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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】窒化シリコン膜の成膜方法及び成膜装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/318 20060101AFI20240820BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20240820BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20240820BHJP
   C23C 16/455 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
H01L21/318 B
H01L21/31 C
C23C16/42
C23C16/455
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020191483
(22)【出願日】2020-11-18
(65)【公開番号】P2022080422
(43)【公開日】2022-05-30
【審査請求日】2023-07-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】高藤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】内田 博章
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 吉宏
【審査官】宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-195610(JP,A)
【文献】特開2017-034067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/318
H01L 21/31
C23C 16/42
C23C 16/455
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理チャンバ内に収容された基板に窒化シリコン膜を成膜する方法であって、
前記処理チャンバは、
前記基板を載置する載置台と、
該載置台の上方に配置され、誘導結合プラズマを形成する高周波アンテナと、
前記載置台と前記高周波アンテナの間に配置されるシャワーヘッドと、を有し、
(a)前記高周波アンテナに高周波電力を供給しない状態で前記シャワーヘッドから前記処理チャンバ内にハロゲン化シリコンガスを含むガスを供給する工程と、
(b)前記(a)の工程の後、前記ハロゲン化シリコンガスを含むガスの供給を停止し、前記処理チャンバ内を排気する工程と、
(c)前記(b)の工程の後、前記シャワーヘッドから前記処理チャンバ内に窒素含有ガスを供給する工程と、
(d)前記(c)の工程の後、前記高周波アンテナに前記高周波電力を供給し、前記処理チャンバ内に前記誘導結合プラズマを発生させる工程と、
(e)前記(d)の工程の後、前記窒素含有ガスの供給および前記高周波電力の供給を停止し、前記処理チャンバ内を排気する工程と、
前記(a)から前記(e)までの工程を、予め定めた膜厚の前記窒化シリコン膜が形成されるまでに対応するX回(X≧1)繰り返し実行する工程と、を有し、
前記ハロゲン化シリコンガスを含むガスは、四フッ化ケイ素ガス(SiF )及び六フッ化二ケイ素ガス(Si )の少なくともいずれかを含み、
前記(a)から前記(e)までの工程において前記基板の温度を200℃以下に制御する、窒化シリコン膜の成膜方法。
【請求項2】
前記窒素含有ガスは、窒素ガス(N)、及びアンモニア(NH)の少なくともいずれかを含む、
請求項に記載の窒化シリコン膜の成膜方法。
【請求項3】
前記基板の表面には、複数の凹部と凸部とが形成されており、少なくとも一部の前記凹部又は前記凸部の側面は傾斜面により構成され、少なくとも前記傾斜面に前記窒化シリコン膜を形成する、
請求項1又は2に記載の窒化シリコン膜の成膜方法。
【請求項4】
前記基板の表面には、酸化物半導体を含む層が形成されている、
請求項1~のいずれか一項に記載の窒化シリコン膜の成膜方法。
【請求項5】
前記窒化シリコン膜は、前記基板の表面に形成された発光素子及び該発光素子を駆動する前記酸化物半導体を含む駆動素子を封止する封止膜である、
請求項に記載の窒化シリコン膜の成膜方法。
【請求項6】
前記(a)から前記(e)までの工程において前記基板の温度を100℃以下に制御する、
請求項1~のいずれか一項に記載の窒化シリコン膜の成膜方法。
【請求項7】
前記窒素含有ガスに予め定めた濃度のHガス及び/又は希ガスを添加する、
請求項1~のいずれか一項に記載の窒化シリコン膜の成膜方法。
【請求項8】
処理チャンバと、制御部とを有し、前記処理チャンバ内に収容された基板に窒化シリコン膜を成膜する成膜装置であって、
前記処理チャンバは、
前記基板を載置する載置台と、
該載置台の上方に配置され、誘導結合プラズマを形成する高周波アンテナと、
