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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】異常検出システム及び異常検出方法
(51)【国際特許分類】
   E21B 47/00 20120101AFI20240822BHJP
   E21B 44/02 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
E21B47/00
E21B44/02
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023025074
(22)【出願日】2023-02-21
【審査請求日】2024-05-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年、国立研究開発法人海洋研究開発機構、「掘削を対象としたデジタル技術適用による安全性向上に関する調査」、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504194878
【氏名又は名称】国立研究開発法人海洋研究開発機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504117958
【氏名又は名称】独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128107
【弁理士】
【氏名又は名称】深石 賢治
(72)【発明者】
【氏名】金子 達哉
(72)【発明者】
【氏名】井上 朝哉
(72)【発明者】
【氏名】和田 良太
(72)【発明者】
【氏名】三好 啓介
(72)【発明者】
【氏名】安部 俊吾
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-052714(JP,A)
【文献】特開2022-046017(JP,A)
【文献】特開2019-020982(JP,A)
【文献】国際公開第2022/230532(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第115018178(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 47/00
E21B 44/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
坑井の掘削における異常を検出する異常検出システムであって、
異常の検出対象である掘削とは異なる掘削である、当該異常の検出対象である掘削に係る坑井とは異なる坑井の掘削、又は当該異常の検出対象である掘削に係る坑井と同一の坑井の掘削における、第1のパラメータ及び第2のパラメータの、互いに対応する事前準備用の測定値を取得する事前準備用取得手段と、
前記事前準備用取得手段によって取得された測定値に基づいて、第1のパラメータの値から第2のパラメータの値を推定する推定モデル、及び異常の検出に用いる基準を生成する推定モデル生成手段と、
異常の検出対象における、第1のパラメータ及び第2のパラメータの、互いに対応する異常検出用の測定値を取得する異常検出用取得手段と、
前記推定モデル生成手段によって生成された推定モデルを用いて、前記異常検出用取得手段によって取得された第1のパラメータの測定値から第2のパラメータの推定値を算出する推定値算出手段と、
前記異常検出用取得手段によって取得された第2のパラメータの測定値と、前記推定値算出手段によって算出された第2のパラメータの推定値とを比較して、比較結果及び前記推定モデル生成手段によって生成された基準に基づいて異常の検出対象である掘削における異常を検出する異常検出手段と、
を備え、
前記推定モデル生成手段は、生成した推定モデルを用いて、第1のパラメータの事前準備用の測定値から第2のパラメータの推定値を算出し、第2のパラメータの事前準備用の測定値と算出した第2のパラメータの推定値との比較に基づく比較値を算出して、当該比較値の分布から前記基準を生成する異常検出システム。
【請求項2】
前記推定モデル生成手段は、比較値のばらつきを示す値に基づく値、又は比較値の予め設定したパーセンタイル値を、基準である閾値とする請求項1に記載の異常検出システム。
【請求項3】
前記第1のパラメータ及び前記第2のパラメータは、坑井の外側で測定可能なパラメータである請求項に記載の異常検出システム。
【請求項4】
前記異常検出用取得手段は、複数のタイミングでの第1のパラメータ及び第2のパラメータの異常検出用の測定値を取得し、
前記推定値算出手段は、前記複数のタイミングでの第2のパラメータの推定値を算出し、
前記異常検出手段は、前記複数のタイミングでの第2のパラメータの測定値と推定値とを比較して、複数の比較結果に基づいて掘削における異常を検出する請求項に記載の異常検出システム。
【請求項5】
前記異常検出手段は、前記複数のタイミング毎に異常を判断して、異常とされた数に基づいて異常を検出する請求項4に記載の異常検出システム。
【請求項6】
前記第1のパラメータは、掘削に用いられるドリルビットの接地荷重であり、
前記第2のパラメータは、掘削に用いられるドリルパイプの回転トルクであり、
前記推定モデルは、線形回帰モデルである請求項に記載の異常検出システム。
【請求項7】
前記第1のパラメータは、掘削に用いられる掘削流体の注入流量、及び掘削に用いられるドリルパイプの長さに係るパラメータであり、
前記第2のパラメータは、掘削に用いられる掘削流体の注入圧であり、
前記推定モデルは、非線形回帰モデルである請求項に記載の異常検出システム。
【請求項8】
前記事前準備用取得手段は、掘削の段階に応じた第1のパラメータ及び第2のパラメータの事前準備用の測定値を取得し、
前記推定モデル生成手段は、掘削の段階に応じた推定モデル及び基準を生成し、
前記異常検出用取得手段は、掘削の段階に応じた第1のパラメータ及び第2のパラメータの異常検出用の測定値を取得し、
前記推定値算出手段は、掘削の段階に応じた推定モデルを用いて、第2のパラメータの推定値を算出し、
前記異常検出手段は、掘削の段階に応じた異常を検出する請求項に記載の異常検出システム。
【請求項9】
坑井の掘削における異常を検出する異常検出システムの動作方法である異常検出方法であって、
異常の検出対象である掘削とは異なる掘削である、当該異常の検出対象である掘削に係る坑井とは異なる坑井の掘削、又は当該異常の検出対象である掘削に係る坑井と同一の坑井の掘削における、第1のパラメータ及び第2のパラメータの、互いに対応する事前準備用の測定値を取得する事前準備用取得ステップと、
