(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】ゴム構造体の仕様決定方法およびゴム構造体の製造方法並びにゴム構造体
(51)【国際特許分類】
F16D 69/02 20060101AFI20240820BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20240820BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
F16D69/02 A
F16F15/08 B
C09K3/14 520J
(21)【出願番号】P 2020139322
(22)【出願日】2020-08-20
【審査請求日】2023-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】中川 隆太郎
(72)【発明者】
【氏名】前川 覚
(72)【発明者】
【氏名】糸魚川 文広
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-154154(JP,A)
【文献】実開昭56-014232(JP,U)
【文献】特開平07-292348(JP,A)
【文献】特開平08-105475(JP,A)
【文献】特開2000-038571(JP,A)
【文献】国際公開第2018/143027(WO,A1)
【文献】特開2022-035186(JP,A)
【文献】特開2022-035187(JP,A)
【文献】前川覚,糸魚川文広,動吸振器を利用したスティックスリップの抑制に関する研究,日本機械学会論文集,85巻879号,日本,一般社団法人日本機械学会,2019年11月25日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 69/02
F16F 15/08
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加硫ゴムとこの加硫ゴムに埋設された剛体層とを備えて、使用時に対象面に対して摺動する接触表面を有するゴム構造体の仕様決定方法であって、
前記ゴム構造体として、前記接触表面から所定深さに前記剛体層が配置されていて、前記接触表面を有するゴム層と前記剛体層とが積層されて前記剛体層の上面が固定端に固定された解析モデルを設定し、下記(1)式を満たすように、前記ゴム層の質量m、
前記摺動する方向に対する弾性率kおよび粘性減衰係数cと、前記剛体層の質量m
a、
前記摺動する方向に対する弾性率k
aおよび粘性減衰係数c
aとを特定し、前記ゴム層および前記剛体層を前記特定した仕様にすることを特徴とするゴム構造体の仕様決定方法。
λ
2(1-Z
eff
)
5/Z
eff<4π・・・(1)
ここで、λ=W(μ
s-μ
k)/{V(m・k)
1/2}、Z
eff=1/(4.62Z
3+1.40Z
2+7.52Z+4.48)、Z=c/{2(m・k)
1/2}、Wは前記ゴム構造体に作用する垂直荷重、μ
sは前記対象面に対する前記接触表面の静摩擦係数、μ
kは前記対象面に対する前記接触表面の動摩擦係数、Vは前記対象面に対して前記接触表面が摺動する際の前記対象面に対する前記接触表面の相対移動速度であ
り、前記剛体層の質量m
a
、弾性率k
a
および粘性減衰係数c
a
は、前記解析モデルを用いた数値計算と理論解析を行って、前記(1)式を満足する前記ゴム層、前記剛体層の仕様の最適解を求めた際に算出される値である。
【請求項2】
前記剛体層として前記加硫ゴムよりも密度が大きい金属を用いる請求項1に記載のゴム構造体の仕様決定方法。
【請求項3】
前記剛体層の弾性率を前記加硫ゴムの弾性率の3倍以上50倍以下にする請求項1または2に記載のゴム構造体の仕様決定方法。
【請求項4】
前記剛体層の層厚を前記ゴム層の層厚の0.01倍以上0.5倍以下にする請求項1~3のいずれかに記載のゴム構造体の仕様決定方法。
【請求項5】