前記載置台と前記高周波アンテナの間に配置されるシャワーヘッドと、を有し、
前記制御部は、
(a)前記高周波アンテナに高周波電力を供給しない状態で前記シャワーヘッドから前記処理チャンバ内にハロゲン化シリコンガスを含むガスを供給する工程と、
(b)前記(a)の工程の後、前記ハロゲン化シリコンガスを含むガスの供給を停止し、前記処理チャンバ内を排気する工程と、
(c)前記(b)の工程の後、前記シャワーヘッドから前記処理チャンバ内に窒素含有ガスを供給する工程と、
(d)前記(c)の工程の後、前記高周波アンテナに前記高周波電力を供給し、前記処理チャンバ内に前記誘導結合プラズマを発生させる工程と、
(e)前記(d)の工程の後、前記窒素含有ガスの供給および前記高周波電力の供給を停止し、前記処理チャンバ内を排気する工程と、
前記(a)から前記(e)までの工程を、予め定めた膜厚の前記窒化シリコン膜が形成されるまでに対応するX回(X≧1)繰り返し実行する工程と、を制御し、
前記ハロゲン化シリコンガスを含むガスは、四フッ化ケイ素ガス(SiF )及び六フッ化二ケイ素ガス(Si )の少なくともいずれかを含み、
更に、前記(a)から前記(e)までの工程において前記基板の温度を200℃以下に制御する、成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化シリコン膜の成膜方法及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1、2は、シリコン含有原料ガスと窒素含有ガスとを、チャンバ内の残留ガスのパージを挟んで交互に供給する工程を繰り返し、ALD(Atomic Layer Deposition)法により窒化シリコン膜を成膜する方法を提案している。係る成膜方法では、工程中に基板の温度を300℃~650℃程度に制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-64924号公報
【文献】特開2000-114257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、基板の温度が200℃以下の環境下でカバレッジの良い窒化シリコン膜を成膜することができる成膜方法及び成膜装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一の態様によれば、処理チャンバ内に収容された基板に窒化シリコン膜を成膜する方法であって、前記処理チャンバは、前記基板を載置する載置台と、該載置台の上方に配置され、誘導結合プラズマを形成する高周波アンテナと、前記載置台と前記高周波アンテナの間に配置されるシャワーヘッドと、を有し、(a)前記高周波アンテナに高周波電力を供給しない状態で前記シャワーヘッドから前記処理チャンバ内にハロゲン化シリコンガスを含むガスを供給する工程と、(b)前記(a)の工程の後、前記ハロゲン化シリコンガスを含むガスの供給を停止し、前記処理チャンバ内を排気する工程と、(c)前記(b)の工程の後、前記シャワーヘッドから前記処理チャンバ内に窒素含有ガスを供給する工程と、(d)前記(c)の工程の後、前記高周波アンテナに前記高周波電力を供給し、前記処理チャンバ内に前記誘導結合プラズマを発生させる工程と、(e)前記(d)の工程の後、前記窒素含有ガスの供給および前記高周波電力の供給を停止し、前記処理チャンバ内を排気する工程と、前記(a)から前記(e)までの工程を、予め定めた膜厚の前記窒化シリコン膜が形成されるまでに対応するX回(X≧1)繰り返し実行する工程と、を有し、前記ハロゲン化シリコンガスを含むガスは、四フッ化ケイ素ガス(SiF )及び六フッ化二ケイ素ガス(Si )の少なくともいずれかを含み、前記(a)から前記(e)までの工程において前記基板の温度を200℃以下に制御する、窒化シリコン膜の成膜方法が提供される。
【発明の効果】
【0006】
一の側面によれば、基板の温度が200℃以下の環境下でカバレッジの良い窒化シリコン膜を成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態に係る有機ELデバイスの一例を示す断面模式図である。
図2】実施形態に係る成膜装置の一例を示す断面模式図である。
図3】実施形態に係る成膜方法の一例を示すフローチャートである。
図4】実施形態に係る成膜方法の一例を示すタイムチャートである。
図5】実施形態及び比較例の成膜方法による窒化シリコン膜の特性評価の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本開示を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0009】
[有機ELデバイス]
有機ELデバイスは水分に弱い特徴を持つ。このため、有機ELデバイスの製造工程において、有機ELデバイスを外部の水分から保護するための封止膜として窒化シリコン膜を成膜する工程がある。しかし、特に酸化物半導体を含む有機ELデバイスでは、更に、酸化物半導体が水素により劣化するため、封止膜としての窒化シリコン膜に含まれる水素を低減することが望まれている。まず、図1を参照して、窒化シリコン膜の封止膜を含む有機ELデバイス200の構成について簡単に説明する。
