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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】偽造防止印刷物及びその作製方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 3/14 20060101AFI20240822BHJP
   B42D 25/337 20140101ALI20240822BHJP
   B42D 25/382 20140101ALI20240822BHJP
【FI】
B41M3/14
B42D25/337
B42D25/382
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021017291
(22)【出願日】2021-02-05
(65)【公開番号】P2022120415
(43)【公開日】2022-08-18
【審査請求日】2023-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】森永 匡
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-224017(JP,A)
【文献】特開2019-084691(JP,A)
【文献】特開2015-112797(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 3/14
B42D 25/337
B42D 25/382
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一部に、第一の画像と第二の画像がネガとポジの関係で嵌り合わされて成る印刷画像を備え、
前記第一の画像と前記第二の画像は、拡散光下の観察では等色として視認される2つのインキで形成され、
前記第一の画像及び前記第二の画像を形成するインキの一方は、他方のインキに対して異なる機能性又は、異なる特性を有し、
拡散光下では視認できないが、特定の観察条件下では、前記第一の画像を形成するインキと前記第二の画像を形成するインキが有する機能性又は特性の差によって、前記第一の画像又は前記第二の画像が潜像画像として観察できる偽造防止印刷物であって、
前記第一の画像は、少なくとも一つ以上の潜像要素から成り、
前記第二の画像は、白抜き又は前記潜像画像を形成するインキの色彩より淡い色彩の濃度調整要素と、少なくとも一つ以上の背景要素から成り、
前記背景要素の濃度をAとし、前記濃度調整要素の濃度をAとし、前記濃度調整要素の幅をWとし、前記潜像要素の濃度をAとし、前記潜像要素の幅をWとした場合、下記式(i)、(ii)、(iii)、(iv)のすべての条件を満たすことを特徴とする偽造防止印刷物。
式(i):(前記背景要素の濃度(A)-前記濃度調整要素の濃度(A))×前記濃度調整要素の幅(W)=前記潜像要素の濃度(A)×前記潜像要素の幅(W
式(ii):前記濃度調整要素の幅(W)>前記潜像要素の幅(W
式(iii):前記背景要素の濃度(A)>前記濃度調整要素の濃度(A
式(iv):前記潜像要素の濃度(A)>前記背景要素の濃度(A
【請求項2】
基材に第一の画像と第二の画像から成る印刷画像を備える偽造防止印刷物の作製方法であって、
前記印刷画像の基画像データを設定する画像設定工程と、
前記基画像データを、ポジの第一の画像と、ネガの第二の画像に変換するとともに、前記第一の画像を、少なくとも一つ以上の潜像要素で形成し、前記第二の画像を白抜きもしくは前記第一の画像より淡い色彩の濃度調整要素、及び少なくとも一つ以上の背景要素として形成する画像変換工程と、
前記潜像要素の濃度をA、前記潜像要素の幅をWとし、前記背景要素の濃度をAとし、前記濃度調整要素の濃度をAとし、前記濃度調整要素の幅をWとした場合、下記式(i)、(ii)、(iii)、(iv)のすべての条件を満たすように調整する画像調整工程と、
前記第一の画像及び前記第二の画像の一方を、特定の観察条件下で潜像画像として観察できる機能性又は特性を有するインキで印刷し、他方の画像を印刷した際に、拡散光下では前記機能性又は前記特性を有するインキと等色として視認され、前記機能性とは異なる機能性又は前記特性とは異なる特性を有するインキにて印刷する画像印刷工程と、を備えることを特徴とする偽造防止印刷物の作製方法。
式(i):(前記背景要素の濃度(A)-前記濃度調整要素の濃度(A))×前記濃度調整要素の幅(W)=前記潜像要素の濃度(A)×前記潜像要素の幅(W
式(ii):前記濃度調整要素の幅(W)>前記潜像要素の幅(W
式(iii):前記背景要素の濃度(A)>前記濃度調整要素の濃度(A
式(iv):前記潜像要素の濃度(A)>前記背景要素の濃度(A