前記剛体層として金属板または横並びさせたワイヤを用いる請求項1~4のいずれかに記載のゴム構造体の仕様決定方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のゴム構造体の仕様決定方法によって決定された前記ゴム層および前記剛体層の仕様を備えた前記ゴム構造体を製造することを特徴とするゴム構造体の
製造方法。
【請求項7】
加硫ゴムとこの加硫ゴムに埋設された剛体層とを備えて、使用時に対象面に対して摺動する接触表面を有するゴム構造体であって、
前記ゴム構造体を、前記接触表面から所定深さに前記剛体層が配置されていて、前記接触表面を有するゴム層と前記剛体層とが積層されて前記剛体層の上面が固定端に固定された解析モデルとして設定した場合に、下記(1)~(4)式を満たすように、前記ゴム層の質量m、
前記摺動する方向に対する弾性率kおよび粘性減衰係数cと、前記剛体層の質量m
a、
前記摺動する方向に対する弾性率k
aおよび粘性減衰係数c
aとが特定されていることを特徴とするゴム構造体。
λ
2(1-Z
eff
)
5/Z
eff<4π・・・(1)
m
a=m(330Z
3-43.6Z
2+14.5Z+1.48)・・・(2)
k
a=k(7.72Z
3+1.13Z
2+1.38Z+0.934)
2・・・(3)
c
a=2(m・k)
1/2(61.1Z
3-4.39Z
2+3.91Z+1.09)・・・(4)
ここで、λ=W(μ
s-μ
k)/{V(m・k)
1/2}、Z
eff=1/(4.62Z
3+1.40Z
2+7.52Z+4.48)、Z=c/{2(m・k)
1/2}、Wは前記ゴム構造体に作用する垂直荷重、μ
sは前記対象面に対する前記接触表面の静摩擦係数、μ
kは前記対象面に対する前記接触表面の動摩擦係数、Vは前記対象面に対して前記接触表面が摺動する際の前記対象面に対する前記接触表面の相対移動速度
である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム構造体の仕様決定方法およびゴム構造体の製造方法並びにゴム構造体に関し、さらに詳しくは、スティックスリップ振動および摩耗を抑制できる汎用性が高いゴム構造体の仕様決定方法およびゴム構造体の製造方法並びにゴム構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴム構造体はブレーキパッドなど様々な製品、部材に使用されている。ブレーキパッドは、ブレーキディスクなどの対象面に押圧されて摺動する。このように対象面に対して摺動する製品や部材には、スティックスリップ振動が発生することが知られている(例えば、特許文献1参照)。対象面に接触する接触表面には、スティックスリップ振動に起因して断続的な摩耗(筋状の摩耗)が生じる。
【0003】
スティックスリップ振動を抑制するために、特許文献1では、繊維基材の結合剤や添加材について種々工夫することが提案されている。しかしながら、この提案では、接触表面に汎用の加硫ゴムなどが用いられている場合、スティックスリップ振動を十分に抑制することができない。それ故、スティックスリップ振動およびこれに伴う摩耗を抑制できる汎用性が高いゴム構造体を実現するには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、スティックスリップ振動および摩耗を抑制できる汎用性が高いゴム構造体の仕様決定方法およびゴム構造体の製造方法並びにゴム構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明のゴム構造体の仕様決定方法は、加硫ゴムとこの加硫ゴムに埋設された剛体層とを備えて、使用時に対象面に対して摺動する接触表面を有するゴム構造体の仕様決定方法であって、前記ゴム構造体として、前記接触表面から所定深さに前記剛体層が配置されていて、前記接触表面を有するゴム層と前記剛体層とが積層されて前記剛体層の上面が固定端に固定された解析モデルを設定し、下記(1)式を満たすように、前記ゴム層の質量m、前記摺動する方向に対する弾性率kおよび粘性減衰係数cと、前記剛体層の質量ma、前記摺動する方向に対する弾性率kaおよび粘性減衰係数caとを特定し、前記ゴム層および前記剛体層を前記特定した仕様にすることを特徴とする。
