨格構造を有するゼオライトが挙げられる。酸素8員環構造に含まれる酸素原子の配置によってカリウムへの選択性が向上するため、8員環ゼオライトは、好ましくはFER構造、HEU構造、YFI構造、MAZ構造、CHA構造及びMOR構造の群から選ばれる1以上の骨格構造を有するゼオライト、より好ましくはFER構造、HEU構造、YFI構造、MAZ構造、CHA構造及びMOR構造の群から選ばれる1以上の骨格構造を有するゼオライト、さらに好ましくはFER構造、HEU構造、YFI構造及びMOR構造の群から選ばれる1以上の骨格構造を有するゼオライト、更に好ましくはFER構造、HEU構造、YFI構造又はMOR構造を有するゼオライトである。特に好ましい8員環ゼオライトとして、FER構造、MER構造又はMOR構造を有するゼオライト、更には、FER構造を有するゼオライト(FER型ゼオライト)、が挙げられる。
【0024】
8員環ゼオライトのアルミナに対するシリカのモル比(SiO2/Al2O3比)は3以上、7以上、10以上、13以上又は15以上であり、また、100以下、80以下、50以下又は35以下であることが好ましい。このようなSiO2/Al2O3比であることで、透析排液からのカリウム吸着性能がより高くなりやすい。SiO2/Al2O3比の上限および下限は上記の任意の組み合わせであればよく、例えば、3以上100以下、7以上80以下、又は、15以上35以下であればよい。
【0025】
8員環ゼオライトのカチオンタイプは、透析排液からのカリウム吸着性能が向上しやすい点で、カチオンタイプ:Na(ナトリウム)及びカチオンタイプ:H(プロトン)の少なくともいずれかが好ましく、カチオンタイプ:Naがより好ましい。
【0026】
8員環ゼオライトの一次粒子径は0.1μm以上15μm以下であることが好ましい。
【0027】
8員環ゼオライトの粒子径D50は1μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0028】
本実施形態の成形体は無機バインダーを含み、好ましくはシリカバインダーを含む。無機バインダーとしてシリカバインダーを含むことで、透析排液など、溶液に接触した場合のアルミニウム溶出が少なくなりやすい。さらに、8員環ゼオライトと、シリカバインダーに含まれるシリカとが凝着することで、成形体の強度が向上しやすい。一方、本実施形態の成形体は、無機バインダーとしてジルコニアバインダーを含んでいてもよい。ゼオライトと、ジルコニアバインダーに含まれるジルコニアとが凝着することで、成形体の強度が向上しやすい。
【0029】
シリカバインダーは主としてケイ素(Si)と酸素(O)を含む化合物であり、好ましくはシリカ(SiO2)を含む化合物であり、より好ましくはシリカである。
【0030】
ジルコニアバインダーは主としてジルコニウム(Zr)と酸素(O)を含む化合物であり、好ましくはジルコニア(ZrO2)を含む化合物であり、より好ましくはジルコニアである。
【0031】
本実施形態の成形体に含まれる無機バインダーは、シリカバインダー又はジルコニアバインダーのいずれか単独でもよく、その両方を含んでいてもよい。
【0032】
無機バインダーの一次粒子径は、10nm(0.010μm)以上150nm(0.150μm)以下であることが好ましい。ゼオライトとの凝着を促進する点で、無機バインダーの一次粒子径は、10nm(0.010μm)以上20nm(0.020μm)以下がより好ましい。一方、透析排液への溶出を防ぐ点で、無機バインダーの一次粒子径は、70nm(0.070μm)以上120nm(0.120μm)以下がより好ましい。
【0033】
シリカバインダーの粒子径D50は15μm以上40μm以下であることが好ましい。また、ジルコニアバインダーの粒子径D50は0.05μm以上40μm以下であることが好ましい。
【0034】
8員環ゼオライトの粒子径及び無機バインダーの粒子径D50は、いずれも一般的な粒子径分布測定装置(例えば、装置名:MT-3100II、マイクロトラック・ベル社製)を使用して、レーザー回折・散乱法により得られる体積粒度分布のD50(メジアン径)の相当する粒子径である。
【0035】
本実施形態の成形体は、成形体の強度を保ちながら、カリウム吸着特性が向上しやすくなる。そのため、8員環ゼオライト100質量部(無水換算質量)に対する、無機バインダーの質量が10質量部以上、15質量部以上、又は20質量部以上であり、また、40質量部以下、30質量部以下又は25質量部以下であることが好ましい。例えば、8員環ゼオライト100質量部(無水換算質量)に対する、無機バインダーは、10質量部以上40質量部以下、15質量部以上30質量部以下、又は、20質量部以上25質量部以下であれば、アルミニウム溶出量がより少なくなりやすい。
【0036】
8員環ゼオライト及び無機バインダーの無水換算質量は、それぞれ、大気雰囲気下、600℃で1時間熱処理した後の質量である。また、成形助剤の無水換算質量は、大気雰囲気下、80℃で1時間熱処理をした後の質量である。
