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特許7541836モリブデンジチオカルバメートおよびそれを含有する潤滑剤組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】モリブデンジチオカルバメートおよびそれを含有する潤滑剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C07C 333/16 20060101AFI20240822BHJP
   C10M 135/18 20060101ALI20240822BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20240822BHJP
   C07F 11/00 20060101ALI20240822BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20240822BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240822BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20240822BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20240822BHJP
   C10N 40/12 20060101ALN20240822BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20240822BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20240822BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20240822BHJP
   C10N 40/20 20060101ALN20240822BHJP
   C10N 40/24 20060101ALN20240822BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20240822BHJP
【FI】
C07C333/16 CSP
C10M135/18
C10M169/04
C07F11/00 B
C10N10:12
C10N30:06
C10N40:25
C10N40:04
C10N40:12
C10N40:02
C10N40:30
C10N40:08
C10N40:20
C10N40:24
C10N40:20 A
C10N50:10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020037468
(22)【出願日】2020-03-05
(65)【公開番号】P2020152716
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2023-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2019049683
(32)【優先日】2019-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(72)【発明者】
【氏名】角 太朗
(72)【発明者】
【氏名】森泉 幸也
(72)【発明者】
【氏名】舘野 剛介
(72)【発明者】
【氏名】徳永 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】水越 啓文
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-062894(JP,A)
【文献】特開昭56-061397(JP,A)
【文献】特表2008-531821(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C10M
C07F
C10N
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)で表されるモリブデンジチオカルバメート。
【化1】
[式中、R およびR はそれぞれ独立して下記の一般式(2)で表される基を表し、R およびはそれぞれ独立して下記の一般式(2)で表される基または炭素数8~14のアルキル基を表し、X~Xはそれぞれ独立して酸素原子または硫黄原子を表す。
【化2】
(式中、Rは、炭素数2~4のアルキレン基を表し、Rは、炭素数2~16のアルキル基を表す。)]
【請求項2】
一般式(1)のR およびが、それぞれ独立して炭素数8~14のアルキル基である、請求項に記載のモリブデンジチオカルバメート。
【請求項3】
一般式(2)のRが炭素数4~12のアルキル基である、請求項1または2に記載のモリブデンジチオカルバメート。
【請求項4】
請求項1ないしのいずれか1項に記載の一般式(1)で表されるモリブデンジチオカルバメートと、下記の一般式(3)で表されるモリブデン化合物とを、モリブデン元素の質量比で100~25:0~75含有する潤滑剤組成物。
【化3】
(式中、R~R10は、それぞれ独立して炭素数8~14のアルキル基を表し、X~Xは、それぞれ独立して酸素原子または硫黄原子を表す。)
【請求項5】
6価のモリブデン化合物を還元処理する工程と、還元処理されたモリブデン化合物と下記の一般式(4)で表されるジアルキルアミンを含むジアルキルアミン原料と二硫化炭素とを反応させる工程とを含むモリブデンジチオカバメートの製造方法。
【化4】
[式中、R11およびR12はそれぞれ独立して下記の一般式(5)で表される基を表す
【化5】
(式中、R13は炭素数2~4のアルキレン基を表し、R14は炭素数2~16のアルキル基を表す。)]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑性添加剤として優れた特性を有する新規なモリブデンジチオカルバメートおよびそれを含有する潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化、大気汚染、酸性雨といった環境問題への対策や、有限である石油エネルギーなどの資源保護の観点から、自動車、建設機械、農業機械、産業機械等の省エネルギー化・省燃費化が進められている。このような状況下において、例えば自動車分野においては、自動車本体の軽量化、エンジンの改良等、自動車自体の改良と共に、エンジンでの摩擦ロスを防ぐ為のエンジン油の改良が重要な要素となっている。
【0003】