【0010】
図1は、実施形態に係る有機ELデバイス200の一例を示す断面模式図である。有機ELデバイス200は発光素子駆動回路層110と、陽極120と、正孔注入層130と、正孔輸送層114と、有機発光層115と、バンク160と、電子輸送層116と、電子注入層180と、陰極190と、封止膜220とを有する。陰極190と封止膜220は透明な膜である。
【0011】
発光素子駆動回路層110は、プレート140と、プレート140の上に配置されたトランジスタ素子150(150A、150B)と、トランジスタ素子150を覆うようにプレート140上に配置された平坦化膜157とを有する。
【0012】
プレート140は、例えば、ガラス板、又は樹脂からなるフレキシブルプレートであってもよい。プレート140の上に配置されたトランジスタ素子150は、薄膜トランジスタ(TFT)である。トランジスタ素子150は、ソース・ドレイン電極151と、ソース・ドレイン電極151に接触して形成される半導体層152と、半導体層152の上に形成されたゲート絶縁膜153と、ゲート絶縁膜153の上に配置されたゲート電極154とを含む。2つのトランジスタ素子150(150Aと150B)は、配線155によって互いに電気的に接続されている。この構造により、有機ELデバイス200は、アクティブマトリクス型の構造を有する。半導体層152は、インジウム、ガリウムおよび亜鉛を含む酸化インジウムガリウム亜鉛(IGZO(InGaZnO))、酸化インジウムスズ亜鉛(ITZO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化インジウムガリウム(IGO)、酸化インジウムスズ(ITO)又は酸化インジウム(InO)等の酸化物半導体により構成される。
【0013】
平坦化膜157は、トランジスタ素子150を覆うようにプレート140上に配置される。平坦化膜157によって、発光素子駆動回路層110の表面が平坦になる。
【0014】
有機ELデバイス200は、トップエミッション構造を有し、陽極120と陰極190との間に電圧を印加すると、有機発光層115で発光が生じ、陰極190および封止膜220を通じて光170は外に(上方に)出射する。また、有機発光層115で生じた発光のうち、発光素子駆動回路層110側に向かった光は、陽極120で反射され、陰極190および封止膜220を通じて光170として外に(上方に)出射する。
【0015】
陽極120は、発光素子駆動回路層110の表面上に積層され、陰極190に対して正の電圧を有機ELデバイス200に印加する画素電極である。正孔注入層130は、陽極120上に配置される。正孔輸送層114は、正孔注入層130上に配置される。有機発光層115は、正孔輸送層114上に配置される。更に、電子輸送層116は、有機発光層115の上に配置される。電子注入層180は、電子輸送層116の上に配置される。陰極190は電子注入層180の上に配置される。ただし、正孔輸送層114及び電子輸送層116は、その隣接層である正孔注入層130や電子注入層180、有機発光層115の性能により、省略される場合がある。
【0016】
陽極120、正孔注入層130、正孔輸送層114、有機発光層115、電子輸送層116、電子注入層180、及び陰極190は、発光素子の一例であり、トランジスタ素子150は、酸化物半導体を含む駆動素子の一例である。
【0017】
封止膜220は、外部から有機ELデバイス200の内部に水分が入り込むことをバリアする保護膜として機能する。封止膜220は、基板の表面に形成された発光素子及び該発光素子を駆動する酸化物半導体を含む駆動素子を封止する封止膜の一例である。
【0018】
有機ELデバイス200は水分に弱く、有機ELデバイス200の内部に外部から水分が入り込むと、有機ELデバイス200が劣化する。また、トランジスタ素子150に含まれる酸化物半導体は水素が入り込むことで劣化する。よって、封止膜220を成膜する工程において、水素(H)や水分(HO)を低減するために、水素原子を含有しないSiFガス及びNガスを用いて窒化シリコン膜を成膜することが考えられる。これにより、有機ELデバイス200の製造工程において封止膜220中の水素濃度を低減することで、封止膜220の特性劣化、及び有機ELデバイス200の信頼性悪化を抑制することができる。
【0019】
封止膜220を成膜する工程では、基板の温度を200℃よりも高い温度に制御すると、膜の安定性等の特性が良くなるが、耐熱性の低い有機ELデバイス200に悪影響を及ぼす。そこで、基板の温度を200℃以下、好ましくは100℃以下に制御した状態で窒化シリコン膜を成膜する必要がある。
【0020】
ところが、基板の温度を200℃以下、好ましくは100℃以下に制御し、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により、SiFガス及びNガスを用いて窒化シリコン膜を成膜すると、膜質が悪く不安定な膜となってしまう。不安定な膜とは、例えば、成膜した窒化シリコン膜の中にフッ素が多く残ると、膜中のフッ素が大気中の水分と反応することによって、窒化シリコン膜の膜質を変化させてしまう。基板の温度を200℃以下に制御して窒化シリコン膜を成膜する場合、フッ素が窒化シリコン膜の中に残り易いため、不安定な膜になり易い。一方、前述のとおり窒化シリコン膜の成膜中に基板の温度を、例えば、300℃以上に制御した場合、膜の安定性は良くなるが、製造工程時に加わる熱により有機ELデバイス200が劣化する。
