(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】コンパウンド粉、及びコンパウンド粉の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/16 20220101AFI20240820BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20240820BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240820BHJP
H01F 1/26 20060101ALI20240820BHJP
C08K 3/10 20180101ALI20240820BHJP
【FI】
B22F1/16 100
B22F1/05
B22F1/00 Y
H01F1/26
C08K3/10
(21)【出願番号】P 2024508990
(86)(22)【出願日】2023-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2023034304
【審査請求日】2024-02-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】園川 大樹
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 由則
(72)【発明者】
【氏名】田中 実佳
(72)【発明者】
【氏名】岡田 順子
(72)【発明者】
【氏名】早風 拓哉
【審査官】田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-058148(JP,A)
【文献】特開2013-247214(JP,A)
【文献】特開2001-226753(JP,A)
【文献】特開2019-106431(JP,A)
【文献】特開2022-146469(JP,A)
【文献】国際公開第2008/146712(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/106810(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 8/00
H01F 1/20- 1/28
C08K 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末と、樹脂組成物と、を備えるコンパウンド粉であって、
前記金属粉末は、軟磁性体であり、
前記樹脂組成物は、熱硬化性樹脂を含み、
前記コンパウンド粉は、粒径が500μmよりも大きい複数の大粒子を含み、
前記コンパウンド粉中の前記大粒子の含有量は、40質量%以上100質量%以下であ
り、
前記複数の前記大粒子のうち少なくとも一部は、前記金属粉末を構成する少なくとも一つの金属粒子と、前記金属粒子を覆う前記樹脂組成物と、を含み、
前記コンパウンド粉中の前記金属粉末の含有量は、94質量%以上98質量%以下であり、
前記コンパウンド粉中の前記樹脂組成物の含有量は、2質量%以上6質量%以下である、
コンパウンド粉。
【請求項2】
前記複数の前記大粒子の全部が、前記金属粉末を構成する少なくとも一つの前記金属粒子と、前記金属粒子を覆う前記樹脂組成物と、を含む複合粒子である、
請求項1に記載のコンパウンド粉。
【請求項3】
175℃での前記コンパウンド粉の最低溶融粘度は、10Pa・s以上250Pa・s以下である、
請求項1に記載のコンパウンド粉。
【請求項4】
前記樹脂組成物の未硬化物、及び前記樹脂組成物の半硬化物のうち一方又は両方を含む、
請求項1に記載のコンパウンド粉。
【請求項5】
前記樹脂組成物は、硬化剤、硬化促進剤、カップリング剤、及びワックスからなる群より選ばれる少なくとも一つの成分を更に含む、
請求項1に記載のコンパウンド粉。
【請求項6】
前記金属粉末の平均粒径は、0.1μm以上45μm以下である、
請求項1に記載のコンパウンド粉。
【請求項7】
前記金属粉末は、第1軟磁性粉及び第2軟磁性粉末を含み、
前記第1軟磁性粉の平均粒径は、前記第2軟磁性粉の平均粒径よりも大きい、
請求項1に記載のコンパウンド粉。
【請求項8】
前記第1軟磁性粉の平均粒径は、11μm以上45μm以下であり、
前記第2軟磁性粉の平均粒径は、0.1μm以上9.0μm以下である、
請求項7に記載のコンパウンド粉。
【請求項9】
前記第1軟磁性粉の質量は、M1と表され、
前記第2軟磁性粉の質量は、M2と表され、
M1/(M1+M2)は、0.70以上0.95以下である、
請求項7に記載のコンパウンド粉。
【請求項10】
前記大粒子に含まれる前記樹脂組成物は、前記大粒子に含まれる前記金属粒子の表面を直接覆っている、
請求項1に記載のコンパウンド粉。
【請求項11】
請求項1に記載のコンパウンド粉を製造する方法であって、
前記金属粉末及び前記樹脂組成物を含む混合粉末を調製する工程と、
前記混合粉末の分級により、前記複数の前記大粒子を含む前記コンパウンド粉を得る工程と、
を備える、
コンパウンド粉の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コンパウンド粉、成形体、硬化物、及びコンパウンド粉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軟磁性の金属粉及び絶縁性の樹脂組成物を含むコンパウンド粉は、様々な工業製品の原料として利用される。(下記特許文献1参照。)例えば、コンパウンド粉は、インダクタ、変圧器、リアクトル、サイリスタバルブ、ノイズフィルタ(EMIフィルタ)、チョークコイル、モータ用鉄心、一般家電機器及び産業機器に用いられるモータのロータ及びヨーク、電磁波シールド、並びに電磁弁用のソレノイドコア(固定鉄心)等の原料として用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コンパウンド粉に含まれる金属粉は、軟磁気特性(比較的高い比透磁率及び比較的低い保磁力)だけではなく電気伝導性を有する。したがって、従来のコンパウンド粉は十分な電気的絶縁性(耐電圧等)を有していない。コンパウンド粉中の金属粉の含有量の増加に伴って、コンパウンド粉の軟磁気特性は向上するが、コンパウンド粉の電気的絶縁性は劣化する。電気的絶縁性に乏しいコンパウンド粉は、上述された工業製品における電気的短絡及び渦電流損失を引き起こす。
【0005】
さらに、金属粉は樹脂組成物と分離し易い。金属粉及び樹脂組成物の分離に因り、コンパウンド粉のブロッキング(凝集)が起き易い。コンパウンド粉のブロッキングは、コンパウンド粉の流動性を損ない、コンパウンド粉の成形によって製造される工業製品の外観不良(appearance defects)を引き起こす。例えば、コンパウンド粉のトランスファー成形又は圧縮成形に伴うコンパウンド粉のブロッキングに因り、フローマーク(flоw mark)及び白モヤ(whitish haze又はwhite mark)等の外観不良が、コンパウンド粉の硬化物の表面において発生し易い。
【0006】
コンパウンド粉を構成する少なくとも一部の粒子は、金属粉末を構成する少なくとも一つの金属粒子と金属粒子を覆う樹脂組成物とから構成された複合粒子であり、コンパウンド粉の電気的絶縁性は、金属粒子を覆う樹脂組成物に由来する。したがって、金属粒子を覆う樹脂組成物の増加に伴って、各複合粒子の粒径(金属粒子を覆う樹脂組成物の厚み)が増加し、各複合粒子自体の電気的絶縁性が向上する。換言すれば、金属粒子を覆う樹脂組成物の減少に伴って、複合粒子の粒径が減少し、各複合粒子自体の電気的絶縁性が劣化する。さらに、金属粒子の粒径が小さいほど、樹脂組成物が金属粒子の表面から剥離し易い。したがって、粒径が比較的小さい粒子をコンパウンド粉から除くことによって、コンパウンド粉の電気的絶縁性が向上することが期待される。
【0007】
さらに、コンパウンド粉を構成する各粒子の粒径の減少に伴って、各粒子の比表面積が増加し、複数の粒子が互いに接触及び凝集し易くなる。つまり、コンパウンド粉を構成する各粒子が小さいほど、コンパウンド粉のブロッキング(凝集)が起き易い。したがって、粒径が比較的小さい粒子をコンパウンド粉から除くことによって、コンパウンド粉のブロッキングが抑制されることが期待される。