前記事前準備用取得ステップにおいて取得された測定値に基づいて、第1のパラメータの値から第2のパラメータの値を推定する推定モデル、及び異常の検出に用いる基準を生成する推定モデル生成ステップと、
異常の検出対象における、第1のパラメータ及び第2のパラメータの、互いに対応する異常検出用の測定値を取得する異常検出用取得ステップと、
前記推定モデル生成ステップにおいて生成された推定モデルを用いて、前記異常検出用取得ステップにおいて取得された第1のパラメータの測定値から第2のパラメータの推定値を算出する推定値算出ステップと、
前記異常検出用取得ステップにおいて取得された第2のパラメータの測定値と、前記推定値算出ステップにおいて算出された第2のパラメータの推定値とを比較して、比較結果及び前記推定モデル生成ステップにおいて生成された基準に基づいて異常の検出対象である掘削における異常を検出する異常検出ステップと、
を含み、
前記推定モデル生成ステップにおいて、生成した推定モデルを用いて、第1のパラメータの事前準備用の測定値から第2のパラメータの推定値を算出し、第2のパラメータの事前準備用の測定値と算出した第2のパラメータの推定値との比較に基づく比較値を算出して、当該比較値の分布から前記基準を生成する異常検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常を検出する異常検出システム及び異常検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々の目的で坑井の掘削が行われている。特許文献1には、掘削に係るパラメータを監視しておき、異常を検出することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】欧州特許第2404031号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示されるよう、単に掘削に係るパラメータを用いるだけでは、必ずしも精度がよい異常の検出、例えば、掘削の際の抑留の検出を行えないおそれがある。また、坑井の掘削以外の異常の検出においても同様の問題が生じるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、精度よく掘削等における異常を検出することができる異常検出システム及び異常検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明に係る異常検出システムは、異常を検出する異常検出システムであって、異常の検出対象とは異なる対象における、第1のパラメータ及び第2のパラメータの事前準備用の測定値を取得する事前準備用取得手段と、事前準備用取得手段によって取得された測定値に基づいて、第1のパラメータの値から第2のパラメータの値を推定する推定モデル、及び異常の検出に用いる基準を生成する推定モデル生成手段と、異常の検出対象における、第1のパラメータ及び第2のパラメータの異常検出用の測定値を取得する異常検出用取得手段と、推定モデル生成手段によって生成された推定モデルを用いて、異常検出用取得手段によって取得された第1のパラメータの測定値から第2のパラメータの推定値を算出する推定値算出手段と、異常検出用取得手段によって取得された第2のパラメータの測定値と、推定値算出手段によって算出された第2のパラメータの推定値とを比較して、比較結果及び推定モデル生成手段によって生成された基準に基づいて対象における異常を検出する異常検出手段と、を備える。
【0007】
本発明に係る異常検出システムでは、第2のパラメータの測定値と、第2のパラメータの推定値とが比較されて、比較結果及び基準に基づいて異常が検出される。また、事前準備用の測定値から、異常の検出に用いられる推定モデルが生成される際に、あわせて異常の検出に用いる基準が生成される。これによって、適切な基準によって異常の検出を行うことができる。その結果、本発明に係る異常検出システムによれば、第2のパラメータの測定値と推定値との比較に基づいて、精度よく掘削等における異常を検出することができる。
【0008】
異常検出システムにおいて、異常を検出する対象が坑井の掘削であることとしてもよい。この構成によれば、精度よく掘削における異常を検出することができる。
【0009】
推定モデル生成手段は、生成した推定モデルを用いて、第1のパラメータの事前準備用の測定値から第2のパラメータの推定値を算出し、第2のパラメータの事前準備用の測定値と算出した第2のパラメータの推定値との比較に基づく比較値を算出して、当該比較値の分布から基準を生成することとしてもよい。この構成よれば、基準を適切かつ確実に生成することができ、その結果、適切かつ確実に精度よく異常を検出することができる。
【0010】
第1のパラメータ及び第2のパラメータは、坑井の外側で測定可能なパラメータであることとしてもよい。この構成によれば、各パラメータの測定値を容易に取得することができ、容易に精度よく異常を検出することができる。
【0011】
異常検出用取得手段は、複数のタイミングでの第1のパラメータ及び第2のパラメータの異常検出用の測定値を取得し、推定値算出手段は、複数のタイミングでの第2のパラメータの推定値を算出し、異常検出手段は、複数のタイミングでの第2のパラメータの測定値と推定値とを比較して、複数の比較結果に基づいて掘削における異常を検出することとしてもよい。この構成によれば、更に精度よく異常を検出することができる。
【0012】
第1のパラメータは、掘削に用いられるドリルビットの接地荷重であり、第2のパラメータは、掘削に用いられるドリルパイプの回転トルクであり、推定モデルは、線形回帰モデルであることとしてもよい。第1のパラメータは、掘削に用いられる掘削流体の注入流量、及び掘削に用いられるドリルパイプの長さに係るパラメータであり、第2のパラメータは、掘削に用いられる掘削流体の注入圧であり、推定モデルは、非線形回帰モデルであることとしてもよい。これらの構成によれば、適切かつ確実に精度よく異常を検出することができる。
【0013】
事前準備用取得手段は、掘削の段階に応じた第1のパラメータ及び第2のパラメータの事前準備用の測定値を取得し、推定モデル生成手段は、掘削の段階に応じた推定モデル及び基準を生成し、異常検出用取得手段は、掘削の段階に応じた第1のパラメータ及び第2のパラメータの異常検出用の測定値を取得し、推定値算出手段は、掘削の段階に応じた推定モデルを用いて、第2のパラメータの推定値を算出し、異常検出手段は、掘削の段階に応じた異常を検出することとしてもよい。この構成によれば、更に精度よく異常を検出することができる。
