(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】大動脈瘤の予防および治療用医薬組成物および加工食品
(51)【国際特許分類】
A61K 31/19 20060101AFI20240822BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240822BHJP
A61K 31/22 20060101ALI20240822BHJP
A23L 33/12 20160101ALI20240822BHJP
A23L 27/20 20160101ALN20240822BHJP
【FI】
A61K31/19
A61P9/00
A61K31/22
A23L33/12
A23L27/20 D
(21)【出願番号】P 2022568342
(86)(22)【出願日】2021-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2021045475
(87)【国際公開番号】W WO2022124390
(87)【国際公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2020206109
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(73)【特許権者】
【識別番号】390029609
【氏名又は名称】株式会社八代
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】財満 信宏
(72)【発明者】
【氏名】久後 裕菜
(72)【発明者】
【氏名】北野 幹浩
(72)【発明者】
【氏名】廣田 益教
(72)【発明者】
【氏名】平野 賢一
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/007565(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/022051(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/050071(WO,A1)
【文献】Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry,2016年,80(6),pp.1186-1191,DOI:10.1080/09168451.2016.1146073
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カプリン酸およびこれを含むグリセリドを有効成分とする大動脈瘤の治療用医薬組成物。
【請求項2】
カプリン酸およびこれを含むグリセリドを有効成分とする大動脈瘤の治療用加工食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腹部大動脈瘤の発生・進展・破裂を防止する加工食品(健康食品)または予防および治療用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓からの血管のうち最も太い血管は、まず上方に向かう上行大動脈となり、弓状に曲がって背中に回って弓部大動脈となり、下方に向かう下行大動脈となる。腹部大動脈は、下行大動脈が横隔膜を貫いて下側になった部分の呼び名である。
【0003】
腹部大動脈瘤(ABDOMINAL AORTIC ANEURYSM:以後「AAA」とも略する場合もある。)は、腹部大動脈が部分的に大きくなる病気で、通常直径20MM程度の大動脈が30MM以上に膨張した状態をいう。
【0004】
腹部大動脈瘤は、破裂してしまうと、血圧が低下し突然ショック状態となる。腹部大動脈の膨張は、自覚症状がない場合が多く、破裂してしまうと死亡率は80%を超えるといわれている。
【0005】
現在、腹部大動脈瘤は、健康診断等によって偶然発見され、破裂するまでに予防手術を受けるしか治療方法はないとされている。したがって、腹部大動脈瘤の治療薬若しくは予防薬は社会の要請があるといえる。
【0006】
特許文献1には、PPARΓ阻害活性を有する化合物を有効成分とする動脈瘤進行予防および/または治療剤が記載されている。腹部大動脈瘤壁外膜を構成する線維芽細胞は、血管壁内の循環障害によってPPARΓを発現し脂肪細胞様細胞に分化し、血管壁にトリグリセリドを異常蓄積し、血管壁を脆弱化する。そのため、特許文献1の治療剤は、PPARΓを阻害して、動脈瘤の発生、進展或いは破裂を予防し、動脈瘤患者の生命予後の改善をはかるものである。
【0007】
また、特許文献2には、エイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸を有効成分として含有する、大動脈瘤の予防または治療剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2011/007565号