【0037】
本実施形態の成形体は、酸素8員環構造を有するゼオライト、並びに、シリカバインダー及びジルコニアバインダーの少なくともいずれかを含み、なおかつ、細孔径5nm以上300nm以下の累積細孔容積に対する、細孔径10nm以上100nm以下の累積細孔容積の割合が25体積%以上70体積%以下であり、なおかつ平均アスペクト比が1.55超であることが好ましい。この様な平均アスペクト比を満たすことで、粒子径D50によらず、高いカリウム吸着性能を示す成形体となる。
【0038】
成形体の外表面積が大きくなることで透析液との接触面積が増えるという点で、平均アスペクト比は1.55超が好ましく、1.55超2.70以下がより好ましく、1.60以上2.60以下が更に好ましく、1.80以上2.55以下がより更に好ましい。
【0039】
本実施形態において、成形体の「アスペクト比」とは、成形体の短径に対する長径の比で表される値であり、「平均アスペクト比」とは、アスペクト比の平均値である。成形体の長径および短径は、走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」ともいう。)観察で、独立して観察される成形体を同一平面上に投影した時に得られる成形体像に外接する長方形の辺のうち、長い方の辺を長径[μm]、短い方の辺を短径[μm]とすればよい。そのため、「アスペクト比」は1.00以上となる。SEM観察は、一般的な走査型電子顕微鏡(例えば、装置名:JSM-IT200、日本電子株式会社製)を使用して、以下の条件で行えばよい。
【0040】
加速電圧 :6kV
倍率 :30±10倍
本実施形態の成形体の平均アスペクト比は、上記の方法で観察される50±5個の成形体のアスペクト比を相加平均で算出すればよい。
【0041】
本実施形態の成形体は、平均短径が150μm以上700μm以下であることが好ましく、200μm以上650μm以下であることがより好ましく、400μm以上650μm以下が更に好ましい。成形体の「平均短径」とは、成形体の短径の平均値であり、SEM観察により、上記と同様の方法で観察される50±5個の成形体の短径を相加平均で算出すればよい。
【0042】
本実施形態の成形体は、酸素8員環構造を有するゼオライト、並びに、シリカバインダー及びジルコニアバインダーの少なくともいずれかを含み、なおかつ、細孔径5nm以上300nm以下の累積細孔容積に対する、細孔径10nm以上100nm以下の累積細孔容積の割合が25体積%以上70体積%以下であり、平均アスペクト比が1.55以下であり、なおかつ粒子径D50が200μm以上600μm以下、であってもよい。
【0043】
平均アスペクト比が1.55以下の場合、カリウム吸着性能に対する粒子径D50の値の寄与が大きくなる。この様な平均アスペクト比及び粒子径D50を兼備することで、カリウム吸着性能が高くなりやすい。成形体の充填密度を向上させやすいという点で、平均アスペクト比は1.00超1.55以下が好ましく、1.30以上1.50以下がより好ましい。
【0044】
本実施形態の成形体の平均アスペクト比が1.55以下である場合、その粒子径D50は、200μm以上600μm以下である。成形体の粒子径D50が200μm未満になると透析排液等の通液速度が遅くなる。一方、粒子径D50が600μmを超えると成形体自体が大きくなり過ぎる。その結果、透析排液が成形体内部に浸透しにくくなり、透析排液からのカリウム除去効率が低くなりすぎる。本実施形態の成形体の粒子径D50は、250μm以上、300μm以上又は350μm以上であり、また、550μm以下、500μm以下、又は450μm以下であることが好ましい。粒子径D50の上限および下限は上記の任意の組み合わせであればよく、例えば、250μm以上550μm以下、300μm以上500μm以下、又は、350μm以上450μm以下であれば、カリウム吸着特性が低下することなく、アルミニウム溶出量が抑制されやすくなる。
【0045】
成形体の粒子径D50は、一般的な粒子径分布測定装置(例えば、装置名:MT-3100II、マイクロトラック・ベル社製)を使用して、レーザー回折・散乱法により得られる体積粒度分布のD50(メジアン径)の相当する粒子径である。具体的な測定条件として以下の測定条件が挙げられる。
【0046】
前処理 :大気雰囲気下、110℃、1時間乾燥
測定範囲 :0.7以上1000μm以下
透過性 :透過
形状 :非球形
屈折率 :1.66
雰囲気 :空気(乾式)
溶媒屈折率 :1
