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  • 特許-窒化物蛍光体および発光装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】窒化物蛍光体および発光装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/64 20060101AFI20240821BHJP
   C09K 11/80 20060101ALI20240821BHJP
   C09K 11/59 20060101ALI20240821BHJP
   C09K 11/61 20060101ALI20240821BHJP
   C09K 11/62 20060101ALI20240821BHJP
   C09K 11/67 20060101ALI20240821BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20240821BHJP
【FI】
C09K11/64
C09K11/80
C09K11/59
C09K11/61
C09K11/62
C09K11/67
H01L33/50
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020146159
(22)【出願日】2020-08-31
(65)【公開番号】P2022041119
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-07-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 茂之
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 浩之
(72)【発明者】
【氏名】細川 昌治
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-005697(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109192843(CN,A)
【文献】特開2019-019271(JP,A)
【文献】特開2019-102806(JP,A)
【文献】特開2008-285662(JP,A)
【文献】特開2010-018771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
H01L 33/00-33/64
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される組成を有し、
500nm以上830nm以下の波長範囲における発光強度の積分値である全成分値に対する620nm以上700nm未満の波長範囲における発光強度の積分値である第一赤色成分値の比が、0.5以上0.63以下であり、
前記全成分値に対する700nm以上780nm以下の波長範囲における発光強度の積分値である第二赤色成分値の比が、0.27以上0.37以下である窒化物蛍光体。
CaSrEuSiAl (I)
(前記式(I)中、s、t、u、v、w及びxは、0.82≦s≦0.905、0≦t≦0.04、0.017≦u≦0.042、0.89≦s+t+u≦0.922、0.8≦v≦1.2、0.8≦w≦1.2、1.8≦v+w≦2.2、2.5≦x≦3.2を満たす。)
【請求項2】
前記第二赤色成分値に対する前記第一赤色成分値の比が、0.7以上2.5以下である請求項1に記載の窒化物蛍光体。
【請求項3】
前記式(I)におけるs、t及びuが、0.018≦u/(s+t+u)≦0.047を満たす請求項1又は2に記載の窒化物蛍光体。
【請求項4】
前記窒化物蛍光体の体積平均粒径が、10μm以上30μm以下である請求項1から3のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載され、640nm以上700nm以下の波長範囲に発光ピーク波長を有する窒化物蛍光体を含む蛍光部材と、365nm以上500nm以下の波長範囲に発光ピーク波長を有する発光素子とを備える発光装置。
【請求項6】
前記蛍光部材が、下記式(IIa)から(IIf)のいずれかで表される組成を有する蛍光体からなる群から選択される少なくとも1種を更に含む請求項5に記載の発光装置。
(Y,Gd,Tb,Lu)(Al,Ga)12:Ce (IIa)
(Ba,Sr,Ca)SiO:Eu (IIb)
(Ca,Sr)MgSi16(Cl,F,Br):Eu (IIc)
(Ba,Sr,Ca)Ga:Eu (IId)
(Ba,Sr,Ca)Si:Eu (IIe)
(Si,Ge,Ti)F:Mn (IIf)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化物蛍光体および発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
700nm以上800nm以下の範囲内にピーク波長を有する遠赤色蛍光体と、励起光を発光する発光素子と、を組み合わせた発光装置を植物育成用の光源として利用することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2014/103671号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
遠赤色蛍光体だけでなく、赤色に発光する窒化物蛍光体についても、植物育成用の光源を構成する蛍光体として、植物の育成に効果的であるとして注目される可能性がある。窒化物蛍光体を植物育成用の光源に使用するとき、育成する植物の種類に応じて、また育成する植物の目的とする生育を促すため、窒化物蛍光体の発光スペクトルのうち、より長波側の赤色光の発光強度が求められる可能性がある。