【文献】国際公開第2015/005393号
【文献】特開2012-235715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2に示されたエイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸は大動脈瘤の進展を抑制する効果があるといえた。しかしながら、その効果は限定的であり、より大動脈瘤の進展を抑制する薬剤や加工食品に用いる組成物が求められた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題に鑑みて想到されたものである。より具体的に本発明に係る大動脈瘤の予防および治療用組成物は、カプリン酸およびこれを含むグリセリドを有効成分とすることを特徴とする。そして、本発明に係る大動脈瘤の予防および治療用組成物は、大動脈瘤の予防および治療用医薬組成物および大動脈瘤の予防および治療用加工食品組成物とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る大動脈瘤の予防および治療用組成物は、大動脈瘤が進展することを効果的に抑制することができるので、検査等で大動脈瘤が発見された場合等に服用することで、大動脈瘤の進展を抑制することができる。これにより、ステントグラフトを挿入する手術などを行う必要がなくなるという効果を奏する。また、本発明に係る大動脈瘤の予防および治療用組成物は、大動脈瘤の破裂を防止することができるので、生命予後改善の効果がある。
【0012】
さらに本発明に係る組成物は、大動脈瘤の治療用組成物としても機能する。すなわち、進行した大動脈瘤を縮小させることができる。したがって、ステントグラフトを挿入する手術を検討する必要もなく、本発明に係る治療用組成物の投与によって、大動脈瘤を縮小させることができる。また、ステントグラフト内挿術や人工血管置換術などの大動脈瘤治療の後の再拡張を予防・治療する目的でも使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】コントロール群、トリカプリリン投与群、トリカプリン投与群の試験期間における生存率を示すグラフである。
【
図2】コントロール群、トリカプリリン投与群、トリカプリン投与群の試験終了後の大動脈の直径を測定した結果を示すグラフである。
【
図3】(A)、(B)、(C)はコントロール群を示し、(D)、(E)、(F)はトリカプリン投与群を表す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明に係る大動脈瘤の予防および治療用組成物(大動脈瘤予防用医薬組成物および大動脈瘤予防用加工食品組成物と、大動脈瘤治療用医薬組成物および大動脈瘤治療用加工食品組成物)について実施例を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。
【0015】
本発明において、大動脈瘤の予防とは、腹部、胸部を問わず、大動脈の拡張を抑制し、大動脈瘤の進展を抑制するなどの作用によって、大動脈瘤の発生を予防し、進展を抑制させることをいう。なお、進展とは大動脈瘤破裂も含まれる。また、大動脈瘤の治療とは、進展した大動脈瘤を退縮させることをいう。
【0016】
本発明に係る大動脈瘤の予防および治療用組成物は、中鎖脂肪酸を主成分とする。ここで中鎖脂肪酸とは炭素数5~12の飽和脂肪酸をいう。また、より望ましくは炭素数8~10としてもよい。具体的には、ペンタン酸(C5:吉草酸)、ヘキサン酸(C6:カプロン酸)、ヘプタン酸(C7:エナント酸)、オクタン酸(C8:カプリル酸)、ノナン酸(C9:ペラルゴン酸)、デカン酸(C10:カプリン酸)、ドデカン酸(C12:ラウリン酸)である。特にC10のデカン酸はより好ましい。
【0017】
これらの中鎖脂肪酸は、単独で若しくは複数種の混合物として使用してもよい。また、本発明に係る大動脈瘤の予防および治療用組成物に用いる中鎖脂肪酸は、天然であっても、人工的に合成されたものであってもよい。たとえば、ココナッツやパームフルーツには、およそ60%近い中鎖脂肪酸が含まれるとされている。
【0018】
なお、中鎖脂肪酸は油脂(トリグリセリド若しくはジグリセリドの形)やエチルエステル体などの中鎖脂肪酸を基本骨格とする誘導体であってもよい。トリグリセリドやジグリセリドは3つの脂肪酸若しくは2つの脂肪酸とグリセリンのエステルであるが、腸において酵素リパーゼによってグリセリンと脂肪酸に分解され吸収されるからである。また、油脂は炭素数の異なる中鎖脂肪酸とグリセリンのエステルであってもよいが、同一の炭素数の中鎖脂肪酸とグリセリンのエステルであればより好ましい。
【0019】