本実施形態の成形体の、細孔径5nm以上300nm以下の累積細孔容積(以下、「全細孔容積」ともいう。)に対する、細孔径10nm以上100nm以下の累積細孔容積の割合(以下、「10-100nm細孔容積割合」ともいう。)は、25体積%以上70体積%以下である。成形体の10-100nm細孔容積割合が25体積%未満の場合、カリウムの吸着容量が低下しやすくなる、また、70体積%を超えると他のイオンを吸着しやすくなり、カリウムの選択性が低下しやすい。本実施形態の成形体の10-100nm細孔容積割合は、30体積%以上、33体積%以上、43体積%以上又は53体積%以上であり、また、69体積%以下、67体積%以下又は65体積%以下であることが好ましい。10-100nm細孔容積割合の上限および下限は上記の任意の組み合わせであればよく、例えば、25体積%以上70体積%以下、30体積%以上70体積%以下、33体積%以上69体積%以下、43体積%以上67体積%以下、53体積%以上65体積%以下であればよい。
【0047】
本実施形態の成形体の、細孔径5nm以上300nm以下の累積細孔面積(以下、「全細孔面積」ともいう。)は、10.0m2/g以上、20.0m2/g以上又は25.0m2/g以上であり、また、35.0m2/g以下又は32.0m2/g以下であることが好ましい。全細孔面積の上限および下限は上記の任意の組み合わせであればよく、例えば、10.0m2/g以上35.0m2/g以下、20.0m2/g以上35.0m2/g以下、または25.0m2/g以上32.0m2/g以下であればよい。
【0048】
本実施形態の成形体の全細孔容積は、0.35mL/g以上、0.36mL/g以上、又は0.38mL/g以上であり、また、0.70mL/g以下、0.60mL/g以下、0.50mL/g以下、0.48mL/g以下又は0.45mL/g以下であることが好ましい。全細孔容積の上限および下限は上記の任意の組み合わせであればよく、例えば、0.35mL/g以上0.70mL/g以下、0.35mL/g以上0.60mL/g以下、0.35mL/g以上0.50mL/g以下、0.36mL/g以上0.60mL/g以下、0.36mL/g以上0.50mL/g以下、0.36mL/g以上0.48mL/g以下、または0.38mL/g以上0.45mL/g以下であればよい。
【0049】
全細孔面積及び全細孔容積の組合せ、並びに、それぞれの上限および下限は上記の任意の組み合わせであればよく、全細孔面積は、例えば、10.0m2/g以上35.0m2/g以下、20.0m2/g以上32.0m2/g以下、又は、25.0m2/g以上32.0m2/g以下であることが挙げられる。また、全細孔容積の上限および下限は上記の任意の組み合わせであればよく、例えば、0.35mL/g以上0.50mL/g以下、0.36mL/g以上0.48mL/g以下、又は、0.38mL/g以上0.45mL/g以下が挙げられる。
【0050】
上述の全細孔面積又は全細孔容積であることで、透析排液が成形体に浸透しやすくなり、その結果、カリウム吸着性能が向上しやすくなる。
【0051】
本実施形態の成形体は、全細孔容積に対する累積細孔容積が50%となる細孔径(以下、「細孔径D50」ともいう。)が、75nm以上160nm以下であることが好ましい。細孔径D50は、76nm以上、80nm以上又は100nm以上であり、また、155nm以下、120nm以下、118nm以下、116nm以下、又は114nm以下であることがより好ましい。細孔径D50の上限および下限は上記の任意の組み合わせであればよく、細孔径D50は、例えば76nm以上160nm以下、80nm以上160nm以下、100nm以上155nm以下、75nm以上155nm以下、75nm以上120nm以下、76nm以上118nm以下、80nm以上116nm以下、又は、100nm以上114nm以下が挙げられる。
【0052】
細孔径D50が上記の範囲であることで、カリウム吸着性能がより高くなりやすい。
【0053】
本実施形態の成形体の、全細孔容積に対する、細孔径5nm以上10nm以下の累積細孔容積の割合(以下、「5-10nm細孔容積割合」ともいう。)は、0.1体積%以上5.0体積%以下であることが好ましい。5-10nm細孔容積割合は、1.5体積%以上、2.2体積%以上又は3.1体積%以上であり、また、4.9体積%以下、4.1%体積以下、又は3.7体積%以下であることが好ましい。5-10nm細孔容積割合が上記の割合となることでカリウムの吸着が速くなりやすい。5-10nm細孔容積割合の上限および下限は上記の任意の組み合わせであればよく、例えば、1.5体積%以上4.9体積%以下、2.2体積%以上4.1体積%以下、又は、3.1体積%以上3.7体積%以下が挙げられる。
【0054】
成形体の細孔面積、細孔容積及び細孔径は、JIS Z 1655に準じた水銀圧入法により測定できる。具体的な測定条件として、以下の条件が挙げられる。
【0055】
サンプル質量:0.10g
水銀導入圧力:601.6psia~36,098.1psia(4.1MPa~248.9MPa)
測定細孔径 :5nm~300nm
使用セル :圧入体積1.1ccガラスセル
水銀表面張力:480dyn
水銀接触角 :130°
前処理条件 :大気雰囲気、110℃で1時間以上(1時間以上3時間以下)の脱気処理
