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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】粒子収集装置及び粒子径分布測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/04 20060101AFI20240820BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20240820BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240820BHJP
   G01N 15/02 20240101ALI20240820BHJP
【FI】
G01N1/04 M
G01N37/00 101
C12M1/00 A
G01N15/02 F
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020083270
(22)【出願日】2020-05-11
(65)【公開番号】P2021179320
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-02-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(さきがけ)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】許 岩
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0107507(US,A1)
【文献】国際公開第2018/212309(WO,A1)
【文献】特開2015-109821(JP,A)
【文献】特開2017-153422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/02 - 1/26
G01N 37/00
C12M 1/00 - 1/42
G01N 15/02 - 1/0227
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導入流路と、前記導入流路を流れる液体が流入するように設けられた第1流路と、第2流路と、第1流路と第2流路とを連通するように設けられた複数の第1連通流路と、第2流路の下流側において第2流路に接続した第1収集チャンバと、第3流路と、第1収集チャンバと第3流路とを連通するように設けられた第2連通流路とを備え、
第1流路は、様々な粒径の粒子を含む液体が流れるように設けられ、
第1連通流路の幅は、第1流路を流れる液体に含まれる様々な粒径の粒子から第1粒径以下の粒子を分離するように設定され、
第2流路は、第1連通流路により分離された第1粒径以下の粒子を含む液体が第2流路を流れ第1収集チャンバに流入するように設けられ、
第2連通流路の幅は、第1収集チャンバ内の液体に含まれる粒子から第2粒径以下の粒子を分離するように設定され、
第2連通流路は、分離された第2粒径以下の粒子を含む液体が第3流路に流入するように設けられ、
第1流路の終端は第3流路に接続し、第1流路と第3流路はネック構造で連通し、
第1収集チャンバには第2粒径より大きく第1粒径以下の範囲の粒子が収集されることを特徴とする粒子収集装置。
【請求項2】
導入流路と、前記導入流路を流れる液体が流入するように設けられた第1流路と、第2流路と、第1流路と第2流路とを連通するように設けられた複数の第1連通流路と、第2流路の下流側において第2流路に接続した第1収集チャンバと、第3流路と、第1収集チャンバと第3流路とを連通するように設けられた第2連通流路と、粒子抽出用開口とを備え、
第1流路は、様々な粒径の粒子を含む液体が流れるように設けられ、
第1連通流路の幅は、第1流路を流れる液体に含まれる様々な粒径の粒子から第1粒径以下の粒子を分離するように設定され、
第2流路は、第1連通流路により分離された第1粒径以下の粒子を含む液体が第2流路を流れ第1収集チャンバに流入するように設けられ、
第2連通流路の幅は、第1収集チャンバ内の液体に含まれる粒子から第2粒径以下の粒子を分離するように設定され、
第2連通流路は、分離された第2粒径以下の粒子を含む液体が第3流路に流入するように設けられ、
前記粒子抽出用開口は、第1収集チャンバの底面又天井面と粒子収集装置の外面とを連通するように設けられ
第1収集チャンバには第2粒径より大きく第1粒径以下の範囲の粒子が収集されることを特徴とする粒子収集装置。
【請求項3】
第1基板と第2基板とを備え、
第1、第2又は第3流路或いは第1又は第2連通流路は、第1基板に設けられた溝が第2基板で覆われた構造を有する請求項1又は2に記載の粒子収集装置。
【請求項4】
第1連通流路は、ネック流路と、前記ネック流路の第1流路側に設けられた進入流路とを有し、
前記進入流路の幅は、前記ネック流路の幅よりも大きい請求項1~3のいずれか1つに記載の粒子収集装置。
【請求項5】
第1連通流路の深さは、前記ネック流路の幅の1.0倍以上である請求項に記載の粒子収集装置。
【請求項6】
第2収集チャンバと、第4流路と、第2収集チャンバと第4流路とを連通するように設けられた第3連通流路とをさらに備え、
第2収集チャンバは、第3流路を流れた液体が第2収集チャンバに流入するように設けられ、
第3連通流路の幅は、第2収集チャンバ内の液体に含まれる粒子から第3粒径以下の粒子を分離するように設定され、
第3連通流路は、分離された第3粒径以下の粒子を含む液体が第4流路に流入するように設けられた請求項1~のいずれか1つに記載の粒子収集装置。
【請求項7】
圧力調整部をさらに備え、
前記圧力調整部は、第1流路の圧力が第2流路の圧力よりも大きくなるように上流側と下流側との圧力差を調整するように設けられた請求項1~のいずれか1つに記載の粒子収集装置。
【請求項8】
第1流路構造、第2流路構造、第3流路構造、第4流路構造及び第5流路構造を備え、
第1~第5流路構造のそれぞれは、第1流路と、第2流路と、複数の第1連通流路と、第1収集チャンバと、第2連通流路とを備え、
第1~第5流路構造の第1連通流路は、それぞれ異なる幅を有する請求項1~7のいずれか1つに記載の粒子収集装置。
【請求項9】
請求項8に記載の粒子収集装置の各第1流路に様々な粒径の粒子を含む液体を流すステップと、
各第1流路に前記液体を流した後各第1収集チャンバに収集された粒子の第1粒子量を計測するステップと、
