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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】無線受信装置
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/0413 20170101AFI20240822BHJP
   H04B 7/0452 20170101ALI20240822BHJP
   H04W 16/28 20090101ALI20240822BHJP
【FI】
H04B7/0413 200
H04B7/0452
H04W16/28 130
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020072107
(22)【出願日】2020-04-14
(65)【公開番号】P2021170696
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】村岡 一志
(72)【発明者】
【氏名】石井 直人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 拓海
(72)【発明者】
【氏名】三瓶 政一
(72)【発明者】
【氏名】衣斐 信介
【審査官】齊藤 晶
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-527174(JP,A)
【文献】Xiaosi TAN et al.,“Improving Massive MIMO Message Passing Detectors With Deep Neural Network”,IEEE Transactions on Vehicular Technology,2020年02月,Vol. 69, No. 2,p.1267-1280
【文献】高橋 拓海 他,確率伝搬法に基づく大規模MIMO信号検出のための適応スケールビリーフに関する一検討,電子情報通信学会技術研究報告,日本,電子情報通信学会 ,2018年01月15日,Vol.117、No.396 ,pp.25-30
【文献】橘 順太 他,ノード選択BPアルゴリズムを用いたMassive MIMO検出法におけるdamping係数の学習およびその解析,映像情報メディア学会技術報告 ,日本,映像情報メディア学会,2020年02月13日,Vol.44 No.5 ,pp.21-24
【文献】白瀬 大地 他,大規模MIMO信号検出のための深層展開技術を利用した信念伝搬法に関する一検討 ,電子情報通信学会技術研究報告 ,日本,電子情報通信学会,2020年06月17日,Vol.120 No.74 ,pp.109-114
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/0413
H04B 7/0452
H04W 16/28
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層学習技術を用いて一緒に学習された複数のスケーリング係数及び複数のノード選択係数を含むパラメータセットを格納するよう構成された少なくとも1つのメモリと、
マルチユーザ検出を行うために、前記パラメータセットを用いた反復Belief Propagation(BP)アルゴリズムを実行するよう構成されたBP検出器と、
を備える無線受信装置。
【請求項2】
前記BP検出器は、前記複数のスケーリング係数を、前記反復BPアルゴリズムの異なる反復でそれぞれ使用するよう構成され、
前記BP検出器は、前記複数のノード選択係数を、前記反復BPアルゴリズムの異なる反復でそれぞれ使用するよう構成される、
請求項1に記載の無線受信装置。
【請求項3】
前記パラメータセットは、異なる総反復(iterations)回数に対応する複数のサブセットを含み、
前記BP検出器は、設定された反復回数に対応するサブセットを前記反復BPアルゴリズムにおいて使用するよう構成される、
請求項1又は2に記載の無線受信装置。
【請求項4】
前記ノード選択係数は、0から1の間の実数値である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の無線受信装置。
【請求項5】
前記BP検出器は、
第t-1回目の反復で生成された第m送信信号を除く全ての送信信号のレプリカを用いて、前記第m送信信号の成分を除く前記全ての送信信号の成分を複数の受信信号のうちの第n受信信号から減算し、これによりキャンセレーション後の第n受信信号を生成するよう構成された干渉キャンセラと、
複数のノード選択係数のうちの第t回目の反復に対応するノード選択係数と前記キャンセレーション後の第n受信信号とに少なくとも基づいて、前記第n受信信号に関連付けられたビリーフを生成するよう構成されたビリーフ生成器と、
前記複数のスケーリング係数のうちの第t回目の反復に対応するスケーリング係数と前記ビリーフとに少なくとも基づいて、第t回目の反復における前記第m送信信号のレプリカを生成するよう構成されたレプリカ生成器と、
を備える、
請求項1~4のいずれか1項に記載の無線受信装置。
【請求項6】
無線受信装置により行われる方法であって、
層学習技術を用いて一緒に学習された複数のスケーリング係数及び複数のノード選択係数を含むパラメータセットをメモリから読み出すこと、及び
マルチユーザ検出を行うために、前記パラメータセットを用いた反復Belief Propagation(BP)アルゴリズムを実行すること、
を備える方法。
【請求項7】
前記実行することは、
前記複数のスケーリング係数を、前記反復BPアルゴリズムの異なる反復でそれぞれ使用すること、及び
記複数のノード選択係数を、前記反復BPアルゴリズムの異なる反復でそれぞれ使用すること、
を含む、
請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記パラメータセットは、異なる総反復(iterations)回数に対応する複数のサブセットを含み、
前記実行することは、設定された反復回数に対応するサブセットを前記反復BPアルゴリズムにおいて使用することを含む、
請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記ノード選択係数は、0から1の間の実数値である、
請求項6~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
無線受信装置に含まれるプロセッサに、
層学習技術を用いて一緒に学習された複数のスケーリング係数及び複数のノード選択係数を含むパラメータセットをメモリから読み出すこと、及び
マルチユーザ検出を行うために、前記パラメータセットを用いた反復Belief Propagation(BP)アルゴリズムを実行すること、
を行わせるプログラム。
【請求項11】