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果を必要とする銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード、チケット、通行券等のセキュリティ印刷物の分野において、印刷による刷り合わせズレを緩和することで、容易に作製できる偽造防止印刷物及びその作製方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のスキャナ、プリンター、カラーコピー機等、デジタル機器の進展により、セキュリティ印刷物の精巧な複製物を作製することは容易となっている。そのような複製や偽造を防止するための技術の一つとして、特定の観察下、照明する光源の種類、特定の波長のみを透過するフィルタの介在等によって、インキが同色もしくは異なった色に見える特性を利用したペアインキが提案されている。その一例として、機能性を有するインキ(具体的には有色浸透インキ)と、機能性を有するインキと等色の機能性を有さないインキを、ペアインキとして基材上に印刷した印刷物を本出願人は提案している(例えば、特許文献1参照)。この印刷物の潜像要素と背景要素は微細な画線及び画素で構成されており、拡散反射光が支配的な観察角度で観察した場合、印刷画像が視認され、正反射光が支配的な観察角度で観察した場合、両インキの色相が異なり潜像画像が視認される。
【0003】
また、ペアインキで構成された画像同士を嵌め合わせて形成し、潜像が隠ぺいされる印刷物において、二つの画像が重畳するオーバーラップ領域を設けて、刷り合わせズレの許容を緩和する印刷方法がある。高精度な印刷機を用いて精緻な刷り合わせにより画像同士を刷り合わせれば問題はないが、刷り合わせズレが生じた場合、画像の隙間から基材の色(例えば、白い用紙)が視認されてしまう恐れがある。この課題に対しオーバーラップ領域を設ける印刷方法は、刷り合わせズレが発生しても基材の色が視認されることはないが、刷り合わせズレが大きいとオーバーラップ領域の範囲は偏り、潜像の輪郭が視認されるおそれがある。なお、この印刷方法と課題に関して詳しくは後述する。
【0004】
この課題に対し、潜像部に潜像領域と輪郭領域を、背景部に背景領域と輪郭領域を備えた印刷物において、隣り合う潜像部の輪郭領域と背景部の輪郭領域の濃度が等しくなるように濃度調整し、刷り合わせズレを緩和して作製できるペア印刷物を本出願人は提案している(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-112797号公報
【文献】特開2019-84691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1に記載の技術は、二つのインキで構成したそれぞれの画像に対し、毛抜き合わせと呼ばれる、互いに重なり合わないように嵌め合わせる最高難度の刷り合わせが要求される。
【0007】
毛抜き合わせによる問題や、刷り合わせズレに対する冗長性を高めるための従来の具体的な手段と、その問題について図1から図4を用いて説明する。まず、一般的に毛抜き合わせと呼ばれる刷り合わせ方法を図1(a)に示す。また、オーバーラップを設けて刷り合わせズレに対する冗長性を高める一般的な方法を図1(b)に示す。また、従来の優れた技術として特許文献2に記載の特殊な刷り合わせ方法を図1(c)に示す。図1に示した三種類の技術群は、それぞれ領域(A)を構成するインキと領域(B)を構成するインキが等色であって、領域(A)と領域(B)が嵌め合わさるか、オーバーラップを有することで図柄全体が一様な濃淡で等色に視認され、目視上、領域(A)と領域(B)の見分けがつかないことを意図したものである。
【0008】
まず、毛抜き合わせの問題について、図2を用いて説明する。この方法は、図2(a)のように、高精度な印刷機で精緻な刷り合わせで領域(A)と領域(B)を完全に刷り合わせた場合、目視上、領域(A)と領域(B)の見分けがつかない。しかし、図2(b)のように、刷り合わせの位置がズレた場合、領域(C)は白抜きとなり、領域(D)は濃度が2倍濃くなるため、領域(A)と領域(B)の境目が容易に判別できてしまう。以上のように、毛抜き合わせでは完全に刷り合わせが合った場合には領域(A)と領域(B)の見分けがつかないが、わずかでも刷り合わせがズレた場合には領域(A)と領域(B)の境目が容易に判別できるという問題があった。
【0009】
次に、一般的なオーバーラップを設けた場合の問題について、図3を用いて説明する。オーバーラップとは、隣接する領域(A)か領域(B)のいずれか、あるいは、その両方の境界部分の幅をわずかに広げて一部に領域(A)と領域(B)が冗長する領域を設ける構成である。この方法では、刷り合わせズレが生じた場合でも、ズレを目立たせなくすることができる。図3(b)のように刷り合わせズレが生じた場合でも、領域(C)と領域(D)に示すズレ量がオーバーラップ幅以下であれば、白抜きが生じないため、毛抜き合わせと比較して、刷り合わせズレが相対的に目立ちにくい。しかし、図3(a)のように、領域(A)と領域(B)の刷り合わせが合った場合でも、領域(C)と領域(D)に示すオーバーラップ幅分の濃度が高くなるため、領域(A)と領域(B)の境目が目立ってしまう。そのため、オーバーラップ部の幅は40~50μm以下の目視が困難な幅に留めるのが通例である。以上のように、オーバーラップを設けた場合、刷り合わせが合った場合でも刷り合わせがズレた場合でも、領域(A)と領域(B)の境目の濃度が上がる問題があった。また、オーバーラップの幅分の刷り合わせズレに対しては、白抜きが生じづらいために毛抜き合わせよりも刷り合わせズレが相対的に目立ちにくいものの、その許容されるズレ幅は極めて小さいという問題があった。