そこで、本開示の一態様は、より長波側の赤色成分を多く含む発光スペクトルを有する窒化物蛍光体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1態様は、下記式(I)で表される組成を有する窒化物蛍光体であって、500nm以上830nm以下の波長範囲における発光強度の積分値である全成分値に対する620nm以上700nm未満の波長範囲における発光強度の積分値である第一赤色成分値の比が、0.5以上0.63以下であり、全成分値に対する700nm以上780nm以下の波長範囲における発光強度の積分値である第二赤色成分値の比が、0.27以上0.37以下である窒化物蛍光体である。
【0006】
CaSrEuSiAl (I)
【0007】
式(I)中、s、t、u、v、w及びxは、0.82≦s≦0.905、0≦t≦0.04、0.017≦u≦0.042、0.89≦s+t+u≦0.922、0.8≦v≦1.2、0.8≦w≦1.2、1.8≦v+w≦2.2、2.5≦x≦3.2を満たす。
【0008】
第2態様は、前記窒化物蛍光体であって、640nm以上700nm以下の波長範囲に発光ピーク波長を有する窒化物蛍光体を含む蛍光部材と、365nm以上500nm以下の波長範囲に発光ピーク波長を有する発光素子と、を備える発光装置である。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様によれば、より長波側の赤色成分を多く含む発光スペクトルを有する窒化物蛍光体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】窒化物蛍光体の波長に対する発光強度を示す発光スペクトルの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。本明細書において、色名と色度座標との関係、光の波長範囲と単色光の色名との関係等は、JIS Z8110に従う。蛍光体の半値幅は、蛍光体の発光スペクトルにおいて、最大発光強度に対して発光強度が50%となる発光スペクトルの波長幅を意味する。蛍光体の平均粒径は、体積平均粒径であり、体積基準の粒径分布において、小径側からの体積累積50%に対応する粒径を指す。蛍光体の粒度分布は、コールター原理に基づく細孔電気抵抗法(電気的検知帯法)により、粒度分布測定装置を用いて測定される。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、窒化物蛍光体および発光装置を例示するものであって、本発明は、以下に示す窒化物蛍光体および発光装置に限定されない。
【0012】
窒化物蛍光体
本実施形態に係る窒化物蛍光体は、下記式(I)で表される組成を有する赤色発光の蛍光体である。また、窒化物蛍光体の発光スペクトルは、500nm以上830nm以下の波長範囲における発光強度の積分値を全成分値とし、620nm以上700nm未満の波長範囲における発光強度の積分値を第一赤色成分値とし、700nm以上780nm以下の波長範囲における発光強度の積分値を第二赤色成分値とする場合に、全成分値に対する第一赤色成分値の比(第一赤色成分値/全成分値;以下、第一赤色成分比ともいう)が、例えば0.5以上0.63以下であり、全成分値に対する第二赤色成分値の比(第二赤色成分値/全成分値;以下、第二赤色成分比ともいう)が、例えば0.27以上0.37以下である。
【0013】
CaSrEuSiAl (I)
【0014】
式(I)中、s、t、u、v、w及びxは、0.82≦s≦0.905、0≦t≦0.04、0.017≦u≦0.042、0.89≦s+t+u≦0.922、0.8≦v≦1.2、0.8≦w≦1.2、1.8≦v+w≦2.2、2.5≦x≦3.2を満たす。
【0015】
窒化物蛍光体は、特定の組成を有し、第一赤色成分比および第二赤色成分比が特定の範囲であることで、より長波側の赤色成分(例えば、700nm以上780nm以下)の強度が高い発光スペクトルを有することができる。
【0016】
窒化物蛍光体の全成分値、第一赤色成分値および第二赤色成分値は、励起波長450nmで得られる発光スペクトルにおいて、所定範囲の発光強度を積分することで算出される。ここで発光スペクトルにおける発光強度は、絶対値であってもよく、相対値であってもよい。具体的に発光スペクトルは、量子効率測定装置(例えば、QE-2000、大塚電子株式会社製)を用いて、室温(25℃±5℃)において測定される。
【0017】
窒化物蛍光体において、第一赤色成分比は、例えば0.5以上0.63以下であってよく、好ましくは0.52以上、0.54以上、または0.55以上であり、好ましくは0.62以下、0.61以下、または0.6以下である。また、第二赤色成分比は、例えば0.27以上0.37以下であってよく、好ましくは0.28以上、0.29以上、または0.30以上であり、好ましくは0.36以下、または0.35以下である。さらに、第一赤色成分比と第に赤色成分比の和は、例えば0.85以上0.95以下であってよく、好ましくは0.88以上、または0.90以上であり、好ましくは0.94以下、または0.92以下である。第一赤色成分比および第二赤色成分比が前記範囲であると、より長波側の赤色成分の強度が高い発光スペクトルを得られる傾向がある。
【0018】