コンピュータに実装される方法であって、
訓練データのセットを受信すること、ここで、各訓練データは複数の送信信号と前記複数の送信信号に対応する複数の受信信号を含む;
前記訓練データのセットにおいて反復Belief Propagation(BP)アルゴリズムを実行すること、ここで、前記反復BPアルゴリズムは、複数のスケーリング係数及び複数のノード選択係数を使用する;及び
深層学習技術を用いて前記反復BPアルゴリズムを訓練することにより、前記複数のスケーリング係数及び前記複数のノード選択係数の学習されたセットを生成すること、
を備える方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無線通信システムに関し、特に受信信号処理に関する。
【背景技術】
【0002】
大規模マルチユーザMulti-Input Multi-Output(MIMO)が知られている。大規模マルチユーザMIMOは、massive MIMOとも呼ばれる。大規模マルチユーザMIMO(massive MIMO)は、例えば、5th generation (5G)システム等のマルチプルアクセス・セルラーシステムの上り回線(アップリンク)に使用されることができる。大規模マルチユーザMIMO(massive MIMO)の受信機は、マルチユーザ信号(signals)を分離するためにマルチユーザ検出 (Multi-User Detection(MUD))を行う必要がある。
【0003】
知られたMUDアルゴリズムの1つにBelief Propagation(確率伝搬(伝播)又は信念伝搬(伝播))(BP)アルゴリズムがある(例えば、非特許文献1及び2を参照)。BPアルゴリズムは、検出シンボルの信頼度を表す品質値(ビリーフ(belief)と呼ばれる)を反復(iteration)処理の間で伝搬し、これにより徐々に検出精度を改善する。実用的には、BPアルゴリズムを用いる検出器は、ソフト干渉キャンセラ(Soft Interference Canceller(IC))、ビリーフ生成器(Belief Generator(BG))、及びソフトレプリカ生成器(Soft Replica Generator(RG))を含む。ソフト干渉キャンセラは、一つ前の反復処理で得られた各送信シンボルのレプリカを用いて、受信信号から干渉成分を減算する。ビリーフ生成器は、キャンセル後の信号に基づいてビリーフを生成する。ソフトレプリカ生成器は、ビリーフに基づいて送信信号のレプリカを生成する。
【0004】
BPアルゴリズムを使用する軟判定(soft decision)検出又は復号の性能を向上する技術(technique)に、ダンピング(damping)、スケーリング、及びノード選択がある。ダンピング(制振)は、過去の反復処理で生成されたビリーフと現在の反復処理で生成されたビリーフの重み付け平均を新たなビリーフとし、これにより収束不良をもたらすビリーフの振動を抑制する(非特許文献1を参照)。ダンピング係数は、重み付け平均の重み係数(factor, coefficient)を定める。スケーリングは、反復初期におけるビリーフの信頼性が低いことを考慮し、反復が増えるにつれて徐々にビリーフの絶対値が大きくなるよう調整するパラメータ(スケーリング係数)を導入する(非特許文献2を参照)。MIMO検出の場合、ノード選択は、フェージング空間相関(受信アンテナ間相関)への対策として用いられる(非特許文献2を参照)。具体的には、ノード選択では、受信アンテナ素子のセットが複数のサブセットに分割される。各サブセットは、空間的に離れた(相関が低い)受信アンテナ素子から構成される。ノード選択を伴うBPアルゴリズムは、1回のBP反復で1つのサブセットのビリーフのみを更新し、続くBP反復で他のサブセットのビリーフを順次更新する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】P. Som, T. Datta, A. Chockalingam and B. S. Rajan, "Improved large-MIMO detection based on damped belief propagation," 2010 IEEE Information Theory Workshop on Information Theory (ITW 2010, Cairo), Cairo, 2010, pp. 1-5.
【文献】T. Takahashi, S. IBI and S. SAMPEI, "Design of Criterion for Adaptively Scaled Belief in Iterative Large MIMO Detection," IEICE TRANSACTIONS on Communications, 2019 Volume E102.B Issue 2 Pages 285-297
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、ダンピング係数及びスケーリング係数は、例えば計算機シミュレーションで、個別に経験的に決定(調整)される。一方で、発明者らは、ダンピング係数とスケーリング係数との間には相関があり、ダンピング係数に応じた適切なスケーリング係数又はスケーリング係数に応じた適切なダンピング係数を選ばないと、必要な反復回数の増加又は検出性能の低下が生じることを見出した。しかし、適切なパラメータの組み合わせは反復処理ごとに異なり、膨大な組み合わせ候補が存在する。したがって、各反復で使用されるスケーリング係数とダンピング係数の最適な組み合わせを決定することは困難である。
【0007】
また、ノード選択を伴うBPアルゴリズムは、上述のように、予め決定された複数のサブセットを使用し、サブセット毎のビリーフ更新を順次行う。すなわち、全ての反復は、同一のサブセット分割に従う。しかしながら、反復が進むにつれてビリーフの信頼性が向上するとフェージング空間相関の影響が緩和されることから、反復毎に異なるサブセットを使用することは、所望の性能を達成するために必要な総反復回数の低減に寄与するかもしれない。しかし、各反復で使用される最適なサブセットを決定することは困難が伴う。加えて、スケーリングとノード選択が共に使用される場合、各反復における最適なスケーリング係数及び最適なサブセット(ビリーフ更新の対象とされる受信アンテナ素子の組み合わせ)を決定することはさらに困難である。
【0008】