【0014】
ところで、本発明は、上記のように異常検出システムの発明として記述できる他に、以下のように異常検出方法の発明としても記述することができる。これらはカテゴリが異なるだけで、実質的に同一の発明であり、同様の作用及び効果を奏する。
【0015】
即ち、本発明に係る異常検出方法は、異常を検出する異常検出システムの動作方法である異常検出方法であって、異常の検出対象とは異なる対象における、第1のパラメータ及び第2のパラメータの事前準備用の測定値を取得する事前準備用取得ステップと、事前準備用取得ステップにおいて取得された測定値に基づいて、第1のパラメータの値から第2のパラメータの値を推定する推定モデル、及び異常の検出に用いる基準を生成する推定モデル生成ステップと、異常の検出対象における、第1のパラメータ及び第2のパラメータの異常検出用の測定値を取得する異常検出用取得ステップと、推定モデル生成ステップにおいて生成された推定モデルを用いて、異常検出用取得ステップにおいて取得された第1のパラメータの測定値から第2のパラメータの推定値を算出する推定値算出ステップと、異常検出用取得ステップにおいて取得された第2のパラメータの測定値と、推定値算出ステップにおいて算出された第2のパラメータの推定値とを比較して、比較結果及び推定モデル生成ステップにおいて生成された基準に基づいて対象における異常を検出する異常検出ステップと、を含む。異常検出方法において、異常を検出する対象が坑井の掘削であることとしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、精度よく掘削等における異常を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る異常検出システムの機能構成を示す図である。
図2】異常検出システムによる異常の検出の例を説明するためのグラフである。
図3】本発明の実施形態に係る異常検出システムで実行される処理である異常検出方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面と共に本発明に係る異常検出システム及び異常検出方法の実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
図1に本実施形態に係る異常検出システム10の機能構成を示す。異常検出システム10は、坑井の掘削における異常を検出(検知)するシステム(装置)である。掘削は、例えば、海底面又は地面に対して行われる。即ち、掘削は、例えば、海洋掘削又は陸上掘削である。掘削自体は、従来と同様のものでよい。例えば、ドリルパイプに接続されたドリルビットが、ドリルパイプから伝えられた力によって回転して掘削する。また、掘削される坑井には、ポンプによって掘削流体が流し込まれて、坑井からの掘削屑を除去する。掘削流体は、例えば、泥水(マッド)又は海水である。掘削は、鉛直方向に行われてもよく、それ以外の方向(例えば、水平方向)に行われてもよい。なお、掘削は、必ずしも上記のように行われる必要はなく、任意の方法によって行われてもよい。
【0020】
異常検出システム10の検出対象となる異常は、抑留(スタック)である。また、異常検出システム10の検出対象となる異常は、抑留が発生する予兆であってもよい。また、異常検出システム10は、抑留及び抑留の予兆以外の坑井の掘削における異常を検出してもよい。また、異常検出システム10は、異常のリスクを検出してもよい。異常検出システム10は、後述するように掘削におけるパラメータの測定値(実測値)(掘削データ)を取得して、取得した測定値に基づいて異常を検出する。
【0021】
異常検出システム10は、具体的には、CPU(Central Processing Unit)、メモリ等のハードウェアを含むコンピュータによって構成されている。異常検出システム10の後述する各機能は、これらの構成要素がプログラム等により動作することによって発揮される。なお、異常検出システム10は、一つのコンピュータで実現されてもよいし、複数のコンピュータがネットワークにより互いに接続されて構成されるコンピュータシステムにより実現されていてもよい。
【0022】
引き続いて、本実施形態に係る異常検出システム10の機能について説明する。図1に示すように、異常検出システム10は、事前準備用取得部11と、推定モデル生成部12と、異常検出用取得部13と、推定値算出部14と、異常検出部15とを備えて構成される。異常検出システム10は、事前に推定モデル及び異常の検出に用いる基準を生成し、生成した推定モデル及び基準を用いて異常を検出する。事前準備用取得部11及び推定モデル生成部12は、推定モデル及び基準を生成するための構成である。
【0023】
事前準備用取得部11は、異常の検出対象とは異なる掘削における、第1のパラメータ及び第2のパラメータの事前準備用の測定値を取得する事前準備用取得手段である。第1のパラメータ及び第2のパラメータは、坑井の外側で測定可能なパラメータであってもよい。
【0024】
異常検出システム10は、掘削において測定可能な、互いに異なる第1のパラメータ及び第2のパラメータの2種類のパラメータを異常の検出に用いる。推定モデルは、第1のパラメータの値から第2のパラメータの値を推定(予測)するモデルである。即ち、推定モデルは、第1のパラメータの値を説明変数とし、第2のパラメータの値を目的変数としたモデルである。従って、第2のパラメータは、第1のパラメータから推測可能なものである。
【0025】
第1のパラメータ及び第2のパラメータの組み合わせは、予め設定される。また、組み合わせにおける第1のパラメータ及び第2のパラメータ(の種別)は、それぞれ複数であってもよい。第1のパラメータ及び第2のパラメータは、坑井の外側である地上又は船上(具体的には、地上又は船上のリグ上)等の掘削される坑井の外側で測定可能なパラメータであってもよい。以下に示す例のパラメータは、坑井の外側で測定可能なものである。なお、第1のパラメータ及び第2のパラメータの何れか又は全部は、坑井の内部でしか測定できないもの(例えば、センサにより坑井内部の情報を測定するもの)であってもよい。
【0026】
