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特許7541725半導体レーザ素子、およびエピタキシャル基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】半導体レーザ素子、およびエピタキシャル基板
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/343 20060101AFI20240822BHJP
   H01S 5/12 20210101ALI20240822BHJP
【FI】
H01S5/343
H01S5/12
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020193275
(22)【出願日】2020-11-20
(65)【公開番号】P2022081994
(43)【公開日】2022-06-01
【審査請求日】2023-09-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、開発項目「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発/次々世代加工に向けた新規光源・要素技術開発/超高速利得スイッチLDをシードとするレーザー加工用光源の開発」事業、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】秋山 英文
(72)【発明者】
【氏名】中前 秀一
(72)【発明者】
【氏名】中村 考宏
(72)【発明者】
【氏名】金 昌秀
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-316588(JP,A)
【文献】特開2002-319742(JP,A)
【文献】特開2008-211142(JP,A)
【文献】特開2019-204951(JP,A)
【文献】特開2007-201040(JP,A)
【文献】特表2003-523092(JP,A)
【文献】特表2009-542016(JP,A)
【文献】特開2007-207804(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00- 5/50
H01L 33/00-33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型およびp型の一方の導電型を有する第1クラッド層と、
前記第1クラッド層の上方に配置された活性層と、
前記活性層の上方に配置され、n型およびp型の他方の導電型を有する第2クラッド層と、
を有し、
前記活性層は、量子井戸層と障壁層とが交互に複数積層された多重量子井戸構造を有し、
複数の前記量子井戸層の各々は、InGaAs層で形成され、
複数の前記障壁層のうち、少なくとも1つの前記障壁層は、1つまたは複数のGaAsP層と、1つまたは複数のGaAs層と、を含む積層構造で形成され、
前記活性層は、5層以上の前記量子井戸層を有し、
複数の前記障壁層の全体における、前記GaAsP層の全厚さに対する前記GaAs層の全厚さの比率が、0.3以上4以下であり、
端面発光レーザである、半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記半導体レーザ素子の発振波長は、1.0μm以上1.1μm以下である、請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記活性層は、10層以上の前記量子井戸層を有する、請求項1または請求項2に記載の半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記活性層中の平均P組成が、0.03以上0.3以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項5】
複数の前記障壁層の全体における、前記GaAsP層の全厚さに対する前記GaAs層の全厚さの比率が、0.5以上4以下である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項6】
前記積層構造における、前記GaAsP層の全厚さに対する前記GaAs層の全厚さの比率が、0.1以上4以下である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項7】
前記InGaAs層を構成する材料であるIn(x)Ga(1-x)AsのIn組成xが、0.15以上0.4以下であり、
前記GaAsP層を構成する材料であるGaAs(1-y)P(y)のP組成yが、0.1以上0.5以下である、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項8】
前記InGaAs層の厚さが、3nm以上20nm以下であり、
前記積層構造における、前記GaAsP層の全厚さが、3nm以上20nm以下であり、前記GaAs層の全厚さが、2nm以上40nm以下である、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項9】
前記積層構造は、第1GaAs層と、前記第1GaAs層の上方に配置されたGaAsP層と、前記GaAsP層の上方に配置された第2GaAs層と、を有する、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項10】
複数の前記障壁層の各々における、前記GaAsP層の全厚さに対する前記GaAs層の全厚さの比率が、前記活性層の厚さ方向において変化している、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項11】
複数の前記障壁層の各々における、前記GaAsP層の全厚さに対する前記GaAs層の全厚さの比率が、前記活性層の厚さ方向において、下端から途中の位置に向けて増加し、当該途中の位置から上端に向けて減少している、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項12】
前記第1クラッド層と前記活性層との間に、さらに第1光分布層を有し、
前記活性層と前記第2クラッド層との間に、さらに第2光分布層を有する、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項13】
分布帰還型レーザである、請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項14】
n型およびp型の一方の導電型を有する第1クラッド層と、
前記第1クラッド層の上方に配置された活性層と、
前記活性層の上方に配置され、n型およびp型の他方の導電型を有する第2クラッド層と、
を有し、
前記活性層は、量子井戸層と障壁層とが交互に複数積層された多重量子井戸構造を有し、
複数の前記量子井戸層の各々は、InGaAs層で形成され、
複数の前記障壁層のうち、少なくとも1つの前記障壁層は、1つまたは複数のGaAsP層と、1つまたは複数のGaAs層と、を含む積層構造で形成され
前記活性層は、5層以上の前記量子井戸層を有し、
複数の前記障壁層の全体における、前記GaAsP層の全厚さに対する前記GaAs層の全厚さの比率が、0.3以上4以下であり、端面発光レーザである半導体レーザ素子用のエピタキシャル基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ素子、およびエピタキシャル基板に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザは、光ディスクや光通信等の光源として用いられている。例えば、特許文献1には、GaAs/AlGaAs系半導体レーザが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭59-104191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、多重量子井戸構造による利得向上効果を有効に引き出すことができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、