測定には一般的な水銀ポロシメーター(例えば、装置名:オートポア9510、Micromeritics社製)を使用すればよい。
【0056】
本実施形態の成形体の嵩密度は、0.1g/cm3以上0.65g/cm3以下であることが好ましい。嵩密度が0.1g/cm3以上であると成形体がハンドリングしやすくなる。一方、嵩密度が0.65g/cm3以下であれば透析排液の流通を過度に阻害することなく、高い充填性を示しやすい。本実施形態の成形体の嵩密度は、0.1g/cm3以上、0.2g/cm3以上又は0.3g/cm3以上であり、また、0.65g/cm3以下、0.60g/cm3以下又は0.58g/cm3以下であることが好ましい。嵩密度の上限および下限は上記の任意の組み合わせであればよく、例えば、0.1g/cm3以上0.65g/cm3以下、0.2g/cm3以上0.60g/cm3以下、又は、0.3g/cm3以上0.58g/cm3以下であればよい。
【0057】
本実施形態の成形体は目的に適した所期の形状とすることができる。本実施形態の成形体の形状として、円柱状、ペレット状、ビーズ状、略球状及びリング状の群から選ばれる1以上、更には、円柱状及びビーズ状の少なくともいずれか、を挙げることができ、また、用途に応じた任意の形状であればよい。
【0058】
本実施形態の成形体は、透析排液からのカリウム除去に適している。例えば、本実施形態の成形体の、以下の模擬透析液を使用したカリウムの吸着評価(以下、「模擬吸着評価」ともいう。)におけるカリウム(K+)除去率は20%以上、30%以上又は40%以上、また、100%以下、99%以下又は98%以下であることが好ましい、
模擬吸着評価は以下のように行えばよい。すなわち、KCl、NaCl、MgCl2及びCaCl2を含み以下の組成を含む水溶液を調製し、模擬透析液とする。
【0059】
K : 1.0mEq/L
Na:132.0mEq/L
Mg: 0.5mEq/L
Ca: 3.5mEq/L
次いで、本実施形態の成形体2.5mLを内径8.4mmφのガラスカラムに充填し、送液速度100mL/minで模擬透析液をガラスカラムに流通する。該ガラスカラムから排出された模擬透析液を、排出開始から100mL毎に、合計500mL回収し、それぞれ、純水で10倍に希釈して測定液とする。一般的なICP-AES装置(例えば、OPTIMA3000DV、PERKIN-ELMER社製)を用いたICP発光分光分析法により得られる測定液のカリウム、カルシウム及びマグネシウムの濃度をそれぞれ測定した後、以下の(1)式及び(2)式から、カリウム除去率を求めればよい。
【0060】
カリウム除去率[%]=(A1+A2+A3+A4+A5)/5×100 (1)
(1)式において、A1乃至A5は各測定液のカリウム除去率[%]である。
【0061】
各測定液のカリウム除去率[%]=(C0-Cn)/C0×100 (2)
(2)式においてC0は模擬透析液のカリウム濃度[1.0mEq/L]、及び、Cnは各測定溶液中のカリウム濃度[mEq/L]である。
【0062】
なお、模擬吸着評価に先立ち、本実施形態の成形体はNaCl濃度10質量%の塩化ナトリウム水溶液1Lと混合した後、純水1.5Lで洗浄することで前処理すればよい。
【0063】
模擬吸着評価において、マグネシウム除去率及びカルシウム除去率は、カリウム除去率よりも低いことが好ましく、例えば、マグネシウム(Mg2+)除去率は15%以下、10%以下又は6%以下であることが挙げられる。一方、カルシウム(Ca2+)除去率はまた、15%以下、10%以下又は6%以下であることが挙げられる。
【0064】
マグネシウム除去率及びカルシウム除去率の下限値はそれぞれ、0%以上、0.5%以上又は1.0%以上が例示できる。
【0065】
ただし、カルシウム除去率又はマグネシウム除去率は、上記(1)式及び(2)式におけるカリウムをカルシウム又はマグネシウムとして求めればよい。
【0066】
本実施形態の成形体は、透析排液など、溶液と接触した場合のアルミニウムの溶出が少ない。例えば、本実施形態の成形体は、以下のアルミニウム溶出評価におけるアルミニウム溶出量が、0.01質量ppm以上0.50質量ppm以下、0.01質量ppm以上0.20質量ppm以下、又は、0.01質量ppm以上0.15質量ppm以下であること挙げられる。
【0067】
アルミニウム溶出評価は、純水10mLに本実施形態の成形体を1mL混合した後、これを、37℃、6時間、1.0±0.5Hzの条件で振とうする。振とう後、上澄み液をメンブレンフィルターでろ過して測定液とする。ICP-AES(製品名:OPTIMA3000DV、PERKIN-ELMER社製)を用いたICP発光分光分析法により測定液のアルミニウムの含有量を測定し、アルミニウム溶出量とすればよい。
【0068】
なお、アルミニウム溶出評価に先立ち、測定試料はNaCl濃度10質量%の塩化ナトリウム水溶液1Lと混合した後、純水1.5Lで洗浄することで前処理すればよい。