【0021】
加えて、基板の温度を200℃以下に制御し、CVD方式によりSiFガス及びNガスを用いて窒化シリコン膜を成膜すると、カバレッジが悪く、窒化シリコン膜が傾斜面(テーパー部)につきにくいという課題が生じる。
【0022】
例えば、図1に一例を示すように、窒化シリコン膜を成膜する基板の表面には、複数の凹部と凸部とが形成されており、少なくとも一部の凹部又は凸部の側面は傾斜面Aのようにテーパー状に構成される。
【0023】
ところが、窒化シリコン膜中にフッ素が多いと、凹部又は凸部の側面で膜のカバレッジが悪くなり、傾斜面Aで窒化シリコン膜が成膜されなかったり、傾斜面Aで窒化シリコン膜に亀裂等が入ったりする。この結果、外部から有機ELデバイス200の内部に水分が入り込んで有機ELデバイス200が劣化する。
【0024】
以上から、封止膜220として機能する窒化シリコン膜の成膜を、基板の温度が200℃以下の環境下で行い、カバレッジ及び膜の安定性の良い膜を形成し、有機ELデバイス200を劣化させない製造方法(成膜方法)が望まれていた。そこで、本実施形態に係る成膜方法では、基板の温度が200℃以下の環境下でカバレッジ及び膜の安定性の良い膜を成膜する。
【0025】
本実施形態に係る成膜方法では、ALD(Atomic Layer Deposition)方式で成膜を行う。すなわち、最初にSiFガスを供給して基板表面にSiFガスを付着させ、次に、SiFガスを停止してSiFガスの残留ガスを排気する。次に、Nガス及び高周波電力を供給し、Nガスのプラズマを生成して、Nガスのプラズマにより基板表面に付着したSiFガスを窒化させ、これにより、窒化シリコン膜を成膜する。成膜中の基板の温度は200℃以下、好ましくは100℃以下に制御する。本実施形態に係る成膜方法により、図1の傾斜面A等のテーパー部においてもカバレッジ良く窒化シリコン膜を成膜することができる。また、成膜中の基板の温度を200℃以下に制御した環境においても膜質の良い安定した窒化シリコン膜を成膜できる。
【0026】
以下、本実施形態に係る成膜方法を実行する成膜装置の一例について、図2を参照しながら説明した後、本実施形態に係る成膜方法及びその効果について、図3図5を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
[成膜装置]
図2は、実施形態に係る成膜方法を実行する成膜装置100の一例を示す断面模式図である。成膜装置100は、FPD用の平面視矩形の基板(以下、単に「基板」という)Gに対して、各種の基板処理方法を実行する誘導結合型プラズマ(Inductive Coupled Plasma: ICP)処理装置である。成膜装置100は、実施形態に係る成膜方法を実行する成膜装置の一例であって、これに限らない。
【0028】
基板の材料としては、主にガラスが用いられ、用途によっては透明の合成樹脂などが用いられることもある。ここで、基板処理には、成膜処理、エッチング処理が含まれる。FPDとしては、液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display: LCD)が例示される。エレクトロルミネセンス(Electro Luminescence: EL)、プラズマディスプレイパネル(Plasma Display Panel;PDP)等であってもよい。基板Gは、その表面に有機ELデバイス200の発光素子及び駆動素子の回路パターンが形成されている。また、FPD用基板の平面寸法は世代の推移と共に大規模化している。成膜装置100によって処理される基板Gの平面寸法は、例えば、第6世代の約1500mm×1800mm程度の寸法から、第10.5世代の3000mm×3400mm程度の寸法までを少なくとも含む。また、基板Gの厚みは0.2mm乃至数mm程度である。
【0029】
成膜装置100は、直方体状の箱型の処理チャンバ10と、処理チャンバ10内に配設されて基板Gが載置される平面視矩形の外形の基板載置台60と、制御部90とを有する。
【0030】
処理チャンバ10は誘電体板11により上下2つの空間に区画されており、上方空間であるアンテナ室は上チャンバ12により形成され、下方空間である処理室Sは下チャンバ13により形成される。処理チャンバ10はアルミニウム等の金属により形成されており、誘電体板11はアルミナ(Al)等のセラミックスや石英により形成されている。誘電体板11は誘導結合プラズマ装置の窓部材の一例であり、窓部材は誘電体板に代えて複数の金属板で構成してもよい。
【0031】
処理チャンバ10において、下チャンバ13と上チャンバ12の境界となる位置には矩形環状の支持枠14が処理チャンバ10の内側に突設するようにして配設されており、支持枠14に誘電体板11が載置されている。処理チャンバ10は、接地線により接地されている。
【0032】
