(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】バイオサーファクタント産生組換え微生物
(51)【国際特許分類】
C12N 15/81 20060101AFI20240821BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240821BHJP
C12P 7/64 20220101ALI20240821BHJP
C12N 15/55 20060101ALN20240821BHJP
【FI】
C12N15/81 Z ZNA
C12N1/19
C12P7/64
C12N15/55
(21)【出願番号】P 2021533006
(86)(22)【出願日】2020-07-08
(86)【国際出願番号】 JP2020026760
(87)【国際公開番号】W WO2021010264
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2019133055
(32)【優先日】2019-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 友岳
(72)【発明者】
【氏名】雜賀 あずさ
(72)【発明者】
【氏名】小池 英明
(72)【発明者】
【氏名】福岡 徳馬
(72)【発明者】
【氏名】北本 大
(72)【発明者】
【氏名】菅原 知宏
(72)【発明者】
【氏名】山本 周平
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 敦
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/208791(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/109360(WO,A1)
【文献】特開2011-182740(JP,A)
【文献】特開2007-185142(JP,A)
【文献】国際公開第2012/146937(WO,A1)
【文献】Appl Microbiol Biotechnol,2017年,Vol.101,pp.8345-8352
【文献】Biosci. Biotehnol. Biochem.,2008年,Vol.72, No.2,pp.456-462
【文献】Appl. Microbiol. Biotechnol.,2007年,Vol.74,pp.1300-1307
【文献】Appl. Micribiol. Biotechnol.,2010年,Vol.88,pp.679-688
【文献】Journal of Bioscience and Bioengineering,2018年,Vol.126, No.6,pp.676-681
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12P 7/00-7/66
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1又は配列番号2の塩基配列と90%以上の同一性を有するプロモータ
ーの制御下に
シュードザイマ属微生物由来のリパーゼをコードする遺伝子を有する発現ベクターで形質転換され
たシュードザイマ・ツクバエンシスである、マンノシルエリスリトールリピッド産生微生物。
【請求項2】
プロモーターが、配列番号1又は2の塩基配列を有する、請求項1に記載のマンノシルエリスリトールリピッド産生微生物。
【請求項3】
リパーゼをコードする遺伝子がシュードザイマ
・ツクバエンシス又はシュードザイマ・アンタークティカ由来である、請求項1又は2に記載のマンノシルエリスリトールリピッド産生微生物
【請求項4】
配列番号1又は配列番号2の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を有するプロモータ
ーの制御下に
シュードザイマ属微生物由来のリパーゼをコードする遺伝子を有する発現ベクター
であって、
マンノシルエリスリトールリピッド産生能を有するシュードザイマ・ツクバエンシスを形質転換するための発現ベクター。
【請求項5】
プロモーターが、配列番号1又は2の塩基配列を有する、請求項4に記載の発現ベクター。
【請求項6】
リパーゼをコードする遺伝子がシュードザイマ・ツクバエンシス又はシュードザイマ・アンタークティカ由来である、請求項4又は5に記載の発現ベクター。
【請求項7】
請求項
4~6のいずれかに記載の発現ベクターで
シュードザイマ・ツクバエンシスを形質転換することを含む、請求項1に記載のマンノシルエリスリトールリピッド産生微生物を製造する方法。
【請求項8】
請求項1~
3のいずれかに記載のマンノシルエリスリトールリピッド産生微生物を用いて、マンノシルエリスリトールリピッ
ドを製造する方法。
【請求項9】
請求項1~
3のいずれかに記載のマンノシルエリスリトールリピッド産生微生物を植物油脂を含む培地で培養することを含む、マンノシルエリスリトールリピッ
ドを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
微生物を用いたバイオサーファクタントの製造に関する技術が開示される。
【背景技術】
【0002】
リパーゼは、植物油脂等の油脂類を構成するトリグリセリドのエステル結合を切断し、脂肪酸とグリセリンに分解する酵素である。リパーゼは多くの生物が保有し、生体内の反応のみならず、多くの工業用途に使用されている。
【0003】
バイオサーファクタントは微生物が生産する天然の界面活性剤であり、生分解性が高く、環境低負荷であり、種々の有益な生理機能を有する。よって、食品工業、化粧品工業、医薬品工業、化学工業、環境工業分野等で使用すれば、環境調和型の社会を実現する上で有意義である。
【0004】