【0010】
特許文献2に記載の技術の問題について、図4を用いて説明する。この方法は、従来のオーバーラップを設ける方法の問題点を改善したものであり、領域(A)と領域(B)の境界にそれぞれに濃度的傾斜を有した輪郭領域を設けたものである。図4(a)のように、精緻な刷り合わせで領域(A)と領域(B)を完全に刷り合わせた場合、目視上、領域(A)と領域(B)の見分けがつかない。この点が従来のオーバーラップより優れている点であり、この技術は、文字や記号、図形を隠ぺいすることに適している。しかし、図4(b)のように、刷り合わせの位置がズレた場合、領域(C)の領域の濃度は低下し、領域(D)の濃度は濃くなる。従来のオーバーラップと比較して、境界部の濃度変化は小さいものの、濃度の変化の発生を避けることは困難であった。以上のように、この方法において完全に刷り合わせが合った場合には領域(A)と領域(B)の見分けがつかないが、わずかでも刷り合わせがズレた場合には白抜き自体は生じないものの、従来のオーバーラップと同様に領域(A)と領域(B)の境目が判別し易くなるという問題があった。
【0011】
これらのように従来の刷り合わせの技術では、許容可能な刷り合わせズレの量が小さすぎたり、刷り合わせが合った場合や刷り合わせがズレた場合に領域(A)と領域(B)の画像の境目が目立つという問題があった。また、これに加え、オーバーラップを設ける2つの方法では、細くシャープな画線を隠ぺいしたい場合、元の画線幅に加えたオーバーラップの幅によって元の画線のシャープさが失われてしまうという問題があった。例えば、50μmのシャープな細線で構成された画像を隠ぺいしたい場合、仮にこの細線の両側にオーバーラップ部を25μm設けたとすると、全体の画線幅が100μmとなってしまい、結果として、2倍の画線幅の線となってしまう。以上のように、オーバーラップを設ける方法は、細い画線を隠ぺいする目的には適さず、デザイナーが意図した繊細な表現に対応できない場面が多々あり、微細な画線で構成される印刷物に用いることはできなかった。
【0012】
また、刷り合わせ精度に優れた枚葉印刷機を用いれば、例えばA4用紙のような小さな面積の用紙に対して図柄を完全に嵌め合わせたり、オーバーラップを設けて数十μm単位で刷り合わせることは決して難しいことではない。しかし、菊判や四六全判のような大面積の用紙の中に、小切れが複数面付されている図柄に対して、それぞれの図柄で嵌め合わせを必要とする場合、印刷による用紙の伸縮だけでも用紙全体で100μm前後の刷り伸びが発生するために、大面積の用紙に付与されたすべての小切れの刷り合わせを完全に合わせることは、ほぼ不可能であった。また、刷り合わせが安定しないウェブ印刷機を用いた印刷であればなおさらであった。
【0013】
本発明は、上述した課題の解決を目的とするものであり、微細な画線や画素の嵌め合わせで構成された印刷物において、印刷による刷り合わせズレを緩和することで、容易に作製できる偽造防止印刷物及びその作製方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
基材の少なくとも一部に、第一の画像と第二の画像がネガとポジの関係で嵌り合わされて成る印刷画像を備え、第一の画像と第二の画像は、拡散光下の観察では等色として視認される2つのインキで形成され、第一の画像及び第二の画像を形成するインキの一方は、他方のインキに対して異なる機能性又は、異なる特性を有し、拡散光下では視認できないが、特定の観察条件下では、第一の画像を形成するインキと第二の画像を形成するインキが有する機能性又は特性の差によって、第一の画像又は第二の画像が潜像画像として観察できる偽造防止印刷物であって、第一の画像は、少なくとも一つ以上の潜像要素から成り、第二の画像は、白抜き又は潜像画像を形成するインキの色彩より淡い色彩の濃度調整要素と、少なくとも一つ以上の背景要素から成り、背景要素の濃度をAとし、濃度調整要素の濃度をAとし、濃度調整要素の幅をWとし、潜像要素の濃度をAとし、潜像要素の幅をWとした場合、下記式(i)、(ii)、(iii)、(iv)のすべての条件を満たすことを特徴とする偽造防止印刷物。
式(i):(背景要素の濃度(A)-濃度調整要素の濃度(A))×濃度
調整要素の幅(W)=潜像要素の濃度(A)×潜像要素の幅(W
式(ii):濃度調整要素の幅(W)>潜像要素の幅(W
式(iii):背景要素の濃度(A)>濃度調整要素の濃度(A
式(iv):潜像要素の濃度(A)>背景要素の濃度(A
【0015】