【0008】
発明者達は、上述された考察に基づきコンパウンド粉の粒度分布に着目し、コンパウンド粉の粒度分布の制御により、コンパウンド粉の電気的絶縁性を向上し、且つコンパウンド粉のブロッキングを抑制する本発明に想い到った。
【0009】
本発明の一側面の目的は、電気的絶縁性(耐電圧)に優れ、且つブロッキング(凝集)が抑制されたコンパウンド粉、コンパウンド粉を含む成形体、コンパウンド粉の硬化物、及びコンパウンド粉の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
例えば、本発明の一側面は下記の[1]~[10]に関する。
【0011】
[1] 金属粉末と、樹脂組成物と、を含むコンパウンド粉であって、
金属粉末は、軟磁性体(soft magnetic material)であり、
樹脂組成物は、熱硬化性樹脂を含み、
コンパウンド粉は、粒径が500μmよりも大きい複数の大粒子を含み、
コンパウンド粉中の大粒子の含有量は、40質量%以上100質量%以下である、
コンパウンド粉。
【0012】
[2] 複数の大粒子のうち少なくとも一部は、
金属粉末を構成する少なくとも一つの金属粒子と、
金属粒子を覆う樹脂組成物と、
を含む、
[1]に記載のコンパウンド粉。
【0013】
[3] 175℃でのコンパウンド粉の最低溶融粘度は、10Pa・s以上250Pa・s以下である、
[1]又は[2]に記載のコンパウンド粉。
【0014】
[4] コンパウンド粉中の金属粉末の含有量は、94質量%以上98質量%以下である、
[1]~[3]のいずれか一つに記載のコンパウンド粉。
【0015】
[5] 樹脂組成物は、硬化剤、硬化促進剤、カップリング剤、及びワックスからなる群より選ばれる少なくとも一つの成分を更に含む、
[1]~[4]のいずれか一つに記載のコンパウンド粉。
【0016】
[6] コイルの磁心に用いられる、
[1]~[5]のいずれか一つに記載のコンパウンド粉。
[1]~[5]のいずれか一つに記載のコンパウンド粉の、コイルの磁心への応用。
【0017】
[7] 封止材である、
[1]~[5]のいずれか一つに記載のコンパウンド粉。
[1]~[5]のいずれか一つに記載のコンパウンド粉の、封止材への応用。
【0018】
[8] [1]~[7]のいずれか一つに記載のコンパウンド粉を含む、成形体(cоmpact)。
【0019】
[9] [1]~[7]のいずれか一つに記載のコンパウンド粉の硬化物。
【0020】
[10] [1]~[7]のいずれか一つに記載のコンパウンド粉を製造する方法であって、
金属粉末及び樹脂組成物を含む混合粉末を調製する工程と、
混合粉末の分級により、複数の大粒子を含むコンパウンド粉を得る工程と、
を含む、
コンパウンド粉の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一側面によれば、電気的絶縁性(耐電圧)に優れ、且つブロッキング(凝集)が抑制されたコンパウンド粉、コンパウンド粉を含む成形体、コンパウンド粉の硬化物、及びコンパウンド粉の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るコンパウンド粉の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態が説明される。図面において、同等の構成要素には同等の符号が付される。本発明は下記実施形態に限定されるものではない。
【0024】
(コンパウンド粉、成形体、及び硬化物)
図1に示されるように、本実施形態に係るコンパウンド粉10は、常温(例えば、(20±15)℃)において粉末である。コンパウンド粉10は、金属粉末と、樹脂組成物3と、を含む。金属粉末は、複数の金属粒子1からなる。金属粉末は、軟磁性体である。金属粉末は、金属フィラーと言い換えられてよい。樹脂組成物3は、熱硬化性樹脂を含む。樹脂組成物3は、電気的絶縁性を有する。コンパウンド粉10は、樹脂組成物3の未硬化物、及び樹脂組成物3の半硬化物(Bステージの樹脂組成物3)のうち一方又は両方を含んでよい。コンパウンド粉10を含む成形体、又はコンパウンド粉10の硬化物において、樹脂組成物3は、複数の金属粒子1を互いに結着する。更に、隣り合う複数の金属粒子1の間に介在する樹脂組成物3は、複数の金属粒子1を電気的に絶縁する。コンパウンド粉10は、金属粉末及び樹脂組成物3のみからなっていてよい。コンパウンド粉10は、金属粉末及び樹脂組成物3に加えて他の成分を更に含んでもよい。
【0025】
本実施形態に係る成形体は、上記のコンパウンド粉10を含む。本実施形態に係る成形体は、コンパウンド粉10のみからなっていてよい。成形体は、コンパウンド粉10に加えて、コイル等の他の部材を含んでもよい。成形体は、樹脂組成物3の未硬化物及び樹脂組成物3の半硬化物のうち一方又は両方を含んでよい。本実施形態に係る硬化物は、上記のコンパウンド粉10の硬化物であり、樹脂組成物3の硬化物(Cステージの樹脂組成物3)を含む。
以下に記載の電気的絶縁性(例えば、高い耐電圧)は、コンパウンド粉10、成形体、及び硬化物に共通する特性である。以下に記載の軟磁気特性(例えば、高い比透磁率)も、コンパウンド粉10、成形体、及び硬化物に共通する特性である。以下に記載の機械的強度(例えば、高い曲げ強度)は、コンパウンド粉10の硬化物の特性である。
【0026】
コンパウンド粉10は、粒径dが500μmよりも大きい複数の大粒子5を含む。粒径dとは、一つの粒子の最大幅(長径)と言い換えられてよい。コンパウンド粉10中の大粒子5の含有量は、40質量%以上100質量%以下である。
大粒子5の含有量が40質量%以上であるコンパウンド粉10は、大粒子5の含有量が40質量%未満であるコンパウンド粉よりも、電気的絶縁性(耐電圧)に優れている。したがって、コンパウンド粉10から製造された工業製品における電気的短絡及び渦電流損失が抑制される。
大粒子5の含有量が40質量%未満であるコンパウンド粉と比較して、大粒子5の含有量が40質量%以上であるコンパウンド粉10のブロッキング(凝集)は抑制され易い。したがって、コンパウンド粉10のトランスファー成形又は圧縮成形に伴うコンパウンド粉10のブロッキングが抑制され、コンパウンド粉10が流動し易く、ブロッキングに起因する外観不良が、コンパウンド粉10の硬化物の表面において発生し難くなる。
コンパウンド粉10の電気的絶縁性が向上し易いという理由から、コンパウンド粉10中の大粒子5の含有量は、好ましくは60質量%以上100質量%以下、より好ましくは80質量%以上100質量%以下であってよい。コンパウンド粉10は、複数の大粒子5のみからなっていてよい。つまり、コンパウンド粉10中の大粒子5の含有量は、100質量%であってよい。
大粒子5の含有量が40質量%以上である限りにおいて、コンパウンド粉10は、複数の大粒子5に加えて、粒径dが500μm以下である複数の小粒子7を更に含んでよい。つまり、コンパウンド粉10中の小粒子7の含有量は、0質量%以上60質量%以下である。
【0027】
複数の大粒子5のうち少なくとも一部は、金属粉末を構成する少なくとも一つの金属粒子1と、金属粒子1を覆う樹脂組成物と、を含んでよい。以下に記載の「複合粒子」は、少なくとも一つの金属粒子1と、金属粒子1を覆う樹脂組成物3と、を含む粒子を意味する。
金属粒子1を覆う樹脂組成物3の増加に伴って、複合粒子の粒径(金属粒子1を覆う樹脂組成物3の厚み)が増加する。その結果、複合粒子の粒径が増加し、粒径dが500μmよりも大きい大粒子5が形成され易い。大粒子5の表面が、電気的絶縁性を有する樹脂組成物3から構成されている場合、大粒子5自体が電気的絶縁性に優れており、複数の大粒子5を含むコンパウンド粉10の電気的絶縁性も向上する。
大粒子5の増加(各複合粒子の粒径の増加)に伴って、コンパウンド粉10の比表面積が減少し、コンパウンド粉10中の複数の粒子同士の接触及び凝集が抑制され易い。つまり、大粒子5の増加(各複合粒子の粒径の増加)に伴って、コンパウンド粉10のブロッキング(凝集)が抑制され易い。