λ2(1-Z
eff
)5/Zeff<4π・・・(1)
ここで、λ=W(μs-μk)/{V(m・k)1/2}、Zeff=1/(4.62Z3+1.40Z2+7.52Z+4.48)、Z=c/{2(m・k)1/2}、Wは前記ゴム構造体に作用する垂直荷重、μsは前記対象面に対する前記接触表面の静摩擦係数、μkは前記対象面に対する前記接触表面の動摩擦係数、Vは前記対象面に対して前記接触表面が摺動する際の前記対象面に対する前記接触表面の相対移動速度であり、前記剛体層の質量m
a
、弾性率k
a
および粘性減衰係数c
a
は、前記解析モデルを用いた数値計算と理論解析を行って、前記(1)式を満足する前記ゴム層、前記剛体層の仕様の最適解を求めた際に算出される値である。
【0007】
本発明のゴム構造体の製造方法は、上記のゴム構造体の仕様決定方法によって決定された前記ゴム層および前記剛体層の仕様を備えた前記ゴム構造体を製造することを特徴とする。
【0008】
本発明のゴム構造体は、加硫ゴムとこの加硫ゴムに埋設された剛体層とを備えて、使用時に対象面に対して摺動する接触表面を有するゴム構造体であって、前記ゴム構造体を、前記接触表面から所定深さに前記剛体層が配置されていて、前記接触表面を有するゴム層と前記剛体層とが積層されて前記剛体層の上面が固定端に固定された解析モデルとして設定した場合に、下記(1)~(4)式を満たすように、前記ゴム層の質量m、前記摺動する方向に対する弾性率kおよび粘性減衰係数cと、前記剛体層の質量ma、前記摺動する方向に対する弾性率kaおよび粘性減衰係数caとが特定されていることを特徴とする。
λ2(1-Z
eff
)5/Zeff<4π・・・(1)
ma=m(330Z3-43.6Z2+14.5Z+1.48)・・・(2)
ka=k(7.72Z3+1.13Z2+1.38Z+0.934)2・・・(3)
ca=2(m・k)1/2(61.1Z3-4.39Z2+3.91Z+1.09)・・・(4)
ここで、λ=W(μs-μk)/{V(m・k)1/2}、Zeff=1/(4.62Z3+1.40Z2+7.52Z+4.48)、Z=c/{2(m・k)1/2}、Wは前記ゴム構造体に作用する垂直荷重、μsは前記対象面に対する前記接触表面の静摩擦係数、μkは前記対象面に対する前記接触表面の動摩擦係数、Vは前記対象面に対して前記接触表面が摺動する際の前記対象面に対する前記接触表面の相対移動速度である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のゴム構造体の仕様決定方法では、前記ゴム構造体として、前記接触表面から所定深さに前記剛体層が配置されていて、前記接触表面を有するゴム層と前記剛体層とが積層されて前記剛体層の上面が固定端に固定された簡素化した解析モデルを設定する。そして、上述した(1)式を満たすように、前記ゴム層の質量m、弾性率kおよび粘性減衰係数cと、前記剛体層の質量ma、弾性率kaおよび粘性減衰係数caとを特定し、前記ゴム層および前記剛体層を前記特定した仕様にすることで、前記接触表面に汎用の加硫ゴムが用いられていても、ゴム構造体をその接触表面を対象面に摺動させて使用する際に、スティックスリップ振動および摩耗を抑制することが可能になる。
【0010】
本発明のゴム構造体の製造方法では、上述したように、スティックスリップ振動および摩耗を抑制できるゴム構造体を製造することが可能になる。
【0011】
本発明のゴム構造体では、前記ゴム構造体を、前記接触表面から所定深さに前記剛体層が配置されていて、前記接触表面を有するゴム層と前記剛体層とが積層されて前記剛体層の上面が固定端に固定された簡素化した解析モデルとして設定する。この場合に、上述した(1)~(4)式を満たすように、前記ゴム層の質量m、弾性率kおよび粘性減衰係数cと、前記剛体層の質量ma、弾性率kaおよび粘性減衰係数caとが特定された仕様にすることで、前記接触表面に汎用の加硫ゴムが用いられていても、ゴム構造体をその接触表面を対象面に摺動させて使用する際に、スティックスリップ振動および摩耗を抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明のゴム構造体を、断面視で模式的に例示する説明図である。