バイオサーファクタントは、糖脂質系、アシルペプタイド系、リン脂質系、脂肪酸系および高分子系の5つに分類される。これらの中でも、糖脂質系の界面活性剤が最もよく研究されている。このような糖脂質系のバイオサーファクタントとしては、マンノースにエリスリトールがグリコシド結合したマンノシルエリスリトール(以下、MEとも称す。)に、更に脂肪酸がエステル結合したマンノシルエリスリトールリピッド(以下、MELとも称す。)、並びに、ラムノリピッド、ユスチラジン酸、トレハロースリピッド、及びソホロースリピッド等が知られている。
【0005】
MELについては、植物油脂等の油脂類を原料に製造された例が多く報告されている。例えば、非特許文献1及び2には、カンジダ・エスピー(Candida sp.) B-7株を用いて5質量%の大豆油から5日間で35g/L(生産速度:0.3g/L/h、原料収率:70質量%)のMELの生産が可能であることが報告されている。非特許文献3及び4には、カンジダ・アンタークティカ(Candida antarctica)T-34株を用いて8質量%の大豆油から8日間で38g/L(生産速度:0.2g/L/h、原料収率:48質量%)のMELの生産が可能であることが報告されている。
【0006】
非特許文献5には、カンジダ・アンタークティカT-34株を用いて6日間隔で計3回の逐次流加により24日後に25質量%のピーナッツ油から110g/L(生産速度:0.2g/L/h、原料収率:44質量%)のMELの生産が可能であることが報告されている。非特許文献6には、カンジダ・エスピー(Candida sp.)SY-16株を用いて10質量%の植物油脂から回分培養法により200時間で50g/L(生産速度:0.25g/L/h、原料収率:50質量%)のMELの生産が可能であると共に、流加培養法により20質量%の植物油から200時間で120g/L(生産速度:0.6g/L/h、原料収率:50質量%)のMELの生産が可能であることが報告されている。
【0007】
MELには結合する脂肪酸残基並びにアセチル基の位置及び数等が相違する種々の構造が存在する。
図1に、水素原子、アセチル基、及び炭素数3~18の脂肪酸残基をR
1~R
5で示したMELの構造式を示す。R
1およびR
2が脂肪酸残基であり、かつR
3およびR
4がアセチル基である構造物はMEL-A、R
3が水素原子でありR
4がアセチル基である構造物はMEL-B、R
3がアセチル基でR
4が水素原子である構造物はMEL-C、R
3およびR
4が水素原子である構造物はMEL-Dと定義される。マンノースと結合するエリスリトールのヒドロキシメチル基が1位の炭素に由来するか、4位の炭素に由来するかによって、得られるMEの構造は
図2(a)、(b)に示すように相違する。前記カンジダ・アンタークティカ T-34株は
図2(a)に示される4-O-β-D-mannopyranosyl-erythritolを糖骨格とする化合物を生成する。得られる4-O-β-D-mannopyranosyl-erythritol Lipidを4-O-β-MELとも称する。
【0008】
多くの種類の微生物が上記の4-O-β-MELを生成するのに対して、シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)はオリーブ油を原料に、
図2(b)に示される1-O-β-D-mannopyranosyl-erythritolを糖骨格とする1-O-β-D-mannopyranosyl-erythritol Lipid-B(以下、1-O-β-MEL-Bとも称す。)を生成する。1-O-β-MEL-Bは、4-O-β-MEL-Bと比べて水和性が向上し、ベシクル形成能も高いという特徴を持ち、スキンケア剤などとして有望なバイオ素材である。シュードザイマ・ツクバエンシス1E5株は20質量%のオリーブ油から7日間で70g/L(生産速度:0.4g/L/h、原料収率:35質量%)の1-O-β-MEL-Bの生産が可能であることが報告されており(非特許文献7参照)、化粧品素材として販売されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【文献】T.Nakahara,H.Kawasaki,T.Sugisawa,Y.Takamori and T.Tabuchi:J.Ferment.Technol.,61,19(1983)
【文献】H.Kawasaki,T.Nakahara,M.Oogaki and T.Tabuchi:J.Ferment.Technol.,61,143(1983)
【文献】D.Kitamoto,S.Akiba,C.Hioki and T.Tabuchi:Agric.Biol.Chem.,54,31(1990)
【文献】D.Kitamoto,K.Haneishi,T.Nakahara and T.Tabuchi:Agric.Biol.Chem.,54,37(1990)
【文献】D.Kitamoto,K.Fijishiro,H.Yanagishita,T.Nakane and T.Nakahara:Biotechnol.Lett.,14,305(1992)
【文献】金,伊炳大,桂樹徹,谷吉樹:平成10年日本生物工学会大会要旨,p195
【文献】T.Morita,M.Takashima,T.Fukuoka,M.Konishi,T.Imura,D.Kitamoto:Appl.Microbiol.Biotechnol., 88,679(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
MELを食品工業、医薬品工業、及び化学工業などで広く普及させるためには、MELの生産効率を高め、生産コストの低減を図ることが望ましい。そのようなMELの生産効率を高める手段として、特許文献1には、バイオサーファクタント産生微生物をリパーゼ遺伝子で形質転換することが開示されている。斯かる手段の更なる改良手段を提供することが一つの課題である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