【0028】
コンパウンド粉10に含まれる複数の大粒子5の全部が、複合粒子であってもよい。複数の大粒子5のうち一部のみが、複合粒子であってよく、複数の大粒子5のうち残部が、樹脂組成物3のみからなる粒子、及び樹脂組成物3で覆われていない金属粒子1のうち少なくとも一つの粒子であってよい。
コンパウンド粉10が複数の小粒子7を含む場合、複数の小粒子7の一部又は全部が複合粒子であってよい。例えば、複数の小粒子7のうち一部のみが、複合粒子であってよく、複数の小粒子7のうち残部が、樹脂組成物3のみからなる粒子、及び樹脂組成物3で覆われていない金属粒子1のうち少なくとも一つの粒子であってよい。コンパウンド粉10に含まれる複数の小粒子7の全てが、樹脂組成物3で覆われていない金属粒子1であってもよい。金属粒子1の粒径が小さいほど、樹脂組成物3が金属粒子1の表面から剥離し易く、大粒子5が形成され難い。したがって、複数の小粒子7は、樹脂組成物3で覆われていない金属粒子1を含み易い。
一つの複合粒子は、複数の金属粒子1と、複数の金属粒子1を覆う樹脂組成物3と、を含んでよい。一つの複合粒子に含まれる樹脂組成物3は、複合粒子含まれる金属粒子1の表面の一部又は全体を覆ってよい。一つの複合粒子に含まれる樹脂組成物3は、複合粒子含まれる金属粒子1の表面を直接覆ってよい。一つの複合粒子に含まれる樹脂組成物3は、金属粒子1の表面を間接的に覆ってもよい。例えば、無機化合物(SiO2等)を含む絶縁性被膜が、一つの金属粒子1の表面を直接覆ってよく、樹脂組成物3が絶縁性被膜の表面を直接覆ってよい。
【0029】
大粒子5の粒径の上限値は特に限定されない。例えば、大粒子5の粒径は、500μmより大きく4000μm以下、500.1μm以上4000.0μm以下、500μmより大きく2000μm以下、又は500.1μm以上2000.0μm以下であってよい。大粒子5の平均粒径又はメジアン径(D50)は、特に限定されない。例えば、大粒子5の平均粒径又はメジアン径は、500μmより大きく4000μm以下、500.1μm以上4000.0μm以下、500μmより大きく2000μm以下、又は500.1μm以上2000.0μm以下であってよい。例えば、大粒子5の粒径は、大粒子5の質量、体積、又は個数に基づくコンパウンド粉10の粒度分布から算出されてよい。例えば、粒度分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定されてよい。例えば、粒度分布は、篩分けによる大粒子5の質量又は体積の測定に基づいて算出されてもよい。大粒子5及び小粒子7それぞれの形状は、特に限定されない。例えば、大粒子5及び小粒子7それぞれの形状は、球状、略球、扁平、又は針状であってよい。
【0030】
コンパウンド粉10は、樹脂組成物3の熱硬化温度未満である温度での加熱によって流動化されてよく、流動化されたコンパウンド粉10が成形されてよい。例えば、コンパウンド粉10は、トランスファー成形(移送成形)に用いられ易い。トランスファー成形は、射出成形法の一種である。トランスファー成形は、圧送成形と言い換えられてよい。トランスファー成形は、コンパウンド粉10を加熱室内で加熱して流動化させる工程と、流動化されたコンパウンド粉10を、湯道(casting runner)を通じて加熱室から金型内へ供給(圧入)する工程とを含んでよい。
コンパウンド粉10の成形方法は、トランスファー成形に限定されない。例えば、コンパウンド粉10の成形方法は、押出成形又は圧縮成形(圧粉成形)であってもよい。
【0031】
175℃でのコンパウンド粉10の最低溶融粘度は、10Pa・s以上250Pa・s以下であってよい。Pa・sは、パスカル秒を意味する。最低溶融粘度が上記範囲内である場合、加熱されたコンパウンド粉10が優れた流動性を有するので、コンパウンド粉10が細い湯道内を途切れることなく(気泡を内包することなく)流れ易く、また金型内の空間(キャビティ)へ斑なく充填され易い。その結果、外観不良、空隙、及びバリ(burr)等の欠陥の少ない成形体及びその硬化物が、上記の成形方法によって容易に製造される。175℃でのコンパウンド粉10の最低溶融粘度は、21Pa・s以上34Pa・s以下であってもよい。
【0032】
コンパウンド粉10中の金属粉末の含有量は特に限定されない。例えば、コンパウンド粉10中の金属粉末の含有量は、94質量%以上98質量%以下であってよい。コンパウンド粉10中の樹脂組成物の含有量は、2質量%以上6質量%以下であってよい。コンパウンド粉10中の金属粉末の含有量が、94質量%以上である場合、コンパウンド粉10の軟磁気特性が向上し易い。コンパウンド粉10中の金属粉末の含有量が、98質量%以下であり、且つコンパウンド粉10中の樹脂組成物3の含有量が、2質量%以上である場合、コンパウンド粉10が、複数の大粒子5を含み易く、コンパウンド粉10の電気的絶縁性が向上し易く、コンパウンド粉10のブロッキングが抑制され易い。コンパウンド粉10中の金属粉末の含有量は、95.0質量%以上95.2質量%以下であってもよく、コンパウンド粉10中の樹脂組成物の含有量は、4.8質量%以上5.0質量%以下であってもよい。
【0033】
例えば、コンパウンド粉10中の金属粉末及び樹脂組成物3それぞれの含有量は、コンパウンド粉10、金属粉末、及び樹脂組成物3それぞれの比重に基づく下記の方法によって特定されてよい。比重(単位:無し)とは、標準物質の密度(例えば、4℃での水の密度)に対するコンパウンド粉10、金属粉末、及び樹脂組成物3それぞれの密度の比であってよい。例えば、コンパウンド粉10、金属粉末、及び樹脂組成物3それぞれの比重は、アルキメデスの原理に基づく一般的な方法(水中置換法等)によって測定されてよい。金属粉末及び樹脂組成物3それぞれの比重は、コンパウンド粉10の製造前に予め測定されてよい。金属粉末及び樹脂組成物3と反応しない不活性の有機溶媒を用いて、コンパウンド粉10が金属粉末と樹脂組成物3(有機溶媒に溶解した有機物)に分離されてよく、互いに分離された金属粉末及び樹脂組成物3それぞれの比重が測定されてもよい。
金属粉末の比重は、SMと表されてよい。コンパウンド粉10中の金属粉末の含有量は、α質量%と表されてよい。樹脂組成物3の比重は、SRと表されてよい。コンパウンド粉10中の樹脂組成物3の含有量は、(100-α)質量%と表されてよい。コンパウンド粉10の比重SCは、下記数式1で表されてよい。下記数式1に基づき、測定された各比重(SM,SR,及びSC)から、コンパウンド粉10中の金属粉末の含有量αが算出されてよい。
SC=[(SM×α)+{SR×(100-α)}]/100 (1)
【0034】
コンパウンド粉10及びその成形体は、原料として、コイルの磁心に用いられてもよい。つまり、コンパウンド粉10の硬化物は、コイルの磁心であってよい。例えば、コンパウンド粉10を用いて製造される具体的な工業製品(コイルを含む製品)は、インダクタ、電源モジュール、変圧器、リアクトル、サイリスタバルブ、ノイズフィルタ(EMIフィルタ)、チョークコイル、モータのロータ及びヨーク、並びに内燃機関の電子制御式燃料噴射装置に組み込まれる電磁弁用のソレノイドコア(固定鉄心)等であってよい。
【0035】
コンパウンド粉10は、電子機器用の封止材に要求される電気的絶縁性と、電磁波シールド材に要求される軟磁気特性(電磁波シールド能)を兼ね備えることができる。したがって、コンパウンド粉10、その成形体及び硬化物は、電磁波シールド材を兼ねる封止材であってよい。コンパウンド粉10、その成形体及び硬化物は、電子部品又は電気機器用の封止材であってよい。例えば、電磁波シールド材を兼ねる封止材は、ICパッケージ及びLSIパッケージ等の半導体パッケージ用の封止材(アンダーフィル等)であってよい。
【0036】
(金属粉末の具体例)