ここに開示される実施形態が達成しようとする目的の1つは、スケーリング係数とダンピング係数(又はスケーリング係数とノード選択係数)の準最適なセットを各Belief Propagation (BP)反復において使用することを無線受信装置に可能にする装置、方法、及びプログラムを提供することである。なお、この目的は、ここに開示される複数の実施形態が達成しようとする複数の目的の1つに過ぎないことに留意されるべきである。その他の目的又は課題と新規な特徴は、本明細書の記述又は添付図面から明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様では、無線受信装置は、少なくとも1つのメモリ及びBP検出器を含む。前記少なくとも1つのメモリは、深層学習技術を用いて一緒に学習された複数のスケーリング係数及び複数のダンピング係数を含む第1のパラメータセット又は深層学習技術を用いて一緒に学習された複数のスケーリング係数及び複数のノード選択係数を含む第2のパラメータセットを格納するよう構成される。前記BP検出器は、マルチユーザ検出を行うために、前記第1のパラメータセット又は前記第2のパラメータセットを用いた反復BPアルゴリズムを実行するよう構成される。
【0010】
第2の態様では、無線受信装置により行われる方法は以下のステップを含む:
(a)深層学習技術を用いて一緒に学習された複数のスケーリング係数及び複数のダンピング係数を含む第1のパラメータセット又は深層学習技術を用いて一緒に学習された複数のスケーリング係数及び複数のノード選択係数を含む第2のパラメータセットをメモリから読み出すこと、及び
(b)マルチユーザ検出を行うために、前記第1のパラメータセット又は前記第2のパラメータセットを用いた反復BPアルゴリズムを実行すること。
【0011】
第3の態様では、コンピュータに実装される方法は以下のステップを含む:
(a)訓練データのセットを受信すること、ここで、各訓練データは複数の送信信号と前記複数の送信信号に対応する複数の受信信号を含む;
(b)前記訓練データのセットにおいて反復BPアルゴリズムを実行すること、ここで、前記反復BPアルゴリズムは、複数のスケーリング係数及び複数のダンピング係数、又は複数のスケーリング係数及び複数のノード選択係数を使用する;及び
(c)深層学習技術を用いて前記反復BPアルゴリズムを訓練することにより、前記複数のスケーリング係数及び前記複数のダンピング係数の学習されたセット、又は前記複数のスケーリング係数及び前記複数のノード選択係数の学習されたセットを生成すること。
【0012】
第4の態様では、プログラムは、コンピュータに読み込まれた場合に、第2又は第3の態様に係る方法をコンピュータに行わせるための命令群(ソフトウェアコード)を含む。
【発明の効果】
【0013】
上述の態様によれば、スケーリング係数とダンピング係数(又はスケーリング係数とノード選択係数)の準最適なセットを各BP反復において使用することを無線受信装置に可能にする装置、方法、及びプログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係る無線通信システムを示す図である。
図2】実施形態に係るシステムモデルを示す図である。
図3】実施形態に係る基地局の構成例を示す図である。
図4】実施形態に係る基地局のプロセッサの構成例を示す図である。
図5】実施形態に係る基地局の動作の一例を示すフローチャートである。
図6】実施形態に係るBP検出器の構成例を示す図である。
図7】実施形態に係るBP検出器の深層展開を示す概念図である。
図8】実施形態に係るルックアップテーブルの一例を示す図である。
図9】実施形態に係るルックアップテーブルの一例を示す図である。
図10】実施形態に係るトレーニングシステムの構成例を示す図である。
図11】実施形態に係るトレーニングの一例を示すフローチャートである。
図12】実施形態に係るコンピュータシステムの一例を示すフローチャートである。
図13】実施形態に係るBP検出器の符号誤り率性能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面において、同一又は対応する要素には同一の符号が付されており、説明の明確化のため、必要に応じて重複説明は省略される。
【0016】
図1は、本実施形態を含む複数の実施形態に係る無線通信システム(i.e., マルチプルアクセス・セルラーシステム)の構成例を示している。図1を参照すると、基地局1は、複数の無線端末2に無線アクセスを提供する。基地局1は、アクセスポイント、transmission/reception point (TRP)、又はその他の名称で参照されてもよい。基地局1は、例えば、5GシステムのgNB又はgNB Distributed Unit(gNB-DU)であってもよい。幾つかの実装では、無線通信システムは、複数の無線端末2から基地局1へのアップリンク送信のためにマルチユーザMIMO技術を利用してもよい。この場合、基地局1は、複数の無線端末2から参照信号を受信し、受信した参照信号を用いて複数の無線端末2と基地局1の間のMIMOチャネルを推定し、複数の無線端末からデータ信号を受信し、推定されたチャネルを用いて送信信号を検出してもよい。すなわち、基地局1は、複数の無線端末2のマルチユーザ信号を分離するためにMIMO検出を行ってもよい。
【0017】
図2は、アップリンク・マルチユーザMIMO送信のシステムモデルの一例を示している。図2では、複数の無線端末2の複数の送信機20が、チャネル(伝搬路)30を介して基地局1の受信機10と通信する。図2の例では、M’個の送信機20の各々が1つの送信アンテナを持つ。これに代えて、各送信機20は2つ以上の送信アンテナを有してもよい。基地局1の受信機10は、N’個の受信アンテナを有する。送信アンテナの合計数M’は受信アンテナの合計数N’以下であるものとする。
【0018】
以降の説明では、簡潔化のために、各無線端末2(ユーザ)からの送信信号はシングルキャリア伝送であり、各無線端末2と基地局1との間の伝搬路はフラットフェージングであるとみなす。一方で、各ユーザからの送信信号がOrthogonal Frequency Division Multiplexing (OFDM)又はSingle Carrier-Frequency Division Multiple Access(SC-FDMA)等を使用する場合のマルチパスフェージング環境においても、適切な長さのサイクリックプリフィクスを送信信号に挿入することで、各サブキャリア単位ではフラットフェージングとみなせる。したがって、本実施形態は、OFDM及びSC-FDMAに適用されてもよい。
【0019】
複数の無線端末2の合計M’個の送信アンテナからquadrature amplitude modulation(QAM)変調された送信信号が伝送され、N’個の受信アンテナを具備する基地局1において受信されることとする。このとき、等価低域表現による複素数の信号モデルは次式で表される:
【数1】
ここで、ycはN’×1(i.e., N’行1列)の複素受信信号ベクトル、HcはN’×M’の複素MIMOチャネル行列、zcはN’×1の複素雑音ベクトル、xcはM’×1の複素送信信号ベクトルである。
【0020】