n型およびp型の一方の導電型を有する第1クラッド層と、
前記第1クラッド層の上方に配置された活性層と、
前記活性層の上方に配置され、n型およびp型の他方の導電型を有する第2クラッド層と、
を有し、
前記活性層は、量子井戸層と障壁層とが交互に複数積層された多重量子井戸構造を有し、
複数の前記量子井戸層の各々は、InGaAs層で形成され、
複数の前記障壁層のうち、少なくとも1つの前記障壁層は、1つまたは複数のGaAsP層と、1つまたは複数のGaAs層と、を含む積層構造で形成され、
端面発光レーザである、半導体レーザ素子が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、多重量子井戸構造による利得向上効果を有効に引き出すことができる技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1(a)および図1(b)は、それぞれ、第1実施形態による半導体レーザ素子10の概略構造を例示する幅方向断面図および長さ方向断面図である。
図2図2は、第1実施形態による半導体レーザ素子10の概略構造を例示する斜視図である。
図3図3は、第1実施形態による活性層140の概略構造を示す断面図である。
図4図4(a)~図4(d)は、第1実施形態による障壁層142の積層構造を例示する断面図である。
図5図5(a)は、第1実施形態による活性層140の一例を示す断面図である。図5(b)は、第1実施形態による活性層140近傍の垂直横モードにおける、屈折率分布を模式的に示す概略図である。図5(c)は、第1実施形態による活性層140近傍の垂直横モードにおける、光強度分布を模式的に示す概略図である。
図6図6(a)~図6(c)は、第1実施形態による半導体レーザ素子10の製造工程を例示する概略的な幅方向断面図である。
図7図7(a)は、第1実施形態の変形例による活性層140の一例を示す断面図である。図7(b)は、第1実施形態の変形例による活性層140近傍の垂直横モードにおける、屈折率分布を模式的に示す概略図である。図7(c)は、第1実施形態の変形例による活性層140近傍の垂直横モードにおける、光強度分布を模式的に示す概略図である。
図8図8は、第1実施形態の変形例に係る、第1実験例の結果を示すグラフである。
図9図9(a)および図9(b)は、それぞれ、第2実施形態による半導体レーザ素子10の概略構造を例示する幅方向断面図および長さ方向断面図である。
図10図10(a)~図10(c)は、第2実施形態による半導体レーザ素子10の製造工程を例示する概略的な幅方向断面図である。
図11図11は、第2実施形態に係る、第2実験例の結果を示すグラフである。
図12図12(a)は、実施例に係る、試料1の活性層140近傍の屈折率分布および光強度分布を示すグラフである。図12(b)は、実施例に係る、試料2の活性層140近傍の屈折率分布および光強度分布を示すグラフである。図12(c)は、実施例に係る、試料3の活性層140近傍の屈折率分布および光強度分布を示すグラフである。
図13図13(a)は、比較形態による半導体レーザ素子10の主要部の概略構造を例示する幅方向断面図であり、図13(b)は、比較形態による半導体レーザ素子10の活性層140の概略構造を示す断面図である。図13(c)および図13(d)は、それぞれ、第1、第2比較形態による活性層140近傍の垂直横モードにおける、屈折率分布および光強度分布を模式的に示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本発明の実施形態の説明]
<比較形態>
本発明の実施形態について説明する前に、比較形態について説明する。図13(a)は、比較形態による半導体レーザ素子10の主要部の概略構造を例示する幅方向断面図(共振器の長さ方向と直交する断面図)であり、図13(b)は、比較形態による半導体レーザ素子10の活性層140の概略構造を示す断面図である。
【0009】
半導体レーザ素子10は、下側クラッド層120と、活性層140と、リッジ形状の上側クラッド層160と、を有する端面発光レーザ素子である。半導体レーザ素子10は、必要に応じ、下側クラッド層120と活性層140との間に配置された下側光分布層(下側SCH層)130を有してもよく、活性層140と上側クラッド層160との間に配置された上側光分布層(上側SCH層)150を有してもよい。活性層140は、量子井戸層141(以下、井戸層141ともいう)と、障壁層142と、が交互に複数積層された多重量子井戸構造を有する。なお、本明細書においては、井戸層141が3層以上積層されている構造を多重量子井戸構造と呼ぶ。
【0010】
半導体レーザ素子10は、ガリウムヒ素(GaAs)基板上に、ガリウム(Ga)およびヒ素(As)を含むGaAs系の半導体層が積層された半導体積層体により構成されている。活性層140の井戸層141は、発振波長を調整するためにインジウム(In)を構成元素に含むインジウムガリウムヒ素(InGaAs)層で構成されている。井戸層141(InGaAs層)は、GaAs基板に対して圧縮歪を有する。
【0011】
第1比較形態は、障壁層142が、ガリウムヒ素(GaAs)層で構成された態様である。第1比較形態では、活性層140において、井戸層141(InGaAs層)に圧縮歪が生じ、活性層140の井戸層141の層数を増やすことで、圧縮歪が蓄積される。このため、半導体レーザ素子10の特性を劣化させることなく、多重積層可能な井戸層141の層数は、3層程度が限界である。
【0012】
第2比較形態は、障壁層142が、ガリウムヒ素リン(GaAsP)層で構成された態様である。障壁層142(GaAsP層)は、GaAs基板に対して伸長歪を有する。第2比較形態では、活性層140において、井戸層141(InGaAs層)には圧縮歪が生じ、障壁層142(GaAsP層)には伸長歪が生じ、井戸層141の圧縮歪が、障壁層142の伸長歪により補償される。このため、活性層140が有する井戸層141の層数を、例えば5層以上の多層とすることができる。
【0013】
図13(c)および図13(d)は、それぞれ、第1、第2比較形態による活性層140近傍の垂直横モードにおける、屈折率分布および光強度分布を模式的に示す概略図である。図13(d)には、一例として、厚さ方向に単一のピークを有する(垂直横モードが単一である)場合の光強度分布を示す。
【0014】
図13(c)に示されるように、第2比較形態、すなわち各障壁層142がGaAsP層で構成されている態様では、第1比較形態、すなわち各障壁層142がGaAs層で構成されている態様と比べて、活性層140の屈折率が低くなる。これに起因して、第2比較形態では、第1比較形態と比べて、活性層140への光閉じ込め作用が低下する。
【0015】
したがって、図13(d)に示されるように、第2比較形態では、第1比較形態と比べて、光強度分布の活性層140の上下外側への広がりが大きくなる。つまり、第2比較形態では、第1比較形態と比べ、厚さ方向に関して、光強度分布が活性層140と重なる割合を大きくすることが難しくなる。
【0016】
利得作用は活性層140で(より具体的には井戸層141で)生じるため、活性層140への光閉じ込め作用が低下することで、注入電流をレーザ光に変換する効率が低下する、つまり、モード利得が低下することとなる。例えば垂直横モードが単一である場合、レーザビーム中心の光強度は、第2比較形態では、第1比較形態と比べて、低下する。
【0017】
障壁層142をGaAsP層で構成する第2比較形態では、障壁層142をGaAs層で構成する第1比較形態と比べ、井戸層141を多層化できることで、利得作用の向上を図ることができるものの、活性層140の屈折率が低下することで、モード利得を高めることが難しい。