エンジン油の改良においては、エンジンオイルの低粘度化による流動抵抗の低減による省燃費化に加え、添加剤による摩擦抵抗の低減による潤滑性の向上が効果的であることがわかっている。このような添加剤の中でも、モリブデンジチオカルバメートは金属に対する腐食性も少ないことから、種々の構造のモリブデンジチオカルバメートが開発され、利用されている(例えば、特許文献1~4を参照)。
【0004】
近年では、例えば自動車におけるエンジンや駆動系の改良に伴う多様化等に対応するため、より多様な条件下・機会で省エネルギー化・省燃費化が求められるようになっている。このようなニーズに対応するため、潤滑性添加剤として従来利用されているモリブデンジチオカルバメートにおいても、さらに幅広い条件下で優れた摩擦低減効果を発揮することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭48-056202号公報
【文献】特開昭62-081396号公報
【文献】特開平07-053983号公報
【文献】特表2014-514407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、幅広い使用条件下で優れた摩擦特性を発揮する新規なモリブデンジチオカルバメート及びそれを含有する潤滑剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の構造を有するモリブデンジチオカルバメートが幅広い使用条件下で優れた摩擦特性を発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、下記の一般式(1)で表されるモリブデンジチオカルバメートにある:
【0008】
【化1】
【0009】
[式中、Rは、下記の一般式(2)で表される基を表し、R~Rは、それぞれ独立して下記の一般式(2)で表される基または炭素数8~14のアルキル基を表し、X~Xはそれぞれ独立して酸素原子または硫黄原子を表す。
【0010】
【化2】
【0011】
(式中、Rは、炭素数2~4のアルキレン基を表し、Rは、炭素数2~16のアルキル基を表す。)]
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、幅広い使用条件下で優れた摩擦特性を発揮する新規なモリブデンジチオカルバメートおよびそれを含有する潤滑剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の新規なモリブデンジチオカルバメートは、下記の一般式(1)で表されるモリブデンジチオカルバメートである:
【0014】
【化3】
【0015】
ここで、一般式(1)において、Rは、下記の一般式(2)で表される基を表す:
【0016】
【化4】
【0017】
一般式(2)において、Rは、炭素数2~4のアルキレン基を表す。炭素数2~4のアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基が挙げられる。これらの中でも、摩擦特性の観点から、Rは、炭素数2または3のアルキレン基であることが好ましく、炭素数3のアルキレン基であることがより好ましい。
【0018】
また、一般式(2)において、Rは、炭素数2~16のアルキル基を表す。炭素数2~16のアルキル基としては、例えば、炭素数2~16の直鎖アルキル基、炭素数3~16の分岐アルキル基等が挙げられる。炭素数2~16の直鎖アルキル基としては、例えば、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基が挙げられ、炭素数3~16の分岐アルキル基としては、例えば、2級プロピル基、2級ブチル基、イソブチル基、2級ペンチル基、イソペンチル基、2級ヘキシル基、イソヘキシル基、2級ヘプチル基、イソヘプチル基、2級オクチル基、イソオクチル基、2級ノニル基、イソノニル基、2級デシル基、イソデシル基、2級ウンデシル基、イソウンデシル基、2級ドデシル基、イソドデシル基、2級トリデシル基、イソトリデシル基、2級テトラデシル基、イソテトラデシル基、2級ペンタデシル基、イソペンタデシル基、2級ヘキサデシル基、イソヘキサデシル基等が挙げられる。これらの中でも、摩擦特性の観点から、Rは、炭素数4~14のアルキル基であることが好ましく、炭素数6~12のアルキル基であることがより好ましい。
【0019】
一般式(1)において、R~Rは、それぞれ独立して一般式(2)で表される基または炭素数8~14のアルキル基を表す。一般式(2)で表される基としては前述した構造が挙げられ、また、炭素数8~14のアルキル基としては、例えば、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基といった直鎖アルキル基、2級オクチル基、イソオクチル基、2級ノニル基、イソノニル基、2級デシル基、イソデシル基、2級ウンデシル基、イソウンデシル基、2級ドデシル基、イソドデシル基、2級トリデシル基、イソトリデシル基、2級テトラデシル基、イソテトラデシル基等の分岐アルキル基が挙げられる。摩擦特性の観点から、R~Rは、それぞれ独立して一般式(2)で表される基、炭素数8のアルキル基、または炭素数13のアルキル基であることが好ましい。
【0020】
摩擦特性および基油への溶解分散性の観点から、本発明の新規なモリブデンジチオカルバメートは、一般式(1)において、RとRの少なくとも一方が一般式(2)で表される基であることが好ましく、このとき、R又はRがRと同一の基であることがより好ましい。また、摩擦特性および基油への溶解分散性の観点から、一般式(1)のRとR、RとRがそれぞれ同一の基であることが好ましく、具体的には、RとRが一般式(2)で表される同一の基であるか、炭素数8~14の同一のアルキル基であることが好ましい。このとき、摩擦特性の観点からは、一般式(1)のR~Rがいずれも一般式(2)で表される同一の基であることが特に好ましく、基油への溶解分散性の観点からは、RとRがそれぞれ一般式(2)で表される同一の基であり、RとRがそれぞれ炭素数8~14の同一のアルキル基であることが特に好ましい。
【0021】
一般式(1)において、X~Xはそれぞれ独立して酸素原子又は硫黄原子を表す。摩擦特性に優れることから、X~Xのうち2~3つが硫黄原子で残りが酸素原子であることが好ましく、硫黄原子と酸素原子でそれぞれ2であることが更に好ましく、X、Xが硫黄原子でX、Xが酸素原子であることが最も好ましい。
【0022】
次に、本発明の潤滑剤組成物は、一般式(1)で表される単一または複数のモリブデンジチオカルバメートと、下記の一般式(3)で表されるモリブデン化合物とを、モリブデン元素の質量比で100~25:0~75(比の合計は100)含有することを特徴とする。
【0023】
【化5】
【0024】