具体的には、第1のパラメータは、掘削に用いられるドリルビットの接地荷重であり、第2のパラメータは、掘削に用いられるドリルパイプの回転トルクである組み合わせ(第1の組み合わせ)である。ドリルビットの接地荷重は、例えば、吊り荷重から算出されるドリルビットの接地荷重(surface-WOB)である。ドリルビットの接地荷重は、坑井内部で測定されるドリルビットの接地荷重(downhole-WOB)であってもよい。あるいは、第1のパラメータは、掘削に用いられる掘削流体の注入流量、及び掘削に用いられるドリルパイプの長さに係るパラメータであり、第2のパラメータは、掘削に用いられる掘削流体の注入圧(頭圧)である組み合わせ(第2の組み合わせ)である。ここで、ドリルパイプの長さに係るパラメータは、例えば、ドリルパイプ全長又はそれに準ずるもの(例えば、ドリルビットの深度)である。当該パラメータとしては、実際にはドリルパイプの長さ(例えば、ドリルパイプの全長)を用いるのがよい。しかし、ドリルパイプの長さは、掘削制御装置で測定する項目に含まれないことが多いため、当該パラメータとしてドリルビットの深度を用いてもよい。厳密には、ドリルパイプの長さ=ドリルビットの深度(=ドリルフロア(掘削を行う装置等を設置した坑井外の場所)からドリルパイプ下端迄の長さ)+フック高さ(HookHeight)(ドリルフロアからドリルパイプ上端までの長さ)である。但し、フック高さは大きな値ではないため、無視(=0とみなす)して計算してもよい。以下では、ドリルパイプの長さに係るに係るパラメータの具体例を、ドリルビットの深度とする。
【0027】
第1のパラメータ及び第2のパラメータの事前準備用の測定値は、例えば、予め掘削用の装置等に設置された測定装置により測定される。事前準備用取得部11は、例えば、当該測定装置から、第1のパラメータ及び第2のパラメータの事前準備用の測定値を受信して取得する。あるいは、事前準備用取得部11は、ユーザの異常検出システム10に対する第1のパラメータ及び第2のパラメータの事前準備用の測定値の入力操作を受け付けて、当該測定値を取得してもよい。また、事前準備用取得部11は、上記以外の任意の方法で第1のパラメータ及び第2のパラメータの事前準備用の測定値を取得してもよい。事前準備用取得部11は、推定モデル生成部12による推定モデルの生成に十分な数の第1のパラメータ及び第2のパラメータの事前準備用の測定値を取得する。
【0028】
第1のパラメータ及び第2のパラメータの事前準備用の測定値は、坑井の掘削における異常が生じていないことと想定される場合の測定値である。また、事前準備用の測定値は、異常の検出対象となる坑井における、異常の検出対象のタイミングより前のタイミングでの測定値であってもよい。例えば、異常検出システム10(の異常検出部15)によって異常があると検出されなかった第1のパラメータ及び第2のパラメータの測定値を、それ以降の検出用の事前準備用の測定値としてもよい。
【0029】
例えば、第1のパラメータ及び第2のパラメータとして上記の第1の組み合わせを用いる場合、異常の検出対象となる坑井における、異常の検出対象のタイミングの12.5時間前~30分前の測定値を事前準備用の測定値とする。第1のパラメータ及び第2のパラメータとして上記の第2の組み合わせを用いる場合、異常の検出対象となる坑井における、異常の検出対象のタイミングの25時間前~1時間前の測定値を事前準備用の測定値とする。また、事前準備用の測定値に係る時間帯は、必ずしも上記の時間帯に限られない。例えば、当該時間帯は、異常の検出対象のタイミングの数分前~数日前の時間帯であってもよい。また、事前準備用の測定値は、異常の検出対象となる坑井以外の坑井(例えば、オフセット坑井)における測定値であってもよい。
【0030】
また、異常検出システム10で用いられるパラメータの測定値は、実際に測定された値を従来の方法で補正したものであってもよい。また、パラメータの測定値は、別のパラメータから換算したものであってもよい。これらの場合、異常検出システム10の機能部において、補正又は換算が行われてもよい。事前準備用取得部11は、取得した第1のパラメータ及び第2のパラメータの事前準備用の測定値を推定モデル生成部12に出力する。
【0031】
推定モデル生成部12は、事前準備用取得部11によって取得された測定値に基づいて、第1のパラメータの値から第2のパラメータの値を推定する推定モデル、及び異常の検出に用いる基準を生成する推定モデル生成手段である。推定モデル生成部12は、生成した推定モデルを用いて、第1のパラメータの事前準備用の測定値から第2のパラメータの推定値を算出し、第2のパラメータの事前準備用の測定値と算出した第2のパラメータの推定値との比較に基づく比較値を算出して、当該比較値の分布から基準を生成してもよい。
【0032】
第1のパラメータは、掘削に用いられるドリルビットの接地荷重であり、第2のパラメータは、掘削に用いられるドリルパイプの回転トルクであり、推定モデルは、線形回帰モデルであってもよい。第1のパラメータは、掘削に用いられる掘削流体の注入流量、及び掘削に用いられるドリルパイプの長さに係るパラメータであり、第2のパラメータは、掘削に用いられる掘削流体の注入圧であり、推定モデルは、非線形回帰モデルであってもよい。
【0033】
推定モデル生成部12は、事前準備用取得部11から、第1のパラメータ及び第2のパラメータの事前準備用の測定値を入力する。推定モデル生成部12は、入力した事前準備用の測定値に基づいて推定モデルを生成する。推定モデル生成部12は、予め推定モデルの生成方法を記憶しており、記憶した生成方法に基づいて推定モデルを生成する。生成される推定モデルは、予め得られた知見(例えば、物理的知見(運動方程式等)、実験的知見(実験測等)、及び操業的知見(その他、実操業や経験において得られている知見))が反映されたものであってもよい。また、生成される推定モデルは、本実施形態のように利用可能なデータのみから生成されるデータ駆動型モデルである。
【0034】
例えば、第1のパラメータ及び第2のパラメータとして上記の第1の組み合わせを用いる場合、推定モデル生成部12は、線形回帰によって線形回帰モデルである推定モデルを生成する。この場合に生成される線形回帰モデルは、例えば、以下の式である。
(ドリルパイプの回転トルク)=w1+w2(ドリルビットの接地荷重)
【0035】
推定モデル生成部12は、例えば、第1のパラメータであるドリルビットの接地荷重の事前準備用の測定値、及び第2のパラメータであるドリルパイプの回転トルクの事前準備用の測定値に基づいて、最小二乗法によって推定モデルのパラメータw1,w2を算出する。推定モデルのパラメータw1,w2の算出の際には、互いに対応する第1のパラメータの事前準備用の測定値及び第2のパラメータの事前準備用の測定値(例えば、同一のタイミングにおける測定値)を1組の測定値として用いる(他の例においても同様である)。
【0036】