【0018】
本願発明者は、以下説明するように、井戸層141にInGaAs層を用いた半導体レーザ素子10において、多重量子井戸構造による利得向上効果を有効に引き出すことができる技術を提案する。
【0019】
<第1実施形態>
次に、本発明の第1実施形態による半導体レーザ素子10(以下、素子10ともいう)について説明する。素子10が有する共振器(導波路)20の幅方向をX方向とし、素子10の厚さ方向をY方向とし、共振器20の長さ方向をZ方向とする。以下、X方向を、素子10の幅方向と称し、Y方向を、素子10の厚さ方向と称し、Z方向を、素子10の長さ方向と称することもある。
【0020】
図1(a)および図1(b)は、それぞれ、第1実施形態による素子10の概略構造を例示する幅方向断面図および長さ方向断面図である。幅方向断面図とは、共振器20の長さ方向(Z方向)と直交する断面図(XY面と平行な断面図)である。長さ方向断面図とは、共振器20の幅方向(X方向)と直交する断面図(YZ面と平行な断面図)である。図2は、素子10の概略構造を例示する斜視図である。
【0021】
素子10は、半導体積層体100(以下、積層体100ともいう)と、n側電極210およびp側電極220と、絶縁保護膜310と、を有する。
【0022】
積層体100は、基板110と、下側クラッド層120と、下側SCH層130と、活性層140と、上側SCH層150と、上側クラッド層160と、キャップ層170と、を有する。
【0023】
基板110は、例えば、n型のガリウムヒ素(GaAs)基板である。下側クラッド層120は、基板110上に配置され、例えば、厚さ1.0~2.0μmのn型のアルミニウムガリウムヒ素(AlGaAs)層で構成されている。下側SCH層130は、下側クラッド層120上に配置され、例えば、厚さ0.1~0.5μmのノンドープのGaAs層またはAlGaAs層で構成されている。なお、結晶品質向上のため、基板110と下側クラッド層120との間に、例えば、厚さ0.5~1.5μmのノンドープのGaAs層(バッファ層、図示せず)が設けられていてもよい。
【0024】
活性層140は、下側SCH層130上に、つまり、下側クラッド層120の上方に配置されている。なお、下側SCH層130は、必要に応じて設けられる層であり、省略されることもある。下側SCH層130が省略された場合、活性層140は、下側クラッド層120の直上に配置されてよい。活性層140の構造の詳細については、後述する。
【0025】
上側SCH層150は、活性層140上に配置され、例えば、厚さ0.1~0.5μmのノンドープのGaAs層またはAlGaAs層で構成されている。上側クラッド層160は、上側SCH層150上に、つまり、活性層140の上方に配置され、例えば、厚さ1.0~2.0μmのp型のAlGaAs層で構成されている。なお、上側SCH層150は、必要に応じて設けられる層であり、省略されることもある。上側SCH層150が省略された場合、上側クラッド層160は、活性層140の直上に配置されてよい。キャップ層170は、上側クラッド層160上に配置され、例えば、厚さ0.1~0.2μmのp型のGaAs層で構成されている。
【0026】
上側クラッド層160およびキャップ層170は、上側SCH層150上に、リッジ型凸構造を構成する形状で、設けられている。リッジ形状を有する上側クラッド層160の下方の領域が、素子10の共振器20を構成し、素子10は、共振器20の長さ方向(Z方向)と直交する端面(XY面と平行な端面)から光を出射する端面発光レーザ素子として機能する。
【0027】
上側クラッド層160およびキャップ層170の側面と、上側クラッド層160およびキャップ層170の外側の上側SCH層150の上面を覆うように、絶縁保護膜310が配置されている。絶縁保護膜310は、例えば、酸化シリコン(SiO)層で構成されている。
【0028】
基板110の裏面の全面上に、n側電極210が配置されている。また、キャップ層170の上面上に、p側電極220が配置されている。p側電極220は、例えば、キャップ層170の上面上から、キャップ層170の側面上および上側SCH層150の上面上の絶縁保護膜310上に延在するように、設けられている。
【0029】
図3は、本実施形態による活性層140の概略構造を示す断面図であり、図4(a)~図4(d)は、本実施形態による障壁層142の積層構造を例示する断面図である。本実施形態による活性層140は、井戸層141と、障壁層142と、が交互に複数積層された多重量子井戸構造を有し、複数の井戸層141の各々は、InGaAs層で構成され、複数の障壁層142の各々は、1つまたは複数のGaAsP層142aと、1つまたは複数のGaAs層142bと、を含む積層構造で構成されている。なお、必ずしも、活性層140が有する複数の障壁層142のうちのすべてが、上記積層構造で構成されている必要はなく、複数の障壁層142において、GaAsP層142aのみ、またはGaAs層142bのみで構成された障壁層142が存在してもよい。活性層140が有する複数の障壁層142のうち、少なくとも1つの障壁層142が上記積層構造で構成されており、50%超の障壁層142の各々が上記積層構造で構成されていることが好ましく、70%超の障壁層142の各々が上記積層構造で構成されていることがより好ましく、90%超の障壁層142の各々が上記積層構造で構成されていることがさらに好ましい。
【0030】
本実施形態による活性層140では、障壁層142がGaAsP層142aを含んで構成されていることにより、井戸層141を多層化することができる。活性層140の利得作用を高めるために、活性層140が有する井戸層141の層数は、5層以上とすることが好ましく、10層以上とすることがより好ましい。井戸層141の層数の上限は特に限定されないが、例えば、製造コストの観点からは、井戸層141の層数は、100層以下とすることが好ましい。なお、活性層140の最下層、つまり、下側SCH層130(または下側クラッド層120)と接触する層は、必要に応じ、井戸層141であってもよく、障壁層142であってもよい。また、活性層140の最上層、つまり、上側SCH層150(または上側クラッド層160)と接触する層は、必要に応じ、井戸層141であってもよく、障壁層142であってもよい。
【0031】
素子10の発振波長は、1.0μm以上1.1μm以下であり、当該発振波長が実現されるように、活性層140が構成される。つまり、当該発振波長が実現されるように、井戸層141のInGaAs層を構成する材料であるIn(x)Ga(1-x)AsのIn組成xと、井戸層141の膜厚が決定される。具体的には、井戸層141のIn組成xは、例えば、0.15以上0.4以下であり、好ましくは0.2以上0.35以下である。なお、井戸層141のInGaAs層中に、InGaAs層を形成する際に含有添加される微量な元素(In、GaおよびAs以外の元素)が含まれる場合も、井戸層141はInGaAs層で形成されているといってよい。
【0032】
また、上述の発振波長を実現し、かつ、活性層140の利得作用を高めるために井戸層141の層数を5層以上とする場合、井戸層141の圧縮歪が補償されるように、障壁層142が含むGaAsP層142aを構成する材料であるGaAs(1-y)P(y)のP組成yと、GaAsP層142aの膜厚が決定される。具体的には、GaAsP層142aのP組成yは、例えば、0.1以上0.5以下であり、好ましくは0.12以上0.35以下である。なお、障壁層142のGaAsP層142a中に、GaAsP層142aを形成する際に含有添加される微量な元素(Ga、AsおよびP以外の元素)が含まれる場合も、GaAsP層142aはGaAsP層で形成されているといってよい。同様に、障壁層142のGaAs層142b中に、GaAs層142bを形成する際に含有添加される微量な元素(GaおよびAs以外の元素)が含まれる場合も、GaAs層142bはGaAs層で形成されているといってよい。