QAM変調の変調シンボル数をQ’とし、例えば、Quadrature Phase shift Keying(QPSK)のときにQ’は4であり、16QAMのときにQ’は16である。変調シンボルの振幅については、I軸及びQ軸それぞれの振幅がQPSKのときに{+c,-c}であり、16QAMのときに{+c,-c,+3c,-3c}であるとする。ここで、cは以下の式で表される。Esは平均信号電力である。各受信アンテナにおける複素雑音の電力をN0とする。
【数2】
【0021】
説明の簡略化のために、複素数の等価低域表現を等価な実数の信号モデルyに置き換えた受信信号モデルは次の式で表される:
【数3】
ここで、yはN×1の等価実数受信信号ベクトルであり、HはN×Mの等価実数MIMOチャネル行列であり、zはN×1の等価実数雑音ベクトルであり、xはM×1の等価実数送信信号ベクトルである。Nは2N’に等しく、Mは2M’に等しい。各送信信号は変調シンボル数Qが√Q’(i.e., Q’の平方根)であるPulse Amplitude Modulation(PAM)変調シンボルと等価であり、平均信号電力はEs/2である。また、雑音ベクトルzの各要素に含まれる雑音電力はN0/2である。以下では、等価実数モデルを用いた受信処理を説明する。
【0022】
図3は、基地局1の構成例を示している。図3を参照すると、基地局1は、Radio Frequency(RF)トランシーバ301、ネットワークインタフェース303、プロセッサ304、及びメモリ305を含む。RFトランシーバ301は、複数の無線端末2と通信するためにアナログRF信号処理を行う。RFトランシーバ301は、複数のトランシーバを含んでもよい。RFトランシーバ301は、アンテナアレイ302及びプロセッサ304と結合される。RFトランシーバ301は、変調シンボルデータをプロセッサ304から受信し、送信RF信号を生成し、送信RF信号をアンテナアレイ302に供給する。また、RFトランシーバ301は、アンテナアレイ302によって受信された受信RF信号に基づいてベースバンド受信信号を生成し、これをプロセッサ304に供給する。RFトランシーバ301は、ビームフォーミングのためのアナログビームフォーマ回路を含んでもよい。アナログビームフォーマ回路は、例えば複数の移相器及び複数の電力増幅器を含む。
【0023】
ネットワークインタフェース303は、ネットワークノード(e.g., 他の基地局、及びコアネットワークノード)と通信するために使用される。ネットワークインタフェース303は、例えば、IEEE 802.3 seriesに準拠したネットワークインターフェースカード(NIC)を含んでもよい。
【0024】
プロセッサ304は、無線通信のためのデジタルベースバンド信号処理(データプレーン処理)とコントロールプレーン処理を行う。プロセッサ304は、複数のプロセッサを含んでもよい。例えば、プロセッサ304は、デジタルベースバンド信号処理を行うモデム・プロセッサ(e.g., Central Processing Unit(CPU)、graphics processing unit(GPU)、又はDigital Signal Processor(DSP))とコントロールプレーン処理を行うプロトコルスタック・プロセッサ(e.g., Central Processing Unit(CPU)又はMicro Processing Unit(MPU))を含んでもよい。
【0025】
例えば、プロセッサ304によるデジタルベースバンド信号処理は、Service Data Adaptation Protocol(SDAP)レイヤ、Packet Data Convergence Protocol(PDCP)レイヤ、Radio Link Control(RLC)レイヤ、Medium Access Control(MAC)レイヤ、およびPhysical(PHY)レイヤの信号処理を含んでもよい。また、プロセッサ304によるコントロールプレーン処理は、Non-Access Stratum (NAS) messages、Radio Resource Control (RRC) messages、Medium Access Control (MAC) Control Elements (CEs)、及びDownlink Control Information (DCI)の処理を含んでもよい。
【0026】
プロセッサ304は、ビームフォーミングのためのデジタルビームフォーマ・モジュールを含んでもよい。デジタルビームフォーマ・モジュールは、MIMOエンコーダ及びプリコーダを含んでもよい。
【0027】
メモリ305は、揮発性メモリ及び不揮発性メモリの組み合わせによって構成される。揮発性メモリは、例えば、Static Random Access Memory(SRAM)若しくはDynamic RAM(DRAM)又はこれらの組み合わせである。不揮発性メモリは、マスクRead Only Memory(MROM)、Electrically Erasable Programmable ROM(EEPROM)、フラッシュメモリ、若しくはハードディスクドライブ、又はこれらの任意の組合せである。メモリ305は、プロセッサ304から離れて配置されたストレージを含んでもよい。この場合、プロセッサ304は、ネットワークインタフェース303又はその他のI/Oインタフェースを介してメモリ305にアクセスしてもよい。
【0028】
メモリ305は、基地局1による処理の少なくとも一部を行うための命令群およびデータを含む1つ又はそれ以上のソフトウェアモジュール(コンピュータプログラム)を格納したコンピュータ読み取り可能な媒体を含んでもよい。いくつかの実装において、プロセッサ304は、当該ソフトウェアモジュールをメモリ305から読み出して実行することで、上述の実施形態で説明された基地局1による処理の少なくとも一部を行うよう構成されてもよい。
【0029】
本実施形態に従うと、プロセッサ304は、マルチユーザ検出(MIMO検出)のための受信信号処理を基地局1に行わせることができる。そのために、プロセッサ304は、図4に示されるBP検出器400及び判定及び復調モジュール460を含むことができる。
【0030】
BP検出器400は、N’個の受信アンテナにより得られるN個の等価実数受信信号y1~yNを受信し、マルチユーザ検出を行うために総反復回数Tの反復BPアルゴリズムを実行する。その後、BP検出器400は、分離されたM個の等価実数送信信号に関する推定値r1 (T)~rM (T)を判定及び復調モジュール460に提供する。
【0031】
幾つかの実装では、BP検出器400は、BPアルゴリズムにおいて第1のパラメータセットを用いる。第1のパラメータセットは、深層学習技術を用いて一緒に(まとめて)学習された複数のスケーリング係数及び複数のダンピング係数を含む。BP検出器400は、これら複数のスケーリング係数を、BPアルゴリズムの異なる反復でそれぞれ使用する。同様に、BP検出器400は、これら複数のダンピング係数をBPアルゴリズムの異なる反復でそれぞれ使用する。したがって、複数のスケーリング係数の総数及び複数のダンピング係数の総数は、BPアルゴリズムの総反復回数と等しくてもよい。