金属粉末(複数の金属粒子1)は、粒径において異なる複数種の金属粉末を含んでよい。例えば、金属粉末は、第1軟磁性粉(複数の第1軟磁性粒子)及び第2軟磁性粉末(複数の第2軟磁性粒子)を含んでよく、第1軟磁性粉の粒径は、第2軟磁性粉の粒径よりも大きてよい。例えば、第1軟磁性粉の平均粒径が、第2軟磁性粉の平均粒径よりも大きくてよい。例えば、第1軟磁性粉のD50(メジアン径)が、第2軟磁性粉のD50よりも大きくてよい。例えば、第1軟磁性粉のD90が、第2軟磁性粉のD90よりも大きくてよい。仮にコンパウンド粉10が、金属粉末として、粒径が大きい第1軟磁性粉のみを含む場合、隣り合う複数の第1軟磁性粒子の間に隙間が形成され易く、コンパウンド粉10における金属粉末の充填率が増加し難い。一方、コンパウンド粉10が金属粉末として第1軟磁性粉及び第2軟磁性粉を含む場合、第1軟磁性粒子よりも小さい第2軟磁性粒子が、複数の第1軟磁性粒子の間の隙間に充填され、コンパウンド粉10における金属粉末の充填率が増加する。換言すれば、コンパウンド粉10が、粒径において異なる第1軟磁性粉及び第2軟磁性粉を含むことに因り、コンパウンド粉10の比重が増加する。その結果、軟磁気特性が向上する。更に、コンパウンド粉10における金属粉末の充填率の増加に伴い、コンパウンド粉10の硬化物が緻密になり、硬化物の機械的強度が向上する。
【0037】
例えば、金属粉末(複数の金属粒子1)の平均粒径は、0.1μm以上45μm以下であってよい。例えば、第1軟磁性粉の平均粒径は、11μm以上45μm以下であってよい。例えば、第2軟磁性粉の平均粒径は、0.1μm以上9.0μm以下であってよい。第1軟磁性粉の平均粒径が上記範囲内であり、且つ第2軟磁性粉の平均粒径が上記範囲内である場合、コンパウンド粉10における金属粉末の充填率が増加し易く、軟磁気特性及び機械的強度が向上し易い。
【0038】
金属粉末の平均粒径、D50、及びD90は、第1軟磁性粉を構成する第1軟磁性粒子の個数、体積、又は質量に基づく粒度分布から算出されてよい。第1軟磁性粉の平均粒径、D50、及びD90は、第1軟磁性粉を構成する第1軟磁性粒子の個数、体積、又は質量に基づく粒度分布から算出されてよい。第2軟磁性粉の平均粒径、D50、及びD90は、第2軟磁性粉を構成する第2軟磁性粒子の個数、体積、又は質量に基づく粒度分布から算出されてよい。各粒度分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定されてよい。各粒度分布は、篩分けによる各軟磁性粒子の質量又は体積の測定に基づいて算出されてもよい。金属粉末(金属粒子1)、第1軟磁性粒子、及び第2軟磁性粒子それぞれの形状は、特に限定されない。例えば、金属粉末(金属粒子1)、第1軟磁性粒子、及び第2軟磁性粒子それぞれの形状は、球状、略球、扁平、又は針状であってよい。
【0039】
第1軟磁性粉の質量はM1と表されてよく、第2軟磁性粉の質量はM2と表されてよい。M1/(M1+M2)は、0.70以上0.95以下であってよく、M2/(M1+M2)は、0.05以上0.30以下であってよい。M1/(M1+M2)及びM2/(M1+M2)其々が上記範囲内にある場合、第1軟磁性粒子よりも小さい第2軟磁性粒子が、複数の第1軟磁性粒子の間の隙間に充填され易く、コンパウンド粉10における金属粉末の充填率(コンパウンド粉10の比重)が増加し易い。その結果、軟磁気特性及び機械的強度が向上し易い。
【0040】
コンパウンド粉10は、金属粉末に加えて、非金属フィラーを更に含んでよい。例えば、コンパウンド粉10は、非金属フィラーとして、シリカ(SiO2)からなるフィラー(粒子状の充填材)を含んでよい。非金属フィラーの粒径は、金属粉末の粒径と略又は完全に等しくてよい。
【0041】
金属粉末が軟磁性体である限り、金属粉末(複数の金属粒子1それぞれ)の組成は特に限定されない。例えば、金属粉末は鉄を含んでよい。金属粉末は、鉄に加えて、卑金属元素、貴金属元素、遷移金属元素、及び希土類元素からなる群より選ばれる少なくとも一つの金属元素を更に含んでよい。例えば、金属粉末に含まれる鉄以外の金属元素は、銅(Cu)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、クロム(Cr)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、鉛(Pb)、及び銀(Ag)からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素であってよい。金属粉末は、金属元素に加えて非金属元素を含んでもよい。例えば、金属粉末に含まれる非金属元素は、酸素(О)、ベリリウム(Be)、リン(P)、ホウ素(B)、及びケイ素(Si)からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素であってよい。
【0042】
金属粉末は、純鉄、及び鉄を含む合金(鉄系合金)のうち、少なくとも一つの金属を含んでよい。金属粉末は、純鉄のみからなっていてよい。金属粉末は、鉄系合金のみからなっていてもよい。金属粉末は、純鉄及び鉄系合金のみからなっていてもよい。例えば、金属粉末に含まれる鉄系合金は、Fe‐Cr‐Si系合金、Fe‐Cr系合金、Fe‐Si系合金、Fe‐Si‐Al系合金、Fe‐Ni系合金、Fe‐Cu‐Ni系合金、Fe‐Co系合金、及びFe‐Ni‐Cr系合金からなる群より選ばれる少なくとも一つの合金であってよい。金属粉末に含まれる鉄又は鉄系合金は、結晶質又は非晶質であってよい。金属粉末は、組成において異なる複数種の金属粉末を含んでよい。
【0043】
金属粉末を構成する複数の金属粒子1の一部又は全部が、絶縁性被膜で覆われてよい。各金属粒子1の表面の一部又は全体が、絶縁性被膜で覆われてよい。金属粉末を絶縁性被膜で覆うことにより、コンパウンド粉10の電気的絶縁性が向上する。絶縁性被膜がガラスを含む場合、絶縁性被膜の表面が平滑になり易く、複数の金属粒子1同士の摩擦が抑制され易い。その結果、コンパウンド粉10のブロッキングが抑制され易く、コンパウンド粉10の流動性が向上し易い。
【0044】
例えば、絶縁性被膜は、ガラス、リン酸(リン酸塩)、シリカ(SiO2)、酸化鉄(Fe2O3)、及び酸化クロム(Cr2O3)からなる群より選ばれる少なくとも一つの成分を含んでよい。例えば、ガラスは、ケイ素(Si)に加えて、酸素(O)、ホウ素(B)、ナトリウム(Na)、及びアルミニウム(Al)からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を含んでよい。例えば、ガラスは、ケイ酸ガラス(ケイ酸塩)、リンケイ酸ガラス(リンケイ酸塩)、及びホウケイ酸ガラス(ホウケイ酸塩)のうち少なくとも一つの成分を含んでよい。絶縁性被膜の組成は、光電子分光(XPS)及びエネルギー分散型X線分析(EDX)のうち少なくとも一つの分析方法によって測定されてよい。絶縁性被膜は、アルコキシシランの溶液等を用いる湿式法、又はメカノフージョン等の乾式法によって形成されてよい。例えば、絶縁性被膜の厚みは、10nm以上200nm以下であってよい。絶縁性被膜の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)及びEDXによって、金属粒子1の断面において測定されてよい。
【0045】
(樹脂組成物の具体例)
樹脂組成物3は、コンパウンド粉10のうち金属粉末及び有機溶媒を除く残りの部分(不揮発性成分)である。樹脂組成物は、少なくとも熱硬化性樹脂を含む。樹脂組成物3は、熱硬化性樹脂に加えて、硬化剤、硬化促進剤(硬化触媒)、カップリング剤、ワックス(離型剤)、及び難燃剤からなる群より選ばれる少なくとも一つの成分を更に含んでよい。各成分の具体例は、以下の通りである。
【0046】
樹脂組成物3に含まれる熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、及びポリアミドイミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂であってよい。樹脂組成物は、熱硬化性樹脂に加えて、他の樹脂(例えば、熱可塑性樹脂)を更に含んでよい。例えば、樹脂組成物は、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、及びシリコーン(silicone)樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一つの他の樹脂を更に含んでよい。
