(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】計測システム、計測方法、計測用プログラムおよび計測装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/27 20060101AFI20240822BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
G01N21/27 B
A01G7/00 603
(21)【出願番号】P 2021002550
(22)【出願日】2021-01-12
【審査請求日】2023-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】高地 伸夫
(72)【発明者】
【氏名】徳田 献一
(72)【発明者】
【氏名】イ ウンソク
(72)【発明者】
【氏名】エムディー パーベズ イスラム
【審査官】比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2012/073519(JP,A1)
【文献】再公表特許第2019/035306(JP,A1)
【文献】特開平7-115846(JP,A)
【文献】再公表特許第2016/009752(JP,A1)
【文献】特開2015-021854(JP,A)
【文献】特開2001-74663(JP,A)
【文献】特開2010-44623(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N21/00-G01N21/01
G01N21/17-G01N21/61
G01J 1/00-G01J 1/60
G01J11/00
G01W 1/00-G01W 1/18
A01G 2/00-A01G 2/38
A01G 5/00-A01G 7/06
A01G 9/28
A01G17/00-A01G17/02
A01G17/18
A01G20/00-A01G22/67
A01G24/00-A01G24/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物に配置、または該植物に近接して配置された反射部材と、
前記植物および前記反射部材を同時に撮影するカメラと、
前記カメラが撮影した画像の中から特定の波長域の画像を抽出する画像抽出部と
を有し、
前記植物に含まれる光合成色素の光吸収スペクトルは、バンドパス特性を有し、
前記特定の波長域は、前記光合成色素の前記光吸収スペクトルのピークの波長を含み、且つ、前記光合成色素の前記光吸収スペクトルのボトムの波長が帯域外となるバンドパス特性を有する計測システム。
【請求項2】
前記特定の波長域の画像の強度に基づき、前記反射部材に当たった日射量を計測する日射量計測部を備える請求項1に記載の計測システム。
【請求項3】
前記反射部材は、光反射面を有し、
前記光反射面の上に前記特定の波長域を選択的に透過する光学フィルタが配置されている請求項1または2に記載の日射量の計測システム。
【請求項4】
前記反射部材は、前記特定の波長域の光を選択的に反射する塗料が塗られた前記植物の葉である請求項1~3のいずれか一項に記載の計測システム。
【請求項5】
前記カメラに前記特定の波長域の光を選択的に透過する光学フィルタが配置されている請求項1~4のいずれか一項に記載の計測システム。
【請求項6】
前記光合成色素は、クロロフィルaおよびクロロフィルbであり、
前記カメラは、RGBまたはCMYのカラーフィルタを備えたデジタルカメラであり、
前記Bまたは前記Cのカラーフィルタを利用することで、前記特定の波長域の光を得る請求項1~5のいずれか一項に記載の計測システム。
【請求項7】
前記反射部材は、入射光を乱反射する乱反射面を有する請求項1~6のいずれか一項に記載の計測システム。
【請求項8】
前記反射部材は、前記植物に複数が配置され、
前記カメラとして、ステレオカメラが利用され、
前記ステレオカメラにより撮影されたステレオ写真画像に基づいて算出された前記反射部材の三次元位置に基づき、前記植物における日射量の三次元分布を算出する日射量分布算出部を備える請求項1~7のいずれか一項に記載の計測システム。
【請求項9】
前記反射部材は、前記植物に複数が配置され、
前記カメラとして、ステレオカメラが利用され、
前記複数の反射部材から反射される前記特定の波長域の光および前記ステレオカメラにより撮影されたステレオ写真画像に基づき算出された前記複数の反射部材の三次元形状に基づき、前記複数の反射部材を識別する反射部材識別部を備える請求項1~8のいずれか一項に記載の計測システム。
【請求項10】
前記カメラとして、前記植物を異なる方向から撮影する第1のカメラと第2のカメラが利用され、
前記第1のカメラが撮影した画像中における前記反射部材から反射される前記特定の波長域の光の強度と、前記第2のカメラが撮影した画像中における前記反射部材から反射される前記特定の波長域の光の強度との関係から、前記反射部材への光の照射が、前記第1のカメラの方向から行なわれたのか、前記第2のカメラの方向から行なわれたのか、を推定する光の照射方向の推定部を備える請求項1~9のいずれか一項に記載の計測システム。
【請求項11】
カメラにより、植物と該植物に配置または前記植物に近接して配置された反射部材とを同時に撮影し、
前記カメラが撮影した画像の中から特定の波長域の画像を抽出し、
前記植物に含まれる光合成色素の光吸収スペクトルは、バンドパス特性を有し、
前記特定の波長域は、前記光合成色素の前記光吸収スペクトルのピークの波長を含み、且つ、前記光合成色素の前記光吸収スペクトルのボトムの波長が帯域外となるバンドパス特性を有する計測方法。
【請求項12】
コンピュータに読み取らせて実行させるプログラムであって、
コンピュータに
カメラにより、植物と該植物に配置または前記植物に近接して配置された反射部材とを同時に撮影した画像データの受け付けと、
前記カメラが撮影した画像の中から特定の波長域の画像の抽出と
を実行させ、
前記植物に含まれる光合成色素の光吸収スペクトルは、バンドパス特性を有し、
前記特定の波長域は、前記光合成色素の前記光吸収スペクトルのピークの波長を含み、且つ、前記光合成色素の前記光吸収スペクトルのボトムの波長が帯域外となるバンドパス特性を有する計測用プログラム。
【請求項13】
植物と該植物に配置または前記植物に近接して配置された反射部材とを同時にカメラにより撮影した画像の画像データの受け付けを行う画像データ受付部と、
前記カメラが撮影した画像の中から特定の波長域の画像の抽出を行う特定の波長域の画像の抽出部と
を備え、
前記植物に含まれる光合成色素の光吸収スペクトルは、バンドパス特性を有し、
前記特定の波長域は、前記光合成色素の前記光吸収スペクトルのピークの波長を含み、且つ、前記光合成色素の前記光吸収スペクトルのボトムの波長が帯域外となるバンドパス特性を有する計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物を対象とした画像計測技術に関する。
【背景技術】