【0032】
他の実装では、BP検出器400は、BPアルゴリズムにおいて第2のパラメータセットを用いる。第2のパラメータセットは、深層学習技術を用いて一緒に学習された複数のスケーリング係数及び複数のノード選択係数を含む。BP検出器400は、これら複数のスケーリング係数を、BPアルゴリズムの異なる反復でそれぞれ使用する。同様に、BP検出器400は、これら複数のノード選択係数をBPアルゴリズムの異なる反復でそれぞれ使用する。なお、後述するように、BPアルゴリズムは、反復毎に複数のノード選択係数を使用してもよい。この場合、第2のパラメータセットは、反復毎のノード選択係数のセットを含んでもよい。
【0033】
第1のパラメータセット(又は第2のパラメータセット)は、基地局1のメモリ305に格納される。図4に示されるように、第1のパラメータセット(又は第2のパラメータセット)は、ルックアップテーブル(lookup table (LUT))450としてメモリ305に保存されてもよい。
【0034】
図5は、基地局1の動作の一例を示している。ステップ501では、基地局1のプロセッサ304(e.g., BP検出器400)は、一緒に学習されたスケーリング係数及びダンピング係数(又はスケーリング係数及びノード選択係数)をメモリ305から読み出す。ステップ502では、プロセッサ304(e.g., BP検出器400)は、アンテナ302によより受信された受信信号y1~yNをRFトランシーバ301を介して受信する。ステップ503では、プロセッサ304(e.g., BP検出器400)は、スケーリング係数及びダンピング係数(又はスケーリング係数及びノード選択係数)を反復毎に更新しながらBPアルゴリズムを行い、分離されたM個の送信信号の推定値r1 (T)~rM (T)を生成する。その後に、プロセッサ304(e.g., 判定及び復調モジュール460)は、推定値r1 (T)~rM (T)に基づいて、全てのMユーザの送信信号にデコードする。
【0035】
以上の説明から理解されるように、本実施形態によれば、基地局1のBP検出器400は、深層学習技術を用いて一緒に学習された複数のスケーリング係数及び複数のダンピング係数を用いる。あるいは、BP検出器400は、深層学習技術を用いて一緒に学習された複数のスケーリング係数及び複数のノード選択係数を用いる。したがって、本実施形態によれば、スケーリング係数とダンピング係数(又はスケーリング係数とノード選択係数)の準最適なセットを各BP反復において使用することを基地局1に可能にできる。
【0036】
続いて以下では、BP検出器400の構成例が説明される。図6は、BP検出器400の構成例を示している。図6を参照すると、BP検出器400は、N個のソフト干渉キャンセラ610-1~610-N、ビリーフ生成器620、及びN個のソフトレプリカ生成器630-1~630-Nを含む。ソフト干渉キャンセラ610-1~610-Nは、N個の受信アンテナにより得られるN個の受信信号y1~yNをそれぞれ受信する。例えば、ソフト干渉キャンセラ610-1は、第1アンテナの受信信号y1(第1受信信号と呼ぶ)を受信する。加えて、第t回目の反復を行うために、ソフト干渉キャンセラ610-1は、1つ前(第t-1回目)の反復で生成された全ての送信信号のソフトレプリカxハット1,1 (t-1)~xハット1,M (t-1)を受信する。ここでxハットは、文字xに上付きの^を意味する。そして、ソフト干渉キャンセラ610-1は、キャンセレーション後の受信信号yチルダ1,1 (t)~yチルダ1,M (t)を生成する。ここで、yチルダは、文字yに上付きの~を意味する。
【0037】
ビリーフ生成器620は、上述の第1のパラメータセット(又は第2のパラメータセット)に含まれる複数のダンピング係数(又ノード選択係数の複数のセット)をLUT450から読み出す。ビリーフ生成器620は、キャンセレーション後の受信信号yチルダ1,1 (t)~yチルダ1,M (t)をソフト干渉キャンセラ610-1から受信する。ビリーフ生成器620は、他のソフト干渉キャンセラ610-n(ここで、nは2からN)からも、同様に生成されたキャンセレーション後の受信信号yチルダn,1 (t)~yチルダn,M (t)を受信する。そして、ビリーフ生成器620は、第t回目の反復のためのダンピング係数(又ノード選択係数のセット)を使用し、第1受信信号に関連付けられたビリーフr1,1 (t)~r1,M (t)を生成する。同様に、ビリーフ生成器620は、残りの第2~第N受信信号に関連付けられたビリーフを生成する。
【0038】
ソフトレプリカ生成器630-1は、上述の第1のパラメータセット(又は第2のパラメータセット)に含まれる複数のスケーリング係数をLUT450から読み出す。ソフトレプリカ生成器630-1は、第1受信信号に関連付けられたビリーフr1,1 (t)~r1,M (t)をビリーフ生成器620から受信する。そして、ソフトレプリカ生成器630-1は、第t回目の反復のためのスケーリング係数を使用し、ソフトレプリカxハット1,1 (t)~xハット1,M (t)を生成し、ソフトレプリカ電力p1,1 (t)~p1,M (t)をさらに生成する。
【0039】
総反復回数TのBP処理の完了後に、ビリーフ生成器620は、分離されたM個の送信信号の推定値r1 (T)~rM (T)を判定及び復調モジュール460に提供する。
【0040】
以下では、ソフト干渉キャンセラ610、ビリーフ生成器620、及びソフトレプリカ生成器630により行われる処理をさらに詳細に説明する。
【0041】
(1)ソフト干渉キャンセラ
初回の反復では、ソフトレプリカがまだ生成されていない。したがって、ソフト干渉キャンセラ610は、キャンセル処理を行わずに、第1から第N受信信号をビリーフ生成器620に供給する。2回目以降のt回目の反復では、第n受信信号に関連付けられたソフト干渉キャンセラ610-nは、第n受信信号から第m送信信号以外のM-1個の送信信号成分をキャンセルし、キャンセル後の受信信号yチルダn,m (t)を生成する。キャンセル後の受信信号yチルダn,m (t)は以下の式で表される:
【数4】
ここで、ynは第n受信アンテナの受信信号であり、hn,jは第j送信アンテナと第n受信アンテナの間のチャネル応答であり、xハットn,j (t-1)は第(t-1)回目の反復処理で得られた第j送信アンテナの送信信号のソフトレプリカである。上述したように、基地局1は、無線端末2から送信される参照信号を用いてチャネル応答を推定できる。キャンセル処理後の受信信号yチルダn,m (t)は、ビリーフ生成器620に供給される。
【0042】
(2)ビリーフ生成器
ビリーフ生成器620は、キャンセル処理後の受信信号を用いてビリーフを生成する。まず、ビリーフ生成器620は、第n受信アンテナに関するキャンセル処理後の受信信号yチルダn,m (t)を用いて以下の式で表される処理を行い、これにより第t回目の反復における送信信号成分sn,m (t)を得る。
【数5】