斯かる課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、リパーゼ遺伝子を特定のプロモーターで制御することにより、バイオサーファクタントの生産効率が飛躍的に高まることが見出された。これらの知見に基づき、更なる研究と検討を重ねた結果、下記に代表される発明が提供される。
【0013】
項1
E5Pgapプロモーター又はE5Ptefプロモーターの制御下にリパーゼをコードする遺伝子を有する発現ベクターで形質転換されている、マンノシルエリスリトールリピッド産生微生物。
項2
マンノシルエリスリトールリピッド産生微生物がシュードザイマ属微生物である、項1に記載のマンノシルエリスリトールリピッド産生微生物。
項3
リパーゼをコードする遺伝子がシュードザイマ属微生物由来である、項1又は2に記載のマンノシルエリスリトールリピッド産生微生物。
項4
マンノシルエリスリトールリピッド産生微生物がシュードザイマ・ツクバエンシスである、項1~3のいずれかに記載のマンノシルエリスリトールリピッド産生微生物。
項5
E5Pgapプロモーター又はE5Ptefプロモーターの制御下にリパーゼをコードする遺伝子を有する発現ベクター。
項6
リパーゼをコードする遺伝子がシュードザイマ属微生物由来である、項5に記載の発現ベクター。
項7
マンノシルエリスリトールリピッド産生微生物を形質転換するための発現ベクターである、項5又は6に記載の発現ベクター。
項8
項5~7のいずれかに記載の発現ベクターでマンノシルエリスリトールリピッド産生微生物を形質転換することを含む、項1に記載のマンノシルエリスリトールリピッド産生微生物を製造する方法。
項9
項1~4のいずれかに記載のマンノシルエリスリトールリピッド産生微生物を用いて、マンノシルエリスリトールリピッド産生を製造する方法。
項10
項1~4のいずれかに記載のマンノシルエリスリトールリピッド産生微生物を植物油脂を含む培地で培養することを含む、マンノシルエリスリトールリピッド産生を製造する方法。
【発明の効果】
【0014】
効率的にバイオサーファクタントを製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】4-O-β-D-mannopyranosyl-erythritol(a)及び1-O-β-D-mannopyranosyl-erythritol(b)の構造を示す。
【
図3】発現ベクターpUC
T_neo::PaLIPAの構造を示す。
【
図4】外因性リパーゼ導入株及びコントロールを培養した際の、培養上清中のリパーゼをSDS-PAGE法で検出した結果を示す。
【
図5】外因性リパーゼ導入株及びコントロールの菌体増殖量(a)及びリパーゼ活性(b)を測定した結果を示す。
【
図6】外因性リパーゼ導入株及びコントロールの菌体増殖量(a)及びMELの生産をHPLCで測定した結果を示す。
【
図7】外因性リパーゼ導入株及びコントロールによる原料油脂の消費量を薄層クロマトグラフィー(a)及びHPLC(b)で測定した結果を示す。
【
図8】シュードザイマ・ツクバエンシス由来のPgapの塩基配列を示す。
【
図9】シュードザイマ・ツクバエンシス由来のPtefの塩基配列を示す。
【
図10】シュードザイマ・ツクバエンシス由来のPubqの塩基配列を示す。
【
図11】外因性リパーゼ導入株及びコントロールのMEL生産をHPLCで測定した結果を示す。
【
図12】外因性リパーゼ導入株及びコントロールのオリーブ油消費をHPLCで測定した結果を示す。
【
図13】外因性リパーゼ導入株及びコントロールの脂肪酸生産をHPLCで測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
マンノシルエリスリトール産生微生物は、特定のプロモーターの制御下にあるリパーゼをコードする遺伝子で形質転換されていることが好ましい。一実施形態において特定のプロモーターは、宿主に適した高発現プロモーターであることが好ましい。一実施形態において特定のプロモーターは、シュードザイマ属微生物に由来するプロモーターであることが好ましく、シュードザイマ・ツクバエンシス由来のプロモーターがより好ましい。一実施形態において、特定のプロモーターは、シュードザイマ属微生物のグリセルアルデヒド三リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のプロモーター(Pgap)、伸長因子EF-1のプロモーター(Ptef)、又はユビキチン遺伝子のプロモーター(Pubq)であることが好ましい。一実施形態において、特定のプロモーターは、Pgap又はPtefであることが好ましく、Ptefであることがより好ましい。シュードザイマ・ツクバエンシス由来のPgapの塩基配列を
図8(配列番号1)に示す。シュードザイマ・ツクバエンシス由来のPtefの塩基配列を
図9(配列番号2)に示す。シュードザイマ・ツクバエンシス由来のPubqの塩基配列を
図10(配列番号3)に示す。高発現プロモーターは、RNAシーケンスによる発現頻度の解析により選抜することが出来る。
【0017】
好ましい一実施形態において、特定のプロモーターは、配列番号1~3のいずれかの塩基配列又はそれと80%以上の同一性を有する塩基配列を有することが好ましい。同一性は、好ましくは85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上である。このようなプロモーターは、任意の手法で得ることができる。例えば、遺伝子工学的な手法及び化学合成法(例えば、液相法及び固相法)を用いて製造することが可能である。
【0018】
他の実施形態において、プロモーターは、配列番号1~3の塩基配列において、1若しくは数個の塩基の置換、欠失、挿入、付加及び/又は逆位(以下、これらを纏めて「変異」とする場合がある。)した配列からなり、プロモーター活性を有する配列であってもよい。ここで「数個」とは、プロモーター活性が維持される限り制限されないが、例えば、全配列の約20%未満に相当する数であり、好ましくは約15%未満に相当する数であり、さらに好ましくは約10%未満に相当する数であり、より一層好ましくは約5%未満に相当する数であり、最も好ましくは約1%未満に相当する数である。より具体的には、例えば、2~100個、好ましくは2~80個、より好ましくは2~60個、更に好ましくは2~40個であり、より更に好ましくは2~20個、一層好ましくは2~15個、より一層好ましくは2~10個、特に好ましくは2~5個である。