【0069】
上述のアルミニウム溶出評価におけるアルミニウム溶出量は少ないことが好ましいが、例えば、0質量ppm以上又は0.01質量ppm以上であればよい。
【0070】
本実施形態の成形体は、透析排液からのカリウム除去に適しているが、カリウムイオンを含有する溶液を接触させる工程を有するカリウム吸着方法、に使用してもよい。
【0071】
さらに、本実施形態の成形体は、アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンを少なくとも2種含む溶液からのカリウムの選択除去用の吸着剤として使用してもよい。本実施形態の成形体は、カリウム吸着剤、更にはナトリウム及びマグネシウムの少なくともいずれか、並びに、カリウムを含有する溶液からのカリウム吸着剤、更には生体液、血液製剤、血液及び透析液の少なくともいずれかからのカリウム除去用の吸着剤として使用することができる。
【0072】
本実施形態の成形体は、これをカラムに充填し、本実施形態の成形体を含むカラムとしてカリウム吸着方法に使用することもでき、さらに、該カラムを備えたカリウム吸着システムとして使用することができる。
【0073】
次に、本実施形態の成形体の製造方法について説明する。
【0074】
本実施形態の成形体の製造方法は、8員環ゼオライト及び無機バインダー源を含み、上記の構成を有する成形体であれば、その製造方法は任意である。
【0075】
好ましい製造方法として、例えば、8員環ゼオライト及び無機バインダー源を混合して混合物を得る混合工程、並びに、該混合物を成形し成形体を得る成形工程、を有する製造方法、が挙げられる。
【0076】
混合工程では、8員環ゼオライトと無機バインダー源とが均一になるように任意の方法で混合すればよい。混合方法として、リボンブレンダー、ニーダー、ナウターミキサー及びミックスマラーの群から選ばれる1以上による混合が例示できる。
【0077】
混合工程に供する8員環ゼオライト及び無機バインダー源、それぞれの一次粒子径及び粒子径D50は、本実施形態の成形体に含まれる8員環ゼオライト及び無機バインダーの一次粒子径及び粒子径D50は、上述の成形体が得られるものであれば特に限定されない。
【0078】
混合工程では、8員環ゼオライトと無機バインダーとを、8員環ゼオライト100重量部(無水換算質量)に対する、無機バインダーの質量が10質量部以上、15質量部以上又は20質量部以上であり、また、40質量部以下、30質量部以下又は25質量部以下となるように混合することが好ましい。
【0079】
無機バインダー源としては、焼成によりケイ素(Si)と酸素(O)を含む化合物、好ましくはシリカ(SiO2)を含む化合物、より好ましくはシリカとなる化合物、又は、ジルコニウム(Zr)と酸素(O)を含む化合物、好ましくはジルコニア(ZrO2)を含む化合物、より好ましくはジルコニアとなり、無機バインダーとして機能する化合物であればよく、シリカゾル、コロイダルシリカ、湿式法シリカ、乾式法シリカ、乾式ジルコニア、湿式ジルコニア、ジルコニアゾル、水酸化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム及びオキシ酢酸ジルコニウムの群から選ばれる1以上が好ましく、コロイダルシリカ、酢酸ジルコニウム、オキシ酢酸ジルコニウム、湿式ジルコニア、ジルコニアゾル及び水酸化ジルコニウムの群から選ばれる1以上がより好ましく、コロイダルシリカ及びジルコニアゾルの少なくともいずれかが更に好ましい。具体的なコロイダルシリカとして、ナトリウムイオン安定化コロイダルシリカ及びアンモニウムイオン安定化コロイダルシリカの少なくともいずれかが例示できる。また、無機バインダー源の性状は、上記の化合物を含む固体、スラリー、コロイド溶液又は水溶液が例示できる。
【0080】
混合工程において、必要に応じて成形助剤を混合してもよい。成形助剤は成形性を改善する物質であり、成形助剤を使用することにより、成形体の細孔構造を制御しやすくなる。成形助剤は、セルロース、アルコール、リグニン、スターチ及びグァーガムの群から選ばれる1以上、などが例示できる。取り扱いが容易であるため、成形助剤はセルロース及びアルコールの少なくともいずれかが好ましい。セルロースは、結晶性セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)の群から選ばれる1以上が例示できる。アルコールは、ポリビニルアルコール及びエチレングリコールの少なくともいずれかが例示できる。
【0081】
成形助剤の量は、ゼオライト100質量部(無水換算質量)に対して、1質量部以上又は2質量部以上、また5質量部以下、4質量部以下が好ましい。
【0082】
成形工程では、前記混合工程によって得られた混合物を、任意の形状に成形する。成形方法は所望の形状にできる成形方法であれば任意である。円柱状成形体であれば、押出し法による成形、ビーズ状成形体であれば転動造粒法及び撹拌造粒法の少なくともいずれかによる成形、が例示できる。