ここで、ψn,m (t)は残留干渉雑音電力である。残留干渉雑音電力ψn,m (t)は、次の式に従って得られる:
【数6】
ここで、pn,j (t-1)はソフトレプリカの電力である。上述したように、ソフトレプリカ電力は、ソフトレプリカ生成器630によって生成される。
【0043】
送信信号成分sn,m (t)に含まれる真の送信信号xmに対する等価利得ωn,m (t)は次式で表され、スケーリング処理を行う際の規格化のために使用される:
【数7】
【0044】
次に、ビリーフ生成器620は、送信信号成分sn,m (t)を用いてビリーフrn,m (t)を生成する。ビリーフ生成器620は、ダンピング処理又はノード選択処理のいずれかを用いる。まず、ダンピング処理について説明する。ダンピング処理は、1つ前の第(t-1)回目の反復で得られた送信信号成分と現在の第t回目の反復で得られた送信信号成分の重み付け平均をダンピング係数η(t)を用いて以下のように計算する:
【数8】
ここで、s’n,m (t)はダンピング処理後の送信信号成分である。このダンピング処理により、s’n,m (t)に含まれる等価利得は次式で表される:
【数9】
【0045】
次にノード選択について説明する。ノード選択では、以下の式に従って、直近K回分の反復における各アンテナの送信信号成分を合成したs’n,m (t)を得る:
【数10】
ここで、ηi,t-k (t)は、t回目の反復において送信信号成分si,m (t-k)の反映度を表すノード選択係数である。既存のノード選択法ではノード選択係数ηi,t-k (t)の値は0又は1であり、ノードi(観測ノード、受信アンテナ)を考慮するか否かの二者択一であった。これとは対照的に、本実施形態では、ノード選択係数ηi,t-k (t)は、0から1の間の実数値(0以上且つ1以下の実数値)である。これにより、本実施形態のノード選択係数ηi,t-k (t)は、ノードiの送信信号成分si,m (t-k)の反映度を細かく調整でき、加えて後述するように深層学習において学習(訓練)可能である。上の式でK=tとした場合には、過去の全ての反復で得られた送信信号成分がノード選択において利用される。
【0046】
ノード選択処理により、s’n,m (t)に含まれる等価利得は次式で表される:
【数11】
【0047】
ビリーフ生成器620は、ダンピングまたはノード選択のいずれかを行って得られたs’n,m (t)をω’n,m (t)で規格化し、正規化後のビリーフrn,m (t)を生成し、これをソフトレプリカ生成器630に供給する。正規化後のビリーフrn,m (t)は以下の式で表される:
【数12】
【0048】
(3)ソフトレプリカ生成器
ソフトレプリカ生成器630は、スケーリング係数a(t)によってビリーフrn,m (t)をスケーリングし、以下の式に従ってソフトレプリカxハットn,m (t)およびソフトレプリカ電力pn,m (t)を算出する:
【数13】
ここでEs maxは取り得る最大のPAMシンボルのエネルギーであり、s’はPAM変調の判定閾値である。Es maxは以下の式で表される:
【数14】
【0049】
判定閾値s’は、集合SQ’のいずれかの値を取ることができる。集合SQ’は、QPSKのときには{0}であり、16QAMのときには{0, +2c, -2c}である。tanh関数は、ハイパボリックタンジェント関数である。これらの式は、判定閾値s’の周辺におけるビリーフ情報を合成することによって、ソフトレプリカxハットn,m (t)およびソフトレプリカ電力pn,m (t)が生成されることを表している。
【0050】
(4)BP検出器の出力
T回の反復が終了すると、ビリーフ生成器620は、分離されたM個の送信信号の推定値rm (T)を判定及び復調モジュール460に供給する。推定値rm (T)は以下の数式で表される:
【数15】
【0051】
続いて以下では、プロセッサ304(BP検出器400)によりBPアルゴリズムを行うために使用されるパラメータの学習方法について説明する。図7は、BPに基づくマルチユーザ検出のための深層展開(deep unfolding)を示す概念図である。深層展開は、反復型のアルゴリズムを反復方向に展開し、得られた処理フローグラフを深層ニューラルネットワーク(Deep Neural Network (DNN))と見なし、深層学習のスキームを適用する手法である。BP検出器400を反復方向に展開すると、図7に示すBPネットワークが与えられる。各BP反復はDNNの1つの層に対応する。これにより、BPネットワークに埋め込まれたメタパラメータの学習が可能となる。具体的には、学習(訓練)可能なパラメータは、各反復(各層)のスケーリング係数a(t)及びダンピング係数η(t)(又は各反復(各層)のスケーリング係数a(t)及びノード選択係数のセット{ηi,t-k (t)})である。例えば、学習は勾配法に基づいて行われ、メタパラメータは設定したコストが小さくなる方向に一緒に調整される。
【0052】
図8は、深層学習によって得られるスケーリング係数とダンピング係数のセットの一例を示している。学習されたこれらのパラメータは、LUT450としてメモリ305に格納されてもよい。図8に示されたテーブルは、3つの値(i.e., 3、8、及び16)の総BP反復回数Tのための学習されたパラメータを格納している。この場合、基地局1のプロセッサ304(BP検出器400)は、設定された(又は選択された)反復回数Tに対応するパラメータのサブセットを反復BPアルゴリズムにおいて使用してもよい。反復回数Tのためのパラメータは、反復毎のスケーリング係数aT (t)及びダンピング係数ηT (t)を含む。これらのパラメータの下付き添字は総反復回数を表す。例えば、総反復回数Tが3であるとき、学習されたパラメータは、第1回反復のためのスケーリング係数a3 (1)及びダンピング係数η3 (1)のセット、第2回反復のためのスケーリング係数a3 (2)及びダンピング係数η3 (2)のセット、並びに第3回反復のためのスケーリング係数a3 (3)及びダンピング係数η3 (3)のセットを含む。
【0053】
図9は、深層学習によって得られるスケーリング係数とノード選択係数の組み合わせの一例を示している。図8のそれと同様に、図9に示されたテーブルは、総BP反復回数Tが3、8、及び16であるときの学習されたパラメータを格納している。反復回数Tのためのパラメータは、反復毎のスケーリング係数aT (t)と、ノード選択係数のセット{ηT,t-k (t)}とを含む。
【0054】
図8及び図9に示された例は一例である。例えば、BP検出器400は、固定された1つの値の総反復回数でのみ動作してもよい。この場合、この値の総反復回数のための学習されたパラメータのみが基地局1に供給されてもよい。これに代えて、4以上の値の総反復回数のための学習されたパラメータが基地局1に供給されてもよい。
【0055】