【0033】
ここで、井戸層141にInGaAs層を用いた半導体レーザにおいて、発振波長が980nm以下、かつ、井戸層141が5層未満の場合、井戸層141に含まれるInの量が少なく、井戸層141の圧縮歪がそれほど大きくならないため、障壁層142(活性層140)中に含まれるPの量を少なくできる。したがって、このような場合、GaAsP層142aによる活性層140の屈折率低下は、通常問題とならない。
【0034】
しかしながら、本実施形態では、発振波長が1.0μm以上1.1μm以下、かつ、井戸層141が5層以上である素子10を実現するため、障壁層142に含まれるPの量を多くしている。そのため、GaAsP層142aによる活性層140の屈折率低下が問題となる。本実施形態では、各障壁層142を、GaAsP層142aとGaAs層142bとを含む積層構造で構成することにより、活性層140中に含まれるPの量を制御し、活性層140の屈折率を向上させている。
【0035】
活性層140中の平均P組成は、例えば、0.03以上0.3以下であり、好ましくは0.05以上0.2以下である。本明細書において、活性層140中の平均P組成とは、活性層140中に含まれるリン(P)のモル比を意味する。活性層140中の平均P組成が0.03未満では、井戸層141の圧縮歪を補償することが困難となる可能性がある。これに対し、活性層140中の平均P組成を0.03以上(好ましくは0.05以上)とすることで、井戸層141の圧縮歪を補償し、多層化を実現することができる。一方、活性層140中の平均P組成が0.3を超えると、活性層140の屈折率低下が問題となり、活性層140への光閉じ込め作用が低下する可能性がある。これに対し、活性層140中の平均P組成を0.3以下(好ましくは0.2以下)とすることで、活性層140の屈折率を向上させ、活性層140への光閉じ込め作用を向上させることができる。なお、活性層140中の平均P組成を決める際には、活性層140における最下層のInGaAs層またはGaAsP層142aから、活性層140における最上層のInGaAs層またはGaAsP層142aまでの層を活性層140としてもよい。
【0036】
各障壁層142における、GaAsP層142aおよびGaAs層142bの積層のされ方は、特に限定されず、種々の態様であってよい。図4(a)~図4(d)に、各障壁層142の積層構造のいくつかの態様を例示する。図4(a)に示す障壁層142は、GaAsP層142a上にGaAs層142bが積層された構造を有する。図4(b)に示す障壁層142は、GaAs層142b上にGaAsP層142aが積層された構造を有する。図4(c)に示す障壁層142は、GaAs層142b上にGaAsP層142aが積層され、さらに当該GaAsP層142a上にGaAs層142b層が積層された構造を有する。図4(d)に示す障壁層142は、GaAsP層142a上にGaAs層142bが積層され、さらに当該GaAs層142b上にGaAsP層142a層が積層された構造を有する。
【0037】
GaAsP層142aと井戸層141(InGaAs層)との間、あるいは、井戸層141(InGaAs層)とGaAsP層142aとの間に、これらの層の中間的な組成を有するGaAs層142bが介在する積層構造は、GaAs層142bを中間層として積層構造の結晶成長を行うことができるため、図4(c)に示す積層構造は、特に好ましい。また、図4(c)に示す積層構造により、井戸層141へのキャリアの移動を促進させることができる。以下、図4(c)に示す積層構造を有する障壁層142を例として、説明を進める。
【0038】
障壁層142を図4(c)に示す積層構造とする場合、活性層140の最下層および最上層は、井戸層141であることが好ましい。この場合、障壁層142の層数を、井戸層141の層数より少なくすることができる。具体的には、井戸層141の層数をNとすると、障壁層142の層数はN-1となる。これにより、障壁層142の層数を減らせるため、活性層140中に含まれるPの量を低減し、活性層140の屈折率を向上させることができる。また、素子10の発振波長を安定化させるためには、井戸層141の両側(上下)を同種の層で挟み込むことが好ましいが、障壁層142を図4(c)に示す積層構造とする場合、活性層140の最下層および最上層を井戸層141とし、かつ、下側SCH層130および上側SCH層150をGaAs層で構成することで、井戸層141の両側をGaAs層で挟み込むことが可能となる。これにより、井戸層141からのキャリアのしみ出しを抑制し、発振波長を安定化させることができる。
【0039】
図5(a)は、第1実施形態による活性層140の一例を示す断面図である。本例において、各井戸層141の厚さ、および、各障壁層142が含むGaAsP層142aの厚さは、それぞれ、活性層140の全厚さにわたって一定である。また、本例では(後述の変形例と異なり)、各障壁層142が含むGaAs層142bの全厚さが、活性層140の全厚さにわたって一定である。
【0040】
図5(b)は、第1実施形態による活性層140近傍の垂直横モードにおける、屈折率分布を模式的に示す概略図である。図5(c)は、第1実施形態による活性層140近傍の垂直横モードにおける、光強度分布を模式的に示す概略図である。図5(b)および図5(c)に、併せて、第2比較形態による屈折率分布および光強度分布を示す。図5(c)には、一例として、厚さ方向に単一のピークを有する(垂直横モードが単一である)場合の光強度分布を示す。
【0041】
図5(b)に示されるように、第1実施形態、すなわち各障壁層142が、GaAsP層142aとGaAs層142bとを含む積層構造で構成されている態様では、第2比較形態、すなわち各障壁層142がGaAsP層(のみ)で構成されている態様と比べて、活性層140の屈折率を向上できる。これにより、第1実施形態では、第2比較形態と比べて、活性層140への光閉じ込め作用を向上できる。
【0042】
また、図5(c)に示されるように、第1実施形態では、第2比較形態と比べて、光強度分布の活性層140の上下外側への広がりが小さくなる。つまり、第1実施形態では、第2比較形態と比べ、厚さ方向に関して、光強度分布が活性層140と重なる割合を大きくすることができる。したがって、本実施形態では、多重量子井戸構造による利得向上効果を有効に引き出すことができる。
【0043】
障壁層142をGaAsP層142aとGaAs層142bとを含む積層構造で構成する第1実施形態では、障壁層142をGaAsP層(のみ)で構成する第2比較形態と同様に、活性層140における井戸層141を多層化できることで、利得作用を向上できる。これに加え、第1実施形態では、第2比較形態と比べ、活性層140の屈折率を向上できることで、活性層140への光閉じ込め作用を向上できるため、モード利得を向上できる。例えば垂直横モードが単一である場合、レーザビーム中心の光強度を、第1実施形態では、第2比較形態と比べて、向上できる。
【0044】
なお、図5(c)には、垂直横モードが単一である場合を例示したが、素子10から出射されるレーザ光の垂直横モードは特に限定されず、用途等に応じ、単一であってもよく、複数であってもよい。本実施形態によるモード利得の向上効果は、垂直横モードが単一であっても複数であっても得ることができる。
【0045】
活性層140が有する複数の障壁層142の(厚さ方向の)全体における、GaAsP層142aの全厚さに対する、GaAs層142bの全厚さの比率を、障壁層平均GaAs含有率と称する。障壁層平均GaAs含有率は、活性層140の全体的な屈折率を向上させて光閉じ込め作用を向上させるために、0.3以上とすることが好ましく、0.4以上とすることがより好ましく、0.5以上とすることがさらに好ましい。また、障壁層平均GaAs含有率は、障壁層142が不必要に厚くなることを避け、多層化を実現するために、4以下とすることが好ましく、3以下とすることがより好ましい。なお、本明細書において、活性層140が有する複数の障壁層142の全体における、GaAs層142bの全厚さとは、例えば、活性層140における、最下層のGaAsP層142aから最上層のGaAsP層142aの間に存在する、GaAs層142bの厚さの合計で表される。