基材に第一の画像と第二の画像から成る印刷画像を備える偽造防止印刷物の作製方法であって、印刷画像の基画像データを設定する画像設定工程と、基画像データを、ポジの第一の画像と、ネガの第二の画像に変換するとともに、第一の画像を、少なくとも一つ以上の潜像要素で形成し、第二の画像を白抜きもしくは第一の画像より淡い色彩の濃度調整要素、及び少なくとも一つ以上の背景要素として形成する画像変換工程と、潜像要素の濃度をA、潜像要素の幅をWとし、背景要素の濃度をAとし、濃度調整要素の濃度をAとし、濃度調整要素の幅をWとした場合、上述した式(i)、(ii)、(iii)、(iv)のすべての条件を満たすように調整する画像調整工程と、第一の画像及び第二の画像の一方を、特定の観察条件下で観察できる機能性又は特性を有するインキで印刷し、他方の画像を印刷した際に、拡散光下では機能性又は特性を有するインキと等色として視認され、機能性とは異なる機能性又は特性とは異なる特性を有するインキにて印刷する画像印刷工程と、を備えることを特徴とする偽造防止印刷物の作製方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、潜像要素の濃度を高めて幅を狭め、背景要素内に設けた濃度調整要素内に印刷することで、印刷における刷り合わせズレを緩和することができる。また、本発明の偽造防止印刷物の作製方法によると、刷り合わせズレの目立たない偽造防止印刷物を容易に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】印刷物において刷り合わせの冗長性を高めるための従来の一般的な手段を示す。
図2】印刷物において毛抜き合わせを用いた場合の問題を示す。
図3】印刷物において一般的なオーバーラップを用いた場合の問題を示す。
図4】印刷物において特殊なオーバーラップを用いた場合の問題を示す。
図5】本発明の偽造防止印刷物の概要を示す。
図6】本発明の偽造防止印刷物の印刷画像の構成図を示す。
図7】本発明の偽造防止印刷物の印刷画像の一例における拡大図を示す。
図8】本発明の偽造防止印刷物の印刷画像を構成するための規則を示す。
図9】本発明の偽造防止印刷物における刷り合わせの冗長性の高さを示す。
図10】本発明の偽造防止印刷物の効果の一例を示す。
図11】本発明の偽造防止印刷物の印刷画像の一例における拡大図を示す。
図12】本発明の偽造防止印刷物の印刷画像の一例における拡大図を示す。
図13】本発明の偽造防止印刷物の印刷画像の一例における拡大図を示す。
図14】本発明の偽造防止印刷物を利用したチェンジ効果の一例を示す。
図15】本発明の偽造防止印刷物の作成方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の様々な実施の形態が含まれる。
【0019】
(第一の実施の形態)
図5に本発明の偽造防止印刷物(1)の概要を示す。本発明の偽造防止印刷物(1)は、基材(2)上の一部の領域に印刷画像(3)を備える。第一の実施の形態における偽造防止印刷物(1)では、印刷画像(3)は濃淡のないフラットな画像であって、潜像として複数の円の集合体から成る彩紋が隠ぺいされた構成を例として説明する。
【0020】
印刷画像(3)の色彩は透明でなければ、如何なる色彩でもよい。第一の実施の形態では、印刷画像(3)が無彩色の銀色(灰色)で構成した例で説明する。なお、第一の実施の形態の図5から図7では印刷画像(3)の中に複数の円の集合体から成る彩紋が視認される状態で表現しているが、これは説明を容易にするために便宜的に彩紋を可視化して現したものであり、実際には彩紋は印刷画像(3)中において周囲と等色に視認されるために不可視である。印刷画像(3)を付与する基材(2)は、印刷インキを受理する素材であれば何を用いても問題ない。上質紙やコート紙であってもよいし、プラスティックや金属を基材(2)として用いてもよい。
【0021】
図6に印刷画像(3)の構成図を示す。印刷画像(3)は、第一の画像(4)と第二の画像(5)の二つの画像を備える。第一の画像(4)を第二の画像(5)の中に隠ぺいして不可視とする本発明の構成上、第一の画像(4)と第二の画像(5)は、目視上の等色関係が成り立つ必要があることから、少なくとも色相は同じである必要がある。本明細書中における「色相」とは、赤、青、黄といった色の様相のことであり、具体的には、可視光領域(400~700nm)の特定の波長の高低の分布を示すものである。淡い青と濃い青であれば色相が同じで異なる明度を有しており、黄と緑や、赤と青であれば色相自体が異なる。また、本明細書中では、白、灰、黒の無彩色も同じ一つの色相と考える。それに加えて、後述する濃度と幅の等式の関係を満たすために、明度の異なる色彩で構成される必要がある。「明度」とは色の明るさを現したものであり、高い場合には明るく、低い場合には暗くなる状態である。本発明において第一の画像(4)の明度は低く、第二の画像(5)の明度は高い必要がある。また、「色彩」とは、色相、彩度及び明度の概念を含んで色を現したものである。
【0022】
本発明は、潜像を隠ぺいするという目的を有することから、潜像を構成する第一の画像(4)と、それと対を成す第二の画像(5)は、潜像となる図形や文字、記号、模様、画像等の何らかの有意情報を備える必要がある。
【0023】