【0002】
植物に対する日射量を計測する技術として、日射量センサを用いる技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。また、画像計測技術として特許文献2が公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-38547号公報
【文献】特開2014-198012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
計測データに基づく植物の育成を行う上で、植物各部における日照量の取得が必用とされる。日射量の計測は、日射量センサを用いるのが確実であるが、多数の日射量センサを用いるのは、コスト増となり、実用的でない。
【0005】
ところで、カメラで植物を撮影し、画像による育成状態の把握を行う技術が知られている。ここで、植物を撮影した画像から日射量を知ることができると有用である。そこで、本発明は、植物の撮影画像から日射量を算出する技術を得ることを目的とする。また本発明は、植物の光合成色素の光吸収率の波長依存性を利用して植物の画像計測を効果的に行う技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、植物に配置または該植物に近接して配置された反射部材と、前記植物および前記反射部材を同時に撮影するカメラと、前記カメラが撮影した画像の中から特定の波長域の画像を抽出する画像抽出部とを有し、前記植物に含まれる光合成色素の光吸収スペクトルは、バンドパス特性を有し、前記特定の波長域は、前記光合成色素の前記光吸収スペクトルのピークの波長を含み、且つ、前記光合成色素の前記光吸収スペクトルのボトムの波長が帯域外となるバンドパス特性を有する計測システム。
【0007】
本発明において、前記特定の波長域の画像の強度に基づき、前記反射部材に当たった日射量を計測する日射量計測部を備える態様が挙げられる。本発明において、前記反射部材は、光反射面を有し、前記光反射面の上に前記特定の波長域を選択的に透過する光学フィルタが配置されている態様が挙げられる。本発明において、前記反射部材は、前記特定の波長域の光を選択的に反射する塗料が塗られた前記植物の葉である態様が挙げられる。本発明において、前記カメラに前記特定の波長域の光を選択的に透過する光学フィルタが配置されている態様が挙げられる。
【0008】
本発明において、前記光合成色素は、クロロフィルaおよびクロロフィルbであり、前記カメラは、RGBまたはCMYのカラーフィルタを備えたデジタルカメラであり、前記Bまたは前記Cのカラーフィルタを利用することで、前記特定の波長域の光を得る態様が挙げられる。
【0009】
本発明において、前記反射部材は、入射光を乱反射する乱反射面を有する態様が挙げられる。本発明において、前記反射部材は、前記植物に複数が配置され、前記カメラとして、ステレオカメラが利用され、前記ステレオカメラにより撮影されたステレオ写真画像に基づいて算出された前記反射部材の三次元位置に基づき、前記植物における日射量の三次元分布を算出する日射量分布算出部を備える態様が挙げられる。
【0010】
本発明において、前記反射部材は、前記植物に複数が配置され、前記カメラとして、ステレオカメラが利用され、前記複数の反射部材から反射される前記特定の波長域の光および前記ステレオカメラにより撮影されたステレオ写真画像に基づき算出された前記複数の反射部材の三次元形状に基づき、前記複数の反射部材を識別する反射部材識別部を備える態様が挙げられる。
【0011】
本発明において、前記カメラとして、前記植物を異なる方向から撮影する第1のカメラと第2のカメラが利用され、前記第1のカメラが撮影した画像中における前記反射部材から反射される前記特定の波長域の光の強度と、前記第2のカメラが撮影した画像中における前記反射部材から反射される前記特定の波長域の光の強度との関係から、前記反射部材への光の照射が、前記第1のカメラの方向から行なわれたのか、前記第2のカメラの方向から行なわれたのか、を推定する光の照射方向の推定部を備える態様が挙げられる。
【0012】
本発明は、カメラにより、植物と該植物または前記植物に近接して配置された反射部材とを同時に撮影し、前記カメラが撮影した画像の中から特定の波長域の画像を抽出し、前記植物に含まれる光合成色素の光吸収スペクトルは、バンドパス特性を有し、前記特定の波長域は、前記光合成色素の前記光吸収スペクトルのピークの波長を含み、且つ、前記光合成色素の前記光吸収スペクトルのボトムの波長が帯域外となるバンドパス特性を有する計測方法として把握することもできる。
【0013】
本発明は、コンピュータに読み取らせて実行させるプログラムであって、コンピュータにカメラにより、植物と該植物に配置または前記植物に近接して配置された反射部材とを同時に撮影した画像データの受け付けと、前記カメラが撮影した画像の中から特定の波長域の画像の抽出とを実行させ、前記植物に含まれる光合成色素の光吸収スペクトルは、バンドパス特性を有し、前記特定の波長域は、前記光合成色素の前記光吸収スペクトルのピークの波長を含み、且つ、前記光合成色素の前記光吸収スペクトルのボトムの波長が帯域外となるバンドパス特性を有する計測用プログラムとして把握することもできる。
【0014】
本発明は、植物と該植物に配置または前記植物に近接して配置された反射部材とを同時にカメラにより撮影した画像の画像データの受け付けを行う画像データ受付部と、前記カメラが撮影した画像の中から特定の波長域の画像の抽出を行う特定の波長域の画像の抽出部とを備え、前記植物に含まれる光合成色素の光吸収スペクトルは、バンドパス特性を有し、前記特定の波長域は、前記光合成色素の前記光吸収スペクトルのピークの波長を含み、且つ、前記光合成色素の前記光吸収スペクトルのボトムの波長が帯域外となるバンドパス特性を有する計測装置として把握することもできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、植物の撮影画像から日射量を計測する技術が得られる。また、本発明によれば、植物の光合成色素の光吸収率の波長依存性を利用して植物の画像計測を効果的に行う技術が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】葉に吸収され易い波長を示す波長スペクトル図である。
【
図6】処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.第1の実施形態
(原理の説明)
本実施形態では、植物を撮影した撮影画像から太陽光の日射量を割り出す方法として、反射部材からの太陽光の反射光を撮影画像中から検出し、その強度(輝度)から日射量を算出する。この際、反射部材からの反射を選択的に取得することが重要となる。これは、反射する対象によって、日射量と反射光の関係が異なるので、どこで反射した反射光であるのかが分からないと、日射量が正確に算出できないからである。
【0018】
そこで本実施形態では、植物が特定の波長を選択的に吸収する現象を利用する。