一般式(3)において、R~R10は、それぞれ独立して炭素数8~14のアルキル基を表す。炭素数8~14のアルキル基としては、例えば、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基といった直鎖アルキル基、2級オクチル基、イソオクチル基、2級ノニル基、イソノニル基、2級デシル基、イソデシル基、2級ウンデシル基、イソウンデシル基、2級ドデシル基、イソドデシル基、2級トリデシル基、イソトリデシル基、2級テトラデシル基、イソテトラデシル基等の分岐アルキル基が挙げられる。これらの中でも、摩擦特性の観点から、R~R10はそれぞれ独立して炭素数8のアルキル基または炭素数13のアルキル基であることが好ましい。
【0025】
一般式(3)において、X~Xは、それぞれ独立して酸素原子または硫黄原子を表す。摩擦特性に優れることから、X~Xのうち2~3つが硫黄原子で残りが酸素原子であることが好ましく、硫黄原子と酸素原子でそれぞれ2であることが更に好ましく、X、Xが硫黄原子でX、Xが酸素原子であることが最も好ましい。
【0026】
本発明の潤滑剤組成物は、摩擦特性および基油への溶解分散性の観点から、一般式(1)で表される単一または複数のモリブデンジチオカルバメートと、一般式(3)で表されるモリブデン化合物とを、モリブデン元素の質量比で100~40:0~60で含有することが好ましく、100~50:0~50(いずれも質量比の合計は100)で含有することがより好ましい。
【0027】
本発明の新規なモリブデンジチオカルバメートおよびそれを含有する本発明の潤滑剤組成物は、従来のモリブデンジチオカルバメートと比べ、幅広い使用条件下で摩擦特性を発揮し、より優れた潤滑性添加剤として有用である。
【0028】
一般式(1)で表されるモリブデンジチオカルバメートを製造する方法は、公知のモリブデンジチオカルバメートの製造方法において、アルキル基の構造が特定の構造となるように原料を適宜変更して製造する方法が挙げられる。具体的には、例えば、三酸化モリブデン、モリブデン酸のアルカリ金属塩などのモリブデン酸塩等の6価のモリブデン化合物と、水硫化アルカリ又は硫化アルカリとの水溶液又は水懸濁液に、還元剤を添加してモリブデンを還元処理した後、下記一般式(4)で表されるジアルキルアミンを含んでなるジアルキルアミン原料と、二硫化炭素とを加えて還元処理されたモリブデン化合物と反応させることにより製造できる。
【0029】
【化6】
【0030】
一般式(4)において、R11、R12は、それぞれ独立して、一般式(5)で表される基または炭素数8~14のアルキル基を表す。ただし、R11およびR12の少なくとも一方は、一般式(5)で表される基である。炭素数8~14のアルキル基としては、例えば、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基といった直鎖アルキル基、2級オクチル基、イソオクチル基、2級ノニル基、イソノニル基、2級デシル基、イソデシル基、2級ウンデシル基、イソウンデシル基、2級ドデシル基、イソドデシル基、2級トリデシル基、イソトリデシル基、2級テトラデシル基、イソテトラデシル基等の分岐アルキル基が挙げられる。
【0031】
【化7】
【0032】
一般式(5)において、R13は、炭素数2~4のアルキレン基を表す。このようなアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基が挙げられる。これらの中でも、得られるモリブデンジチオカルバメートの摩擦特性の観点から、R13は、炭素数2または3のアルキレン基であることが好ましく、炭素数3のアルキレン基であることがより好ましい。
【0033】
一般式(5)において、R14は、炭素数2~16のアルキル基を表す。炭素数2~16のアルキル基としては、例えば、炭素数2~16の直鎖アルキル基、炭素数3~16の分岐アルキル基等が挙げられる。これらの中でも、得られるモリブデンジチオカルバメートの摩擦特性の観点から、R14は、炭素数4~14のアルキル基であることが好ましく、炭素数6~12のアルキル基であることがより好ましい。
【0034】
一般式(4)で表されるジアルキルアミンとしては、得られるモリブデンジチオカルバメートの摩擦特性の観点から、R11、R12がいずれも一般式(5)で表される基であることが好ましく、一般式(5)で表される同一の基であることがより好ましい。
【0035】
一般式(1)で表される新規なモリブデンジチオカルバメートを製造する方法においては、目的に応じて、一般式(4)で表されるジアルキルアミンに加えてその他のジアルキルアミンをジアルキルアミン原料として用いてもよく、例えば、下記の一般式(6)で表されるジアルキルアミンを併せて用いてもよい。
【0036】
【化8】
【0037】
一般式(6)において、R15、R16は、それぞれ独立して、炭素数8~14のアルキル基を表す。炭素数8~14のアルキル基としては、例えば、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基といった直鎖アルキル基、2級オクチル基、イソオクチル基、2級ノニル基、イソノニル基、2級デシル基、イソデシル基、2級ウンデシル基、イソウンデシル基、2級ドデシル基、イソドデシル基、2級トリデシル基、イソトリデシル基、2級テトラデシル基、イソテトラデシル基等の分岐アルキル基が挙げられる。得られるモリブデンジチオカルバメートの摩擦特性の観点から、R15、R16はそれぞれ独立して炭素数8のアルキル基または炭素数13のアルキル基であることが好ましい。このとき、R15、R16は、得られるモリブデンジチオカルバメートの摩擦特性および基油への溶解性の観点から、同一の基であることが好ましい。
【0038】
一般式(1)で表される新規なモリブデンジチオカルバメートを製造する方法において、一般式(4)で表されるジアルキルアミンのみをジアルキルアミン原料として用いた場合は、一般式(1)で表されるモリブデンジチオカルバメートのみが得られる。また、ジアルキルアミン原料として一般式(4)で表されるジアルキルアミンに加えて一般式(4)で表されるジアルキルアミン以外のジアルキルアミンを併せて用いた場合は、一般式(1)で表されるモリブデンジチオカルバメートと、一般式(1)で表されるモリブデンジチオカルバメート以外の化合物[例えば、一般式(3)で表されるモリブデン化合物]が同時に得られる場合がある。得られるモリブデンジチオカルバメートの摩擦特性および基油への溶解性の観点からは、ジアルキルアミン原料として、一般式(4)で表されるジアルキルアミンをジアルキルアミン原料全量に対してモル比で10~100%用いることが好ましく、25~100%用いることがより好ましく、30~100%用いることがさらにより好ましい。また、より好ましくは、一般式(4)で表されるジアルキルアミンと一般式(6)で表されるジアルキルアミンとを、モル比で10~100:90~0用いることが好ましく、25~100:75~0用いることがより好ましく、30~100:70~0(いずれもモル比の合計は100)用いることがさらにより好ましい。