下チャンバ13の側壁13aには、下チャンバ13に対して基板Gを搬出入するための搬出入口13bが開設されており、搬出入口13bはゲートバルブ20により開閉自在となっている。下チャンバ13には搬送機構を内包する搬送室(いずれも図示せず)が隣接しており、ゲートバルブ20を開閉制御し、搬送機構にて搬出入口13bを介して基板Gの搬出入が行われる。
【0033】
また、下チャンバ13の有する底板13dには複数の排気口13fが開設されている。排気口13fにはガス排気管51が接続され、ガス排気管51は圧力制御バルブ52を介して排気装置53に接続されている。ガス排気管51、圧力制御バルブ52及び排気装置53により、ガス排気部50が形成される。排気装置53はターボ分子ポンプ等の真空ポンプを有し、プロセス中に下チャンバ13内を所定の真空度まで真空引き自在となっている。
【0034】
誘電体板11の下面において、誘電体板11を支持するための支持梁が設けられており、支持梁はシャワーヘッド30を兼ねている。シャワーヘッド30は、アルミニウム等の金属により形成されており、陽極酸化による表面処理が施されていてよい。シャワーヘッド30内には、水平方向に延設するガス流路31が形成されている。ガス流路31には、下方に延設してシャワーヘッド30の下方にある処理室Sに臨むガス吐出孔32が連通している。
【0035】
誘電体板11の上面にはガス流路31に連通するガス導入管45が接続されている。ガス導入管45は上チャンバ12の天井12aに開設されている供給口12bを気密に貫通し、ガス導入管45と気密に結合されたガス供給管41を介して処理ガス供給部40に接続されている。処理ガス供給部40は、ガス導入管45、ガス供給管41、バルブ42a、42b、流量制御器43a、43b、SiFガス供給源44a、及びNガス供給源44bにより形成される。処理ガス供給部40から供給されるSiFガスとNガスは、ガス供給管41及びガス導入管45を介してシャワーヘッド30に供給され、ガス流路31及びガス吐出孔32を介して処理室Sに吐出される。なお、誘電体板11に代えて金属板を用いた場合、金属板にガス吐出孔を設けてシャワーヘッドを兼ねさせるようにしてもよい。
【0036】
アンテナ室を形成する上チャンバ12内には、高周波アンテナ15が配設されている。高周波アンテナ15は、銅等の導電性の金属から形成されるアンテナ線15aを、環状もしくは渦巻き状に巻装することにより形成される。例えば、環状のアンテナ線15aを多重に配設してもよい。
【0037】
アンテナ線15aの端子には上チャンバ12の上方に延設する給電部材16が接続されており、給電部材16の上端には給電線17が接続され、給電線17はインピーダンス整合を行う整合器18を介して高周波電源19に接続されている。高周波アンテナ15に対して高周波電源19から例えば13.56MHzの高周波電力が印加されることにより、下チャンバ13内に誘導電界が形成される。この誘導電界により、シャワーヘッド30から処理室Sに供給された処理ガスがプラズマ化されて誘導結合型プラズマが生成され、プラズマ中のイオンや中性ラジカル等が基板Gに提供される。高周波電源19はプラズマ発生用のソース源であり、基板載置台60に接続されている高周波電源73は、発生したイオンを引き付けて運動エネルギを付与するバイアス源となる。このように、イオンソース源には誘導結合を利用してプラズマを生成し、別電源であるバイアス源を基板載置台60に接続してイオンエネルギの制御を行う。これにより、プラズマの生成とイオンエネルギの制御が独立して行われ、プロセスの自由度を高めることができる。処理ガス供給部40及び高周波電源19は、ガスをプラズマ化し、チャンバ内にプラズマを生成するプラズマ生成部の一例である。
【0038】
基板載置台60は、基材63と、基材63の上面63aに形成されている静電チャック66とを有する。基材63の平面視形状は矩形であり、基板載置台60に載置される基板Gと同程度の平面寸法を有し、長辺の長さは1800mm乃至3400mm程度であり、短辺の長さは約1500mm乃至3000mm程度の寸法に設定できる。この平面寸法に対して、基材63の厚みは、例えば50mm乃至100mm程度となり得る。基材63は、ステンレス鋼やアルミニウム、アルミニウム合金等により形成される。基材63には、矩形平面の全領域をカバーするように蛇行した温調媒体流路62aが設けられている。なお、温調媒体流路62aは、例えば静電チャック66に設けられてもよい。
【0039】
温調媒体流路62aの両端には、温調媒体流路62aに対して温調媒体が供給される送り配管62bと、温調媒体流路62aを流通して昇温された温調媒体が排出される戻り配管62cとが連通している。送り配管62bと戻り配管62cにはそれぞれ、送り流路82と戻り流路83が連通しており、送り流路82と戻り流路83は外部空間Eに設けられたチラーユニット81に連通している。チラーユニット81は、温調媒体の温度や吐出流量を制御する本体部と、温調媒体を圧送するポンプとを有する(いずれも図示せず)。なお、温調媒体としては冷媒が適用される。温調形態は、基材63に温調媒体を流通させる形態であるが、基材63がヒータ等を内蔵し、ヒータにより温調する形態であってもよいし、温調媒体とヒータの双方により温調する形態であってもよい。また、ヒータの代わりに、高温の温調媒体を流通させることにより加熱を伴う温調を行ってもよい。