【0083】
平均アスペクト比が1.55超である成形体を製造する場合、成形体の短径及び長径をそれぞれ制御しやすい点で、成型工程は円柱状に成形し得る成型方法が好ましく、押出し法による成形がより好ましい。押出し法による成形の具体的な方法については、一般的な押出機(例えば、製品名:MG-55-1、ダルトン社製)を使用して、上記混合工程により得られる混合物を直径0.1mm以上10.0mm以下の円柱状に成形する方法、が挙げられる。混合物を押し出す直径を小さくするに従い、平均アスペクト比が大きくなる傾向がある。
【0084】
平均アスペクト比が1.55以下である成形体を製造する場合、平均アスペクト比を小さくしやすい点で、成型工程は略球状又は球状に成形し得る成形方法が好ましく、転動造粒法及び撹拌造粒法の少なくともいずれかによる成形がより好ましい。撹拌造粒法として、一般的な撹拌造粒装置(例えば、製品名:FMミキサ(FM5)、日本コークス工業社製)を使用して上記混合工程により得られる混合物をビーズ状成形体とする方法が挙げられる。
【0085】
本実施形態の成形体の製造方法は、必要に応じ成形体を熱処理する焼成工程を含んでいてもよい。焼成工程により、成形体の強度を高くすることができる。焼成条件は上記無機バインダー源の少なくとも一部が溶融し、8員環ゼオライトと融着するような条件であれば任意であるが、500℃以上900℃以下、2時間以上4時間以下で焼成することが挙げられる。焼成雰囲気は酸化雰囲気であればよく、例えば大気雰囲気が挙げられる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例において本開示をさらに詳細に説明する。しかしながら、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
<模擬吸着評価>
模擬透析液を使用し、測定試料のカリウム吸着性能を評価した。
【0087】
すなわち、カリウム溶液として、KCl、NaCl、MgCl2及びCaCl2を含み以下の組成を含む水溶液を調製し、模擬透析液とした。
【0088】
K : 1.0mEq/L
Na:132.0mEq/L
Mg: 0.5mEq/L
Ca: 3.5mEq/L
測定試料2.5mLを内径8.4mmφのガラスカラムに充填し、送液速度100mL/分で模擬透析液を該ガラスカラムに流通した。
【0089】
該ガラスカラムから排出された模擬透析液を、排出開始から100mL毎に、合計500mL回収し、それぞれ、純水で10倍に希釈して測定液とした。
【0090】
ICP-AES装置(製品名:OPTIMA3000DV、PERKIN-ELMER社製)を用いたICP発光分光分析法により得られた測定液のカリウム、カルシウム及びマグネシウムの濃度をそれぞれ測定した後、上述の(1)式及び(2)式から、それぞれ、カリウム除去率、カルシウム除去率及びマグネシウム除去率を求めた。
【0091】
なお、模擬吸着評価に先立ち、測定試料はNaCl濃度10質量%の塩化ナトリウム水溶液1Lと混合した後、純水1.5Lで洗浄することで前処理した。
<アルミニウム溶出評価>
測定試料のアルミニウム溶出評価を以下の方法により測定した。
【0092】
すなわち、純水10mLに測定試料を1mL混合した後、これを、37℃、6時間、1.0±0.5Hzの条件で振とうした。振とう後、上澄み液をメンブレンフィルターでろ過して測定液とした。ICP-AES(製品名:OPTIMA3000DV、PERKIN-ELMER社製)を用いたICP発光分光分析法により測定液のアルミニウムの含有量を測定し、アルミニウム溶出量とした。
【0093】
なお、アルミニウム溶出評価に先立ち、測定試料はNaCl濃度10質量%の塩化ナトリウム水溶液1Lと混合した後、純水1.5Lで洗浄することで前処理した。
<細孔径、細孔容積の測定>
測定試料の細孔容積及び細孔径は、JIS Z 1655に準じた水銀圧入法により水銀ポロシメーター(装置名:オートポア9510、Micromeritics社製)を使用し測定した。細孔率及び細孔径の具体的な測定条件として、以下の条件で測定を行った。
【0094】
サンプル重量:0.10g
水銀導入圧力:601.6psia~36,098.1psia(4.1MPa~248.9MPa)
測定細孔径 :5nm~300nm
使用セル :圧入体積1.1ccガラスセル
水銀表面張力:480dyn
水銀接触角 :130°
前処理条件 :大気雰囲気、110℃で1時間以上の脱気処理
<粒子径分布の測定>
測定試料の粒子径分布は、レーザー回折・散乱法により測定した。測定には一般的な粒子径分布測定装置(装置名:MT-3100II、マイクロトラック・ベル社製)を使用した。測定条件は以下の通りである。
【0095】
前処理 :大気雰囲気下、110℃、1時間乾燥
測定範囲 :0.7以上1000μm以下
透過性 :透過
形状 :非球形