図3は、「数研出版「視覚でとらえるフォトサイエンス 生物図録」2019」に掲載されている植物に含まれる各種の光合成色素(Photosynthetic dye)の光吸収スペクトルである。
【0019】
例えば、葉が緑色に見える植物は、光合成色素として、主にクロロフィルaとbを含んでいる。
図3に示されるように、クロロフィルaの光吸収率は、波長430nmと670nm付近にピークを持った双峰型のバンドパス特性を有している。また、クロロフィルbの光吸収率は、波長460nmと650nm付近にピークを持った双峰型のバンドパス特性を有している。
【0020】
一般に多くの植物の葉が緑色に見えるのは、人間が緑色と視認する波長である波長490nm~550nm程度の帯域の光が葉に吸収され難いからである。これは、
図3に示されるクロロフィルaとbの吸収スペクトル特性と符号する。なお、視認される葉の色として緑色が優勢なのは、人間の視覚の感度のピークが550nm~560nmにあるからである。なお、植物の種類や成長の程度によって、葉の色合いが異なるのは、光合成色素の種類、その組み合わせ、比率の違いに起因する。
【0021】
図3に示すように、光合成色素の光吸収スペクトルは、バンドパス特性を有している。本実施形態では、日射量の計測に利用する特定の波長域として、対象となる植物に含まれる光合成色素の光吸収スペクトルと同様のバンドパス特性を有したものを選択する。具体的には、当該光合成色素の光吸収スペクトルのピークの波長を含み、且つ、前記光合成色素の前記光吸収スペクトルのボトムの波長が帯域外となるバンドパス特性を特定の波長域として選択する。
【0022】
ここで、ボトムの波長とは、光吸収スペクトルの谷型の部分における底(凹部の底、下に凸の部分)の中央の部分の波長である。例えば、クロロフィルaの場合、光の吸収率のピークが約430nmと670nmの2つあり、その中間の波長である約550nmがボトムの波長となる。また、クロロフィルbの場合、光の吸収率のピークが約460nmと645nmの2つあり、その中間の波長である約553nmがボトムの波長となる。なお、カロテンやフキコサンチンの460nm付近の谷部は、ピークが割れたものであり、上記ボトムの部分とは認識しない。また、光吸収率が谷型のスペクトルを示さない光合成色素の場合は、吸収率がピークの10%以下となる波長、あるいはスペクトル曲線の傾きがゼロとなった部分の波長をボトムの波長として把握する。帯域外とは、バンドパス特性のスペクトルにおいて、強度がピークの10%以下、好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下となる波長の領域である。
【0023】
ここで、
図3に例示する光合成色素の光吸収効率のスペクトルが示すバンドパス特性の波長範囲を第1の波長範囲とし、日射量の計測に利用する特定の波長域が示すバンドパス特性の波長範囲を第2の波長範囲とした場合に、第1の波長範囲が第2の波長範囲に含まれることが好ましい。また、第2の波長範囲の方が第1の波長範囲よりも少し広い方が好ましい。具体的には、(第2の波長範囲/第1の波長範囲)≦1.2、好ましくは(第2の波長範囲/第1の波長範囲)≦1.1を満たすように、第2の波長範囲、すなわち日射量の計測に利用する特定の波長域が示すバンドパス特性を選択することが好ましい。ここで、バンドパス特性の波長範囲は、バンドパス特性のバンドパスの範囲として定義される。バンドパスの範囲は、バンドパス特性のピークの20%を超える範囲として定義される。
【0024】
例えば、
図3のクロロフィルbの波長460nmのピークの部分のバンドパス特性に着目した場合を説明する。この場合、クロロフィルbの波長範囲(第1の波長範囲)は、凡そ400nm~480nmの範囲となる。そして対応する第2の波長範囲(特定の波長域)は、400nm~480nmを含み、第2の波長範囲/第1の波長範囲≦1.2、より好ましくは第2の波長範囲/第1の波長範囲≦1.1の関係を満たす範囲から選択される。例えば、この場合、第2の波長範囲として、400nm~490nmの波長範囲が選択される。
【0025】
クロロフィルbに着目した場合において、日射量の計測に利用する特定の波長域として、400nm~490nmを選択することで、クロロフィルbに吸収されずに当該植物から反射される光(例えば、葉からの緑の反射光)の影響を排除することができる。
【0026】
なお、波長400nm~490nmのバンドパス特性の光として、RGB構成のデジタルカラーカメラのB(ブルー)のフィルタを透過した光や、CMY構成のデジタルカラーカメラのC(シアン)のフィルタを透過して光が利用できる。
【0027】
すなわち、デジタルカラーカメラのB成分の画像(Bのカラーフィルタを介して撮像された画像)またはC成分の画像(Cのカラーフィルタを介して撮像された画像)を、日射量の計測に利用する特定の波長域の画像として利用することができる。
【0028】
ここでは、クロロフィルbの場合を説明したが、他の光合成色素の場合も同様の考え方で日射量の計測に利用する特定の波長域を選択することができる。なお、実際の植物には、複数の光合成色素が含まれるので、その点を考慮して日射量の計測に利用する特定の波長域を決定する。理想的には、実測データに基づき当該特定の波長域を決定することが望ましいが、対象となる植物における主要な光合成色素のデータを用いて当該特定の波長域を決定することもできる。
【0029】
日射量の計測に利用する特定の波長域の光を得る方法として、光学フィルタを用いる方法や特定の波長帯域を反射する材料を用いる方法が挙げられる。
【0030】
光学フィルタを利用する方法として、反射部材に光学フィルタを配置する方法、カメラに光学フィルタを配置する方法、および反射部材とカメラの両方に光学フィルタを配置する方法がある。
【0031】
また、上述したように、カラー画像を撮影するカメラのカラーフィルタを上記の光学フィルタとして利用することもできる。カラー画像を撮影するカメラは、RGBやCMYのカラーフィルタを備え、RGB画像やCMY画像の撮影を行う。これらのカラーフィルタは、バンドパス特性を有し、特定帯域の光を選択的に透過する。この特定帯域が本発明の特定の波長域に対応する場合、カメラのカラーフィルタを当該特定の波長域の光を得るための光学フィルタとして利用することができる。
【0032】
特定の波長帯域を反射する材料を用いる方法としては、特定の波長帯域を反射する部材で構成される反射板を用いる方法が挙げられる。また、特定の波長帯域を反射する塗料を適当な部材や葉に塗り、その塗布面を特定の波長帯域を反射する反射面として用いる方法が挙げられる。勿論、以上述べた方法を複数組み合わせことも可能である。
【0033】
上述した条件を満たす特定の波長域の光を用いて日射量の計測を行うことで、対象となる植物から反射される光を排除した状態で、反射部材から反射される波長帯域の画像を取得できる。この画像によれば、植物からの反射光が排除されるので、反射部材からの反射光が植物からの反射光に紛れてしまう不都合を回避できる。そして、当該反射部材に当たった日射量を、当該反射部材から反射される反射光に基づき、高い精度で計測することができる。