本発明に係る大動脈瘤の予防用組成物を大動脈瘤の予防および治療用医薬組成物として用いる場合、中鎖脂肪酸以外の成分を含んでいてもよい。たとえば、本発明の用途に適した担体、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤および着色剤などが好適に利用できる。
【0020】
担体および賦形剤の例には、乳糖、ブドウ糖、白糖、マンニトール、馬鈴薯デンプン、トウモロコシデンプン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウムおよび結晶セルロースなどが利用できる。
【0021】
また、結合剤としては、デンプン、ゼラチン、シロップ、トラガントゴム、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースなどが利用できる。
【0022】
また、崩壊剤としては、デンプン、寒天、ゼラチン粉末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびカルボキシメチルセルロースカルシウムなどが利用できる。
【0023】
また、滑沢剤の例には、ステアリン酸マグネシウム、水素添加植物油、タルクおよびマクロゴールなどが利用できる。
【0024】
また、着色剤は、医薬組成物に添加することが許容されている着色剤を使用することができる。
【0025】
また、本発明の大動脈瘤の予防および治療用医薬組成物は、必要に応じて、白糖、ゼラチン、精製セラック、グリセリン、ソルビトール、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、フタル酸セルロースアセテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルメタクリレートおよびメタアクリル酸重合体などの一層以上の層で被膜してもよい。また、必要に応じて、PH調節剤、緩衝剤、安定化剤および可溶化剤などを添加してもよい。
【0026】
また、本発明の大動脈瘤の予防および治療用医薬組成物は、任意の形態の製剤として提供することができる。たとえば、本発明は、経口投与製剤として、糖衣錠、バッカル錠、コーティング錠およびチュアブル錠等の錠剤、トローチ剤、丸剤、散剤およびソフトカプセルを含むカプセル剤、顆粒剤、懸濁剤、乳剤、ドライシロップを含むシロップ剤、並びにエリキシル剤等の液剤である。
【0027】
また、本発明は、非経口投与のために、静脈注射、皮下注射、腹腔内注射、筋肉内注射、経皮投与、経鼻投与、経肺投与、経腸投与、口腔内投与および経粘膜投与などの投与のための製剤であることができる。たとえば、注射剤、経皮吸収テープ、エアゾール剤および坐剤などである。
【0028】
また、本発明の大動脈瘤の予防および治療用医薬組成物は、任意の方法を使用して製造することができる。たとえば、本発明の大動脈瘤の予防および治療用医薬組成物は、公知の製造方法を使用して、中鎖脂肪酸を、所望の含有量となるように上記のとおりの種々の材料と混合し、次いで所望の形態の製剤として成形することによって製造することができる。
【0029】
また、本発明の大動脈瘤の予防および治療用組成物は、飲食品等の形態で大動脈瘤予防および治療用加工食品組成物として提供してもよい。大動脈瘤予防および治療用加工食品組成物は、有効成分である中鎖脂肪酸若しくは油脂だけであってもよい。たとえば一般食品、特定保健用食品、栄養機能食品、栄養補助食品、機能性食品、病者用食品および老人用食品等であることができる。また、本発明は、たとえば特定保健用食品であることを表示した飲食品および大動脈瘤予防効果または治療効果を表示した飲食品などとすることができる。
【0030】
また、本発明の大動脈瘤の予防および治療用組成物は、他の食品に添加し、混合し、または塗布する大動脈瘤予防および治療用食品素材として用いることができる。特に特定保健用食品としては、少なくとも結合剤と中鎖脂肪酸若しくは油脂を含み、中鎖脂肪酸が20質量%以上含有した錠剤が好適である。なお、油脂で提供する場合はその1/3でよい。
【0031】
また、大動脈瘤は、高脂肪分の多い肉料理の過剰摂取に原因があるともいわれている。そこで、本発明に係る大動脈瘤予防および治療用加工食品組成物としては、肉料理用のソースやペースト(付けだれ)に大動脈瘤の予防および治療用組成物を一定量以上含ませたものが好適に利用できる。これらの加工食品は、公知のソース用材料や付けだれ用材料に一定量の予防および治療用組成物を添加して構成することができる。
【0032】
例えば、焼肉のたれでは、玉ねぎ、ショウガ、ニンニク、しょうゆ、酒、ごま油、みそ、砂糖、ゴマといった付けだれ材料に本発明に係る大動脈瘤の予防および治療用組成物を一定(望ましくは20質量%)以上含有させることで本発明の大動脈瘤予防および治療用加工食品組成物とすることができる。
実施例
【0033】
(実施例1)
<モデル動物の作出方法>