【0046】
活性層140が有する複数の障壁層142の各々における(各積層構造における)、GaAsP層142aの全厚さに対する、GaAs層142bの全厚さの比率を、障壁層GaAs含有率と称する。後述の変形例で説明するように、障壁層GaAs含有率は、活性層140の厚さ方向において変化させてもよい。障壁層GaAs含有率は、隣接する井戸層141からGaAsP層142aへのキャリアのしみ出しを抑制するために、0.1以上とすることが好ましく、0.2以上とすることがより好ましい。また、障壁層GaAs含有率は、障壁層142が不必要に厚くなることを避け、多層化を実現するために、4以下とすることが好ましく、3以下とすることがより好ましい。
【0047】
なお、上述したように、活性層140が有する複数の障壁層142において、GaAsP層142aのみ、またはGaAs層142bのみで構成された障壁層142が存在してもよい。障壁層GaAs含有率に関する上述の好ましい条件は、活性層140が有する複数の障壁層142のうち、少なくとも1つの障壁層142で満たされることが好ましく、50%超の障壁層142で満たされることがより好ましく、70%超の障壁層142で満たされることがさらに好ましく、90%超の障壁層142で満たされることがさらに好ましい。
【0048】
活性層140の各井戸層141におけるInGaAs層の厚さ(つまり、各井戸層141の厚さ)は、例えば、3nm以上20nm以下とすることが好ましい。活性層140の各障壁層142における(各積層構造における)GaAsP層142aの全厚さは、井戸層141の圧縮歪を補償するために、例えば、3nm以上20nm以下とすることが好ましい。
【0049】
活性層140の各障壁層142における(各積層構造における)GaAs層142bの全厚さは、隣接する井戸層141からGaAsP層142aへのキャリアのしみ出しを抑制するために、例えば、2nm以上とすることが好ましい。また、当該厚さは、障壁層142が不必要に厚くなることを避け、多層化を実現するために、例えば、40nm以下とすることが好ましい。
【0050】
なお、上述したように、活性層140が有する複数の障壁層142において、GaAsP層142aのみ、またはGaAs層142bのみで構成された障壁層142が存在してもよい。活性層140の各障壁層142におけるGaAs層142bの全厚さに関する上述の好ましい条件は、活性層140が有する複数の障壁層142のうち、少なくとも1つの障壁層142で満たされることが好ましく、50%超の障壁層142で満たされることがより好ましく、70%超の障壁層142で満たされることがさらに好ましく、90%超の障壁層142で満たされることがさらに好ましい。
【0051】
図6(a)~図6(c)は、素子10の製造工程を例示する概略的な幅方向断面図である。図6(a)を参照する。まず、基板110上に各層120、130、140、150、160、170がエピタキシャル成長されたエピタキシャル基板を、積層体100として用意する。個々の素子10(半導体レーザチップ)に分割される前の積層体100を、以下、ウエハ100ともいう。
【0052】
ウエハ100は、具体的には例えば、以下のようにして形成される。結晶成長方法としては、例えば、有機金属化学気相堆積(MOCVD)が用いられる。n型のGaAs基板である基板110上に、例えば、厚さ1.0~2.0μmのn型のAlGaAs層を成長させることで、下側クラッド層120を形成する。下側クラッド層120上に、例えば、厚さ0.1~0.5μmのノンドープのGaAs層またはAlGaAs層を成長させることで、下側SCH層130を形成する。
【0053】
下側SCH層130上に、井戸層141と障壁層142とを交互に複数積層することで、活性層140を形成する。井戸層141、障壁層142のGaAsP層142a、および、障壁層142のGaAs層142bの、組成および厚さは、上述の範囲から適宜選択される。
【0054】
図4(c)に示す積層構造を有する活性層140は、例えば、以下のように形成される。井戸層141は、例えば、厚さ10nmでIn組成xが0.255であるIn(0.255)Ga(0.745)As層を成長させることで、形成される。井戸層141上に、例えば、厚さ7.5nmのGaAs層を成長させることで、障壁層142のGaAs層142bを形成する。障壁層142のGaAs層142b上に、例えば、厚さ15nmでP組成yが0.299であるGaAs(0.701)P(0.299)層を成長させることで、障壁層142のGaAsP層142aを形成する。障壁層142のGaAsP層142a上に、例えば、厚さ7.5nmのGaAs層を成長させることで、障壁層142のGaAs層142bを形成する。本例では、各障壁層142において、GaAsP層142aの全厚さが15nmであり、GaAs層142bの全厚さが15nmである。その後さらに、井戸層141と障壁層142とを交互に積層することで、活性層140を形成する。井戸層141を5層以上有する活性層140を形成する。井戸層141と障壁層142とは、例えば40対積層される。
【0055】
活性層140上に、例えば、厚さ0.1~0.5μmのノンドープのGaAs層またはAlGaAs層を成長させることで、上側SCH層150を形成する。上側SCH層150上に、例えば、厚さ1.0~2.0μmのp型のAlGaAs層を成長させることで、上側クラッド層160を形成する。上側クラッド層160上に、例えば、厚さ0.1~0.2μmのp型のGaAs層を成長させることで、キャップ層170を形成する。このようにして、ウエハ100を形成する。
【0056】
図6(b)を参照する。ウエハ100のキャップ層170上の、各素子10の共振器20を形成すべき領域に、フォトリソグラフィーによりレジストマスク410を形成する。レジストマスク410は、例えば、2.0μmの幅を有し、500μm間隔で形成される。レジストマスク410をマスクとしたドライエッチングによりキャップ層170および上側クラッド層160の不要部をエッチングして、キャップ層170および上側クラッド層160をリッジ形状に加工することで、各素子10の共振器20を形成する。
【0057】
図6(c)を参照する。加工されたキャップ層170および上側クラッド層160を覆って、ウエハ100の全面上に、例えば、厚さ0.3μmのSiO層を堆積する。リッジ形状の外側領域に、フォトリソグラフィーによりレジストマスク420を形成する。レジストマスク420をマスクとし、例えば三フッ化メタン(CHF)を用いた反応性ドライエッチングにより当該SiO層の不要部をエッチングすることで、絶縁保護膜310を形成する。絶縁保護膜310は、リッジ形状の上面に、電流注入のための開口、つまり、p側電極220との接触領域を有する。
【0058】
その後、レジストマスク420を除去し、ウエハ100の上面上に、例えば、厚さ50nmのチタン(Ti)層、厚さ50nmの白金(Pt)層、および、厚さ500nmの金(Au)層を、電子ビーム蒸着することで、p側電極220を形成する。ウエハ100の裏面(基板110の裏面)を、メカノケミカル研磨により研磨することで、ウエハ100の厚さ(図2のLY)を、例えば120μmとする。ウエハ100の裏面(基板110の裏面)に、例えば、厚さ50nmの金ゲルマニウム(AuGe)層、厚さ50nmのニッケル(Ni)層、厚さ50nmのTi層、および、厚さ500nmのAu層を、電子ビーム蒸着することで、n側電極210を形成する。
【0059】