上記の式のうち、「w2(ドリルビットの接地荷重)」は、ドリルビットにかかる摩擦トルクを示し、「w1」は、ドリルパイプに生じる坑壁との摩擦トルク、及びドリルパイプを回転させるためのトップドライブシステムの摩擦トルク等の合計を表している。このように、上記の式は、物理的知見に基づくものである。
【0037】
上記のように算出された、物理的意味を持つ推定モデルのパラメータw1,w2は、(本実施形態とは別の方法による)異常の検出に用いられてもよい。例えば、複数のタイミングでのパラメータw1,w2の変化から異常を検出してもよい。
【0038】
また、第1のパラメータ及び第2のパラメータとして上記の第2の組み合わせを用いる場合、推定モデル生成部12は、非線形回帰によって非線形回帰モデルである推定モデルを生成する。この場合に生成される線形回帰モデルは、例えば、以下の式である。
(掘削流体の注入圧)=w1(掘削流体の注入流量)w2+w3(ドリルビットの深度)(掘削流体の注入流量)w4+w5
【0039】
推定モデル生成部12は、例えば、第1のパラメータである掘削流体の注入流量及びドリルビットの深度の事前準備用の測定値、及び第2のパラメータである掘削流体の注入圧の事前準備用の測定値に基づいて、フーバー回帰によって推定モデルのパラメータw1~w5を算出する。
【0040】
推定モデル生成部12は、推定モデルを生成したら、生成した推定モデルを用いて異常の検出に用いる基準を生成する。例えば、推定モデル生成部12は、当該基準として、異常の検出に用いる閾値を生成する。但し、当該基準は、異常の検出に用いることができるものであれば、閾値以外ものであってもよい。例えば、推定モデル生成部12は、以下のように基準を生成する。生成される基準も、推定モデルと同様に予め得られた知見が反映されたものであってもよい。
【0041】
推定モデル生成部12は、生成した推定モデルを用いて、第1のパラメータの事前準備用の測定値から第2のパラメータの推定値を算出する。推定モデル生成部12は、算出した第2のパラメータの推定値と、第2のパラメータの事前準備用の測定値とを比較して、比較値を算出する。この際、比較に用いられる第2のパラメータの事前準備用の測定値は、第2のパラメータの推定値の算出に用いられた第1のパラメータの事前準備用の測定値に対応するものである(例えば、同一のタイミングにおける測定値である)。
【0042】
例えば、推定モデル生成部12は、(第2のパラメータの事前準備用の測定値)-(第2のパラメータの推定値)で算出される差分値を比較値として算出する。推定モデル生成部12は、複数の事前準備用の測定値を用いて、複数の比較値を算出する。推定モデル生成部12は、比較値(誤差)の分布に基づいて、閾値を生成する。基準の生成に用いる事前準備用の測定値は、推定モデルの生成に用いたものであってもよいし、推定モデルの生成に用いないものであってもよい。
【0043】
掘削流体の注入圧については、上記の比較値である差分値が正規分布に近い。従って、第1のパラメータ及び第2のパラメータとして上記の第2の組み合わせを用いる場合、即ち、第2のパラメータが掘削流体の注入圧である場合、推定モデル生成部12は、上記の比較値のばらつきを示すσ値(標準偏差)に基づく値を閾値としてもよい。例えば、閾値を、比較値の平均値+2σ(誤差分布の2σ値)としてもよい。また、閾値を、差分値の予め設定したパーセンタイル値としてもよい。
【0044】
ドリルパイプの回転トルクについては、上記の比較値である差分値は複雑になり、正規分布にはならない。従って、第1のパラメータ及び第2のパラメータとして上記の第1の組み合わせを用いる場合、即ち、第2のパラメータがドリルパイプの回転トルクである場合、推定モデル生成部12は、σ値ではなく、差分値のパーセンタイル値に基づく値を閾値としてもよい。例えば、閾値を、差分値の予め設定したパーセンタイル値(例えば、99パーセンタイル値)としてもよい。
【0045】
推定モデル生成部12は、上記以外の推定モデル及び上記以外の基準を生成してもよい。また、推定モデル生成部12は、上記以外の方法で推定モデル及び基準を生成してもよい。例えば、推定モデルの生成には、データ同化又は機械学習の方法(例えば、Physics-Informed Neural Networks(Raissi et al.,2019)に示される物理モデルを考慮した機械学習の方法)が用いられてもよい。また、基準の生成には、カーネル密度推定が用いられてもよい。推定モデル生成部12は、生成した推定モデルを推定値算出部14に出力する。推定モデル生成部12は、生成した基準を異常検出部15に出力する。
【0046】
異常検出用取得部13、推定値算出部14、及び異常検出部15は、上記のように生成された推定モデル及び基準を用いて異常を検出するための構成である。
【0047】
異常検出用取得部13は、異常の検出対象の掘削における、第1のパラメータ及び第2のパラメータの異常検出用の測定値を取得する異常検出用取得手段である。異常検出用取得部13は、複数のタイミングでの第1のパラメータ及び第2のパラメータの異常検出用の測定値を取得してもよい。
【0048】
第1のパラメータ及び第2のパラメータの異常検出用の測定値は、例えば、事前準備用の測定値と同様に予め掘削用の装置等に設置された測定装置により測定される。異常検出用取得部13は、例えば、当該測定装置から、第1のパラメータ及び第2のパラメータの異常検出用の測定値を受信して取得する。あるいは、異常検出用取得部13は、ユーザの異常検出システム10に対する第1のパラメータ及び第2のパラメータの異常検出用の測定値の入力操作を受け付けて、当該測定値を取得してもよい。また、事前準備用取得部11は、上記以外の任意の方法で第1のパラメータ及び第2のパラメータの異常検出用の測定値を取得してもよい。
【0049】
異常の検出対象の掘削は、例えば、時間幅(例えば、5分~1時間の時間幅)を有する時間帯での掘削であってもよい。異常検出用取得部13は、当該時間幅を有する時間帯に含まれる複数のタイミング(例えば、当該時間帯での一定時間毎のタイミング)での第1のパラメータ及び第2のパラメータの異常検出用の測定値を取得してもよい。この場合、異常検出システム10では、これらの複数の異常検出用の測定値が用いられて異常の検出が行われる。
【0050】
異常検出システム10による異常の検出を、実際に行われている掘削の危険回避に役立てるため、異常検出用取得部13による異常検出用の測定値の取得は、リアルタイム又はそれに近い状態で行われてもよい。異常検出用取得部13は、取得した第1のパラメータの異常検出用の測定値を推定値算出部14に出力する。異常検出用取得部13は、取得した第2のパラメータの異常検出用の測定値を異常検出部15に出力する。