【0034】
(実施形態の構成)
図1は、実施形態のシステムの概念図である。
図1のシステムは、農業ハウスにおいて構築されている。この例では、植物100を群カメラ200により撮影する。群カメラ200は、支柱に固定された複数のカメラ201,202,203・・・により構成されている。群カメラ200は、植物100を囲む、あるいは挟むように配置され、植物100を周囲から撮影できるようにされている。
【0035】
図1のシステムでは、群カメラ200が撮影する画像に基づき、植物100の画像観察、植物100の三次元写真計測(三次元モデルの作成)、および植物100への日射量の算出を行う。ここでは、日射量として太陽光を対象とするが、人工光を対象とすることもできる。
【0036】
群カメラ200が撮影した画像の画像データは、無線LANを利用してPC(パーソナルコンピュータ)により構成されるデータ処理装置400に送られる。データ処理装置400は、植物100の三次元写真計測および植物100に降り注ぐ太陽光の日射量の算出に係る処理を行う。また、データ処理装置400は、画像を用いた植物100の生育に係る各種の処理を行う。この処理として、例えば、群カメラ200が撮影した画像を用いた葉の生育状態の判定や評価、病害に関する評価、花や実の状態の評価等に係る処理が挙げられる。
【0037】
群カメラ200を構成する複数のカメラは、隣接または近接する2台のカメラがステレオカメラとなるように設置されている。すなわち、隣接または近接する2台のカメラが、異なる視点から、植物100の重複する領域を撮影するように各カメラの位置と向き(姿勢)が調整されている。また、群カメラ200を構成するカメラそれぞれの内部標定要素および外部標定要素は予め取得されている。
【0038】
群カメラ200を構成する複数のカメラは、デジタルカメラであり、例えばWEBカメラ、監視用カメラ、その他小型カメラが利用される。群カメラを構成するカメラは、安価なものでよいが、カラー画像(RGB画像またはCMY画像)を撮影でき、画像データを無線LAN等の無線通信を用いて外部に出力できる形態のものが好ましい。予算が許すのであれば、高価な計測用のカメラを用いることも可能である。
【0039】
群カメラ200は、静止画と動画の両方が撮影可能である。三次元写真計測と日射量の算出に係る処理は、静止画像を用いて行われる。
【0040】
この例において、植物100は、含まれる光合成色素が主にクロロフィルaとクロロフィルbの植物である。植物100の種類は特に限定されない。植物200としては、野菜、果物、観賞用の植物等を挙げることができる。
【0041】
植物100の茎や枝には、複数の反射部材301~305が取り付けられている。群カメラ200が撮影した画像の中から、反射部材301~305からの反射光を検出し、その反射強度(輝度)を評価することで、反射部材301~305に照射された太陽光の日射量の算出が行なわれる。この例では、反射部材301~305の数は、5つであるが、その数は特に限定されない。
【0042】
反射部材301~305は、全て同じ構造を有する。反射部材301~305は、丸めることが可能な可撓性を有し、茎や枝に巻き付け、円筒形状にした状態で植物100の各部に固定されている。反射部材を枝や茎から吊るす形で配置する形態も可能である。
【0043】
図2に反射部材301~305の断面図を示す。
図2には、反射部材301~305を丸める前の状態が示されている。反射部材301~305は、光反射層311、粘着層312、離型紙(セパレータ)313、光学フィルタ層314を有している。
【0044】
光学反射層311は、薄板状のアルミニウム層(例えばアルミ箔)で構成されている。光反射層311としてミラー(鏡)を用いることもできる。粘着層312は、反射部材301を丸めた際の固定手段および相手部材への固定手段である。離型紙313は、粘着層312の表面を保護する保護層であり、使用時には、取り除かれる。
【0045】
図1には、離型紙313を剥がし、粘着層312の粘着機能により、反射部材301~305を植物100の茎や枝に巻き付け、円筒形の形状にして植物100の茎や枝に固定した状態が示されている。
【0046】
光学反射層311を構成するアルミニウム層の光反射面は、粗面化処理(つや消し処理)が施され、入射光を乱反射するように設定されている。これは、反射面に対する入射光の入射角度の僅かな違いによって、反射光の強度が急峻に変化することを抑えるためである。同様の効果は、光反射面上に透過光を散乱する光透過層(スモーク層)を設けることでも得られる。
【0047】
光学フィルタ層314は、特定の波長帯域の光を選択的に透過する光学フィルタである。この例において、光学フィルタ層313は、波長400~490nmの光を選択的に透過するバンドパスフィルタ特性を有している。
【0048】
図4は、データ処理装置400のブロック図である。データ処理装置400は、
図1のシステムにおけるデータの処理を行う。この例では、植物100の3次元モデルの作成、植物100に当たる太陽光の日射量の算出に係る処理がデータ処理装置400で行われる。
【0049】
データ処理装置400は、コンピュータとして機能するハードウェアであり、市販のPC(パーソナルコンピュータ)により構成されている。データ処理装置400は、一般的なコンピュータが備えるCPU、記憶装置、ユーザーインターフェース装置、通信インターフェース装置を備える。この例では、データ処理装置400の機能を実現するアプリケーションソフトウェアをPCにインストールし、当該PCをデータ処理装置400として動作させる形態が採用されている。
【0050】
データ処理装置400を専用のハードウェアで構成する形態も可能である。また、インターネット回線を介して通信接続が可能な処理サーバをデータ処理装置400として機能させる形態も可能である。また、データ処理装置400の機能の一部を他のコンピュータで実現する構成も可能である。また、データ処理装置400を分散処理システムとして構築することも可能である。
【0051】
データ処理装置400は、画像データ取得部401、反射部材識別部402、特定の波長帯域画像抽出部403、反射光強度検出部404、日射量算出部405、点群データ算出部406、三次元モデル作成部407、日射量分布算出部408、日射方向推定部409、動作制御部410、反射光強度と日射量の関係データ記憶部411を備える。
【0052】
画像データ取得部401は、群カメラ200が撮影した画像の画像データを取得する。画像データの伝送は、無線LANが利用される。取得する画像は、静止画または動画である。WEBカメラを用いる場合、動画が撮影され、その動画から静止画を得る。
【0053】
反射部材識別部402は、画像中から反射部材301~305を識別(認識)する。この識別を行う第1の方法は、反射部材301~305の画像を予め記憶しておき、それを画像中から画像認識する方法である。第2の方法は、反射部材301~305の識別のためのバーコード等のコード表示を反射部材301~305に付与し、このコード表示を画像認識することで、反射部材301~305を識別する方法である。