さらに、ウエハ100を、劈開により個々の素子10(半導体レーザチップ)に分割する。個々の素子10の幅(X方向の寸法、図2のLX)は、例えば500μmであり、個々の素子10の長さ(Z方向の寸法、図2のLZ)、つまり共振器長は、例えば400μmである。このようにして、素子10が作製される(図1(a)、図1(b)および図2参照)。
【0060】
<第1実施形態の変形例>
次に、第1実施形態の変形例による素子10について説明する。図7(a)は、第1実施形態の変形例による活性層140の一例を示す断面図である。
【0061】
上述の第1実施形態では、障壁層GaAs含有率を、活性層140の厚さ方向において一定としたのに対し(図5(a)参照)、本変形例では、障壁層GaAs含有率を、活性層140の厚さ方向において変化させる。本変形例において、他の構成は、上述の第1実施形態と同様である。
【0062】
図7(a)は、このような変化の一例として、障壁層GaAs含有率を、活性層140の厚さ方向において、下端から途中の位置(好ましくは厚さ方向中央)に向けて増加させ、当該途中の位置から上端に向けて減少させる態様を示す。
【0063】
図7(b)は、第1実施形態の変形例による活性層140近傍の垂直横モードにおける、屈折率分布を模式的に示す概略図である。図7(c)は、第1実施形態の変形例による活性層140近傍の垂直横モードにおける、光強度分布を模式的に示す概略図である。図7(b)および図7(c)に、併せて、第2比較形態による屈折率分布および光強度分布を示す。
【0064】
図7(b)に示されるように、本変形例では、上述の第1実施形態と同様に、各障壁層142がGaAsP層142aとGaAs層142bとを含む積層構造で構成されていることで、各障壁層142がGaAsP層(のみ)で構成されている第2比較形態と比べて、活性層140の屈折率を向上できる。これにより、第1実施形態と同様に、第2比較形態と比べて、活性層140への光閉じ込め作用を向上できるため、モード利得を向上できる。
【0065】
本変形例では、さらに、障壁層GaAs含有率を活性層140の厚さ方向において変化させることで、活性層140の厚さ方向における屈折率分布を制御できる。具体的には例えば、障壁層GaAs含有率を活性層140の厚さ方向中央で高くすることで、活性層140の上端および下端で屈折率が低く、活性層140の厚さ方向中央で屈折率が高い、凸状の屈折率分布を形成することができる。
【0066】
図7(c)には、第2比較形態について、垂直横モードが2つのピークを有する場合の光強度分布を例示する。第2比較形態による半導体レーザ素子10は、発振状態が不安定であり、垂直横モードが単一である状態と、複数である状態と、が混在する(不規則に出現する)。
【0067】
本変形例では、活性層140の厚さ方向について、屈折率分布を制御することで、光強度分布を制御することができる。具体的には例えば、上述のような凸状の屈折率分布を形成することで、活性層140の厚さ方向中央での光強度を高めることができる。これにより、厚さ方向中央で光強度が高い分布を有するレーザ光を安定的に得ること、つまり、垂直横モードを安定的に単一とすることが可能となる。また、第1実施形態と同様に、モード利得の向上により、光強度を向上させる効果も得られる。
【0068】
垂直横モードを単一とする場合について例示したが、障壁層GaAs含有率を厚さ方向に適宜調整することで、種々の屈折率分布および光強度分布を得るようにしてもよい。例えば、垂直横モードが安定的に2つのピークを有するようにしてもよい。
【0069】
本変形例による素子10の製造工程は、活性層140の形成工程の他は、上述の第1実施形態において説明したものと同様である。本変形例による活性層140は、例えば、以下のようにして形成される。上述の第1実施形態と同様に、各井戸層141は、例えば、厚さ10nmでIn組成xが0.255であるIn(0.255)Ga(0.745)As層を成長させることで形成し、各障壁層142のGaAsP層142aは、例えば、厚さ15nmでP組成yが0.299であるGaAs(0.701)P(0.299)層を成長させることで形成する。井戸層141を5層以上有する活性層140を形成する。井戸層141と障壁層142とは、例えば40対積層される。
【0070】
各障壁層142のGaAsP層142aの上下にそれぞれ配置されるGaAs層142bの厚さを、活性層140の下端から厚さ方向中央に向けて増加させ、厚さ方向中央から上端に向けて減少させることで、障壁層GaAs含有率を変化させる。
【0071】
活性層140の下端の障壁層142では、GaAsP層142aの上下に、それぞれ、例えば、厚さ1nmのGaAs層を成長させることで、GaAs層142bを形成する。活性層140の厚さ方向中央の障壁層142では、GaAsP層142aの上下に、それぞれ、例えば、厚さ7.5nmのGaAs層を成長させることで、GaAs層142bを形成する。活性層140の上端の障壁層142では、GaAsP層142aの上下に、それぞれ、例えば、厚さ1nmのGaAs層を成長させることで、GaAs層142bを形成する。
【0072】
本例では、活性層140の下端および上端の障壁層142において、それぞれ、GaAsP層142aの全厚さが15nmであり、GaAs層142bの全厚さが2nmである。また、活性層140の厚さ方向中央の障壁層142において、それぞれ、GaAsP層142aの全厚さが15nmであり、GaAs層142bの全厚さが15nmである。
【0073】
図8は、第1実施形態の変形例に係る、第1実験例の結果を示すグラフである。第1実験例では、本変形例の素子構造、および、第2比較形態の素子構造に対して、シミュレーションを行った。
【0074】
本変形例の素子構造における各層の厚さ等は、上述の製造工程で例示した条件とした。ただし、本実験例では、下側SCH層130および上側SCH層150上を省略した素子構造に対するシミュレーションを行った。第2比較形態の素子構造は、本変形例の素子構造から障壁層142におけるGaAs層142bを省略した素子構造とした。半導体レーザ素子10を窒化アルミニウム(AlN)ヒートシンクを用いてマウントし、電流注入して出力光強度を測定する状況のシミュレーションを行った。
【0075】
本変形例による素子構造において、レーザ発振閾値は28mAであり、60mA注入時の光出力強度は100mWであった。本変形例による素子構造では、厚さ方向(および幅方向)に単一のピークを有するレーザ光が得られた。これに対し、第2比較形態による素子構造において、レーザ発振閾値は48mAであり、60mA注入時の光出力強度は40mWであった。このように、本変形例では、モード利得の向上、および、屈折率分布の制御により、光強度が向上し単一な垂直横モードを有するレーザ光を得ることができる。
【0076】
<第2実施形態>
第1実施形態では、素子10としてファブリー・ペロー型半導体レーザ素子を例示した。第2実施形態では、素子10として分布帰還(DFB)型レーザ素子を例示する。
【0077】
図9(a)および図9(b)は、それぞれ、第2実施形態による素子10の概略構造を例示する幅方向断面図および長さ方向断面図である。第2実施形態による素子10は、例えば、上側SCH層150と上側クラッド層160との間に、屈折率変調用InGaP層180と、保護用GaAs層190とを有している。
【0078】
屈折率変調用InGaP層180は、例えば、上側SCH層150上に配置され、共振器20の長さ方向に周期的な回折格子構造を形成している。これにより、共振器20内を伝搬する光の干渉を利用し、発振するレーザ光を単一波長とすることができる。屈折率変調用InGaP層180の周期Λは、素子10の発振波長λと、共振器20内で光が分布する領域の実効屈折率nとを用いて、Λ=λ/2nの関係から設定される。本実施形態では、例えば、λ=1.06μm、n=3.41であり、周期Λは153nmである。なお、屈折率変調用InGaP層180の位置は、上側SCH層150上に限定されず、活性層140の近傍であればよい。