【
図4】
図1の構造体の解析モデルを例示する説明図である。
【
図5】
図1のゴム構造体の接触表面を対象面に接触させて相対移動させている状態を模式的に例示する説明図である。
【
図6】剛体層が埋設されたゴム構造体の接触表面の振動状態を例示するグラフ図である。
【
図7】剛体層が埋設されていないゴム構造体の接触表面の振動状態を例示するグラフ図である。
【
図8】ゴム構造体の接触表面の振動状態と剛体層の層厚との関係を例示するグラフ図である。
【
図9】ゴム構造体の接触表面の振動状態と剛体層の深さ位置との関係を例示するグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のゴム構造体の仕様決定方法およびゴム構造体の製造方法並びにゴム構造体を、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0014】
図1、
図2に例示する実施形態のゴム構造体1の仕様は、本発明の仕様決定方法によって決定されている。ゴム構造体1は、加硫ゴム3と加硫ゴム3に埋設された剛体層4とを備えている。加硫ゴム3からなるゴム層3aと剛体層4とが積層されていて、互いが加硫接着によって接合されて一体化してゴム構造体1が構成されている。ゴム層3aの下端面が、使用時に対象面6に対して摺動する接触表面2になっている。
【0015】
ゴム構造体1は、対象面6に対して摺動する際にスティックスリップ振動およびこれに起因する摩耗を抑制できることが特徴である。ゴム構造体1としては、ブレーキパッド、シール材(パッキン)などを例示できる。ゴム構造体1の形状はブロック状体に限らず、種々の形状を採用することができる。
【0016】
加硫ゴム3のゴム種は特に限定されず、汎用のゴム組成物で形成することができる。加硫ゴム3の弾性率は概ね0.9MPa以上1.1MPa以下の範囲である。加硫ゴム3の密度は概ね900kg/m3以上1500kg/m3以下の範囲である。ゴム層3aの層厚はhになっている。
【0017】
剛体層4として例えば鋼板など、加硫ゴム3よりも密度が大きい金属を用いるとよく、平坦な種々の金属板を用いることができる。
図3に例示するように、横並びさせた複数本のワイヤを剛体層4として用いることもできる。後述する「λ
2(1-Z
eff
)
5/Z
eff」の値(X値)が4πよりも小さい条件下(即ち、X<4πの条件下)で剛体層4の密度を加硫ゴム3より大きくすることで、スティックスリップ振動を抑制し易くなる。
【0018】
また、剛体層4の弾性率を加硫ゴム3の弾性率の3倍以上50倍以下にするとよい。X値が4πよりも小さい条件下で、剛体層4の弾性率が加硫ゴム3の3倍未満であるとスティックスリップ振動を抑制し難くなり、50倍超にしてもスティックスリップ振動を抑制する効果がそれ程、向上しない。
【0019】
剛体層4は、接触表面2から所定深さhに接触表面2から露出しない状態で配置されている。この所定深さhとは、剛体層4と接触表面2との最短距離であり、例えば、5mm以上20mm未満の範囲である。
【0020】
この所定深さhの範囲よりも深い領域に別の剛体層4が埋設されていてもよいが、より深い領域に剛体層4が埋設されていても、ゴム構造体1のスティックスリップ振動を抑止する向上はそれ程期待できない。したがって、この実施形態では剛体層4は、この所定深さhの範囲にのみに埋設されている。また、この実施形態では、一層の剛体層4が配置されているが、複数層の剛体層4を配置することもできる。
【0021】
剛体層4の層厚dは、ゴム層3aの層厚hの0.01倍以上0.5倍以下にするとよい。X値が4πよりも小さい条件下で、剛体層4の層厚dがゴム層3aの層厚hの0.01倍未満であると、スティックスリップ振動を抑制し難くなり、0.5倍超にしてもスティックスリップ振動を抑制する効果がそれ程、向上しない。
【0022】
このゴム構造体1の仕様を決定する手順の一例は以下のとおりである。
【0023】