第1粒子量を計測した後第1流路の圧力が第2流路の圧力よりも大きくなるように圧力を調整するステップと、
圧力を調整した後各第1収集チャンバに収集された粒子の第2粒子量を計測するステップと、
第1粒子量と第2粒子量との差を算出するステップとを含む粒子径分布測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子収集装置及び粒子径分布測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ粒子は、マテリアル、分析化学、触媒化学、生化学、光デバイス、エネルギー、バイオ、医療などの分野で幅広く利用されている。このようなナノ粒子を利用する分野において、ナノ粒子のサイズ分画及び微量サンプルからのナノ粒子の収集・回収が課題となっている。特に、医療診断、創薬、基礎生物学などのバイオ分野では、細胞外小胞顆粒(例えば、サイズが30nm~200nm程度といわれているエクソソーム)やウィルス(サイズ:20nm~300nm程度)などの生体ナノ粒子を微量な検体から生の状態でサイズ分画、収集、回収することが求められている。
【0003】
エクソソーム、リポソーム、ウィルスなどのナノ粒子を分離・回収する方法として超遠心分離法(100000G以上)が主に用いられている(例えば、特許文献1参照)。超遠心分離法は、サンプル中の微粒子の比重の差を利用して微粒子を分離精製・回収する方法である。このため、この分離法は、ナノサイズレベルの分離能がなく、エクソソームと不純物とを分離することが困難であり、さらに、エクソソームをサイズ分画することもできない。また、超遠心分離を行うとエクソソームの構造を破壊している恐れがあるという報告もある。さらに、超遠心分離法は、多量のサンプル量(数十mL)が必要となること、専門家による煩雑で時間を要する操作(3h~24h)が必要なことなどの問題がある。
また、ダメージレスのナノ粒子を短時間で捕捉することができる流体チップが知られている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2019-528085号公報
【文献】WO 2018/212309 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の流体チップでは、ナノ粒子をサイズ分画し収集することができない。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、サイズ分画した所望の粒径範囲の粒子を収集チャンバに短時間で収集することができる粒子収集装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、導入流路と、前記導入流路を流れる液体が流入するように設けられた第1流路と、第2流路と、第1流路と第2流路とを連通するように設けられた複数の第1連通流路と、第2流路の下流側において第2流路に接続した第1収集チャンバと、第3流路と、第1収集チャンバと第3流路とを連通するように設けられた第2連通流路とを備え、第1流路は、様々な粒径の粒子を含む液体が流れるように設けられ、第1連通流路の幅は、第1流路を流れる液体に含まれる様々な粒径の粒子から第1粒径以下の粒子を分離するように設定され、第2流路は、第1連通流路により分離された第1粒径以下の粒子を含む液体が第2流路を流れ第1収集チャンバに流入するように設けられ、第2連通流路の幅は、第1収集チャンバ内の液体に含まれる粒子から第2粒径以下の粒子を分離するように設定され、第2連通流路は、分離された第2粒径以下の粒子を含む液体が第3流路に流入するように設けられたことを特徴とする粒子収集装置を提供する。また、第3流路は排出側流路であってもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の粒子収集装置の第1流路に様々な粒径の粒子を含む第1液体を流すことにより、第2粒径以上第1粒径以下の粒子を第1収集チャンバに収集することができる。従って、第1液体に含まれる粒子をサイズ分画した所望の粒径範囲の粒子を第1収集チャンバに短時間で収集することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態の粒子収集装置の概略平面図である。
図2図1の破線で囲んだ範囲Aにおける粒子収集装置の部分拡大図である。
図3】(a)~(d)はそれぞれ粒子収集装置の部分断面図である。
図4】本発明の一実施形態の粒子収集装置の部分拡大図である。
図5】本発明の一実施形態の粒子収集装置の部分拡大図である。
図6】本発明の一実施形態の粒子収集装置の部分拡大図である。
図7】(a)は作製した粒子収集装置の写真であり、(b)は作製した粒子収集装置のSEM画像である。
図8】HT-29細胞由来のエクソソームサンプルに含まれるエクソソームの粒径分布である。
図9】収集チャンバに収集したエクソソームの計測結果を示すグラフである。
図10】HKT-293T細胞由来のエクソソームサンプルに含まれるエクソソームの粒径分布である。
図11】収集チャンバに収集したエクソソームの計測結果を示すグラフである。
図12】粒子抽出口を形成した石英ガラス基板の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の粒子収集装置は、導入流路と、前記導入流路を流れる液体が流入するように設けられた第1流路と、第2流路と、第1流路と第2流路とを連通するように設けられた複数の第1連通流路と、第2流路の下流側において第2流路に接続した第1収集チャンバと、第3流路と、第1収集チャンバと第3流路とを連通するように設けられた第2連通流路とを備え、第1流路は、様々な粒径の粒子を含む液体が流れるように設けられ、第1連通流路の幅は、第1流路を流れる液体に含まれる様々な粒径の粒子から第1粒径以下の粒子を分離するように設定され、第2流路は、第1連通流路により分離された第1粒径以下の粒子を含む液体が第2流路を流れ第1収集チャンバに流入するように設けられ、第2連通流路の幅は、第1収集チャンバ内の液体に含まれる粒子から第2粒径以下の粒子を分離するように設定され、第2連通流路は、分離された第2粒径以下の粒子を含む液体が第3流路に流入するように設けられたことを特徴とする。第3流路は、排出側流路であってもよい。
【0010】
本発明の粒子収集装置は第1基板と第2基板とを備えることが好ましく、第1、第2又は第3流路或いは第1又は第2連通流路は、第1基板に設けられた溝が第2基板で覆われた構造を有することが好ましい。