窒化物蛍光体の発光スペクトルにおいては、第二赤色成分値に対する第一赤色成分値の比(第一赤色成分値/第二赤色成分値)が、例えば0.7以上2.5以下であってよく、好ましくは0.9以上、1以上、または1.1以上であり、好ましくは2.2以下、2.1以下、または2以下である。第二赤色成分値に対する第一赤色成分値の比が前記範囲であると、例えば植物育成用の光源とする場合に、茎の伸長、花芽形成が促進される傾向がある。
【0019】
窒化物蛍光体は、紫外線から可視光の短波長側領域である250nm以上500nm以下の範囲の光を吸収する。当該範囲に発光ピーク波長を有する励起光源を用いることにより、発光効率の高い発光装置を提供することができる。特に、250nm以上410nm以下あるいは410nm以上480nm以下の範囲に主発光ピーク波長を有する励起光源を用いることが好ましく、420nm以上470nm以下の範囲に主発光ピーク波長を有する励起光源を用いることがより好ましい。窒化物蛍光体の発光スペクトルは、発光ピーク波長が、例えば640nm以上700nm以下の範囲にあり、650nm以上690nm以下の範囲にあることが好ましい。窒化物蛍光体の発光スペクトルにおける半値幅は、例えば70nm以上130nm以下であり、80nm以上100nm以下が好ましい。
【0020】
窒化物蛍光体の組成は、カルシウム(Ca)と、ユウロピウム(Eu)と、ケイ素(Si)と、アルミニウム(Al)と、窒素(N)とを含み、必要に応じてストロンチウム(Sr)を含んでいてよい。窒化物蛍光体の組成は、アルミニウムを0.95モルとする場合に、カルシウムのモル含有比が例えば0.82以上0.905以下であってよく、好ましくは0.85以上0.9以下、または0.86以上0.895以下であってよい。窒化物蛍光体の組成は、アルミニウムを0.95モルとする場合に、ストロンチウムのモル含有比が例えば0以上0.04以下であってよく、好ましくは0.01以上0.035以下、または0.02以上0.033以下であってよい。窒化物蛍光体の組成は、アルミニウムを0.95モルとする場合に、ユウロピウムのモル含有比が例えば0.017以上0.042以下であってよく、好ましくは0.02以上0.04以下、または0.025以上0.035以下であってよい。窒化物蛍光体の組成は、アルミニウムを0.95モルとする場合に、ケイ素のモル含有比が例えば0.8以上1.2以下であってよく、好ましくは0.9以上1.1以下、または0.95以上1.05以下であってよい。また、窒化物蛍光体の組成は、カルシウムとストロンチウムとユウロピウムの総モル数に対するユウロピウムのモル数の比がたとえば0.018以上0.047以下であってよく、好ましくは0.02以上0.042以下、または0.025以上0.038以下であってよい。
【0021】
窒化物蛍光体の組成においては、カルシウムおよびストロンチウムの一部が、マグネシウム(Mg)、バリウム(Ba)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、およびホウ素(B)からなる群から選択される少なくとも1種の他の元素で置換されていてもよい。窒化物蛍光体の組成において、カルシウムおよびストロンチウムが他の元素に置換される場合、カルシウムおよびストロンチウムの総モル数に対する他の元素の総モル数の比は、例えば0.025以上0.5以下であってよく、好ましくは0.4以下、または0.3以下であり、好ましくは0.03以上である。
【0022】
窒化物蛍光体は、上記式(I)で表される組成を有していてもよい。式(I)において、好ましくはs、t、u、v、w及びxは、0.82≦s≦0.905、0≦t≦0.04、0.017≦u≦0.042、0.0.89≦s+t+u≦0.922、0.8≦v≦1.2、0.8≦w≦1.2、1.8≦v+w≦2.2、2.8≦x≦3.2を満たしてよい。また式(I)においては、s、t及びuが、例えば0.018≦u/(s+t+u)≦0.047を満たしていてよく、好ましくは0.02≦u/(s+t+u)≦0.045、または0.025≦u/(s+t+u)≦0.04を満たしていてよい。
【0023】
窒化物蛍光体は、希土類であるユウロピウム(Eu)が発光中心となる。ただし本実施形態における発光中心は、ユーロピウムのみに限定されず、その一部を他の希土類金属やアルカリ土類金属に置き換えて、Euと共賦活させたものも使用できる。2価希土類イオンであるEu2+は適当な母体を選べば安定に存在し、発光する効果を奏する。
【0024】
窒化物蛍光体の体積平均粒径は、10μm以上であり、発光効率の観点から、13μm以上が好ましく、14μm以上がより好ましい。また体積平均粒径は例えば、30μm以下であり、28μm以下が好ましい。窒化物蛍光体子の体積平均粒径は大きいほうが、励起光の吸収率及び発光効率がより高くなる傾向がある。このように、光学特性に優れる窒化物蛍光体を後述する発光装置に適用することにより、発光装置の発光効率がより向上する。また窒化物蛍光体は、上記の体積平均粒径値を有する粒子が、頻度高く含有されていることが好ましい。すなわち、粒度分布は狭い範囲に分布していることが好ましい。粒度分布のバラツキが小さい蛍光体を用いることにより、より色ムラが抑制され、より良好な色調を有する発光装置が得られる。
【0025】
窒化物蛍光体の製造方法
窒化物蛍光体の製造方法は、Eu原子を含むEu源と、Ca原子を少なくとも含む第2族金属源と、Al原子を含むAl源と、Si原子を含むSi源と、を含む原料混合物を準備することと、原料混合物を熱処理することとを含む。原料混合物は、各原子のモル含有比が、例えば前記式(I)で表される組成比を満たしていてよい。また、熱処理の温度は、例えば1800℃以上2200℃以下であってよい。
【0026】
原料混合物に含まれるEu原子、Ca原子、Sr原子、Al原子およびSi原子の含有比を所定の比にすることで、より長波側の赤色成分の強度が高い発光スペクトルを有する窒化物蛍光体を効率的に製造することができる。