【0051】
推定値算出部14は、推定モデル生成部12によって生成された推定モデルを用いて、異常検出用取得部13によって取得された第1のパラメータの測定値から第2のパラメータの推定値を算出する推定値算出手段である。推定値算出部14は、複数のタイミングでの第2のパラメータの推定値を算出してもよい。
【0052】
推定値算出部14は、推定モデル生成部12から推定モデルを入力して記憶しておく。推定値算出部14は、異常検出用取得部13から、第1のパラメータの異常検出用の測定値を入力する。推定値算出部14は、記憶した推定モデルを用いて、入力した第1のパラメータの異常検出用の測定値から第2のパラメータの推定値を算出する。異常検出用取得部13から複数の測定値を入力した場合には、推定値算出部14は、測定値毎に推定値を算出する。また、推定値算出部14は、全ての測定値に対してではなく、一定間隔毎に間引いた測定値に対して推定値の計算(予測)を行ってもよい。また、推定値算出部14は、静的な推定モデルを用いて、時刻tの測定値から、時刻tの推定値の計算を行ってもよい。あるいは、推定値算出部14は、動的な推定モデルを用いて、時系列データである測定値(例えば、時刻t-aから時刻tまでの測定値)から、時刻tの推定値の計算を行ってもよい。推定値算出部14は、算出した第2のパラメータの推定値を異常検出部15に出力する。
【0053】
異常検出部15は、異常検出用取得部13によって取得された第2のパラメータの測定値と、推定値算出部14によって算出された第2のパラメータの推定値とを比較して、比較結果及び推定モデル生成部12によって生成された基準に基づいて掘削における異常を検出する異常検出手段である。異常検出部15は、複数のタイミングでの第2のパラメータの測定値と推定値とを比較して、複数の比較結果に基づいて掘削における異常を検出してもよい。例えば、異常検出部15は、以下のように掘削における異常を検出する。
【0054】
異常検出部15は、推定モデル生成部12から基準を入力して記憶しておく。異常検出部15は、異常検出用取得部13から、第2のパラメータの異常検出用の測定値を入力する。異常検出部15は、推定値算出部14から、第2のパラメータの推定値を入力する。異常検出部15は、入力した第2のパラメータの推定値と、第2のパラメータの異常検出用の測定値とを比較して、比較値を算出する。この際、比較に用いられる第2のパラメータの異常検出用の測定値は、推定値算出部14において第2のパラメータの推定値の算出に用いた第1のパラメータの異常検出用の測定値に対応するものである(例えば、同一のタイミングにおける測定値である)。また、ここで算出される比較値は、推定モデル生成部12により算出される比較値と同様に(例えば、同様の式で)算出されるものである。
【0055】
例えば、異常検出部15は、(第2のパラメータの異常検出用の測定値)-(第2のパラメータの推定値)で算出される差分値を比較値として算出する。第2のパラメータの異常検出用の測定値及び第2のパラメータの推定値が複数ある場合には、異常検出部15は、複数の異常検出用の測定値及び推定値毎の複数の比較値を算出する。
【0056】
異常検出部15は、算出した比較値及び記憶した基準に基づいて掘削における異常を検出する。例えば、異常検出部15は、算出した比較値が基準によって示される正常の範囲内に入っているか否かを判断する。具体的には、異常検出部15は、比較値と基準である閾値とを比較する。例えば、比較値が閾値を超えていた場合、異常検出部15は、掘削における異常があると判断する。比較値が閾値以下であった場合、異常検出部15は、掘削における異常がないと判断する。
【0057】
複数の比較値がある場合、異常検出部15は、閾値を超えている比較値の数をカウントして、比較値の数に基づいて、異常が生じている度合いである異常度を算出してもよい。例えば、異常検出部15は、以下の式によって異常度a(t)を算出してもよい。
【数1】

上記の式において、tはタイミング(時刻)、Nは異常検出用の測定値の総数、ε(t)はタイミングtでの差分値、εth(t)は閾値、Δtは異常検出用の測定値のサンプリング周期である。上記の異常度a(t)は、閾値を超えている比較値の数の比較値の総数に対する割合であり、値が大きいほど異常が生じている度合いが大きいことを示している。
【0058】
異常検出部15は、第2のパラメータの測定値と推定値とを比較して、比較結果及び上記の基準に基づいて掘削における異常を検出するものであれば、上記以外の方法で異常を検出してもよい。例えば、上記の差分値を上記以外の統計的な方法、機械学習による方法で評価して、異常を検出してもよい。
【0059】
異常検出部15は、異常の検出結果を示す情報を出力する。例えば、異常検出部15は、当該情報を、異常検出システム10のユーザが認識可能な形式(例えば、表示)で出力してもよい。ユーザは、異常検出システム10からの出力を参照して、坑井の掘削における異常が検出されていれば、異常に対処することができる。また、異常検出部15は、それ以外の形式で当該情報を出力してもよい。例えば、異常検出部15は、別の装置に当該情報を送信してもよい。
【0060】
図2に事前準備用の差分値(閾値を算出するための差分値)、異常検出用の差分値及び閾値の4つの例のグラフを示す。図2のグラフにおける、横軸が差分値及び閾値の軸であり、縦軸が確率分布(差分値が出現する度合い)の軸である。ドリルパイプの回転トルク及び掘削流体の注入圧は、平均的に上昇又は分散が大きくなる場合が抑留の予兆となる物理的知見がある。これは、他の掘削パラメータが同じであればという条件の下での知見である。つまり、第1のパラメータが同じであれば、第2のパラメータが平均的に上昇するという意味である。例えば、注入流量を増やした場合は、異常でなくとも、注入圧は増える。一方で、注入流量が変わらないのに注入圧が上がる場合は抑留の予兆となる。
【0061】
図2(a)及び(b)のグラフに示す場合、異常検出用の差分値の一定数が閾値を超えるものとなり、本実施形態では異常(具体的には抑留の予兆)として検出される。図2(c)及び(d)のグラフに示す場合、異常検出用の差分値の分布は、事前準備用の差分値の分布とは異なるものの、異常検出用の差分値の一定数が閾値を超えるものとはならず、本実施形態では異常(具体的には抑留の予兆)として検出されない。図2(c)及び(d)のグラフに示す場合は、通常、異常を示すものではなく、本実施形態での検出が適切である。しかし、一般的な変化点の検出では、(a)~(d)の全てを異常と捉えてしまう。