第1連通流路は、ネック流路と、前記ネック流路の第1流路側に設けられた進入流路とを有することが好ましく、前記進入流路の幅は、前記ネック流路の幅よりも大きいことが好ましい。進入流路を設けることにより、第1流路を流れる粒子が第1連通流路に入りやすくなり、第1収集チャンバに収集できる粒子量を多くすることができる。
【0011】
第1連通流路の深さは、ネック流路の幅の1.0倍以上であることが好ましい。
本発明の粒子収集装置は、第2収集チャンバと、第4流路と、第2収集チャンバと第4流路とを連通するように設けられた第3連通流路とをさらに備えることが好ましい。第2収集チャンバは、第3流路を流れた液体が第2収集チャンバに流入するように設けられることが好ましい。第3連通流路の幅は、第2収集チャンバ内の液体に含まれる粒子から第3粒径以下の粒子を分離するように設定されることが好ましい。第3連通流路は、分離された第3粒径以下の粒子を含む液体が第4流路に流入するように設けられることが好ましい。このことにより、第1収集チャンバ及び第2収集チャンバのそれぞれにサイズ分画された粒子を収集することができる。
【0012】
本発明の粒子収集装置は圧力調整部を備えることが好ましく、前記圧力調整部は、第1流路の圧力が第2流路の圧力よりも大きくなるように上流側と下流側との圧力差を調整するように設けられることが好ましい。このことにより、第1連通流路を通過する粒子の量を増やすことができ、第1収集チャンバに収集する粒子の量を増やすことができる。
本発明の粒子収集装置は粒子抽出用開口を備えることが好ましく、前記粒子抽出用開口は、第1収集チャンバの底面又天井面と前記粒子収集装置の外面とを連通するように設けられることが好ましい。このことにより、第1収集チャンバに収集した粒子を装置外に抽出することができ、収集した粒子を様々な方法で分析することができる。
【0013】
本発明の粒子収集装置は第1流路構造、第2流路構造、第3流路構造、第4流路構造及び第5流路構造を備えることが好ましく、第1~第5流路構造のそれぞれは、第1流路と、第2流路と、複数の第1連通流路と、第1収集チャンバと、第2連通流路とを備えることが好ましい。また、第1~第5流路構造の第1連通流路は、それぞれ異なる幅を有することが好ましい。このような粒子収集装置を利用して粒径分布測定を行うことが可能になる。
本発明は、本発明の粒子収集装置の各第1流路に様々な粒径の粒子を含む液体を流すステップと、各第1流路に前記液体を流した後各第1収集チャンバに収集された粒子の第1粒子量を計測するステップと、第1粒子量を計測した後第1流路の圧力が第2流路の圧力よりも大きくなるように圧力を調整するステップと、圧力を調整した後各第1収集チャンバに収集された粒子の第2粒子量を計測するステップと、第1粒子量と第2粒子量との差を算出するステップとを含む粒子径分布測定方法も提供する。
【0014】
以下、複数の実施形態を参照して本発明をより詳細に説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0015】
第1実施形態
図1は本実施形態の粒子収集装置の概略平面図であり、図2図1の破線で囲んだ範囲Aにおける粒子収集装置の部分拡大図である。図3(a)は図2の破線B-Bにおける粒子収集装置の部分断面図であり、図3(b)は図2の破線C-Cにおける粒子収集装置の部分断面図であり、図3(c)は図2の破線D-Dにおける粒子収集装置の部分断面図であり、図3(d)は図2の破線E-Eにおける粒子収集装置の部分断面図である。
【0016】
本実施形態の粒子収集装置50は、導入流路10と、導入流路10を流れる液体が流入するように設けられた第1流路4(4a~4c)と、第2流路5(5a~5c)と、第1流路4と第2流路5とを連通するように設けられた複数の第1連通流路6と、第2流路5の下流側において第2流路5に接続した第1収集チャンバ8(8a~8c)と、第3流路(排出側流路14)と、第1収集チャンバ8と第3流路(排出側流路14)とを連通するように設けられた第2連通流路9とを備え、第1流路4は、様々な粒径の粒子を含む第1液体が流れるように設けられ、第1連通流路6の流路幅Waは、第1液体に含まれる様々な粒径の粒子から第1粒径以下の粒子を分離するように設定され、第2流路5は、第1連通流路6により分離された第1粒径以下の粒子を含む第2液体が第2流路5を流れ第1収集チャンバ8に流入するように設けられ、第2連通流路9の流路幅Wcは、第2液体に含まれる粒子から第2粒径以下の粒子を分離するように設定され、第2連通流路9は、分離された第2粒径以下の粒子を含む第3液体が第3流路(排出側流路14)に流入するように設けられたことを特徴とする。本実施形態では第3流路は排出側流路14であるが、他の実施形態では、第3流路は他の流路であってもよい。
また、本実施形態の粒子収集装置50は、導入流路10と第1流路4との間に扁平流路12を有することができる。また、粒子収集装置50は、第2連通流路9と排出側流路14の間に扁平流路を有することもできる。また、第1流路4、第2流路5、第1連通流路6、第1収集チャンバ8、第2連通流路9などは、流路構造35(35a~35c)を構成する。
【0017】
粒子収集装置50は、ターゲット粒子を収集するための装置である。また、粒子収集装置50は、粒子分画装置であってもよい。また、粒子収集装置50は、小胞収集装置(又は小胞分画装置)、ウィルス収集装置(又はウィルス分画装置)であってもよい。
ターゲット粒子は、例えば、小胞、細胞小器官、細胞外小胞(エクソソーム、マイクロベジクルなど)、ウィルス、リポソーム、金属粒子、合金粒子、有機粒子、無機粒子、半導体粒子(量子ドット)、大気汚染微粒子(浮遊粒子状物質、PM2.5など)、花粉などである。粒子収集装置50は、このようなターゲット粒子を含む液体を流路に流すことにより、ターゲット粒子を分画し収集チャンバに収集する。
【0018】
ターゲット粒子が細胞外小胞である場合、例えば、血清、血漿、尿、培養上清、唾液、羊水、悪性腹水、脳脊髄液(CSF)、胃腸液(GI)、炎症性液、リンパ液、肺胞洗浄液などを粒子収集装置50の流路に流す。
ターゲット粒子の平均粒径は、例えば、1nm以上100μm以下であり、好ましくは5nm以上1μm以下であり、より好ましくは20nm以上300nm以下である。
【0019】