【0027】
原料混合物に含まれるEu源としては、ユウロピウム化合物、ユウロピウム金属単体、ユウロピウム合金等が挙げられる。ユウロピウム化合物としては、ユウロピウムを含む酸化物、水酸化物、窒化物、酸窒化物、フッ化物、塩化物等を挙げることができる。ユウロピウム化合物として具体的には、酸化ユウロピウム(Eu)、窒化ユウロピウム(EuN)、フッ化ユウロピウム(EuF)等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。窒化ユウロピウム(EuN)は、目的とする蛍光体組成の元素のみで構成されているため、不純物の混入をより効果的に抑制できる。また、酸化ユウロピウム(Eu)、フッ化ユウロピウム(EuF)はフラックスとして作用することがあり、好ましく用いられる。ユウロピウム化合物は1種単独でも、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0028】
ユウロピウム化合物は、市販品から適宜選択して用いてもよく、所望のユウロピウム化合物を製造して用いてもよい。例えば、窒化ユウロピウムは、原料となるユウロピウムを不活性ガス雰囲気中で粉砕し、得られた粉体を窒素雰囲気中、又はアンモニア雰囲気中で熱処理して窒化することで得ることができる。粉砕したユウロピウムの平均粒径は、例えば0.1μm以上10μm以下である。また熱処理温度は、例えば600℃以上1200℃以下であり、熱処理時間は、例えば1時間以上20時間以下である。得られた窒化ユウロピウムに、例えば、不活性ガス雰囲気中で粉砕処理を行うことができる。
【0029】
原料混合物はEu源の少なくとも一部を、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm),イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)等の希土類元素の金属化合物、金属単体、合金等に置換した混合物であってもよい。金属化合物としては、酸化物、水酸化物、窒化物、酸窒化物、フッ化物、塩化物等を挙げることができる。
【0030】
Eu源(例えば、ユウロピウム化合物)の純度は、例えば95重量%以上であり、99.5重量%以上が好ましい。純度を所定値以上とすることにより、不純物の影響を少なくして蛍光体の発光強度をより向上することができる。
【0031】
原料混合物に含まれる第2族金属源は、少なくともCaを含み、Mg、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種であり、少なくともCaおよびSrを含むことが好ましい。
【0032】
第2族金属源としては、アルカリ土類金属化合物、アルカリ土類金属単体、アルカリ土類金属を含む合金、Mg化合物、Mg単体、Mgを含む合金等が挙げられる。アルカリ土類金属化合物およびMg化合物としては、アルカリ土類金属またはMgを含む水素化物、酸化物、水酸化物、窒化物、酸窒化物、塩化物、アミド化合物、イミド化合物等を挙げることができ、水素化物、窒化物等が好ましい。また第2族金属源は、Li、Na、K、B、Al等を含んでいてもよい。
【0033】
第2族金属化合物は、市販品から適宜選択して用いてもよく、所望の第2族金属化合物を製造して用いてもよい。例えば、窒化カルシウムは、原料となるカルシウムを不活性ガス雰囲気中で粉砕し、得られた粉体を窒素雰囲気中で熱処理して窒化することで得ることができる。熱処理温度は、例えば600℃以上900℃以下であり、熱処理時間は、例えば1時間以上20時間以下である。得られた窒化カルシウムには、例えば、不活性ガス雰囲気中で粉砕処理を行うことができる。また窒化ストロンチウムは、窒化カルシウムと同様にして得ることができるが、窒化カルシウムの場合と異なり、含まれる窒素量を製造条件によって変更することができる。
【0034】
第2族金属源の純度は、例えば95重量%以上であり、99.5重量%以上が好ましい。純度を所定値以上とすることにより、不純物の影響を少なくして蛍光体の発光強度をより向上することができる。
【0035】
原料混合物に含まれるAl源としては、アルミニウム化合物、アルミニウム金属単体、アルミニウム合金等を挙げることができる。アルミニウム化合物としては、アルミニウムを含む酸化物、水酸化物、窒化物、酸窒化物、フッ化物、塩化物等を挙げることができる。アルミニウム化合物として具体的には、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al)、水酸化アルミニウム(Al(OH))等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、窒化アルミニウムがより好ましい。窒化アルミニウムは目的とする蛍光体組成の元素のみで構成されているため、不純物の混入をより効果的に抑制できる。窒化アルミニウムは、例えば、酸素や水素を含むアルミニウム化合物と比較して、それらの元素の影響を少なくすることができ、金属単体と比較して窒化反応が不要である。アルミニウム化合物は1種単独でも、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0036】
アルミニウム化合物は、市販品から適宜選択して用いてもよく、所望のアルミニウム化合物を製造して用いてもよい。例えば窒化アルミニウムはアルミニウムの直接窒化法等により製造することができる。
【0037】
原料混合物はAl源の少なくとも一部を、ガリウム、インジウム、バナジウム、クロム、コバルト等の第III族元素の金属化合物、金属単体、合金等に置換した混合物であってもよい。金属化合物としては、酸化物、水酸化物、窒化物、酸窒化物、フッ化物、塩化物等を挙げることができる。