【0040】
下チャンバ13の底板13dの上には、絶縁材料により形成されて内側に段部を有する箱型の台座68が固定されており、台座68の段部の上に基板載置台60が載置される。基材63の上面には、基板Gが直接載置される静電チャック66が形成されている。静電チャック66は、アルミナ等のセラミックスを溶射して形成される誘電体被膜であるセラミックス層64と、セラミックス層64の内部に埋設されていて静電吸着機能を有する導電層の吸着電極65とを有する。吸着電極65は、給電線74及びスイッチ76を介して直流電源75に接続されている。制御部90により、スイッチ76がオンされると、直流電源75から吸着電極65に直流電圧が印加されることによりクーロン力が発生する。このクーロン力により、基板Gが静電チャック66に静電吸着され、基材63の上面に載置された状態で保持される。また、スイッチ76がオフされ、給電線74から分岐したグランドラインに介在するスイッチ77がオンされると、吸着電極65に溜まった電荷がグランドに流れる。このように、基板載置台60は、基板Gを載置する下部電極を形成する。
【0041】
基材63には熱電対等の温度センサが配設されており、温度センサによるモニター情報は、制御部90に随時送信される。制御部90は、送信された温度のモニター情報に基づいて、基材63及び基板Gの温調制御を実行する。より具体的には、制御部90により、チラーユニット81から送り流路82に供給される温調媒体の温度や流量が調整される。そして、温度調整や流量調整が行われた温調媒体が温調媒体流路62aに循環されることにより、基板載置台60の温調制御が実行される。なお、熱電対等の温度センサは、例えば静電チャック66に配設されてもよい。
【0042】
静電チャック66の外周であって台座68の上面には、矩形枠状のフォーカスリング69が載置され、フォーカスリング69の上面の方が静電チャック66の上面よりも低くなるよう設定されている。フォーカスリング69は、アルミナ等のセラミックスもしくは石英等から形成される。
【0043】
基材63の下面には、給電部材70が接続されている。給電部材70の下端には給電線71が接続されており、給電線71はインピーダンス整合を行う整合器72を介してバイアス源である高周波電源73に接続されている。基板載置台60に対して高周波電源73から例えば3.2MHzの高周波電力が印加されることにより、基板載置台60が下部電極として機能し、プラズマ発生用のソース源である高周波電源19にて生成されたイオンを基板Gに引き付けることができる。
【0044】
基板載置台60の内部には、処理チャンバ10の外部の図示しない搬送アームとの間で基板Gの受け渡しを行うために基板Gを昇降させるリフトピン78が複数、例えば12本設けられている。図1では簡略化し、2本のリフトピン78が図示されている。複数のリフトピン78は、基板載置台60を貫通し、連結部材を介して伝えられるモータの動力によって上下動する。処理容器の外部へ向けて貫通するリフトピン78の貫通孔には、底部ベローズが設けられ(図示せず)、処理容器内の真空側と大気方との間の気密を保持する。
【0045】
制御部90は、成膜装置100の各構成部、例えば、チラーユニット81、高周波電源19,73、直流電源75、処理ガス供給部40、ガス排気部50等の動作を制御する。制御部90は、CPU(Central Processing Unit)及びROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等のメモリを有する。CPUは、メモリの記憶領域に格納されたレシピ(プロセスレシピ)に従い、所定の処理を実行する。レシピには、プロセス条件に対する成膜装置100の制御情報が設定されている。制御情報には、例えば、ガス流量や処理チャンバ10内の圧力、処理チャンバ10内の温度や基材63の温度、プロセス時間等が含まれる。
【0046】
制御部90が適用するレシピ及びプログラムは、例えば、ハードディスクやコンパクトディスク、光磁気ディスク等に記憶されてもよい。また、レシピ等は、CD-ROM、DVD、メモリカード等の可搬性のコンピュータによる読み取りが可能な記憶媒体に収容された状態で制御部90にセットされ、読み出される形態であってもよい。制御部90はその他、コマンドの入力操作等を行うキーボードやマウス等の入力装置、成膜装置100の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等の表示装置、及びプリンタ等の出力装置といったユーザーインターフェイスを有している。
【0047】
[成膜方法]
次に、図3及び図4を用いて、図2の成膜装置100にて実行する、本実施形態に係る成膜方法について説明する。図3は、実施形態に係る成膜方法の一例を示すフローチャートである。図4は、実施形態に係る成膜方法の一例を示すタイムチャートである。初期状態では、図2のバルブ42a、42bは閉じている。
【0048】