【0047】
<エポキシ樹脂及び硬化剤>
エポキシ樹脂は、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ジフェニルメタン型エポキシ樹脂、硫黄原子含有型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、サリチルアルデヒド型エポキシ樹脂、ナフトール類とフェノール類との共重合型エポキシ樹脂、アラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物、ビスフェノール型エポキシ樹脂、アルコール類のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、パラキシリレン変性フェノール樹脂及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、テルペン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、シクロペンタジエン型エポキシ樹脂、多環芳香環変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ナフタレン環含有フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジル型又はメチルグリシジル型のエポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、ハロゲン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂、及びオレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂であってよい。
【0048】
少なくとも一部のエポキシ樹脂は、ナフタレン構造を有するナフタレン型エポキシ樹脂であってよい。ナフタレン型エポキシ樹脂は、常温で固体である。コンパウンド粉10が、ナフタレン型エポキシ樹脂を含む場合、コンパウンド粉10から製造される製品(コンパウンド粉10の硬化物)が、室温及び高温において高い機械的強を有し易い。ナフタレン型エポキシ樹脂は、ナフタレンジエポキシ化合物、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、ナフタレンノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレンジエポキシ化合物のメチレン結合二量体、及び、ナフタレンモノエポキシ化合物とナフタレンジエポキシ化合物のメチレン結合体等からなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂であってよい。エポキシ樹脂は、2官能エポキシ樹脂を含んでもよい。例えば、2官能エポキシ樹脂は、αナフトール型エポキシ樹脂及びβナフトール型エポキシ樹脂のうち少なくとも一つの樹脂であってもよい。
【0049】
エポキシ樹脂は、3官能エポキシ樹脂及び4官能エポキシ樹脂のうち少なくとも一つの樹脂を含んでよい。上述されたナフタレン型エポキシ樹脂が、3官能エポキシ樹脂及び4官能エポキシ樹脂のうち少なくとも一つの樹脂であってよい。3官能エポキシ樹脂は、3つのエポキシ基を有する構造単位から構成されるエポキシ樹脂である。4官能エポキシ樹脂は、4つのエポキシ基を有する構造単位から構成されるエポキシ樹脂である。エポキシ樹脂が、3官能エポキシ樹脂及び4官能エポキシ樹脂のうち少なくとも一つの樹脂を含む場合、コンパウンド粉10の熱硬化の過程で、エポキシ樹脂が互いに三次元的に架橋され、強固な架橋ネットワークが形成される。その結果、コンパウンド粉10の硬化物中のエポキシ樹脂の動きが高温下において抑制され易い。つまり、3官能エポキシ樹脂及び4官能エポキシ樹脂其々のガラス転移温度は、2官能エポキシ樹脂のガラス転移温度よりも高い。したがって、エポキシ樹脂が、3官能エポキシ樹脂及び4官能エポキシ樹脂のうち少なくとも一つの樹脂を含む場合、コンパウンド粉10の硬化物(コンパウンド粉10から製造される製品)が高温において高い機械的強度を有し易い。
【0050】
コンパウンド粉10は、上記のうち一種のエポキシ樹脂を含んでよい。コンパウンド粉10は、上記のうち複数種のエポキシ樹脂を含んでもよい。
【0051】
硬化剤は、低温から室温の範囲でエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤と、加熱に伴ってエポキシ樹脂を硬化させる加熱硬化型硬化剤と、に分類される。例えば、低温から室温の範囲でエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤は、脂肪族ポリアミン、ポリアミノアミド、及びポリメルカプタン等である。例えば、加熱硬化型硬化剤は、芳香族ポリアミン、酸無水物、フェノール樹脂、フェノールノボラック樹脂、及びジシアンジアミド(DICY)等である。コンパウンド粉10の硬化物の耐熱性(高温での機械的強度)を向上させる観点から、硬化剤は、好ましくは加熱硬化型の硬化剤、より好ましくはフェノール樹脂、さらに好ましくはフェノールノボラック樹脂であってよい。
【0052】
硬化剤の一部又は全部は、フェノール樹脂であってよい。例えば、フェノール樹脂は、アラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、サリチルアルデヒド型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、ベンズアルデヒド型フェノールとアラルキル型フェノールとの共重合型フェノール樹脂、パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂、メラミン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型ナフトール樹脂、シクロペンタジエン変性フェノール樹脂、多環芳香環変性フェノール樹脂、ビフェニル型フェノール樹脂、及びトリフェニルメタン型フェノール樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂であってよい。フェノール樹脂は、上記のうちの2種以上のフェノール樹脂から構成される共重合体であってもよい。
【0053】
フェノールノボラック樹脂は、フェノール類及び/又はナフトール類と、アルデヒド類と、を酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られる樹脂であってよい。フェノールノボラック樹脂を構成するフェノール類は、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、及びアミノフェノールからなる群より選ばれる少なくとも一つであってよい。フェノールノボラック樹脂を構成するナフトール類は、α‐ナフトール、β‐ナフトール、及びジヒドロキシナフタレンからなる群より選ばれる少なくとも一つであってよい。フェノールノボラック樹脂を構成するアルデヒド類は、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、及びサリチルアルデヒドからなる群より選ばれる少なくとも一つであってよい。
【0054】
硬化剤は、1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する化合物であってよい。例えば、1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する化合物は、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、及び置換又は非置換のビフェノールからなる群より選ばれる少なくとも一つの化合物であってよい。
【0055】