【0062】
上記のパラメータの値は、掘削の段階によって変わり得る。掘削の段階は、例えば、ドリルビットによる掘削の段階(Drilling)、ドリルビットを坑井内に降ろす段階(Run-in-hole)、及びドリルビットを坑井内から引き上げる段階(Pull-out-of-hole)等の掘削のオペレーションの段階である。特にドリルビットの付け替え時は、物理的な意味はあまりないが、上記のパラメータの値が激しく動く。そのため、段階の区別なく異常の検出を行おうとすると、適切に異常を検出できないおそれがある。上記を考慮して、上述した異常検出システム10の各機能部の機能は、掘削の段階毎のものであってもよい。
【0063】
即ち、事前準備用取得部11は、掘削の段階に応じた第1のパラメータ及び第2のパラメータの事前準備用の測定値を取得してもよい。推定モデル生成部12は、掘削の段階に応じた推定モデル及び基準を生成してもよい。異常検出用取得部13は、掘削の段階に応じた第1のパラメータ及び第2のパラメータの異常検出用の測定値を取得してもよい。推定値算出部14は、掘削の段階に応じた推定モデルを用いて、第2のパラメータの推定値を算出してもよい。異常検出部15は、掘削の段階に応じた異常を検出してもよい。
【0064】
例えば、掘削の段階毎に、異常検出システム10に当該段階を示す情報を入力して、当該段階毎に異常検出システム10の各機能部の機能が実行されればよい。掘削の段階は、掘削データを用いて予め与えた条件式による判断する既存の方法等で判断することができる。異常検出システム10が、掘削の段階の判断を行ってもよい。また、上記の例のように静的な物理モデルを考慮する場合、動的な影響が大きい部分(例えば、注入流量等の操作パラメータ)を除く操作も同時に行ってもよい。あるいは、特定の段階を除外して、異常検出システム10の各機能部の機能が実行されてもよい。以上が、異常検出システム10の機能である。
【0065】
引き続いて、図3のフローチャートを用いて、本実施形態に係る異常検出システム10で実行される処理(異常検出システム10が行う動作方法)である異常検出方法を説明する。本処理は、異常の検出を行う前の処理(S01,S02)と、異常の検出を行う処理(S03~S07)とに分かれる。異常の検出を行う前の処理(S01,S02)は、異常の検出を行う処理(S03~S07)の前に行われていればよい。
【0066】
異常の検出を行う前の処理では、事前準備用取得部11によって、異常の検出対象とは異なる掘削における、第1のパラメータ及び第2のパラメータの事前準備用の測定値が取得される(S01、事前準備用取得ステップ)。続いて、推定モデル生成部12によって、第1のパラメータ及び第2のパラメータの事前準備用の測定値に基づいて、第1のパラメータの値から第2のパラメータの値を推定する推定モデル、及び異常の検出に用いる基準が生成される(S02、推定モデル生成ステップ)。生成された推定モデル及び基準は、異常の検出を行う処理で用いられる。以上が、異常の検出を行う前の処理である。
【0067】
異常の検出を行う処理では、異常検出用取得部13によって、異常の検出対象の掘削における、第1のパラメータ及び第2のパラメータの異常検出用の測定値が取得される(S03、異常検出用取得ステップ)。続いて、推定値算出部14によって、推定モデルが用いられて、第1のパラメータの異常検出用の測定値から第2のパラメータの推定値が算出される(S04、推定値算出ステップ)。
【0068】
続いて、異常検出部15によって、第2のパラメータの異常検出用の測定値と、第2のパラメータの推定値とが比較される(S05、異常検出ステップ)。続いて、異常検出部15によって、比較結果及び上記の基準に基づいて掘削における異常が検出される(S06、異常検出ステップ)。続いて、異常の検出結果が、異常検出部15から出力される(S07)。以上が、本実施形態に係る異常検出システム10で実行される処理である。
【0069】
本実施形態では、第2のパラメータの測定値と、第2のパラメータの推定値とが比較されて、比較結果及び基準に基づいて掘削における異常が検出される。また、事前準備用の測定値から、異常の検出に用いられる推定モデルが生成される際に、あわせて異常の検出に用いる基準が生成される。これによって、適切な基準によって異常の検出を行うことができる。その結果、本実施形態によれば、第2のパラメータの測定値と推定値との比較に基づいて、精度よく掘削における異常を検出することができる。また、本実施形態では、過去の異常のデータ(異常のラベル)を用いずに異常を検出することができる。
【0070】
また、本実施形態にように、推定モデル生成部12において、推定モデルを用いて、第1のパラメータの事前準備用の測定値から第2のパラメータの推定値を算出し、第2のパラメータの事前準備用の測定値と算出した第2のパラメータの推定値との比較に基づく比較値を算出して、当該比較値の分布から基準を生成してもよい。この構成よれば、基準を適切かつ確実に生成することができ、その結果、適切かつ確実に精度よく異常を検出することができる。但し、比較の生成は、必ずしも上記のように行われる必要はなく、第1のパラメータ及び第2のパラメータの事前準備用の測定値に基づいて行われればよい。
【0071】
また、本実施形態のように、第1のパラメータ及び第2のパラメータは、坑井の外側で測定可能なパラメータであってもよい。この構成によれば、各パラメータの測定値を容易に取得することができ、容易に精度よく異常を検出することができる。但し、各パラメータの何れか又は全ては、坑井の外側で測定可能なパラメータでなくてもよい。
【0072】
また、本実施形態のように、複数のタイミングでの第1のパラメータ及び第2のパラメータの異常検出用の測定値を用いて異常の検出を行ってもよい。この構成によれば、更に精度よく異常を検出することができる。但し、異常の検出には、必ずしも複数のタイミングでの異常検出用の測定値が用いられる必要はなく、1つのタイミングのみでの異常検出用の測定値が用いられてもよい。
【0073】
また、本実施形態のように、第1のパラメータは、掘削に用いられるドリルビットの接地荷重であり、第2のパラメータは、掘削に用いられるドリルパイプの回転トルクであり、推定モデルは、線形回帰モデルであることとしてもよい。また、第1のパラメータは、掘削に用いられる掘削流体の注入流量、及び掘削に用いられるドリルパイプの長さに係るパラメータであり、第2のパラメータは、掘削に用いられる掘削流体の注入圧であり、推定モデルは、非線形回帰モデルであることとしてもよい。これらの構成によれば、適切かつ確実に精度よく異常を検出することができる。但し、第1のパラメータ、第2のパラメータ及び推定モデルは、上記以外のものであってもよい。