粒子収集装置50は、第1流路4、第2流路5、第1連通流路6、第2連通流路9、第1収集チャンバ8などを設けることができれば、その構造は限定されないが、例えば、第1基板2と第2基板3とを重ねた構造を有することができる。この場合、第1流路4、第2流路5、第1連通流路6、第2連通流路9、第1収集チャンバ8などとなる溝を第1基板2に形成し、第1基板2の溝を形成した表面上に第2基板3を接着することができる。このことにより、第1基板2と第2基板3との間に、第1流路4、第2流路5、第1連通流路6、第2連通流路9、第1収集チャンバ8などを形成することができる。
複数の流路構造35は、第1基板2と第2基板3との間に形成されてもよい。また、粒子収集装置50が積層された3つ以上の基板を有し、隣接する2つの基板の間のそれぞれに流路構造35が設けられてもよい。この場合、粒子収集装置50は、三次元的に配置された複数の流路構造35を有する。
【0020】
第1基板2の材料および第2基板3の材料は、無機材料であってもよく、有機材料であってもよい。第1基板2の材料および第2基板3の材料は、透光性を有することが好ましい。このことにより、粒子収集装置50により収集した粒子を光学的に観察、解析することが可能になる。
第1基板2または第2基板3は、例えば、ガラス基板(石英ガラス基板など)、シリコーン系材料基板(ポリジメチルシロキサン(PDMS)など)、ポリマー・樹脂基板(ポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂など)、半導体基板(シリコン基板など)、セラミックス基板などである。特に第1基板2および第2基板3にガラス基板を用いることが好ましい。ガラスの表面には通常水酸基(-OH)が存在するため、第1流路4、第2流路5、第1連通流路6などの内表面を親水性にすることができる。このため、ターゲット粒子を含む水溶液を毛管現象により第1流路4などに流すことができる。また、ガラス基板は透光性を有するため、第1収集チャンバ8に収集したターゲット粒子を光学的に観察することができる。また、ターゲット粒子に光学的処理を施すことも可能である。
【0021】
第1流路4、第2流路5、第1連通流路6などとなる溝は、第1基板2をエッチング処理することにより形成することができる。例えば、第1基板2の表面上にレジストを塗布した後、電子ビームによりレジストの一部を除去しレジストにパターンを形成する。この後、レジストをマスクとしてエッチングを行い第1基板2の一部を除去し溝を形成する。このようなエッチング処理により、第1流路4、第2流路5、第1連通流路6などが形成されるような溝を第1基板2に形成することができる。また、導入流路10又は排出側流路14となる溝は、フォトリソグラフィとエッチング技術により第1基板2又は第2基板3に形成することができる。この後、第1基板2と第2基板3とを接着して所望の流路が形成された粒子収集装置50を製造することができる。
第1基板2と第2基板3とは、熱接合により接着されてもよく、融着されてもよい。また、第1基板2と第2基板3とにプラズマ処理を施し、第1基板2のプラズマ処理された表面と第2基板3のプラズマ処理された表面とを接触させることにより第1基板2と第2基板3とを接着してもよい。
なお、第1基板2と第2基板3の両方に溝を形成して第1基板2と第2基板3との間に第1流路4、第2流路5、第1連通流路6などを形成してもよい。
【0022】
粒子収集装置50は、導入流路10を有することができる。導入流路10は、ターゲット粒子を含む液体を第1流路4(流路構造35)に供給するための流路である。導入流路10は、第1流路4の流路断面又は扁平流路12の流路断面よりも広い流路断面を有する。導入流路10を流れる液体は、ターゲット粒子の他、様々な粒径の粒子を含むことができる。
導入流路10は、注入口28aから流入した液体が導入流路10を流れ排出口29aから排出されるように設けることができる。また、導入流路10は、導入流路10を流れる液体の一部が扁平流路12に流入するように設けることができる。このように導入流路10を設けることにより、液体中の粒子のうち扁平流路12の厚さよりも大きい粒径の粒子は、扁平流路12に流入せずに排出口29aに向かって流れ、扁平流路12の厚さよりも小さい粒径の粒子は、扁平流路12に流入することができる。従って、扁平流路12の流入口において液体と共に扁平流路12に流入する粒子をフィルタリングすることができる。
【0023】
導入流路10は、注入口28aに供給されたターゲット粒子を含む液体が毛管現象により導入流路10を流れるように設けることができる。このことにより、送液ポンプ25などを省略することができ、装置を簡素化することができる。例えば、ターゲット粒子を含む液体を注入口28aに滴下することにより、導入流路10に液体を流すことができる。
導入流路10は、送液ポンプ25を利用してターゲット粒子を含む液体が導入流路10を流れるように設けられてもよい。このことのより、第1流路4と第2流路5との間に圧力差を形成することができ、第1収集チャンバ8に収集される粒子の量を増やすこととができる。送液ポンプ25は、例えばシリンジポンプである。また、送液ポンプ25は、圧力調整部として機能する。また、圧力調整部は、第2流路5側を減圧することにより第1流路4と第2流路5との間に圧力差を形成する部分であってもよい。
【0024】
注入口28aに注入する液体は、注入する前にフィルタリング処理を施されたものであってもよい。このことにより、導入流路10に詰まるような大きな粒子を液体から除去することができ、導入流路10が詰まることを抑制することができる。例えば、0.22μmフィルター、0.45μmフィルターなどのフィルターのろ液を注入口28aから導入流路10に注入することができる。また、遠心分離処理により得られた上清を注入口28aから導入流路10に注入することもできる。
【0025】
粒子収集装置50は、第1流路4(流路構造35)と導入流路10との間に設けられた扁平流路12を有することができる。扁平流路12は、導入流路10を流れた液体が扁平流路12に流入し、扁平流路12を流れた液体が流路構造35の第1流路4に流入するように設けることができる。扁平流路12は、扁平な流路断面を有し、厚さが小さく、横幅の広い流路である。
液体が導入流路10から扁平流路12に流入する流入口は、扁平流路12の流路断面と同様の形状を有することができる。このことにより、導入流路10を流れてきた粒子の1つが扁平流路12に詰まったとしても、扁平流路12が閉塞されることはない。従って、扁平流路12を設けることにより、導入流路10から第1流路4(流路構造35)に向かう液体の流れが遮断されることを抑制することができる。
【0026】
粒子収集装置50は、流路構造35(35a~35c)を有する。流路構造35は、液体に含まれる様々な粒径の粒子を所望の粒径範囲にサイズ分画し、サイズ分画された粒子を第1収集チャンバ8に収集する流路構造である。