【0039】
一般式(4)や一般式(6)で表されるジアルキルアミンは、公知の方法により製造してもよく、また、市販品を用いてもよい。このうち、一般式(4)で表されるジアルキルアミンは、例えば、Sciences Chimiques, Volume 226, Issue 7, Pages 471-2(1968)に記載の方法により製造することができる。
【0040】
一般式(1)で表される新規なモリブデンジチオカルバメートの製造に用いるモリブデン酸塩等の6価のモリブデン化合物としては、三酸化モリブデン、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸ヘテロポリ酸等が挙げられる。
【0041】
水硫化アルカリとしては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム等が挙げられ、硫化アルカリとしては、例えば、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化アンモニウム等が挙げられる。これらの中でも、反応性が良好で、工業的な入手も良好であることから、硫化アルカリが好ましく、硫化ナトリウムが更に好ましい。硫化カリウム、硫化アンモニウム等これらの水溶液や、水酸化アルカリ水溶液中に硫化ガスを導入して得られる硫化アルカリ水溶液も同様に用いることができる。一般式(1)で表されるモリブデンジチオカルバメートが収率よく製造できることから、水硫化アルカリ又は硫化アルカリの使用量は、6価のモリブデン化合物のモリブデン1モルに対して、1~2モルが好ましく、1.2~1.8モルが更に好ましい。
【0042】
還元剤としては、例えば、ヨウ化水素、硫化水素、水素化ホウ素ナトリウム等の水素化物;亜硫酸ナトリウム、二チオン酸ナトリウム、亜二チオン酸ナトリウム(ハイドロサルファイド)、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム等の低級酸素酸の塩;硫化ナトリウム、ポリ硫化ナトリウム、硫化アンモニウム等の硫黄化合物;鉄(II)、スズ(II)、チタン(III)、クロム(II)等の低原子価状態にある金属の塩類;ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等のアルデヒド類、ヒドラジン、ボラン、ジボラン、ギ酸、シュン酸、アスコルビン酸等が挙げられる。反応性が良好で、工業的な入手が容易であることから、低級酸素酸のアルカリ金属塩が好ましく、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムが更に好ましい。一般式(1)で表されるモリブデンジチオカルバメートが収率よく製造できることから、還元剤の使用量は、6価のモリブデン化合物のモリブデン1モルに対して、0.05~2モルが好ましく、0.1~1モルが更に好ましい。
【0043】
一般式(1)で表される新規なモリブデンジチオカルバメートが収率よく製造できることから、ジアルキルアミン原料と二硫化炭素とは同じモル数で使用することが好ましく、ジアルキルアミン原料と二硫化炭素の使用量は6価のモリブデン化合物のモリブデン1モルに対して、それぞれ0.9~2モルであることが好ましく、1~1.5モルであることが更に好ましい。また、ジアルキルアミン原料と二硫化炭素はそれぞれ、反応に用いる全量を一度に加えて反応させてもよく、2回以上に分けて加えて反応させてもよい。
【0044】
一般式(1)で表される新規なモリブデンジチオカルバメートが収率よく製造できることから、例えば、ジアルキルアミン原料と二硫化炭素とを添加した後の反応温度は20~110℃が好ましく、60~100℃が更に好ましく、また、反応時間は2~15時間程度であることが好ましい。反応終了後、反応液を硫酸等で中和した後、生成物を分離することにより、モリブデンジチオカルバメートを得ることができる。
【0045】
一般式(3)で表されるモリブデン化合物を製造する方法は、例えば、公知のモリブデンジチオカルバメートの製造方法において、アルキル基の構造が特定の構造となるように原料を適宜変更して製造する方法が挙げられる。具体的には、例えば、一般式(1)で表されるモリブデンジチオカルバメートの製造方法において、ジアルキルアミン原料として一般式(6)で表されるジアルキルアミンのみを用いること以外は同様の方法により製造することができる。また、一般式(1)で表されるモリブデンジチオカルバメートの製造時に、ジアルキルアミン原料として、一般式(4)で表されるジアルキルアミンと、一般式(4)で表されるジアルキルアミン以外のジアルキルアミンとを用いることで、一般式(1)で表されるモリブデンジチオカルバメートと一般式(3)で表されるモリブデン化合物とを同時に製造することもできる。
【0046】
本発明の新規なモリブデンジチオカルバメート及びそれを含有する本発明の潤滑剤組成物(以下まとめて、本発明のモリブデンジチオカルバメートという場合がある)を潤滑性添加剤として使用可能な用途としては特に限定されず、例えば、エンジン油、ギヤ油、タービン油、作動油、難燃性作動液、冷凍機油、コンプレッサー油、真空ポンプ油、軸受油、絶縁油、摺動面油、ロックドリル油、金属加工油、塑性加工油、熱処理油等の潤滑油;軸受用グリース、歯車用グリース、ギヤ用グリース、ジョイント用グリース、ベアリング用グリース等のグリース等が挙げられる。
【0047】
本発明のモリブデンジチオカルバメートを基油に添加して潤滑油組成物またはグリース組成物とする場合のモリブデンジチオカルバメートの基油への溶解・分散方法は限定されず、例えば、基油にモリブデンジチオカルバメートを添加し、必要に応じて加熱・撹拌することにより溶解させてもよいし、モリブデンジチオカルバメートを基油中に粒子状で分散させる場合は、分散安定性を向上させるために必要に応じて基油への添加前または添加後にモリブデンジチオカルバメートを微粉砕して分散させてもよい。粒子状のモリブデンジチオカルバメートを基油に分散させる際のモリブデンジチオカルバメートの粒子径は特に限定されないが、例えばレーザー回折光散乱法により測定される50%粒子径が10~450nmであることが好ましい。また、粒子状のモリブデンジチオカルバメートを微粉砕する方法も特に限定されないが、例えば、分散安定性が良好で50%粒子径の小さい分散物が得られることから、基油にモリブデンジチオカルバメートを添加してからローラーミル、ハンマーミル、回転ミル、振動ミル、遊星ミル、アトライター、ビーズミル等により微粉砕する方法等を用いることができる。
【0048】