4週齢(70~90G)の雄のSDラットを使用した。コントロール群として18匹、中鎖脂肪酸投与群として8匹用意した。
【0034】
すべてのラットは、普通食のみで搬入後1週間予備飼育した後、中鎖脂肪酸投与群には、普通食を与え、1145MG/KG体重/日の高含有中性脂肪(構成脂肪酸の98%がデカン酸)を強制投与した。コントロール群も普通食を与え、1145MG/KG体重/日の水を強制投与した。
【0035】
ここで中鎖脂肪酸はトリカプリンの形態で与えた。トリカプリンは炭素数10の直鎖飽和脂肪酸であるデカン酸(C10)がグリセリンに結合した物質である。したがって、高含有中性脂肪は本発明の中鎖脂肪酸である。
【0036】
搬入後2週間目からは、全てのラットに、高脂肪食を与えた。そして、中鎖脂肪酸投与群には、高脂肪食に加え、1145MG/KG体重/日の高含有中性脂肪を強制投与した。また、コントロール群は、高脂肪食に加え、1145MG/KG体重/日の水を強制投与した。
【0037】
搬入後3週間目で、腹部大動脈瘤誘導処置を行った。腹部大動脈瘤誘導処置は、ラットの腹部大動脈にカテーテルを挿入し、挿入したカテーテルとともに腹部大動脈を結紮する処理であり、特許文献3に開示されている方法に準じた。
【0038】
その後4週間の間、コントロール群は、高脂肪食を与え、1145MG/KG体重/日の水を強制投与し続けた。また、中鎖脂肪酸投与群には高脂肪食を与え、高含有中性脂肪を強制投与し続けた。そして、腹部大動脈瘤誘導処置を行ってから4週間が終了した後に解剖した。
【0039】
<実験結果>
表1には、コントロール群と中鎖脂肪酸投与群で腹部大動脈瘤の発生状態の有無を調べた結果を示す。なお、腹部大動脈瘤の発生は、腹部大動脈瘤誘導処置を行った部位の血管が2倍以上の太さに膨張していたら腹部大動脈瘤の発生と判断した。
【0040】
表1を参照して、コントロール群18匹中、腹部大動脈瘤が発生したのは、7匹であった。コントロール群の内11匹は、腹部大動脈瘤の発生を確認できなかった。
【0041】
一方、中鎖脂肪酸投与群では、1匹に腹部大動脈瘤の発生が認められた。中鎖脂肪酸投与群の内7匹には、腹部大動脈瘤の発生を確認できなかった。以上のことより、腹部大動脈瘤の発生率は、コントロール群で38.9%であり、中鎖脂肪酸投与群では12.5%であった。
【0042】
【0043】
表2には、腹部大動脈瘤を発生したラットの内、腹部大動脈瘤の破裂の発生の有無を調べた結果を示す。表2を参照して、コントロール群7匹の内、2匹に腹部大動脈瘤の破裂が確認された。コントロール群の残り5匹については、腹部大動脈瘤の破裂は認められなかった。
【0044】
一方、中鎖脂肪酸投与群の内、大動脈瘤を発生していた1匹には、腹部大動脈瘤の破裂は認められなかった。
【0045】
以上のことより、腹部大動脈瘤の破裂率は、コントロール群で28.6%であり、中鎖脂肪酸投与群では0.0%であった。
【0046】
【0047】
(実施例2)
次に中鎖脂肪酸としてトリカプリン(デカン酸3つとグリセリンのエステル)とトリカプリリン(C8のオクタン酸3つとグリセリンのエステル)を用いた場合の実験結果を示す。モデル動物の作出方法は実施例1の場合と同じである。トリカプリン(C10)を与えた群はトリカプリン投与群、トリカプリリン(C8)を与えた群はトリカプリリン投与群と呼ぶ。
【0048】
コントロール群として23匹、トリカプリリン投与群として11匹、トリカプリン投与群として18匹のモデル動物を作出した。
【0049】
表3には、コントロール群、トリカプリリン投与群とトリカプリン投与群で腹部大動脈瘤の発生状態の有無を調べた結果を示す。なお、腹部大動脈瘤の発生は、腹部大動脈瘤誘導処置を行った部位の血管が2倍以上の太さに膨張していたら腹部大動脈瘤の発生と判断した。
【0050】
表3を参照してコントロール群23匹中、腹部大動脈瘤が発生したのは7匹であった。コントロール群の内16匹については、腹部大動脈瘤の発生を確認できなかった。
【0051】
一方、トリカプリリン投与群では、11匹中3匹に腹部大動脈瘤の発生を確認した。また、残りの8匹については腹部大動脈瘤の発生を確認できなかった。トリカプリン投与群では、18匹中1匹に腹部大動脈瘤の発生を確認した。また、残りの17匹については腹部大動脈瘤の発生を確認できなかった。
【0052】
これを発生率(%)で比較すると、コントロール群が30.4%であり、トリカプリリン投与群は27.3%とコントロール群より低い発生率となった。トリカプリン投与群については、発生率が5.6%であり、コントロール群と比較すると驚くほど発生率が低かった。
【0053】
【0054】
表4には、表3で腹部大動脈瘤を発生したラットの内、大動脈瘤の破裂の発生の有無を調べた結果を示す。表4を参照して、コントロール群で腹部大動脈瘤が発生した7匹の内、2匹に腹部大動脈瘤の破裂が確認され、残り5匹については、腹部大動脈瘤の破裂は認められなかった。