コンパウンド粉10は、硬化剤として、上記のうち一種のフェノール樹脂を含んでよい。コンパウンド粉10は、硬化剤として、上記のうち複数種のフェノール樹脂を含んでもよい。
【0056】
エポキシ樹脂のエポキシ当量に対するフェノール樹脂の水酸基当量の比率は、0.5以上1.5以下であってよい。つまり、エポキシ樹脂中のエポキシ基と反応するフェノール樹脂中の活性基(フェノール性OH基)の比率は、エポキシ樹脂中の1当量のエポキシ基に対して、0.5当量以上1.5当量以下であってよい。
【0057】
<硬化促進剤>
硬化促進剤(硬化触媒)は、エポキシ樹脂と反応してエポキシ樹脂の硬化を促進させる組成物であればよく、限定されない。例えば、硬化促進剤は、ウレア化合物であってよい。硬化促進剤は、アルキル基置換イミダゾール、又はベンゾイミダゾール等のイミダゾール類であってもよい。硬化促進剤は、リン系の硬化促進剤であってもよい。コンパウンド粉10は、一種の硬化促進剤を含んでよい。コンパウンド粉10は、複数種の硬化促進剤を含んでもよい。
【0058】
硬化促進剤の配合量は、特に限定されない。エポキシ樹脂の吸湿時の硬化性及び流動性を向上させる観点から、硬化促進剤の配合量は、100質量部のエポキシ樹脂に対して、0.1質量部以上30質量部以下であってよい。硬化促進剤の含有量は、エポキシ樹脂及び硬化剤(例えばフェノール樹脂)の質量の合計に対して0.001質量部以上5質量部以下であってよい。
【0059】
<カップリング剤>
カップリング剤は、エポキシ樹脂等の樹脂組成物が有するグリシジル基と反応するカップリング剤であってよい。カップリング剤は、金属粉末と樹脂組成物3との密着性を向上させ、コンパウンド粉10の硬化物の機械的強度を向上させる。グリシジル基と反応するカップリング剤は、シラン系化合物(シランカップリング剤)であってよい。例えば、シランカップリング剤は、エポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、酸無水物系シラン、及びビニルシランからなる群より選ばれる少なくとも一つのカップリング剤であってよい。コンパウンド粉10は、上記のうち一種のカップリング剤を含んでよい。コンパウンド粉10は、上記のうち複数種のカップリング剤を含んでもよい。
【0060】
<ワックス>
コンパウンド粉10は、ワックスを含んでよい。ワックスは、潤滑剤又は離型剤と言い換えられてよい。コンパウンド粉10がワックスを含むことにより、コンパウンド粉10の流動性及び成形性が向上し、コンパウンド粉10の離型性が向上する。その結果、コンパウンド粉10から製造される製品(コンパウンド粉10の硬化物)の形状及び寸法の精度が向上し、製品の構造的欠陥が抑制され易い。例えば、ワックスは、飽和脂肪酸、飽和脂肪酸塩、及び飽和脂肪酸エステルのうち少なくともいずれか一つの化合物であってよい。ワックスは、合成ワックスであってもよい。コンパウンド粉10は、上記のうち一種のワックスを含んでよい。コンパウンド粉10は、上記のうち複数種のワックスを含んでもよい。
【0061】
<難燃剤>
コンパウンド粉10は難燃剤を含んでよい。例えば、難燃剤は、臭素系難燃剤、リン系難燃剤、水和金属化粉合物系難燃剤、シリコーン系難燃剤、窒素含有化合物、ヒンダードアミン化合物、有機金属化合物、及び芳香族系エンジニアリングプラスチックからなる群より選ばれる少なくとも一つの化合物であってよい。コンパウンド粉10は、上記のうち一種の難燃剤を含んでよく、上記のうち複数種の難燃剤を含んでもよい。
【0062】
(コンパウンド粉の製造方法)
コンパウンド粉の製造方法は、金属粉末及び樹脂組成物を含む混合粉末を調製する工程(工程A)と、混合粉末の分級により、複数の大粒子を含むコンパウンド粉を得る工程(工程B)と、を含む。
【0063】
<工程A>
例えば、工程Aでは、金属粉末と、樹脂組成物を構成する各成分を、加熱しながら混練することにより、混合粉末が得られてよい。金属粉末及び樹脂組成物の加熱及び混練により、混合粉末の塊(凝集した混合粉末)が得られてよく、混合粉末の塊の粉砕により、混合粉末が得られてよい。
【0064】
例えば、金属粉末及び樹脂組成物の混練手段は、ニーダー、ロール、又は攪拌機であってよい。金属粉末及び樹脂組成物の加熱及び混合により、樹脂組成物が金属粉末を構成する各金属粒子の表面の一部又は全体を被覆してよい。金属粉末及び樹脂組成物の加熱及び混合により、樹脂組成物の一部又は全部が半硬化物になってもよい。
【0065】
金属粉末と、樹脂組成物を構成する全ての成分が一括して混練されてよい。金属粉末及びカップリング剤の混合物が予め調製され、この混合物が樹脂組成物の他の成分と混練されてもよい。硬化促進剤を除く樹脂組成物の各成分と金属粉末との混合物が予め調製され、この混合物が、硬化促進剤と混練されてもよい。ワックスを除く樹脂組成物の各成分と金属粉末との混合物が予め調製され、この混合物がワックスと混練されてもよい。
【0066】
混練時間は、混練手段、混練手段の容積、コンパウンド粉の製造量に依る。混練時間は、限定されない。例えば、混練時間は1分以上20分以下であってよい。例えば、混練中の金属粉末及び樹脂組成物の温度(加熱温度)は、熱硬化性樹脂の熱硬化温度未満であってよい。加熱温度は、熱硬化性樹脂の半硬化物(Bステージの樹脂組成物)が生成し、且つ熱硬化性樹脂の硬化物(Cステージの樹脂組成物)の生成が抑制される温度であってもよい。加熱温度は、硬化促進剤の活性化温度よりも低い温度であってよい。例えば、加熱温度は、50℃以上150℃以下であってよい。
【0067】
混合粉末の調整方法は、上記の方法に限定されない。例えば、金属粉末、樹脂組成物、及び有機溶媒を加熱しながら混練することにより、混合物が得られてよく、混合物の乾燥(及び粉砕)によって混合粉末が得られてもよい。樹脂組成物が溶解した有機溶媒が金属粒子の表面に接触することにより、金属粒子が樹脂組成物で覆われ易く、大粒子を含む混合粉末が得られ易い。同様の理由から、金属粉末及び樹脂組成物を有機溶媒中で混合することにより、混合液が得られてよく、混合液の乾燥(及び粉砕)により、混合粉末が得られてもよい。例えば、有機溶媒は、アセトン、メチルエチルケトン(2-ブタノン)、メチルイソブチルケトン(4-メチル-2-ペンタノン)、ベンゼン、トルエン、キシレン及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)等からなる群より選ばれる少なくとも一種の溶媒であってよい。
【0068】
<工程B>
工程Bでは、混合粉末の分級により、粒径が500μmよりも大きい複数の大粒子を含むコンパウンド粉が得られる。例えば、目開き(opening)が500μmである篩を用いた混合粉末の分級により、大粒子が混合粉末から分離される。つまり、混合粉末中の大粒子は、目開きが500μmである篩を通過せず、混合粉末中の小粒子は、篩を通過する。混合粉末の分級によって得られた大粒子のみが、コンパウンド粉に用いられてよい。分級後に大粒子及び小粒子を混合することにより、大粒子の含有量が40質量%以上であるコンパウンド粉が得られてもよい。
【0069】
以下では、分級前の混合粉末の質量(単位:g)が、MMと表される。目開きが500μmである篩を用いた分級によって得られた複数の大粒子の質量の合計が、MLと表される。MLは、分級前の混合粉末中の複数の大粒子の質量の合計と言い換えられる。分級前の混合粉末中の複数の小粒子の質量の合計は、MSと表される。当然ながら、MMはML+MSに等しい。
混合粉末の分級に用いられる篩の目開きは、500μmに限定されない。目開きにおいて異なる複数の篩が、混合粉末の分級に用いられてよい。例えば、任意の篩Xの目開きが、任意の正の実数x(単位:μm)であり、xが500μm未満である場合、篩Xを用いた混合粉末の分級により、粒径がxμmよりも大きい粉末X’が混合粉末から分離される。つまり、粒径がxμmよりも大きい粒子は、篩Xを通過せず、粒径がxμm以下である小粒子は、篩を通過する。粒径がxμmよりも大きい粉末X’は、粒径がxμmより大きく500μm以下である小粒子と、粒径が500μmよりも大きい大粒子と、を含む。粒径がxμmよりも大きい粉末X’の質量は、MXと表される。粉末X’は、混合粉末に由来する全ての大粒子を含んでいる。したがって、粉末X’中の大粒子の質量の合計は、上述されたMLに一致し、粉末X’中の大粒子の含有量は、{(ML/MX)×100}質量%である。{(ML/MX)×100}が40質量%以上である場合、粒径がxμmよりも大きい粉末X’そのものを、本実施形態に係るコンパウンド粉として用いることができる。