流路構造35は、第1流路4(4a~4c)と、第2流路5(5a~5c)と、第1流路4と第2流路5とを連通するように設けられた複数の第1連通流路6と、第2流路5の下流側において第2流路5に接続した第1収集チャンバ8(8a~8c)と、第2連通流路9とを備える。
粒子収集装置50は、複数の流路構造35を備えることができる。例えば、図1~3に示した粒子収集装置50は、3つの流路構造35a~35cを備えている。各流路構造35は基本的には同じ構造を有するが、第1連通流路6の流路幅Wa、第2連通流路9の流路幅Wcなどは流路構造35によって異なってもよい。
【0027】
第1流路4は、様々な粒径の粒子を含む液体を扁平流路12から流路構造35に引き込む流路である。第1流路4の流路断面は特に限定されないが、例えば矩形の流路断面を有することができる。第1流路4は、第1連通流路6の流路幅Waの1.2倍以上20倍以下の流路幅及び深さを有することができる。
複数の第1連通流路6が第1流路4から第2流路5に向かって伸びる。このため、第1流路4を流れる液体がターゲット粒子と共に第2流路5に流入することができる。例えば、図1~3に示した粒子収集装置50では、13本の第1連通流路6が第1流路4と第2流路5とを連通している。1本の第1流路4から第2流路5に向かって伸びる第1連通流路6の数は、特に限定されないが、例えば、5本以上10000本以下とすることができ、好ましくは10本以上10000本以下とすることができる。
【0028】
第1流路4の終端は、排出側流路14に接続することができる。このことにより、第1流路4を流れる液体に含まれる様々な粒径の粒子のうち、第1連通流路6に流れる以外の粒子(第1連通流路6の流路幅よりも大きい粒子を含む)が液体と共に排出側流路14に流れることができ、第1連通流路6に流れる以外の粒子が第1流路4に溜まることを抑制することができる。
また、第1流路4は、複数の第1連通流路6のうち排出側流路14側の端の第1連通流路6と排出側流路14との間にネック構造18を有することができる。また、第1流路4と排出側流路14は、このネック構造18で連通する。この連通構造において、第1流路4を流れてきた溶液に含まれる一部の粒子がネック構造18に溜まることにより、このネック構造18がバルブ(semi-open)となり、液体は排出側流路14へ流れるが、粒子の排出側流路14への流出を抑制できる選択的なバルブ機能をする。このようなセミオープンバルブ機能により、サンプルに含まれる粒子の流失を抑制することができ、より多くの粒子を第1連通流路6に流すことができる。また、このネック構造18を利用して溶液のチップ内への導入もできるため、後の粒子分析などの多様な操作に対応することが可能になる。
【0029】
第1連通流路6の流路幅Waは、第1流路4を流れる液体に含まれる様々な粒径の粒子から第1粒径以下の粒子を分離するように設定される。第1連通流路6により分離された第1粒径以下の粒子は、液体と共に第2流路5へと流れ、その他の粒子は液体と共に第1流路4を流れていく。従って、第1連通流路6により、第1粒径以下の粒子と第1粒径よりも大きい粒子とを分離することができる。また、圧力調整部を用いて第1流路4の圧力を第2流路5の圧力よりも大きくすることができる。このことにより、第1粒径以下の粒子が第2流路5へ流れやすくなり、第1収集チャンバ8に収集するターゲット粒子の量を増やすことができる。
【0030】
流路幅Waと第1粒径との関係は、粒子の柔らかさや形により変わる。例えば、第1流路4を流れる液体に含まれる粒子が硬く球状である場合、流路幅Waと第1粒径は同じになる。この場合、Wa以下の粒径を有する粒子が第1連通流路6で分離され第2流路5に液体と共に流入する。Waより大きい粒径を有する粒子は、第1流路4を流れ排出側流路14に流入する。例えば、ターゲット粒子の粒径範囲が110nm以上140nm以下である場合、流路幅Waは140nmとすることができる。
【0031】
例えば、第1流路4を流れる液体に含まれる粒子が柔らかい場合、粒子が変形して第1連通流路6を通過するため、第1粒径は、流路幅Waよりも大きくなる。この場合、粒子の柔らかさに応じて、流路幅Waをターゲット粒子の粒径範囲の上限値よりも小さい幅に設定することができる。また、圧力調整部を用いて第1流路4の圧力を第2流路5の圧力よりも大きくすることにより、第1粒径は大きくなる。
1本の第1流路4から第2流路5に向かって伸びる複数の第1連通流路6の流路幅Waは、すべて実質的に同じにすることができる。このことにより、多くの第1連通流路6を用いて第1粒径以下の粒子を分離することができ、第1収集チャンバ8に収集されるターゲット粒子の量を多くすることができる。
【0032】
第1連通流路6の深さは、流路幅Waの1.0倍以上20倍以下とすることができる。また、第1連通流路6の深さは、流路幅Waの5倍以上20倍以下とすることができる。このことにより、粒子が第1連通流路6に詰った場合でも第1連通流路6が閉塞することを抑制することができる。
【0033】
第1連通流路6は、流路幅Waを有するネック流路15を有することができる。このネック流路15を利用して粒子を分離することができる。また、第1連通流路6は、ネック流路15の第1流路側に設けられた進入流路16を有することができる。進入流路16の流路幅Wbは、流路幅Waよりも大きい。流路幅Wbは、例えば流路幅Waの2倍以上10倍以下とすることができる。このような進入流路16を設けることにより、第1流路4を流れる液体に含まれる粒子が第1連通流路6に進入しやすくなる。なお、進入流路16は省略することができる。
【0034】
第2流路5は、第1連通流路6により分離された第1粒径以下の粒子を含む液体が第2流路5を流れ第1収集チャンバ8に流入するように設けられる。第2流路5は、第1流路4と実質的に平行に伸びる流路とすることができる。このことにより、第1流路4と第2流路5との間に比較的短い第1連通流路6を多数配置することができる。
第2流路5の流路断面は特に限定されないが、例えば矩形の流路断面を有することができる。第2流路5は、第1連通流路6の流路幅Waの1.2倍以上20倍以下の流路幅及び深さを有することができる。
第1収集チャンバ8は、ターゲット粒子を収集するチャンバである。第2流路5から流入する液体に含まれるターゲット粒子が第1収集チャンバ8に溜まる。
【0035】