【0019】
微生物の組換えに使用するリパーゼは、微生物において発現され、リパーゼ活性を発揮する(即ち、機能する)限り特に制限されず、任意に選択することができる。よって、リパーゼの由来は、微生物、植物及び動物のいずれでもよい。一実施形態において好ましいリパーゼは微生物由来である。一実施形態において、リパーゼの由来として好ましい微生物は、シュードザイマ属、ウスチラゴ属、Sporisorium属、MELanopsichium属、Moesziomyces属、及びクルツマノマイセス属である。好ましいシュードザイマ属微生物は、Pseudozyma antarctica(Moesziomyces antarcticus)、Pseudozyma aphidis(Moesziomyces aphidis)、Pseudozyma hubeiensis、及びPseudozyma tsukubaensisである。好ましいウスチラゴ属微生物は、Ustilago hordei及びUstilago maydisである。好ましいSporisorium属微生物は、Sporisorium reilianum及びSporisorium scitamineumである。好ましいMELanopsichium属微生物は、MELanopsichium pennsylvanicumである。好ましいクルツマノマイセス属微生物は、Kurtzmanomyces sp. I-11である。
【0020】
好ましい一実施形態において、リパーゼは、配列番号5~13のいずれかのアミノ酸配列又はそれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有することが好ましい。同一性は、好ましくは85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上である。このようなリパーゼは、任意の手法で得ることができる。例えば、遺伝子工学的な手法及び化学合成法(例えば、液相法及び固相法)を用いて製造することが可能である。また、リパーゼをコードする核酸についても任意の手法(例えば、遺伝子工学的手法及び化学方性法)を用いて得ることができる。
【0021】
配列番号5は、P.antarctica T-34由来のLipase Aのアミノ酸配列である。配列番号6は、Pseudozyma aphidis DSM70725由来のリパーゼが有するアミノ酸配列である。配列番号7は、Pseudozyma hubeiensis SY62由来のリパーゼのアミノ酸配列である。配列番号8は、Ustilago hordei由来のリパーゼが有するアミノ酸配列である。配列番号9は、Ustilago maydis 521由来のリパーゼが有するアミノ酸配列である。配列番号10は、Sporisorium reilianum SRZ2由来のリパーゼが有するアミノ酸配列である。配列番号11は、Sporisorium scitamineum由来のリパーゼが有するアミノ酸配列である。配列番号12は、Melanopsichium pennsylvanicum 4由来のリパーゼが有するアミノ酸配列である。配列番号13は、Kurtzmanomyces sp. I-11由来のリパーゼが有するアミノ酸配列である。一実施形態において好ましいリパーゼは、P.antarctica T-34由来のLIP-Aである。尚、P.antarctica T-34は、「Moesziomyces antarcticus T-34」とも称される。P. aphidisは、「Moesziomyces aphidis」とも称される。
【0022】
アミノ酸配列及び塩基配列の同一性は、市販の又はインターネットを通じて利用可能な解析ツール(例えば、FASTA、BLAST、PSI-BLAST、SSEARCH等のソフトウェア)を用いて計算することができる。例えば、BLAST検索に一般的に用いられる主な初期条件は、以下の通りである。即ち、Advanced BLAST 2.1において、プログラムにblastpを用い、Expect値を10、Filterは全てOFFにして、MatrixにBLOSUM62を用い、Gap existence cost、Per residue gap cost、及びLambda ratioをそれぞれ 11、1、0.85(デフォルト値)にして、他の各種パラメータもデフォルト値に設定して検索を行うことにより、アミノ酸配列又は塩基配列の同一性の値(%)を算出することができる。
【0023】
他の実施形態において、リパーゼは、配列番号5~13のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が残基の置換、欠失、挿入、付加及び/又は逆位(以下、これらを纏めて「変異」とする場合がある。)したアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドであってもよい。ここで「数個」とは、リパーゼ活性が維持される限り制限されないが、例えば、全アミノ酸の約20%未満に相当する数であり、好ましくは約15%未満に相当する数であり、さらに好ましくは約10%未満に相当する数であり、より一層好ましくは約5%未満に相当する数であり、最も好ましくは約1%未満に相当する数である。より具体的には、例えば、2~100個、好ましくは2~80個、より好ましくは2~60個、更に好ましくは2~40個であり、より更に好ましくは2~20個、一層好ましくは2~15個、より一層好ましくは2~10個、特に好ましくは2~5個である。
【0024】