モリブデンジチオカルバメートを基油に分散させる場合、例えば、基油に対しできるだけ多量のモリブデンジチオカルバメートを添加して分散させた後、目標とする濃度になるように基油で希釈してもよい。ただし、モリブデンジチオカルバメートの量が過剰であると、増粘して分散が不十分になる虞があることから、ローラーミル、ハンマーミルでは、基油100質量部に対して、モリブデンジチオカルバメートを、好ましくは10~180質量部、より好ましくは20~150質量部添加することができる。回転ミル、振動ミル、遊星ミル、アトライター、ビーズミルでは、基油100質量部に対して、モリブデンジチオカルバメートを、好ましくは1~40質量部、より好ましくは1.5~30質量部添加することができる。
【0049】
本発明のモリブデンジチオカルバメートを基油に添加して潤滑油組成物に用いる場合、特性を効果的に発揮しやすくする観点からは、基油と各種添加剤を含めた潤滑油組成物全量に対して本発明のモリブデンジチオカルバメート由来のモリブデン含量が50~3,000質量ppmであることが好ましく、100~2,500質量ppmであることがより好ましく、300~2,000質量ppmであることが更に好ましく、500~1,800質量ppmであることが更により好ましく、特に、摩擦特性を期待して使用する場合は、600~1,500ppmであることが最も好ましい。50ppm未満であると摩擦特性を発揮しにくい場合があり、3,000ppmより多いと添加量に見合った摩擦特性が得られない場合や、基油への溶解性が著しく低下する場合がある。このとき、潤滑油組成物中にはモリブデンジチオカルバメート以外の添加剤(例えば酸化防止剤、分散剤として等)由来のモリブデンを含んでいてもよく、このとき潤滑油組成物中の総モリブデン含量に特に制限はないが、潤滑油組成物中の総モリブデン含量は、50~4,000質量ppmが好ましく、100~3,000質量ppmがより好ましく、300~2,500質量ppmが更に好ましく、500~2,000質量ppmが更により好ましく、600~1,800ppmが最も好ましい。
【0050】
潤滑油組成物に用いる基油としては、特に制限はなく、使用目的や条件に応じて適宜、鉱物基油、化学合成基油、動植物基油及びこれらの混合基油等から選ぶことができる。ここで、鉱物基油としては、例えば、パラフィン基系原油、ナフテン基系原油、中間基系原油、芳香族基系原油があり、更にこれらを常圧蒸留して得られる留出油、或いは常圧蒸留の残渣油を減圧蒸留して得られる留出油があり、また、更にこれらを常法に従って精製することによって得られる精製油、具体的には溶剤精製油、水添精製油、脱ロウ処理油及び白土処理油等が挙げられる。
【0051】
化学合成基油としては、例えば、ポリ-α-オレフィン、ポリイソブチレン(ポリブテン)、モノエステル、ジエステル、ポリオールエステル、ケイ酸エステル、ポリアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、シリコーン、フッ素化化合物、アルキルベンゼン及びGTL基油等が挙げられる。これらの中でも、ポリ-α-オレフィン、ポリイソブチレン(ポリブテン)、ジエステル及びポリオールエステル等は汎用的に使用することができる。ポリ-α-オレフィンとしては例えば、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン及び1-テトラデセン等をポリマー化又はオリゴマー化したもの、或いはこれらを水素化したもの等が挙げられる。ジエステルとしては、例えば、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸及びドデカン二酸等の2塩基酸と、2-エチルヘキサノール、オクタノール、デカノール、ドデカノール及びトリデカノール等のアルコールのジエステル等が挙げられる。ポリオールエステルとしては、例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール及びトリペンタエリスリトール等のポリオールと、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、カプリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及びオレイン酸等の脂肪酸とのエステル等が挙げられる。
【0052】
動植物基油としては、例えば、ヒマシ油、オリーブ油、カカオ脂、ゴマ油、コメヌカ油、サフラワー油、大豆油、ツバキ油、コーン油、ナタネ油、パーム油、パーム核油、ひまわり油、綿実油及びヤシ油等の植物性油脂、牛脂、豚脂、乳脂、魚油及び鯨油等の動物性油脂が挙げられる。上記に挙げたこれらの各種基油は、一種を用いてもよく、二種以上を適宜組み合せて用いてもよい。また、モリブデンジチオカルバメートの特性が発揮しやすいことから、少なくとも鉱物基油または化学合成基油を含んでなる基油を使用することが好ましく、パラフィン系の高度精製鉱物油、ポリ-α-オレフィン系または、GTL系の化学合成基油を含んでなる基油ならびにこれらの混合基油を使用することがより好ましい。このとき、基油の全量のうちこれらの基油を50質量%以上含んでなることで、モリブデンジチオカルバメートの特性をより発揮できるため好ましく、基油の全量のうち90質量%以上含んでなることがさらに好ましい。
【0053】
潤滑油組成物の基油の粘度は、本発明のモリブデンジチオカルバメートの分散安定性の点からは高い方が好ましいが、あまりに高い場合にはモリブデンジチオカルバメートの分散が困難になる場合があることから、基油の粘度は、40℃の動粘度が1~800mm/秒であることが好ましく、2~250mm/秒であることが更に好ましく、3~80mm/秒であることが最も好ましい。なお、本明細書に規定する動粘度は、JIS K 2283に記載の方法により測定して得られる値である。
【0054】
潤滑油組成物には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、公知の潤滑油添加剤を使用目的に応じて適宜使用することが可能であり、例えば、金属系清浄剤、無灰型分散剤、耐摩耗剤、酸化防止剤、リン系耐摩耗剤又はリン系酸化防止剤、硫黄系極圧剤、チオリン酸系極圧剤、油性向上剤、防錆剤、粘度指数向上剤、金属不活性化剤、消泡剤、固体潤滑剤等が挙げられる。これら添加剤は、1種又は2種以上の化合物を使用してもよい。
【0055】
[金属系清浄剤]
金属系清浄剤としては、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレート、アルカリ土類金属ホスホネート等が挙げられ、アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム等が挙げられる。これらの中でも、カルシウム系清浄剤及びマグネシウム系清浄剤からなる群から選択される少なくとも1つの金属系清浄剤を、カルシウム原子とマグネシウム原子の合計で、潤滑油組成物全量に対して0.05~0.4質量%で含有することが好ましい。