第2連通流路9は、第1収集チャンバ8と第3流路(排出側流路14)とを連通するように設けられる。また、第1収集チャンバ8と第3流路(排出側流路14)との間に複数の第2連通流路9を設けることができる。第2連通流路9の流路幅Wcは、第1収集チャンバ8内の液体に含まれる粒子から第2粒径以下の粒子を分離するように設定される。また、第2連通流路9は、分離された第2粒径以下の粒子を含む液体が第3流路(排出側流路14)に流入するように設けられる。第2粒径は第1粒径よりも小さく、流路幅Wcは流路幅Waよりも小さい。このことにより、第2粒径よりも小さい粒子を第3流路(排出側流路14)に流出させることができ、第2粒径よりも大きい粒子を第1収集チャンバ8内に留めることができる。従って、サイズ分画を行うことができ第1粒径よりも小さく第2粒径よりも大きい粒子を第1収集チャンバ8に収集することができる。本実施形態では、第3流路を排出側流路14としているが、第3流路は、排出側流路14とは別の流路であってもよい。この場合、第3流路は、下流側において排出側流路14と接続することができる。
【0036】
流路幅Wcと第2粒径との関係は、粒子の柔らかさや形により変わる。例えば、第1収集チャンバ8内の液体に含まれる粒子が硬く球状である場合、流路幅Wcと第2粒径は同じになる。この場合、Wc以下の粒径を有する粒子が第2連通流路9で分離され第3流路(排出側流路14)へ液体と共に流出する。Wcより大きい粒径を有する粒子は、第1収集チャンバ8内に残る。例えば、ターゲット粒子の粒径範囲が110nm以上140nm以下である場合、流路幅Wcは110nmとすることができる。
【0037】
例えば、第1収集チャンバ8内の液体に含まれる粒子が柔らかい場合、粒子が変形して第2連通流路9を通過するため、第2粒径は、流路幅Wcよりも大きくなる。この場合、粒子の柔らかさに応じて、流路幅Wcをターゲット粒子の粒径範囲の下限値よりも小さい幅に設定することができる。また、圧力調整部を用いて第1収集チャンバ8の圧力を第3流路(排出側流路14)の圧力よりも大きくすることにより、第2粒径は大きくなる。
第1収集チャンバ8と第3流路(排出側流路14)との間の複数の第2連通流路9の流路幅Wcは、すべて実質的に同じにすることができる。このことにより、第2粒径以下の粒子が第3流路(排出側流路14)に排出されやすくなり、サイズ分画精度を向上させることができる。
【0038】
第2連通流路9の深さは、流路幅Waの1.0倍以上20倍以下とすることができる。また、第2連通流路9の深さは、流路幅Waの5倍以上20倍以下とすることができる。このことにより、粒子が第2連通流路9に詰った場合でも第2連通流路9が閉塞することを抑制することができる。
【0039】
粒子収集装置50は、粒子抽出用開口30を備えることができる。粒子抽出用開口30は、第1収集チャンバ8の底面又天井面と粒子収集装置50の外面とを連通するように設けられる。この粒子抽出用開口30を用いて第1収集チャンバ8に収集したターゲット粒子を粒子収集装置50の外部に取り出すことができる。ターゲット粒子を第1収集チャンバ8に収集しているとき、粒子抽出用開口30は、栓31で塞がれている。ターゲット粒子を第1収集チャンバ8に収集した後、栓31を取り外し、ナノピペットや吸引により粒子抽出用開口30を介してターゲット粒子を第1収集チャンバ8から取り出すことができる。ターゲット粒子が小胞である場合、第1収集チャンバ8から取り出した小胞からタンパク質や核酸を抽出して分析することや取り出した小胞を質量分析することなどが可能である。また、ターゲット粒子がウィルスである場合、第1収容チャンバ8から取り出したウィルスを電子顕微鏡で観察することやPCR法で分析することができる。
粒子抽出用開口30は、例えば、レーザー加工、ドリリング、ドライエッチング、ウェットエッチングなどにより形成することができる。
【0040】
第2実施形態
図4は、第2実施形態の粒子収集装置の部分拡大図である。第2実施形態の粒子収集装置50の流路構造35は、2つの第1流路4a、4bを有し、第1流路4aと第2流路5との間に複数の第1連通流路6が設けられ、第1流路4bと第2流路5との間に複数の第1連通流路6が設けられている。このことにより、第1流路4a、4bの両方からターゲット粒子を第2流路5に液体と共に流入させることができ、第1収集チャンバ8に収集するターゲット粒子の量を多くすることができる。
また、粒子収集装置50が三次元的に積層した流路構造を有する場合、第2流路5の上層に配置された第1流路4から第1連通流路6を介してターゲット粒子を第2流路5に流入させてもよく、第2流路5の下層に配置された第1流路4から第1連通流路6を介してターゲット粒子を第2流路5に流入させてもよい。また、独立の流路構造35を三次元で複数配置してもよい。
その他の構成は第1実施形態と同様である。また、第1実施形態についての記載は矛盾がない限り第2実施形態についても当てはまる。
【0041】
第3実施形態
図5は、第3実施形態の粒子収集装置の部分拡大図である。
第3実施形態の粒子収集装置50の流路構造35は、第1流路4、第1連通流路6、第2流路5、第1収集チャンバ8及び第2連通流路9に加え、第3流路23、第3連通流路24及び第2収集チャンバ21を有する。第1及び第2実施形態では、排出側流路14が第3流路であったが、第3実施形態では、排出側流路14は第4流路となる。この流路構造35では、第1収集チャンバ8に収集する第1ターゲット粒子と、第2収集チャンバ21に収集する第2ターゲット粒子とが設定される。例えば、第1ターゲット粒子を110nm以上140nm以下の粒径範囲の粒子とすることができ、第2ターゲット粒子を80nm以上110nm以下の粒径範囲の粒子とすることができる。
【0042】
第1流路4、第1連通流路6、第2流路5及び第1収集チャンバ8については第1実施形態で説明したためここでは省略するが、第1収集チャンバ8には、第1ターゲット粒子が収集される。
第3実施形態では、流路構造35は複数の第2連通流路9を有する。第2連通流路9のうち一部は第1収集チャンバ8と第3流路23とを連通するように設けられ、第2連通流路9の一部は、第2流路5と第3流路23とを連通するように設けられる。
【0043】