【0054】
第3の方法は、特定の波長帯域の光を画像中から抽出することで、反射部材の画像を識別する方法である。例えば、
図2の識別部材は、波長400~490nmの光を選択的に反射する。他方で、この帯域の植物100からの反射はほとんどない。よって、波長400~490nm画像を抽出することで、反射部材301~305を画像中から識別することができる。
【0055】
例えば、波長400nn~490nmの画像として、群カメラ200のB(ブルー)またはC(シアン)の画像を利用する。この帯域の光は、反射部材から反射されるが、植物100からはほとんど反射されない。よって、そこに写っている閾値を超える輝度の画像を反射部材301~305の画像として抽出することができる。第1~第3の方法から選ばれた2以上の方法を組み合わせることも可能である。
【0056】
特定の波長帯域画像抽出部403は、群カメラ200が撮影した画像から波長400~490nmの画像(特定の波長帯域の画像)を抽出する。この例では、RGBの色情報を抽出することができる画像処理ソフトウェアを用いて、青(B)の色情報を抽出する。一般的にカラー画像(RGB画像)を構成する青(B)の波長帯域は、ピークが450nmで半値幅が±50nm程度である。このことを利用し、画像処理ソフトウェアを用いて波長400nm~490nmの反射光で構成される画像(青色の画像)を抽出する。
【0057】
具体的には、群カメラ200として、RGBのカラーフィルタを備えたデジタルカメラを用いて撮影を行い、画像データを得る。この画像データは、Rの画素データ、Gの画素データ、Bの画素データを有し、更に各画素データは、256階調(8ビット)といった強弱のデータ(諧調データ)を有している。このRGBの各画素データの組み合わせにより、カラー画像が構成されている。本実施形態では、上記のRGBの画素データから、Bの画素データを抽出する。これにより、特定の波長帯域画像として、波長400nm~490nmの反射光で構成される画像(青色の画像)が得られる。
【0058】
デジタルカメラのカラーフィルタとして、CMYを用いる場合、RGBのBに相当する色は、C(シアン:中心波長460nm)となる。この場合、C(シアン)の画像データを抽出する。
【0059】
なお、本実施形態では、着目する光合成色素は、クロロフィルaおよびクロロフィルbの場合である。そして、それに対応する特定の波長域として、400nm~490nmを選択している。他の光合成色素の場合は、その光吸収スペクトル(
図3参照)に基づき、特定の波長域を選択する。
【0060】
反射光強度検出部404は、特定の波長帯域画像抽出部403が抽出した400nm~490nmの特定の波長帯域の画像に基づき、反射部材301~305から反射される前記特定の波長帯域の光の強度(画像中での輝度)を検出する。
【0061】
一般に、RGBのカラー画像から色情報を抽出する画像処理ソフトウェアを用いて特定の色(通常は、RGBいずれかの色データ)を抽出した場合、当該色の強度(輝度)が128階調や256階調のデータとして出力される。ここでは、B(青)の画像の階調データを波長400~490nmの反射光の強度(輝度)のデータとして取得する。
【0062】
例えば、WEBカメラの場合、色情報は8ビットのデータであるので、理論的には、最大で256階調の輝度の評価値を得ることができる。
【0063】
日射量算出部405は、反射部材301~305から反射される波長400nm~490nmの光の強度に基づき、各反射部材における日射量を算出する。例えば、反射部材301における日射量、反射部材302における日射量、反射部材303における日射量、反射部材304における日射量、反射部材305における日射量の算出が行なわれる。
【0064】
反射部材301~305から反射される波長400nm~490nmの光の強度Sと、反射部材301~305に当たる日射量Iとの関係は、予め取得され、「反射光強度と日射量の関係データ記憶部411」に記憶されている。反射光強度検出部404が検出した強度Sの値を上記の関係に当てはめることで日射量Iが算出される。この処理が日射量算出部405で行われる。
【0065】
以上の処理により、反射部材301~305に当たった日射量を算出する。日射量の単位は、ユーザが希望するものを利用できるが、例えばW/cm2が採用される。この処理は、群カメラ200を構成する複数のカメラそれぞれが撮影した画像において行われる。具体的には、上記の太陽光の日射量を算出する処理が、反射部材301,302,303・・・を撮影した各画像に関して行われる。
【0066】
画像から検出される波長400~490nmの反射光は、反射部材301~305からの太陽光の反射光である。波長400~490nmの光は、高効率で植物100の葉に吸収される。よって、植物100の撮影画像から得られる波長400~490nmの光は、主に反射部材301~305からのものとなる。
【0067】
次に、点群データ算出部406について説明する。点群データ算出部406は、群カメラ200から得られるステレオ画像に基づき、撮影対象の三次元写真計測を行う。三次元写真計測の対象には、植物100と反射部材301~305が含まれる。ステレオ画像に基づく三次元写真計測については、例えば、特願2020-37657号、特開2013-186816号公報に記載されている。
【0068】
点群データ算出部406では、以下の処理が行われる。まず、重複した領域を撮影した視点の異なる複数枚の画像(基本は2枚)がステレオ画像として選択される。次に、ステレオ画像を構成する各画像中から特徴点の抽出を行う。特徴点により、対象物の外観の特徴が点の集合としてデータ化される。
【0069】
また、この特徴点と反射部材301~305からの反射光(波長400nm~490nmの反射光)との画像中における位置関係を取得し、反射部材301~305の特徴点を特定しておく。また、識別コード表示を利用して、反射部材301~305を特定している場合、特定した反射部材301~305の識別情報と取得した特徴点の関係を取得しておく。
【0070】
特徴点を得たら、ステレオ画像間における特徴点の対応関係の特定を行う。そして、前方交会法を用いて、ステレオ画像間で対応関係の特定が行われた特徴点の三次元座標を算出する。こうして、画像に写った対象物が、三次元座標が判明した点(特徴点)の集合としてデータ化される。この三次元座標が判明した特徴点の集合は、点群データ(三次元点群データ)となる。この点群データを得るための処理が点群データ算出部406で行われる。
【0071】
三次元位置を記述する座標系は、グローバル座標系であってもローカル座標系であってもよい。グローバル座標系は、地図データやGNSSで利用される座標系である。ローカル座標系は、
図1のシステムにおいて適当な位置を原点として定めた座標系である。
【0072】
特徴点には、反射部材301~305の特徴点も含まれており、反射部材301~305の三次元位置も算出される。これにより、植物100における反射部材301~305の位置が判明する。
【0073】