屈折率 :1.66
雰囲気 :空気(乾式)
溶媒屈折率 :1
実施例1
FER型ゼオライト(製品名:HSZ(登録商標)-720KOA、東ソー社製SiO2/Al2O3比:18、粒子径D50:8.7μm)100質量部(無水換算質量:300.0g)、ナトリウムイオン安定化コロイダルシリカ(製品名:ST-30、日産化学社製、SiO2換算したSi濃度:30質量%、一次粒子径:12nm)20質量部(無水換算質量:60.0g)、及び、ナトリウム型カルボキシメチルセルロース(製品名:サンローズF-20LC、日本製紙社製)4質量部(無水換算質量:12.0g)を、撹拌造粒装置(製品名:FMミキサ(FM5)、日本コークス工業社製)を使用して、5分間撹拌混合した。混合物に対し純水105.4gを添加し、さらに5分間撹拌した。その後、大気雰囲気、100℃で一晩乾燥した後に、ロータップ型ふるい振とう機(製品名:IIDA SHAVE SHAKER、飯田製作所社製)を使用して衝撃数165rpm、回転数290rpm、処理時間5分の条件で分級し、さらに目開き300μmの篩を通過し、目開き180μmの篩に堆積した成形体を回収した。回収後の成形体を、大気雰囲気、600℃で2時間焼成し、FER型ゼオライト(8員環ゼオライト)及びシリカ(シリカバインダー)を含むビーズ状成形体を得た。
【0096】
該ビーズ状成形体に、10質量%NaCl水溶液500.0gを流通させイオン交換し、カチオンタイプ:Naとして、本実施例の成形体を得た。
【0097】
実施例2
目開き425μmの篩を通過し、目開き300μmの篩に堆積した成形体を回収したこと以外は、実施例1と同様の方法で本実施例の成形体を得た。
【0098】
実施例3
混合機(ハイビスミックス:プライミクス社製)で60分間混合した後、押出機(製品名:MG-55-1、ダルトン社製)で0.5mmの円柱状に成形したこと、乾燥後、整粒装置(製品名:FXB-3、富士パウダル社製)を使用し、ハンマー回転数15Hzで粉砕したこと、及び、目開き425μmの篩を通過し、目開き300μmの篩に堆積した成形体を回収したこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例の成形体を得た。
【0099】
実施例4
ナトリウムイオン安定化コロイダルシリカの代わりにアンモニウムイオン安定化コロイダルシリカ(製品名:ST-N-30G、日産化学社製、SiO2換算したSi濃度:30質量%、一次粒子径:12.5nm±2.5nm)を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で本実施例の成形体を得た。
【0100】
実施例5
ナトリウムイオン安定化コロイダルシリカの代わりにアンモニウムイオン安定化コロイダルシリカ(製品名:ST-N-30G、日産化学社製、SiO2換算したSi濃度:30質量%、一次粒子径:12.5nm±2.5nm)を使用したこと、及び、目開き425μmの篩を通過し、目開き300μmの篩に堆積した成形体を回収したこと以外は、実施例1と同様の方法で、本実施例の成形体を得た。
【0101】
実施例6
ゼオライトとしてFER型ゼオライト(製品名:HSZ(登録商標))-720NHA、東ソー社製SiO2/Al2O3比:18、粒子径D50:10.9μm)を1mоl/L塩酸で酸処理し、カチオンタイプをH型としたものを使用したこと、及び、ナトリウムイオン安定化コロイダルシリカの代わりにアンモニウムイオン安定化コロイダルシリカ(製品名:ST-N-30G、日産化学社製、SiO2換算したSi濃度:30質量%、一次粒子径:12.5nm±2.5nm)にしたこと以外は、実施例1と同様の方法で本実施例の成形体を得た。
【0102】
実施例7
目開き425μmの篩を通過し、目開き300μmの篩に堆積した成形体を回収したこと以外は、実施例6と同様の方法で本実施例の成形体を得た。
【0103】
実施例8
FER型ゼオライト(製品名:HSZ(登録商標)-720KOA、東ソー社製。SiO2/Al2O3比:18、粒子径D50:8.7μm)100質量部(無水換算質量:300.0g)、ジルコニアバインダー(製品名:ナノユースZR、日産化学社製、ZrO2換算したZr濃度:40質量%、一次粒子径:90nm)20質量部(無水換算質量:60.0g)、及び、ナトリウム型カルボキシメチルセルロース(製品名:サンローズF-20LC、日本製紙社製)4質量部(無水換算質量:12.0g)を、混合機(ハイビスミックス:プライミクス社製)で60分間混合した。混合物に対し純水252.5gを添加し、さらに5分間撹拌した後、押出機(製品名:MG-55-1、ダルトン社製)で直径0.3mmの円柱状に成形し、大気雰囲気、100℃で一晩乾燥し、整粒装置(製品名:FXB-3、富士パウダル社製)を使用し、ハンマー回転数15Hzで粉砕し、成形体を得た。得られた成形体を、ロータップ型ふるい振とう機(製品名:IIDA SHAVE SHAKER、飯田製作所社製)を使用して衝撃数165rpm、回転数290rpm、処理時間5分の条件で分級し、目開き710μmの篩を通過し、目開き180μmの篩に堆積した成形体を回収した。回収後の成形体を、大気雰囲気下、600℃で2時間焼成し、FER型ゼオライト(8員環ゼオライト)及びジルコニア(ジルコニアバインダー)を含む円柱状成形体を得た。