アミノ酸の置換の種類は、特に制限されないが、リパーゼに顕著な影響を与えないという観点から保存的アミノ酸置換が好ましい。「保存的アミノ酸置換」とは、あるアミノ酸残基を、同様の性質の側鎖を有するアミノ酸残基に置換することをいう。アミノ酸残基はその側鎖によって塩基性側鎖(例えばリシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)のように、いくつかのファミリーに分類されている。保存的アミノ酸置換は好ましくは、同一のファミリー内のアミノ酸残基間の置換である。
【0025】
一又は数個の変異は、制限酵素処理、エキソヌクレアーゼやDNAリガーゼ等による処理、位置指定突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)など公知の手法を利用して導入することができる。また、紫外線照射など他の方法によってもバリアントを得ることができる。バリアントには、リパーゼを有する微生物の個体差、種や属の違いに基づく場合などの天然に生じるバリアント(例えば、一塩基多型)も含まれる。一実施形態において、変異は、FGDHの活性部位又は基質結合部位に影響を与えない部位に存在することが好ましい。
【0026】
配列番号5のアミノ酸配列をコードする塩基配列を配列番号14に示す。配列番号6のアミノ酸配列をコードする塩基配列を配列番号15に示す。配列番号7のアミノ酸配列をコードする塩基配列を配列番号16に示す。配列番号8のアミノ酸配列をコードする塩基配列を配列番号17に示す。配列番号9のアミノ酸配列をコードする塩基配列を配列番号18に示す。配列番号10のアミノ酸配列をコードする塩基配列を配列番号19に示す。配列番号11のアミノ酸配列をコードする塩基配列を配列番号20に示す。配列番号12のアミノ酸配列をコードする塩基配列を配列番号21に示す。配列番号13のアミノ酸配列をコードする塩基配列を配列番号22に示す。
【0027】
発現ベクターは、上述のとおり特定のプロモーターの制御下にあるリパーゼをコードする遺伝子を有する限り、その構成は任意である。例えば、発現ベクターは、特定のプロモーターの制御下にリパーゼをコードする遺伝子を複数有していてもよい。この場合、リパーゼをコードする複数の遺伝子は互いに同種であってもよく、異種であってもよい。発現ベクターは、特定のプロモーターの制御下にあるリパーゼをコードする遺伝子からなるカセットを複数含んでいてもよい。この場合も発現ベクターに含まれるリパーゼをコードする複数の遺伝子は互いに同種でも異種でもよい。また、各カセットに含まれる特定のプロモーターも互いに同種でも異種でもよい。
【0028】
マンノシルエリスリトールリピッド産生微生物は、上記プロモーター下に上記リパーゼをコードする遺伝子を有する発現ベクターで形質転換されていることが好ましい。形質転換される宿主微生物は、マンノシルエリスリトールリピッドを生産する能力を有する微生物(MEL生産微生物)であれば特に制限されず、任意に選択して使用することができる。マンノシルエリスリトールリピッドを生産する能力を有する微生物として、例えば、シュードザイマ属に属する微生物が挙げられる。一実施形態において、好ましいマンノシルエリスリトールリピッドを生産する能力を有する微生物は、シュードザイマ・ツクバエンシス、シュードザイマ・アンタークティカ、シュードザイマ・ルギュローサ、シュードザイマ・アフィディス、シュードザイマ・パラアンタークティカ、シュードザイマ・ヒュベイエンシスに属する微生物である。ツクバエンシス種に含まれる好ましいMEL生産株としては、NBRC1940株、KM-160株、1D9株、1D10株、1D11株、1E5株、及びJCM16987株が挙げられる。シュードザイマ・ツクバエンシスの生産する1-O-β-MEL-Bは水和性が4-O-β-MEL-Bよりも高く、水系用途において有用である。
【0029】
宿主細胞へのリパーゼをコードする核酸の導入手段は任意であり、特に制限されない。例えば、核酸を宿主に適したベクターに組み込み、それを任意の方法で宿主細胞に導入することができる。ベクターとは、それに組み込まれた核酸分子を細胞内へと輸送することができる核酸性分子(キャリアー)である。形質転換は、一過性であっても安定的な形質転換であってもよい。一実施形態において、形質転換は安定的な形質転換であることが好ましい。
【0030】
ベクターの種類は、宿主細胞内で複製及び発現が可能である限り、その種類や構造は特に限定されない。ベクターの種類は、宿主細胞の種類に応じて適宜選択できる。ベクターの具体例としては、プラスミドベクター、コスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクター(アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター等)等を挙げることができる。一実施形態において好ましいベクターは、プラスミドベクターである。
【0031】
シュードザイマ属を宿主とする場合のプラスミドベクターとしては、例えば、pUXV1 ATCC 77463、pUXV2 ATCC 77464、pUXV5 ATCC 77468、pUXV6 ATCC 77469、pUXV7 ATCC 77470、pUXV8 ATCC 77471、pUXV3 ATCC 77465、pU2X1 ATCC 77466、pU2X2 ATCC 77467、pUXV1-neo、pPAX1-neo、pPAA1-neo、pUC_neo、及びpUCT_neo等を例示することができる。一実施形態において、好ましいベクターは、pUXV1-neo、pPAX1-neo、pPAA1-neo、pUC_neo及びpUCT_neoである。
【0032】
発現ベクターとして、選択マーカーを含む発現ベクターを使用することもできる。核酸のベクターへの挿入、選択マーカー遺伝子の挿入、プロモーターの挿入等は標準的な組換えDNA技術(例えば、Molecular Cloning, Third Edition, 1.84, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York参照)を用いて行うことができる。