三次元モデル作成部407は、点群データ算出部406が算出した多数の特徴点の三次元情報(点群データ)に基づき、群カメラ200が撮影した対象物(この場合は、植物100と反射部材301~305)の三次元モデルを作成する。この技術については、例えば、国際公開番号WO2011/070927号公報、特開2012-230594号公報、特開2014-35702号公報に記載されている。対象物の三次元モデルを得ることで、当該対象物の三次元形状および三次元位置が判明する。
【0074】
日射量分布算出部408は、点群データ算出部406が算出した反射部材301~305の位置における太陽光の日射量の分布を算出する。具体的には、各反射部材301,302,303,304,305の位置と、そこにおける日射量を関連付けし、例えば
図5に示す日射量の分布図を作成する。
【0075】
図5に示す例では、三次元モデル作成部407が作成した植物100の三次元モデルに関連付けして、反射部材301,302,303,304,305における日射量が示されている。
図5には、日射量として、特定の時刻におけるものが表示されている。
【0076】
反射部材301,302,303,304,305の三次元位置を特定することで、波長400nm~490nmの各反射光の反射位置を特定できる。これにより、植物100の各部における日射量の計測値の分布が得られる。このことを視覚化した一例が
図5である。
【0077】
また、三次元モデルの表示は回転させることができ、
図5の照度の分布状態を回転させて表示できる。これにより、植物100各部における日射量の三次元的な分布を視覚的に把握できる。
【0078】
日射方向推定部409は、植物100に対する日射の方向、すなわち植物100にどの方向から太陽光が当たったか、を推定する。日射方向の推定に関する詳細は後述する。
【0079】
動作制御部410は、群カメラ200の撮影動作の制御を行う。例えば、動作制御部10は、群カメラ200を構成するカメラ201,202,203,204・・の撮影のタイミングを制御する。
【0080】
反射光強度と日射量の関係データ記憶部411は、反射部材301~305から反射された特定の波長域(この場合は、400nm~490nm)の光の強度Sと、日射量Iの関係を示すデータを記憶する。ここで、Sは、上記特定の波長域の画像中から検出される。上記の関係に関するデータは、予め取得しておいたものを利用する。このデータは、例えば横軸をS、縦軸をIとしたグラフとしてデータ化される。このデータは、データ処理装置400を構成するPCの記憶領域に記憶され、この記憶領域が「反射光強度と日射量の関係データ記憶部411」として機能する。このデータを適当な記憶媒体な記憶サーバ等に記憶させてもよい。
【0081】
(処理の一例)
図6は、データ処理装置400で行われる処理の一例を示すフローチャートである。この処理を実行するプログラムは、適当な記憶媒体に記憶され、データ処理装置400を構成するPCにより読み取られて実行される。当該プログラムをインターネット空間上のサーバに記憶させ、そこからダウンロードする形態も可能である。
【0082】
まず、植物100に反射部材301~305を配置する。そして、群カメラ200により植物100を撮影する。群カメラ200として、RGB画像を撮影できるデジタルカメラを利用する。群カメラ200により植物100を撮影したら、撮影した画像の画像データを取得する(ステップS101)。この処理は、画像データ取得部401で行われる。
【0083】
次に、ステップS101において取得した画像において、反射部材301~305を識別する(ステップS102)。この処理は、反射部材識別部402で行われる。
【0084】
次に、取得した画像データから特定の波長帯域画像の抽出を行う(ステップS103)。ここでは、ステップS101で取得したRGB画像の画像データから、Bの画像を抽出することで、波長400nm~490nmの特定の波長帯域画像を得る。この処理は、特定の波長帯域画像取得部403で行われる。
【0085】
次に、ステップS103で得た特定の波長帯域画像の輝度の検出を行う(ステップS104)。ここでは、ステップS102で識別した反射部材301~305からの反射光を対象に輝度の検出を行う。この処理は、反射光強度検出部404で行われる。
【0086】
次に、ステップS104で検出した輝度に基づき、日射量の算出を行う(ステップS105)。この処理は、日射量算出部405で行われる。次に、撮影対象物である植物100および反射部材301~305の点群データを算出する(ステップS106)。この処理は、点群データ算出部406で行われる。
【0087】
次に、ステップS106で得た点群データに基づき、撮影対象物である植物100および反射部材301~305の三次元モデルを作成する(ステップS107)。この処理は、三次元モデル作成部407で行われる。三次元モデルを作成することで、対象物の三次元形状および三次元位置がデータとして得られる。
【0088】
次に、植物100の各部における日射量の分布を算出する(ステップS108)。この処理は、日射量分布算出部408で行われる。ここでは、反射部材301~305の各位置における日射量を反射部材301~305の位置情報と関連付けし、
図5に示すような画像データを作成する。
【0089】
次に、ステップS108の処理で作成した
図5の画像データを、データ処理装置400を構成するPCのディスプレイ上に画像表示する(ステップS109)。
【0090】
(優位性)
葉からの反射光(緑の波長を中心とした帯域)を避け、葉に吸収され易い波長の反射光を検出することで、葉からの反射光に邪魔されずに日射量の算出を行うことができる。
【0091】
(その他)
植物の葉に反射部材を固定する形態も可能である。植物の近くに反射部材を配置する形態も可能である。例えば、植物100の近くにポールを立て、このポールに反射部材301~305を取り付ける形態が可能である。
【0092】
400nm付近以下の分光感度が低いカメラを用いる場合、光学フィルタ層314としてBPF特性のものを用いる必要はなく、490nm以下の波長を透過するLPF特性の光学フィルタを用いることもできる。この場合、総合的なフィルタ特性として400nm~490nmの帯域幅のバンドパスフィルタ特性が得られる。
【0093】
「特定の波長域」は、着目する光合成色素の光の吸収率に係るスペクトルに対応させて選択される。具体的には、
図3に例示するような各合成色素の光吸収効率のピークの波長を含むバンドパス特性を有する光を「特定の波長域」として選択する。一番簡単な方法は、「特定の波長域」として、着目する光合成色素の光の吸収率に係るスペクトルと同様なバンドパス特性を選択する方法が挙げられる。
【0094】
2.第2の実施形態
この例において、
図1の反射部材301~305は、光学フィルタ層314を備えていない。この例では、少なくともB(青)の色画像を取得できるデジタルカメラを利用する。通常、デジタルカメラは、RGBのカラーフィルタを備え、RGBの画素情報を取得する。本実施形態では、B(青)の画素データを利用する。