【0104】
該円柱状成形体に、10質量%NaCl水溶液500.0gを流通させイオン交換し、カチオンタイプ:Naとして、本実施例の成形体とした。
【0105】
実施例9
ジルコニアバインダーの代わりにナトリウムイオン安定化コロイダルシリカ(製品名:SH-3、扶桑化学工業社製、SiO2換算したSi濃度:34.4質量%、一次粒子径:35.6nm)20質量部(無水換算質量:60.0g)を使用したこと、混合物に対し純水174.0gを添加したこと、及び、回収後の成形体を大気雰囲気下、800℃で2時間焼成したこと以外は、実施例8と同様の方法で本実施例の成形体を得た。
【0106】
実施例10
ナトリウムイオン安定化コロイダルシリカ(製品名:SH-3、扶桑化学工業株式会社製、SiO2換算したSi濃度:34.4質量%、一次粒子径:35.6nm)を10質量部(無水換算質量:30.0g)混合したこと、及び、混合物に対し純水230.1gを添加したこと、及び押出機で直径0.5mmの円柱状に成形したこと以外は、実施例9と同様の方法で本実施例の成形体を得た。
【0107】
実施例11
ナトリウムイオン安定化コロイダルシリカ(製品名:SH-3、扶桑化学工業株式会社製、SiO2換算したSi濃度:34.4質量%、一次粒子径:35.6nm)を15質量部(無水換算質量:45.0g)混合したこと、及び、混合物に対し純水63.6gを添加したこと以外は、実施例9と同様の方法で本実施例の成形体を得た。
【0108】
比較例1
ゼオライトとして、FAU型ゼオライト(製品名:HSZ(登録商標)-320NAA:東ソー社製、SiO2/Al2O3比:5.7、粒子径D50:6.3μm)を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で本比較例の成形体を得た。
【0109】
比較例2
目開き1.2mmの篩を通過し、目開き1.0mmの篩に堆積した成形体を回収したこと以外は、実施例1と同様の方法で本比較例の成形体を得た。
【0110】
比較例3
市販のFER型ゼオライト成形体(製品名:HSZ(登録商標)-720KOD1C、1.5mmφ円柱状ペレット、バインダー:粘土、SiO2/Al2O3比:18、粒子径D50:(ゼオライト)8.7μm、(バインダー)12μm)を乳鉢で粉砕した後に、目開き425μmの篩を通過し、目開き300μmの篩に堆積した円柱状ペレット成形体を得た。
【0111】
該円柱状ペレット成形体に、10質量%NaCl水溶液500.0gを流通させイオン交換し、カチオンタイプ:Naとし、本比較例の成形体を得た。
【0112】
比較例4
MOR型ゼオライト(製品名:HSZ(登録商標)-620HOA、東ソー社製。SiO2/Al2O3比:18、粒子径D50:10.1μm)100質量部、ナトリウムイオン安定化コロイダルシリカ(製品名:SH-3、扶桑化学工業株式会社製、SiO2換算したSi濃度:34.4質量%、一次粒子径:35.6nm)20質量部(無水換算質量:60.0g)及び、ナトリウム型カルボキシメチルセルロース(製品名:サンローズF-20LC、日本製紙社製)4質量部(無水換算質量:12.0g)を、混合機(ハイビスミックス:プライミクス社製)で60分間混合した。混合物に対し純水95.1gを添加し、さらに5分間撹拌した後、押出機(製品名:MG-55-1、ダルトン社製)で1.0mmの円柱状に成形し、大気雰囲気、100℃で一晩乾燥し、整粒装置(製品名:FXB-3、富士パウダル社製)を使用し、ハンマー回転数15Hzで粉砕し、成形体を得た。得られた成形体を、ロータップ型ふるい振とう機(製品名:IIDA SHAVE SHAKER、飯田製作所社製)を使用して衝撃数165rpm、回転数290rpm、処理時間5分の条件で分級し、目開き1.2mmの篩を通過し、目開き1.0mmの篩に堆積した成形体を回収した。回収後の成形体を、大気雰囲気下、600℃で2時間焼成し、MOR型ゼオライト(8員環ゼオライト)及びシリカ(シリカバインダー)を含む円柱状成形体を得た。
【0113】
該円柱状成形体に、10質量%NaCl水溶液500.0gを流通させイオン交換し、カチオンタイプ:Naとして、本実施例の成形体とした。
【0114】
実施例及び比較例の評価結果を下表に示す。
【0115】
【0116】
【産業上の利用可能性】
【0117】
本開示の成形体は、カリウムイオンの吸着除去に有用な細孔径分布および粒径をもつため、溶液中に含まれるカリウムを吸着する用途、好ましくは人工透析により発生するカリウムイオンを含有する排液からカリウムを吸着する用途で有用に使用することができる。