【0038】
Al源(例えば、アルミニウム化合物)の純度は、例えば95重量%以上であり、99重量%以上が好ましい。純度を所定値以上とすることにより、不純物の影響を少なくして蛍光体の発光強度をより向上することができる。
【0039】
原料混合物に含まれるSi源としては、ケイ素化合物、ケイ素単体等を挙げることができる。ケイ素化合物としては、ケイ素を含む酸化物、水酸化物、窒化物、酸窒化物、フッ化物、塩化物等を挙げることができる。ケイ素化合物として具体的には、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、ケイ酸塩等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、窒化ケイ素がより好ましい。窒化ケイ素は目的とする蛍光体組成の元素のみで構成されているため、不純物の混入をより効果的に抑制できる。窒化ケイ素は、例えば、酸素や水素を含むケイ素化合物と比較して、それらの元素の影響を少なくすることができ、金属単体と比較して窒化反応が不要である。ケイ素化合物は1種単独でも、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0040】
ケイ素化合物は、市販品から適宜選択して用いてもよく、所望のケイ素化合物を製造して用いてもよい。例えば窒化ケイ素は、原料となるケイ素を不活性ガス雰囲気中で粉砕し、得られた粉体を窒素雰囲気中で熱処理して窒化することで得ることができる。熱処理温度は、例えば800℃以上2000℃以下であり、熱処理時間は、例えば1時間以上20時間以下である。得られた窒化ケイ素には、例えば、不活性ガス雰囲気中で粉砕処理を行うことができる。
【0041】
原料混合物はSi源の一部を、ゲルマニウム、スズ、チタン、ジルコニウム、ハフニウム等の第IV族元素の金属化合物、金属単体、合金等に置換した混合物であってもよい。金属化合物としては、酸化物、水酸化物、窒化物、酸窒化物、フッ化物、塩化物等を挙げることができる。
【0042】
Si源(例えば、ケイ素化合物)の純度は、例えば95重量%以上であり、99重量%以上が好ましい。純度を所定値以上とすることにより、不純物の影響を少なくして蛍光体の発光強度をより向上することができる。
【0043】
原料混合物は、金属フッ化物の少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。金属フッ化物としては、アルカリ土類金属フッ化物、アルカリ金属フッ化物等を挙げることができる。金属フッ化物は、少なくともアルカリ土類金属を含んでいてよく、アルカリ土類金属に加えて、Li、Na、K、B、Al等をさらに含んでいてもよい。アルカリ土類金属フッ化物に含まれるアルカリ土類金属は、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種であり、少なくともCaと、Mg、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種とを含むことが好ましく、Ca及びSrの少なくとも一方を含むことがより好ましい。また、金属フッ化物は、Eu源および第2族金属源の少なくとも一方を兼ねていてもよい。原料混合物における金属フッ化物の含有量は、Alに対するフッ素原子のモル含有比が、例えば0.02以上0.3以下となる量であってよく、モル含有比は0.02以上0.3未満が好ましく、0.02以上0.27以下がより好ましく、0.03以上0.18以下が更に好ましく、0.04以上0.13以下が更に好ましい。モル含有比を上記下限値以上とすることにより、フラックスとしての効果を十分に得ることができる。ある程度の量のフラックスを含むと、フラックスの効果が飽和してしまいそれ以上の量を含んでも効果が見込めないので、上記上限値以下することにより、フラックスを必要以上含ませることなくフラックスの効果を得ることができる。
【0044】
金属フッ化物の純度は、例えば95重量%以上であり、99重量%以上が好ましい。純度を所定値以上とすることにより、不純物の影響を少なくして蛍光体の発光強度をより向上することができる。金属フッ化物は、市販品から適宜選択して用いてもよく、所望の金属フッ化物を製造して用いてもよい。
【0045】
原料混合物は、金属フッ化物に加えて、それ以外のハロゲン化物等のフラックスを更に含んでいてもよい。ハロゲン化物としては、希土類、アルカリ金属等の塩化物等が挙げられる。原料混合物がフラックスを含む場合、その含有量は金属フッ化物に対して、例えば20質量%以下であり、10質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
【0046】
原料混合物は、必要に応じて別途準備したシリコンナイトライド粒子を更に含んでいてもよい。原料混合物がシリコンナイトライド粒子を含む場合、その含有量は原料混合物の総量中に、例えば1質量%以上50質量%以下とすることができる。
【0047】
原料混合物は、Eu源と、第2族金属元素源と、Al源と、Si源とを所定の量比で混合することで調製できる。原料混合物における各成分の混合比は、例えば下記式(Ia)におけるi、j、k、l、m及びnが、式(Ia)に規定する以下の要件を満たすように選択すればよい。
CaSrEuSiAl (Ia)