【0074】
また、本実施形態のように、推定モデル及び基準を掘削の段階に応じたものとして、それらを用いて掘削の段階に応じた異常の検出を行ってもよい。この構成によれば、掘削の段階を考慮して、更に精度よく異常を検出することができる。
【0075】
なお、上述した実施形態では、異常検出システム10は、坑井の掘削における異常を検出するものであったが、坑井の掘削以外の任意の対象における異常を検出するものであってもよい。即ち、上述した実施形態では、異常を検出する対象が坑井の掘削であることとしたが、異常を検出する対象は、坑井の掘削以外の任意のものでよい。この場合も、異常を検出する対象及び当該対象に応じたパラメータが上述した実施形態と異なるだけで、上述した実施形態と同様に対象における異常の検出が実施されればよい。
【0076】
本開示の異常検出システム及び異常検出方法は、以下の構成を有する。
[1] 異常を検出する異常検出システムであって、
異常の検出対象とは異なる対象における、第1のパラメータ及び第2のパラメータの事前準備用の測定値を取得する事前準備用取得手段と、
前記事前準備用取得手段によって取得された測定値に基づいて、第1のパラメータの値から第2のパラメータの値を推定する推定モデル、及び異常の検出に用いる基準を生成する推定モデル生成手段と、
異常の検出対象における、第1のパラメータ及び第2のパラメータの異常検出用の測定値を取得する異常検出用取得手段と、
前記推定モデル生成手段によって生成された推定モデルを用いて、前記異常検出用取得手段によって取得された第1のパラメータの測定値から第2のパラメータの推定値を算出する推定値算出手段と、
前記異常検出用取得手段によって取得された第2のパラメータの測定値と、前記推定値算出手段によって算出された第2のパラメータの推定値とを比較して、比較結果及び前記推定モデル生成手段によって生成された基準に基づいて対象における異常を検出する異常検出手段と、
を備える異常検出システム。
[2] 異常を検出する対象が坑井の掘削である[1]に記載の異常検出システム。
[3] 前記推定モデル生成手段は、生成した推定モデルを用いて、第1のパラメータの事前準備用の測定値から第2のパラメータの推定値を算出し、第2のパラメータの事前準備用の測定値と算出した第2のパラメータの推定値との比較に基づく比較値を算出して、当該比較値の分布から前記基準を生成する[2]に記載の異常検出システム。
[4] 前記第1のパラメータ及び前記第2のパラメータは、坑井の外側で測定可能なパラメータである[2]又は[3]に記載の異常検出システム。
[5] 前記異常検出用取得手段は、複数のタイミングでの第1のパラメータ及び第2のパラメータの異常検出用の測定値を取得し、
前記推定値算出手段は、前記複数のタイミングでの第2のパラメータの推定値を算出し、
前記異常検出手段は、前記複数のタイミングでの第2のパラメータの測定値と推定値とを比較して、複数の比較結果に基づいて掘削における異常を検出する[2]~[4]の何れかに記載の異常検出システム。
[6] 前記第1のパラメータは、掘削に用いられるドリルビットの接地荷重であり、
前記第2のパラメータは、掘削に用いられるドリルパイプの回転トルクであり、
前記推定モデルは、線形回帰モデルである[2]~[5]の何れかに記載の異常検出システム。
[7] 前記第1のパラメータは、掘削に用いられる掘削流体の注入流量、及び掘削に用いられるドリルパイプの長さに係るパラメータであり、
前記第2のパラメータは、掘削に用いられる掘削流体の注入圧であり、
前記推定モデルは、非線形回帰モデルである[2]~[6]の何れかに記載の異常検出システム。
[8] 前記事前準備用取得手段は、掘削の段階に応じた第1のパラメータ及び第2のパラメータの事前準備用の測定値を取得し、
前記推定モデル生成手段は、掘削の段階に応じた推定モデル及び基準を生成し、
前記異常検出用取得手段は、掘削の段階に応じた第1のパラメータ及び第2のパラメータの異常検出用の測定値を取得し、
前記推定値算出手段は、掘削の段階に応じた推定モデルを用いて、第2のパラメータの推定値を算出し、
前記異常検出手段は、掘削の段階に応じた異常を検出する[2]~[7]の何れかに記載の異常検出システム。
[9] 異常を検出する異常検出システムの動作方法である異常検出方法であって、
異常の検出対象とは異なる対象における、第1のパラメータ及び第2のパラメータの事前準備用の測定値を取得する事前準備用取得ステップと、
前記事前準備用取得ステップにおいて取得された測定値に基づいて、第1のパラメータの値から第2のパラメータの値を推定する推定モデル、及び異常の検出に用いる基準を生成する推定モデル生成ステップと、
異常の検出対象の掘削における、第1のパラメータ及び第2のパラメータの異常検出用の測定値を取得する異常検出用取得ステップと、
前記推定モデル生成ステップにおいて生成された推定モデルを用いて、前記異常検出用取得ステップにおいて取得された第1のパラメータの測定値から第2のパラメータの推定値を算出する推定値算出ステップと、
前記異常検出用取得ステップにおいて取得された第2のパラメータの測定値と、前記推定値算出ステップにおいて算出された第2のパラメータの推定値とを比較して、比較結果及び前記推定モデル生成ステップにおいて生成された基準に基づいて対象における異常を検出する異常検出ステップと、
を含む異常検出方法。
[10] 異常を検出する対象が坑井の掘削である[9]に記載の異常検出方法。
【符号の説明】
【0077】
10…異常検出システム、11…事前準備用取得部、12…推定モデル生成部、13…異常検出用取得部、14…推定値算出部、15…異常検出部。
【要約】
【課題】 精度よく掘削等における異常を検出する。
【解決手段】 異常検出システム10は、異常を検出するシステムであって、第1のパラメータ及び第2のパラメータの事前準備用の測定値を取得する事前準備用取得部11と、事前準備用の測定値に基づいて、推定モデル及び異常の検出に用いる基準を生成する推定モデル生成部12と、第1のパラメータ及び第2のパラメータの異常検出用の測定値を取得する異常検出用取得部13と、生成された推定モデルを用いて、第1のパラメータの異常検出用の測定値から第2のパラメータの推定値を算出する推定値算出部14と、第2のパラメータの異常検出用の測定値と、第2のパラメータの推定値とを比較して、比較結果及び生成された基準に基づいて異常を検出する異常検出部15とを備える。
【選択図】 図1
図1
図2
図3