【0079】
保護用GaAs層190は、例えば、上側SCH層150および屈折率変調用InGaP層180上に配置され、屈折率変調用InGaP層180の回折格子構造を覆うように設けられている。
【0080】
図10(a)~図10(c)は、第2実施形態による素子10の製造工程を例示する概略的な幅方向断面図である。図10(a)を参照する。第1実施形態と同様に、基板110上に、下側クラッド層120と、下側SCH層130と、活性層140と、上側SCH層150とを順に形成する。なお、第2実施形態においては、活性層140に含まれる井戸層141を10層とした。その後、上側SCH層150上に、屈折率変調用InGaP層180と、保護用GaAs層190とを順に形成する。
【0081】
なお、第2実施形態において、活性層140の障壁層GaAs含有率は、第1実施形態のように、活性層140の全厚さにわたって一定でもよいし、第1実施形態の変形例のように、活性層140の厚さ方向に変化させてもよい。
【0082】
図10(b)を参照する。保護用GaAs層190上に、例えば、厚さ100nmのSiO層430を堆積する。その後、共振器20の幅方向の中央に、幅10μm、長さ10mm、長さ方向の周期Λのレジストパターンを電子ビーム露光により形成する。該レジストパターンをマスクとし、CHFを用いたエッチングによりパターン転写加工を行う。さらに、パターン転写加工されたSiO層430をマスクとし、上側SCH層150、屈折率変調用InGaP層180、および保護用GaAs層190のドライエッチング加工を行う。この際、エッチング加工で形成される溝の底部が、上側SCH層150の厚さ方向の中央付近に位置するようにエッチング条件を設定する。
【0083】
図10(c)を参照する。SiO層430およびレジストパターンを除去した後、GaAs層をエピタキシャル成長させ、上述の溝を平坦的に埋め込む。なお、この際に埋め込まれたGaAs層は、便宜的に上側SCH層150または保護用GaAs層190の一部とみなす。その後、第1実施形態と同様に、上側クラッド層160と、キャップ層170とを形成し、各電極210、220を形成することで素子10が作製される。
【0084】
図11は、第2実施形態に係る、第2実験例の結果を示すグラフである。第2実験例では、第2実施形態の素子構造、および、第2比較形態の素子構造に対して、シミュレーションを行った。
【0085】
第2実施形態の素子構造における各層の厚さ等は、第1実施形態の製造工程で示した条件と同様とした。第2比較形態の素子構造は、本実施形態の素子構造から障壁層142におけるGaAs層142bを省略した素子構造(DFB)とした。半導体レーザ素子10を窒化アルミニウム(AlN)ヒートシンクを用いてマウントし、電流注入して出力光強度を測定する状況のシミュレーションを行った。
【0086】
図11は、第2実験例における、注入電力と光出力の関係を示すグラフである。第2実施形態の素子10において、レーザ発振閾値は12mAであり、障壁層142におけるGaAs層142bを省略した第2比較形態の発振閾値(80mA)とは格段の改善を示している。
【0087】
また、第2実験例では、屈折率変調用InGaP層180で形成した回折格子構造による波長選択がなされ、第2比較形態における縦多モード発振とは異なる縦単一モード発振が実現されている。
【0088】
以上の結果から、障壁層142をGaAsP層142aとGaAs層142bとを含む積層構造で構成することは、DFBレーザにおいて、単一波長化および出力向上の観点から、特に有効である。
【0089】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【実施例
【0090】
次に、本発明に係る実施例を説明する。これらの実施例は本発明の一例であって、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0091】
(1)素子10の作製
シミュレーションとして、以下のように、素子10(試料1)を作製した。
【0092】
n型のGaAs基板である基板110上に、厚さ2.0μmのn型のAlGaAs層を成長させることで、下側クラッド層120を形成した。下側クラッド層120上に、厚さ0.3μmのノンドープのGaAsを成長させることで、下側SCH層130を形成した。下側SCH層130上に、井戸層141と障壁層142とを交互に積層することで、活性層140を形成した。井戸層141は、厚さ6nm、In組成xを0.255とし、5層積層した。障壁層142は、GaAsP層142aのみで構成し、GaAsP層142aは、厚さ10nm、P組成yを0.299とした。活性層140の最下層および最上層は、障壁層142とした。つまり、障壁層142の層数は6層とした。活性層140上に、厚さ0.3μmのノンドープのGaAs層を成長させることで、上側SCH層150を形成した。上側クラッド層160上に、厚さ0.1μmのp型のGaAs層を成長させることで、キャップ層170を形成した。その後、第1実施形態と同様の工程により、素子10(試料1)を作製した。
【0093】
試料2では、下側SCH層130および上側SCH層150の厚さを0.29μmとした。障壁層142は、図4(c)に示す積層構造とし、GaAsP層142aは、厚さ10nm、GaAs層142bは、厚さ5nmとした。活性層140の最下層および最上層は、井戸層141とした。つまり、障壁層142の層数は4層とした。上記以外は、試料1と同様に作製した。
【0094】
試料3では、下側SCH層130および上側SCH層150の厚さを0.27μmとした。障壁層142は、図4(c)に示す積層構造とし、GaAsP層142aは、厚さ10nm、GaAs層142bは、厚さ10nmとした。活性層140の最下層および最上層は、井戸層141とした。つまり、障壁層142の層数は4層とした。上記以外は、試料1と同様に作製した。
【0095】
試料4では、下側SCH層130および上側SCH層150の厚さを0.21μmとした。井戸層141の厚さは5nmとした。障壁層142は、GaAsP層142aのみで構成し、GaAsP層142aは、厚さ10nmとした。上記以外は、試料1と同様に作製した。
【0096】
試料5では、下側SCH層130および上側SCH層150の厚さを0.20μmとした。障壁層142は、図4(c)に示す積層構造とし、GaAsP層142aは、厚さ10nm、GaAs層142bは、厚さ5nmとした。活性層140の最下層および最上層は、井戸層141とした。つまり、障壁層142の層数は4層とした。上記以外は、試料4と同様に作製した。
【0097】
試料6では、下側SCH層130および上側SCH層150の厚さを0.18μmとした。障壁層142は、図4(c)に示す積層構造とし、GaAsP層142aは、厚さ10nm、GaAs層142bは、厚さ10nmとした。活性層140の最下層および最上層は、井戸層141とした。つまり、障壁層142の層数は4層とした。上記以外は、試料4と同様に作製した。
【0098】
試料7では、障壁層142をGaAs層142bのみで構成し、井戸層141を3層積層した。GaAs層142bの厚さは15nmとした。下側SCH層130および上側SCH層150の厚さは0.321μmとした。上記以外は、試料1と同様に作製した。
【0099】
試料8では、下側SCH層130および上側SCH層150の厚さを0.231μmとし、井戸層141の厚さを3μmとした。上記以外は、試料7と同様に作製した。
【0100】
(2)シミュレーション結果
試料1~試料8の素子構造に対して、シミュレーションを行った結果を表1に示す。表1に示したガンマ値(光閉じ込め係数)は、活性層140の利得を示し、この値が大きいほど発振光の高出力に繋がる。また、図12(a)に試料1の活性層140近傍の屈折率分布および光強度分布、図12(b)に試料2の活性層140近傍の屈折率分布および光強度分布、図12(c)に試料3の活性層140近傍の屈折率分布および光強度分布をそれぞれ示す。