図10は、トレーニングシステム環境の一例を示している。トレーニングデータセット1010は、送信信号データセット1012及び受信信号データセット1014を含む。送信信号データセット1012はランダムに生成されてもよい。受信信号データセット1014は、送信信号データセット1012に対応し、送信信号データセット1012及び与えられたチャネル行列を用いて生成される。チャネル行列は、ランダムに生成されてもよいし、3rd Generation Partnership Project(3GPP)仕様書などに規定された伝搬路モデルに基づいてもよい。これに代えて、チャネル行列は、基地局1が設置される実環境での測定結果に基づいて生成されてもよい。
【0056】
トレーニングシステム1020は、BP検出器モジュール1022及び学習モジュール1024を含む。BP検出器モジュール1022は、基地局1のプロセッサ304又はBP検出器400をエミュレートする。BP検出器モジュール1022は、基地局1に実装されるBPアルゴリズムと同じBPアルゴリズムを実行することができる。学習モジュール1024は、トレーニングデータセット1010を用いてBP検出器モジュール1022を訓練する。学習モジュール1024は、1又はそれ以上の機械学習アルゴリズムを適用してもよい。
【0057】
一例では、学習モジュール1024は、勾配法に従う更新アルゴリズムを用いてもよい。使用される勾配法の更新アルゴリズムは、例えば、Adaptive moment estimation (Adam) optimizerアルゴリズムであってもよい。加えて、学習モジュール1024は、ミニバッチ学習を用いてもよい。学習回数は訓練データに対する過学習を考慮して適切な回数とされればよい。学習率の更新のために、学習回数に対して徐々に更新幅を狭めるStepアルゴリズムが利用されてもよい。コスト関数は、平均二乗誤差(Mean Square Error (MSE))であってもよい。
【0058】
学習モジュール1024は、機械学習により得られた、訓練されたパラメータセット1030を出力する。訓練されたパラメータセット1030は、複数のスケーリング係数及び複数のダンピング係数(又は複数のスケーリング係数及び複数のノード選択係数)を含む。
【0059】
図11は、トレーニングシステム1020の動作の一例を示している。ステップ1101では、トレーニングシステム1020は、トレーニングデータセット1010を受信する。ステップ1102では、トレーニングシステム1020は、スケーリング係数及びダンピング係数を使用する反復BPアルゴリズムをトレーニングデータセット1010において実行し、深層学習技術を用いて反復BPアルゴリズムを訓練する。訓練可能なパラメータは、スケーリング係数及びダンピング係数である。ステップ1103では、トレーニングシステム1020は、訓練されたスケーリング係数及びダンピング係数をメモリに格納する。
【0060】
これに代えて、ステップ1102では、トレーニングシステム1020は、スケーリング係数及びノード選択係数を使用する反復BPアルゴリズムをトレーニングデータセット1010において実行してもよい。訓練可能なパラメータは、スケーリング係数及びノード選択係数である。この場合、ステップ1103では、トレーニングシステム1020は、訓練されたスケーリング係数及びノード選択係数をメモリに格納する。
【0061】
トレーニングシステム1020は、図12に示されるようなコンピュータシステムであってもよい。図12は、コンピュータシステム1200の構成例を示している。コンピュータシステム1200は、命令のセットを含むコンピュータプログラムを実行し、これにより例えばトレーニングシステム1020のための方法を行うことができる。トレーニングシステム1020は、スタンドアロンなコンピュータであってもよいし、ネットワーク化(networked)された1又はそれ以上のコンピュータを含んでもよい。コンピュータシステム1200は、サーバークライアント環境におけるサーバ若しくはクライアント又は両方であってもよい。コンピュータシステム1200は、パーソナルコンピュータ、タブレットコンピュータ、又はスマートフォンであってもよい。
【0062】
図12の例では、コンピュータシステム1200は、1又はそれ以上のプロセッサ1210、メモリ1220、及びマスストレージ1230を含み、これらはバス127を介して互いに通信する。1又はそれ以上のプロセッサ1210は、例えば、central processing unit(CPU)若しくはgraphics processing unit(GPU)又は両方を含んでもよい。コンピュータシステム1200は、1又はそれ以上の出力デバイス1240、1又はそれ以上の入力デバイス1250、及び1又はそれ以上の周辺機器(peripherals)1260といった他のデバイスを含んでもよい。1又はそれ以上の出力デバイス1240は、例えば、映像ディスプレイ、スピーカを含む。1又はそれ以上の入力デバイス1250は、例えば、キーボード、マウス、キーパッド、タッチパッド、若しくはタッチスクリーン、又はこれらの任意の組み合わせを含む。1又はそれ以上の周辺機器1260は、プリンタ、モデム、若しくはネットワークアダプタ、又はこれらの任意の組み合わせを含む。
【0063】
メモリ1220及びマスストレージ1230の一方又は両方は、1又はそれ以上の命令セットを格納したコンピュータ読み取り可能な媒体を含む。これらの命令は、部分的に又は完全にプロセッサ1210内のメモリに配置されてもよい。これらの命令は、プロセッサ1210において実行されたときに、例えば図11を用いて説明された機械学習プロセスを行うことをプロセッサ120に引き起こす。
【0064】
上述されたように、幾つかの実装では、基地局1が有するプロセッサ304は、本実施形態で説明されたアルゴリズムをコンピュータに行わせるための命令群を含む1又は複数のプログラムを実行する。加えて、トレーニングシステム1020は、本実施形態で説明された機械学習をコンピュータに行わせるための命令群を含む1又は複数のプログラムを実行する。これらのプログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、Compact Disc Read Only Memory(CD-ROM)、CD-R、CD-R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、Programmable ROM(PROM)、Erasable PROM(EPROM)、フラッシュROM、Random Access Memory(RAM))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【0065】