ゴム構造体1の仕様を決定する際には、
図4に例示するゴム構造体1の解析モデル1Aを設定する。解析モデル1Aは、接触表面2から所定深さhに剛体層4が配置されていて、接触表面2を有するゴム層3aと剛体層4とが積層されて剛体層4の上面が固定端5に固定されている。解析モデル1Aは、対象面6に沿って相対移動して接触表面2が対象面6に摺動する。即ち、この解析モデル1Aは、
図5に例示するゴム構造体1を単純化してモデル化したものである。
【0024】
この解析モデル1Aでは、ゴム層3aと剛体層4の間にバネ3Sと減衰器3Dが並列して介在している。バネ3S(ゴム層3a)の弾性率はk、減衰器3D(ゴム層3a
)の粘性減衰係数はcである。また、剛体層4と固定端5の間にバネ4Sと減衰器4Dが並列して介在している。バネ4S(剛体層4)の弾性率はka、減衰器4D(剛体層4)の粘性減衰係数はcaである。また、ゴム層3aの質量はm、剛体層4の質量はmaである。
【0025】
そして、下記(1)式を満たすように、ゴム層3aの質量m、弾性率kおよび粘性減衰係数cと、剛体層4の質量ma、弾性率kaおよび粘性減衰係数caとが特定される。
λ2(1-Z
eff
)5/Zeff<4π・・・(1)
ここで、λ=W(μs-μk)/{V(m・k)1/2}、Zeff=1/(4.62Z3+1.40Z2+7.52Z+4.48)、Z=c/{2(m・k)1/2}、Wはゴム構造体1(解析モデル1A)に作用する垂直荷重、μsは対象面6に対する接触表面2の静摩擦係数、μkは対象面2に対する接触表面2の動摩擦係数、Vは対象面6に対して接触表面2が摺動する際の対象面2に対する接触表面2の相対移動速度である。
【0026】
静摩擦係数μsおよび動摩擦係数μkはJIS K7125に規定された試験方法に準拠して測定することができる。相対移動速度Vは概ね0.1m/s以上の範囲である。相対移動速度Vの上限値はゴム構造体1が実用上、耐え得る速度である。
【0027】
(1)式の左辺の値(X値)を4π未満にすることで、対象面6に摺動する接触表面2の振幅を小さくすることでき、これにより、接触表面2に汎用の加硫ゴムが用いられていても、接触表面2(ゴム構造体1)のスティックスリップ振動およびこれに伴う摩耗を抑制することができる。そこで、ゴム構造体1を製造する際には、(1)式を満たすようにゴム層3a、剛体層4の上述した仕様を決定し、この決定した仕様を備えたゴム構造体1を製造する。
【0028】
ゴム構造体1を(1)式を満たす仕様にした場合、対象面6に摺動する接触表面2の振幅を例示すると
図6のようになる。摩耗(摺動)の開始直後は接触表面2の振幅には大きな変動が生じるが、その後、振幅は実質的に一定になってスティックスリップ振動の発生が抑制される。一方、ゴム構造体1が剛体層4を有していない場合、対象面6に摺動する接触表面2の振幅を例示すると
図7のようになる。摩耗(摺動)の開始直後での接触表面2の振幅の大きな変動がその後も維持されるので、スティックスリップ振動が継続する。これに伴い、接触表面2には、相対移動方向に間隔をあけた筋状の摩耗が生じる。
【0029】
解析モデル1Aを用いた数値計算と理論解析を行って、(1)式を満足するゴム層3a、剛体層4の仕様の最適解を求めると下記(2)式~(4)式のとおりである。
ma=m(330Z3-43.6Z2+14.5Z+1.48)・・・(2)
ka=k(7.72Z3+1.13Z2+1.38Z+0.934)2・・・(3)
ca=2(m・k)1/2(61.1Z3-4.39Z2+3.91Z+1.09)・・・(4)
【0030】
そこで、ゴム構造体1は(1)式~(4)式を具備する仕様にするとよい。これにより、接触表面2に汎用の加硫ゴムが用いられていても、ゴム構造体1をその接触表面2を対象面6に摺動させて使用する際に、スティックスリップ振動および摩耗を抑制することが可能になる。スティックスリップ振動を抑制することでゴム構造体1(接触表面2)のヒステリシスロスが小さくなる。ゴム構造体1がブレーキパッドやシール材の場合はそれぞれ、スティックスリップ振動が抑制されるとともに、接触表面2に筋状の摩耗が生じることなく、優れた制動性能、優れたシール性能を発揮する。