式中、i、j、k、l、m及びnは、0.91≦i≦0.98、0≦j≦0.06、0.02≦k≦0.05、0.8≦i+j+k≦1.1、0.8≦l≦1.2、0.8≦m≦1.2、1.8≦l+m≦2.2、2.5≦n≦3.2を満たしてよく、好ましくは、0.91≦i≦0.97、0≦j≦0.05、0.03≦k≦0.045、0.9≦i+j+k≦1、0.9≦l≦1.1、0.9≦m≦1.1、1.9≦l+m≦2.1、2.7≦n≦3.1を満たしてよい。また、i、jおよびkが、0.02≦k/(i+j+k)≦0.05を満たしてよく、0.03≦k/(i+j+k)≦0.04を満たしてよい。
【0048】
窒化物蛍光体の製造方法では、窒化物蛍光体に含まれるEuのモル含有比を所定の範囲とすることができる。原料混合物または窒化物蛍光体におけるEu源と第2金属元素源の総モル数に対するEu源のモル含有比をEu比とすると、原料混合物におけるEu比に対する窒化物蛍光体におけるEu比の比(窒化物蛍光体/原料混合物)は、例えば、0.8以上0.9以下であってよく、好ましくは0.82以上、または0.84以上であり、また好ましくは0.86以下、または0.85未満である。
【0049】
原料混合物は、原料混合物を構成する各成分を所望の配合比になるように計量した後、ボールミルなどを用いる混合方法、ヘンシェルミキサー、V型ブレンダ―などの混合機を用いる混合方法、乳鉢と乳棒を用いる混合方法などにより各成分を混合することで得ることができる。混合は、乾式混合で行うこともできるし、溶媒等を加えて湿式混合で行うこともできる。
【0050】
得られた原料混合物を熱処理することで、所望の発光特性を有する窒化物蛍光体を得ることができる。原料混合物の熱処理温度は、例えば1200℃以上であり、好ましくは1500℃以上、1800℃以上、または1900℃以上であってよい。また熱処理温度は、例えば2200℃以下であり、好ましくは2150℃以下、2100℃以下、または2050℃以下である。上記下限値以上の温度で熱処理することで、Euが結晶中に入り込み易く、所望の窒化物蛍光体が効率よく形成される。また熱処理温度が上記上限値以下であると形成される窒化物蛍光体の分解が抑制される傾向がある。
【0051】
原料混合物の熱処理における雰囲気は、窒素ガスを含む雰囲気が好ましく、実質的に窒素ガス雰囲気であることがより好ましい。窒素ガスを含む雰囲気とすることにより、原料に含まれるケイ素を窒化させることもできる。また、窒化物である原料や蛍光体の分解を抑制することができる。原料混合物の熱処理の雰囲気が窒素ガスを含む場合、窒素ガスに加えて、水素、アルゴン等の希ガス、二酸化炭素、一酸化炭素、酸素、アンモニアなどの他のガスを含んでいてもよい。また原料混合物の熱処理の雰囲気における窒素ガスの含有率は、例えば90体積%以上であり、95体積%以上が好ましい。窒素以外の元素を含むガスの含有率を所定値以下とすることにより、それらのガス成分が不純物を形成することによる蛍光体の発光強度の低下が抑制される。
【0052】
原料混合物の熱処理における圧力は、例えば、常圧から200MPaとすることができる。生成する窒化物蛍光体の分解を抑制する観点から、圧力は高い方が好ましく、ゲージ圧として0.1MPa以上200MPa以下が好ましく、0.6MPa以上1.2MPa以下が工業的な設備の制約も少なく、より好ましい。
【0053】
原料混合物の熱処理は、単一の温度で行ってもよく、2以上の熱処理温度を含む多段階で行ってもよい。多段階で熱処理を行う場合、例えば800℃以上1400℃以下で一段階目の熱処理を行い、その後、徐々に昇温して1500℃以上2100℃以下で二段階目の熱処理を行ってもよい。
【0054】
原料混合物の熱処理では、例えば室温から所定の温度に昇温して熱処理する。昇温時間は、例えば1時間以上48時間以下であり、2時間以上24時間以下が好ましく、3時間以上20時間以下であることがより好ましい。昇温時間が上記下限値以上であると、窒化物蛍光体の粒子成長が充分に進行する傾向があり、またEuが蛍光体粒子の結晶中に入り込み易くなる傾向がある。
【0055】
原料混合物の熱処理においては所定温度での保持時間を設けてもよい。保持時間は、例えば0.5時間以上48時間以下であり、1時間以上30時間以下が好ましく、2時間以上20時間以下であることがより好ましい。保持時間を上記下限値以上とすることにより均一な粒子成長をより促進することができる。また、保持時間を上記上限値以下とすることにより蛍光体の分解をより抑制することができる。
【0056】
原料混合物の熱処理における所定温度から室温までの降温時間は、例えば0.1時間以上20時間以下であり、1時間以上15時間以下が好ましく、3時間以上12時間以下であることがより好ましい。なお、所定温度から室温まで降温する間に適宜選択される温度での保持時間を設けてもよい。この保持時間は、例えば、窒化物蛍光体の発光強度がより向上するように調節される。降温中の所定の温度における保持時間は例えば、0.1時間以上20時間以下であり、1時間以上10時間以下が好ましい。また保持時間における温度は、例えば1000℃以上1800℃未満であり、1200℃以上1700℃以下が好ましい。
【0057】
原料混合物の熱処理は、例えばガス加圧電気炉を用いて行うことができる。原料混合物の熱処理は、例えば原料混合物を、黒鉛等の炭素材質又は窒化ホウ素(BN)材質のルツボ、ボート等に充填して用いて行うことができる。炭素材質、窒化ホウ素材質以外に、アルミナ(Al)、Mo材質等を使用することもできる。中でも窒化ホウ素材質のルツボ、ボートを用いることが好ましい。
【0058】
原料混合物の熱処理後には、熱処理で得られる窒化物蛍光体に対して、解砕、粉砕、分級操作等の処理を組合せて行う整粒工程を含んでいてもよい。整粒工程により所望の粒径の粉末を得ることができる。具体的には、窒化物蛍光体を粗粉砕した後に、ボールミル、ジェットミル、振動ミルなどの一般的な粉砕機を用いて所定の粒径に粉砕することができる。ただし、過剰な粉砕を行うとシリコンナイトライド粒子表面に欠陥が生じて、輝度低下を引き起こすこともある。粉砕で生じた粒径の異なるものが存在する場合には、分級を行い、粒径を整えることもできる。