図13は、本実施形態に係るBP検出器400と既存のlinear minimum mean square error(MMSE)検出器との間のビット誤り率(Bit Error Rate(BER))性能の比較を示している。これらは、端末数をM’、受信アンテナ素子数をN’とし、(N’, M’) = (32, 28) のマルチユーザMIMO構成についてのシミュレーション結果である。なお、総反復回数(T)を16とした。グラフ1310は、本実施形態で説明された学習したダンピング係数とスケーリング係数のパラメータセットを用いるBP検出器のBERを示している。グラフ1320は、比較例であり、学習したダンピング係数とスケーリング係数のパラメータセットを用いないBP検出器のBERを示している。グラフ1330は、比較例であり、Linear MMSEのBERを示している。これによると、本実施形態のBP検出器は、エラーフロアレベルの大幅な低減が可能であり、MMSEと比較してもBER性能を大幅に改善していることが確認できる。
【0066】
上述した実施形態は本件発明者により得られた技術思想の適用に関する例に過ぎない。すなわち、当該技術思想は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、種々の変更が可能であることは勿論である。
【0067】
例えば、上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載され得るが、以下には限られない。
【0068】
(付記1)
深層学習技術を用いて一緒に学習された複数のスケーリング係数及び複数のダンピング係数を含む第1のパラメータセット又は深層学習技術を用いて一緒に学習された複数のスケーリング係数及び複数のノード選択係数を含む第2のパラメータセットを格納するよう構成された少なくとも1つのメモリと、
マルチユーザ検出を行うために、前記第1のパラメータセット又は前記第2のパラメータセットを用いた反復Belief Propagation(BP)アルゴリズムを実行するよう構成されたBP検出器と、
を備える無線受信装置。
(付記2)
前記BP検出器は、前記複数のスケーリング係数を、前記反復BPアルゴリズムの異なる反復でそれぞれ使用するよう構成され、
前記BP検出器は、前記複数のダンピング係数又は前記複数のノード選択係数を、前記反復BPアルゴリズムの異なる反復でそれぞれ使用するよう構成される、
付記1に記載の無線受信装置。
(付記3)
前記第1のパラメータセット又は前記第2のパラメータセットは、異なる総反復(iterations)回数に対応する複数のサブセットを含み、
前記BP検出器は、設定された反復回数に対応するサブセットを前記反復BPアルゴリズムにおいて使用するよう構成される、
付記1又は2に記載の無線受信装置。
(付記4)
前記BP検出器は、前記第2のパラメータセットを前記反復BPアルゴリズムにおいて使用するよう構成され、
前記ノード選択係数は、0から1の間の実数値である、
付記1~3のいずれか1項に記載の無線受信装置。
(付記5)
前記BP検出器は、
第t-1回目の反復で生成された第m送信信号を除く全ての送信信号のレプリカを用いて、前記第m送信信号の成分を除く前記全ての送信信号の成分を複数の受信信号のうちの第n受信信号から減算し、これによりキャンセレーション後の第n受信信号を生成するよう構成された干渉キャンセラと、
前記ダンピング係数又は前記ノード選択係数と前記キャンセレーション後の第n受信信号とに少なくとも基づいて、前記第n受信信号に関連付けられたビリーフを生成するよう構成されたビリーフ生成器と、
前記スケーリング係数と前記ビリーフとに少なくとも基づいて、第t回目の反復における前記第m送信信号のレプリカを生成するよう構成されたレプリカ生成器と、
を備える、
付記1~4のいずれか1項に記載の無線受信装置。
(付記6)
無線受信装置により行われる方法であって、
深層学習技術を用いて一緒に学習された複数のスケーリング係数及び複数のダンピング係数を含む第1のパラメータセット又は深層学習技術を用いて一緒に学習された複数のスケーリング係数及び複数のノード選択係数を含む第2のパラメータセットをメモリから読み出すこと、及び
マルチユーザ検出を行うために、前記第1のパラメータセット又は前記第2のパラメータセットを用いた反復Belief Propagation(BP)アルゴリズムを実行すること、
を備える方法。
(付記7)
前記実行することは、
前記複数のスケーリング係数を、前記反復BPアルゴリズムの異なる反復でそれぞれ使用すること、及び
前記複数のダンピング係数又は前記複数のノード選択係数を、前記反復BPアルゴリズムの異なる反復でそれぞれ使用すること、
を含む、
付記6に記載の方法。
(付記8)
前記第1のパラメータセット又は前記第2のパラメータセットは、異なる総反復(iterations)回数に対応する複数のサブセットを含み、
前記実行することは、設定された反復回数に対応するサブセットを前記反復BPアルゴリズムにおいて使用することを含む、
付記6又は7に記載の方法。
(付記9)
前記実行することは、前記第2のパラメータセットを前記反復BPアルゴリズムにおいて使用することを含み、
前記ノード選択係数は、0から1の間の実数値である、
付記6~8のいずれか1項に記載の方法。
(付記10)
無線受信装置に含まれるプロセッサに、
深層学習技術を用いて一緒に学習された複数のスケーリング係数及び複数のダンピング係数を含む第1のパラメータセット又は深層学習技術を用いて一緒に学習された複数のスケーリング係数及び複数のノード選択係数を含む第2のパラメータセットをメモリから読み出すこと、及び
マルチユーザ検出を行うために、前記第1のパラメータセット又は前記第2のパラメータセットを用いた反復Belief Propagation(BP)アルゴリズムを実行すること、
を行わせるプログラム。
(付記11)
コンピュータに実装される方法であって、
訓練データのセットを受信すること、ここで、各訓練データは複数の送信信号と前記複数の送信信号に対応する複数の受信信号を含む;
前記訓練データのセットにおいて反復Belief Propagation(BP)アルゴリズムを実行すること、ここで、前記反復BPアルゴリズムは、複数のスケーリング係数及び複数のダンピング係数、又は複数のスケーリング係数及び複数のノード選択係数を使用する;及び
深層学習技術を用いて前記反復BPアルゴリズムを訓練することにより、前記複数のスケーリング係数及び前記複数のダンピング係数の学習されたセット、又は前記複数のスケーリング係数及び前記複数のノード選択係数の学習されたセットを生成すること、
を備える方法。
【符号の説明】
【0069】
1 基地局
2 無線端末
301 RFトランシーバ
303 ネットワークインタフェース
304 プロセッサ
305 メモリ
400 BP検出器
450 ルックアップテーブル
460 判定及び復調モジュール
610 ソフト干渉キャンセラ
620 ビリーフ生成器
630 ソフトレプリカ生成器
1010 トレーニングデータセット
1020 トレーニングシステム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13