第2連通流路9の流路幅Wcは、第1収集チャンバ8内の液体に含まれる粒子から第2粒径以下の粒子を分離するように設定される。また、流路幅Wcは、第2流路5を流れる液体に含まれる粒子から第2粒径以下の粒子を分離するように設定される。また、第2連通流路9は、分離された第2粒径以下の粒子を含む液体が第3流路23に流入するように設けられる。第2粒径は第1粒径よりも小さく、流路幅Wcは流路幅Waよりも小さい。このことにより、第2粒径よりも小さい粒子を第3流路23に流出させることができ、第2粒径よりも大きい粒子を第1収集チャンバ8内に留めることができる。流路幅Wcと第2粒径との関係は、粒子の柔らかさや形、第2流路5と第3流路23との圧力差などにより変わる。詳細は第1実施形態と同様である。第1収集チャンバ8と第3流路23との間の複数の第2連通流路9の流路幅Wc及び第2流路5と第3流路23との間の複数の第2連通流路9の流路幅Wcは、すべて実質的に同じにすることができる。また、第2連通流路9の深さは、流路幅Waの1.0倍以上20倍以下とすることができる。
【0044】
第2流路5と第3流路23とを連通するように設けられた第2連通流路9は、流路幅Wcを有するネック流路15を有することができる。このネック流路15を利用して粒子を分離することができる。また、第2連通流路9は、ネック流路15の第2流路側に設けられた進入流路16を有することができる。進入流路16の流路幅は、流路幅Wcよりも大きい。このような進入流路16を設けることにより、第2流路5を流れる液体に含まれる粒子が第2連通流路9に進入しやすくなる。なお、進入流路16は省略することができる。
【0045】
第3流路23は、第2連通流路9により分離された第2粒径以下の粒子を含む液体が第3流路23を流れ第2収集チャンバ21に流入するように設けられる。第2収集チャンバ21は、第2ターゲット粒子を収集するチャンバである。第3流路23から流入する液体に含まれる第2ターゲット粒子が第2収集チャンバ21に溜まる。
【0046】
第3連通流路24は、第2収集チャンバ21と第4流路(排出側流路14)とを連通するように設けられる。また、第2収集チャンバ21と第4流路(排出側流路14)との間に複数の第3連通流路24を設けることができる。第3連通流路24の流路幅Wdは、第2収集チャンバ21内の液体に含まれる粒子から第3粒径以下の粒子を分離するように設定される。また、第3連通流路24は、分離された第3粒径以下の粒子を含む液体が第4流路(排出側流路14)に流入するように設けられる。第3粒径は第2粒径よりも小さく、流路幅Wdは流路幅Wcよりも小さい。このことにより、第3粒径よりも小さい粒子を第4流路(排出側流路14)に流出させることができ、第3粒径よりも大きい粒子を第2収集チャンバ21内に留めることができる。従って、サイズ分画を行うことができ第2粒径よりも小さく第3粒径よりも大きい粒子を第2収集チャンバ21に収集することができる。流路幅Wdと第3粒径との関係は、粒子の柔らかさや形、第2収集チャンバ21と第4流路(排出側流路14)との圧力差などにより変わる。詳細は第1実施形態と同様である。第2収集チャンバ21と第4流路(排出側流路14)との間の複数の第3連通流路24の流路幅Wdは、すべて実質的に同じにすることができる。また、第3連通流路24の深さは、流路幅Waの1.0倍以上20倍以下とすることができる。
このように、第3実施形態の粒子収集装置10では、第2粒径以上第1粒径以下の第1ターゲット粒子を第1収集チャンバ8に収集することができ、第3粒径以上第2粒径以下の第2ターゲット粒子を第2収集チャンバ21に収集することができる。
本実施形態では、第4流路を排出側流路14としているが、第4流路は、排出側流路14とは別の流路であってもよい。この場合、第4流路は、下流側において排出側流路14と接続することができる。
【0047】
粒子収集装置50は、第1収集チャンバ8及び第2収集チャンバ21のそれぞれに粒子抽出用開口30を備えることができる。粒子抽出用開口30については第1実施形態で説明したためここでは省略する。
その他の構成は第1又は第2実施形態と同様である。また、第1又は第2実施形態についての記載は矛盾がない限り第3実施形態についても当てはまる。
【0048】
第4実施形態
図6は、第4実施形態の粒子収集装置50の部分拡大図である。第4実施形態の粒子収集装置50は、複数の流路構造35a~35eを備える。また、粒子収集装置50が備える流路構造35a~35eの数は特に限定されないが、5つ以上とすることができる。また、第4実施形態の粒子収集装置50は、粒子径分布測定装置であってもよい。本実施形態では、排出側流路14が第3流路となる。
流路構造35a~35eは、第1実施形態の粒子収集装置50の流路構造35と同様の構造を有する。ただし、流路構造35a~35eの第1連通流路6は、それぞれ異なる流路幅Waa、Wab、Wac、Wad、Waeを有する。また、第2連通流路9の流路幅Wcは、第1収集チャンバ8a~8eの液体に含まれる粒子が第3流路(排出側流路14)に排出されず、液体のみが第3流路(排出側流路14)に排出される幅に設定することができる。
【0049】
例えば、液体に含まれる50nm以上200nm以下の粒子の粒径分布を測定する場合、粒子収集装置50は、31個の流路構造35を有することができる。31個の流路構造35の第1連通流路6の流路幅Waは、50nm、55nm、60nm、65nm、70nm、75nm、80nm、85nm、90nm、95nm、100nm、105nm、110nm、115nm、120nm、125nm、130nm、135nm、140nm、145nm、150nm、155nm、160nm、165nm、170nm、175nm、180nm、185nm、190nm、195nm、200nmとすることができる。また、第2連通流路9の流路幅Wcは、20nmとすることができる。
【0050】
次に、第4実施形態の粒子収集装置50を用いて粒子径分布を測定する方法について説明する。なお、ここでは、粒子は硬く球状である。また、液体に含まれる粒子を蛍光観察するために、各粒子は蛍光色素又は蛍光タンパク質を有する。
【0051】
まず、各流路構造35a~35eの第1流路4a~4eに様々な粒径の粒子を含む液体を流す。ここでは、毛管現象を利用して第1流路4a~4eに液体を流すことができる。
流路構造35aでは、Waaより小さな粒子は第1連通流路6を通過し、第1収集チャンバ8aに収集される。Waaより大きな粒子は第1流路4aを流れ第3流路(排出側流路14)へ排出される。Waaと同程度の大きさの粒子は、第1連通流路6に詰る。流路構造35b~35eでも同じように、粒子の一部が第1収集チャンバ8に収集され、粒子の一部が第3流路(排出側流路14)へ排出され、粒子の一部が第1連通流路6に詰る。その後、必要に応じて粒子を含まない液体を第1流路4a~4eに流し、第1流路4a~4e及び第2流路5a~5eの粒子を下流(排出側流路側)へと流す。
【0052】
次に、第1収集チャンバ8a~8eに収集された粒子の第1粒子量を計測する。具体的には、第1収集チャンバ8a~8eを蛍光観察し、粒子由来の蛍光の輝度値から第1粒子量を定量化する。