【0059】
発光装置
発光装置は、前記窒化物蛍光体を含む蛍光部材と、365nm以上500nm以下の波長範囲に発光ピーク波長を有する発光素子とを備える。発光装置は、可視光の短波長側(例えば、380nm以上485nm以下の範囲)の光を発し、発光ピーク波長が365nm以上500nm以下の範囲内にある窒化ガリウム系化合物半導体の発光素子と、発光素子を載置する成形体とを有する。成形体は、第1のリード及び第2のリードと、樹脂部とが一体的に成形されてなるものである。成形体は底面と側面を持つ凹部を形成しており、凹部の底面に発光素子が載置されている。発光素子は一対の正負の電極を有しており、その一対の正負の電極はそれぞれ第1のリード及び第2のリードとワイヤを介して電気的に接続されている。発光素子は蛍光部材により被覆されている。蛍光部材は例えば、発光素子からの光を波長変換する蛍光体として第1蛍光体と第2蛍光体と樹脂とを含有してなる。
【0060】
発光素子の発光ピーク波長は、365nm以上500nm以下の波長範囲にあり、好ましくは380nm以上470nm以下の波長範囲内にあり、より好ましくは400nm以上460nm以下の波長範囲内にあることが好ましい。この波長範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子を励起光源として用いることにより、発光素子からの光と蛍光体からの蛍光との混色光を発する発光装置を構成することが可能となる。さらに、発光素子から放射される光の一部を発光装置から外部に放射される光の一部として有効に利用することができるため、高い発光効率を有する発光装置を得ることができる。
【0061】
発光素子の発光スペクトルの半値幅は例えば、30nm以下とすることができる。発光素子として、例えば、窒化物系半導体を用いた半導体発光素子を用いることが好ましい。励起光源として半導体発光素子を用いることによって、高効率で入力に対する出力のリニアリティが高く、機械的衝撃にも強い安定した発光装置を得ることができる。
【0062】
蛍光部材は、少なくとも第1蛍光体を含み、必要に応じてその他の蛍光体、樹脂等を含むことができる。第1蛍光体に含まれる窒化物蛍光体の詳細は既述の通りであり、好ましい態様も同様である。
【0063】
蛍光部材は第1蛍光体に加えて第2蛍光体を含んでいてもよい。蛍光部材が第2蛍光体を含むことで、発光素子と、第1蛍光体及び第2蛍光体が発する光の混合色を発する発光装置を構成することができる。
【0064】
第2蛍光体としては、例えば、下記式(IIa)から(IIi)のいずれかで示される組成を有する蛍光体を挙げることができ、これらからなる群から選択される式で示される組成を有する蛍光体の少なくとも1種を含むことが好ましく、式(IIa)から(IIf)で示される組成を有する蛍光体の少なくとも1種を含むことにより、演色性および発光効率が高い発光装置が得られる点でより好ましい。発光装置は第2蛍光体を1種単独で含んでいてよく、2種以上を組合せて含んでいてもよい。
【0065】
(Y,Gd,Tb,Lu)(Al,Ga)12:Ce (IIa)
(Ba,Sr,Ca)SiO:Eu (IIb)
(Ca,Sr)MgSi16(Cl,F,Br):Eu (IIc)
(Ba,Sr,Ca)Ga:Eu (IId)
(Ba,Sr,Ca)Si:Eu (IIe)
(Si,Ge,Ti)F:Mn (IIf)
Si6-pAl8-p:Eu(0<p≦4.2) (IIg)
(La,Y)Si11:Ce (IIh)
(Sr,Ca、Ba)LiAl:Eu (IIi)
【0066】
第2蛍光体の平均粒径は、例えば2μm以上35μm以下であり、5μm以上30μm以下であることが好ましい。第2蛍光体の平均粒径が、上記下限値以上であると、励起光源からの光の吸収率を高くし、高い発光強度で所望の色度を有する発光を得ることができる。また、第2蛍光体の平均粒径が上記上限値以下であると、発光装置の蛍光部材に第2蛍光体を含有させる場合に、発光装置の製造工程における作業性を向上させることができる。
【0067】
蛍光部材は、第1蛍光体に加えて少なくとも1種の樹脂を含むことができる。樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂などを挙げることができる。
【0068】
蛍光部材は、第1蛍光体に加えてその他の成分を必要に応じて含んでいてもよい。その他の成分としては、シリカ、チタン酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム等のフィラー、光安定化剤、着色剤等を挙げることができる。蛍光部材がその他の成分を含む場合、例えば、その他の成分として、フィラーを含む場合、その含有量は樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上20質量部以下とすることができる。
【実施例
【0069】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0070】
(実施例1)
Ca、CaF、AlN、Si、EuNを各原料として用い、これらを仕込み量比としてのモル比が、Ca(Ca):Ca(CaF):Eu:Al:Si:F=0.951:0.029:0.02:0.95:1.05:0.059になるように、不活性雰囲気のグローブボックス内で計量、混合して原料混合物を得た。原料混合物をルツボに充填し、窒素ガス雰囲気で、ゲージ圧0.92MPaとして、1800℃から2100℃で熱処理を行った。その後、粉砕、分散、分級などの処理を行うことで、CaSrEuSiAlで表される組成を有する蛍光体として、実施例1の窒化物蛍光体の粉末を得た。