【0095】
本実施形態では、後処理により、画像中から波長400nm~490nmの画像を抽出する。この抽出は、RGBの画像データから、B(青)の画素データを抽出することで行われる。デジタルカメラで撮影した画像は、RGBの各画素データを持っており、その中からB(青)のデータを抽出することができる。
【0096】
青の波長帯域は、大凡430nm~490nmであり、その帯域内には
図3に示すようにクロロフィルaとクロロフィルbの吸収率のピークが含まれている。よって、植物100を撮影したRGB画像から青の画像を抽出すると、葉の画像は目立たず、反射部材301~305からの反射光が目立つことになる。
【0097】
デジタルカメラのカラーフィルタとして、CMY(あるはCMYG)を用いる場合、RGBのBに相当する色は、C(シアン:中心波長460nm)となる。この場合、C(シアン)の画像データを抽出する。
【0098】
以下、本実施形態における処理の手順の一例を示す。まず、植物100の葉の近くに配置された反射部材301~305を群カメラ200により撮影し、カラー画像を得る。そして、当該カラー画像から特定の波長帯域の画像として、波長400nm~490nmの波長帯域を有する画像を抽出する。例えば、RGBの画像を撮像するデジタルカメラを用いた場合は、Bの画像を抽出する。また例えば、CMY(あるはCMYG)の画像を撮像するデジタルカメラを用いた場合は、Cの画像を抽出する。
【0099】
そして、上記特定の波長帯域の画像の強度を取得し、この強度に基づき、反射部材301~305に対する日射量を算出する。
【0100】
3.第3の実施形態
反射部材301~305を識別する方法として以下の方法も可能である。この例では、葉からの反射と区別できる反射光および3次元的な形状に基づき、反射部材301~305を画像中から認識する。
【0101】
この例では、
図1に示すように、反射部材301~305は、茎または枝に巻き付けられ、円筒形状にされているとする。この例では、(1)円筒形状である、(2)円筒形状の長さが特定の寸法である、(3)茎または枝と同軸の状態にある、(4)植物からの反射とは区別できる特定の帯域の光を反射している、(5)軸に垂直な方向において等方的に反射面を有している、の5条件を判定する。そして、この5条件を満たす対象を反射部材301~305として識別する。
【0102】
判定条件(1)~(3)は、3次元写真計測により得た3次元モデルを用いて判定する。判定条件(4)は、特定の波長帯域画像抽出部403が抽出した特定の波長帯域の画像(例えば、波長400nm~490nmの画像)に基づいて判定する。判定条件(5)は、特定の波長帯域画像抽出部403が抽出した特定の波長帯域の画像と、3次元写真計測により得た3次元モデルに基づいて判定する。これらの判定は、反射部材識別部402で行われる。
【0103】
以下、判定条件(5)について説明する。反射部材301~305は、群カメラ200により多方向から撮影され、多方向から見た特定の波長域の反射光の情報が得られる。
また、群カメラ200による三次元写真計測により、その三次元形状についての情報が得られる。よって、円筒形状の軸に垂直な方向において等方的に反射面を有しているか否かは、特定の波長帯域画像抽出部403が抽出した多方向から見た特定の波長帯域の複数の画像と、3次元写真計測により得た3次元モデルに基づいて判定することができる。
【0104】
判定条件(1)~(5)の2以上、好ましくは3以上が合格である場合に、対象となる画像が反射部材の画像であると判断する態様も可能である。
【0105】
4.第4の実施形態
本実施形態は、
図1において、群カメラ301~305として、植物100を異なる2つの方向から撮影する第1のカメラ201と第2のカメラ202が利用される。ここで、第1のカメラ201が撮影した画像中における反射部材305から反射される特定の波長域の光の強度I
1と、第2のカメラ202が撮影した画像中における反射部材305から反射される特定の波長域の光の強度I
2を比較する。特定の波長域は、植物100が高い効率で吸収する波長域を採用する。
【0106】
ここで、I1とI2の関係から、反射部材305への光の照射が、第1のカメラ201の方向から行なわれたのか、第2のカメラ202の方向から行なわれたのか、を推定する。この処理は、日射方向推定部409で行われる。
【0107】
ここで、カメラとしてカメラ201と202を例示したが、他のカメラの組み合わせも可能である。勿論、カメラの数も2台に限定されない。また、反射部材として、反射部材305を挙げたが、他の反射部材を対象とすることも可能である。
【0108】
以下、詳細に説明する。
図1のシステムにおいて、群カメラ200は複数あり、多方向から植物100を撮影する。同様に、反射部材301~305も多方向から群カメラ200によって撮影される。ここで、反射部材301~305は、太陽光が当たっている側での反射強度が相対的に高く、太陽光が当たっていない側での反射強度が相対的に低い。
【0109】
例えば、太陽光が
図1の右斜め上の方向から植物100に当たっているとする。この場合、カメラ201,203が撮影した画像中における反射部材305からの反射光の輝度(反射光の強度)より、カメラ202,204が撮影した画像中における反射部材305からの反射光の輝度(反射光の強度)の方が大きくなる。
【0110】
反射部材305は識別でき、また三次元写真計測によりその位置も特定できる。よって、上記の場合、上記輝度の差に基づき、
図1の視点で見て、植物100(反射部材305)の右側から太陽光が当たっている状況を推定することができる。この処理が日射方向推定部409において行われる。
【0111】
日射方向の推定を行うことで、例えば、時間経過に従う日射方向の変化を推定したデータを得ることができる。
【0112】
5.第5の実施形態
以下、反射部材を枝から吊り下げる例を説明する。
図7には、反射部材311~315を植物100の枝に吊るして配置した例が示されている。
図7の例では、反射部材311~315が紐や適当な支持部材によって植物100の枝に吊るされて配置される。反射部材311~315は、鏡、アルミ板、アルミ蒸着された板材等が利用される。勿論、第1の実施形態と同様の構造の物を採用することもできる。反射部材311~315として、円筒、六角柱、六面体等の立体構造物のものを利用することもできる。
【0113】
6.第6の実施形態
植物の周囲にワイヤや支持部材を配置し、そこに反射部材を固定する形態も可能である。
図8には、反射部材321~328を鉛直方向に展張した垂直支持ワイヤ212,213に固定した例が示されている。垂直支持ワイヤ212,213は、上端が水平支持ワイヤ211に固定され、下端が地面に固定されている。水平支持ワイヤ211の両端は、群カメラ200を支持するポールに固定されている。ワイヤの代わりに棒材を用いてもよい。
【0114】
7.第7の実施形態
葉や茎を反射部材として利用する形態も可能である。この例の場合では、葉に光を反射する塗料を塗り、葉を反射部材として機能させる。例えば、葉に特定帯域の光を反射する塗料を塗ることで、葉を特定の波長帯域を反射する反射部材として機能させる。