【0056】
[無灰型分散剤]
潤滑油組成物には一般に、スラッジの分散及び可溶化、スラッジ・デポジット(スラッジの分安定な前駆体)の可溶化等により、スラッジの堆積を防ぐために無灰型分散剤が配合されている。無灰型分散剤としては、アルケニル無水コハク酸とポリアミン化合物との縮合反応によって得られるコハク酸イミド型分散剤、アルケニル無水コハク酸とポリオール化合物との縮合反応によって得られるコハク酸エステル型分散剤、アルケニル無水コハク酸とアルカノールアミンとの縮合反応によって得られるコハク酸エステルアミド型分散剤、アルキルフェノールとポリアミンをホルムアルデヒドで縮合させて得られるマンニッヒ塩基系分散剤及びこれらのホウ酸変性物が挙げられる。潤滑油組成物は、無灰型分散剤を、潤滑油組成物全量に対して0.5~10質量%含有することが好ましい。
【0057】
[亜鉛ジチオフォスフェート化合物]
潤滑油組成物には、腐食防止、耐荷重性の向上、摩耗防止能等を目的として亜鉛ジチオフォスフェート化合物が配合されていてもよく、亜鉛ジチオフォスフェート化合物を潤滑油組成物全量に対してリン原子として200~800質量ppm含有することが好ましい。
【0058】
[酸化防止剤]
潤滑油組成物用の酸化防止剤として、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、フェノチアジン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、亜リン酸エステル系酸化防止剤等が配合されていてもよい。酸化防止剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対して0.1~10質量%程度である。
【0059】
[リン系耐摩耗剤又はリン系酸化防止剤]
リン系耐摩耗剤又はリン系酸化防止剤としては、例えば、有機ホスフィン、有機ホスフィンオキシド、有機ホスフィナイト、有機ホスホナイト、有機ホスフィネート、有機ホスファイト、有機ホスホネート、有機ホスフェート、有機ホスホロアミデート等が挙げられる。リン系耐摩耗剤又はリン系酸化防止剤の好ましい配合量は、その合計量が潤滑油組成物全量に対して0.1~20質量%程度である。
【0060】
[硫黄系極圧剤]
硫黄系極圧剤としては、例えば、硫化油脂、硫化鉱油、有機モノ又はポリスルフィド、ポリオレフィンの硫化物、1,3,4-チアジアゾール誘導体、チウラムジスルフィド、ジチオカルバミン酸エステル等が挙げられる。硫黄系極圧剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対して0.1~20質量%程度である。
【0061】
[チオリン酸系極圧剤]
チオリン酸系極圧剤としては、例えば、有機トリチオホスファイト、有機チオホスフェート等が挙げられる。チオリン酸系極圧剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対して0.1~20質量%程度である。
【0062】
[油性向上剤]
油性向上剤としては、例えば、脂肪酸、油脂或いはこれらの水素添加物又は部分ケン化物、エポキシ化エステル、ヒドロキシステアリン酸の重縮合物又は該重縮合物と脂肪酸とのエステル、高級アルコール、高級アミド、グリセリド、ポリグリセリンエステル、ポリグリセリンエーテル、および上記の化合物にα-オレフィンオキシドを付加したもの等が挙げられる。油性向上剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対して0.05~15質量%程度である。
【0063】
[防錆剤]
防錆剤としては、例えば、酸化パラフィンワックスカルシウム塩、酸化パラフィンワックスマグネシウム塩、牛脂脂肪酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又はアミン塩、アルケニルコハク酸又はアルケニルコハク酸ハーフエステル(アルケニル基の分子量は100~300程度)、ソルビタンモノエステル、ペンタエリスリトールモノエステル、グリセリンモノエステル、ノニルフェノールエトキシレート、ラノリン脂肪酸エステル、ラノリン脂肪酸カルシウム塩等が挙げられる。防錆剤の好ましい配合量は、防錆効果が充分に発揮される範囲として、潤滑油組成物全量に対して0.1~15質量%程度である。
【0064】
[粘度指数向上剤]
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリ(C1~18)アルキルメタクリレート、(C1~18)アルキルアクリレート/(C1~18)アルキルメタクリレート共重合体、ジエチルアミノエチルメタクリレート/(C1~18)アルキルメタクリレート共重合体、エチレン/(C1~18)アルキルメタクリレート共重合体、ポリイソブチレン、ポリアルキルスチレン、エチレン/プロピレン共重合体、スチレン/マレイン酸エステル共重合体、スチレン/マレイン酸アミド共重合体、スチレン/ブタジエン水素化共重合体、スチレン/イソプレン水素化共重合体等が挙げられる。粘度指数向上剤の平均分子量は10,000~1,500,000程度である。粘度指数向上剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対して0.1~20質量%程度である。
【0065】
[金属不活性化剤]
金属不活性化剤としては、例えば、N,N’-サリチリデン-1,2-プロパンジアミン、アリザリン、テトラアルキルチウラムジスルフィド、ベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール、2-アルキルジチオベンゾイミダゾール、2-アルキルジチオベンゾチアゾール、2-(N,N-ジアルキルチオカルバモイル)ベンゾチアゾール、2,5-ビス(アルキルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2,5-ビス(N,N-ジアルキルチオカルバモイル)-1,3,4-チアジアゾール等が挙げられる。金属不活性化剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対して0.01~5質量%程度である。
【0066】
[消泡剤]
消泡剤としては、例えば、ポリジメチルシリコーン、トリフルオロプロピルメチルシリコーン、コロイダルシリカ、ポリアルキルアクリレート、ポリアルキルメタクリレート、アルコールエトキシ/プロポキシレート、脂肪酸エトキシ/プロポキシレート、ソルビタン部分脂肪酸エステル等が挙げられる。消泡剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対して1~1000質量ppm程度である。