まず、図3のステップS1において、基板Wを基板載置台60に載置して準備する。基板Wは、例えば、ゲートバルブ20の開閉により搬出入口13bから処理チャンバ10内に搬送され、基板載置台60に載置される。次に、図3のステップS2において、基板載置台60の温調媒体流路62aにチラーユニット81から所望の温度の温調媒体を循環させ、基板の温度を100℃以下の所定温度に制御する。また、処理チャンバ10内を所定の真空度まで減圧する。
【0049】
次に、処理ガス供給部40は、図3のステップS3において、図2のバルブ42aを開き、ハロゲン化シリコンガスの一例としてSiFガスをSiFガス供給源44aからガス導入管45を介して処理チャンバ10内に供給する。これにより、図4の1サイクル目のSiFガスの供給が開始され、基板の表面にSiFガス分子が付着する。
【0050】
バルブ42aを開いてから所定時間(例えば、10秒)が経過すると、図3のステップS4において、別の所定時間(例えば、10秒)SiFガスの残留ガスを除去する。このとき、図2のバルブ42aを閉じ、SiFガス供給源44aからのSiFガスの供給を停止する。これにより、SiFガスが処理チャンバ10から排気され、SiFガスの残留ガスが除去される。以上が、窒化シリコン膜を成膜するための原料ガスの供給ステップ(以下、「ステップA」とする。)である。ステップS4を実行する間、ArガスやHeガスの不活性ガスを処理チャンバ10内に供給してもよい。これにより、不活性ガスによってSiFガスが処理チャンバ10から排気され、SiFガスの残留ガスが除去される。なお、バルブ42aを開く所定の時間と、SiFガスの残留ガスを除去する所定の時間は、同じ時間に設定してもよいし、異なる時間に設定してもよい。
【0051】
次に、図3のステップS5において、処理ガス供給部40は、窒素含有ガスの一例としてNガスを供給する。次に、図3のステップS6において、高周波電源19から高周波電力(RF(Radio Frequency)電力)を印加する。高周波電力の印加タイミングは、Nガスの供給タイミングの後であってもよいし、Nガスの供給タイミングと同時であってもよい。これにより、図4の1サイクル目のNガスの供給が開始され、かつRF電力の供給が開始され、Nガスが高周波電力により電離し、Nガスのプラズマが生成される。Nガスのプラズマにより、基板の表面に付着したSiF4ガス分子が高周波電力によってSiとFを含む原子に電離し、同じく電離したN原子と反応して窒化シリコン膜が形成される。
【0052】
バルブ42bを開いてから所定時間(例えば、10秒)が経過すると、図3のステップS7において、別の所定時間(例えば、10秒)Nガスの残留ガスを除去する。このとき、図2のバルブ42bを閉じ、Nガス供給源44bからのNガスの供給を停止する。また、高周波電力の印加を停止する。以上が、窒化シリコン膜を成膜するための反応ガスの供給ステップ(以下、「ステップB」とする。)である。ステップS7を実行する間、不活性ガスを処理チャンバ10内に供給してもよい。これにより、不活性ガスによってNガスが処理チャンバ10から排気され、Nガスの残留ガスが除去される。なお、バルブ42bを開く所定の時間と、Nガスの残留ガスを除去する所定の時間は、同じ時間に設定してもよいし、異なる時間に設定してもよい。
【0053】
次に、図3のステップS8において、窒化シリコン膜が予め定めた膜厚に達したかについて、ステップA、Bが予め設定されたX回繰り返し実行されたかを判定する。窒化シリコン膜の膜厚と、ステップA、Bの実行回数とは対応付けられており、ステップA、BがX回繰り返し実行されたとき、窒化シリコン膜は予め定めた膜厚に達する。言い換えると、窒化シリコン膜が到達する予め定めた膜厚に対応するステップA、Bの繰り返し実行回数はX回である。 Xは1以上の整数である。ステップS8において、X回実行したと判定されるまでステップA、Bが繰り返される。これにより、図4に示すように、2サイクル目のステップ(A,B)、3サイクル目のステップ(A,B)、・・・、Xサイクル目のステップ(A,B)が順番に実行される。図3のステップS8において、ステップ(A,B)をX回実行したと判定されるとステップS9に進み、基板を搬出し、本処理を終了する。
【0054】
なお、繰り返し回数Xは、予め設定されていてもよいし、窒化シリコン膜の厚みを、例えば光学的にリアルタイムに測定し、測定結果に応じてリアルタイムに設定してもよい。
【0055】
以上に説明した本実施形態に係る成膜方法による窒化シリコン膜の特性評価の一例について、図5を参照して比較例と比較しながら説明する。図5は、実施形態及び比較例の成膜方法による窒化シリコン膜の特性評価の一例を示す図である。
【0056】
図5に示すように、本実施形態に係る成膜方法はALD方式で成膜したのに対して、比較例ではCVD方式で成膜した。また、本実施形態に係る成膜方法では、成膜中の基板の温度を100℃及び200℃に制御したのに対して、比較例では、成膜中の基板の温度を100℃に制御した。また、いずれもSiFガス及びNガスを使用した。
【0057】