第一の画像(4)と第二の画像(5)は、ネガポジの関係にあたる同じ画像を備える必要がある。第一の実施の形態においては、複数の円の集合体から成る彩紋がこの同じ画像にあたる。第二の画像(5)は一定の濃度を有した背景要素(5-1)の中にネガで現した彩紋の濃度調整要素(5-2)を有し、第一の画像(4)はポジで現した彩紋が潜像要素(4-1)から構成され、潜像要素(4-1)もしくは背景要素(5-1)は互いに異なる機能性を有するインキ、もしくは異なる特性を有するインキにて形成される。
【0024】
機能性を有するインキに用いられる機能性材料としては、例えば光輝性顔料、パール顔料、蛍光顔料、無色蛍光顔料、蓄光材料、磁性材料、赤外透過材料、赤外吸収材料、導電性材料等があげられる。本発明における「異なる機能性」とは、第一の画像(4)又は第二の画像(5)の片方を形成するインキは上記に示した機能性を有し、他方のインキは上記に示した機能性を有さない組み合わせ(例として、第一の画像に灰色の着色顔料を用い、第二の画像に灰色の光輝性顔料を用いる。)と、上記に示した機能性材料のうち、異なる機能性材料同士で第一の画像(4)と第二の画像(5)を形成する組み合わせ(例として、第一の画像(4)に磁性材料を用い、第二の画像(5)に赤外吸収材料を用いる。)を指す。また、本発明における「異なる特性」とは、第一の画像(4)と第二の画像(5)を形成するインキの機能性は同じだが、例えば同じ磁性材料での強弱や、同じ発光材料での強弱の関係にある組み合わせを指す。
【0025】
本発明における「潜像画像」とは、第一の画像(4)を形成するインキ及び第二の画像(5)を形成するインキの機能性又は特性の違いによって確認できるものである。なお、潜像画像として確認できるのは第一の画像(4)でも第二の画像(5)でも良く、特に限定しない。また、潜像画像を確認する手段は、赤外線カメラ、万線フィルタ、光学センサーをはじめとした判別装置、所定の角度からの目視観察等があげられる。
【0026】
本発明において、潜像要素(4-1)は画線及び画素で構成され、背景要素(5-1)は画線、画素あるいはベタ塗で構成され、濃度調整要素(5-2)は、背景要素(5-1)より低い濃度の画線及び画素、ベタ塗、及び非印刷領域となる白抜きで構成される。なお、本発明における「要素」とは、印刷画像(3)を形成する最小単位の小さな網点によって構成された画線や画素あるいはベタ部のことを指す。画線とは、網点を特定の方向に一定の距離を連続して配置した点線や破線の分断線、直線、曲線及び破線であり、画素とは網点を複数集めて一塊にした円や三角形、四角形を含む多角形、星形などの図形、あるいは文字、記号、数字などを指す。なお、図6は、潜像要素(4-1)を画線、背景要素(5-1)をベタ塗、濃度調整要素(5-2)を白抜きとした例である。
【0027】
第一の画像(4)の中の潜像要素(4-1)は、第二の画像(5)の濃度調整要素(5-2)の中に嵌り合う形状を有するが、その幅及び濃度(明度)が異なる。具体的には、潜像要素(4-1)の幅(W)は、濃度調整要素(5-2)の幅(W)より狭く、濃度が高い(明度が低い)。加えて、第一の画像(4)の潜像要素(4-1)の濃度は、第二の画像(5)を構成する背景要素(5-1)よりも濃度が高い(明度が低い)必要がある。
なお、本明細書中でいう「嵌まる、嵌り合う」状態とは、潜像要素(4-1)が白抜きの濃度調整要素(5-2)に配置されている状態や、潜像濃度(4-1)が背景要素(5-1)より低い濃度の濃度調整要素(5-2)に配置されている状態を指し、潜像要素(4-1)は、濃度調整要素(5-2)の幅の範囲に含まれている状態を指す。
【0028】
図7に第一の画像(4)と第二の画像(5)が刷り合わされて印刷画像(3)を形成した場合の、それぞれの画像要素の位置関係の拡大図を正面図と断面図で示す。刷り合わせの理想は、図7に示すとおり濃度調整要素(5-2)の中心に、潜像要素(4-1)の中心が収まる位置関係である。第一の実施の形態において濃度調整要素(5-2)は白抜きの構成であり、濃度調整要素(5-2)に潜像要素(4-1)が配置されている。
【0029】
ここで、第一の画像(4)と第二の画像(5)におけるそれぞれの要素の濃度と幅の関係について具体的に示す。第一の画像(4)における潜像要素(4-1)の濃度を(A)とし、その幅を(W)とする。また、背景要素(5-1)の濃度を(A)とし、濃度調整要素(5-2)の濃度を(A)とし、その幅を(W)とした場合、段落番号0030に示す式(i)、(ii)、(iii)、(iv)が成り立つ関係でそれぞれの濃度と幅を設計することで、大きな刷り合わせズレに対応可能で、細くシャープな要素を隠ぺいしたい場合でも使用可能な、本発明の潜像を隠ぺいするための要素を構成することができる。段落番号0030に示す式(i)、(ii)、(iii)、(iv)は、淡くて太い要素と、濃くて細い要素の等色関係を成り立たせるためのものであり、微細な画線に対して、淡く太い画線を濃く細い要素に変換することで刷り合わせズレに対する冗長性を確保しつつ、目視上の等色関係を維持するものである。
【0030】
式(i): 潜像要素の濃度(A)×潜像要素の幅(W
=(背景要素の濃度(A)-濃度調整要素の濃度(A))×濃度調整要素の幅(W