【0067】
[固体潤滑剤]
固体潤滑剤としては、例えば、グラファイト、二硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレン、脂肪酸アルカリ土類金属塩、雲母、二塩化カドミウム、二ヨウ化カドミウム、フッ化カルシウム、ヨウ化鉛、酸化鉛、チタンカーバイド、窒化チタン、ケイ酸アルミニウム、酸化アンチモン、フッ化セリウム、ポリエチレン、ダイアモンド粉末、窒化ケイ素、窒化ホウ素フッ化炭素、メラミンイソシアヌレート等が挙げられる。固体潤滑剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対して0.005~2質量%程度である。
【0068】
本発明のモリブデンジチオカルバメートを潤滑性添加剤として用いた潤滑油組成物は、内燃機関用潤滑油(例えば、自動車やオートバイ等のガソリンエンジン油、ディーゼルエンジン油等)、工業用潤滑油(例えば、ギヤ油、タービン油、油膜軸受油、冷凍機用潤滑油、真空ポンプ油、圧縮用潤滑油、多目的潤滑油等)等に使用することができる。中でも、本発明の効果が得られやすいことから、ガソリンエンジンやディーセルエンジン等の内燃機関用潤滑油用の潤滑性添加剤として使用することが好ましい。
【0069】
本発明のモリブデンジチオカルバメートを基油に添加してグリース組成物とする場合は、必要に応じて、公知の添加剤を併用してもよい。公知の添加剤としては、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等の酸化防止剤;カルシウム、マグネシウム、バリウムなどのスルホネート、フェネート、サリシレート、ホスフェート及びこれらの過塩基性塩等の清浄剤;高級アルコール類、高級脂肪酸類、高級脂肪酸グリセリンエステル類、高級脂肪酸アミド類、高級アルキルアミン類等の油性向上剤;アルケニルコハク酸イミド等の分散剤;リン酸エステル、亜鉛ジアルキルジチオフォスフェート(ZnDTP)、亜鉛ジアルキルジチオカルバメート等の極圧剤;モリブデンジアルキルジチオフォスフェート、モリブデン長鎖アミン塩、モリブデンアルケニルコハク酸イミド錯体等の他の有機モリブデン化合物;粘度指数向上剤、流動点降下剤、防錆剤、腐食防止剤、消泡剤等が挙げられる。またこれらの添加剤は、本発明のモリブデンジチオカルバメートと配合してから、グリースに使用してもよい。
【0070】
本発明のモリブデンジチオカルバメートを基油に添加してグリース組成物とする場合の基油としては、例えば、潤滑油組成物の場合に例示した基油が挙げられる。グリース組成物に使用する基油としては、モリブデンジチオカルバメートの摩擦低減効果が出やすいことから、少なくとも鉱物油または炭化水素系合成油を含んでなることが好ましく、パラフィン系の高度精製鉱物油、ポリ-α-オレフィン系またはGTL系の化学合成基油ならびにこれらの混合基油を含んでなる基油を使用することが更に好ましい。このとき、基油の全量のうちこれらの基油を50質量%以上含んでなることで、モリブデンジチオカルバメートの特性をより発揮できるため好ましく、基油の全量のうち90質量%以上含んでなることがさらに好ましい。
【0071】
本発明のモリブデンジチオカルバメートを基油に添加してグリース組成物とする場合、増稠剤を更に含有してもよい。増稠剤としては、石鹸系又はコンプレックス石鹸系増稠剤、有機非石鹸系増稠剤、無機非石鹸系増稠剤等が挙げられる。なお、基油と増稠剤からなり、他の添加剤を含有しないグリースを基グリースという場合がある。
【0072】
石鹸系増稠剤としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、ゾーマリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノレイン酸等の高級脂肪酸とリチウム、ナトリウム、カリウム、アルミニウム、バリウム、カルシウム等の塩基を反応させた石鹸や、上記脂肪酸と塩基に更に酢酸、安息香酸、セバシン酸、アゼライン酸、リン酸、ホウ酸等を反応させたコンプレックス石鹸増稠剤等が挙げられる。
【0073】
有機非石鹸系増稠剤としては、例えば、テレフタレメート系増稠剤、ウレア系増稠剤、ポリテトラフルオロエチレン、フルオロ化エチレン-プロピレン共重合体等のフッ素系等が挙げられるが、ウレア系増稠剤が好ましい。ウレア系増稠剤としては、例えば、モノイソシアネートとモノアミンを反応させたモノウレア系化合物、ジイソシアネートとモノアミンを反応させたジウレア系化合物、ジイソシアネートとモノアミンとモノオールを反応させたウレアウレタン系化合物、ジイソシアネートとジアミンとモノイソシアネートを反応させたテトラウレア系化合物等が挙げられる。
【0074】
本発明のモリブデンジチオカルバメートのグリース組成物に対する添加量があまりに少ない場合は十分な摩擦特性が得られず、また、あまりに多い場合には、添加量に見合う性能の向上が得られないだけでなく、グリース組成物の物性に悪影響を与える場合がある。本発明のモリブデンジチオカルバメートの添加量は、グリース組成物全量に対して0.1~10質量%が好ましく、0.2~7質量%が更に好ましく、0.3~5質量%が最も好ましい。
【実施例
【0075】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。尚、以下の実施例中、「%」は特に記載が無い限り質量基準である。なお、実施例4は参考例とする。
【0076】
<使用したジアルキルアミン>
ジアルキルアミンA:一般式(4)で表され、R11、R12がそれぞれ、一般式(5)で 表され、R13が炭素数3のアルキレン基、R14が炭素数8のアルキ ル基である化合物;
ジアルキルアミンB:一般式(6)で表され、R15、R16がそれぞれ炭素数8のアルキ ル基である化合物;
ジアルキルアミンC:一般式(6)で表され、R15、R16がそれぞれ炭素数13のアル キル基である化合物
ジアルキルアミンD:一般式(4)で表され、R11が一般式(5)で表され、R13が炭 素数3のアルキレン基、R14が炭素数8のアルキル基であり、R12 が炭素数13のアルキル基である化合物
【0077】
<実施例1>
攪拌機、温度計、窒素管及び還流冷却器を取り付けたフラスコに、三酸化モリブデン144g(1.00モル)を水500mlに懸濁させ攪拌した。これに30%硫化ソーダ水溶液280g(1.5モル)を加えて溶解させた後、無水重亜硫酸ソーダ24g(0.13モル)を添加した。次いで、ジアルキルアミン原料として、ジアルキルアミンAを376g(1.05モル)及び二硫化炭素80g(1.05モル)を常温で加えて2時間反応させた後、35%希硫酸154g(0.55モル)で中和し、80℃で5時間還流させた。これを冷却して水層を除去した後、温水で洗浄し、脱水、ろ過することでモリブデンジチオカルバメートからなる潤滑剤組成物1を得た。得られたモリブデンジチオカルバメートは、一般式(1)で表され、R~Rがいずれも、一般式(2)で表され、Rが炭素数3のアルキレン基、Rが炭素数8のアルキル基である基であり、X~Xが酸素原子:硫黄原子を2:2の比率で含有してなる構造のモリブデンジチオカルバメートであった。