【0101】
【表1】
【0102】
井戸層141の層数を5層とした試料1~試料6のガンマ値は、井戸層141の層数を3層とした試料7、試料8のガンマ値よりも大きくなった。このことから、井戸層141を5層以上積層することで、活性層140の利得作用を高め、発振光を高出力にできることを確認した。また、井戸層141の層数を5層、厚さを6nmとした場合、障壁層142を積層構造とした試料2、試料3のガンマ値は、障壁層142をGaAsP層142aのみで構成した試料1のガンマ値よりも大きくなった。また、井戸層141の層数を5層、厚さを5nmとした場合、障壁層142を積層構造とした試料5、試料6のガンマ値は、障壁層142をGaAsP層142aのみで構成した試料4のガンマ値よりも大きくなった。このことから、5層以上の井戸層141が積層された素子10において、障壁層142をGaAsP層142aとGaAs層142bとを含む積層構造で構成することで、多重量子井戸構造による利得向上効果を有効に引き出し、発振光を高出力にできることを確認した。
【0103】
図12(a)に示すように、障壁層142をGaAsP層142aのみで構成した試料1では、活性層140の屈折率低下により、活性層140の厚さ方向中央の光強度が低下していた。また、素子10の発振波長を安定化させるためには、井戸層141の両側を同種の層(GaAsP層142a)で挟み込むことが好ましいため、試料1では、障壁層142の層数を井戸層141よりも多い6層とした。そのため、活性層140中に含まれるPの量が多くなり、活性層140の屈折率が低下している。これに対し、図12(b)および図12(c)に示すように、障壁層142を積層構造とした試料2、試料3では、活性層140の屈折率が向上し、活性層140の厚さ方向中央の光強度が向上していた。また、障壁層142の層数を井戸層141よりも少ない4層としても、井戸層141の両側を同種の層(GaAs層)で挟み込むことが可能となるため、活性層140中に含まれるPの量が少なくなり、活性層140の屈折率を向上させることができることを確認した。
【0104】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様を付記する。
【0105】
(付記1)
本発明の一態様によれば、
n型およびp型の一方の導電型を有する第1クラッド層と、
前記第1クラッド層の上方に配置された活性層と、
前記活性層の上方に配置され、n型およびp型の他方の導電型を有する第2クラッド層と、
を有し、
前記活性層は、量子井戸層と障壁層とが交互に複数積層された多重量子井戸構造を有し、
複数の前記量子井戸層の各々は、InGaAs層で形成され、
複数の前記障壁層のうち、少なくとも1つの前記障壁層は(好ましくは50%超の前記障壁層の各々は、より好ましくは70%超の前記障壁層の各々は、さらに好ましくは90%超の前記障壁層の各々は)、1つまたは複数のGaAsP層と、1つまたは複数のGaAs層と、を含む積層構造で形成され、
端面発光レーザである、半導体レーザ素子が提供される。
【0106】
(付記2)
付記1に記載の半導体レーザ素子であって、
前記半導体レーザ素子の発振波長は、1.0μm以上1.1μm以下である。
【0107】
(付記3)
付記1または付記2に記載の半導体レーザ素子であって、
前記活性層は、5層以上(好ましくは10層以上)の前記量子井戸層を有する。
【0108】
(付記4)
付記1から付記3のいずれか1つに記載の半導体レーザ素子であって、
前記活性層中の平均P組成が、0.03以上0.3以下(好ましくは、0.05以上0.2以下)である。
【0109】
(付記5)
付記1から付記4のいずれか1つに記載の半導体レーザ素子であって、
複数の前記障壁層の全体における、前記GaAsP層の全厚さに対する前記GaAs層の全厚さの比率が、0.3以上4以下(好ましくは0.4以上4以下、より好ましくは0.5以上3以下)である。
【0110】
(付記6)
付記1から付記5のいずれか1つに記載の半導体レーザ素子であって、
前記積層構造における、前記GaAsP層の全厚さに対する前記GaAs層の全厚さの比率が、0.1以上4以下(好ましくは0.2以上3以下)である。
【0111】
(付記7)
付記1から付記6のいずれか1つに記載の半導体レーザ素子であって、
前記InGaAs層を構成する材料であるIn(x)Ga(1-x)AsのIn組成xが、0.15以上0.4以下(好ましくは0.2以上0.35以下)であり、
前記GaAsP層を構成する材料であるGaAs(1-y)P(y)のP組成yが、0.1以上0.5以下(好ましくは0.12以上0.35以下)である。
【0112】
(付記8)
付記1から付記7のいずれか1つに記載の半導体レーザ素子であって、
前記InGaAs層の厚さが、3nm以上20nm以下であり、
前記積層構造における、前記GaAsP層の全厚さが、3nm以上20nm以下であり、前記GaAs層の全厚さが、2nm以上40nm以下である。
【0113】
(付記9)
付記1から付記8のいずれか1つに記載の半導体レーザ素子であって、
前記積層構造は、第1GaAs層と、前記第1GaAs層の上方に配置されたGaAsP層と、前記GaAsP層の上方に配置された第2GaAs層と、を有する。
【0114】
(付記10)
付記1から付記9のいずれか1つに記載の半導体レーザ素子であって、
複数の前記障壁層の各々における、前記GaAsP層の全厚さに対する前記GaAs層の全厚さの比率が、前記活性層の厚さ方向において変化している。
【0115】
(付記11)
付記1から付記10のいずれか1つに記載の半導体レーザ素子であって、
複数の前記障壁層の各々における、前記GaAsP層の全厚さに対する前記GaAs層の全厚さの比率が、前記活性層の厚さ方向において、下端から途中の位置に向けて増加し、当該途中の位置から上端に向けて減少している。
【0116】
(付記12)
付記1から付記11のいずれか1つに記載の半導体レーザ素子であって、
前記第1クラッド層と前記活性層との間に、さらに第1光分布層を有し、
前記活性層と前記第2クラッド層との間に、さらに第2光分布層を有する。
【0117】
(付記13)
付記1から付記12のいずれか1つに記載の半導体レーザ素子であって、
分布帰還型レーザである。
【0118】
(付記14)
本発明の他の態様によれば、
n型およびp型の一方の導電型を有する第1クラッド層と、
前記第1クラッド層の上方に配置された活性層と、
前記活性層の上方に配置され、n型およびp型の他方の導電型を有する第2クラッド層と、
を有し、
前記活性層は、量子井戸層と障壁層とが交互に複数積層された多重量子井戸構造を有し、
複数の前記量子井戸層の各々は、InGaAs層で形成され、
複数の前記障壁層のうち、少なくとも1つの前記障壁層は(好ましくは50%超の前記障壁層の各々は、より好ましくは70%超の前記障壁層の各々は、さらに好ましくは90%超の前記障壁層の各々は)、1つまたは複数のGaAsP層と、1つまたは複数のGaAs層と、を含む積層構造で形成されている、端面発光レーザである半導体レーザ素子用のエピタキシャル基板が提供される。
【符号の説明】
【0119】
10 半導体レーザ素子(素子)
20 共振器
100 半導体積層体(積層体、ウエハ)
120 下側クラッド層
130 下側光分布層(下側SCH層)
140 活性層
141 量子井戸層(井戸層)
142 障壁層
142a GaAsP層
142b GaAs層
150 上側光分布層(上側SCH層)
160 上側クラッド層
170 キャップ層
180 屈折率変調用InGaP層
190 保護用GaAs層
210 n側電極
220 p側電極
310 絶縁保護膜
410、420 レジストマスク
430 SiO
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13