分級前の混合粉末の粒度分布が予め測定されてよい。混合粉末の粒度分布に基づいて篩Xの目開きxを予め選定又は調整することにより、{(ML/MX)×100}を40質量%以上100質量%未満である範囲内に自在に制御することができる。例えば、篩Xの目開きxは、75μm以上300μm以下であってよい。篩Xの目開きxの増加に伴って、粉末X’中の複数の小粒子の含有量が減少し、{(ML/MX)×100}が増加する。
【0070】
コンパウンド粉の製造方法は、上記の方法に限定されない。
例えば、上記の工程Aで得られた混合粉末又は混合粉末の塊を粉砕する粉砕工程(pulverization step)によって、大粒子の含有量が40質量%以上であるコンパウンド粉が製造されてよい。粉砕工程の諸実施条件の調整及び粉砕手段の選択により、混合粉末又は混合粉末の塊の粉砕の程度が自在に調整され、粉砕工程によって得られるコンパウンド粉の粒径及び粒度分布が自在に制御される。つまり、粉砕工程の諸実施条件の調整及び粉砕手段の選択により、混合粉末又は混合粉末の塊からの小粒子の形成が抑制され、大粒子の含有量が40質量%以上であるコンパウンド粉が得られる。
例えば、粒径又は粒度分布において異なる複数種のコンパウンド粉を混合する調合工程(blending step)により、大粒子の含有量が40質量%以上であるコンパウンド粉が製造されてよい。粒度分布において異なる複数種のコンパウンド粉のうち少なくとも一種のコンパウンド粉が複数の大粒子を含み、複数種のコンパウンド粉それぞれの粒径又は粒度分布が予め測定されている場合、調合工程において複数種のコンパウンド粉の混合比(例えば、質量比又は体積比)を調整することにより、大粒子の含有量が40質量%以上であるコンパウンド粉が得られる。例えば、上記の工程B(混合粉末の分級)により、複数の大粒子のみからなる大粉末と、複数の小粒子のみからなる小粉末が得られてよい。40質量部以上の大粉末と60質量部以下の小粉末の混合により、大粒子の含有量が40質量%以上であるコンパウンド粉が得られる。
【0071】
(成形体及び硬化物の製造方法)
上記のコンパウンド粉の成形により、成形体(cоmpact)が得られる。成形体の熱処理(成形体中の樹脂組成物の熱硬化)により、複数の金属粒子が樹脂組成物の硬化物によって互いに強固に結着され、コンパウンド粉の硬化物が得られる。例えば、コンパウンド粉の成形方法は、トランスファー成形、押出成形、又は圧縮成形(圧粉成形)であってよい。コンパウンド粉を用いて製造される工業製品に応じて、コンパウンド粉の成形に用いる金型の寸法及び形状が選定されてよい。成形体の熱処理温度は、成形体中の樹脂組成物が十分に硬化する温度であればよく、硬化促進剤の活性化温度以上であってよい。例えば、熱処理温度は、100℃以上300℃以下であってよい。例えば、熱処理時間は、数分以上10時間以下であってよい。成形体中の金属粉末の酸化を抑制するために、成形体の熱処理が不活性雰囲気下で行われてよい。
【0072】
(組成の分析方法)
成形体及び硬化物それぞれの粉砕によって得られた試料の分析により、成形体及び硬化物それぞれの製造に用いられたコンパウンド粉自体の組成が遡及的に分析されてよい。試料を有機溶媒中に溶解して、金属粉末が、有機溶媒中に溶解した樹脂組成物3から分離されてよい。互いに分離された金属粉末及び樹脂組成物3それぞれが個別に分析されてよい。未使用のコンパウンド粉自体が直接分析される場合も、上記の方法で互いに分離された金属粉末及び樹脂組成物それぞれが個別に分析されてよい。
例えば、金属粉末は、蛍光X線分析(X-ray Fluorescence; XRF)、誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma; ICP)発光分光、光電子分光(X-ray Photoelectron Spectroscopy; XPS)、エネルギー分散型X線分光(Energy Dispersive X‐ray Spectroscopy; EDS又はEDX)、及び質量分析(Mass Spectrometry; MS)からなる群より選ばれる一つ以上の分析方法によって分析及び特定されてよい。
例えば、樹脂組成物を構成する各成分(熱硬化性樹脂等)は、赤外分光(Infrared Spectroscopy; IR)、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance; NMR)、ガスクロマトグラフィー(Gas Chromatography; GC)、及び高速液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatography; HPLC)、及び、質量分析からなる群より選ばれる一つ以上の分析方法によって分析及び特定されてよい。
【0073】
本発明は必ずしも上述された実施形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、本発明の種々の変更が可能であり、これ等の変更例も本発明に含まれる。
【実施例】
【0074】
以下の実施例及び比較例により、本発明が詳細に説明される。本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0075】
(実施例1)
<工程A:混合粉末の調製>
金属粉末としては、第1軟磁性粉及び第2軟磁性粉の混合物が用いられた。
第1軟磁性粉としては、エプソンアトミックス株式会社製の9A4-II 053C03が用いられた。第1軟磁性粉の平均粒径は24μmであり、略均一であった。第1軟磁性粉は、Fe及びSiからなる軟磁性合金の粉末であり、Crを含んでいなかった。
第2軟磁性粉としては、新東工業株式会社製の「SAP-2C」が用いられた。「SAP-2C」は、Fe、Cr及びSiからなる軟磁性合金の粉末であった。第2軟磁性粉の平均粒径は2μmであり、略均一であった。
金属粉末中の第1軟磁性粉の含有量は、82質量%であった。
金属粉末中の第2軟磁性粉の含有量は、18質量%であった。
【0076】
樹脂組成物を構成する成分として、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤(触媒)、カップリング剤、及びワックス(離型剤)が用いられた。
【0077】
エポキシ樹脂としては、日本化薬株式会社製の「NC-3000」、及び株式会社プリンテック製の「TECHMORE VG-3101L」が用いられた。
「NC-3000」は、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂である。「NC-3000」の質量は、60gであった。
「TECHMORE VG3101L」は、3官能エポキシ樹脂であり、1-[α-メチル-α-(4-ヒドロキシフェニル)エチル]-4-[α,α-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼンの誘導体である。「TECHMORE VG3101L」の質量は、40gであった。
【0078】
硬化剤としては、UBE株式会社(旧 明和化成株式会社)製の「HF-3M」が用いられた。「HF-3M」は、フェノール樹脂である。「HF-3M」の質量は、43.2gであった。
【0079】
硬化促進剤(触媒)としては、サンアプロ株式会社製の「U-CAT3512T」が用いられた。「U-CAT3512T」は、芳香族系ジメチルウレアである。「U-CAT3512T」の質量は、5.9gであった。
【0080】
カップリング剤としては、信越化学工業株式会社製の「KBM-803」及び「KBM-5803」が用いられた。