その結果、テーパー部(図1の傾斜面A)のカバレッジを示すb/a(図5に示す窒化シリコン膜の上部の膜厚aに対するテーパー部の膜厚bの比)が比較例では、ほぼ0(つまり、テーパー部に窒化シリコン膜がついていない状態)であった。これに対して、本実施形態に係る成膜方法では、基板の温度が100℃のとき、b/aが「0.37」であり、テーパー部にも窒化シリコン膜を成膜できていることがわかった。また、基板の温度が200℃のとき、b/aが「0.47」であった。つまり、本実施形態に係る成膜方法では、ALD方式を用いて上記に示すプロセス条件に基づき成膜することで、テーパー部にも窒化シリコン膜を成膜でき、カバレッジの良い窒化シリコン膜を成膜できることが証明された。なお、テーパー角θは、比較例の場合は73°、本実施形態の場合は、基板の温度が100℃のとき72°、基板の温度が200℃のとき77°であり、テーパー角は同等となっている。
【0058】
さらに、膜質の指標となる窒化シリコン膜の屈折率(RI:refractive index)は、比較例の場合、「1.79」であり、本実施形態の場合、基板の温度が100℃のとき「1.91」であった。膜の屈折率RIが、1.9~2.0のとき、膜質が良いと評価できる。よって、本実施形態に係る成膜方法は、比較例のCVD方式による成膜よりも、より良い膜質の窒化シリコン膜が形成できることがわかった。
【0059】
以上から、本実施形態に係る成膜方法によれば、成膜中の基板の温度は200℃以下、好ましくは100℃以下に制御する。そして、ハロゲン化シリコンガスを含むガスの供給→排気→窒素含有ガスの供給→排気をX回繰り返すALD方式により窒化シリコン膜の封止膜を、有機ELデバイス200の発光素子上に成膜する。
【0060】
本成膜方法により、発光素子上の傾斜面A等のテーパー部においてもカバレッジが良く、かつ膜質の良い窒化シリコン膜を成膜することができる。また、成膜中の基板の温度を200℃以下の低温に制御した環境においてもカバレッジが良く、膜質特性の良い窒化シリコン膜を成膜できる。耐熱性の低い発光素子上に窒化シリコン膜の封止膜を成膜する工程において、本実施形態に係る成膜方法によれば、さらに、100℃又はそれ以下に基板の温度を制御した場合にもカバレッジが良く、かつ膜質の良い窒化シリコン膜を成膜することができる。
【0061】
なお、本実施形態に係る成膜方法において使用するガスについては、さまざまなバリエーションが考えられる。例えば、ハロゲン化シリコンガスを含むガスに含まれるハロゲン化シリコンガスは、四フッ化ケイ素ガス(SiF)に限られない。ハロゲン化シリコンガスを含むガスは、四フッ化ケイ素ガス(SiF)、四塩化ケイ素ガス(SiCl)、六フッ化二ケイ素ガス(Si)、及び六塩化二ケイ素ガス(SiCl)の少なくともいずれかを含んでいればよい。
【0062】
また、窒素含有ガスは、窒素ガス(N)限られない。窒素含有ガスは、窒素ガス(N)、及びアンモニア(NH)の少なくともいずれかを含んでいればよい。
【0063】
更に、窒素含有ガスにHガスを添加してもよいし、Heガス、Arガス等の希ガスを添加してもよい。Hガスを添加することによって、窒化シリコン膜のカバレッジを更に良くすることができる。
【0064】
ただし、添加するHガスの濃度は、窒化シリコン膜中の水素濃度が15%以下となるよう調整することが好ましい。Hガスに起因する水素は、窒化シリコン膜中に過剰に残留したフッ素に結合してフッ素を除去し、フッ素による窒化シリコン膜の膜質の劣化を抑制することができる。しかしながら、Hガスの量が増えすぎると、フッ素を除去してもなお、フッ素と結合しなかった水素が残留し、基板の表面に形成された発光素子及び該発光素子を駆動する酸化物半導体を含む駆動素子が水素により劣化する懸念があるためである。
【0065】
以上に説明したように、本実施形態の窒化シリコン膜の成膜方法及び成膜装置によれば、基板の温度が200℃以下の環境下でカバレッジの良い窒化シリコン膜を成膜することができる。
【0066】
今回開示された実施形態に係る窒化シリコン膜の成膜方法及び成膜装置は、すべての点において例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で変形及び改良が可能である。上記複数の実施形態に記載された事項は、矛盾しない範囲で他の構成も取り得ることができ、また、矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【0067】
本開示の成膜装置は、Atomic Layer Deposition(ALD)装置、Capacitively Coupled Plasma(CCP)、Inductively Coupled Plasma(ICP)、Radial Line Slot Antenna(RLSA)、Electron Cyclotron Resonance Plasma(ECR)、Helicon Wave Plasma(HWP)のいずれのタイプの装置でも適用可能である。
【符号の説明】
【0068】
10 処理チャンバ
60 基板載置台
100 成膜装置
110 発光素子駆動回路層
120 陽極
130 正孔注入層
114 正孔輸送層
115 有機発光層
116 電子輸送層
150 トランジスタ素子
160 バンク
180 電子注入層
190 陰極
200 有機ELデバイス
220 封止膜
図1
図2
図3
図4
図5