【0055】
一方、トリカプリリン投与群では、腹部大動脈瘤が発生した3匹の内、1匹に腹部大動脈瘤の破裂が確認され、残り2匹については、腹部大動脈瘤の破裂は認められなかった。トリカプリン投与群については、腹部大動脈瘤が発生した1匹は、腹部大動脈瘤の破裂が確認されなかった。
【0056】
これを破裂率(%)でみると、コントロール群は28.6%、トリカプリリン投与群は33.3%、トリカプリン投与群は0.0%であった。
【0057】
【0058】
図1には、この実験の生存率(%)を示す。横軸は腹部大動脈瘤誘導処置を施した日をゼロ日とした経過日(日)であり、縦軸は生存率(%)を表す。コントロールは、17日目に生存率が下がったが、トリカプリリン投与群は26日目まで生存率100%であった。これより、表4の破裂率において、トリカプリリン投与群はコントロール群より高くなったが、生存率がよく、投与の効果があると考えられる。トリカプリン投与群は、試験期間中生存率が100%であった。
【0059】
図2に大動脈の直径(MM)の測定結果を示す。
図2を参照して、横軸は正常血管と腹部大動脈瘤誘導部の血管を表し、縦軸は大動脈の直径(MM)を表す。正常血管とは、腹部大動脈瘤を誘導した部分の上下にある正常は大動脈をいう。
【0060】
コントロール群、トリカプリリン投与群、トリカプリン投与群ともに、正常血管の太さはほぼ同じ(1.5MM~1.8MM)であった。しかし、腹部大動脈瘤誘導部における大動脈の直径は、コントロール群でおよそ4MMであるのに対して、トリカプリリン投与群では、3.5MM程度、トリカプリン投与群では約2.2MMとコントロール群と比較して膨張具合は低かった。
【0061】
以上のことより、中鎖脂肪酸の摂取により腹部大動脈瘤の発生および破裂の発生率を著しく抑制できることが分かった。
【0062】
(実施例3)
次に治療効果について説明する。本発明では、中鎖脂肪酸が大動脈瘤の進展を抑制するだけでなく、退縮させることができることも示す。
【0063】
4週齢(70~90G)の雄のSDラットを使用した。ラットに上記の腹部大動脈瘤誘導処置を行った。7日目に開腹して腹部大動脈瘤が発生しているのを確認し、血管径を測定した後、閉腹した。その後、コントロール群には通常食および水を与え、トリカプリン投与群には、通常食に加え1145MG/KG/日のトリカプリンを与えた。
【0064】
閉腹後7日目(腹部大動脈瘤誘導処置を行ってから14日目)に、再度開腹し、血管径を測定した。なお、コントロール群の一部は、14日目の開腹を行わず、通常食および水で飼育を続け、腹部大動脈瘤誘導処置を行った日から血管中の中性脂肪の量、血中の脂質量、血糖値や体重を測定した。
【0065】
結果を
図3に示す。
図3(A)、
図3(B)、
図3(C)はコントロール群(「CONTROL」と示した。)を示し、
図3(D)、
図3(E)、
図3(F)は、トリカプリン投与群(「C10-TG」と示した。)を表す。
【0066】
「DAY0」は腹部大動脈瘤誘導処置を行った際の写真(
図3(A)、
図3(D))である。「DAY7」は腹部大動脈瘤誘導処置を行った後7日目の開腹時の写真(
図3(B)、
図3(E))である。腹部大動脈瘤が形成されており、コントロールのラット(
図3(B))は、最大瘤径2.81MMであり、トリカプリン投与したラット(
図3(E))は最大瘤径2.79MMであった。この時点までは、トリカプリン投与ラットにはまだトリカプリンを投与していない。
【0067】
「DAY14」は14日目の写真(
図3(C)、
図3(F))である。コントロールのラット(
図3(C))は、最大瘤径が3.59MMまで大きくなっていたが、トリカプリンを投与したラット(
図3(F))は、最大瘤径が1.89MMまで退縮していた。
【0068】
表5は、コントロール群の一部で血管中の中性脂肪の量を測定したものである。右横向き矢印は、変化がなかったことを示し、上向き矢印は増加したことを示す。腹部大動脈瘤破裂は血管中の中性脂肪代謝異常と関係があることが報告されているが、血管の中の中性脂肪代謝異常が開始されるのは14日以降であった。また、コントロール群と中鎖脂肪酸投与の体重増加率には差がなく、血中の中性脂肪、コレステロール値、血糖値にも差がなかった。
【0069】
【0070】
このことから、腹部大動脈瘤の発生と、トリカプリンによる腹部大動脈瘤の退縮には血管中の中性脂肪、体脂肪、血液中の中性脂肪やコレステロール、血糖値とは関係ないといえる。以上のことから中鎖脂肪酸の摂取は腹部大動脈瘤を退縮させることができ、治療薬として効果を奏することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明に係る大動脈瘤の予防および治療用医薬組成物および加工食品は大動脈瘤の予防および進展抑制として好適に利用することができる。