【0033】
宿主細胞へのベクターの導入方法は任意であり、宿主細胞及びベクターの種類等に応じて適宜選択できる。ベクターの導入方法は、例えば、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム共沈降法、リポフェクション、マイクロインジェクション、及び酢酸リチウム法等によって実施することができる。一実施形態において、宿主細胞へのベクターの導入方法は、プラスミドベクターを制限酵素処理によって一本化してから導入することが好ましい。これにより、導入した遺伝子をゲノム遺伝子に組み込むことで安定的な形質転換ができる。
【0034】
核酸の導入によって組換え微生物が得られたか否かは、任意の方法で確認することができる。例えば、外因性核酸の導入によって付与したリパーゼ活性の有無を確認することによって所望の組換え微生物が得られたことを確認できる。リパーゼ活性の確認は任意の方法で実施できる。
【0035】
組換え微生物は、リパーゼ活性とマンノシルエリスリトールリピッド産生能力を備えることにより、より効率的にマンノシルエリスリトールリピッドを産生することができる。組換え微生物が産生するマンノシルエリスリトールリピッドの種類は特に制限されず目的に応じて適宜選択できる。一実施形態において、好ましいMELは、1-O-β-MEL-B及び4-O-β-MEL-Bであり、より好ましくは1-O-β-MEL-Bである。また、4-O-β-MEL-Bは、MEL-A、MEL-B、MEL-C、及びMEL-Dのいずれであってもよい。
【0036】
組換え微生物を用いたMELの生産は任意の方法で行うことができる。例えば、MELの生産に適した培地で組換え微生物を培養することによって実施できる。一実施形態において、組換え微生物を用いたMELを生産する場合、培地に植物油脂を添加することが好ましい。植物油脂の種類は特に制限されず、目的とするMELの種類等に応じて適宜選択することができる。例えば、大豆油、オリーブ油、ナタネ油、紅花油、ゴマ油、パームオイル、ひまわり油、ココナッツ油、カカオバター、及びひまし油等を挙げることができる。一実施形態において好ましい油脂はオリーブ油である。
【0037】
組換え微生物の培養条件は特に制限されない。例えば、組換え微生物が、シュードザイマ属の場合には、pH5~8、好ましくはpH6、温度20~35℃、好ましくは22~28℃の条件で3~7日間培養することができる。MELは、定法にしたがって培養液中から回収することができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0039】
1.材料
・使用菌体
シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)1E5株(寄託番号JCM16987)
・mRNA
シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)1E5株・ゲノムDNA
シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)1E5株シュードザイマ・アンタークティカ(Pseudozyma antarctica)T-34株(寄託番号KM-34)・プラスミド
発現ベクターpUCT_neo
・培地
グリセロール添加YM培地:脱イオン水1Lに、酵母エキス3g、麦芽エキス3g、ペプトン5g、グルコース10g、グリセロール50gを溶かして調製した。
MEL生産培地:脱イオン水1Lに、酵母エキス5g、硝酸ナトリウム3g、リン酸二水素カリウム0.3g、硫酸マグネシウム・七水和物0.3g、グリセロール20gを溶かして調製した。
【0040】
2.RNAシーケンス解析
2-1.菌株の培養
上記シュードザイマ・ツクバエンシス1E5株をMEL培地に4%オリーブ油を添加した培地30mLに接種し、25℃で2日間振とう培養した。
【0041】
2-2.Total RNAの抽出
上記菌体培養液に含まれる菌体を回収し、液体窒素で凍結し、ISOGEN(NIPPON GENE)で処理した後、Total RNAを含む水層を回収した。回収した水層をフェノール及びクロロホルムで処理し、Total RNAを抽出した。得られたTotal RNAの純度と量は分光光度計で確認した。
【0042】
2-3.mRNAの精製
抽出したTotal RNAをOligotex-dT30〈super〉mRNA purification kit(Takara)で精製し、mRNAを得た。得られたmRNAの純度と量は分光光度計で確認した。
【0043】
2-4.RNAライブラリの作成
抽出したmRNAをNEBNext Ultra RNA Library Prep Kit for Illumina(New England BioLabs)、及びNEBNext Multiplex Oligos for Illumina(New England BioLabs)を用いてキットに添付のマニュアル通りに処理し、ライブラリを作成した。
【0044】
2-5.シーケンス解析
作成したライブラリをMiSeq Reagent Kits v2(Illumina)を用いてシーケンス解析に供した。シーケンサーにはMiSeq(Illumina)を使用した。
【0045】
2-6.データ解析
シーケンス解析で得られたデータを、該微生物のタンパク質をコードする遺伝子配列にbowtie2を用いてマッピングした。約15%程度のシーケンス解析データを、タンパク質遺伝子配列に帰属させることができた。この結果を、マッピングデータの変換ツールであるBEDtoolsや、プログラム言語Perlを用いたテキスト処理を実施することにより、各タンパク質遺伝子についてマッピングされた数を集計し、それぞれの遺伝子の発現量の元データとした。また、各タンパク質遺伝子では塩基数が異なるため、長い遺伝子ほど多くのマッピング数が得られるので、遺伝子間で比較する際には、マッピング数が発現の違いを反映しない。この影響をなくすためにマッピング数を遺伝子長で補正し、1 kbp当たりのマッピング数に計算処理した。解析の結果、gapプロモーター、tefプロモーターおよびubqプロモーターを高発現プロモーターとして選抜した。