式(ii):濃度調整要素の幅(W)>潜像要素の幅(W
式(iii):背景要素の濃度(A)>濃度調整要素の濃度(A
式(iv):潜像要素の濃度(A)>背景要素の濃度(A
【0031】
前述した式(i)、(ii)、(iii)、(iv)の関係をすべて満たした構成で第一の画像(4)と第二の画像(5)を構成すると、濃度調整要素(5-2)と潜像要素(4-1)が重なった領域の濃度は、背景要素(5-1)と同じ濃度として視認されることから、観察者には目視上、濃淡のない一様な画像に見える。そして、この場合、図8に示すように、濃度調整要素(5-2)の幅(W)から潜像要素(4-1)の幅(W)を差し引いた幅だけの刷り合わせズレが許される構成となる。潜像要素(4-1)の濃度が高く、濃度調整要素(5-2)の濃度が低ければ、この許容される刷り合わせズレの幅は大きくなる。
【0032】
なお、前述した式(i)、(ii)、(iii)、(iv)の関係をすべて満たした場合でも、濃度調整要素(5-2)の幅(W)が大きすぎる場合には、目視で潜像要素(4-1)の図柄を認識されてしまう。このことから、潜像要素(4-1)の隠ぺい性が低下する。濃度調整要素(5-2)の幅(W)は、500μm以下とする必要があり、より望ましくは400μm以下とする必要がある。
【0033】
仮に、潜像要素(4-1)の濃度(A)を1.5、濃度調整要素(5-2)の濃度(A)を0、背景要素(5-1)の濃度(A)を0.3とし、濃度調整要素(5-2)の幅(W)を400μmとした場合、潜像要素(4-1)の幅(W)は80μmとなる。この場合、濃度調整要素(5-2)の幅(W)と潜像要素(4-1)の幅(W)の差は320μmであり、およそ±160μmの刷り合わせズレが許容できる構成となる。これは、従来のオーバーラップで許される刷り合わせズレの許容幅のおよそ3倍から4倍にあたる。これほど大きな刷り合わせズレの許容幅は他に類を見ない。また、潜像要素(4-1)を大きくする必要がないためにシャープな要素を表現することが可能である。細かい要素を隠ぺいするには極めて優れた構成といえる。
【0034】
この構成を用いた場合、潜像要素は、図9(a)に示すように刷り合わせがズレなく、濃度調整要素(5-2)の中央に印刷された場合であっても、図9(b)に示すように刷り合わせがズレた場合でも、いずれの場合でも目視上の濃度の変化は生じない。しかもその刷り合わせズレの許容量は従来技術と比較して極めて大きい。以上のように、本発明の偽造防止印刷物(1)の構成を用いることで、従来の嵌め合わせやオーバーラップを用いた場合の問題点を完全に解決することができる。
【0035】
本発明の効果の一例について図10を用いて説明する。第一の画像(4)を艶のないブラックインキで構成し、第二の画像(5)を艶のある銀インキによって形成し、前述した式(i)、(ii)、(iii)、(iv)を満たす形でそれぞれの要素を形成し、本発明の偽造防止印刷物(1)を図10(a)に示すような光源(6)から入射する光の角度と、反射する光の角度が大きく異なる、いわゆる拡散反射光が支配的な観察角度で観察(7)した場合、印刷画像(3)は、濃淡のないフラットな画像として視認される。この場合、潜像画像は目視できない。一方の図10(b)に示すような光源(6)から入射する光の角度と、反射する光の角度が同じ、いわゆる正反射光が支配的な観察角度で偽造防止印刷物(1)を観察(7)した場合、印刷画像(3)の中には、第一の画像(4)が現す潜像画像である、彩紋が確認できる。この効果が生じる理由は、拡散反射光下では、第一の画像(4)と第二の画像(5)が等色に視認されるために潜像画像は不可視である一方で、正反射光下においては第一の画像(4)と第二の画像(5)の反射率の違いによって潜像画像が可視化されたためである。
【0036】
以上のように、本発明の偽造防止印刷物(1)の構成を用いた場合、第一の画像(4)を第二の画像(5)の中へ容易に隠ぺいできるだけでなく、その刷り合わせズレの許容量は従来の刷り合わせ技術の3~4倍に達する。この大きさの刷り合わせズレの冗長性があれば、枚葉印刷機だけでなく、ウェブ印刷機を用いたとしても潜像の隠ぺい性を要求する印刷物を製造することができる。また、大きなサイズの用紙に図柄を多面割り付けした製品を製造する場合、版面の伸縮や、印刷時にかかる圧力による基材の伸縮、印刷時における刷り伸びのムラがある場合でも、刷り合わせ不良のない印刷物を得ることができる。
【0037】
(変形例1:潜像要素及び背景要素が画素の例)
印刷画像(3)を構成する潜像要素(4-1)及び背景要素(5-1)を画素で示した例を図11に示す。なお、図11においては要素の一例として正方形の画素を示す。図11は拡散反射光が支配的な観察角度で観察した場合、印刷画像は濃淡のないフラットな画像として視認される。また、印刷画像(3)における有意情報は「H」を示している。
第一の画像(4)は、潜像要素(4-1)が、第一の方向(S1)に、第一のピッチ(P1)で、さらに、第二の方向(S2)に、第一のピッチ(P1)で複数配列されて成る。