次に、圧力調整部を用いて第1流路4aの圧力が第2流路5aの圧力よりも大きくなるように流路構造35a~35e内の圧力を調整する。具体的には、送液ポンプ25の送液圧力を大きくする。このことにより、第1連通流路6に詰っていた粒子が圧力により第2流路5a~5eへと押し出され、第1収集チャンバ8a~8eに流入し収集される。
次に、第1収集チャンバ8a~8eに収集された粒子の第2粒子量を計測する。具体的には、第1収集チャンバ8a~8eを蛍光観察し、粒子由来の蛍光の輝度値から第2粒子量を定量化する。
次に、第1粒子量と第2粒子量との差(粒子の増加量)を算出する。
【0053】
この粒子の増加量は、第1連通流路6に詰っていた粒子が圧力により押し出され第1収集チャンバ8a~8eに流入した粒子の量に相当する。また、流路構造35aの第1連通流路6に詰っていた粒子の粒子径は第1連通流路6の流路幅Waaとほぼ同じであり、第1収集チャンバ8aの粒子増加量はWaaの粒径を有する粒子の量に相当する。流路構造35b~35eでも同様で、第1収集チャンバ8bの粒子増加量はWabの粒径を有する粒子の量に相当し、第1収集チャンバ8cの粒子増加量はWacの粒径を有する粒子の量に相当し、第1収集チャンバ8dの粒子増加量はWadの粒径を有する粒子の量に相当し、第1収集チャンバ8eの粒子増加量はWaeの粒径を有する粒子の量に相当する。
したがって、各流路構造35a~35eにおける第1粒子量と第2粒子量との差(粒子の増加量)に基づき、第1流路4a~4eに流した液体に含まれる粒子の粒径分布を作成することができる。
その他の構成は第1、第2又は第3実施形態と同様である。また、第1、第2又は第3実施形態についての記載は矛盾がない限り第4実施形態についても当てはまる。
【0054】
粒子収集装置作製実験
図1~3に示したような粒子収集装置を作製した。第1基板及び第2基板には石英ガラス板を用いた。
第1基板の表面上にレジストを塗布した後、電子ビームによりレジストの一部を除去しレジストにパターンを形成した。その後、レジストをマスクとしてエッチングを行い第1基板の一部を除去し溝を形成した。このようなエッチング処理により、第1基板に扁平流路、第1流路、第1連通流路、第2流路、第1収集チャンバ、第2連通流路などとなる溝を形成した。また、フォトリソグラフィとエッチング技術により、第2基板に導入流路及び排出側流路となる溝を形成した。第1連通流路の流路幅Waは140nmとし、第2連通流路の流路幅Wcは110nmとした。また、第1及び第2流路の深さ、第1及び第2連通流路の深さ、並びに第1収集チャンバの深さは、250nmとした。
その後、洗浄した第1基板及び第2基板を接触させて真空炉内に入れ、1060℃で熱処理することにより第1基板と第2基板とを融着させた。このようにして、第1基板と第2基板との間に導入流路、扁平流路、第1流路、第1連通流路、第2流路、第1収集チャンバ、第2連通流路、排出側流路などが形成された粒子収集装置を製造した。
図7(a)は作製した粒子収集装置の写真であり、図7(b)は作製した粒子収集装置の流路構造のSEM写真である。
【0055】
エクソソーム収集実験1
作製した粒子収集装置の注入口28aに、HT-29細胞由来の蛍光標識エクソソームを含む液体を注液し、この液体を毛管現象により又は送液圧力を100kPa、200kPa、300kPa又は400kPaとして導入流路、扁平流路、第1流路、第1連通流路、第2流路、第1収集チャンバ、第2連通流路に流した。その後、第1収集チャンバの蛍光観察を行い、エクソソーム由来の蛍光の輝度値から粒子量を定量化した。
図8はHT-29細胞由来のエクソソームの粒径分布を示すグラフであり、図9はエクソソーム収集実験1の結果を示すグラフである。図9のグラフのように、第1収集チャンバに収集される粒子量は、送液圧力を大きくするほど多くなることがわかった。
図8のグラフのように、HT-29細胞由来のエクソソームは、110nm(Wc)以上140nm(Wa)以下の粒径範囲内のものが多いため、送液圧力の増加に伴い第1収集チャンバに収集される粒子量が多くなったと考えられる。
【0056】
エクソソーム収集実験2
作製した粒子収集装置の注入口28aに、HEK-293T細胞由来の蛍光標識エクソソームを含む液体を注液し、この液体を毛管現象により又は送液圧力を100kPa、200kPa、300kPa又は400kPaとして導入流路、扁平流路、第1流路、第1連通流路、第2流路、第1収集チャンバ、第2連通流路に流した。その後、第1収集チャンバの蛍光観察を行い、エクソソーム由来の蛍光の輝度値から粒子量を定量化した。
図10はHEK-293T細胞由来のエクソソームの粒径分布を示すグラフであり、図11はエクソソーム収集実験2の結果を示すグラフである。図11のグラフのように、第1収集チャンバに収集される粒子量は、毛管現象で第1流路などに液体を流したときよりも、シリンジポンプを利用して第1流路などに流したときの方が多くなったが、シリンジポンプの送液圧力を増加させても第1収集チャンバに収集される粒子量はほぼ一定であった。
図10のグラフのように、HEK-293T細胞由来のエクソソームは、110nm(Wc)以上140nm(Wa)以下の粒径のものが少ないため、送液圧力を増加させても第1収集チャンバに収集される粒子量は多くならなかったと考えられる。
【0057】
粒子抽出口作製実験
第1基板又は第2基板となる石英ガラス板に粒子抽出口となる開口を形成する実験を行った。具体的には、石英ガラス板にフェムト秒レーザを照射することにより粒子抽出口となる開口を形成した。粒子抽出口を形成した石英ガラス板の写真を図12に示す。
図12の写真に見られるような直径1μm~5μmのマイクロ孔(粒子抽出口)を石英ガラス板に形成することができた。
【符号の説明】
【0058】
2:第1基板 3:第2基板 4、4a~4e:第1流路 5、5a~5e:第2流路 6:第1連通流路 8、8a~8e:第1収集チャンバ 9:第2連通流路 10:導入流路 12:扁平流路 14:排出側流路 15:ネック流路 16:進入流路 18:ネック構造 21:第2収集チャンバ 23:第3流路 24:第3連通流路 25:送液ポンプ(圧力調整部) 28a、28b:注入口 29a、29b:排出口 30:粒子抽出口 31:栓 35、35a~35e:流路構造 50:粒子収集装置
図1
図2
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図10
図11
図12