図9には、塗料を塗ることで葉を反射部材とした例が記載されている。
図9には、反射部材として機能する葉331~334が記載されている。
【0115】
反射部材として機能する葉331~334は、葉の表面に青の塗料が塗られている。青の塗料が塗られることで、反射部材として機能する葉331~334は、青に相当する波長域である400nm~490nmの光を選択的に反射する反射部材として機能する。塗る塗料の色は、対象となる植物に含まれる光合成色素の光吸収スペクトルに基づいて決定される。具体的には、第1の実施形態で詳述したように、対象となる植物の光合成色素の吸収効率がピークの波長を含むバンドパス特性の波長域を特定の波長域として選択し、この特定の波長域に対応する色を選択する。
【0116】
例えば、光合成色素として、クロロフィルaとクロロフィルbが支配的である場合、選択すべき特定の波長域は、クロロフィルaとクロロフィルbの光吸収率が高い400nm~490nm程度の波長範囲となる。この波長範囲は、青の波長域と主に重複する。この場合、葉に青の塗料を塗ることで、葉を反射部材として機能させることができる。本実施形態において、角度による葉からの反射光の強度の大きな変化を抑えるために、艶消し塗料を用いる方法も有効である。なお、葉が白色光を反射するように塗料を選択することもできる。
【0117】
8.第8の実施形態
特定の波長域として、複数の異なる波長域を利用することも可能である。例えば、対象となる植物の光吸収効率に2つのピークを有するバンドパス特性(双峰型)が見られる場合、2つのピークそれぞれに対応する第1のバンドパス特性と第2のバンドパス特性を有するスペクトルの光を日射量の計測のための反射光として利用することができる。
【0118】
また、複数の光吸収色素に対応した複数の光吸収効率のピークに対応させて特定の波長域の設定を行う形態も可能である。
【0119】
9.第9の実施形態
本発明における「特定の波長域」の光を日射量の計測以外に利用することもできる。ここでは、葉に含まれる光合成色素について、詳細な情報が未知である場合において、特定の波長域の光を利用して葉の光合成色素に関する情報を推定する例を説明する。なお、特定の波長域の条件は、第1の実施形態で述べた日射量の計測に利用する特定の波長域を選択する場合と同じである。
【0120】
本実施形態は、反射部材からの特定の波長域の反射光の強度と、葉からの特定の波長域の反射光の強度の差を評価する。この差が大きい場合、それだけ葉に特定の波長域の光が吸収されていることになる。これは、葉に当該特定の波長域の光を吸収する光合成色素の量が多いことを意味する。
【0121】
他方で、上記の差が小さい場合、それだけ葉に特定の波長域の光が吸収されていないことになり、それは、含まれている当該特定の波長域の光を吸収する光合成色素の量が少ないことを意味する。この原理を利用して、対象となる植物に含まれる光合成色素に関する情報を予想する。
【0122】
以下、具体的な例を説明する。まず、準備として、予想される光合成色素の吸収率のスペクトルを用意する(
図3参照)。次に、各光合成色素の吸収率のスペクトルに対応する特定の波長域を設定する。この際、特定の波長域は複数の種類を想定し、設定する。
【0123】
次に、設定した特定の波長域の全てを反射可能な反射部材を対象となる植物に配置し、カラー画像の撮影を行う。この際、設定した特定の波長域に対応したカラーフィルタを用い、設定した特定の波長域の画像を撮影する。すなわち、第1の特定の波長域の画像、第2の特定の波長域の画像、・・・を撮影する。
【0124】
そして、撮影画像から、各特定の波長域における反射部材からの反射光の強度(輝度)Iaと、当該植物の葉からの各特定の波長域の反射光の強度(輝度)Ibを取得する。次に、IaとIbの差を求める。この差は、比率で求めてもよい。
【0125】
ここで、IaとIbの差が大きい場合、設定した特定の波長域に対応する光合成色素の含有量が相対的に多く、その差が小さい場合、当該光合成色素の含有量が相対的に少ないことが分かる。これにより、葉に含まれる光合成色素の種類を推定することができる。
【0126】
ここで、対応する光合成色素の基準となる含有量に関して、IaとIbの差が判っていれば、当該光合成色素の含有量を推定することができる。また、複数の特定の波長域に関するIaとIbの差を比較することで、複数の光合成色素の組み合わせや含有比率を推定することもできる。
【0127】
葉と反射部材の識別は、画像認識に基づく方法、三次元計測による形状の違いに基づく方法、反射部材の識別表示に基づく方法、これらの方法の複数を組み合わせる方法が挙げられる。
【0128】
本実施形態において、データ処理装置400は、光合成色素に関する情報の推定部を備える。この光合成色素に関する情報の推定部は、特定の波長域の画像における植物からの反射光の強度と反射部材からの反射光の強度との差に基づき、当該植物に含まれる光合成色素に関する情報を推定する。
【0129】
10.第10の実施形態
以下、光合成色素としてカロテンの場合を説明する。この場合、「特定の波長域」として
図3のカロテンの光の吸収効率のピークを含むバンドパス特性の波長帯域を選択する。例えば、
図3のカロテンの光吸収率のスペクトルと同様な通過帯域を有するバンドパスフィルタを用意する。そしてそれをカメラ側に配置することで、カロテンに対応した「特定の波長域」の画像を得ることができる。この際、反射部材は、可視光全域の反射を行う反射特性または上記特定波長域の光を選択反射する反射特性のものを採用する。
【0130】
11.第11の実施形態
反射部材の反射率を複数段階に設定するする方法も可能である。こうすることで、特定の波長域の検出ダイナミックレンジを大きくできる。例えば、反射部材を2つの領域に分割し、相対的に高反射率の領域と低反射率の領域を設ける。この場合、弱い日射は、高反射率の領域の反射光を検出することで行い、強い日射は、低反射率の領域の反射光を検出することで行う。反射率の設定を3段階、4段階、・・・と設定することも可能である。
【0131】
反射率を制御する方法としては、反射部材の材質や表面処理により行う方法、減光フィルタを用いる方法が挙げられる。減光フィルタを用いる方法としては、異なる透過率を有する光透過フィルムを用いる例が挙げられる。本実施形態は、塗料を用いて反射面を構成する場合にも適用できる。
【0132】
12.第12の実施形態
反射部材の反射面により、文字や図柄を構成することもできる。この場合、反射面により、文字や図柄のパターンを形成する。例えば、反射面のパターンとして、識別コード表示のパターンを採用する。この場合、反射面を撮影した画像から当該コード表示を検出することで、反射面の識別が可能となる。本実施形態は、葉に塗料を塗って反射面を形成する場合にも適用できる。
【0133】
13.実施形態の組み合わせについて。
以上説明した実施形態の2以上を組み合わせることも可能である。また、各実施形態に記載された一部の構成同士を組み合わせることも可能である。