【0071】
(実施例2)
SrN(x=2/3相当)、Ca、CaF、AlN、Si、EuNを各原料として用い、これらを仕込み量比としてのモル比が、Ca(Ca):Ca(CaF):Sr:Eu:Al:Si:F=0.902:0.029:0.049:0.02:0.95:1.05:0.059になるようにした以外は、実施例1と同等の条件により、実施例2の窒化物蛍光体を得た。
【0072】
(実施例3)
Ca、CaF、AlN、Si、EuNを各原料として用い、各原料のモル比が、Ca(Ca):Ca(CaF):Eu:Al:Si:F=0.941:0.029:0.03:0.95:1.05:0.058になるようにしたこと以外は実施例1と同等の条件により、実施例3の窒化物蛍光体を得た。
【0073】
(実施例4)
各原料のモル比が、Ca(Ca):Ca(CaF):Eu:Al:Si:F=0.Ca、CaF、AlN、Si、EuNを各原料として用い、0.931:0.029:0.04:0.95:1.05:0.057になるようにしたこと以外は実施例1と同等の条件により、実施例4の窒化物蛍光体を得た。
【0074】
(実施例5)
SrN(x=2/3相当)、Ca、CaF、AlN、Si、EuNを各原料として用い、各原料のモル比が、Ca(Ca):Ca(CaF):Sr:Eu:Al:Si:F=0.883:0.029:0.048:0.04:0.95:1.05:0.058になるようにしたこと以外は実施例1と同等の条件により、実施例5の窒化物蛍光体を得た。
【0075】
(実施例6)
Ca、CaF、AlN、Si、EuNを各原料として用い、各原料のモル比が、Ca(Ca):Ca(CaF):Eu:Al:Si:F=0.922:0.029:0.05:0.95:1.05:0.059になるようにしたこと以外は実施例1と同等の条件により、実施例6の窒化物蛍光体を得た。
【0076】
(比較例1)
Ca、CaF、AlN、Si、EuNを各原料として用い、各原料のモル比が、Ca(Ca):Ca(CaF):Eu:Al:Si:F=0.951:0.029:0.018:0.95:1.05:0.059になるようにしたこと以外は実施例1と同等の条件により、比較例1の窒化物蛍光体を得た。
【0077】
比較例1及び実施例1から6で得られた蛍光体について、ICP-AES装置(Perkin Elmer社製)、イオンクロマトグラフィーシステム(サーモフィッシャーサイエンティフィック製/旧 日本ダイオネクス株式会社製)により組成を分析した。結果を、Al=0.95を基準にしたモル比として表1に示す。また、上記で得られた蛍光体について量子効率測定装置(QE-2000、大塚電子株式会社製)を用い、励起波長450nm、室温(25℃±5℃)で発光スペクトルを測定し、併せて色度座標、発光ピーク波長、発光輝度を測定した。発光スペクトルを図2に示す。
【0078】
得られた発光スペクトルに基づいて、500nm以上830nm以下の波長範囲における発光強度の積分値である全成分値、620nm以上700nm未満の波長範囲における発光強度の積分値である第一赤色成分値、および700nm以上780nm以下の波長範囲における発光強度の積分値である第二赤色成分値を算出した。次いで、全成分値に対する第一赤色成分値の比(第一赤色成分比)、全成分値に対する第二赤色成分値の比(第二赤色成分比)、および第二赤色成分値に対する第一赤色成分値の比(第一赤色成分値/第二赤色成分値)を算出した。また、比較例1を基準(100%)としたときの相対輝度(%)、相対第一赤色成分値(%)および相対第二赤色成分値を算出した。結果を表2に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
表2に示されるように、実施例1から6の蛍光体は、第二赤色成分値に対する第一赤色成分値の比が2.5以下であり、第二赤色成分値に対する第一赤色成分値の比が2.6である比較例1と比べ第一赤色成分比が少なく第二赤色成分比が多くなっている。これは、実施例1から6のように、Euモル比を比較例1よりも多めにすることで、蛍光体の発光が蛍光体自体に吸収される(自己吸収)の傾向が強くなり、発光スペクトルの発光ピーク波長よりも短波長側の発光強度が減少したためと考えられる。そのため、実施例1から6の蛍光体は第二赤色成分値に対する第一赤色成分値の比が比較例1の蛍光体よりも小さくなっている。また、実施例2および5のように、CaをSrで置換することでも同様に第一赤色成分値が減少して、第二赤色成分値に対する第一赤色成分値の比が、実施例2は比較例1、実施例5は実施例4の同じEuモル比の蛍光体よりも小さくなっている。実施例1から6の蛍光体は、より長波側の赤色成分を多く含む発光スペクトルを有する窒化物蛍光体であることが分かる。特に、実施例1から3の蛍光体は、Euのモル比を特定の範囲にすることで、蛍光体の自己吸収もある程度は抑制され、より長波側の赤色成分を多く含む発光スペクトルを有することに加え、さらに発光輝度が他の実施例よりも、比較例1とほぼ同等に維持されていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本開示の窒化物蛍光体を用いた発光装置は、発光ダイオードを励起光源とする発光特性に極めて優れた照明用光源、LEDディスプレイ、液晶用バックライト光源、信号機、照明式スイッチ、各種センサ及び各種インジケータ等に好適に利用できる。特に植物栽培用照明の光源等として好適に利用できる。
図1