【0031】
スティックスリップ振動に対する剛体層4の層厚dによる影響(一般的な傾向)を
図8に基づいて説明する。
図8に記載されているデータは、X値を4π未満にしてゴム構造体1に埋設された剛体層4の層厚dのみを異ならせて、共通条件下で対象面6に対して接触表面2を摺動させるようにゴム構造体1を対象面6に沿って相対移動させた場合に生じるスティックスリップ振動の大きさ(接触表面2の振幅)を算出したものである。相対移動速度は1m/s、対象面6の算術平均高さSaは1.0mm、接触表面2を対象面6に対して0.8mm程度押し込んだ設定にした。ゴム構造体1に剛体層4が埋設されていない場合のデータを△で示している。即ち、
図8の破線で示す振幅の大きさが、剛体層4が埋設されていないゴム構造体1での接触表面2の振幅である。
図8に示すように、剛体層4の層厚dがある程度大きい程、剛体層4が埋設されていな場合に比して振幅が小さくなり、スティックスリップ振動に対する抑制効果が向上する。尚、層厚dがある程度大きくなると、スティックスリップ振動に対する抑制効果の向上がなくなる。
【0032】
スティックスリップ振動に対する剛体層4の深さ位置hによる影響(一般的な傾向)を
図9に基づいて説明する。
図9に記載されているデータは、X値を4π未満にしてゴム構造体1に埋設された剛体層4の深さ位置hのみを異ならせて、共通条件下で対象面6に対して接触表面2を摺動させるようにゴム構造体1を対象面6に沿って相対移動させた場合に生じるスティックスリップ振動の大きさ(接触表面2の振幅)を算出したものである。相対移動速度は1m/s、対象面6の算術平均高さSaは1.0mm、接触表面2を対象面6に対して0.8mm程度押し込んだ設定にした。ゴム構造体1に剛体層4が埋設されていない場合のデータを△で示している。即ち、
図9の破線で示す振幅の大きさが、剛体層4が埋設されていないゴム構造体1での接触表面2の振幅である。
図9に示すように、深さ位置hが過小であっても過大であっても、剛体層4が埋設されていな場合に対して振幅を小さくし難くなり、スティックスリップ振動に対する抑制効果が得られない。スティックスリップ振動に対する抑制効果を得るには、層厚dを適度な範囲に設定する必要がある。
【実施例】
【0033】
図4に例示するように剛体層を加硫ゴムからなるゴム層に積層して一体化したゴム構造体の解析モデルにおいて、加硫ゴムの弾性率を1MPa、密度を1000kg/m
3、ポアソン比を0.46、剛体層の弾性率を200GPa、密度を7850kg/m
3、ポアソン比を0.30、接触表面の対象面に対する静摩擦係数を0.2、動摩擦係数を0.05、対象面の算術平均高さSaを1mm(高さ1mmの凸部が連続する凹凸面)、対象面に対する接触表面の押込み量を0.8mmにしたことを共通条件として、剛体層の層厚および接触表面からの深さ位置を表1のように異ならせて、ゴム構造体の接触表面を対象面に沿って相対移動速度1m/sで摺動させた場合の接触表面の上下振動の大きさを算出した。ケースNo.1~4では、X値は4π未満である。その結果は、表1に示すとおりである。表1中の振動抑止抑制具合は、剛体層が存在していないゴム構造体を従来例として、従来例で発生したスティックスリップ振動の具合を、実用上許容できないとして×で示した。一方、発生したスティックスリップ振動の大きさが極めて小さく、実用上許容できる場合を〇で示し、スティックスリップ振動の大きさが〇の場合と×の場合の中間程度の場合を△で示した。
【0034】
【0035】
表1の結果から、剛体層の深さ位置が同じであっても剛体層の層厚が過小であるとティックスリップ振動を抑制する効果が小さくなることが分かる(ケースNo.1~4)。また、剛体層の層厚が同じであっても剛体層の深さ位置が浅すぎるとティックスリップ振動を抑制する効果が小さくなることが分かる(ケースNo.1、5)。
【符号の説明】
【0036】
1 ゴム構造体
1A 解析モデル
2 接触表面
3 加硫ゴム
3a ゴム層
3S バネ
3D 減衰器
4 剛体層
4S バネ
4D 減衰器
5 固定端
6 対象面