第二の画像(5)は、幅(W5-1)の背景要素(5-1)が、潜像要素(4-1)と同一方向(S1,S2)に、同一ピッチ(P1)でマトリクス状に複数配列して成る。濃度調整要素(5-2)は、潜像要素(4-1)と嵌り合うため、潜像要素(4-1)と同一ピッチ(P1)で配置される。なお、潜像要素(4-1)、背景要素(5-1)及び濃度調整要素(5-2)は、前述した式(i)(ii)(iii)(iv)を満たした構成となっている。具体的には、潜像要素(4-1)の幅(W4-1)は濃度調整要素(5-2)の幅(W5-2)より狭く、潜像要素(4-1)の濃度(A)は背景要素(5-1)の濃度(A)より高いものとなっている。
【0038】
(変形例2:潜像要素及び背景要素が画線の例)
印刷画像(3)を構成する潜像要素(4-1)及び背景要素(5-1)を画線で示した例を図12に示す。なお、図12の印刷画像(3)における有意情報は正六角形を示している。
第一の画像(4)は、潜像要素(4-1)が、第一の方向(S1)に、第一のピッチ(P1)で複数配列されて成る。第二の画像(5)は、背景要素(5-1)が、潜像要素(4-1)と同一方向(S1)に、同一ピッチ(P1)で複数配列して成る。濃度調整要素(5-2)は、潜像要素(4-1)と嵌り合うため、潜像要素(4-1)と同一ピッチ(P1)で配置される。なお、潜像要素(4-1)、背景要素(5-1)及び濃度調整要素(5-2)は、前述した式(i)(ii)(iii)(iv)を満たした構成となっている。具体的には、潜像要素(4-1)の幅(W4-1)は濃度調整要素(5-2)の幅(W5-2)より狭く、潜像要素(4-1)の濃度(A)は背景要素(5-1)の濃度(A)より高いものとなっている。
【0039】
(第二の実施の形態)
第一の実施の形態のように、濃度調整要素(5-2)を白抜き、つまり濃度(A)をゼロとするのではなく、背景要素(5-1)の濃度を超えないことを条件として、濃度調整要素(5-2)に一定の濃度を付与することで、潜像の隠ぺい性をより容易に高める構成を第二の実施の形態として説明する。第二の実施の形態においては、第二の画像(5)の濃度調整要素(5-2)の画線の濃度のみが第一の実施の形態と異なる。それ以外の構成は、第一の実施の形態と同一であるため、説明を省略する。
【0040】
例えば、図13に示すように、仮に、背景要素(5-1)の濃度(A)を0.3、濃度調整要素(5-2)の濃度(A)を0.1、濃度調整要素(5-2)の幅(W)を400μmとした場合、潜像要素(4-1)の幅(W)を80μmとして、前述した式を適用すると潜像要素(4-1)の濃度(A)は1.0となる。この場合、濃度調整要素(5-2)と潜像要素(4-1)の濃度差が小さくなり、違いが目立ちにくくなる上、それぞれ異なるインキが濃度調整要素(5-2)と潜像要素(4-1)の潜像として重なり合い混色した構成となるため、濃度調整要素(5-2)を白抜きとして、単独のインキで構成した潜像要素(4-1)を等色に見せる構成である第一の実施の形態の例よりも潜像の隠ぺいが容易になる。
【0041】
しかし、この第二の実施の形態のように、濃度調整要素(5-2)と潜像要素(4-1)が重畳する構成は、磁性の有無の異なる磁性インキのペアや、赤外線吸収特性の有無の異なるペアインキを用いて本発明の印刷画像(3)を構成し、潜像要素(4-1)とその他の領域との間で磁性や赤外線吸収特性の違いを検知しようと意図するような機能性を有した印刷物に適用するには注意が必要である。第二の実施の形態においては、潜像要素(4-1)と濃度調整要素(5-2)が重畳するために、それぞれのインキの有する機能性も混ざり合ってしまうためである。
【0042】
なお、第二の実施の形態では、第一の画像(4)を構成するインキに磁性のあるインキを用い、第二の画像(5)を構成するインキに磁性のないインキを用いたり、第一の画像(4)を構成するインキに赤外線吸収特性のあるインキを用い、第二の画像(5)を構成するインキに赤外線吸収特性のないインキを用いる構成に限定する必要がある。第二の実施の形態の偽造防止印刷物(1)の構成を用いる場合には、機能性の有無が混ざりあう可能性があり、機能性の判定が困難になるため、使用するインキの機能性に応じて使い分ける必要がある。
【0043】
また、第一の実施の形態及び第二の実施の形態のいずれの印刷画像(3)も、濃淡のないフラットな画像として説明したが、これに限定するものではない。図14に示すように、可視光下で印刷画像(3)中に特定の有意情報(図14の例ではアルファベットの「A」)が視認されるような構成を用いても何ら問題ない。このような印刷画像(3)の中に可視画像を付与するための基本的な構成については、特許6216972号公報や特開2017-100331号公報等に記載の潜像を可視画像の中に付与する構成を本発明の第一の画像(4)に適用すればよい。
【0044】
以上のように、第一の画像(4)と第二の画像(5)を同じ色相で明度の異なるペアインキを用いて、前述した式(i)、(ii)、(iii)、(iv)の条件に従って形成し、印刷することで、従来の毛抜き合わせやオーバーラップを設けた印刷では成しえなかった刷り合わせの冗長性を確保することができる。
【0045】
(第3の実施の形態)