【0046】
3.高発現プロモーターを用いたリパーゼ発現ベクターの構築
3-1.ゲノムDNAの抽出
上記シュードザイマ・ツクバエンシス1E5株及びシュードザイマ・アンタークティカT-34株の菌体培養液に含まれる菌体を回収し、液体窒素で凍結し、フェノールおよびクロロホルムで処理しゲノムDNAを抽出した。得られたゲノムDNAの純度と量は分光光度計で確認した。
【0047】
3-2.発現ベクター構築
配列番号5に示す遺伝子を発現する発現ベクターを次の手順で構築した。配列番号5は、シュードザイマ・アンタークティカT-34株のリパーゼAをコードする塩基配列である。まず、配列番号5を参照して、開始コドンの上流にベクターとの相同配列15bpを付加したフォワードプライマー(配列番号23)、および終止コドンの下流にベクターとの相同配列15bpを付加したリバースプライマー(配列番号24)を調製した。これらを用いて、上記3-1.で得られたシュードザイマ・アンタークティカT-34株のゲノムDNAをテンプレートに遺伝子の増幅を行った。増幅した遺伝子を、SmaIサイトで切断した発現ベクターpUC
T_neo(糸状菌(Ustilago maydis)由来の複製開始点(UARS)、G418耐性遺伝子、シュードザイマ・アンタークティカT-34株由来のgapターミネーターを含む)に、In-fusion cloning kit(Takara)を用いて連結した。次に、シュードザイマ・アンタークティカT-34株、またはシュードザイマ・ツクバエンシス1E5株のゲノムDNAをテンプレートとし、gapプロモーター(T34PgapまたはE5Pgap、配列番号4及び1)を配列の上流にSalIサイトを付加したフォワードプライマー(配列番号25及び26)、および配列の下流にXbaIサイトを付加したリバースプライマー(配列番号27及び28)を用いて増幅した。同様に、シュードザイマ・ツクバエンシス1E5株のゲノムDNAをテンプレートとし、tefプロモーター(E5Ptef、配列番号2)及びubqプロモーター(E5Pubq、配列番号3)を配列の上流にベクターとの相同配列15bpを付加したフォワードプライマー(配列番号29及び30)、及び配列の下流にベクターとの相同配列15bpを付加したリバースプライマー(配列番号31及び32)を用いて増幅した。増幅したプロモーターを、SalIサイト及びXbaIサイトで切断したリパーゼAを導入したpUC
T_neoに、Ligation High ver.2(Toyobo、T34Pgap及びE5Pgap)またはIn-fusion cloning kit(Takara、E5Ptef及びE5Pubq)を用いて連結し、T34Pgap、E5Pgap、E5Ptef、E5Pubqのいずれのプロモーターの制御下でリパーゼA遺伝子が発現される遺伝子発現ベクターpUC
T_neo::PaLIPAを構築した。発現ベクターの構造を
図3に示す。
Fwd:(リパーゼA増幅用、配列番号23)CTCTAGAGGATCCCCATGCGAGTGTCCTTGCGCRvs:(リパーゼA増幅用、配列番号24)GTAGGGAGCGTACCCCTAAGGCGGTGTGATGGGFwd:(T-34Pgap増幅用、配列番号25)GTAGTCGACGTCGCCTCGGAAAGATCFwd:(E5Pgap増幅用、配列番号26)CAGGTCGACATCCGCTCTCTCTTCRvs:(T-34Pgap増幅用、配列番号27)CTGTCTAGAGATGATGGATGGGGAGTGTGRvs:(E5Pgap増幅用、配列番号28)TCCTCTAGATAATTTTTGGGATGAGFwd:(E5Ptef増幅用、配列番号29)ATGCCTGCAGGTCGACGAAATAACTCAGCACATCGCCCTTGFwd:(E5Pubq増幅用、配列番号30)
ATGCCTGCAGGTCGACTTGTTGGAAGATGGGATG
Rvs:(E5Ptef増幅用、配列番号31)
ATGGGGATCCTCTAGATGATGTTTTTGATGTATGATATGRvs:(E5Pubq増幅用、配列番号32)
ATGGGGATCCTCTAGATCACGATTTTGCTAACCAG
【0048】
4.形質転換体の調製
上記3-2.で得られたT34Pgap、E5Pgap、E5Ptef、E5Pubqのいずれのプロモーターの制御下でリパーゼA遺伝子が発現される遺伝子発現ベクターpUCT_neo::PaLIPAを制限酵素SsPI処理で直線化したものを用いて、エレクトロポレーション法にてシュードザイマ・ツクバエンシス1E5株を形質転換した。また、コントロールとしてインサートを含まないベクターpUCT_neoも同様に、制限酵素SspI処理で直線化した後、エレクトロポレーション法にてシュードザイマ・ツクバエンシス1E5株に導入した。形質転換体の選別には、G418を使用した。
【0049】
5.SDS-PAGE法による培養上清中のリパーゼの検出
各形質転換体をグリセロール添加YM培地2mLで25℃、2日間振とう培養し、前培養液を得た。次いで、前培養液1mLをMEL培地に1%オリーブ油を添加した培地20mLに接種し、25℃で3日間振とう培養した。得られた菌体培養液を遠心し、培養上清を得た。培養上清をAny kD
TMMini-PROTEAN(商標) TGX
TMPrecast Protein Gels(BioRad)とMini-PROTEAN(商標) Tetra Vertical Electrophoresis Cell(BioRad)を用いて泳動した後、SimplyBlue
TMSafeStain(Invitrogen)でタンパク質を染色し、リパーゼを検出した(
図4)。
【0050】
図4中、Nega.はpUC
T_neo導入株(コントロール)、T34PgapはpUC
T_neo::PaLIPA(T34Pgap)導入株、E5PgapはpUC