【0078】
<実施例2>
実施例1において、ジアルキルアミン化合物として、ジアルキルアミンAとジアルキルアミンCとをそれぞれ0.525モル用いた以外は同様の方法により、モリブデンジチオカルバメート及びモリブデン化合物からなる潤滑剤組成物2を得た。得られた潤滑剤組成物は、一般式(1)で表され、R~Rがいずれも一般式(2)で表され、Rが炭素数3のアルキレン基、Rが炭素数8のアルキル基である基であり、X~Xが酸素原子:硫黄原子を2:2の比率で含有してなる構造のモリブデンジチオカルバメートと;一般式(1)で表され、R、Rがいずれも一般式(2)で表され、Rが炭素数3のアルキレン基、Rが炭素数8のアルキル基である基であり、R、Rが炭素数13のアルキル基であり、X~Xが酸素原子:硫黄原子を2:2の比率で含有してなる構造のモリブデンジチオカルバメートと;一般式(3)で表され、R~R10がそれぞれ炭素数13のアルキル基であり、X~Xが酸素原子:硫黄原子を2:2の比率で含有してなる構造のモリブデン化合物との、モリブデン元素の質量比で1:2:1の混合物からなる潤滑剤組成物であった。
【0079】
<実施例3>
実施例1において、ジアルキルアミン化合物として、ジアルキルアミンAとジアルキルアミンBとジアルキルアミンCとをそれぞれ0.35モル用いた以外は同様の方法により、モリブデンジチオカルバメート及びモリブデン化合物からなる潤滑剤組成物3を得た。得られた潤滑剤組成物は、一般式(1)で表され、R~Rがいずれも一般式(2)で表され、Rが炭素数3のアルキレン基、Rが炭素数8のアルキル基である基であり、X~Xが酸素原子:硫黄原子を2:2の比率で含有してなる構造のモリブデンジチオカルバメートと;一般式(1)で表され、R、Rがいずれも一般式(2)で表され、Rが炭素数3のアルキレン基、Rが炭素数8のアルキル基である基であり、R、Rが炭素数8のアルキル基であり、X~Xが酸素原子:硫黄原子を2:2の比率で含有してなる構造のモリブデンジチオカルバメートと;一般式(1)で表され、R、Rがいずれも一般式(2)で表され、Rが炭素数3のアルキレン基、Rが炭素数8のアルキル基である基であり、R、Rが炭素数13のアルキル基であり、X~Xが酸素原子:硫黄原子を2:2の比率で含有してなる構造のモリブデンジチオカルバメートと;一般式(3)で表され、R~R10がそれぞれ炭素数8のアルキル基であり、X~Xが酸素原子:硫黄原子を2:2の比率で含有してなる構造のモリブデン化合物と;一般式(3)で表され、R、Rがそれぞれ炭素数8のアルキル基であり、R、R10がそれぞれ炭素数13のアルキル基であり、X~Xが酸素原子:硫黄原子を2:2の比率で含有してなる構造のモリブデン化合物と;一般式(3)で表され、R~R10がそれぞれ炭素数13のアルキル基であり、X~Xが酸素原子:硫黄原子を2:2の比率で含有してなる構造のモリブデン化合物との、モリブデン元素の質量比で1:2:2:1:2:1の混合物からなる潤滑剤組成物であった。
【0080】
<比較例1>
実施例1において、ジアルキルアミン化合物として、ジアルキルアミンBとジアルキルアミンCとをそれぞれ0.525モル用いた以外は同様の方法により、モリブデン化合物からなる潤滑剤組成物4を得た。得られた潤滑剤組成物は、一般式(3)で表され、R~R10がそれぞれ炭素数8のアルキル基であり、X~Xが酸素原子:硫黄原子を2:2の比率で含有してなる構造のモリブデン化合物と;一般式(3)で表され、R、Rがそれぞれ炭素数8のアルキル基であり、R、R10がそれぞれ炭素数13のアルキル基であり、X~Xが酸素原子:硫黄原子を2:2の比率で含有してなる構造のモリブデン化合物と;一般式(3)で表され、R~R10がそれぞれ炭素数13のアルキル基であり、X~Xが酸素原子:硫黄原子を2:2の比率で含有してなる構造のモリブデン化合物との、モリブデン元素の質量比で1:2:1の混合物からなる潤滑剤組成物であった。
【0081】
<実施例4>
実施例1において、ジアルキルアミン化合物として、ジアルキルアミンDを1.05モル用いた以外は同様の方法により、モリブデンジチオカルバメートからなる潤滑油組成物5を得た。得られたモリブデンジチオカルバメートは、一般式(1)で表され、R及びRがそれぞれ一般式(2)で表され、Rが炭素数3のアルキレン基、Rが炭素数8のアルキル基であり、R及びRがそれぞれ炭素数8のアルキル基であり、X~Xが酸素原子:硫黄原子を2:2の比率で含有してなる構造のモリブデンジチオカルバメートであった。
【0082】
<摩擦係数評価>
得られた潤滑剤組成物1~5について、下記試験条件により摩擦係数評価を行った。具体的には、基油(合成油ベース、0W-16グレード)に潤滑剤組成物1~5をそれぞれモリブデン元素含有量で700ppm配合した試験油について、MTM試験機(PCS Instruments社製)を用い、下記の試験条件でのボールオンプレート試験により摩擦係数を測定した。結果を表1に示す。なお、摩擦係数が小さいほど、摩擦特性に優れることを示す。
【0083】
[摩擦係数試験条件]
温度:100℃
荷重:30N、50N
転がり速度:20mm/秒、100mm/秒
すべり率:50%
【0084】
【表1】
【0085】
<トルク試験評価>
得られた潤滑剤組成物2~4について、下記試験条件によりトルク試験評価を行った。具体的には、測定エンジン回転数において、基油のみを用いた際の電動モーターにかかるトルクをトルクメーターにより測定した値を基準値(トルク低減率0%)として、潤滑剤組成物2~4をそれぞれモリブデン元素含有量で700ppm配合した基油を用いた際の測定トルク値の、基準値に対する減少率(%)をそれぞれ計算により求め、トルク低減率とした。結果を表2に示す。なお、トルク低減率が高いほど、すなわちトルクが低いほど、摩擦低減効果が高く、摩擦特性に優れることを示す。
【0086】
[トルク試験条件]
試験エンジン:直列4気筒1.8L ガソリンエンジン
基油:合成油ベース、0W-16グレード
エンジン回転方法:電動モーターによる回転
測定条件:無負荷、定置試験
オイル温度:80℃
測定エンジン回転数:700rpm
【0087】
【表2】
【0088】
上記の結果から、本発明のモリブデンジチオカルバメートおよび潤滑剤組成物は、従来のモリブデン化合物に比べて摩擦係数、トルク低減率等の摩擦特性が顕著に優れることがわかり、よって、内燃機関用等の潤滑油添加剤として優れた省燃費効果を発揮できることがわかる。