本発明における偽造防止印刷物(1)の作製方法について説明する。第3の実施の形態において作製する偽造防止印刷物(1)は、第1の実施の形態と同一であるため説明を省略する。作製する偽造防止印刷物(1)については、第1の実施の形態にて説明した図6の構成を例として説明する。
【0046】
図15は、本発明における偽造防止印刷物(1)の作製工程の手順を示すフローチャートである。以下、この図に準じて偽造防止印刷物(1)の作製方法について詳細な説明をする。
【0047】
画像設定工程は、可視画像及び潜像画像の基となる基画像を直接入力するか、基画像を外部又は登録してあるデータベースから取り込んで基画像を設定する工程である。
【0048】
画像変換工程は、基画像データをポジの第一の画像(4)と、ネガの第二の画像(5)に変換するとともに、潜像画像となる第一の画像(4)を、少なくとも一つ以上の潜像要素(4-1)で形成し、第二の画像(5)を白抜きもしくは第一の画像(4)より淡い色彩の濃度調整要素(5-2)として形成する工程である。これらの処理は画像処理ソフトを用いることで可能である。
【0049】
画像調整工程は、段落番号0050に示す式(i)、(ii)、(iii)、(iv)をすべて満たすような、潜像要素(4-1)の濃度(A)と幅(W4-1)、背景要素(5-1)の濃度(A)、濃度調整要素(5-2)の濃度(A)と幅(W)を設定する工程である。なお、潜像要素(4-1)の幅(W4-1)は500μmより狭く設定する必要がある。これは、潜像要素(4-1)の幅(W)が500μmを超えると潜像要素(4-1)と濃度調整要素(5-2)の違いが観察者に捉えられ、潜像画像が認識されてしまうからである。
【0050】
式(i): 潜像要素の濃度(A)×潜像要素の幅(W
=(背景要素の濃度(A)-濃度調整要素の濃度(A))×濃度調整要素の幅(W
式(ii):濃度調整要素の幅(W)>潜像要素の幅(W
式(iii):背景要素の濃度(A)>濃度調整要素の濃度(A
式(iv):潜像要素の濃度(A)>背景要素の濃度(A
【0051】
画像印刷工程は、第一の画像(4)を、特定の条件下で観察できる機能性又は特性を有するインキで印刷し、第二の画像(5)を、印刷した際に拡散光下では等色として視認され、機能性とは異なる機能性又は特性とは異なる特性のインキにて印刷する工程である。第一の画像(4)及び第二の画像(5)の色・濃度については、特に限定されるものではないが、第一の画像(4)及び第二の画像(5)は、目視上の等色関係が成り立つ必要があることから、少なくとも色相は同じである必要がある。また、印刷方式は、オフセット・スクリーン・グラビア等を用いることができる。
【0052】
(実施例)
実施例について、偽造防止印刷物(1)の説明をする。図5に実施例における偽造防止印刷物(1)を示す。基材(2)には、白色のマットな微塗工紙(グラディオスCC 日本製紙製)を用いた。第一の画像(4)を形成するインキは、黒に近いオフセット用灰色インキ(UVL Pクールグレー8U (T&K TОKA製))を用い、第二の画像(5)を形成するインキは、オフセット用銀インキ(TKSOシルバー (T&K TОKA製))を用い、それぞれオフセット校正印刷機を用いて、ウェットオフセット印刷によって印刷画像(3)は形成されている。この二つのインキはいずれも黒から灰色の色相を有し、銀インキの明度は、灰色インキの明度よりも高い。
【0053】
第一の画像(4)の潜像要素(4-1)の濃度(A)を0.4とし、幅(W)を75μmとした。また、第二の画像(5)は背景画像(5-1)の濃度Aを反射濃度で0.15とし、濃度調整要素(5-2)の濃度(A)を反射濃度で0.05、幅(W)を300μmとした。第一の画像(4)と、第二の画像(5)の濃度調整要素(5-2)との要素幅の差は225μmあることから、およそ±113μmの刷り合わせに対する許容量を設けることができた。
【0054】
このような構成で作製した偽造防止印刷物(1)の効果を確認した。図10に示すように、拡散反射光下で本発明の偽造防止印刷物(1)の印刷画像(3)を視認したところ、潜像画像(4)である彩紋は視認できなかった。一方、正反射光下で本発明の偽造防止印刷物(1)の印刷画像(3)を視認したところ、潜像画像である彩紋が反射光の強弱によって視認できた。以上のように、本発明の偽造防止印刷物(1)において潜像を隠ぺいする効果が確認できた。また、約±100μmの範囲で二つの図柄の刷り合わせを意図的に変化させて印刷したが、潜像画像(4)である彩紋模様が可視化されることはなかった。以上のように、刷り合わせに対する冗長性も確保できたことが確認できた。
【符号の説明】
【0055】
1 偽造防止印刷物
2 基材
3 印刷画像
4 第一の画像
4-1 潜像要素
5 第二の画像
5-1 背景要素
5-2 濃度調整要素
6 光源
7 視点
A 第一の画像の印刷層
B 第二の画像の印刷層
C 第一の画像における第二の画像と重なり合った領域
D 第一の画像における第二の画像と重なり合った領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15