T_neo::PaLIPA(E5Pgap)導入株、E5PtefはpUC
T_neo::PaLIPA(E5Ptef)導入株、E5PubqはpUC
T_neo::PaLIPA(E5Pubq)導入株をそれぞれ示す。
図4に示されるとおり、シュードザイマ・ツクバエンシス1E5株由来のE5Pgap、E5Ptef、E5Pubqの3種のプロモーターを使用した発現ベクターを導入した株は、コントロールあるいはシュードザイマ・アンタークティカT-34株由来のT34Pgapを使用した発現ベクターを導入した株よりも、リパーゼAに由来するバンドが濃く検出され、培養上清中のリパーゼの発現量が向上していることが確認された。
【0051】
6.酵素活性測定
各形質転換体をグリセロール添加YM培地2mLで25℃、2日間振とう培養し、前培養液を得た。次いで、前培養液1mLをMEL培地に1%オリーブ油を添加した培地20mLに接種し、25℃で3日間振とう培養した。得られた菌体培養液を遠心し、培養上清を得た。遠心後に菌体を回収し、乾燥させた後に重量を測定し、増殖を評価したところ、形質転換体間で増殖量に有意な差は見られなかった(
図5(a))。
【0052】
各形質転換体の培養上清中のリパーゼ活性は、Lipase Activity Assay Kit(Cayman Chemical)を用いて測定した。1分間に1nmolの基質を消費するのに必要な酵素量を1Unitとした(
図5(b))。
【0053】
図5に示される通り、シュードザイマ・ツクバエンシス1E5株由来のE5Pgap、E5Ptef、E5Pubqの3種のプロモーターを使用した発現ベクターを導入した株は、コントロールあるいはシュードザイマ・アンタークティカT-34株由来のT34Pgapを使用した発現ベクターを導入した株よりも、有意にリパーゼ活性が向上することが確認された。特にE5Pgap及びE5Ptefを使用した発現ベクターを導入した株では、活性がシュードザイマ・アンタークティカT-34株由来のT34Pgapを使用した発現ベクターを導入した株の2倍以上に向上することが確認された。
【0054】
7.形質転換体のMEL生産能の評価
各形質転換体をグリセロール添加YM培地2mLで25℃、2日間振とう培養し、前培養液を得た。次いで、前培養液1mLをMEL培地に6%オリーブ油を添加した培地20mLに接種し、25℃で7日間振とう培養した。培養3日目及び5日目に6%オリーブ油を追加した(添加油脂量合計18%)。得られた菌体培養液に等量の酢酸エチルを添加し、十分撹拌した後、酢酸エチル層を分取した。残った水層にメタノールを加えた後遠心し、沈殿した菌体を回収して乾燥させた後に重量を測定したところ、形質転換体間で増殖量に有意な差は見られなかった(
図6(a))。酢酸エチル層に含まれるMELは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて定量した(
図6(b))。
【0055】
図6に示される通り、シュードザイマ・ツクバエンシス1E5株由来のE5Pgap、E5Ptef、E5Pubqの3種のプロモーターを使用した発現ベクターを導入した株は、コントロールよりも、MELの生産量が向上することが確認された。特にE5Ptefを使用した発現ベクターを導入した株では、生産量がコントロールの1.8倍、シュードザイマ・アンタークティカT-34株由来のT34Pgapを使用した発現ベクターを導入した株の1.5倍に向上することが確認された。
【0056】
8.形質転換体の原料油脂の消費能力の評価
各形質転換体をグリセロール添加YM培地2mLで25℃、2日間振とう培養し、前培養液を得た。次いで、前培養液1mLをMEL培地に6%オリーブ油を添加した培地20mLに接種し、25℃で7日間振とう培養した。培養2日目に6%オリーブ油を、3、4、5、6日目に3%オリーブ油を追加した(添加油脂量合計24%)。得られた菌体培養液に等量の酢酸エチルを添加し、十分撹拌した後、酢酸エチル層を分取した。酢酸エチル層に含まれる残存油脂は薄層クロマトグラフィー(TLC)及び高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて定量した(
図7(a、b))。
【0057】
図7に示される通り、シュードザイマ・ツクバエンシス1E5株由来のE5Ptefを使用した発現ベクターを導入した株は、コントロールよりも原料油脂の消費量が向上することが確認された。コントロールでは7日間で168g/Lの油脂を分解したのに対し、E5Ptefを使用した発現ベクターを導入した株では7日間で224g/Lと、油脂の消費量が1.3倍に向上することが確認された。
【0058】
野生型1E5株と上記4で作成した形質転換体(NegaおよびE5Ptef)をグリセロール添加YM培地100mLで25℃、1日間振とう培養し、前培養液を得た。次いで、前培養液60mLをMEL培地に15%オリーブ油を添加した培地6L/10L容量に接種し、25℃で3日間培養した。得られた培養液に等量の酢酸エチルを添加し、十分撹拌した後、酢酸エチル層を分取した。酢酸エチル層に含まれるMELは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて定量した。また、残存のオリーブ油と脂肪酸の量の変化についてもHPLCで得られるエリア面積比を測定した。
【0059】
図11に示される通りE5Ptefのプロモーターを使用した発現ベクターを導入した株は、野生株やNega株と比較して高いMEL生産性を示した。
図12に示される、培養液中に残存するオリーブ油の割合から、E5Ptef導入株は野生株やNegaと比較してオリーブ油の分解速度が非常に速いことが分かった。また、
図13に示すように
図12のオリーブ油の残存と連動するようにE5Ptef導入株で脂肪酸の生産速度が速い。これらの結果は、E5Ptef導入株ではオリーブ油の分解が促進され、MELの基質となる脂肪酸が速やかに産生されMEL合成へ進んでいることを示す。
【配列表】