「KBM-803」は、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランである。「KBM-803」の質量は、1.9gであった。
「KBM-5803」は、8-メタクリロキシオクチルトリメトキシシランである。「KBM-5803」の質量は、1.9gであった。
【0081】
ワックス(離型剤)としては、クラリアントケミカルズ株式会社製の「Licowax OP」が用いられた。「Licowax OP」は、水酸化カルシウムによって部分的にケン化されたモンタン酸エステルである。「Licowax OP」の質量は、2.0gであった。
【0082】
上記金属粉末及び樹脂組成物の上記成分の全てを加熱しながら混練することにより、混合粉末が得られた。混練中の上記原料の温度は、最大で130℃であった。混合粉末中の金属粉末の含有量は、95.5質量%に調整された。換言すれば、混合粉末中の樹脂組成物の含有量は、4.5質量%に調整された。
【0083】
<工程B:混合粉末の分級>
目開きが75μmである篩を用いた混合粉末の分級により、実施例1のコンパウンド粉が混合粉末から分離された。混合粉末のうち篩を通過しなかった粉末のみが、実施例1のコンパウンド粉として用いられた。つまり実施例1のコンパウンド粉は、粒径が75μmよりも大きい粉末であった。コンパウンド粉の質量MY(単位:g)が測定された。質量MYは、上述された粉末X’の質量MXに相当する。
【0084】
<コンパウンド粉中の大粒子の含有量>
目開きが500μmである篩を用いたコンパウンド粉の分級により、粒径が500μmよりも大きい複数の大粒子がコンパウンド粉から分離された。コンパウンド粉から分離された大粒子の質量の合計MLが測定された。
コンパウンド粉中の大粒子の含有量は、{(ML/MY)×100}質量%と表される。実施例1のコンパウンド粉中の大粒子の含有量は、下記表1に示される。
コンパウンド粉中の小粒子の含有量は、[{(MY-ML)/MY}×100]質量%と表される。実施例1のコンパウンド粉中の小粒子の含有量は、下記表1に示される。
【0085】
<コンパウンド粉の比重、及びコンパウンド粉中の金属粉末の含有量>
コンパウンド粉の比重が測定された。実施例1のコンパウンド粉の比重は、下記表1に示される。比重に基づく上述の計算方法によって、コンパウンド粉中の金属粉末の含有量(充填率)が算出された。実施例1のコンパウンド粉中の金属粉末の含有量は、下記表1に示される。
【0086】
<耐電圧>
175℃でのコンパウンド粉のトランスファー成形と、トランスファー成形に続くポストキュア(175℃での5.5時間の加熱)によって、試験片が得られた。トランスファー成形中にコンパウンド粉に加えた圧力は、13.5MPaであった。試験片の形状は、円板であった。試験片の寸法は、直径50mm×厚み0.4mmであった。
以下の試験では、ソースメーターを用いて、試験片を挟む一対の電極間へ電圧が印加された。一対の電極は、ステンレス製であった。一対の電極のうち正極の端面の形状は、10mmφの円であった。一対の電極のうち負極は、平坦な表面を有する板であった。試験片と負極との間に形成される微小な隙間を減少させるために、導電性のゴムからなるシートで負極の表面が覆われた。試験片はシートの上に設置された。つまり、試験片はシートを介して負極の表面に密着した。正極の端面は、試験片の円状の表面に直接接触していた。
直流電圧を連続的に増加させながら、試験片における電流が連続的に測定された。そして試験片を通過する電流が10mAを超過した時点における電圧(絶縁破壊電圧)が読み取られた。正極の位置が異なること以外は同様の方法で上記試験が計14回繰り返された。14回の試験で読み取られた絶縁破壊電圧の中央値が、試験片の耐電圧(単位:V/mm)と定義される。ソースメーターとしては、ヤマヨ試験器有限会社製の高電圧誘電特性評価装置が用いられた。
高い耐電圧は、コンパウンド粉の優れた電気的絶縁性を意味する。例えば、耐電圧は500V/mm以上であることが好ましく、耐電圧は550V/mm以上であることがより好ましい。実施例1の耐電圧は、下記表1に示される。
【0087】
<ブロッキング試験>
100gのコンパウンド粉が、ディスポカップ(disposable cup)に収容された。ディスポカップの容積は、300mlであった。300gfの荷重が、ディスポカップ内のコンパウンド粉の平坦な表面に対して均一に印加された。つまり、ディスポカップ内のコンパウンド粉が、300gfの荷重で均一に圧縮された。圧縮されたコンパウンド粉の質量は、MTOTALと表される。つまり、MTOTALは100gである。
圧縮されたコンパウンド粉は、目開きが2mmである篩によって分級された。圧縮されたコンパウンド粉のうち、篩を通過した粉末の質量は、MPASSと表される。通過率は、{(MPASS/MTOTAL)×100}質量%と定義される。コンパウンド粉の圧縮によってコンパウンド粉が凝集するほど、コンパウンド粉は篩を通過し難くなり、通過率が低下する。コンパウンド粉の圧縮に伴うコンパウンド粉のブロッキング(凝集)を抑制することにより、コンパウンド粉は篩を通過し易くなり、通過率は増加する。つまり、通過率は高いことが好ましい。例えば、通過率は50%以上であることが好ましい。
実施例1のMPASSが測定された。MPASSは100gであり、通過率は100質量%であった。つまり、圧縮されたコンパウンド粉の全てが、篩を通過した。
【0088】
<スパイラルフロー>
コンパウンド粉が、金型を具備するトランスファー成形機に収容された。金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、成形時間120秒で、コンパウンド粉のスパイラルフロー(単位:cm)が測定された。スパイラルフローとは、金型に形成された溝内においてコンパウンド粉が流れる長さである。つまりスパイラルフローとは、軟化又は液化したコンパウンド粉の流動距離である。コンパウンド粉が流れる溝の形状は、渦巻き曲線(アルキメデスのスパイラル)である。コンパウンド粉が流動し易いほど、スパイラルフローは大きい。トランスファー成形機としては、株式会社小平製作所製の100KNトランスファー成形機(PZ‐10型)が用いられた。金型としては、ASTM D3123に準じた金型が用いられた。スパイラルフローは100cm以上であることが好ましい。実施例1のスパイラルフローは、下記表1に示される。
【0089】
<ゲルタイム>
175℃でのコンパウンド粉のゲルタイム(ゲル化時間)が測定された。ゲルタイムの測定装置(加硫試験機)としては、株式会社ENEOSマテリアル(旧 JSR株式会社)製のキュラストメーター(CURELASTOMETER)が用いられた。実施例1のゲルタイム(単位:秒)は、下記表1に示される。
【0090】
<最低溶融粘度>
175℃でのコンパウンド粉の最低溶融粘度(単位:Pa・s)が、粘度計を用いて測定された。粘度計としては、株式会社島津製作所製のCFT-100(フローテスタ)が用いられた。実施例1の最低溶融粘度は、下記表1に示される。
【0091】
(実施例2~4及び比較例1)
実施例2~4それぞれの工程Bに用いられた篩の目開きは、下記表1に示される。混合粉末の分級に用いられた篩の目開きを除いて実施例1と同様の方法で、実施例2~4それぞれのコンパウンド粉が作製された。
比較例1の工程Bは実施されなかった。つまり、分級前の混合粉末が比較例1のコンパウンド粉として用いられた。
実施例1と同様の方法で、実施例2~4及び比較例1それぞれのコンパウンド粉を用いた諸測定が実施された。実施例2~4及び比較例1それぞれの諸測定の結果は、下記表1に示される。
【0092】
【符号の説明】
【0093】
1…金属粒子(金属粉末)、3…樹脂組成物、5…大粒子、7…小粒子、10…コンパウンド粉。
【要約】
コンパウンドは、金属粉末と、樹脂組成物と、を含む。金属粉末は、軟磁性体である。樹脂組成物は、熱硬化性樹脂を含む。コンパウンド粉は、粒径が500μmよりも大きい複数の大粒子を含む。コンパウンド粉中の大粒子の含有量は、40質量%以上100質量%以下である。複数の大粒子のうち少なくとも一部は、金属粉末を構成する少なくとも一つの金属粒子と、金属粒子を覆う樹脂組成物と、を含む。